ディスクブレーキ装置
【課題】アウタ側ブレーキパッドにおける制動トルクを直接サポートで受ける構成としつつ、ディスクブレーキ装置の軽量化、製造コストの低減を図ることのできるディスクブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ガイドピンを介してサポートに対してロータ軸方向への摺動を可能に保持されたキャリパを備え、前記キャリパの爪部にアウタ側ブレーキパッドを遊嵌させて保持する構成としたディスクブレーキ装置であって、サポートには、一対のインナ側トルク受け部のそれぞれから、ロータを跨ぐように突設される一対のロータパス部、およびロータパス部の先端側に設けられた一対のアウタ側トルク受け部を備え、アウタ側ブレーキパッドとアウタ側トルク受け部との間に設けられる隙間よりも、爪部に対するアウタ側ブレーキパッドの遊嵌状態のロータ円周方向への隙間が大きくなるように、一対のアウタ側トルク受け部間の幅とアウタ側ブレーキパッドにおけるロータの円周方向の幅を定めたことを特徴とする。
【解決手段】ガイドピンを介してサポートに対してロータ軸方向への摺動を可能に保持されたキャリパを備え、前記キャリパの爪部にアウタ側ブレーキパッドを遊嵌させて保持する構成としたディスクブレーキ装置であって、サポートには、一対のインナ側トルク受け部のそれぞれから、ロータを跨ぐように突設される一対のロータパス部、およびロータパス部の先端側に設けられた一対のアウタ側トルク受け部を備え、アウタ側ブレーキパッドとアウタ側トルク受け部との間に設けられる隙間よりも、爪部に対するアウタ側ブレーキパッドの遊嵌状態のロータ円周方向への隙間が大きくなるように、一対のアウタ側トルク受け部間の幅とアウタ側ブレーキパッドにおけるロータの円周方向の幅を定めたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置に掛かり、特にサポートにより制動トルクを受けるキャリパ浮動型のディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サポートにより制動トルクを受けるキャリパ浮動型のディスクブレーキ装置としては、特許文献1に開示されているようなものが知られている。特許文献1に開示されているディスクブレーキ装置は、図26に示すように、サポート2と、このサポート2に保持されたブレーキパッド3a,3b、およびキャリパ4を基本として構成されている。図26に示すディスクブレーキ装置1では、ブレーキパッド3a,3bを保持するサポート2のトルク受け部のみで直接、制動時の制動トルク(ブレーキパッドの押し付け力)を受ける構成としている。
【0003】
このため、サポート2のアウタ側には、ロータ9の回出側に配置されたトルク受け部と、回入側に配置されたトルク受け部とを連結するブリッジ2aが設けられ、サポート2の剛性を高める措置が採られている。
【0004】
しかし、特許文献1に開示されているディスクブレーキ装置1のように、サポート2のアウタ側にブリッジ2aを設けた場合には、ディスクブレーキ装置の大型化と共に、その重量が増すこととなってしまう。
【0005】
これに対し、サポートにおけるアウタ側ブリッジを排除し、小型・軽量化を図ったディスクブレーキ装置が、特許文献2、3に開示されている。
特許文献2に開示されているディスクブレーキ装置は図27に示すように、ロータ9のアウタ側に配置されたブレーキパッド3aが、キャリパ4を構成する爪部4aに形成された凹部4a1と嵌合する凸部3a1を有する。そして、サポート2の形態を、ロータの回入側と回出側とで非対称としており、車両前進時においてロータ回出側に位置するトルク受け部2bのみ、ロータを跨いでアウタ側にも配置する構成としている。
【0006】
このような特徴を有するディスクブレーキ装置1aでは、車両前進時に生ずる制動トルクは、インナ側、アウタ側共にサポート2を構成するトルク受け部にて受ける。一方、車両後進時に生ずる制動トルクは、インナ側ではサポート2のトルク受け部により受け、アウタ側ではアウタ側ブレーキパッドに形成した凸部3a1を介してキャリパ4に伝達し、キャリパ4を介してサポート2へ伝達されることとなる。
【0007】
また、特許文献3に開示されているディスクブレーキ装置も図28に示すように、アウタ側ブレーキパッド3aをキャリパ4を構成する爪部4aに凹凸嵌合する構成としている。そして、特許文献3に開示されているディスクブレーキ装置1bでは図29に示すように、ロータ回入側のガイドピン5aと、当該ガイドピン5aを摺動させるスライドスリーブ6aとの隙間Aと、ロータ回出側のガイドピン5bとスライドスリーブ6bとの隙間B、およびスライドスリーブ6bの外周部とアウタ側ブレーキパッド3aの耳部(突出外縁部)との隙間Cの関係を、A<B<Cの関係とすることで、制動トルクの強度に応じて段階的に、アウタ側ブレーキパッド3aに対するトルク受け部となる箇所を増やす構成としている。
【0008】
具体的には、初期制動時においては、ロータ回入側のガイドピン5aとスライドスリーブ6aが接触することで制動トルクを受け、サポート2へ伝達される。制動トルクが増大した場合には、ロータ回出側のガイドピン5bとスライドスリーブ6bも接触し、ロータ回入側と回出側の2箇所で制動トルクを受けることとなる。また、さらに制動トルクが増加した場合には、ロータ回出側のスライドスリーブ6bの外周面とアウタ側ブレーキパッド3aにおける耳部とが接触し、3点で制動トルクを受けることとなる。これにより、サポート2にアウタ側ブリッジ部を設けない場合であっても、制動時におけるキャリパ4やサポート2の歪みを最小限に抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−30659号公報
【特許文献2】特開2000−104764号公報
【特許文献3】特開平10−26152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような構成のディスクブレーキ装置のうち、特許文献2に開示されている構成のディスクブレーキ装置では、サポートにおけるアウタ側ブリッジ部のみでなく、ロータを跨ぐロータパス部も削除する構成としているため、ディスクブレーキ装置の小型軽量化という点では優れているといえる。しかし、アウタ側ブレーキパッドにおける車両前進時の制動トルクを、ロータ回出側のトルク受け部のみで受ける構成は、サポートに歪みを生じさせる虞がある。また、サポートの形態をロータの回入側と回出側とで非対称とする構成は、車両に組付ける際には、車両の左右で異なる形態のサポートを用いる必要が生じ、在庫管理の煩雑さ、および製造コストの高騰を招くこととなる虞がある。
【0011】
一方、特許文献3に開示されているディスクブレーキ装置によれば、制動トルクに応じて段階的にトルク受け部を増やし、結果的に、アウタ側ブレーキパッドにおけるロータの回入側と回出側の双方で制動トルクを受ける構成とされている。このため、キャリパやサポートに生ずる歪みを小さく抑えることができ、車両の左右においても使用するサポートを同一とすることができる。
【0012】
しかし、特許文献3に開示されているような構成のディスクブレーキ装置では、制動トルクをガイドピンとスライドスリーブとの摺動隙間を無くすことで受ける構成としている。このため、摺動抵抗が増大することによるキャリパ摺動特性の低下、およびそれに伴うブレーキ性能の低下が懸念される。
【0013】
そこで本発明では、アウタ側ブレーキパッドにおける制動トルクを直接サポートで受ける構成としつつ、ディスクブレーキ装置の軽量化、製造コストの低減を図ることのできるディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係るディスクブレーキ装置は、ガイドピンを介してサポートに対してロータ軸方向への摺動を可能に保持されたキャリパを備え、前記キャリパの爪部にアウタ側ブレーキパッドを遊嵌させて保持する構成としたディスクブレーキ装置であって、前記サポートには、前記ロータのインナ側に配置されると共に、ロータ回入側と回出側に位置してインナ側ブレーキパッドによる制動トルクを受けるインナ側トルク受け部と、前記一対のインナ側トルク受け部を接続するインナ側ブリッジ部、および前記一対のインナ側トルク受け部のそれぞれから、前記ロータを跨ぐように前記ロータの軸線方向に突設される一対のロータパス部、および前記ロータパス部の先端側において前記アウタ側ブレーキパッドによる制動トルクを受ける一対のアウタ側トルク受け部を設け、前記アウタ側ブレーキパッドと前記アウタ側トルク受け部との間に設けられる隙間よりも、前記爪部に対する前記アウタ側ブレーキパッドの遊嵌状態のロータ円周方向への隙間が大きくなるように、前記一対のアウタ側トルク受け部間の幅と前記アウタ側ブレーキパッドにおける前記ロータの円周方向の幅を定めたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【0015】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記アウタ側トルク受け部は、前記ロータパス部をフラット加工することにより形成されるトルク受け面を有すると良い。
【0016】
このような特徴を有することにより、製造時における切削加工の簡素化を図ることができる。具体的には、特殊工具によるブローチ加工が不要となる。また、ロータ径の異なるディスクブレーキ装置間においても、トルク受け面におけるロータ半径方向へのズレ量の変化への適用が容易となるため、ブレーキパッド形状の共通化が図りやすくなる。
【0017】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記アウタ側ブレーキパッドと前記爪部の遊嵌は、前記アウタ側ブレーキパッドに凸部、前記爪部に凹部を設けるようにすると良い。
【0018】
このような構成とした場合、アウタ側ブレーキパッドにおける凸部は、プレス加工により形成可能となると共に、貫通孔は切削により形成することができる。一方で、これを逆転させた場合には、爪部の内側に凸部を形成するための特別な切削工程が必要となる。
【0019】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記凸部は、ロータの半径方向に長軸、円周方向に短軸を向けた長円形状または楕円形状の平面視形態を有し、前記凹部は、平面視形態を前記長軸よりも長い直径を有する円形とすると良い。
【0020】
このような特徴を有することにより、アウタ側ブレーキパッドのロータ半径方向の動きを規制しつつロータ円周方向の動きに、半径方向よりも大きな自由度を持たせることができる。
【0021】
さらに、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置では、前記凸部は、平面視形態を円形とし、前記凹部は、ロータの円周方向に長軸、半径方向に短軸を向けた長円形状または楕円形状の平面視形態を有し、前記円形の直径よりも前記短軸の長さを長くするようにしても良い。
【0022】
このような特徴を有することによっても、上記構成と同様に、アウタ側ブレーキパッドのロータ半径方向の動きを規制しつつロータ円周方向の動きに、半径方向よりも大きな自由度を持たせることができる。
【発明の効果】
【0023】
上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置によれば、アウタ側ブレーキパッドにおける制動トルクを直接サポートで受ける構成としつつ、ディスクブレーキ装置の軽量化、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係るディスクブレーキ装置の正面図である。
