説明

ディスクブレーキ

【課題】取付部材に対するキャリパの摺動性を確保し得るディスクブレーキを提供する。
【解決手段】本ディスクブレーキ1の取付部材10のピン挿嵌部31は、連結部30の外周面からディスクロータ2の径方向外方に突出するように一体的に接続され、また、ピン挿嵌部31のピン挿嵌孔31aの先端がアウタ部20よりも車両内側に位置する。これにより、制動トルクの、取付部材10のピン挿嵌部31への作用を抑制することができ、その結果、スライドピン15のピン挿嵌孔31aの内壁面への干渉を抑制することができ、制動中のブレーキジャダを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動に用いられるディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスクブレーキは、車両の非回転部分に取付けられ、ディスクの周方向に離間して該ディスクを軸方向に跨ぐ一対の腕部を有した取付部材と、該取付部材の各腕部にスライドピン等を用いて摺動可能に取付けられ、インナ側の摩擦パッドとアウタ側の摩擦パッドをディスクの両面に押圧するキャリパとを備えており、該キャリパに取り付けられたスライドピンが取付部材の各腕部に設けられたピン挿嵌穴に摺動自在に嵌合されて構成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−207722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のディスクブレーキでは、取付部材が一対の摩擦パッドからの制動トルクを受けた際、特に、取付部材のアウタ側の脚部が弾性変形することにより、スライドピンが各脚部のピン挿嵌穴の内壁面に干渉し、すなわち、スライドピンがピン挿嵌穴内でこじってしまうことで、制動中のその部分の摺動抵抗が大きくなり、ブレーキジャダが発生する懸念があった。
【0005】
本発明は、取付部材に対するキャリパの摺動性を確保できるディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本発明は、ディスクを跨いで車両の非回転部分に取り付けられ、前記ディスクの軸方向に延びるピン挿嵌部を有する取付部材と、該取付部材のピン挿嵌部に嵌合されたスライドピンにより前記取付部材に支持され前記ディスクの軸方向に摺動変位するキャリパと、前記ディスクの両面側に位置して前記取付部材に対してディスクの軸方向に移動可能に取り付けられ前記キャリパによって前記ディスクの両面に押圧される少なくとも一対の摩擦パッドとを備え、前記取付部材は、前記一対の摩擦パッドのうち前記車両の非回転部分側となるインナ側の摩擦パッドの制動トルクを受承するインナ側トルク受部と、前記ディスクに対して前記インナ側と反対側となるアウタ側の摩擦パッドの制動トルクを受承するアウタ側トルク受部と、前記アウタ側トルク受部と前記インナ側トルク受部とを連結する連結部とを有するディスクブレーキであって、前記ピン挿嵌部は、前記連結部の外側面から前記ディスクの径方向外方に突出するように設けられ、内部に有底孔として形成されるピン挿嵌孔の底部が前記アウタ側トルク受部よりも前記インナ側トルク受部側に位置することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のディスクブレーキによれば、取付部材に対するキャリパの摺動性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施の形態に係るディスクブレーキを車両外側となる側から見た外観図である。
【図2】第1の実施の形態に係るディスクブレーキの平面図である。
【図3】第1の実施の形態に係るディスクブレーキをディスクロータ回転方向の一方から見た部分断面図である。
【図4】図2に示すX−X線断面図である。
【図5】第1の実施の形態に係るディスクブレーキに採用された取付部材の斜視図である。
【図6】第2の実施の形態に係る電動パーキング機構付きディスクブレーキの平面図である。
【図7】第2の実施の形態に係る電動パーキング機構付きディスクブレーキをディスクロータ回転方向の一方から見た外観図である。
