説明

ディスクブレーキ装置

【課題】ディスクブレーキの制動時における各ブレーキパッドの挙動を安定させて、ブレーキ鳴きの発生を抑制すること。
【解決手段】ブレーキパッド40の裏板41は、板ばね80によってロータ径方向内側に向けて付勢されている。また、裏板41は、その内周側トルク受け面41aにて、キャリパ20に一体的に設けた内周支持軸61と係合し、その外周側トルク受け面41bにて、キャリパ20に一体的に設けた外周支持軸70と係合していて、ロータ軸方向に移動可能に支持されている。外周支持軸70は、ディスクロータ10の外周にてロータ軸方向に延びていて、その各端部を同外周支持軸70の延びる方向に対して直交する方向に延びる取付ボルト71を用いてキャリパ20の取付部21dに組付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置に係り、特に、回転体(例えば、車軸ハブ)に組付けられて同回転体と一体的に回転するディスクロータと、このディスクロータの一部の外周を跨ぐようにして支持体(例えば、車体)に組付けられるキャリパと、前記ディスクロータを挟持可能に配置されて前記キャリパに支持軸を介してロータ軸方向にて移動可能に支持される一対のブレーキパッドと、前記キャリパに組付けられて前記各ブレーキパッドを前記ディスクロータに向けて押圧するピストンを備えていて、前記ピストンが前記各ブレーキパッドの裏板を押圧することにより、前記各ブレーキパッドのライニングが前記ディスクロータの被制動面に摺動可能に圧接して、前記ディスクロータが制動されるように構成されているディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディスクブレーキ装置は、例えば、下記特許文献1に記載されていて、前記各ブレーキパッドは付勢部材によってロータ径方向内側に向けて付勢されていて、前記支持軸は、前記各ライニングのロータ径方向内側にて前記キャリパに一体的に組付けられていて前記各裏板に設けた内周側トルク受け面に係合する内周支持軸と、前記各ライニングのロータ径方向外側かつロータ周方向中間部にて前記キャリパに一体的に組付けられていて前記各裏板に設けた外周側トルク受け面に係合する外周支持軸によって構成されていている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−236611号公報
【発明の概要】
【0004】
上記した特許文献1に記載されているディスクブレーキ装置においては、外周支持軸が、その中間部にて互いに螺合連結されてロータ軸方向に延びているインナー側外周支持軸(インナー側ボルト)とアウター側外周支持軸(アウター側ボルト)によって構成されていて、インナー側外周支持軸の先端部(アウター側端部)には雄ねじ部が設けられ、アウター側外周支持軸の先端部(インナー側端部)には前記雄ねじ部と螺合される雌ねじ部が設けられている。
【0005】
かかる構成では、インナー側外周支持軸とアウター側外周支持軸によって、キャリパの剛性を補強することが可能である等の種々な作用効果が得られるものの、ディスクロータの制動時に、各外周支持軸が各ブレーキパッドの裏板からロータ周方向のトルクを受けるため、各外周支持軸のキャリパに対する座面にロータ周方向の滑りが生じるおそれがあり、これに起因して例えば各ブレーキパッドの挙動が不安定となってブレーキ鳴きが発生することがある。また、各外周支持軸は、その軸外周面(円柱状面)にて各ブレーキパッドの裏板からトルクを受けるため、各裏板との接触部(線当たりする部分)には陥没が生じるおそれがあり、この陥没に起因してクランク音・ラトル音(各裏板が外周支持軸に当接することによって生じる打音)が発生することがある。
