テンタ装置
【課題】長手方向の遅相軸のばらつきを抑える。
【解決手段】クリップテンタはレールとクリップとを備える。対となるレールはフィルムの搬送路20rの両側に設置される。クリップ22はレールに沿って移動自在となる。各レール23に沿って、クリップ22の移動経路22rが形成される。それぞれの移動経路22rのZ2方向中央側には、対となる仕切板40が配される。対となる仕切板40の内側には、フィルム12に加熱風をあてる加熱風ヘッドが設けられ、対となる仕切板40の外側には、フィルム12に冷却風をあてる冷却風ヘッドが設けられる。
【解決手段】クリップテンタはレールとクリップとを備える。対となるレールはフィルムの搬送路20rの両側に設置される。クリップ22はレールに沿って移動自在となる。各レール23に沿って、クリップ22の移動経路22rが形成される。それぞれの移動経路22rのZ2方向中央側には、対となる仕切板40が配される。対となる仕切板40の内側には、フィルム12に加熱風をあてる加熱風ヘッドが設けられ、対となる仕切板40の外側には、フィルム12に冷却風をあてる冷却風ヘッドが設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有する熱可塑性フィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である位相差フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法は、ポリマーを溶融させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を流し、支持体上に流延膜を形成する。次に、流延膜が搬送可能になった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとする。そして、この湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする方法である。
【0004】
得られたフィルムの平面性を向上させるために、またはフィルムの光学特性を調整するために、フィルムを所定の方向へ延伸するテンタ装置が知られている(例えば、特許文献1)。このテンタ装置は、帯状のフィルムの幅方向両側に設けられ、長手方向に向かうに従って間隔が拡がる対のレールと、このレールに沿って移動可能なチェーンと、所定の間隔でチェーンに取り付けられたクリップとを有する。そして、このテンタ装置によれば、クリップを用いてフィルムの幅方向両端部を把持し、レールに沿ってチェーンを走行させることにより、フィルムの幅を拡げる延伸工程を行うことができる。
【0005】
また、フィルムに延伸工程を施すと、ボーイング現象により、遅相軸の向きがばらついてしまう。ここで、ボーイングとは、延伸処理前のフィルムにおいて幅方向に引かれた線分が、延伸処理後のフィルムでは、フィルムの長手方向に対して凹状または凸状に変形する挙動を指す。そこで、ボーイング現象の発生を防止する手段として、(1)フィルム中央部よりフィルム端部の温度を高くする、(2)フィルム中央部よりフイルム端部の残留溶媒量を大きくする、(3)テンタ式乾燥機内に温度の異なるゾーンを設けるといった手法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−90943号公報
【特許文献2】特開2002−296422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、図11に示すように、フィルム200に発生するボーイング現象はフィルム全領域において一様に発生しない。対となったクリップ201によって把持された部分203に発生したボーイングB1と、対となったクリップ201によって把持されていない部分204に発生したボーイングB2とは、傾向が異なる。同一のフィルム200において傾向の異なるボーイングB1,B2が発生すると、最終的に得られるフィルムの長手方向における遅相軸のばらつきが生じてしまう。
【0008】
上述したボーイングによる遅相軸のばらつきは、液晶表示装置のコントラストを阻害する要因となる。VA方式が主流となり、大型化がすすむ液晶表示装置の分野においては、液晶表示装置に要求される正面コントラストが日増しに高くなっている。こうした経緯から、液晶表示装置メーカから、更なる遅相軸のばらつきの改善が求められるようになった。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するものであり、フィルムの遅相軸のばらつきを抑えながら、フィルムを延伸するテンタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のテンタ装置は、ウェブを長手方向へ搬送する搬送路であって、この搬送路の両側に対となって前記ウェブの長手方向に並べられ、前記ウェブの幅方向両端部を把持するクリップ対と、前記クリップ対を前記長手方向に移動させるクリップ対移動手段と、前記幅方向両端部及びこの幅方向両端部の間の製品部を備える前記ウェブに近接するように、前記幅方向両端部及び前記製品部の境界上に設けられ、前記幅方向に前記搬送路を中央区画、第1端区画、及び第2端区画の3つに分ける遮風手段と、前記中央区画に設けられ、前記ウェブに加熱風をあてる加熱風供給手段とを有することを特徴とする。
【0011】
前記第1端区画、及び前記第2端区画に設けられ、前記ウェブに冷却風をあてる冷却風供給手段を有することが好ましい。
【0012】
本発明のテンタ装置は、ウェブを長手方向へ搬送する搬送路であって、この搬送路の両側に対となって前記ウェブの長手方向に並べられ、前記ウェブの幅方向両端部を把持するクリップ対と、前記クリップ対を前記長手方向に移動させるクリップ対移動手段と、加熱風を前記ウェブに向けて前記幅方向に一様に送る加熱風供給手段と、この加熱風供給手段及び前記クリップの移動経路の間に設けられ、前記加熱風を遮る遮風部材とを有することを特徴とする。
【0013】
前記遮風部材は前記クリップの移動経路を覆うように配されたことが好ましい。前記ウェブに冷却風をあてる冷却風供給手段が、前記覆いの中に配されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
ウェブを長手方向へ搬送する搬送路であって、この搬送路の両側に対となってウェブの長手方向に並べられ、ウェブの幅方向両端を把持するクリップ対を有するクリップテンタを用いて延伸工程を行った場合、ウェブの両端のうち、クリップ対に把持される第1部分と、クリップ対に把持されていない第2部分とにおいて、変形挙動が異なる。本発明によれば、ウェブの両端の温度を、ウェブの中央部分に比べ低温にすることができるため、第1部分と第2部分とにおける変形挙動を同様のものにすることができる結果、第1部分と第2部分とに発生したボーイングを同様の傾向にすることができる。したがって、本発明によれば、最終的に得られるフィルムの長手方向における遅相軸のばらつきを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】フィルム延伸設備の概要を示す説明図である。
【図2】第1のクリップテンタの概要を示す平面図である。
【図3】クリップの概要を示す斜視図である。
【図4】把持位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図5】離隔位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図6】第1のクリップテンタの概要を示す平面図である。
【図7】第2のクリップテンタの概要を示す平面図である。
【図8】第2のクリップテンタに設けられ、把持位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図9】第3のクリップテンタに設けられ、把持位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図10】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図11】従来の延伸工程において、フィルムに発生するボーイングの概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、フィルム延伸設備10は、帯状のフィルム12を長手方向(以下、Z1方向と称する)へ送り出すフィルム供給部14と、フィルム供給部14から送り出されたフィルム12について延伸工程を行うクリップテンタ15と、クリップテンタ15から送り出されたフィルム12を巻き芯16aに巻き取る巻取室16とを有する。
