説明

ディスク原盤の製造方法及びスタンパ

【課題】無機レジスト材料を用いたディスク原盤の製造方法において、無機レジスト材料の露光感度をより高いものとする。
【解決手段】所定の凹凸パターン形状を有する光記録媒体用のスタンパを製造するためのディスク原盤の製造方法であって、基板上に、無機レジスト材料からなるレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、前記レジスト層に露光処理及び現像処理を施すことにより、凹凸パターン形状を形成する凹凸パターン形成工程とを有するディスク原盤の製造方法において、前記レジスト層形成工程前に、前記基板と前記レジスト層との間に中間層を設ける中間層形成工程と、前記中間層の表面に逆スパッタによる表面処理を行う表面処理工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体のディスク原盤の製造方法及び当該製造方法により製造されたディスク原盤を用いて製造されるスタンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、CDやDVDといった光記録媒体は、所定の微細な凹凸パターンを有しており、これらの凹凸パターンは、通常、所定の凹凸パターンを有するスタンパを用い、このスタンパの形状を、基板もしくは中間層に転写することで形成される。
【0003】
ここで、一般的には、まず所定の凹凸形状を有するディスク原盤を作製し、ディスク原盤から凹凸パターンを転写する形でスタンパを製造する。さらにこのスタンパを用いて射出成型等により光記録媒体用の基板を形成し、光記録媒体を大量生産することが行われている。また、このようにして作製した基板上に記録層等の記録再生機能層を形成した後、樹脂材料等により透明樹脂層を形成し、この透明樹脂層にスタンパを用いて凹凸形状を転写し(フォトポリメリゼーション法(Photo Polymerization:以下、「2P法」と記すことがある。))、複数の記録層を有する多層型光記録媒体を作製すること等も行われている(例えば、特許文献1)。
【0004】
上記ディスク原盤の製造については、フォトレジストを用いる方法が一般的である。具体的な例としては、ディスク原盤となる基板上にフォトレジスト層を形成し、レーザー光等により凹凸パターンを露光した後、露光部あるいは非露光部を選択的に除去する現像処理を行うことで、所望の凹凸パターンを有するディスク原盤を製造する方法が挙げられる。従来、フォトレジスト層材料としては、有機材料からなる有機レジストが広く用いられている。
【0005】
ここで、近年の光記録媒体の高記録密度化に伴い、より微細な凹凸パターンが必要とされるようになり、スタンパ、ひいてはディスク原盤についても、より高精細な凹凸パターンの実現が要求されてきている。このような高精細な凹凸パターンを実現する方法として、例えば無機レジスト材料を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献2)。この無機レジスト材料は、感熱反応により露光を行うため、レーザー光のスポット径よりも小さいパターンの露光が可能であり、高精細な凹凸パターンの実現に適している。
【0006】
また特許文献2においては、無機レジスト材料の露光感度を高めるために、基板と無機レジスト材料との間に、熱伝導率の比較的低い材料からなる中間層を設けることが有効である旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−164967号公報
【特許文献2】特開2003−315988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、光記録媒体の製造に用いられるスタンパを作製するためのディスク原盤としては、さらに高精細な凹凸パターンを有するものが求められている。特に、無機レジスト材料の露光感度が高いほど、露光時の光源の照射パワーを低減することが可能であり、より高速な露光工程の実現が可能となるため、更なる露光感度の改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無機レジスト材料を用いたディスク原盤の製造方法において、無機レジスト材料の露光感度をより高いものとすることを実現するためになされたものである。
【0010】
