説明

テンションバンドワイヤリング法に使用する器具及び結合具

【課題】テンションバンドワイヤと骨内挿入固定用ピンとを結合させて、骨内挿入固定用ピンが施術箇所から抜け出るのを防止する。
【解決手段】骨折治療法又は骨接合術であるテンションバンドワイヤリング法に使用する器具であって、テンションバンドワイヤ44と、骨内挿入固定用ピン43と、前記テンションバンドワイヤ44と骨内挿入固定用ピン43の基端部430を固定し保持する結合具100と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンションバンドワイヤリング法に使用する器具及び結合具に係り、更に詳しくは、テンションバンドワイヤ(ソフトワイヤともいい、以下「ワイヤ」という。)と骨内挿入固定用ピン(キルシュナー鋼線等が通常用いられる。以下「固定用ピン」という。)とを結合具により固定保持して、テンションバンドワイヤリング法により施療後、施療により骨内部に施術設置した固定用ピンが、膝、肘、足首、手首等の施術部若しくはその近傍の関節部の曲げ伸ばしによって施術箇所から抜け出るのを防止するものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、尺骨は、橈骨と並んで前腕内側にある長管状骨である。尺骨は、肘頭側が太く、尺骨頭側が細い。尺骨の肘頭側には、前上方から深く切れ込むように凹んだ滑車切痕があり、この部分が上腕骨の滑車と関節を形成し接合している。滑車切痕の中央には上腕骨の滑車のくぼみに対応する高まりが縦に走っている。
【0003】
滑車切痕の下端は前方に突き出して鈎状突起となり、切痕の後面は肥厚して肘頭を形成している。また、滑車切痕の下外側には、橈骨の関節輪状面に接する橈骨切痕がある。このように、尺骨の肘頭側の形状は複雑であり、上腕骨及び橈骨との接合形態も極めて繊細な関係を有している。
【0004】
一方で、尺骨肘頭部を骨折するケースは意外に多い。特に、高齢者が転倒したときに肘をついてしまうことによる骨折は、高齢化が進む現代において増加傾向にあり、将来的にもさらに増加するであろうことは容易に想像できる。
また、手首や足首等の関節部分に近接した骨の骨折も非常に多いのが現状である。
前記のような尺骨肘頭部や膝、足首、手首等の関節に近接した骨、または関節から遠い骨の骨折等、多くの骨折を治療・処置する場合の従来の方法としてテンションバンドワイヤリング法が広く一般的に行われている。(非特許文献1)。
【0005】
図10を参照してテンションバンドワイヤリング法を説明する。
テンションバンドワイヤリング法は、ステンレス鋼製の二本の固定用ピン43(差込線、通常キルシュナーワイヤもしくはキルシュナー鋼線とよばれるものが、汎用される。)とワイヤ44(締結線)を使用するものであり、骨折部の骨片を元のように合わせた後、二本の固定用ピン43を骨内に並列に打ち込んで刺して骨折部の骨片を固定する。
【0006】
あらかじめ固定用ピン43の先部側にあたる骨片に穿孔した横孔45にワイヤ44を通し、これを中間部で一度交差させ、骨片から出している両固定用ピン43の基端部430にくくりつけるようにし、その後、ワイヤ44の両端部分を縛り結ぶ。ワイヤ44の不要な端は邪魔にならないように切断し、固定用ピン43も所定の長さになるように端を切り取り、その後、短くなった突出部分を折り曲げるという方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】キャンベル整形外科手術書(全11巻)藤井克之(総監訳者)エルゼビア・ジャパン株式会社 第7巻「骨折と脱臼」P376〜377 2004年9月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記テンションバンドワイヤリング法には次の課題がある。
即ち、骨髄は柔らかいので、骨に差し入れられる固定用ピン43が、関節部位を動かす(曲げ伸ばしなど)等によって、これを締結するワイヤ44や固定用ピン43が緩んで張力が弱まる、または、固定用ピン43と骨髄との接触力が弱まることによって次第に抜け出る(所謂、バックアウト現象)という現象が生じてしまい、再手術が必要になる場合がある。
【0009】
このようなバックアウト現象は、テンションバンドワイヤリング法という施術方法においては、しばしば見受けられる現象であり、バックアウト現象防止をより確実にすることが、極めて重要な課題となっており、患者の負担を軽減することにも繋がる。
【0010】
また、固定用ピン43の抜け出を防止するために、ワイヤ44による各固定用ピン43を締結する力が強すぎると、各固定用ピン43が撓んで各骨片の接合面が離れ、滑車切痕の関節面(曲面)形状が元の形状とは変わってしまい、肘関節の可動域に本来とは異なる制限が生じるおそれがある。
【0011】
仮に、固定用ピン43が抜け出さないように、固定用ピン43の基端部430の上から、ワイヤ44で押さえようとした場合、同様に関節の動きにつれて、ワイヤ44がずれて、押さえがきかなくなり、その結果、同様に固定用ピン43が抜け出る恐れが生じるため、このような施術方法は採用されていない。
【0012】
(本発明の目的)
本発明の目的は、ワイヤと固定用ピンとを結合具を用いて双方を固定し一体化させてワイヤがずれることなく、且つ、固定用ピンが施術箇所から抜け出るのを防止し、テンションバンドワイヤリング法によって施術された患者が、違和感を感じないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するために、本発明が講じた手段は次のとおりである。
(1) 骨折治療法又は骨接合術であるテンションバンドワイヤリング法に使用する器具であって、
ワイヤと、固定用ピンと、前記ワイヤと固定用ピンの基端部を固定し保持する結合具と、を備えている、テンションバンドワイヤリング法に使用する器具である。
【0014】
(2) 結合具は、所要長さの主体を有し、該主体は、主体の長手方向において、平面を異にし且つ主体の軸に対して直交又は略直交する第1の挿通要素と第2の挿通要素を有し、
ワイヤ又は固定用ピンの何れか一方は前記第1の挿通要素又は第2の挿通要素の何れか一方の挿通要素に挿通され、他方は残りの挿通要素に挿通されるものであり、
前記挿通要素をそれぞれ貫通する前記ワイヤ及び固定用ピンは、主体の長手方向両側からそれぞれワイヤ及び固定用ピンに向かう押さえ込み具で押さえ込まれて前記主体に結合されるものである、前記(1)記載のテンションバンドワイヤリング法に使用する器具である。
