説明

テレフタル酸とエチレングリコールからポリエチレンテレフタレートを製造するための触媒組成物、及びその方法

本発明は、テレフタル酸とエチレングリコールからポリエチレンテレフタレートを製造するための触媒組成物に関するものであり、(i)アンチモン成分が約15 ppmから150 ppm未満の範囲にあるようなアンチモン化合物;(ii)亜鉛成分が約40 ppmから約160 ppmの範囲にあるような亜鉛化合物;及びこれらを調製する方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレフタル酸とエチレングリコールからポリエチレンテレフタレートを製造するための触媒組成物、及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、DMT法およびPTA法と呼ばれる2つの方法の内の一方によって、2工程を経て製造される。
【0003】
以前の方法においては、出発原料としてテレフタル酸ジメチル(DMT)とエチレングリコール(EG)が使用されていた。これは、ポリエステル製造の初期には高純度のテレフタル酸を得るのが難しかったためである。DMT法においては、まず最初にDMTが、エチレングリコール(EG)とエステル交換されて、ジエジレングリコールテレフタレート(DGT)と呼ばれる中間生成物と少量の低オリゴマーを生成する。DGTは、言い換えればビスヒドロキシエチルテレフタレート、または略してBHETと呼ばれる。酢酸マンガン(II)、または酢酸亜鉛(II)は、このエステル交換に通常使用される触媒である。第2工程では、DGTを高真空下で280℃まで熱し、溶融重縮合を行う。留去される主な揮発性物質 (反応副生成物)は、EGと水である。DMT法における第2工程では、最初の工程で用いられた触媒を隔離するか、リン酸で失活させ(特許文献1参照)、重縮合のためのもう一つの触媒で最も一般的な、三酢酸アンチモンまたは三酸化アンチモンが添加される。約250 ppmの各金属触媒が両方の工程で添加されるので、DMT法で最終的に得られるポリマーは通常、全体として約500 ppm の金属を含むことになる。通常の製造過程では、DGTを単離することなく第1工程から第2工程へ進むことも可能である。しかし、もし望むならば、第1工程で作られたDGTとオリゴマーを単離し、後の溶融重縮合(第2工程)に用いることも可能である。
新しい工業的生産方法は、DMTの代わりに高純度テレフタル酸(PTA)が用いられ、PTA法と呼ばれる。第1工程では、PTAは、EGでエステル化され、DGTとオリゴマーを生成する。蒸留で除かれる主な副生成物は、メタノールの代わりに水である。この工程は、自己触媒作用が可能であり、触媒は必要ない。しかし、重縮合触媒 (後に第2工程で働く)を第1工程で加えてもよい。第2工程は、DMT法と同じである。重縮合触媒で最も一般的な三酢酸アンチモンまたは三酸化アンチモンを、200-300 ppm程度添加する (wt. /wt PETに対する金属アンチモン)。再び、溶融したDGTを真空下で280℃に熱し重縮合を引き起こす。溶融物が適切な固有粘度(I. V. )に達したら、排出されチップ状にされる。固有粘度(I. V. )は分子量に関連がある。第2工程で用いられる(重縮合のための)触媒1種類しか使用しないため、PTAポリマーの金属含量は、DMTポリマーのそれよりも少なく、従ってポリマーの熱的安定性はより高くなる。
【0004】
PETは、バッチ反応装置内で製造されてもよい。しかし、今日の大量製造は、連続したPTA系が基本になっている。連続した溶融重縮合の技術は、一連に並んだ反応装置から成る。まず始めには、通常、ペースト混合容器 (そこでは、EG、PTA、触媒、及び添加剤が加えられる)、1つまたは2つのエステル化反応装置、1つまたは2つの前重縮合反応装置があり、最終工程である重縮合のために、高真空の終了反応装置が続く。これは、標準的な著作に記述されていることである (以下を参照、非特許文献1および2)。終了反応装置から得られたポリマーは、繊維状に押出成形されてもよく、さらに水で冷却後に切断され不定形のチップが作られる。
【0005】
フィルムや繊維用途のためには、0.58-0.64 dL/gに渡る固有粘度を持つPETで十分である。フィルムや繊維は、重縮合反応装置から得られる溶融物を押出成形することで直接製造でき、PTA法を主軸とする現代の製造工場のほとんどは、この仕様に合わせられている。溶融重縮合により、I. V. を0.8-1. 0 dL/gに至らせることも可能ではある。しかし、高い溶融粘度のため、特別な非標準的反応装置が必要となる。PETボトルを作るための樹脂には、固有粘度0.75- 0. 85 dL/gで、アセトアルデヒド含有量の低いものが求められる。この場合はしかし、低いアセトアルデヒド含有量でこのレベルのI. V.を獲得するために、分割法が用いられる。一般的には、溶融重縮合により、中間的な約0. 63 dL/gの固有粘度をもつチップ状ポリマーが作られ、次に固相重合(SSP)により固有粘度をおよそ0.75-0. 85 dL/gまで上昇させる。この分割法により、高い固有粘度をもつ樹脂が最小限のアセトアルデヒド含有量で成形されることが可能となる。このアセトアルデヒドは、PETボトルに入れられた飲料の風味に影響を与える分解副生成物である。溶融相、及び固相重合技術の記述は非特許文献2を参照のこと。
【0006】
PETは、ほとんどの場合重縮合触媒として、三酢酸アンチモンまたは三酸化アンチモンを用いて工業的に製造される。PETの触媒として工業的に確立された3つの金属(アンチモン、ゲルマニウム、及びチタン)の内、アンチモン系触媒が現在の工業製造の90%以上を占める。アンチモンは、重縮合の速さとポリマーの特性、分解に対する熱的安定性の間のバランスが良い。アンチモン化合物を用いて作られたPETの欠点の1つは、金属アンチモンの沈殿によりPETが灰色に呈色することである。さらに、アンチモンは比較的高価であり、環境面での問題も懸念される。ゲルマニウム系触媒が日本で主に使用されている。これらを用いると、灰色味を帯びない非常に明るいポリマーが得られる。しかし、ゲルマニウム化合物は高価であるという欠点がある。チタン系触媒は、重縮合速度という点で、1モルの金属イオンあたりの活性は最も高いものの、これらはポリマーを、後に色相補正するのが困難な黄色に呈色させる。さらに、PET触媒用のチタン化合物は、特別な合成が必要で、そのために価格も高くなっている。チタン系触媒を用いても、実際は非常に速い重縮合速度を完全に享受する利用は難しい。