説明

テンターオーブン

【課題】
MD流の発生を抑制することで、フィルム幅方向の温度ムラを低減し、フィルム幅方向の特性および厚みが均一である熱可塑性樹脂フィルムの製造を可能にするテンターオーブンを提供する。
【解決手段】
複数のゾーンがフィルム長手方向に連結してなり、前記ゾーン内にはフィルム両面に対向して設置されたエア吹き出し部をフィルム長手方向に複数有し、エア吹き出し部の周囲にはエア吸い込み部を有する熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンにおいて、前記ゾーンのうち少なくとも1つをフィルム長手方向に等間隔で入口部、中央部、出口部の3つに分割した場合に、中央部内にあるエア吸い込み部の吸気量が、入口部内にあるエア吸い込み部の吸気量よりも大きく、かつ出口部内にあるエア吸い込み部の吸気量よりも大きいことを特徴とするテンターオーブン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの製造に用いて好適なテンターオーブンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムの製造方法としては、未延伸の樹脂シートを長手方向に延伸した後、その一軸延伸フィルムをテンターオーブンを用いて幅方向に延伸する逐次二軸延伸法や、未延伸の樹脂シートをテンターオーブンを用いて同時に長手方向と幅方向とに延伸する同時二軸延伸法が知られている。
【0003】
これらの製造方法に用いられるテンターオーブンは、一般に、複数のゾーンがフィルム長手方向に連結してなり、各ゾーン内においてフィルムを所定の温度に保持しながら、該フィルムに対して予熱、延伸、熱処理、冷却などの処理を施すように構成されている。前記ゾーンとは、予熱、延伸、熱処理、冷却などの処理工程に対応した区間のことであり、各工程は一般に、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱処理ゾーン、冷却ゾーンなどと呼ばれる。また、前記ゾーンは、1つの室で構成されることもあるが、一般には、フィルム長手方向に複数の室に区画され、各室毎に温度の設定を変更できるように構成される。前記室とは、フィルムを通すために設けた開口部以外が壁で仕切られた空間のことである。
【0004】
フィルムを所定の温度に保持する方法としては、一般に、エア循環方式が採用される。エア循環方式とは、前記各室内に、フィルム両面に対向して設置されたエア吹き出し部をフィルム長手方向に複数有し、エア吹き出し部の周囲にはエア吸い込み部を有し、熱交換器によって所望の温度に制御したエアを、ファンによってエア吹き出し部からフィルムに向けて吹き出し、エア吸い込み部から回収するものである。テンタークリップによって両端を把持されたフィルムは、室内を循環するエアとの熱交換によって加熱もしくは冷却されながら、少なくとも一軸方向に延伸される。
【0005】
このようにして製造された熱可塑性樹脂フィルムは、その力学特性や光学特性、電気特性、寸法安定性、柔軟性などの特徴を活かして、磁気記録媒体用途や光学用途、包装用途、カード用途などに用いられている。フィルムの特性は製造工程で受ける熱履歴によって決まるため、テンターオーブン内のフィルム幅方向の温度ムラは、フィルム特性ムラの原因になり、製品の品質を低下させる。また、延伸工程における温度ムラは、厚みムラおよび特性ムラの原因にもなり、製品の品質を低下させるのみならず、ひどい場合にはテンターオーブン内でフィルムが破れて生産性を低下させる。
【0006】
従来、フィルム幅方向の温度ムラを低減する方法としては、エア吹き出し部から吹き出す循環エアの流量をフィルム中央部に比べフィルム端部の方が多くなるようにする方法(例えば、特許文献1参照)や、温度センサが検出した温度に基づいて熱交換器を制御する方法(例えば、特許文献2、特許文献3参照)が知られている。
【特許文献1】特開平5−96619号公報(第2−4頁、第1−3図)
【特許文献2】特開平10−249933号公報(第2−7頁、第2−3図)
【特許文献3】特開2002−18970号公報(第2−6頁、第2−3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記の方法は、個々の室内でエアの循環が完結している場合には効果を発揮するが、設定温度の異なる隣接室の循環エアの一部が流れ込むことによって発生する温度ムラや、テンターオーブン内に外気が流れ込むことによって発生する温度ムラに対しては、温度均一化効果が得られない。
【0008】
