説明

テーブルローラの亀裂診断装置及び方法

【課題】テーブルローラに発生する亀裂を非破壊かつ非開放で効率よく診断することができるテーブルローラの亀裂診断装置及び方法を提供する。
【解決手段】テーブルローラネック部の亀裂診断装置は、テーブルローラ表面に超音波振動を与える超音波振動発生装置(超音波振動子8、超音波ホーン7)と、超音波振動発生装置をテーブルローラローラ部4に固定する固定装置(固定冶具12、電磁石固定部、電磁石14)と、テーブルローラネック部5表面に発生する温度変化を赤外線サーモグラフィで計測する表面温度検出手段(アルミ製の反射板17、赤外線カメラ15、演算処理装置16)から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くはローラに発生する亀裂を診断する亀裂診断装置及び方法に関するものであり、特に、テーブルローラに発生する亀裂に対して超音波振動を与えた場合に発生する亀裂の温度変動を赤外線サーモグラフィで検出する亀裂診断装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、製鉄プラントにおける圧延ラインでは、鋼板を搬送するためにテーブルローラが多数備えられている。これらのテーブルローラには、運転中に鋼板の衝突により多大なる荷重がかかり、両端ネック部において表面腐食を起点とする亀裂が発生する。これらの亀裂は長期間の使用により進展し、テーブルローラの破断を引き起こす。
【0003】
これに対して、従来、テーブルローラネック部の亀裂を診断する手段としては、磁粉探傷、浸透探傷、および赤外線法等が広く用いられている。
【0004】
その内、磁粉探傷や浸透探傷は、亀裂の位置を磁粉や浸透剤によって可視化することはできるが、亀裂診断精度は高くはなく、検査に長時間を要する。また、磁粉探傷や浸透探傷では、表面のグリスや汚れ・錆が擬似欠陥模様となるため、サンダー掛け、グリス洗浄等の表面処理を施し、処理後に検査を行う必要があるが、例えば、圧延ラインのテーブルローラでは、通常、図1に示すように、テーブルローラローラ部1に続くテーブルローラネック部2に、冷却水からテーブルローラネック部2を保護するための鋼鉄製の保護カバー3がかけられていることから、上記の表面処理を行うためには、保護カバー3を取り外す必要がある。しかし、保護カバー3の多くはボルト締結部のグリス溶着などの要因により取り外しが困難な場合が多く、ラインの検査時間増加要因となっている。また、機械構造上、保護カバー3の取り外し自体が不可能であり、検査不可能な箇所も存在し、そのために、非常に検査効率が悪くなっている。
【0005】
一方、赤外線法は、何らかの入力を亀裂に与えた場合に発生する亀裂発熱を、赤外線サーモグラフィ機器で計測する手法であるが、被計測物に対して外部熱源による加熱を行い、赤外線カメラで計測された加熱の前後画像の差分を計算することにより欠陥を検出する手法が行われている(例えば、特許文献1)。
【0006】
また、被計測物に対してマイクロ波を照射し、表面に現れる温度差より亀裂を検出する方法もある(例えば、特許文献2)。
【0007】
また、被計測物に対して、パルス状の電流を付加し、亀裂を回折する電流によって発熱する熱を赤外線サーモグラフィで計測し、高温部として亀裂を検出する手法がある(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−37201号公報
【特許文献2】特開2005−249536号公報
【特許文献3】特開平03−154857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載されている赤外線法は、亀裂が閉じている閉亀裂の場合、亀裂接触面を熱が通過してしまい、断熱作用が発生しないので、亀裂部と健全部での温度差はほとんど発生しない。検査対象であるテーブルローラの亀裂は、主に繰り返し荷重による疲労亀裂であり、これは、閉亀裂であるため本手法を適用することができないという問題点がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の手法は、放電が発生するため、金属に対して適用することができない。そのため、鋼構造物に対して使用することが出来ない。また、マイクロ波の周波数は、工場の大型構造物をコントローラする無線の周波数と近いため、誤作動を引き起こす可能性があるという問題点を持つ。
【0011】