なぜなら、強度の黄色着色のため、Ti 触媒の濃度を低く抑えるか、またはその活性を様々な手段で軽減しなければならないからである。そのため、重縮合の速さは、約200 ppmのアンチモンを使用した場合とほぼ同程度の速さに留まらざるを得ない。従って、チタン系触媒を、現在の溶融重縮合技術における生産水準を引き上げるために使用することは難しく、良くて200 ppmのアンチモンに相当する触媒活性を再現するための代替品として使用されるに過ぎない。さらに、触媒が溶融重縮合の活性を高めたとしても、固相重合において必ずしも同様のことが起こるとは限らない。実際、幾つかの触媒は、溶融重縮合において非常に活性が高いにもかかわらず、固相重合で活性が低下してしまうことが知られている。例えば、非特許文献3と非特許文献4で示されているように、溶融重縮合において、1モル当たりではチタン系触媒の方がアンチモン系よりも速い。それにも関わらず、固相重合においてチタン系触媒はアンチモン系よりも遅いので、これが障害となる。
【0007】
PTA法を用いたPET製造の生産性を上げることが求められてきた。原理的には、アンチモンの濃度を上げさえすればこれは可能である。アンチモンのレベルを200 ppm (または3.19 x 10 -4 モル 金属Sb /モル PTA)より高くすると、重縮合時間は短縮するが触媒濃度は上昇する。しかし、500 ppm (または7.89 x10 -4 モル 金属Sb/モル PTA)を超えると、短縮した反応時間内で収穫逓減が生じる。時間の短縮は大きな利点だが、問題は、アンチモン濃度を上げるためポリマーの色が徐々に濃くなることである。約300 ppm (または4.73 x10 -4モル 金属Sb /モル PTA)が、実際に許容され得る限界である。従って、現在工業的に実施されている中で使用されているアンチモンは、200-300 ppm (または3.19 x10 -4から 4.73 x x10 -4モル 金属Sb /モル PTA)である。従って、PET重縮合の生産性において、現在の技術では限界がある。なぜなら高濃度のアンチモンを用いた時のポリマーへの着色、触媒コスト、環境汚染といった要因が障害となっているからである。
アンチモンを用いて製造されたPETに見られる灰色呈色の原因は、触媒が金属体へ還元されるためだと考えられている。エチレングリコール雰囲気中では、エチレングリコールの熱分解のため、少量のCOと他の気体がエステル化反応器の中に作られることが示されている(非特許文献5参照)。COは還元剤であり、アンチモン化合物を微粒子化した金属アンチモンに還元する。アンチモン系触媒では、最初に加えた触媒の10-15 %が、最終的に微粒子化した金属アンチモンとなる。従って、標準の約200-300 ppmを超えてアンチモンレベルを上げることは、自動的に、ポリマー中に沈積する金属アンチモンの量を増加させることにつながり、これがポリマーを濃くする。金属アンチモンの化学的還元もまた、反応装置内の黒色沈殿物の沈積を促す。これは、EGの分解を止められないので避けられず、従ってCOが存在することもまた避けられない。
【0008】
ある特定の用途においては、アンチモン触媒の金属アンチモンへの還元が利点として用いられる。特許文献2には、アンチモンを通常の触媒よりも余計に加え、燐化合物を加えることによりその一部を金属体へ慎重に還元することで、赤外線の吸収効率の良いPETを得られることが開示されている。このポリマーは、色は濃いが、延伸ブロー成形における熱吸収能の良い(ボトル用)プリフォームのPETを作るのに有用である。この特定の用途をのぞいて、濃い色調のPETが必要とされることはあまりない。
【0009】
アンチモン触媒で作られたポリマーもまた、幾らか黄色味を帯びる(灰色の呈色に加えて)。これは、青い有機物トナーと、時にはピンク色を帯びた酢酸コバルト(II)(約15-20 ppmの金属コバルト)などの付加的な添加剤を加えることで、工業的には補正される。これらの添加剤は、アンチモンポリマーの灰色味を取り除くことはできず、添加剤を加えることで明度はさらに低下してしまう。PETは、フィルムやボトルといったような高い透明度と輝度が必要とされる用途で使用される。繊維においては、ベースポリマーが本来、濁った灰色呈色のない明るいものであれば、染色された繊維の色の強度も増す。
【0010】
標準的なアンチモン触媒と比べて重縮合時間を飛躍的に短縮する、高い生産性を持つ触媒を探索する上で、アンチモンと他の成分との混合が試行されてきた。この件における公知の情報に関しては、特許文献3、特許文献4と特許文献5で、PTA法のための3成分触媒が記述されており、これには、150-650 ppmに渡るアンチモンと、5-60 ppmに渡るコバルトおよび/または亜鉛である2番目の成分、及び10-150 ppmの亜鉛、マグネシウム、マンガンまたはカルシウムである3番目の成分を含む。2番目と3番目の成分に亜鉛が含まれているので、150-650 ppmに渡るアンチモンと5-210 ppmの亜鉛から成る混合金属組成物もまた可能である。これらの組成物を用いれば、従来のアンチモンだけを用いる系に比べて、重縮合の時間を少なくとも三分の一に短縮できることが特許請求の範囲に記載された。別物だが関連のある特許文献6と特許文献7では、アンチモンの濃度範囲を650-1100 ppmまで広げている一方、2番目の成分であるコバルトおよび/または亜鉛は15-60 ppmの間であり、3番目の成分である亜鉛、マグネシウム、マンガンまたはカルシウムは10-150 ppmのままである。同様に、650-1100 ppmに渡るアンチモンと15-210 ppmの亜鉛から成る混合金属組成物もまた可能である。これらの特許の欧州対応特許は、特許文献8である。この文献では、別々の研究が一つにまとめられており、1番目の成分であるアンチモンは150-1100 ppmの間、一方2番目の成分であるコバルトおよび/または亜鉛は15- 60 ppm、そして3番目の成分である亜鉛、マグネシウム、マンガンまたはカルシウムは10-150 ppmのままである。同様に、150-1100 ppmに渡るアンチモンと15-210 ppmの亜鉛から成る混合金属組成物もまた可能である。
【0011】