【0017】
(クリップテンタ)
図2に示すように、クリップテンタ15はケーシング20を有する。ケーシング20には入口20i及び出口20oが設けられる。ケーシング20内には、フィルム12をZ1方向へ搬送する搬送路20rが、入口20iから出口20oにかけて形成される。更に、ケーシング20内は、Z1方向の上流側から順に、予熱エリア20a、延伸エリア20b、緩和エリア20c及び冷却エリア20dに区画される。なお、緩和エリア20c及び冷却エリア20dは省略してもよい。
【0018】
ケーシング20に内蔵されるテンタ本体は、クリップ22とレール23とを備える。対となるレール23は、各エリア20a〜20dにかけて、フィルム12の搬送路20rの両側に設置される。延伸エリア20bにおけるレール23の間隔は、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って広くなる。一方、緩和エリア20cにおけるレール23の間隔は、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って狭くなる。また、予熱エリア20a及び冷却エリア20dにおけるレール23の間隔は、一定である。
【0019】
レール23のZ1方向上流側及び下流側には、スプロケット24,25が設けられる。図示しない環状のチェーンは、スプロケット24,25と噛み合い、レール23に沿って移動自在に取り付けられている。このチェーンには、複数のクリップ22が所定の間隔で取り付けられている。なお、図2では、図の煩雑化を避けるため、クリップ22の一部のみを示す。スプロケット24,25が回転することにより、クリップ22はレール23に沿って移動する。こうして、フィルム12の搬送路20rのZ2方向両端部には、クリップ22の移動経路22rが形成される。予熱エリア20aにおけるレール23上及び冷却エリア20dにおけるレール23上には、クリップ22の一部と接触するクリップオープナ28が設けられる。
【0020】
図3及び図4に示すように、クリップ22は、クリップ本体30とレール取付部31とを有する。クリップ本体30は、略コ字形状のフレーム33とフラッパ34と回動軸35とを備える。フラッパ34は、回動軸35によりフレーム33に回動自在に取り付けられている。
【0021】
図4に示すように、フレーム33は、フィルム12のうち、Z2方向両縁部(以下、耳部と称する)12eの裏面12bを支持する支持面33aを有する。支持面33aは平らとなっていることが好ましい。
【0022】
フラッパ34の一端には、フィルム12の耳部12eの表面12fと接触可能な押圧面34aが設けられる。フラッパ34の他端には、クリップオープナ28と係合可能な係合頭部34bが設けられる。押圧面34a及び係合頭部34bは、回動軸35を中心に揺動自在となる。こうして、フラッパ34は、支持面33aに支持されたフィルム12に押圧面34aが接する把持位置と、支持面33aに支持されたフィルム12から押圧面34aが離れる離隔位置(図5参照)との間で回動自在となる。なお、フラッパ34は、把持位置となるように付勢されることが好ましい。
【0023】
離隔位置にあるフラッパ34が把持位置に向かって移動するに従って、押圧面34a及び支持面33aのクリアランスは次第に小さくなる。そして、フラッパ34が把持位置に到達したときの押圧面34a及び支持面33aのクリアランスは、把持の対象となるフィルム12の厚みよりも小さい。このように、フラッパ34が把持位置に変位することにより、押圧面34aが、支持面33aに支持されるフィルム12の耳部12eを押圧する。この結果、クリップ22は、フィルム12の耳部12eを把持することができる。なお、押圧面34aの形状は、揺動軸に直交する面において、円弧状となっていることが好ましい。
【0024】
フラッパ34が離隔位置から把持位置に変位する場合、Z2方向において、押圧面34aが端部から中央部に向かうように、フラッパ34が回動することが好ましい。これにより、クリップ22によって把持されたフィルム12がZ2方向中央部側に滑っても、フィルム12の滑りに伴って押圧面34aがZ2方向中央部側に移動する結果、押圧面34a及び支持面33aによるフィルム12の把持力が大きくなる。このため、フィルム12の把持を確実にすることができる。
【0025】
図4及び図6に示すように、それぞれの移動経路22rよりもZ2方向中央側には、フィルム12に対し起立した姿勢の仕切板40が移動経路22rに沿って設けられる。更に、仕切板40は搬送路20rに近接するように配される。2つの仕切板40は、Z2方向において、フィルム12の搬送路20rを中央区画20rc及び第1端区画20re、及び第2端区画20rfの3つに区画する。
【0026】
なお、仕切板40をフィルム12の搬送路20rの下方に設けても良いし、フィルム12の搬送路20rの上方及び下方の両方に設けても良い。また、図4では、仕切板40を設けるエリアを各エリア20a〜20dの全てとしたが、本発明はこれに限られず、延伸エリア20bと緩和エリア20cとのうち少なくともいずれか一方でもよい。
【0027】
中央区画20rcには、加熱風をフィルム12にあてる加熱風ヘッド44が設けられる。加熱風ヘッド44は、各エリア20a〜20dにおいて、それぞれZ1方向へ並べられる。第1端区画20re及び第2端区画20rfには、それぞれ、冷却風をフィルム12にあてる冷却風ヘッド45が設けられる。冷却風ヘッド45は、各エリア20a〜20dにおいて、それぞれZ1方向へ並べられる。加熱風ヘッド44及び冷却風ヘッド45は、それぞれ複数のノズルを有する。ノズルは、Z1方向に所定のピッチで並ぶように配される。ノズルの先端には、内部ダクトと連通するスリット状の開口が設けられる。開口は、方向Z2に長く伸びるように形成される。なお、加熱風ヘッド44や冷却風ヘッド45において、所定の風を送出す送出口と風を吸引する吸引口をZ2方向に交互に設けても良い。
【0028】
なお、加熱風ヘッド44及び加熱風ヘッド44をフィルム12の搬送路20rの下方に設けても良いし、フィルム12の搬送路20rの上方及び下方の両方に設けても良い。冷却風ヘッド45を設けるエリアは、各エリア20a〜20dの全てに限られず、延伸エリア20bと緩和エリア20cとのうち少なくともいずれか一方でもよい。
【0029】
図1に戻って、クリップテンタ15と巻取室16と間には耳切装置48が設けられる。耳切装置48は、クリップテンタ15から送出されたフィルム12の耳部12eを切り離す。この切り離された耳部12eは、送風によりクラッシャ(図示しない)に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0030】
次の本発明の作用について説明する。図1に示すように、フィルム供給部14は、フィルム12をクリップテンタ15へ供給する。図2に示すように、チェーンの移動によって、複数のクリップ22はレール23に沿って移動する。この結果、クリップ22は、予熱エリア20a、延伸エリア20b、緩和エリア20c及び冷却エリア20dを順次通過した後、再び予熱エリア20aへ戻る。このように、クリップ22は、各エリア20a〜20dを循環して移動する。
【0031】
図3に示す予熱エリア20aにおいて、係合頭部34bがクリップオープナ28と接触すると、図5に示すように、フラッパ34は離隔位置となる。このように、予熱エリア20aに導入されたフィルム12の耳部12eは、フレーム33の支持面33aによって支持される。
【0032】
図2に示すように、係合頭部34bがクリップオープナ28から離れる位置Paでは、離隔位置(図5参照)のフラッパ34は把持位置(図4参照)となる。こうして、位置Paにおいて、押圧面34aと支持面33aとによるフィルム12の耳部12eの把持が開始される。
【0033】
図2に戻って、クリップ22は、フラッパ34が把持位置のまま、各エリア20a〜20dを通過する。このため、クリップ22により耳部12eを把持されたフィルム12は、各エリア20a〜20dを通過する。