本発明の要旨は、所定の凹凸パターン形状を有する光記録媒体用のスタンパを製造するためのディスク原盤の製造方法であって、基板上に、無機レジスト材料からなるレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、前記レジスト層に露光処理及び現像処理を施すことにより、凹凸パターン形状を形成する凹凸パターン形成工程とを有するディスク原盤の製造方法において、前記レジスト層形成工程前に、前記基板と前記レジスト層との間に中間層を設ける中間層形成工程と、前記中間層の表面に逆スパッタによる表面処理を行う表面処理工程とを有することを特徴とする、ディスク原盤の製造方法に存する。
上記製造方法においては、前記中間層がSiを含む材料からなることが好ましい。
【0011】
また本発明の別の要旨は、上述のディスク原盤の製造方法により得られたディスク原盤を用いて、前記ディスク原盤の前記レジスト層上に少なくとも剥離層、導電膜層、電鋳層をこの順に形成し、前記導電膜層及び電鋳層を前記ディスク原盤から剥離する
ことにより製造されることを特徴とする、光記録媒体用のスタンパに存する。
【0012】
さらに別の本発明の要旨は、上述のスタンパを用いて製造されることを特徴とする、光記録媒体に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ディスク原盤の製造の際、基板とレジスト層との間に中間層を設け、さらに当該中間層の表面に逆スパッタによる表面処理を行なうことによって、中間層上に設けられる無機レジスト材料の露光感度を良好なものとすることができるため、高精細な凹凸パターンを有するディスク原盤を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のディスク原盤の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の光記録媒体の製造方法の一例を示す工程図である。
【図3】本発明のディスク原盤の製造方法に用いられる露光装置の一例を示す説明図である。
【図4】本願の実施例1及び比較例1で製造されたディスク原盤に形成された凹凸パターンの表面形状を、原子間力顕微鏡により観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳述する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができることはいうまでもない。
【0016】
1.ディスク原盤の製造方法、及び当該ディスク原盤による光記録媒体の製造方法の概要
以下、図1及び図2を参照しつつ、本発明のディスク原盤の製造方法と、当該製造方法により製造されたディスク原盤により、光記録媒体用のスタンパを製造する方法の概要を説明する。
まず、図1(a)、(b)に示すように、基板1上に中間層2を形成する(以下、当該工程を中間層形成工程と記載することがある)。続いて、図1(c)に示すように、中間層2の表面に逆スパッタによる表面処理を行う(以下、当該工程を表面処理工程と記載することがある)。
【0017】
次いで、図1(d)に示すように、表面処理された中間層2上に無機レジスト材料からなるレジスト層3を形成する(以下、当該工程をレジスト形成工程と記載することがある)。さらに、図1(e)に示すように、レジスト層3に対し、レーザー光を照射することにより所望の凹凸パターンを潜像として形成する(以下、当該工程を露光工程と記載することがある)。当該レジスト層3に、露光後のレジスト層3表面に現像処理を施すことにより、図1(f)に示すように、潜像として記録された所望の凹凸パターンを具現化し(以下、当該工程を現像工程と記載することがある)、ディスク原盤11とする。
【0018】
次に、上記工程を経て作製されたディスク原盤11を用いて、光記録媒体用のスタンパを製造する方法を図2に示す。
まず、図2(a)に示すように、凹凸パターン形状が形成されたディスク原盤11の表面全体に、剥離層4を形成する(以下、当該工程を剥離層形成工程と記載することがある)。
この剥離層4上に、図2(b)に示すように、導電膜層5を形成する(以下、当該工程を導電膜層形成工程と記載することがある)。
さらに、図2(c)に示すように、導電膜層5上に所望のスタンパ材料6を形成し、図2(d)に示すように、剥離層4と導電膜層5との界面から剥離することにより、凹凸パターン形状が転写されたスタンパ12を作製する(以下、当該工程を電鋳層形成工程と記載することがある)。
【0019】
(ディスク原盤の製造方法)
