説明

テンプレート化した天然絹スメクティックゲル

【課題】溶媒テンプレート化プロセスによる繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルの調製方法の提供。
【解決手段】繊維性タンパク質の水溶液を水に混和性ではない溶媒を含む容器に注ぎ入れるステップと、前記容器を密封して室温程度の温度で放置するステップと、得られた繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルを収集して乾燥させるステップと、を含む方法、及びラセミ混合体から主に1種類のエナンチオマを得る方法であって、前記放置するステップまでと、ラセミ混合体のエナンチオマを溶液中のスメクチックハイドロゲルに選択的に分散させるステップと、前記溶液からスメクチックハイドロゲルを取り出すステップと、前記スメクチックハイドロゲルの表面から主に1種類のエナンチオマをすすぎ落とすステップと、前記スメクチックハイドロゲルの内部から主に1種類のエナンチオマを抽出するステップとを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
政府支援
本願発明はNASA(認可番号NAG8-1699)およびNSF (認可番号BES 9727401)の支援によって行われた。したがって、米国政府は本願発明の一定の権利を有する。
【0002】
発明の背景
液晶材料には大きく分けて、ネマチック、コレステリック、スメクチックの3種類がある。これらの種類は、分子配列の違いによって区別される。そのような材料が固相と等方的な液相の間の液晶相になるのは、限定された温度範囲内だけだである。液晶相の温度範囲内において、物質は、ネマチック、コレステリック、またはスメクチック相のうち1種類以上の形態を示すことがある。通常、物質は、作動温度範囲内で1種類だけの液晶相を形成するように形成される。
【0003】
液晶エラストマは、各種の対称性が破綻した液晶相とポリマーネットワークの弾性を組み合わせる。ある明らかな効果は、点結晶エラストマは、液晶遷移を経ると自然発生的な形状変化を起こすことがあるという点だ。身近な液晶のゆらぎと弾性の自由度の相互作用にはさらに数多くのわずかな効果がある(たとえば、および単結晶ネマチックエラストマは、理論上、特定の方向に変形すると弾性率がゼロになる。もちろん、このような劇的な効果には不規則性が大幅に影響するため、このような特性は凍結不規則性の研究に最適である。
【0004】
バイオポリマーネットワークは自然界のいたるところに見つけられる。たとえば、細胞骨格はアクチンのネットワークで支持されている。アクチンとはモノマー単位の球状タンパク質を有する半柔軟性のポリマーである。このようなネットワークは、溶液中、および架橋ネットワーク状態の両方における半柔軟性のポリマーの物理を理解するための理想的なモデルシステムとして提供されている。
【0005】
繊維性タンパク質は、細胞外環境において重要な構造機能として働く特別な種類のタンパク質として考えることができる。生命体では、これらのタンパク質のいくつか、たとえばコラーゲンなどが、薄層中で、その他の細胞外バイオマテリアルの間にはさまれた状態で認められている。in vitroにおける細胞外繊維性タンパク質の物理化学を研究する場合、平面状の薄膜、または界面環境の使用は、制限された環境を提供することによって、タンパク質の自己集合が、立体状のバルクシステムと比較してより効率的になるよう促進するだろう。したがって、次元を制限された環境(たとえば薄膜または平面層)における遷移タンパク質のふるまいと、自己集合による構造および長距離秩序の生成の相乗作用を研究するのは有益である。
【0006】
異なるコンホメーションは、タンパク質の広がりと表面積が最大になる伸長鎖βシートコンホメーションなど、界面によって安定化することができる。タンパク質またはモデルポリペプチドが疎水性側鎖を有し、安定なαへリックスコンホメーションを容易に取ることができる場合、αへリックスは界面では安定であろう。 Biridi,
K. S. Journal of Colloid and Interface Science 1973, 43,
545; Cheesman, D. F.; Davies, J. T. Advan. Protein Chem. 1954, 9,
439; Jacuemain, D.; Wolf, S. G.; Leveiller, F.; Lahav, M.; Leiserowitz, L.;
Deutsch, M.; Kjaer, K.; Als-Nielsen, J. Journal of the American Chemical
Society 1990, 112, 7724 - 7736; Loeb, G. I. Journal of
Colloid and Interface Science 1968, 26, 236; Loeb, G. I. Journal
of Colloid and Interface Science 1969, 31, 572; Macritchie,
F. Adv. Coll. Int. Sci. 1986, 25, 341-382; Magdassi, S.;
Garti, N. Surface Activity of Proteins; Magdassi, S.; Garti, N., Ed.;
Marcel Dekker: New York, 1991; Vol. 39, pp 289 -300; Malcolm, B. R. Nature
1962, 4195, 901; Malcolm, B. R. Soc. Chem. Ind. London 1965,
19, 102; Malcolm, B. R. Progress in Surface and Membrane Science 1971,
4, 299; Murray, B. S. Coll. Surf. A 1997, 125, 73 -
83; Murray, B. S.; Nelson, P. V. Langmuir 1996, 12, 5973 -
5976; Weissbuch, I.; Berkovic, G.; Leiserowitz, L.; Lahav, M. Journal of the
American Chemical Society 1990, 112, 5874 - 5875; Wustneck,
R.; Kragel, J.; Miller, R.; Wilde, P. J.; Clark, D. C. Coll. Surf. A 1996,
114, 255− 265. 側鎖の特徴が界面のコンホメーションの安定化に影響を与えることから、ハイドロパシシティ(hydropathcity)を界面コンホメーション用の決定因子として用いることができる。この考え方をさらに応用すると、残基の配列によって界面活性剤のふるまいを示すことがある特定のコンホメーションが生じる場合、これらのコンホメーションは界面で安定化するはずである。
【0007】
絹およびその類似体は、その絹繊維の興味ある特性のため、最近、バイオマテリアルにおける応用が注目されている。その配列が単純なことから、モデル繊維性タンパク質として用いられている。絹およびその他の繊維性タンパク質の特性についての大半の研究は、機械的特性、熱安定性、および表面粗度などの全体的な材料特性を調べるか、または非常に局所的な分子の化学を調べるかのいずれかである。長く規則的な「らせん体」についての文献は、豊富ではない。
【0008】
以前、我々は、B. mori 絹フィブロインを用いると、3重らせんポリグリシンIIまたはポリプロリンII型のコンホメーションが、バルク状に観察されていなくても界面によって安定化ししている、と開示した。 Valluzzi,
R.; Gido, S. P. Biopolymers 1997, 42, 705-717; Valluzzi,
R.; Gido, S.; Zhang, W.; Muller, W.; Kaplan, D. Macromolecules 1996,
29, 8606-8614; Zhang, W.; Gido, S. P.; Muller, W. S.; Fossey, S. A.;
Kaplan, D. L. Electron Microscopy Society of America, Proceedings 1993,
1216。 B. mori フィブロイン結晶化配列は、だいたい(Gly-Ala-Gly-Ala-Gly-Ser)Xで、立体的に合理的な左巻き3重らせんコンホメーションは、界面の向こう側に疎水性アラニンと疎水性セリンを分離している。 Valluzzi,
R.; Gido, S. P. Biopolymers 1997, 42, 705-717; Valluzzi,
R.; Gido, S.; Zhang, W.; Muller, W.; Kaplan, D. Macromolecules 1996,
29, 8606-8614; Zhang, W.; Gido, S. P.; Muller, W. S.; Fossey, S. A.;
Kaplan, D. L. Electron Microscopy Society of America, Proceedings 1993,
1216。
【0009】
液体-液体界面で表面を詳細に測定しようとする試みには困難がつきものだったため、これまで、このような界面でのタンパク質のふるまいについての研究は数少なかった。新規の油水トラフデザインに取り組んだMurray
and Nelsonが、気水および油水界面におけるβラクトグロブリンとウシ血清アルブミン(いずれも球状)タンパク質膜のふるまいの比較についての結果を公表している。その結果は、気水および油水界面における繊維性タンパク質について得られた構造的な結果と見かけ上一致している。 Murray, B.
S. Coll. Surf. A 1997, 125, 73 - 83; Murray, B. S.;
Nelson, P. V. Langmuir 1996, 12, 5973 - 5976. 彼らは、油水界面における薄膜は、気水界面における対応する薄膜よりも、より大きく広がっており、伸長性および収縮性が大きいことを明らかにした。これは、凝集の低減のためであると考えられていた。気中とは反対の、油中における疎水基の高い溶解度が、油水界面における薄膜のより大きな安定性の理由としてあげられる。Shchipunovは、油水界面におけるリン脂質を研究し、両親媒性基があるために、界面の水側により多くの油が、および油側により多くの水が存在するということを観察した。 Shchipunov,
Y. A. Liquid/Liquid Interfaces and Self-Organized Assemblies of Lecithin;
Shchipunov, Y. A., Ed.; CRC Press: Boca
Raton, Florida, 1996,
pp 295-315. 両親媒性基は界面を形成する2つの液体を適合させ、このプロセスにおいて、界面が濃縮される。リン脂質について観察された適合化効果と、タンパク質薄膜について観察された安定性の両方から、油と水がタンパク質の側鎖と密接に相互作用していることが示唆される。したがって、側鎖-側鎖相互作用のスクリーニングが期待されるだろう。 Jacuemain, D.; Wolf,
S. G.; Leveiller, F.; Lahav, M.; Leiserowitz, L.; Deutsch, M.; Kjaer, K.;
Als-Nielsen, J. Journal of the American Chemical Society 1990, 112,
7724 - 7736; Malcolm, B. R. Nature 1962, 4195, 901;
Murray, B. S. Coll. Surf. A 1997, 125, 73 - 83; Murray, B.