【図8】第2の実施の形態に係る電動パーキング機構付きディスクブレーキを車両内側となる側から見た外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、第1の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、ディスクロータ2に対して車輪側をアウタ側と称し、ディスクロータ2に対して車輪と反対側となる車両の左右方向中央部側をインナ側と称して説明を行う。また、ディスクロータ2の回転軸の軸線方向をディスク軸方向、ディスクロータ2の径方向をディスク径方向、ディスクロータ2の回転方向をディスク回転方向と称して説明する。
【0010】
本第1の実施形態に係るディスクブレーキ1は、図1〜図4に示すように、車両の回転部に取り付けられたディスクロータ2を挟んで両側に配置された一対のインナ側摩擦パッド3及びアウタ側摩擦パッド4と、これら摩擦パッド3、4をディスクロータ2へ押圧するキャリパ5と、車両のナックル等の非回転部に固定される取付部材10とを備えている。取付部材10は、一対のインナ側摩擦パッド3及びアウタ側摩擦パッド4と、キャリパ5とを、それぞれディスク軸方向へ移動可能に支持している。すなわち、ディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型として構成されている。
【0011】
キャリパ5は、ブリッジ部11と、シリンダ部12と、爪部13と、一対の腕部14、14とが一体成形されている。ブリッジ部11は、ディスクロータ2の外周を跨いでディスクロータ2の軸方向に延びて形成される。シリンダ部12は、ブリッジ部11の一端側に一体的に形成され、インナ側摩擦パッド3のディスクロータ2と反対側の面に対向するように配置される。シリンダ部12の内部には、ピストン(図示略)が摺動可能に挿嵌されるシリンダボア(図示略)が形成されている。このシリンダボア内にマスタシリンダ(図示略)から液圧が供給される液圧室(図示略)が設けられている。そして、液圧室に液圧が供給されることで、ピストンがシリンダボア内をインナ摩擦パッド3に向かって推進されてインナ摩擦パッド3をディスクロータ2に押圧する。
【0012】
爪部13は、ブリッジ部11の他端側に一体的に形成され、アウタ側摩擦パッド4のディスクロータ2と反対側の面に対向するように配置されている。爪部13は、ディスクロータ2の回転方向中央にリセスを有する二又状に形成されている。なお、爪部13は、シリンダ部12の内部の切削加工が可能であれば、二又状に形成する必要はなく、上記リセスを設けずに一つのブロックの爪部として形成してもよい。
【0013】
一対の腕部14、14は、シリンダ部12のディスクロータ2の回転方向両側にそれぞれ延出してシリンダ部12と一体的に設けられる。これらの腕部14、14の先端側には、スライドピン15、15がディスクロータ2の軸方向に延びるようにそれぞれ取り付けられる。この取り付けに当たっては、各腕部14、14の先端側に形成されたピン取付孔にスライドピン15、15の一端部が挿通されて、腕部14、14にボルト38、38によってスライドピン15、15が固定される。また、スライドピン15には、車両外側の他端部から所定深さで延びる溝部15aが形成されており、スライドピン15が摺動するためのグリスの貯留部となっている。また、スライドピン15の一端部と取付部材10との間には、スライドピン15を覆う伸縮自在な蛇腹部を有するゴム製のピンブーツ40が設けられている。
【0014】
次に、取付部材10について、図5に基づいて図1〜図4も参照しながら説明する。取付部材10は、ディスクロータ2に対してインナ側に配置されるインナ部25と、ディスクロータ2に対してアウタ側に配置されるアウタ部20と、ディスクロータ2の外周を跨ぐようにディスク軸方向に延びてアウタ部20とインナ部25とを一体的に連結する連結部30と、該連結部30の外側面からディスク径方向外方に突出するように設けられ、連結部30と同方向に延設されるピン挿嵌部31とから構成されている。
【0015】
