説明

ディスクブレーキ装置

【課題】インナーディスク手段の両面にブレーキライニングを備えたものにおいて、発熱検出センサよりも早く解放不具合を発見することができるディスクブレーキ装置の提供。
【解決手段】ディスクブレーキ装置1は、回転可能に支持されたインナーディスク19と、インナーディスクの対応する面と対面して設けられたアウターディスク21及びアマチュア23と、インナーディスク19の対応する面に設けられて一体に回転する一対の一対のブレーキライニング9a,9bと、一対の投光手段11,13と、一対の受光手段15,17とを含む。第1の投光手段11及び第1の受光手段15は、ブレーキ解放状態のアウターディスクとブレーキライニング9aとの隙間を介して、投受光を行う。第2の投光手段13及び第2の受光手段17は、ブレーキ解放状態のアマチュアとブレーキライニング9bとの隙間を介して、投受光を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置に関するものであり、特に、インナーディスクの両面にブレーキライニングが設けられたディスクブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ装置として、アウターディスクとアマチュアとの間にインナーディスクが配置され、そのインナーディスクの両面にブレーキライニングが設けられたディスクブレーキ装置がある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようなディスクブレーキ装置では、電磁コイルから生じる磁力で、アマチュアをアウターディスクと離れる向きに移動させ、それによって、インナーディスクのブレーキライニングに生じる摩擦力が解放され、すなわち、ブレーキが解放されるようになっていた。また、このようなディスクブレーキ装置では、適正にブレーキ解放されない場合に備え、クリクソンセンサ(発熱検出センサ)が設置されており、ブレーキ解放がうまく実現していない場合に摩擦によって生じる熱を監視していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−40339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したディスクブレーキ装置では、クリクソンセンサによりブレーキ解放がうまく実現していないことが検出されたとしても、その時点では既に、かなりの摩耗や損傷が進行してしまっており、各部交換作業が必要な状態にまで至っていることが多かった。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、インナーディスクの両面にブレーキライニングを備えたものにおいて、発熱検出センサよりも早く解放不具合を発見することができるディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明のディスクブレーキ装置は、回転可能に支持されたインナーディスク手段と、前記インナーディスク手段の対応する面と対面するように設けられた一対の当接体と、前記インナーディスク手段の対応する面に設けられ、該インナーディスク手段と一体に回転する一対のブレーキライニングと、少なくとも一対の投光手段と、少なくとも一対の受光手段とを含み、第1の前記投光手段及び第1の前記受光手段は、ブレーキ解放状態の第1の前記当接体と第1の前記ブレーキライニングとの隙間を介して、投受光を行い、第2の前記投光手段及び第2の前記受光手段は、ブレーキ解放状態の第2の前記当接体と第2の前記ブレーキライニングとの隙間を介して、投受光を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明のディスクブレーキ装置によれば、インナーディスク手段の両面にブレーキライニングを備えたものにおいて、発熱検出センサよりも早く解放不具合を発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係るディスクブレーキ装置の平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面を示す図である。
【図3】図2と同態様であって、解放状態のディスクブレーキ装置を示す図である。
【図4】図2と同態様であって、ライニング接触不具合の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施の形態について添付図面に基づいて説明する。図中、同一符号は同一又は対応部分を示すものとする。なお、図面における、解放時のブレーキライニングとアウターディスク・アマチュアとの隙間、並びに、制動時のアマチュアとコアとの隙間は、図の明瞭性を高め説明の理解を助ける目的で、実際よりも極めて大きく誇張して図示している。
【0011】
図1は、本実施の形態に係るディスクブレーキ装置の平面図であり、図2は、図1のII−II線に沿う断面を示す図であって、制動状態のディスクブレーキ装置を示す図である。図3は、図2と同態様であって、解放状態のディスクブレーキ装置を示す図である。
【0012】
本実施の形態に係るディスクブレーキ装置1は、エスカレータ等のコンベア装置における駆動機に対して設けられるものであり、ブレーキ装置コア3と、インナーディスク手段5と、一対の当接体7a,7bと、一対のブレーキライニング9a,9bと、少なくとも一対の投光手段11,13と、少なくとも一対の受光手段15,17とを含んでいる。
【0013】
インナーディスク手段5は、回転可能に支持されている。一対の当接体7a,7bはそれぞれ、インナーディスク手段5の対応する面と対面するように設けられている。一対のブレーキライニング9a,9bはそれぞれ、インナーディスク手段5の対応する面に設けられ、インナーディスク手段5と一体に回転するように設けられている。インナーディスク手段5は、本実施の形態では、一枚のインナーディスク19で構成されている。
【0014】
