説明

テーパー状マルチフィラメント糸条

【課題】テーパー状マルチフィラメント糸条の、最も細い部位での太さに対する最も太い部位での太さの比率を容易に大きくし、しかも簡便かつ効率的に製造できるようにする。
【解決手段】延伸可能なフィラメントを延伸装置に供給し、供給速度に対する引取速度を変化させることでフィラメントの太さを長手方向に変化させる。このとき、このフィラメントの長手方向の一部において、加熱下でフィラメントを供給速度よりも早い引取速度で引き取ることによりその部位を延伸させて太さを小さくし、フィラメントの長手方向の他の一部において、加熱下でのフィラメントを供給速度よりも遅い引取速度で引き取ることによりこの部位を収縮させて太さを大きくする。これにより、テーパー状マルチフィラメント糸条の、最も細い部位での太さに対する最も太い部位での太さの比率を容易に大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、釣り分野のフライフィッシング用のフライラインもしくはフライ用リーダー糸、投げ釣り用のちから糸、テンカラ釣り(日本伝統の毛鉤を使った渓流釣り)に使用される釣糸、竿先糸として、また他の産業資材分野、例えば飾り紐糸などに使用される、テーパー状マルチフィラメント糸条に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数本のフィラメントからなり、太さを長手方向に変化させたテーパー状釣糸としては、例えばその複数本のフィラメントのうち一部のフィラメントを、糸条の末端に向かう長手方向の途中で切断除去して太さを長さ方向に小さくし、これを芯糸として組み込んだものが知られている(例えば、特許文献1参照、以下、従来技術1という。)。
【0003】
この従来技術1では、特に切断部分において糸の平滑性が損なわれるので、岩場に引っかかりやすく、また摩擦抵抗が大きく釣り竿のガイドとの滑りが悪くなったり、釣り糸が切断され易くなるという問題点があった。さらにこのテーパー状釣糸を製紐により製造する際、径を細くするため製紐の途中で製紐機を止めて任意の本数のフィラメントを切断除去しなければならず、作業効率が悪い問題点もあった。
【0004】
そこで上記の問題点を解消するため、マルチフィラメントまたは糸条をテーパー状に延伸することにより形成したテーパー状マルチフィラメント糸条が提案されている(特許文献2参照、以下従来技術2という)。即ち、このテーパー状マルチフィラメント糸条は、延伸可能なマルチフィラメントを延伸する際に、供給速度に対する引取速度を変化させることでこのマルチフィラメントの太さを長手方向へ変化させてある。
【0005】
この従来技術2では、フィラメントの切断部分がないため平滑性に優れており、釣り竿のガイド等との滑りがよく耐久性に優れるうえ、フィラメントを切断除去する必要がないので簡便かつ効率的に製造でき、しかも、フィラメントの延伸倍率を調整することによりテーパーの度合いを任意に設定できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−289708号公報
【特許文献2】特開2002−339184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来技術2にあっては、フィラメントの材質や原糸の延伸状態によって、上記の延伸の際の供給速度に対する引取速度の比、即ち延伸倍率が制限され、例えば未延伸フィラメントを用いる場合は延伸倍率が1.01〜15程度に設定され、延伸済みのフィラメントを再延伸する場合は、延伸倍率が1.01〜5、好ましくは1.01〜3程度に設定される。このため、テーパー状マルチフィラメント糸条の、最も細い部位での太さに対する最も太い部位での太さの比率を、より大きくすることが容易でない場合があった。
【0008】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、テーパー状マルチフィラメント糸条の、最も細い部位での太さに対する最も太い部位での太さの比率を容易に大きくでき、しかも簡便かつ効率的に製造できる、テーパー状マルチフィラメント糸条を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するため、次のように構成したものである。
即ち、本発明は、
(1) 供給速度に対する引取速度を変化させてテーパー状に形成された複数本のフィラメントからなる、テーパー状マルチフィラメント糸条であって、このフィラメントの長手方向の一部において、加熱下でフィラメントを供給速度よりも早い引取速度で引き取ることによりその部位を延伸させて太さを小さくするとともに、このフィラメントの長手方向の他の一部において、加熱下でのフィラメントを供給速度よりも遅い引取速度で引き取ることによりこの部位を収縮させて太さを大きくしたことを特徴とする、テーパー状マルチフィラメント糸条、