【図2】実施形態に係るディスクブレーキ装置の右側面断面図である。
【図3】実施形態に係るディスクブレーキ装置の部分断面平面図である。
【図4】実施形態に係るディスクブレーキ装置の背面図である。
【図5】実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下側斜視図である。
【図6】実施形態に係るディスクブレーキ装置の右上側斜視図である。
【図7】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるサポートの正面図である。
【図8】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるサポートの右側面図である。
【図9】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるサポートの平面図である。
【図10】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるサポートの背面図である。
【図11】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるキャリパの正面図である。
【図12】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるキャリパの右側面図である。
【図13】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるキャリパの背面図である。
【図14】インナ側ブレーキパッドの正面図である。
【図15】インナ側ブレーキパッドの右側面図である。
【図16】インナ側ブレーキパッドの背面図である。
【図17】アウタ側ブレーキパッドの正面図である。
【図18】アウタ側ブレーキパッドのA−A断面図である。
【図19】アウタ側ブレーキパッドのB−B断面図である。
【図20】アウタ側ブレーキパッドの背面図である。
【図21】蝶バネを組み付けたアウタ側ブレーキパッドの斜視図である。
【図22】サポート、アウタ側ブレーキパッド、キャリパにおける隙間の関係を説明するための図である。
【図23】凸部を楕円形状とした場合のアウタ側ブレーキパッドの構成を示す背面図である。
【図24】貫通孔を長円形、凸部を円形としたディスクブレーキ装置の例を示す正面図である。
【図25】貫通孔を爪部本体に設けた場合のディスクブレーキ装置の例を示す正面図である。
【図26】サポートにアウタ側ブリッジを有する従来のディスクブレーキ装置の構成を示す部分断面平面図である。
【図27】サポートの形態をアンシンメトリとした従来のディスクブレーキ装置の構成を示す部分断面平面図である。
【図28】キャリパに対してアウタ側ブレーキパッドを嵌合させ、キャリパ、ガイドピンを介して制動トルクをサポートへ入力する従来のディスクブレーキ装置の構成を示す部分断面平面図である。
【図29】図28に示す従来のディスクブレーキ装置におけるガイドピンとガイドスリーブ、およびアウタ側ブレーキパッドにおける隙間の大小関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のディスクブレーキ装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図1〜図22を参照して、第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置について説明する。ここで、図1は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の正面図である。また、図2は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の右側面断面図である。また、図3は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の部分断面平面図である。また、図4は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の背面図である。また、図5は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下側斜視図である。さらに、図6は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の右上側斜視図である。なお、図7〜図22は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置を構成する各要素単位の図面であり、詳細は後述することとする。
【0026】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10は、サポート12とキャリパ30、インナ側ブレーキパッド60、アウタ側ブレーキパッド80、およびロータ100を基本として構成される。ここで、その全容を図示しないロータ100は、車輪(不図示)と共に供回りするリング状の摩擦板であり、詳細を後述するインナ側ブレーキパッド60、およびアウタ側ブレーキパッド80により摩擦面を挟み込むことで、摺動面に摩擦力を生じさせ、車輪の回転を抑制し、制動力を得る。
【0027】
サポート12は、図7〜図10に示すように、一対のインナ側トルク受け部14a,14bと、インナ側ブリッジ部28、ロータパス部22a,22b、および一対のアウタ側トルク受け部24a,24bを基本として構成される。なお、図面において図7はサポートの正面図、図8は、右側面図、図9は平面図、図10は背面図をそれぞれ示す。
【0028】
インナ側トルク受け部14a,14b、アウタ側トルク受け部24a,24bは共に、詳細を後述するインナ側ブレーキパッド60あるいはアウタ側ブレーキパッド80による制動トルクを受け止め、制動力を生じさせる役割を担う。
【0029】
インナ側トルク受け部14a,14bは、ロータの回周面に沿ってロータの回入側と回出側にそれぞれ配置される。ロータ回入側に配置されたインナ側トルク受け部14bとロータ回出側に配置されたインナ側トルク受け部14aとの間には、両者を接続するインナ側ブリッジ部28が設けられ、正面からの投影面が略U字型を成すように構成されている(例えば図7参照)。
【0030】
インナ側トルク受け部14a,14bには、取り付け孔16と、ガイド穴18a,18b、およびトルク受け面20a,20bが形成されている。取り付け孔16は、サポート12を車両に固定するための孔であり、本実施形態の場合には、一対のインナ側トルク受け部14a,14bの下部側にそれぞれ設けられている。取り付け孔16を複数設けることで、固定されたサポート12の回り止めを成すことができる。なお、取り付け孔16には、ネジ山が形成されており、雌ネジ孔の体を成す。
【0031】
ガイド穴18a,18bは、詳細を後述するキャリパ30をロータ軸方向へスライドさせるためのガイドピン50a,50bを挿入可能な袋穴である。ガイド穴18a,18bは、ディスクブレーキ装置10を組付けた状態においてロータ100の外周側に位置する個所に設けられる。また、ガイド穴18a,18bは、ロータ100の外周側に配置されるロータパス部22a,22bにまで穿孔されることで、ガイドピン50a,50bへのダストの付着を防止すると共に、ガイドピン50a,50bのスライド量を確保することができる。
【0032】
トルク受け面20a,20bは、ロータ100の回入側と回出側に配置されたインナ側トルク受け部14a,14bの対向面に形成される切削面である。本実施形態の場合、インナ側トルク受け部14a,14bにおけるトルク受け面20a,20bは、ガイド穴18a,18b形成箇所の下部側に設け、その上部に段差部を設け、インナ側ブレーキパッド60の逃げ面を構成することとした。トルク受け面20a,20bの形成位置をインナ側トルク受け部14a,14bとインナ側ブリッジ部28との接続部に近付けることで、制動トルク付加時におけるサポート12の歪みを抑制することができる。また、トルク受け面20a,20bを、ロータ回入側と回出側において対向する一面のみとすることで、切削面を当該対向面のみとすることができる。
【0033】
アウタ側トルク受け部24a,24bは、トルク受け面26a,26bを有する。本実施形態に係るサポート12におけるアウタ側トルク受け部24a,24bは、ガイド穴18a,18bが穿孔されているロータパス部22a,22bの先端側延設部により構成される。アウタ側トルク受け部24a,24bの構成を簡素化することにより、サポート12の小型化、軽量化を図ることができる。
【0034】
アウタ側トルク受け部24a,24bにおけるトルク受け面26a,26bは、アウタ側トルク受け部24a,24bを構成するロータパス部22a,22bにおけるロータ回入側と回出側の対向面を互いに平面切削(フラット加工)することで構成される。このようにしてトルク受け面26a,26bを形成することによれば、加工を必要とする面がアウタ側ブレーキパッド80と接触することとなる一面だけとなる。このため、ロータ100の半径が変わった場合でも、トルク受け面26a,26bと、アウタ側ブレーキパッド80における当接面92a,92bの接触箇所がロータ半径方向へずれるだけであるため、車種適用時にパッド形状の共通化を図りやすい。
【0035】
上記のような構成のサポート12では、インナ側トルク受け部14a,14b、アウタ側トルク受け部24a,24b共に切削による加工面を1面のみとしている。このため、汎用機器での加工が容易となり、従来の溝加工のような特殊工具によるブローチ加工や、フライスによる加工が不要となり、加工性が向上し、加工時間、および加工費用の低減を図ることができる。
【0036】
キャリパ30は、図11〜図13に示すように、キャリパ本体32、爪部44a,44b、およびブリッジ部42を基本として構成されている。なお、図面において図11はキャリパの正面図、図12はキャリパの右側面図、図13はキャリパの背面図をそれぞれ示す。
【0037】
キャリパ本体32は、ロータ100のインナ側に配置され、シリンダ34、およびアーム部38a,38bを備える。シリンダ34には図2に示すように、オイルシール34aやダストシール34bを設けるための溝が形成されると共に、カップ状のピストン36が配置される。なお、ピストン36は、カップ底部をシリンダ34の底部側へ向けて配置される。このような構成とすることで、シリンダ34への作動油の流入に伴い、ピストン36がロータ100側へ押し出されることとなる。なお、シリンダ34の配置位置は、キャリパ30をサポート12へ組付けた状態で、ロータ100の摺動面と対向する位置とすることが望ましい。ロータ100に押し付けるインナ側ブレーキパッド60への力の伝達にロスや偏りが生じ難くなるからである。
【0038】
アーム部38a,38bは、キャリパ30をサポート12へ組み付ける際の基点であり、シリンダ34の外壁を基点として、ロータ100の回入側と回出側の双方に対を成すように延設されている。アーム部38a,38bの先端部には、詳細を後述するガイドピン50a,50bを螺合するための雌ネジ孔40a,40bが形成されている。ガイドピン50a,50bが、上述したガイド穴18a,18bに挿入されることで、キャリパ30の軸方向への摺動が可能となるため、サポート12におけるガイド穴18a,18bの中心ピッチと、アーム部38a,38bにおける雌ネジ孔40a,40bの中心ピッチとは、両者が一致するように構成する。
