説明

ディスクブレーキ用パッド

【課題】ディスクブレーキ用パッドにて、裏板での軽量化を十分に図ること。
【解決手段】ディスクブレーキ用パッド10は、摩擦材11と、この摩擦材11の裏面を支持する裏板12を有していて、裏板12の周方向両端部には一対の耳部12a1・12a2がそれぞれ設けられている。裏板12は、耳部12a1・12a2を有して摩擦材11を支持する樹脂製の本体12aと、この本体12aの周方向両端部にそれぞれ一体的に設けられていて耳部12a1・12a2の周囲面SLa・STaとこれに連なる本体12aの周方向端面SLb、SLc・STb、STcを被覆保護する金属製の保護板12b・12cとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ用パッドに関し、特に、摩擦材と、この摩擦材の裏面を支持する裏板を有していて、前記裏板の周方向両端部に一対の耳部をそれぞれ有しているディスクブレーキ用パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディスクブレーキ用パッドは、例えば、下記特許文献1に示されていて、裏板が、一対の耳部とこれらを連結する連結部を有している金属製の金属部材と、この金属部材に一体的に組付けられている樹脂製の本体を備えている。なお、一対の耳部は、当該パッドを支持する支持体に対して、ロータ軸方向に移動可能に組付けられるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−120699号公報
【発明の概要】
【0004】
上記した特許文献1に記載されているディスクブレーキ用パッドでは、裏板が一対の耳部とこれらを連結する連結部を有している金属製の金属部材を備えていて、一対の耳部が金属製であるため、裏板での軽量化を十分に図ることが難しい。
【0005】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、
摩擦材と、この摩擦材の裏面を支持する裏板を有していて、前記裏板の周方向両端部に一対の耳部をそれぞれ有しているディスクブレーキ用パッドであって、
前記裏板は、前記耳部を有して前記摩擦材を支持する樹脂製の本体(例えば、強化繊維を含む熱硬化性樹脂によって形成されている)と、この本体の周方向両端部にそれぞれ一体的に設けられていて前記耳部の周囲面(表面と裏面を除く部分)とこれに連なる前記本体の周方向端面を被覆保護する金属製の保護板(例えば、ステンレス鋼板等の防錆金属板によって構成されている)とを備えているディスクブレーキ用パッド
に特徴がある。
【0006】
本発明のディスクブレーキ用パッドでは、裏板における樹脂製の本体が一対の耳部を有していて、裏板における金属製の保護板を、耳部の周囲面とこれに連なる本体の周方向端面を被覆保護する金属板(薄板)によって構成することが可能である。このため、裏板での軽量化を十分に図ることができる。しかも、当該パッドにおいては、金属製の保護板によって、樹脂製の本体における耳部の周囲面と周方向端面を必要十分に保護することができて、これらにおいて所望の性能を得るための強度を確保することが可能である。
【0007】
上記した本発明の実施に際して、前記各保護板は、前記裏板の厚みをその幅とする短冊状の金属板を、前記本体における前記耳部の周囲面と前記周方向端面に沿うように折り曲げることにより形成されていることも可能である。この場合には、裏板の重量において、保護板の重量が占める割合を、本体の重量が占める割合に比して十分に少なくすることが可能であり、これによっても軽量化を図ることができる。なお、短冊状の金属板の幅は、裏板の厚みと同一でなくてもよく、例えば、裏板の厚みより僅かに小さくてもよい。
【0008】
また、本発明の実施に際して、前記各保護板は、一枚の金属板の各端部を折り曲げることにより形成されていることも可能である。この場合には、各保護板を別個の構成とする場合に比して、当該裏板の構成部品点数を低減することができて、当該裏板の製作性を向上させることが可能である。なお、各保護板を一枚の金属板で形成する場合において、この一枚の金属板にて樹脂製の本体の周囲面と裏面を被覆することも可能である。この場合には、金属板における本体の裏面を被覆する部位を、ブレーキ鳴き防止シムとして機能させることも可能である。
【0009】