以下、ディスク原盤の製造方法の各工程について詳細に説明する。
(1)中間層形成工程
本工程では、基板上に中間層を形成する。本発明のディスク原盤に用いられる基板の材料としては、通常機械的強度を有するものが用いられ、一般的にはガラスが好ましく用いられるが、例えばポリカーボネート等のプラスチック材料や、シリコンのような半導体材料、あるいはニッケル等の金属材料を用いることもできる。またこれらは積層されたものであってもよい。
これらの材料を、任意の形状に加工し、基板として用いることが出来るが、通常、厚み0.5mm〜6.5mmの円盤状に加工して用いる。中間層を形成する面は、清浄かつ平滑にすることが好ましい。
【0020】
上記基板上に形成する中間層は、その上に形成される無機材料からなるレジスト層の特性を主に制御する機能を果たし、例えばレジスト層の結晶状態や粒径等を好ましい状態にする働きを担う。また、基板よりも熱伝導度の低い材料により中間層を形成することで、レジスト層と基板との断熱性が向上することとなり、レジスト層への蓄熱効果が増し、露光感度が改善する効果も期待できる。
中間層の材料としては、無機材料からなる硫化化合物、酸化化合物、窒化化合物や非晶体が適しており、たとえばZnS、SiNx、SiOx、AlO、GeNx、アモルファスシリコン等があげられるが、好ましくはSiを含む材料であり、より好ましくは環境負荷低減やコスト削減の理由でアモルファスシリコンである。
【0021】
中間層の形成方法は中間層の材料等に応じて適宜選択され、特に制限はないが、例えばスパッタ法、蒸着法等の公知の技術を適宜用いることができる。中でも、中間層の膜厚均一性の制御や生産効率、生産安定性の観点から、スパッタ法により形成することが好ましい。
また、形成する中間層の膜厚は、好ましくは10nm以上であり、さらに好ましくは20nm以上である。また100nm以下が好ましく、更に好ましくは70nm以下である。中間層の膜厚をこの範囲とすることで、中間層上に設けられるレジスト層について高い露光感度が得られる。
【0022】
(2)表面処理工程
上記中間層を形成した後に、中間層表面に対して逆スパッタを行い、表面処理を施す。ここで、逆スパッタとは、適当なスパッタ装置に中間層を形成した基板を設置し、基板側にイオン化した不活性ガスを入射させるように電位を与え、放電させることにより行う。スパッタ装置としては、従来公知のスパッタ装置を適宜用いればよい。またスパッタ装置に導入する不活性ガスは、中間層を構成する材料と反応性が低いガスであれば特に制限はなく、通常Arを用いるが、例えばXe、Kr等も用いることができる。好ましいガス圧や逆スパッタ電力、逆スパッタ時間は、表面処理に用いるスパッタ装置により適宜最適化すればよい。通常のスパッタ装置の場合、Arガス圧は0.1Pa〜1.0Paが好ましく、逆スパッタ電力は100w〜500w、逆スパッタ時間は5秒〜300秒程度が好ましい。
【0023】
逆スパッタにより、後述するレジスト層形成工程により形成される無機材料からなるレジスト層の露光感度が改善されるメカニズムは明らかではないが、Arイオン等の衝突によって、例えばSiからなる中間層の非晶質化が更に進み、中間層の断熱性が向上した効果である可能性がある。
【0024】
(3)レジスト層形成工程
レジスト層を形成する無機レジスト材料は、露光工程において用いる光源の照射によって、化学的性質が変化する公知の無機材料を適宜用いればよく、例えば公知の遷移金属の酸化物を用いることができる。例えば遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Nb、Cu、Ni、Co、Mo、Ta、W、Zr、Ru、Ag等が挙げられる。これらは任意の比率及び組み合わせで2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記遷移金属の酸化物の中でも、酸化タングステン、もしくは酸化モリブデンが、安定して高精細な凹凸パターンを実現する上で好ましい。これらの材料は、光源の露光パワーに対する化学的性質の変化が比較的急峻であるため、現像工程におけるエッチングの際に高い選択比が得られるからである。
【0025】
