説明

テレフタル酸組成物及びその製造方法

溶媒の存在下で2,5−フランジカルボキシレートをエチレンと反応させて二環式エーテルを製造し、次に二環式エーテルを脱水することによってテレフタル酸を製造する。本発明方法によれば、商業的な実施においてメチル置換ベンゼン供給材料の液相酸化によって生成する不純物、着色物質、及び炭素酸化物を減少させるか又は排除しながらテレフタル酸が効率的に製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してテレフタル酸に関し、より詳しくは新規なテレフタル酸組成物、及び2,5−フランジカルボキシレートからテレフタル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸及び他の芳香族カルボン酸は、通常はエチレングリコール、より高級なアルキレングリコール、又はこれらの組み合わせとの反応による、繊維、フィルム、容器、ボトル、及び他の包装材料、並びに成形物品に加工するためのポリエステルの製造において幅広く用いられている。
【0003】
商業的実施においては、芳香族カルボン酸は、通常、酢酸水溶液溶媒中において、メチル置換基の位置が所望の芳香族カルボン酸生成物におけるカルボキシル基の位置に対応するメチル置換されたベンゼン及びナフタレン供給材料を、コバルト及びマンガンイオンを含む臭素で促進された触媒の存在下において、空気又は通常は気体状の他の酸素源によって液相酸化することによって製造される。酸化は発熱性であり、これによって芳香族カルボン酸が、芳香族供給材料の部分又は中間酸化生成物、並びに、メタノール、酢酸メチル、及び臭化メチルのような酢酸分解反応生成物などの高分子量及び低分子量の副生成物と一緒に生成する。また、水も副生成物として生成する。通常は供給材料の酸化副生成物を同伴する芳香族カルボン酸は、通常は、液相反応混合物中に溶解して形成されるか又は懸濁固体として形成され、通常は結晶化及び固−液分離技術によって回収される。
【0004】
発熱性の酸化反応は、通常、好適な反応容器中において、昇温及び昇圧下で行う。液相反応混合物を容器内に保持し、発熱性酸化の結果として形成される気相が液相から蒸発し、これを反応器から取り出して反応温度を制御する。気相は、水蒸気、気化酢酸反応溶媒、並びに、溶媒及び供給材料副生成物の両方を含む少量の酸化副生成物を含む。またこれは、通常、酸化において消費されなかった酸素ガス、微量の未反応供給材料、炭素酸化物、及びプロセスのための酸素源が空気又は他の酸素含有気体状混合物である場合には、窒素、及び源ガスの他の不活性気体状成分も含む。
【0005】
液相酸化によって生成する高温及び高圧の気相は、回収可能な酢酸反応溶媒、未反応の供給材料、及び反応副生成物、並びにエネルギーの潜在的に価値のある源である。しかしながら、その相当な含水量、高い温度及び圧力、並びに気体状臭化メチル、酢酸溶媒、及び水のような成分による腐食性によって、そのエネルギー含量を再循環及び回収するために成分を分離又は回収することに対する技術的及び経済的課題が与えられる。更に、回収されたプロセス流中に分離されずに残留する不純物により、不純物が他のプロセスの様相又は生成物の品質に悪影響を与える場合には流れを再使用することが妨げられる可能性がある。
【0006】
酸化中に芳香族供給材料から生成する副生成物、より一般的には種々のカルボニル置換芳香族種のような不純物は、酸から製造されるポリエステルにおける色の形成、及びその結果としてポリエステル加工製品における冴えない色を引き起こすか又はこれと関係することが知られているので、精製形態の芳香族カルボン酸は、通常、繊維及びボトルのような重要な用途のためのポリエステルの製造に好都合である。
【0007】
精製テレフタル酸又は「PTA」のような、より低い不純物含量を有する好ましい精製形態のテレフタル酸及び他の芳香族カルボン酸は、芳香族供給材料又は所謂中純度の生成物の液相酸化によって生成する芳香族カルボン酸及び副生成物を含む粗生成物のようなより純度の低い形態の酸を、溶液中、昇温及び昇圧下において、貴金属触媒を用いて接触水素化することによって製造される。精製によって、粗生成物及び中純度生成物から不純物、特に主たる不純物である4−カルボキシベンズアルデヒドが除去されるだけでなく、着色物質のレベル、並びに金属、酢酸、及び臭素化合物の量も減少する。商業的実施においては、アルキル芳香族供給材料の粗芳香族カルボン酸への液相酸化、及び粗生成物の精製は、しばしば、精製のための出発物質として液相酸化からの粗生成物を用いる連続統合プロセスで行われる。
【0008】
かかる商業的プロセスからの不純物、着色物質、及び炭素酸化物の生成を減少又は排除することは引き続き継続的な課題である。1つの解決法は、メチル置換ベンゼン及びナフタレン供給材料以外の供給材料から芳香族カルボン酸を製造するための別のプロセスにおいて見ることができる。
【0009】