【0015】
(3) 挿通要素が、主体を貫通する挿通孔、又は主体の両端からワイヤ及び固定用ピンの押さえ込み位置まで形成された、主体を貫通する溝状孔である、前記(2)のテンションバンドワイヤリング法に使用する器具である。
【0016】
(4) ワイヤと固定用ピンの少なくとも二つの構成材からなるテンションバンドワイヤリング法において、前記ワイヤと固定用ピンとの結合に使用する結合具であって、
外周面に雄ネジを有する棒状の主体と、
該主体の軸を中心に外方に突出し表裏両側に座面を有する鍔状の座体と、
前記主体の雄ネジと螺合する雌ネジを有する少なくとも二つのナット要素と、
を有し、
前記主体は、外周面に主体を貫通する第1の挿通要素と第2の挿通要素を有し、該第1の挿通要素と第2の挿通要素は、前記座体を間にし座体の両側の座面に沿って設けられており、
前記ワイヤ又は固定用ピンの何れか一方は前記第1の挿通要素又は第2の挿通要素の何れか一方の挿通要素に挿通され、他方は残りの挿通要素に挿通されるものであり、
前記挿通要素をそれぞれ貫通する前記ワイヤ及び固定用ピンは、前記主体の両端側から前記ナット要素で前記座体に押さえ込まれて前記主体と結合される、結合具である。
【0017】
(5) 座体及び/またはナット要素が円板状、楕円板状または多角板形状である前記(4)記載の結合具である。
【0018】
(6) 座体の表裏両側の座面には、第1の挿通要素及び第2の挿通要素に沿って固定用溝が設けられている、前記(4)又は(5)記載の結合具である。
【0019】
(7) ワイヤと固定用ピンの少なくとも二つの構成材からなるテンションバンドワイヤリング法において、前記ワイヤと固定用ピンとの結合に使用する結合具であって、
長手方向の両端面に開口部を有し、該開口部に連なり内周面に雌ネジを有する中空部を有する管状の主体と、
外周面に前記中空部の雌ネジと螺合する雄ネジを有するボルト要素と、
を有し、
前記中空部は非貫通部分である隔壁を有し、
前記主体は、外周面に主体の中空部を貫通する第1の挿通要素と第2の挿通要素を有し、該第1の挿通要素と第2の挿通要素は、前記隔壁を間にし隔壁の両壁面に沿って設けられており、
前記ワイヤ又は固定用ピンの何れか一方は前記第1の挿通要素又は第2の挿通要素の何れか一方の挿通要素に挿通され、他方は残りの挿通要素に挿通されるものであり、
前記挿通要素をそれぞれ貫通する前記ワイヤ及び固定用ピンは、前記主体の両端側から前記ボルト要素で前記隔壁に押さえ込まれて前記主体と結合される、結合具である。
【0020】
(8) ワイヤと固定用ピンの少なくとも二つの構成材からなるテンションバンドワイヤリング法において、前記ワイヤと固定用ピンとの結合に使用する結合具であって、
長手方向の両端面に開口部を有し、該開口部に連なり内周面に雌ネジを有する中空部を有する管状の主体と、
外周面に前記中空部の雌ネジと螺合する雄ネジを有するボルト要素と、
を有し、
前記中空部は一端から他端まで貫通しており、
前記主体は、外周面に主体の中空部を貫通し平面を異にする第1の挿通要素と第2の挿通要素を有し、
前記ワイヤ又は固定用ピンの何れか一方は前記第1の挿通要素又は第2の挿通要素の何れか一方の挿通要素に挿通され、他方は残りの挿通要素に挿通されるものであり、
前記挿通要素をそれぞれ貫通する前記ワイヤ及び固定用ピンは、前記主体の両端側から前記ボルト要素で押さえ込まれて前記主体と結合される、結合具である。
【0021】
(9) 主体の外周面に手指の掛かり要素及び/又は工具との嵌合要素を有し、ボルト要素の雄ネジ部分を除く外面又は外端面に工具との嵌合要素を有する、前記(7)又は(8)記載の結合具である。
【0022】
(10) 主体の手指の掛かり要素又は嵌合要素が、主体の外周面の一部に形成されている平面又は主体の外周面の全面に亘って形成されている多角面である、前記(9)記載の結合具である。
【0023】
(11) ボルト要素の外端面に、ドライバの嵌合溝又は嵌合穴を有する、前記(7)乃至(10)のいずれかの一つに記載の結合具である。
【0024】
(12) 第1の挿通要素と第2の挿通要素が交差状に配置されている前記(4)乃至(11)のいずれかの一つに記載の結合具である。
【0025】
(13) 交差状に配置された第1の挿通要素と第2の挿通要素は直交している前記(12)記載の結合具である。
【0026】
(14) 挿通要素が、主体を貫通する挿通孔、又は主体の両端部からワイヤ及び固定用ピンの押さえ込み位置まで形成された、主体を貫通する溝状孔である、前記(4)乃至(13)の何れかの一つに記載の結合具である。
【0027】
本明細書及び特許請求の範囲において、「主体」は所要長さを有するものであり、その基本的な形状の例として、棒状又は管状をあげることができる。棒状の主体は外周面に雄ネジを有し、管状の主体は長手方向の両端面に開口部を有し、該開口部に連なる中空部の内周面に雌ネジを有する。
【0028】
また、「ナット要素」の用語は、ナットを含み、棒状の主体にねじ込んでワイヤ又は前記固定用ピンを締め付けできるものを総称する意味で使用している。
同様に、「ボルト要素」の用語はボルトを含み、管状の主体にねじ込んでワイヤ又は前記固定用ピンを締め付けできるものを総称する意味で使用している。
【0029】
同様に「座体」の用語は、棒状の主体の、好ましくは長手方向の中央部に固定的に取り付けられ、又は主体と一体化して設置されている部分を指称して使用している。座体は、主体の軸から外方に向けて突出し、主体の断面積より大きな断面積を有し、挿通要素に挿入され貫通している固定用ピン及びワイヤをナット要素で押さえこんだ場合の受け面である座面を有している。
【0030】
なお、ナット要素を二つの挿通要素の間に設置することでも座体となり得るが、座体が動くと、施術の際に各結合要素を固着するための操作に支障をきたし、施術を効率的に行う阻害要因になる恐れが生じる場合もあり得る。したがって、ナット要素は前記した主体の位置から動かないように固定されるか、固定されているのと同様な状態であるのが好ましい。
【0031】
同様に「隔壁」の用語は、管状の主体の、好ましくは長手方向の中央部に位置し、中空部が連なるのを隔てる部分を指称して使用している。隔壁の両面は、挿通要素に挿入され貫通している固定用ピン及びワイヤをボルト要素で押さえこんだ場合の受け部となれば、中空部が完全に隔てられても、部分的(例えば内周面から中心に向けて円環状のものが突出する場合を含む。)に隔てられてもよい。
【0032】