S.; Nelson, P. V. Langmuir 1996, 12, 5973 - 5976; Wustneck,
R.; Kragel, J.; Miller, R.; Wilde, P. J.; Clark, D. C. Coll. Surf. A 1996,
114, 255 - 265; Shchipunov, Y. A. Liquid/Liquid Interfaces and
Self-Organized Assemblies of Lecithin; Shchipunov, Y. A., Ed.; CRC Press: Boca Raton,
Florida, 1996, pp 295-315; Miller, I. R. Progress in Surface and Membrane Science 1971,
4, 299。
水-ヘキサン界面を、フィブロイン液体-液体界面のふるまいの初めのプローブとして選択した。この界面は、フィブロインの欠如下においては厚さが約10Åであると考えられている。 Carpenter,
I. L.; Hehre, W. J. Journal of Physical Chemistry 1990, 94,
531-536; Michael, D.; Benjamin, I. Journal of Physical Chemistry 1995,
99, 1530-1536. 水-ヘキサン界面の絹は、時間の経過とともに薄膜を形成し、この薄膜をサンプルグリッド上に取り出して透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することができる。ヘキサンは、界面のヘキサン側に絹のアラニン残基を押すために、絹のアラニン残基の溶媒として水よりも適していると考えられる。その水相は、セリンの溶媒としてより適しているはずである。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
ある実施態様では、本願発明は、溶媒テンプレート化プロセスによる繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルの調製の方法であって、当該方法において、
a. 水と混和性ではない溶媒を含む容器に繊維性タンパク質水溶液を注ぎ入れるステップと、
b. その容器を密封し、室温程度の温度で一晩放置するステップと、
c 得られた繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルを収集し、乾燥させるステップと、
を含む、方法に関連する。
【0011】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記溶媒がクロロホルムである、プロセスに関連する。
【0012】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記溶媒がイソアミルアルコールである、プロセスに関連する。
【0013】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記溶媒がヘキサンである、プロセスに関連する。
【0014】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質が絹、コラーゲン、ケラチン、アクチン、コリオン、およびセロインからなるグループから選択されるプロセスに関連する。
【0015】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質が絹である、プロセスに関連する。
【0016】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約4重量%よりも大きい、プロセスに関連する。
【0017】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約8重量%よりも大きい、プロセスに関連する。
【0018】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約4重量%よりも大きく、前記繊維性タンパク質が絹であって、前記溶媒がイソアミルアルコールである、プロセスに関連する。
【0019】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約8重量%よりも大きく、前記繊維性タンパク質が絹であって、前記溶媒がイソアミルアルコールである、プロセスに関連する。
【0020】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約4重量%よりも大きく、前記繊維性タンパク質が絹であって、前記溶媒がクロロホルムである、プロセスに関連する。
【0021】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約8重量%よりも大きく、前記繊維性タンパク質が絹であって、前記溶媒がクロロホルムである、プロセスに関連する。
【0022】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約4重量%よりも大きく、前記繊維性タンパク質が絹であって、前記溶媒がヘキサンである、プロセスに関連する。
【0023】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化プロセスであって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約8重量%よりも大きく、前記繊維性タンパク質が絹であって、前記溶媒がヘキサンである、プロセスに関連する。
【0024】
別の実施態様では、本願発明は、ラセミ混合体から主に1つのエナンチオマを得る方法であって、当該方法において、
a. 水と混和性ではない溶媒を含む容器に繊維性タンパク質水溶液を注ぎ入れるステップと、
b. その容器を密封し、室温程度の温度で一晩放置するステップと、
c そのラセミ混合体を溶液中のスメクチックハイドロゲルの中に拡散させるステップと、
d そのスメクチックハイドロゲルを前記溶液から取り出すステップと、
e 前記スメクチックハイドロゲルの表面から、主に1つのエナンチオマをすすぎ落とすステップと、
f 前記スメクチックハイドロゲルの内部から、主に1つのエナンチオマを抽出するステップと、
を含む、方法に関連する。
【0025】
さらなる実施態様では、本願発明は、主に1つのエナンチオマを得る上述の方法であって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質が絹、コラーゲン、ケラチン、アクチン、コリオン、およびセロインからなるグループから選択される方法に関連する。
【0026】
さらなる実施態様では、本願発明は、主に1つのエナンチオマを得る上述の方法であって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質が絹である、方法に関連する。
【0027】
さらなる実施態様では、本願発明は、主に1つのエナンチオマを得る上述の方法であって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約4重量%よりも大きい、方法に関連する。
【0028】
さらなる実施態様では、本願発明は、主に1つのエナンチオマを得る上述の方法であって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約8重量%よりも大きい、方法に関連する。
【0029】
さらなる実施態様では、本願発明は、主に1つのエナンチオマを得る上述の方法であって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約4重量%よりも大きく、前記繊維性タンパク質が絹である、方法に関連する。
【0030】
さらなる実施態様では、本願発明は、主に1つのエナンチオマを得る上述の方法であって、当該プロセスにおいて前記繊維性タンパク質溶液が約8重量%よりも大きく、前記繊維性タンパク質が絹である、方法に関連する。
【0031】
別の実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化方法によって調製される繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルに関連する。
【0032】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化方法によって調製される繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルであって、当該繊維性タンパク質が絹、コラーゲン、ケラチン、アクチン、コリオン、およびセロインからなるグループから選択される繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルに関連する。
【0033】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化方法によって調製される繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルであって、当該繊維性タンパク質が絹である繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルに関連する。
【0034】
さらなる実施態様では、本願発明は上述の溶媒テンプレート化方法によって調製される繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルであって、当該繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルが厚さ約38nm以上である繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルに関連する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】クロロホルムでテンプレート化した絹の表面(右)および亀裂の入った表面を示す。波状の組織は、前記材料表面の溶媒テンプレート化された側全体にある。
【図2】クロロホルムでテンプレート化した薄膜を示す。再配向して台地状になった波が見られる。これは収縮による単純なしわには予想されないふるまいである。
【図3】前記の波を含む小塊状の小さな構造の規則的なパターンを示す。
【図4】「不織性織物」のように見える表面示すアミルアルコール薄膜を示す。
【図5】前記クロロホルム薄膜とは非常に異なる薄層を示す角度から見た表面組織を示す。
【図6】ビピリジルトリスRuIIクロリドヘキサヒドレートに浸したアミルアルコールテンプレート化サンプルの高倍率画像および40nmの層状の像を示す。
【図7】コントラストを強めた、塩化ジスプロジウム溶液に浸した後の薄膜の画像を示す。前記のクロロホルムテンプレート化薄膜の波状の層状構造がここに認められる。