ある室から隣接室への循環エアの流れ込みや、テンターオーブン内への外気の流れ込みは、どちらも室の境界を横切ってフィルム長手方向にエアが流れる現象であり、MD流(Machine Direction Flowの略)と呼ぶ。MD流が発生すると、室外から流れ込んだ異なる温度のエアが循環エアに混入するため、大きな温度ムラが発生するという問題がある。また、異なる温度のエアが混入すると、熱交換器の消費電力量が増加しエネルギー効率が低下するという問題もある。また、MD流は幅の広いテンターオーブンほど発生しやすいため、量産によるコストダウンを狙った大型マシンにおいて問題となり易い。
【0009】
本発明の課題は、MD流の発生を抑制することで、フィルム幅方向の温度ムラを低減し、フィルム幅方向の特性および厚みが均一である熱可塑性樹脂フィルムの製造を可能にするテンターオーブンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するため、発明者は、エア吸い込み部の吸気量バランスに着目し、MD流の発生を抑制できる構成を見出した。すなわち本発明によれば、複数のゾーンがフィルム長手方向に連結してなり、前記ゾーン内にはフィルム両面に対向して設置されたエア吹き出し部をフィルム長手方向に複数有し、エア吹き出し部の周囲にはエア吸い込み部を有する熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンにおいて、前記ゾーンのうち少なくとも1つをフィルム長手方向に等間隔で入口部、中央部、出口部の3つに分割した場合に、中央部内にあるエア吸い込み部の吸気量が、入口部内にあるエア吸い込み部の吸気量よりも大きく、かつ出口部内にあるエア吸い込み部の吸気量よりも大きくした場合、ゾーン間を貫流するMD流の防止効果を有するゾーン中央部吸い込み強化テンターオーブンが提供される。
【0011】
前記ゾーン内を循環するエアの温度は、1つ以上の熱交換器によって、所望の温度に制御される。各ゾーンは1つの室で構成されることもあるし、フィルム長手方向に複数の室に区画されて構成されることもある。例えば、前記熱可塑性樹脂フィルムがポリエチレンテレフタレートを主成分とする樹脂からなるフィルムである場合、通常、延伸ゾーンは80〜120℃、熱処理ゾーンは180〜240℃に設定する。さらに、熱処理ゾーンが3つの室で構成される場合には、例えば、熱処理第1室は190℃、熱処理第2室は195℃、熱処理第3室は220℃という具合に、各室毎に設定温度を変更することができる。
【0012】
また、本発明における別の好ましい態様として、複数のゾーンがフィルム長手方向に連結してなり、前記ゾーンのうち少なくとも1つが複数の室からなり、前記室内にはフィルム両面に対向して設置されたエア吹き出し部をフィルム長手方向に複数有し、エア吹き出し部の周囲にはエア吸い込み部を有する熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンにおいて、前記室のうち少なくとも1つをフィルム長手方向に等間隔で入口部、中央部、出口部の3つに分割した場合に、中央部内にあるエア吸い込み部の吸気量が、入口部内にあるエア吸い込み部の吸気量よりも大きく、かつ出口部内にあるエア吸い込み部の吸気量よりも大きくした場合、室間を貫流するMD流の防止効果を有する室中央部吸い込み強化テンターオーブンが提供される。
【0013】
また、本発明における別の好ましい態様として、複数のゾーンがフィルム長手方向に連結してなり、前記ゾーン内にはフィルム両面に対向して設置されたエア吹き出し部をフィルム長手方向に複数有し、エア吹き出し部の周囲にはエア吸い込み部を有する熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンにおいて、前記ゾーンのうち少なくとも1つをフィルム長手方向に等間隔で入口部、中央部、出口部の3つに分割した場合に、中央部内にあるエア吸い込み孔の合計面積が、入口部内にあるエア吸い込み孔の合計面積よりも大きく、かつ出口部内のエア吸い込み孔の合計面積よりも大きくした場合、ゾーン間を貫流するMD流の防止効果を有するゾーン中央部吸い込み孔拡大テンターオーブンが提供される。
【0014】
一般に前記エア吸い込み部の吸い込み面は、複数のエア吸い込み孔を有する板(パンチングプレートや金網など)からなる。エア吸い込み部の吸い込み面に存在するエア吸い込み孔の合計面積を大きくすれば、エアが吸い込み面を通過する際の抵抗が小さくなり、エア吸い込み部の吸気量が増える。本発明では、ゾーンの中央部内にあるエア吸い込み孔の合計面積を他の領域(入口部および出口部)よりも大きくすることで、中央部からエアを吸い込み易くしている。