インナ部25は、ディスク回転方向に離間して設けられる一対のインナ側トルク受部26、26と、各インナ側トルク受部26、26を連結するインナビーム部27とを有している。各インナ側トルク受部26、26は、インナ側摩擦パッド3のディスク回転方向両端部と当接するようになっており、インナ側摩擦パッド3をディスク軸方向へ移動可能に支持している。各インナ側トルク受部26、26は、車両の前進時或いは後退時における車両制動時にインナ側摩擦パッド3から伝達される制動トルクを受承するようになっている。各インナ側トルク受部26、26の対向する面には、嵌合溝部29、29がそれぞれ設けられている。嵌合溝部29、29には、インナ摩擦パッド3のディスク回転方向両端部に形成されるガイド用凸部28、28が、取付部材10に取り付けられるパッドスプリング35、35を介して摺動可能に嵌合するようになっている。インナビーム部27には、車両のナックル部等の非回転部分に取付部材10を取り付けるための取付孔36、36が形成されている。
【0016】
アウタ部20は、ディスク回転方向に離間して設けられる一対のアウタ側トルク受部21、21と、各アウタ側トルク受部21、21を連結するアウタビーム部22とを有している。各アウタ側トルク受部21、21は、アウタ摩擦パッド4のディスク回転方向両端部と当接するようになっており、アウタ摩擦パッド4をディスク軸方向へ移動可能に支持している。各アウタ側トルク受部21、21は、車両の前進時或いは後退時における車両制動時にアウタ摩擦パッド4から伝達される制動トルクを受承するようになっている。また、各アウタ側トルク受部21、21の対向する面には、嵌合溝部24、24がそれぞれ設けられている。嵌合溝部24、24は、アウタ摩擦パッド4のディスク回転方向両端部に設けられるガイド用凸部23、23が、取付部材10に取り付けられるパッドスプリング35、35を介して摺動可能に嵌合するようになっている。アウタビーム部22は、各アウタ側トルク受部21、21のディスク径方向内方側となる一端部を連結するように形成されており、各アウタ側トルク受部21、21のうちの一方のアウタ側トルク受部21が車両制動時に制動トルクを受承したときの変形を極力、抑制するために設けられている。
【0017】
連結部30、30は、各アウタ側トルク受部21、21のディスク径方向外方側となる他端部と、インナ側トルク受部26、26のディスク径方向外方側となる他端部とを連結している。連結部30、30における各アウタ側トルク受部21、21とインナ側トルク受部26、26との間の内側面31aは、ディスクロータ2の外周面と対向するようになっている。
【0018】
ここで、連結部30とインナ側トルク受け部26との境界、また、連結部30とアウタ側トルク受け部21との境界は、図1、図3、及び図5に二点鎖線で示すような内側面31aを投影した位置となっている。
【0019】
ピン挿嵌部31は、連結部30の外周面からディスクロータ2の径方向外方に突出するように一体的に接続されており、連結部30の延びる方向と同じディスク軸方向に延びて形成されている。該ピン挿嵌部31は、その内部にキャリパ5の取付部14に固定されたスライドピン15が摺動自在に挿通されるピン挿嵌孔31aがインナ側から所定深さを有する有底孔として形成されている。ピン挿嵌孔31aの底部31cは、アウタ部20のアウタ側トルク受部21よりもインナ側トルク受け部26側に位置して形成されている。すなわち、底部31cは、アウタ側トルク受部21におけるディスクロータ2の対向面、言い換えれば、アウタ側トルク受部21におけるインナ側の面(図2の点線で示す位置)よりもインナ側に位置して形成されている。ピン挿嵌部31のアウタ側端面31bは、アウタ側トルク受部21のディスク軸方向外側面21bよりもインナ側に位置して形成されている。また、ピン挿嵌部31のインナ側端部は、インナ部25からインナ側に突出した位置に配置される。
【0020】
ここで、連結部30とピン挿嵌部31との境界は、図4に一点鎖線で示すような位置となっており、連結部30のディスク回転方向端部からピン挿嵌部31が突出し始める位置までの面を略延長したような部位が境界、すなわち、外側面となっている。
【0021】