"Biomass Report for the DOE Office of Energy Efficiency and Renewable Energy"において"Top Value Added Chemicals from Biomass, vol. 1 - Results of Screening for Potential Candidates from Sugars and Synthesis Gas, 2004年8月"と題された論文において報告されているように、米国エネルギー省(DOE)は最近、バイオマス処理からの12種類の最重要の化学基本要素を認定した。DOEによって認定された12種類の基本要素の中に、2,5−フランジカルボン酸がある。DOEはポリエステルのような汎用化学品の製造において2,5−フランジカルボン酸を用いることに関する提案を行った。
【0010】
バイオマス炭水化物は、酵素によってフルクトース及び他の糖類に転化することができることが一般に知られている。安易な脱水条件下において、これらの糖類を次に5−ヒドロキシメチルフルフラールに転化し、これを直ちに2,5−フランジカルボン酸に酸化する。1年あたりに製造される約2000億トンのバイオマスの95%が炭水化物の形態であり、現在、全炭水化物のわずか3〜4%しか食品及び他の目的のために用いられていないことが報告されている。したがって、潜在的に、完全に再生可能な非石油ベースの汎用化学品を製造するために用いることができるバイオマス炭水化物の豊富な未開発の供給源が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】"Biomass Report for the DOE Office of Energy Efficiency and Renewable Energy", "Top Value Added Chemicals from Biomass, vol. 1 - Results of Screening for Potential Candidates from Sugars and Synthesis Gas, 2004年8月"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、不純物、着色物質、及び炭素酸化物の生成を減少又は排除するだけでなく現在の商業的プロセスにおける精製工程の必要性を排除する、パラキシレンのような従来のアルキル芳香族供給材料以外の供給材料からテレフタル酸を製造する方法を提供することが望ましいであろう。また、プロセスにおいて用いる代わりの供給材料をバイオマスから誘導すれば望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明方法は、その幾つかの態様及び特徴においては、溶媒の存在下で2,5−フランジカルボキシレートをエチレンと反応させて二環式エーテルを製造し、次に二環式エーテルを脱水することを必要とする。
【0014】
本発明の一態様においては、2,5−フランジカルボキシレートは、バイオマス炭水化物の酵素分解又は微生物分解を行って、フルクトース、スクロース、及びこれらの混合物を製造し、この糖類を次に5−ヒドロキシメチルフルフラールに転化し、5−ヒドロキシメチルフルフラールを直ちに2,5−フランジカルボキシレートに酸化することによってバイオマスから誘導する。
【0015】
本発明方法によれば、商業的な実施においてメチル置換ベンゼン供給材料の液相酸化によって生成する不純物、着色物質、及び炭素酸化物を減少又は排除しながら、パラキシレン酸化からの粗生成物の水素化によって精製した従来のPTAと同等の純度を有するテレフタル酸が効率的及び有効に製造される。
【0016】
他の形態においては、本発明は、不純物として微量の2,5−フランジカルボン酸を含み、テレフタル酸が約1.5×10−12〜1の炭素12アイソトープに対する炭素14アイソトープの比を有する、テレフタル酸組成物を提供する。
【0017】
本発明はまた、不純物として約25ppm未満の2,5−フランジカルボン酸を含む、少なくとも1種類のグリコールとの反応によって更なる精製なしに繊維及びフィルムを製造するために好適なポリエステルに直接転化させるために十分な純度を有するテレフタル酸組成物も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、テレフタル酸(TA)を製造するための方法、及び新規なTA組成物に関する。本発明によれば、2,5−フランジカルボキシレートを溶媒の存在下でエチレンと反応させて二環式エーテルを製造し、次に二環式エーテルを脱水する。得られるTAは、パラキシレン酸化からの粗生成物の水素化によって精製した従来のPTAと同等で、繊維及びフィルムに直接転化させるために十分な純度を有する。
【0019】
一態様によれば、2,5−フランジカルボキシレートはバイオマスから誘導される。「バイオマス」は、一般に、燃料又はエネルギー源として用いられる植物性物質、植物、又は農業廃棄物として定義される。バイオマス炭素に関する炭素12アイソトープに対する炭素14アイソトープの比は、一般に、空気試料からとられる炭素12に対する炭素14の現在の天然の存在度に基づいて約2×10−12〜1であると当業者に知られている。