(2) テーパー状に形成されたフィラメントが、超高分子量ポリエチレンフィラメントである前項(1)に記載のテーパー状マルチフィラメント糸条、
(3) 合成樹脂で被覆されていることを特徴とする、前項(1)または(2)に記載のテーパー状マルチフィラメント糸条、
(4) 上記の合成樹脂に金属粒子が含有されていることを特徴とする、前項(3)に記載のテーパー状マルチフィラメント糸条、
(5) 上記のフィラメントに金属粒子が含有されていることを特徴とする、前項(1)から(4)のいずれか1項に記載のテーパー状マルチフィラメント糸条、および
(6) 上記の収縮させた部位におけるフィラメントの繊度が、未収縮フィラメントの繊度の2倍以下である、前項(1)から(5)のいずれか1項に記載のテーパー状マルチフィラメント糸条
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、延伸装置を利用してフィラメントをテーパー状に形成するに際し、単に延伸処理のみが施される従来法とは異なり、延伸処理とともに長手方向の一部では収縮処理が施される。このため、本発明により得られるテーパー状マルチフィラメント糸状は、フィラメントの切断部分がなく平滑性に優れたものでありながら、上記の収縮処理を施した部位で太くすることができるので、延伸処理を施した最も細い部位での太さに対し、上記の収縮処理を施した最も太い部位での太さの比率を容易に大きくすることができる。
【0011】
しかも、構成フィラメントを途中で切断除去する必要がないうえ、上記の収縮処理は引取速度を供給速度よりも遅くするだけでよく、前記の従来技術2などで用いる延伸装置をそのまま利用できるので、テーパー状マルチフィラメント糸条を簡便かつ効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るテーパー状マルチフィラメント糸条は、供給速度に対する引取速度を変化させてテーパー状に形成された複数本のフィラメントからなる、テーパー状マルチフィラメント糸条であって、加熱下でフィラメントを供給速度よりも遅い引取速度で引き取ることにより、このフィラメントの一部を収縮させて太さを大きくすることにより得られるテーパー状マルチフィラメント糸条である。このような本発明に係るテーパー状マルチフィラメント糸条は、以下に説明する方法により製造することができる。
【0013】
本発明においては、延伸可能なフィラメントを延伸装置に供給し、供給速度に対する引取速度を変化させることでこのフィラメントの太さを長手方向に変化させる。このとき、該フィラメントの長手方向の一部においては引取速度を供給速度よりも早くしてフィラメントを延伸するとともに、該フィラメントの長手方向の他の一部においては、加熱下での引取速度を供給速度よりも遅くすることにより、この部分でフィラメントを収縮させて太さを大きくする。これらの延伸および収縮の両方が行われることにより、フィラメントがテーパー状に形成される。
【0014】
上記の延伸可能なフィラメントは、加熱により分子の配向が弛緩して収縮しようとし、供給速度に対する引取速度の比率に応じて、長さ方向に収縮するとともに太くなる。この現象は原糸が延伸処理を施したフィラメントの場合はもとより、いわゆる延伸処理を施していない未延伸フィラメントにも生じる。これは、未延伸フィラメントであっても、繊維状に形成されることで分子が配向しているためと考えられる。そしてこの結果、上記のフィラメントは上記の収縮処理を施した部位で太くなるので、他の部位でフィラメントを延伸する際に延伸倍率を過剰に大きくしなくても、或いは延伸倍率を大きくできない場合であっても、延伸処理を施した最も細い部位での太さに対し、上記の収縮処理を施した最も太い部位での太さの比率が大きくなる。
【0015】
しかも、上記の収縮処理は、引取速度を供給速度よりも遅くするだけでよい。本発明で用いられる延伸装置としては、特に限定されるものではなく、フィラメントの引取速度を供給速度より速くして延伸できるとともに、引取速度を供給速度よりも遅くすることができる装置であればよく、供給ローラー(送り込みローラー)と引取ローラー(巻き取りローラー)とを備えた延伸および弛緩熱処理が可能な公知の装置を用いることができる。具体的には前記の従来技術2などで用いる延伸装置をそのまま利用することができる。
【0016】
ここで、上記の本発明において用いる延伸可能なフィラメントとは、延伸処理を行うことができるフィラメントであればよく、例えば市販のフィラメントのような製造時に既に延伸処理が施されているフィラメントであってもよいし、製造時に全く延伸処理が施されていない未延伸フィラメントであってもよい。また、製造時に既に延伸処理が施されているが、市販のフィラメントの製造時の延伸倍率に満たない延伸倍率で延伸されているフィラメントを用いてもよい。