【0006】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、上述したディスクブレーキ装置において、前記各ブレーキパッドは付勢部材によってロータ径方向内側に向けて付勢されていて、前記支持軸は、前記各ライニングのロータ径方向内側にて前記キャリパに一体的に組付けられていて前記各裏板に設けた内周側トルク受け面に係合する内周支持軸と、前記各ライニングのロータ径方向外側かつロータ周方向中間部にて前記キャリパに一体的に組付けられていて前記各裏板に設けた外周側トルク受け面に係合する外周支持軸によって構成されていて、前記外周支持軸は、前記ディスクロータの外周にてロータ軸方向に延びていて、その各端部を同外周支持軸の延びる方向に対して直交する方向に延びる各取付ボルトを用いて前記キャリパの各取付部にそれぞれ組付けられていることに特徴がある。なお、前記付勢部材は、前記キャリパと前記各裏板間または前記外周支持軸と前記各裏板間に介装されている。
【0007】
この場合において、前記外周支持軸には、前記各裏板に設けた外周側トルク受け面に面当たりで係合して前進制動力を受ける第1係合面が形成されているとともに、前記キャリパに形成した第1取付面と面当たりで係合して前進制動力を前記キャリパに伝える第1伝達面が形成されていて、前記第1係合面と前記第1伝達面が平行に形成されていることも可能である。また、前記外周支持軸には、前記各裏板に設けた外周側トルク受け面に当たりで係合して後進制動力を受ける第2係合面が形成されているとともに、前記取付ボルトの頭部と面当たりで係合して後進制動力を前記取付ボルトを介して前記キャリパに伝える第2伝達面が形成されていて、前記第2係合面と前記第2伝達面が平行に形成されていることも可能である。
【0008】
本発明によるディスクブレーキ装置においては、ディスクロータの制動時に、外周支持軸が各ブレーキパッドの裏板からロータ周方向のトルクを受けるものの、外周支持軸は、ディスクロータの外周にてロータ軸方向に延びていて、その各端部を同外周支持軸の延びる方向に対して直交する方向に延びる各取付ボルトを用いてキャリパの各取付部にそれぞれ組付けられているため、外周支持軸のキャリパに対する座面(伝達面)にロータ周方向の滑りが生じることを防ぐことができて、同滑りに起因する各ブレーキパッドの挙動を安定させることができ、ブレーキ鳴きを効果的に抑制することが可能である。
【0009】
また、本発明の実施に際して、前記外周支持軸に、前記各裏板に設けた外周側トルク受け面に面当たりで係合して前進制動力を受ける第1係合面が形成されているとともに、前記キャリパに形成した第1取付面と面当たりで係合して前進制動力を前記キャリパに伝える第1伝達面が形成されていて、前記第1係合面と前記第1伝達面が平行に形成されている場合には、前進制動力が各裏板から外周支持軸を介してキャリパに伝達される際に、線当たりする部分が無くて、各部位(各裏板と外周支持軸が係合する部位、外周支持軸とキャリパが係合する部位)に陥没が生じ難く、しかも、各部位に滑りが生じ難くて、クランク音・ラトル音の発生を効果的に防止することが可能である。
【0010】
また、本発明の実施に際して、前記外周支持軸に、前記各裏板に設けた外周側トルク受け面に面当たりで係合して後進制動力を受ける第2係合面が形成されているとともに、前記取付ボルトの頭部と面当たりで係合して後進制動力を前記取付ボルトを介して前記キャリパに伝える第2伝達面が形成されていて、前記第2係合面と前記第2伝達面が平行に形成されている場合には、後進制動力が各裏板から外周支持軸と取付ボルトを介してキャリパに伝達される際に、線当たりする部分が無くて、各部位(各裏板と外周支持軸が係合する部位、外周支持軸と取付ボルトが係合する部位)に陥没が生じ難く、しかも、各部位に滑りが生じ難くて、クランク音・ラトル音の発生を効果的に防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるディスクブレーキ装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示したディスクブレーキ装置の要部拡大側面図である。
【図3】図1に示したディスクブレーキ装置のディスクロータ被摺動面に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3は本発明によるディスクブレーキ装置を車両用のピストン対向型(固定キャリパ型)ディスクブレーキ装置に実施した実施形態を示していて、この実施形態のディスクブレーキ装置100は、車軸ハブ(図示省略の回転体)に組付けられて車輪(図示省略)と一体的に回転するディスクロータ10(図3参照)と、このディスクロータ10の外周部の一部分を跨ぐようにして配置されるキャリパ20と、このキャリパ20に組付けた二対4個のピストン30(図3参照)、インナー側ブレーキパッド40、アウター側ブレーキパッド50(図1参照)を備えている。また、ディスクブレーキ装置100は、キャリパ20に設けた一対のインナー側内周支持軸61およびアウター側内周支持軸62と、単一の外周支持軸70を備えるとともに、単一の板バネ80を備えている。
