説明

テンタクリップ等のガイド軸受

【課題】転がり軸受からなるガイド軸受の外輪又はこれに対向したガイドレールのガイド面において、エッジロードに起因する摩耗の発生を防止することである。
【解決手段】転がり軸受により構成され、その外輪13を直接ガイドレールのガイド面上を転動させるようにしたガイド軸受11において、前記外輪13の外径面にガイドレール18のガイド面に対して凸形となる曲率半径Rが、40mm≦R≦500mmの球面部19を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、テンタクリップ等のガイドローラとして用いられるガイド軸受、これを用いたテンタクリップ、そのガイド軸受をガイドするガイドレール、前記のテンタクリップ及びガイド軸受等からなるフィルム延伸機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルム延伸機において、フィルムの両側縁を挟持した多数のテンタクリップをフィルム進行方向の両側に設置したガイドレールで案内し、両側のガイドレールの間隔をフィルムの進行方向に対して次第に拡大するように設置することにより、フィルムの進行に伴い次第にこれを横延伸させるフィルム延伸機は従来から知られている(特許文献1)。
【0003】
前記のテンタクリップのガイドローラとして転がり軸受を用い、これをガイド軸受と称し、そのガイド軸受の外輪をガイドレールのガイド面で支持させる構造も従来から知られている(特許文献1、2)。その外輪の摩耗を防ぐために、外輪外表面に窒化処理を施す等の摩耗対策を施すことも知られている(特許文献2)。
【0004】
前記ガイド軸受の外輪の外径面はストレート形状であり、これに対向したガイドレールのガイド面の幅方向の形状もストレート形状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−232089号公報(図3、図4)
【特許文献2】特開平11−294461号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のガイド軸受の外輪と、その外輪を支持するガイドレールのガイド面との間には潤滑油が塗布されるが、高温雰囲気下であることから潤滑条件が厳しいことに加え、ガイド面の面粗度も悪いため、外輪やガイド面が摩耗し易い問題がある。
【0007】
また、フィルム延伸機においては、ガイド軸受の交換が容易に行えるようにその取り付け精度は比較的低くなっているため、ガイド軸受が傾き易い傾向がある。その上、外輪外径面及びガイド面の形状がストレート形状であることにより、外輪の傾きによってエッジロードが発生し易い問題がある。
【0008】
前掲の特許文献2のように、外輪に窒化処理等の摩耗対策を施したとしても、前記のエッジロードが発生した場合は、外輪外径面やガイドレールのガイド面に摩耗が発生することを避けることはできない。
【0009】
そこで、この発明は前記ガイド軸受の外輪又はガイドレールのガイド面のエッジロードに起因する摩耗の発生を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、ガイド軸受に係る発明は、内輪と外輪、前記両輪の間に介在された所要数の転動体、各転動体を周方向の一定間隔に保持する保持器とからなる転がり軸受により構成され、前記外輪を直接ガイドレールのガイド面上を転動させるようにしたガイド軸受において、前記外輪の外径面に前記ガイドレールのガイド面に対して凸形となる曲率半径Rが、40mm≦R≦500mmの球面部を形成した構成としたものである。
【0011】
テンタクリップに係る発明においては、そのガイド軸受として、前記の改良されたガイド軸受を用いた構成としたものである。
【0012】
フィルム延伸機に係る発明においては、そのテンタクリップとして、前記の改良されたテンタクリップを用いた構成としたものである。
【0013】
また、ガイドレールに係る発明は、そのガイド面にガイド軸受の外輪に対して凸形となる曲率半径Rが、40mm≦R≦500mmの球面部を形成した構成としたものである。
【0014】
フィルム延伸機に係る他の発明においては、そのガイドレールとして、前記の改良されたガイドレールを用いた構成としたものである。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、ガイド軸受の外輪外径面又はこれに対向したガイドレールのガイド面の形状について、相手側に対して凸形となる曲率半径Rが、40mm≦R≦500mmの球面部を形成したことにより、ガイド軸受に係る発明、ガイドレールに係る発明、前記ガイド軸受を備えたテンタクリップの発明及び前記ガイドレールとテンタクリップからなるフィルム延伸機の発明のそれぞれにおいて、ガイド軸受の外輪と、ガイドレールのガイド面とにおけるエッジロードに起因する摩耗の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】は、実施形態1のガイド軸受の断面図である。