【0017】
上記の延伸可能なフィラメントは、マルチフィラメントでもよく、モノフィラメントでもよい。なお、本発明において、マルチフィラメント糸条とは、複数本のフィラメントからなる糸条を意味し、テーパー状マルチフィラメント糸条とは、複数本のフィラメントからなり、かつテーパー状に形成された糸条を意味する。また、構成フィラメントとは、テーパー状マルチフィラメント糸条を構成するフィラメントを意味するが、テーパー状に形成される前の構成フィラメントを意味することもある。
【0018】
上記の供給速度に対する引取速度の比率は、急激に変化させてもよいが、徐々に変化させることでフィラメントの太さを僅かずつ連続的に変化させることができ、結果としてテーパー状マルチフィラメント糸条の平滑性を良好にできるので好ましい。なお、上記の速度比率の変化は、直線的に変化してもよいし、そうでなくでもよい。
【0019】
上記の引取速度を供給速度よりも遅くする際に、この供給速度に対する引取速度の比率は、例えば、一般に製造工程で延伸されているフィラメントは未延伸フィラメントに比べて収縮し易いことから、上記の引取速度の比率が小さく設定される。従って、上記の供給速度に対する引取速度の比率は、構成フィラメントの材質や予め施された延伸処理の程度などによって異なり、特定の範囲に限定されないが、過剰に小さく設定するとフィラメントの物性に悪影響を与える虞があり、0.5以上1未満に設定されると好ましい。
【0020】
また、上記の延伸可能なフィラメントは、収縮処理を施す部位以外における任意の部位で延伸処理が施されるが、このときの供給速度に対する引取速度の比率、即ち延伸倍率は、構成フィラメントの種類や予め施されている延伸処理の程度、フィラメント糸状の構造などに応じて適宜選択される。
【0021】
より具体的は、例えば市販のフィラメントのように製造工程において延伸されているフィラメントを構成フィラメントとして用いる場合は、延伸倍率は約1.01〜5程度、好ましくは約1.01〜3程度、より好ましくは約2.2〜3程度に設定される。一方、延伸処理が施されていない未延伸フィラメントや、市販のフィラメントほどには延伸されていないフィラメントを構成フィラメントとして用いる場合は、延伸倍率は約1.01〜15程度、好ましくは約2〜10程度、より好ましくは約4〜8程度に設定される。また、例えば構成フィラメント複数本からなる糸条を延伸する場合は、上記の延伸倍率は約2〜6程度に設定されると好ましく、マルチフィラメントを延伸する場合は、延伸倍率は約1.5〜4程度に設定されると好ましい。
【0022】
上記の収縮方法や延伸方法は特定の方法に限定されず、液体または気体中で加熱しながら処理するなど、公知の方法が採用される。収縮処理や延伸処理は1段で行ってもよく、2段以上で行ってもよい。また、収縮処理時や延伸処理時の加熱温度は、構成フィラメントの種類や糸条の太さ等によって異なるので一概には言えないが、一般に構成フィラメントの融点以上の温度で延伸処理を行うのが好ましく、具体的には、約120〜300℃程度、好ましくは約130〜250℃程度、より好ましくは約130〜200℃程度、さらに好ましくは約130〜170℃程度である。
【0023】
上記の延伸可能なフィラメントとしては、具体的には、例えば、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系、フッ素系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系、ポリアセタール系などの合成樹脂からなるフィラメントが挙げられる。本発明においては、これらの合成樹脂製フィラメントのうち、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0024】
より具体的には、上記のポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリエチレンやポリプロピレン等が挙げられ、中でも、重合平均分子量が約400,000以上のものが好ましい。上記のポリエチレンやポリプロピレンは、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。コポリマーとして具体的には、エチレンと共重合できる1以上のアルケン類を少量、好ましくは約5重量%程度以下の割合で含有し、100炭素原子当り1〜10個程度、好ましくは2〜6個程度のメチル基またはエチル基を有する共重合体が挙げられる。上記エチレンと共重合できるアルケン類としては、例えば、プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテンまたは4−メチルペンテン等が挙げられる。また、コポリマーとしては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)なども挙げられる。
