説明

ディスクブレーキ用のパッドと該パッドを備えるディスクブレーキ

【課題】 摩擦熱によって板厚方向に反ってしまうことが合理的に抑制され得るディスクブレーキ用のパッドを提供する。
【解決手段】 ディスクに摺接されることで制動力を生じる摩擦材2と、その摩擦材2の裏面を支持する裏板3とを備えているディスクブレーキ用のパッド1であって、摩擦材2をディスクに摺接させた際に生じる摩擦熱によってパッド1が板厚方向に反ることを抑制するために、裏板3には、裏面の外周縁の全周に渡って裏板3を補強する補強部3bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクに摺接されることで制動力を生じる摩擦材と、その摩擦材の裏面を支持する裏板とを備えているディスクブレーキ用のパッドに関する。あるいは該パッドを備えるディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々なパッドが知られており、例えば特許文献1に記載のパッドが知られている。
特許文献1に係るパッドは、摩擦材と裏板とを備えており、裏板には、曲げ剛性を減ずる肉抜き部が形成されていた。このためパッドは、肉抜き部によって曲げ固有振動数がディスクの固有振動数よりも小さくなっている。そのためパッドは、ディスクとの固有振動数の違いによりブレーキ異音の発生を抑制し得る構成になっていた。
しかし摩擦材がディスクに摺接された際には摩擦熱が発生する。そして摩擦材の熱膨張係数と裏板の熱膨張係数とが相違している。したがって摩摩擦熱が発生した際、パッドが板厚方向に反ってしまう。
【0003】
例えば、パッドが摩擦材の摺接面の中央部を中心に凸状に反ってしまう。これにより摩擦材とディスクとの摺接面積が小さくなって摩擦材が局所的に高温になり、中央部の摩耗量が大きくなる。
したがってブレーキ操作が中止されてパッドの温度が下がると、中央部が凹んだ状態になり、その状態にて摩擦材がディスクに押圧された際には、摩擦材の外周部のみがディスクに摺接され、これによりブレーキ異音が発生しやすくなるという問題があった。あるいはディスクへの攻撃性が高くなってブレーキ振動が生じやすいという問題もあった。
【特許文献1】実開昭58−50238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで前記問題を解決するために、裏板全体を板厚方向に厚くして、パッドが板厚方向に反ることを防止する形態も考えられ得る。しかし本形態の場合は、パッドの重量が重くなるというだけでなく、キャリパがディスク軸方向に大きくなってディスクブレーキ全体が重くなるという問題が生じてしまう。
そこで本発明は、摩擦熱によって板厚方向に反ってしまうことが合理的に抑制され得るディスクブレーキ用のパッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために本発明は、各請求項に記載の通りの構成を備えるディスクブレーキ用のパッドまたはディスクブレーキであることを特徴とする。
請求項1に係る発明によると、摩擦材をディスクに摺接させた際に生じる摩擦熱によってパッドが板厚方向に反ることを抑制するために、裏板には、摩擦材が固定される表面の反対面である裏面の外周縁の全周に渡って裏板を補強する補強部が形成されている。
したがって裏板は、補強部によって板厚方向に反ることが抑制される。そのためパッドは、摩擦熱が生じた際においても裏板の補強部によって板厚方向に反ることが抑制される。
【0006】
また補強部は、裏板の裏面に形成されている。そのため補強部は、摩擦材に制約されることなく裏板の裏面に形成され得る。
また補強部は、裏板の裏面の外周縁全周に渡って形成されている。そのため裏板は、補強部によって板厚方向のあらゆる方向、例えば長手軸中心および短手軸中心に反ることが抑制され得る。
また裏板は、外周縁が補強部によって補強されているため、中央部の強度を落とすことができる。そのため裏板の中央部の板厚を薄くすることで、パッドの軽量化を図ることもできる。
【0007】
請求項2に係る発明によると、補強部は、裏板の裏面にて凸状かつ一体的に形成されている。
したがって補強部は、簡易に構成され得る。
【0008】
請求項3に係る発明によると、裏板の表面には、摩擦材の側縁に沿って突出する表側凸部が形成されている。