【図8】均一で規則的な薄膜の組織を示す。
【図9】配列(Glu)5(Ser-Gly-Ala-Gly-Val-Gly-Arg-Gly-Asp-Gly-Ser-GlyVal-Gly-Leu-Gly-Ser-Gly-Asn-Gly)2(Glu)5を有するペプチドからの自己組み立て組織化「テープ」を示す。1. 光学的顕微鏡による画像で、前記材料の厚さ全体に維持されている10乃至15ミクロンの組織を示す。前記材料は光学的に透明である。2. 偏光型光学顕微鏡によってパターン化した複屈折が明らかになり、このことから、トポグラフィックな組織は材料の配向の変化によるものだということが示唆される。3. SEM画像が、前記テープのトポグラフィックな構造が示している。SEMおよび光学的顕微鏡で観察された周期性の差違は、上の表面と下の表面の隆線が両方とも光学的画像に観察されるという事実によるものである(その結果、明らかに短い周期が生じている)。
【図10】(Glu)5(Ser-Gly-Ala-Gly-Val-Gly-Arg-Gly-Asp-Gly-Ser-GlyVal-Gly-Leu-Gly-Ser-Gly-Asn-Gly)2(Glu)5の自己組み立てテープが「パターンの中のパターン」、または以下の特徴を有するナノスケール乃至ミクロスケールの階層的なパターンを有することを示す。その特徴とは、1: 前記階層の中で最長のスケールの糸の自己限定的な幅および厚さ(それぞれ120ミクロン、50ミクロン)であって、40ミクロンの周期的な組織が前記テープの長さ方向に沿って認められる、2: 40ミクロンの組織の隆線の範囲内に3ミクロンのサブ組織が認められる、3: 傾きのあるシートまたは層のサブミクロンの組織を観察することができる(40nm未満だが、正確なサイズは走査型電子顕微鏡の分解能よりも小さい)、TEM研究では5nmの層の空隙が示唆される。
【図11】(Glu)5(Ser-Gly-Ala-Gly-Val-Gly-Arg-Gly-Asp-Gly-Ser-GlyVal-Gly-Leu-Gly-Ser-Gly-Asn-Gly)2(Glu)5の自己組み立てテープのIRスペクトルを示す。典型的には、分子のIRスペクトルは、差し引かなければならない大きな背景と比べるとIR透過率の差が非常に小さい。前記テープ構造の異なる領域(配向)を通した、透過FTIRスペクトルの未処理データ(背景を差し引いていない)を示す。2つの配向は、高い背景に重なっている非常に典型的なタンパク質吸収スペクトルを示している。しかし、一部の配向では、赤外線は前記検出器に到達していない。
【図12】スペクトルの特性を示すように引き延ばしたスケールの、テープによって改変されたIRスペクトルを示す。吸収または透過スペクトルの代わりに、2つの重ねた正弦曲線のパターン(片方は50/cm周期、もう片方は25/cm周期。この材料の効果は、1750乃至3500 cm-1または5.7乃至2.9ミクロンの範囲内で最も強く認められた。
【図13】Na-EDTAを用いたオリゴペプチドの塩沈降によって得られた、ねじれた多結晶を示す。
【図14】ねじれ状に規則化した構造の階層としての、規則化したらせん状多結晶オリゴペプチド塩の沈降物を示す。
【図15】規則化した多結晶の反射型および透過FTIRスペクトルを示す。上図:反射赤外線スペクトル、未処理データ。前記オリゴペプチドのガラス状の不規則化した材料は、背景よりも反射率が高い。同一のペプチドからできている規則化した周期的ナノ層化材料を示す。明らかに赤外線の反射がはるかに少ない。下図:背景の透過スペクトル、規則化していないペプチド材料、および前記ペプチドの化学的に同一なナノ層化し規則化した材料。規則化した材料のスペクトルは、大きく減衰している。
【図16】テンプレート化したゲルの規則化され組織化した表面および内部を示す。(a) クロロホルムでテンプレート化したゲルは、水と接触していた表面をカバーしている波状の表面組織を有する。(b) クロロホルムでテンプレート化したゲルから得られた亀裂のある表面は、内部に向かってチャンネルが形成されている前記パターンの「表皮」を明らにしている。内部は異なる構造を有し、その構造は波状のプレートからできているように見える。(c) アミルアルコールでテンプレート化された材料のテンプレート化された表面(水と接触している部分)。(d) cにある領域の端の高倍率画像で、「表皮」コア構造および前記材料全体のパターン化された組織を示している。(e,f) レニウム化合物水溶液中で膨潤した後のアミルアルコール乾燥薄膜、および水中で膨潤させたルテニウム化合物の抽出。(e) 波線は、前記材料内の規則化された構造の再配向を示す。(f) 高倍率(20,000倍)にしたところ、幅38nmの線が認められた。
【図17】トリス(2,2´-ビピリジル)ジクロロルテニウム(II)ヘキサヒドレート(「ルビピー」)水溶液に1日浸した後のアミルアルコールテンプレート化ゲルを示す。ルビピーのほとんどは、前記溶液から前記絹ゲルへ移動した。最初の移動は急速で、キラル選択的である(約1時間にわたって生じる)。さらなる移動は、この後、約1日間ゆっくり生じ、キラル選択性は低くなる。クロロホルムテンプレート化ゲルは複雑な拡散のふるまいを示さず、膨潤プロセス全体においてキラル選択的である。
【図18】ルビピー中で1時間膨潤させた後にアミルアルコールでテンプレート化したゲルの断面を示す。ルビピーは急速に前記ゲルの外側の「表皮」層まで浸透し(明オレンジ)、内部への浸透はゆっくりだった(黄色い領域)。
【図19】クロロホルムでテンプレート化したゲルのX線回折パターン。回折輪に沿った濃色の円弧(矢印)は配向を示す。
【図20】繊維性タンパク質の非球状の特性を示す。
【図21】液晶の長距離秩序を示す。
【図22】ナノ層化結晶の「フラストレーション」を示す。
【図23】ナノ複合体を示す。
【図24】天然絹からのバンド状構造を示す。
【図25】人工的タンパク質デザインペプチドからのバンド状構造を示す。
【図26】ヘアピン構造がどのように絹の液晶性を可能にするかを示す。
【図27】クモの糸の改変を示す。
【図28】両親媒性のクモの糸のモチーフを示す。
【図29】カイコの糸のペプチドモデルを示す。
【図30】薄膜の形態とらせん固定を示す。
【図31】テンプレート化対溶媒技術を示す。
【図32】パターン化したペプチド薄膜を示す。
【図33】絹のテンプレート化ゲル-表面「表皮」を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の詳細な説明
定義
便宜上、本願発明の詳細な説明の前に、本願明細書、実施例、および添付される特許請求の範囲に用いられる特定の用語をここにまとめる。これらの定義は残りの本願開示の観点から読まれ、当業者に理解されなけれるべきである。他に定義のない限り、本願明細書に用いられたすべての技術および科学用語は、当業者によって普通に理解されるものと同じ意味を有する。
【0037】
本願明細書で用いられる冠詞「a」および「an」は、その冠詞の文法上の物体1つまたは1つより多い(すなわち少なくとも1つ)を意味する。例として、「an element」は1つの要素または1つより多い要素を意味する。
【0038】
「含む(comprise)」および「含む(comprising)」は、包含的でオープンな意味での、さらなる要素が含まれるかもしれないという意味で用いられる。
【0039】
「含まれる(including)」という用語は、「含まれるがそれらに限定されない」という意味で用いられる。「含まれる(including)」および「含まれるがそれらに限定されない」は、交換可能に用いられる。
【0040】
「スメクチック」という用語は当業に認識されており、液晶の中間相であって、分子が独特の一連の層状に密接に配列し、その層の平面に垂直な分子軸を持つ、液晶の中間相を意味する。
【0041】
「ゲル」という用語は当業に認識されており、コロイドであって、分散相が分散媒と混合して半固体状の物質になった、コロイドを意味する。
【0042】
「ハイドロゲル」という用語は当業に認識されており、コロイドであって、粒子が外相または分散相であって、水が内相または分散された相である、コロイドを意味する。
【0043】
「アルキル」という用語は、直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、およびシクロアルキル置換アルキル基を含む、飽和脂肪族基のラジカルを意味する。好ましい実施態様では、直鎖または分岐鎖アルキルは、その骨格に30個以下の炭素原子(たとえば直鎖の場合C1乃至C30、分岐鎖の場合はC3乃至C30)、好ましくは20個以下の炭素原子を有する。同様に、好ましいシクロアルキルはその環構造に3乃至10個の炭素原子を有し、より好ましくは5、6、または7個の炭素をその環構造に有する。
【0044】
炭素の数が他に指定されていない限り、本願明細書に記載の「低級アルキル」は上に定義されたアルキル基であるが、骨格構造に1乃至10個の炭素、より好ましくは1乃至6個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。同様に、「低級アルケニル」および「低級アルキニル」は類似する鎖長を有する。好ましいアルキル基は低級アルキルである。好ましい実施態様では、本願明細書でアルキルと指定する置換基は低級アルキルである。
【0045】
本願明細書で用いられる「アラルキル」という用語は、アリール基で置換されたアルキル基(たとえば、芳香族基またはヘテロ芳香族基)を意味する。
【0046】
「アルケニル」および「アルキニル」という用語は、上述のアルキルと長さおよび可能な置換が類似する非飽和脂肪族基であるが、少なくとも1つの二重結合または三重結合をそれぞれ含む、非飽和脂肪族基を意味する。
【0047】
本願明細書に用いられる「アリール」という用語には、0乃至4個のヘテロ原子を含んでもよい5、6、および7員単環芳香族基が含まれ、たとえば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジンおよびピリミジンなどが含まれる。環構造にヘテロ原子を有する当該アリール基はまた、「アリールヘテロ環」または「ヘテロ芳香族」ともよばれることがある。当該芳香族環は、たとえば、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホナート、ホスフィナート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族基もしくはヘテロ芳香族基、-CF3、または-CNなどの置換基と環上の1つ以上の位置が置換されていてよい。「アリール」という用語にはまた、2つの隣接する環が2つ以上の炭素を共有する2つ以上の環を有する(当該環は「融合環」である)、多環系であって、当該多環系において少なくとも1つの環は芳香族であって、たとえば他の環がシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、及び/またはヘテロシクリルであってよい、多環系も含まれる。
