説明

テロメラーゼ活性の検出方法

【課題】PCRを必要とせず、かつ短時間でテロメラーゼ活性を測定できる方法を提供する。
【解決手段】テロメラーゼの活性を測定する方法であって、(1)テロメラーゼと、テロメラーゼの基質となる一本鎖DNAを同一溶液中に置き、テロメラーゼ反応を行わせる工程
(2)前記テロメラーゼ反応に供せられた前記基質一本鎖DNAと、テロメアDNAの配列と相補的に結合できる配列からなり、かつ蛍光を発する官能基とこの蛍光を消光する官能基が修飾された一本鎖RNAと、RNaseH活性を有する酵素を、同一溶液中に置き、RNaseH反応を行わせる工程、(3)前記RNaseH反応中あるいは反応後に、前記蛍光を測定する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテロメラーゼの活性を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テロメアは真核生物の染色体の末端部分のことを指す。テロメアは幾つかのタンパク質とテロメアDNAから構成されている。ヒトのテロメアDNAの配列は5’−TTAGGG−3’の繰り返し配列であり、その3’末端部分は100塩基ほどの一本鎖DNAである。通常の体細胞では、テロメアDNAは細胞分裂ごとに短くなる。その結果、細胞は分裂の限界に達する。一方で、多くのがん細胞では、テロメラーゼと呼ばれる酵素が活性化されている。テロメラーゼは、テロメアDNAに結合し、テロメアDNA配列(ヒトの場合5’−TTAGGG−3’)を伸長させる(以降、テロメラーゼによるテロメアDNAの伸長反応のことを、単に「テロメラーゼ反応」と呼ぶ)ことができる。したがって、多くのがん細胞ではテロメアDNAの短縮にともなう細胞分裂の停止が起きない。
【0003】
テロメラーゼは、85%以上のがん細胞において活性化されていることが知られている。したがって、テロメラーゼの活性を測定することでがんを診断できる可能性がある。現在もっともよく利用されるテロメラーゼ活性測定方法は、Telomere repeat amplification protcolアッセイ法(以下、TRAPアッセイ法)である。TRAPアッセイ法の手順は以下のとおりである(非特許文献1)。
【0004】
1.テロメラーゼ反応を行う
2.1の反応で得られたテロメラーゼ反応産物をPCRにより増幅する
3.2で得られた増幅産物を電気泳動法などにより解析する
TRAPアッセイ法には幾つかの課題がある。一つ目の課題は、解析結果を得るまでに長時間を要する点である。具体的には、上記のTRAPアッセイ法の手順1の工程は、通常30分から1時間を要する。そして手順2の工程は、3時間程度を要する。そして手順3では30分から1時間を要する。すなわちTRAPアッセイ法では、合計で4時間から5時間を要する。特に、手順2の工程が最も時間を要する。二つ目の課題は、上記のTRAPアッセイ法の手順2において、測定対象サンプル中の生体分子によってPCRが阻害される場合がある点である。PCRが阻害されると、仮に手順1のテロメラーゼ反応が行われたとしても、最終的な増幅産物は得られなくなる。言い換えれば、PCRが阻害されることで正確な測定結果が得られなくなる。また三つ目の課題は、上述のとおり手順2でPCRを行うことで、測定結果における定量性が乏しくなる点である。つまり、PCRを行うことで、手順1で得られたテロメラーゼ反応産物を解析可能な量まで増幅することができるが、その一方で、PCRによる増幅前のテロメラーゼ反応産物量を推定することが難しくなる。以上のとおり、PCRを用いるTRAPアッセイ法には大きな課題があるため、PCRを必要としない新規なテロメラーゼ活性測定方法の開発が求められていた。
【0005】
また一方で、微量のDNAを検出する方法として、標的DNAに相補的であり、かつその両末端に蛍光物質と消光物質が修飾された一本鎖RNAと、RNaseHを反応させる方法が知られていた(非特許文献2−4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−259496号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Science,266,2011−2015(1994)
【非特許文献2】BioTechniques,20,240−248(1990)
