説明

テンプレート固定ペプチド模倣薬

Cys4およびCys11間にジスルフィド結合があり、XがAlaまたはTyrであるテンプレート固定β-ヘアピンペプチド模倣薬シクロ(-Tyr-His-X-Cys-Ser-Ala-DPro-Dab-Arg-Tyr-Cys-Tyr-Gln-Lys-DPro-Pro)、および製薬上許容されるその塩は、CXCR4拮抗特性を有し、健康な個体におけるHIV感染の予防のため、もしくは感染した患者におけるウイルスの増殖を遅らせ、停止させるため;または癌がCXCR4受容体活性に仲介されるか、もしくは由来する場合;または免疫学的疾患がCXCR4受容体活性に仲介されるか、もしくは由来する場合;免疫抑制の治療のため;または特に末梢血幹細胞および/もしくは間葉幹細胞(MSC)および/もしくはその保持がCXCR4-受容体に依存する他の幹細胞の幹細胞動員のために、使用することができる。これらのβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、ペプチド化学における熟練者に周知の方法を使用して、固体および溶液相を組み合わせた合成法に基づく方法によって製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CXCR4拮抗活性を有し、特許文献1の開示全体に包含されるが、具体的には開示されていない、テンプレート固定β-ヘアピンペプチド模倣薬(peptidomimetics)を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】WO2004/096840 A1
【発明の概要】
【0003】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、Cys4およびCys11間にジスルフィド結合があり、XがAlaもしくはTyrであるシクロ(-Tyr-His-X-Cys-Ser-Ala-DPro-Dab-Arg-Tyr-Cys-Tyr-Gln-Lys-DPro-Pro)、および製薬上許容されるその塩である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】実施例1の化合物(5mg)および参照化合物AMD3100の双方についての血液1mlあたりのコロニー形成単位(CFU-GM)の経時的な増加を示す。
【図2】実施例2の化合物および参照化合物AMD3100の双方についての血液1mlあたりのコロニー形成単位(CFU-GM)の経時的な増加を示す。
【図3】実施例1の化合物について、血液1μLあたりのCD34(+)細胞の平均細胞数を経時的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明に従い、上記β-ヘアピン模倣薬および製薬上許容されるその塩は、以下の工程を含む方法によって調製することができる:
(a)適切に官能化した固体支持体を適切にN-保護されたProの誘導体とカップリングさせる工程;
(b)工程(a)で得られた生成物からN-保護基を除去する工程;
(c)このようにして得られた生成物を適切にN-保護されたDProの誘導体とカップリングさせる工程;
(d)このようにして得られた生成物からN-保護基を除去する工程;
(e)このようにして得られた生成物を、所望の最終生成物において位置14にあるアミノ酸、すなわちLysの適切にN-保護された誘導体であって、その側鎖に存在するアミノ基が同様に適切に保護されているものとカップリングさせる工程;
(f)このようにして得られた生成物からN-保護基を除去する工程;
(g)所望の最終生成物において位置13〜1にあるアミノ酸、すなわちGln、Tyr、Cys、Tyr、Arg、Dab、DPro、Ala、Ser、Cys、AlaもしくはTyr、HisおよびTyrの適切にN-保護された誘導体であって、上記N-保護されたアミノ酸誘導体に存在し得る任意の官能基が同様に適切に保護されているものを使用して実質的に工程(e)および(f)に対応する工程を実施する工程;
(h)位置4および11におけるCys残基の側鎖間にジスルフィドβ-鎖結合を形成する工程;
(i)このようにして得られた生成物を固体支持体から取り外す工程;
(j)固体支持体から切り離された生成物を環化する工程;
(k)アミノ酸残基の鎖の任意のメンバーの官能基上に存在する任意の保護基を除去する工程;および
(l)必要に応じて、このようにして得られた生成物を製薬上許容される塩に変換するか、または、このようにして得られた製薬上許容されるか、もしくは許容されない塩を、対応する遊離の化合物もしくは製薬上許容される別の塩に変換する工程。
【0006】
上記の方法の各工程は、ペプチド化学における任意の熟練者に周知の方法によって実施することができる。
【0007】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、健康な個体におけるHIV感染の予防のため、もしくは感染した患者におけるウイルスの増殖(progression)を遅らせ、停止させるため;または癌がCXCR4受容体活性によって仲介されるか、もしくは由来する場合;または免疫学的疾患がCXCR4受容体活性によって仲介されるか、もしくは由来する場合;または免疫抑制の治療のため;または炎症の治療のため、あるいは、特に末梢血幹細胞および/もしくは間葉幹細胞(MSC)および/もしくはその保持がCXCR4受容体に依存する他の幹細胞の幹細胞動員のために、広範囲の適用で使用することができる。
【0008】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、それ自体で投与しても良く、あるいは当分野において周知の担体、希釈剤、または賦形剤と一緒に適切な製剤として投与しても良い。
【0009】
特に、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、骨髄からの造血幹細胞(HSC)の放出を増大させる処置として使用し、同種もしくは自己移植において使用することができる。
【0010】
注入されたHSCによる急速治療は、多発性骨髄腫および非ホジキンリンパ腫等の悪性腫瘍の治療で骨髄機能廃絶療法を受けた患者における免疫機能を回復させるために、広く用いられている。患者またはドナーは、本発明の化合物等のHCS動員剤で処置され、続いてアフェレーシス(apharesis)によって末梢血から細胞が回収される。HCSは、例えば化学療法による治療の後に元の患者に移植されるか(自己移植)、またはドナーからレシピエントに移植され(同種移植)、免疫機能の回復が促進される(Fruhauf等、Br. J. Haematol. 122, 360-375(2003))。