【0048】
オルソ、メタ、およびパラ(ortho、meta およびpara)という用語は、それぞれ1,2-、1,3- および1,4-二置換ベンゼンに用いられる。たとえば、1,2-ジメチルベンゼンおよびortho-ジメチルベンゼンは同義である。
【0049】
「ヘテロシクリル」または「ヘテロ環基」という用語は、3乃至10員環、さらに好ましくは3乃至7員環構造を意味し、当該環構造は、1乃至4ヘテロ原子を含む。ヘテロ環はまた、多環であってよい。ヘテロシクリル基には、たとえば、アゼチジン、アゼピン、チオフェン、チアントレン、フラン、ピラン、イソベンゾフラン、クロメン、キサンテン、フェノキサチン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ピリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェナルサジン、フェノチアジン、フラザン、フェノキサジン、ピロリジン、オキソラン、チオラン、オキサゾール、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ラクトン、アゼチジノン及びピロリジノンなどのラクタム、スルタム、およびスルトンなどが含まれる。当該ヘテロ環は、たとえば、ハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホナート、ホスフィナート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族基もしくはヘテロ芳香族基、-CF3、または-CNなどの、上述の置換基と環上の1つ以上の位置が置換されていてよい。
【0050】
「ポリシクリル」または「多環基」という用語は、2つ以上の環であって(たとえばシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、及び/またはヘテロシクリル)、2つの隣接する環が2つ以上の炭素を共有し、たとえば当該環が「融合環」である、2つ以上の環を意味する。隣接しない原子を介して結合している環は「架橋」環とよばれる。多環の各環は、たとえば、ハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホナート、ホスフィナート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族基もしくはヘテロ芳香族基、-CF3、または-CNなどの、上述の置換基と置換されていてよい。
【0051】
本願明細書に用いられる「炭素環」という用語は、環の各原子が炭素である芳香族または非芳香族環を意味する。
【0052】
本願明細書に用いられる「ニトロ」という用語は-NO2を意味し、「ハロゲン」という用語は-F、-Cl、-Brまたは-Iを意味し、「スルフヒドリル」という用語は-SHを意味し、「ヒドロキシル」という用語は-OHを意味し、「スルホニル」という用語は-SO2-を意味する。
【0053】
「アミン」および「アミノ」という用語は当業に認識されており、非置換および置換アミンの両方を意味し、たとえば、一般式




であって、当該化学式においてR9、R10、およびR’10はそれぞれ独立に原子価則によって許容される化学基である、一般式によって表すことができる化学基を意味する。
【0054】
「アシルアミノ」という用語は当業に認識されており、以下の一般式、


であって、当該化学式においてR9は上に定義されたとおりであって、R’11は水素、アルキル、アルケニル、または(CH2)m-R8であって、mおよびR8は上に定義されたとおりである、一般式によって表すことができる化学基を意味する。
【0055】
「アミド」という用語はアミノ置換カルボニルとして認識されており、以下の一般式、





であって、当該化学式においてR9、R10は上述の定義の通りである、一般式で表すことができる化学基を含む。当該アミドの好ましい実施態様には、不安定かもしれないイミドは含まれないだろう。
【0056】
「アルキルチオ」という用語は、硫黄ラジカルが結合した、上に定義されたとおりのアルキル基を意味する。好ましい実施態様では、「アルキルチオ」基は、-S-アルキル、-S-アルケニル、-S-アルキニル、および-S-(CH2)m-R8であって、mおよびR8が上に定義されたとおりである、化学基である。代表的なアルキルチオ基には、メチルチオ、およびエチルチオなどがある。
【0057】
「カルボニル」という用語は当業に認識されており、以下の一般式、



であって、当該化学式において、Xは結合であるかまたは酸素もしくは硫黄を表し、R11は水素、アルキル、アルケニル、-(CH2)m-R8、または薬学的に許容な塩を表し、R’11は水素、アルキル、アルケニルまたは-(CH2)m-R8を表し、ここでmおよびR8は上に定義された通りである、一般式によって表すことができる化学基が含まれる。Xは酸素であって、R11またはR’11は水素ではない場合、当該一般式は「エステル」を表す。Xが酸素であって、R11が上に定義されたとおりの場合、当該化学基は本願明細書においてカルボキシル基であって、特にR11が水素の場合、当該一般式は「カルボン酸」を表す。Xが酸素であってR11が水素である場合、当該一般式は「ギ酸」を表す。一般に、上式の酸素原子が硫黄で置換されると、当該式は「チオールカルボニル」基を表す。Xは硫黄であって、R11またはR’11は水素ではない場合、当該一般式は「チオエステル」を表す。Xが硫黄であってR11が水素である場合、当該一般式は「チオールカルボン酸」を表す。Xが硫黄であってR11が水素である場合、当該一般式は「チオール蟻酸」を表す。一方で、Xが結合であってR11が水素ではない場合、上式は「ケトン」基を表す。Xが結合であってR11が水素である場合、上式は「アルデヒド」基を表す。
【0058】
本願明細書に用いられる「アルコキシル」または「アルコキシ」という用語は、酸素ラジカルが結合した、上に定義されたとおりのアルキル基を意味する。代表的なアルコキシル基には、メトキシ、エトキシ、プロピロキシ、およびtert-ブトキシなどが含まれる。「エーテル」は、2つの炭化水素が酸素によって共有結合したものである。したがって、アルキルをエステル化するアルキル基の置換基は、-O-アルキル、-O-アルケニル、-O-アルキニル、-O-(CH2)m-R8であってmまたはR8が上述の通りである化学基の1つによって表すことができるようなアルコキシルであるか、またはそのようなアルコキシルに似ている。
【0059】
Me、Et、Ph、Tf、Nf、Ts、およびMsという略語は、それぞれメチル、エチル、フェニル、トリフルオロメタンスルホニル、ノナフルオロブタンスルホニル、p-トルエンスルホニル、おおびメタンスルホニルを表す。当業の有機化学者が利用する略語のさらに包括的なリストは、Journal of Organic
Chemistryの各巻の第1号に記載されており、このリストは典型的にはStandard List of
Abbreviationsという表題の表に記載されている。前記リストに含まれる略語、および当業の有機化学者が用いるすべての略語は、本願明細書に引用をもって援用される。
【0060】
類似する置換をアルケニル及びアルキニル基に施して、たとえばアミノアルケニル、アミノアルキニル、アミドアルケニル、アミドアルキニル、イミノアルケニル、イミノアルキニル、チオアルケニル、チオアルキニル、カルボニル置換アルケニルまたはアルキニルを生成することができる。
【0061】
本願明細書において、たとえばアルキル、m、nなどの各表現が任意の構造に1回以上現れる場合、その定義は、同一の構造の他の箇所に現れる場合にはその定義とは独立であることを意図する。
【0062】
「置換」または「〜と置換した」という文言には、そのような置換は置換された原子および置換基の許容された原子価に従っており、この置換によって再編成、環化、脱離などの望ましくない転換を自然発生的に生じない安定化合物が得られる、という暗黙の条件が含まれる。
【0063】
本願明細書で用いられる「置換された」という文言には、すべての許容しうる有機化合物の置換基が含まれることを意図する。広い局面では、前記の許容しうる置換基には、有機化合物の非環式および環式、分岐および非分岐、炭素環およびヘテロ間、芳香族および非芳香族置換基が含まれる。具体的な置換基には、たとえば上述の置換基が含まれる。前記の許容しうる置換基は、1つ以上の、同一のまたは異なる適切な有機化合物であってよい。本願発明の目的のために、窒素などのヘテロ原子は水素置換基および/またはヘテロ原子の原子価を満たす本願明細書に記載の有機化合物の任意の許容しうる置換基を有していてもよい。本願発明は、いかなる形でも、有機化合物の許容しうる置換基によって限定されることを意図しない。
【0064】
本願明細書に記載の「保護基」という用語は、反応性を有する可能性がある官能基を望ましくない化学転換から保護する一時的な置換基を意味する。そのような保護基の例には、カルボン酸のエステル、アルコールのシリルエーテル、ならびにアルデヒドのアセタールおよびケトンのケタールが含まれる。保護基化学の分野は概説されている(Greene, T.W.;
Wuts, P.G.M. Protective Groups in Organic
Synthesis, 2nd ed.; Wiley: New York, 1991)。
【0065】
本願発明のある化合物は、特定の幾何学的または立体異性形状で存在していてよい。本願発明は、シス-およびトランス-異性体、R-およびS-鏡像異性体、ジアステレオマー、(D)-鏡像異性体、(L)-鏡像異性体、それらのラセミ混合物、およびその他のそれらの混合物を含むすべての化合物が、本願発明の範囲内に入ることを意図する。アルキル基などの置換基には、さらなる非対称炭素原子が存在する。そのようなすべての鏡像異性体、およびその混合物は本願発明に含まれることを意図する。
【0066】
たとえば、本願発明の化合物のある鏡像異性体が望ましい場合、非対称合成によって調製してもよく、キラルクロマトグラフィ法またはキラル補助基を用いた誘導によって分離してもよく、その場合、得られたジアステレオマー混合物を分離して補助基を切断し、純粋な望ましい鏡像異性体を得る。または、分子がアミノ基などの塩基性官能基、またはカルボキシル基などの酸性官能基を含む場合、適切な光学活性酸または塩基を用いてジアステレオマー塩を形成し、その後、当業に公知の分別再結晶法またはクロマトグラフィ法によって形成させたジアステレオマーを分割してから、純粋な鏡像異性体を回収する。
【0067】
本願発明の目的のために、化学元素はPeriodic Table of the Elements, CAS
version, Handbook of Chemistry and Physics, 67th Ed.,
1986-87の内表紙に従って同定される。
【0068】
繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲル
本願発明者らは、モデル繊維性タンパク質(絹)におけるねじれ分子の配列(キラル液晶のような)によってつくり出された材料超構造である、らせん構造の制御を実証した。使用されたプロセスは、非常に単純で、このプロセスを適用して、容易にどこででも、細胞生物学および表面相互作用から表面ナノ流体工学にわたる範囲における研究のためのナノ構造「デザイナー」バイオマテリアルをつくり出すことができる。これらの単純なプロセスは、繊維性タンパク質(合成ポリマーおよび球状タンパク質とは異なる)について本願発明者らが知っているものを用いて慎重にデザインされ、その成功は、これらの分子を繊維性タンパク質のためにあつらえた(その構造を破壊するポリマー技術を用いたり、球状タンパク質のようなふるまいをさせるのではない)プロセスで操作できるかもしれないという可能性を強調している。その特徴付けの結果は、これらのタンパク質の性質を区別する数少ない主要な特徴を明らかにしている。
【0069】
注目すべきことに、高度に構造化したバイオマテリアルを再生絹から作り出すことができる2つのプロセスが開発された。絹可溶化プロセスを改変して、過剰な8重量%の絹水溶液中に濃度を得た。初期のプロセスでは、溶液の純度および使用された生糸の鮮度に応じて、最高でも約4乃至5重量%の精製絹溶液しか得られない。溶媒テンプレート化プロセスだと、約4重量%を超える濃度の絹水溶液からナノ構造の選択透過性材料が得られる。一般に、前記溶媒テンプレート化プロセスによって、約8重量%の絹水溶液を用いる場合、薄膜の特性を有する厚いバルク状の固体(層がたくさん重なり合っている)を得ることができるが、4重量%では薄層しか得られない。これら2つの発見をあわせると、約38nm以上のタンパク質層の個別の積み重なりからできているタンパク質膜、薄層、およびゲルをつくることができる。これらの層のしわおよび穿孔をキラルスタッキング相互作用(ねじれる傾向)とあわせると、数多くの異なる非常に規則正しいミクロスケールのパターンを持つ表面組織が生じる。前記薄層の多くは、小分子およびイオンを溶液から選択的に吸収し、多くがキラル選択性でもある。したがって、治療薬送達物質、キラル分離プロセスの要素、キラル酵素および触媒の基質、ならびにキラルテンプレートとしての適用が見いだされる可能性がある。前記薄層の形態学および微構造は、溶媒、タンパク質の開始濃度、および温度、湿度、前記タンパク質溶液へのエーテルおよび/またはアルコールの添加、前記タンパク質溶液への酸の添加、または前記タンパク質溶液への二価イオン塩の添加などの環境要因の選択によって制御することができる。これらのパラメータを変化させることによって、前記タンパク質材料へのさまざまな浸透特性、、前記薄層内に認められるさまざまな分子配向、およびさまざまな表面トポグラフィが生じる。トポグラフィ特性の長さのスケールおよび前記薄層のタンパク質の性質も、組織工学および細胞生物学における適用であって、ミクロスケールおよびナノスケールのパターンが細胞成長、分化、および癌原性に協力に影響することが示されている適用を示唆している。これまでに集められたデータは、前記材料も化学的にパターン化でき、生物活性部位および分子を前記材料表面および前記材料全体に正確に配置することが可能になるということを示唆している。この配置によって、治療薬の送達に適用するための前記材料からきわめて予測可能で再生可能な分散速度を得ることができ、ならびに治癒に関与する細胞プロセスを可能にするようにパターン化された新規外科用物質が示唆されるだろう。この製造プロセスは、コラーゲン、ケラチン、アクチン、コリオン、セロインおよびその他の絹類などの数多くの繊維性タンパク質分子に共通の化学的および物理的特性に基づいている。これらの特性の多くは、セルロース、数多くの多糖、および核酸などの非タンパク質生体ポリマーにも見いだすことができる。したがって、本願発明者らは、前記プロセスは絹に加えて、数多くの天然分子からつくられる、パターン化された生適合性ナノ材料をつくるのに有用であると考える。
【0070】
絹を用いたスメクチックゲル
絹の濃縮溶液(一般に、薄膜の場合約4重量%、数層の積み重なりを含むバルク状の固体の場合8重量%)を用いて、水-有機、液体-液体界面からハイドロゲルを成長させることができる。たとえば、絹溶液を容器に入れ、クロロホルム、ヘキサン、またはアミルアルコールなどの溶媒を絹溶液の上に慎重に重ねる。この層状に重ねた液体でカバーするのは、蒸発および空気との過剰な競合的な相互作用を防ぐためで、その界面に薄膜を形成する。バルク状の固体ハイドロゲルの場合、前記薄膜は前記絹水相へと成長する。天然の絹の溶媒テンプレート化処理によって、ナノ層化構造が形成され、その層の厚さおよび前記層の中での化学は、処理によって前記絹分子(またはその他の繊維性タンパク質分子)に誘導された折り畳みパターンによって決定される。ナノ層化タンパク質材料構造は高濃度のタンパク質溶液から得られ、その場合、前記分子および溶液はテンプレート化前に局所的に規則化された構造を有していてもよい。
【0071】
高度に構造化されたテンプレート化個体材料は、タンパク質濃度が約4重量%未満の絹では得ることができず、最も組織化され整った配列に構造化された材料は、約5重量%超のタンパク質濃度を有する溶液から得られる。さらに、標準的な薄膜成型技術では、開始溶液が約5乃至8重量%のタンパク質を含んでいても、配列の整った固体を得られない。テンプレート化に用いられる溶媒の選択も重要である。ヘキサンなどの水に全く混和性でない溶媒は、ハイドロゲルをテンプレート化しないが、その代わり、界面の非常に薄い領域に局在化した粘性の液晶薄膜が形成される。絹(またはその他の使用されたタンパク質)にある側鎖のいくつかに水よりも大きな親和性を持たない溶媒は、テンプレート化のふるまいを生じない。ある例は、典型的なタンパク質中の極性および非極性側鎖の両方に低い親和性を有し表面テンプレート化のふるまいを示さない、ジクロロエタンである。水にいくらか混和性である溶媒、または水との界面が低エネルギーである溶媒は、テンプレート化が弱い。たとえば、絹溶液にプロパノールおよびブチルアルコールを使用すると、局在化の弱い緩いゲルが生じる。それは、界面領域が厚く化学勾配が弱いためである。これらのゲルからつくられた乾燥材料は、配向性に乏しく、規則性もよくなく、テンプレート化された薄膜において顕著な透過選択性および微細構造のいずれかを示すが、これらの特性の弱いバージョンが認められることもある。
【0072】
絹水溶液中の塩の選択も重要である。LiSCNからLiBrへの転換によって、規則性のあるバルク状の固体のテンプレート化に用いられる高濃度に濃縮された絹水溶液の調製が可能になった。
【0073】
大きな自己製造ユニットおよび小さな可溶化/官能性末端からなる分子デザインの結果、熱力学的に好ましい分子全体の状態は、前記自己組み立てブロックの熱力学的に好ましい状態に類似するだろう。末端ブロックが存在するために、構造的な妥協をしなければならないかもしれないが、組み立てブロックは前記分子の質量および体積の大半を占めるために、そのような妥協は小さいものと期待される。しかし、可溶化/官能性末端ブロックの状況は、全く異なる。自己組み立てブロック間での相互作用によって支配される分子の充填幾何学では、鎖末端を含む領域における局所充填は、熱力学的フラストレーションのために高度にひずんでいることが多いだろう。前記末端ブロックに熱力学的に好ましい理想的な幾何学が、自己組み立てブロック(前記分子の大半を含む)に好ましい充填とは適合性がない場合、前記末端ブロックは、(局所的)熱力学の理想状態からはるか遠くに引き離されており、「フラストレーション状態」になるだろう。残基のサイズ、体積、好ましいコンホメーションなどにブロックごとの差違を有するマルチブロック「ミニブロックオリゴマ」をデザインすることによって、本願発明者らはフラストレーション状態のスメクチック規則化固体であって、中間層領域における密度および相互作用のふるまいが、バルク材料または同組成物で非フラストレーション状態にされた表面に対して強く摂動を与える固体をデザインすることができる。
【0074】
スメクチック形成自己組み立てブロック、オリゴマー分子量、および関連する液体-固体遷移の使用、ならびにナノスケールにデザインされたフラストレート状態の中間層領域(末端ブロック)によって、ナノスケール流動体チャンネルを有する分子的にデザインされた材料を作製することができる。これらのチャンネルは基本的には、多層スメクチック生成構造における末端ブロックが豊富な領域である。末端ブロックと自己組み立てブロックを特定するために用いられるモノマーの特性のミスマッチを人工的につくることによって、これらのチャンネルの特性の差違をデザインに組み込むことができる。問題の領域は鎖末端を含んでおり、自己組み立てブロックからなる領域よりもいくらか束縛が小さい。前記中間領域に突出したこの鎖末端は、分子スケールのブラシをつくり出す。ミニブロック由来材料に吸収された分子は、以下の理由により、前記中間層へ選択的に移動するだろう。その理由は、
1. さらなる分子を収容するために、空間が存在するか、または空間を作ることができる(前記中間層領域の局所的膨潤によって)。
2. 分子を添加し、全体の化学および前記領域の好ましい領域を変化させることによって、熱力学的フラストレーションを軽減することができる。
3. 自己組み立てブロック間の強力な相互作用は、さらなる分子の取り込みを阻害する。
4. 末端ブロックにデザインされた相互作用および特性は、添加した分子の前記中間層領域への局在化を促進する。
【0075】
デザインされた相互作用には、塩基性溶質を引き付けて局在化させるための酸末端ブロックと、末端ブロックにおいて前記中間層の体積および密度の平衡を保つ溶質分子を引き付ける少量のアミノ酸と、一致した末端ブロック-溶質親水性/疎水性相互作用を含むことができる。。末端ブロック用にデザインされた「溶質局在化」特性は、事実上完全にエンタルピー的(化学相互作用)である必要はないが、エントロピーに基づくデザインの概念(体積、分子形、柔軟性)も含んでよいことを特筆する(および主要な特徴とする)のは重要なことである。
【0076】
これらのデザインされた材料に吸収された(デザインされた分子から)分子は、末端分子の密集した「ブラシ」と相互作用し、この相互作用の強度および性質は、溶質分子が前記材料に入り込み、材料内部に拡散することができるかどうかを決定するだろう。末端ブロックがキラルであれば、キラルな相互作用は、拡散の数オングストロームごとに、前記材料内で溶媒と前記ナノブラシの間で発生する。非特異的な相互作用でさえ、前記ブラシによってエナンチオマの拡散をキラルに選択すると考えられている。相互作用のためのブラシによって提供された非常に大きな表面領域は、高度な選択性を提供し、大きくエントロピーに制御されてデザインされた拡散および相互作用プロセスの可能性によって、分離が非常によくマッチした特定の溶質-真端ブロック対に特異的なものではないということが確認された。
【0077】
