説明

ディスクブレーキ用パッド組立体

【課題】非制動状態に於いて外側シム板4aを内側シム板3aに対し、常に周方向及び径方向に変位可能な状態とする。そして、制動時に於けるパッド1の挙動がスムーズになると共に姿勢を安定し易くして、制動時に於ける鳴きや偏摩耗を十分に緩和できる構造を実現する。
【解決手段】前記内側シム板3aの周方向両端縁部に、一対の内側曲げ起こし板部19、19を設ける。又、前記外側シム板4aの周方向両端縁部に、U字形に折り返された、一対の外側曲げ起こし板部21、21を設ける。組立状態で、これら両外側曲げ起こし板部21、21の弾性押圧部24、24を、前記両内側曲げ起こし板部19、19に弾性的に当接させ、非制動状態で、前記外側シム板4aを前記内側シム板3aに対し、中立状態に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制動を行う為に利用するディスクブレーキに組み込んで、制動時にパッドが振動する事により発生するブレーキ鳴きを抑えたり、このパッドのライニングの磨耗が不均一になる偏摩耗を抑える為に利用する、ディスクブレーキ用パッド組立体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動に使用するディスクブレーキは、車輪と共に回転するロータを挟んで一対のパッドを配置し、制動時にはこれら両パッドをこのロータの軸方向両側面に押し付ける様に構成している。この様なディスクブレーキの基本的構造としては、フローティング型と対向ピストン型との2種類がある。このうちのフローティング型のものは、一対のパッドを軸方向の変位を可能に支持したサポートに、インナ側にピストンを内蔵したキャリパを、軸方向の変位を可能に装着している。制動時には、このピストンによりインナ側のパッドをロータのインナ側面に押し付け、その反作用として前記キャリパをインナ側に変位させる。そして、このキャリパのアウタ側端部に設けたキャリパ爪部により、アウタ側のパッドを前記ロータのアウタ側面に押し付ける。又、対向ピストン型のものは、一対のパッドを軸方向の変位可能に支持したキャリパに複数のピストンを、ロータの軸方向両側に配置した状態で設けている。制動時には、これら各ピストンにより前記両パッドを、前記ロータの軸方向両側面に押し付ける。何れの場合でも、これら両パッドは、十分な剛性を有するプレッシャプレートの前面にライニングを添着して成る。そして、制動時に前記ピストン或いは前記キャリパ爪部によりこのうちのプレッシャプレートの背面を押圧し、前記ライニングの前面と前記ロータの軸方向両側面とを摩擦させる。尚、本明細書及び特許請求の範囲で、軸方向、周方向、径方向とは、特に断らない限り、ディスクブレーキ用パッド組立体をディスクブレーキに組み付けた状態での、ロータの軸方向、径方向、周方向を言う。
【0003】
何れの構造のディスクブレーキの場合であっても、制動時には一対のパッドによりロータを軸方向両側から強く挟持し、これら両パッドを構成するライニングとこのロータの軸方向両側面との当接部に作用する摩擦力により制動を行う。この様な制動時に、この摩擦力が作用する部分と前記ピストン或いは前記キャリパ爪部が前記両パッドを押圧する部分とは、軸方向に関して、これら両パッドの厚さ分だけずれ、このずれに基づいてこれら両パッドの姿勢が不安定になり易い。制動時にこれら両パッドの姿勢が不安定になると、これら両パッドの挙動がスムーズになりづらく、これら両パッドが振動して、鳴きと呼ばれる騒音を発生したり、前記ライニングの偏摩耗の程度が著しくなり易い。
【0004】
この様な鳴きや偏摩耗を緩和する為に、従来から、パッドを構成するプレッシャプレートの背面と、この背面を押圧する為の押圧面であるピストンの先端面或いはキャリパ爪部の内側面との間にシム板を挟持する事が、広く行われている。この様なシム板は、1枚のみの単板構成の場合もあるが、内側シム板と外側シム板とを重ね合わせた2枚構造とする事により、前記鳴きや偏摩耗の抑制効果を向上させられる事が知られている。この様な2枚構造のシム板を備えたディスクブレーキ用パッド組立体として従来から、例えば特許文献1〜7に記載されたものが知られている。図23〜25は、このうちの特許文献5に記載された従来構造を示している。
【0005】
この従来構造は、パッド1を構成するプレッシャプレート2の背面に、内側シム板3と外側シム板4とから成る組み合わせシム板5を装着して成る。前記パッド1は、前記プレッシャプレート2の前面(ディスクブレーキへの組み付け時にロータの側面と対向する面)にライニング6を、制動時に加わるブレーキトルクによりずれ動かない様に、大きな結合力により添着固定して成る。前記内側シム板3は、ステンレス鋼板、ゴムをコーティングしたステンレス鋼板等の金属板製で、平板状の内側本体部分7と、複数の内側係止片8a、8b、8cとを備える。又、この内側本体部分7に、それぞれの内側にグリースを保持する為の、複数の透孔9、9を形成している。又、前記プレッシャプレート2の径方向に関する内外両周縁部のうち、外径側周縁部の周方向中央部に係止凹部10を、内径側周縁部の周方向両端寄り部分に一対の段差部11、11を、それぞれ形成している。前記内側シム板3は、前記各内側係止片8a、8b、8cのうちの外径側の内側係止片8aを前記係止凹部10に、内径側の内側係止片8b、8cを前記両段差部11、11に、それぞれ係合させつつ、これら各内側係止片8a、8b、8cにより前記プレッシャプレート2を、径方向両側から挟持している。この状態で前記内側シム板3がこのプレッシャプレート2の背面側に、周方向及び径方向の変位を制限(僅かな組み付け隙間分の変位を除き、実質的に阻止)された状態で装着される。
【0006】
又、前記外側シム板4は、ステンレス鋼板等の金属板製で、平板状の外側本体部分12と、複数の外側係止片13a、13b、13cとを備える。この様な外側シム板4は、これら各外側係止片13a、13b、13cを前記各内側係止片8a、8b、8cに重ね合わせつつ、前記外側本体部分12を前記内側本体部分7に重ね合わせる。この状態で前記外側シム板4が前記内側シム板3に、周方向の変位を可能に組み付けられる。この為に、前記外側係止片13aの周方向に関する幅寸法を、前記係止凹部10及び前記内側係止片8aの周方向の幅寸法よりも小さくし、前記両外側係止片13b、13cの互いに反対側側縁である周方向外側縁同士の間隔を、前記両段差部11、11同士の間隔よりも小さくしている。
【0007】