【0034】
予熱エリア20aにおけるフィルム12の幅はW1のままである。延伸エリア20bにおけるフィルム12の幅は、Z1方向の下流側に向かうに従って、W1からW2へと次第に拡がる。緩和エリア20cにおけるフィルム12の幅は、Z1方向の下流側に向かうに従って、W2からW3へと次第に狭まる。冷却エリア20dにおけるフィルム12の幅はW3のままである。
【0035】
各エリア20a〜20dにおいて、図4に示すように、加熱風ヘッド44は、所定の温度に調節された加熱風をフィルム12にあてる。仕切板40は、加熱風ヘッド44からの加熱風を遮るため、フィルム12のうち1対の耳部12eの間の製品部12cが加熱される。各エリア20a〜20dにおいて、冷却風ヘッド45は、所定の温度に調節された冷却風をフィルム12の耳部12eにあてる。仕切板40は、冷却風ヘッド45からの冷却風を遮るため、フィルム12のうち1対の耳部12eが冷却される。
【0036】
延伸エリア20bでは、耳部12eを把持したクリップ22により、フィルム12はZ2方向端部側へ延伸される。このとき、フィルム12の耳部12eは、Z1方向において一様に冷却されているため、フィルム12に発生するボーイングは、Z1方向において一様となる。したがって、本発明によれば、Z1方向における遅相軸のばらつきを抑えることができる。
【0037】
上記実施形態では、冷却風ヘッド45を第1端区画20re及び第2端区画20rfに設けたが、本発明はこれに限られず、冷却風ヘッド45を省略しても良い。
【0038】
(予熱エリア)
予熱エリア20aに導入されるフィルム12の残留溶剤量は0重量%以上60重量%以下であることが好ましい。予熱エリア20aにおけるフィルム12の温度Tf20aは80℃以上ガラス転移温度Tg未満であることが好ましい。なお、本発明では、流延膜や各フィルム中に残留する溶剤量を乾量基準で示したものを残留溶剤量とする。また、その測定方法は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0039】
(延伸エリア)
延伸エリア20bに導入されるフィルム12の残留溶剤量は、0重量%以上40重量%以下であることが好ましい。延伸エリア20bのうち、中央区画20rcにおけるフィルム12の温度Tf20bは60℃以上180℃以下であることが好ましい。延伸エリア20bのうち、第1端区画20re及び第2端区画20rfにおけるフィルム12の温度は、温度Tf20bよりも40℃以上低いことが好ましい。延伸率ER(=W2/W1)は、例えば、100%より大きく200%以下であることが好ましい。
【0040】
(緩和エリア)
緩和エリア20cに導入されるフィルム12の残留溶剤量は0重量%以上30重量%以下であることが好ましい。緩和エリア20cのうち、中央区画20rcにおけるフィルム12の温度Tf20cは70℃以上160℃以下であることが好ましい。緩和エリア20cのうち、第1端区画20re及び第2端区画20rfにおけるフィルム12の温度は、温度Tf20cよりも20℃以上低いことが好ましい。緩和率RR(=W3/W2)は、例えば、90%より大きく100%未満であることが好ましい。
【0041】
(冷却エリア)
冷却エリア20dに導入されるフィルム12の残留溶剤量は0重量%以上20重量%以下であることが好ましい。また、冷却エリア20dにおけるフィルム12の温度Tf20dは40℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0042】
本発明の第2実施形態を説明する。以下、上記実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、その説明は省略し、異なるもののみ説明する。
【0043】
図6及び図7に示すように、加熱風ヘッド44は、カバー60のフィルム12のZ2方向の全域に向けて加熱風を送る。ケーシング20内には、クリップ22の移動経路22rを覆うカバー60が設けられる。カバー60は、フィルム12の耳部12eに向かう加熱風を遮る。こうして、フィルム12の耳部12eが、製品部12cに比べて一様に低温となるため、Z1方向における遅相軸のばらつきを抑えることができる。
【0044】
なお、冷却風をフィルム12の耳部12eにあてる第2冷却ヘッド50を、カバー60の内部に設けてもよい。第2冷却ヘッド50は、移動経路22rに沿って設けられることが好ましい。また、カバー60に代えて、移動経路22r及び加熱風ヘッド44の間に遮風板65を設けてもよい(図9参照)。
【0045】
第2冷却ヘッド50、カバー60及び遮風板65を設けるエリアは、各エリア20a〜20dの全てに限られず、延伸エリア20bと緩和エリア20cとのうち少なくともいずれか一方でもよい。
【0046】
次に、クリップテンタ15を用いたフィルムの製造設備について、図10を用いて説明する。溶液製膜設備110は、流延室112とピンテンタ113とクリップテンタ15と乾燥室115と冷却室116と巻取室16とを有する。流延室112には、流延ダイ121、流延ドラム122、減圧チャンバ123及び剥取ローラ124が設けられる。
【0047】
流延ドラム122は、軸方向が水平となるように配され、軸を中心に回転自在となっている。流延ドラム122は、制御部の制御の下、図示しない駆動装置により軸を中心に回転する。流延ドラム122の回転により、流延ドラム122の周面は所定の速度で走行する。
【0048】
流延ドラム122には温調装置125が接続する。温調装置125は、伝熱媒体の温度を調節する温度調節部を内蔵する。温調装置125は、温度調節部及び流延ドラム122内に設けられる流路との間で、所望の温度に調節された伝熱媒体を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム122の周面の温度を所望の温度に保つことができる。
【0049】
(流延ダイ)
流延ダイ121は、流延ドラム122の上方に設けられる。流延ダイ121は、先端にドープ127を流出するスリットを有する。流延ダイ121は、スリットが流延ドラム122に近接するように配される。流延ダイ121から流出したドープ127は、移動する流延ドラム122の周面上にて流れ延ばされる結果、帯状の流延膜128を形成する。
【0050】
剥取ローラ124は、流延ダイ121よりもA方向の下流側に配される。剥取ローラ124は、周面上に形成された流延膜128を剥ぎ取って、湿潤フィルム130として、流延室112の下流側へ案内する。
【0051】
減圧チャンバ123は、流延ダイ121よりもA方向の上流側、かつ剥取ローラ124よりもA方向の下流側に設けられる。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ123は、流延ビードの上流側の圧力が下流側に対して低くなるように、流延ビードの上流側を減圧することができる。
【0052】
流延室112の下流には、ピンテンタ113、クリップテンタ15、乾燥室115、冷却室116、及び巻取室16が順に設置されている。流延室112とピンテンタ113との間の渡り部133では、複数のローラ134を用いて、流延室112から送り出された帯状の湿潤フィルム130をピンテンタ113へ搬送する。ピンテンタ113は、湿潤フィルム130の耳部を貫通して保持する多数のピンプレートを有する。ピンプレートは軌道上を移動する。ピンプレートに保持された湿潤フィルム130に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム130は乾燥し、フィルム12となる。
【0053】
ピンテンタ113及びクリップテンタ15の下流にはそれぞれ耳切装置が設けられている。耳切装置136a、136bはフィルム12の耳部を切り離す。この切り離された耳部は、送風によりクラッシャ(図示しない)に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0054】
乾燥室115には、多数のローラ140が設けられており、これらにフィルム12が巻き掛けられて搬送される。乾燥室115内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室115の通過によりフィルム12の乾燥処理が行われる。乾燥室115には吸着回収装置141が接続される。吸着回収装置141は、フィルム12から蒸発した溶剤を吸着により回収する。