【0013】
ディスクロータ10は、インナー側ブレーキパッド40のライニング42とアウター側ブレーキパッド50のライニング52によって挟持可能な環状の被制動面10aを有している。また、ディスクロータ10は、被制動面10aが制動時にインナー側ブレーキパッド40のライニング42およびアウター側ブレーキパッド50のライニング52によって挟持されることにより、回転を制動されるようになっている。このディスクロータ10は、車輪の前進回転時には、車輪と一体的に図3の時計回転方向に回転(正回転)し、図3の左方側が回入側となり、図3の右方側が回出側となる。
【0014】
キャリパ20は、図1〜図3に示したように、ディスクロータ10の一部の外周を跨ぐようにして対向するインナーハウジング部21とアウターハウジング部22を備えるとともに、これらを連結する一対の連結部23、24を備えている。インナーハウジング部21は、ディスクロータ10のインナー側に配置されていて、一対のシリンダ21a,21b(図3参照)を有している。
【0015】
また、インナーハウジング部21は、インナー側ブレーキパッド40における裏板41のロータ径方向内側かつロータ周方向中央部に設けたV字状の内周側トルク受け面41aに係合するインナー側内周支持軸61を支持するための支持部21cを有するとともに、インナー側ブレーキパッド40における裏板41のロータ径方向外側かつロータ周方向中央部に設けたV字状の外周側トルク受け面41bに係合可能な外周支持軸70のインナー側端部70aを組付けるための取付部21dを有している。
【0016】
また、インナーハウジング部21は、ロータ径内方端にてロータ径内方に向けて延びる一対の取付け部21e,21fを有していて、これらの取付け部21e,21fにてボルト(図示省略)を用いて車体側(支持体)に取付けられるように構成されている。一対のシリンダ21a,21bは、図3に示したように、ロータ周方向にて所定の間隔で配置され、ロータ軸方向に形成されている。
【0017】
アウターハウジング部22は、ディスクロータ10のアウター側に配置されていて、インナーハウジング部21のシリンダ21a,21bと同様に、一対のシリンダ(図示省略)を有するとともに、インナーハウジング部21の各支持部21c,21dと同様に、アウター側内周支持軸62を支持するための支持部22cと、外周支持軸70のアウター側端部70bを組付けるための取付部22dを有している。
【0018】
各ピストン30は、図3に示したように、各シリンダ(21a,21b)に周知のように液密的かつロータ軸方向に摺動可能に組付けられていて、ディスクロータ10を挟んで対向配置されている。また、各ピストン30は、ディスクロータ10の制動時に、各シリンダ(21a,21b)との間に形成される各油室(図示省略)にブレーキマスタシリンダ(図示省略)から供給される作動油によって押動されて、インナー側ブレーキパッド40,アウター側ブレーキパッド50をディスクロータ10に向けてロータ軸方向に押圧可能である。なお、各油室はキャリパ20に設けた油路20a(図3参照)を通して互に連通している。
【0019】
インナー側ブレーキパッド40は、図1および図3に示したように、裏板41と、この裏板41に固着したライニング42によって構成されている。また、インナー側ブレーキパッド40は、キャリパ20のインナーハウジング部21側に配置されていて、裏板41にてインナー側内周支持軸61と外周支持軸70のインナー側部位にロータ軸方向に移動可能に組付けられている。
【0020】