上述の様な構成を有する従来構造の場合、前記外側係止片13aの周方向両端縁が前記係止凹部10の周方向両内側面から離隔し、且つ、前記両外側係止片13b、13cの外側縁が前記両段差部11、11から離隔していれば、前記外側シム板4が前記内側シム板3に対し、周方向に変位できる。この状態で制動を行えば、前記パッド1の姿勢を安定させて、前記鳴きや偏摩耗を緩和できる。但し、前記外側シム板4は、走行時の振動等により周方向に変位する場合がある。そして、この変位に基づいて、前記外側係止片13aの周方向端縁が前記係止凹部10の周方向内側面に当接したり、前記両外側係止片13b、13cのうちの何れかの外側係止片13b(13c)の外側縁が何れかの段差部11に当接したままとなる可能性がある。この状態から制動を行い、前記外側係止片13aの周方向端縁を前記係止凹部10の周方向内側面に押し付けたり、前記何れかの外側係止片13b(13c)の外側縁を前記何れかの段差部11に押し付けたりした場合には、前記パッド1の姿勢が必ずしも安定せず、前記鳴きや偏摩耗を十分に緩和できない可能性がある。尚、上述の様な問題は、前記外側シム板4がプレッシャプレート2に対し、組み付け後に変位した場合だけでなく、組み付け時にこの外側シム板4を中立位置に組み付けなかった場合にも生じる。又、前記特許文献5以外の特許文献に記載された従来構造の場合も、ほぼ同様の問題を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−145839号公報
【特許文献2】特開2001−41268号公報
【特許文献3】特開2002−364685号公報
【特許文献4】特開2005−83478号公報
【特許文献5】特開2006−200560号公報
【特許文献6】実公平3−46262号公報
【特許文献7】実公平6−11377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、少なくとも非制動状態に於いては、外側シム板を内側シム板に対し、常に周方向に変位可能な状態とする事により、制動時に於けるパッドの姿勢を安定し易くして、制動時に於ける鳴きや偏摩耗を十分に緩和できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のディスクブレーキ用パッド組立体は、何れも、前述した従来から知られているディスクブレーキ用パッド組立体と同様に、パッドと、内側シム板と、外側シム板とを備える。
特に、本発明のディスクブレーキ用パッド組立体に於いては、何れも、一対ずつの内側曲げ起こし板部と外側曲げ起こし板部とを備える。
このうちの両内側曲げ起こし板部は、前記内側シム板の内側本体部分の周方向両端縁部から、前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こされた状態で設けられている。
又、前記両外側曲げ起こし板部は、例えば弾性金属板製である、前記外側シム板の外側本体部分の周方向両端縁部から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こされている。
【0011】
更に、請求項1に記載したディスクブレーキ用パッド組立体の場合には、前記両外側曲げ起こし板部はそれぞれ、中間部をU字形に折り返されている。そして、それぞれの基端縁部を前記外側本体部分の周方向端縁に連続させた基部と、この基部の先端縁にその基端縁を連続させた湾曲部と、この湾曲部の先端縁にその基端縁を連続させた弾性押圧部とを備える。
又、前記内側本体部分を前記プレッシャプレートの背面に重ね合わせ、更にこの内側本体部分の外面側に前記外側本体部分を重ね合わせた状態で、前記両外側曲げ起こし板部の弾性押圧部の周方向外側面と前記両内側曲げ起こし板部の周方向内側面とを弾性的に当接させている。
そして、前記外側シム板を前記内側シム板に対し、周方向に変位可能に、且つ、これら両シム板に外力が作用しない状態で、周方向に関するこれら両シム板の位置関係が、前記両外側曲げ起こし板部の弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わせている。
【0012】
上述の様な請求項1に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記両シム板の径方向両端縁から前記プレッシャプレートの側に折れ曲がった径方向折れ曲がり板部を、このプレッシャプレートの内外両周縁部に係合させる。そして、このプレッシャプレートに対する前記両シム板の、径方向に関する位置決めを図る。
或いは、請求項3に記載した発明の様に、前記両外側曲げ起こし板部の中間部で、少なくとも前記湾曲部を含む部分の幅方向中央部に透孔を形成する事により、前記両外側曲げ起こし板部の弾性押圧部を弾性変形させる為に要する力の低減を図る。
或いは、請求項4に記載した発明の様に、前記内側本体部分に対して前記両内側曲げ起こし板部を、90度を超えて折り曲げる事により、この内側本体部分とこれら両内側曲げ起こし板部との成す角度を鋭角とする。又、前記両外側曲げ起こし板部の弾性押圧部のうちでこれら両内側曲げ起こし板部の周方向内側面と当接する部分を前記湾曲部の先端縁よりも周方向外方に突出させる。そして、前記両外側曲げ起こし板部の弾性押圧部と前記両内側曲げ起こし板部の周方向内側面との係合に基づき、前記両シム板同士の分離防止を図る。
【0013】
一方、請求項5に記載した発明の場合には、前記両内側曲げ起こし板部はそれぞれ、中間部をU字形に折り返して成る。そして、それぞれの基端縁部を前記内側本体部分の周方向端縁に連続させた内側基部と、この内側基部の先端縁にその基端縁を連続させた内側湾曲部と、この内側湾曲部の先端縁にその基端縁を連続させた内側弾性押圧部とを備える。
前記両外側曲げ起こし板部も、それぞれ中間部をU字形に折り返して成る。そして、それぞれの基端縁部を前記外側本体部分の周方向端縁に連続させた外側基部と、この外側基部の先端縁にその基端縁を連続させた外側湾曲部と、この外側湾曲部の先端縁にその基端縁を連続させた外側弾性押圧部とを備える。
又、前記内側本体部分を前記プレッシャプレートの背面に重ね合わせ、更にこの内側本体部分の外面側に前記外側本体部分を重ね合わせた状態で、前記両外側曲げ起こし板部の外側弾性押圧部の周方向内側面と前記両内側弾性押圧部の周方向外側面とを弾性的に当接させる。
そして、前記外側シム板を前記内側シム板に対し、周方向に変位可能に、且つ、これら両シム板に外力が作用しない状態で、周方向に関するこれら両シム板の位置関係が、前記内側、外側各曲げ起こし板部の弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わせる。
【0014】
上述の様な請求項5に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項6に記載した発明の様に、前記内側曲げ起こし板部の中間部で、少なくとも前記内側湾曲部を含む部分の幅方向中央部に透孔を形成する。そして、前記両内側曲げ起こし板部の内側弾性押圧部を弾性変形させる為に要する力の低減を図る。
或いは、請求項7に記載した発明の様に、前記両外側曲げ起こし板部の外側湾曲部の径方向両端縁から径方向に延出すると共に先端部を前記プレッシャプレートに向け折り曲げて、外径側、内径側各弾性押圧板部とする。そして、これら各弾性押圧板部の先端部を前記内側弾性押圧部の径方向両端縁部に弾性的に当接させる事により、径方向に関する前記両シム板の位置関係が、前記各外径側、内径側各弾性押圧板部の弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わせる。