【0025】
ポリアミド系樹脂としては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6,10などの脂肪族ポリアミドもしくはその共重合体、または芳香族ジアミンとジカルボン酸により形成される半芳香族ポリアミドもしくはその共重合体などが挙げられる。
【0026】
ポリエステル系樹脂としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン2,6ジカルボン酸、フタル酸、α,β−(4−カルボキシフェニル)エタン、4,4’−ジカルボキシフェニル若しくは5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸もしくはセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル類と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコールまたはテトラメチレングリコールなどのジオール化合物とから重縮合されるポリエステルもしくはその共重合体などが挙げられる。
【0027】
フッ素系樹脂としては、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリモノクロロトリフルオロエチレン若しくはポリヘキサフルオロプロピレン又はその共重合体などが挙げられる。
【0028】
ポリアクリロニトリル系樹脂としては、アクリロニトリルと他のポリマーとのコポリマーであるポリアクリロニトリル系樹脂が挙げられる。この他のポリマーとしては、例えばメタクリレート、アクリレートまたは酢酸ビニル等が挙げられ、これらのポリマーは約5重量%程度以下の割合で含有されていることが好ましい。
【0029】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ビニルアルコールと他のポリマーとのコポリマーであるポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。この他のポリマーとしては、例えば酢酸ビニル、エテンまたは他のアルケン類等が挙げられ、これらのポリマーは約5重量%程度以下の割合で含有されていることが好ましい。
【0030】
本発明において用いる上記の延伸可能なフィラメントは、中でも高クリープ性フィラメントであることが好ましい。ここで、この高クリープ性フィラメントとは、延伸後にその形状を保ちつづけるようなフィラメントをいう。より具体的には、フィラメントを構成する繊維の破断強度の半分の荷重を100時間加えつづけ、その後かかる荷重を取り除いたときの永久伸びが約1%以上、好ましくは約5%以上、より好ましくは約10%以上である糸条が高クリープ性フィラメントとして好適である。なお、上記の永久伸びは、公知の測定機、例えば万能試験機オートグラフAG−100kNI(商品名 島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0031】
上記の高クリープ性フィラメントとしては、具体的には、例えばポリアセタール系フィラメントまたは超高分子量ポリエチレンフィラメントなどが好適な例として挙げられる。上記のポリアセタール系フィラメントは、例えばポリオキシメチレンなどアセタール結合を主鎖に有するポリアセタール系樹脂を溶融紡糸法等の自体公知の方法で製造される。このポリアセタール系フィラメントは、引張強度が約4g/d程度以上、伸度が約20%程度以下の物性を有するものが好ましい。なお、引張強度と破断伸度は、公知の測定機、例えば万能試験機オートグラフAG−100kNI(商品名 島津製作所製)を用いて容易に測定することができる。
【0032】
また、上記の超高分子量ポリエチレンフィラメントは、例えば特開昭55−5228公報や特開昭55−107506公報などに開示されている公知の方法に従って、製造することができる。あるいは超高分子量ポリエチレンフィラメントとして、ダイニーマ(商品名 東洋紡株式会社製)やスペクトラ(商品名 アライドシグナル社製)等の市販品を用いてもよい。
【0033】