このようなピン挿嵌部31のピン挿嵌孔31aには、キャリパ5の各腕部14、14に固定されたスライドピン15、15がそれぞれ摺動自在に挿通される。この挿通によって、キャリパ5が、そのブリッジ部11がディスクロータ2の外周を跨ぐように、また、その爪部13がアウタ摩擦パッド4の車両外側に臨む面に対向すると共にシリンダ部12がインナ摩擦パッド3の車両内側に臨む面に対向するように配置される。この結果、キャリパ5は、取付部材10にディスクロータ2の軸方向に沿って相対的に移動自在に支持されるようになっている。
【0022】
次に、本実施形態に係るディスクブレーキ1の制動時における作用を説明する。
運転者によりブレーキペダル(図示略)が踏み込まれると、ブレーキペダルの踏力に応じた液圧がマスタシリンダからキャリパ5内の液圧室に供給される。これにより、キャリパ5のシリンダ部12に設けられたピストンが、ピストンシール(図示略)を撓ませながら非制動時の原位置から前進してインナ摩擦パッド3をディスクロータ2に押圧する。そして、キャリパ5は、ピストンの押付力の反力によって取付部材10に対してインナ側に移動する。これにより、キャリパ5の爪部13が、アウタ摩擦パッド4をディスクロータ2に押圧する。この結果、ディスクロータ2が一対のインナ及びアウタ摩擦パッド3、4により挟みつけられて車両に制動力が発生することになる。
【0023】
この制動時、ディスクロータ2の回出側となる取付部材10のインナ側トルク受け部26及びアウタ側トルク受け部21には、一対のインナ及びアウタ摩擦パッド3、4からの制動トルクが伝達されるようになる。特に、取付部材10のアウタ側トルク受部21は、車両への固定部となるインナビーム部27の取付孔36から離れているため、インナ側トルク受け部26よりも制動トルクの伝達による変形量が大きくなっている。これにより、インナ側トルク受け部26よりアウタ側トルク受部21が回出側に移動するように変形してしまう。
【0024】
これに対して、上記実施の形態では、ピン挿嵌部31のピン挿嵌孔31aの底部がアウタ部20のアウタ側トルク受部21のインナ側の面よりもインナ側に位置している。これにより、アウタ側トルク受部21の変形の影響が、取付部材10のピン挿嵌部31へ作用しにくくなっている。この結果、ピン挿嵌部31の弾性変形を抑制することができ、ひいては、制動中のスライドピン15の摺動性、すなわち、キャリパ5の摺動性を確保することができる。
【0025】
特に、上記実施の形態では、ピン挿嵌部31のインナ側端部がインナ側トルク受け部26よりインナ側まで延びているので、スライドピン15の大部分は、インナ側トルク受け部26の変形が作用し、アウタ側トルク受部21の変形の影響を受ける部分がスライドピン15の先端部に限定されるので、よりアウタ側トルク受部21の変形の影響が小さくなる。
【0026】
また、ディスクブレーキにおいては、制動時にキャリパ5内の液圧室の液圧が増加した際にブリッジ部11のシリンダ部12側を中心に爪部13とシリンダ部12とが開くように変形する傾向にある。この変形により、取付部材10のピン挿通孔31aに対して、スライドピン15が傾いてしまい、取付部材10に対するキャリパ5の摺動性を阻害し、ブレーキジャダ発生の原因となってしまう惧れがある。
【0027】
これに対して、本実施の形態においては、取付部材10のピン挿嵌部31は、連結部30の外側面からディスクロータ2の径方向外方に延出するように一体的に接続されている。すなわち、スライドピン15が固定されるキャリパ5の腕部14は、シリンダ部12におけるディスク径方向外方から、ディスクロータ2の中心とシリンダ部12の中心とを結ぶ線の延長線と交わるディスクロータ2の接線方向に延出して設けられている。このため、スライドピン15の取付位置が変形の中心部に近くなり、制動時のキャリパ5の変形の影響が小さくなる。したがって、取付部材10に対するキャリパ5の摺動性を確保し、ブレーキジャダ発生を抑制することができる。
【0028】
一方、運転者がブレーキペダルを解放すると、マスタシリンダからの液圧の供給が途絶えてキャリパ5内の液圧室内の液圧が減少していく。これにより、シリンダ部12内のピストンは、ピストンシールの弾性変形が解消されていくことによって原位置まで後退する。このようにして車両の制動力が解除される。