【0015】
更に、請求項8に記載した発明の場合には、前記両内側曲げ起こし板部は、前記内側シム板の内側本体部分の周方向両端寄り部分から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こして成る。
又、前記両外側曲げ起こし板部は、前記外側シム板の外側本体部分の周方向両端縁部から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こして成る。そして、前記両外側曲げ起こし板部は、前記外側本体部分の周方向両端縁から延出した延出部の基部を前記プレッシャプレートと反対側に向け折り曲げて成るもので、それぞれの先端寄り部分を、それぞれの先端縁が何れの部分とも連続しない自由端である周方向弾性押圧板部としている。
又、前記内側シム板の内側本体部分を前記プレッシャプレートの背面に重ね合わせ、更にこの内側本体部分の外面側に前記外側シム板の外側本体部分を重ね合わせた状態で、前記両外側曲げ起こし板部を構成する周方向弾性押圧板部により前記両内側曲げ起こし板部を、互いに近付く方向に弾性的に押圧する。
そして、前記外側シム板を前記内側シム板に対し、周方向に変位可能に、且つ、これら両シム板に外力が作用しない状態で、周方向に関するこれら両シム板の位置関係が、前記両周方向弾性押圧板部の弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わせる。
【0016】
上述の様な請求項8に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項9に記載した発明の様に、前記内側シム板の内側本体部分の径方向内寄り部分の周方向に離隔した2個所位置に一対の内径側内側曲げ起こし板部を、これら両位置から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こした状態で設ける。
又、前記外側シム板の外側本体部分の内周縁の周方向に離隔した2個所位置から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こされた、それぞれが径方向に離隔した一対ずつの内周縁側外側曲げ起こし板部により構成される、2組の径方向弾性押圧ユニットを備える。これら両径方向弾性押圧ユニットを構成する、それぞれ一対ずつの内周縁側外側曲げ起こし板部は、前記外側本体部分の内周縁の周方向に離隔した部分から延出した延出部の基部を前記プレッシャプレートと反対側に向け折り曲げる事に基づいて形成する。又、それぞれの先端寄り部分を、それぞれの先端縁が何れの部分とも連続しない自由端である径方向弾性押圧板部とすると共に、同じ径方向弾性押圧ユニットを構成する一対の径方向弾性押圧板部の先端部同士を径方向に重畳させる。
更に、前記内側シム板の内側本体部分を前記プレッシャプレートの背面に重ね合わせ、更にこの内側本体部分の外面側に前記外側シム板の外側本体部分を重ね合わせた状態で、前記両径方向弾性押圧ユニットを構成する一対ずつの径方向弾性押圧板部により前記両内周縁側内側曲げ起こし板部を、径方向両側から弾性的に押圧する。
そして、前記外側シム板を前記内側シム板に対し、径方向に変位可能に、且つ、これら両シム板に外力が作用しない状態で、径方向に関するこれら両シム板の位置関係が、前記両径方向弾性押圧ユニットを構成する径方向弾性押圧板部の弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わせる。
【発明の効果】
【0017】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキ用パッド組立体によれば、非制動状態、即ち、ピストンの先端面或いはキャリパ爪部の内側面である押圧面によりこのディスクブレーキ用パッド組立体をロータの側面に押し付けていない状態では、外側シム板を内側シム板に対し、常に周方向に変位可能な状態にできる。即ち、前記非制動状態では、この外側シム板の内外両側面と、前記内側シム板の外側面及び前記押圧面との当接部の面圧が、低下乃至は喪失する。この結果、一対の外側曲げ起こし板部の弾性変形により(更に、請求項5に記載した発明の場合には、それぞれ一対ずつの外側曲げ起こし板部及び内側曲げ起こし板部の弾性変形により)、前記外側シム板が前記内側シム板に対し、中立位置に移動する(戻される)。
【0018】
この状態から制動を行い、パッドのライニングとロータの側面との摩擦に基づくブレーキトルクにより、このパッドのプレッシャプレートと共に前記内側シム板が周方向に変位する傾向になると、前記外側曲げ起こし板部(請求項5に記載した発明の場合には前記外側曲げ起こし板部及び前記内側曲げ起こし板部)が弾性変形して(これら各曲げ起こし板部の弾性押圧部のうち、変位方向後側の一方が伸びると共に変位方向前側の他方が縮んで)前記外側シム板が前記内側シム板に対し、前記中立位置から周方向に関して何れかの方向に変位する。この結果、制動時に於ける前記パッドの姿勢を常に安定させる事ができて、制動時に於ける鳴きや偏摩耗を十分に緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、パッドの背面側で径方向外側から見た斜視図。
【図2】図1のa部拡大図。
【図3】同b部拡大図。
【図4】パッドと内側シム板と外側シム板とを組み合わせる以前の状態で、図1と同方向から見た斜視図。
【図5】組み合わせた後の状態でパッドの背面側から見た正投影図。
【図6】図5の右方から見た図。
【図7】同じく上方から見た図。
【図8】図7のc部拡大図。
【図9】プレッシャプレートの別形状を示す、パッドを背面側から見た正投影図。
【図10】図9のd部拡大図(A)及びe部拡大図(B)。
【図11】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図12】図11のf部拡大図。
【図13】同じくg部拡大図。
【図14】内側シム板を取り出して図11と同方向から見た斜視図。
【図15】組み合わせた後の状態でパッドの背面側から見た正投影図。
【図16】図15の右方から見た図。
【図17】同じく上方から見た図。
【図18】本発明の実施の形態の第3例を示す、図1と同様の図。
【図19】同じく、図4と同様の図。
【図20】組み合わせた後の状態でパッドの背面側から見た正投影図。
【図21】図20のh部拡大図。
【図22】同じくi部拡大図。
【図23】従来構造の1例を示す、図1と同様の図。
【図24】同じく組み合わせる以前の状態で示す斜視図。
【図25】同じく組み合わせた状態でパッドの背面側から見た正投影図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態の第1例]