上記の超高分子量ポリエチレンフィラメントを構成する超高分子量ポリエチレンとしては、分子量が20万程度以上、好ましくは60万程度以上のものが好適に用いられる。かかる超高分子量ポリエチレンは、ホモポリマーであってもよいし、炭素数3〜10程度の低級α−オレフィン類、例えばプロピレン、ブテン、ペンテン、へキセン等との共重合体であってもよい。このエチレンとα−オレフィンとの共重合体としては、後者の割合が炭素数1000個当たり平均0.1〜20個程度、好ましくは平均0.5〜10個程度である共重合体を用いるのが好ましく、かかる共重合体は高強度などの優れた機械的性質を示す。
【0034】
本発明においては、構成フィラメントに、本発明の目的を損なわない範囲内で各種公知の耐磨耗剤、艶消し剤、改質剤もしくは顔料など、またはこれらの2種以上が含有されていてもよい。また、構成フィラメントに、磁性材料、導電性物質、高誘電率を有する物質などが含有されていてもよい。
【0035】
本発明においては、テーパー状マルチフィラメント糸条の比重を大きくするため、構成フィラメントに金属粒子が含有されていてもよい。ここにおいて、使用される金属粒子としては鉄、銅、亜鉛、錫、ニッケルもしくはタングステン等を単独でまたは混合もしくは合金としたものが挙げられる。中でも比重の大きいタングステンが好ましい。なぜなら、比重の大きい金属を用いると糸条に重さを与えやすく、比重を高くする効果が少量の金属添加により現れるため、素材の樹脂の強度低下を極力抑えることができるからである。
【0036】
上記の金属粒子は、粒状、粉末状を問わず本発明に適用することができる。この金属粒子の大きさは、大きすぎると混合後の全体的均一性が乏しくなるので、約20μm程度以下が好ましく、より好ましくは約10μm程度以下に設定される。これらの金属粒子は、構成フィラメントを構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して約1〜90重量部程度添加するのが好ましく、約5〜70重量部程度添加するのがより好ましい。
【0037】
上記の延伸可能なフィラメントは、予め複数本を一体化したのち、この一体化したマルチフィラメント糸条に上記の延伸・収縮処理を施してテーパー状に形成することによりテーパー状マルチフィラメント糸条にしてもよく、あるいは延伸可能なマルチフィラメントを予め延伸・収縮によりテーパー状に形成したのち、このテーパー状マルチフィラメントの複数本を複合することによりテーパー状マルチフィラメント糸条にしてもよい。
【0038】
上記の一体化とは、複数本の構成フィラメントが互いにばらばらにならないように一体化させることを言う。この一体化には公知の手段を用いてよく、例えば複数本の構成フィラメントを撚り合わせたり、製紐したり、熱接着性樹脂で融着させたりする手段などが挙げられる。また、2種以上のフィラメントを用いる場合は、いずれかのフィラメントを芯糸とし、残りのフィラメントを芯糸の周りに製紐させたり、芯糸の周りを囲むように配置して融着させたりして複合させてもよい。
【0039】
上記の延伸可能なフィラメントを予め一体化する場合、構成フィラメントは、例えば、マルチフィラメント、モノフィラメントまたはモノマルチフィラメントのいずれの形態を有していてもよい。ここで、モノマルチフィラメントとは、通常はモノフィラメント糸複数本を合糸したものをいう。
【0040】
上記の一体化工程において、複数本のフィラメントを製紐するのが好ましく、特に、複数本のマルチフィラメントを製紐するのが好ましい。製紐方法としては、特に限定されないが、通常は組紐機(製紐機)を用いて行われる。例えば4本のマルチフィラメントを準備し、右側または左側の糸を交互に真中に配置させて組み上げていく。なお製紐に用いるマルチフィラメントの数は、4本に限らず、8本、12本または16本の場合などがある。
【0041】
また、予め延伸・収縮によりテーパー状に形成されたマルチフィラメントの複数本を製紐により一体化する場合は、構成フィラメントの径の大きさに応じて製紐機のギアをかえ、構成フィラメントの径の大きさに適した組みピッチで製紐することができる。このようにすることにより、テーパー状マルチフィラメント糸条の平滑性がより向上する利点がある。
【0042】
上記の延伸・収縮によりテーパー状に形成されたマルチフィラメント複数本を製紐その他の手段により一体化する際には、この複数本のテーパー状マルチフィラメントとともに、さらに金属線を複合することができる。このように、金属線を含有させることにより、テーパー状マルチフィラメント糸条の比重を任意に設定することができる利点がある。
【0043】
ここで、このテーパー状のマルチフィラメントと金属線とを複合させるには公知の手段を用いてよく、例えばマルチフィラメントと金属線とを撚り合わせたり、製紐したり、上述したように熱接着性樹脂で融着したりすることなどが挙げられる。また、金属線を芯糸とし、テーパー状マルチフィラメントを芯糸の周りに製紐させたり、芯糸の周りを囲むように配置して融着させたりしてもよい。中でも、本発明の糸条は金属線を芯とする芯鞘構造を有する場合が好ましい。