【0011】
HSC治療の他の応用としては、限定するものではないが、例えば心臓発作の場合の治療的脈管形成が挙げられる(Shepherd RM等、Blood 2006 108(12):3662-3667)。
【0012】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬はまた、HIV感染、または乳癌、脳腫瘍、前立腺癌、肺癌、腎臓癌、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、卵巣癌、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病、膵臓癌、黒色腫、脈管形成および造血組織等の癌;または炎症性疾患、例えば喘息、アレルギー性鼻炎、過敏性肺疾患、過敏性肺炎、好酸球性肺炎、遅延型過敏症、間質性肺疾患(ILD)、特発性肺線維症、慢性関節リウマチと関連するILD、全身性エリテマトーデス、強直性脊椎炎、末梢血管疾患、全身性硬化症、シェーグレン症候群、von Hippel Lindau疾患、全身性アナフィラキシーもしくは過敏性応答、薬剤アレルギー、慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎、ベーチェット症候群、粘膜炎、クローン病、多発性硬化症、重症筋無力症、若年性糖尿病、糸球体腎炎、自己免疫甲状腺炎(throiditis)、同種移植拒絶もしくは移植片対宿主病を含む移植拒絶、炎症性腸疾患、炎症性皮膚病を治療または予防するため;あるいは免疫抑制、例えば移植(graft/transplantation)拒絶によって誘導される免疫抑制を治療するために使用することもできる。
【0013】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、単独で、2種以上のβ-ヘアピンペプチド模倣薬の混合物として、場合によっては他のHSC動員剤、もしくは坑-HIV剤、もしくは坑菌剤、もしくは抗癌剤、もしくは坑炎症剤と組み合わせて、および/または他の薬学的活性剤と組み合わせて投与することができる。
【0014】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬を含有する医薬組成物は、伝統的な混合、溶解、顆粒化、被覆錠剤の製造、すり潰し(levigating)、乳化、カプセル化、トラップ化または凍結乾燥プロセスの手段によって製造することができる。医薬組成物は、活性なβ-ヘアピンペプチド模倣薬を医薬品に使用できる調製物に加工することを容易にする、1種以上の生理的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または助剤(auxilliaries)を用いて、伝統的な方法で製剤化することができる。適切な製剤は選択した投与方法に依存する。
【0015】
局所投与のためには、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、当分野において周知のように溶液、ゲル、軟膏、クリーム、懸濁液等として製剤化することができる。
【0016】
全身投与用製剤としては、注射、例えば皮下、静脈内、筋肉内、くも膜下もしくは腹腔内注射による投与のために設計されたもの、並びに経皮、経粘膜、経口または経肺投与のために設計されたものが挙げられる。
【0017】
注射のためには、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、適当な溶液、好ましくはハンクス液(Hank's solution)、リンゲル液(Ringer's solution)、または生理的食塩緩衝液等の生理的に適合し得る緩衝液中で製剤化することができる。溶液は、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤等の製剤化剤を含むことができる。
【0018】
あるいはまた、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、使用前は、例えば無菌の発熱物質を含まない水等の好適なベヒクルと組み合わせるための粉末形態であっても良い。
【0019】
経粘膜投与のためには、当分野において公知のように、浸透すべきバリアに対して適切な浸透剤が製剤中で使用される。
【0020】
経口投与のためには、化合物は、活性のある本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬を、当分野において周知の製薬上許容される担体と組み合わせて容易に製剤化することができる。このような担体によって、治療を受ける患者が本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬を経口的に摂取するための錠剤、丸剤、糖衣錠(dragee)、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として製剤化することが可能となる。例えば粉末、カプセルおよび錠剤等の経口製剤のためには、好適な賦形剤として、増量剤、例えば糖類(ラクトース、スクロース、マンニトールおよびソルビトール等);セルロース調製物(トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等);顆粒化剤;および結合剤が挙げられる。必要に応じて、崩壊剤、例えば架橋型ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはアルギン酸ナトリウム等のその塩を添加することができる。必要に応じて、固体投与形態は、標準的な技術を使用して、糖衣被覆または腸溶性被覆することができる。
【0021】
例えば懸濁液、エリキシルおよび溶液等の経口液体調製物の場合、適切な担体、賦形剤または希釈剤として、水、グリコール類、油類、アルコール類等が挙げられる。更に、香料、保存剤、着色剤等を添加することができる。
【0022】
頬側投与のためには、組成物は通常通り製剤化される錠剤、トローチ剤等の形態をとることができる。
【0023】
吸入による投与のためには、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、適切な噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、二酸化炭素もしくは別の適切な気体を使用して、加圧したパックまたはネブライザーからのエアゾールスプレーの形態で好都合に送達される。加圧エアゾールの場合、投与ユニットは、計量した量を送達するバルブを提供することによって決定することができる。吸入器(inhaler or insufflator)で使用するためのゼラチン等のカプセルおよびカートリッジは、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬と、ラクトースもしくはデンプン等の適切な粉末基材との粉末混合物を含有するように製剤化することができる。