レジスト層の成膜方法はスパッタ法、蒸着法等の公知の技術を適宜用いればよいが、レジスト層の膜厚均一性の制御や生産効率、生産安定性の観点から、スパッタ法により成膜することが好ましい。前記金属酸化物を無機レジスト材料として用いる場合、金属酸化物における酸素含有率を調整する方法は、各成膜方法に応じて公知の方法を適宜選択すればよいが、スパッタ法を用いて成膜を行う場合は、酸素を含まない金属ターゲットに対し酸素を導入しながら反応性スパッタを行ってもよいし、酸素含有率を制御した金属酸化物からなるターゲットを用いてスパッタを行ってもよい。
【0026】
レジスト層の膜厚は、作製しようとする光記録媒体の溝深さに合わせて適宜決定されるが、通常10nm〜100nm程度である。また、無機レジスト材料として酸化タングステンを用いる場合には、酸化タングステンにおける酸素の含有率は、50〜70原子%が好ましい。この範囲とすることで、露光による化学的性質の変化がより急峻となり、高い選択比が得られるからである。
【0027】
(4)凹凸パターン形成工程(露光工程及び現像工程)
・露光工程
レジスト層の露光に用いられる露光装置は従来公知の露光装置を適宜用いればよい。図3に露光装置の構成例を示す。スピンドル(図中、Spindleと記載)にはレジスト層を形成した基板を搭載し回転させ、レジスト層側にレーザー光を照射する。
本工程に用いる光源は、無機材料からなるレジスト層の種類に合わせて公知の光源から適宜選択すればよいが、中でも、短波長であり、レーザーのスポット径が小さく、高精細な凹凸パターンの形成に適しているという点からUVレーザーが好ましい。
【0028】
図3に示すように、露光用レーザーは、例えばKrガスレーザー光源より照射されたレーザー光を、光量制御器にて、露光に必要なレーザー光量に安定化して用いられる。レジスト層に照射するレーザー光の光量は通常1mW〜5mWが好ましいが、露光するレジスト層の厚みにより、最適な露光具合になるような光量に調整する。次いで上記光量制御器により光量が安定化されたレーザーを集光し、対物レンズを載せたスライダー(図中、Sliderと記載)を所望のピッチになるように可動させ、レジスト層をらせん状に露光させる。
なお、断続的に露光する場合は変調器にてレーザーの出力をON/OFFして制御し、露光部を蛇行させる場合はレーザー偏向器にてレーザーの方向を可変し制御する。これにより、例えば光記録媒体に必要なwobbleパターンを露光することが可能である。
【0029】
・現像工程
レジスト層の現像は、酸又はアルカリ等の溶液によるウェットプロセス、あるいは、反応性イオンエッチング等のドライプロセス等の公知の方法を適宜用いることができる。使用する無機レジスト材料及び露光方法により、現像工程において高い選択比が得られる現像方法を適宜選択すればよい。
【0030】
ウェットプロセスに用いられるアルカリ現像液としては、例えばテトラメチルアンモニウム水酸化溶液(以下、TMAHと記載)、KOH、NaOH、NaCO等の無機アルカリ水溶液等を用いることができ、酸現像液としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸、燐酸等を用いることができる。
【0031】
本発明において、例えば無機レジスト材料として酸化タングステンを用い、光源としてUVレーザーを用いた場合、高い選択比を得るためには現像工程にTMAHを用いることが好ましい。現像方法にはスピン方式、パドル方式、スプレー方式等、従来公知の方法を適宜用いることができるが、レジスト層を形成した基板上に現像液を表面張力にて載せて現像するパドル方式が現像液の使用量も少なく、簡便である。
【0032】
上記工程により、高精細な凹凸パターンを有するディスク原盤の製造方法が提供される。本発明においては、上記レジスト層と基板との間に中間層が形成されており、この中間層が表面処理されていることから、高い露光感度を有するものとすることができる。なお、本願では、同一の条件で露光、現像した際に、除去されるレジスト層の幅によって露光感度を評価している。この幅が大きいほど、露光感度が高いと言える。
【0033】
(上記ディスク原盤を用いた光記録媒体用のスタンパの製造方法)
以下、本発明の製造方法により得られたディスク原盤から、光記録媒体用のスタンパを製造する方法について説明する。
(1)剥離層形成工程
所望の凹凸パターン形状が形成されたディスク原盤上に、スタンパの形成材料からなる層を形成し、その後、ディスク原盤から剥離することによって、ディスク原盤の凹凸パターンが転写されたスタンパを得ることもできるが、ディスク原盤とスタンパの形成材料の組み合わせによって、前記剥離が不完全となり、スタンパへの凹凸パターンの正確な転写が損なわれる場合がある。具体的には、スタンパの形成材料が一部、剥離されずにディスク原盤上に残ってしまう場合等が挙げられる。そこで、このような事態を避け、より良好な剥離状態を実現するために、本発明では、スタンパの形成材料との剥離が良好な材料からなる剥離層を、ディスク原盤の凹凸パターン形成面に設けることが好ましい。