したがって摩擦材が裏板の表面上にて位置ズレすることが表側凸部によって抑制され得る。かくして摩擦材が裏板から剥離することが表側凸部によって抑制され得る。
【0009】
請求項4に係る発明によると、ディスクブレーキは、請求項2に記載の発明に係るパッドと、パッドをディスクに向けて押圧する押圧部材とを備えている。そしてパッドの裏板の裏面中央部には、補強部によって囲われた凹部が形成されており、押圧部材は、凹部の底面のみを押圧する構成になっている。
したがってパッドは、押圧部材によって確実にほぼ中心部が押圧され得る。
【0010】
請求項5に係る発明によると、パッドと押圧部材との間には、シムが介装されている。そしてシムがパッドの裏板の凹部に内設されている。
したがってシムは、パッドと押圧部材によって板厚方向への移動が規制される。またシムは、凹部の構成壁面によって面方向への移動が規制される。かくしてシムは、安定良くかつ簡易的にパッドと押圧部材との間に保持され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施の形態1)
実施の形態1を図1〜4にしたがって説明する。
ディスクブレーキ10は、図1に示すように浮動型のディスクブレーキであって車体側に固定されるマウンティング11と、マウンティング11に対して移動可能に支持されるキャリパ12を有している。
またディスクブレーキ10は、図2に示すように一対のパッド1を有しており、各パッド1は、摩擦材2と裏板3を備えている。
【0012】
キャリパ12は、図1に示すようにディスクDの外周外方にてディスクDをディスク軸方向に跨いでおり、スライドピン14を介してマウンティング11に支持されている。
キャリパ12のインナ側(車体側)には、二つのピストン13が設けられており、アウタ側(車体外側)には、爪部12aが形成されている。
【0013】
ピストン13は、インナ側のパッド1をディスクDに向けて押圧する。そしてピストン13によってインナ側のパッド1がディスクDに押圧された際には、その押圧反力によってキャリパ12がインナ側(図中右側)に移動し、キャリパ12の爪部12aがアウタ側のパッド1をディスクDに向けて押圧する。
かくしてピストン13と爪部12aの協働によって一対のパッド1がディスクDに押圧される。なおピストン13と爪部12aは、特許請求の範囲に記載した押圧部材に相当する部材である。
【0014】
パッド1は、図2,5に示すように摩擦材2と裏板3を有している。
摩擦材2は、ディスクDに対して摺接されることで摩擦力を生じる。そして摩擦材2は、裏板3によって裏面が支持されている。
裏板3は、金属材料をプレス成形することで、あるいは金属材料を鍛造することで成形されている。
裏板3は、図3に示すように一対の耳部3aを有しており、裏面に凹部3cと補強部3bとを有している。
【0015】
一対の耳部3aは、裏板3のディスク周方向両端縁からディスク周方向に突出している。そして耳部3aは、図への記載は省略しているが、マウンティング11に凹設されたガイド部に対して移動可能に掛け止められている。かくして裏板3は、マウンティング11に対してディスク軸方向に移動可能に支持されている。
【0016】
凹部3cは、裏板3の裏面中央部に成形されている。したがって裏板3の中央部は、外周部よりも板厚が薄くなっている。
補強部3bは、裏板3の裏面の外周縁に沿って成形されており、裏板3の裏面にて凸状かつ一体的に形成されている。したがって裏板3の外周縁は、中央部よりも板厚が厚くなっている。そして裏板3の断面形状は、図3に示すように断面略コ字状の構成になっている。かくして裏板3は、補強部3bによって補強されて剛性の高い構成になっている。
また補強部3bは、裏板3の外周縁の全周に渡って形成されており、環状の構成になっている。
【0017】
パッド1とピストン13の間には、図2に示すようにブレーキの異音を抑制するためのシム4が介装されている。そしてパッド1と爪部12aの間にもシム4が介装されている。
シム4は、裏板3などに比べて摩擦抵抗の小さいステンレス等の金属板から成形されている。
【0018】
シム4は、図3に示すように裏板3の凹部3cの底面形状よりも一周り小さい構成であって、凹部3cに内設されている。したがってシム4は、凹部3cの構成壁面によって裏板3に対する面方向への移動量が規制されている。