挿通要素の貫通する軸線は、通常直線的に形成されるが、構成材の使用状況に合わせて曲線的に形成しても良い。
【0033】
第1の挿通要素及び第2の挿通要素の軸線は、必ずしも交差していなくても差し支えないが、交差、好ましくは直交していた方が、施術時における操作はよりし易くなる。
【0034】
テンションバンドワイヤリング法に使用する器具は、体内に残ることから、チタニウムやステンレス鋼など、インプラント材料と同等の材質であることが推奨される。
【0035】
本発明に係る結合具は、前記し及び後記する図1に示す第1の実施の形態のように、外周面に雄ネジを有する棒状の主体と、該主体の軸を中心に外方に突出し表裏両側に座面を有する鍔状の座体と、前記主体の雄ネジと螺合する雌ネジを有する少なくとも二つのナット要素と、を有し、前記主体は、外周面に主体を貫通する第1の挿通要素と第2の挿通要素を有し、該第1の挿通要素と第2の挿通要素は、前記座体を間にし座体の両側の座面に沿って設けられており、前記ワイヤ又は固定用ピンの何れか一方は前記第1の挿通要素又は第2の挿通要素の何れか一方の挿通要素に挿通され、他方は残りの挿通要素に挿通されるものであり、前記挿通要素をそれぞれ貫通する前記ワイヤ及び固定用ピンは、前記主体の両端側から前記ナット要素で前記座体に押さえ込まれて前記主体と結合される構成を有する。
【0036】
前記のように主体は、軸の中央部から外方に向けて突出した座体を有する。該座体は鍔状に形成されていることが好ましい。主体は全長又は座体部分を除いた略全長に亘って、出来るだけ座体面に近接する位置まで、雄ネジを有するボルト構造を有していることが好ましい。雄ネジは挿通孔の上部まで、もしくは、挿通孔の途中まで形成されているものでも、前記ナット要素でワイヤ又は固定用ピンが前記座体に押さえ込まれて前記主体と結合される機能を果たせば充分である。
【0037】
長手方向を上下方向とした場合において、主体の座体部分の直上及び直下には、それぞれ、ワイヤ及び固定用ピンを通すための挿通要素が、主体の軸方向に対して直角に貫通して設けられている。本発明に係る結合具では、二つの挿通要素の一つにワイヤを通し、他の一つに固定用ピンを通して使用する。
【0038】
二つの挿通要素にそれぞれ挿通されたワイヤ及び固定用ピンは、前記座体の座面と、前記ナット要素の座面により挟み込まれ、かつナット要素により押さえこまれることにより、座体に固定され結合具と一体となり、該結合具を介してワイヤ及び固定用ピンを一体的に結合する。その際に、ナット要素と座体との間にワッシャーや座金を装着すると、ナット要素が外れにくくなることから、ワッシャーや座金等の使用も推奨される。
【0039】
ナット要素の形態は、中心部分に形成された嵌合孔の内面に、前記主体の雄ネジに対応する雌ネジを有する板状体である。ナット要素の外形の形態は特に限定されることはないが、手又は工具による回転により締め易い形状が推奨される。
【0040】
その形状として具体的には、円板状、楕円板状、多角形板状等が例示され、形状が円板状や楕円板状である場合には、該円板の側面に細かい凹凸を設け、手又は工具の引っかかりを良くした側面形状や、円板の側面に少なくとも一つの孔を設け、該孔が回転用工具引っ掛かり部分となる構造等が推奨される。
【0041】
円板の側面の一部を削り取り、少なくとも二つの平行側面を形成し、該平面が手や回転工具の引っかかり部分を形成する形状も推奨される。また、多角形板状も同様に、手や工具が引っ掛かり易いことから推奨される。より好ましい若しくは入手し易いものとして6角板状のナットが例示される。
【0042】
主体の中央部に設置される鍔状の座体の形状は、ナット要素との相互作用により、前記挿通要素に挿通された固定用ピン及びワイヤを挟み込むことにより固定できる形状であれば特に限定はされない。
【0043】
具体的には、座体の外形は、円板状、楕円板状、多角形板状のものが推奨され、形状が円板状や楕円板状である場合には、該円板の側面に細かい凹凸を設け、手や、工具の引っかかりを良くした側面形状や、円板の側面に少なくとも一つの孔を設け、該孔が回転用工具引っ掛かり部分となる構造等が推奨される。また、円板の側面の一部を削り取り、少なくとも二つの平行側面を形成し、該平面が手や回転工具の引っかかり部分を形成する形状が推奨される。更に、多角形板状も同様に、手や工具が引っ掛かり易いことから推奨される。
【0044】
座体の表裏両側の座面に挿通要素と同一の向きに沿って、溝を設けることも推奨される。溝を設けることによって、座体とナット要素によって挟み込まれたワイヤ及び/または固定用ピンは、外側面の一部が溝内に沈み込むために、ワイヤ及び/または固定用ピンが、より確実に結合具によって固定され結合されることとなる。
溝の形状は、三角状、四角状等の多角形の形状、半円状等の形状が推奨される。これらの形状の溝に、ワイヤ及び/または固定用ピンが部分的に埋設されるようにする。
【0045】
溝の深さとしては、ワイヤ及び/または固定用ピンのそれぞれに対応する直径(太さ)以下であることが推奨される。更に好ましくは、これらのそれぞれに対応する直径の1/2以下であることが推奨される。従って、溝の幅についても同様に、ワイヤ及び/または固定用ピンの直径以下、さらに好ましくは直径の1/2以下であることが推奨される。
【0046】
溝の深さが、ワイヤ及び/または固定用ピンの直径を超えてしまうと、実質的に、溝内にこれら、ワイヤ及び/または固定用ピンが完全に埋設されてしまう場合があり、ナット要素による押さえつけが出来なくなり、この結果固定が出来なくなる場合が生じる。また、溝の幅がこれらのそれぞれに対応する直径よりも狭ければ、完全にワイヤ及び/または固定用ピンは埋設されることはなく固定は可能であるが、溝が深ければ、その分座体の厚みを増すこととなり、その結果、結合具自体が、必要以上に大きくなり、好ましくない結果をもたらす恐れがある。
【0047】
溝の幅についても、ワイヤ及び/または固定用ピンのそれぞれに対応する直径よりも大きい場合は、実質的に溝を設けた効果が発揮できない恐れがある。そのため好ましくは、ワイヤ及び/または固定用ピンのそれぞれに対応する直径以下、さらに好ましくは直径の1/2以下が推奨される。この幅を設定することで、座体とナット要素による締め付け・挟み込みにより、ワイヤ及び/または固定用ピンと座面との接触による引っかかりがよくなり、締め付け時にワイヤ及び/または固定用ピンが座面上でずれることを防止することが出来る。
【0048】