図1〜8は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のディスクブレーキ用パッド組立体14は、パッド1と、内側シム板3aと、外側シム板4aとを備える。このうちのパッド1は、プレッシャプレート2aの前面にライニング6を添着固定して成る。そして、このプレッシャプレート2aの外径側周縁部の周方向中央部に外径側中央係止凹部15を、同じく周方向両側部分に一対の係止凸部16、16を、内径側周縁部の周方向中央部に内径側中央係止凹部17を、同じく周方向両端寄り部分に一対の段差部11、11を、それぞれ形成している。尚、前記内側シム板3aと前記外側シム板4aとは、前記プレッシャプレート2aに対して別個に装着する他、予め重ね合わせて、組み合わせシム板5aを構成する場合もある。前記プレッシャプレート2aに対して前記両シム板3a、4aを前後して組み付けても、或いは予め組み合わせた前記組み合わせシム板5aを装着しても、完成後の前記ディスクブレーキ用パッド組立体14の構造及び作用は全く同じである。従って、前記各構成部材1、3a、4aを組み合わせる順序が、本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。以下、構成各部に就いて説明する。
【0021】
先ず、前記内側シム板3aは、ステンレス鋼板等の耐食性を有する金属板により造られ、前記プレッシャプレート2aの背面に、周方向及び径方向の変位を制限された状態で添設されたもので、平板状の内側本体部分7aと、複数の内側係止片18a、18b、18cと、複数の透孔9、9と、一対の内側曲げ起こし板部19、19とを有する。これら両内側曲げ起こし板部19、19は、前記内側本体部分7aの周方向両端縁部から前記プレッシャプレート2aと反対側に、90度強折り曲げている。従って、前記両内側曲げ起こし板部19、19と前記内側本体部分7aとの成す角度は鋭角であり、これら両内側曲げ起こし板部19、19は、それぞれの先端縁に向かう(前記プレッシャプレート2aから離れる)程、互いに近づく方向に傾斜している。
【0022】
上述の様な前記内側シム板3aは、前記プレッシャプレート2aの背面に、直接組み付けている。この為に、前記各内側係止片18a、18b、18cのうちの外径側に設けた一対の内側係止片18a、18bを前記両係止凸部16、16の周方向両側に位置させると共に、内径側の内側係止片18cを前記内径側中央係止凹部17に係合させている。この状態で、これら各内側係止片18a、18b、18cのうちの、外周縁側の内側係止片18a、18bの先端部が前記プレッシャプレート2aの外周縁に、同じく内周縁側の内側係止片18cがこのプレッシャプレート2aの内周縁に、それぞれ弾性的に当接する。従って、前記内側シム板3aは前記プレッシャプレート2aの背面側に、周方向及び径方向の変位を制限された状態で組み付けられる。
【0023】
又、前記外側シム板4aは、ステンレスのばね鋼板等の耐食性及び弾性を有する金属板により造られ、前記内側シム板3aを介して前記プレッシャプレート2aの背面側に、周方向に関する若干の変位を可能に、且つ、径方向の変位を制限された状態で組み付けられる。この為に、前記外側シム板4aは、平板状の外側本体部分12aと、複数の外側係止片20a、20b、20cと、一対の外側曲げ起こし板部21、21とを有する。これら両外側曲げ起こし板部21、21は、それぞれ中間部をU字形に折り返したもので、基部22と、湾曲部23と、弾性押圧部24とを備える。このうちの基部22は、その基端縁部を前記外側本体部分12aの周方向端縁から前記プレッシャプレート2aと反対側に、ほぼ直角に折り曲げられたもので、前記外側本体部分12aと連続している。又、前記湾曲部23は、前記基部22の先端縁から周方向外側(前記両外側曲げ起こし板部21、21同士で互いに離れる方向)に、180度弱折り返されている。又、前記弾性押圧部24は、前記湾曲部23の先端縁にその基端縁を連続させたもので、その先端部に形成した先端曲げ部を除き、この湾曲部23の先端縁部から、この湾曲部23の接線方向に延出している。従って、前記両外側曲げ起こし板部21、21の弾性押圧部24、24同士の間隔は、それぞれの先端部に形成した先端曲げ部を除き、先端側に向かう(前記プレッシャプレート2aに近づく)程、互いに離れる方向に傾斜している。又、前記両外側曲げ起こし板部21、21の幅方向中央部には、前記基部22の先半部から前記湾曲部23を介して前記弾性押圧部24の基半部までの部分に透孔25を形成し、この弾性押圧部24を弾性変位し易くしている。
【0024】
上述の様な外側シム板4aは、前記内側シム板3aを介して、前記プレッシャプレート2aの背面側に組み付ける。この為に、前記各外側係止片20a、20b、20cのうち、外周縁側の外側係止片20aを、前記プレッシャプレート2aの外径側中央係止凹部15に係合させると共に、内周縁側の外側係止片20b、20cを、前記両段差部11、11同士の間部分で、前記プレッシャプレート2aの内周縁に係止する。前記各外側係止片20a、20b、20cとこのプレッシャプレート2aの周縁との係合に基づいて、前記外側シム板4aは前記プレッシャプレート2aに対し、前記各外側係止片20a、20b、20cの弾性変形分だけ、径方向に関して僅かに変位可能に支持される。同時に、前記両外側曲げ起こし板部21、21を、前記両内側曲げ起こし板部19、19同士の間に挟持する。この際、これら両外側曲げ起こし板部21、21を弾性変形させつつ、前記両弾性押圧部24、24を前記両内側曲げ起こし板部19、19同士の間に押し込む。
【0025】
押し込み後の状態で前記外側シム板4aは前記プレッシャプレート2aに対し、前記両外側曲げ起こし板部21、21の弾性変形に基づき、周方向に関する若干の変位を可能に支持される。この為に、前記外径側中央係止凹部15の周方向の幅を、前記外側係止片20aの周方向の幅よりも大きくしている。又、前記両段差部11、11の周方向の間隔を、前記両外側係止片20b、20cの周方向外側縁の、周方向の間隔よりも大きくしている。前記両外側曲げ起こし板部21、21の弾力は、周方向に関して互いに逆方向に作用するので、前記両シム板3a、4aに外力が作用しない状態で、周方向に関するこれら両シム板3a、4aの位置関係が、中立状態に復帰する。従って、このうちの外側シム板4aに関しては、非制動状態で、周方向に関して何れの方向にも変位可能な状態となる。又、前述した通り、前記両内側曲げ起こし板部19、19は、それぞれの先端縁に向かう程互いに近づく方向に傾斜しており、前記両弾性押圧部24、24同士の間隔は先端側に向かう程互いに離れる方向に傾斜している。この為、前記両内側曲げ起こし板部19、19と前記両弾性押圧部24、24との係合に基づいて、前記両シム板3a、4a同士が、不用意に分離する事はない。従って、これら両シム板3a、4aを組み合わせて成る、前記組み合わせシム板5aの取り扱い性を良好にできる。
【0026】