【0034】
剥離層を形成する材料としては、例えば耐酸性のあるSi、SiO、Ti、有機物皮膜等が挙げられる。後述するスタンパの形成材料としてNiを用いる場合は、Siを好ましい剥離層材料として用いることができる。
剥離層の形成方法は、スパッタ法や蒸着法、CVD法等、従来公知の方法を適宜用いることが可能であるが、剥離層の膜厚均一性の制御や生産効率、生産安定性の観点から、スパッタ法により形成することが好ましい。剥離層の膜厚は、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。また40nm以下が好ましく、更に好ましくは20nm以下である。この範囲とすることで、ディスク原盤に形成された凹凸パターン形状が変化せず且つ剥離性が向上する効果が得られる。
【0035】
(2)導電膜層形成工程
後述の電鋳層形成工程において詳述するが、スタンパは通常、ディスク原盤表面に電気めっきを施すことにより形成する。その際、ディスク原盤表面が導電性を有することが好ましいため、導電性を有する材料により導電膜層を形成することが好ましい。導電膜層の形成に好ましい材料としては、Fe、Au、Ag等、導電性のある金属が挙げられる。例えば電鋳層の材料としてNiを使う場合は、密着度が高くなることから電鋳層と同じNiを用いることが好ましい。
【0036】
導電膜層を形成する方法としては例えば真空蒸着法、スパッタ法、無電解めっき等が挙げられるが、剥離層との密着度を高いものとすることができることからスパッタ法がよく使われる。
導電膜層の膜厚としては、通常5nm以上、好ましくは10nm以上とすることができ、通常500nm以下、好ましくは100nm以下とすることができる。この範囲とすることにより、後述する電鋳層形成工程において、効率よく電鋳層を形成することができる。
【0037】
(3)電鋳層形成工程
次に、スタンパを形成する材料からなる電鋳層を、導電膜層上に電気めっきにより形成する。電鋳層に好ましい材料としては、例えばCu、Ni、Fe、NiCo、NiFe、NiCo、NiW等の電気めっき可能な材料が挙げられる。上記の中でもスタンパとしては機械的強度があり、電着応力の小さいNiが好ましい。
【0038】
例えばNiを用いる場合、電鋳層は、電析によるNi電鋳により形成することができる。具体的には、導電膜層を形成した基板を陰極、Niペレットを陽極に配したニッケル電鋳浴により、電析するNiが規定の膜厚になるまで電流を流す。その後、剥離層と導電膜層の界面から剥離することで、所望の凹凸パターンが形成されたNi製のスタンパを得ることができる。
【0039】
電鋳層の膜厚としては、スタンパとして機械的強度を有する範囲であれば特に制限はないが、通常0.2mm以上、好ましくは0.28mm以上とすることができ、また通常10mm以下、好ましくは1mm以下とすることができる。
【0040】
2.光記録媒体
上述したスタンパの製造方法により製造されたスタンパを用いて、凹凸パターン形状を有する光記録媒体を製造することができる。光記録媒体の製造方法としては、上述のスタンパを用いて、射出成型により光記録媒体用の基板を作製したり、2P法により透明樹脂層に凹凸パターンを形成することによって、光記録媒体を作製することが可能である。スタンパを用いて光記録媒体を作製する方法については、従来公知の方法を適宜用いることが出来る(例えば、特許文献1参照)。
【0041】
本発明によれば、上述のディスク原盤を用いて形成されたスタンパを用い、光記録媒体を作製することから、例えば光記録媒体の基板上に、高精細な凹凸パターンを再現することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の具体的態様を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
(1)中間層形成工程
ガラス基板上に、スパッタ法により下記の成膜条件でアモルファスシリコンからなる中間層70nmを形成した。ターゲット材料のSiには、導電性を付与するために微量のB(ホウ素)をドープしたものを使用した。これにより、抵抗率は0.00803Ω・cmであった。