【非特許文献3】Analytical Chemistry,74,725−733(2002)
【非特許文献4】Analytical Biochemistry,333,246−255(200 4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、テロメラーゼ活性を測定する方法として、TRAPアッセイ法が最もよく使われている。しかしTRAPアッセイ法には幾つかの課題がある。一つ目は、結果を得るまでに、5時間もの長時間を要するという点である。したがって、より短時間に測定結果が得られる方法が求められていた。二つ目は、PCRが阻害される場合に、正確な測定結果が得られないという点である。また三つ目は、PCRを行うことにより測定結果における定量性が乏しくなるという点である。したがって、PCRを必要としない方法が求められていた。
【0009】
以上のような背景の下、我々は鋭意検討した結果、テロメラーゼ反応とRNaseHによるRNA分解反応を組み合わせてなる、新規なテロメラーゼ活性測定方法を発明するに至ったのでここに報告する。この方法は、短時間でテロメラーゼ活性を測定することができる。またこの方法はPCRを必要としない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、テロメラーゼの活性を測定する方法であって、
(1)テロメラーゼと、テロメラーゼの基質となる一本鎖DNAを同一溶液中に置き、テロメラーゼ反応を行わせる工程
(2)前記テロメラーゼ反応に供せられた前記基質一本鎖DNAと、テロメアDNAの配列と相補的に結合できる配列からなり、かつ蛍光を発する官能基とこの蛍光を消光する官能基が修飾された一本鎖RNAと、RNaseH活性を有する酵素を、同一溶液中に置き、RNaseH反応を行わせる工程
(3)前記RNaseH反応中あるいは反応後に、前記蛍光を測定する工程
を含むことを特徴とする。
【0011】
前記テロメラーゼは、ヒトのテロメラーゼであることが望ましい。
【0012】
前記基質一本鎖DNAの配列は、ヒトのテロメアDNAと同じ配列を含むことが望ましい。
【0013】
前記基質一本鎖DNAの配列は、5’−AATCCGTCGAGCAGAGTT−3’(配列番号:1)であることが望ましい。
【0014】
前記一本鎖RNAの配列は5’−CCCUAA−3’(配列番号:2)、5’−UAACCCUAA−3’(配列番号:3)、5’−CCCUAACCC−3’(配列番号:4)、5’−UAACCCUAACCCUAA−3’ (配列番号:5)、5’−CUAACCCUAAC−3’(配列番号:6)からなる群から得られる少なくとも一種であることが望ましい。
【0015】
前記蛍光を発する官能基は前記一本鎖RNAの一方の末端部分に修飾されており、かつ、前記この蛍光を消光する官能基は前記一本鎖RNAのもう一方の末端部分に修飾されていることが望ましい。
【0016】
前記RNaseH反応を行わせる工程において、反応溶液中にマグネシウムイオンが含まれていることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、短時間で測定結果が得られ、かつPCRを必要としない、テロメラーゼ活性測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態1におけるテロメラーゼ活性測定方法を説明するための図
【図2】実施例1の蛍光強度結果を示すグラフ
【図3】実施例2の蛍光強度結果を示すグラフ
【図4】実施例3の蛍光強度結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図1、2を用いて説明する。
【0020】
(実施の形態1)
本実施の形態1では、本発明におけるテロメラーゼ活性測定方法の一例について図1を用いて説明する。
【0021】
本実施の形態は、以下の手順に従って行われる。
【0022】
