説明

テープ形状多芯超電導線

【課題】交流損失の発生が充分に抑制されたテープ形状多芯超電導線を提供する。
【解決手段】金属シース内に複数本の超電導フィラメントを配置して構成されているテープ形状多芯超電導線であって、金属シース内の中央部に高抵抗材料または絶縁材料よりなる結合電流抑制層が配置されており、結合電流抑制層の周囲に、各々が金属で保護された複数本の超電導フィラメントが配置されているテープ形状多芯超電導線。結合電流抑制層は幅方向に偏平な形状であり、超電導フィラメントにツイストが施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープ形状多芯超電導線に関し、特に、交流損失の発生を低減するテープ形状多芯超電導線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Bi−2223銀シーステープ線材等のテープ形状多芯超電導線は、液体窒素温度での使用が可能であり、比較的高い臨界電流密度が得られること、また、長尺化が比較的容易であること等から、超電導コイルやケーブル等への開発が盛んに行われている。
【0003】
上記のテープ形状多芯超電導線では、直流電流を通電する場合には損失が問題にならないが、テープ面に垂直に交流磁場が印加されると、誘導によってフィラメント間に結合電流が流れて、大きな交流損失、具体的には、超電導体内部に侵入する磁界に起因するヒステリシス損失、金属マトリクスを介して発生する結合電流(誘導電流)に起因する結合損失(いわゆるジュール損)、渦電流損失等が発生するという問題がある。
【0004】
この交流損失を低減させる方法として、フィラメントにツイストを施すことが提案されている(特許文献1)。この場合、テープ面に平行な交流磁場、あるいは周波数の低い交流磁界においては、錯交磁束が小さくなることにより誘導起電力が抑制されるため、結合電流の発生が抑制され、交流損失が低減される。しかし、例えば、商用周波数の垂直磁界下では、ツイストを施してもなお誘導起電力が大きいため、交流損失が殆ど低減されないという問題があった。
【0005】
また、フィラメント毎に、フィラメントの周りに高抵抗あるいは絶縁性のバリア層を配置して、単芯線毎に絶縁する構造も提案されている(特許文献2)。しかし、この構造には、以下に示すような欠点があるため、実用化には至っていない。
【0006】
即ち、超電導体の反応生成プロセスにおいて、線材内部と外部雰囲気とを行き来する酸素の通過がバリア層により妨げられるため、均質で高純度の超電導体を形成することが困難となり、臨界電流密度が著しく低下する。
【0007】
また、バリア層として絶縁性セラミックス等を用いた場合、これらは加工性が悪いため、金属シースを破損して部分的に金属シースの短絡を発生させる。この結果、フィラメントとセラミックスとが近接して反応することにより、超電導体の組成にバラツキが生じ、充分に高抵抗化の効果を発揮させることが困難であった。
【0008】
さらに、単芯線毎にバリア層を設ける加工は面倒であり、生産性の低下を招く恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−229750号公報
【特許文献2】特開2008−186775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来の技術における問題に鑑み、交流損失の発生が充分に抑制されたテープ形状多芯超電導線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に記載の各発明により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。以下、各請求毎に説明する。
【0012】
請求項1に記載の発明は、
金属シース内に複数本の超電導フィラメントを配置して構成されているテープ形状多芯超電導線であって、
前記金属シース内の中央部に高抵抗材料または絶縁材料よりなる結合電流抑制層が配置されており、
前記結合電流抑制層の周囲に、各々が金属で保護された前記複数本の超電導フィラメントが配置されていることを特徴とするテープ形状多芯超電導線である。
【0013】
本発明者は、テープ形状多芯超電導線における結合電流の流れにつき、通常の断面形状が円形の多芯超電導線と同様に、結合電流の大半が、内部の層を貫いて幅方向に垂直に流れること、また、この幅方向に垂直に流れる結合電流の発生を抑制した場合、結合損失の低減に大きな効果があることを確認した。
【0014】
そして、本請求項の発明においては、結合損失の低減に大きな効果がある線材の中央部に、高抵抗材料や絶縁材料よりなる結合電流抑制層を配置している。このため、線材中央部での結合電流の発生を抑制することができ、結合損失を充分に低減させることができる。