【0044】
上記の金属線の種類としては特定のものに限定されず、自体公知の金属線を用いてもよい。具体的には、例えば、銅線、ステンレス線、鉛線、タングステン線、各種合金の軟線およびアモルファス線などが挙げられる。中でも、安価であることから鉛線を用いるのが好ましい。
【0045】
上記の構成フィラメントを熱接着性樹脂で融着させて一体化する場合は、複数本の延伸可能なフィラメントを熱接着性樹脂により一体化する工程と、この一体化したマルチフィラメント糸条をテーパー状に形成すべく延伸・収縮処理する工程とを、同時に行うことができる。この場合、融着処理と延伸・収縮処理とがともに加熱下で行われるので、両工程を一度に行うことにより、さらに効率的にテーパー状マルチフィラメント糸条を製造することができる利点がある。
【0046】
本発明において、上記の熱接着性樹脂を用いて複数本の構成フィラメントを融着する方法としては、例えば次の方法が挙げられるが、これらの方法に限定されないことはいうまでもない。
(a)バスの中に充填した熱接着性樹脂に構成フィラメントを浸漬して樹脂を含浸させ、または構成フィラメントに樹脂を塗布し、ついでこの構成フィラメントを引き揃えて、さらに所望によりこれに撚りをかけたり、製紐したりしたのち、熱をかけることにより融着糸とする方法。
(b)繊維状となっている熱接着性樹脂(以下、単に「熱接着性樹脂繊維」という。)を用い、すべての構成フィラメントがこの熱接着性樹脂繊維と接触するように配置して、さらに所望によりこれに撚りをかけたり、製紐したりしたのち、熱をかけることにより融着させる方法。
【0047】
上記の熱接着性樹脂繊維としては、熱接着性樹脂から繊維を作ってもよいし、中心糸に熱接着性樹脂をコーティングした繊維であってもよい。後者の場合、中心糸としては、上述した延伸可能なフィラメントが好適に用いられる。中心糸は、約10〜50μm程度の太さのものを用いるのが好ましい。コーティング方法は、特に問わず自体公知の方法を用いてよいが、例えば、熱接着性樹脂の入ったバスに、中心糸を含浸させ、余剰分をしぼりとって、乾燥させて行うことができる。コーティングにより製造した熱接着性樹脂繊維は、中心糸の約1.3〜3倍の太さを有するものが好ましい。
【0048】
上記の熱接着性樹脂により構成フィラメントを融着させる際の温度は、通常は熱接着性樹脂の融点以上で、かつ構成フィラメントの融点以下の温度、好ましくは約50〜160℃程度、より好ましくは約60〜130℃程度の温度が好適である。
【0049】
上記の構成フィラメントの融着に用いる熱接着性樹脂は、この構成フィラメントの融点よりも低融点であることが好ましい。これらの熱接着性樹脂としては、具体的には、融点が約50〜160℃程度の樹脂、好ましくは融点が約60〜135℃程度の樹脂、特に好ましいくは融点が100℃前後の樹脂である。熱接着性樹脂の融点は、例えば、JIS L 1013「化学フィラメント試験方法」に従った方法にて、パーキンエルマー社製「DSC7」で容易に測定できる。
【0050】
上記の熱接着性樹脂としては、上記の融点を有するものであれば公知のものを用いてよく、具体的には、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂などを用いることができる。中でも、この熱接着性樹脂としては、例えばポリエチレンやポリプロピレン等を主体とするポリオレフィン共重合体からなるポリオレフィン系樹脂であって、約50℃程度の温度による約10秒程度の加熱でも軟化し得る軟質の樹脂が好ましい。また、融点が100℃前後で、溶融時には低粘度であるポリオレフィン系樹脂も好ましい。これらのポリオレフィン系樹脂は、短時間の加熱であっても容易に流動性を示し、速やかに繊維表面のみならず中心まで拡散浸透していくことができるので、優れた接着機能を果たすことができる。
【0051】
熱接着性樹脂と構成フィラメントとの重量割合は1:1〜100程度であることが望ましい。十分な接着力を得る一方で、熱接着性樹脂が本発明に係るテーパー状マルチフィラメント糸条の表面にはみ出し凹凸が生じて滑かさが失わないようにするため、上記範囲が好ましい。
【0052】
本発明のテーパー状マルチフィラメント糸条は、さらにその表面に合成樹脂をコーティングしたものであってもよい。このように合成樹脂で被覆するとテーパー状マルチフィラメント糸条の表面が滑らかになり、また、耐吸水性や耐摩擦性をより向上できる利点がある。
【0053】
