説明

ディスクブレーキ

【課題】 パッドスプリングおよびカバーとして機能する板ばねを、差込み式にワンタッチでキャリパ本体に組付けできるようにする。
【解決手段】 ディスクロータを挟んで一対のシリンダ部11を対向配置した対向シリンダ型キャリパ本体10に板ばね15を支承するボス部32A,32Bを突設し、シリンダ軸方向に見て、前記ボス部32A,32Bとピン28に支持された摩擦パッド29の裏板29aとの間の隙34を組付通路として用い、板ばね15を弾性変形させながら一方のシリンダ部11側から前記組付通路34に板ばね15を差込み、その4つの隅角部をボス部32A,32Bに着座させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両の制動に用いられるディスクブレーキに係り、特に二輪自動車に用いて好適なディスクブレーキに関する。
【0002】
【従来の技術】二輪自動車用のディスクブレーキとしては、図10に示すように、ディスクロータDを挟んで対向配置された一対のシリンダ部1,2をディスクロータDを跨ぐ透過構造のブリッジ部3により連接してなる対向シリンダ型のキャリパ本体4を車両の非回転部に取付け、該キャリパ本体4の一対のシリンダ部1と2との間に橋架したピン(図示略)にディスクロータDの両面に押圧される一対の摩擦パッド(図示略)を支持させ、かつキャリパ本体4に、前記各摩擦パッドの姿勢を制御するパッドスプリングおよび前記ブリッジ部3の透孔5を覆うカバーとして機能する板ばね6を支持させたものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで従来、上記キャリパ本体4に対する板ばね6の取付けは、同じく図10R>0に示すように、板ばね6の両端に突設した爪部6aをブリッジ部の背面にねじ7により止める構造となっていた(例えば、特開平1−188730号公報参照)。
【0004】このため、キャリパ本体4に対するねじ穴加工が必要になることに加え、取付用ねじ7が必要になって部品点数が増加し、しかも専用の工具による面倒な回螺作業が必要となって、コスト負担が増大するという問題があった。
【0005】本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、パッドスプリングおよびカバーとして機能する板ばねを、差込み方式でワンタッチでキャリパ本体に取付けできるようにし、もってコスト低減を図ることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明は、対向シリンダ型のキャリパ本体に、板ばねの少なくとも4つの隅角部を支承するボス部を設け、シリンダ軸方向に見て前記各ボス部と前記摩擦パッドとの間に形成される隙を前記板ばねの組付通路として用いるようにしたことを特徴とする。
【0007】このように構成したディスクブレーキにおいては、板ばねを支承する各ボス部と摩擦パッドとの間の組付通路にシリンダ軸方向から板ばねを差込み、各ボス部に板ばねの4つの隅角部を係合させることで、その組付けは終了する。
【0008】本発明は、上記板ばねの4つの隅角部に、シリンダ軸方向へ突出する突起を設けて、該突起を組付けのガイドとして用いるようにするのが望ましい。
【0009】本発明はまた、一方のシリンダ部側に位置する2つのボス部の、ディスクロータから遠ざかる方向の縁端に隣接して、組付通路を閉鎖する縦壁を設けるようにするのが望ましい。このように縦壁を設けることで、該縦壁に突き当たる位置が板ばねの差込み端となり、その組付け並びに位置決めが容易になる。
【0010】本発明はさらに、他方のシリンダ部側に位置する2つのボス部の、ディスクロータから遠ざかる方向の縁端に隣接して、該ボス部に支承された板ばねのキャリパ本体からの抜けを規制する凸条を設けるようにするのが望ましい。このように凸条を設けることで、板ばねの支持が安定するばかりか、その位置決めが容易になる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0012】図1〜4において、10はキャリパ本体で、ディスクロータDを挟んで対向配置した一対のシリンダ部11、12を、ディスクロータDを跨ぐブリッジ部13により連接してなっている。ブリッジ部13は、その中央部に四角形状の透孔14を有する透過構造となっており(図2)、その透孔14は、キャリパ本体10に支持させた後述の板ばね15により覆われている。なお図2では、理解を容易にするため、板ばね15を斜線を付している。