【図2】(a)は、同上のガイド軸受とガイドレールを示した一部拡大断面図である。(b)は、(a)の場合の変形例のガイド軸受の一部拡大断面図である。
【図3】(a)は、他の実施形態の場合のガイド軸受とガイドレールを示した一部拡大断面図である。(b)は、(a)の場合の変形例のガイド軸受の一部拡大断面図である。
【図4】は、実施形態2のフィルム延伸機の概略図である。
【図5】は、同上のテンタクリップ部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
[実施形態1]
図1に示したように、実施形態1のガイド軸受11は、玉軸受を用いたものであり、内輪12と外輪13、これらの両輪12,13の間に介在された所要数のボールからなる転動体14、各転動体14を周方向の一定間隔に保持する保持器15とにより構成される。前記保持器15の両側において、外輪13の内径面に装着したシール部材16のリップを内輪12の外径面に接触させている。前記の外輪13の外径面の両側縁には、通常どおり、アール形状の面取り部17が形成される。
【0019】
図2(a)は、前記外輪13の一部と、これに対向して外輪13の転動を支持するガイドレール18の一部を示している。外輪13の外径面の幅はWであり、その両側縁の幅bの部分が前記の面取り部17の範囲を示している。また、両側の面取り部17を除いた幅aの部分に、ガイドレール18のガイド面21に対し凸形となる球面部19が形成される。その球面部19の曲率半径Rの大きさは、40mm〜500mmの範囲で適宜選定される。ガイドレール18のガイド面21はストレート形状に形成される。
【0020】
図2(b)に示したように、前記の幅aの球面部19の中央部分の幅cの範囲をストレート部20に形成する場合がある。ストレート部20の幅cは、後述のミスアラインメント1/300での接触応力(表1参照)を考慮すると、外輪13の全幅Wの60%以内に設定することが望ましい。
【0021】
図2(a)に示したように、外輪13の外径面の幅aの球面部19の曲率半径Rを40mm又は500mmに設定した本実施形態の場合と、幅aがストレート形状である従来の場合との接触応力の比較計算値を表1に示す。計算条件は、荷重0.1Cr、ミスアラインメント1/300以下とする。但し、Crは基本動定格荷重、Corは基本静定格荷重、Pmaxは最大接触応力、Pedgeは端部の接触応力(エッジロード)である。
【0022】
表1に示したように、外輪13の外径面がストレート形状である場合に比べ曲率半径Rが40mmおよび500mmの球面形状の場合の方が、エッジロードが顕著に低下することが認められる。
【表1】

【0023】
以上の実施形態は、外輪13の外径面に球面部19を形成することによってエッジロードを低減させるものである。これに対し、図3(a)に示したように、外輪13の外径面をストレート形状に形成し、ガイドレール18のガイド面21に外輪13側へ凸部となる球面部23を形成するようにしても同様の結果が得られる。
【0024】
この場合も両側の幅dの面取り部22を除いた範囲eの部分に球面部23が形成される。球面部23の曲率半径Rも前記と同様に40mm〜500mmに設定する。外輪13の外径面24は、ストレート形状に形成される。また、図3(b)に示したように、球面部23の中央部の幅f(ガイドレール21の全幅Xの60%以内)のストレート部25を設けるようにしてもよい。
【0025】
このように、ガイドレール18のガイド面に球面部23を形成することによっても、外輪13に球面部19を形成した場合と同様に、エッジロードを低減させることができる。
【0026】
[実施形態2]
実施形態2は、図4及び図5に示したように、前述の実施形態1のガイド軸受11を使用したテンタクリップ41及びフィルム延伸機31に関するものである。
【0027】
フィルム延伸機31は、図4に示したように、熱可塑性高分子化合物32を溶融しこれを未延伸状態のフィルム33として押し出す押し出し機34と、押し出されたフィルム33を受ける冷却ドラム35と、次の各工程を行う手段を備える(特許文献1参照)。
【0028】
すなわち、冷却ドラム35で冷却されたフィルム33を送る送りローラ36と、この送りローラ36で送られるフィルム33に調湿処理を施す水槽37と、この水槽37で調湿処理されたフィルム33を挟み込んで表面の水滴を除去する水切り装置38を備える。また、水切り処理後のフィルム33を縦及び横方向の2軸延伸する2軸延伸機39と、この2軸延伸機39で形成されたフィルム33を巻き取る回収ローラ40とを備える。
【0029】