【0024】
本化合物はまた、カカオバターまたは他のグリセリド等の適切な坐剤用基材と共に、坐剤等の直腸または膣用組成物中に製剤化することもできる。
【0025】
先に記載した製剤に加えて、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、デポ製剤として製剤化することもできる。このような長期作用型製剤は、移植(例えば皮下もしくは筋肉内)または筋肉内注射によって投与することができる。このようなデポ製剤の製造のために、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、適切なポリマー性もしくは疎水性物質(例えば許容される油中のエマルジョンとして)またはイオン交換樹脂と共に、あるいは難溶性の塩として、製剤化することができる。
【0026】
更に、当分野において周知のリポソームおよびエマルジョン等の他の薬学的デリバリーシステムを使用することができる。ジメチルスルホキシド等のある種の有機溶媒を使用しても良い。更に、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は、治療剤を含む固形ポリマーの半透性マトリクス等の持続放出システムを使用して送達しても良い。種々の持続放出物質が確立されており、当業者に周知である。持続放出性カプセルは、その化学的性質に依存して、数週間から100日間にわたる期間の間、化合物を放出することができる。治療剤の化学的性質および生物学的安定性に応じ、タンパク質の安定化のための更なる戦略を用いても良い。
【0027】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬は荷電した残基を含むため、そのまま、または製薬上許容される塩として上記の製剤のいずれかに含有させることができる。製薬上許容される塩は、対応する遊離形態よりも、水性溶媒および他のプロトン性溶媒中でより溶解性が高い傾向がある。特に好適な製薬上許容される塩としては、カルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸およびスルファミン酸との塩、例えば酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、グリコール酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アミノ酸(グルタミン酸もしくはアスパラギン酸等)、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、メチルマレイン酸、シクロヘキサンカルボン酸、アダマンタンカルボン酸、安息香酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、フタル酸、フェニル酢酸、マンデル酸、ケイヒ酸、メタン-もしくはエタン-スルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、1,5-ナフタレン-ジスルホン酸、2-、3-もしくは4-メチルベンゼンスルホン酸、メチル硫酸、エチル硫酸、ドデシル硫酸、N-シクロヘキシルスルファミン酸、N-メチル-、N-エチルもしくはN-プロピル-スルファミン酸、および他の有機プロトン酸(アスコルビン酸等)との塩が挙げられる。好適な無機の酸は、例えば塩酸等のハロゲン化水素酸、硫酸、およびリン酸である。
【0028】
遊離形態もしくは製薬上許容される塩の形態である本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬、またはその組成物は、一般的に意図する目的を達成するために効果的な量で使用されるであろう。使用量は特定の適用に依存するであろうことが理解されるべきである。
【0029】
HIV感染を治療または予防するための局所投与のためには、治療的有効投与量は、例えば実施例に記載するin vitroアッセイを使用して決定することができる。治療は、HIV感染が明白である間、あるいは明白ではない場合にも適用することができる。当業者は、局所的HIV感染を治療するための治療的有効量を、過度の実験をすることなしに決定することができるであろう。
【0030】
全身投与のためには、治療的有効投与量はまずin vitroアッセイから見積もることができる。例えば、ある投与量で動物モデルにおいて製剤化し、細胞培養で決定したIC50(すなわち細胞培養物の50%に対して致死的である試験化合物の濃度)を含む循環β-ヘアピンペプチド模倣薬濃度範囲を達成することができる。こうした情報を使用して、ヒトにおける有用な投与量をより正確に決定することができる。
【0031】
初期投与量は、in vivoのデータ、例えば動物モデルから、当分野において周知の技術を用いて決定することもできる。当業者であれば、動物のデータに基づいてヒトへの投与を最適化することが容易にできるであろう。
【0032】
坑-HIV剤としての適用のための投与量は、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬の治療効果を維持するために十分な血漿レベルを提供するために、個々に調整することができる。治療的に有効な血清レベルは、毎日複数回投与することによって達成することができる。
【0033】
局所投与または選択的な取り込みの場合、本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬の有効局所濃度が血漿濃度に関連しないことがあり得る。当業者は、過度な実験なしに治療的有効局所投与量を最適化することができるであろう。
【0034】
投与されるβ-ヘアピンペプチド模倣薬の量は、当然のことながら、治療される被験体、被験体の体重、苦痛(affliction)の程度、投与方法および処方する医師の判断に依存するであろう。
【0035】
坑-HIV治療は、感染が検出可能である間、あるいは検出されない場合であっても断続的に反復することができる。治療は、単独で、または他の薬剤、例えば他の坑-HIV剤もしくは抗癌剤、もしくは他の抗菌剤と組み合わせて提供することができる。
【0036】
通常、本明細書に記載するβ-ヘアピンペプチド模倣薬の治療的有効投与量によって、実質的な毒性を引き起こすことなく治療による利益がもたらされるであろう。