【0029】
以上説明したように、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、取付部材10のピン挿嵌部31が、連結部30の外周面からディスクロータ2の径方向外方に突出するように形成されており、ピン挿嵌部31のピン挿嵌孔31aの底部31cは、アウタ部20のアウタ側トルク受部21よりもインナ側トルク受け部26側に位置して形成されているので、アウタ側トルク受部21の変形の影響が、取付部材10のピン挿嵌部31へ作用しにくくなっている。この結果、ピン挿嵌部31の弾性変形を抑制することができ、ひいては、制動中のスライドピン15の摺動性、すなわち、キャリパ5の摺動性を確保することができ、制動中のブレーキジャダを抑制することができる。
【0030】
次に、第2の実施形態を図6〜図8に基づいて説明する。第2の実施形態のディスクブレーキ101は、上述した取付部材10に、電動パーキング機構付きのキャリパ105を摺動可能に設けたものである。
【0031】
キャリパ105のシリンダ部12の底部側には、電動パーキング機構50が取り付けられている。電動パーキング機構50は、電動モータ50が固定され、電動モータ50の回転を増力するための減速機構(図示略)が内包されたハウジング51を有して構成される。
【0032】
このように、取付部材10に、電動パーキング機構付きのキャリパ105を摺動可能に設けた場合、図8に示すように、電動パーキング機構50を、取付部材10のインナビーム部27に設けた各取付孔36と、各ピン挿嵌部31(各スライドピン15)との間に配置することができ、電動パーキング機構付きのキャリパ105を有するディスクブレーキ101の車両への搭載性を向上させることができる。また、電動パーキング機構付きのキャリパ105においては、電動パーキング機構50が重量物となっているため、その重心がインナ側に後退することになる。このように重心がインナ側に移動しているキャリパを取付部材10に設けた場合でも、スライドピン15のピン挿通孔31aとの嵌合長範囲がディスクロータ3に対してインナ側にオフセットされた範囲となっているため、キャリパの摺動性を確保することができる。
【0033】
なお、本実施形態においては、電動パーキング機構付きのキャリパ105を有するディスクブレーキの例を示したが、これに限らず、機械式パーキング機構付きのキャリパを有するディスクブレーキに上述の取付部材10を適用するようにしてもよい。
【0034】
上記した第1,2の実施形態のディスクブレーキは、ディスクを跨いで車両の非回転部分に取り付けられ、前記ディスクの軸方向に延びるピン挿嵌部を有する取付部材と、該取付部材のピン挿嵌部に嵌合されたスライドピンにより前記取付部材に支持され前記ディスクの軸方向に摺動変位するキャリパと、前記ディスクの両面側に位置して前記取付部材に対してディスクの軸方向に移動可能に取り付けられ前記キャリパによって前記ディスクの両面に押圧される少なくとも一対の摩擦パッドとを備え、前記取付部材は、前記一対の摩擦パッドのうち前記車両の非回転部分側となるインナ側の摩擦パッドの制動トルクを受承するインナ側トルク受部と、前記ディスクに対して前記インナ側と反対側となるアウタ側の摩擦パッドの制動トルクを受承するアウタ側トルク受部と、前記アウタ側トルク受部と前記インナ側トルク受部とを連結する連結部とを有するディスクブレーキであって、前記ピン挿嵌部は、前記連結部の外側面から前記ディスクの径方向外方に突出するように設けられ、内部に有底孔として形成されるピン挿嵌孔の底部が前記アウタ側トルク受部よりも前記インナ側トルク受部側に位置するようになっている。このような構成により、スライドピンの大部分は、インナ側トルク受け部の変形が作用し、アウタ側トルク受部の変形の影響を受ける部分がスライドピンの先端部に限定されるので、よりアウタ側トルク受部の変形の影響が小さくなる。このため、制動中のスライドピンの摺動性、すなわち、キャリパの摺動性を確保することができる。したがって、ブレーキジャダ発生を抑制することができる。
【0035】