2軸延伸機39の構成要素として、図5に示す横延伸装置50が設けられる。この横延伸装置50にテンタクリップ41が備えられる。横延伸装置50は、送られて来るフィルム33の左右両側に配置され、両ガイド間の間隔がラインの進行方向に向かって徐々に広くなっているガイドレール43、44と、それぞれ鎖状に連結されガイドレール43、44上をラインの進行方向に循環する複数個のテンタクリップ41とを備える。
【0030】
テンタクリップ41は、フィルム33の端部を挟持するクリップ部42と、閉ループで構成されたガイドレール43、44上を転動するガイドローラを構成するガイド軸受45、46とを有する。このテンタクリップ41は、クリップ部42でフィルム33の両端を挟持した状態で、ガイドレール43、44に沿って進行方向に進み、フィルム33を横方向に延伸させる役割を担う。ガイドレール43、44には、そのガイド面を水平方向に向けたガイドレール43と、垂直方向に向けたガイドレール44の2種類がある。
【0031】
テンタクリップ41のガイド軸受45,46は、テンタクリップ41を各ガイドレール43、44に沿って転がり案内する役割を担う。
【0032】
このガイド軸受45、46のうち、水平方向のガイド面を転動するガイド軸受45は水平方向(横姿勢)の固定軸47に設置される。垂直方向のガイド面を転動するガイド軸受46は、垂直方向(縦姿勢)の固定軸48に設置される。したがって、これら各ガイド軸受45,46は、いずれも外輪が回転側とされる。
【0033】
前記ガイド軸受45、46として、前記実施形態1のガイド軸受11が用いられる。また、ガイドレール43、44として、実施形態1のガイドレール18が用いられる。
【符号の説明】
【0034】
11 ガイド軸受
12 内輪
13 外輪
14 転動体
15 保持器
16 シール部材
17 面取り部
18 ガイドレール
19 球面部
20 ストレート部
21 ガイド面
22 面取り部
23 球面部
24 外径面
25 ストレート部
31 フィルム延伸機
32 熱可塑性高分子化合物
33 フィルム
34 押し出し機
35 冷却ドラム
36 送りローラ
37 水槽
38 水切り装置
39 2軸延伸機
40 回収ローラ
41 テンタクリップ
42 クリップ部
43、44 ガイドレール
45、46 ガイド軸受
47、48 固定軸
50 横延伸装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪、前記両輪の間に介在された所要数の転動体、各転動体を周方向の一定間隔に保持する保持器とからなる転がり軸受により構成され、前記外輪を直接ガイドレールのガイド面上を転動させるようにしたガイド軸受において、前記外輪の外径面に前記ガイドレールのガイド面に対して凸形となる曲率半径Rが、40mm≦R≦500mmの球面部を形成したことを特徴とするガイド軸受。
【請求項2】
前記球面部の中央部にストレート部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載のガイド軸受。
【請求項3】
前記ストレート部の幅が、外輪の幅の60%以内の範囲に設定されたことを特徴とする請求項2に記載のガイド軸受。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のガイド軸受を備えたことを特徴とするテンタクリップ。
【請求項5】
請求項4に記載されたテンタクリップ及びそのテンタクリップの走行をガイドするガイドレールからなり、前記テンタクリップのガイド軸受の外輪を前記ガイドレールによって支持したことを特徴とするフィルム延伸機。
【請求項6】
ガイド軸受の外輪を案内するガイド面を有するガイドレールにおいて、そのガイド面に前記外輪に対して凸形となる曲率半径Rが、40mm≦R≦500mmの球面部を形成したことを特徴とするガイドレール。
【請求項7】
前記ガイドレールの球面部の中央部にストレート部が形成されていることを特徴とする請求項6に記載のガイドレール。
【請求項8】
前記ストレート部の幅が、ガイドレールの幅の60%以内の範囲に設定されていることを特徴とする請求項7に記載のガイドレール。
【請求項9】
ガイド軸受を備えたテンタクリップ、請求項6から8のいずれかに記載されたガイドレールからなり、前記ガイド軸受の外輪を前記ガイドレールによって支持したことを特徴とするフィルム延伸機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−47451(P2011−47451A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195642(P2009−195642)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】