説明

テープ状酸化物超電導体

【課題】金属基板を構成する元素の超電導層への拡散や中間層のクラックの発生を防止し、かつ超電導層の配向性を向上させる。
【解決手段】半値幅(FWHM:Δφ)6.5度のNi基合金基板1上に、第1中間層として膜厚15〜100nmのCe−Gd−O系酸化物層2(Ce:Gd=40:60〜70:30のモル比)及び第2中間層として膜厚100nmのCe−Zr−O系酸化物層3(Ce:Zr=50:50のモル比)をMOD法により形成し、さらにその上にRFスパッタ法により第3中間層としてCeO酸化物層4を膜厚150nmに成膜した。この3層構造の中間層の上に、YBCO超電導層5をTFA−MOD法により膜厚は1μmに成膜した。
以上のテープ状酸化物超電導体の第1乃至第3中間層のΔφは、それぞれ(6.0〜6.5)度、(6.0〜6.6)度及び(6.0〜6.6)度、YBCO超電導層5の液体窒素中におけるJcは1.8〜2.2MA/cmの値を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電ケーブルや電力貯蔵システムのような電力機器及びモーター、変圧器などの電力応用製品への使用に適した酸化物超電導体に係り、特に前駆体膜を加熱、焼成することによって金属基板上にセラミックス薄層を形成する成膜方法、即ち、有機金属塩塗布熱分解(MOD)法に適したテープ状酸化物超電導体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体は、従来のNbSn系等の合金系超電導体と比較して臨界温度(Tc)が高く、送電ケーブルや変圧器、モータ、電力貯蔵システムといった応用機器を液体窒素温度で運用できることから、その線材化の研究が精力的に行われている。なかでもREBaCu7−y(ここでREは、Y、Gd、Sm、Nd、Ho、Dy、Eu、Tb、Er、Ybから選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を示す。以下REBCOと称する。)酸化物超電導体は、高磁場領域における通電電流の減衰が小さく、即ち、液体窒素温度における磁場特性が、Bi系超電導体に比べて優れているため、実用的な高い臨界電流密度(Jc)を維持することが可能であり、高温領域での優れた特性に加えて、貴金属である銀を使用しない製法が可能であること及び冷媒に液体窒素を使用できることから冷却効率が著しく向上するため、経済的に極めて有利であり、次世代の超電導材料としてその線材化が期待されている。
【0003】
REBCO酸化物超電導線材は、一般に金属基板上に2軸配向した酸化物層を少なくとも1層、若しくは複数層形成し、その上に酸化物超電導層を、更に超電導層の表面保護と電気的接触の向上及び過通電時の保護回路としての役割を担う安定化層を積層した構造を有する。この場合、REBCO線材の臨界電流特性は超電導層の面内配向性に依存し、下地となる中間層及び配向金属基板の面内配向性と表面平滑性の影響を大きく受けることが知られている。
【0004】
REBCO酸化物超電導体の結晶系は斜方晶であり、x軸、y軸、z軸の3辺の長さが異なり、単位胞の三辺間の角度もそれぞれ微妙に異なるために双晶を形成し易く、僅かな方位のずれが双晶粒界を発生させ通電特性を低下させるため、通電状態において材料の特性を発揮させるためには、結晶内のCuO面を揃えるだけでなく、面内の結晶方位をも揃えることが要求されることからBi系酸化物超電導体と比較してその線材化に困難が伴う。
【0005】
REBCO酸化物超電導体の結晶の面内配向性を高め、かつ面内の方位を揃えながら線材化する製法は、薄膜の製法と規を同一にしている。即ち、テープ状金属基板の上に面内配向度と方位を向上させた中間層を形成し、この中間層の結晶格子をテンプレートとして用いることによって、REBCO酸化物超電導層の結晶の面内配向度と方位を向上させるものである。
【0006】
REBCO酸化物超電導体は、現在、さまざまな製造プロセスで検討が行われており、テープ状金属基板の上に面内配向した中間層を形成した種々の2軸配向複合基板が知られている。
【0007】
この内、現在、最も高い臨界電流特性を示すプロセスは、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)基板を用いた方法である。この方法は、多結晶の非磁性で高強度のテープ状Ni系基板(ハステロイ等)上に、このNi系基板の法線に対して一定の角度方向からイオンを照射しながら、ターゲットから発生した粒子をレーザー蒸着(PLD)法で堆積させて、結晶粒径が細かく高配向性を有し、超電導体を構成する元素との反応を抑制する中間層(CeO、Y、YSZ等)
または2層構造の中間層(YSZまたはRxZr/CeOまたはY等:Rxは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Ho、Tm、Dy、Ce、La又はErを示す。)を形成し、その上にCeOをPLD法で成膜した後、さらにYBaCu7−y(以下、YBCOと称する。)層をPLD法又はCVD法で成膜した超電導線材である(例えば、特許文献1乃至3参照。)。