手順1:反応溶液1を調製する。反応溶液1は、テロメラーゼの基質となる一本鎖DNA、dNTPs(dNTPsは、4種類のデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、およびdTTP)の混合物を意味する。ただし、テロメアDNAは、C(シトシン)を有しないので、「dNTPs」にはdCTPが含まれなくても良い。なお、dATPとはデオキシアデノシントリホスフェート、dCTPとはデオキシシチジントリホスフェート、dGTPとはデオキシグアノシントリホスフェート、dTTPとはデオキシチミジントリホスフェートである。)、そしてテロメラーゼ活性測定の対象となる生体試料を含む。テロメラーゼの基質となる一本鎖DNAとは、テロメラーゼが結合することができ、かつ、その一本鎖DNAにテロメアDNAを伸長させることができるDNAのことを意味する。具体的には、テロメアDNAが挙げられる。またTSプライマーと呼ばれる一本鎖DNAも、テロメラーゼの基質となることが知られている。上記反応溶液1は必要に応じて、金属塩やpH緩衝能を有する化学物質などを含んでもよい。
【0023】
手順2:上記反応溶液1は、テロメラーゼ反応が進行する条件下に置かれる。
【0024】
手順3:手順2の処理後の上記テロメラーゼの基質となる一本鎖DNAと、RNaseHと、一本鎖RNAを含む反応溶液を調製する。この反応溶液を反応溶液2と呼ぶ。このとき、この一本鎖RNAの配列はテロメアDNAの配列と相補的な配列を含む。またこの一本鎖RNAには、蛍光物質と、この蛍光物質からの蛍光を蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence resonance energy transfer、以降、単にFRETと呼ぶ)によって消光する消光物質が修飾されている。これら蛍光物質および消光物質が上記一本鎖RNAに修飾される位置は、両物質間でFRETが生じる位置であればよい。
【0025】
手順4:上記反応溶液2は、RNaseHによるRNA分解反応(以降、この反応を単に「RNaseH反応」と呼ぶ)が進行する条件下に置かれる。RNaseH反応にはマグネシウムイオンが必要である。したがって、反応溶液2中にはマグネシウムイオンが含まれている必要がある。マグネシウムイオンは手順4までの工程中に添加されていればよい。
【0026】
手順5:手順4の後、上記蛍光物質に由来する蛍光強度を測定する。
【0027】
図1に示すように、仮に上記生体試料中のテロメラーゼが活性を有していれば、手順2において、テロメラーゼによりテロメアDNAが伸張される。そして手順4において、上記一本鎖RNAが伸張されたテロメアDNAに結合し、この結合したRNAはRNaseHにより分解される。このRNaseH反応により、上記一本鎖RNAに修飾されている蛍光物質と消光物質の間の距離は大きくなる。その結果、蛍光物質からの蛍光強度が大きくなる。一方で、仮に生体試料中のテロメラーゼが活性を有していない、あるいは生体試料中にテロメラーゼが含まれていない場合は、手順2において、テロメラーゼ反応は生じない。その結果、手順2において、RNaseH反応も生じない。したがって、上記一本鎖RNAに修飾された蛍光物質の蛍光強度にも変化は生じない。つまり手順5で測定される蛍光強度は、上記生体試料中に含まれるテロメラーゼ活性に依存する。言いかえれば、手順5で測定される蛍光強度をもとに、上記生体試料中のテロメラーゼ活性を解析することができる。
【0028】
本実施の形態1で示した方法では、PCRを用いることなくテロメラーゼ活性を測定することが可能である。また本実施の形態1の手順1、3、5の操作は、それぞれ5〜10分程度しかかからない。また手順2および4についても、それぞれ少なくとも30分かければよい。したがって、TRAPアッセイ法より短時間でテロメラーゼ活性を測定することが可能である。
【0029】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、本発明におけるテロメラーゼ活性測定方法の他の一例について説明する。
【0030】
本実施の形態は、以下の手順に従って行われる。
【0031】
手順1:反応溶液1を調製する。本実施の形態2における反応溶液1は、テロメラーゼの基質となる一本鎖DNA、dNTPs(実施例1と同じく、dATP、dGTP、dCTP、dTTPの混合試薬のことを意味する。ただしdCTPは必ずしも必要ない。)、RNaseH、一本鎖RNA、マグネシウム塩、そしてテロメラーゼ活性測定の対象となる生体試料を含む。テロメラーゼの基質となる一本鎖DNAとは、テロメラーゼが結合することができ、かつ、その一本鎖DNAにテロメアDNAを伸長させることができるDNAのことを意味する。具体的には、テロメアDNAが挙げられる。またTSプライマーと呼ばれる一本鎖DNAも、テロメラーゼの基質となることが知られている。また上記一本鎖RNAの配列はテロメアDNAの配列と相補的な配列を含む。またこの一本鎖RNAには、蛍光物質と、この蛍光物質からの蛍光をFRETによって消光する消光物質が修飾されている。これら蛍光物質および消光物質が上記一本鎖RNAに修飾される位置は、両物質間でFRETが生じる位置であればよい。上記反応溶液1は必要に応じて、マグネシウム塩以外の金属塩やpH緩衝能を有する化学物質などを含んでもよい。
