説明

テロメア長を測定するための方法

【課題】テロメラーゼ長を測定するための、より迅速で信頼できる正確で効率的な方法を提供すること。
【解決手段】テロメア長を測定するための方法であって、この方法は、(a)オリゴヌクレオチドリンカーを、長さの尺度を望まれるテロメアに共有結合させる工程、(b)このリンカーと十分に相補的な配列を含むプライマーを接触させ、このプライマーが伸長して、このテロメアに相補的なプライマー伸長産物を生成する条件下で、このリンカーと特異的にハイブリダイズさせる工程、および(c)テロメア長を、プライマー伸長産物のサイズと相関させ、これによって、テロメア長の尺度を提供する工程、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、テロメア長の測定のための方法および試薬に関する。本発明は、分子生物学、細胞培養技術、および医学的治療および診断技術の分野における用途を有する。
【背景技術】
【0002】
関連する開示の説明
テロメアは、染色体末端の特殊化されたヌクレオタンパク質構造である。これは、染色体の安定性および機能を維持することにおいて重要である(Blackburn、350 Nature 569、1991;本明細書中で引用されるすべての参考文献は、本明細書中で参考として援用される)。テロメアは、染色体の末端での異常な組換えおよび分解の予防(Hendersonら、29 Biochemistry 732、1990;Bourgainら、19 Nucl.Acids Res. 1541、1991)、核下構造(sub-nuclear architecture)の組織化(Gilsonら、3 Trends Cell Biol. 128、1993)、および遠位遺伝子座での遺伝子の転写抑制への関与(Senら、334 Nature 410、1988)を通じて機能する。テロメアは、代表的には、短い配列の縦列反復配置(array)から構成される。
【0003】
ヒトにおいて、テロメアは何キロベースもの単純な縦列5’-TTAGGG反復から構成される(Moyzisら、85 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 6622、1988)。これらの反復は、Gリッチな鎖が5’から3’へ染色体の末端に向けて走り、時々5’末端を越えて広がり一本鎖5’-(TTAGGG)nの張出し(overhang)を形成するよう整列されている。ここで、nは、代表的には、9〜35である(しかし、nは、35を超えるかまたは9未満であり得る)。DNA合成の間、染色体の末端は、DNAポリメラーゼの作用によって完全には複製されない(Watson、239 Nature New Biology 197、1972)。不完全な複製は、染色体の2つのテンプレート鎖のそれぞれの3’末端で生じる。なぜなら、合成の開始に必要とされるRNAプライマーが、実質的に、テンプレートの3’末端をマスクするからである。RNAプライマーは、鎖合成の後、分解される。そして、プライマーがアニーリングし得る、テンプレートの3’末端を越えるさらなる配列は存在しないので、RNAプライマーがハイブリダイズしたテンプレートの部分は複製されない。従って、他の酵素がなければ、染色体は細胞分裂ごとに短くなる。この現象は「末端複製問題」と呼ばれ、そして細胞の老化および加齢の開始における鍵となる要因であると考えられている。
【0004】
この末端複製問題の証拠は、正常なヒト体性細胞(例えば、線維芽細胞、内皮細胞、および上皮細胞)において、テロメアが、細胞倍加ごとに、50〜200bpだけ短くなったことを示すことによって提供された(Harleyら、345 Nature 458、1990;Allsoppら、89 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 10114、1992)。その結果、すべての正常なヒト体性細胞は、増殖能を制限され(ヘイフリック限界として知られるようになった現象)、その後、この細胞は、複製老化(replicative senescence)に入る。ヒト線維芽細胞において、この限界は50〜100集団倍加(population doubling)後に生じ、その後、細胞は、何ヶ月もの間生存しているが休止している状態のままである。Goldstein、249 Science 1129、1990を参照。
【0005】
細胞不死化(無制限の複製能力の獲得)は、細胞老化からの異常な脱出である。Shayら、196 Exp. Cell Res. 33、1991を参照。細胞は、テロメアDNAをテロメアに付加して末端複製問題を克服することによって、細胞老化から脱出し得る。ほとんどの真核種は、新規な酵素であるテロメラーゼを利用してテロメアDNAを新たに生成し、従ってこのことは、テロメア反復配列の末端欠失を回避するというよりもむしろこれを補償する。酵素ヒトテロメラーゼは、5’-TTAGGG反復をテロメアDNAの3’末端に付加し、従ってDNAを伸長させそしてテロメアの短縮を予防し得る。テロメラーゼは、タンパク質成分および内在性(integral)RNA成分の複合体である。ヒト酵素のRNA成分は、ヒトテロメア反復配列に相補的な短い領域を含有する(Fengら、269 Science 1236、1995)。この相補的な配列は、テロメラーゼRNAが、3’テロメア末端の触媒性伸長のテンプレートとして働くことを可能にする(Greiderら、337 Nature 331、1989)。延長および転位のサイクルは、ヒトテロメラーゼが、5’-TTAGGG反復で染色体の3’領域を累進的に伸長する。
【0006】
テロメア短縮はそれぞれの細胞分裂で系統的に生じ、そしてテロメラーゼ活性化はテロメアを安定化する。従って、テロメア長およびテロメラーゼ活性の存在または欠如を知ることは、細胞の複製歴および増殖能についての情報を提供し得る。Harley(256 Mutation Research 271、1991)は、テロメアが分裂時計(mitotic clock)として作用し得ることを示唆する。テロメアの累進短縮は、細胞が分裂を数える手段として考えられ得る。十分に短いテロメアは、正常細胞において複製老化を伝達し得る(WrightおよびShay、8 Trends Genetics 193、1992)。
【0007】
特許文献1(1996年2月2日発行)、特許文献2(1995年5月18日公開)、および特許文献3(1995年5月18日公開)は、とりわけ、テロメア長を測定し得る方法を記載する。テロメア長の1つのおよその尺度(すべてのテロメア反復配列の合計のヌクレオチドの長さ)は、「末端制限フラグメント」(TRF)の長さである。TRFは、制限酵素を用いるゲノムDNAの完全な消化によって生成されるフラグメントの長さ(または平均長)として定義される。ここで、この制限酵素は、目的の特定のテロメア反復配列の縦列配置から完全に構成される核酸を切断しない。これらの大きなフラグメントは、使用される制限酵素およびテロメアDNAの供給源に依存して、テロメア反復および「サブテロメア」DNAの両方を含み得る。サブテロメアDNAは、縦列テロメア反復配列に隣接するDNA配列から構成され、そして一般には、可変テロメア様配列が散在するテロメア反復配列を含む(Crossら、18 Nucl. Acid Res. 6649、1990;deLandgeら、10 Mol. Cell Biol. 518、1990;Brownら、63 Cell 119、1990)。平均TRF長は、細胞または細胞集団におけるテロメアのテロメア長の尺度を提供し得る。
【0008】
TRF長の測定は、制限酵素、代表的には、4塩基の認識配列を有する制限酵素(例えば、AluI、HinfI、MspI、RsaI、およびSau3A)を、個々にまたは組み合わせて用いてゲノムDNAを消化することを包含する。この消化は、非テロメアDNAの短いフラグメントおよびテロメアDNAのより長いフラグメントの生成を生じる。消化されたDNAは電気泳動され、そしてこのDNAを、放射標識されたテロメアプローブ(例えば、ヒトテロメアDNAについては、5’-(TTAGGG)3または5’-(CCCTAA)3)とハイブリダイズすることによってサザンブロットを実行する。次いで、テロメアDNAは、オートラジオグラフィーによって視覚化され得、そして末端制限フラグメントの平均長が、当該分野において公知のコンピュータプログラムを使用する濃度スキャンから算出され得る。Harleyら、345 Nature 458、1990を参照。
【0009】
テロメア長測定のための別の方法(特許文献2(前記)参照)は、ゲノムDNAのテロメアに相補的なDNAの合成を包含する。合成されたDNAは、標識または非標識であり得、そしてこのDNAの長さは、ゲル電気泳動または当該分野において公知の他の技術により決定され得る。あるいは、テロメア長は、「アンカー末端プライマー(anchored terminal primer)」法によって、または改変Maxam-Gilbert反応(特許文献3(前記)参照)によって測定され得る。これらの2つの技術は、この分析において、「サブテロメア領域」を排除することによって、テロメア長のより直接的な測定を提供する。
【0010】
テロメア長は、細胞代謝回転(turnover)の生体マーカー(biomarker)として働く。従って、相対的年齢、増殖能、ならびにテロメアおよびテロメラーゼの状態に関連する他の細胞特性に関する情報を、テロメア長を測定することによって入手し得る。テロメア長の測定は、ガンおよび他の疾患ならびに細胞老化を診断しそして段階づけるために使用され得る。テロメア長測定の他の用途は、テロメア長調節化合物を用いる処置の効力を決定すること(Fengら、269 Science 1236、1995);テロメア長、テロメラーゼ活性、またはテロメア喪失の速度を調節する薬剤を発見すること;およびテロメラーゼ活性の存在を決定することを包含する。
【特許文献1】米国特許第5,489,508号明細書
【特許文献2】国際公開第95/13381号パンフレット
【特許文献3】国際公開第95/13382号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような用途の十分な可能性を実現し得るように、テロメラーゼ長を測定するための、より迅速で信頼できる正確で効率的な方法の必要性が依然として存在する。本発明は、この必要性および他の必要性を満足する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の要旨
本発明は、テロメア長を測定するための改善された方法を提供する。本発明の方法は迅速に実行され得、そして感受性、効率、信頼性、および正確性の増大を提供する。さらに、これらの方法は、自動化および高スループット方式に馴染み易く、そしていくつかの実施態様において、個々の染色体のテロメア長を測定する手段、テロメア長の染色体間の差異を比較する手段、および細胞混合物内の特定の細胞集団のテロメア長を測定する手段を提供し得る。さらに、この方法は、細胞および/または染色体を、テロメア長に基づいて選別することを可能にする。本発明は、テロメア長測定の従来方法に比して多くの利点を提供する。
【0013】
本発明の1つの局面において、以下の工程を包含するテロメア長を測定するための方法が提供される:
(a)オリゴヌクレオチドリンカーを、長さの尺度を望まれるテロメアに共有結合させる工程、
(b)上記リンカーと十分に相補的な配列を含むプライマーを接触させ、このプライマーが伸長して、上記テロメアに相補的なプライマー伸長産物を生成する条件下で、上記リンカーと特異的にハイブリダイズさせる工程、および
(c)テロメア長を、プライマー伸長産物のサイズと相関させ、これによって、テロメア長の尺度を提供する工程。
【0014】
1つの実施態様において、この方法は、例えば、「ポリメラーゼ連鎖反応」(PCR)増幅による上記テロメア配列の複製または増幅を包含する。2つのプライマー(上記テロメアの3’末端に共有結合したリンカーと連続して相補的な「正方向」プライマー、および染色体のサブテロメア領域に相補的な第2のプライマー)の伸長により規定される産物は、この方法によって指数関数的に増幅される。この方法は、テロメア長の正確で高感度な測定を提供する。この方法の好ましい実施態様において、二本鎖オリゴヌクレオチドリンカーが使用され、そしてこのリンカーの連結の前に、染色体DNAは、連結を改善するために、ヌクレアーゼで処理されて平滑末端を作成される。当業者は、伸長工程のための2つのプライマーの使用が指数関数的増幅を提供するが、1つのプライマーを用いる線形増幅もまた、本発明の方法に従って、テロメア長を測定するために使用され得ることを認識する。
【0015】
本発明のプライマー伸長法の別の実施態様は、ただ1つのプライマーを使用する、テロメアを測定するための迅速な手段を提供する。この方法において、共有結合したリンカーに相補的なプライマーは、ポリメラーゼ、および(i)テロメア反復中のヌクレオチドに相補的なヌクレオチドのみ;または(ii)チェーンターミネーターとして公知のヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログ(例えば、ジデオキシヌクレオチド)のいずれかを使用して伸長される。1またはそれ以上のヌクレオチドが標識され得る。ヒトテロメアについては、dGTPヌクレオチドの排除および/またはジデオキシGTP(ddGTP)ヌクレオチドの付加は、染色体のGリッチな鎖の3’末端に対して最初のCヌクレオチドでのプライマー伸長の終結を生じる。変性、およびプライマー伸長と変性との反復サイクルは、テロメア領域の多コピーを生じる。次いで、伸長産物のサイズを測定してテロメア長を推定する。例えば、標識したヌクレオチドを使用し、そしてこの標識が放射活性標識である場合、プライマー伸長産物に組み込まれた標識したヌクレオチドのシンチレーション数を、テロメア長と相関させることによって、テロメア長を測定し得る。