裏板41は、図1および図3に示したように、平板状に形成されていて、V字状の内周側トルク受け面41aを形成してなる内側部を有するとともに、ライニング42よりロータ径外側に延在しV字状の外周側トルク受け面41bを形成してなる外側部を有している。内周側トルク受け面41aと外周側トルク受け面41bは、ライニング42のロータ周方向中央部に設けられている。なお、裏板41の裏面には、各ピストン30との間に配設される鳴き防止用のシムプレート43が設けられている。
【0021】
ライニング42は、略扇形にてロータ周方向に延びるように形成されていて、各ピストン30が裏板41を押圧することにより、ディスクロータ10の被制動面10aに摺動可能に圧接してディスクロータ10を制動可能である。なお、ディスクロータ10の正回転制動時(車両前進時のディスクロータ制動時)には、ディスクロータ10の被制動面10aに摺動可能に圧接するライニング42にロータ周方向での回入側から回出側へ摩擦力が作用する。
【0022】
アウター側ブレーキパッド50は、図1および図2に示したように、裏板51と、この裏板51に固着したライニング52によって構成されている。また、アウター側ブレーキパッド50は、キャリパ20のアウターハウジング部22側に配置されていて、裏板51にてアウター側内周支持軸62と外周支持軸70のアウター側部位にロータ軸方向に移動可能に組付けられている。
【0023】
裏板51は、図1および図2に示したように、平板状に形成されていて、V字状の内周側トルク受け面(図示省略)を形成してなる内側部を有するとともに、ライニング52よりロータ径外側に延在しV字状の外周側トルク受け面51bを形成してなる外側部を有している。内周側トルク受け面(図示省略)と外周側トルク受け面51bは、裏板41の内周側トルク受け面41aと外周側トルク受け面41bと同様に、ライニング52のロータ周方向中央部に設けられている。なお、裏板51の裏面には、各ピストン30との間に配設される鳴き防止用のシムプレート53が設けられている。
【0024】
ライニング52は、略扇形にてロータ周方向に延びるように形成されていて、ピストン30が裏板51を押圧することにより、ディスクロータ10の被制動面10aに摺動可能に圧接してディスクロータ10を制動可能である。なお、ディスクロータ10の正回転制動時(車両前進時のディスクロータ制動時)には、ディスクロータ10の被制動面10aに摺動可能に圧接するライニング52にロータ周方向での回入側から回出側へ摩擦力が作用する。
【0025】
インナー側内周支持軸61、アウター側内周支持軸62は、各ライニング42,52のロータ径方向内側にてキャリパ20の各支持部21c,22cにそれぞれ螺着されて、キャリパ20に一体的に組付けられており、ロータ軸方向に延びている。一方、外周支持軸70は、単一部材(断面六角形の棒材)であり、各ライニング42,52のロータ径方向外側かつロータ周方向中間部にて、各端部70a、70bにて各取付ボルト71,72を用いてキャリパ20の取付部21d,22dにそれぞれ一体的に組付けられていて、ディスクロータ10の外周にてロータ軸方向に延びている。各取付ボルト72,73は、六角孔付ボルトであり、外周支持軸70の延びる方向(ロータ軸方向)に対して直交する方向に延びていて、キャリパ20に組付けられている(螺着されている)。
【0026】
板バネ80は、基部にて取付ボルト81を用いてキャリパ20の連結部24に組付けられていて、各アーム部先端にて各裏板41,51の回出側外周部に弾性的に係合している。これにより、板バネ80は、キャリパ20の連結部24と各裏板41,51間に介装されていて、インナー側ブレーキパッド40およびアウター側ブレーキパッド50をロータ径方向内側に向けて付勢している。
【0027】
このため、インナー側ブレーキパッド40の裏板41が、図3に示したように、内周側トルク受け面41aのインナー側内周支持軸61に対する2時の位置と10時の位置の2箇所にて、インナー側内周支持軸61に隙間ゼロで係合するとともに、外周側トルク受け面41bの図3左側斜面(回入側斜面)にて、外周支持軸70の左側斜面(第1係合面)Sa1に隙間ゼロで係合している。なお、アウター側ブレーキパッド50の裏板51でも、インナー側ブレーキパッド40の裏板41と同様に、裏板51が内周側トルク受け面にてアウター側内周支持軸62に隙間ゼロで係合するとともに、外周側トルク受け面51bの図2左側斜面にて、外周支持軸70の左側斜面(第1係合面)Sa1に隙間ゼロで係合している。