【0020】
バイオマスから誘導される2,5−フランジカルボキシレートを本発明の実施において用いると、得られるTAは、約1.5×10−12〜1の炭素12アイソトープに対する炭素14アイソトープの比、又はガイガーカウンターで測定して炭素1gあたり1分あたり12の壊変を有する。
【0021】
更に、石油精製から誘導されるアルキル芳香族供給材料から製造される従来のPTAとは異なり、本発明にしたがってバイオマスから誘導されるTA組成物は、不純物として微量の2,5−フランジカルボン酸(FDCA)を含み、4−カルボキシベンズアルデヒド及び着色物質のような汚染物質を含まない。バイオマスから誘導されるTA組成物中に存在するFDCAの量は、通常は、高圧液体クロマトグラフィーによって測定して少なくとも約10ppmである。TA組成物中のFDCAの最大量は、好ましくは約25ppm未満である。物理特性又は機械特性が変わることを避けるために、ポリエステルの製造において用いるTA組成物中の不純物を制限することが望ましい。したがって、所望の場合には、水のような溶媒を用いる結晶化によってFDCAの不純物レベルを減少させることができる。しかしながら、本発明のTA組成物は、更なる精製の必要性なしに少なくとも1種類のグリコールと反応させて繊維及びフィルムを製造するのに好適なポリエステルに直接転化させるために十分な純度を有する。
【0022】
本発明の一形態においては、用いることのできる2,5−フランジカルボキシレートはFDCAである。バイオマスの酵素又は微生物分解によってフルクトース及びスクロースの混合物を製造することが当業者に一般的に知られている。また、バイオマスは、米国特許4,427,453(参照として本明細書中に包含する)に記載されているような2段階加水分解法によって糖類に転化させることができる。第1段階においては、バイオマスを破砕し、約135℃〜190℃の温度、液体混合物を保持するのに十分な圧力下において約0.05〜20分間希釈無機酸で処理する。第1段階においては、主としてヘミセルロース及び若干のセルロースが糖類に加水分解される。次に、反応容器を速やかに減圧して加水分解物をフラッシングする。次に、残渣を第2段階において再び希釈無機酸で処理し、約210℃〜250℃に加熱し、約0.05〜20分間加圧して液相を保持する。次に、反応器を速やかに減圧して加水分解物をフラッシングして糖類を生成させる。
【0023】
次に、Zhaoら, Science, 2007年6月15日, 316, 1597-1600;及びBickerら, Green Chemistry, 2003, 5, 280-284(参照として本明細書中に包含する)に記載されているようにして、これらの糖類を酸触媒と反応させることによって脱水環化によって5−ヒドロキシメチル−2−フルフラール(HMF)を生成させる。Zhaoらの方法においては、糖類を、イオン性液体の存在下、100℃において、塩化クロム(II)のような金属塩で3時間処理して、70%の収率のHMFを得る。Bickerらの方法においては、180℃より高い温度において約2分間、溶媒としての亜臨界又は超臨界アセトン及び触媒としての硫酸の作用によって糖類をHMFに脱水環化して、ほぼ70%の選択率でHMFを得る。
【0024】
次に、MeratらのFR−2669634(参照として本明細書中に包含する)によって記載されているようにして、HMFを直ちにFDCAに酸化する。Meratらの方法においては、酸素の存在下、水性アルカリ性条件下で白金−鉛触媒を用いて、室温(約25℃)において2時間、HMFをFDCAに酸化して、HMFの完全な転化、及び酸性化の後に94%のFDCAの収率及び約99%の純度を達成する。
【0025】
本発明の他の態様においては、Krogerら, Topics in Catalysis, 2000, 13, 237-242に記載されているHMFのその場での酸化;米国特許3,326,944に記載されている銀−銅試薬による酸化;及びGrabowskiらのPL−161831によって議論されているFDCAへの電気化学的酸化;(これらは参照として本明細書中に包含する)などによる任意の通常の方法によって非バイオマス源からFDCAを合成することができる。かかる非バイオマス源としては2,5−ジメチルフランを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0026】
FDCAを用いる本発明の実施において用いることのできる好適な溶媒としては、水、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、C〜C10アルコール、C〜Cケトン、及びC〜C10エステルが挙げられる。水が好ましい溶媒である。また場合によっては、アルカリ及びアルカリ土類金属の水酸化物のような添加剤を水中で用いて、FDCAをより水溶性の塩に転化してFDCAの反応性を向上させることができる。好適なアルカリ及びアルカリ土類金属の水酸化物としては、ナトリウム、カリウム、及びカルシウムの水酸化物が挙げられる。溶媒中のFDCAの濃度は、通常は、約5〜約20重量%のFDCAの範囲である。