上記の被覆に使用する合成樹脂(以下、単に「被覆樹脂」という。)としては、例えば、ポリプロピレン、塩化ビニル、アクリル、ウレタン、ナイロン、ポリエステル、エポキシ、酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニルなどの合成樹脂などが挙げられ、エマルジョン型もしくは溶剤型のいずれでもよい。さらには天然ゴムやSBRなどの合成ゴム系統も用いることができる。中でも、ポリプロピレンを用いるのが好ましい。
【0054】
上記の被覆樹脂には、金属粒子を含有させてもよい。これにより本発明に係るテーパー状マルチフィラメント糸条の比重を任意に設定できる利点がある。この被覆樹脂に含有させる金属粒子の種類・大きさ・含有量は、前述の構成フィラメントに金属粒子を含有させる場合と同様である。
【0055】
上記の合成樹脂で被覆されている本発明に係るテーパー状マルチフィラメント糸条は、複数本のフィラメントを一体化したマルチフィラメント糸条を合成樹脂で被覆したのち、これを延伸・収縮によりテーパー状に形成することによって製造でき、或いは、予め延伸・収縮によりテーパー状に形成されたマルチフィラメント糸条を合成樹脂で被覆することによって製造できる。この場合、予め延伸・収縮によりテーパー状に形成されたマルチフィラメント糸条は、マルチフィラメント糸条を延伸・収縮によりテーパー状に形成したものであってもよく、或いは、構成フィラメントを個別に延伸・収縮によりテーパー状に形成したのち、それらを合わせて一体化したものであってもよい。
なお、上記の被覆樹脂による被覆方法は自体公知の方法を用いてよく、例えば、溶融押出し被覆などが挙げられる。
【0056】
本発明に係るテーパー状マルチフィラメント糸条は着色したものであってもよい。この着色方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、本発明のテーパー状マルチフィラメント糸条を着色剤溶液が入っている浴に室温、例えば約20〜25℃程度の温度下に通過させ、その後、着色剤で被覆された糸を乾燥し、この被覆糸を約100〜130℃程度の温度に保たれた炉に通し、通過させることによって着色されたテーパー状マルチフィラメント糸条を製造できる。
【0057】
上記の着色剤としては、無機顔料、有機顔料または有機染料が知られているが、好適なものとしては、例えば、酸化チタン、カドミウム化合物、カーボンブラック、アゾ化合物、シアニン染料または多環顔料などが挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。
【0059】
[実施例1]
側糸として超高分子量ポリエチレンマルチフィラメント(東洋紡績株式会社製「ダイニーマ(商品名)」、150d/140F)16本を用い、芯糸としてポリオレフィン系熱接着性樹脂繊維(ルクシロン社製「サーモラックスPO105(商品名)」、300d/1F)1本を用いて、これらを製紐機で丸打ちにて原料マルチフィラメント糸条に製紐した。これを170℃に加熱した加熱炉に送り込み、送り込みローラーと巻き取りローラーの速度を調整し、送り込みローラーの供給速度に対して、巻き取りローラーの引取速度の比率を0.5から3になるように直線的に漸増させて延伸・収縮処理を施した。
【0060】
上記の加熱下における延伸・収縮処理において、送り込みローラーの供給速度に対する巻き取りローラーの引取速度の比率が0.5乃至1未満では上記の原料マルチフィラメント糸条が収縮し、上記の速度比率が1を超えると原料マルチフィラメント糸条が延伸されて、全体としてテーパー状のマルチフィラメント糸条が得られた。この得られたテーパー状マルチフィラメント糸条は、全長が7mで、糸条の一端が24号(直径0.81mm)、他端が4号(直径0.33mm)の滑らかなテーパー状を有していた。
【0061】
[実施例2]
超高分子量ポリエチレン未延伸マルチフィラメント(商品名ダイニーマ、東洋紡株式会社製)8本を用いて、丸打ちにて原料マルチフィラメント糸条に製紐した。なお、超高分子量ポリエチレン未延伸マルチフィラメントは、最大延伸倍率で延伸した場合には100dとなる原マルチフィラメントを、最大延伸倍率の25%の延伸倍率で延伸させて得られた400d/96Fのマルチフィラメントを用いた。この原マルチフィラメントで製紐した上記の原料マルチフィラメント糸条を、170℃に加熱した加熱炉に送り込み、送り込みローラーと巻き取りローラーの速度を調整し、送り込みローラーの供給速度に対して、巻き取りローラーの引取速度の比率を0.5から4になるように直線的に漸増させて延伸・収縮処理を施した。
【0062】
上記の加熱下における延伸・収縮処理により、上記の実施例1と同様、送り込みローラーの供給速度に対する巻き取りローラーの引取速度の比率が0.5乃至1未満では上記の原料マルチフィラメント糸条が収縮し、上記の速度比率が1を超えると原料糸条が延伸され、全体としてテーパー状のマルチフィラメント糸条が得られた。この得られたテーパー状マルチフィラメント糸条は、全長が7mで、糸条の一端が32号(直径0.93mm)、他端が4号(直径0.33mm)の滑らかなテーパー状を有していた。