また、特許文献3に記載の手法は、亀裂が閉じている閉亀裂の場合、亀裂接触面を電流が通過してしまい、ほとんど熱が発生しないので、亀裂が開口している必要がある。検査対象であるテーブルローラの亀裂は、主に繰り返し荷重による疲労亀裂であり、これは閉亀裂であるため、本手法を適用することができないという問題点がある。また、電流を流した際、亀裂発熱を発生させる大きさの電流範囲が非常に狭いため、検査効率が悪いという問題点もある。
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、テーブルローラに発生する亀裂を非破壊かつ非開放で効率よく診断することができるテーブルローラの亀裂診断装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0014】
[1]テーブルローラに発生する亀裂を非破壊かつ非開放で診断する亀裂診断装置であって、テーブルローラ表面に接触させることにより超音波振動を与える超音波振動発生装置と、該超音波振動発生装置を磁石でテーブルローラに固定する固定装置と、テーブルローラ表面に発生する温度変化を反射板を介して赤外線サーモグラフィで計測する表面温度検出手段とを備えていることを特徴とするテーブルローラの亀裂診断装置。
【0015】
[2]前記超音波振動発生装置は、超音波を発生させる超音波振動子と、超音波振幅を増幅する超音波ホーンとを備え、前記超音波ホーンを油圧、もしくは空圧、もしくはネジ締結力によってテーブルローラ表面に接触させることにより超音波振動を与えることを特徴とする前記[1]に記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【0016】
[3]前記反射板は、アルミニウムまたは銀で作られていることを特徴とする前記[1]または[2]に記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【0017】
[4]前記超音波ホーンは、金属片であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【0018】
[5]前記固定装置は、前記超音波振動発生装置をテーブルローラ表面に任意の力で接触させる機構を有することを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【0019】
[6]前記磁石は、テーブルローラの径に合わせてテーブルローラに対する固定角度を変更できることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【0020】
[7]前記磁石は、電磁石または永久磁石であり、電流または磁力線の向きを制御することによって着脱が可能であることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【0021】
[8]テーブルローラに発生する亀裂を非破壊かつ非開放で診断する亀裂診断方法であって、超音波振動発生装置を磁石でテーブルローラに固定する工程と、前記超音波振動発生装置をテーブルローラ表面に接触させることにより超音波振動を与える工程と、テーブルローラ表面に発生する温度変化を反射板を介して赤外線サーモグラフィで計測する工程とを備えていることを特徴とするテーブルローラの亀裂診断方法。
【0022】
[9]前記超音波振動発生装置は、超音波を発生させる超音波振動子と、超音波振幅を増幅する超音波ホーンとを備え、前記超音波ホーンを油圧、もしくは空圧、もしくはネジ締結力によってテーブルローラ表面に接触させることにより超音波振動を与えることを特徴とする前記[8]に記載のテーブルローラの亀裂診断方法。
【0023】
[10]前記磁石は、テーブルローラの径に合わせてテーブルローラに対する固定角度を変更できることを特徴とする前記[8]または[9]に記載のテーブルローラの亀裂診断方法。
【0024】
[11]前記磁石は、電磁石または永久磁石であり、電流または磁力線の向きを制御することによって着脱が可能であることを特徴とする前記[8]〜[10]のいずれかに記載のテーブルローラの亀裂診断方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明においては、テーブルローラに発生する亀裂を非破壊かつ非開放で効率よく診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】テーブルローラを示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態における側面図である。
【図3】本発明の一実施形態における正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、ここでは、圧延ラインのテーブルローラ(特に、テーブルローラネック部)を診断対象としている。