【0055】
冷却室116では、フィルム12の温度が略室温になるまで、フィルム12が冷却される。冷却室116と巻取室16との間には、Z1方向上流側から下流側に向かって、フィルム12に除電処理を施す除電バー144と、フィルム12の耳部に巻き取り用のナーリングを付与するナーリング付与ローラ145とが順に設置されている。
【0056】
なお、クリップテンタ15は、乾燥室115及び冷却室116の間に設けても良い。
【0057】
本発明は、ドープを流す際に、2種類以上のドープを同時に流して、個々のドープからなる層を複数有する流延膜(以下、積層流延膜と称する)を形成する同時積層共流延、または、複数のドープを逐次流して、積層流延膜を形成する逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。
【0058】
上記実施形態では、回転する流延ドラム122の周面に流延膜128を形成したが、本発明はこれに限られず、循環走行する流延バンド上に流延膜128を形成してもよい。
【0059】
上記実施形態では、流延膜128が搬送可能な状態となるまで、流延膜128を冷却したが、本発明はこれに限られず、流延膜128が搬送可能な状態となるまで、流延膜128から溶剤を蒸発しても良い。なお、この場合において、剥ぎ取り時の流延膜128の残留溶剤量は、30重量%以上120重量%以下であることが好ましい。
【0060】
本発明により得られるフィルム12は、特に、位相差フィルムや偏光板保護フィルムに用いることができる。
【0061】
フィルム12の幅は、600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、フィルム12の幅が2500mmより大きい場合にも効果がある。また、フィルム12の膜厚は、30μm以上120μm以下であることが好ましい。
【0062】
また、フィルム12の面内レターデーションReは、20nm以上300nm以下であることが好ましく、フィルム12の厚み方向レターデーションRthは、−100nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0063】
面内レターデーションReの測定方法は次の通りである。面内レターデーションReは、サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))にて632.8nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値を用いた。なおReは以下式で表される。
Re=|n1−n2|×d
n1は遅相軸の屈折率,n2は進相軸2の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚)を表す
【0064】
厚み方向レターデーションRthの測定方法は次の通りである。サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、エリプソメータ(M150 日本分光(株)製)で632.8nmにより垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値とから下記式に従い算出した。
Rth={(n1+n2)/2−n3}×d
n3は厚み方向の屈折率を表す。
【0065】
上記実施形態では、溶液製膜設備にて製造されたフィルムについて本発明を用いたが、溶融製膜設備にて製造されたフィルムについて本発明を用いることもできる。
【0066】
(ポリマー)
本発明に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0067】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0068】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0069】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「2位のアシル置換度」とする)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「3位のアシル置換度」という)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「6位のアシル置換度」という)である。
【0070】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が用いられてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0071】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位の水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを作製することができる。特に、非塩素系有機溶剤を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0072】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター、パルプのいずれかから得られたものでもよい。
【0073】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特には限定されない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレノイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0074】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0075】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度及び光学特性など物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0076】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶剤組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。
【0077】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶剤及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レターデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 フィルム延伸設備
12 フィルム
15 クリップテンタ
40 仕切板
44 加熱風ヘッド
45 冷却風ヘッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有する熱可塑性フィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である位相差フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法は、ポリマーを溶融させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を流し、支持体上に流延膜を形成する。次に、流延膜が搬送可能になった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとする。そして、この湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする方法である。
【0004】