次に、挿通要素の一つである主体を貫通する挿通孔について説明する。挿通孔の形状としては、円形、楕円形、多角形のいずれの形状でも差し支えない。ワイヤ及び固定用ピンのぞれぞれが、それぞれに対応する穴に挿通できればよいが、ワイヤ及び固定用ピンの形状(断面形状)が円形であること、また、最小の孔径で所望の機能を発揮すること等の観点から、円形であることが好ましい。
【0049】
挿通孔は、ワイヤ及び固定用ピンが、ナット要素の抑え込みにより、それぞれが、効率よく座体の座面と充分な接触が行える位置に設ければ、設置位置は、特に限定はしない。ワイヤ及び固定用ピンが、ナット要素の抑え込みにより、それぞれが、効率よく座体の座面と充分な接触が行える位置に設ければよく、座体が水平状態にあれば座面の直上及び直下に設けることが好ましい。
【0050】
具体的には、ワイヤ用挿通孔、固定用ピン用の挿通孔のそれぞれの、座体との近接に関して、該孔の縁部分と座面がほぼ接する位置であることが好ましい。具体的には、座面と該孔縁との最小距離が0(接する状態)から孔に挿通する、対応するワイヤの直径及びの固定用ピン直径のそれぞれ3倍以下の距離であることが好ましい。さらに好ましくは、接しているか、1倍以下であることが推奨される。
【0051】
座面と孔縁との距離が余りに離れていると、ナット要素で抑え込む際に、ワイヤや固定用ピンの撓みに対する抵抗力等によって座面との接触が不十分或いは接触しないこととなり、ワイヤや固定用ピンの結合具による固定が不十分となる恐れがある。
【0052】
挿通孔の位置が座面よりも深くなった場合には、孔径の大きさによっては、ワイヤや固定用ピンの挿通が出来なくなったりする恐れがある。
ただし、座面に前記した溝が設けられている場合は、溝の形態(例えば、挿通孔と同一の形態)によっては、溝の深さまで孔の位置を下げることも可能である。
【0053】
また、これら挿通のための挿通孔の大きさは、操作的にワイヤ及び固定用ピンがそれぞれの孔に挿通し易い大きさである必要があり、挿通できる大きさであれば特にその大きさは限定されないが、ワイヤ及び固定用ピンの断面径と同一の大きさであれば、操作上、実質的に挿通することが不可能であり、幾分断面径よりも大きくする必要がある。
【0054】
また、これらの断面径に対してあまりに大きくすれば、座体とナット要素による挟みつけをすることはできるが、棒状体のボルト部の大きさが過大となり、それに付随してナット要素の外径も過大となり、結合具が大きくなって患者への違和感等の問題から、使用に適さない恐れがある。
【0055】
具体的には、ワイヤ挿通用及び固定用ピン挿通用の挿通孔の孔径は、それぞれ、使用するワイヤ及び固定用ピンのそれぞれ対応する断面直径の長さの、少なくとも101%以上、300%以下、さらに好ましくは105%以上250%以下の範囲でそれぞれの孔径であることが推奨される。ワイヤと固定用ピンの断面径は後記するように通常異なるが、この範囲であれば、双方の孔大きさを同一として使用することもできる。
【0056】
次に挿通要素の一つである溝状孔について説明する。
溝状孔は、主体の両端からワイヤ及び固定用ピンの押さえ込み位置まで形成されており、主体を側面方向から貫通する。前記押さえ込み位置は、主体が棒状体で座体を有するものは、溝状孔の内端が、座面と面一になるように設けることが好ましい。具体的には、座面と溝状孔の内端縁との最小距離が0(接する状態)となる位置である。
【0057】
次に棒状の主体について更に説明する。主体は外周面に雄ネジを有し、長手方向の中央部に鍔状に突出した座体を有する。主体の直径は特に限定されないが、構造上、必然的に挿通要素の直径又は溝幅よりも大きくなる。また、余りに大きくすれば、結合具自体の大きさが過大となり好ましくない。
従って、主体の直径は、挿通要素の直径又は溝幅に比較して120%以上が推奨され、好ましくは150%以上が推奨される。主体の直径が挿通要素の直径又は溝幅の500%を超えることは結合具が過大となり、患者への違和感等の問題から、使用に適さない恐れがある。
【0058】
また、座体の両側に位置する雄ネジ部分の長さは特に限定されず、それぞれのナット要素と座体により挟み・押さえつけた状態で、ナット要素が外れないで十分にその機能を発揮できる長さである必要がある。余りに長くすれば前記した、結合具が過大となり、患者への違和感等の問題から、使用に適さない恐れがある。
具体的には、座体を間にして両側に位置する雄ネジ部分の長さは、前記の挿通要素の直径又は溝幅の2倍以上の長さであることが好ましく、更に好ましくは3倍以上の長さであることが推奨される。然しながら10倍以上の長さでは、結合具が過大となる恐れがある。
【0059】
座体については、その厚さは、挿通要素に挿通した、ワイヤ及び固定用ピンを、ナット要素で締め付けて押さえこんだ際、座体とナット要素が抑え込みの力によって変形しない厚さとなることが好ましい。ただし、変形したとしても、挟み込み、固定は可能であるが、操作的な問題や、時間の経過とともに挟み込みによる固定化が不完全となる恐れがある。
【0060】
具体的には、材質の強度や硬さにもよるが、操作上の観点等も考慮し、たとえば材質としてステンレスを用いた場合には、挿通要素の直径の長さの1/10以上の厚さであることが好ましい。更に好ましくは1/5以上であることが推奨される。また、挿通要素の直径の長さの2倍を超えない厚みであることも推奨される。
【0061】
座体は、円形、楕円形、多角形等の形状で主体の中央部に鍔状に突出して設けられているが、その大きさは、主体の直径よりも当然大きくする必要がある。少なくとも、挿通されたワイヤ及び固定用ピンがナット要素によって押さえつけられ、座体と接触する部分については、主体よりはみ出た座面を構成させる必要がある。
具体的には、挟み込み・抑えつけによって、固定が有効に行えるように、少なくとも、該座体における最大径が、主体径の1.2倍以上3倍以下であることが好ましい。
【0062】
また、主体は、座体の座面から主体の両端部に至る全てにおいて雄ネジを設けた構造とすることが好ましい。加工上の問題等により、前記構造とすることが困難な場合は、少なくともワイヤ及び固定用ピンをナットにより十分に抑えることが出来る位置までは雄ネジ構造を必要とする。
【0063】
したがって、雄ネジは座体の座面から、少なくとも、ワイヤ及び固定用ピンの直径を超えないことが、ナット要素として一般的な市販の構造のナットを使用する場合には推奨される。無論、ナット要素の構造によってはこれを超えても、抑えつけによる固定が可能となる場合もある。
【0064】