インナ側のシム4とパッド1は、二つのピストン13によって押圧される。そしてこれらピストン13は、図3,4に示すようにシム4を介して裏板3の凹部3cの底面のみを押圧し、補強部3bを押圧しない構成になっている。
一方、アウタ側のシム4とパッド1は、図2に示すようにキャリパ12の爪部12aによって押圧される。そして爪部12aは、シム4を介して裏板3の凹部3cの底面のみを押圧し、補強部3bを押圧しない構成になっている。
【0019】
以上のようにしてパッド1およびディスクブレーキ10が形成されている。
すなわち裏板3には、図3,4に示すように摩擦材2が固定される表面の反対面である裏面の外周縁の全周に渡って補強部3bが形成されている。
したがって裏板3は、補強部3bによって板厚方向に反ることが抑制される。そのためパッド1は、摩擦熱が生じた際においても裏板3の補強部3bによって板厚方向に反ることが抑制される。
【0020】
かくしてパッド1は、低温時のみならず高温時においてもディスクDに対する平面度が高い。このためパッド1は、摩擦熱が生じた際においても面圧が安定する。したがってブレーキの効きが安定し、ブレーキ異音が低減し、ブレーキ振動が低減する。
【0021】
また補強部3bは、裏板3の裏面に形成されている。そのため補強部3bは、摩擦材2に制約されることなく裏板3の裏面に形成され得る。
また補強部3bは、裏板3の裏面の外周縁全周に渡って形成されている。そのため裏板3は、補強部3bによって板厚方向のあらゆる方向、例えば長手軸中心(図3のX軸と平行な軸中心)および短手軸中心(Y軸と平行な軸中心)に反ることが抑制され得る。
また裏板3は、外周縁が補強部3bによって補強されているため、中央部の強度を落とすことができる。そのため裏板3の中央部の板厚を薄くすることで、パッド1の軽量化を図ることもできる。
【0022】
また補強部3bは、図4に示すように裏板3の裏面にて凸状かつ一体的に形成されている。
したがって補強部3bは、簡易に構成され得る。
【0023】
裏板3の裏面中央部には、図3に示すように補強部3bによって囲われた凹部3cが形成されている。そして押圧部材(ピストン13、爪部12a)は、図2に示すように凹部3cの底面のみを押圧する構成になっている。
したがってパッド1は、押圧部材(ピストン13、爪部12a)によって確実にほぼ中心部が押圧され得る。
【0024】
パッド1と押圧部材(ピストン13、爪部12a)との間には、図2に示すようにシム4が介装されている。そしてシム4が裏板3の凹部3cに内設されている。
したがってシム4は、パッド1と押圧部材(ピストン13、爪部12a)によって板厚方向への移動が規制される。またシム4は、凹部3cの構成壁面によって面方向への移動が規制される。かくしてシム4は、安定良くかつ簡易的にパッド1と押圧部材との間に保持され得る。
【0025】
(実施の形態2)
実施の形態2を図6,7にしたがって説明する。
実施の形態2は、実施の形態1とほぼ同様に形成されている。しかし実施の形態2に係る裏板3は、図6に示すように表面に凹部3eと表側凸部3dとを有している。以下、相違点を中心に実施の形態2について説明する。
【0026】
凹部3eは、裏板3の表面中央部に成形されている。したがって裏板3の中央部は、外周縁よりも板厚が薄くなっている。凹部3eの底面は、摩擦材2よりも一周り大きく、凹部3eの底面に摩擦材2が固定されている。
表側凸部3dは、裏板3の表面の外周縁に成形されている。表側凸部3dは、図7に示すように裏板3の表面にて凸状かつ一体的に形成されている。そして表側凸部3dは、摩擦材2の側縁に沿って突出している。
【0027】
一方、裏板3の裏面には、補強部3bが形成されている。
したがって裏板3は、断面が略I字状になっており、外周縁の板厚が中央部の板厚よりも厚くなっている。かくして裏板3は、剛性が高い構成になっている。
表側凸部3dは、図6に示すように裏板3の外周縁の全周に渡って形成されており、環状の構造になっている。そのため裏板3は、表側凸部3dによって板厚方向のあらゆる方向、例えば長手軸中心および短手軸中心に反ることが抑制されている。
【0028】
以上のようにしてパッド1が形成されている。
すなわち裏板3の表面には、図7に示すように摩擦材2の側縁に沿って突出する表側凸部3dが形成されている。