得られたフィルムの平面性を向上させるために、またはフィルムの光学特性を調整するために、フィルムを所定の方向へ延伸するテンタ装置が知られている(例えば、特許文献1)。このテンタ装置は、帯状のフィルムの幅方向両側に設けられ、長手方向に向かうに従って間隔が拡がる対のレールと、このレールに沿って移動可能なチェーンと、所定の間隔でチェーンに取り付けられたクリップとを有する。そして、このテンタ装置によれば、クリップを用いてフィルムの幅方向両端部を把持し、レールに沿ってチェーンを走行させることにより、フィルムの幅を拡げる延伸工程を行うことができる。
【0005】
また、フィルムに延伸工程を施すと、ボーイング現象により、遅相軸の向きがばらついてしまう。ここで、ボーイングとは、延伸処理前のフィルムにおいて幅方向に引かれた線分が、延伸処理後のフィルムでは、フィルムの長手方向に対して凹状または凸状に変形する挙動を指す。そこで、ボーイング現象の発生を防止する手段として、(1)フィルム中央部よりフィルム端部の温度を高くする、(2)フィルム中央部よりフイルム端部の残留溶媒量を大きくする、(3)テンタ式乾燥機内に温度の異なるゾーンを設けるといった手法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−90943号公報
【特許文献2】特開2002−296422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、図11に示すように、フィルム200に発生するボーイング現象はフィルム全領域において一様に発生しない。対となったクリップ201によって把持された部分203に発生したボーイングB1と、対となったクリップ201によって把持されていない部分204に発生したボーイングB2とは、傾向が異なる。同一のフィルム200において傾向の異なるボーイングB1,B2が発生すると、最終的に得られるフィルムの長手方向における遅相軸のばらつきが生じてしまう。
【0008】
上述したボーイングによる遅相軸のばらつきは、液晶表示装置のコントラストを阻害する要因となる。VA方式が主流となり、大型化がすすむ液晶表示装置の分野においては、液晶表示装置に要求される正面コントラストが日増しに高くなっている。こうした経緯から、液晶表示装置メーカから、更なる遅相軸のばらつきの改善が求められるようになった。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するものであり、フィルムの遅相軸のばらつきを抑えながら、フィルムを延伸するテンタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のテンタ装置は、ウェブを長手方向へ搬送する搬送路であって、この搬送路の両側に対となって前記ウェブの長手方向に並べられ、前記ウェブの幅方向両端部を把持するクリップ対と、前記クリップ対を前記長手方向に移動させるクリップ対移動手段と、前記幅方向両端部及びこの幅方向両端部の間の製品部を備える前記ウェブに近接するように、前記幅方向両端部及び前記製品部の境界上に設けられ、前記幅方向に前記搬送路を中央区画、第1端区画、及び第2端区画の3つに分ける遮風手段と、前記中央区画に設けられ、前記ウェブに加熱風をあてる加熱風供給手段とを有することを特徴とする。
【0011】
前記第1端区画、及び前記第2端区画に設けられ、前記ウェブに冷却風をあてる冷却風供給手段を有することが好ましい。
【0012】
本発明のテンタ装置は、ウェブを長手方向へ搬送する搬送路であって、この搬送路の両側に対となって前記ウェブの長手方向に並べられ、前記ウェブの幅方向両端部を把持するクリップ対と、前記クリップ対を前記長手方向に移動させるクリップ対移動手段と、加熱風を前記ウェブに向けて前記幅方向に一様に送る加熱風供給手段と、この加熱風供給手段及び前記クリップの移動経路の間に設けられ、前記加熱風を遮る遮風部材とを有することを特徴とする。
【0013】
前記遮風部材は前記クリップの移動経路を覆うように配されたことが好ましい。前記ウェブに冷却風をあてる冷却風供給手段が、前記覆いの中に配されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
ウェブを長手方向へ搬送する搬送路であって、この搬送路の両側に対となってウェブの長手方向に並べられ、ウェブの幅方向両端を把持するクリップ対を有するクリップテンタを用いて延伸工程を行った場合、ウェブの両端のうち、クリップ対に把持される第1部分と、クリップ対に把持されていない第2部分とにおいて、変形挙動が異なる。本発明によれば、ウェブの両端の温度を、ウェブの中央部分に比べ低温にすることができるため、第1部分と第2部分とにおける変形挙動を同様のものにすることができる結果、第1部分と第2部分とに発生したボーイングを同様の傾向にすることができる。したがって、本発明によれば、最終的に得られるフィルムの長手方向における遅相軸のばらつきを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】フィルム延伸設備の概要を示す説明図である。
【図2】第1のクリップテンタの概要を示す平面図である。
【図3】クリップの概要を示す斜視図である。
【図4】把持位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図5】離隔位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図6】第1のクリップテンタの概要を示す平面図である。
【図7】第2のクリップテンタの概要を示す平面図である。
【図8】第2のクリップテンタに設けられ、把持位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図9】第3のクリップテンタに設けられ、把持位置のフラッパの概要を示す説明図である。
【図10】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図11】従来の延伸工程において、フィルムに発生するボーイングの概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、フィルム延伸設備10は、帯状のフィルム12を長手方向(以下、Z1方向と称する)へ送り出すフィルム供給部14と、フィルム供給部14から送り出されたフィルム12について延伸工程を行うクリップテンタ15と、クリップテンタ15から送り出されたフィルム12を巻き芯16aに巻き取る巻取室16とを有する。
【0017】
(クリップテンタ)
図2に示すように、クリップテンタ15はケーシング20を有する。ケーシング20には入口20i及び出口20oが設けられる。ケーシング20内には、フィルム12をZ1方向へ搬送する搬送路20rが、入口20iから出口20oにかけて形成される。更に、ケーシング20内は、Z1方向の上流側から順に、予熱エリア20a、延伸エリア20b、緩和エリア20c及び冷却エリア20dに区画される。なお、緩和エリア20c及び冷却エリア20dは省略してもよい。
【0018】
ケーシング20に内蔵されるテンタ本体は、クリップ22とレール23とを備える。対となるレール23は、各エリア20a〜20dにかけて、フィルム12の搬送路20rの両側に設置される。延伸エリア20bにおけるレール23の間隔は、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って広くなる。一方、緩和エリア20cにおけるレール23の間隔は、Z1方向上流側から下流側に向かうに従って狭くなる。また、予熱エリア20a及び冷却エリア20dにおけるレール23の間隔は、一定である。
【0019】
レール23のZ1方向上流側及び下流側には、スプロケット24,25が設けられる。図示しない環状のチェーンは、スプロケット24,25と噛み合い、レール23に沿って移動自在に取り付けられている。このチェーンには、複数のクリップ22が所定の間隔で取り付けられている。なお、図2では、図の煩雑化を避けるため、クリップ22の一部のみを示す。スプロケット24,25が回転することにより、クリップ22はレール23に沿って移動する。こうして、フィルム12の搬送路20rのZ2方向両端部には、クリップ22の移動経路22rが形成される。予熱エリア20aにおけるレール23上及び冷却エリア20dにおけるレール23上には、クリップ22の一部と接触するクリップオープナ28が設けられる。
【0020】