また、本発明の実施に際して、何れか一方(車両用ディスクブレーキではディスクロータが前進回転するときのリーディング(回入)側が望ましい)の前記保護板には、前記裏板を周方向(トレーリング(回出)側)に付勢するバネ部が一体的に形成されていることも可能である。この場合には、制動時のパッド打音(パッドの裏板がパッド支持体に当接する際に生じる音)を防止することが可能である。この場合において、前記バネ部の先端は、前記摩擦材の厚み方向に所定量延出していることも可能である。この場合には、バネ部にライニング摩耗警報機能(摩擦材が摩耗限界に達したとき、バネ部の先端がディスクロータに接して警報音を発生させる機能)を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によるディスクブレーキ用パッドの一実施形態を含む浮動型ディスクブレーキの一例(可動キャリパは図示省略されている)を示した側面図である。
【図2】図1に示したディスクブレーキ用パッド(インナー側のパッド)における裏板(樹脂製の本体は仮想線にて示されている)の斜視図である。
【図3】本発明によるディスクブレーキ用パッドにおける裏板(樹脂製の本体は図示省略されている)の変形実施形態を示した斜視図である。
【図4】図3のA部拡大図である。
【図5】図3のB部拡大図である。
【図6】図3のC部拡大図である。
【図7】図3に示した保護板の展開図(成形前の状態を示した図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1および図2は本発明によるディスクブレーキ用パッドの一実施形態を示していて、図1では、車両用の浮動型(可動キャリパ型)ディスクブレーキに本発明によるディスクブレーキ用パッド10(以下、実施形態では、単にパッドという)が適用されている。なお、図1は当該ディスクブレーキをインナー側から見たものであり、支持体である周知のマウンティング20は図示されているが、各パッド10をディスクロータ30に向けて押動・押圧する可動キャリパ(ピストンを含む)は図示省略されている。また、図1では、ディスクロータ30が仮想線にて示されている。このディスクロータ30は、車輪の前進回転時に、車輪と一体的に図1時計回転方向に回転(正回転)する。このため、この実施形態では、図1の左方側が回入側(リーディング側)となり、図1の右方側が回出側(トレーリング側)となる。
【0012】
各パッド10は、ディスクロータ30の一部を挟むように対向配置されていて、図1に示したインナー側のパッド10と、これに対して面対称に形成されていて図1では図示省略されているアウター側のパッド(10)によって構成されている。また、各パッド10は、摩擦材(ライニング)11と、この摩擦材11の裏面を支持する裏板12を有していて、裏板12の周方向両端部(図1の左右両端部)には一対の耳部12a1・12a2が形成されている。
【0013】
摩擦材11は、それ自体周知のものであり、図1にて破線で示されていて、制動時には、ディスクロータ30の環状被制動面に摺動可能に係合して、ディスクロータ30の回転を制動する。なお、摩擦材11は、図1にて破線で示されているが、図2では図示省略されている。
【0014】
裏板12は、図1および図2に示したように、樹脂製の本体12aと、金属製の保護板12b・12cを備えている。樹脂製の本体12aは、摩擦材11を支持するものであり、左右一対で凸状の耳部12a1・12a2を有していて、例えば、強化繊維を含む熱硬化性樹脂によって形成されている。なお、本体12aは、パッド成形型(図示省略)に一対の保護板12b・12cをセットした状態で、上記した樹脂を流し込むことにより製作されている。
【0015】
図1左方で図2右方(リーディング側)の保護板12bは、裏板12の厚みTをその幅Wとする短冊状の金属板(例えば、ステンレス鋼板等の防錆金属薄板)を本体12aにおける一方(リーディング側)の耳部12a1の周囲面SLa(耳部12a1の表面と裏面を除く部分)とこれに連なる周方向端面SLb、SLcに沿うように折り曲げることにより形成されている。これにより、保護板12bは、本体12aにおける一方の耳部12a1の周囲面SLaとこれに連なる周方向端面SLb、SLcを被覆保護している。
【0016】
なお、この実施形態では、樹脂製の本体12aにおける内周側の周方向端面SLbが、制動時のトルク受け面とされている。また、この実施形態では、保護板12bが、本体12aにおける耳部12a1の周囲面SLaを囲んで被覆保護する中間部12b1と、本体12aにおける内周側の周方向端面SLbを被覆保護する内周部12b2と、本体12aにおける外周側の周方向端面SLcを被覆保護する外周部12b3を備えている。
【0017】
また、保護板12bには、裏板12(パッド10)を周方向(トレーリング側)に付勢するバネ部12b4が一体的に形成されている。バネ部12b4は、保護板12bにおける中間部12b1の裏面側端から延びていて、裏板12の裏面に沿うようにU字状に折り曲げられるとともに、裏板12の耳部12a1に沿うようにディスクロータ30に向けてL字状に折り曲げられていて、その先端12b4aは、摩擦材11の厚み方向(ロータ軸方向)に所定量延出している。
【0018】