【0027】
FDCAを溶媒の存在下でエチレンと反応させる場合には、生成する中間体である二環式エーテルは、7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−1,4−ジカルボン酸である。エチレンはFDCAの溶液中に散布又はバブリングすることができる。エチレンの量はFDCAの量より過剰でなければならず、好ましくはFDCA1モルあたり少なくとも2モルのエチレンである。
【0028】
本発明の他の形態においては、用いることのできる2,5−フランジカルボキシレートは、ジメチル−2,5−フランジカルボキシレート(DM−FDCA)、則ちFDCAのジメチルエステル誘導体である。通常は、DM−FDCAは、濃硫酸又は濃リン酸のようなプロトン酸触媒の存在下でのFDCAとメタノールとの反応によって誘導することができる。FDCAをメタノール及びリン酸と配合し、次に約6〜9時間、加圧下で約200℃に加熱して液相を保持する。
【0029】
DM−FDCAを用いる本発明の実施において用いることのできる好適な溶媒としては、芳香族炭化水素、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、C〜C10アルコール、C〜Cケトン、及びC〜C10エステルが挙げられる。トルエンが好ましい溶媒である。約5ppm〜約2000ppmの範囲の触媒量の、アルミニウム、ホウ素、亜鉛、又はチタンの塩のようなルイス酸を加えることによって、反応の活性を更に向上させることができる。
【0030】
DM−FDCAを溶媒の存在下においてエチレンと反応させる場合には、生成する中間体である二環式エーテルは、ジメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−1,4−ジカルボキシレートである。
【0031】
本発明の他の形態においては、用いることのできる2,5−フランジカルボキシレートは、FDCAとDM−FDCAとの混合物であってよい。FDCAとDM−FDCAとの混合物を用いる本発明の実施において用いることのできる好適な溶媒としては、水、芳香族炭化水素、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、C〜C10アルコール、C〜Cケトン、C〜C10エステル、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
溶媒の存在下において2,5−フランジカルボキシレートとエチレンとを配合することによって、ディールスアルダー反応を促進して中間体の二環式エーテルを製造する。中間体の二環式エーテルは、7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−1,4−ジカルボキシレートである。
【0033】
中間体の二環式エーテルを製造する際には、FDCAとエチレンとの反応からの温度を保持すると二環式エーテルの自発的な脱水反応が起こり、この反応熱は脱水を進行させるのに十分なものである。脱水を進行させるために反応系を保持する好ましい温度は、少なくとも約100℃、より好ましくは約200℃である。この自発的な脱水によって、分離容器内で二環式エーテルを単離させる必要なしに二環式エーテルの脱水を自動的に起こすことができるので、2,5−フランジカルボキシレートから1工程でTAを製造することができ、則ち単一の反応器内でTAを製造することができる。
【0034】
本発明の他の形態においては、濾過のような任意の通常の方法によって二環式エーテルを単離して、次に二環式エーテルを酢酸のような溶媒中に溶解し加熱して沸騰させることにより、酸接触脱水反応によって脱水して、最終TA生成物の精製しやすさを向上させることができる。酸接触脱水反応は、本発明が属する技術の当業者に一般的に知られている。精製は、TAがその中に可溶の水のような溶媒からの再結晶、並びに他の公知の手順によって行うことができる。
【0035】
2,5−フランジカルボキシレートとエチレンとの反応、及び二環式エーテルの脱水の両方の温度は、約100℃〜約250℃の範囲、好ましくは約180℃〜約210℃の範囲に保持しなければならない。エチレンは、2,5−フランジカルボキシレートと約10psig〜約2000psig(約68.9kPaG〜約13.8MPaG)の範囲の圧力で反応させる。より好ましくは、エチレンの圧は約50psig〜約1000psig(約345kPaG〜約6.9MPaG)の範囲であり、約100psig〜約300psig(約689kPaG〜約2.1MPaG)が最も好ましい。2,5−フランジカルボキシレートは、約60分間〜約480分間、好ましくは約90分間〜約120分間反応させなければならない。