【0039】
ガイドピン50a,50bは、摺動部52a,52bと固定部54a,54b、およびボルト頭56a,56bを備えたピンである(図3参照)。摺動部52a,52bは、サポート12におけるガイド穴18a,18bの直径より僅かに小さな直径を有し、その長さは、少なくともキャリパ30の摺動距離以上とすれば良い。これにより、ガイド穴18a,18bに対するガイドピン50a,50bの挿入、および摺動が可能となる。固定部54a,54bは、アーム部38a,38bに設けられた雌ネジ孔40a,40bに螺合可能な雄ネジを有する。このような構成とすることで、ボルト頭56a,56bを介して締め付けを行うことにより、ガイドピン50a,50bをアーム部38a,38bに固定することができる。なお、組付けの構造上、固定部54a,54bよりも摺動部52a,52bの直径を小さくすることは言うまでもない。本実施形態では、摺動部52a,52bと固定部54a,54bとの境界位置に括れ部58を形成し、組み付け状態においてガイド穴18a,18bの入口と括れ部58との間を覆うブーツ59を設ける構成としている。ブーツ59は、ゴムなどの弾性部材により蛇腹状に形成された被覆部材であり、ガイドピン50a,50bの摺動に合わせてロータ100の軸方向に伸縮することで、ガイド穴18a,18bに出入りする摺動部52a,52bに塵埃が付着することを防止する役割を担う。
【0040】
爪部44a,44bは、ロータ100のアウタ側に配置され、キャリパ本体32におけるシリンダ34の対向位置を挟み込むように、ロータ100の回入側と回出側に一対設けられる反力受けである。ロータ100の回入側に配置された爪部44bには回入側に、ロータ100の回出側に配置された爪部44aには回出側に、それぞれ張り出したフランジ部46b,46aが形成されている。フランジ部46a,46bには、詳細を後述するアウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bが遊嵌される貫通孔48a,48bが設けられている。貫通孔48a,48bに凸部88a,88bを遊嵌させることで、アウタ側ブレーキパッド80の保持と回り止めの双方の役割を果たすことが可能となる。
【0041】
フランジ部46a,46bは、図11、図13から読み取れるように、その投影面がキャリパ本体32におけるシリンダ34を避ける位置、すなわちシリンダ34の形成位置と重ならない位置に設けられている。このような構成とすることで、貫通孔48a,48bの形成を、キャリパ本体32側から行うことが容易となる。キャリパ本体32側から貫通孔48a,48bの形成を行うことによれば、フランジ部46a,46bのロータ対向面に、貫通孔形成時のバリが生ずることが無いからである。
【0042】
また、爪部44a,44bの回入側と回出側にそれぞれフランジ部46a,46bを設け、このフランジ部46a,46bに貫通孔48a,48b(凹部を含む)を設ける構成としたことにより、爪部44a,44bに直接貫通孔や凹部を設ける構成に比べて貫通孔48a,48b(凹部を含む)間のピッチを長くすることができる。これにより、アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bとの間のロータ半径方向のガタ(遊び)が同等であった場合でも、キャリパ30の中心からの距離が長い分、アウタ側ブレーキパッド80を回転させる方向のガタを小さくすることができる。
【0043】
ブリッジ部42は、ロータ100の外周を跨いでキャリパ本体32と爪部44a,44bを連結する連結部である。ブリッジ部42の中央には、開口部42aが設けられ、所謂オープンバック構造のキャリパ30を構成している。開口部42aは、制動時に生ずる摩擦熱の放熱や、詳細を後述するブレーキパッドにおけるライニングの減り具合を視認するための役割を担う。
【0044】
インナ側ブレーキパッド60は、キャリパ本体32におけるピストン36に保持されるブレーキパッドである。インナ側ブレーキパッド60は図14〜図16に示すように、プレッシャプレート62と、ライニング72を基本として構成される。なお、図面において図14はインナ側ブレーキパッドの正面図、図15はインナ側ブレーキパッドの右側面図、図16はインナ側ブレーキパッドの背面図をそれぞれ示す。
【0045】
インナ側ブレーキパッド60におけるプレッシャプレート62は、プレート本体62aと耳部70a,70bを有する。プレート本体62aの正面投影形状は、ロータ100の摺動面の形状に沿った円弧状を成し、ライニング貼付面には、ライニング72のズレ防止のための凹溝64が複数(実施形態の例では2つ)設けられている。一方、ライニング貼付面(以下、表面と称す)と反対側の面(以下、裏面と称す)には、組付け用バネ74(図2参照)を固定するための凸状のバネ組付け部66が形成されている。なお、バネ組付け部66の形成は、エンボス加工によれば良い。プレート本体62aのロータ回入側と回出側にはそれぞれ、当接面68a,68bが形成されている。当接面68a,68bは、サポート12に形成されたトルク受け面20a,20bに接触することで、制動トルクをサポート12に伝達する役割を担う。インナ側ブレーキパッド60における当接面68a,68bは、インナ側トルク受け部14a,14bにおけるトルク受け面20a,20bに対向させるため、ブレーキパッドの重心位置よりも下側に設けられている。
【0046】
耳部70a,70bは、上述したプレート本体62aにおける当接面68a,68bの上部に、ロータ100の回入側、回出側それぞれに張り出すように設けられる。サポート12におけるトルク受け面20a,20bとガイド穴18a,18bを有するロータパス部22a,22bとの間の段差に引っ掛かる形態となる。
【0047】
ライニング72は、ロータ100における摺動面との接触を成す摩擦部材である。ライニング72の正面投影形状は、ロータ100の摺動面の形状に沿った扇形としている。ライニング72におけるロータ対向面は平坦に形成されており、必要に応じて、ダストの排出や放熱を目的とした溝(不図示)が形成される。ライニング72におけるプレート本体62aの対向面には、プレート本体62aに形成した凹溝64に嵌り込む凸部が形成されている。なお、ライニング72とプレート本体62aとの接合は、耐熱性接着剤などにより行えば良い。
【0048】
このような基本構成を有するインナ側ブレーキパッド60は、図2に示すように、プレート本体62aに形成したバネ組付け部66に組付け用バネ74を組み付け、この組付け用バネ74をカップ状のピストン36の凹部内壁に付勢させることでキャリパ30に保持される。
【0049】
アウタ側ブレーキパッド80は、爪部44a,44b(爪部44a,44bにおけるフランジ部46a,46b)に形成された貫通孔48a,48bを基点として、蝶バネ96により保持されるブレーキパッドである。アウタ側ブレーキパッド80もインナ側ブレーキパッド60と同様に、プレッシャプレート82とライニング94を基本として構成される。図17〜図20は、アウタ側ブレーキパッドの構成を示す図面であり、図17はアウタ側ブレーキパッドの正面図、図18は図17におけるA−A断面図、図19は図17におけるB−B断面図、図20はアウタ側ブレーキパッドの背面図をそれぞれ示す。
【0050】
プレッシャプレート82は、プレート本体82aと耳部90a,90bにより構成されている。プレート本体82aにおけるライニング貼付面(以下、表面と称す)には、インナ側ブレーキパッド60と同様に、ライニング94を貼付するための凹溝84が設けられている。一方、ライニング貼付面と反対側の面(以下、裏面と称す)には、アウタ側ブレーキパッド80を保持するための蝶バネ96を固定するための凸状のバネ組付け部86と、爪部44a,44bのフランジ部46a,46bに形成した貫通孔48a,48bに遊嵌させる凸部88a,88bが形成されている。
【0051】
本実施形態に係るアウタ側ブレーキパッド80では、凸部88a,88bの形態を長円形状としている。具体的には、ロータ100の半径方向に沿って配される軸を長軸、円周方向に沿って配される軸を短軸とした長円としている。このような構成とすることで、フランジ部46a,46bに形成された円形の貫通孔48a,48bとの関係において、ロータ100の半径方向に設けられる隙間と、円周方向に設けられる隙間とを異ならせることができる。本実施形態に係る凸部88a,88bの場合、ロータ100の半径方向に設けられる隙間よりも、円周方向に設けられる隙間の方が大きくなる。なお、バネ組付け部86や凸部88a,88bは、エンボス加工により形成することができる。なお、エンボス加工によりバネ組付け部86や凸部88a,88bを形成した場合には、表面における対応位置には、バネ組付け部86や凸部88a,88bの形成位置に凹部が形成されることとなる。
【0052】
耳部90a,90bは、プレート本体82aにおけるロータ回入側端部と回出側端部のそれぞれから、回入側、回出側へ向けて延設されている。アウタ側ブレーキパッド80は、耳部90a,90bに当接面92a,92bを形成する。このため、耳部90a,90bの配置高さをロータパス部22a,22bの先端に形成されたアウタ側トルク受け部24a,24bのトルク受け面26a,26bに合わせる必要がある。よって、アウタ側ブレーキパッド80における耳部90a,90bは、ロータ100の半径方向外側に向けた傾斜を持って延設され、その回入側端部、および回出側端部をそれぞれ当接面92a,92bとしている。このため、アウタ側ブレーキパッド80における当接面92a,92bは、ロータ100の外周側、すなわちブレーキパッドの中心よりも半径方向外側に配置されることとなる。
【0053】
アウタ側ブレーキパッド80の爪部44a,44bへの組み付けは、凸部88a,88bをフランジ部46a,46bの貫通孔48a,48bへ遊嵌させると共に、蝶バネ96を利用してアウタ側ブレーキパッド80を爪部44a,44bへ付勢させることで成す。具体的には、アウタ側ブレーキパッド80におけるプレート本体82aの裏面と、蝶バネ96との間に爪部44a,44bを挟み込むようにすれば良い。本実施形態のように、蝶バネ96による爪部44a,44bの挟み込み位置と、凸部88a,88bの遊嵌位置を平面的にズラすことで、蝶バネの挟み込み位置と凸部の遊嵌位置とが一致する場合に比べ、組み付け性が格段に上昇するといった効果を得ることができる。
【0054】
次に、上記のような構成のディスクブレーキ装置10における制動時の動作について説明する。
まず、キャリパ30におけるキャリパ本体32のシリンダ34内に作動油が供給される。作動油の供給に伴ってシリンダ34内に収容されているピストン36がロータ100側へ突出する。ピストン36が突出することにより、ピストン36に保持されたインナ側ブレーキパッド60がロータ100の摺動面へと押し付けられる。
【0055】
インナ側ブレーキパッド60がロータ100の摺動面に押し付けられると、その反力を受け、ガイドピン50a,50bを基点としてキャリパ本体32が、ロータ100と離間する方向へと移動する。キャリパ本体32の移動に伴い、ブリッジ部42で接続された爪部44a,44bは、ロータアウタ側において、ロータ100の摺動面側へと引き付けられる。爪部44a,44bには、アウタ側ブレーキパッド80が保持されているため、ロータ100は、インナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80の双方により挟持される。
【0056】