【0037】
本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬の毒性は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的方法、例えばLD50(集団の50%に対して致死的な投与量)またはLD100(集団の100%に対して致死的な投与量)を決定することによって決定することができる。毒性と治療効果との間の投与量の比率が治療指数(therapeutic index)である。高い治療指数を示す化合物が好ましい。これらの細胞培養アッセイおよび動物実験で得られたデータは、ヒトに使用するために毒性のない投与量範囲を製剤化する上で使用することができる。本発明のβ-ヘアピンペプチド模倣薬の投与量は、毒性がないか、もしくはほとんどない、有効量を含む循環濃度の範囲内にあるのが好ましい。投与量は使用する投与形態および使用する投与経路に依存してこの範囲内で変動し得る。実際の処方、投与経路および投与量は、患者の状態を考慮して、個々の医師が選択することができる(例えばFingl等、1975、The Pharmacological Basis of Therapeutics, Ch.1, p.1を参照のこと)。
【実施例】
【0038】
以下の実施例は本発明をより詳細に説明するものであるが、その範囲をいかなる意味においても制限することを意図するものではない。これらの実施例においては以下の略号を使用する:
HBTU:1-ベンゾトリアゾール-1-イル-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(Knorr等、Tetrahedron Lett. 1989, 30, 1927-1930);
HOBt:1-ヒドロキシベンゾトリアゾール;
DIEA:ジイソプロピルエチルアミン;
HOAT:7-アザ-1-ヒドロキシベンゾトリアゾール;
HATU:O-(7-アザ-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート (Carpino等、Tetrahedron Lett. 1994, 35, 2279-2281)。
【0039】
1. ペプチド合成
第1の保護されたアミノ酸残基の樹脂へのカップリング
0.5gの塩化2-クロロトリチル樹脂(100-200メッシュ、コポリ(スチレン-1%DVB)ポリマーマトリクス, Cat. No. 01-64-0114, Novabiochem, Merck Biosciences Ltd.)(Barlos 等、Tetrahedron Lett. 1989, 30, 3943-3946)(1.4mMol/g、0.7mmol)を乾燥したフラスコ内に充填した。樹脂をCH2Cl2(2.5ml)に懸濁し、30分間持続的に攪拌しながら室温で膨潤させた。CH2Cl2(2.5ml)中で、樹脂を適切に保護された第1のアミノ酸残基0.49mMol(0.7当量)およびジイソプロピルエチルアミン(DIEA)488μl(4当量)で処理し、混合液を25℃で4時間振とうした。樹脂を(CH2Cl2/MeOH/DIEA:17/2/1)30ml中で30分間振とうし;次いで以下の順番でCH2Cl2(1×)、DMF(1×)、CH2Cl2(1×)、MeOH(1×)、CH2Cl2(1×)、MeOH(1×)、CH2Cl2(2×)、Et2O(2×)で洗浄し、真空下で6時間乾燥させた。
【0040】
担持(loading)は典型的には0.6-0.9mMol/gであった。
【0041】
以下の担持前の樹脂:Fmoc-Pro-2-クロロトリチル樹脂を調製した。
【0042】
完全に保護されたペプチド断片の合成
合成は24〜96個の反応容器を用いてSyro-ペプチド合成装置(MultiSynTech GmbH)で実施した。各容器に上記の樹脂およそ60mg(担持前の樹脂の重量)を置いた。以下の反応サイクルをプログラムして実施した:
【表1】

【0043】
工程3〜6を繰り返して各アミノ酸を付加する。
【0044】
分析方法:
分析用HPLCの保持時間(RT、分)は、Jupiter Proteo 90 Aカラム、150×2.0mm(cod. 00F-4396-B0 - Phenomenex)を使用し、以下の溶媒A(H2O+0.1%TFA)およびB(CH3CN+0.1%TFA)および勾配:0分:95%A、5%B;0.5分:95%A、5%B;20分:40%A、60%B;21分:0%A、100%B;23分:0%A、100%B;23.1分:95%A、5%B;31分:95%A、5%Bで決定した。
【0045】
ジスルフィドβ-鎖結合の形成
合成終了後、樹脂を3mlの乾燥DMF中で1時間膨潤させた。次いで反応器に10当量のヨウ素のDMF溶液(6ml)を添加し、続いて1.5時間攪拌した。樹脂を濾過し、新たなヨウ素(10当量)のDMF溶液(6ml)を添加し、更に3時間攪拌した。樹脂を濾過し、DMF(3×)およびCH2Cl2(3×)で洗浄した。
【0046】
ペプチドの切断、骨格の環化、脱保護および精製
ジスルフィドβ-鎖結合の形成後、樹脂を1%TFAのCH2Cl2溶液(v/v)1ml(0.14mMol)に3分間懸濁し、濾過し、濾液を20%DIEAのCH2Cl2溶液(v/v)1ml(1.15mMol)で中和した。この手順を2回繰り返して切断を完全に完了させた。樹脂を1mlのCH2Cl2で3回洗浄した。CH2Cl2相を蒸発乾固させた。
【0047】
揮発性物質を除去し、8mlの乾燥DMFをチューブに添加した。次いでペプチドに乾燥DMF(1ml)中のHATU 2当量および乾燥DMF(1ml)中のDIPEA 4当量を添加し、続いて16時間攪拌した。揮発性物質を蒸発乾固させた。環化した粗ペプチドを7mlのCH2Cl2に溶解し、H2O中10%のアセトニトリル(4.5ml)で3回抽出した。CH2Cl2相を蒸発乾固させた。ペプチドを完全に脱保護するために、3mlの切断用カクテルTFA:TIS:H2O(95:2.5:2.5)を添加し、混合液を2.5時間維持した。揮発性物質を蒸発乾固させて粗ペプチドを20%のAcOH水溶液(7ml)に溶解し、イソプロピルエーテル(4ml)で3回抽出した。水相を回収し、蒸発乾固させて、残渣を分離用(preparative)逆相HPLCで精製した。
【0048】
凍結乾燥の後、生成物は白色粉末として得られ、これを上記のHPLC-ESI-MS分析法で分析した。分離用HPLCおよびESI-MS後の純度を含む分析データを示す。
【0049】