【0028】
図2は本発明の一実施形態における側面図であり、図3は本発明の一実施形態における正面図である。図2、図3において、4はテーブルローラローラ部、5はテーブルローラネック部、6は冷却水からテーブルローラネック部5を保護するための鋼鉄製の保護カバー、18は電動機である。一般的に、鉄鋼製品の圧延ラインでは、電動機18からの出力でテーブルローラを回転させて、鋼材を運搬する。
【0029】
そして、この実施形態においては、テーブルローラローラ部4には、超音波振動子8が固定冶具12にスライダー11を介して設置されており、超音波振動子8はスライダー11上を上下方向に移動することが可能である。また、超音波振動子8は、超音波ホーン7を介してテーブルローラローラ部4に接触している。
【0030】
ここで、前記超音波ホーン7としては、診断対象物との接触部界面での超音波の反射を防ぐために、診断対象物であるテーブルローラと同じ材質のもの、或いは、音響インピーダンスがテーブルローラと同程度の材質のものを用いることが好ましい。さらに、形状としては、超音波振動の振幅の腹が診断対象物との接触部になるような形状のものを用いることが好ましい。
超音波振動子8で発生した超音波振動は超音波ホーン7で増幅され、超音波ホーン7をテーブルローラローラ部4に接触させることにより、超音波振動を入射する。また、超音波振動子8の上部には、油圧ジャッキ9とロードセル10が設置されている。油圧ジャッキ9で加圧することにより、超音波ホーン7とテーブルローラローラ部4との接触圧力を変えることが可能である。また、押し付け過多による機材破損を防ぐため、押し付け力はロードセル10によりモニタリングされている。なお、油圧ジャッキ9は、空圧もしくはネジ締結力に替えてもよい。
【0031】
ここで、前記空圧を用いる場合としては、例えば、エアジャッキ等を用いることができる。また、前記ネジ締結力を用いる場合、ネジの締結トルクは、ネジ先端の摩擦力に比例し、ネジ先端の摩擦力はネジ先端の接触圧に比例することから、ネジの締結トルクを、トルクレンチを用いて計測することにより、ネジの接触圧を推定することが可能である。
【0032】
また、固定冶具12は磁石14によってテーブルローラローラ部4に固定されている。磁石14は、磁石固定部13によって固定冶具12に連結されている。この磁石固定部13は固定ピンを中心軸にして周方向に回転可能であり、磁石固定部13の角度を変えることにより、磁石14をテーブルローラローラ部4の円弧の接線で接し、吸着力が最大になるように調整することができる。
【0033】
ここで、前記磁石14としては電磁石または永久磁石を用いることができる。電磁石を用いる場合、電磁石に供給する電流値を制御して、例えば、電流値を小さくし、或いは遮断して磁力を弱めることで、固定冶具12をテーブルローラローラ部4から容易に取り外しが可能である。また、永久磁石を用いる場合、永久磁石をテーブルローラローラ部4の磁力線の向きを機械的に変更することで作用する磁力を弱めて、固定冶具12をテーブルローラローラ部4から容易に取り外しが可能である。
【0034】
また、反射板17としては、診断対象であるテーブルローラネック部5から放射される赤外線を、テーブルローラ上方に設置された赤外線カメラ15の方向に反射させるための、例えば、アルミ板、または、銀板等の金属製の板を用いることができ、テーブルローラ下部に設置されている。この反射板17は、赤外線を高効率に反射させるために表面が鏡面加工されていることが望ましい。
【0035】
そして、反射板17を介して赤外線カメラ15で計測されたテーブルローラネック部5の表面温度分布は、演算処理装置16に保存されて解析される。
【0036】
このように、この実施形態におけるテーブルローラネック部の亀裂診断装置は、テーブルローラ表面に超音波振動を与える超音波振動発生装置(超音波振動子8、超音波ホーン7)と、超音波振動発生装置をテーブルローラローラ部4に固定する固定装置(固定冶具12、電磁石固定部13、電磁石14)と、テーブルローラネック部5表面に発生する温度変化を赤外線サーモグラフィで計測する表面温度検出手段(アルミ製の反射板17、赤外線カメラ15、演算処理装置16)から構成されている。
【0037】
これによって、この実施形態においては、超音波ホーン7をテーブルローラローラ部4表面に接触させる機構を有するので、テーブルローラローラ部4表面に超音波ホーン7を接触させることにより、テーブルローラローラ部4表面に超音波を入射させて、テーブルローラネック部5表面に超音波振動を与えることが可能となった。