【0016】
本発明の別の局面において、必要に応じて、リンカーを共に用いて実施し得る。この方法の1つの別の実施態様において、サブテロメアプライマーが唯一のプライマーとして使用される。このことにより、リンカーをテロメアの3’末端に連結またはさもなければ共有結合する必要性が除去される。上記のように、プライマー伸長と変性との反復工程は、テロメア領域の多数の一本鎖のコピーを生じる。別の他の実施態様において、チェーンターミネーターとして公知のヌクレオチドアナログが、プライマー伸長工程において用いられる。この方法は以下の工程を包含する:
(a)サンプル中の二本鎖染色体DNAを、テロメアの3’末端に十分に相補的な配列を有するプライマーと接触させて、ヌクレオチドとジデオキシヌクレオチドとの混合物の存在下、上記プライマーが伸長してこのジデオキシヌクレオチドで終結するプライマー伸長産物を生成する条件下で、テロメアの3’末端とハイブリダイスさせる工程、および
(b)テロメア長を、プライマー伸長産物のサイズと相関させて、テロメア長の尺度を提供する工程。
【0017】
この実施態様において、プライマー伸長工程における特定のジデオキシヌクレオチドの使用は、染色体のテロメア部分のみを複製する手段を提供する。選択されるジデオキシヌクレオチドは、テロメア反復配列、およびプライマー伸長のテンプレートとして働くテロメアの特定の鎖に依存する。プライマーがテロメア領域を過ぎて伸長するまでは、組み込まれないジデオキシヌクレオチドが選択される。標識したヌクレオチドまたはジデオキシヌクレオチドの伸長産物への組み込み、またはゲル上での伸長産物のプローブベースの同定は、伸長産物のサイズを決定する手段を提供する。伸長産物のサイズは、テロメア長と相関する。
【0018】
本発明の別の局面において、標識したヌクレオチド、および標識プローブを用いるゲル電気泳動の使用を避けてテロメア長を測定し得る。この方法は以下の工程を包含する:
(a)変性染色体DNAを、テロメア反復配列に相補的な配列を有する標識プローブと、このプローブがテロメアDNAと特異的にハイブリダイズする条件下で接触させる工程、
(b)結合したプローブの量を測定する工程、および
(c)測定された結合プローブの量とテロメア長とを相関させる工程。
【0019】
上記のように、この方法は、テロメア長測定のための従来のアッセイと同様に、ゲルの使用を必要とせず、そして臨床用途に特に有用である高いスループットのプロセスまたは自動化プロセスに貢献する。好ましい実施態様において、テロメア長の分析は、細胞間および細胞内のテロメア長の測定および比較だけでなく、テロメア長に基づく細胞または染色体の分離を可能にする画像化技術を利用する。
【0020】
本発明の方法は、任意の起源由来の任意のサンプルにおけるテロメア長の測定に広く適用可能である。この方法は、ヒトから得られる生物学的材料のサンプルにおけるテロメア長の測定に対して特に有用であり、そして適用可能である。このようなサンプルは、サンプル中の細胞の残りの増殖能または寿命の測定、医学的状態の診断、あるいは疾患または増殖状態の同定のためには、細胞または細胞物質を含み、そして代表的には、ヒトから得られる。本発明のこれらの局面および他の局面は、添付の図面の簡単な説明で始まる以下でより詳細に記述される。
【0021】
したがって、本発明は、以下の項目を提供する。
【0022】
(項目1)テロメア長を測定するための方法であって、
(a)オリゴヌクレオチドリンカーを、長さの尺度を望まれるテロメアに共有結合させる工程、
(b)このリンカーと十分に相補的な配列を含むプライマーを接触させ、このプライマーが伸長して、このテロメアに相補的なプライマー伸長産物を生成する条件下で、このリンカーと特異的にハイブリダイズさせる工程、および
(c)テロメア長を、プライマー伸長産物のサイズと相関させ、これによって、テロメア長の尺度を提供する工程、
を包含する、方法。
【0023】
(項目2)テンプレート依存性DNAポリメラーゼが、反応混合物中に存在し、そして上記プライマーが、このDNAポリメラーゼによるこのプライマーへのヌクレオチドの付加によって伸長する、項目1に記載の方法。
【0024】
(項目3)工程(b)が、さらに、
(1)上記反応混合物を加熱して二重鎖DNA分子を変性させる工程、および
(2)この反応混合物を、相補的な核酸がハイブリダイズし得、そして上記プライマーが伸長し得る温度まで冷却する工程、
を包含する、項目2に記載の方法。
【0025】
(項目4)上記加熱および冷却工程が少なくとも5〜30回繰り返され、そして上記プライマーが、各冷却工程の間にプライマー伸長産物を生成するに十分な量で存在する、項目3に記載の方法。
【0026】
(項目5)上記ヌクレオチドのうちの1種が標識される、項目4に記載の方法。
【0027】
(項目6)上記プライマーが標識される、項目4に記載の方法。
【0028】
(項目7)上記プライマー伸長産物のサイズが、プローブをこのプライマー伸長産物にハイブリダイズさせ、そして結合したプローブの量を測定することによって決定される、項目4に記載の方法。
【0029】
(項目8)上記プライマー伸長産物が、上記反応混合物の他の成分からゲル電気泳動によって分離される、項目4に記載の方法。
【0030】
(項目9)上記ヌクレオチドのうちの1種がジデオキシヌクレオチドである、項目4に記載の方法。
【0031】
(項目10)上記テロメアがヒトテロメアである、項目4に記載の方法。
【0032】
(項目11)第2のプライマーが工程(b)において加えられる、項目4に記載の方法であって、この第2のプライマーが上記テロメアのサブテロメア領域に十分に相補的な配列を有し、このプライマーが、このサブテロメア領域との接触に際し、このサブテロメア領域と特異的にハイブリダイズし、そして伸長してこのテロメアに相補的なプライマー伸長産物を生成する条件下で加えられる、方法。
【0033】
(項目12)上記ヌクレオチドのうちの1種が標識される、項目11に記載の方法。
【0034】
(項目13)上記プライマーが標識される、項目11に記載の方法。
【0035】
(項目14)上記プライマー伸長産物のサイズが、プローブをこのプライマー伸長産物にハイブリダイズさせ、そして結合したプローブの量を測定することによって決定される、項目11に記載の方法。
【0036】
(項目15)上記プライマー伸長産物が、上記反応混合物の他の成分から、ゲル電気泳動によって分離される、項目11に記載の方法。
【0037】
(項目16)上記テロメアがヒトテロメアである、項目11に記載の方法。
【0038】
(項目17)テロメア長を測定する方法であって、
(a)変性染色体DNAを、テロメア反復配列に相補的な配列を有する標識プローブと、このプローブがテロメアDNAと特異的にハイブリダイズする条件下で接触させる工程、
(b)結合したプローブの量を測定する工程、および
(c)測定された結合プローブの量とテロメア長とを相関させる工程、
を包含する、方法。
【0039】
(項目18)上記DNAが、固体支持体に固定化される、項目17に記載の方法。
【0040】
(項目19)工程b)の前に、上記染色体DNAが、特定の時間、ヌクレアーゼで消化される、項目17に記載の方法。
【0041】
(項目20)上記テロメアがヒトテロメアである、項目17に記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
好適な実施態様の説明
本発明は、テロメア長を測定するための改良法を提供する。テロメアは、染色体の末端で核タンパク質構造であり、そして染色体の安定化、位置、および複製において機能することが示されている。テロメアはまた、細胞老化をシグナリングするための分裂時計として機能すると考えられている。正常な体細胞の染色体は、細胞分裂あたりテロメア配列の約50〜200ヌクレオチドを失うことが示されているので、テロメア長測定は細胞の増殖寿命を決定するための手段を提供する。多数の疾患が、細胞増殖の加速(過増殖(hyperproliferative)状態)または増殖能の低下により特徴付けられる。従って、テロメア長測定の改良により、診断方法論および予後方法論の改良に必要なものが満足される。
【0043】
本発明を容易に理解するために、本発明の開示を以下のようなセクションに編成する。第1に、定義セクションが提供され、本開示中で通常使用される用語および語句を定義する。この定義セクションは、本発明と共に使用され得るサンプル、プライマー、プローブおよび標識のタイプの包括的な説明を包含する。次のセクションは、テロメア長の測定のための本発明の方法を記載する。テロメア長の測定方法は、2つの主要なカテゴリー(プライマー伸長ベースの方法およびプローブベースの方法)に分けられる。プローブベースの方法のセクションはさらに細分化され、溶解細胞由来のDNAを用いるテロメア長測定および全細胞を用いるテロメア長測定を記載する。次いで、本発明の種々の応用が記載される。この説明の後に、本発明を説明する詳細な実施例が続く。
【0044】
定義
本発明の理解を助けるために、本明細書で使用される以下の用語を以下に定義する。
【0045】
「異常染色体」は、欠失、付加、または転座を受けて、その結果、テロメア領域がテロメアに通常隣接するのではなく、染色体DNAに隣接する染色体を意味する。
【0046】
「ブロット」は、ニトロセルロースまたはSilent MonitorTM Biodyne BメンブランのようなDNA結合フィルターまたは基質を意味する。
【0047】
「分枝DNAプローブ」または「bDNAプローブ」は、分枝DNAシグナル増幅のために設計されたプローブ(Urdea、12 BioTech. 926、1994;米国特許第5,124,246号)を意味し、これは標的核酸へのプローブハイブリダイゼーションにより発生したシグナルの増幅を含む。bDNAプローブは、テロメア反復に相補的なハイブリダイズする部分(例えば、5’-(CCCTAA)n-3’またはその置換体(permutation)、ここでnは長さ8以上のヌクレオチド、好ましくは長さ12〜15〜20、またはそれ以上のヌクレオチドを含む)からなり、そしてテロメア核酸とハイブリダイズする。プローブはさらに、複数の第2のプローブ結合部位を提供する分枝領域を含む。洗浄して非結合プローブを除去した後、bDNAの分枝に特異的な標識された第2のプローブはbDNAにハイブリダイズされ、そして標識を介して検出される。シグナルは、bDNA分子上の第2のプローブ接近可能部位に直接比例して増加する;従って、標的核酸の稀な集団はbDNAハイブリダイゼーションにより検出され得る。テロメア反復相補的bDNAを最初のbDNAプローブの分枝に特異的な第2のbDNAプローブ(および第2のプローブに特異的な第3のプローブなど)でプローブすることにより、感度がさらに増強され得、それにより、標識プローブに対するより多数のハイブリダイゼーション部位を提供する。PNAプローブならびに他の改変核酸プローブもまた、bDNAプローブとして使用され得る。
【0048】
「テロメア長の変化」は、特定の細胞集団またはサンプル中の染色体DNAの平均テロメア長は、個体中の他の正常体細胞と比較して、または他の個体中の正常体細胞(すなわち、疾患症状を被っていない細胞)と比較して増加するかまたは減少することを意味する。
【0049】
「標識」は、標的物質の同定および/または定量を容易にするために使用される化学物質を意味する。例示的な標識としては、蛍光性(例えば、FITCまたはローダミン)、リン光性、化学発光性、酵素的、および放射性標識、ならびに発色団が挙げられる。任意の広範な種々の標識試薬が本発明の目的に使用され得る。例えば、本発明の方法において、1種以上の標識ヌクレオシド三リン酸、プライマー、リンカー、またはプローブを使用し得る。用語標識はまた、標識分子に特異的に結合し得る「タグ」とも呼ばれ得る。例えば、ビオチンをタグとして使用し、次いでアビジン化またはストレプトアビジン化西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を使用してタグに結合し、次いで発色性基質(例えば、テトラメチルベンズアミン)を使用してHRPの存在を検出し得る。同様の様式で、タグはエピトープまたは抗原(例えば、ジゴキシゲニン)であり得、そして酵素標識、蛍光標識、または放射性標識した抗体が使用され、タグに結合し得る。本発明の目的のために、テロメア反復自体がタグであり得る。テロメア反復結合タンパク質は、当該分野で公知であり、そして二本鎖または一本鎖テロメア反復のいずれかに結合する。標識方法がタンパク質の使用を包含する場合、天然または組換えタンパク質が使用され得る;代表的には、このようなタンパク質は、使用のために精製され、そして特定のタンパク質に付着した標識または特定のタンパク質に特異的な抗体により検出される。
【0050】
「リンカー」とは、他のオリゴヌクレオチドまたは核酸と連結されるヌクレオチドからなる一本鎖または二本鎖オリゴヌクレオチドを意味する。
【0051】
「リンカー配列」とは、リンカーのヌクレオチド配列を意味する。
【0052】
「ロングポリメラーゼ連鎖反応(PCR)」とは、比較的大きな核酸の増幅(Cheng、「Efficient PCR of Long Targets」、New Horizons in Gene Amplification Technologies;New Techniques and Applications;San Francisco, CA(1994)を参照のこと)に適したPCR増幅条件を意味し、代表的には、増幅された核酸は、約200ヌクレオチドより長い鎖長を有するが、用語「ロング」の使用は、増幅され得る核酸の鎖長を限定することを意図しない。
【0053】