ロータ100がインナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80により挟持されると、インナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80はそれぞれロータ100との間に摩擦力を生じさせ、ロータ100と共に供回りする方向の力を受ける。そして、インナ側ブレーキパッド60は、ロータ回出側に配置されたインナ側トルク受け部14aのトルク受け面20aに接触し、制動トルクがサポート12へと伝達される。
【0057】
アウタ側ブレーキパッド80も、制動初期の段階ではロータ回出側に配置されたアウタ側トルク受け部24aのトルク受け面26aに接触する。その後、制動トルクが増大した場合には、ロータ回出側に設けられたアウタ側トルク受け部24aがロータ回出側へ僅かに撓むように移動する。ロータ回出側に設けられたアウタ側トルク受け部24aが僅かに撓むことにより、アウタ側ブレーキパッド80が、撓み分だけロータ回出側へ移動する。この移動に伴い、フランジ部46a,46bに形成した貫通孔48a,48bのロータ回出側内周面に、アウタ側ブレーキパッド80に形成された凸部88a,88bが接触する。アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bがフランジ部46a,46bにおける貫通孔48a,48bの内周面に接触すると、制動トルクがキャリパ30に伝達されてキャリパ30がロータ回出方向に移動する。
【0058】
キャリパ30がロータ100の回出方向へ移動すると、キャリパ30におけるロータ回入側のアーム部38bに固定されたガイドピン50bがサポート12に形成されたガイド穴18bの内周面(ロータ回出側内周面)に接触する。この接触により、制動トルクがサポート12へと伝達される。
サポート12は、取り付け孔16を介して車両本体に固定されているため、ブレーキパッドから伝達された制動トルクを受け止めることができる。
【0059】
このように、アウタ側トルク受け部24a,24bに付加された制動トルクの分散を図るためには、アウタ側トルク受け部24a(24b)のトルク受け面26a(26b)とアウタ側ブレーキパッド80の当接面92a(92b)との隙間をA、アウタ側ブレーキパッド80の凸部88a,88bと爪部44a,44bにおけるフランジ部46a,46bの貫通孔48a,48bとのロータ円周方向隙間をB、ロータ回入側におけるガイドピン50bとガイド穴18bとの間の隙間をCとし、制動トルク付加時におけるアウタ側トルク受け部24aの撓み量をΔAとした場合、それぞれ次のような大小関係を持つようにすると良い(図22参照)。
【0060】
まず、隙間Aと隙間Bとの関係において、隙間A<隙間Bの関係を有する。すなわち、隙間A<隙間Bの関係を持つことにより、貫通孔48a,48bと凸部88a,88bが接触するよりも先に、トルク受け面26aに当接面92aが接触することとなる。
【0061】
次に、(隙間B−隙間A)が、撓み量ΔAよりも小さくなる関係を持つ(即ち、(B−A)<ΔAの関係を持つ)。このような関係を有することにより、制動トルクの増加に伴ってアウタ側トルク受け部24aがロータ回出側に撓んだ際に、アウタ側ブレーキパッド80がロータ回出側へ移動する。これに伴い、貫通孔48a,48bにおけるロータ回出側内周面に凸部88a,88bが接触し、キャリパ30に制動トルクが入力されることとなる。
【0062】
そして、(撓み量ΔA−(隙間B−隙間A))が、隙間Cよりも大きくなるようにする(即ち、(ΔA−(B−A))>Cの関係を持つ)。このような関係を持つことにより、撓み量ΔAの範囲でガイドピン50bがガイド穴18bの内周面に接触することとなり、制動トルクがロータ回入側のアウタ側トルク受け部24b(サポート12)に入力されることとなる。
【0063】
このような構成、作用を有するディスクブレーキ装置10では、アウタ側ブレーキパッド80において、通常の制動域ではロータ回出側のトルク受け部(アウタ側トルク受け部24a)で制動トルクを受けるが、高負荷域では凸部88a,88bを介してキャリパ30にも制動トルクが入力され、ロータ回入側ガイドピン50bを介して回入側トルク受け部(アウタ側トルク受け部24b)にも制動トルクが入力されることとなる。このため、制動トルクの大きさに応じて段階的に分散して制動トルクが入力されることとなり、サポート12のアウタ側ブリッジが不要となる。
【0064】
このため、本実施形態では少なくとも、隙間Aよりも隙間Bが大きくなるように、一対のアウタ側トルク受け部24a,24b間の幅と、アウタ側ブレーキパッド80におけるロータの円周方向の幅を定めている。
【0065】
サポート12のアウタ側ブリッジが不要となることにより、サポート12の小型・軽量化、すなわち、ディスクブレーキ装置10の小型・軽量化を図ることができる。また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10のサポート12は、アウタ側トルク受け部24a,24bをロータパス部22a,22bの先端部に設けている。このため、インナ側トルク受け部とアウタ側トルク受け部、およびロータパス部が側面視形態を逆U字状としていた従来のサポートに比べ、鋳物の形成が容易となる。さらに、インナ側トルク受け部14a,14b、アウタ側トルク受け部24a,24b共に切削面は、ブレーキパッドが接触する1面のみとすることができ、加工性が良い。また、サポート12の切削加工に際し、複雑な溝加工が無いため、特殊工具を用いたブローチ加工や、フライス加工における複雑な制御が不要となる。
【0066】
また、アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bを長軸をロータ100の半径方向、短軸を円周方向とした長円とすることで、円形の貫通孔48a,48bに対し、半径方向のガタは小さくし、円周方向のガタを大きくすることができる。このため、貫通孔48a,48bと凸部88a,88bのクリアランスを調整することで、サポート12に対する制動トルクを分散入力させるタイミングを調整することができる。
【0067】
上記実施形態では、アウタ側ブレーキパッド80に設ける凸部88a,88bを長円としていたが、凸部88a,88bの形状はこれに限らず、図23に示すような楕円形状としても良い。凸部88a,88bの形状を楕円とした場合であっても、上記実施形態に係るディスクブレーキ装置10と同様な効果を奏することができるからである。
【0068】
また、上記実施形態では、凸部88a,88bを長円形、貫通孔48a,48bを円形としていたが、これは、量産時における加工性を重視した場合の一例であり、例えば図24に示すように、凸部88a,88bを円形、貫通孔48a,48bを長円形とした場合であっても、上記実施形態に係るディスクブレーキ装置10と同様な効果を奏することができる。ここで、長円形とする貫通孔48a,48bは、長軸をロータ100の円周方向、短軸をロータ100の半径方向として形成する。これにより、正面投影形状を円形とする凸部88a,88bのロータ半径方向の動きを制限しつつ、円周方向に自由度を持たせることができるようになるからである。
【0069】
また、上記実施形態では、キャリパ30における加工性を重視し、アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bを遊嵌させるための貫通孔48a,48bは、爪部44a,44bにおけるフランジ部46a,46bに形成する旨記載した。しかしながら貫通孔48a,48bは図25に示すように、爪部44a,44b本体に形成するようにしても良く、かつ、爪部44a,44b本体の内側に開口を有する袋穴としても良い。
【0070】
また、本発明における課題を解決するためには、爪部44a,44bとアウタ側ブレーキパッド80の遊嵌状態が確保され、かつアウタ側ブレーキパッド80と爪部44a,44bとの円周方向のガタよりもサポート12におけるアウタ側トルク受け部24a,24bとアウタ側ブレーキパッド80との隙間が小さいという関係にあれば良い。このため、爪部44a,44bに設ける貫通孔は、必ずしも複数である必要は無く、爪部44a,44b本体を利用した遊嵌状態の確保であっても良い。さらに、アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bと凹部(貫通孔48a,48b)との関係は、双方が相似な形状としても良い。
【符号の説明】
【0071】
10………ディスクブレーキ装置、12………サポート、14a,14b………インナ側トルク受け部、16………取り付け孔、18a,18b………ガイド穴、20a,20b………トルク受け面、22a,22b………ロータパス部、24a,24b………アウタ側トルク受け部、26a,26b………トルク受け面、28………インナ側ブリッジ部、30………キャリパ、32………キャリパ本体、34………シリンダ、36………ピストン、38a,38b………アーム部、40a,40b………雌ネジ孔、42………ブリッジ部、44a,44b………爪部、46a,46b………フランジ部、48a,48b………貫通孔、50a,50b………ガイドピン、60………インナ側ブレーキパッド、62………プレッシャプレート、62a………プレート本体、64………凹溝、66………バネ組付け部、68a,68b………当接面、70a,70b………耳部、72………ライニング、74………組付け用バネ、80………アウタ側ブレーキパッド、82………プレッシャプレート、82a………プレート本体、84………凹溝、86………バネ組付け部、88a,88b………凸部、90a,90b………耳部、92a,92b………当接面、94………ライニング、96………蝶バネ、100………ロータ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置に掛かり、特にサポートにより制動トルクを受けるキャリパ浮動型のディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サポートにより制動トルクを受けるキャリパ浮動型のディスクブレーキ装置としては、特許文献1に開示されているようなものが知られている。特許文献1に開示されているディスクブレーキ装置は、図26に示すように、サポート2と、このサポート2に保持されたブレーキパッド3a,3b、およびキャリパ4を基本として構成されている。図26に示すディスクブレーキ装置1では、ブレーキパッド3a,3bを保持するサポート2のトルク受け部のみで直接、制動時の制動トルク(ブレーキパッドの押し付け力)を受ける構成としている。
【0003】
このため、サポート2のアウタ側には、ロータ9の回出側に配置されたトルク受け部と、回入側に配置されたトルク受け部とを連結するブリッジ2aが設けられ、サポート2の剛性を高める措置が採られている。
【0004】
しかし、特許文献1に開示されているディスクブレーキ装置1のように、サポート2のアウタ側にブリッジ2aを設けた場合には、ディスクブレーキ装置の大型化と共に、その重量が増すこととなってしまう。
【0005】
これに対し、サポートにおけるアウタ側ブリッジを排除し、小型・軽量化を図ったディスクブレーキ装置が、特許文献2、3に開示されている。
特許文献2に開示されているディスクブレーキ装置は図27に示すように、ロータ9のアウタ側に配置されたブレーキパッド3aが、キャリパ4を構成する爪部4aに形成された凹部4a1と嵌合する凸部3a1を有する。そして、サポート2の形態を、ロータの回入側と回出側とで非対称としており、車両前進時においてロータ回出側に位置するトルク受け部2bのみ、ロータを跨いでアウタ側にも配置する構成としている。