【0028】
また、この実施形態においては、外周支持軸70に、裏板51側を例として図2に示したように、各裏板(51)に設けた外周側トルク受け面(51bの図2左側斜面)に面当たりで係合して前進制動力を受ける第1係合面Sa1が形成されているとともに、キャリパ20に形成した第1取付面Sb1と面当たりで係合して前進制動力をキャリパ20に伝える第1伝達面Sc1が形成されていて、第1係合面Sa1と第1伝達面Sc1が平行に形成されている。
【0029】
また、外周支持軸70に、裏板51側を例として図2に示したように、各裏板(51)に設けた外周側トルク受け面(51bの図2右側斜面)に面当たりで係合して後進制動力を受ける第2係合面Sa2が形成されているとともに、取付ボルト(72)の頭部端面(72a)と面当たりで係合して後進制動力を取付ボルト(72)を介してキャリパ20に伝える第2伝達面Sc2が形成されていて、第2係合面Sa2と第2伝達面Sc2が平行に形成されている。なお、第2係合面Sa2は、キャリパ20に形成した第2取付面Sb2とも面当たりで係合している。
【0030】
上記のように構成したこの実施形態においては、ブレーキペダル(図示省略)の踏込みに伴って、ブレーキマスタシリンダ(図示省略)から各油室(図示省略)に向けて作動油が供給されると、各ピストン30がディスクロータ10に向けて押動されてインナー側ブレーキパッド40,アウター側ブレーキパッド50をディスクロータ10に向けて押圧する。これにより、インナー側ブレーキパッド40,アウター側ブレーキパッド50のライニング42,52がディスクロータ10の被制動面10aに摺動可能に圧接して、ディスクロータ10を制動する。なお、ブレーキペダル(図示省略)の踏込みが解除されて、各油室(図示省略)からブレーキマスタシリンダ(図示省略)に向けて作動油が排出されると、上述したディスクロータ10の制動は解除される。
【0031】
ところで、上記のように構成したこの実施形態においては、ディスクロータ10の制動時(例えば、正回転制動時)、各ブレーキパッド40,50におけるV字状の内周側トルク受け面(41a)と各内周支持軸61,62の係合部2箇所と、各ブレーキパッド40,50におけるV字状の外周側トルク受け面41b,51bと外周支持軸70の係合面1箇所の合計3箇所にて、制動時のトルクが受けられるため、制動時のトルクを不安定な平面で受ける場合に比して、各ブレーキパッド40,50の挙動が安定する。このため、制動時の不安定挙動に伴うブレーキ鳴きの発生を抑制することが可能である。
【0032】
しかも、この実施形態では、ディスクロータ10の制動時に、外周支持軸70が各ブレーキパッド40,50の裏板41,51からロータ周方向のトルクを受けるものの、外周支持軸70は、ディスクロータ10の外周にてロータ軸方向に延びていて、その各端部70a、70bを同外周支持軸70の延びる方向に対して直交する方向に延びる各取付ボルト71,72を用いてキャリパ20の各取付部21d、22dにそれぞれ組付けられている。このため、外周支持軸70のキャリパ20に対する座面(伝達面Sc1)にロータ周方向の滑りが生じることを防ぐことができて、同滑りに起因する各ブレーキパッド40,50の挙動を安定させることができ、ブレーキ鳴きを効果的に抑制することが可能である。
【0033】
また、この実施形態においては、外周支持軸70に、各裏板41,51に設けた外周側トルク受け面41b、51bに面当たりで係合して前進制動力を受ける第1係合面(Sa1)が形成されているとともに、キャリパ20に形成した第1取付面(Sb1)と面当たりで係合して前進制動力をキャリパ20に伝える第1伝達面(Sc1)が形成されていて、第1係合面(Sa1)と第1伝達面(Sc1)が平行に形成されている。このため、前進制動力が各裏板41,51から外周支持軸70を介してキャリパ20に伝達される際に、線当たりする部分が無くて、各部位(各裏板41,51と外周支持軸70が係合する部位、外周支持軸70とキャリパ20が係合する部位)に陥没が生じ難く、しかも、各部位に滑りが生じ難くて、クランク音・ラトル音の発生を効果的に防止することが可能である。