・ターゲット材料 : Si
・成膜ガス : Ar(0.95Pa)
・投入電力 : 300W
【0043】
(2)表面処理工程
上記ガラス基板上に形成したアモルファスシリコン中間層表面に対し、下記の条件で逆スパッタを行った。
・逆スパッタ時導入ガス : Ar(0.95Pa)
・投入電力 : 99W
・逆スパッタ時間 : 30秒
【0044】
(3)レジスト層形成工程
上記逆スパッタを行った中間層上に、スパッタ法により下記の成膜条件で酸化タングステンからなるレジスト層38nmを形成した。
・ターゲット材料 : タングステン(純度99.99%)
・成膜ガス : Ar+O(0.81Pa)
・投入電力 : 300W
成膜ガスは、Arの流量に対するO流量を14%の割合で混入させ、反応性スパッタにより酸化タングステンからなるレジスト層を形成した。
【0045】
(4)凹凸パターン形成工程(露光工程及び現像工程)
上記レジスト層を形成した基板に対し、前述の露光装置により以下の条件で露光及び現像を行い、凹凸パターンを形成したディスク原盤を作製した。
・光源 : Krガスレーザー(波長351nm)
・対物レンズ : 開口数(NA)=0.9
・レーザー光量 :3.9mW
・対物レンズ送り速度 : 0.32μm/revolution
・スピンドル回転数 : 4.95m/sec.(線速度一定)
・現像液 : 2.38%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液
【0046】
(比較例1)
実施例1において、(2)表面処理工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の工程によりディスク原盤を作製した。
【0047】
(評価結果)
実施例1及び比較例1により得られたディスク原盤の凹凸パターンの表面形状を、AFM(原子間力顕微鏡)により測定した。その結果を図4に示す。
【0048】
図4において、凹状の溝部分がガラス基板から除去された部分に当たる。この溝の深さ方向の中央部分の幅を測定したところ、図4(a)に示す実施例1が165nm、図4(b)に示す比較例1が133nmであった。すなわち、逆スパッタを行ったことによって、露光によりレジスト層の化学的変化が起こる領域が広がったため溝幅も大きくなっており、露光感度が高くなっていることが判る。
【0049】
また、実施例1において、表面処理工程の前後において、中間層表面の表面粗さをAFMにより測定したところ、表面処理前のRaが0.55nm、表面処理後のRaが0.31nmであった。このことから、確実に逆スパッタが行われており、表面形状が変化していることが判った。
【符号の説明】
【0050】
1・・・基板
2・・・中間層
3・・・レジスト層
4・・・剥離層
5・・・導電膜層
6・・・電鋳層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の凹凸パターン形状を有する光記録媒体用のスタンパを製造するためのディスク原盤の製造方法であって、
基板上に、無機レジスト材料からなるレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、
前記レジスト層に露光処理及び現像処理を施すことにより、凹凸パターン形状を形成する凹凸パターン形成工程とを有するディスク原盤の製造方法において、
前記レジスト層形成工程前に、前記基板と前記レジスト層との間に中間層を設ける中間層形成工程と、前記中間層の表面に逆スパッタによる表面処理を行う表面処理工程とを有する
ことを特徴とする、ディスク原盤の製造方法。
【請求項2】
前記中間層がSiを含む材料からなる
ことを特徴とする、請求項1に記載のディスク原盤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法により得られたディスク原盤を用いて、前記ディスク原盤の前記レジスト層上に少なくとも剥離層、導電膜層、電鋳層をこの順に形成し、前記導電膜層及び電鋳層を前記ディスク原盤から剥離する
ことにより製造される
ことを特徴とする、光記録媒体用のスタンパ。
【請求項4】
請求項3に記載の前記スタンパを用いて製造される
ことを特徴とする、光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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