【0036】
TAは、反応混合物を雰囲気温度に冷却し、次に上澄み液から固形分を濾過することによって回収することができる。
本発明方法によって、パラキシレンのような従来のアルキル芳香族供給材料を用いることなくTAが有効に製造される。本発明者らは驚くべきことに、溶媒の存在下で2,5−フランジカルボキシレートをエチレンと反応させて二環式エーテルを製造し、次に二環式エーテルを脱水することによって、高純度のTA組成物が製造されることを発見した。実際、TAの純度は、パラキシレンの酸化からの粗生成物の水素化によって精製した従来のPTAのものと同等であり、少なくとも1種類のグリコールとの反応によって更なる精製の必要なしに繊維及びフィルムを製造するために好適なポリエステルに直接転化させるために十分なものである。
【0037】
また、本発明方法は、従来のパラキシレン酸化法において副生成物として通常生成する部分酸化生成物を生成しない。これらの副生成物としては、4−カルボキシベンズアルデヒド、並びに他の汚染物質、例えばp−トルイル酸、p−トルアルデヒド、及び安息香酸(これらは全て商業的なPTAプロセスにおいて通常的に見られる)が挙げられる。炭素酸化物は通常は酢酸の分解に関係するが、これも本方法においては実質的に存在せず(則ち、2,5−フランジカルボキシレートの脱カルボキシル化反応から生成する微量の二酸化炭素が存在する可能性がある)、パラキシレンの液相酸化中に生成する着色物質も同様である。
【0038】
更に、本発明において代わりの供給材料として2,5−フランジカルボキシレートを用いることにより、酢酸、触媒、又は酸素(これらは全て従来のPTAプロセスにおいて見られる)を用いることなくTAを製造することができる。本発明の実施において触媒は必要ではないが、亜鉛(II)塩、例えば亜鉛(II)の酢酸塩又は臭化物、及び鉄(III)塩、例えば鉄(III)の酢酸塩など(しかしながらこれらに限定されない)のルイス酸性を有する従来のものとは異なる触媒を用いて反応速度を向上させることができることを注意すべきである。更に、2,5−フランジカルボキシレートを用いることにより、TAの製造のために再生可能な供給材料を用いることができる。
【0039】
更に、本発明のTA組成物によって、通常は高価なパラジウム触媒を用いる従来の精製工程が簡略化又は排除される。
【実施例】
【0040】
以下の実施例は、本発明を例示し、本発明をどのように製造及び使用するかを当業者に教示することを意図するものである。これらの実施例は、いかなるようにも本発明又はその保護範囲を限定することを意図しない。
【0041】
実施例1:
5gのFDCA(Atlantic Chemical Companyから入手できる)及び100gの蒸留脱イオン(D&D)水をオートクレーブ内で配合し、次にエチレンで加圧し、120℃に加熱した。反応時間が経過した後、ユニットを冷却及び減圧し、反応混合物(則ち、「母液」として知られている反応溶媒によって覆われている固体の混合物)を回収した。次に、この混合物を濾過によって分離して、濾過ケーキ(則ち固形分)及び母液を得た。濾過ケーキ及び母液の両方を、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析した。
【0042】
下表1に示すように、温度及び圧力を上昇させることによって反応条件をより厳しくすると、TAが1工程で、則ち単一の反応容器内で製造されただけでなく、その収率も上昇した。100psig(689kPaG)のエチレンを100℃の温度において用いた実施例1Aの温和な条件下においては、120分後にHPLC分析によってTAは観察されなかった。実施例1Bにおいては、温度だけを150℃に上昇させることによって、母液中に微量濃度のTAが生成した。実施例1Cにおいて温度を100℃に保持しながら圧力だけを100psig(689kPaG)から200psig(1.4MPaG)に上昇させることによって、母液中のTAの濃度が上昇した。実施例1Dにおいてエチレン圧及び温度をそれぞれ200psig(1.4MPaG)及び200℃に更に上昇させることによって、濾過ケーキは372ppmwの測定可能なレベルのTAを含むことが分かった。最後に、実施例1Eにおいては、温度を200℃に保持しながら、FDCA充填量を5gから10gに増加させ、エチレン圧を250psig(1.7MPaG)に更に上昇させた。反応混合物中に不溶の固体は観察されなかった。均一な液体物質の試料が得られ、これを乾燥させて、均一な液体中に可溶であった固体を残留させた。蒸発させた試料の残渣を秤量することによって求めた全固体濃度を、母液の全重量で割り、これに100をかけた値は4.2785重量%であった。蒸発させた残渣については、3,504ppmwのTAを含んでいることが分かった。
【0043】