【0034】
また、この実施形態においては、キャリパ20と各裏板41,51間に介装されている板バネ80によって、各ブレーキパッド40,50の回出側部位がロータ径方向内側に向けて付勢されている。したがって、制動時のトルクを受ける3箇所が、板バネ80の付勢力により制動前に予め係合(当接)している。このため、ディスクロータ10の非制動時に、キャリパ20に組付けた各支持軸上61,62,70での各ブレーキパッド40,50のガタつきを抑制することが可能であるとともに、例えば、車両前進時(ディスクロータ10の正回転時)のディスクロータ制動初期のような、制動に際して、各ブレーキパッド40,50の裏板41,51と外周支持軸70が当接することがなくて、クロンク音(各裏板41,51が外周支持軸70に当接することによって生じる打音)の発生を抑制する(無くす)ことが可能である。
【0035】
なお、ディスクロータ10の逆回転制動時には、その制動初期に、各ブレーキパッド40,50の裏板41,51が外周支持軸70に当接して、クロンク音が発生するものの、その後の逆回転制動においては、ディスクロータ10の正回転制動時の作動と同様の作動が得られる。したがって、ディスクロータ10の逆回転制動時(車両後進時のディスクロータ制動時)においても、ディスクロータ10の正回転制動時(車両前進時のディスクロータ制動時)に得られる作用効果と同様の作用効果が得られる。
【0036】
また、この実施形態においては、外周支持軸70に、各裏板41,51に設けた外周側トルク受け面41b、51bに面当たりで係合して後進制動力を受ける第2係合面(Sa2)が形成されているとともに、取付ボルト71,72の頭部(72a)と面当たりで係合して後進制動力を取付ボルト71,72を介してキャリパ20に伝える第2伝達面(Sc2)が形成されていて、第2係合面(Sa2)と第2伝達面(Sc2)が平行に形成されている。このため、後進制動力が各裏板41,51から外周支持軸70と取付ボルト71,72を介してキャリパ20に伝達される際に、線当たりする部分が無くて、各部位(各裏板41,51と外周支持軸70が係合する部位、外周支持軸70と取付ボルト71,72が係合する部位)に陥没が生じ難く、しかも、各部位に滑りが生じ難くて、クランク音・ラトル音の発生を効果的に防止することが可能である。
【0037】
上記した実施形態においては、各ブレーキパッド40,50の裏板41,51をキャリパ20に対してロータ軸方向に移動可能に支持する内周支持軸(61,62)が一対2本で構成されている実施形態に本発明を実施したが、かかる内周支持軸が二対4本で構成されている実施形態にも本発明を実施することが可能である。なお、内周支持軸が二対4本で構成される場合には、各裏板のロータ内周側でロータ周方向の各端部にて、各裏板がロータ周方向にて一対の内周支持軸によりキャリパに対してロータ軸方向に移動可能に支持される。
【0038】
また、上記した実施形態においては、図1および図3に示した板バネ80を用いて、両ブレーキパッド(40,50)がロータ径方向内側に向けて付勢されるように構成して実施したが、付勢部材の種類は板バネに限定されるものではなく、例えば、棒バネであってもよく、適宜変更して実施することが可能である。また、上記した実施形態においては、板バネ80(付勢部材)が、キャリパ20の連結部24と各裏板41,51の回出側外周部間に介装されるように構成して実施したが、板バネ(付勢部材)はキャリパの連結部(23)と各裏板(41,51)の回入側外周部間に介装されるように構成して実施すること、或いは、キャリパ(20)に組付けられる外周支持軸(70)と各裏板(41,51)の外周部間に介装されるように構成して実施することも可能である。
【0039】
また、上記した実施形態においては、キャリパ20が、ディスクロータ10の外周部の一部分を跨いで対向するインナーハウジング部21とアウターハウジング部22を備えるとともに、これらを連結する一対の連結部23,24を備えていて、これらが一体的に形成されているものを採用して実施したが、キャリパのインナーハウジング部とアウターハウジング部をロータ軸方向にて二分割して、これらを複数の連結ボルトで連結して構成したキャリパを採用して実施することも可能である。