図3及び図4に示すように、クリップ22は、クリップ本体30とレール取付部31とを有する。クリップ本体30は、略コ字形状のフレーム33とフラッパ34と回動軸35とを備える。フラッパ34は、回動軸35によりフレーム33に回動自在に取り付けられている。
【0021】
図4に示すように、フレーム33は、フィルム12のうち、Z2方向両縁部(以下、耳部と称する)12eの裏面12bを支持する支持面33aを有する。支持面33aは平らとなっていることが好ましい。
【0022】
フラッパ34の一端には、フィルム12の耳部12eの表面12fと接触可能な押圧面34aが設けられる。フラッパ34の他端には、クリップオープナ28と係合可能な係合頭部34bが設けられる。押圧面34a及び係合頭部34bは、回動軸35を中心に揺動自在となる。こうして、フラッパ34は、支持面33aに支持されたフィルム12に押圧面34aが接する把持位置と、支持面33aに支持されたフィルム12から押圧面34aが離れる離隔位置(図5参照)との間で回動自在となる。なお、フラッパ34は、把持位置となるように付勢されることが好ましい。
【0023】
離隔位置にあるフラッパ34が把持位置に向かって移動するに従って、押圧面34a及び支持面33aのクリアランスは次第に小さくなる。そして、フラッパ34が把持位置に到達したときの押圧面34a及び支持面33aのクリアランスは、把持の対象となるフィルム12の厚みよりも小さい。このように、フラッパ34が把持位置に変位することにより、押圧面34aが、支持面33aに支持されるフィルム12の耳部12eを押圧する。この結果、クリップ22は、フィルム12の耳部12eを把持することができる。なお、押圧面34aの形状は、揺動軸に直交する面において、円弧状となっていることが好ましい。
【0024】
フラッパ34が離隔位置から把持位置に変位する場合、Z2方向において、押圧面34aが端部から中央部に向かうように、フラッパ34が回動することが好ましい。これにより、クリップ22によって把持されたフィルム12がZ2方向中央部側に滑っても、フィルム12の滑りに伴って押圧面34aがZ2方向中央部側に移動する結果、押圧面34a及び支持面33aによるフィルム12の把持力が大きくなる。このため、フィルム12の把持を確実にすることができる。
【0025】
図4及び図6に示すように、それぞれの移動経路22rよりもZ2方向中央側には、フィルム12に対し起立した姿勢の仕切板40が移動経路22rに沿って設けられる。更に、仕切板40は搬送路20rに近接するように配される。2つの仕切板40は、Z2方向において、フィルム12の搬送路20rを中央区画20rc及び第1端区画20re、及び第2端区画20rfの3つに区画する。
【0026】
なお、仕切板40をフィルム12の搬送路20rの下方に設けても良いし、フィルム12の搬送路20rの上方及び下方の両方に設けても良い。また、図4では、仕切板40を設けるエリアを各エリア20a〜20dの全てとしたが、本発明はこれに限られず、延伸エリア20bと緩和エリア20cとのうち少なくともいずれか一方でもよい。
【0027】
中央区画20rcには、加熱風をフィルム12にあてる加熱風ヘッド44が設けられる。加熱風ヘッド44は、各エリア20a〜20dにおいて、それぞれZ1方向へ並べられる。第1端区画20re及び第2端区画20rfには、それぞれ、冷却風をフィルム12にあてる冷却風ヘッド45が設けられる。冷却風ヘッド45は、各エリア20a〜20dにおいて、それぞれZ1方向へ並べられる。加熱風ヘッド44及び冷却風ヘッド45は、それぞれ複数のノズルを有する。ノズルは、Z1方向に所定のピッチで並ぶように配される。ノズルの先端には、内部ダクトと連通するスリット状の開口が設けられる。開口は、方向Z2に長く伸びるように形成される。なお、加熱風ヘッド44や冷却風ヘッド45において、所定の風を送出す送出口と風を吸引する吸引口をZ2方向に交互に設けても良い。
【0028】
なお、加熱風ヘッド44及び加熱風ヘッド44をフィルム12の搬送路20rの下方に設けても良いし、フィルム12の搬送路20rの上方及び下方の両方に設けても良い。冷却風ヘッド45を設けるエリアは、各エリア20a〜20dの全てに限られず、延伸エリア20bと緩和エリア20cとのうち少なくともいずれか一方でもよい。
【0029】
図1に戻って、クリップテンタ15と巻取室16と間には耳切装置48が設けられる。耳切装置48は、クリップテンタ15から送出されたフィルム12の耳部12eを切り離す。この切り離された耳部12eは、送風によりクラッシャ(図示しない)に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0030】
次の本発明の作用について説明する。図1に示すように、フィルム供給部14は、フィルム12をクリップテンタ15へ供給する。図2に示すように、チェーンの移動によって、複数のクリップ22はレール23に沿って移動する。この結果、クリップ22は、予熱エリア20a、延伸エリア20b、緩和エリア20c及び冷却エリア20dを順次通過した後、再び予熱エリア20aへ戻る。このように、クリップ22は、各エリア20a〜20dを循環して移動する。
【0031】
図3に示す予熱エリア20aにおいて、係合頭部34bがクリップオープナ28と接触すると、図5に示すように、フラッパ34は離隔位置となる。このように、予熱エリア20aに導入されたフィルム12の耳部12eは、フレーム33の支持面33aによって支持される。
【0032】
図2に示すように、係合頭部34bがクリップオープナ28から離れる位置Paでは、離隔位置(図5参照)のフラッパ34は把持位置(図4参照)となる。こうして、位置Paにおいて、押圧面34aと支持面33aとによるフィルム12の耳部12eの把持が開始される。
【0033】
図2に戻って、クリップ22は、フラッパ34が把持位置のまま、各エリア20a〜20dを通過する。このため、クリップ22により耳部12eを把持されたフィルム12は、各エリア20a〜20dを通過する。
【0034】
予熱エリア20aにおけるフィルム12の幅はW1のままである。延伸エリア20bにおけるフィルム12の幅は、Z1方向の下流側に向かうに従って、W1からW2へと次第に拡がる。緩和エリア20cにおけるフィルム12の幅は、Z1方向の下流側に向かうに従って、W2からW3へと次第に狭まる。冷却エリア20dにおけるフィルム12の幅はW3のままである。
【0035】
各エリア20a〜20dにおいて、図4に示すように、加熱風ヘッド44は、所定の温度に調節された加熱風をフィルム12にあてる。仕切板40は、加熱風ヘッド44からの加熱風を遮るため、フィルム12のうち1対の耳部12eの間の製品部12cが加熱される。各エリア20a〜20dにおいて、冷却風ヘッド45は、所定の温度に調節された冷却風をフィルム12の耳部12eにあてる。仕切板40は、冷却風ヘッド45からの冷却風を遮るため、フィルム12のうち1対の耳部12eが冷却される。
【0036】
延伸エリア20bでは、耳部12eを把持したクリップ22により、フィルム12はZ2方向端部側へ延伸される。このとき、フィルム12の耳部12eは、Z1方向において一様に冷却されているため、フィルム12に発生するボーイングは、Z1方向において一様となる。したがって、本発明によれば、Z1方向における遅相軸のばらつきを抑えることができる。
【0037】
上記実施形態では、冷却風ヘッド45を第1端区画20re及び第2端区画20rfに設けたが、本発明はこれに限られず、冷却風ヘッド45を省略しても良い。
【0038】
(予熱エリア)
予熱エリア20aに導入されるフィルム12の残留溶剤量は0重量%以上60重量%以下であることが好ましい。予熱エリア20aにおけるフィルム12の温度Tf20aは80℃以上ガラス転移温度Tg未満であることが好ましい。なお、本発明では、流延膜や各フィルム中に残留する溶剤量を乾量基準で示したものを残留溶剤量とする。また、その測定方法は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0039】
(延伸エリア)