【0006】
このような特徴を有するディスクブレーキ装置1aでは、車両前進時に生ずる制動トルクは、インナ側、アウタ側共にサポート2を構成するトルク受け部にて受ける。一方、車両後進時に生ずる制動トルクは、インナ側ではサポート2のトルク受け部により受け、アウタ側ではアウタ側ブレーキパッドに形成した凸部3a1を介してキャリパ4に伝達し、キャリパ4を介してサポート2へ伝達されることとなる。
【0007】
また、特許文献3に開示されているディスクブレーキ装置も図28に示すように、アウタ側ブレーキパッド3aをキャリパ4を構成する爪部4aに凹凸嵌合する構成としている。そして、特許文献3に開示されているディスクブレーキ装置1bでは図29に示すように、ロータ回入側のガイドピン5aと、当該ガイドピン5aを摺動させるスライドスリーブ6aとの隙間Aと、ロータ回出側のガイドピン5bとスライドスリーブ6bとの隙間B、およびスライドスリーブ6bの外周部とアウタ側ブレーキパッド3aの耳部(突出外縁部)との隙間Cの関係を、A<B<Cの関係とすることで、制動トルクの強度に応じて段階的に、アウタ側ブレーキパッド3aに対するトルク受け部となる箇所を増やす構成としている。
【0008】
具体的には、初期制動時においては、ロータ回入側のガイドピン5aとスライドスリーブ6aが接触することで制動トルクを受け、サポート2へ伝達される。制動トルクが増大した場合には、ロータ回出側のガイドピン5bとスライドスリーブ6bも接触し、ロータ回入側と回出側の2箇所で制動トルクを受けることとなる。また、さらに制動トルクが増加した場合には、ロータ回出側のスライドスリーブ6bの外周面とアウタ側ブレーキパッド3aにおける耳部とが接触し、3点で制動トルクを受けることとなる。これにより、サポート2にアウタ側ブリッジ部を設けない場合であっても、制動時におけるキャリパ4やサポート2の歪みを最小限に抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−30659号公報
【特許文献2】特開2000−104764号公報
【特許文献3】特開平10−26152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような構成のディスクブレーキ装置のうち、特許文献2に開示されている構成のディスクブレーキ装置では、サポートにおけるアウタ側ブリッジ部のみでなく、ロータを跨ぐロータパス部も削除する構成としているため、ディスクブレーキ装置の小型軽量化という点では優れているといえる。しかし、アウタ側ブレーキパッドにおける車両前進時の制動トルクを、ロータ回出側のトルク受け部のみで受ける構成は、サポートに歪みを生じさせる虞がある。また、サポートの形態をロータの回入側と回出側とで非対称とする構成は、車両に組付ける際には、車両の左右で異なる形態のサポートを用いる必要が生じ、在庫管理の煩雑さ、および製造コストの高騰を招くこととなる虞がある。
【0011】
一方、特許文献3に開示されているディスクブレーキ装置によれば、制動トルクに応じて段階的にトルク受け部を増やし、結果的に、アウタ側ブレーキパッドにおけるロータの回入側と回出側の双方で制動トルクを受ける構成とされている。このため、キャリパやサポートに生ずる歪みを小さく抑えることができ、車両の左右においても使用するサポートを同一とすることができる。
【0012】
しかし、特許文献3に開示されているような構成のディスクブレーキ装置では、制動トルクをガイドピンとスライドスリーブとの摺動隙間を無くすことで受ける構成としている。このため、摺動抵抗が増大することによるキャリパ摺動特性の低下、およびそれに伴うブレーキ性能の低下が懸念される。
【0013】
そこで本発明では、アウタ側ブレーキパッドにおける制動トルクを直接サポートで受ける構成としつつ、ディスクブレーキ装置の軽量化、製造コストの低減を図ることのできるディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係るディスクブレーキ装置は、ガイドピンを介してサポートに対してロータ軸方向への摺動を可能に保持されたキャリパを備え、前記キャリパの爪部にアウタ側ブレーキパッドを遊嵌させて保持する構成としたディスクブレーキ装置であって、前記サポートには、前記ロータのインナ側に配置されると共に、ロータ回入側と回出側に位置してインナ側ブレーキパッドによる制動トルクを受けるインナ側トルク受け部と、前記一対のインナ側トルク受け部を接続するインナ側ブリッジ部、および前記一対のインナ側トルク受け部のそれぞれから、前記ロータを跨ぐように前記ロータの軸線方向に突設される一対のロータパス部、および前記ロータパス部の先端側において前記アウタ側ブレーキパッドによる制動トルクを受ける一対のアウタ側トルク受け部を設け、前記アウタ側ブレーキパッドと前記アウタ側トルク受け部との間に設けられる隙間よりも、前記爪部に対する前記アウタ側ブレーキパッドの遊嵌状態のロータ円周方向への隙間が大きくなるように、前記一対のアウタ側トルク受け部間の幅と前記アウタ側ブレーキパッドにおける前記ロータの円周方向の幅を定めたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【0015】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記アウタ側トルク受け部は、前記ロータパス部をフラット加工することにより形成されるトルク受け面を有すると良い。
【0016】
このような特徴を有することにより、製造時における切削加工の簡素化を図ることができる。具体的には、特殊工具によるブローチ加工が不要となる。また、ロータ径の異なるディスクブレーキ装置間においても、トルク受け面におけるロータ半径方向へのズレ量の変化への適用が容易となるため、ブレーキパッド形状の共通化が図りやすくなる。
【0017】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記アウタ側ブレーキパッドと前記爪部の遊嵌は、前記アウタ側ブレーキパッドに凸部、前記爪部に凹部を設けるようにすると良い。
【0018】
このような構成とした場合、アウタ側ブレーキパッドにおける凸部は、プレス加工により形成可能となると共に、貫通孔は切削により形成することができる。一方で、これを逆転させた場合には、爪部の内側に凸部を形成するための特別な切削工程が必要となる。
【0019】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記凸部は、ロータの半径方向に長軸、円周方向に短軸を向けた長円形状または楕円形状の平面視形態を有し、前記凹部は、平面視形態を前記長軸よりも長い直径を有する円形とすると良い。
【0020】
このような特徴を有することにより、アウタ側ブレーキパッドのロータ半径方向の動きを規制しつつロータ円周方向の動きに、半径方向よりも大きな自由度を持たせることができる。
【0021】
さらに、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置では、前記凸部は、平面視形態を円形とし、前記凹部は、ロータの円周方向に長軸、半径方向に短軸を向けた長円形状または楕円形状の平面視形態を有し、前記円形の直径よりも前記短軸の長さを長くするようにしても良い。
【0022】
このような特徴を有することによっても、上記構成と同様に、アウタ側ブレーキパッドのロータ半径方向の動きを規制しつつロータ円周方向の動きに、半径方向よりも大きな自由度を持たせることができる。
【発明の効果】
【0023】
上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置によれば、アウタ側ブレーキパッドにおける制動トルクを直接サポートで受ける構成としつつ、ディスクブレーキ装置の軽量化、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係るディスクブレーキ装置の正面図である。
【図2】実施形態に係るディスクブレーキ装置の右側面断面図である。
【図3】実施形態に係るディスクブレーキ装置の部分断面平面図である。
【図4】実施形態に係るディスクブレーキ装置の背面図である。
【図5】実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下側斜視図である。
【図6】実施形態に係るディスクブレーキ装置の右上側斜視図である。
【図7】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるサポートの正面図である。
【図8】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるサポートの右側面図である。
【図9】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるサポートの平面図である。
【図10】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるサポートの背面図である。
【図11】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるキャリパの正面図である。
【図12】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるキャリパの右側面図である。
【図13】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるキャリパの背面図である。
【図14】インナ側ブレーキパッドの正面図である。
【図15】インナ側ブレーキパッドの右側面図である。
【図16】インナ側ブレーキパッドの背面図である。
【図17】アウタ側ブレーキパッドの正面図である。
【図18】アウタ側ブレーキパッドのA−A断面図である。
【図19】アウタ側ブレーキパッドのB−B断面図である。
【図20】アウタ側ブレーキパッドの背面図である。
【図21】蝶バネを組み付けたアウタ側ブレーキパッドの斜視図である。
【図22】サポート、アウタ側ブレーキパッド、キャリパにおける隙間の関係を説明するための図である。
【図23】凸部を楕円形状とした場合のアウタ側ブレーキパッドの構成を示す背面図である。
【図24】貫通孔を長円形、凸部を円形としたディスクブレーキ装置の例を示す正面図である。
【図25】貫通孔を爪部本体に設けた場合のディスクブレーキ装置の例を示す正面図である。
【図26】サポートにアウタ側ブリッジを有する従来のディスクブレーキ装置の構成を示す部分断面平面図である。
【図27】サポートの形態をアンシンメトリとした従来のディスクブレーキ装置の構成を示す部分断面平面図である。
【図28】キャリパに対してアウタ側ブレーキパッドを嵌合させ、キャリパ、ガイドピンを介して制動トルクをサポートへ入力する従来のディスクブレーキ装置の構成を示す部分断面平面図である。