特許文献9には、酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属酢酸塩を3番目の成分として混合することで、PTA法で製造されたPETの外観を改善することができる(劣化による黄色味を減少させることが可能)ことが特許請求の範囲に記載されている。それらの3成分触媒の系は以下のものから成る。すなわち、 (a) 10-1000 ppmの範囲のアンチモン塩触媒、(b) コバルト、マグネシウム、亜鉛、マンガン、カルシウム及び鉛の内の少なくとも一つを含む10-500 ppmの金属塩触媒、及び (c) 10-500 ppmの範囲のアルカリ金属酢酸塩、である。特許文献10は類似しているが、より良い色相値で重縮合時間を短かくするために3番目の成分として(アルカリ金属酢酸塩の代わりに)リン塩錯体触媒を用いる。これら2つの特許においては、3成分の混合が常に不可欠であり、その分コストも割高になる。
【特許文献1】米国特許第5,898, 059号明細書
【特許文献2】米国特許第5,419, 936号明細書
【特許文献3】米国特許出願第07/355534号明細書
【特許文献4】米国特許第5,008, 230号明細書
【特許文献5】米国特許第5,166, 311号明細書
【特許文献6】米国特許第5,153, 164号明細書
【特許文献7】米国特許第5,162, 488号明細書
【特許文献8】欧州特許第0399742号明細書
【特許文献9】米国特許第5,623, 047号明細書
【特許文献10】米国特許第5, 608, 032号明細書
【非特許文献1】S. M. Aharoni, 第2章、共に"Handbook of Thermoplastic Polyesters", 第1巻、S.Faki- rov, Wiley-VCH編集、2002
【非特許文献2】V. B. Gupta とZ. Bashir,第7章、共に"Handbook of Thermoplastic Polyesters", 第1巻、S.Faki- rov, Wiley-VCH編集、2002
【非特許文献3】Tomita (Polymer, 17,221 (1976) )
【非特許文献4】Shah et al. , (Polymer, 25,1333 (1984)
【非特許文献5】S. Aharoni, Journal of Polymers Sci. & Engineering,38, 1039(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献4、5、6、7、9および10といった、アンチモンを他の成分と混合することを含む前記の公知技術において、障害は固相重合(SSP)中の触媒活性が開示されていないことである。200-300 ppmのアンチモンで作られたPETと少なくとも同等の固相重合(SSP)速度で、ボトル用PETを製造することが重要となる。
【課題を解決しようとする手段】
【0013】
本発明の目的は、溶融重縮合において高い生産性を持ち、テレフタル酸とエチレングリコールからポリエチレンテレフタレートを製造し、アンチモン系触媒を用いて作られるPETに通常見られる灰色呈色を最小限にとどめるような触媒組成物を提供することにある。さらに、分割法(溶融重縮合の後に固相重合(SSP)が行われる)で使用できる触媒組成物を提供することを目的とする。すなわち、標準的アンチモン触媒のように、溶融重縮合における増加した活性が、固相重合(SSP)においても最小限類似の活性レベルで再現できるようにすることである。公知の触媒と比較して、より低価格で環境的な懸念の少ない触媒組成物を提供することをさらなる目的とする。
【0014】
加えて、本発明の目的は、発明した触媒組成物を利用してポリエチレンテレフタレートを調製する方法を提供することである。
テレフタル酸とエチレングリコールからポリエチレンテレフタレートを製造するための触媒組成物により、最初の目的は達成され、触媒組成物は以下のものを含む。すなわち:
(i) 約15 ppmから150 ppm未満の範囲にあるアンチモン成分を含むアンチモン化合物;
(ii) 約40から約160 ppmの範囲にある亜鉛成分を含む亜鉛化合物。
【0015】
アンチモン化合物由来のアンチモン成分の含有量は、約80から約140 ppmの範囲、好ましくは約100から約140 ppmにあることが好ましく、そこでは亜鉛化合物由来の亜鉛成分の含有量は、約50から約160 ppmの範囲、好ましくは約80から140 ppmの範囲にある。
アンチモン化合物が、三酢酸アンチモン、三酸化アンチモン、三炭酸アンチモン、グリコール酸アンチモン、またはこれらの混合物から成る群から選択されることがさらに好ましい。
亜鉛化合物は、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、過酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、ハロゲン化亜鉛、金属亜鉛、またはこれらの混合物から成る群から選択される。
【0016】
2番目の目的は、テレフタル酸とエチレングリコールからポリエチレンテレフタレートを製造する方法であって、
(a)発明に従った触媒組成物を調製し、
(b)触媒組成物、テレフタル酸、及びエチレングリコールを装置内に投入し、
(c)エステル化工程、及び溶融重縮合工程において、テレフタル酸とエチレングリコールを反応させて、ポリエチレンテレフタレートを得る、
各工程を有してなる方法により達成される。
【0017】
必要に応じて、あるPETの製品用途のためには、重縮合工程とは、分子量が中間に達した後に止められる溶融重縮合工程である。そこでは、ポリマーはチップ状にされ、固相重合でさらなる重縮合が行われる結果、分子量が大きくなる。
【0018】
エステル化工程が、約230から約260℃の温度、好ましくは窒素圧力下で行われ、そこでは重縮合工程が約270から約290℃の温度で行われることがさらに好ましい。
【0019】
重縮合工程は、バッチ法において、高真空下の溶融相で行われてもよい。
エステル化と重縮合を一連にしたひと続きの反応装置を用いて、重縮合が溶融相で連続した工程として行われることが最も好ましい。
1つの態様においては、重縮合工程は、最初の高真空下における溶融重縮合工程と、それに続く真空または窒素気流下での固相重合工程に分けて行われる。
【0020】
固相重合工程は、一括または連続した操作で行われることが好ましい。
1つの実施形態では、重縮合工程を始める前に、装置にコモノマーが付加的に入れられる。
コモノマーはイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、またはこれらの混合物であることが好ましい。
【0021】
約10から約30 ppmのリン酸が装置に加えられ、酢酸コバルト及び/または青いトナーといった色相補正成分が少なくとも1つ、装置に加えられることがさらに好ましい。