ナット要素は、雄ネジに螺着し回転させて締め込み、ワイヤ及び固定用ピンをそれぞれ抑え込み固定することから、中央に主体との嵌合孔を有し、かつ嵌合孔の内面に主体の雄ネジに対応した雌ネジが形成される。また、ナット要素の大きさ(外径)は、座体の最大径と同一であることが好ましいが、幾分大きいか、幾分小さくなっても差し支えない。
【0065】
また、本発明に係る結合具の他の実施の形態として、前記し及び後記する図5乃至7に示す実施の形態も推奨される。
他の実施の形態としては、長手方向の両端面に開口部を有し、該開口部に連なり内面に雌ネジを有する中空部を有する管状の主体と、外周面に前記中空部の雌ネジと螺合する雄ネジを有するボルト要素と、を有し、前記中空部は非貫通部分である隔壁を有し、前記主体には、外周面に主体の中空部を貫通する第1の挿通要素と第2の挿通要素を有し、該第1の挿通要素と第2の挿通要素は、前記隔壁を間にし隔壁の両壁面に沿って設けられており、前記ワイヤ又は固定用ピンの何れか一方は前記第1の挿通要素又は第2の挿通要素の何れか一方の挿通要素に挿通され、他方は残りの挿通要素に挿通されるものであり、前記挿通要素をそれぞれ貫通する前記ワイヤ及び固定用ピンは、前記主体の両端側から前記ボルト要素で前記座体に押さえ込まれて前記主体と結合される構成を有する。
【0066】
また、前記の管状の主体と異なり、中空部は一端から他端まで貫通しており、前記管状の主体は、外周面に主体の中空部を貫通し平面を異にする第1の挿通要素と第2の挿通要素を有する構成とすることもできる。
【0067】
次に、ワイヤ及び固定用ピンについて説明する。
ワイヤは、通常のテンションバンドワイヤリング法に使用するワイヤが使用出来る。市販のテンションバンドワイヤリング法で使用するワイヤを用い施療し、縛り付けた後、余分な部分を切除する。その径は、通常0.9mmである。無論、これより、小さくても、また大きくても、本発明に使用することが出来る。
【0068】
固定用ピンは、通常、キルシュナーワイヤと呼ばれるピンが使用される。キルシュナーワイヤは、通常、円柱状の鋼線(ステンレス等)で、その先端が、面取りにより、鋭利な形状となっている。先端形状は2面構成で先端が直線状にとがった形としたものや、多面形状(通常の釘状)にとがっており、先端側から骨髄内に打ち込み、基端の不要部分は切除して使用する。
具体的には、本発明では、骨髄に打ち込み、他端を曲げ結合具の挿通孔に通した後、不要部を切除して用いる。一般的に市販品のキルシュナーワイヤは、その断面直径が0.9〜2.5mmであり、通常、1.5〜2.0mmが用いられる。
【0069】
(作用)
本発明に係る結合具の作用を第1の実施の形態に対応する図2、3を用いて具体的に説明する。
なお、ここでは、説明で使用する各構成要件に、後述する実施の形態において各部に付与した符号を対応させて付与するが、この符号は、あくまで内容の理解を容易にするためであって、代表的な一例を示したに過ぎず、各構成要件の意味を上記各部に限定するものではない。また、形状等についても、これら図示した形状のみに限定されるものではない。
【0070】
骨折した骨片を元のように合わせた後、二本の固定用ピン43を骨内に並列に差して骨片を固定し、固定用ピン43の先部側にあたる骨片に穿孔した横孔45にワイヤ44を通し、これを中間部で一度交差させ、両端部440を捻り締めて固定する。
【0071】
その際に、外周面に雄ネジを有する棒状の主体10に装着されている座体20の両側に設けられている第1の挿通要素14又は第2の挿通要素16のいずれか一方の挿通要素に、ワイヤ44又は固定用ピン43の基端部430の何れか一方を挿通し、他方の挿通要素に他方の構成材を挿通する。その後、主体10の両端側からそれぞれナット要素40、50を螺合して座体20に向けて締め付けてワイヤ44と二本の固定用ピン43とを結合する。
【発明の効果】
【0072】
本発明によれば、ワイヤと固定用ピンとが結合具によって結合されて一体となり、ワイヤが骨に固定されていることから、ワイヤと結合している固定用ピンも固定され、施術箇所から抜け出るのを防止できる。
また、固定用ピンが抜け出るのを防止できることから、ワイヤによる固定用ピンを締結する力も必要以上に強くする必要がなくなり、固定用ピンの撓みも防止され、ひいては各骨片の接合面が離れ滑車切痕の関節面(曲面)形状が元の形状とは変わることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】結合具の第1の実施の形態を示しており、(a)はナット要素を主体から取り外した分解斜視説明図、(b)は主体の挿通孔にワイヤと固定用ピンを挿通しナット要素で押さえている状態を示す斜視説明図である。
【図2】図1に示す結合具と、ワイヤ及び固定用ピンを使用してテンションバンドワイヤリング法を実施している状態を示した側面視概略説明図である。
【図3】図2の概略説明図を底面側から見た概略説明図である。
【図4】結合具の第2の実施の形態を示しており、ナット要素を主体から取り外した分解斜視説明図である。
【図5】結合具の第3の実施の形態を示しており、ボルト要素を主体から取り外した分解斜視説明図である。
【図6】結合具の第4の実施の形態を示しており、ボルト要素を主体から取り外した分解斜視説明図である。
【図7】結合具の第5の実施の形態を示しており、ボルト要素を主体から取り外した分解斜視説明図である。
【図8】結合具の第6の実施の形態を示しており、ナット要素を主体から取り外した分解斜視説明図である。
【図9】結合具の第7の実施の形態を示しており、ボルト要素を主体から取り外した分解斜視説明図である。
【図10】従来のテンションバンドワイヤリング法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本発明を図面に示した実施の形態に基づき詳細に説明する。
図1(a)(b)には、第1の実施の形態に係る結合具を示している。
結合具100は、外周面に雄ネジ12を有する棒状の主体10と、主体10の軸を中心として外方に突出する鍔状の座体20と、主体10に螺合される一対のナット要素40、50を備える。
【0075】
主体10は、中心部分に位置する座体20から、その上下に雄ネジ12を有し、結合具100全体は、座体20を間にしていわゆる上下にボルトを配置した形状となっている。
主体10の両端側からは、中心部に向かってナット要素40、50が螺合される。座体20とナット要素40、50により固定用ピン43及びワイヤ44を挟み込んで固定用ピン及びワイヤを固定するために、ナット要素40、50はねじ込むことができるようになっている。