第1の当接体7aは、アウターディスク21で構成されている。アウターディスク21は、締結手段によってブレーキ装置コア3に固定されている。第2の当接体7bは、ブレーキ装置コアに対して可動に設けられたアマチュア23で構成されている。アマチュア23は、口述する回転軸CLが延びる方向にそってスライド可能に設けられている。アマチュア23には、ブレーキ装置コア3に設けられたスプリング25によって、アウターディスク21に近づく向きに付勢される弾性力が常時付与されている。また、アマチュア23におけるアウターディスク21との逆側、すなわち、ブレーキ装置コア3には、電磁コイル27が設けられている。
【0015】
少なくとも一対の投光手段11,13、及び、少なくとも一対の受光手段15,17は、それぞれ、本実施の形態では、二組設けられている。各組の第1の投光手段11及び第1の受光手段15は、ブレーキ解放状態(図3の状態)のアウターディスク21と第1のブレーキライニング9aとの隙間31aを介して、投受光を行うことができるようになっている。各組の第2の投光手段13及び第2の受光手段17は、ブレーキ解放状態(図3の状態)のアマチュア23と第2のブレーキライニング9bとの隙間31bを介して、投受光を行うことができるようになっている。
【0016】
また、一方の一組の第1の投光手段11(符号11aでも図示)及び第1の受光手段15(符号15aでも図示)、並びに、一方の一組の第2の投光手段13(符号13aでも図示)及び第2の受光手段17(符号17aでも図示)は、インナーディスク19の回転軸CL方向からみて回転軸CLの一方側(図1においてみて上半分側)に配置されている。また、他方の一組の第1の投光手段11(符号11bでも図示)及び第1の受光手段15(符号15bでも図示)、並びに、他方の一組の第2の投光手段13及び第2の受光手段17は、回転軸CL方向からみて回転軸CLの他方側(図1においてみて下半分側)に配置されている。
【0017】
一例であるが、一つの投光手段11は、弧状に配列された三つの投光器で構成されており、一つの投光手段13もまた、弧状に配列された三つの投光器で構成されている。また、一つの受光手段15は、弧状に配列された三つの受光器で構成されており、一つの受光手段17もまた、弧状に配列された三つの受光器で構成されている。さらに、一例であるが、本実施の形態では、投光器はそれぞれ、高輝度LEDで構成されている。一方、受光器はそれぞれ、フォトダイオード、フォトトランジスタ・CdS等の光センサで構成されている。
【0018】
次に、本実施の形態に係るディスクブレーキ装置の作用について説明する。まず、電磁コイル27への給電がなされていない状態では、電磁コイル27の電磁力による吸引力が生じていないことから、アマチュア23は、図2に示されるように、スプリング25の弾性力によって、アウターディスク21に向けて押し付けられている。すなわち、一方のブレーキライニング9aはアウターディスク21に接触し、他方のブレーキライニング9bはアマチュア23に接触している。これらの接触による摩擦力によって、インナーディスク19は制動作用を受け、ディスクブレーキ装置1は制動状態にある。
【0019】
一方、電磁コイル27への給電がなされると、電磁コイル27の電磁力によって、アマチュア23がブレーキ装置コア3に向けて吸引される。よって、アマチュア23は、図3に示されるように、スプリング25の弾性力に抗してブレーキ装置コア3に当接する。これによって、アマチュア23とアウターディスク21との間隔が広がり、それらの間にあるインナーディスク19は、一対のブレーキライニング9a,9bがアウターディスク21やアマチュア23と接触しないような位置をとることができるようになる。すなわち、一対のブレーキライニング9a,9bと、アウターディスク21やアマチュア23との間に隙間31a,31bが確保できるようになり、インナーディスク19は摩擦制動力から解放され、すなわちディスクブレーキ装置1はブレーキ解放状態となる。
【0020】
ここで、ディスクブレーキ装置では、インナーディスク19、アウターディスク21及びアマチュア23のうち、直接的に駆動力を受けて移動するのは、アマチュア23だけであり、且つ、ブレーキ解放時のインナーディスク19は、その位置を機械的に位置決めされているものではない。よって、アマチュア23が適正にブレーキ解放状態の位置まで移動した場合(アマチュアがブレーキ装置コアと当接された場合)であっても、図4に示されるように、一方のブレーキライニング9aがアウターディスク21から十分に離れていない不具合が生じうる。また、前述のようにインナーディスク19はブレーキ解放状態でその位置を機械的に固定されるなど、位置決めされているものではないので、ブレーキライニング9a,9bの一方がアマチュア23やアウターディスク21に当接したり、ブレーキライニング9a,9bの双方が交互にアマチュア23やアウターディスク21に当接したりする不具合も皆無ではない。このような不具合が生じると、ブレーキライニング9a,9bがアウターディスク21やアマチュア23と接触した際の摩擦熱が増加し、クリクソンセンサ(発熱検出センサ)による摩擦熱の検知によって、エスカレータ等の駆動機を停止させる処理がなされる。しかし、クリクソンセンサが検知してしまった場面では、既に、ブレーキライニングや、アマチュアあるいはアウターディスクの摩耗・損傷が相当に進行してしまっていることが多く、各部の交換作業が必要であり、且つ、エスカレータ等を長時間停止させる必要もある。また、この問題に対しては、保守技術者の目でブレーキ解放状態でのブレーキライニングの接触具合を確認しておく対応もあるが、その場合でも、点検の間は一般利用者が搭乗できる通常運転は行えない。また、保守技術者の目による点検は、運転効率の点からも、常時あるいは頻繁に行うことはできず、さらに、点検時以外の期間中は必ずしもブレーキライニングの接触具合が適正な状態のままであるかは分からないのが実情である。
【0021】