【0022】
さらに、触媒成分は、エステル化工程の前、その間、またはその後に一緒に装置内に入れられてもよい。
【0023】
あるいは、触媒成分は、エステル化工程の前、その間、またはその後といった別々の時間に分けて装置内に入れられてもよい。
【0024】
触媒組成物は、PTA法でPETを製造するための工業的な一連の、または一括した任意の反応系において使用されてよい。
【0025】
その用途において与えられる全ての重量ppm量が、ポリエチレンテレフタレートの理論収量に基づいていることは特記されなければならない。さらに、目的を達成する上で、非アルカリ金属酢酸塩または任意の他の触媒成分が、発明した触媒組成物に必要であることが強調されなければならない。
【0026】
驚いたことに、本発明は、以下のような触媒組成物を提供する。すなわち、アンチモンが1つの成分であり、2番目の成分が、特別に合成する必要のないすぐに利用できる化合物をベースとするもので、触媒コストも削減する一方、ポリエステルの生産性を飛躍的に高め、ポリマーの明るさを改善するようなものである。この触媒組成物は、アンチモンと亜鉛化合物をベースとしており、アンチモンの含有量は少ない。アンチモンは亜鉛よりも3倍以上高価であり、より少量で済むのは大きな利点であり、これはより高い輝度値を実現する助けともなる。さらに、アンチモンのような重金属の量を減少することは、環境保護的な観点からも常に求められていることである。開示された触媒組成物により、溶融重縮合時間は大幅に短縮され、これは公知技術と同等またはそれ以上である。さらに、この触媒組成物は固相重合に効果的であることが示されている。
【実施例】
【0027】
以下の具体例は、この発明に限った実例化を意図するものである。もちろんそれらは、この発明の範囲は有限のため、任意の方法がとられるわけではない。発明に関して、非常に多くの改変と修正が可能である。具体例は、1.55%のイソフタル酸(IPA)コモノマーを含む標準的なボトル用のPET樹脂の配合を用いている。しかしながら、記述されている全ての反応は、PETホモポリエステル(IPAなし)に対しても機能する。
【0028】
全てのポリマーは、10リットルの容量を持つ円錐形のバッチ反応装置内で作られた。全ての成分 (PTA、EG、IPA、三酢酸アンチモン、亜鉛化合物、酢酸コバルト、青いトナー、及びリン酸)は、最初に一緒に加えた。エステル化反応は、窒素圧力下、253℃で行った。これにより溶融したDGTが形成された。期待量の水を回収した後、装置を278 ℃まで加熱し、約1 mbarの真空にして重縮合を開始した。溶融物は、撹拌機で撹拌した。重縮合が開始すると、分子量の増加に伴い粘度が上昇するために、撹拌トルクは大きくなる。固有粘度またはI. V.は、ポリマーの分子量の尺度で、希釈液の粘度から測定される。以前の測定によると、具体例2(以下参照)の標準ポリマーの配合における、13.5 Nmの撹拌トルクが、約0. 63-0.66dL/gの固有粘度に相当することが知られている。反応装置からのポリマーは全て、撹拌機のトルクが13.5 Nmに達すると排出された。真空状態を解き窒素圧を加えることで、溶融物が、溶融した一本鎖の形態で冷却水槽内へ排出された。そのストランドはチップ切断機に送られ、透明な不定形のチップが形成された。
【0029】
選択された試料を、固相重合(SSP)にかけた。ここでは、 溶融重縮合で作られた約0. 64 dL/gの固有粘度を持つ不定形チップを、210℃(すなわち固相中)でさらに重合させた。最初に、170℃で1時間、透明な不定形チップを熱し、チップを結晶化し、210℃での固相重合中にそれらが固着するのを防いだ。次に、結晶化したチップを210℃のベンチスケール固相重合(SSP)反応装置内に入れた。乾燥窒素をチップベッドに通し、これにより重縮合から揮発性物質(EGと水)が除かれる。固相重合(SSP)は210℃で6時間かけて行われ、アンチモンのみを用いた標準ポリマーの固有粘度と、アンチモン-亜鉛触媒を用いたポリマーの固有粘度を比較した。
【0030】
前述したように、固有粘度またはI. V.は、ポリマーの分子量の尺度で、希釈液の粘度を計測することで測定される。I. V.は、主にポリマーの分子量に影響されるが、溶媒のタイプや溶液の温度もまた、その計測値に影響を与える。同じポリマーに対するI. V. の値も、使用した溶媒と溶液の温度が異なれば、違う値となる。本明細書における全てのI. V.は、25℃で、フェノール-1, 2 ジクロロベンゼン溶液と3: 2で混合した中で測定したものである。この方法は単一濃度における単一測定を土台にしたものである。典型的には、約8-10枚のチップを溶解し、約0.5%の濃度の溶液を作る。I. V.は、以下のビルメイヤー方程式を用いて単一ポリマー濃度(0.5%)に対する相対粘ηrを測定することからもとめられた(F. W. Billmeyer,J. of Polymer Sci. IV, 83 (1949)を参照)。
【0031】
I. V. =[h] = 0.25(ηr-1 + 3lnηr)/C
(有効範囲c = 0.5-0. 65 g/dL)
色相パラメーターは、ハンターラボ・カラーフレックス・モデル(HunterLab ColorFlex Model)No45/0、シリアルNo. CX 0969を用いて測定した。不定形チップは、砕いたり結晶化したりすることなく、透明状態で使用した。一般的に、測定された変化は、目で見てとることも可能だった。ポリマーが球顆状の結晶化により白くなるため、固相重合(SSP)後のL*値は高くなる。
【0032】
様々な種類のPETが、PTA法を用いてベンチスケール反応装置の中で作られた。全ての結果は、表1と2に要約されている。
【0033】
比較具体例 1