「分裂中期展開」とは、コルセミドのような紡錘体形成インヒビターの存在下における増殖の結果として、中期において阻害される細胞から誘導される染色体のクラスターを意味する。細胞を低張緩衝液で処理し、表面落下時の、膨張およびバーストを起こす。バースト時に、染色体は、細胞から放出され、そしてクラスターとなって表面上に分散する。代表的には、染色体は顕微鏡のスライド上に拡散して、視覚化および顕微鏡による分析を容易にする。
【0054】
「テロメア喪失の改変率」とは、その個体における他の正常な体細胞、または他の個体における正常な体細胞(すなわち、疾患状態を患っていない個体)と比較して、所定の期間(例えば、1年間)または生物学的発生(例えば、個体群倍加)にわたるテロメア喪失の増大または減少を意味する。
【0055】
「オリゴヌクレオチド」は、共有結合的に連結した、天然に存在するまたは合成的に構築されたヌクレオチドおよび/またはヌクレオチドアナログからなる分子を意味する。この開示において使用されるように、オリゴヌクレオチドは一般に、デオキシリボヌクレオチドからなるプライマー、プローブ、およびリンカーである。しかし、本発明のオリゴヌクレオチドはまた、リボヌクレオチド、リボ−またはデオキシリボヌクレオチド(すなわち、合成または天然に存在しない)の改変アナログ、またはこれらの任意の混合物からなり得る。通常、オリゴヌクレオチドにおけるヌクレオチドモノマーは、ホスホジエステル結合により連結される。しかし、当業者に自明であるように、別の結合が使用され得、これは、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレネート、ホスホロジセレノエート、ホスホラニリデート、ホスホロアミデート、ペプチドおよび類似の結合を包含する。例えば、ペプチド核酸(PNA)は、ホスホジエステル結合の代わりにペプチド結合を有するオリゴヌクレオチドである。PNAは、電荷を有さないので、PNAはデオキシリボ核酸より高い結合親和性を有する。
【0056】
「プライマー」は標的核酸にハイブリダイズするように設計され、次いでヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの付加により伸長されるオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーは、代表的にポリメラーゼまたはリガーゼの作用により伸長される。代表的には、オリゴヌクレオチドプライマーは8またはそれ以上のヌクレオチド鎖長であり、好ましくは、12〜15から20またはそれ以上までのオリゴヌクレオチド鎖長である。
【0057】
「プローブ」とは、標的核酸と特異的にハイブリダイズするように設計されたオリゴヌクレオチドを意味する。ヒトテロメアは、配列5’-TTAGGG-3’の反復を含有するので、テロメアプローブは、特に示されない限り、2またはそれ以上のこのような反復の配列内に含有される配列と同一であるか、または相補的である(すなわち、プローブは、例えば、5’-CCCTAA-3’、(RNAプローブに対しては、5’-CCCUAA-3’)、または5’-CTAACC-3’のような配列を含有する。代表的には、オリゴヌクレオチドプローブは、8またはそれ以上のヌクレオチド鎖長であり、好ましくは、12〜15から20またはそれ以上までのヌクレオチド鎖長である。
【0058】
「増殖能」とは、組織における細胞の、通常の増殖条件下での分裂数(「ヘイフリック」限界)に分裂する本来の能力を意味する。
【0059】
「リボプローブ」とは、リボヌクレオチドからなるプローブを意味する。テロメアリボプローブは、実施例1に記載のように組換え宿主細胞(代表的には、E. coli)における、多くの縦列テロメア反復配列の転写により産生され得る。
【0060】
「サンプル」とは、細胞または細胞抽出物を含む物質の組成物を意味する。本発明の方法は任意のタイプのサンプルに適用され得る。特定の目的のサンプルは、診断分析、または予後分析の目的のために得られた、正常組織サンプルまたは疾患組織サンプル(例えば、腫瘍サンプル)のような細胞サンプルを包含する。診断のために、テロメア鎖長測定は、特定の細胞タイプ、組織の全ての細胞(ここでは、種々の細胞タイプが存在し得る)、または細胞の抽出物(ここで、抽出物とは、全細胞抽出物またはそれらのサブフラクション(例えば、細胞由来の特定の染色体)を指す)について行われ得る。代表的に、しかし全ての場合においてそうではないが、サンプルを処理して細胞におけるテロメアDNAをより接近可能にする。DNAの調製は、任意の種々の方法により達成され得、これは採用されるテロメア鎖長を測定するための方法に依存する。
【0061】
「老化状態」とは、細胞が、正常で適切な複製シグナルの存在下でさえ、複製能力を失っている状態を意味する。
【0062】
「スポット」とは、FISH分析像における特定の蛍光シグナルにより示される面積を意味する;スポットサイズは、テロメアにハイブリダイズしたプローブ量に相当する。
【0063】
「サブテロメアDNA」または「サブテロメア領域」とは、テロメアDNAの縦列テロメア反復のすぐ近接(100bp〜500bpであるが、1kbまでであり得る)に位置する染色体DNAを意味し、そして一般に、不完全テロメア反復または他の可変配列が内部に散在するテロメア反復配列を含有する。
【0064】
「異常染色体のサブテロメア領域」とは、異常染色体のテロメアのすぐ近接(100bp〜500bpであるが、1kbまでであり得る)の染色体DNA、例えば疾患細胞(例えば、α-サラセミア患者において見られるか、または組換えベースの染色体端切断(recombination-based chromosome truncation)(Farrら、88 PNAS 7006、1991)により形成される疾患細胞)由来のテロメア付近の領域を意味する。
【0065】
「テロメアDNA」または「テロメア領域」とは、短い配列の縦列反復配置からなる染色体の末端に位置する染色体DNAを意味する。ヒトにおいて、テロメア領域は、5’-TTAGGG-3’反復および対応する相補配列からなる。異なる生物のテロメア領域は、テロメア反復配列に関して異なる。種々の生物(ヒト、テトラヒメナ、他の菌類、および非ヒト哺乳類を包含する)由来のテロメアのテロメア反復配列は、公知である。例えば、テトラヒメナのテロメアは、配列5’-TTGGGG-3’の反復、および対応する相補配列からなる。結果的に、本発明の方法論を用いて、ヒト起源のサンプルにおけるテロメアのテロメア鎖長を決定する場合、サンプルが、例えば菌類起源である場合使用されるものとは異なるプローブまたはプライマーを使用する。便宜的に、ヒトテロメア領域およびヒトテロメア反復配列は、代表的には例示的な目的のために本明細書中に参照される。この例示的使用は、本発明を限定することを意図せず、かつ本方法が任意の生物由来のテロメアのテロメア鎖長を測定するために使用され得ることを当業者は理解する。
【0066】
「末端制限フラグメント」または「TRF」とは、1つまたはそれ以上の制限酵素(この制限酵素は、テロメア反復配列の縦列配置全体からなる核酸を切断しない)を用いたゲノムDNAの完全消化により生成され、そしてテロメア反復およびサブテロメアDNAの両方を含有する制限フラグメント鎖長(または平均鎖長)を意味する。
【0067】
「テロメアの3’末端」とは、テロメアの単鎖領域を意味する。ヒトにおいて、この領域は、Gリッチな鎖上に立置し、かつ5’-(TTAGGG)n(ここで、nは、代表的には9〜35(ただし、nは35を上回り得るか、または9を下回り得る)である)反復配列からなる。
【0068】
テロメア長を測定するためのプライマー伸長ベースの方法
本発明は、テロメア長を測定する方法を提供する。1つの実施態様において、この方法は次の工程を包含する:
(a)オリゴヌクレオチドリンカーを、長さの尺度を望まれるテロメアに共有結合させる工程;
(b)該リンカーに充分に相補的な配列を含むプライマーを、該プライマーが伸長して該テロメアに相補的なプライマー伸長産物を生成する条件下で、接触させて該リンカーと特異的にハイブリダイズさせる工程;および
(c)テロメア長をプライマー伸長産物のサイズと相関させ、それによりテロメア長の尺度を提供する工程。
【0069】
1つの実施態様において、本方法は、2つの一本鎖RNA分子またはDNA分子を「平滑末端」連結し得るDNAまたはRNAリガーゼの作用により、リンカーが連結される条件下で、テロメアをリンカーと接触させる工程を含む。本方法はまた、二本鎖リンカーを使用して用いられ得る。あるいは、このリンカーをターミナルトランスフェラーゼおよび特定のdNTP(dCTP, dTTP, dGTPまたはdATP、付加される配列に依存する)によって、1ヌクレオチドずつ付着し得る。ターミナルトランスフェラーゼは、特定のdNTPの複数のモノマーをテロメアの3’末端に付加し得る;次いで付加されたヌクレオチドは、プライマーのアニーリング部位として働き得る。
【0070】
リンカーの配列に連続して相補的なオリゴヌクレオチドは、複製工程においてプライマーとして使用される。このオリゴヌクレオチドは、「正方向プライマー」と称される。この正方向プライマーに加えて、好適には第2のプライマーを用い得る。テロメア配列は、例えば、上記リンカー配列に対して特異的な第1のプライマーおよび染色体のサブテロメア領域に対して特異的な第2のプライマーを用いるPCR増幅により複製または増幅される。これらのプライマーは、プライマー伸長が生じるためにテロメア領域の存在を必要とする任意の手段により伸長され得る;好適な手段は、テンプレート依存性DNAまたはRNAポリメラーゼ、テンプレート依存性DNAまたはRNAリガーゼ、あるいはこれら2つの組み合わせにより媒介される。サンプル中のテロメア核酸は、リンカーと共有結合し、そしてそのリンカーに相補的なプライマーおよび/またはサブテロメアプライマーは、DNAまたはRNAポリメラーゼあるいはDNAリガーゼのいずれかに対する基質を提供し、テロメア領域に相補的なプライマー伸長産物を産生する。
【0071】
上述のように、プライマー伸長試薬がDNAポリメラーゼであり、そして第2のプライマーが存在する場合、適切な緩衝液およびヌクレオシド三リン酸が反応混合物中に存在すればPCR(米国特許第4,683,195号;第4,683,202号;および第4,965,188号により十分記載されているプロセス)に必要な成分がそろう。Taqポリメラーゼ(Perkin-Elmerから入手可能)は、PCR増幅に好適なポリメラーゼである。しかし、他のポリメラーゼ、特に熱安定性ポリメラーゼを用い得る。Taqポリメラーゼは、プライマー伸長においてヌクレオチドを取り込み違いし得る。取り込み違いが問題である場合、および代表的には、取り込み違いが非常に低頻度なので増幅産物がかなり長くならない限りは問題にならない場合、取り込み違いがより低頻度である別のポリメラーゼ(すなわち、Pfu、PwoまたはVent)を用い得るか、あるいはそのようなポリメラーゼの混合物(すなわち、比の範囲が100:1〜10:1のTaqポリメラーゼ/Vent DNAポリメラーゼ)を用い得る。ポリメラーゼまたはポリメラーゼ混合物の適切な選択は、プライマー伸長産物の最適な伸長を提供し得る。
【0072】
一旦プライマー伸長産物が生成すると、テロメア領域由来のプライマー伸長産物を分離または変性し得る(代表的には、熱変性によるが、他の方法(すなわち、ヘリカーゼに媒介される変性のような、酵素または化学的に媒介されるプロセス)を用い得る)。さらなるプライマーおよびプライマー伸長試薬がサンプル中に存在する場合、新たなプライマー/テロメア複合体が生成し、これはさらなるプライマー伸長産物の産生を導く。プライマー伸長および変性のプロセスを、数回から多数回、望ましいように、繰り返し得る。代表的には、伸長されたプライマー/テロメア複合体のプライマー伸長および変性を、少なくとも5、10、15、20から30回以上行う。さらに、伸長されたプライマーのサブテロメア領域に相補的な第2のプライマーが反応混合物中に存在する場合、複製産物(伸長されたプライマーおよび相補的な伸長された配列の両方)を劇的に増加させ得る。なぜなら、2つのプライマーはテロメアのPCR増幅を媒介するからである。
【0073】
PCRサイクルは、サンプル、検出方式、および用途に応じて、広く変化し得るサイクル時間およびサイクル温度から構成される。代表的には、長いPCR反応条件を用いる。最も単純なPCRサイクルは、プライマーのアニーリングおよび伸長工程後の、二重鎖核酸の変性工程を含む。変性工程は、代表的には、 DNAを変性するが損傷しない十分な量の時間、比較的広範囲の任意の温度で加熱する工程を含む。同様の様式で、プライマーのアニーリング工程の時間および温度は、反応緩衝液、ならびにプライマー配列、プライマー濃度、プライマー組成、および実行者が必要とする特異性に依存する。プライマー伸長工程の時間および温度は、用いられるDNAポリメラーゼまたはリガーゼのタイプに依存する。当業者は、本発明が、用いられ得る緩衝液および他の反応成分中の、時間、温度、および反応条件の変化によって限定されないことを認識し、そして理解する。
【0074】
本実施態様で使用される第2のプライマーは、サブテロメア領域に相補的な配列を含むプライマーであり、「サブテロメアプライマー」と呼ばれる。図1は、本方法を例示し、P1はサブテロメアプライマー、P2は正方向プライマーを示す。そしてジグザグの線は、サブテロメア領域とテロメアの接合部を示す(図は、大きさにそって描かれていない)。この図において、テロメアはヒトテロメアであり、従ってヒトテロメア反復配列5’-TTAGGG-3’および相補的な反復配列を含む。図1において右に傾いた太斜線(heavy right angled slashed line)により示されている領域は、サブテロメアプライマーに相補的なサブテロメア領域を表す。好ましくは、サブテロメアプライマーはテロメア反復配列を含まず、従ってそれはサブテロメア領域の非テロメア反復配列である。好ましくは、サブテロメアプライマーは、テロメア領域との接合部の50塩基対内のサブテロメア領域とアニールする。プライマーのアニーリングおよび伸長の複数サイクルにおけるこれらのプライマーの伸長は、テロメア領域の複数の複製を産生することによりテロメア領域を増幅する。