実施例1: ペプチドは、樹脂に移植されたアミノ酸L-Proから出発して合成した。出発樹脂は上記のように調製したFmoc-Pro-2-クロロトリチル樹脂であった。上記の手順に従って、固体支持体上に線状ペプチドを以下の配列で合成した:樹脂-Pro-DPro-Lys-Gln-Tyr-Cys-Tyr-Arg-Dab-DPro-Ala-Ser-Cys-Ala-His-Tyr。ジスルフィドβ-鎖結合は上記のようにして導入した。生成物を樹脂から切断し、環化し、脱保護し、分離用逆相LC-MSで示されるように精製した。凍結乾燥後、生成物が白色粉末として得られ、これを上記のHPLC-ESI-MS分析法で分析した([M+2H]2+:933.1;RT:10.47;UV-純度:72%)。
【0050】
実施例2: ペプチドは、樹脂に移植されたアミノ酸L-Proから出発して合成した。出発樹脂は上記のように調製したFmoc-Pro-2-クロロトリチル樹脂であった。上記の手順に従って、固体支持体上に線状ペプチドを以下の配列で合成した:樹脂-Pro-DPro-Lys-Gln-Tyr-Cys-Tyr-Arg-Dab-DPro-Ala-Ser-Cys-Tyr-His-Tyr。ジスルフィドβ-鎖結合は上記のようにして導入した。生成物を樹脂から切断し、環化し、脱保護し、分離用逆相LC-MSで示されるように精製した。凍結乾燥後、生成物が白色粉末として得られ、これを上記のHPLC-ESI-MS分析法で分析した([M+2H]2+:978.6;RT:10.95;UV-純度:82%)。
【0051】
2. 生物学的方法
2.1. ペプチドの調製
凍結乾燥したペプチドをマイクロバランス(Mettler MT5)で秤量し、他に記載しない限り、最終濃度1mMとなるように無菌の水に溶解した。ストック溶液は、+4℃で光を遮断して保管した。
【0052】
2.2. Ca2+-アッセイ:ペプチドのCXCR4-拮抗活性
細胞内カルシウムの上昇をFlexstation 384(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を使用してモニターし、ヒトCXCR4を安定にトランスフェクトしたマウスのプレ-B細胞株300-19におけるCXCR4拮抗作用についてペプチドをアッセイした[下記参考文献1、2および3を参照のこと]。カルシウム 3 アッセイキット (Molecular Devices)を用い、細胞をアッセイ用緩衝液(ハンクス平衡塩類溶液(Hanks Balanced salt solution)、HBSS、20mM HEPES、pH7.4、0.1%BSA)中、室温で1時間バッチロードし、次いで200,000個の標識した細胞を、黒色の96ウェルアッセイプレート(Costar No. 3603)に分配した。20倍に濃縮したペプチドのアッセイ用緩衝溶液を細胞に添加し、プレート全体を遠心分離して細胞をウェルの底に沈めた。10nMの間質由来因子-1(SDF-1)によって誘導されるカルシウムの動員を、Flexstation 384(励起485nM;発光525nM)で90秒間測定した。ベースラインを超える蛍光応答の最大変化を用いてアンタゴニスト活性を算出した。用量応答曲線(アンタゴニスト濃度対%最大応答)のためのデータをSoftmaxPro 4.6(Molecular Devices)を使用して4つのパラメーターのロジスティック方程式にはめ込み、これからIC50%値を算出した。
【0053】
2.3. FIGS-アッセイ(商標)
このアッセイは下記の参考文献5に従って実施した。ペプチドのストック希釈液(10μM)は室温で10μMのTris-HClに溶解させて調製した。ストック溶液は+4℃で、光を遮断して保管した。作業用希釈液はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の連続希釈によってその場で調製し、最終体積10μlで細胞培養中に直接添加した。48時間の共培養後、培養物をPBSですすぎ、次いでPBS中のグルタルアルデヒド/ホルムアルデヒド(0.2%/2%)に5分間暴露した。光度定量のために、固定した培養物を、続いて発色団のオルト-ニトロフェノール(ONP)に酵素的に変換されるβ-ガラクトシダーゼ基質としてオルト-ニトロ-フェニル-ガラクトピラノシド(ONPG)と共にインキュベートした。読み取り(read out)は、iEMS 96ウェル-プレートリーダーで405nmにおけるウェルの光学密度を測定することによって直接得られる。
【0054】
2.4. 細胞毒性アッセイ
HELA細胞(Acc57)およびCOS-7細胞(CRL-1651)に対するペプチドの細胞毒性は、MTT還元アッセイを用いて決定した[下記参考文献6および7を参照]。簡単に言うと、この方法は以下の通りであった:HELA細胞およびCOS-7細胞をウェルあたりそれぞれ7.0×103個、4.5×103個の細胞数でまき、96-ウェルのマイクロタイタープレート中で24時間、37℃、5%CO2で増殖させた。この時点で、MTT還元によって時間0(Tz)を測定した(下記参照)。残りのウェルの上清は廃棄し、新しい培地、および12.5、25および50μMの連続希釈液中のペプチドをウェルにピペットで添加した。それぞれのペプチド濃度をトリプリケートでアッセイした。細胞のインキュベーションは37℃、5%CO2で48時間継続した。次いでウェルをPBSで1回洗浄し、続いて100μlのMTT試薬(RPMI1640培地およびDMEM培地中それぞれ0.5mg/mL)をウェルに添加した。これを37℃で2時間インキュベートし、次に培地を吸引し、各ウェルに100μlのイソプロパノールを添加した。可溶化した生成物の595nmにおける吸光度を測定した(OD595ペプチド)。各濃度についてトリプリケートから平均を算出した。増殖の比率は以下のようにして算出し、各ペプチド濃度についてプロットした:
(OD595ペプチド-OD595Tz-OD595空のウェル)/(OD595Tz-OD595空のウェル)×100%
【0055】
LC50値(細胞の50%を殺す濃度として定義される致死濃度)は、エクセル(Microsoft Office 2000)のトレンドライン・ファンクションを用い、各ペプチドについて、濃度(50、25、12.5および0μM)、対応する増殖率および値-50に対して決定した(=TREND(C50:C0、%50:%0、-50))。
【0056】
GI 50(増殖阻害)濃度は、トレンドライン・ファンクションを用い、各ペプチドについて、濃度(50、25、12.5および0μg/ml)、対応率および値50に対して算出した(=TREND (C50:C0、%50:%0、50))。
【0057】
2.5. 細胞培養