最初に、アンチモン触媒を用いてボトル用PETの配合で、'ベースポリマー'を作った。色相補正の添加剤は加えなかった。このポリマーは、工業生産に利用される最も一般的な濃度である200 ppmのSbという標準的なアンチモン濃度を用いて作られた。この配合は、2246 gのPTA (13.5301 モルのPTA)、41 g (0.2469モル)のイソフタル酸コモノマー(IPA)、1100 gのエチレングリコール、1.3 g の三酢酸アンチモン触媒、及び0.195 gのリン酸 (19.8ppm P)から成る。ホモポリエステル(IPAなし)を作る場合は、この配合では2287 g のPTAが使用される。IPAはPTAの異性体で、加えられる場合、直接質量でPTAを置き換える。上記の配合では、理論上2645.4 g のPETが生成される。表1では、特に金属濃度が重量ppmで示されているのが分かる。上記から、PTA + IPA = 2287 g = 13.5301 + 0.2469 = 13.777モルの(PTA + IPA)である。[金属イオンのモル数/ (PTA+IPAのモル数) ]に対応する濃度が表2に示されている。表1と2から、3 gの三酢酸アンチモンは、ポリマーの理論収量に対して、200 重量ppmのアンチモン、または3.19 x10-4 モルのSb/モル[PTA+IPA]に相当する。全ての原料は、始めて直ぐバッチ反応装置に加えた。リン酸は、溶融安定剤として、熱崩壊に対する溶融物の安定性を上げるために加えられる。撹拌トルクが13.5 Nmに達すると、重縮合を止めた。これが、比較具体例1における'ベースポリマー1'である (表 1参照)。
【0034】
'ベースポリマー'は、灰色の色調に僅かな黄色味を帯びていた。前述したように, 灰色の色調は、触媒が金属アンチモンに還元されるためだと考えられる。透明な不定形チップの色は、CIE三刺激であるL*、a* 及びb*値を用いて類別される。L*は試料の明るさを示し、値が高いほど明るさも強くなる。L*= 100は、完全な白を表し、L* = 0 は完全な黒を表す。a* 値は、試料の緑味または赤味を示す (-値は緑味を表し、 + 値は赤味を表す)。b* 値は、青味または黄色味を示す (-値は青味を表し、 + 値は黄色味を表す)。表1の比較具体例1によると、上記の不定形チップは僅かに黄色く呈色しており (b*= 3. 13)、 L* = 64.7であることが分かった。重縮合時間は133分であった。全反応時間は313分であった(比較具体例1)。ここで全反応時間とは、反応装置の加熱、エステル化、及び重縮合に要する時間の総和である。反応装置の加熱時間は、全ての具体例において同じであるべきである。従って、具体例間における全反応時間の相違は、エステル化と重縮合時間の違いによるものである。
【0035】
比較具体例 2
PTA法を用いた実際の工業生産においては、黄色の呈色を克服するために色相補正が不可欠であり、これは比較的容易に実行できる。黄色味を補正するために酢酸コバルト(II)といった青いトナーと青色化試薬を加えるのが一般的である。酢酸コバルトは、同時に触媒でもあるが、色相補正のために加える程度の量では重縮合反応に影響を及ぼさない。従って、次の具体例においては、比較具体例1と同様の配合でPETを作ったが、さらに0.175 gの酢酸コバルト (15.7 ppmの金属コバルト)と0.0053 gの青いトナーが加えられた。これが、比較具体例2の色相補正された‘標準ポリマー‘である (表1参照)。表1では、b*値が-5.1であることが示されている。このポリマーは青色を帯びるが、それは、しばしば、これがより無色(b* 約0)であることよりも望ましいからである。酢酸コバルトと青いトナーの添加により僅かな黄色味が補正される一方、L* 値は64.7 から57.2へと急激に下がり、視覚的にもポリマーは暗くなる。特に酢酸コバルトは、L*値を大きく低下させる。L*値が2低下しただけでも、視覚的に暗くなったことは認知できる。重縮合と全反応時間は、比較具体例1と比べてそれほど影響は受けない。従って、アンチモン系PETの外観を改善するための標準的添加剤を加えることにより、黄色味の色相補正に関しては十分な域に達するものの、ポリマーがさらに暗くなるという損失を併せてこうむる。
比較具体例 4
今度は、PETを作るためのアンチモン-亜鉛触媒組成物について考究する。まず最初に、比較具体例 4における亜鉛-アンチモン触媒組成物は、特許文献4と特許文献5の範囲内にあることが示される。PETは、具体例1の配合に200 ppmのアンチモンと64 ppmの亜鉛(酢酸亜鉛由来)を反応混合物に加えて作られる。反応時間は著しく短縮される(313分から220分へ、表1、比較具体例 4 対 比較具体例1)。重縮合時間は、133分から71分へ短縮した(表1,比較具体例 4対 比較具体例1)。比較具体例 4で、混合触媒を用いて作られた不定形の透明チップは、71.7という非常に高いL*値を示した。これは、アンチモン200 ppmのみを使用した、L*値が64.7のベースポリマーとは対照をなす (比較具体例1、表1)。比較具体例 4のb*値は、5.81 (僅かな黄色呈色)であり、これはまだ青いトナーにより容易に補正が可能な範囲である。b*値が10を超えると、L*値が低下するほどの青いトナーを大量に加えなければならないため、補正は困難となる。
【0036】
具体例 5
表1の具体例5-10は、発明した混合触媒組成物の結果を示している。具体例5においては、PETは140 ppmのSbと128 ppmの亜鉛を用いて作られ、2つの色相補正成分 (酢酸コバルトと青いトナー)は使用しなかった。これには、具体例1がよい比較対象である。重縮合時間は133分から60分に短縮し、全反応時間は313分から220分へと著しい短縮をとげた(比較具体例1 対 具体例5)。チップの外観は、比較具体例1と比べると光沢があった。実際、L*値もこれを反映しており、具体例5では、L*が71.9、b*が5.63であるのに対し、比較具体例1では、L*が64.7、b*が3.13であった。具体例5におけるI. V.は、0.632 dL/gであり、許容範囲である。具体例5の試料はまた、比較具体例4(200 ppm Sb + 64 ppm Zn)の特許文献4と特許文献5の範囲内にある亜鉛-アンチモン触媒組成物を用いて作られたポリマーのよい比較対象でもある。重縮合時間を具体例5と比較具体例4で比べてみると、前者は重縮合に60分かかっているのに対し、後者は71分かかっている。しかし全反応時間は両方とも220分である。具体例5のI. V.が 0.632なのに対し、比較具体例4では0.640 dL/gである。具体例5では、L* が71.9で、b*が5.63であり、比較具体例4におけるL*の71.7とb*の5. 81に匹敵する。従って、特許文献4と特許文献5に匹敵する結果が得られたが、より低価格な触媒組成物となっている(140 ppm Sb +128 ppm 亜鉛)。
【0037】
具体例 6