絹様およびコラーゲン様にデザインされたオリゴペプチドにおけるテストキラル分子について、分離が認められた。酸塩基相互作用を用いて、鎖末端領域におけるテスト分子を局在化させた。2つのプロセスを用いて、前記テスト分子を前記材料に吸収させた。その2つのプロセスとは、溶液からの共自己組み立ておよび、前記テスト分子の溶液を用いた、組み立てられたミニブロックオリゴペプチドナノ材料の膨潤である。両方のプロセスによってキラル分離が生じたが、よい結果を得るためにはオリゴペプチドナノ材料にスメクチックまたは高レベルの規則性が必要である。したがって、本願発明者らは、以下の材料を用いたキラル分離のための、いくつかの主要なデザイン特性を明らかにすることができる。
1. 堅牢なスメクチック層の形成。
2. 中間層領域の局在化に用いる(エンタルピー的またはエントロピー的な)官能性ブロック。
3. ナノスケールのキラルな孔、または中間層ブラシを形成するキラル官能性ブロックであって、相互作用の高度な表面領域を提供する、キラル官能性ブロック。
4. 非特異的拡散を防止するためのナノ材料における十分な構造と密度(スメクチックまたは高い規則性、ホモポリマーに匹敵するまたはそれを超える密度)
5. 溶質および溶質用の溶媒との化学的な適合性。理想的には、前記ナノ構造材料は前記溶媒中で膨潤し、溶媒拡散を促進するが溶解はしてはならない。膨潤は、前記末端ブロックの体積の50%未満の増加に制限されなければならない(たとえば、末端ブロックが前記材料の20%であれば、膨潤は10%未満)。
【0078】
キラルエナンチオマは、溶液中の前記材料中に前記ラセミ化合物を分散させてから、前記材料を取り出し、前記材料の表面上にある「悪い」エナンチオマを取り除くためにすすいで、「良い」エナンチオマを溶媒抽出することによって分離することができる。代替的には、前記材料を用いて望ましくないエナンチオマを「吸い上げ」、望ましいエナンチオマを残すこともできる。さらに別の分離プロセスの候補として、前記材料を、一方のエナンチオマだけを通すことができる膜にすることもできる。
【0079】
材料は、キラル分離よりも要求の少ない用途用にデザインする(分子レベルで)こともできる。単純なアキラルな化学選択性を透過選択性の膜および分離ビーズに組み込むことができる。分子および材料の両方とものデザイン可能性によって、層およびサブ層の形状のサイズ(ろ過された2nm超の粒子)のデザインを介して、および分子スケール孔をつくり出すためのオリゴマーブロックにおけるミスマッチのモノマーサイズを用いた層密度のデザインを介して、サイズに基づく選択も可能になる。
【0080】
キラル分離材料用のその他の適用は、キラル分離法を超えて、キラル触媒、酵素基質、およびその他の化学分離法および反応プロセスの組み合わせまでを含む。たとえば、キラル酵素は、反応物の拡散および再配列モードへのキラルに差別化された制限のために、キラル環境において高キラル選択性を経験するかもしれない。反応物のさまざまな活性化状態、およびキラル触媒のさまざまなコンホメーション状態は、より対称的な環境と比較した場合、分子の長さスケールについてのキラルな物理特性を有する環境下で選択的に安定化する可能性もあると考えられている。キラルなナノパターン化材料の表面において、緩やかに結合した酵素(たとえば膨潤した親水性ナノ層に単共有結合によってつながれた)は、均質な触媒の特性を有する環境を経験するかもしれない。前記酵素は、鋭く対象性が破壊されている固体表面が定義されていない、基本的に流動体の「ゲル」に囲まれている。しかし、前記酵素は前記材料に結合し回復可能であろう。さらに、前記酵素を取り囲んでいる流体(可溶化末端またなブロックの)は、高密度状態でキラルであり、さまざまな酵素のコンホメーションを安定化させるようにキラルな相互作用を促進している(対称的な環境と比較した場合)。
【0081】
同様に、高分子化用のキラル触媒をキラルナノ材料膜に埋め込むこともできる。キラルにバイアス化されたモノマーの輸送、および好ましいキラリティの安定化(容易にラセミ化されるモノマー)を用いて、触媒、およびそれに続く規則性/純度またはその生成ポリマーもしくはその他の反応生成物を方向付けることもできる。
【0082】
サンプル
溶媒テンプレート化技術を用いて、天然絹の濃縮溶液からサンプルのセットを調製した。このサンプルは、最初は、溶媒界面から絹の水相へ成長させたハイドロゲルとして形成させた。これらのハイドロゲルを乾燥させて、体積の90%超を減らした。クロロホルムをテンプレート化溶媒として用いて調製した乾燥ゲルと、アミルアルコールを用いて調製した乾燥ゲルを比較した。X線研究(WAXS)において、前記のクロロホルムを用いて調製したゲルは2軸配向にするが、前記アミルアルコールゲルは弱い1軸配向にする。WAXSパターンの上に、かすかなブリップとしておよそ100乃至110オングストロームの層の空隙も認められる。シンクロトロンSAXSの層の空隙は再現されなかったが、現時点では、この低角度の空隙が虚像(検出器のデザインの人工的な像)なのか、それがないのはシンクロトロンビーム中への短い露出時間、サンプルの配向、および配向領域の大きいサイズ、ならびにビームラインにおける1次元的な検出器の組み合わせによるものなのかは、わからない。FESEMでは、同一サイズの小さい特徴(非常に規則的な)が認められている。
【0083】
このとき、どちらのフィルム上にあるFTIEデータも得ることはできなかった。透過および反射IRの実験では、スペクトルを得るために必要だった未処理シグナル(未処理シグナルと背景のスペクトラムの差)の大半を失う。このスペクトルの欠損は、2および8ミクロンの波長領域で生じる。ATRの場合、ATR結晶としてZnSeを用いるが、スペクトルまたは有意な未処理シグナルは認められない。ATRは本当にそこにある物質ならいずれも見ることができるはずで、同様に問題点のあるフィルムから得たATRはSiセルを用いた場合には得られなかったが、本願発明者らは、そのフィルムはこの波長領域の赤外線を強く偏光しているのではないかと考える。使用されたZnSe結晶は六方晶系の配向がランダムな物質で、光学的に異等方的であるため、入射赤外線中において偏光状態を誘発する。シリコンは立方晶で、光学的に等方的である。赤外線の偏光に加えて、前記サンプルは散乱性の反射IRではスペクトルがなく(したがってブラッグ回折はのぞく)、微粉末状に粉砕した場合でも、完全にIRを吸収する小さい黒体としてふるまっていることを示唆している。その粒子サイズ(数ミクロン)の前記粉末を用いて、赤外においてタンパク質の黒体を選るのに必要な最小のフィルム厚さの上限を設定することができる。これは、前記薄膜のいくつかのキラル特性の完全な1サイクルに相当する場合があるが、部分的な特性が同一の作用を有することも考えられる。これは、関連する現象であって、均一な物質中にある高密度のクラスターが選択的に赤外線を吸収し、そのクラスター中の物質への全シグナルを低減し、密度の低い物質に向かってスペクトルの情報が多くなるという、現象に類似する。この現象は、スペクトルの差に関連し、本願発明者らは未処理スペクトルに変則的な事象を見ている。
【0084】
前記構造が、キラル液晶およびポリマー相のふるまい、ならびに微細構造に関して、すべて合理的であることから、観察された現象はタンパク質に特異的なのではなく、適切な形状になるようにデザインすることができれば、いずれの分子種にも一般化することができる。円盤状の液晶相および規則性がすべての円盤形分子に共通しているように、前記構造はキラルなヘアピン状および折り畳み構造を形成することができるすべてのポリマーに一般化することができると考えられる。異なる分子種であればよりよい材料になるかもしれず、さらに、関連するキラルな相互作用の強さをくみ上げて、よりねじれた物質(類似の形態学を有する)をつくり出すことができるかもしれない。
【0085】
天然絹の薄膜は、波状でおそらく相互に連結している層から成る。図1乃至8は異なる配向の亀裂のある表面のSEM画像を示しており、この図において、波状層の端を見ることができる。その他の配向では、形態が75nmのハニカム構造のように見える。内部が75nmの特徴の非常に規則的なハニカム構造において、約11nmの孔をつくることができる。これらは、観察された奇妙な赤外線のふるまいの原因かもしれない。前記物質は、テンプレート化溶媒によって、表面の形態(および配向)における顕著な差違を示している層の空隙の虚像にも小さい差違があると考えられる。規則性が低めのアミルアルコール薄膜は、非常に優れたイオンスカベンジャである。クロロホルムでテンプレート化した薄膜は、キラルなイオンを捕捉する。いずれの薄膜も、希土類塩を十分に吸い上げ、反射的で光沢を持つようになる。
【0086】
すべての天然絹材料は非常にわずかしか膨潤せず、水または弱酸の中で軟化し、塩基を捕捉して硬化するだろう。また、アルコールには不溶性である。290℃までの熱には安定だが、それを超えると溶解せずに急速に分解する。見かけ上、非常に丈夫で固く、開始物質およびプロセスは比較的安価である。
【0087】
繊維性タンパク質ペプチドを用いたスメクチックゲル
生物学的に吸入されたナノパターン化した材料をデザインし、合成して(複合体分子として)組み立てた。これらの物質は、中間乃至遠赤外領域において特異なスペクトル特性をいくつか持っている。そのような物質を効率的に組み立て、無機物と塩と混合してナノ複合物を生成し(特異的な特性を改変するために)、大量に合成することができる分子を組み立て、適度な機械的および熱的特性を有するようにすることができる。前記物質には、マクロな長さスケールを持続させる化学および分子配向の反復的なナノスケールパターンが組み込まれている。現在の焦点は、分子デザインおよび自己組み立てによって実現される小規模ナノスケール多層構造を組み込むナノスケール材料パターンであるが、その他の種類の幾何学的なナノスケールパターンも認められており、組み立てられている。前記ナノスケールパターンの幾何学的特性(および化学的特性)すべてを、分子レベルのデザインによってつくることは可能である。
【0088】
前記材料はペプチドベースで、コラーゲン、ケラチン、および絹などの天然繊維性タンパク質に大まかに基づく数種類の異なるポリペプチドおよびオリゴペプチドが、定義された。各種類の範囲内での個別のオリゴペプチドには、折り畳み、材料の自己組み立て、および得られた材料の特性に与える非常に特異的な分子レベルの作用の研究を可能にするために含まれた、デザインされたバリエーションを有する各タンパク質種(コラーゲン、ケラチン、絹)に認められるパターン化されたアミノ酸モチーフの簡略化バージョンが組み込まれる。これらのオリゴペプチドのデザインへの強い関心が、液晶のふるまいをミクロおよびナノスケールでの材料の化学的および物理的パターン化への単純で堅固なアプローチをデザインするのに用いることができるモデル分子の作成となった。前述したこのアプローチの重要な特徴には、熱力学的に好ましい状態としてナノスケールの長距離規則化パターンを、しばしば熱力学的な「フラストレーション」を生じるような組込型分子化複雑性によって形成するために分離される分子材料をデザインするステップが含まれる。これらの分子から材料をつくるために研究されている主な手段は、その分子によって、その液晶の自己組み立てのふるまいを、柔軟性のある石けん様のリオトロピック液晶性からキラル配向の硬ロッドサーモトロピック液晶性のふるまいに変化させる、折り畳みまたは凝集遷移の操作である。ある種のふるまいから他のふるまいへの遷移を操作する本願発明者らの能力によって、ドメインサイズ、沈殿物の形状などの前記材料のマクロな特性を飛躍的に制御することができる。