【0075】
プライマー伸長産物がPCRによって生じる場合、上述したように、サブテロメア領域に特異的なプライマーも用いられる。このプライマーは部位特異的であり、好ましくは、染色体特異的プライマーである。このサブテロメアプライマーは、サブテロメア領域中の配列に相補的である。この配列は、目的の細胞または細胞集団の少なくとも1つの染色体に存在するが、必要に応じて2つ以上、最高、目的の細胞または細胞集団のすべての染色体に存在する。多くの異なる染色体のサブテロメア領域が、当該分野で公知である。正常および異常染色体のさらなるサブテロメア領域は、当該分野に公知のクローニングおよび配列決定手順を用いて決定され得る。
【0076】
正常染色体のサブテロメア領域に特異的なプライマーは、これまで公開されていなかった染色体7qに特異的なTelBam 8プローブ配列に基づく新規なプライマー、例えばTEL8-1(5’-TGCAATTATTTTACTATCTGTTATCGG-3’)(配列番号1);およびTEL8-2(5’-TGACCTGTTTTAAAGAGTATGCTCAG-3’)(配列番号2)を包含する。TelBam 8プローブ配列の全てまたは一部分を含む核酸は、Brownら、63 Cell 119, 1990に記載されているようにクローン化され得る。
【0077】
他の例示されたサブテロメアプライマーは、以下のプライマーを包含する:XpJCTN, 5’-CCCTCTGAAAGTGGACCWATCAG-3’(配列番号3)、ここでXpJCTNは2つのプライマーの混合物であって、そのうちの一方においてWはAであり、他方ではWはTである; 40BPXpJCTN, 5’-CTTTTATTCTCTAATCTGCTCCC-3’(配列番号4); 400BPXpJCTN, 5’-TAGGGGTTGTCTCAGGGTCCTA-3’ (配列番号5); REV40BPXpJCTN, 5’-GGGAGCAGATTAGAGAATAAAAG-3’ (配列番号6); revXpJCTN, 5’-CTGATWGGTCCACTTTCAGAGGG-3’(配列番号7)、これらはXおよびY染色体の偽常染色体領域中の配列に基づいている(Bairdら、14 The EMBO Journal 5433, 1995)。
【0078】
リンカーを染色体の3’末端に付着させ、そしてリンカーに特異的な正方向プライマーおよび染色体のサブテロメア領域に相補的なプライマー(例えば、TelBam 8プローブの配列またはXおよびY染色体の偽常染色体領域の配列のようなサブテロメア配列を組み込むプライマー)を用いることにより、PCR増幅は、テロメア領域の複数のコピーまたは複製を生じ得、次いでこれらはテロメア長の測定に用いられ得る。PCRプライマー伸長産物は、例えば、ゲル上のサイズによって分離される。増幅産物が、例えば、標識ヌクレオチドの組み込みまたは標識プローブへのハイブリダイゼーションによって標識される場合、サイズスタンダードを用いて、テロメア長を決定し得る。標識ヌクレオチドの増幅産物への直接組み込みは、代表的には、従来のプローブをベースとする方法で行われる、ゲル中でDNAを変性する工程、ゲルを中和する工程、ゲルを乾燥する工程、プローブをゲルにハイブリダイズさせる工程、ゲルから非結合プローブを除去する工程、およびゲルを曝露する工程を包含する工程を削除し得る。完結するのに約1週間を要し得る従来の方法に対して、テロメア長を測定するためのPCRベースの方法は、迅速、正確、高感度であり、そして実行するためのサンプルも著しく少量で済む。
【0079】
この方法の好適な実施態様において、リンカーは二本鎖オリゴヌクレオチドであり、そしてテロメアDNAは、リンカーの付着の前に処理されて、一本鎖領域を除去または充填される。本実施態様において、実施例4に例示するように、このDNAはヌクレアーゼ(すなわち、Bal31、Mung bean、または他のヌクレアーゼ)および/または、T4もしくはPfuのようなDNAポリメラーゼ(これらのポリメラーゼは、5’から3’へのポリメラーゼ活性と共に、3’から5’へのエキソヌクレアーゼ活性も有する)で処理され、二本鎖リンカーの連結に先だって、平滑末端二本鎖テロメア末端を生じる。
【0080】
当業者は、任意の二本鎖リンカーが、このリンカー配列がテロメア反復配列と異なる限り用いられ得ることを認識するが、特に好適な二本鎖リンカーは、下記に示す相補的な一本鎖オリゴヌクレオチドSLIC-IIおよびaSLIC(Edwardsら、19 Nucl. Acids Res. 5227、1991を参照のこと)から構成される。
【0081】
【数1】

SLIC-IIオリゴヌクレオチドの5’末端は、5’-リン酸で終結するように構築され得、一方、このオリゴヌクレオチドの3’末端は、リンカーが別のリンカーと連結するの防ぐために、末端2’,3’-ジデオキシアデノシン基で構築され得る。同様に、相補的なaSLICオリゴヌクレオチドは、別のリンカーとの連結を防ぐために、その3’末端が2’,3’-ジデオキシシチジンで終結するよう構築され得る。このように構築されたaSLICへのSLIC-IIのハイブリダイゼーションにより形成される二本鎖オリゴヌクレオチドは、自己連結し得ない。
【0082】
SLIC-IIがaSLICにハイブリダイズすることによって形成される二本鎖オリゴヌクレオチドリンカーもまた、クローニングまたは他の適用を容易にするために制限部位を含む。この二本鎖オリゴヌクレオチドリンカーは、リガーゼ(すなわち、T4 DNAリガーゼまたは他のリガーゼ)を用いて平滑テロメア3’末端に連結され得る。SLIC-IIに相補的なプライマー(例えばaSLIC、5’-CCGTCGACCAGAATTCC-3’(配列番号10)または 5’-CAGGATCCGTCGACCAG-3’(配列番号11))は、所望のプライマー伸長産物を生成するために使用され得る。上述したように、伸長のための第2のサブテロメアプライマーの使用は、テロメア領域のPCR増幅のための方法を提供する。既知の長さのスタンダードとの比較のための、ゲル上でのサイズによるPCR増幅プライマー伸長産物の分離およびその産物の視覚化は、サンプル中のDNAテロメア長を提供する。
【0083】
本発明のPCRベースの実施態様はかなり有用であるが、本方法は、下記のように、標的増幅を提供する任意のプライマー伸長方法を使用し、もしくはシグナル増幅を提供する方法を用いて、またはその両方を用いて行われ得る。さらに、標的増幅は、PCR以外の手段によって達成され得る。これらの方法は、リガーゼ連鎖反応(Barany, 88 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 189, 1991)、核酸配列ベースの増幅(Compton, 350 Nature 91, 1991)、自立(self-sustained)配列複製(Guatelliら、87, Proc. Natl.Acad. Sci. USA 1874, 1990)、および鎖置換増幅(Walkerら、89 Proc. Natl.Acad. Sci. USA 392, 1992)を包含する。PCRおよび他の増幅方法は、プライマー伸長産物の指数関数的蓄積を提供する。一方、プライマー伸長産物の線形蓄積でさえ、有用な結果を提供し得る。従って、下記で詳細に記述するように、1つのプライマーを用い、単に、この1つのプライマーからテロメア領域の多くのコピーが作られ得る。
【0084】
本発明は、線形増幅の使用によりテロメア長を測定する方法を提供する。本方法は、ヒトテロメア反復配列が、Cリッチな鎖においてグアニジン残基を欠くという事実を利用する;しかし、この方法は、一般的には、1つ以上のヌクレオチドを欠く反復配列を含む任意の起源のテロメアに適用可能である。本実施態様では、共有結合したリンカーに相補的なプライマーを、4つのヌクレオシド三リン酸のうちの3つのみ(ヒトテロメアについては、dATP、dTTP、およびdCTP)の存在下でゲノムテロメアDNAに添加する。これらの3つのdNTPは、ヒトテロメアのGリッチな鎖の相補体を形成する。通常、プライマーまたは少なくとも1つのこれら三リン酸は、検出可能な標識(例えば、放射性同位体または蛍光分子)によって標識され、その標識は、プライマー伸長産物への組み込みの際に保持される。
【0085】
プライマーは、プライマー伸長試薬(例えば、DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメント、T7 DNAポリメラーゼ、あるいはTaq DNAポリメラーゼまたはこのStoffelフラグメントのようなDNAポリメラーゼ)により伸長される。dGTPの排除は、染色体の最初のCヌクレオチドでのプライマー伸長の終結を生じる。従って、テロメアおよび/またはサブテロメア領域の外側に位置するプライマーに相補的な配列は、dGTPの欠如のためにプライマー伸長産物に対するテンプレートとして働かない。プライマー伸長の繰り返しサイクル後のテロメアDNA由来のプライマー伸長産物の変性は、テロメア領域の1本の鎖(ヒト染色体については、Gリッチな鎖)の複数のコピーまたは複製の生成を生じる。多くの目的のために、組み込まれた標識の簡単な尺度はテロメア長を定量するのに十分であるが、また、ゲル電気泳動および既知の長さのスタンダードとの比較によって、直接的にその長さを測定し得る。
【0086】
好適な実施態様において、アニールされたプライマーは、ポリメラーゼによって、ジデオキシGTP(ddGTP)、dCTP、dATP、およびdTTPの混合物の存在下で伸長される(ヒトテロメアーゼについて)。本方法は、反応混合物から1つ以上のヌクレオチドを省く代わりに、さもなければ存在しない(missing)ヌクレオチドに代えて鎖終結ヌクレオチドを用いる点で前記の実施態様とは異なる。重合は、ポリメラーゼがサブテロメア領域中の最初のシトシン残基(ヒトについて)に遭遇するまで進行する。次いで、この酵素はddGTPヌクレオチドを組み込み、そしてさらなる伸長はddGTPの存在のために終結される。このプライマー伸長反応は、所望するだけ、何回でも繰り返され得る。伸長されるDNAの長さは、上述したように、ゲル電気泳動およびスタンダードとの比較によって決定され得る。さらに、合成されたDNAの量は、テロメア長に正比例する、プライマー伸長産物に組み込まれた標識またはプライマー伸長産物にハイブリダイズされるプローブの量を測定することにより決定され得る。プライマー伸長サイズの決定方法は、選択された分析方法に依存して変わり得るが、記載される任意の方法が用いられ得る。
【0087】
本方法の別の実施態様において、サブテロメアプライマーの使用により生成した直鎖の伸長産物は、テロメア長の尺度を提供するために役に立つ。本実施態様は、リンカーをテロメアの3’末端に連結するか、さもなければ共有結合させる必要性を排除する。上述したように、本実施態様は、テロメア領域の複数コピーを生じる線形増幅に、理想的に適している。
【0088】
選択されたサブテロメアプライマーがサブテロメア領域に特異的または独特でない場合、サブテロメア領域から生じるプライマー伸長産物は、テロメア領域またはテロメア反復配列に直ぐ隣接する領域に特異的なプローブにハイブリダイズすることにより、染色体内領域から生じる産物と区別され得る。あるいは、サブテロメアプライマーがサブテロメア領域内の複数の部位にハイブリダイズする場合、テロメア反復配列に直ぐ隣接する領域に特異的なプライマーをハイブリダイズさせ得る。そしてこの第2のサブテロメアプライマーは、第1のプライマー伸長産物にアニールされ、DNAポリメラーゼを用いて伸長され得、そして第2のプライマー伸長産物のサイズを上述のように決定して第1のプライマー伸長産物中のサブテロメア長の尺度を提供する。
【0089】
ジデオキシヌクレオチドのような鎖終結合成ヌクレオチドの使用を含む本発明の別の実施態様は、テロメアの3’末端にリンカーを共有結合させる必要性を排除する。本方法は、以下の工程を包含する:
(a)サンプル中の二本鎖染色体DNAを、テロメアの3’末端に十分相補的である配列を有するプライマーと接触させ、ヌクレオチドとジデオキシヌクレオチドとの混合物の存在下、上記プライマーが伸長してジデオキシヌクレオチドで終結するプライマー伸長産物を生成する条件下で、上記プライマーとハイブリダイズさせる工程;および
(b)テロメア長をプライマー伸長産物のサイズと相関させてテロメア長の尺度を提供する工程。
【0090】
上記したように、本発明は、リンカーをベースとする方法の変形として用いられ得る。ここで、プライマーはテロメアの3’末端に付加されるリンカーに相補的であるが、好適な実施態様では、リンカーは必要でない。本実施態様において、テロメアの3’側一本鎖領域に相補的なオリゴヌクレオチド配列(すなわち 5’-(CCCTAA)4-3’(配列番号12))は、テロメアDNAの末端にアニールされる。アニールされたプライマーは、ポリメラーゼによって、ジデオキシGTP(ddGTP)、dCTP、dATP、とdTTPとの混合物の存在下で伸長される(ヒトテロメアについて)。好適な実施態様において、これらのヌクレオチドの1つは標識される(代表的には、標識ヌクレオチド、特に放射性標識ヌクレオチドの組み込みを含む任意の方法で、全ヌクレオチドの少量(small fraction)だけが標識され、従ってこの標識ヌクレオチドは「トレーサー」と呼ばれる)。重合は、上述したように、ポリメラーゼが、サブテロメア領域中の最初のシトシン残基に遭遇するまで進行する。次いで、このDNAは変性され、ゲル上でサイズによって分離される。標識ヌクレオチドの組み込みは、ゲル上での伸長産物の長さの容易な同定、およびテロメア長とシグナル強度との直接相関を提供する。しかし、標識プローブを使用して、プライマー伸長産物を検出することも可能である。