したがって摩擦材2が裏板3の表面上にて位置ズレすることが表側凸部3dによって抑制され得る。かくして摩擦材2が裏板3から剥離することが表側凸部3dによって抑制され得る。
【0029】
(他の実施の形態)
本発明は、実施の形態1,2に限定されず、以下の形態等であってもよい。
(1)実施の形態1,2に係る裏板には、一体的に補強部が形成されていた。しかし補強部が裏板の他の部分と別個に形成される形態であっても良い。そして異材料によって形成される形態であっても良い。
(2)実施の形態2に係る表側凸部は、裏板の表面の外周縁全周に渡って形成されていた。しかし表面の外側縁の一部のみに形成される形態であっても良い。
(3)実施の形態1,2に係る裏板は、金属材料を原料として成形されていたが、樹脂材料を原料として成形される形態であっても良い。
(4)実施の形態1,2に係るパッドは、浮動型のディスクブレーキに利用されるものであった。しかしパッドは、対向型のディスクブレーキに利用されるものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施の形態1に係るディスクブレーキの斜視図である。
【図2】図1のA―A線断面矢視図である。
【図3】実施の形態1に係るパッドの背面図である。
【図4】図3のB―B線断面矢視図である。
【図5】実施の形態1に係るパッドの正面図である。
【図6】実施の形態2に係るパッドの正面図である。
【図7】図6のC―C線断面矢視図であって、図4に相当する図である。
【符号の説明】
【0031】
1…パッド
2…摩擦材
3…裏板
3b…補強部
3c…凹部
3d…表側凸部
3e…凹部
4…シム
10…ディスクブレーキ
11…マウンティング
12…キャリパ
12a…爪部(押圧部材)
13…ピストン(押圧部材)
D…ディスク



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクに摺接されることで制動力を生じる摩擦材と、その摩擦材の裏面を支持する裏板とを備えているディスクブレーキ用のパッドであって、
前記摩擦材をディスクに摺接させた際に生じる摩擦熱によって前記パッドが板厚方向に反ることを抑制するために、前記裏板には、前記摩擦材が固定される表面の反対面である裏面の外周縁の全周に渡って前記裏板を補強する補強部が形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用のパッド。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキ用のパッドであって、
補強部は、裏板の裏面にて凸状かつ一体的に形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用のパッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のディスクブレーキ用のパッドであって、
裏板の表面には、摩擦材の側縁に沿って突出する表側凸部が形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用のパッド。
【請求項4】
請求項2または3に記載のディスクブレーキ用のパッドと、前記パッドをディスクに向けて押圧する押圧部材とを備えているディスクブレーキであって、
前記パッドの裏板の裏面中央部には、補強部によって囲われた凹部が形成されており、前記押圧部材は、前記凹部の底面のみを押圧する構成になっていることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項5】
請求項4に記載のディスクブレーキであって、
パッドと押圧部材との間には、シムが介装されており、
前記シムが前記パッドの裏板の凹部に内設されていることを特徴とするディスクブレーキ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−2885(P2006−2885A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181080(P2004−181080)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】