【0040】
また、上記した実施形態においては、キャリパ20のインナーハウジング部21とアウターハウジング部22に形成されているシリンダがそれぞれ二個ずつであるように構成して実施したが、キャリパのインナーハウジング部とアウターハウジング部に形成されているシリンダと、これに組付けるピストンをそれぞれ一個または三個以上設けて実施することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
100…ディスクブレーキ装置、10…ディスクロータ、10a…被制動面、20…キャリパ、21…インナーハウジング部、21d…取付部、22…アウターハウジング部、22d…取付部、23,24…連結部、30…ピストン、40…インナー側ブレーキパッド、50…アウター側ブレーキパッド、41,51…裏板、41a,…内周側トルク受け面、41b,51b…外周側トルク受け面、42,52…ライニング、61…インナー側内周支持軸、62…アウター側内周支持軸、70…外周支持軸、71,72…取付ボルト、80…板バネ(付勢部材)、Sa1…第1係合面、Sa2…第2係合面、Sb1…第1取付面、Sb2…第2取付面、Sc1…第1伝達面、Sc2…第2伝達面、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に組付けられて同回転体と一体的に回転するディスクロータと、このディスクロータの一部の外周を跨ぐようにして支持体に組付けられるキャリパと、前記ディスクロータを挟持可能に配置されて前記キャリパに支持軸を介してロータ軸方向にて移動可能に支持される一対のブレーキパッドと、前記キャリパに組付けられて前記各ブレーキパッドを前記ディスクロータに向けて押圧するピストンを備えていて、前記ピストンが前記各ブレーキパッドの裏板を押圧することにより、前記各ブレーキパッドのライニングが前記ディスクロータの被制動面に摺動可能に圧接して、前記ディスクロータが制動されるように構成されているディスクブレーキ装置において、
前記各ブレーキパッドは付勢部材によってロータ径方向内側に向けて付勢されていて、前記支持軸は、前記各ライニングのロータ径方向内側にて前記キャリパに一体的に組付けられていて前記各裏板に設けた内周側トルク受け面に係合する内周支持軸と、前記各ライニングのロータ径方向外側かつロータ周方向中間部にて前記キャリパに一体的に組付けられていて前記各裏板に設けた外周側トルク受け面に係合する外周支持軸によって構成されていて、前記外周支持軸は、前記ディスクロータの外周にてロータ軸方向に延びていて、その各端部を同外周支持軸の延びる方向に対して直交する方向に延びる各取付ボルトを用いて前記キャリパの各取付部にそれぞれ組付けられていることを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキ装置において、前記外周支持軸には、前記各裏板に設けた外周側トルク受け面に面当たりで係合して前進制動力を受ける第1係合面が形成されているとともに、前記キャリパに形成した第1取付面と面当たりで係合して前進制動力を前記キャリパに伝える第1伝達面が形成されていて、前記第1係合面と前記第1伝達面が平行に形成されていることを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のディスクブレーキ装置において、前記外周支持軸には、前記各裏板に設けた外周側トルク受け面に面当たりで係合して後進制動力を受ける第2係合面が形成されているとともに、前記取付ボルトの頭部と面当たりで係合して後進制動力を前記取付ボルトを介して前記キャリパに伝える第2伝達面が形成されていて、前記第2係合面と前記第2伝達面が平行に形成されていることを特徴とするディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−241836(P2012−241836A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114002(P2011−114002)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】