【0091】
本方法のさらに好適な実施態様において、ゲノムDNAは、しばしばDNAを切断するがテロメアDNAは切断しない制限酵素(すなわち、ヒト染色体については、HinfI)または比較的短い認識配列を有する任意の他の制限酵素を用いて断片化され、続いて、プライマーの付加に先だってddGTP、dCTP、dATPおよびdTTPの存在下、ポリメラーゼ(すなわち、DNAポリメラーゼIまたはそのKlenowフラグメント、TaqポリメラーゼまたはそのStoffelフラグメント)で処理される。この処理は、ゲノムDNA中のニックおよびギャップを充填し、ddGTPチェーンターミネーターを用いてゲノムDNA中のいずれの潜在的なプライム部位(priming site)をもブロックする。ギャップおよびニックを充填するためのDNAの前処理は感度の増大およびバックグラウンドシグナルの減少を生じ得る。次いでテロメアの3’側一本鎖領域に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーは、テロメアDNA末端に添加され、そしてアニールされ、そして上記のように伸長される。前述したように、テロメア長は、プライマー伸長産物のサイズとの相関によって決定される。
【0092】
前述の方法は、テロメア長を測定するためのプライマーの使用およびプライマー伸長産物の検出を包含する。以下の2つの節ではテロメア長を測定するためにプローブを使用する方法を記述する。
【0093】
テロメア長を測定するためのプローブベースの方法
本発明の他の局面において、標識プローブを使用して、テロメア長を測定する。この方法は、以下の工程を包含する:
(a)変性した染色体DNAを、テロメア反復配列に相補的な配列を有する標識プローブと、該プローブがテロメアDNAに特異的にハイブリダイズする条件下で、接触させる工程;
(b)結合したプローブの量を測定する工程;および
(c)前記の測定された結合プローブ量とテロメア長とを相関させる工程。
これらのプローブベースの方法において、プローブを過剰に添加する。その結果、テロメア内におけるテロメア反復のすべて、または実質的にそのすべては、プローブにハイブリダイズする。代表的には、相関工程は、既知の長さのスタンダードの使用、または結合したプローブ量をテロメア長の尺度に変換する変換ファクターの使用を包含する。
【0094】
本発明のこの局面は、オリゴヌクレオチドプローブがテロメア反復配列にハイブリダイズする、テロメア長を測定するための方法を提供する。ハイブリダイズしたプローブの量を測定し、次いでテロメア長の尺度を得るために相関させる。この方法は、他の方法で用いられるゲルに基づくサイズ分離工程を用いることなく実施され得る。従って、本発明のこの局面は、テロメア長を測定するための、迅速で、多処理(high through-put)の方法を提供する。
【0095】
好ましい実施態様において、この方法は、細胞のDNA抽出物を調製する工程、抽出物とテロメア反復配列に相補的なオリゴヌクレオチドプローブとをインキュベートする工程、およびテロメア長の尺度として結合したプローブ量を測定する工程を包含する。簡便には、細胞は、24、48、または96ウェルマイクロタイタープレートにおいて増殖され得る。
【0096】
この方法を実施するために、各ウェルからの細胞を集め、そしてDNAを標準的なDNA抽出手順により単離する。DNA抽出溶液をDNA結合フィルター(例えば、ニトロセルロースまたはBiodyne Bメンブラン)に通し、潜在的に妨害し得る他の物質を除去し得る。次いで、フィルターを、テロメア反復配列に相補的な配列を有する標識オリゴヌクレオチドプローブと接触させる。非結合プローブを除去した後、次いでフィルターに結合したプローブ量を定量し、そして結合したプローブ量より、テロメア長の尺度が得られる。この方法(ドットブロット法と呼ばれる)を、以下の実施例1に例示する。他の実施態様に関するように、テロメアの既知の長さのスタンダードは、結合プローブからのシグナルとテロメア長とを相関させることを補助するために使用し得る。好ましい実施態様において、この方法は、24、48、または96ウェルテストプレートにおいて実施され、そして自動化される。好ましくは、Pall SILENT MONITORTM 96ウェルテストプレート(0.4μM Biodyne Bメンブランが各ウェルの底部に位置する)を使用する。
【0097】
他の実施態様において、本発明は、ゲノム(染色体)DNAが、スロットブロッットと呼ばれる改変されたドットブロット法を用いて固相に結合する、テロメア長を測定する方法を提供する。本発明のこの局面を、実施例2において例示する。スロットブロットは、Kafatosら、7 Nucl. Acid. Res. 1541, 1979に異なる適用のために記載され、そして混合物中の核酸の相対濃度を測定するために用いられている。異なるDNAのメンブランへの架橋工程および独特の濾過装置は、本方法を上記のドットブロット法から区別する。本発明のこの実施態様において、核酸(すなわち、ゲノムDNA)のサンプルを、ニトロセルロースフィルター(例えば、Schleicher & Schuellニトロセルロースフィルター)上にスポットし、UV照射を用いてニトロセルロースフィルターに架橋する。そして、フィルター上の核酸を、標識オリゴヌクレオチドプローブでハイブリダイズする。代表的には、ゲノムDNAを剪断するか、またはより小さいフラグメントに切断した後、固相に結合する。ゲノムDNAを、酵素的または機械的に、すなわち、制限エンドヌクレアーゼ、超音波処理、または当該分野で公知の方法で切断または剪断する。好ましい方法において、切断DNAを、リボプローブでプローブする。各スロット中の核酸にハイブリダイズしたプローブ量を定量し、そして定量した量を、テロメア長と、例えば、スタンダードに対する比較により相関させる。
【0098】
他の実施態様において、テロメア長を測定するために、染色体の末端から特異的にDNAを分解する既知量のエキソヌクレアーゼでのゲノムDNAの処理後に観測される結合プローブの喪失またはその減少が観測される。好ましいエキソヌクレアーゼは、Bal31である。これは、DNAの末端(例えば、テロメアの末端)から特異的に1本鎖または2本鎖DNAを消化するエキソヌクレアーゼである。Bal31の消化速度は、約50bp/分である。従って、染色体DNAをBal31で消化する場合、テロメアに対する内部DNAは最後に消化されるが、テロメアDNAは最初に消化される。この方法は、プレートの各ウェルの底部に位置するDNA結合メンブラン(すなわち、ニトロセルロース)上にBal31酵素をスポット(すなわち、連続希釈)し、ゲノムDNAをメンブランに結合し、ヌクレアーゼ酵素が特定の時間の間活性である条件下でインキュベートし、酵素およびDNAを変性し、そしてハイブリダイズする条件下で残存DNAをテロメアプローブ(すなわち、ヒトについては、5’-TTAGGG-3’反復を含有するプローブ)にハイブリダイズさせることにより、簡便に実施され得る。ハイブリダイゼーションのプローブ量(これは、Bal31濃度または反応時間の増加とともに減少させるべきである)を用いて、再度テロメア長を測定し得る。好ましくは、この方法は、マルチウェル(すなわち、96ウェル)形式で実施され得、そしてより好ましくは自動化され得る。所望すれば、既知の長さのテロメアまたは既知の長さのテロメアを含有する細胞を、スタンダードとして使用し得る。
【0099】
全細胞でのテロメア長の測定
本発明のこの方法は、全細胞、ならびに細胞抽出物に適用され得る。1つの実施態様において、全細胞を、固体支持体または固体表面に付着させ;細胞を透過性にさせ;細胞内DNAを変性させ;そして標識テロメアプローブ(または、標識プローブの混合物)を添加して、変性DNAにおけるテロメアの反復にハイブリダイズさせる。好ましい実施態様において、フルオレセインタグ、および下記の「アンチフェード(antifade)」薬剤を用いる。そしてこの「蛍光インサイチュウハイブリダイゼーション」(FISH)の結果を、共焦点顕微鏡を用いて分析する。Traskら、91 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 9857, 1979(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。
【0100】
好ましい実施態様において、この方法を用いて、分裂中期展開(metaphase spread)における染色体のテロメア長を測定する。染色体を、染色体色素(例えば、DAPI/DA)で染色または標識する;スライドを、好ましくは、アンチフェード固定液(例えば、9:1グリセロール:0.5M炭酸塩/重炭酸塩緩衝液でpH 8.0に緩衝化した0.1% p-フェニレンジアミン含有PBS)を用いて調製する。蛍光シグナルを、好ましくは増幅する。結果を、倒立型蛍光顕微鏡と一緒の画像生成機(image generator)で分析する。
【0101】
細胞のFISH分析または細胞の中期分裂展開のFISH分析は、種々の目的のために使用され得る:組織サンプル中の細胞における平均的相対的テロメア長を測定すること;サンプル中の細胞における最長のテロメア長を測定すること;特定のタイプの細胞を検出すること、すなわち、特定の幹細胞はそのテロメア長により同定され得る;サンプル中のテロメア長のサイズ分布を測定すること;薬剤を用いた処理もしくは特定の条件に曝している期間中、またはその後の細胞集団におけるテロメア長の変化を測定すること;そして組織内の異なる細胞型を検出すること、すなわち、ガン細胞は、正常細胞(例えば、腫瘍細胞に隣接する細胞)において見出される長さより異なる長さのテロメアを有する細胞により同定され得る。
【0102】
シグナル積分を用いる共焦点顕微鏡での定量的FISH分析はまた、異なる染色体上のテロメア長の分布の客観的測定を可能にするか、または異常な細胞の存在を示す、重大な量のテロメアDNAを喪失した染色体の同定を可能にする。この方法は、比較的少量のサンプルのみを必要とし、そして染色体単位(chromosome-by-chromosome)および細胞単位(cell-by-cell)に基づくテロメア長の直接測定を可能にする。染色体または細胞あたりの結合プローブからのシグナル強度は、テロメア反復の数、従ってテロメア長に比例する。本方法はまた、細胞または組織サンプル中のテロメアの異質性を調査する手段を提供する;このような情報は、サンプルにおけるテロメラーゼ活性の存在またはその量に関する情報と組み合わせられる場合、特に有用であり得る(Harleyら、PCT公開第95/13381号、1995年5月18日公開)。
【0103】
インサイチュウハイブリダイゼーションの多くの変法が、本発明の方法において適用され得る。例えば、インサイチュウハイブリダイゼーション検出法の変法は、プライムド(primed)インサイチュウ標識(「PRINS」;Koch, J, 「非放射性インサイチュウハイブリダイゼーション適用マニュアル」(1992), Boehringer Mannheim, 31-33)を含む。この方法はプライマーの使用を含むが、理解を容易にするためにこの節で説明する。PRINSによるテロメア反復の検出は、テロメア反復に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーの使用および標識ヌクレオチドを取り込む連鎖伸長を含む。代表的なプロトコルでは、5%(v/v)グリセロール;10mM Tris-HCl, pH 8.3;100mM KCl;0.05%(w/v) Tween 20;0.75mM EGTA;2.5mM MgCl;0.4μMリターン(return)プライマー;200μM dATP, dGTP, dCTP;110μM dTTP;90mM標識dUTPのPRINS反応混合物(10μl)を、固定した透過性にしたサンプル上に置き、カバースリップでシールし、マニキュア用エナメルで固定し、ミネラルオイルで重層し、そして70℃で30分〜3時間インキュベートする。PRINSの終了後、サンプルを、70℃に加熱した洗浄緩衝液(0.6M NaClおよび0.06Mクエン酸ナトリウム(4×SSC);0.05% Tween 20)で2分間3回洗浄する。そして上記のようにシグナルを測定する。プライマー伸長の間の蛍光標識の直接取り込みから生じ得るバックグラウンドシグナルを減少させるために、非標識dNTPsおよび非標識プライマーを使用する間接検出が使用され得る。そして生成物は、標識プローブを用いて検出され得る。
【0104】
さらなる好ましい実施態様において、本方法は、テロメア長を測定すると同時に、細胞のDNA含有量の測定を可能にする。細胞のDNA含有量は、細胞が増殖しているか、または老化しているかを示し得る。細胞が増殖しているならば、染色体DNA含有量は2倍まで増加し得る。従って、短いテロメアを有する急速増殖細胞についての結合したテロメアプローブのシグナル強度は、より長いテロメアを有する非分裂細胞のシグナル強度に等しいかそれより強くあり得る。従って、本方法は、DNA含有量に関して、テロメアプローブの測定されるシグナル強度を規格化するために有用であり得る。本方法は、細胞または分裂中期展開物を支持体に付着させる工程;細胞DNAを変性させる工程;染色体DNAを標識テロメアプローブおよびDNA特異的色素と接触させる工程;変性DNAをプローブとハイブリダイズさせる工程;およびハイブリダイズしたプローブ量およびフローサイトメトリーを用いて同時に細胞のDNA含有量を測定する工程、を包含する。本方法は、細胞周期の位置ならびにテロメア長の測定を可能にする。染色体または細胞あたりの結合したプローブからのシグナル強度は、テロメア反復の数、従ってテロメア長に比例する。本方法の利点の1つは、次いで細胞が、テロメア長に基づいて、例えば、フローサイトメーター(Coulter EPICS ELITE蛍光活性化細胞選別機(FACS))を用いて選別され得ることである。この装置は、テロメア長に基づく特定のチューブに細胞を偏向させるためにプログラムされ得る。