【0015】
また、本発明における別の好ましい態様として、複数のゾーンがフィルム長手方向に連結してなり、前記ゾーンのうち少なくとも1つが複数の室からなり、前記室内にはフィルム両面に対向して設置されたエア吹き出し部をフィルム長手方向に複数有し、エア吹き出し部の周囲にはエア吸い込み部を有する熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンにおいて、前記室のうち少なくとも1つをフィルム長手方向に等間隔で入口部、中央部、出口部の3つに分割した場合に、中央部内にあるエア吸い込み孔の合計面積が、入口部内にあるエア吸い込み孔の合計面積よりも大きく、かつ出口部内のエア吸い込み孔の合計面積よりも大きくした場合、室間を貫流するMD流の防止効果を有する室中央部吸い込み孔拡大テンターオーブンが提供される。
【0016】
次に、前記のゾーン中央部吸い込み強化テンターオーブン、室中央部吸い込み強化テンターオーブン、ゾーン中央部吸い込み孔拡大テンターオーブン、室中央部吸い込み孔拡大テンターオーブンのいずれかにおける好ましい態様として、前記ゾーンの少なくとも1つにおいて、ゾーン内のエア吹き出し部のうちゾーン入口に最も近いエア吹き出し部の吹き出し方向をゾーン出口方向へ傾け、かつ、ゾーン出口に最も近いエア吹き出し部の吹き出し方向をゾーン入口方向へ傾けた傾斜吹き出しテンターオーブンが提供される。
【0017】
また、前記室中央部吸い込み強化テンターオーブンまたは室中央部吸い込み孔拡大テンターオーブンにおける別の好ましい態様として、前記室の少なくとも1つにおいて、室内のエア吹き出し部のうち室入口に最も近いエア吹き出し部の吹き出し方向を室出口方向へ傾け、また、室出口に最も近いエア吹き出し部の吹き出し方向を室入口方向へ傾けた傾斜吹き出しテンターオーブンが提供される。
【0018】
さらに、前記のゾーン中央部吸い込み強化テンターオーブン、室中央部吸い込み強化テンターオーブン、ゾーン中央部吸い込み孔拡大テンターオーブン、室中央部吸い込み孔拡大テンターオーブン、傾斜吹き出しテンターオーブンのいずれかにおける好ましい態様として、前記エア吸い込み部において、フィルム幅方向の吸気量が均一になるように、エア吸い込み孔の面積もしくは分布密度をフィルム幅方向に変更する手段を有する、幅方向吸い込み調整テンターオーブンが提供される。
【0019】
また、前記のテンターオーブンは全て、熱可塑性樹脂フィルムの製造用の製膜装置に用いて好適なものであり、逐次二軸延伸機や同時二軸延伸機のいずれにも使用可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のテンターオーブンによれば、MD流の発生を抑制することで、テンターオーブン内の幅方向温度ムラを低減し、幅方向において特性および厚みが均一である熱可塑性樹脂フィルムを製造することが可能であり、製品の品質の向上と、フィルム破れ低減による工程安定性確保が実現できる。
【0021】
また、これまでMD流が発生しやすくなるために困難だったテンターオーブンの幅広化が可能になり、量産による製造原価の低減が実現できる。
【0022】
また、温度均一性に優れているため、エアを循環使用する際に必要な熱交換器の消費電力量が小さくなり、省エネ効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明のテンターオーブンを構成するゾーンまたは室の一例を示す概略構成図であり、ここではゾーンとする。図2は図1のA−A矢視の一例を示す断面図、図3は図1のB−B矢視の一例を示す断面図である。
【0024】
図2に示すように、ゾーン1内にはテンタークリップ8によって概略水平となるように両端を把持されたフィルム2が挿入され、フィルム2の両面に対向してエア吹き出し部3が設置されている。図1に示すように、該エア吹き出し部3はフィルム長手方向に複数設置され、エア吹き出し部3の周囲にはエア吸い込み部4を有し、エア吸い込み部4とエア吹き出し部3とを繋ぐ循環経路には、熱交換器5およびファン6を有する。エア吹き出し部3からフィルム2に向けて吹き出されエア吸い込み部4から回収される循環エアの温度および風速は、それぞれ熱交換器5およびファン6によって制御される。被処理物であるフィルム2は、ゾーン1内を長手方向に移動しながら、エア吹き出し部3から吹き出されるエアによって加熱もしくは冷却される。
【0025】