【0032】
手順2:上記反応溶液1は、テロメラーゼ反応とRNaseH反応が進行する条件下に置かれる。
【0033】
手順3:手順2の後、上記蛍光物質に由来する蛍光強度を測定する。仮に上記生体試料中のテロメラーゼが活性を有していれば、手順2において、テロメラーゼによりテロメアDNAが伸張される。そして手順2において、上記一本鎖RNAが、伸張されたテロメアDNAに結合し、この結合したRNAはRNaseHにより分解される。このRNaseH反応により、上記一本鎖RNAに修飾されている蛍光物質と消光物質の間の距離は大きくなる。その結果、蛍光物質からの蛍光強度が大きくなる。一方で、仮に生体試料中のテロメラーゼが活性を有していない、あるいは生体試料中にテロメラーゼが含まれていない場合は、手順2において、テロメラーゼ反応は生じない。その結果、手順4において、RNaseH反応も生じない。したがって、上記一本鎖RNAに修飾された蛍光物質の蛍光強度にも変化は生じない。つまり手順3で測定される蛍光強度は、上記生体試料中に含まれるテロメラーゼ活性に依存する。言いかえれば、手順3で測定される蛍光強度をもとに、上記生体試料中のテロメラーゼ活性を解析することができる。
【0034】
本実施の形態2で示した方法では、PCRを用いることなくテロメラーゼ活性を測定することが可能である。また本実施の形態1の手順1および3の操作は、それぞれ5〜10分程度しかかからない。また手順2についても、少なくとも30分かければよい。したがって、TRAPアッセイ法より短時間でテロメラーゼ活性を測定することが可能である。
【0035】
(実施例)
本実施例で用いられる一本鎖RNAは全て、つくばオリゴサービス株式会社より購入した。またDNAは、つくばオリゴサービス株式会社より購入したものを用いるか、TRAPaze Telomerase Detection Kitに添付されていたものを用いた。またdNTPsは、TRAPaze Telomerase Detection Kitに添付されていたものを用いた。またテロメラーゼは、TRAPaze Telomerase Detection Kitに添付されていたHeLa細胞より抽出して用いた。抽出方法は、TRAPaze Telomerase Detection Kitに添付されていた説明書に従った。またRNaseHはタカラバイオ株式会社より購入し、用いた。また蛍光強度解析は、Thermo Scientific社製のVarioskanを用いて行った。
【0036】
(実施例1)
本実施例1では、テロメラーゼ反応が行われた後に得られるテロメラーゼ反応産物として想定した一本鎖オリゴDNAを設計し、購入した(以降、この一本鎖オリゴDNAをHteloDNA96と呼ぶ)。HteloDNA96の配列は5’−(TTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGG)−3’(配列番号:7)であった。そしてHteloDNA96と、蛍光物質および消光物質が修飾された一本鎖RNAと、RNaseHを反応させ、この反応に依存して蛍光強度が変化するか否かを検討した。一本鎖RNAは、5種類の異なる配列のものが検討された。これら5種類全ての一本鎖RNAの5’末端および3’末端には、それぞれFITC(蛍光物質)およびDabcyl(消光物質)が修飾されていた。また、これら5種類の一本鎖RNAの具体的な配列は5’−CCCUAA−3’(配列番号:2、以降、このRNAをRNA1と呼ぶ)5’−UAACCCUAA−3’(配列番号:3、以降、このRNAをRNA2と呼ぶ)5’−CCCUAACCC−3’(配列番号:4、以降、このRNAをRNA3と呼ぶ)5’−UAACCCUAACCCUAA−3’(配列番号:5、以降、このRNAをRNA4と呼ぶ)、5’−CUAACCCUAAC−3’(配列番号:6、以降、このRNAをRNA5と呼ぶ)であった。
【0037】