【0105】
上記のように、本発明は、個々の染色体のテロメア長の測定を提供する。フローサイトメトリーは、この分析を容易にする。蛍光色素(例えば、クロモマイシン(chromomycin)A3(比較的GC特異性を有するより大きなまたはより小さい溝結合色素)およびビスベンズイミド33242(比較的AT特異性を有する溝結合色素))とテロメア領域にハイブリダイズするプローブと一緒の組合せを用いて、テロメア長により、単離された分裂中期染色体の分析および選別を行うためのフローサイトメーターに供し得る。染色体を標識して、個々の染色体テロメア長の直接測定を行い得、そして3レーザーのフローサイトメーターを用いて連続的に選別され得る。測定は、フローサイトメトリー分析を用いて各染色体個々の蛍光強度を定量化することによってなされる。あるいは、同時3色染色法(この方法では、染色体を、調製し、選別し、そしてその後、溶液中でハイブリダイズする)は、個々の染色体のテロメア長分析に適用され得る。
【0106】
本発明のこの方法は、迅速に実施され得、そして増加した感度、効率、信頼性および正確性を提供し得る。さらに、テロメア長測定のためのこれらの方法は、多処理および/または自動化プロセス形式で実施され得る。これらのテロメア長測定法は、診断、予後、および研究適用のために使用され得る。
【0107】
適用
テロメア長の測定は、医学的診断、予後、および治療において有用な適用を有する。このような適用は、以下を包含するがそれに限定されない:(i)細胞の増殖寿命の決定;(ii)テロメア長を伸長、維持、または短縮(reducing)し得る薬剤の有効性の同定および分析;(iii)疾患または特定の医学的状態を有しない個体と比較して、または患者の異なるテロメア長により特徴づけられる疾患または医学的状態の診断;(iv)テロメア長に関連した疾患または医学的状態の予後;および(V)細胞、細胞型、または細胞集団の同定。一般的にテロメア長の測定は、様々な有用な目的のために細胞寿命を評価およびモニターするための強力な手段を提供する。
【0108】
細胞内染色体のテロメアの長さは、細胞の増殖能力を示し、そして個体またはそのような細胞を含有する生物の健康の指標を提供する。個体内で特定の細胞集団は、他の細胞よりも速い速度でテロメアを失い得る。それらの細胞の迅速なおよび/または延長した増殖は、その細胞集団を年齢制限(age-limited)するかまたは老化させ得、その細胞集団に依存して、健康についてのネガティブな影響を個体に与える。本明細書に記載する診断手順は、任意の細胞型の潜在寿命を指示するため、ならびに経時的なテロメアの喪失を追跡するために使用され得、従って、寿命の修正された推定値を経時的に作成し得る。
【0109】
テロメア長の測定は、細胞の増殖寿命を延長および/または短縮する様々な治療の有効性をモニターするために使用され得る。一例において、テロメア配列を含有するオリゴヌクレオチドで処置した細胞は、テロメアの喪失速度の低下を有し、および約10の集団倍加の増加した増殖能力を有した。逆に、AZTまたは他のテロメラーゼの小有機分子インヒビターでの細胞の処理は、テロメアの喪失を増加し得、そして処理した細胞の増殖能力を低下させ得る。テロメア長の測定は、細胞に対するこのような薬剤の効力の分析を容易にする。米国特許第5,489,508号(1996年2月2日発行)を参照のこと。
【0110】
テロメア長の測定はまた、処置期間のガン化学療法の有効性をモニターすることにも使用され得る。テロメア長の測定は、テロメラーゼインヒビターまたはテロメラーゼ発現を抑制する他の薬剤(すなわち、レチノイド)の有効性を決定するための手段を提供する。なぜなら、テロメア長は、テロメラーゼまたはテロメラーゼ発現の阻害が存在する分裂中のガン細胞では、経時的に減少するからである。腫瘍細胞内の染色体のテロメア長の測定は、テロメラーゼインヒビターまたはテロメア長に影響を与える他の処置物の投与前および投与後の、そのような細胞の増殖能力に関する情報を提供し得る。関連する適用において、骨髄移植における使用の前に、CD34+細胞のような造血幹細胞(HSC)におけるテロメアのテロメア長を測定し得る。テロメア長が長くなるほど、細胞は首尾良く移植されるようである。
【0111】
本発明の方法はまた、一般的に、テロメア長を調節する薬剤の発見にも有用である。細胞は、特定の染色体のテロメア長およびテロメアの維持に対するこのようなテスト薬剤の効果を決定するために、培養の間、テスト薬剤(例えば、合成化合物、発酵抽出物、核酸調製物、および他の薬剤)で処理され得る。
【0112】
本発明の診断的適用において、テロメア長の測定により、テロメア長の変化および/またはテロメアの喪失速度が検出され得る。組織は異なった増殖能力を持つ細胞の範囲を有し得る。組織の平均テロメア長は、一般的に、組織の状態の情報となる。テロメア長の経時的な複数の測定は、経時的なテロメア長の変化速度を決定するために使用され得る。
【0113】
さらに、本発明のテロメア長の測定方法は、異常な染色体の存在を診断するために使用され得る。αサラセミア患者の細胞由来の第6染色体のような、異常染色体の既知のサブテロメア領域に特異的なプライマーを用いる場合、本発明のプライマーベースの方法が、そのような細胞に関連した疾患状態を診断するために使用され得る。そのプライマー伸長産物の存在は、疾患状態を示す異常染色体の存在を示す。
【0114】
本発明の予後的適用においては、テロメア長の測定は、肝硬変または筋ジストロフィーのような細胞性疾患が、患者の回復能に強い影響を与えるような疾患組織の増殖能力に影響を与えるかどうかを検出し得る。外科的処置、創傷、火傷などの、組織への傷害に関与するような他の状況では、細胞(例えば、線維芽細胞)が再生する能力は重要であり、そしてテロメア長、増殖能力の機能はこのような情報を提供する。同様に、骨損失、変形性関節症、または骨の再形成を必要とする他の疾患の場合、骨芽細胞および軟骨細胞の再生能力または増殖能力は重要であり、そしてまた、テロメア長は増殖能力の指標を提供する。細胞性疾患に加えて、加齢関連性疾患は本法を用いて診断され得る。これらの適用において、テロメア長は増殖能力の指標を提供する。なぜなら、細胞のテロメアが長いほど、細胞が保有する潜在的な複製能力は大きいからである。
【0115】
様々な疾患および疾患状態は、テロメア長の測定による診断的および予後的評価に従う。例えば、年齢が適合する正常な個体と比較して、加齢が加速するハッチンソン・ギルフォード症候群(早老症)の患者由来の線維芽細胞では、テロメア長および複製能力は低下している(Allsoppら、89 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 10114,1992)。加速したテロメアの喪失はまた、ダウン症候群(DS)の個体のリンパ球に早発的に生じるような免疫老化(immunosenescence)とも関連している。DS患者は早老の多くの特徴を示し、そしてDS患者由来のリンパ球は、年齢に適合したコントロールの3倍の速度でテロメアを失う(Vaziriら、52 Am. J. Hum. Genet. 661,1993)。加速した細胞代謝回転および細胞分裂に付随するテロメアの喪失は、早老の表現型と相関があり、そして免疫細胞中のテロメアの喪失または短いテロメアは免疫老化の生体マーカーである。より速い速度での細胞代謝回転または細胞分裂に関連性の任意の疾患は、本発明を用いる診断および予後に従う。
【0116】
例えば、アテローム動脈硬化症は、部分的には、アテローム動脈硬化性プラーク領域の内膜および内組織(medial tissue)における、周囲の正常組織に比較してより速い速度の細胞代謝回転から生じる。これらのアテローム動脈硬化性プラーク領域由来の細胞は、より古くおよびそれらの最大の複製寿命の終わりに、より近いプラーク領域の細胞を与える結果、プラークフリーの領域由来の細胞よりも細胞分裂を受ける。テロメア長は、動脈硬化症に関与する組織中の細胞代謝回転の生体マーカーとして作用し得る。一般的に、アテローム動脈硬化性プラークにある内膜および内組織におけるテロメア長の喪失は、プラークフリーの領域における喪失よりも大きい。
【0117】
アテローム動脈硬化性プラークの形成は、腸骨静脈におけるよりも腸骨動脈において、より頻繁に発生し、予想されたように、一つのテストにおける平均TRF長の減少は、20〜60歳の年齢範囲にわたり、腸骨静脈(−47bp/年、P=0.14)よりも、腸骨動脈(−100bp/年、P=0.01)に対して顕著に大きいことが示された。米国特許第5,489,508号(1996年2月2日発行)を参照のこと。同一血管由来の内組織由来のプラーク領域対プラークフリー領域の平均TRFの減少は、アテローム動脈硬化性プラークと関連した組織の増大した(augmented)細胞代謝回転と一致する。これらの結果は、テロメア長が、内膜および内組織の細胞を含有する心臓血管疾患と関連した組織における細胞代謝回転および増殖能力に対する生体マーカーであることを示す。
【0118】
テロメア長は、疾患状態に対する生体マーカーとしてだけではなく、疾患段階の予後判定の指標としてもまた使用され得る。例えば、ある研究によれば、HIV感染した被験体のCD28-CD8+細胞のテロメア長測定では、非感染コントロールのものより有意に短いTRF長を有した。さらに、研究した全ての被験体について、HIVに感染した個体においては、CD28+CD8+細胞と比較して、CD28-CD8+細胞のリンパ球サブセットのテロメア長の測定は、一貫してより短かった。実際に、HIVに感染した被験体のCD28-CD8+細胞の平均TRF長(5〜7kb)は、100歳以上の人および老化T細胞培養物について観察されたものと類似していた。テロメアDNAの喪失は細胞分裂のマーカーであるため、CD8+細胞におけるテロメアの短縮は、延長された細胞分裂または細胞代謝回転により得る。それゆえ、CD8+細胞におけるテロメアの短縮は慢性的な免疫系の活性化の結果の免疫系の消耗により得、そしてそれ自体でHIV疾患進行の指標となり得る。従って、CD8+細胞、CD4+細胞、およびその他の免疫系細胞のような全ての細胞中のテロメア長が、HIV感染はたはAIDSの進行の予後に使用され得る。
【0119】
疾患の診断後、テロメア長の測定は、この疾患が疾患進行の初期段階であるかまたは後期段階であるかを決定するために使用され得る。白血病の場合、テロメア長は、疾患発症からの経過時間および異常細胞増殖の相対速度の指標である。長期間にわたり増加した速度で分裂した白血病細胞は、正常な骨髄細胞よりも短いテロメアを有する。慢性リンパ性白血病(CLL)の経過の間の血中白血球および骨髄白血球の平均TRF長が累進的に減少する:CLL患者の1つの研究における平均TRF長は:正常個体(コントロール)10.0〜16.0kb;初期段階CLL、7.9kb;そして後期段階CLL、4.4kbであった(Counterら、85 Blood 2315,1995)。
【0120】
慢性骨髄性白血病(CML)患者では、骨髄細胞のTRFに広範な変化が存在する。すなわち、そのTRFは2.8〜12.8kbである。44例のCML患者についての1つの研究において、9例が、年齢が適合する正常範囲内の平均TRF長を有した。その残りの患者は、年齢に適合した正常な末梢血単核球細胞のテロメアに比較して、短いテロメアを有した(平均5.6kb)。診断時により短いTRF長を有するそれらの患者は、急性発症(blast crisis)までの間隔が短く、そして正常なTRFを有する患者よりも治療への応答が劣っていた。テロメア長は、慢性CML患者において示したように、細胞分裂の数に依存しており、それは疾患段階の新しいマーカーを示す。正常なTRFの白血球を有するCML患者は、疾患の初期段階であり得、そしてそれゆえ治療にはより良好な応答をし得る。
【0121】
類似の様式で、平均TRFは、急性骨髄性白血病(AML)の白血球において、正常個体由来骨髄および末梢血のコントロール白血球においてよりも、非常に短かった。さらに、7例のAML患者由来の芽細胞は、緩解の間に分離した血液単核細胞よりも短いテロメアを有した(Yamadaら、95 J. Clin. Invest. 1117,1995)。従って、短いTRF長を有する白血球(または他の細胞)の存在は、これら白血病における後期または急性期疾患の指標である。
【0122】
テロメア長の測定はまた、受精能力の問題を診断するために使用され得る。ある研究において、受精能力のある男性および受精能力のない男性由来の精子細胞中のテロメア長が測定された。ある受精能力のない男性由来の精子細胞は受精能力のある男性由来の精子細胞よりもテロメアが有意に短かった。
【0123】
本発明の方法は、組織ならびに組織内の個々の細胞または細胞型の増殖能力の決定における適用を有する。多くの組織が少数の幹細胞のみから再生する。インサイチュウハイブリダイゼーションを用いて、個体ならびに集団基盤(collective basis)におけるこのような幹細胞中のテロメア長を、同定および定量し得る。これらの方法により、染色体ごとのテロメア長を決定することおよび染色体間のテロメア長の変動を評価することが可能となる。これらの測定は、各個々の細胞核または染色体に結合したプローブの蛍光強度を、共焦点顕微鏡またはフローサイトメトリー分析を用いて定量することにより行われた。フローサイトメトリーは、テロメア長および細胞の型または染色体の同一性(すなわち、Yおよび他の全ての染色体から分離されたX染色体)に基づいて、細胞または染色体を分別するさらなる利点を提供する。次いで、これらの選別された細胞または染色体は、所望のように、すなわち、操作および/またはそれに続く細胞あるいは個体への治療的再導入のために使用され得る。本発明のこれらの適用および他の適用は、さらに以下の実施例に詳述される。