【0008】
しかし、このプロセスは、全ての中間層が気相法による真空プロセスで形成されるため、緻密で平滑な中間層膜を得ることができるという利点を有するが、製造速度が遅く、また製造コストが上昇する等の問題点があり、このIBAD法の他にもいくつかの気相法を用いた成膜プロセスが検討されているが、製造速度及び製造コストの問題を解決する有効な手段は報告されていない。
【0009】
低コストを実現するために最も有効なプロセスは、有機酸塩あるいは有機金属化合物を原料として用い、この溶液を基板表面に塗布後、熱分解及び結晶化熱処理を施すことによって酸化物層を形成するMODプロセスである。このプロセスは簡便であるが、高温で長時間の熱処理を必要とするため、熱分解時の膜の体積収縮に起因するクラックの発生、粒成長の不完全さによる反応不均一性、基板を構成する金属元素の結晶粒界を介した拡散等による結晶性の低下により、中間層としての機能を十分に有する膜を得ることには困難が伴う。
【0010】
一般に超電導体の中間層として、特にYBCOの場合、上記のようにPVD法により形成されたCeOが用いられているが、これは、CeO中間層がYBCO層との格子整合性及び耐酸化性に優れ、かつYBCO層との反応性が小さいため最も優れた中間層の一つとして知られていることによる。このCeO中間層をMOD法により形成すると、基板金属との熱膨張率との大きな差に起因してクラックが発生し、中間層としての機能を果たすことが不可能となる。CeOにGdを添加した固溶体をMOD法でNi基板上に成膜すると、熱膨張率の差を緩和することができることにより、クラックの発生は抑えられるが、NiあるいはNi合金基板からの元素拡散を中間層内部で止めることができず、超電導特性を低下させるという問題があった。
【0011】
この基板を構成する元素の拡散を防止するために、CeOの一部をZrに置換した中間層材料(CeZr)の検討が行われており、例えば、基板上に、2軸配向した無機材料の中間層を1層または複数層形成し、この上に酸化物超電導層を設けた酸化物超電導体において、前記基板上に、Ce、Gd又はSmから選択された1種類の元素とZrを含む中間層を設けることにより、基板を構成する金属元素の超電導層への拡散を防止する効果が認められ、Jc>1MA/cmの特性が得られている(特願2005−306696号及び特願2005−360788号参照)。
【0012】
【特許文献1】特開平4−329867号公報
【特許文献2】特開平4−331795号公報
【特許文献3】特開2002−203439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上述べたように、CeOの一部をZrに置換した材料(CeZr)により中間層を形成した場合には、金属基板を構成する元素の超電導層への拡散を防止する効果が認められるが、Zrを含む酸化物層を金属基板の上に直接設けると、金属基板よりもその配向性が1〜3度低下し、従って、超電導層の配向性もこれに依存して低下するため、超電導特性の向上が期待できないという問題があった。即ち、この系ではJcを向上させるのに重要な因子である中間層及び酸化物超電導層の面内配向性を基板と同等にすることが困難であり、それによって超電導層のJc向上が阻害される結果となっていた。
【0014】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、金属基板を構成する元素の超電導層への拡散や基板金属との熱膨張率との差に起因するクラックの発生を防止し、かつ超電導層の配向性を向上させることにより超電導特性に優れたテープ状酸化物超電導体を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のテープ状酸化物超電導体は、以上の問題を解決するためになされたもので、2軸配向した金属基板上に、中間層及び酸化物超電導層を順次設けたテープ状酸化物超電導体において、中間層を、金属基板上に形成されたテンプレート機能を有する酸化物からなる第1中間層、第1中間層の上に形成された金属基板を構成する元素の酸化物超電導層への拡散を防止する機能を有する酸化物からなる第2中間層及び第2中間層の上に形成された酸化物超電導層の配向性を制御する機能を有する酸化物からなる第3中間層からなる3層構造により形成するようにしたものである。
【0016】
以上の場合において、2軸配向した金属基板表面の結晶の面内配向性を受け継ぎ、酸化物超電導層の面内配向性を向上させるために、第1中間層乃至第3中間層の面内配向性を、2軸配向した金属基板のΔφ(FWHM:半値幅)に対して±1.0度の範囲内に維持することが好ましい。
【0017】
上記の第1中間層及び第3中間層は、CeO又はCe−RE−O(ここでREは、Gd、Sm、Eu、Dy、Ho、Erから選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を示す。以下同じ。)により形成することができる。
【0018】