具体的な実験手順は次のとおりであった。まず、反応溶液を調製した。この反応溶液は、1μMHteloDNA96、100nM各種一本鎖RNA、40mMTris−HCl(pH8)、4mMMgCl2、1mMDTT、4%グリセロール、0.003%牛血清アルブミンを含み、全容量は100μLであった。次に、この反応溶液を80℃で2分間保温した後、2℃/minの降温速度で20℃まで冷やした。次に、RNaseH反応を行わせるため、この反応溶液に10U/μLRNaseHを1μL添加した後、30℃で30分間保温した。最後に、25℃条件下でFITC由来の蛍光強度解析を行った。励起光として482nmの光を用い、520nmの蛍光強度を測定した。また、以上の実験の比較実験として、上記反応溶液中にHteloDNA96が含まれない場合についても、同様の実験が行われた。
【0038】
結果を図2に示す。図2には各RNAを用いた場合において、反応溶液中にHteloDNA96が含まれた場合と、含まれなかった場合の蛍光強度が比較されている。これより、いずれのRNAを用いた場合も、反応溶液中にHteloDNA96が含まれていた場合の方が、含まれていなかった場合に比べ、優位に蛍光強度が大きいことが分かる。
【0039】
以上の結果は、本発明による方法によってテロメラーゼ活性を測定することが可能であることを示している。
【0040】
(実施例2)
本実施例2では、まずテロメラーゼ反応とRNaseH反応を順に行うことで、テロメラーゼの活性を測定できるか否かについて検討した。
【0041】
具体的な実験手順は次のとおりであった。まず、反応溶液を調製した。この反応溶液は、20mMTris−HCl(pH8.3)、4.5mMMgCl2、63mMKCl、0.05%Tween20、1mMEGTA、50μMdTTP、50μMdGTP、50μMdATP、50μMdCTP、TS primer、100nMRNA1、テロメラーゼを含み、全容量は100μLであった。ここで、TS primerの配列は5’−AATCCGTCGAGCAGAGTT−3’(配列番号:1)であった。TS primerはテロメラーゼの基質となることが知られている。また本実施例2のRNA1は、実施例1のRNA1と同じものであった。また、反応溶液中に含まれているテロメラーゼは、25000個のHeLa細胞から抽出されたものであった。次に、テロメラーゼ反応を行わせるために、反応溶液を30℃で30分間保温した。次に、テロメラーゼ反応を終了させるため、反応溶液を90℃で10分間保温した。次に、RNaseH反応を行わせるため、反応溶液に10U/μLRNaseHを1μL添加した後、30℃で30分間保温した。最後に、25℃条件下でFITC由来の蛍光強度解析を行った。励起光として482nmの光を用い、520nmの蛍光強度を測定した。また、以上の実験の比較実験として、上記反応溶液の調製の工程で、活性を有するテロメラーゼの代わりに、あらかじめ90℃で10分間保温処理することで失活させられたテロメラーゼが添加された場合についても、同様の実験が行われた。
【0042】
結果を図3に示す。図3には、反応溶液中に、あらかじめ熱処理によって失活させられたテロメラーゼが含まれていた場合と、活性を有するテロメラーゼが含まれていた場合の蛍光強度が比較されている。これより、活性を有するテロメラーゼが含まれていた場合の方が、失活させられたテロメラーゼが含まれていた場合に比べ、優位に蛍光強度が大きいことが分かる。
【0043】
以上の結果は、本発明による方法によって、PCRを用いず、短時間にテロメラーゼ活性を測定することが可能であることを示している。
【0044】
(実施例3)
本実施例3では、テロメラーゼ反応とRNaseH反応を同時に行うことで、テロメラーゼの活性を測定できるか否かについて検討した。
【0045】
具体的な実験手順は次のとおりであった。まず、反応溶液を調製した。この反応溶液は、20mMTris−HCl(pH8.3)、4.5mMMgCl2、63mMKCl、0.05%Tween20、1mMEGTA、50μMdTTP、50μMdGTP、50μMdATP、50μMdCTP、TS primer、100nMRNA1、テロメラーゼ、0.1U/μLRNaseHを含み、全容量は100μLであった。ここで、TS primerの配列は5’−AATCCGTCGAGCAGAGTT−3’(配列番号:1)であった。TS primerはテロメラーゼの基質となることが知られている。また本実施例3のRNA1は、実施例1および2のRNA1と同じものであった。また、反応溶液中に含まれているテロメラーゼは、25000個のHeLa細胞から抽出されたものであった。次に、テロメラーゼ反応およびRNaseH反応を行わせるために、反応溶液を30℃で1時間保温した。そして最後に、25℃条件下でFITC由来の蛍光強度解析を行った。励起光として482nmの光を用い、520nmの蛍光強度を測定した。また、以上の実験の比較実験として、上記反応溶液の調製の工程で、活性を有するテロメラーゼの代わりに、あらかじめ90℃で10分間保温処理することで失活させられたテロメラーゼが添加された場合についても、同様の実験が行われた。