「CCR5」細胞は、50U/mlのペニシリンおよび50μg/mlのストレプトマイシン(Pen/Strept.)を添加した、4500mg/mlグルコース、10%ウシ胎児血清(FBS)含有DMEM培地中で培養した。Hut/4-3細胞はPen/Strept.および10mM HEPESを添加したRPMI培地、10%FBS中で維持した。HELA細胞およびCCRF-CEM細胞はRPMI1640+5%FBS、Pen/Streptおよび2mMのL-グルタミン中で維持した。Cos-7細胞は、10%FCS、Pen/Strept.および2mMのL-グルタミンを添加した4500mg/mlグルコース含有DMEM培地中で増殖させた。全ての細胞株を37℃、5%CO2で増殖させた。細胞培地、培地添加剤、PBS-緩衝液、HEPES、Pen/Strept.、L-グルタミンおよび血清はGibco社(Pailsey、英国)から購入した。全ての精製化学製品はMerck社(Darmstadt、ドイツ)から入手した。
【0058】
2.6. 溶血
ペプチドを、ヒト赤血球(hRBC)に対するその溶血活性について試験した。新鮮なhRBCを、2000×gで10分間遠心分離することにより、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した。100μMの濃度のペプチドを20%v/v hRBCと共に1時間、37℃でインキュベートした。最終赤血球濃度はおよそ0.9×109個/mlであった。0%および100%細胞溶解のそれぞれの値は、hRBCをPBS単独およびH2O中0.1%Triton X-100の存在下でそれぞれインキュベートして決定した。サンプルを遠心分離し、上清をPBS緩衝液で20倍希釈し、540nMにおけるサンプルの光学密度(OD)を測定した。100%溶血の値(OD540H20)はOD540およそ1.3-1.8であった。溶血率は以下のように計算した:
(OD540ペプチド/OD540H20)×100%
【0059】
2.7. 走化性アッセイ(細胞動員アッセイ)
間質細胞由来因子1α(SDF-1)の勾配に対するCCRF-CEM細胞の走化性応答を、Neuroprobe社(Gaithersburg、MD)のディスポーザブルアッセイプレート(孔径5μ)を使用し、取扱説明書およびその参考文献[特に下記参考文献8]に従って測定した。簡単に説明すると、1個の175cm3フラスコをダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で1回洗浄し、10分間、または細胞が浮き上がるまでトリプシン処理した。血清を含有する新鮮な培地の添加でトリプシンを中和し、細胞をペレット化し、DPBS中で1回洗浄し、RPMI+0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)中に1-0.5×107個/mlで再懸濁させた。45μlの細胞懸濁液を同じアッセイ用培地で希釈した10倍濃縮PEMペプチド5μlと混合した。この混合液35μlをアッセイフィルターの上部にのせた。細胞を1nMのSDF-1を含有するアッセイプレートのボトムチャンバー中に動員させた(37℃)。4時間後、フィルターを取り除き、動員した細胞に最終濃度0.5mg/mlまでMTTを添加して、更に4時間インキュベートした。MTTで標識した後、全ての培地を除去し、100μlのイソプロパノール+10mM HClを細胞に添加した。595nmにおける吸光度(ABS595)をMagellanソフトウェアを使用してTecan Geniosプレートリーダーで読み取った。アッセイプレート中の細胞数が既知の場合に得られた標準曲線に対してABS595値を比較することによって動員した細胞の数を決定し、SDF-1濃度に対してプロットしてS字状曲線を得、IC50値を決定した。IC50の値はマイクロソフト・エクセルのトレンドライン・ファンクション(Trendline function)を使用し、平均化したデータの値に対数曲線を適合させることによって決定した。
【0060】
2.8 血漿安定性
405μlの血漿/アルブミン溶液をポリプロピレン(PP)チューブに入れ、100μMの溶液B(135μlのPBSおよび15μlの1mMペプチド(PBS中)、pH7.4から得られる)からの化合物45μlを添加した。150μlのアリコートを10kDaのフィルタープレート(Millipore MAPPB 1010 Biomax membrane)の個々のウェルに移した。「0分の対照」のために、270μlのPBSをPPチューブに入れ、30μlのストック溶液Bを添加し、ボルテックスにかけた。対照溶液150μlをフィルタープレートの1個のウェルに入れ、「フィルターにかけた対照」として使用する。
【0061】
更に別の対照溶液150μlを直接(濾液のために準備した)レシーバーウェルに入れ、「フィルターにかけない対照」として使用する。蒸発蓋を含むプレート全体を60分間37℃でインキュベートした。100μlの濾液を得るために、血漿サンプル(ラット血漿:Harlan Sera lab UK、ヒト血漿:Blutspendezentrum Zurich)を少なくとも2時間、4300rpm(3500 g)、15℃で遠心分離した。「血清アルブミン」サンプル(新しく調製したヒトアルブミン:Sigma A-4327、ラットアルブミン:Sigma A-6272、PBS中の濃度は全て40mg/ml)のためにはおよそ1時間の遠心分離で十分である。レシーバーPPプレート中の濾液を以下のようにしてLC/MSで分析した:カラム:Jupiter C18 (Phenomenex)、移動相:(A)0.1%ギ酸水溶液および(B)アセトニトリル、勾配:2分間で5%-100%(B)、エレクトロスプレーイオン化、MRM検出(三連四重極)。ピーク面積を決定し、トリプリケートの値を平均する。結合は(フィルターにかけたものとフィルターにかけてないものの0分の時点の)対照1および2の100-(100 * T60/T0)に対する百分率で示す。次いでこれらの値から平均値を算出する(下記の参考文献9を参照のこと)。
【0062】
3.0 In vivo研究
3.1. マウスにおける最大耐用量
a)予備実験において、1匹の雄および1匹の雌のマウス(Crl:CD1(ICR))からなる群に、実施例1の化合物(注射用水または0.9%生理食塩水に分散させたもの)を35、50、70、85、100、150、250または500mg/kgの投与量でi.v.注射によって投与した。更に、2匹の雄および2匹の雌のマウスを含む2つの群に、90および100mg/kgの投与量をそれぞれ投与し、1匹の雄および1匹の雌を含む群では50mg/kgの投与量を反復投与した。
【0063】
b)最大耐用量試験(MTD)はCD1マウス(3匹/群)を用いて実施例2の化合物で実施し、i.v、ipおよびsc.投与を用いて実施した。
【0064】
3.2 マウスにおける反復毒性研究
