説明

テーパスナップリング

【課題】
部品を軸またはハウジングの穴に固定する為のテーパスナップリングにおいて、部品点数を増やさずにテーパスナップリングが抜け難くし、コストや組立工数が増加することを抑制したテーパスナップリングを提供する。
【解決手段】
本発明に係る部品を固定する為のテーパスナップリングは、前記テーパスナップリングの先端の接線方向と、テーパスナップリングの先端の移動方向とがなす角度αが、0°<α≦90°であることを特徴とする。また、図1において、応力集中の防止や怪我防止等のために先端1aの外周面側のR部11および先端1aの凹部のR部14を設けているが、これらのR部は可能な限り小さいことが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、テーパスナップリングに関し、転がり軸受等を軸またはハウジングの穴に固定するため等に用いる。
【背景技術】
【0002】
スナップリングは、ハウジングに挿入された軸類、例えばシャフトやピンあるいは筒状体の上記ハウジングに対する位置決めや抜け止め用として多く用いられている。しかしながら、上記穴用スナップリングに穴の軸線方向の荷重が繰り返し加わった場合、上記軸類支持穴形成部材の穴の内周面に形成されたスナップリング嵌挿溝の形状が変形し、穴用スナップリングの外径を小さくする方向に力が作用し、上記穴用スナップリングが緩み出し、抜けることがあった。
【0003】
この部分の改善の先行技術としては、図6の針状転がり軸受4の位置決めや抜け止め用として、軸受穴用スナップリング9の先端91、92の巾と略等しい巾と上記穴用スナップリング9の厚さと略等しい厚さとを有し、かつ溝6aへの嵌入側にスリットにより分岐された脚部12、13を有し、該脚部12、13が溝に嵌装状態の上記穴用スナップリング9の上記先端91、92に挿入時、外力により上記溝内にて拡開し、上記穴用スナップリング9の先端91、92に圧着し得るようにしたことを特徴とする穴用スナップリング9のロック部材10がある。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−14523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術は、穴用スナップリング9の他に、ロック部材10が必要な為、コストや組立工数が増加する恐れがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、部品点数を増やさずにテーパスナップリングが抜け難くし、コストや組立工数が増加することを抑制したテーパスナップリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、部品を固定する為のテーパスナップリングにおいて、前記テーパスナップリングの先端の接線方向と、テーパスナップリングの先端の移動方向とがなす角度αが、0°<α≦90°であることを特徴とする。一般的に、ハウジングは軽量化や複雑な形状を安価に製造するためにアルミダイキャスト製とされることが多い。一方、テーパスナップリングは鋼鉄製でありハウジングよりも硬い。この組合せにおいて、軸方向に大荷重が負荷された場合には、ハウジングのテーパスナップリングとの接触面では、塑性変形が生じることがある。ところで、テーパスナップリングの先端部分は、軸方向に荷重が負荷された場合に、径が変化しつつ周方向にも移動するという特徴がある。そこで、先端部分が移動中に常にハウジングの塑性に寄与し続けるように、先端部分の形状を先端の移動方向と先端の接線が成す角αが0°<α≦90°とする。この形状では、ハウジングの塑性変形をテーパスナップリング先端の移動に対する抵抗力として利用するため、テーパスナップリングの脱落を防止することができる。また、この様な形状の製造は、プレス加工により容易に実現できることから、コストの増加を抑えることができる。なお、テーパスナップリング先端の移動方向はFEM解析により求めることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、部品点数を増やさずにテーパスナップリングが抜け難くし、コストや組立工数が増加することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)本発明に係るテーパスナップリングの半分の正面図(b)(a)の先端の拡大図
【図2】テーパスナップリングを取り付けた状態の部分断面図
【図3】本発明に係るテーパスナップリングに荷重がかかった際の先端の移動方向の拡大図
【図4】本発明に係るテーパスナップリングの先端の開き角度を説明する図
【図5】本発明に係るテーパスナップリングの先端の変位を説明する図
【図6】従来のテーパスナップリングとロック部材の部分正面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るテーパスナップリング1について図面を参照して説明する。図1(a)(b)は、本発明のテーパスナップリング1であり、図1(a)(b)と図2に示すように、外周面と側面の一部がテーパ1bとなっている。図2に、軸受外輪5aをテーパスナップリングにより固定した際の断面図を示す。図2に示すように、前記テーパスナップリング1は、外径を小さくしてハウジング2に取り付けられた場合、バネ力が働き、軸受5が軸方向に抜けないように、テーパスナップリング1のテーパ1bとハウジング2のテーパ2bでハウジング2に固定されている。軸受外輪5aからアキシアル荷重Aが負荷されると、テーパスナップリング1はハウジング2との接触により反力Bが生じる。このとき、スナップリングにテーパ1bが施されているため、径方向内側にも反力Cが生じる。この反力Cによって先端1aに近い部分ほど大きなモーメント荷重を受け、テーパスナップリング1が径方向に縮まる。この影響により、大荷重が負荷された場合には、従来のテーパスナップリングは抜ける恐れがある。
【0011】
それに対して、本発明では、図1(a)(b)と図2に示すように、本実施形態の部品をハウジング2の穴に固定する為のテーパスナップリング1において、前記テーパスナップリング1の先端1aの接線方向と、テーパスナップリングの先端の移動方向7とがなす角度αが、0°<α≦90°である。角度は90°に近い方が望ましい。使用時において、軸方向に荷重が負荷された場合に、テーパスナップリング1の先端は移動方向7に向かって移動する。もし、荷重が、ハウジング2のテーパ面2bとの接触面が塑性変形するような大荷重であった場合、テーパスナップリング1の先端の形状が、上記に示したように0°<α≦90°を満たす形状となっていることから、先端が移動中に常にハウジングの塑性に寄与し続ける。ハウジング2の塑性は、テーパスナップリング1の先端の移動に対する抵抗力として働くため、テーパスナップリング1の脱落を防止することができる。なお、テーパスナップリング先端の移動方向10はFEM解析により求めることができるが、目安とするための概算の値を幾何学的に求めることができ、基準とする方向をハウジング2の内径面の法線方向8とすると、法線方向8と移動方向7とが成す角度γは、下記式1、2、3に示すように
【0012】
(式1)