図3に示すように、ゾーン1をフィルム長手方向に等間隔となるように3つの領域に分割し、各領域をフィルム2の移動方向に沿って、入口部、中央部、出口部と呼ぶ。エア吸い込み部4の吸い込み面は、エア吸い込み孔9を複数有するパンチングプレートからなり、中央部内にあるエア吸い込み孔9の合計面積は、入口部内にあるエア吸い込み孔9の合計面積よりも大きく、かつ出口部内にあるエア吸い込み孔9の合計面積よりも大きい。
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0027】

[実施例1]
図4のように構成されるMD流測定テスト用のゾーン1を作成した。ゾーン1の外形寸法は、フィルム長手方向が3.3m、フィルム幅方向が9.9m、高さ方向が3.3mであった。ゾーン1の壁には、フィルム2の入口となる面と出口となる面とにそれぞれ開口部7があり、該開口部7の形状は、フィルム幅方向に6.0m、上下方向にはフィルム2が位置する位置から上側と下側とにそれぞれ0.27mの矩形とした。
【0028】
エア吹き出し部3はフィルムの上側と下側にそれぞれ8個ずつ、フィルム長手方向に0.3mピッチ間隔で設置した。エア吹き出し部3の吹き出し面の形状は、フィルム長手方向に0.01m、フィルム幅方向に6.0mの矩形とした。該吹き出し面は、フィルム2が位置する位置から上側と下側とにそれぞれ0.27m離れた位置に、フィルム面と平行に固定した。ゾーン1はフィルム2を対称面とした上下対称構造である。
【0029】
図4に示すようにゾーン1をフィルム長手方向に3等分し、フィルム入口側の壁から長手方向に最初の1.1mまでの領域を入口部、次の1.1mまでの領域を中央部、次の1.1mまでの領域を出口部とした。各領域内のエア吸い込み孔の合計面積は、入口部0.37m、中央部0.7m、出口部0.37mとした。
【0030】
テストを簡便かつ安価に実施するため、フィルム製膜は行わず、ゾーン1の単独運転とした。フィルム2の代用として、フィルム2が位置する位置にフィルム幅方向が5.0m、フィルム長手方向が4.0mのベニヤ板を固定した。該ベニヤ板で上下の流れ場を分離し、フィルム製膜中の状態を模擬した。
【0031】
ファン6は、エア吹き出し部3の吹き出し面における吹き出し風速の平均値が約25m/秒となるように運転した。ただし、全てのエア吹き出し部からの吹き出し風速を均一にすることは困難であるため、平均風速に対して±2m/秒以内の風速ばらつきは許容した。また、熱交換器5は運転せず、室温のエアを循環させた。
【0032】
MD流の風速測定位置について、図7を参照しながら説明する。開口部7のベニヤ板直下において、フィルム幅方向にほぼ等間隔で設けたP1〜P5の5点で測定した。ゾーン1は上下対称構造であり、エア流れもほぼ上下対称となるため、ベニヤ板の上側の風速測定は省略した。測定には直径80mmのベーン式風速計Pを用いた。ベーン式風速計Pの観測面をフィルム長手方向に向けて測定することで、開口部7をフィルム長手方向に横切るエアの風速成分(MD流の風速)を測定した。MD流の風速は時間変動するため、サンプリング間隔を1秒に設定し、15秒間連続で測定したときの平均値とした。測定結果を表1に示す。比較例1に比してMD流の風速は大幅に減少し、熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンに用いて好適なゾーン構成を得た。
【0033】
[比較例1]
実施例1のゾーン1において、入口部、中央部、出口部のエア吸い込み孔9の合計面積を、それぞれ0.37m、0.37m、0.37mとした。その他の条件は実施例1と同じである。測定結果を表1に示す。
【0034】
比較例1の流れの様子を図6中に矢印で示す。ゾーン1の片側の開口部からは循環エアが流出し、対向する開口部からは外気が流入している。このような流れ場では、開口部から流入した外気がフィルム2の表面近くをフィルム長手方向に流れるため、エア吹き出し部3から吹き出たエアと混合して温度ムラが発生し、フィルム2を所望の温度に加熱もしくは冷却できない。また、エア吸い込み部4から吸い込まれるエアに外気が混入するため、熱交換器5の能力が低い場合はエア吹き出し部3から吹き出すエアを所望の温度に制御できないし、熱交換器5の能力が十分であっても消費電力量が増大するという問題もある。
【0035】