また、第2中間層は、RE−Zr−O(ここでREは、Ce、Gd、Sm、Eu、Dy、Ho、Er、Yから選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を示す。以下同じ。)により形成することができる。
【0019】
第1及び第2中間層並びに酸化物超電導層は、有機金属塩塗布熱分解(MOD)法により形成することが好ましい。
【0020】
この場合、これらの中間層及び酸化物超電導層は、当該中間層又は酸化物超電導層を構成する各元素を所定のモル比で含むオクチル酸塩、ナフテン酸塩、ネオデカン酸塩または三弗化酢酸塩の混合溶液を塗布後、熱処理を施すことにより形成することができる。
【0021】
また、本発明においては、2軸配向した金属基板が用いられるが、この金属基板は、少なくとも第1中間層に接触する側において、2軸配向した表面層を備えることが必要とされ、このような金属基板としては、Ni、Ni基合金、Cu又はCu基合金を冷間圧延後、所定の熱処理を施すことにより得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、2軸配向した金属基板上に、それぞれ特有の機能を有する3層構造の中間層を設けたことにより、第1中間層が金属基板のテンプレートとして金属基板の面内配向性を引き継ぎ、その上に積層される第2中間層により金属基板を構成する元素の酸化物超電導層への拡散を防止するとともに、第3中間層がその上に積層される酸化物超電導層の配向性を制御するため、金属基板を構成する元素の拡散や中間層におけるクラックの発生を防止することができる上、酸化物超電導層の面内配向性を金属基板と同等に維持することが可能となり、超電導特性に優れたテープ状酸化物超電導体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のテープ状酸化物超電導体は、図3に示すように、2軸配向性を有する配向金属基板10の上に金属基板と同等の配向性を有する、第1中間層(テンプレート層)11、配向金属基板10を構成する金属元素の酸化物超電導層への拡散を防止する第2中間層(拡散防止層)12及び酸化物超電導層の配向性を制御し反応性を防止する第3中間層(配向制御層)13を積層した後、この上に酸化物超電導層14を設けた構造を有する。酸化物超電導層14の上には、更に銀等からなる表面保護等の役割を果たす安定化層(図示せず。)を設けることができる。
【0024】
上記の各中間層11、12、13は、酸化物超電導層14の面内配向性を向上させるために、2軸配向した配向金属基板10の結晶配向を引き継ぐ必要があり、このため金属基板10は、少なくとも第1中間層に接触する側において2軸配向した表面層を備えることが必要である。このような配向金属基板としては、冷間圧延後、所定の熱処理を施したNi、Ni基合金やCu又はCu基合金、例えば、Niに(W、Mo、Ta、V、Cr)から選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を0.1〜15at%含むNi基合金を用いることができる他、これらの配向金属基板と耐熱性及び耐酸化性を有する金属基板(ハステロイ、インコネル、ステンレス等)とNiまたはNi基合金あるいはCuまたはCu基合金とを冷間加工により貼り合わせ、900〜1300℃の温度で配向化熱処理を施した積層構造からなる複合金属基板を用いることもできる。図2は、図3の2軸配向性を有する配向金属基板1に代えて、耐熱性及び耐酸化性を有する金属基板10bと2軸配向性を有する配向金属基板10aとを貼り合わせた複合金属基板を用いた例を示している。
【0025】
第1中間層11及び第3中間層13は、CeO又はCe−RE−Oにより形成することが好ましく、この場合、Ce:REのモル比は、Ce:RE=30:70〜(100−α):α(α>0)、より好ましくは、Ce:RE=40:60〜70:30の範囲内である。この理由は、Ce/RE比が3/7より少ないと2軸配向性が低下することによる。
【0026】
第1中間層11の厚さは、10〜100nmの範囲内であることが好ましく、この理由は、膜厚が10nm未満では金属基板を完全に被覆しきれずに配向性向上の効果が認められず、一方、膜厚が100nmを超えると表面粗さが増大して第2中間層及び第3中間層の配向性や超電導層の超電導特性を著しく低下させる結果を導くことによる。
【0027】
また、第3中間層13の厚さは、30nm以上の範囲であることが好ましく、膜厚が30nm未満では、超電導層の成膜時に超電導層と第3中間層13が反応して消失することにより超電導特性を著しく低下させる結果を導く。
【0028】
一方、第2中間層12は、RE−Zr−Oにより形成することができ、この場合、RE:Zrのモル比は、RE:Zr=30:70〜70:30の範囲内であることが好ましい。第2中間層12の厚さは、30nm以上の範囲であることが好ましく、膜厚が30nm未満では、超電導層の成膜時に金属基板10を構成する合金元素と超電導層の相互拡散が生じるため超電導特性が著しく劣化する結果となる。
【0029】