【0013】
である。ここで、△Rは図5に示すように組込み時、組込み後、荷重負荷時におけるはテーパスナップリング先端の径方向の変位であり、Rはテーパスナップリングの外径、βは図4に示すようにテーパスナップリング先端の開き角度である。また、図3において、応力集中の防止や怪我防止等のために先端1aの外周面側のR部11および先端1aの凹部のR部14を設けているが、これらのR部は可能な限り小さいことが望ましい。また、ハウジング2はテーパスナップリング1よりも柔らかい材質により製造され、本実施形態では、ハウジング2はアルミダイキャスト製であり、テーパスナップリング1は鋼鉄製である。以上説明したようなテーパスナップリング1にすることにより、部品点数を増やさずにテーパスナップリングが抜け難くし、コストや組立工数が増加することを抑制できる。
【0014】
また、上述の実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨を外れない限り、他の実施形態にも適用出来る。
【符号の説明】
【0015】
1 テーパスナップリング
1a、91、92 先端
1b テーパ
2 ハウジング
2b テーパ
3 先端の接線方向
4 針状転がり軸受
5 軸受
5a 軸受外輪
6a 溝
7 先端の移動方向
8 ハウジングの内径面の法線方向
9 穴用スナップリング
10 ロック部材
11 先端の外周面側のR部
12、13 脚部
14 先端の凹部のR部
A アキシアル荷重
B 反力
C 径方向内側反力
R テーパスナップリングの外径
α 先端1aの接線方向と、テーパスナップリングの先端の移動方向7とが なす角度
β
テーパスナップリング先端の開き角度
γ
ハウジングの内径面の法線方向8と先端の移動方向7とが成す角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品を固定する為のテーパスナップリングにおいて、前記テーパスナップリングの先端の接線方向と、テーパスナップリングの先端の移動方向とがなす角度αが、0°<α≦90°であることを特徴とするテーパスナップリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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