この組み合わせシム板5aを前記パッド1に組み付けて成る、前記ディスクブレーキ用パッド組立体14をディスクブレーキに組み付けて、このディスクブレーキにより制動を行うと、前記パッド1に対して前記外側シム板4aが確実に変位する。即ち、前記外側シム板4aの位置は、周方向に関し、非制動状態で前記内側シム板3aに対して中立位置に存在する。この状態から制動を行い、前記ディスクブレーキ用パッド組立体14を、押圧面(ピストンの先端面或いはキャリパ爪の内側面)とロータの側面との間で強く挟持すると、この押圧面と前記パッド1とが周方向にずれ動く傾向になる。この状態では、この押圧面により押圧される前記外側シム板4aが、前記パッド1のプレッシャプレート2aの背面側に添着された前記内側シム板3aに対し変位する。
【0027】
この変位の際、前記両外側曲げ起こし板部21、21のうち、前記外側シム板4aの変位方向前側の外側曲げ起こし板部21の円周方向寸法が弾性的に縮まり、同じく後側の外側曲げ起こし板部21の円周方向寸法が弾性的に拡がる。これら両外側曲げ起こし板部21、21の弾性は、前記透孔25の存在により低く抑えられている為、制動時に於ける、前記内側シム板3aに対する前記外側シム板4aの変位は、円滑に行われる。又、これら両シム板3a、4aの位置関係は、非制動時に中立状態であるから、制動方向に拘らず(前進時であるか後退時であるかを問わず)、前記両シム板3a、4a同士を変位させられる。この結果、前記パッド1の姿勢を安定させて、制動時に鳴きと呼ばれる、騒音を伴う振動が発生する事を抑えられる。
又、前記内側、外側各曲げ起こし板部19、21は、何れも前記両シム板3a、4aの周方向両端部に設けている為、これら各曲げ起こし板部19、21と、サポートやピストン、更にはキャリパとが干渉する事はない。従って、これら各曲げ起こし板部19、21が、ディスクブレーキの作動やパッドの交換作業に悪影響を及ぼす事はない。
【0028】
尚、本発明(本例及び後述する実施の形態の第2〜3例)を実施する場合に、好ましくは、前記プレッシャプレート2aの内外両周縁部の一部で、前記各外側係止片20a、20b、20cが当接する部分を、図9〜10に示す様に、部分円弧状の凸曲面34a、34bとする事が好ましい。前記各外側係止片20a、20b、20cと前記プレッシャプレート2aの内外両周縁部とを、前記各凸曲面34a、34b部分で当接させれば、このプレッシャプレート2aに対する、前記外側シム板4aの周方向変位を、円滑に行わせる事ができる。即ち、前記各外側係止片20a、20b、20cの周方向端縁と前記プレッシャプレート2aの内外両周縁部とが確実に離隔するので、これら各周方向端縁と内外両周縁部とが強く擦れ合う事がなくなる。又、前記各凸曲面34a、34bの中央部で、前記各外側係止片20a、20b、20cの周方向端縁と前記プレッシャプレート2aの内外両周縁部との当接部に、良好な油膜を形成できる。これらにより、前記プレッシャプレート2aに対する前記外側シム板4aの周方向変位を、円滑に行わせる事が可能になる。
【0029】
[実施の形態の第2例]
図11〜17は、請求項5〜7に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例のディスクブレーキ用パッド組立体14aは、パッド1と、内側シム板3bと、外側シム板4bとを備える。このパッド1を構成するプレッシャプレート2の外径側、内径側両周縁部には、前述の図23〜25に示した従来構造の場合と同様に、係止凹部10と一対の段差部11、11とをそれぞれ形成している。そして、前記内側シム板3bを前記プレッシャプレート2の背面側に、前記従来構造と同様、複数の内側係止片8a、8b、8cと、前記係止凹部10及び前記両段差部11、11との係合により、周方向及び径方向の変位を制限した状態で装着している。そして、前記外側シム板4bを前記内側シム板3aの背面側に、周方向及び径方向に関する、若干の変位を可能に、且つ、外力が作用しない状態で中立位置に復帰する様に支持している。
【0030】
この為に本例の場合には、前記内側シム板3bの内側本体部分7bの周方向両端縁部に設けた一対の内側曲げ起こし板部19a、19aと、前記外側シム板4bの外側本体部分12bの周方向両端縁部に設けた一対の外側曲げ起こし板部21a、21aとを、周方向及び径方向に、弾性的に係合させている。このうちの内側曲げ起こし板部19a、19aはそれぞれ、中間部をU字形に折り返して成るもので、内側基部26と、内側湾曲部27と、内側弾性押圧部28とを備える。このうちの内側基部26は、基端縁部を前記内側本体部分7bの周方向端縁に連続させたもので、この内側本体部分7bの周方向両端縁部から、前記プレッシャプレート2と反対側に、ほぼ90度折れ曲がっている。又、前記内側湾曲部27は、前記内側基部26の先端縁にその基端縁を連続させたもので、前記プレッシャプレート2の側に向けて、ほぼ180度折り返されている。更に、前記内側弾性押圧部28は、前記内側湾曲部27の先端縁にその基端縁を連続させたもので、この内側湾曲部27よりも幅広に形成している。又、前記内側基部26からこの内側湾曲部27に掛けての部分の幅方向中央部に透孔25aを形成して、周方向に関する前記内側弾性押圧部28の弾性を適度に低くしている。
【0031】
これに対して、前記両外側曲げ起こし板部21a、21aはそれぞれ、中間部をU字形に折り返して成るもので、外側基部29と、外側湾曲部30と、外側弾性押圧部31と、外径側弾性押圧部32と、内径側弾性押圧部33とを備える。このうちの外側基部29は、基端縁部を前記外側本体部分12bの周方向端縁に連続させたもので、この外側本体部分12bの周方向両端縁部から、前記プレッシャプレート2と反対側に、ほぼ90度折れ曲がっている。又、前記外側湾曲部30は、前記外側基部29の先端縁にその基端縁を連続させたもので、前記プレッシャプレート2の側に向けて、ほぼ180度折り返されている。又、前記外側弾性押圧部31は、前記外側湾曲部30の先端縁にその基端縁を連続させたもので、この外側湾曲部30とほぼ同じ幅寸法に形成している。前記両外側曲げ起こし板部21a、21aに関しては、前記外側弾性押圧部31の幅寸法を小さく抑えて、周方向に関するこの外側弾性押圧部31の弾性を適度に低くしている。更に、前記外径側、内径側各弾性押圧部32、33は、それぞれ前記外側湾曲部30の外径側、内径側両側縁から、径方向両側に延出している。前記外径側、内径側各弾性押圧部32、33の形状はそれぞれ略L字形で、径方向に突出してから、前記プレッシャプレート2の側に折れ曲がっている。又、同じ外側曲げ起こし板部21aに設けられた外径側、内径側両弾性押圧部32、33は、それぞれ径方向に対向しており、それぞれの先端部同士を互いに近付ける方向の弾力を有する。
【0032】