実施例1の化合物の毒性および毒物動態は、マウスに少なくとも14日間毎日i.v.注射して調べた。12匹の雄および12匹の雌のCrl:CD1(ICR)マウスの群に、対照物質(0.9%w/vの塩化ナトリウムを含有する50mMのオルトリン酸二水素ナトリウム緩衝液)または8、24、もしくは40mg/kg/日のPOL6326を含有する調製物を、5mL/kgの投与量で投与した。各投与量について、一群あたり雌雄それぞれ24匹のサテライト群を含めた。毒性の評価は、死亡率、臨床徴候、体重、飼料消費、眼の検査、臨床および解剖病理学、および毒物動態評価に基づいて行った。
【0065】
3.3 幹細胞の動員
a) マウスモデル:
本研究の目的は、実施例1および実施例2の化合物が造血系前駆細胞をマウスの骨髄から末梢血まで動員させる能力を、in-vitro造血コロニーアッセイを用いて評価することであった。ヒトにおいて、前駆細胞の動員についての正確な情報は、コロニー形成単位顆粒球-単球(CFU-GM)アッセイによって、またはFACS解析によってCD34(+)細胞の量を測定すること(下記参考文献10を参照のこと)で提供される。マウスにおいては、CD34は幹細胞についての有用なマーカーではない;その代わりに、CFU-GMがより一般的に使用される(下記参考文献11参照)。
【0066】
実施例1および実施例2の化合物がマウス幹細胞(CFU-GM)を動員させる能力を評価するために、雌のC3H/HeJマウス(Jackson Laboratory)に5mg/kの実施例1および実施例2の化合物、および参考としてAMD3100(Broxmeyer等, J Exp Med 201, 1307-1318)(現在臨床試験のフェーズIIIが進行中)を幹細胞の動員のために皮下注射した。1試験群あたり5匹の動物の末梢血サンプルを各時点で採取し、標準的アッセイとして核のある細胞数を計測した。
【0067】
b) サルモデル:
カニクイザル(Macaca fascicularis)において、末梢血の造血系幹細胞の動員評価を実施した。実施例1の化合物を、4匹のサル(2匹の雄および2匹の雌)に2分間にわたるゆっくりとしたボーラスi.v.注射として投与し、FACS解析によりCD34(+)細胞を決定した。毒物動態のために血液サンプリングも実施した。
【0068】
4.0. 結果
上記2.2-2.8に記載した実験の結果を以下の表1および2に示す。
【表2】

【表3】

【0069】
3.1-3.3に記載した実験の結果を以下に示す。
【0070】
4.1: マウスにおけるMTD試験
a) MTD試験、実施例1の化合物
マウスにおける実施例1の化合物の急性最小致死静脈投与レベルは90mg/kgを超えることが見出された。
【0071】
b) MTD試験、実施例2の化合物
3種の投与経路の全てで、試験した最大投与量は120mg/kgのボーラスであった。この投与量において全ての動物が生存し、軽い症状のみが観察された。示された症状はわずかな行動抑制、わずかなチアノーゼ、呼吸深度の増大および筋肉の弛緩であった。
【0072】
4.2: 14日間の静脈内注射の毒性および毒物動態研究
実施例1の化合物のマウスへのi.v.投与後のNOAELレベルは40mg/kg/日であった。
【0073】
体重、体重変化、もしくは飼料消費に対し、または投与期間の最終週の間の眼の観察に対し、注目すべき処置の影響はなかった。
【0074】
実施例1の化合物の投与は、40mg/kg/日を投与された雌において、白血球およびリンパ球の絶対計数のわずかな増加と関連していた。40mg/kg/日を投与された雄は同様に影響を受けておらず、これらの小さな影響は悪影響とは考えられなかった。臨床化学の結果は、実施例1の化合物の投与による影響を受けなかった。臓器(8mg/kg/日を投与された雄の腎臓、および24もしくは40mg/kg/日を投与された雄の精嚢)の重量増加は偶発的なものであり、処置と関連しないものと考えられた。試験物質に関連した肉眼的病変は記録されなかった。3匹の動物(対照群の雌1匹、8mg/kg/日の雄1匹および24mg/kg/日の雌1匹)で注射部位(尾部)に限局的な赤くて硬くなった領域があったが、これは皮下注射針で刺した痕であった。試験物質に関連した微視的な病変は観察されなかった。
【0075】
4.3: 幹細胞の動員
a) マウスにおける幹細胞の動員、実施例1の化合物:
実施例1の化合物5mg/kgの投与によって、CFU-GM血液細胞数が上昇し、120分後に最大効果を有し、投与6時間後にベースラインレベルに戻る(図1)。同じアッセイにおいて、AMD3100(幹細胞の動員について現在臨床試験のフェーズIIIが進行中)を比較物質として使用した。フォローアップ研究において、CFU-GMの放出に関する実施例1の化合物の用量応答を測定した(図1)。マウスにおけるCFU-GMの放出に関して実施例1の化合物の明らかな用量応答効果があり、5mg/kgでピークレベルの上昇が見られた。
【0076】
b) マウスにおける幹細胞の動員、実施例2の化合物:
実施例2の化合物5mg/kgの投与によって、CFU-GM血液細胞数が投与6時間後まで上昇し、240分後に最大効果を有したが、一方AMD3100の投与は、対照のマウスと比較して30分および60分後における前駆細胞の出現頻度および数の上昇と関係する(図2)。
【0077】
c) サルにおける幹細胞の動員、実施例1の化合物:
実施例1の化合物の投与によって、カニクイザルにおけるCD34(+)造血細胞の動員が誘導された。マウスで観察されたように、動員の開始は急速であり、ピークレベルは2時間後であった。また動員は一過性であり、末梢血中の幹細胞の数は実施例1の化合物の血漿レベルの低下と共にベースラインレベルに戻った(図3)。
【0078】
参考文献
1. Oberlin E, Amara A, Bachelerie F, Bessia C, Virelizier J-L, Arenzana-Seisdedos F, Schwartz O, Heard J-M, Clark-Lewis I, Legler DF, Loetscher M, Baggiolini M, Moser B. Nature. 1996, 382:833-835
2. Loetscher M, Geiser T, O'Reilly T, Zwalen R, Baggiolini M, Moser B. J.Biol.Chem. 1994. 269:232-237
3. D'Apuuo M, Rolink A, Loetscher M, Hoxie JA, Clark-Lewis I, Melchors F, Baggiolini M, Moser B. Eur.J.Immunol. 1997. 27:1788-1793