主体10と座体20は一体に形成されており、例えば、鍛造や切り出し(旋盤加工)等で製作される。
【0076】
このことは次の理由による。すなわち、施術の際にナット要素40、50を用いて主体10に固定用ピン43とワイヤ44を結合するにあたり、座体20が動くと、これらの結合要素を固着するための操作に支障をきたし、施術を効率的に行う阻害要因になるからである。したがって、基本的には座体20は主体10と一体に形成される。
無論、座体20が主体10に固定状態でなく、内周面が雌ネジ形状のナット形態であっても本発明の結合具となり得る。同様に、固定状態でないワッシャー要素であっても本発明の結合具となり得る。
【0077】
具体的には、座体20が、主体10と一体化していなくて、ナット要素またはワッシャー要素である場合には、主体10が貫通する中央部分に貫通孔を有する。この場合、主体10の雄ネジ12は、主体10全体にわたって配しておくことが好ましい。特に座体20の中心部分が前記主体10の雄ネジ12に対応する雌ネジ構造で貫通している場合は、主体10全体にわたって雄ネジ構造とする必要がある。また、座体20が単純なワッシャー等の構造であれば、主体10の上記二つの挿通孔間の部分は必ずしも雄ネジ構造を必要とすることはない。
【0078】
主体10は、座体20の両側の座面23、24に沿って、交差状に配置されている第1の挿通要素である挿通孔14及び第2の挿通要素である挿通孔16を有する。第1の挿通孔14と第2の挿通孔16は、座体20の厚み分、主体10の長手方向に対して平面を異にしている。
【0079】
第1の挿通孔14及び第2の挿通孔16の内面のうち座体20側の内面は、それぞれの挿通孔に対応する座面23、24と面一状態又はそれに近似する状態であるのが、結合を維持する観点から好ましい。しかし、ナット要素40、50の締付けによって挿通孔14を貫通した固定用ピン43と挿通孔16を貫通したワイヤ44とが、座体20と一体的に結合できれば、必ずしも前記条件には限定されない。
【0080】
図1(b)、図2、3に示すように、第1の挿通孔14には、テンションバンドワイヤリング法における構成材である固定用ピン43の基端部430が挿通され、第2の挿通孔16には同様の構成材であるワイヤ44が挿通される。
なお、結合具100が倒置して使用される場合は、第2の挿通孔16に固定用ピン43の基端部430を、第1の挿通孔14にワイヤ44を挿通しても良い。要するに、挿通孔の一方に構成材の一方が挿通されれば、挿通孔の他方には、構成材の他方が挿通されることになる。
【0081】
一対のナット要素40、50は、それぞれ主体10の両端からねじ込まれ、各挿通孔14、16に挿通されている固定用ピン43とワイヤ44を座体20の座面23、24とナット要素40、50の座面42、52の間で挟着し締め付け、結合具100を介して固定用ピン43とワイヤ44とを結合する。
【0082】
なお、ナット要素40、50は、公知の緩み防止手段が好適に採用される。また、ナット要素40、50は、緩み防止のためにそれぞれ二重構造であってもよい。
【0083】
(作用)
図1から図3を参照して、第1の実施の形態に係る結合具を使用したテンションバンドワイヤリング法における作用を説明する。なお、図2、3においては、理解を助けるために結合具の大きさを誇張して描いており、実際は、体内に残しても違和感のない大きさである。
【0084】
骨折した骨片を元のように合わせた後、二本の固定用ピン43を骨内に並列に刺して骨片を固定する。固定用ピン43の先部側にあたる骨片に穿孔した横孔45にワイヤ44を通し、これを中間部で一度交差させ、両端部440を捻り締めて固定する。
【0085】
その際に、結合具100が二本の固定用ピン43のそれぞれの基端部430とワイヤ44との結合に使用される。具体的には、ワイヤ44を主体10の第2の挿通孔16に挿通し、二本の固定用ピン43のそれぞれの基端部430を、第1の挿通孔14に挿通しておく。そして主体10の両端からそれぞれナット要素40、50を螺合しねじ込み、固定用ピン43及びワイヤ44の上からそれぞれ座体20の座面23、24に締付ける。これによって、固定用ピン43とワイヤ44が結合具100を介して結合され、固定用ピン43が施術箇所から抜け出るのを防止できる。
なお、図2、3では、固定用ピン43の基端部430は直線状であるが、折り曲げることもできる。
【0086】
図4は、本発明に係る結合具の第2の実施の形態を示している。基本的構成は前記第1の実施の形態と同じであり、第1の実施の形態と同一又は同等箇所には同一符号を付している。
【0087】
結合具100aは、座体20aの一方の座面23aに固定用ピン43の動きを制限し固定する溝25を有し、また、座体20aの他方の座面24aにワイヤ44の動きを制限し固定する溝26を有する点、主体10aが有する第1の挿通孔14及び第2の挿通孔16の間隔は溝25、26の深さの分だけ狭く(短く)なっている点、において図1に示す結合具と異なっている。
作用においては、固定用ピン43とワイヤ44の動きが溝25、26によって制限され、固定がより確実となっている点を除き、概ね第1の実施の形態と同じであるため、第1の実施の形態の説明を援用する。
【0088】
図5は、本発明に係る結合具の第3の実施の形態を示している。第1の実施の形態と同等又は同一箇所には同じ符号を付している。
所要長さの管状の主体10bは円筒形状であり、外周面の長手方向の略中央部分に六角形状の嵌合要素18を、また長手方向の両端面に開口部11、11を有する。嵌合要素18は、手指の掛かりや工具の嵌合部として使用される。このことから、該嵌合要素18は必ずしも六角形状でなくともよい。
【0089】
主体10bは、両端面の開口部11、11に連なる中空部17を有する。中空部17は、主体10bの嵌合要素18部分の位置に中空部を隔てる隔壁170を有する。中空部17の内周面には雌ネジ19を有する。また、主体10bは、隔壁170を間にして周面から中空部17を直交方向に貫通する第1の挿通孔140及び第2の挿通孔160を有する。なお、中空部は隔壁を除いた貫通状態とすることもできる。
【0090】
中空部17には、軸の外周面に、前記雌ネジ19と螺合する雄ネジ120を有する一対のボルト要素13b、13bを螺合し、固定用ピン43及びワイヤ44の押さえ具として使用する。ボルト要素13b、13bのヘッド131、131の外端面には、ドライバの先端部と嵌合する溝状の嵌合部150、150が形成されている。この実施の形態では、嵌合部150、150は先端が「+」のドライバ用であるが、「−」のドライバ用とすることもできるし、「+」「−」両方に使用する形状とすることもできる。