【実施例】
【0124】
以下の実施例は、本発明を説明するために、および当業者に対して本発明の方法を提供するために、本発明の特定の局面を記載する。実施例は本発明を理解しそして実施するにおいて有用な特定の方法論を提供するのみであるので、実施例は、本発明を限定するとして解釈されるべきではない。
【0125】
実施例1
テロメア長を測定するためのドットブロット法
本実施例は、テロメア長を測定するためのドットブロット法を記載する。テロメア長は、テロメア領域に結合するプローブのシグナル強度をテロメア長に相関させることにより決定される。この方法の理解を容易にするために、このプロセスで用いられ得る多くの異なるDNA調製工程が記載される。さらに、溶液組成物が提供されるが、当業者には、これらの溶液の変化が、溶液中の種々の成分の濃度ならびに溶液の組成を適切に改変することにより容易に行われ得ることが認識される。
【0126】
100,000細胞/ウエルで播種した293細胞の2つの6ウエルプレートおよび75,000細胞/ウエルで播種した293細胞の1つの6ウエルプレートを、冷リン酸緩衝化生理食塩水溶液(1×PBSは、10mM KPOおよび150mM NaClからなる)で2回洗浄し、残りの増殖培地を除去した。細胞膜を、1.5mlの抽出緩衝液(抽出緩衝液は、10mM Tris、pH 8.0、0.1M エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、pH 8.0、0.1M NaCl、0.5% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、および100μg/mlプロテイナーゼKである)を各ウエルに加え、そしてサンプルを50℃にて3〜16時間インキュベートすることにより溶解した;代表的には、10mg/mlプロテイナーゼKの追加のアリコート(15μl)を1時間後に加えた。
【0127】
このインキュベーションの後、サンプル中の細胞性RNAを、15μlの500μg/mlのDNアーゼフリーのRNアーゼを各ウエルに加え、そしてサンプルを37℃にてさらに1時間インキュベートすることにより分解した。次いで、溶解した細胞抽出物(以下「DNAストック溶液」という)をウエルから取り出し、チューブに移した。次いで、チューブを65℃で10〜20分間加熱した(この時点で、溶液は後の使用のために急速に凍結され得る)。代替のまたは追加のDNA調製工程、例えば、酵素的消化(すなわち、タンパク質分解酵素、RNアーゼ、または制限酵素を用いて)、フェノール抽出、および/またはエタノール(EtOH)沈澱が用いられ得る。
【0128】
DNA濃度に対するシグナル強度の線形性を示すために、DNAストック溶液のアリコート(150μl、75μl、37.5μl、および18.75μl)をチューブから移し、そして96ウエルプレート(Costar)の個々のウエル中にスポットした。DNAを0.4M NaOHおよび10mM EDTA中で変性し、そして内身を96ウエルフィルタープレートに移した。フィルターを160μlの0.4M NaOHで濯ぎ、真空濾過し、0.3M NaClおよび0.03M クエン酸ナトリウム(2×SSC)の溶液で濯いで、変性溶液を除去し、そして乾燥した。
【0129】
32P標識したリボプローブを、滅菌EppendorfTMチューブ中で、50μlの5×転写緩衝液(Stratageneから購入)、10μlのHindIII消化pBLRep4(1μg/μl、Stratageneから購入)、10μlの10mM rATP、10μlの10mM rCTP、10μlの10mM rGTP、10μlの0.75Mジチオトレイトール(DTT、Stratageneから購入)、50μlの32P-UTP(0.25mCi)、2μlのT3 RNAポリメラーゼ(Stratageneから購入)、および98μlのDEPC処理水を合わせて、37℃の水浴中で30分間インキュベートすることにより調製した。プラスミドpBLRep4は、プラスミドpBluescriptIISK+(Stratagene)のEcoR1部位に挿入された100テロメア反復配列(5’-TTAGGG-3’)を含む。インキュベーション後、チューブをPico FugeTM(Stratagene)中でパルス回転し、次いで、10μlのRNアーゼフリーのDNアーゼI(Boehringer Mannheim)を加え、続いて37℃にて15分間インキュベートした。得られた混合液に260μlのフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(PCIA、26:25:1比)を加えた;溶液をボルテックスし、次いでPico FugeTM(Stratagene)中で約4分間遠心分離した。遠心分離後、上部の水層を他の滅菌Eppendorfチューブに移し、その中にまた約26μlの3M酢酸ナトリウムを加える。反応物を混合し、次いで約650μlの200スタンダード強度のエタノールを混合しながら加える。プローブを、チューブの温度を少なくとも30分間、−20℃に維持することにより沈澱させる。次いで、チューブをPico FugeTM(Stratagene)中で10分間遠心分離する。上清を捨て、そしてペレットを100μlの1×TE緩衝液(1×TE緩衝液は、10mM Trisおよび1mM EDTAからなる)中に再懸濁する。次いで、チューブの総容量を1×TE緩衝液で1mlに合わせる。再懸濁したプローブは使用するまで−20℃で保存され得る。
【0130】
次いで、フィルター上のDNAを、ハイブリダイゼーション緩衝液(ハイブリダイゼーション緩衝液は、6×SSC、1×Denhardt溶液、20mMリン酸ナトリウム、pH 7.2、および0.4% SDSからなる)中で、65℃にて一晩、50μlの32P-UTP標識したリボプローブ(50μCi/μg DNA)(上記のように、配列5’-CCCTAA-3’の反復を含む)とハイブリダイズさせた。フィルターを、1×SSCおよび0.1%SDSからなる洗浄溶液中で4〜5回洗浄し、次いで、PhosphoImagerTMカセット(Molecular Dynamics)中で少なくとも1時間曝露し、そしてスキャンした。図2は、グラフ表示した結果を示す。シグナル強度は、このグラフにより示されるように、DNAの量とともに増大した。
【0131】
種々の細胞(OVCAR 4、OVCAR 3、OVCAR 5、OVCAR 8、およびSK-OV-3)から調製した既知濃度のDNAサンプルを、テロメア長の差を測定するためのこの方法を用いて分析した。比較として、これらの細胞のTRFの長さも従来の方法を用いて決定した。表1は、シグナル強度が、一般的に、ドットブロット法を用いて増大したTRFとともに増大したことを示す。
【0132】
【表1】

例えば、SK-OV-3細胞は、これらのサンプル中の細胞の最大のTRF(10.69kb)を有するが、これもまた、試験した各濃度でドットブロット法を用いて最強のシグナルを示した。
【0133】
これらのデータは、予想したように、TRFの長さもまたサブテロメア領域の長さの少なくとも一部分を含むことを示す。この方法を用いると、TRFの長さに含まれるサブテロメア領域の長さを算出し得る。サブテロメア長対5’-TTAGGG-3’テロメア反復の長さを区別するこの能力は、病気の治療および予後に重要な関連を有する。この方法により生じるシグナル強度がTRFの長さよりも複製能力のより正確なインジケーターであるので、この方法は、どの患者がよりよい予後を有するかを決定するために、およびテロメラーゼ阻害処置のような必要とされる処置の期間を決定するために用いられ得る。例えば、表1に示すように、OVCAR 8はOVCAR 4よりも短いテロメア反復領域を含む;しかし、OVCAR 8のTRFはより大きく、これは、OVCAR 8のTRFの長さがOVCAR 4の部分よりも大きなサブテロメア領域の部分を含むことを示す。テロメア反復の長さが細胞の残りの増殖能力を示すので、OVCAR 8細胞のような細胞からなる腫瘍を有するガン患者は、TRFの長さの分析が他を示唆するとしても、OVCAR 4細胞のような細胞からなる腫瘍を有する患者よりも短い期間のテロメラーゼインヒビターでの処置を必要とする。この実施例ではテロメア長の測定は不死化細胞株について行われたが、この方法はまた複製能力の測定として非不死化(mortal)細胞株についても用いられ得る。
【0134】
実施例2
テロメア長を測定するためのスロットブロット法
本実施例は、テロメア長を測定するためのスロットブロット法の使用を示す。このプロセスにおいて、DNAは、プローブとのハイブリダイゼーションの前に、固相に架橋される。
【0135】
異なるPDLでのBJ細胞(ヒト包皮線維芽細胞)およびS2C細胞(ヒト皮膚線維芽細胞)由来の約1.5μgの全ゲノムDNAを、制限酵素EcoRIおよびHindIIIの混合物を用いて一晩、完全に消化した。さらに、1.25μgのプラスミドpBLRep4を制限酵素XbaIで消化してスタンダードコントロールとして用いた。このプラスミドの量は、5’-TTAGGG-3’反復からなる52.6pmolのDNAと等価である。ネガティブコントロールである1.5μgのλファージDNAを制限酵素Sau3AおよびHindIIIで消化してバックグラウンドシグナルを算出するために用いた。
【0136】
消化したDNAをフェノール/クロロホルムで抽出し、エタノールで沈澱させ、次いで、100μlの1×TE緩衝液(TE緩衝液は、10mM Trisおよび1mM EDTAからなる)中に再懸濁した。この溶液に、200μlの5×SSCを加え、完全に混合した。
【0137】
Schleicher & Schuell Minifold IITM装置を用いて、スロットブロット法に用いられるフィルターを調製した。ブロッティングペーパーを5×SSCで湿らせ、そして装置の各スロットを約300μlの5×SSCで濯いだ。次いで、消化したDNAサンプルを指定されたスロット中にロードした。ブロットの標準曲線を得るために、消化したプラスミドpBLRep4を連続希釈し、次いで、0.009375μg、0.00625μg、0.003125μg、および0.0015625μgを別々のスロットにロードした。全ての液体をブロットを通して真空濾過した;DNAをブロット上に残した。次いで、ブロットを取り出し、3MM Whatmanペーパー(VWR)の一片上に置き、そして30分間空気乾燥した。
【0138】
DNAを、0.5N NaOHおよび1.5M NaClの溶液で30分間浸した3MMペーパーのスタック上に置くことにより変性させた。次いで、DNAを、0.5M Tris(pH 7.4)および1.5M NaClの溶液で30分間浸した3MMペーパー上にブロットを置くことにより中和した。中和後、DNAを、UV STRATALINKER 1800TMデバイス(Stratagene)を用いてブロットに架橋した。次いで、DNAを、15mlのプレハイブリダイゼーション緩衝液(プレハイブリダイゼーション緩衝液は、5×SSC、5×Denhardt溶液(1gのFicoll(Type 400、Pharmacia)、1gのポリビニルピロリドン、1gのウシ血清アルブミン(フラクションV、Sigma、および十分な水で100mlにする)、0.02Mリン酸塩(pH 6.5)、0.1mg/mlサケ精子DNA、0.5%SDS、および50%ホルムアミドからなる)中で2時間インキュベートした。この処置の後、32P標識5’-TTAGGGTTAGGGTTAGGG-3’(配列番号13)プローブ(100万cpm/ml)を含む15mlのプレハイブリダイゼーション緩衝液中でDNAのハイブリダイゼーション、および37℃にて一晩のインキュベーションを行った。
【0139】
プローブハイブリダイゼーションの後、ブロットを1×SSCおよび0.1%SDSからなる500mlの溶液で室温にて10分間1回洗浄し、次いで、500mlの同じ溶液で37℃にて20分間2回洗浄し、そして次いで、PhosphoImagerTM検出器に一晩置いた。次いで、ハイブリダイズしたプローブのシグナル強度を分析した。
【0140】
異なるPDLでの細胞のプローブハイブリダイゼーションのシグナル強度を、pBLRep4コントロールを用いて得た標準曲線に従って、テロメアの平均の長さを反映させる相対数に変換した。表2に示すように、結果は、一般的に、PDLの増大に伴うテロメアの長さの減少を示した。この結果は、対応するTRFの長さと従来の方法により決定されるシグナル強度との良好な相互関係を示す(図3を参照のこと)。
【0141】
【表2】

表2の結果は、一般的に、結合したプローブシグナル強度がPDLの増大とともに減少することを示す。さらに、同様の結果を、BJ細胞およびS2C細胞について得、そしてシグナル強度はコントロールのpBLRep4の量の増加とともに増大した。pBLRep4プラスミドの結果は、(既知量のテロメア反復配列)対(スロットブロット法を用いて決定された対応するシグナル強度)をグラフにすることにより得られた標準曲線を作成するために用いられ得る。表2のpBLRep4についてのデータを用いて得られた標準曲線は、pBLRep4の量の増加に伴うシグナルの線形な増大を示す。
【0142】
実施例3
テロメア長の定量のためのフローサイトメトリー
本実施例は、個々の細胞の染色体のテロメア長を測定するための方法を説明する。本方法は、細胞DNA含有量の分析と同時に行い得る。この方法論はまた、テロメア長に基づいて細胞または染色体を選別することを可能にする。