【0063】
[実施例3]
上記の実施例2で用いた超高分子量ポリエチレン未延伸マルチフィラメントを170℃に加熱した加熱炉に送り込み、送り込みローラーと巻き取りローラーの速度を調整し、送り込みローラーの供給速度に対して、巻き取りローラーの引取速度の比率を0.5から5になるように直線的に漸増させて延伸・収縮処理を施した。これにより上記の未延伸マルチフィラメントは、全体として滑らかなテーパー状マルチフィラメントとなった。次に、この得られたテーパー状マルチフィラメントを8本用いて、丸打ちにて製紐した。得られたテーパー状マルチフィラメント糸条は、全長が7mで、糸条の一端が32号(直径0.93mm)、他端が3号(直径0.29mm)の滑らかなテーパー状を有していた。
【0064】
上記の各実施形態で説明したテーパー状マルチフィラメント糸条とその製造方法は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、マルチフィラメントの形状や構造、材質、複合構造、延伸倍率や収縮比率、処理温度などを、これらの実施形態のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0065】
例えば上記の実施例ではいずれも製紐した糸条について説明したが、本発明のマルチフィラメント糸条はマルチフィラメントを撚り合わせたものや、熱接着性樹脂で融着させたものであってもよい。また、上記の延伸処理と収縮処理は、マルチフィラメントの任意の部位に施すことができ、その処理順序も収縮処理に引き続いて延伸処理を施してもよく、逆に延伸処理に引き続いて収縮処理を施してもよい。さらに、フィラメントの材質や繊度は、上記の実施例のものに限定されないことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、フィラメントの切断部分がなく平滑性に優れるうえ、最も細い部位での太さに対し最も太い部位での太さの比率を容易に大きくすることができるので、フライフィッシング用のフライラインやフライ用リーダー糸、投げ釣り用釣糸、キャスティングラインのちから糸、テンカラ釣りに使用される釣糸などに特に好適に使用されるが、他の用途にも好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給速度に対する引取速度を変化させてテーパー状に形成された複数本のフィラメントからなる、テーパー状マルチフィラメント糸条であって、
このフィラメントの長手方向の一部において、加熱下でフィラメントを供給速度よりも早い引取速度で引き取ることによりその部位を延伸させて太さを小さくするとともに、
このフィラメントの長手方向の他の一部において、加熱下でのフィラメントを供給速度よりも遅い引取速度で引き取ることによりこの部位を収縮させて太さを大きくしたことを特徴とする、テーパー状マルチフィラメント糸条。
【請求項2】
テーパー状に形成されたフィラメントが、超高分子量ポリエチレンフィラメントである請求項1に記載のテーパー状マルチフィラメント糸条。
【請求項3】
合成樹脂で被覆されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のテーパー状マルチフィラメント糸条。
【請求項4】
上記の合成樹脂に金属粒子が含有されていることを特徴とする、請求項3に記載のテーパー状マルチフィラメント糸条。
【請求項5】
上記のフィラメントに金属粒子が含有されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のテーパー状マルチフィラメント糸条。
【請求項6】
上記の収縮させた部位におけるフィラメントの繊度が、未収縮フィラメントの繊度の2倍以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載のテーパー状マルチフィラメント糸条。

【公開番号】特開2012−7288(P2012−7288A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216245(P2011−216245)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【分割の表示】特願2007−554848(P2007−554848)の分割
【原出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000246479)有限会社よつあみ (9)
【Fターム(参考)】