上述の様な外側シム板4bは、前記内側シム板3bを介して、前記プレッシャプレート2の背面側に組み付け、前記ディスクブレーキ用パッド組立体14aとする。このプレッシャプレート2に対する前記内側シム板3bの添着支持構造に就いては、前述の図23〜25に示した従来構造と同様である。特に、本例の場合には、この従来構造並びに前述した実施の形態の第1例の場合とは異なり、前記外側シム板4bを前記内側シム板3bの背面側部分に、前記両内側曲げ起こし板部19a、19aと前記両外側曲げ起こし板部21a、21aとの係合に基づいて支持している。前記外側シム板4bを前記プレッシャプレート2に直接係止する構造は設けていない。但し、図示は省略するが、前記外側シム板4bの内外両周縁部に前記プレッシャプレート2に向けて折れ曲がった外側係止片を設け、これら各外側係止片の先端部をこのプレッシャプレート2の内外両周縁部に弾性的に当接させる事もできる。
【0033】
図示の例の場合には、上述の様な外側係止片を設けずに、前記両内側曲げ起こし板部19a、19aと前記両外側曲げ起こし板部21a、21aとを係合させて、前記外側シム板4bを前記内側シム板3bに対し、周方向及び径方向に関して若干の相対変位を可能に、且つ、外力が働かない状態では中立位置に復帰する様に組み付けている。即ち、前記両内側曲げ起こし板部19a、19aの内側弾性押圧部28、28の周方向外側面(互いに反対側の側面)に、前記両外側曲げ起こし板部21a、21aの外側弾性押圧部31、31の周方向内側面(互いに対向する側面)を弾性的に当接させる。これにより、前記外側シム板4bを前記内側シム板3bに対し、周方向の相対変位を可能に支持している。同時に、前記両内側弾性押圧部28、28の外径側端縁に前記外径側弾性押圧部32、32の先端部を、同じく内径側端部に前記内径側弾性押圧部33、33の先端部を、それぞれ弾性的に当接させる。これにより、前記外側シム板4bを前記内側シム板3bに対し、径方向の相対変位を可能に支持している。尚、本例の場合には、これら両シム板4b、3bが周方向に相対変位する際に、内側、外側両弾性押圧部28、31が何れも弾性変形するので、周方向に関する相対変位量を多くでき、且つ、相対変位に要する力を低減できる。
【0034】
上述の様にして、前記外側シム板4bを前記内側シム板3bに支持すると、これら両シム板3b、4bに外力が作用しない状態で、周方向及び径方向に関するこれら両シム板3b、4bの位置関係が、中立状態に復帰する。従って、このうちの外側シム板4bに関しては、非制動状態で、周方向及び径方向に関して何れの方向にも変位可能な状態となる。この様な前記外側シム板4bと前記内側シム板3bとをパッド1に組み付けて成る前記ディスクブレーキ用パッド組立体14aをディスクブレーキに組み付けて、このディスクブレーキにより制動を行うと、前述した実施の形態の第1例と同様に、前記パッド1に対して前記外側シム板4bが確実に、且つ円滑に変位する。特に、本例の場合には、この外側シム板4bの変位を、周方向に限らず、径方向に関しても円滑に行わせる事ができる。この結果、前記パッド1の姿勢を安定させて、制動時に鳴きと呼ばれる、騒音を伴う振動が発生する事を抑えられる。
本例の構造は、前記両内側曲げ起こし板部19a、19a及び前記両外側曲げ起こし板部21a、21aの形状及び組み合わせ状態を前述した実施の形態の第1例と異ならせる代わりに外側係止片を省略し、その結果、前記外側シム板4bの径方向に関する変位の円滑化を向上させている。その他の部分の構成及び作用は、基本的には前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0035】
[実施の形態の第3例]
図18〜22は、請求項8、9に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、内側シム板3cの内側本体部分7cの周方向両端寄り部分に内側曲げ起こし板部19b、19bを、この内側本体部分7cからプレッシャプレート2aと反対側に曲げ起こす状態で形成している。前記両内側曲げ起こし板部19b、19bは、それぞれの中間部を折り返す事により、略U字形に構成しており、互いに平行である。
【0036】
又、ステンレスのばね鋼反の如き、耐食性及び弾性を有する金属板製である、外側シム板4cの周方向両端縁部にそれぞれ、この外側シム板4cの外側本体部分12cの周方向両端縁部から前記プレッシャプレート2aと反対側に曲げ起こされた、外側曲げ起こし板部21b、21bを設けている。これら両外側曲げ起こし板部21b、21bは、それぞれ、前記外側本体部分12cの周方向両端縁から延出した、L字形の延出部の基部を前記プレッシャプレート2aと反対側に向け折り曲げて成る。この様な、前記両外側曲げ起こし板部21b、21bは、径方向外端部に存在する基端部から径方向内方に向け延出しており、それぞれの先端寄り部分を、先端縁が何れの部分とも連続しない自由端である、周方向弾性押圧板部35としている。又、前記外側本体部分12cの周方向両端縁部のうち、前記両外側曲げ起こし板部21b、21bの基端部よりも径方向内側部分で、径方向位置が前記周方向弾性押圧板部35と整合する部分に、切り欠き部36、36を形成している。
【0037】
これら両切り欠き部36、36は、前記両内側曲げ起こし板部19b、19bに整合する部分に形成されており、前記内側シム板3cの内側本体部分7cを前記プレッシャプレート2aの背面に重ね合わせ、更にこの内側本体部分7cの外面側に前記外側シム板4cの外側本体部分12cを重ね合わせた状態で、前記両内側曲げ起こし板部19b、19bは前記両切り欠き部36、36の内側部分に存在する。又、前記両外側曲げ起こし板部21b、21bを構成する周方向弾性押圧板部35、35が、前記両内側曲げ起こし板部19b、19bの周方向外側面(互いに反対側の面)に当接する。この結果、これら両周方向弾性押圧板部35、35がこれら両内側曲げ起こし板部19b、19bを、互いに近付く方向に弾性的に押圧する。そして、前記外側シム板4cを前記内側シム板3cに対し、周方向に変位可能に、且つ、これら両シム板4c、3cに外力が作用しない状態で、周方向に関するこれら両シム板4c、3cの位置関係が、前記両周方向弾性押圧板部35、35の弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わせる。
【0038】
更に本例の場合には、前記両シム板4c、3cの径方向に関する位置関係にしても、外力が作用しない状態で中立位置に復帰する様にしている。この為に本例の場合には、前記内側シム板3cの内側本体部分7cの内径寄り部分のうちで、周方向に離隔した2個所位置(内周縁寄り部分の周方向両端部)に一対の内周縁側内側曲げ起こし板部37、37を、これら両位置から前記プレッシャプレート2aと反対側に曲げ起こした状態で設けている。前記両内周縁側内側曲げ起こし板部37、37は、それぞれの中間部を折り返す事により、略U字形に構成している。
【0039】