【0015】
そして、本請求項の発明においては、各超電導フィラメントの周りには、金属シース以外にバリア層が配置されていないため、超電導体の反応生成プロセスにおいて線材内部と外部雰囲気とを行き来する酸素の通過が妨げられることがなく、高い臨界電流密度を得ることができる。また、各超電導フィラメントの周りにバリア層を設ける必要がないため、生産性の低下を招く恐れもない。
【0016】
また、本請求項の発明において、結合電流抑制層は、例えば、銀等の金属パイプに高抵抗材料や絶縁材料が充填された形で供給できるため、前記した各超電導フィラメントの周りにバリア層を設ける加工に比べ、加工が容易で欠陥も生じない。このため、設計通りに結合電流の発生を抑制することができる。
【0017】
なお、隣接する超電導フィラメント間においても若干の結合電流は発生するが、結合電流抑制層の周囲が長いため、抵抗が大きくなり、結合損失の発生に関しては実質的に無視することができる。
【0018】
結合電流抑制層を構成する高抵抗材料としては、銀の抵抗に比べて2桁以上抵抗が大きな材料が好ましく、ステンレス鋼、キプロニッケル(銅ニッケル合金)、ハステロイ等を挙げることができる。
【0019】
また、絶縁材料としては、所謂絶縁セラミックスが好ましく、具体的には、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、ジルコニウム酸バリウム(バリウムに換えて、ストロンチウム、銅も可)、酸化マグネシウム等、耐熱性に優れたセラミックスを挙げることができる。
【0020】
なお、テープ形状多芯超電導線の製造に際して、結合電流抑制層は複数に分割されていてもよい。また、結合電流抑制層の周囲に配置される超電導フィラメントは、2層以上に配置されてもよい。
【0021】
請求項2に記載の発明は、
前記結合電流抑制層が、幅方向に偏平な形状であることを特徴とする請求項1に記載のテープ形状多芯超電導線である。
【0022】
本発明に係る超電導線はテープ形状であるため、幅方向に偏平な形状の結合電流抑制層を金属シース内の中央部に配置することにより、超電導フィラメント間を垂直に流れる結合電流を、より一層確実に抑制することができ、結合損失を充分に低減することができる。なお、結合電流抑制層の幅や厚さは、超電導線のサイズや超電導フィラメントのサイズや本数等を勘案して適宜決定することができる。
【0023】
請求項3に記載の発明は、
前記超電導フィラメントにツイストが施されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のテープ形状多芯超電導線である。
【0024】
前記した通り、フィラメントにツイストを施すことにより、錯交磁束が小さくなるため、誘導起電力を抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、交流損失の発生が充分に抑制されたテープ形状多芯超電導線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態のテープ形状多芯超電導線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施の形態のテープ形状多芯超電導線を模式的に示す断面図である。
【0029】
図1に示すように、テープ形状多芯超電導線1は、金属シース4内に、幅方向に偏平な形状の結合電流抑制層2を配置し、結合電流抑制層2の周囲に複数本の超電導フィラメント3を配置し、これにより、厚み方向において隣接する超電導フィラメント3の間に結合電流抑制層2が介在するように構成されている。
【0030】
結合電流抑制層2の周囲および各超電導フィラメントの周囲は、金属シース4で保護されている。超電導フィラメント3は、線材の長手方向に沿って螺旋状に撚られている(ツイスト)。
【0031】
結合電流抑制層2の材料は、上記の通り、高抵抗材料や、絶縁材料が用いられ、金属シース内に充填されている。
【0032】
超電導フィラメント3の超電導材料としては、例えば、Bi系酸化物超電導体(Bi,Sr,Cu,Ba,Oを構成元素とする、いわゆるBi2223相、Bi2212相、Bi2201相等)が用いられる。
【0033】
金属シース4の材質としては、Ag、Ag合金などが用いられる。Ag合金としては、Ag−Au合金、Ag−Mg合金、Ag−Sb合金、Ag−Mn合金が用いられる。
【実施例】
【0034】
(1)実施例の作製
イ.単芯線の作製