延伸エリア20bに導入されるフィルム12の残留溶剤量は、0重量%以上40重量%以下であることが好ましい。延伸エリア20bのうち、中央区画20rcにおけるフィルム12の温度Tf20bは60℃以上180℃以下であることが好ましい。延伸エリア20bのうち、第1端区画20re及び第2端区画20rfにおけるフィルム12の温度は、温度Tf20bよりも40℃以上低いことが好ましい。延伸率ER(=W2/W1)は、例えば、100%より大きく200%以下であることが好ましい。
【0040】
(緩和エリア)
緩和エリア20cに導入されるフィルム12の残留溶剤量は0重量%以上30重量%以下であることが好ましい。緩和エリア20cのうち、中央区画20rcにおけるフィルム12の温度Tf20cは70℃以上160℃以下であることが好ましい。緩和エリア20cのうち、第1端区画20re及び第2端区画20rfにおけるフィルム12の温度は、温度Tf20cよりも20℃以上低いことが好ましい。緩和率RR(=W3/W2)は、例えば、90%より大きく100%未満であることが好ましい。
【0041】
(冷却エリア)
冷却エリア20dに導入されるフィルム12の残留溶剤量は0重量%以上20重量%以下であることが好ましい。また、冷却エリア20dにおけるフィルム12の温度Tf20dは40℃以上150℃以下であることが好ましい。
【0042】
本発明の第2実施形態を説明する。以下、上記実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、その説明は省略し、異なるもののみ説明する。
【0043】
図6及び図7に示すように、加熱風ヘッド44は、カバー60のフィルム12のZ2方向の全域に向けて加熱風を送る。ケーシング20内には、クリップ22の移動経路22rを覆うカバー60が設けられる。カバー60は、フィルム12の耳部12eに向かう加熱風を遮る。こうして、フィルム12の耳部12eが、製品部12cに比べて一様に低温となるため、Z1方向における遅相軸のばらつきを抑えることができる。
【0044】
なお、冷却風をフィルム12の耳部12eにあてる第2冷却ヘッド50を、カバー60の内部に設けてもよい。第2冷却ヘッド50は、移動経路22rに沿って設けられることが好ましい。また、カバー60に代えて、移動経路22r及び加熱風ヘッド44の間に遮風板65を設けてもよい(図9参照)。
【0045】
第2冷却ヘッド50、カバー60及び遮風板65を設けるエリアは、各エリア20a〜20dの全てに限られず、延伸エリア20bと緩和エリア20cとのうち少なくともいずれか一方でもよい。
【0046】
次に、クリップテンタ15を用いたフィルムの製造設備について、図10を用いて説明する。溶液製膜設備110は、流延室112とピンテンタ113とクリップテンタ15と乾燥室115と冷却室116と巻取室16とを有する。流延室112には、流延ダイ121、流延ドラム122、減圧チャンバ123及び剥取ローラ124が設けられる。
【0047】
流延ドラム122は、軸方向が水平となるように配され、軸を中心に回転自在となっている。流延ドラム122は、制御部の制御の下、図示しない駆動装置により軸を中心に回転する。流延ドラム122の回転により、流延ドラム122の周面は所定の速度で走行する。
【0048】
流延ドラム122には温調装置125が接続する。温調装置125は、伝熱媒体の温度を調節する温度調節部を内蔵する。温調装置125は、温度調節部及び流延ドラム122内に設けられる流路との間で、所望の温度に調節された伝熱媒体を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム122の周面の温度を所望の温度に保つことができる。
【0049】
(流延ダイ)
流延ダイ121は、流延ドラム122の上方に設けられる。流延ダイ121は、先端にドープ127を流出するスリットを有する。流延ダイ121は、スリットが流延ドラム122に近接するように配される。流延ダイ121から流出したドープ127は、移動する流延ドラム122の周面上にて流れ延ばされる結果、帯状の流延膜128を形成する。
【0050】
剥取ローラ124は、流延ダイ121よりもA方向の下流側に配される。剥取ローラ124は、周面上に形成された流延膜128を剥ぎ取って、湿潤フィルム130として、流延室112の下流側へ案内する。
【0051】
減圧チャンバ123は、流延ダイ121よりもA方向の上流側、かつ剥取ローラ124よりもA方向の下流側に設けられる。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ123は、流延ビードの上流側の圧力が下流側に対して低くなるように、流延ビードの上流側を減圧することができる。
【0052】
流延室112の下流には、ピンテンタ113、クリップテンタ15、乾燥室115、冷却室116、及び巻取室16が順に設置されている。流延室112とピンテンタ113との間の渡り部133では、複数のローラ134を用いて、流延室112から送り出された帯状の湿潤フィルム130をピンテンタ113へ搬送する。ピンテンタ113は、湿潤フィルム130の耳部を貫通して保持する多数のピンプレートを有する。ピンプレートは軌道上を移動する。ピンプレートに保持された湿潤フィルム130に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム130は乾燥し、フィルム12となる。
【0053】
ピンテンタ113及びクリップテンタ15の下流にはそれぞれ耳切装置が設けられている。耳切装置136a、136bはフィルム12の耳部を切り離す。この切り離された耳部は、送風によりクラッシャ(図示しない)に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0054】
乾燥室115には、多数のローラ140が設けられており、これらにフィルム12が巻き掛けられて搬送される。乾燥室115内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室115の通過によりフィルム12の乾燥処理が行われる。乾燥室115には吸着回収装置141が接続される。吸着回収装置141は、フィルム12から蒸発した溶剤を吸着により回収する。
【0055】
冷却室116では、フィルム12の温度が略室温になるまで、フィルム12が冷却される。冷却室116と巻取室16との間には、Z1方向上流側から下流側に向かって、フィルム12に除電処理を施す除電バー144と、フィルム12の耳部に巻き取り用のナーリングを付与するナーリング付与ローラ145とが順に設置されている。
【0056】
なお、クリップテンタ15は、乾燥室115及び冷却室116の間に設けても良い。
【0057】
本発明は、ドープを流す際に、2種類以上のドープを同時に流して、個々のドープからなる層を複数有する流延膜(以下、積層流延膜と称する)を形成する同時積層共流延、または、複数のドープを逐次流して、積層流延膜を形成する逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。
【0058】
上記実施形態では、回転する流延ドラム122の周面に流延膜128を形成したが、本発明はこれに限られず、循環走行する流延バンド上に流延膜128を形成してもよい。
【0059】
上記実施形態では、流延膜128が搬送可能な状態となるまで、流延膜128を冷却したが、本発明はこれに限られず、流延膜128が搬送可能な状態となるまで、流延膜128から溶剤を蒸発しても良い。なお、この場合において、剥ぎ取り時の流延膜128の残留溶剤量は、30重量%以上120重量%以下であることが好ましい。
【0060】
本発明により得られるフィルム12は、特に、位相差フィルムや偏光板保護フィルムに用いることができる。
【0061】
フィルム12の幅は、600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、フィルム12の幅が2500mmより大きい場合にも効果がある。また、フィルム12の膜厚は、30μm以上120μm以下であることが好ましい。
【0062】
また、フィルム12の面内レターデーションReは、20nm以上300nm以下であることが好ましく、フィルム12の厚み方向レターデーションRthは、−100nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0063】