以上の第1乃至第3中間層及び酸化物超電導層は、有機金属塩塗布熱分解(MOD)法、RFスパッタ法、パルスレーザーデポジション法、EB法、CVD法等の上記の酸化物を形成できる方法であればいずれの方法も用いることが可能であるが、前述の理由により、第1及び第2中間層並びに酸化物超電導層は、有機金属塩塗布熱分解(MOD)法により形成することが好ましい。この場合、これらの中間層及び酸化物超電導層は、当該中間層又は酸化物超電導層を構成する元素を所定のモル比で含むオクチル酸塩、ナフテン酸塩、ネオデカン酸塩または三弗化酢酸塩の混合溶液の塗布後、熱処理を施すことにより形成することができ、1種類あるいは2種類以上の有機溶媒に均一に溶解し、基板上に塗布できるものであれば、この例によって制約されない。
【0030】
この場合、酸化物超電導層の形成に対してはTFA−MOD法が好適する。この方法は、非真空プロセスで製造する方法として知られており、酸化物超電導体を構成する各金属元素を所定のモル比で含むトリフルオロ酢酸塩(TFA塩)を始めとする金属有機酸塩の溶液を基板上に塗布し、それに仮焼熱処理を施してアモルファス状の前駆体を形成し、その後、結晶化熱処理を施して、前駆体を結晶化させて酸化物超電導体を形成するものである。
【0031】
金属基板への塗布方法は、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法等が挙げられるが、基板に均一な膜が形成できるものであれば、この例によって制約されない。
【0032】
MOD法による第1中間層11の面内配向性は、2軸配向性を有する配向金属基板10のX線回折によるΔφ(半値幅)に対して−2度〜+5度程度の範囲で形成されるが、好ましくは、第1中間層乃至第3中間層の面内配向性を2軸配向した配向金属基板10のΔφ(半値幅)に対して±1.0度の範囲内に維持する。
【0033】
第3中間層の上に形成される酸化物超電導層は、REBaCu7−y(ここでREは、Y、Gd、Sm、Nd、Ho、Dy、Eu、Tb、Er、Ybから選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を示す。)構造を有するもの、特に
YBaCu7−y(以下YBCOと称する。)超電導体により形成することが好適する。
【0034】
以上のことから、本発明のテープ状酸化物超電導体のより好ましい実施態様として、Niに(W、Mo、Ta、V、Cr)から選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を含み、少なくとも1側の面に2軸配向した表面層を備えたNi基合金の表面層の上に、第1中間層、第2中間層及び第3中間層を順次形成した3層構造からなる中間層を設け、第1中間層を有機金属塩塗布熱分解(MOD)法により形成した厚さ10〜100nmのCeO又はモル比がCe:Gd=40:60〜70:30の範囲内のCe−Gd−O酸化物、第2中間層を有機金属塗布熱分解(MOD)法により形成した厚さ30nm以上のモル比がCe:Zr=30:70〜70;30の範囲内のCe−Zr−O酸化物及び第3中間層を厚さ30nm以上のCeO又はモル比がCe:Gd=40:60〜70:30の範囲内のCe−Gd−O酸化物により形成し、第1中間層乃至第3中間層の面内配向性を2軸配向した金属基板のX線回折によるΔφ(半値幅)に対して±1.0度の範囲内に維持するとともに、この中間層の上にYBCO酸化物超電導体を有機金属塩塗布熱分解(MOD)法により形成することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0036】
実施例1〜8
図1に示すように、幅5mm、厚さ70μmのNi基合金基板1上に、第1中間層としてCe−Gd−O系酸化物層2及び第2中間層としてCe−Zr−O系酸化物層3をMOD法により形成した。Ni基合金基板1の結晶の配向性は、X線回折で測定した結果、そのΔφ(半値幅)は6.5度であった。
【0037】
Ce−Gd−O系酸化物層2は、Ce及びGdをそれぞれ所定のモル比で含むオクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸等の有機金属塩の混合溶液をDipコーティングを用いて塗布した後、100〜400℃の温度範囲で仮焼し、次いで900〜1200℃の温度範囲で焼成を施すことにより膜を結晶化させて形成した。
【0038】
また、Ce−Zr−O系酸化物層3は、Ce及びZrをCe:Zr=50:50のモル比で含むオクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸等の有機金属塩の混合溶液を用い、上記と同様の方法により、Ce−Gd−O系酸化物層2の上に成膜した。このときの膜厚は100nmであった。
【0039】
上記のCe−Zr−O系酸化物層3の上に、RFスパッタ法により、CeOターゲットを用い、Ni基合金基板1を400〜750℃の温度範囲で制御して第3中間層としてCeO酸化物層4を膜厚150nmに成膜した。
【0040】