Bi23、PbO、SrCO3、CaCO3およびCuOを用いて、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.7:0.3:1.9:2.0:3.0の組成比になるように配合し、得られた原料粉末を、780℃で8時間の熱処理を施した後、外径46mm、内径43mmの銀製シース中に充填し、2.27mm×1.45mmまで伸線加工し、単芯線を作製した。
【0035】
ロ.結合電流抑制層用の芯線の作製
炭酸ストロンチウムの粉末を、外径12mm、内径10mmの銀製シース中に充填し、直径6.5mmまで伸線加工し、結合電流抑制層用の芯線を作製した。
【0036】
ハ.多芯線の作製
12本の単芯線および1本の結合電流抑制層用の芯線を、結合電流抑制層用の芯線を中心にして、その周りに単芯線を配置した状態で、外径12mm、内径10mmの銀製シースに挿入し、直径1.0mmになるまで伸線加工して多芯線を作製した。その後、多芯線をツイスト加工した。
【0037】
ニ.テープ形状多芯超電導線の作製
次に、多芯線に1回目の圧延加工を施した後、835℃で10時間の熱処理を施し、さらに、2回目の圧延加工した後、835℃で50時間の熱処理を施した。これにより、幅方向に扁平な結合電流抑制層の周囲に沿って12本の超電導フィラメントが配置された、表1に示すテープ形状多芯超電導線を作製した。
【0038】
(2)比較例の作製
イ.多芯線の作製
実施例と同様にして単芯線を作製した。次に、19本の単芯線を、外径12mm、内径10mmの銀シース内に挿入し3層構造にした。すなわち、1層目となる1本の単芯線を銀シースの中心に配置、この単芯線の周りに2層目となる6本の単芯線を配置し、さらにその周りに3層目となる12本の単芯線を配置し、これを直径1.0mmになるまで伸線加工して多芯線を作製した。その後、多芯線をツイスト加工した。
【0039】
ロ.テープ状酸化物超電導線材の作製
次に、多芯線に1回目の圧延加工を施した後、835℃で10時間の熱処理を施し、さらに、2回目の圧延加工を施した後、835℃で50時間の熱処理を施した。これにより、幅方向に扁平な結合電流抑制層の周囲に沿って19本の超電導フィラメントが配置された、表1に示すテープ形状多芯超電導線を作製した。
【0040】
(3)テープ形状多芯超電導線の試験
77Kにおける臨界電流Icおよび臨界電流密度Jcと、±0.1T、周波数10Hzの交流通電時における結合損失密度、ヒステリシス損失密度および全損失密度を測定した。
【0041】
測定結果を表1に示した。また、結合損失密度と規格化全損失について、比較例を1とした場合の値を表1中の同欄に括弧書で示した。なお、臨界電流密度Jcは、銀製シースおよび結合電流抑制層を含んだ値であり、全損失密度は、損失ロスの絶対値であり、また、規格化全損失は、単位長さあたりの全損失をIc(at s.f. 77k)で規格化したものである。
【0042】
【表1】

【0043】
(4)試験結果の評価
結合損失密度は、比較例を1とした場合に、実施例は0.09となり、10分の1以下に低減した。また、規格化全損失は、比較例を1とした場合に、実施例は0.33となり3分の1以下に低減した。これにより、結合電流抑制層は、結合損失の低減に大きな効果があることが分かった。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 テープ形状多芯超電導線
2 結合電流抑制層
3 超電導フィラメント
4 金属シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シース内に複数本の超電導フィラメントを配置して構成されているテープ形状多芯超電導線であって、
前記金属シース内の中央部に高抵抗材料または絶縁材料よりなる結合電流抑制層が配置されており、
前記結合電流抑制層の周囲に、各々が金属で保護された前記複数本の超電導フィラメントが配置されていることを特徴とするテープ形状多芯超電導線。
【請求項2】
前記結合電流抑制層が、幅方向に偏平な形状であることを特徴とする請求項1に記載のテープ形状多芯超電導線。
【請求項3】
前記超電導フィラメントにツイストが施されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のテープ形状多芯超電導線。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−249113(P2011−249113A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120533(P2010−120533)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】