表1の具体例6は、140 ppmのSbと107 ppmの金属亜鉛から成る発明した触媒組成物を用いて作ったPETを示している。これには、比較具体例1がよい比較対象である。重縮合時間は133分から68分へと著しく短縮しており、全反応時間は313分から233分へと短縮している (具体例 6 対 比較具体例1)。チップの外観は、比較具体例1と比べると光沢があった。具体例6のポリマーは、L*が71.5で、 b*が4.06であるのに対し、比較具体例1ではL * が64.7で、b*が3.13である。具体例6では、0.643' dL/gという十分なI. V.が得られた。この試料は、比較具体例4 (200 ppm Sb + 64 ppm Zn)、すなわち特許文献4と特許文献5の範囲内にある亜鉛-アンチモン触媒組成物を用いて作られたポリマーに匹敵し得る。重縮合及び全反応時間の短縮、色相に関して、具体例6は比較具体例4に匹敵し、ポリマーのI. V.もまた近似していることが分かる。具体例6では、より経済的で低価格のアンチモン組成物を用いた製造が達成されている。
【0038】
具体例 7
表1の具体例7は、この発明による触媒組成物、すなわち140 ppmのSbと80 ppmの金属亜鉛を用い、色相補正をしないで作られたもう1つのPETを示している。この組成物は、適切な時間内で13.5 Nmのトルクに達する十分な活性を持つ。具体例7には、比較具体例1のポリマーがよい比較対象である。この触媒組成物を用いると、重縮合時間は133分から75分に短縮し、13.5 Nmのトルクに達するまでの全反応時間は313分から235分へと短縮する。具体例7では、許容範囲である0.634 dL/gのI. V.が得られた。チップの外観は、比較具体例1と比べて光沢があった。L*値はこれを反映しており、このポリマーではL*が 71.9で、b*が4.67であるのに対し、比較具体例1ではL *が64. 7、 b*が3.13である。この試料はまた、比較具体例 4 (200 ppm Sb + 64 ppm Zn)、すなわち特許文献4と特許文献5の範囲内にある組成物を用いて得られるポリマーに匹敵し得る。この具体例の140 ppm Sb と 80 ppm Znという組み合わせは、200 ppm Sb と 64 ppm Znを用いた系と同等の結果を示しながら、より低い触媒コストであることが分かる。
【0039】
具体例8
具体例8では、140 ppm Sb + 40 ppm亜鉛を用い、2つの色相補正成分(酢酸コバルトと青いトナー)を加えずにPETを作る試みがなされた。これには、比較具体例1がよい比較対象である。ここでは、全反応時間275分を過ぎてもトルクは9.95 Nmにしか至らず、この組成物が触媒として十分な活性を持たないことが判明した。13.5 Nmのトルクに達しないことは明らかだったので反応は9.95 Nmで止めざるを得なかった。トルクが、約0. 64 dL/gのI. V.に相当する13.5 Nm に達するためには、140 ppmのSbに、少なくとも60 ppmのZnが必要である。
【0040】
具体例9
表1の具体例9は、Sbのレベルをさらに低くくしても機能することを示している。アンチモンを140から100 ppmに減らした。100 ppm Sb と128 ppmの亜鉛を用い、2つの色相補正成分(酢酸コバルトと青いトナー)を加えずにPETを作った。これには、比較具体例1がよい比較対象である。重縮合時間は133分から63分に短縮し、全反応時間は313分から228分へと著しく短縮した (比較具体例1 対 具体例9)。具体例9におけるポリマーのI. V.は0.630 dL/gで、許容範囲である。チップの外観は、比較具体例1と比べて光沢があった。L*値はこれを反映しており、具体例9では、L*が71. 5で、b*が5.37であるのに対し、比較具体例1ではL *が64. 7、 b*が3.13である。具体例9は、比較具体例4 (200 ppm Sb + 64 ppm Zn)、すなわち特許文献4と特許文献5の範囲内にある組成物を用いて得られる例に匹敵し得る。具体例9の触媒組成物 (100 ppm Sb +128 ppm Zn)は、比較具体例4の組成物(200 ppm Sb + 64 ppm Zn)よりも経済的だが、時間の短縮、I. V.、及び色相に関して同等の結果が得られていることが分かる。
【0041】
具体例10
L*値が高くないというだけでなく、b*値も+10を超えない、好ましくは+5よりも小さいPETを得ることが重要である。b*値は黄色味を指し、値が+10を超えると、青色化試薬を用いて、L*値の大幅な低下を伴わずに色相補正することは困難になる。具体例10では、この発明の組成物である100 ppm Sbと128 ppmの亜鉛を用い、外観特性を調べるために色相補正を行った。2つの色相補正成分 (酢酸コバルトと青いトナー)が加えられた。具体例10のポリマーには、まず比較具体例2がよい比較対象である。重縮合時間は128分から63分に短縮し、全反応時間は306分から218分へと著しく短縮した (比較具体例2 対 具体例10)。具体例10のチップの外観は、比較具体例2と比べて光沢があった。具体例10においては、L*が 64.7で、b*が-7.9であった。ポリマーは、青色の呈色が強かったため、僅かに過補正されている(b*=-7. 9を、具体例9における補正なしの場合のb*= + 5.37と比較)。具体例10における補正ありの場合は、添加するコバルトのためにL*が色相補正されないポリマー(具体例9)の71.5から64.7へと低下する。しかしながら、これは、色相補正された比較具体例2の‘標準’ポリマーよりはまだ明るく、このアンチモンを用いて作られた‘標準’ポリマーでは、L*が57.2へと急落する。
比較具体例 11
表1の比較具体例11は、具体例5-10のように重縮合時間を約65分に短縮し全反応時間を約220分に短縮するためにアンチモンのみを使用する場合、2.8995 g の三酢酸アンチモン(449 ppmのSb)が使われることを示している。この場合、重縮合時間は66分、全反応時間は226分であった。比較具体例11における全反応時間は目下、100 ppmのアンチモンと128 ppmの亜鉛(表1、具体例9-10参照)、または140 ppmのアンチモンと80-128 ppmの亜鉛(表1、具体例5-7参照)といった触媒の具体例に匹敵し得る。しかしながら、生産性を上げるために300 ppmを超えてアンチモンを増やすことは、2つの理由から推奨されない。まず第一に、アンチモンはより高価な成分であり、449 ppmのアンチモンでは、表1の具体例5-7及び9-10における触媒を組み合わせた組成物よりもコストが高くつく。第二に、アンチモンをこのレベルの量加えると、b*値はそれほど変わらないものの、L*値が64.7から63.7へと低下する (表1の比較具体例11と比較具体例1を比較);反応時間が短縮されたことで黄色味は低下するが、高濃度のアンチモンにより必然的にさらに暗くなる。449 ppmのSbを用いたポリマーを、青いトナーと酢酸コバルトで補正すると、L*値は許容範囲を超える54へと急落することが分かる。一方、具体例10によると、発明した触媒組成物を用いて作られたPETは、色相補正してもなお64.7のL*を呈することが分かる。従って、約250-300 ppmを超えるアンチモンの増加は、実際に反応時間を短縮する方法としては有用ではない。なぜなら、必然的に、ポリマー内に色相を暗くする金属アンチモンの増加を招き、黄色味の色相補正によってさらに暗くなるからである。しかしながら、本明細書で示した濃度におけるアンチモンと亜鉛の組み合わせは、経済的な触媒であるのと同時に、生産性を著しく増加させ、アンチモン含量の低さがポリマーにより明るい外観をもたらす。