又、前記外側シム板4cの外側本体部分12cの内周縁の周方向に離隔した2個所位置に、2組の径方向弾性押圧ユニット38、38を設けている。これら両径方向弾性押圧ユニット38、38は、これら両径方向弾性押圧ユニット38、38毎に、それぞれが径方向に離隔した一対ずつの内周縁側外側曲げ起こし板部39a、39bにより構成している。又、これら各内周縁側外側曲げ起こし板部39a、39bは、前記外側本体部分12cの内周縁のうちで周方向に離隔した位置から径方向内方に延出された、それぞれがL字形の延出部を、前記プレッシャプレート2aと反対側に曲げ起こす事により構成している。前記各内周縁側外側曲げ起こし板部39a、39bは、それぞれの先端寄り部分を、それぞれの先端縁が何れの部分とも連続しない自由端である径方向弾性押圧板部40a、40bとしている。同じ径方向弾性押圧ユニット38、38を構成する一対の径方向弾性押圧板部40a、40bの先端部同士は、径方向に重畳すると共に、外力が作用しない状態で、互いに近付く方向の弾力を付与されている。
【0040】
本例の構造は、前記内側シム板3cの内側本体部分7cを前記プレッシャプレート2aの背面に重ね合わせ、更にこの内側本体部分7cの外面側に前記外側シム板4cの外側本体部分12cを重ね合わせた状態で、前述の様に、前記両内側曲げ起こし板部19b、19bと周方向弾性押圧板部35、35とを係合させる。同時に、前記両径方向弾性押圧ユニット38、38を構成する一対ずつの径方向弾性押圧板部40a、40bにより前記両内周縁側内側曲げ起こし板部37、37を、径方向両側から弾性的に押圧する。この状態で、前記外側シム板4cが前記内側シム板3cに対し、径方向に変位可能に、且つ、これら両シム板4c、3cに外力が作用しない状態で、径方向に関するこれら両シム板4c、3cの位置関係が、前記両径方向弾性押圧ユニット38、38を構成する各径方向弾性押圧板部40a、40bの弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わされる。
その他の部分の構成及び作用は、基本的には前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のディスクブレーキ用パッド組立体を構成するシム板の数は、2枚に限定されるものではない。3枚目のシム板(例えば中間シム板)を、プレッシャプレートと内側シム板との間、或いは内側シム板と外側シム板との間に挟持する構造に関して、本発明を実施する事もできる。
【符号の説明】
【0042】
1 パッド
2、2a プレッシャプレート
3、3a、3b、3c 内側シム板
4、4a、4b、4c 外側シム板
5、5a 組み合わせシム板
6 ライニング
7、7a、7b、7c 内側本体部分
8a、8b、8c 内側係止片
9 透孔
10 係止凹部
11 段差部
12、12a、12b、12c 外側本体部分
13a、13b、13c 外側係止片
14、14a ディスクブレーキ用パッド組立体
15 外径側中央係止凹部
16 係止凸部
17 内径側中央係止凹部
18a、18b、18c 内側係止片
19、19a、19b 内側曲げ起こし板部
20a、20b、20c 外側係止片
21、21a、21b 外側曲げ起こし板部
22 基部
23 湾曲部
24 弾性押圧部
25、25a 透孔
26 内側基部
27 内側湾曲部
28 内側弾性押圧部
29 外側基部
30 外側湾曲部
31 外側弾性押圧部
32 外径側弾性押圧部
33 内径側弾性押圧部
34a、34b 凸曲面
35 周方向弾性押圧板部
36 切り欠き部
37 内径側内側曲げ起こし板部
38 径方向弾性押圧ユニット
39a、39b 内周縁側外側曲げ起こし板部
40a、40b 径方向弾性押圧板部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレッシャプレートの前面にライニングを添着固定して成り、ロータの軸方向側面に対向する部分に配置されるパッドと、このパッドを構成するプレッシャプレートの背面に、周方向及び径方向の変位を制限された状態で添設された、平板状の内側本体部分を有する内側シム板と、この内側シム板に重ね合わされた、平板状の外側本体部分を有する外側シム板とを備えたディスクブレーキ用パッド組立体に於いて、
前記内側シム板の内側本体部分の周方向両端縁部から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こされた状態で設けられた、一対の内側曲げ起こし板部と、
前記外側シム板の外側本体部分の周方向両端縁部から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こされた、一対の外側曲げ起こし板部とを備え、
これら両外側曲げ起こし板部はそれぞれ、中間部をU字形に折り返されたもので、それぞれの基端縁部を前記外側本体部分の周方向端縁に連続させた基部と、この基部の先端縁にその基端縁を連続させた湾曲部と、この湾曲部の先端縁にその基端縁を連続させた弾性押圧部とを備えており、
前記内側本体部分を前記プレッシャプレートの背面に重ね合わせ、更にこの内側本体部分の外面側に前記外側本体部分を重ね合わせた状態で、前記両外側曲げ起こし板部の弾性押圧部の周方向外側面と前記両内側曲げ起こし板部の周方向内側面とを弾性的に当接させる事により、
前記外側シム板を前記内側シム板に対し、周方向に変位可能に、且つ、これら両シム板に外力が作用しない状態で、周方向に関するこれら両シム板の位置関係が、前記両外側曲げ起こし板部の弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わせている事を特徴とするディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項2】
前記両シム板の径方向両端縁から前記プレッシャプレートの側に折れ曲がった径方向折れ曲がり板部を、このプレッシャプレートの内外両周縁部に係合させる事により、このプレッシャプレートに対する前記両シム板の、径方向に関する位置決めを図っている、請求項1に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項3】
前記両外側曲げ起こし板部の中間部で、少なくとも前記湾曲部を含む部分の幅方向中央部に透孔を形成する事により、前記両外側曲げ起こし板部の弾性押圧部を弾性変形させる為に要する力の低減を図っている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項4】
前記内側本体部分に対して前記両内側曲げ起こし板部を、90度を超えて折り曲げる事により、この内側本体部分とこれら両内側曲げ起こし板部との成す角度を鋭角とすると共に、前記両外側曲げ起こし板部の弾性押圧部のうちでこれら両内側曲げ起こし板部の周方向内側面と当接する部分を前記湾曲部の先端縁よりも周方向外方に突出させて、前記両外側曲げ起こし板部の弾性押圧部と前記両内側曲げ起こし板部の周方向内側面との係合に基づき、前記両シム板同士の分離防止を図っている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項5】
プレッシャプレートの前面にライニングを添着固定して成り、ロータの軸方向側面に対向する部分に配置されるパッドと、このパッドを構成するプレッシャプレートの背面に、周方向及び径方向の変位を制限された状態で添設された、平板状の内側本体部分を有する内側シム板と、この内側シム板に重ね合わされた、平板状の外側本体部分を有する外側シム板とを備えたディスクブレーキ用パッド組立体に於いて、