以上のようにして形成した3層構造の中間層の上に、YBCO超電導層5をTFA−MOD法により成膜した。このときの成膜条件は、トリフルオロ酢酸塩(TFA塩)を含む金属有機酸塩の混合原料溶液をCeO酸化物層4の上に塗布後、仮焼成して形成した仮焼成膜を710〜780℃の温度範囲で本焼成して成膜した。焼成時の全圧は5〜800Torr、酸素分圧は100〜5000ppm、水蒸気分圧は2〜30%の範囲とした。このようにして成膜したYBCO超電導層5の膜厚は1μmであった。
【0041】
以上のようにして形成したテープ状酸化物超電導体の液体窒素中におけるJcを、第1中間層であるCe−Gd−O系酸化物層2の組成、膜厚及びΔφ、第2中間層であるCe−Zr−O系酸化物層3のΔφ並びに第3中間層であるCeO酸化物層4のΔφとともに表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例9〜12
第1中間層としてCeO酸化物層(実施例9)、Ce−Sm−O酸化物層(実施例10)、Ce−Eu−O酸化物層(実施例11)及びCe−Ho−O酸化物層(実施例12)を形成した他は、実施例1〜8と同様の方法によりテープ状酸化物超電導体を形成した。
【0044】
このようにして形成したテープ状酸化物超電導体の液体窒素中におけるJcを、第1中間層の組成、膜厚及びΔφ、第2中間層であるCe−Zr−O系酸化物層3のΔφ並びに第3中間層であるCeO酸化物層4のΔφとともに表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
比較例1〜4
第1中間層として、その組成及び膜厚を変えたCe−Gd−O系酸化物層(比較例1から3)を形成し、さらにNi基合金基板1上に第1中間層を形成しなかった場合(比較例4)を除いて、実施例1〜8と同様の方法によりテープ状酸化物超電導体を形成した。
【0047】
このようにして形成したテープ状酸化物超電導体の液体窒素中におけるJcを、第1中間層の組成、膜厚及びΔφ、第2中間層であるCe−Zr−O系酸化物層3のΔφ並びに第3中間層であるCeO酸化物層4のΔφとともに表3に示した。
【0048】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によるテープ状酸化物超電導体は、送電ケーブルや電力貯蔵システムのような電力機器及びモーターなどの動力機器への使用に適した酸化物超電導体への利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のテープ状酸化物超電導体の一実施例を示すテープの軸方向に垂直な概略断面図である。
【図2】本発明のテープ状酸化物超電導体の他の実施例を示すテープの軸方向に垂直な概略断面図である。
【図3】本発明のテープ状酸化物超電導体の構造の一実施例を示すテープの軸方向に垂直な概略断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 Ni基合金基板
2 Ce−Gd−O系酸化物層
3 Ce−Zr−O系酸化物層
4 CeO酸化物層
5 YBCO超電導層
10、10a 配向金属基板
10b 耐熱・耐酸化性金属基板
11 第1中間層
12 第2中間層
13 第3中間層
14 酸化物超電導層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2軸配向した金属基板上に、中間層及び酸化物超電導層を順次設けたテープ状酸化物超電導体において、前記中間層が、前記金属基板上に形成されたテンプレート機能を有する酸化物からなる第1中間層、前記第1中間層の上に形成された前記金属基板を構成する元素の前記酸化物超電導層への拡散を防止する機能を有する酸化物からなる第2中間層及び前記第2中間層の上に形成された前記酸化物超電導層の配向性を制御する機能を有する酸化物からなる第3中間層からなる3層構造により形成されていることを特徴とするテープ状酸化物超電導体。
【請求項2】
第1中間層乃至第3中間層の面内配向性は、2軸配向した金属基板のX線回折によるΔφ(半値幅)に対して±1.0度の範囲内であることを特徴とする請求項1記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項3】
第1中間層及び第3中間層は、CeO又はCe−RE−O(ここでREは、Gd、Sm、Eu、Dy、Ho、Erから選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を示す。以下同じ。)により形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項4】
第1中間層及び第3中間層のCe:REのモル比は、Ce:RE=30:70〜(100−α):α(α>0)の範囲内であることを特徴とする請求項3記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項5】
第1中間層及び第3中間層のCe:REのモル比は、Ce:RE=40:60〜70:30の範囲内であることを特徴とする請求項4記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項6】