このような問題に対し、本実施の形態のディスクブレーキ装置1であれば、ブレーキ解放時に、投光手段11,13から検出光を発射させ、図3に示されるように、それらの検出光が、対応する隙間31a,31bを介して、対応する受光手段15,17で検出されるか否かを監視することができる。よって、かかる投受光をもって、ブレーキライニング9a,9bそれぞれが、対応するアウターディスク21やアマチュア23と接触していないことを確認することができる。
【0022】
以上説明したように、本実施の形態のディスクブレーキ装置によれば、ブレーキ解放時にインナーディスクの両面にある両方のブレーキライニングと対応する当接体との二つの隙間そのものの有無を同時に確認できるので、発熱検出センサよりも早く解放不具合を発見することができる。しかも、その不具合監視は、保守技術者がターゲット部分にある程度、近づいて行う手法とは異なるので、一般利用者が搭乗する通常運転を取り止める必要がなく、且つ、必要があれば、通常運転におけるブレーキ解放中、常時あるいは高頻度でライニングの接触具合の監視を行うこともできる。なお、このことは、ライニングの接触不具合を極めて初期の段階で検出することを意味しており、それにより速やかに隙間調整等の処置をすることで、取替え時期を大幅に延ばすことが可能となっている。さらに、当接体の動作量をみるわけではなく、ブレーキライニングそのものの接触状態を検知できるので、ブレーキ解放時、一つの当接体のみ動作することで、インナーディスクが二つの当接体の双方から位置決めされることなく非接触になるように機能するブレーキ装置において、発熱検出センサよりも早く解放不具合を発見することができる点で極めて有益である。
【0023】
また、常態で制動状態が維持され通電時に解放状態に移行するタイプであって且つインナーディスクの両面にブレーキライニングを備えたタイプでは、アマチュアが適正な量だけ動作しても、何れか一面側のブレーキライニングが対応する一方の当接体と当接したままとなる現象が皆無ではないところ、ブレーキ解放時にインナーディスクの両面にある両方のブレーキライニングと対応する当接体との隙間の有無を同時に確認できるので、かかる不具合現象が看過されることを防止でき、その点でも、発熱検出センサよりも早く解放不具合を発見することができる。
【0024】
さらに、投受光手段がインナーディスクの回転軸を挟んだ両側に振り分けられて配置されているので、万が一、インナーディスクと一対の当接体との平行関係が僅かにずれた状態が生じていたとしても、何れかの側にある投受光手段が先にライニングと当接体との接触を検出することとなり、その点においても、発熱検出センサよりも早く解放不具合を発見することができる。
【0025】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。
【0026】
例えば、インナーディスク手段は、二枚以上のインナーディスクを含んでいてもよい。また、当接体は、ブレーキ装置コアに近い方と遠い方との何れが駆動される態様であってもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 ディスクブレーキ装置、3 ブレーキ装置コア、5 インナーディスク手段、7a,7b 当接体、9a,9b ブレーキライニング、11,13 投光手段、15,17 受光手段、19 インナーディスク、21 アウターディスク、23 アマチュア、25 スプリング、27 電磁コイル、31a,31b 隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に支持されたインナーディスク手段と、
前記インナーディスク手段の対応する面と対面するように設けられた一対の当接体と、
前記インナーディスク手段の対応する面に設けられ、該インナーディスク手段と一体に回転する一対のブレーキライニングと、
少なくとも一対の投光手段と、
少なくとも一対の受光手段とを含み、
第1の前記投光手段及び第1の前記受光手段は、ブレーキ解放状態の第1の前記当接体と第1の前記ブレーキライニングとの隙間を介して、投受光を行い、
第2の前記投光手段及び第2の前記受光手段は、ブレーキ解放状態の第2の前記当接体と第2の前記ブレーキライニングとの隙間を介して、投受光を行う
ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
第1の前記当接体は、ブレーキ装置コアに固定されたアウターディスクであり、
第2の前記当接体は、前記ブレーキ装置コアに対して可動に設けられたアマチュアであり、
前記アマチュアにおける前記アウターディスクとの逆側には、電磁コイルが設けられており、
前記アマチュアには、スプリングによって前記アウターディスクに近づく向きに付勢される弾性力が常時付与されている
請求項1のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
第1の前記投光手段及び第1の前記受光手段は、少なくとも二組設けられており、
第2の前記投光手段及び第2の前記受光手段も少なくとも二組設けられており、
一方の組の第1の前記投光手段及び第1の前記受光手段、並びに、一方の組の第2の前記投光手段及び第2の前記受光手段は、前記インナーディスク手段の回転軸方向からみて当該回転軸の一方側に配置されており、
他方の組の第1の前記投光手段及び第1の前記受光手段、並びに、他方の組の第2の前記投光手段及び第2の前記受光手段は、前記回転軸方向からみて前記回転軸の他方側に配置されている
請求項1又は2のディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−202478(P2012−202478A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67446(P2011−67446)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】