第1,2の実施形態のディスクブレーキにおいては、前記ピン挿嵌部が、前記ディスクの軸方向の両端に端面を有しており、該端面のうち、アウタ型端面が、前記連結部の前記ディスクの軸方向アウタ側端面よりも前記ディスクの軸方向インナ側に位置して形成されている。このような構成により、スライドピンの大部分は、インナ側トルク受け部の変形が作用し、アウタ側トルク受部の変形の影響を受ける部分がスライドピンの先端部に限定されるので、よりアウタ側トルク受部の変形の影響が小さくなる。このため、制動中のスライドピンの摺動性、すなわち、キャリパの摺動性を確保することができる。したがって、ブレーキジャダ発生を抑制することができる。
【0036】
第1,2の実施形態のディスクブレーキにおいては、前記ピン挿嵌部が、前記端面のうち、インナ型端面が、前記連結部の前記ディスクの軸方向インナ側端面よりも前記ディスクから離れた位置に形成されている。このような構成により、スライドピンの大部分は、インナ側トルク受け部の変形が作用し、アウタ側トルク受部の変形の影響を受ける部分がスライドピンの先端部に限定されるので、よりアウタ側トルク受部の変形の影響が小さくなる。このため、制動中のスライドピンの摺動性、すなわち、キャリパの摺動性を確保することができる。したがって、ブレーキジャダ発生を抑制することができる。
【0037】
第1,2の実施形態のディスクブレーキにおいては、前記キャリパに、前記摩擦パッドを押圧するピストンが進退可能に収容されたシリンダ部と、該シリンダ部から延出して前記スライドピンが固定される一対の腕部とが設けられ、該腕部が、前記シリンダ部における前記ディスクの径方向外方から、前記ディスクの中心と前記シリンダ部の中心とを結ぶ線の延長線と交わる前記ディスクの接線方向に延出して形成されている。このような構成により、ピン挿嵌部に対するスライドピンの取付位置が制動時のキャリパ変形の中心部に近くなり、制動時のキャリパ5の変形の影響が小さくなる。したがって、取付部材に対するキャリパの摺動性を確保することが可能となり、ブレーキジャダ発生を抑制することができる。
【0038】
第1,2の実施形態のディスクブレーキにおいては、前記腕部が、前記シリンダ部における前記ピストンが突出する側と反対の前記ディスクの軸方向の端部から延出されている。このような構成により、ピン挿嵌部に対するスライドピンの嵌合長を確保することができ、取付部材に対するキャリパの摺動性を確保することができる。
【0039】
第2の実施形態のディスクブレーキにおいては、前記キャリパに、前記摩擦パッドを押圧するピストンが進退可能に収容されるとともに、該ピストンを機械的に推進するピストン推進機構とが収容される有底筒状のシリンダ部と、前記ピストン推進機構に推進力を付与すべく、前記シリンダ部の底部側に固定される駆動部とが設けられ、該駆動部が、前記シリンダ部の中心から前記ディスクの回転方向に沿って延出して設けられる。このような駆動部を有するキャリパを上記取付部材に設けた場合には、駆動部によってキャリパの重心がシリンダ部の底部側となっていても、キャリパの摺動性を確保することができる。
【0040】
第2の実施形態のディスクブレーキにおいては、前記ピン挿嵌部が、前記駆動部の先端位置よりも前記ディスクの径方向外方に配置されている。このような構成により、ピン挿嵌部に対応する位置に設けられるスライドピンの取り外しや取り付けの際に、その作業を駆動部によって妨げられることがなく、ディスクブレーキのメンテナンス性が向上する。
【0041】
第2の実施形態のディスクブレーキにおいては、前記取付部材に、前記車両の非回転部分に固定される固定部が形成され、該固定部が、前記駆動部の先端位置よりも前記ディスクの径方向内方に配置されている。このような構成により、取付部材を車両の非回転部分に固定する際に、その固定作業を駆動部によって妨げられることがなく、車両へのディスクブレーキの取付効率が向上する。
【符号の説明】
【0042】