これらの結果及び充填したFDCAの量に基づくと、TAが0.14モル%の収率で製造されたと見積もられた。また、HPLC分析によって7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−1,4−ジカルボン酸の存在が観察された。したがって、表1に示すように、本発明方法によって、TAがFDCAから首尾よく製造された。更に、パラキシレンを用いなかったので、TAは、パラキシレン酸化と通常関係する4−カルボキシベンズアルデヒド及び着色物質を含まずに製造された。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例2:
ガス入口及び出口を取り付けた高圧反応器中に、100gのFDCA、800gのメタノール、9.41gのリン酸(85%)、及び1.26gの水を充填した。反応器を密閉し、窒素を9回充填及びフラッシュした。次に、入口及び出口を閉止し、反応混合物を撹拌し、200℃に9時間加熱した。反応器を冷却し、排気し、878.95gの全反応器内容物を回収した。固体についてガスクロマトグラフィー分析を行って、以下のガスクロマトグラフィーピーク面積割合が明らかになった:63%−DM−FDCA;21%−モノメチルFDCA;及び14.9%−未反応FDCA。存在していると見積もられる1.1%の未知物質があった。
【0046】
固体を濾過することによってDM−FDCAを他の成分から分離した。固体を新しいメタノールで2回洗浄し、次に27mmHgの僅かな真空下において60℃で乾燥して、約44.813gの固体を得た。次に、この物質をガスクロマトグラフィー−質量分光法によって分析して、以下の標準化ピーク面積が明らかになった:95.0%−DM−FDCA;3.2%−モノメチルFDCA;及び1.90%−FDCA。
【0047】
5gのDM−FDCA及び60.5gのトルエンをParr反応器中に加えた。反応器を密閉し、エチレンで250psig(1.7MPaG)に加圧した。混合物を撹拌しながら120〜125℃に加熱し、次に約7時間保持した。反応器を冷却及び減圧し、60.125gの全反応器流出物を回収した。スラリーを濾過し、固体をまずは雰囲気圧力下で65〜70℃において一晩乾燥し、次に100℃及び27mmHgの真空下で30分間乾燥した。濾過ケーキの分析によって、以下の成分及びそれらの重量%での対応する濃度が明らかになった:39.7%−DM−FDCA;0.699%−モノメチルFDCA;0.011%−FDCA;及び0.015%−TA。
【0048】
温度を190〜195℃に約5時間固定した他はこの手順を繰り返した。固体の分析によって以下の濃度(重量%)が明らかになった:39.1%−DM−FDCA;0.547%−モノメチルFDCA;0.21%−FDCA;及び0.021%−TA。
【0049】
これらの結果に基づくと、本発明方法によればDM−FDCAからTAが首尾よく製造され、驚くべきことにジメチルテレフタレートは生成しなかった。当業者は、反応シーケンスを通して分子の一部としてジメチルエステルが残留すると予測したであろう。更に、供給材料として従来のアルキル芳香族物質ではなくDM−FDCAを用いたので、TAは、溶媒分解に通常関係する炭素酸化物、不純物、及び着色物質を含まずに製造された。更に、これらの知見により、FDCAを直接か又はエステル誘導体として用いて所望の生成物であるTAを製造することができることが明らかであった。
【0050】
本発明を好ましいか又は実例の幾つかの態様に関して上記で説明したが、これらの態様は排他的又は本発明を限定することを意図するものではない。むしろ、本発明は、特許請求の範囲によって規定されるその精神及び範囲内に含まれる全ての代替、修正、及び均等物を包含すると意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.溶媒の存在下で2,5−フランジカルボキシレートをエチレンと反応させて二環式エーテルを製造し;そして
b.二環式エーテルを脱水する;
ことを含むテレフタル酸の製造方法。
【請求項2】
2,5−フランジカルボキシレートをバイオマスから誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2,5−フランジカルボキシレートを、
a.バイオマスを、フルクトース、スクロース、及びこれらの混合物を含む糖類に転化し;
b.糖類を5−ヒドロキシメチルフルフラールに転化し;そして
c.5−ヒドロキシメチルフルフラールを2,5−フランジカルボキシレートに酸化する;
ことを含む工程によってバイオマスから誘導する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
2,5−フランジカルボキシレートが2,5−フランジカルボン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