一方、図1右方で図2左方(トレーリング側)の保護板12cは、上記したリーディング側の保護板12bと一部(バネ部12b4)を除いて同様に構成されていて、裏板12の厚みTをその幅Wとする短冊状の金属板(薄板)を本体12aにおける他方(トレーリング側)の耳部12a2の周囲面STa(表面と裏面を除く部分)とこれに連なる周方向端面STb、STcに沿うように折り曲げることにより形成されている。これにより、保護板12cは、本体12aにおける他方の耳部12a2の周囲面STaとこれに連なる周方向端面STb、STcを被覆保護している。
【0019】
なお、この実施形態では、樹脂製の本体12aにおける内周側の周方向端面STbが、制動時のトルク受け面とされている。また、この実施形態では、保護板12cが、本体12aにおける耳部12a2の周囲面STaを囲んで被覆保護する中間部12c1と、本体12aにおける内周側の周方向端面STbを被覆保護する内周部12c2と、本体12aにおける外周側の周方向端面STcを被覆保護する外周部12c3を備えている。
【0020】
各耳部12a1・12a2は、図1に示したように、各保護板12b・12cによって被覆保護された状態にて、マウンティング20の各溝部20a・20bに各パッド保持プレート21・22を介して組付けられている。このため、各パッド10は、マウンティング20に対してロータ軸方向に摺動可能に組付けられている。
【0021】
上記のように構成したこの実施形態では、各パッド10において、裏板12における樹脂製の本体12aが一対の耳部12a1・12a2を有していて、裏板12における金属製の保護板12b・12cを、耳部12a1・12a2の周囲面SLa・STaとこれに連なる本体12aの周方向端面SLb、SLc・STb、STcを被覆保護する金属板(薄板)によって構成することが可能である。このため、裏板12での軽量化を十分に図ることができる。しかも、当該パッド10においては、金属製の保護板12b・12cによって、樹脂製の本体12aにおける耳部12a1・12a2の周囲面SLa・STaと周方向端面SLb、SLc・STb、STc(周方向端面SLb・STbはトルク受け面である)を必要十分に保護することができて、これらにおいて所望の性能を得るための強度を確保することが可能である。
【0022】
また、この実施形態においては、各保護板12b・12cが、裏板12の厚みTをその幅Wとする短冊状の金属板を、樹脂製の本体12aにおける耳部12a1・12a2の周囲面SLa・STaと周方向端面SLb、SLc・STb、STcに沿うように折り曲げることにより形成されている。このため、裏板12の重量において、保護板12b・12cの重量が占める割合を、本体12aの重量が占める割合に比して十分に少なくすることが可能であり、これによっても軽量化を図ることができる。
【0023】
また、この実施形態では、ディスクロータ30が前進回転するときのリーディング(回入)側の保護板12bに、裏板12をトレーリング(回出)側に付勢するバネ部12b4が一体的に形成されている。このため、制動時のパッド打音(パッド10の裏板12がパッド支持体でもあるマウンティング20に当接する際に生じる音)を防止することが可能である。
【0024】
また、この実施形態では、上記したバネ部12b4の先端12b4aが、摩擦材11の厚み方向に所定量延出している。このため、バネ部12b4にライニング摩耗警報機能(摩擦材11が摩耗限界に達したとき、バネ部12b4の先端12b4aがディスクロータ30に接して警報音を発生させる機能)を持たせることができる。
【0025】
上記した実施形態においては、樹脂製の本体12aにおける内周側の周方向端面SLb・STbが、制動時のトルク受け面とされているため、これらのトルク受け面は各保護板12b、12cによって被覆保護する必要がある。しかし、樹脂製の本体12aにおける外周側の周方向端面SLc・STcは、制動時のトルク受け面ではないため、これらは各保護板12b・12cによって被覆保護する必要はない。したがって、各保護板12b・12cの該当部位(12b3・12c3)は無くして実施することも可能である。
【0026】
また、上記した実施形態においては、図1および図2に示したように、一対の保護板12b、12cによって、樹脂製の本体12aにおける要部を被覆保護するように構成して実施したが、図3〜図7に示した実施形態のように、一枚の金属板の各端部を折り曲げることにより形成されている保護板112aによって樹脂製の本体(12a)における要部を被覆保護するように構成して実施することも可能である。
【0027】