【0038】
そして、反射板17を取付けたことにより、テーブルローラ上方から保護カバー6に覆われていないテーブルローラネック部5下面の計測が可能となり、保護カバー6を取り外さない非開放検査が可能となった。
【0039】
このようにして、この実施形態においては、テーブルローラネック部5に発生する亀裂を非破壊かつ非開放で効率よく診断することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 テーブルローラローラ部
2 テーブルローラネック部
3 保護カバー
4 テーブルローラローラ部
5 テーブルローラネック部
6 保護カバー
7 超音波ホーン
8 超音波振動子
9 油圧ジャッキ
10 ロードセル
11 スライダー
12 固定冶具
13 磁石固定部
14 磁石
15 赤外線カメラ
16 演算処理装置
17 反射板
18 電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブルローラに発生する亀裂を非破壊かつ非開放で診断する亀裂診断装置であって、テーブルローラ表面に接触させることにより超音波振動を与える超音波振動発生装置と、該超音波振動発生装置を磁石でテーブルローラに固定する固定装置と、テーブルローラ表面に発生する温度変化を反射板を介して赤外線サーモグラフィで計測する表面温度検出手段とを備えていることを特徴とするテーブルローラの亀裂診断装置。
【請求項2】
前記超音波振動発生装置は、超音波を発生させる超音波振動子と、超音波振幅を増幅する超音波ホーンとを備え、前記超音波ホーンを油圧、もしくは空圧、もしくはネジ締結力によってテーブルローラ表面に接触させることにより超音波振動を与えることを特徴とする請求項1に記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【請求項3】
前記反射板は、アルミニウムまたは銀で作られていることを特徴とする請求項1または2に記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【請求項4】
前記超音波ホーンは、金属片であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【請求項5】
前記固定装置は、前記超音波振動発生装置をテーブルローラ表面に任意の力で接触させる機構を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【請求項6】
前記磁石は、テーブルローラの径に合わせてテーブルローラに対する固定角度を変更できることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【請求項7】
前記磁石は、電磁石または永久磁石であり、電流または磁力線の向きを制御することによって着脱が可能であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のテーブルローラの亀裂診断装置。
【請求項8】
テーブルローラに発生する亀裂を非破壊かつ非開放で診断する亀裂診断方法であって、超音波振動発生装置を磁石でテーブルローラに固定する工程と、前記超音波振動発生装置をテーブルローラ表面に接触させることにより超音波振動を与える工程と、テーブルローラ表面に発生する温度変化を反射板を介して赤外線サーモグラフィで計測する工程とを備えていることを特徴とするテーブルローラの亀裂診断方法。
【請求項9】
前記超音波振動発生装置は、超音波を発生させる超音波振動子と、超音波振幅を増幅する超音波ホーンとを備え、前記超音波ホーンを油圧、もしくは空圧、もしくはネジ締結力によってテーブルローラ表面に接触させることにより超音波振動を与えることを特徴とする請求項8に記載のテーブルローラの亀裂診断方法。
【請求項10】
前記磁石は、テーブルローラの径に合わせてテーブルローラに対する固定角度を変更できることを特徴とする請求項8または9に記載のテーブルローラの亀裂診断方法。
【請求項11】
前記磁石は、電磁石または永久磁石であり、電流または磁力線の向きを制御することによって着脱が可能であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のテーブルローラの亀裂診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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