前記内側シム板の内側本体部分の周方向両端縁部から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こされた状態で設けられた、一対の内側曲げ起こし板部と、
前記外側シム板の外側本体部分の周方向両端縁部から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こされた、一対の外側曲げ起こし板部とを備え、
前記両内側曲げ起こし板部はそれぞれ、中間部をU字形に折り返されたもので、それぞれの基端縁部を前記内側本体部分の周方向端縁に連続させた内側基部と、この内側基部の先端縁にその基端縁を連続させた内側湾曲部と、この内側湾曲部の先端縁にその基端縁を連続させた内側弾性押圧部とを備えており、
前記両外側曲げ起こし板部はそれぞれ、中間部をU字形に折り返されたもので、それぞれの基端縁部を前記外側本体部分の周方向端縁に連続させた外側基部と、この外側基部の先端縁にその基端縁を連続させた外側湾曲部と、この外側湾曲部の先端縁にその基端縁を連続させた外側弾性押圧部とを備えており、
前記内側本体部分を前記プレッシャプレートの背面に重ね合わせ、更にこの内側本体部分の外面側に前記外側本体部分を重ね合わせた状態で、前記両外側曲げ起こし板部の外側弾性押圧部の周方向内側面と前記両内側弾性押圧部の周方向外側面とを弾性的に当接させる事により、
前記外側シム板を前記内側シム板に対し、周方向に変位可能に、且つ、これら両シム板に外力が作用しない状態で、周方向に関するこれら両シム板の位置関係が、前記両外側曲げ起こし板部の弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わせている事を特徴とするディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項6】
前記内側曲げ起こし板部の中間部で、少なくとも前記内側湾曲部を含む部分の幅方向中央部に透孔を形成する事により、前記両内側曲げ起こし板部の内側弾性押圧部を弾性変形させる為に要する力の低減を図っている、請求項5に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項7】
前記両外側曲げ起こし板部の外側湾曲部の径方向両端縁から径方向に延出すると共に先端部を前記プレッシャプレートに向け折り曲げて、外径側、内径側各弾性押圧板部とし、これら各弾性押圧板部の先端部を前記内側弾性押圧部の径方向両端縁部に弾性的に当接させる事により、径方向に関する前記両シム板の位置関係が、前記各外径側、内径側各弾性押圧板部の弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わせている、請求項5〜6のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項8】
プレッシャプレートの前面にライニングを添着固定して成り、ロータの軸方向側面に対向する部分に配置されるパッドと、このパッドを構成するプレッシャプレートの背面に、周方向及び径方向の変位を制限された状態で添設された、平板状の内側本体部分を有する内側シム板と、この内側シム板に重ね合わされた、平板状の外側本体部分を有する外側シム板とを備えたディスクブレーキ用パッド組立体に於いて、
前記内側シム板の内側本体部分の周方向両端寄り部分から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こされた状態で設けられた、一対の内側曲げ起こし板部と、
前記外側シム板の外側本体部分の周方向両端縁部から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こされた、一対の外側曲げ起こし板部とを備え、
これら両外側曲げ起こし板部は、前記外側本体部分の周方向両端縁から延出した延出部の基部を前記プレッシャプレートと反対側に向け折り曲げて成るもので、それぞれの先端寄り部分を、それぞれの先端縁が何れの部分とも連続しない自由端である周方向弾性押圧板部としており、
前記内側シム板の内側本体部分を前記プレッシャプレートの背面に重ね合わせ、更にこの内側本体部分の外面側に前記外側シム板の外側本体部分を重ね合わせた状態で、前記両外側曲げ起こし板部を構成する周方向弾性押圧板部により前記両内側曲げ起こし板部を、互いに近付く方向に弾性的に押圧する事によって、
前記外側シム板を前記内側シム板に対し、周方向に変位可能に、且つ、これら両シム板に外力が作用しない状態で、周方向に関するこれら両シム板の位置関係が、前記両周方向弾性押圧板部の弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わせている事を特徴とするディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項9】
前記内側シム板の内側本体部分の内径寄り部分の周方向に離隔した2個所位置から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こされた状態で設けられた、一対の内径側内側曲げ起こし板部と、
前記外側シム板の外側本体部分の内周縁の周方向に離隔した2個所位置から前記プレッシャプレートと反対側に曲げ起こされた、それぞれが径方向に離隔した一対ずつの内周縁側外側曲げ起こし板部により構成される、2組の径方向弾性押圧ユニットとを備え、
これら両径方向弾性押圧ユニットを構成する、それぞれ一対ずつの内周縁側外側曲げ起こし板部は、前記外側本体部分の内周縁の周方向に離隔した部分から延出した延出部の基部を前記プレッシャプレートと反対側に向け折り曲げる事に基づいて形成されたもので、それぞれの先端寄り部分を、それぞれの先端縁が何れの部分とも連続しない自由端である径方向弾性押圧板部とすると共に、同じ径方向弾性押圧ユニットを構成する一対の径方向弾性押圧板部の先端部同士を径方向に重畳させており、
前記内側シム板の内側本体部分を前記プレッシャプレートの背面に重ね合わせ、更にこの内側本体部分の外面側に前記外側シム板の外側本体部分を重ね合わせた状態で、前記両径方向弾性押圧ユニットを構成する一対ずつの径方向弾性押圧板部により前記両内周縁側内側曲げ起こし板部を、径方向両側から弾性的に押圧する事によって、
前記外側シム板を前記内側シム板に対し、径方向に変位可能に、且つ、これら両シム板に外力が作用しない状態で、径方向に関するこれら両シム板の位置関係が、前記両径方向弾性押圧ユニットを構成する径方向弾性押圧板部の弾力に基き、中立位置に復帰する状態で組み合わせている、請求項8に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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