【0013】本実施の形態において、キャリパ本体10は、上記ブリッジ部13内を分割面として、別途形成された第1のシリンダブロック16と第2のシリンダブロック17とからなっている。第1、第2のシリンダブロック16、17のそれぞれは、ピストン18、19を収納するボア(シリンダ)20、21を設けた本体部16a、17aと、各本体部16a、17aから延ばした各一対の突部16b、17bとを備え、各一対の突部16b、17bを相互に当接させた状態で、一対のボルト22により締結一体化されている。すなわち、第1、第2のシリンダブロック16、17の本体部16a、17aは、それぞれキャリパ本体10のシリンダ部11、12を構成し、また両者の突部16b、17bは、共働してキャリパ本体10のブリッジ部13を構成するものとなっている。
【0014】前記ピストン18、19を収納するボア20、21は、第1、第2のシリンダブロック16、17を一体化した状態において同軸上で対向するようになっており、その相互間は、ブリッジ部13を構成する一対の突起部16b、17bのうちの一方に形成した流体通路(図示略)により連通されている。第1のシリンダブロック16内のボア20には、第1のシリンダブロック16の背面に突設したボス部23内のポート23a(図3R>3)を通じてブレーキ液が供給されるようになっており、このブレーキ液は、前記流体通路を経て第2のシリンダブロック17内のボア21内に供給され、これにより2つのピストン18、19は、対応するボア20、21から同期して突出するようになる。なお、第1、第2のシリンダブロック16、17のそれぞれには、前記ブレーキ液中に混入しているエアを排出するためのブリーダ24、25が設けられている。
【0015】また、上記第1、第2のシリンダブロック16、17には、各本体部16a、17aから立上げるようにピンボス26、27が突設されており、この2つのピンボス26と27の間には、一対の摩擦パッド29、30を支持するピン28が橋架されている(図3R>3)。各摩擦パッド29、30は、矩形状の裏板29a,30aとこの裏板に接合したライニング材29b,30bとからなっており、前記ピン28がそれぞれの裏板29a,30aを摺動自在に挿通している。一対の摩擦パッド29、30は、ディスクロータDを挟むように配置され、2つのピストン18、19が同期して突出することによりディスクロータDの両面に押圧される。第1、第2のシリンダブロック16、17のそれぞれには、ボア20、21の周りに位置してトルク受け(図示略)が設けられており、各摩擦パッド29、30の裏板29a,30aの側面が前記トルク受けに当接することで、所定の制動力が発生する。なお、前記ピン28はβクリップ31によりピンボス26、27から抜止めされている。
【0016】ここで、上記ブリッジ部13の透孔14を覆う板ばね15は、前記一対の摩擦パッド29、30の姿勢制御にも用いられるもので、キャリパ本体10を構成する第1、第2のシリンダブロック16、17のそれぞれには、この板ばね15の2つの隅角部を支承するための各一対のボス部32A,32B、33A,33Bが設けられている。板ばね15は、図5および6に良く示されるように、平板部15aと、この平板部15aの両側から立上げた湾曲部15bと、両湾曲部15bに連接した平板状の爪部15cとを備えており、その爪部15cの両端部(隅角部)が前記各ボス部32A,32B、33A,33Bに支承されるようになっている。板ばね15はまた、その4つの隅角に各爪部15cの延長部としての突起15dを設けている。板ばね15は、各ボス部32A,32B、33A,33Bに支承された状態で、その平板部15aの両側の湾曲部15bを各摩擦パッド29、30の裏板29a,30aに当接させて、これを弾発付勢し、これにより各摩擦パッド29、30は、ディスクロータDの盤面と平行になるように姿勢制御される。