【0042】
PETボトル用樹脂としては、0.75-0. 85 dL/gのI. V.を持ち、アセトアルデヒド含有量の低いものが求められる。前述したように、これは、溶融重縮合の後に固相重合(SSP)を行う分割法によって作られる。混合触媒を用いた固相重合(SSP)の速度が、少なくとも200-300 ppmのアンチモンを用いて作られるPETのそれに匹敵することが重要であった。これを調べるために、途中で選別された表1の不定形ポリマーを、固相重合(SSP)に(210℃で6時間)かけた。固相重合(SSP)のI. V.は触媒、固相重合(SSP)時間、及び温度に依存して上昇する。固相重合(SSP)後の結果(I. Vと色相値)を表2に示す。金属濃度は、ポリマーに対するppmで表し、同時にモル/モル(PTA + IPA)でも表した。具体例と比較具体例は、表1の番号を用いている。
【0043】
表2の比較具体例1において、200 ppmのアンチモンを用いたベースポリマーを固相重合(SSP)にかけた。最終的なI. V.は0.808dL/gであった。L* 値は87で、b*値は2.59であった。固相重合(SSP)後は、球状結晶化のために不定形ポリマーと比べてL*値が上昇しているのが分かる。不定形ポリマーは透明であるが、固相重合(SSP)後のポリマーは結晶性で白色(不透明)である。
【0044】
表2の比較具体例2では、200 ppmのアンチモンと色相補正添加剤を用いた標準ポリマーを固相重合(SSP)にかけた。最終的なI. V.は0.771 dL/gであった。色相補正後、比較具体例1のベースポリマーに比べて明度は著しく低下する(L*は 81.9)が、ポリマーは若干青くなる (b*=-3. 2)。コバルトを含む組成物では、固相重合(SSP)時間後のI. V. が、より低下することが判明した(0.771 対 0.808 dL/g、比較具体例2 対比較具体例1)。
【0045】
表2の具体例5-7と9-10は、この発明の触媒組成物を用いて作られたPETの固相重合(SSP)後についてである。具体例5は、140 ppmの金属アンチモンと128 ppmの金属亜鉛を用い、色相補正添加剤を加えずに作られたPETである。固相重合(SSP)後の最終的なI. V. は0.813 dL/gであった。これは、表2の比較具体例1 (0.808 dL/g)に匹敵し得る。始めのI.V.は、比較具体例1に比べて低いものの (0.632 対 0.666 dL/g)、最終的なI. V.は、比較具体例1のそれに類似している。従って、本明細書で開示されたアンチモン含量の少ない触媒組成物は、固相重合において200 ppmのアンチモンと同等に十分な活性を持つ(比較具体例 1)。表2の具体例5における固相重合(SSP)後のL*値は、ベースポリマー(比較具体例1、表2)の87 に比べて、90.2(ポリマーはより明るくなる)である。同時に、アンチモンのみを使用したベースポリマー(比較具体例1)よりb*値は高いものの、まだ10には至らず、青いトナーによる補正が望める。
【0046】
表2の具体例6は、140 ppm の金属アンチモンと107 ppmの金属亜鉛を用いた、色相補正なしのPETについてである。固相重合(SSP)後の最終的なI. V. は0.815 dL/gであった。これには、表2の比較具体例1 (0.808 dL/g)がよい比較対象である。従って、発明した触媒組成物は、比較具体例1における標準的な200 ppmのアンチモンよりも、I. V.を僅かに高く上昇させる。固相重合(SSP)後のL*値は、ベースポリマーの87(比較具体例 1)に比べて、90.3 (明るいポリマー)であることが分かる。同時に、b*値は、アンチモンのみを用いたベースポリマーより高いものの(ポリマーはより黄色くなる、比較具体例1)、10にはまだ至らない。
【0047】
表2の具体例7は、140 ppmの金属アンチモンと80 ppm金属亜鉛を用いた色相補正なしのPETについてである。固相重合(SSP)後の最終的なI. V. は0.804 dL/gであった。これには、表2の比較具体例1(0.808 dL/g) がよい比較対象である。発明した触媒組成物は、少なくとも、比較具体例1の標準的な200 ppm アンチモンにほぼ近い水準までI. V.を上昇させる。再び、固相重合(SSP)後のL*値は、ベースポリマーの87(比較具体例 1)に比べて、90.6 (明るいポリマー)である。同時に、b*値は、アンチモンのみを用いたベースポリマーより高いものの (ポリマーはより黄色くなる、比較具体例1)、10にはまだ至らないので、補正が可能である。
【0048】
表2の具体例9及び10は、混合触媒中のアンチモンレベルをさらに低くしたPETについてである。具体例9においては、100 ppm の金属アンチモンと128 ppmの金属亜鉛を用い、色相補正は行わなかった。固相重合(SSP)後の最終的なI. V.は0.801 dL/gであった。これには、表2の比較具体例1(0.808 dL/g) がよい比較対象である。始めのI. V.はより低いものの(0.630 対 0.666 dL/g)、固相重合(SSP)後には、ベースポリマーとの差はほとんどなくなる。具体例9の触媒組成物は、比較具体例1の標準的な200 ppmのアンチモンにほぼ近い水準までI. V.を上昇させる。固相重合(SSP)後のL*値は、ベースポリマーの87(比較具体例 1)に比べて、89.9 (明るいポリマー)である。同時に、b*値は、アンチモンのみを用いたベースポリマーより高いものの (ポリマーはより黄色くなる、比較具体例1)、+10にはまだ至らない。
【0049】