【図29】図28に示す従来のディスクブレーキ装置におけるガイドピンとガイドスリーブ、およびアウタ側ブレーキパッドにおける隙間の大小関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のディスクブレーキ装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図1〜図22を参照して、第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置について説明する。ここで、図1は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の正面図である。また、図2は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の右側面断面図である。また、図3は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の部分断面平面図である。また、図4は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の背面図である。また、図5は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下側斜視図である。さらに、図6は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の右上側斜視図である。なお、図7〜図22は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置を構成する各要素単位の図面であり、詳細は後述することとする。
【0026】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10は、サポート12とキャリパ30、インナ側ブレーキパッド60、アウタ側ブレーキパッド80、およびロータ100を基本として構成される。ここで、その全容を図示しないロータ100は、車輪(不図示)と共に供回りするリング状の摩擦板であり、詳細を後述するインナ側ブレーキパッド60、およびアウタ側ブレーキパッド80により摩擦面を挟み込むことで、摺動面に摩擦力を生じさせ、車輪の回転を抑制し、制動力を得る。
【0027】
サポート12は、図7〜図10に示すように、一対のインナ側トルク受け部14a,14bと、インナ側ブリッジ部28、ロータパス部22a,22b、および一対のアウタ側トルク受け部24a,24bを基本として構成される。なお、図面において図7はサポートの正面図、図8は、右側面図、図9は平面図、図10は背面図をそれぞれ示す。
【0028】
インナ側トルク受け部14a,14b、アウタ側トルク受け部24a,24bは共に、詳細を後述するインナ側ブレーキパッド60あるいはアウタ側ブレーキパッド80による制動トルクを受け止め、制動力を生じさせる役割を担う。
【0029】
インナ側トルク受け部14a,14bは、ロータの回周面に沿ってロータの回入側と回出側にそれぞれ配置される。ロータ回入側に配置されたインナ側トルク受け部14bとロータ回出側に配置されたインナ側トルク受け部14aとの間には、両者を接続するインナ側ブリッジ部28が設けられ、正面からの投影面が略U字型を成すように構成されている(例えば図7参照)。
【0030】
インナ側トルク受け部14a,14bには、取り付け孔16と、ガイド穴18a,18b、およびトルク受け面20a,20bが形成されている。取り付け孔16は、サポート12を車両に固定するための孔であり、本実施形態の場合には、一対のインナ側トルク受け部14a,14bの下部側にそれぞれ設けられている。取り付け孔16を複数設けることで、固定されたサポート12の回り止めを成すことができる。なお、取り付け孔16には、ネジ山が形成されており、雌ネジ孔の体を成す。
【0031】
ガイド穴18a,18bは、詳細を後述するキャリパ30をロータ軸方向へスライドさせるためのガイドピン50a,50bを挿入可能な袋穴である。ガイド穴18a,18bは、ディスクブレーキ装置10を組付けた状態においてロータ100の外周側に位置する個所に設けられる。また、ガイド穴18a,18bは、ロータ100の外周側に配置されるロータパス部22a,22bにまで穿孔されることで、ガイドピン50a,50bへのダストの付着を防止すると共に、ガイドピン50a,50bのスライド量を確保することができる。
【0032】
トルク受け面20a,20bは、ロータ100の回入側と回出側に配置されたインナ側トルク受け部14a,14bの対向面に形成される切削面である。本実施形態の場合、インナ側トルク受け部14a,14bにおけるトルク受け面20a,20bは、ガイド穴18a,18b形成箇所の下部側に設け、その上部に段差部を設け、インナ側ブレーキパッド60の逃げ面を構成することとした。トルク受け面20a,20bの形成位置をインナ側トルク受け部14a,14bとインナ側ブリッジ部28との接続部に近付けることで、制動トルク付加時におけるサポート12の歪みを抑制することができる。また、トルク受け面20a,20bを、ロータ回入側と回出側において対向する一面のみとすることで、切削面を当該対向面のみとすることができる。
【0033】
アウタ側トルク受け部24a,24bは、トルク受け面26a,26bを有する。本実施形態に係るサポート12におけるアウタ側トルク受け部24a,24bは、ガイド穴18a,18bが穿孔されているロータパス部22a,22bの先端側延設部により構成される。アウタ側トルク受け部24a,24bの構成を簡素化することにより、サポート12の小型化、軽量化を図ることができる。
【0034】
アウタ側トルク受け部24a,24bにおけるトルク受け面26a,26bは、アウタ側トルク受け部24a,24bを構成するロータパス部22a,22bにおけるロータ回入側と回出側の対向面を互いに平面切削(フラット加工)することで構成される。このようにしてトルク受け面26a,26bを形成することによれば、加工を必要とする面がアウタ側ブレーキパッド80と接触することとなる一面だけとなる。このため、ロータ100の半径が変わった場合でも、トルク受け面26a,26bと、アウタ側ブレーキパッド80における当接面92a,92bの接触箇所がロータ半径方向へずれるだけであるため、車種適用時にパッド形状の共通化を図りやすい。
【0035】
上記のような構成のサポート12では、インナ側トルク受け部14a,14b、アウタ側トルク受け部24a,24b共に切削による加工面を1面のみとしている。このため、汎用機器での加工が容易となり、従来の溝加工のような特殊工具によるブローチ加工や、フライスによる加工が不要となり、加工性が向上し、加工時間、および加工費用の低減を図ることができる。
【0036】
キャリパ30は、図11〜図13に示すように、キャリパ本体32、爪部44a,44b、およびブリッジ部42を基本として構成されている。なお、図面において図11はキャリパの正面図、図12はキャリパの右側面図、図13はキャリパの背面図をそれぞれ示す。
【0037】
キャリパ本体32は、ロータ100のインナ側に配置され、シリンダ34、およびアーム部38a,38bを備える。シリンダ34には図2に示すように、オイルシール34aやダストシール34bを設けるための溝が形成されると共に、カップ状のピストン36が配置される。なお、ピストン36は、カップ底部をシリンダ34の底部側へ向けて配置される。このような構成とすることで、シリンダ34への作動油の流入に伴い、ピストン36がロータ100側へ押し出されることとなる。なお、シリンダ34の配置位置は、キャリパ30をサポート12へ組付けた状態で、ロータ100の摺動面と対向する位置とすることが望ましい。ロータ100に押し付けるインナ側ブレーキパッド60への力の伝達にロスや偏りが生じ難くなるからである。
【0038】
アーム部38a,38bは、キャリパ30をサポート12へ組み付ける際の基点であり、シリンダ34の外壁を基点として、ロータ100の回入側と回出側の双方に対を成すように延設されている。アーム部38a,38bの先端部には、詳細を後述するガイドピン50a,50bを螺合するための雌ネジ孔40a,40bが形成されている。ガイドピン50a,50bが、上述したガイド穴18a,18bに挿入されることで、キャリパ30の軸方向への摺動が可能となるため、サポート12におけるガイド穴18a,18bの中心ピッチと、アーム部38a,38bにおける雌ネジ孔40a,40bの中心ピッチとは、両者が一致するように構成する。
【0039】
ガイドピン50a,50bは、摺動部52a,52bと固定部54a,54b、およびボルト頭56a,56bを備えたピンである(図3参照)。摺動部52a,52bは、サポート12におけるガイド穴18a,18bの直径より僅かに小さな直径を有し、その長さは、少なくともキャリパ30の摺動距離以上とすれば良い。これにより、ガイド穴18a,18bに対するガイドピン50a,50bの挿入、および摺動が可能となる。固定部54a,54bは、アーム部38a,38bに設けられた雌ネジ孔40a,40bに螺合可能な雄ネジを有する。このような構成とすることで、ボルト頭56a,56bを介して締め付けを行うことにより、ガイドピン50a,50bをアーム部38a,38bに固定することができる。なお、組付けの構造上、固定部54a,54bよりも摺動部52a,52bの直径を小さくすることは言うまでもない。本実施形態では、摺動部52a,52bと固定部54a,54bとの境界位置に括れ部58を形成し、組み付け状態においてガイド穴18a,18bの入口と括れ部58との間を覆うブーツ59を設ける構成としている。ブーツ59は、ゴムなどの弾性部材により蛇腹状に形成された被覆部材であり、ガイドピン50a,50bの摺動に合わせてロータ100の軸方向に伸縮することで、ガイド穴18a,18bに出入りする摺動部52a,52bに塵埃が付着することを防止する役割を担う。
【0040】
爪部44a,44bは、ロータ100のアウタ側に配置され、キャリパ本体32におけるシリンダ34の対向位置を挟み込むように、ロータ100の回入側と回出側に一対設けられる反力受けである。ロータ100の回入側に配置された爪部44bには回入側に、ロータ100の回出側に配置された爪部44aには回出側に、それぞれ張り出したフランジ部46b,46aが形成されている。フランジ部46a,46bには、詳細を後述するアウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bが遊嵌される貫通孔48a,48bが設けられている。貫通孔48a,48bに凸部88a,88bを遊嵌させることで、アウタ側ブレーキパッド80の保持と回り止めの双方の役割を果たすことが可能となる。
【0041】
フランジ部46a,46bは、図11、図13から読み取れるように、その投影面がキャリパ本体32におけるシリンダ34を避ける位置、すなわちシリンダ34の形成位置と重ならない位置に設けられている。このような構成とすることで、貫通孔48a,48bの形成を、キャリパ本体32側から行うことが容易となる。キャリパ本体32側から貫通孔48a,48bの形成を行うことによれば、フランジ部46a,46bのロータ対向面に、貫通孔形成時のバリが生ずることが無いからである。
【0042】
また、爪部44a,44bの回入側と回出側にそれぞれフランジ部46a,46bを設け、このフランジ部46a,46bに貫通孔48a,48b(凹部を含む)を設ける構成としたことにより、爪部44a,44bに直接貫通孔や凹部を設ける構成に比べて貫通孔48a,48b(凹部を含む)間のピッチを長くすることができる。これにより、アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bとの間のロータ半径方向のガタ(遊び)が同等であった場合でも、キャリパ30の中心からの距離が長い分、アウタ側ブレーキパッド80を回転させる方向のガタを小さくすることができる。
【0043】