第1中間層の厚さは、10〜100nmの範囲内であることを特徴とする請求項3乃至5いずれか1項記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項7】
第3中間層の厚さは、30nm以上の範囲内であることを特徴とする請求項3乃至5いずれか1項記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項8】
第2中間層は、RE−Zr−O(ここでREは、Ce、Gd、Sm、Eu、Dy、Ho、Er、Yから選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を示す。以下同じ。)により形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項9】
第2中間層のRE:Zrのモル比は、RE:Zr=30:70〜70:30の範囲内であることを特徴とする請求項8記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項10】
第2中間層の厚さは、30nm以上の範囲内であることを特徴とする請求項8又は9記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項11】
第1及び第2中間層並びに酸化物超電導層は、有機金属塩塗布熱分解(MOD)法により形成されていることを特徴とする請求項1乃至10いずれか1項記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項12】
第1及び第2中間層並びに酸化物超電導層は、中間層又は酸化物超電導層を構成する元素を含むオクチル酸塩、ナフテン酸塩、ネオデカン酸塩または三弗化酢酸塩の混合溶液を塗布後、熱処理を施すことにより形成されることを特徴とする請求項11記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項13】
2軸配向した金属基板は、少なくとも第1中間層に接触する側において、2軸配向した表面層を備えることを特徴とする請求項1乃至12いずれか1項記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項14】
2軸配向した金属基板は、Ni、Ni基合金、Cu又はCu基合金を冷間圧延後、熱処理を施すことにより、少なくとも第1中間層に接触する側において、2軸配向した表面層を備えることを特徴とする請求項13記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項15】
2軸配向した金属基板は、Niに(W、Mo、Ta、V、Cr)から選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を0.1〜15at%含むNi基合金からなることを特徴とする請求項14記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項16】
酸化物超電導層は、REBaCu7−y(ここでREは、Y、Gd、Sm、Nd、Ho、Dy、Eu、Tb、Er、Ybから選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を示す。)構造を有することを特徴とする請求項1乃至15いずれか1項記載のテープ状酸化物超電導体。
【請求項17】
Niに(W、Mo、Ta、V、Cr)から選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を含み、少なくとも1側の面に2軸配向した表面層を備えたNi基合金の前記表面層の上に、第1中間層、第2中間層及び第3中間層を順次形成した3層構造からなる中間層を設け、前記第1中間層を有機金属塗布熱分解(MOD)法により形成した厚さ10〜100nmのCeO又はモル比がCe:Gd=40:60〜70:30の範囲内のCe−Gd−O酸化物、前記第2中間層を有機金属塩塗布熱分解(MOD)法により形成した厚さ30nm以上のモル比がCe:Zr=30:70〜70:30の範囲内のCe−Zr−O酸化物及び前記第3中間層を厚さ30nm以上のCeO又はモル比がCe:Gd=40:60〜70:30の範囲内のCe−Gd−O酸化物により形成し、前記第1中間層乃至第3中間層の面内配向性を2軸配向した金属基板のX線回折によるΔφ(半値幅)に対して±1.0度の範囲内に維持するとともに、この中間層の上にYBaCu7−y酸化物超電導体を有機金属塩塗布熱分解(MOD)法により形成したことを特徴とするテープ状酸化物超電導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−310986(P2008−310986A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155484(P2007−155484)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】