【0046】
結果を図4に示す。図4には、反応溶液中に、あらかじめ熱処理によって失活させられたテロメラーゼが含まれていた場合と、活性を有するテロメラーゼが含まれていた場合の蛍光強度が比較されている。これより、活性を有するテロメラーゼが含まれていた場合の方が、失活させられたテロメラーゼが含まれていた場合に比べ、優位に蛍光強度が大きいことが分かる。
【0047】
以上の結果は、本発明による方法によって、PCRを用いず、短時間でテロメラーゼ活性を測定することが可能であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、PCRを用いず、短時間でテロメラーゼ活性を測定することができる方法を提供する。
【符号の説明】
【0049】
1 テロメラーゼの基質となるDNA
2 テロメラーゼ
3 テロメラーゼにより伸長されたDNA
4 蛍光物質
5 テロメラーゼにより伸長されたDNAと相補的に結合できる一本鎖RNA
6 消光物質
7 RNaseH活性を有する酵素
8 RNaseH活性を有する酵素により切断されたRNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テロメラーゼの活性を測定する方法であって、
(1)テロメラーゼと、テロメラーゼの基質となる一本鎖DNAを同一溶液中に置き、テロメラーゼ反応を行わせる工程
(2)前記テロメラーゼ反応に供せられた前記基質一本鎖DNAと、テロメアDNAの配列と相補的に結合できる配列からなり、かつ蛍光を発する官能基とこの蛍光を消光する官能基が修飾された一本鎖RNAと、RNaseH活性を有する酵素を、同一溶液中に置き、RNaseH反応を行わせる工程
(3)前記RNaseH反応中あるいは反応後に、前記蛍光を測定する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記テロメラーゼが、ヒトのテロメラーゼであることを特徴とする請求項1に記載のテロメラーゼ活性測定方法。
【請求項3】
前記基質一本鎖DNAの配列が、ヒトのテロメアDNAと同じ配列を含むことを特徴とする請求項2に記載のテロメラーゼ活性測定方法。
【請求項4】
前記基質一本鎖DNAの配列が5’−AATCCGTCGAGCAGAGTT−3’(配列番号:1)であることを特徴とする請求項2に記載のテロメラーゼ活性測定方法。
【請求項5】
前記一本鎖RNAの配列が、5’−CCCUAA−3’(配列番号:2)、5’−UAACCCUAA−3’(配列番号:3)、5’−CCCUAACCC−3’(配列番号:4)、5’−UAACCCUAACCCUAA−3’(配列番号:5)、5’−CUAACCCUAAC−3’(配列番号:6)からなる群から得られる少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載のテロメラーゼ活性測定方法。
【請求項6】
前記蛍光を発する官能基が前記一本鎖RNAの一方の末端部分に修飾されており、かつ、前記この蛍光を消光する官能基が前記一本鎖RNAのもう一方の末端部分に修飾されていることを特徴とする請求項1に記載のテロメラーゼ活性測定方法。
【請求項7】
前記RNaseH反応を行わせる工程において、反応溶液中にマグネシウムイオンが含まれていることを特徴とする請求項1に記載のテロメラーゼ活性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−205568(P2012−205568A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75020(P2011−75020)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】