ブリッジ部42は、ロータ100の外周を跨いでキャリパ本体32と爪部44a,44bを連結する連結部である。ブリッジ部42の中央には、開口部42aが設けられ、所謂オープンバック構造のキャリパ30を構成している。開口部42aは、制動時に生ずる摩擦熱の放熱や、詳細を後述するブレーキパッドにおけるライニングの減り具合を視認するための役割を担う。
【0044】
インナ側ブレーキパッド60は、キャリパ本体32におけるピストン36に保持されるブレーキパッドである。インナ側ブレーキパッド60は図14〜図16に示すように、プレッシャプレート62と、ライニング72を基本として構成される。なお、図面において図14はインナ側ブレーキパッドの正面図、図15はインナ側ブレーキパッドの右側面図、図16はインナ側ブレーキパッドの背面図をそれぞれ示す。
【0045】
インナ側ブレーキパッド60におけるプレッシャプレート62は、プレート本体62aと耳部70a,70bを有する。プレート本体62aの正面投影形状は、ロータ100の摺動面の形状に沿った円弧状を成し、ライニング貼付面には、ライニング72のズレ防止のための凹溝64が複数(実施形態の例では2つ)設けられている。一方、ライニング貼付面(以下、表面と称す)と反対側の面(以下、裏面と称す)には、組付け用バネ74(図2参照)を固定するための凸状のバネ組付け部66が形成されている。なお、バネ組付け部66の形成は、エンボス加工によれば良い。プレート本体62aのロータ回入側と回出側にはそれぞれ、当接面68a,68bが形成されている。当接面68a,68bは、サポート12に形成されたトルク受け面20a,20bに接触することで、制動トルクをサポート12に伝達する役割を担う。インナ側ブレーキパッド60における当接面68a,68bは、インナ側トルク受け部14a,14bにおけるトルク受け面20a,20bに対向させるため、ブレーキパッドの重心位置よりも下側に設けられている。
【0046】
耳部70a,70bは、上述したプレート本体62aにおける当接面68a,68bの上部に、ロータ100の回入側、回出側それぞれに張り出すように設けられる。サポート12におけるトルク受け面20a,20bとガイド穴18a,18bを有するロータパス部22a,22bとの間の段差に引っ掛かる形態となる。
【0047】
ライニング72は、ロータ100における摺動面との接触を成す摩擦部材である。ライニング72の正面投影形状は、ロータ100の摺動面の形状に沿った扇形としている。ライニング72におけるロータ対向面は平坦に形成されており、必要に応じて、ダストの排出や放熱を目的とした溝(不図示)が形成される。ライニング72におけるプレート本体62aの対向面には、プレート本体62aに形成した凹溝64に嵌り込む凸部が形成されている。なお、ライニング72とプレート本体62aとの接合は、耐熱性接着剤などにより行えば良い。
【0048】
このような基本構成を有するインナ側ブレーキパッド60は、図2に示すように、プレート本体62aに形成したバネ組付け部66に組付け用バネ74を組み付け、この組付け用バネ74をカップ状のピストン36の凹部内壁に付勢させることでキャリパ30に保持される。
【0049】
アウタ側ブレーキパッド80は、爪部44a,44b(爪部44a,44bにおけるフランジ部46a,46b)に形成された貫通孔48a,48bを基点として、蝶バネ96により保持されるブレーキパッドである。アウタ側ブレーキパッド80もインナ側ブレーキパッド60と同様に、プレッシャプレート82とライニング94を基本として構成される。図17〜図20は、アウタ側ブレーキパッドの構成を示す図面であり、図17はアウタ側ブレーキパッドの正面図、図18は図17におけるA−A断面図、図19は図17におけるB−B断面図、図20はアウタ側ブレーキパッドの背面図をそれぞれ示す。
【0050】
プレッシャプレート82は、プレート本体82aと耳部90a,90bにより構成されている。プレート本体82aにおけるライニング貼付面(以下、表面と称す)には、インナ側ブレーキパッド60と同様に、ライニング94を貼付するための凹溝84が設けられている。一方、ライニング貼付面と反対側の面(以下、裏面と称す)には、アウタ側ブレーキパッド80を保持するための蝶バネ96を固定するための凸状のバネ組付け部86と、爪部44a,44bのフランジ部46a,46bに形成した貫通孔48a,48bに遊嵌させる凸部88a,88bが形成されている。
【0051】
本実施形態に係るアウタ側ブレーキパッド80では、凸部88a,88bの形態を長円形状としている。具体的には、ロータ100の半径方向に沿って配される軸を長軸、円周方向に沿って配される軸を短軸とした長円としている。このような構成とすることで、フランジ部46a,46bに形成された円形の貫通孔48a,48bとの関係において、ロータ100の半径方向に設けられる隙間と、円周方向に設けられる隙間とを異ならせることができる。本実施形態に係る凸部88a,88bの場合、ロータ100の半径方向に設けられる隙間よりも、円周方向に設けられる隙間の方が大きくなる。なお、バネ組付け部86や凸部88a,88bは、エンボス加工により形成することができる。なお、エンボス加工によりバネ組付け部86や凸部88a,88bを形成した場合には、表面における対応位置には、バネ組付け部86や凸部88a,88bの形成位置に凹部が形成されることとなる。
【0052】
耳部90a,90bは、プレート本体82aにおけるロータ回入側端部と回出側端部のそれぞれから、回入側、回出側へ向けて延設されている。アウタ側ブレーキパッド80は、耳部90a,90bに当接面92a,92bを形成する。このため、耳部90a,90bの配置高さをロータパス部22a,22bの先端に形成されたアウタ側トルク受け部24a,24bのトルク受け面26a,26bに合わせる必要がある。よって、アウタ側ブレーキパッド80における耳部90a,90bは、ロータ100の半径方向外側に向けた傾斜を持って延設され、その回入側端部、および回出側端部をそれぞれ当接面92a,92bとしている。このため、アウタ側ブレーキパッド80における当接面92a,92bは、ロータ100の外周側、すなわちブレーキパッドの中心よりも半径方向外側に配置されることとなる。
【0053】
アウタ側ブレーキパッド80の爪部44a,44bへの組み付けは、凸部88a,88bをフランジ部46a,46bの貫通孔48a,48bへ遊嵌させると共に、蝶バネ96を利用してアウタ側ブレーキパッド80を爪部44a,44bへ付勢させることで成す。具体的には、アウタ側ブレーキパッド80におけるプレート本体82aの裏面と、蝶バネ96との間に爪部44a,44bを挟み込むようにすれば良い。本実施形態のように、蝶バネ96による爪部44a,44bの挟み込み位置と、凸部88a,88bの遊嵌位置を平面的にズラすことで、蝶バネの挟み込み位置と凸部の遊嵌位置とが一致する場合に比べ、組み付け性が格段に上昇するといった効果を得ることができる。
【0054】
次に、上記のような構成のディスクブレーキ装置10における制動時の動作について説明する。
まず、キャリパ30におけるキャリパ本体32のシリンダ34内に作動油が供給される。作動油の供給に伴ってシリンダ34内に収容されているピストン36がロータ100側へ突出する。ピストン36が突出することにより、ピストン36に保持されたインナ側ブレーキパッド60がロータ100の摺動面へと押し付けられる。
【0055】
インナ側ブレーキパッド60がロータ100の摺動面に押し付けられると、その反力を受け、ガイドピン50a,50bを基点としてキャリパ本体32が、ロータ100と離間する方向へと移動する。キャリパ本体32の移動に伴い、ブリッジ部42で接続された爪部44a,44bは、ロータアウタ側において、ロータ100の摺動面側へと引き付けられる。爪部44a,44bには、アウタ側ブレーキパッド80が保持されているため、ロータ100は、インナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80の双方により挟持される。
【0056】
ロータ100がインナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80により挟持されると、インナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80はそれぞれロータ100との間に摩擦力を生じさせ、ロータ100と共に供回りする方向の力を受ける。そして、インナ側ブレーキパッド60は、ロータ回出側に配置されたインナ側トルク受け部14aのトルク受け面20aに接触し、制動トルクがサポート12へと伝達される。
【0057】
アウタ側ブレーキパッド80も、制動初期の段階ではロータ回出側に配置されたアウタ側トルク受け部24aのトルク受け面26aに接触する。その後、制動トルクが増大した場合には、ロータ回出側に設けられたアウタ側トルク受け部24aがロータ回出側へ僅かに撓むように移動する。ロータ回出側に設けられたアウタ側トルク受け部24aが僅かに撓むことにより、アウタ側ブレーキパッド80が、撓み分だけロータ回出側へ移動する。この移動に伴い、フランジ部46a,46bに形成した貫通孔48a,48bのロータ回出側内周面に、アウタ側ブレーキパッド80に形成された凸部88a,88bが接触する。アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bがフランジ部46a,46bにおける貫通孔48a,48bの内周面に接触すると、制動トルクがキャリパ30に伝達されてキャリパ30がロータ回出方向に移動する。
【0058】
キャリパ30がロータ100の回出方向へ移動すると、キャリパ30におけるロータ回入側のアーム部38bに固定されたガイドピン50bがサポート12に形成されたガイド穴18bの内周面(ロータ回出側内周面)に接触する。この接触により、制動トルクがサポート12へと伝達される。
サポート12は、取り付け孔16を介して車両本体に固定されているため、ブレーキパッドから伝達された制動トルクを受け止めることができる。
【0059】
このように、アウタ側トルク受け部24a,24bに付加された制動トルクの分散を図るためには、アウタ側トルク受け部24a(24b)のトルク受け面26a(26b)とアウタ側ブレーキパッド80の当接面92a(92b)との隙間をA、アウタ側ブレーキパッド80の凸部88a,88bと爪部44a,44bにおけるフランジ部46a,46bの貫通孔48a,48bとのロータ円周方向隙間をB、ロータ回入側におけるガイドピン50bとガイド穴18bとの間の隙間をCとし、制動トルク付加時におけるアウタ側トルク受け部24aの撓み量をΔAとした場合、それぞれ次のような大小関係を持つようにすると良い(図22参照)。
【0060】
まず、隙間Aと隙間Bとの関係において、隙間A<隙間Bの関係を有する。すなわち、隙間A<隙間Bの関係を持つことにより、貫通孔48a,48bと凸部88a,88bが接触するよりも先に、トルク受け面26aに当接面92aが接触することとなる。
【0061】
次に、(隙間B−隙間A)が、撓み量ΔAよりも小さくなる関係を持つ(即ち、(B−A)<ΔAの関係を持つ)。このような関係を有することにより、制動トルクの増加に伴ってアウタ側トルク受け部24aがロータ回出側に撓んだ際に、アウタ側ブレーキパッド80がロータ回出側へ移動する。これに伴い、貫通孔48a,48bにおけるロータ回出側内周面に凸部88a,88bが接触し、キャリパ30に制動トルクが入力されることとなる。
【0062】
そして、(撓み量ΔA−(隙間B−隙間A))が、隙間Cよりも大きくなるようにする(即ち、(ΔA−(B−A))>Cの関係を持つ)。このような関係を持つことにより、撓み量ΔAの範囲でガイドピン50bがガイド穴18bの内周面に接触することとなり、制動トルクがロータ回入側のアウタ側トルク受け部24b(サポート12)に入力されることとなる。