【0091】
(作用)
使用方法は、押さえ具がナット要素からボルト要素に代わった以外は、概ね第1の実施の形態と同じである。すなわち、ワイヤ44を主体10bの第2の挿通孔160に挿通し、固定用ピン43の基端部430を第1の挿通孔140に挿通する。嵌合要素18にスパナのような工具(図示省略)を嵌合して主体10bの追従回転の防止を図る。
【0092】
ヘッド131の嵌合部150にドライバ(図示省略)の先端を嵌合する。その後ドライバで主体10bの両端側からそれぞれボルト要素13b、13bを螺合しねじ込み、固定用ピン43及びワイヤ44を隔壁170に押さえて締付け、主体10bと一体に結合する。これにより、結合具100bを介して固定用ピン43とワイヤ44が結合され、固定用ピン43が施術箇所から抜け出るのを防止できる。
なお、中空部に隔壁がない貫通状態の場合は、両ボルト要素の先端で固定用ピン及びワイヤを押さえつけて結合具との一体化を図ることになる。
【0093】
図6、図7は、本発明に係る結合具の第4、第5の実施の形態を示している。第4及び第5の実施の形態では、主体の嵌合要素及びボルト要素の外端面の嵌合部を異にし、その他は概ね図5に示す第3の実施の形態に係る結合具と同じであり、同等又は同一箇所には同じ符号を付している。
【0094】
図6に示す第4の実施の形態では、結合具100cの主体10cは円筒形状であり、工具との嵌合要素は、外周面に対向して設けられている嵌合溝18c、18cである。また、ボルト要素13c、13cの外端面に形成されているドライバの嵌合部150c、150cが角穴形状である。
【0095】
第1の挿通孔140と第2の挿通孔160の間の中空部17に、中空部を隔てる隔壁170を有する。第1の挿通孔140と第2の挿通孔160に挿通された固定用ピン43とワイヤ44は、ボルト要素13c、13cによってそれぞれ隔壁170に締付けられる。
その他の構成は第3の実施の形態と概ね同じであり、作用についても概ね同じであるから、第3の実施の形態の説明を援用する。
【0096】
図7に示す第5の実施の形態では、結合具100dの主体10dの形状が六角形の角筒形状(長ナット形状)であり、工具との嵌合要素は外周面に対向して設けられている六箇所の嵌合面18d、18dである。また、ボルト要素13d、13dにヘッドが欠落し、外端面にドライバの先端部と嵌合する溝状の嵌合部150、150が形成されている点において前記第3、第4の実施の形態と異なっている。その他の構成は第3の実施の形態と概ね同じであり、作用についても概ね同じであるから第3の実施の形態の説明を援用する。
【0097】
図8は、本発明に係る結合具の第6の実施の形態を示している。基本的構成は前記第1の実施の形態と同じであり、第1の実施の形態と同一又は同等箇所には同一符号を付している。第1の実施の形態においては、主体には挿通孔が形成されているが、本実施の形態では溝状孔である点において異なっている。
【0098】
結合具100eは、主体10eと、主体10eの軸を中心として外方に突出する鍔状の座体20と、主体10eに螺合される一対のナット要素40、50を備える。
主体10eは、両端からワイヤ及び固定用ピンの押さえ込み位置まで形成されると共に主体10eを貫通する溝状孔14e、16eを有する。前記押さえ込み位置は、座体20の両側面に位置する座面23、23の位置であり、溝状孔14e、16eの内端が、座面23、23と面一になるように設けることが好ましい。具体的には、座面23と溝状孔の内端縁との距離が0となる位置である。
【0099】
また、第2の実施の形態のように、座体の座面に固定用ピン及びワイヤの動きを制限し固定する溝を有してもよい。
本実施の形態に係る結合具は、側面側からだけでなく、両端面側からも固定用ピン及びワイヤを挿入できるので、施術際の固定用ピン及びワイヤの挿入の自由度が高い。
その他の構成は第1の実施の形態と概ね同じであり、作用についても概ね同じであるから第1の実施の形態の説明を援用する。
【0100】
図9は、本発明に係る結合具の第7の実施の形態を示している。基本的構成は前記第5の実施の形態と同じであり、第5の実施の形態と同一又は同等箇所には同一符号を付している。
第5の実施の形態においては、主体には挿通孔が形成されているが、この実施の形態では溝状孔である点において異なっている。
【0101】
結合具100fの主体10fは、基本的形状が六角形の角筒形状であり、両端面の開口部11、11に連なる中空部17を有する。中空部17は、主体10fの長手方向略中央部の位置に中空部を隔てる隔壁170を有する。中空部17の内周面には雌ネジ19を有する。主体10fの両端からワイヤ及び固定用ピンの押さえ込み位置まで、主体10fを貫通する溝状孔140f、160fが形成されている。工具との嵌合要素は外周面に対向して設けられている六箇所の嵌合面18f、18fである。
【0102】
また、前記第5の実施の形態と同様に、ボルト要素13f、13fにヘッドが欠落し、外端面にドライバの先端部と嵌合する溝状の嵌合部150、150が形成されている。
なお、第3、第4の実施の形態の主体に溝状孔を形成することもできる。
本実施の形態に係る結合具は、側面側からだけでなく、両端面側からも固定用ピン及びワイヤを挿入できるので、施術際の固定用ピン及びワイヤの挿入の自由度が高い。その他の構成は第3乃至5の実施の形態と概ね同じであり、作用についても概ね同じであるから第3乃至第5の実施の形態の説明を援用する。
【0103】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0104】
100 結合具
100a 結合具
100b 結合具
100c 結合具
100d 結合具
100e 結合具
100f 結合具
10 主体
10a 主体
10b 主体
10c 主体
10d 主体
10e 主体
10f 主体
11 開口部
12 雄ネジ
13b ボルト要素
13c ボルト要素
13d ボルト要素
13f ボルト要素
14 挿通孔
14 挿通要素
14e、16e 溝状孔
16 挿通孔
16 挿通要素
17 中空部
18 嵌合要素
18c 嵌合溝
18d 嵌合面
18f 嵌合面
19 雌ネジ
20 座体
20a 座体
23 座面
23a 座面
24a 座面
25 溝
26 溝
40、50 ナット要素
42、52 座面
43 固定用ピン
44 テンションバンドワイヤ
44 ワイヤ
45 横孔
120 雄ネジ