【0089】
得られた材料はもともと生体ポリマーであるが、それらは従来の「折り畳まれたタンパク質」ではなく、はるかに合成ナイロンに近いように働く(タンパク質は、化学的骨格構造の点から見ると非常に高級なナイロンである)。それらはコンパクトな性質の小球を形成しない。そのかわり、分子間相互作用が好まれ、適度の熱安定性、丈夫さ、および強さを有する分子固体が得られる。機械的な特性の定量的なテストによって、ナイロンに類似する特性を有する「優れたプラスチック」のようにふるまうことが示されている。X線ビームラインにおける予備的な熱的回折では、これまでテストされた材料については、構造は約200℃まで維持されることが示されている。その種類の材料の1つでは、光学的透明度および光学的配向(複屈折パターン)を170℃まで維持できると認められた。異なる溶解度のふるまいについて改変種がデザインされており、したがって、化学的プロセス可能性および化学抵抗性について、かなりの制御も実現されている。
【0090】
多くの構造的生体ポリマーおよびブロックコポリマーのような実験用高性能ポリマーとは異なり、本願発明のオリゴポリペプチドのアミノ酸配列およびサイズ範囲は、手軽な生合成およびスケールアップが可能である。生合成における初期の試みはすでに高収率になっており、最も興味深い配列へのスケールアップ経路は現在も活発に追求されている。その分子の中間サイズ−「ポリマー」には小さすぎるが「小分子」には大きすぎるサイズ−は、合成および加工の両方ともに利点を提供する。前記分子はタンパク質の標準としては小さく、したがって、(これを、高分子量のコラーゲンおよび絹の生合成の試みの長い歴史と比較すると)生合成およびスケールアップは克服できない技術的な問題ではない。生成および加工中の前記分子の可溶化もまた、比較的小さい分子量(タンパク質またはポリマーとしては)によって簡略化される。それらは、サーモトロピック液晶としてみなされれば大きい分子であり、そのサイズが液晶組織を安定化させる一助を担うが、一方で溶媒を除去すると液晶規則化固体を得ることができる。前記分子の化学的複雑性をデザインして利用することができ、それによって個別の各配列がさまざまな化学的に異なる(誘発された)「状態」を採ることができる。分子を、その形状および化学的特性が変化するように誘導するこの能力によって、前記分子への不可逆的な溶解度変化を操作し、処理可能な(穏やかな環境下で)分子から安定な材料をつくることができる。
【0091】
研究中の多くの分子は、多数のキラルスメクチック(ナノ層化)液晶相を示し、制御された条件下において乾燥させてナノ層化材料をつくることができる。図9に、組織化配向化「テープ」(絹様)の例を図9に示す。これらの材料はまた、さまざまな長さスケールのパターン化された特性の階層を有し、いくつかの光学的なふるまいの原因であると考えられる。組織化されたテープのこの階層序列またはパターン化を、図10に示す。これらのナノ層化材料はたくさん研究されており、コラーゲン様および絹様材料の両方に共通する特性は、分光器で前記材料からFTIRスペクトルを得る場合、未処理中間IRスペクトルの一部分が欠損している点である。多くの材料において、この作用は配向に依存している。図11では、透過スペクトルのセットを示している。未処理背景は最高強度を有している。IRスペクトルに異常な影響を与えない配向の非常に薄いテープ領域は、きわめて普通のタンパク質またはペプチドIRスペクトルを生じる。特定の配向の場合、本願発明者らは図11に示すようなスペクトルを認める。
【0092】
強力に影響を受けている赤外領域(波長)は、オリゴペプチド材料の種類の1つについての材料形態パターンの周期性に関連していた。本願明細書に例として用いられる、(絹様の)テープをつくるために使われるさまざまな処理条件も、その形態学的組織の異なる周期性、および影響を受けている赤外線は超領域における差違を生じている。異常な赤外線のふるまいを有する材料すべての処理、形態組織、および赤外線のふるまいの間に明らかな相関が発生する作用を生じるサンプルすべてについての十分なデータはない。しかし、このような相関は存在すると考えられている。きわめて通常のタンパク質吸収スペクトルも、ナノ層化材料の非常に特異的な配向から、または長距離の序列の存在および維持を低減させるための材料の粉砕によって得ることができるため、これらの物質の赤外線吸収のふるまいは分子レベルでは普通に生じることである。しかし、自己組み立て材料における分子配向の長距離に規則化されたパターンによって、赤外線が分光器の検出器に当たらず、おそらくどこかへ行ってしまっている。観察可能な材料組織のすべてが、前記構造のナノスケール層の局所分子配向または配向に生じる変化によるものであるため、周期的な物理的特性も前記材料の反射指標における周期的な変化に一致するはずである。強く影響を受けている領域における未処理スペクトルは、図12に記載の再測定データにも認められるように、強い正弦関数の特徴を有している(残念なことに、再測定のせいでY軸の強度は物理的な意味を失っている)。多くの場合、これらの正弦関数パターンは、スペクトルの低波数/高波長部分において漸先化または「チャープ」されている。これらの材料によって中間-遠赤外線波長域において、放射の再方向付けまたは誘導することができれば、放熱板、または検出器、もしくはインラインの化学解析用の分光器のいずれかの方向に赤外線の痕跡を再方向付けするために、きわめて有用であると考えられる。
【0093】
この作用は、有機塩と共結晶化させた同じオリゴペプチド(コラーゲン様および絹様の種類)の層状多結晶にも認められる(図13)。これらの層状多結晶は、規則的なねじれた構造の配置をとっている個別の旋盤形の晶子を有する(図14)。この場合、赤外線の作用がもっとも顕著に現れるのは、最高に組織化され規則正しいねじれた状態の多結晶材料である。アテニュエーションは、反射型赤外線分光器および透過型赤外線分光器の両方で観察される(図15)。したがって、その規則化された材料は、赤外線が作用した領域において、ZnS背景よりも透過性および反射性の両方ともが低い。SAXSのデータは、強いナノスケールの層状周期性を示している(予備的で未処理の場合、非表示)。WAXSおよびSAXSを用いた熱的研究では、これらの塩化多結晶材料は、純粋なオリゴペプチド材料と比較した場合、約160℃というわずかに低い熱安定性を示している。非常に局所的な相変化が、かなり低温(100℃未満)で生じている。これらの局所的な変化は、ナノスケールの層における分子の伸長と、その結果生じる層の空隙の変化が原因である可能性がある。そのような局所的な相変化は、材料の特性を操作する有用な手段を提供する可能性もあるが、まだ詳細は研究されていない。前記多結晶は性質的に(他のポリマー結晶と比較して)「固く」、粉砕するのが難しい(頑強である)。これらの多結晶の比較的低い熱安定性は、塩の選択−この場合、低溶融性有機分子−によるものであると考えられる。その他の塩は、オリゴペプチドによって課されたナノ層化構造を維持するが、純粋なペプチドよりも熱安定性がみられるナノ複合体を生じているが、このデータは非常に予備的なものである。
【0094】
前記オリゴペプチド材料は、頑強な沈降テープ、多結晶凝集塊、または薄膜(機械的な特性が乏しいが、本願発明者らはこの問題を解決している)に加工することができる。これらの材料のすべては、赤外線スペクトルを操作することができるが、絹様の材料はコラーゲン用の材料よりも幅の広いバンドのスペクトルに作用するようである。コラーゲン様材料は、3乃至10ミクロンの赤外領域に最も強く作用し、作用したスペクトルのバンドに一致すると見られる同一の領域において材料の周期性を有する。これらの材料の特性は、前期分子の化学構造における配列パターンの選択、加工中の液晶状態における前記分子のふるまいを固定するチューニングによって操作することができ、液晶の形成中および固体材料を形成するための乾燥中にかける低電圧の電場にも反応すると考えられている。材料組織のバリエーションの制御、および赤外線スペクトルのふるまいとの相関は、絹様の種類の生体ポリマー材料(実施例におけるテープおよび多結晶)については系統的に解決されてはいない。しかし、前記テープをつくるために用いられる溶媒の条件によって差異が認められ、および作用する赤外領域にも差違が認められる。
【実施例1】
【0095】
例1 絹の調製
材料 - B. mori カイコの繭の絹は、蚕糸研究所(つくば)のM Tsukadaに提供していただいた。クロロホルム、ヘキサン、およびイソアミルアルコールは、アルドリッチ・アンド・フィッシャー・サイエンティフィック社から購入し、精製しないで用いた。トリス(2,2´-ビピリジル)ジクロロルテニウム(II)ヘキサヒドレート(「ルビピー」)は、アルドリッチ社から購入した。
【0096】
再生B. mori絹フィブロイン溶液の調製 − 絹フィブロイン溶液を2種類の方法のどちらか1つで調製した。方法A −バルク状の固体の調製法 - B. mori 絹フィブロイン溶液を以下の通りに調製した。繭を0.02 M Na2CO3水溶液で30分間煮沸し、水で全体をすすいでノリ様のセリシンタンパク質を抽出した。それから、抽出した絹を室温で9.3 M LiBrに溶解し、20重量%溶液を得た。この溶液を、Slide-a-Lyzer 透析カセット(ピアス社、MWCO 2000)を用いて水中で48時間、透析した。ミリポア社の精製水、17MΩを、すべての処理全体で使用した。最終溶液にはバッファ、酸、または塩は加えなかった。方法B −薄膜の調製法 - Bombyx
mori 絹繭を、沸騰水、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、およびNaCO3の中で繰り返し洗浄して精練し、セリシンを取り除いて純粋なフィブロインを残した。最初の洗浄では、沸騰水中で6.5 % SDSおよび1.0 % NaCO3
を用いた。その繭を0.4% NaCO3 沸騰水溶液で洗浄し、続いて沸騰水のみですすいだ。その他の繭はNaCO3
および沸騰水のみを用いてSDSを用いずに精練した。アミノ酸分析を用いて、このようにして調製したフィブロインのタンパク質組成物を評価した。セリンは検出されなかった。 Valluzzi,
R.; Gido, S. P. Biopolymers 1997, 42, 705-717; Valluzzi,
R.; Gido, S.; Zhang, W.; Muller, W.; Kaplan, D. Macromolecules 1996,