【0063】
このような構成、作用を有するディスクブレーキ装置10では、アウタ側ブレーキパッド80において、通常の制動域ではロータ回出側のトルク受け部(アウタ側トルク受け部24a)で制動トルクを受けるが、高負荷域では凸部88a,88bを介してキャリパ30にも制動トルクが入力され、ロータ回入側ガイドピン50bを介して回入側トルク受け部(アウタ側トルク受け部24b)にも制動トルクが入力されることとなる。このため、制動トルクの大きさに応じて段階的に分散して制動トルクが入力されることとなり、サポート12のアウタ側ブリッジが不要となる。
【0064】
このため、本実施形態では少なくとも、隙間Aよりも隙間Bが大きくなるように、一対のアウタ側トルク受け部24a,24b間の幅と、アウタ側ブレーキパッド80におけるロータの円周方向の幅を定めている。
【0065】
サポート12のアウタ側ブリッジが不要となることにより、サポート12の小型・軽量化、すなわち、ディスクブレーキ装置10の小型・軽量化を図ることができる。また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10のサポート12は、アウタ側トルク受け部24a,24bをロータパス部22a,22bの先端部に設けている。このため、インナ側トルク受け部とアウタ側トルク受け部、およびロータパス部が側面視形態を逆U字状としていた従来のサポートに比べ、鋳物の形成が容易となる。さらに、インナ側トルク受け部14a,14b、アウタ側トルク受け部24a,24b共に切削面は、ブレーキパッドが接触する1面のみとすることができ、加工性が良い。また、サポート12の切削加工に際し、複雑な溝加工が無いため、特殊工具を用いたブローチ加工や、フライス加工における複雑な制御が不要となる。
【0066】
また、アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bを長軸をロータ100の半径方向、短軸を円周方向とした長円とすることで、円形の貫通孔48a,48bに対し、半径方向のガタは小さくし、円周方向のガタを大きくすることができる。このため、貫通孔48a,48bと凸部88a,88bのクリアランスを調整することで、サポート12に対する制動トルクを分散入力させるタイミングを調整することができる。
【0067】
上記実施形態では、アウタ側ブレーキパッド80に設ける凸部88a,88bを長円としていたが、凸部88a,88bの形状はこれに限らず、図23に示すような楕円形状としても良い。凸部88a,88bの形状を楕円とした場合であっても、上記実施形態に係るディスクブレーキ装置10と同様な効果を奏することができるからである。
【0068】
また、上記実施形態では、凸部88a,88bを長円形、貫通孔48a,48bを円形としていたが、これは、量産時における加工性を重視した場合の一例であり、例えば図24に示すように、凸部88a,88bを円形、貫通孔48a,48bを長円形とした場合であっても、上記実施形態に係るディスクブレーキ装置10と同様な効果を奏することができる。ここで、長円形とする貫通孔48a,48bは、長軸をロータ100の円周方向、短軸をロータ100の半径方向として形成する。これにより、正面投影形状を円形とする凸部88a,88bのロータ半径方向の動きを制限しつつ、円周方向に自由度を持たせることができるようになるからである。
【0069】
また、上記実施形態では、キャリパ30における加工性を重視し、アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bを遊嵌させるための貫通孔48a,48bは、爪部44a,44bにおけるフランジ部46a,46bに形成する旨記載した。しかしながら貫通孔48a,48bは図25に示すように、爪部44a,44b本体に形成するようにしても良く、かつ、爪部44a,44b本体の内側に開口を有する袋穴としても良い。
【0070】
また、本発明における課題を解決するためには、爪部44a,44bとアウタ側ブレーキパッド80の遊嵌状態が確保され、かつアウタ側ブレーキパッド80と爪部44a,44bとの円周方向のガタよりもサポート12におけるアウタ側トルク受け部24a,24bとアウタ側ブレーキパッド80との隙間が小さいという関係にあれば良い。このため、爪部44a,44bに設ける貫通孔は、必ずしも複数である必要は無く、爪部44a,44b本体を利用した遊嵌状態の確保であっても良い。さらに、アウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bと凹部(貫通孔48a,48b)との関係は、双方が相似な形状としても良い。
【符号の説明】
【0071】
10………ディスクブレーキ装置、12………サポート、14a,14b………インナ側トルク受け部、16………取り付け孔、18a,18b………ガイド穴、20a,20b………トルク受け面、22a,22b………ロータパス部、24a,24b………アウタ側トルク受け部、26a,26b………トルク受け面、28………インナ側ブリッジ部、30………キャリパ、32………キャリパ本体、34………シリンダ、36………ピストン、38a,38b………アーム部、40a,40b………雌ネジ孔、42………ブリッジ部、44a,44b………爪部、46a,46b………フランジ部、48a,48b………貫通孔、50a,50b………ガイドピン、60………インナ側ブレーキパッド、62………プレッシャプレート、62a………プレート本体、64………凹溝、66………バネ組付け部、68a,68b………当接面、70a,70b………耳部、72………ライニング、74………組付け用バネ、80………アウタ側ブレーキパッド、82………プレッシャプレート、82a………プレート本体、84………凹溝、86………バネ組付け部、88a,88b………凸部、90a,90b………耳部、92a,92b………当接面、94………ライニング、96………蝶バネ、100………ロータ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドピンを介してサポートに対してロータ軸方向への摺動を可能に保持されたキャリパを備え、前記キャリパの爪部にアウタ側ブレーキパッドを遊嵌させて保持する構成としたディスクブレーキ装置であって、
前記サポートには、前記ロータのインナ側に配置されると共に、ロータ回入側と回出側に位置してインナ側ブレーキパッドによる制動トルクを受けるインナ側トルク受け部と、前記一対のインナ側トルク受け部を接続するインナ側ブリッジ部、および前記一対のインナ側トルク受け部のそれぞれから、前記ロータを跨ぐように前記ロータの軸線方向に突設される一対のロータパス部、および前記ロータパス部の先端側において前記アウタ側ブレーキパッドによる制動トルクを受ける一対のアウタ側トルク受け部を設け、
前記アウタ側ブレーキパッドと前記アウタ側トルク受け部との間に設けられる隙間よりも、前記爪部に対する前記アウタ側ブレーキパッドの遊嵌状態のロータ円周方向への隙間が大きくなるように、前記一対のアウタ側トルク受け部間の幅と前記アウタ側ブレーキパッドにおける前記ロータの円周方向の幅を定めたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記アウタ側トルク受け部は、前記ロータパス部をフラット加工することにより形成されるトルク受け面を有することを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記アウタ側ブレーキパッドと前記爪部の遊嵌は、前記アウタ側ブレーキパッドに凸部、前記爪部に凹部を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記凸部は、ロータの半径方向に長軸、円周方向に短軸を向けた長円形状または楕円形状の平面視形態を有し、
前記凹部は、平面視形態を前記長軸よりも長い直径を有する円形としたことを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項5】
前記凸部は、平面視形態を円形とし、
前記凹部は、ロータの円周方向に長軸、半径方向に短軸を向けた長円形状または楕円形状の平面視形態を有し、
前記円形の直径よりも前記短軸の長さを長くしたことを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項1】
ガイドピンを介してサポートに対してロータ軸方向への摺動を可能に保持されたキャリパを備え、前記キャリパの爪部にアウタ側ブレーキパッドを遊嵌させて保持する構成としたディスクブレーキ装置であって、
前記サポートには、前記ロータのインナ側に配置されると共に、ロータ回入側と回出側に位置してインナ側ブレーキパッドによる制動トルクを受けるインナ側トルク受け部と、前記一対のインナ側トルク受け部を接続するインナ側ブリッジ部、および前記一対のインナ側トルク受け部のそれぞれから、前記ロータを跨ぐように前記ロータの軸線方向に突設される一対のロータパス部、および前記ロータパス部の先端側において前記アウタ側ブレーキパッドによる制動トルクを受ける一対のアウタ側トルク受け部を設け、
前記アウタ側ブレーキパッドと前記アウタ側トルク受け部との間に設けられる隙間よりも、前記爪部に対する前記アウタ側ブレーキパッドの遊嵌状態のロータ円周方向への隙間が大きくなるように、前記一対のアウタ側トルク受け部間の幅と前記アウタ側ブレーキパッドにおける前記ロータの円周方向の幅を定めたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記アウタ側トルク受け部は、前記ロータパス部をフラット加工することにより形成されるトルク受け面を有することを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記アウタ側ブレーキパッドと前記爪部の遊嵌は、前記アウタ側ブレーキパッドに凸部、前記爪部に凹部を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記凸部は、ロータの半径方向に長軸、円周方向に短軸を向けた長円形状または楕円形状の平面視形態を有し、
前記凹部は、平面視形態を前記長軸よりも長い直径を有する円形としたことを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項5】
前記凸部は、平面視形態を円形とし、
前記凹部は、ロータの円周方向に長軸、半径方向に短軸を向けた長円形状または楕円形状の平面視形態を有し、
前記円形の直径よりも前記短軸の長さを長くしたことを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
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【図9】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2013−72501(P2013−72501A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212414(P2011−212414)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】
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