表2の具体例10では、100 ppmの金属アンチモンと128 ppmの金属亜鉛が使われ、青いトナーと酢酸コバルトを用いて黄色の色相補正を行っている。固相重合(SSP)後の最終的なI. V.は0.787 dL/gであった。これには、表2、比較具体例2 の色相補正された標準ポリマー(I. V. = 0. 771 dL/g)がよい比較対象である。両者の場合とも、コバルトの存在により最終的なI. V. が低下する。具体例10では、比較具体例2と比べて始めのI. V.は低いものの (0.626 対 0.644 dL/g)、固相重合(SSP)の間に標準ポリマーとの差はほとんどなくなる。具体例10の触媒組成物は、比較具体例2の標準的な200 ppmのアンチモンよりも僅かに高い水準までI. V.を上昇させる (0.787 対 0.771 dL/g)。色相補正の後、L*値は色相補正なしの89. 9 (具体例9)に比べて、84.2まで低下するが、黄色の呈色は除かれる (b*値 -3.12 対 + 9. 17、具体例 10 対 具体例 9を比較、表2)。また、色相補正された標準ポリマー (表2、比較具体例2、200 ppmのアンチモンのみ)と比べると、具体例 10 のL*値はより高くなっている。
【0050】
以前の記述、及び請求の中で開示された特徴は、それぞれ別々に、あるいは任意の組み合わせで、この発明を様々な形で実現する助けとなり得る。
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸とエチレングリコールからポリエチレンテレフタレートを製造するための触媒組成物であって、
(i) アンチモン成分の含有量が約15 ppmから150 ppm未満の範囲にあるアンチモン化合物、
(ii) 亜鉛成分の含有量が約40 ppmから約160 ppmの範囲にある亜鉛化合物、
を含むことを特徴とする触媒組成物。
【請求項2】
前記アンチモン化合物由来のアンチモン成分の含有量が約80から約140 ppmの範囲にあり、前記亜鉛化合物由来の亜鉛成分の含有量が約50から約160ppmの範囲にあることを特徴とする請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記アンチモン化合物が、三酢酸アンチモン、三酸化アンチモン、三炭酸アンチモン、グリコール酸アンチモン、またはこれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記亜鉛化合物が、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、過酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、ハロゲン化亜鉛、金属亜鉛、またはこれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項5】
テレフタル酸とエチレングリコールからポリエチレンテレフタレートを製造する方法であって、
(a) 請求項1から4いずれか1項記載の触媒組成物を調製し、
(b) 装置内に、前記触媒組成物、前記テレフタル酸、及び前記エチレングリコールを入れ、
(c) エステル化工程及び重縮合工程において、前記テレフタル酸と前記エチレングリコールを反応させて、ポリエチレンテレフタレートを得る、
各工程を有してなることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記エステル化工程が、約230から約260℃の温度で行われ、前記重縮合工程が、約270から約290℃の温度で行われることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記重縮合工程が、バッチ法において、高真空下の溶融相で行われることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記重縮合工程が、エステル化と重縮合を一連にしたひと続きの反応装置を用いて、溶融相で連続した工程として行われることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項9】
前記重縮合工程が、最初の高真空下における溶融重縮合工程と、それに続く真空または窒素気流下での固相重合工程に分けて行われることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項10】
前記固相重合工程が、一括または連続した操作で行われることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記重縮合工程を始める前に、コモノマーを装置に付加で入れることを特徴とする請求項5から10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記コモノマーが、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記装置に約10から約30 ppmのリン酸を加えることを特徴とする請求項5から12いずれか1項記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの色相補正成分を前記装置に加えることを特徴とする請求項5から13いずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記触媒成分を、エステル化工程の前、その間、またはその後に一緒に装置内に入れることを特徴とする請求項5から14いずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記触媒成分を、エステル化工程の前、その間、またはその後といった別々の時間に分けて装置内に入れることを特徴とする請求項5から15いずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2007−528433(P2007−528433A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502441(P2007−502441)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【国際出願番号】PCT/IB2005/001249
【国際公開番号】WO2005/087839
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(502132128)サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション (109)
【Fターム(参考)】