【0017】キャリパ本体10の各ボア20、21の軸方向(以下、シリンダ軸方向という)に見て、各ボス部32A,32B、33A,33Bと各摩擦パッド29、30の裏板29a,30aとの間には、所定の隙34が形成されるようになっている(図1)。この隙34は、前記板ばね15を組付けるための組付通路として用いられるものであるが、板ばね15の組付けについては後に詳述する。しかして、第1のシリンダブロック16に設けた一対のボス部32A,32Bであって、その、ディスクロータDから遠ざかる方向の縁端に隣接する部分には凸条35が突設されている。一方、第2のシリンダブロック17に設けた一対のボス部33A,33Bであって、その、ディスクロータDから遠ざかる方向の縁端に隣接する部分には、前記隙(組付通路)34を閉鎖する縦壁36が設けられている。前記した凸条35と縦壁36との間隔は、図4に良く示されるように、突起15dを含む板ばね15の全長よりわずか大きく設定されており、これにより板ばね15は、各ボス部32A,32B、33A,33B上に嵌合状態で保持されて、その位置が浮動となっている。
【0018】本実施の形態において、上記キャリパ本体10を構成する第1、第2のシリンダブロック16、17は鋳造により形成され、前記ピン28を取付けるためのピンボス26、27、前記板ばね15を支承するためのボス部32A,32B、33A,33B、これらボス部に隣接する凸条35および縦壁36等は、鋳造により各シリンダブロック16、17と一体形成されている。そして、第1、第2のシリンダブロック16、17のボア20、21の内面および突部16b、17bの先端(合せ面)は機械加工によって仕上げられ、ディスクブレーキの組立に際しては、各ボア20、21にピストン18、19を納めた後、第1のシリンダブロック16と第2のシリンダブロック17とを合せてボルト22により締付け一体化する。次に、ピンボス部26、27にピン28を差込みながら、該ピン28に一対の摩擦パッド29、30を吊下支持させる。この時、キャリパ本体10は、図7および8に示すように、そのブリッジ部13が上方を向くように位置決めする。
【0019】その後、図7および8に示すように、先ずキャリパ本体10を構成する第1のシリンダブロック16側から前記組付通路(隙)34内に、板ばね15の爪部15cの延長部である突起15dを挿入する。そして、図8に示すように板ばね15を矢印C方向へ持上げて、その湾曲部15bが前記組付通路34内に収まるように弾性変形させ、その状態で、図7に矢印Dにて示すように、板ばね15をキャリパ本体10内に押込む(差込む)。この押込みにより板ばね15はキャリパ本体10の第2のシリンダブロック17側へ移動し、遂にはその先端の突起15dが縦壁36に衝突して、板ばね15の移動が停止される。この板ばね15の移動停止と同時に、これを持上げる力を解放すると、板ばね15は、その4つの隅角部が各ボス部32A,32B、33A,33Bに支承され、その反力で、各摩擦パッド29、30が姿勢制御される。この時、各ボス部32A,32B、33A,33Bに隣接する凸条35および縦壁36との間に板ばね15は位置固定され、使用中、振動等によりキャリパ本体10から外れることはなくなる。
【0020】本実施の形態におけるディスクブレーキは、トルクリンク式として構成されたもので、キャリパ本体10を構成する第1のシリンダブロック16の一側部には、後述するにトルクリンク40(図9)を連結するためのトルクリンクボス部37が一体に設けられている。また、第1のシリンダブロック16の、突部16bを設けた側と反対側の部分には、車両への取付けに用いる2つのねじ孔38が設けられている。トルクリンク40は、図9に示すように車両(二輪車)のスイングアーム41から延ばされ、このスイングアーム41にはブラケット42を介してキャリパ本体10が取付けられている。ブラケット42は、ピン43を用いてスイングアーム41に揺動可能に取付けられ、一方、キャリパ本体10は、このブラケット42に対して前記ねじ孔38に螺合させた取付ボルト44により固定されている。この取付状態においてキャリパ本体10は、そのブリッジ部13を下側にして、かつその第1のシリンダブロック16を車両外側にしてセットされ、ピン28に支持された一対の摩擦パッド29と30との間にディスクロータDが位置決めされるようになる(図3)。
【0021】上記のように車両に取付けたディスクブレーキにおいては、キャリパ本体10の2つのボア20、21内にブレーキ液を供給すると、各ボア20、21内のピストン18、19が突出し、一対の摩擦パッド29、30がそれぞれディスクロータDの両面に押付けられる。この時、各摩擦パッド29、30にかかるトルクは、それぞれの裏板29a、30aを介して第1、第2のシリンダブロック16、17に設けた、図示を略すトルク受けで受け止められると同時に、キャリパ本体10の全体にかかるトルクはトルクリンク40を介してスイングアーム41で受け止められ、所望の制動力が発生する。