比較例1のように構成されるゾーン1において考えられる理想的な流れ場を図5に示す。フィルム長手方向にバランスが崩れなければ、エア吹き出し部3から吹き出たエアは、フィルム2に衝突後左右に分かれてフィルム表面近くを流れ、それそれが隣接するエア吹き出し部3から吹き出したエアと衝突して、エア吸い込み部4から吸い込まれるはずである。このときゾーン1の開口部では、開口部に最も近いエア吹き出し部3から吹き出たエアの一部が流出し、代わりに外気が流入している。この場合、比較例1ほど大きな問題にはならないが、やはり熱交換器5の能力が低い場合はエア吹き出し部3から吹き出すエアを所望の温度に制御できないし、熱交換器5の能力が十分であっても消費電力量が増大する。ただし、図5に示すような理想的な流れ場はフィルムのばたつきやテンターオーブン外側の圧力変動などの外乱に弱く、すぐに崩れて図6のような流れ場になる。比較例1では図5の流れ場を形成することはできなかった。
【0036】
また、図5の流れ場を形成するゾーン1が、フィルム長手方向に複数連結してなるテンターオーブンを考えた場合に、ゾーン1の開口部から流出するエアは隣接するゾーンに流入するため、各ゾーンの設定温度が異なる場合には、温度ムラが発生する。従って、温度ムラをなくすためには図5の流れ場でも不十分であり、開口部をフィルム長手方向に通過する流れ(MD流)を無くす必要がある。
【0037】
[実施例2]
実施例1のゾーン1において、フィルム2の入口となる開口部に最も近いエア吹き出し部3の吹き出し方向をフィルム2の出口方向へ20°傾け、フィルム2の出口となる開口部に最も近いエア吹き出し部3の吹き出し方向をフィルム2の入口方向へ20°傾けた。その他の条件は実施例1と同じである。測定結果を表1に示す。実施例1に比べてMD流の風速はさらに減少し、熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンに用いてより好適なゾーン構成を得た。
【0038】
[実施例3]
実施例2のゾーン1において、エア吸い込み部4のフィルム幅方向の吸気量が均一になるように、エア吸い込み孔9の面積をフィルム幅方向に変更した。その他の条件は実施例1と同じである。測定結果を表1に示す。実施例2に比べてMD流の風速はさらに減少し、ほとんどMD流の無い状態を得た。
【0039】
エア吸い込み部4のフィルム幅方向の吸気量分布は、循環エアの流量によって変化する。従って、生産条件である循環エアの流量を変更する可能性がある場合には、変更後の流量においてフィルム幅方向の吸気量が均一になるよう調整するために、エア吸い込み孔9の面積もしくは分布密度をフィルム幅方向に変更する手段を有する必要がある。
【0040】
エア吸い込み孔9の面積もしくは分布密度の変更手段を図8に示す。(a)は大きなエア吸い込み孔9を有する吸い込み面に板を固定することで開口面積を変更するものである。(b)は小片の板を吸い込み面に固定することで、エア吸い込み孔9の分布密度を変更するものである。(c)は吸い込み面を形成する板自身を、フィルム幅方向に分割し交換可能にしたものである。エア吸い込み孔9の面積や分布密度が異なる板を複数用意しておけば、板の交換によりフィルム幅方向の吸い込みバランスを調整できる。
【0041】
本実施例では、前記(a)の方法を採用した。エア吸い込み部4におけるエア吸い込み孔9のフィルム幅方向の面積分布と流量分布を表2に示す。実施例1および2では、エア吸い込み孔9の流量は最大0.227m/s、最小0.049m/sであり、幅方向の流量差は0.178m/sであったのに対し、実施例3では、最大0.175m/s、最小0.143m/s、幅方向の流量差0.032m/sとなり、フィルム幅方向の流量ムラが大幅に低減している。フィルム幅方向の吸気量が均一になるように、エア吸い込み孔9の面積を調整することで、熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンに用いてより好適なゾーン構成を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に係るテンターオーブンを構成するゾーンまたは室の概略構成図である。
【図2】図1のA−A矢視の概略構成図である。
【図3】図1のB−B矢視の概略構成図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るテンターオーブンを構成するゾーンまたは室の概略構成図である。
【図5】従来用いられてきたテンターオーブンを構成するゾーンまたは室の一般的な形態である。
【図6】従来用いられてきたテンターオーブンを構成するゾーンまたは室の一般的な形態である。
【図7】図1または図4のC−C矢視の概略構成図である。
【図8】エア吸い込み部開口面積の変更手段の例である。
【符号の説明】
【0045】
1:ゾーン(または室)
2:フィルム
3:エア吹き出し部
4:エア吸い込み部
5:熱交換器
6:ファン
7:開口部
8:テンタークリップ