溶媒が、水、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、C〜C10アルコール、C〜Cケトン、及びC〜C10エステルからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
溶媒が水である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
二環式エーテルが7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−1,4−ジカルボン酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
2,5−フランジカルボキシレートがジメチル−2,5−フランジカルボキシレートである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
溶媒が、芳香族炭化水素、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、C〜C10アルコール、C〜Cケトン、及びC〜C10エステルからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
溶媒がトルエンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
二環式エーテルがジメチル−7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−1,4−ジカルボキシレートである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
2,5−フランジカルボキシレートが2,5−フランジカルボン酸とジメチル−2,5−フランジカルボキシレートとの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
溶媒が、水、芳香族炭化水素、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、C〜C10アルコール、C〜Cケトン、C〜C10エステル、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
二環式エーテルが製造される時に二環式エーテルを脱水する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
二環式エーテルを脱水する前に二環式エーテルを単離する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
2,5−フランジカルボキシレートをエチレンと反応させ、二環式エーテルを約100℃〜約250℃の範囲の温度で脱水する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
2,5−フランジカルボキシレートを約10psig〜約2000psig(約68.9kPaG〜約13.8MPaG)の圧力でエチレンと反応させる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
2,5−フランジカルボキシレートを約60分間〜約480分間反応させる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法によって製造されるテレフタル酸組成物。
【請求項20】
請求項3に記載の方法によって製造されるテレフタル酸組成物。
【請求項21】
不純物として微量の2,5−フランジカルボン酸を含み、テレフタル酸が約1.5×10−12〜1の炭素12アイソトープに対する炭素14アイソトープの比を有する、テレフタル酸組成物。
【請求項22】
2,5−フランジカルボン酸の量が約25ppm未満である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
不純物として約25ppm未満の2,5−フランジカルボン酸を含む、少なくとも1種類のグリコールとの反応によって更なる精製なしに繊維及びフィルムを製造するために好適なポリエステルに直接転化させるために十分な純度を有するテレフタル酸組成物。
【請求項24】
テレフタル酸が約1.5×10−12〜1の炭素12アイソトープに対する炭素14アイソトープの比を有する、請求項23に記載の組成物。

【公表番号】特表2011−503187(P2011−503187A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534068(P2010−534068)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/063703
【国際公開番号】WO2009/064515
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(503259381)ビーピー・コーポレーション・ノース・アメリカ・インコーポレーテッド (84)
【Fターム(参考)】