面内レターデーションReの測定方法は次の通りである。面内レターデーションReは、サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))にて632.8nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値を用いた。なおReは以下式で表される。
Re=|n1−n2|×d
n1は遅相軸の屈折率,n2は進相軸2の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚)を表す
【0064】
厚み方向レターデーションRthの測定方法は次の通りである。サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、エリプソメータ(M150 日本分光(株)製)で632.8nmにより垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値とから下記式に従い算出した。
Rth={(n1+n2)/2−n3}×d
n3は厚み方向の屈折率を表す。
【0065】
上記実施形態では、溶液製膜設備にて製造されたフィルムについて本発明を用いたが、溶融製膜設備にて製造されたフィルムについて本発明を用いることもできる。
【0066】
(ポリマー)
本発明に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0067】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0068】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0069】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「2位のアシル置換度」とする)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「3位のアシル置換度」という)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「6位のアシル置換度」という)である。
【0070】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が用いられてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0071】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位の水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを作製することができる。特に、非塩素系有機溶剤を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0072】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター、パルプのいずれかから得られたものでもよい。
【0073】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特には限定されない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレノイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0074】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0075】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度及び光学特性など物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0076】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶剤組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。
【0077】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶剤及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レターデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 フィルム延伸設備
12 フィルム
15 クリップテンタ
40 仕切板
44 加熱風ヘッド
45 冷却風ヘッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブを長手方向へ搬送する搬送路であって、この搬送路の両側に対となって前記ウェブの長手方向に並べられ、前記ウェブの幅方向両端部を把持するクリップ対と、
前記クリップ対を前記長手方向に移動させるクリップ対移動手段と、
前記幅方向両端部及びこの幅方向両端部の間の製品部を備える前記ウェブに近接するように、前記幅方向両端部及び前記製品部の境界上に設けられ、前記幅方向に前記搬送路を中央区画、第1端区画、及び第2端区画の3つに分ける遮風手段と、
前記中央区画に設けられ、前記ウェブに加熱風をあてる加熱風供給手段とを有することを特徴とするテンタ装置。
【請求項2】
前記第1端区画、及び前記第2端区画に設けられ、前記ウェブに冷却風をあてる冷却風供給手段を有することを特徴とする請求項1記載のテンタ装置。
【請求項3】
ウェブを長手方向へ搬送する搬送路であって、この搬送路の両側に対となって前記ウェブの長手方向に並べられ、前記ウェブの幅方向両端部を把持するクリップ対と、
前記クリップ対を前記長手方向に移動させるクリップ対移動手段と、
加熱風を前記ウェブに向けて前記幅方向に一様に送る加熱風供給手段と、
この加熱風供給手段及び前記クリップの移動経路の間に設けられ、前記加熱風を遮る遮風部材とを有することを特徴とするテンタ装置。
【請求項4】
前記遮風部材は前記クリップの移動経路を覆うように配されたことを特徴とする請求項3記載のテンタ装置。
【請求項5】
前記ウェブに冷却風をあてる冷却風供給手段が、前記覆いの中に配されたことを特徴とする請求項4記載のテンタ装置。
【請求項1】
ウェブを長手方向へ搬送する搬送路であって、この搬送路の両側に対となって前記ウェブの長手方向に並べられ、前記ウェブの幅方向両端部を把持するクリップ対と、
前記クリップ対を前記長手方向に移動させるクリップ対移動手段と、
前記幅方向両端部及びこの幅方向両端部の間の製品部を備える前記ウェブに近接するように、前記幅方向両端部及び前記製品部の境界上に設けられ、前記幅方向に前記搬送路を中央区画、第1端区画、及び第2端区画の3つに分ける遮風手段と、
前記中央区画に設けられ、前記ウェブに加熱風をあてる加熱風供給手段とを有することを特徴とするテンタ装置。
【請求項2】
前記第1端区画、及び前記第2端区画に設けられ、前記ウェブに冷却風をあてる冷却風供給手段を有することを特徴とする請求項1記載のテンタ装置。
【請求項3】
ウェブを長手方向へ搬送する搬送路であって、この搬送路の両側に対となって前記ウェブの長手方向に並べられ、前記ウェブの幅方向両端部を把持するクリップ対と、
前記クリップ対を前記長手方向に移動させるクリップ対移動手段と、
加熱風を前記ウェブに向けて前記幅方向に一様に送る加熱風供給手段と、
この加熱風供給手段及び前記クリップの移動経路の間に設けられ、前記加熱風を遮る遮風部材とを有することを特徴とするテンタ装置。
【請求項4】
前記遮風部材は前記クリップの移動経路を覆うように配されたことを特徴とする請求項3記載のテンタ装置。
【請求項5】
前記ウェブに冷却風をあてる冷却風供給手段が、前記覆いの中に配されたことを特徴とする請求項4記載のテンタ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−201089(P2011−201089A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68964(P2010−68964)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]