1、101 ディスクブレーキ,2 ディスクロータ,3 インナ摩擦パッド,4 アウタ摩擦パッド,5、105 キャリパ,10 取付部材,15 スライドピン,20 アウタ部,21 アウタ側トルク受部,22 アウタビーム部,25 インナ部,26 インナ側トルク受部,27 インナビーム部,30 連結部,31 ピン挿嵌部,31a ピン挿嵌孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクを跨いで車両の非回転部分に取り付けられ、前記ディスクの軸方向に延びるピン挿嵌部を有する取付部材と、
該取付部材のピン挿嵌部に嵌合されたスライドピンにより前記取付部材に支持され前記ディスクの軸方向に摺動変位するキャリパと、
前記ディスクの両面側に位置して前記取付部材に対してディスクの軸方向に移動可能に取り付けられ前記キャリパによって前記ディスクの両面に押圧される少なくとも一対の摩擦パッドとを備え、
前記取付部材は、
前記一対の摩擦パッドのうち前記車両の非回転部分側となるインナ側の摩擦パッドの制動トルクを受承するインナ側トルク受部と、
前記ディスクに対して前記インナ側と反対側となるアウタ側の摩擦パッドの制動トルクを受承するアウタ側トルク受部と、
前記アウタ側トルク受部と前記インナ側トルク受部とを連結する連結部とを有するディスクブレーキであって、
前記ピン挿嵌部は、前記連結部の外側面から前記ディスクの径方向外方に突出するように設けられ、内部に有底孔として形成されるピン挿嵌孔の底部が前記アウタ側トルク受部よりも前記インナ側トルク受部側に位置することを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記ピン挿嵌部は、前記ディスクの軸方向の両端に端面を有しており、該端面のうち、アウタ型端面は、前記連結部の前記ディスクの軸方向アウタ側端面よりも前記ディスクの軸方向インナ側に位置して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記ピン挿嵌部は、前記端面のうち、インナ型端面は、前記連結部の前記ディスクの軸方向インナ側端面よりも前記ディスクから離れた位置に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記キャリパには、前記摩擦パッドを押圧するピストンが進退可能に収容されたシリンダ部と、該シリンダ部から延出して前記スライドピンが固定される一対の腕部とが設けられ、該腕部は、前記シリンダ部における前記ディスクの径方向外方から、前記ディスクの中心と前記シリンダ部の中心とを結ぶ線の延長線と交わる前記ディスクの接線方向に延出して形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のディスクブレーキ。
【請求項5】
前記腕部は、前記シリンダ部における前記ピストンが突出する側と反対の前記ディスクの軸方向の端部から延出されていることを特徴とする請求項4に記載のディスクブレーキ。
【請求項6】
前記キャリパには、前記摩擦パッドを押圧するピストンが突出可能に収容されるとともに、該ピストンを機械的に推進するピストン推進機構とが収容される有底筒状のシリンダ部と、前記ピストン推進機構に推進力を付与すべく、前記シリンダ部の底部側に固定される駆動部とが設けられ、
該駆動部は、前記シリンダ部の中心から前記ディスクの回転方向に沿って延出して設けられることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のディスクブレーキ。
【請求項7】
前記ピン挿嵌部は、前記駆動部の先端位置よりも前記ディスクの径方向外方に配置されていることを特徴とする請求項6に記載のディスクブレーキ。
【請求項8】
前記取付部材には、前記車両の非回転部分に固定される固定部が形成され、該固定部は、前記駆動部の先端位置よりも前記ディスクの径方向内方に配置されていることを特徴とする請求項6または7に記載のディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−113378(P2013−113378A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260278(P2011−260278)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】