9:エア吸い込み孔
10:クリップレールカバー
P:ベーン式風速計
P1〜P5:MD流の風速測定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のゾーンがフィルム長手方向に連結してなり、前記ゾーン内にはフィルム両面に対向して設置されたエア吹き出し部をフィルム長手方向に複数有し、エア吹き出し部の周囲にはエア吸い込み部を有する熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンにおいて、前記ゾーンのうち少なくとも1つをフィルム長手方向に等間隔で入口部、中央部、出口部の3つに分割した場合に、中央部内にあるエア吸い込み部の吸気量が、入口部内にあるエア吸い込み部の吸気量よりも大きく、かつ出口部内にあるエア吸い込み部の吸気量よりも大きいことを特徴とするテンターオーブン。
【請求項2】
複数のゾーンがフィルム長手方向に連結してなり、前記ゾーンのうち少なくとも1つが複数の室からなり、前記室内にはフィルム両面に対向して設置されたエア吹き出し部をフィルム長手方向に複数有し、エア吹き出し部の周囲にはエア吸い込み部を有する熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンにおいて、前記室のうち少なくとも1つをフィルム長手方向に等間隔で入口部、中央部、出口部の3つに分割した場合に、中央部内にあるエア吸い込み部の吸気量が、入口部内にあるエア吸い込み部の吸気量よりも大きく、かつ出口部内にあるエア吸い込み部の吸気量よりも大きいことを特徴とするテンターオーブン。
【請求項3】
複数のゾーンがフィルム長手方向に連結してなり、前記ゾーン内にはフィルム両面に対向して設置されたエア吹き出し部をフィルム長手方向に複数有し、エア吹き出し部の周囲にはエア吸い込み部を有する熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンにおいて、前記ゾーンのうち少なくとも1つをフィルム長手方向に等間隔で入口部、中央部、出口部の3つに分割した場合に、中央部内にあるエア吸い込み孔の合計面積が、入口部内にあるエア吸い込み孔の合計面積よりも大きく、かつ出口部内のエア吸い込み孔の合計面積よりも大きいことを特徴とするテンターオーブン。
【請求項4】
複数のゾーンがフィルム長手方向に連結してなり、前記ゾーンのうち少なくとも1つが複数の室からなり、前記室内にはフィルム両面に対向して設置されたエア吹き出し部をフィルム長手方向に複数有し、エア吹き出し部の周囲にはエア吸い込み部を有する熱可塑性樹脂フィルム製造用のテンターオーブンにおいて、前記室のうち少なくとも1つをフィルム長手方向に等間隔で入口部、中央部、出口部の3つに分割した場合に、中央部内にあるエア吸い込み孔の合計面積が、入口部内にあるエア吸い込み孔の合計面積よりも大きく、かつ出口部内のエア吸い込み孔の合計面積よりも大きいことを特徴とするテンターオーブン。
【請求項5】
前記ゾーンの少なくとも1つにおいて、ゾーン内のエア吹き出し部のうちゾーン入口に最も近いエア吹き出し部の吹き出し方向をゾーン出口方向へ傾け、ゾーン出口に最も近いエア吹き出し部の吹き出し方向をゾーン入口方向へ傾けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のテンターオーブン。
【請求項6】
前記室の少なくとも1つにおいて、室内のエア吹き出し部のうち室入口に最も近いエア吹き出し部の吹き出し方向を室出口方向へ傾け、室出口に最も近いエア吹き出し部の吹き出し方向を室入口方向へ傾けたことを特徴とする請求項2または4に記載のテンターオーブン。
【請求項7】
前記エア吸い込み部において、フィルム幅方向の吸気量が均一になるように、エア吸い込み孔の面積もしくは分布密度をフィルム幅方向に変更する手段を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のテンターオーブン。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のテンターオーブンを備えたことを特徴とする製膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−320276(P2007−320276A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155668(P2006−155668)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】