図3〜図7に示した保護板112aは、リーディング側の保護板部112bと、トレーリング側の保護板部112cと、内周側の保護板部112dと、外周側の保護板部112eと、裏面側の保護板部112fを備えている。リーディング側の保護板部112bは、上記実施形態の保護板12bと同様に構成されていて、樹脂製の本体における耳部の周囲面(SLa)を囲んで被覆保護する中間部分112b1と、樹脂製の本体における内周側の周方向端面(SLb)を被覆保護する内周部分112b2と、樹脂製の本体における外周側の周方向端面(SLc)を被覆保護する外周部分112b3を備えるとともに、裏板(パッド)を周方向(トレーリング側)に付勢するバネ部分112b4(先端112b4aは摩擦材の厚み方向に所定量延出している)を備えている。
【0028】
一方、トレーリング側の保護板部112cは、上記実施形態の保護板12cと同様に構成されていて、樹脂製の本体における耳部の周囲面(STa)を囲んで被覆保護する中間部分112c1と、樹脂製の本体における内周側の周方向端面(STb)を被覆保護する内周部分112c2と、樹脂製の本体における外周側の周方向端面(STc)を被覆保護する外周部分12c3を備えている。
【0029】
内周側の保護板部112dは、樹脂製の本体における内周端面に沿う形状に形成されていて、強度アップのために裏板の厚み方向の中間部位にて山折りされている(図5参照)。外周側の保護板部112eは、樹脂製の本体における外周端面に沿う形状に形成されていて、強度(枠の強度)アップのために周方向端部に一対の爪部112e1・112e2が設けられている(図4参照)。裏面側の保護板部112fは、樹脂製の本体における裏面に沿う形状に形成されていて、強度(裏板の曲げ剛性)アップのために二本の切起リブ112f1・112f2が形成されている(図6参照)。
【0030】
図3〜図7に示した実施形態では、上記した実施形態(保護板12b・12cを別個の構成とする場合)に比して、当該裏板の構成部品点数を低減することができて、当該裏板の製作性を向上させることが可能である。また、この場合(一枚の金属板で保護板を形成する場合)においては、金属板における本体の背面を被覆する部位(112f)を、ブレーキ鳴き防止シムとして機能させることも可能である。
【符号の説明】
【0031】
10…ディスクブレーキ用パッド、11…摩擦材、12…裏板、12a…樹脂製の本体、12a1・12a2…耳部、12b・12c…保護板、12b4…バネ部、12b4a…先端、20…マウンティング、20a・20b…各溝部、21・22…パッド保持プレート、30…ディスクロータ、SLa・STa…耳部の周囲面、SLb・STb…内周側の周方向端面、SLc・STc…外周側の周方向端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材と、この摩擦材の裏面を支持する裏板を有していて、前記裏板の周方向両端部に一対の耳部をそれぞれ有しているディスクブレーキ用パッドであって、
前記裏板は、前記耳部を有して前記摩擦材を支持する樹脂製の本体と、この本体の周方向両端部にそれぞれ一体的に設けられていて前記耳部の周囲面とこれに連なる前記本体の周方向端面を被覆保護する金属製の保護板とを備えているディスクブレーキ用パッド。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキ用パッドにおいて、
前記各保護板は、前記裏板の厚みをその幅とする短冊状の金属板を前記本体における前記耳部の周囲面と前記周方向端面に沿うように折り曲げることにより形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用パッド。
【請求項3】
請求項1に記載のディスクブレーキ用パッドにおいて、
前記各保護板は、一枚の金属板の各端部を折り曲げることにより形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用パッド。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のディスクブレーキ用パッドにおいて、
何れか一方の前記保護板には、前記裏板を周方向に付勢するバネ部が一体的に形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用パッド。
【請求項5】
請求項4に記載のディスクブレーキ用パッドにおいて、
前記バネ部の先端は、前記摩擦材の厚み方向に所定量延出していることを特徴とするディスクブレーキ用パッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−87926(P2013−87926A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231818(P2011−231818)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】