4. von Tscharner V, Prod'hom B, Baggiolini M, Reuter H. Nature. 1986. 324:369-72
5. Hamy F, Felder ER, Heizmann G, Lazdins J, Aboul-ela F, Varani G, Karn J, Klimkait T. Proc.Natl.Acad.Sci. 1997. 94:3548-3553
6. Mossman T. J.Immunol.Meth. 1983, 65:55-63
7. Berridge MV, Tan AS. Arch.Biochem.Biophys. 1993, 303:474-482
8. Frevert CW, Wong VA, Goodman RV, Goodwin R, Martin TR, J.Immunol.Meth. 1998. 213: 41-52
9. Singh R., Chang, S.Y., Talor, L.C., Rapid Commun. Mass Spectrom., 1996, 10: 1019-1026
10. To LB, Haylock DN, Simmons PJ, Juttner CA. Blood 1997, 89(7):2233-2258
11. Broxmeyer HE, Orschell CM, Clapp DW, Hangoc G, Cooper S, Plett PA等, J Exp Med 2005. 201(8):1307-1318

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cys4およびCys11間にジスルフィド結合があり、XがAlaまたはTyrであるシクロ(-Tyr-His-X-Cys-Ser-Ala-DPro-Dab-Arg-Tyr-Cys-Tyr-Arg-Gln-Lys-DPro-Pro)、および製薬上許容されるその塩。
【請求項2】
治療的活性物質として使用するための、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
CXCR4拮抗活性を有し、健康な個体におけるHIV感染を予防するため、または感染した患者におけるウイルスの増殖を遅らせ、停止させるため;または癌がCXCR4受容体活性に仲介されるか、もしくは由来する場合;または免疫学的疾患がCXCR4受容体活性に仲介されるか、もしくは由来する場合;または免疫抑制の治療のため;または炎症の治療のため、または末梢血幹細胞および/もしくは間葉幹細胞(MSC)および/もしくはその保持がCXCR4-受容体に依存する他の幹細胞の幹細胞動員のために有用である、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
請求項1記載の化合物および薬学的に不活性な担体を含有する医薬組成物。
【請求項5】
経口、局所、経皮、注射、頬側、経粘膜、経肺または吸入による投与に適した形態である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
錠剤、糖衣錠(dragee)、カプセル、溶液、液体、ゲル、硬膏剤(plaster)、クリーム、軟膏、シロップ、スラリー、懸濁液、スプレー、ネブライザーまたは坐剤の形態である、請求項4または5記載の組成物。
【請求項7】
CXCR4拮抗医薬の製造のための、請求項1記載の化合物の使用。
【請求項8】
上記CXCR4拮抗医薬が、健康な個体におけるHIV感染を予防するため、または感染した患者におけるウイルスの増殖を遅らせ、停止させるため;または癌がCXCR4受容体活性に仲介されるか、もしくは由来する場合;または免疫学的疾患がCXCR4受容体活性に仲介されるか、もしくは由来する場合;または免疫抑制の治療のため;または末梢血幹細胞および/もしくは間葉幹細胞(MSC)および/もしくはその保持がCXCR4-受容体に依存する他の幹細胞の幹細胞動員のために使用することが意図される、請求項7記載の使用。
【請求項9】
請求項1記載の化合物の製造方法であって:
(a)適切に官能化した固体支持体を適切にN-保護されたProの誘導体とカップリングさせる工程;
(b)工程(a)で得られた生成物からN-保護基を除去する工程;
(c)このようにして得られた生成物を適切にN-保護されたDProの誘導体とカップリングさせる工程;
(d)このようにして得られた生成物からN-保護基を除去する工程;
(e)このようにして得られた生成物を、所望の最終生成物において位置14にあるアミノ酸、すなわちLysの適切にN-保護された誘導体であって、その側鎖に存在するアミノ基が同様に適切に保護されているものとカップリングさせる工程;
(f)このようにして得られた生成物からN-保護基を除去する工程;
(g)実質的に工程(e)および(f)に対応するが、所望の最終生成物において位置13〜1にあるアミノ酸、すなわちGln、Tyr、Cys、Tyr、Arg、Dab、DPro、Ala、Ser、Cys、AlaもしくはTyr、HisおよびTyrの適切にN-保護された誘導体であって、上記N-保護されたアミノ酸誘導体中に存在し得る任意の官能基が同様に適切に保護されているものを使用する工程を実施する工程;
(h)位置4および11におけるCys残基の側鎖間にジスルフィドβ-鎖結合を形成する工程;
(i)このようにして得られた生成物を固体支持体から取り外す工程;
(j)固体支持体から切り離された生成物を環化する工程;
(k)アミノ酸残基の鎖の任意のメンバーの官能基上に存在する任意の保護基を除去する工程;および
(l)必要に応じて、このようにして得られた生成物を製薬上許容される塩に変換するか、または、このようにして得られた製薬上許容されるか、もしくは許容されない塩を、対応する遊離の化合物もしくは製薬上許容される別の塩に変換する工程;
を含む、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−519331(P2010−519331A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551913(P2009−551913)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/CH2007/000101
【国際公開番号】WO2008/104090
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(509241579)ポリファー リミテッド (1)
【出願人】(503021582)ウニベルジテート チューリッヒ (7)
【Fターム(参考)】