131 ヘッド
140 挿通孔
140f、160f 溝状孔
150 嵌合部
150c 嵌合部
160 挿通孔
170 隔壁
430 基端部
440 両端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨折治療法又は骨接合術であるテンションバンドワイヤリング法に使用する器具であって、
テンションバンドワイヤと、
骨内挿入固定用ピンと、
前記テンションバンドワイヤと骨内挿入固定用ピンの基端部を固定し保持する結合具と、
を備えている、
テンションバンドワイヤリング法に使用する器具。
【請求項2】
結合具は、所要長さの主体を有し、該主体は、主体の長手方向において、平面を異にし且つ主体の軸に対して直交又は略直交する第1の挿通要素と第2の挿通要素を有し、
テンションバンドワイヤ又は骨内挿入固定用ピンの何れか一方は前記第1の挿通要素又は第2の挿通要素の何れか一方の挿通要素に挿通され、他方は残りの挿通要素に挿通されるものであり、
前記挿通要素をそれぞれ貫通する前記テンションバンドワイヤ及び骨内挿入固定用ピンは、前記主体の長手方向両側からそれぞれテンションバンドワイヤ及び骨内挿入固定用ピンに向かう押さえ込み具で押さえ込まれて前記主体に結合されるものである、
請求項1記載のテンションバンドワイヤリング法に使用する器具。
【請求項3】
挿通要素が、主体を貫通する挿通孔、又は主体の両端からテンションバンドワイヤ及び骨内挿入固定用ピンの押さえ込み位置まで形成された、主体を貫通する溝状孔である、請求項2記載のテンションバンドワイヤリング法に使用する器具。
【請求項4】
テンションバンドワイヤと骨内挿入固定用ピンの少なくとも二つの構成材からなるテンションバンドワイヤリング法において、前記テンションバンドワイヤと骨内挿入固定用ピンとの結合に使用する結合具であって、
外周面に雄ネジを有する棒状の主体と、
該主体の軸を中心に外方に突出し表裏両側に座面を有する鍔状の座体と、
前記主体の雄ネジと螺合する雌ネジを有する少なくとも二つのナット要素と、
を有し、
前記主体は、外周面に主体を貫通する第1の挿通要素と第2の挿通要素を有し、該第1の挿通要素と第2の挿通要素は、前記座体を間にし座体の両側の座面に沿って設けられており、
前記テンションバンドワイヤ又は骨内挿入固定用ピンの何れか一方は前記第1の挿通要素又は第2の挿通要素の何れか一方の挿通要素に挿通され、他方は残りの挿通要素に挿通されるものであり、
前記挿通要素をそれぞれ貫通する前記テンションバンドワイヤ及び骨内挿入固定用ピンは、前記主体の両端側から前記ナット要素で前記座体に押さえ込まれて前記主体と結合される、
結合具。
【請求項5】
座体及び/またはナット要素が円板状、楕円板状または多角板形状である請求項4記載の結合具。
【請求項6】
座体の表裏両側の座面には、第1の挿通要素及び第2の挿通要素に沿って固定用溝が設けられている、請求項4又は5記載の結合具。
【請求項7】
テンションバンドワイヤと骨内挿入固定用ピンの少なくとも二つの構成材からなるテンションバンドワイヤリング法において、前記テンションバンドワイヤと骨内挿入固定用ピンとの結合に使用する結合具であって、
長手方向の両端面に開口部を有し、該開口部に連なり内周面に雌ネジを有する中空部を有する管状の主体と、
外周面に前記中空部の雌ネジと螺合する雄ネジを有するボルト要素と、
を有し、
前記中空部は非貫通部分である隔壁を有し、
前記主体は、外周面に主体の中空部を貫通する第1の挿通要素と第2の挿通要素を有し、該第1の挿通要素と第2の挿通要素は、前記隔壁を間にし隔壁の両壁面に沿って設けられており、
前記テンションバンドワイヤ又は骨内挿入固定用ピンの何れか一方は前記第1の挿通要素又は第2の挿通要素の何れか一方の挿通要素に挿通され、他方は残りの挿通要素に挿通されるものであり、
前記挿通要素をそれぞれ貫通する前記テンションバンドワイヤ及び骨内挿入固定用ピンは、前記主体の両端側から前記ボルト要素で前記隔壁に押さえ込まれて前記主体と結合される、
結合具。
【請求項8】
テンションバンドワイヤと骨内挿入固定用ピンの少なくとも二つの構成材からなるテンションバンドワイヤリング法において、前記テンションバンドワイヤと骨内挿入固定用ピンとの結合に使用する結合具であって、
長手方向の両端面に開口部を有し、該開口部に連なり内周面に雌ネジを有する中空部を有する管状の主体と、
外周面に前記中空部の雌ネジと螺合する雄ネジを有するボルト要素と、
を有し、
前記中空部は一端から他端まで貫通しており、
前記主体は、外周面に主体の中空部を貫通し平面を異にする第1の挿通要素と第2の挿通要素を有し、
前記テンションバンドワイヤ又は骨内挿入固定用ピンの何れか一方は前記第1の挿通要素又は第2の挿通要素の何れか一方の挿通要素に挿通され、他方は残りの挿通要素に挿通されるものであり、
前記挿通要素をそれぞれ貫通する前記テンションバンドワイヤ及び骨内挿入固定用ピンは、前記主体の両端側から前記ボルト要素で押さえ込まれて前記主体と結合される、
結合具。
【請求項9】
主体の外周面に手指の掛かり要素及び/又は工具との嵌合要素を有し、ボルト要素の雄ネジ部分を除く外面又は外端面に工具との嵌合要素を有する、請求項7又は8記載の結合具。
【請求項10】
主体の手指の掛かり要素又は嵌合要素が、主体の外周面の一部に形成されている平面又は主体の外周面の全面に亘って形成されている多角面である、請求項9記載の結合具。
【請求項11】
ボルト要素の外端面に、ドライバの嵌合溝又は嵌合穴を有する、請求項7乃至10のいずれかの一項に記載の結合具。
【請求項12】
第1の挿通要素と第2の挿通要素が交差状に配置されている請求項4乃至11のいずれかの一項に記載の結合具。
【請求項13】
交差状に配置された第1の挿通要素と第2の挿通要素は直交している請求項12記載の結合具。
【請求項14】
挿通要素が、主体を貫通する挿通孔、又は主体の両端部からテンションバンドワイヤ及び骨内挿入固定用ピンの押さえ込み位置まで形成された、主体を貫通する溝状孔である、請求項4乃至13の何れかの一項に記載の結合具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−217552(P2012−217552A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84700(P2011−84700)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】