【0143】
増殖細胞を、標準的な手順により、トリプシン処理によって採集し、そしてPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)で洗浄する。次いで、洗浄した細胞を、新しく作製した冷却(4℃)3:1 100%無水メタノール:氷酢酸を再懸濁した細胞ペレットに穏やかに混合しながら添加することによって固定する。分析するまで、細胞は、4℃に保存され得る。
【0144】
あるいは、特定の染色体のテロメア長の測定が所望であれば、細胞を溶解して完全な核を放出させ得、次いで、2%パラホルムアルデヒド(pH7.0)中で、一晩のインキュベーションにより固定する。細胞の溶解は、20mM NaCl、10mM MgCl2、20mM Tris(pH7.2)中に細胞を懸濁し;細胞懸濁液を37℃で5分間インキュベートし;等容量のトライトンX-100を添加し、そして混合することによって達成される。簡便のために、核とは対照的に、完全な細胞の分析のみを以下に記載する。本方法は、特定の染色体のテロメアの分析に対しても等価に適用可能であることが、当業者には認識される。
【0145】
ハイブリダイゼーションの前に、細胞を遠心分離し、そしてPBSで3回洗浄する。次いで、細胞をRNaseA(PBS中、100μg/ml)で20分間、37℃で処理し、その後、ペプシン(1mg/ml、pH2.0)で5分間、37℃で処理する。
【0146】
細胞を遠心分離し、次いでFITC標識PNAプローブを含有する70%脱イオン化ホルムアミド、超音波処理したサケ精子DNA(または非特異的なプローブハイブリダイゼーションを防止するための他の市販の試薬)、および10mM Tris(pH7.2)からなるハイブリダイゼーション緩衝液中に、室温で、2〜8時間、再懸濁する。全ての細胞が蛍光を発するので、コントロール実験を同じ条件下で行う。ただし、バックグランド蛍光を決定するために、 PNAプローブは非標識とする。
【0147】
ハイブリダイゼーション工程の後、細胞を洗浄して非結合プローブを除去する。70%ホルムミド、10mM Tris(pH7.2)、および0.05%トライトン X-100からなる溶液中で、細胞を3回洗浄する。次いで、細胞をPBS中に再懸濁し、そしてフローサイトメーターで分析する。
【0148】
あるいは、標識DNAプローブをPNAプローブの代わりに使用し得る。DNAプローブが使用される場合、細胞の固定後に以下の手順が実行される。70%脱イオン化ホルムアミドおよび2×SSCからなる溶液0.5mlを細胞ペレット(約100万個の細胞)に添加し、そして水浴で2〜5分間70℃まで加熱することによってDNAを変性する。次いで、細胞を氷上で冷却し、そして遠心分離する。細胞ペレットを、DNAの再生を防止するために、プローブを添加するまで氷上に維持する。標識DNAプローブ(すなわちビオチンまたはジゴキシゲニン)を250μLのハイブリダイゼーション溶液(70% ホルムアミド、2×SSC、2×Denhardt溶液、10% デキストラン硫酸、50mM Tris、pH7.5)中に懸濁し、10分間、75〜80℃に加熱してDNAを変性し、氷上で冷却する。冷却プローブを細胞ペレットに添加し、そして37℃で一晩ハイブリダイズさせる。次いで、細胞を50%ホルムアルデヒドおよび2×SSC中で、室温で洗浄して、遠心分離により回収し、次いでストレプトアビジン-FITCまたはFITC標識アンチジゴキシゲニン抗体を含有する溶液中に再懸濁する。得られる混合液を、室温で1時間インキュベートし、そして細胞を遠心分離によって回収し、そして入念に洗浄する。コントロールを、手順中、FITC標識を欠くストレプトアビジンを用いるか、または非標識抗体を用いて行い得る。
【0149】
細胞を、フローサイトメーターを用いて分析する。FITCで生じるシグナル用の標準レンズおよびフィルター装置を使用する(放射については、488nm励起、525nm帯域フィルター)。回収されるべきシグナルとしては、相関パラメーターとして、対数および線形FITC蛍光(525nm)および光散乱(0度および90度)が挙げられる。
【0150】
フローサイトメトリーの間、細胞を、細胞から散乱光および蛍光シグナルを生じる波長でレーザーを通過させる。ホトマルチプライアーチューブは、生成された光子を検出し、そしてシグナルをDAコンバータに通す。シグナルは増幅され得る。得られるシグナルは、線形的または対数的のいずれかで表示され得る。対数表示は、ピークのより良好な分離を提供し、一方、線形表示は一般的により高い感度を提供する。
【0151】
細胞はまた、DNA特異的色素(例えば、ヨウ化プロピジウム(PI))で対比染色され得、細胞DNA含有量を同時に測定し得る。対比染色が用いられる場合、上記と同じフィルターの装備(set-up)を使用する(PIシグナルは610nmの帯域フィルターを用いて測定される)。この装備は、細胞周期の位置の決定および細胞DNA含有量、ならびにハイブリダイズプローブシグナルの定量を可能にする。染色体または細胞当たりの結合プローブ由来のシグナル強度は、テロメア反復の数およびテロメア長に比例する。シグナル強度を測定する場合、機器を、シグナルおよび対応のテロメア長に基づいて、細胞を特定の管に偏向させるようにプログラムし得る。
【0152】
実施例4
PCRに基づくテロメアの測定
この実施例は、テロメア長を測定するためのPCRに基づく方法を記載する。テロメアDNAをまず、エキソヌクレアーゼで処理して平滑末端を生じさせ、次いで、二本鎖リンカーをテロメアの3’末端に付着させる。リンカーに相補的な正方向のプライマー、および染色体XおよびYのサブテロメア領域に相補的なサブテロメアの逆方向のプライマーを、ヌクレオチド三リン酸の存在下でPCRによリ伸長させる。次いで、ロングPCRプライマー伸長産物をゲル上でサイズにより分離し、そしてゲル上のサイズスタンダードをテロメア長を決定するために使用する。
【0153】
ゲノムDNAをBal31ヌクレアーゼ(4U/μgDNA、Boehringer Mannheim)で、5分間、30℃で消化して、テロメアの末端の修飾ヌクレオチドを除去し、そしてDNAを平滑末端化した。消化後、Bal31ヌクレアーゼを0.2M エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)-四酢酸(EGTA)を最終濃度15mMに添加して、失活させる。次いで、DNAをフェノール/クロロホルムを用いて抽出し、エタノールで沈澱させ、そして1×T4DNAポリメラーゼ緩衝液(1×T4DNAポリメラーゼ緩衝液は、50mM NaCl、10mM Tris-HCl、10mM MgCl2、1mM ジチオトレイトール、pH7.9からなる)中に再懸濁し、最終DNA濃度を0.1〜0.5μg/μlにする。平滑末端化効率を改良するために、DNAを、0.25mM dNTP(0.0625 mMの各dATP、dGTP、dCTP、およびdTTP)を含有する混合液中で、T4DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)で、30分間、37℃で処理する。T4DNAポリメラーゼを、15分間65℃で加熱することによって失活させる。あるいは、ヌクレアーゼおよびDNAポリメラーゼがこの反応において置き換えられ得る(すなわち、Mung BeanヌクレアーゼまたはPfu DNAポリメラーゼ)。さらに、DNAのBal31処理は排除され得;そしてDNAを、dNTPの存在下でT4DNAポリメラーゼで直接処理して平滑末端を生じさせ得る。
【0154】
二本鎖リンカーSLIC-II/aSLICを、当モル量のリン酸化SLIC-IIオリゴヌクレオチド(5’-GGAATTCTGGTCGACGGATCCTGA-3’(配列番号8))、および非リン酸化相補的オリゴヌクレオチドaSLIC(3’-CCTTAAGACCAGCTGCCTAGGACT-5’(配列番号9) )を室温で添加し、94℃に3〜4分間加熱し、オリゴヌクレオチドを含む反応容器を予め65〜70℃に加熱した水浴中に置き、そして容器を室温に冷却することによって調製する。アニール効率を、0.5pmolの調製リンカーをEcoRIで消化した後、消化産物および未処理のリンカーコントロールの電気泳動分析(15% ポリアクリルアミドゲル)を行うことにより確認する。ゲル上での一本鎖、二本鎖、および消化された二本鎖オリゴヌクレオチドバンドの割合により、アニーリングプロセスの効率の測定、およびアニーリングが正確な対応配列(register)にあるかどうかの確認が提供される。
【0155】
二本鎖リンカーを、16℃で平滑末端DNA(0.1〜0.5μg)、リン酸化リンカー(SLIC-II/aSLIC、1μg)、脱イオン水(17μl)、10mMのATPを含有する10×平滑末端連結緩衝液(2μl、New England Biolabs)、およびT4DNAリガーゼ(1μl、400U、New England Biolabs)を組み合わせることによって、DNAの平滑末端に連結した。反応を、6〜8時間続行させ、次いで15分間65℃でのT4DNAリガーゼの熱失活によりクエンチする。連結効率を決定するためのポジティブコントロールとして、放射活性標識SLIC-II/aSLICリンカーを32P標識SLIC-IIを用いて上記のように調製し、そしてT4DNAポリメラーゼ処理し、MboI消化したBJ細胞由来DNAおよび/またはHinfI/RsaI消化したBJ細胞由来DNAに連結させる。
【0156】
テロメア領域のPCR増幅は、SLIC II/aSLICに連結したDNA0.1μg ;5μlの2.5mM dNTP(0.0625mMの各dATP、dGTP、dCTP、およびdTTP)溶液;5μlの10×ロングPCR緩衝液(20mM Tris HCl(pH9.0)、150μg/ml BSA、3.5mM MgCl2、および16mM(NH4)2SO4);40pmolのrevXpJCTNプライマー(5’-CTGATWGGTCCACTTTCAGAGGG-3’)(配列番号7))、1μlのExTaqTM DNAポリメラーゼ(Oncor);および脱イオン水を組み合わせて総容量を50μlにすることによって達成される。次いで、反応容器を30サイクル(各サイクルは、94℃で1分間、および65℃で1分間のインキュベーション温度および期間)および72℃で10分間の最終インキュベーションのためにサーマルサイクラーに移す。
【0157】
増幅されたプライマー伸長産物は、0.5%アガロースゲルで分解される。テロメア長は、サイズスタンダードとプライマー伸長産物とを比較することによって決定される。
【0158】
実施例で用いた試薬は、市販されているかまたは市販の機器、方法、または当該分野において公知の試薬を用いて調製され得る。前出の実施例は、本発明の種々の局面および本発明の方法の実施を説明する。本実施例は、本発明の多くの異なる実施態様を残らず提供することを意図しない。従って、前出の本発明は、理解を明瞭にする目的のために、説明および実施例によっていくらか詳細に記載されているが、当業者には、多くの変化および改変が、添付の請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】図1は、末端付加によるテロメアに連結または付着したリンカー、配列がリンカーに相補的なプライマー、およびサブテロメアプライマーを用いるPCRベースのテロメア長測定を示す。
【図2】図2は、改変ドットブロット法(実施例1を参照のこと)を用いて異なる量のDNAをテロメア特異的プローブでプローブした結果をグラフで示す。グラフは、テロメアDNAの量が増加するにつれてシグナルが増加することを示す。
【図3A】図3は、種々の集団倍加レベル(PDL)でS2CおよびBJ細胞について、従来の方法(図3A)による平均TRF長(kb)分析(高PDL(レーン1および8、図3A)から低PDL(レーン7および18、図3A)まで)の、ドットブロット法の変形であるスロットブロット法(図3B)との比較を示す。図3Bでは、図に対する凡例に示すように、各列は、特定のPDLで細胞に結合したプローブ量または種々の量のコントロールDNA(λHdIII+Sau3Aはネガティブコントロールであり、そしてRep4はポジティブコントロールである)に結合したプローブ量を示す(全て実施例2でより詳細に記載する)。
【図3B】図3は、種々の集団倍加レベル(PDL)でS2CおよびBJ細胞について、従来の方法(図3A)による平均TRF長(kb)分析(高PDL(レーン1および8、図3A)から低PDL(レーン7および18、図3A)まで)の、ドットブロット法の変形であるスロットブロット法(図3B)との比較を示す。図3Bでは、図に対する凡例に示すように、各列は、特定のPDLで細胞に結合したプローブ量または種々の量のコントロールDNA(λHdIII+Sau3Aはネガティブコントロールであり、そしてRep4はポジティブコントロールである)に結合したプローブ量を示す(全て実施例2でより詳細に記載する)。
【0160】
【化1】

【0161】
【化2】

【0162】
【化3】

【0163】
【化4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2008−119005(P2008−119005A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329366(P2007−329366)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【分割の表示】特願平9−502170の分割
【原出願日】平成8年6月6日(1996.6.6)
【出願人】(595161223)ジェロン・コーポレーション (32)
【氏名又は名称原語表記】GERON CORPORATION
【Fターム(参考)】