29, 8606-8614. 精練したフィブロインは全体的に精製水ですすぎ、LiSCNの9.1M水溶液に溶解した。塩を取り除くために、数日間、フィブロインとLiSCN溶液を、頻回に蒸留水を変えて透析した。透析したフィブロイン溶液を100μmのシリンジフィルタを用いてろ過し、塵芥および任意のタンパク質沈殿物を除去した。
【実施例2】
【0097】
例2 スメクチックゲルの調製
界面ゲルの調製 − 水-クロロホルム、-ヘキサン、および-イソアミルアルコール界面を、絹ペプチド溶液を各溶媒が入ったガラスバイアルに加えて調製した。そのバイアルにふたをして蒸発を防ぎ、室温で一晩放置した。得られた界面ゲルを収集して、室温で一晩乾燥させた。
【0098】
脱塩し、HPLC精製し、凍結乾燥させたコラーゲン様ペプチドを、タフツ医学校のタンパク質化学コア施設から得た。その配列は(Glu)5(Gly-Val-Pro-Gly-Pro-Pro)6(Glu)5だった。グルタミン酸ブロックを前記ペプチドの末端に付加し、水中の溶解度を促進して夾雑塩が分析を混乱させないようにした。同様のペプチドデザイン戦略は、Rotwarf et. al. によってβシート形成ペプチドの溶液のふるまいを調べるために用いられている。 Rotwarf,
D. M.; Davenport, V. G.; Shi, P.-T.; Peng, J.-L.; Sheraga, H. A. Biopolymers
1996, 39, 531-536. 前記コラーゲン様ペプチドを18MΩミリポアろ過水に、水中濃度1mg/mlで溶解した。溶解を補助するために、塩または酸、もしくは余分な試薬は必要なかった。前記の溶液を機密性の高いキャップをしたバイアルに入れて一晩放置し、金メッシュTEMグリッド(基質フィルムなし)を空気-水界面に浸した。
【実施例3】
【0099】
例3− 特徴付け
特徴付け −ルテニウム化合物で処理したゲルを、断面を得るために切断した。ルビピー中のアミルアルコールゲルを図16に示す。ルテニウム化合物(ルビピー)はオレンジ色で、周囲の溶液(薄黄オレンジ色)よりも前記絹ゲル中の方が高濃度(明赤オレンジ色)である。1時間ルビピーで処理したゲルを、断面を得るために切り開いた(図17)。このような断面によって、内部の構造にたくさんのルビピーを吸収したゲルの構造であって、ルビピーの濃度がより低い構造を比較することができる。断面を図18に示し、透明な黄色の絹核を囲む、ルビピーが豊富な暗赤オレンジ色の表皮部分を見ることができる。テンプレート化プロセスによって形成された表皮核形態を理解しつくり出すことは、前記ゲルの特徴および機能を制御するために重要である。
SEM −乾燥ゲルの画像を、LEOジェミニ982フィールドエミッションガンSEMで得た。作業距離は7mmで、適用電圧は1乃至2kVだった。ゲルの画像はすべて導電コーティングなしで撮影された。(図18)。
【0100】
XRD − WAXD実験は、GADDSマルチワイヤエリア検出器を有するブルッカーD8ディスカバーX線回折装置を用いて行われた。40kVおよび20mAならびに0.5mmコリメータを使用した。前記検出装置とWAXDのサンプルの間の距離は、60mmだった。CuKα。絹I 2次構造を有する層状構造(絹IIβ鎖と絹III 3倍らせんの間の非整数らせん)が認められた。クロロホルムゲルはWAXS中で高度な配向を有した(図19)。
【0101】
TEM − 絹フィブロインと前記ペプチドの界面の薄膜の特徴付けを、JEOL 2000 FX-II TEM を加速電圧200kVで操作して行った。TEMによる特徴付けの間、サンプルは、低温貯蔵用サンプルホルダを用いて-150℃未満に維持された。低温貯蔵の温度での作業は、ビームによる損傷を減らすため、および顕微鏡の高真空状態での水和結晶構造からの水分の損失を防ぐために必要だった。電子回折およびTEM明視野イメージングを用いて、薄膜中の構造を評価した。内部金標準を用いて、格子空隙を決定した。焦点をずらした回折イメージングを用いて、回折パターンの相対的な配向、および形態学的画像のバンド形成または結晶小面を決定した。塩の夾雑物の検出および残存する塩結晶の特徴付けは、先行の論文に記述されている。 Valluzzi,
R.; Gido, S. P. Biopolymers 1997, 42, 705-717; Valluzzi,
R.; Gido, S.; Zhang, W.; Muller, W.; Kaplan, D. Macromolecules 1996,
29, 8606-8614. 水-ヘキサン界面から得られた構造中に、塩の人工物は認められなかった。
【0102】
引用による援用
本願明細書に引用されるすべての特許、特許出願、および出版物は、引用によりここに援用する。
【0103】
等価物
当業者であれば、ごく普通の実験を用いるのみで、ここに説明した本願発明の特定の実施態様の等価物を数多く認識し、または確認できることであろう。このような等価物は、添付の請求の範囲の包含するところである。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルの調製の方法であって、
a. 水と混和性ではない溶媒を繊維性タンパク質水溶液に接触させるステップと、
b. 前記溶媒と接触させた溶液を室温で、または蒸発しない環境下で、もしくはその両方の環境下で熟成させるステップと、
c. 得られた繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルを収集するステップと、任意でそのハイドロゲルを乾燥させるステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記溶媒はクロロホルムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒はイソアミルアルコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
当該方法において前記溶媒はヘキサンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記繊維性タンパク質が絹、コラーゲン、ケラチン、アクチン、コリオン、およびセロインからなるグループから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記繊維性タンパク質が絹である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記繊維性タンパク質溶液が約4重量%超存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記繊維性タンパク質溶液が約8重量%以上存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記繊維性タンパク質が絹であって、前記溶媒がイソアミルアルコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
当該方法において前記繊維性タンパク質溶液は約4重量%を超える状態で存在し、前記繊維性タンパク質が絹であって、前記溶媒がクロロホルムである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
当該方法において前記繊維性タンパク質溶液は約4重量%を超える状態で存在し、前記繊維性タンパク質が絹であって、前記溶媒がヘキサンである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記スメクチックハイドロゲルが、前記繊維性タンパク質の数層の規則的な層を含むバルク状の固体ハイドロゲルである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ラセミエナンチオマの混合体から主に1つのエナンチオマを得る方法であって、当該方法において、
a. 水と混和性ではない溶媒をと含む容器に繊維性タンパク質水溶液を接触させる注ぎ入れるステップであって、前記繊維性タンパク質が絹、コラーゲン、ケラチン、アクチン、コリオン、およびセロインからなるグループから選択される、ステップと、
b. 前記容器を密封し、前記溶媒と接触させた溶液を、室温程度の温度で、または蒸発しない条件下で、または両方で熟成させるステップと、
c. 前記混合体のエナンチオマを、溶液中の得られた繊維性タンパク質スメクチックハイドロゲルに選択的に拡散させるステップと、
d. 前記溶液からスメクチックハイドロゲルを取り出すステップと、
e. 前記スメクチックハイドロゲルの表面から主に第1のエナンチオマを洗い落とすステップと、
f. 前記スメクチックハイドロゲルの内部から主に第2のエナンチオマを抽出するステップと、
を含む、方法。
【請求項14】
前記繊維性タンパク質が絹である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記繊維性タンパク質溶液が約4重量%超存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記繊維性タンパク質溶液が約8重量%以上存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記繊維性タンパク質溶液が約4重量%超存在し、前記繊維性タンパク質が絹である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記繊維性タンパク質溶液が約8重量%以上存在し、前記繊維性タンパク質が絹である、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記スメクチックハイドロゲルが、数層の前記繊維性タンパク質からなるバルク状の固体ハイドロゲルである、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記溶媒がヘキサン、クロロホルム、およびイソアミルアルコールからなるグループから選択される、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2011−202170(P2011−202170A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106360(P2011−106360)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【分割の表示】特願2004−550338(P2004−550338)の分割
【原出願日】平成15年10月31日(2003.10.31)
【出願人】(503387477)トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (3)
【氏名又は名称原語表記】TRUSTEES OF TUFTS COLLEGE
【住所又は居所原語表記】136 Harrison Avenue, Boston, MA 02111 (US)
【Fターム(参考)】