【0022】なお、上記実施の形態においては、板ばね15を組付ける際、車両外側に配置される第1のシリンダブロック16側から板ばね15を差込むようにしたが、本発明は、この板ばね15の組付方向を逆にする構造してもよいものである。この場合は、板ばね15の衝突壁として機能する縦壁36を第1のシリンダブロック16に、板ばね15の抜けを規制する凸条35を第2のシリンダブロック17にそれぞれ設けるようにする。このような構造とすることにより、板ばね15の組付通路34を外部から隠蔽することができ、いたずらによる板ばね15の取外しを未然に防止することができる。
【0023】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明のディスクブレーキによれば、シリンダ軸方向からキャリパ本体に板ばねを差し込んでワンタッチで板ばねを組付けることができ、ねじ止めする構造に較べて、加工工数および部品点数が削減されるばかりか、組付作業性が良好となり、コスト低減に大きく寄与するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るディスクブレーキの構造を示す正面図である。
【図2】本ディスクブレーキの構造を示す平面図である。
【図3】図1のA−A矢視線に沿う断面図である。
【図4】図2のB−B矢視線に沿う断面図である。
【図5】本発明で用いる板ばねの形状を示す断面図である。
【図6】本発明で用いる板ばねの形状を示す平面図である。
【図7】キャリパ本体に対する板ばねの組付手順を示す平面図である。
【図8】キャリパ本体に対する板ばねの組付手順を示す正面図である。
【図9】本発明の実施の形態としてのディスクブレーキの車両への取付状態を示す模式図である。
【図10】従来のディスクブレーキにおける板ばねの取付構造を示す平面図である。
【符号の説明】
10 キャリパ
11、12 シリンダ部
13 ブリッジ部
14 透孔
15 板ばね
15d 板ばねの突起
16 第1のシリンダブロック
17 第2のシリンダブロック
18、19 ピストン
20、21 シリンダボア
28 ピン
29、30 摩擦パッド
32A、32B 第1のシリンダブロックのボス部
33A、33B 第2のシリンダブロックのボス部
34 隙(組付通路)
35 凸条
36 縦壁
D ディスクロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ディスクロータを挟んで対向配置した一対のシリンダ部をディスクロータを跨ぐ透過構造のブリッジ部により連接してなる対向シリンダ型キャリパ本体を車両の非回転部に取付け、該キャリパ本体の一対のシリンダ部間に橋架したピンにディスクロータの両面に押圧される一対の摩擦パッドを支持させ、かつ前記キャリパ本体に、前記各摩擦パッドの姿勢を制御するパッドスプリングおよび前記ブリッジ部の透孔を覆うカバーとして機能する矩形の板ばねを支持させたディスクブレーキにおいて、前記キャリパ本体に、前記板ばねの少なくとも4つの隅角部を支承するボス部を設け、シリンダ軸方向に見て前記各ボス部と前記摩擦パッドとの間に形成される隙を前記板ばねの組付通路として用いるようにしたことを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】 板ばねの4つの隅角部に、シリンダ軸方向へ突出する突起を設けたことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】 一方のシリンダ部側に位置する2つのボス部の、ディスクロータから遠ざかる方向の縁端に隣接して、組付通路を閉鎖する縦壁を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】 他方のシリンダ部側に位置する2つのボス部の、ディスクロータから遠ざかる方向の縁端に隣接して、該ボス部に支承された板ばねのキャリパ本体からの抜けを規制する凸条を設けたことを特徴とする請求項1、2または3に記載のディスクブレーキ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【図9】
image rotate


【図10】
image rotate