説明

ディスペンス液塗布シートの製造方法

【課題】分散系や高粘度などの種々の組成系に対応可能なディスペンス方法であり、所望の領域に均一な厚みを一括形成できるので、例えば微生物培養シートの培養層の形成に好適に使用できる。
【解決手段】孔径が0.9mm〜1.6mmの複数のノズルで構成される多孔ノズル125の吐出面と、基材シート10の基材表面との離間距離hを0.3mm〜1.0mmとして、固形分が20%〜50%のディスペンス液35を、多孔ノズル125を構成するノズルからの塗布量が250g/m〜1050g/mとなるように吐出させ、基材表面に転写塗布するディスペンス液塗布シートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、微生物検査を迅速に且つ正確に行うことができる微生物培養シートなどのディスペンス液塗布シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の存在を確認したり、微生物数を測定したりする方法としては、寒天平板混釈法がある。この方法では、培地としてあらかじめ滅菌したシャーレに形成した寒天培地を使用するため、寒天培地を高圧蒸気滅菌するためのオートクレーブや、微生物検査を無菌的に行うことができる検査室が必要となる。また、微生物のサンプリングから試料液の調製、分注、培地との混釈、培養、計数に至る微生物検査の操作には熟練を要する。そこで、高度の熟練を必要とすることなく、簡便に微生物検査を行うことができる乾燥した培養層を備える微生物培養シートの開発が進められてきた。
【0003】
これまで、報告されているシート状の微生物培養器としては、例えば、支持体の上部表面上に形成された水ベース接着剤組成物層と、該接着剤組成物層に付着されたゲル化剤を含む冷水溶解性粉末と、該冷水溶解性粉末を被覆するカバーシートとからなる培養器装置がある(特許文献1参照)。また、方形の粘着シート上に円形の水溶性高分子化合物層と多孔質マトリックス層とを積層し、上部に方形の透明フィルムを配設した微生物培養器がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3383304号公報
【特許文献2】国際公開第01/044437号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような微生物培養シートにおける乾燥した培養層の形成方法としては、微生物を適切に発育させるために培養層にある程度の厚みが必要となる点を考慮して、スクリーン印刷などの各種の印刷方式やコーティング方式が用いられている。
【0006】
しかしながら、塗布する培地液が非相溶の分散系であったり、粘度が高い培地液を塗布する場合などでは、印刷方式やコーティング方式が適さない場合があり、塗布領域の平滑性が低下する場合がある。微生物培養シートにおける培養層の厚さや平滑性は検査結果に大きな影響を与えるので、測定精度の低下に繋がる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、微生物の発育に必要十分で、且つ、均一な厚みの培養層を備え、正確な微生物検査を行うことが可能な微生物培養シートを、精度良く、且つ、連続的に製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、基材シート上の所定の領域に対して、微生物の発育に必要な成分を含む培地液を多孔ノズルを用いてディスペンス(分注)し、ディスペンスの際に、ノズルと基材とのクリアランスと、培地液の表面張力と、を利用した間接転写方式を用いることで、培地液が非相溶の分散系であったり高粘度であっても、培養層の厚さや平滑性を均一にでき、かつ、塗布領域への同時ディスペンスが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 孔径が0.9mm〜1.6mmのノズルで構成される多孔ノズルの吐出面と、基材面との離間距離を0.3mm〜1.0mmとして、
固形分が20%〜50%のディスペンス液を、前記多孔ノズルを構成するノズルからの塗布量が250g/m〜1050g/mとなるように吐出させ、前記基材面に転写塗布するディスペンス液塗布シートの製造方法。
【0010】
(2) 前記ディスペンス液の粘度が100〜2000cpである請求項1記載のディスペンス液塗布シートの製造方法。
【0011】
(3) 前記多孔ノズルを構成するノズルからの塗布量が、乾燥後で50g/m〜410g/mである請求項1又は2に記載のディスペンス液塗布シートの製造方法。
【0012】
(4) 前記乾燥後の厚さが100μm〜500μmである請求項3記載のディスペンス液塗布シートの製造方法。
【0013】
(5) 前記ディスペンス液塗布シートが微生物培養シートであり、前記ディスペンス液が前記微生物培養シートの培養層を形成するための培地液である請求項1から4いずれか記載のディスペンス液塗布シートの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、例えば、微生物培養シートの製造の際に微生物の発育に必要十分で、且つ、均一な厚みの培養層を形成できるので、コロニーが滲み難く、また、コロニーの形成速度に差が生じ難くなり、コロニー数の計測等の微生物検査を正確に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の製法に好適に使用できるディスペンス装置を、微生物培養シートの製造例に適用した一例を示す全体概略構成図である。
【図2】図1におけるディスペンス部の全体動作を示す概略図である。
【図3】図1における上下ディスペンス部可動手段の動作を示す概略図である。
【図4】図1における多孔ノズルの吐出孔を示す図である。
【図5】図1における上下ディスペンス部可動手段の動作の詳細を示す概略図である。
【図6】微生物培養シートの製造方法を順次示す平面図である。
【図7】微生物培養シートの部分透視平面図(A)及び断面図(B)である。
【図8】実施例における塗布圧力(吐出圧)と塗布量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態について、本発明におけるディスペンス液塗布シートの一例である微生物培養シートの製造例を一例として挙げて詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
<ディスペンス装置の構成>
[ディスペンス装置の全体構成]
図1に示すように、このディスペンス装置100は、基材シート10上の所定の領域に、培養層30を形成するための培地液となるディスペンス液35を注入するための装置である。このディスペンス装置100は、ディスペンス液35を供給するディスペンス液供給手段110と、このディスペンス液供給手段110に接続され末端に多孔ノズル125を有するディスペンス部120と、このディスペンス部120を基材シート10の水平面に対して上下方向(図1におけるZ方向)に移動可能なZ方向可動手段130と、ディスペンス部120を基材シート10の水平面方向の一方向(図1におけるX方向)に移動可能なX方向可動手段140と、ディスペンス部120を基材シート10の水平面方向の他方向(図1におけるY方向)に移動可能なY方向可動手段150と、を備える。
【0018】
[ディスペンス液供給手段]
この実施形態におけるディスペンス液供給手段110は、ディスペンス液35を収容可能な中空筒状の容器本体111と、バルブ117と吐出圧制御装置116とからなる吐出圧制御システム118とから主に構成されている。
【0019】
容器本体111内には、容器内部のディスペンス液35を攪拌するための攪拌羽根113が略中央部の底部に配置されており、攪拌羽根113を回転させるための回転軸がモーター112に接続されている。
【0020】
容器本体111とバルブ117とは液送可能な中空チューブ114を介して接続されており、バルブ117とディスペンス部120とは同じく液送可能な中空チューブ115を介して接続されている。
【0021】
吐出圧制御システム118を構成する一例であるバルブ117と吐出圧制御装置116は、いずれも公知のものが使用でき特に限定されない。また、吐出圧制御システム118は必ずしも圧力制御に限定されず、例えば流量計量式の流量制御であってもよく、容量計量式の容量制御であってもよい。
【0022】
[ディスペンス部]
中空チューブ115の他端が接続されるディスペンス部120の先端には、多孔ノズル125が配置されている。この多孔ノズル125は、図4に示すように吐出面が全体として円形をなしており、吐出面には多数の吐出孔Kが形成されている。ノズルの吐出孔は、各々が等間隔で配置されていてもよいし、部分的に密に配置されていてもよい。本実施形態では、多孔ノズルの吐出孔Kの配置密度は、培養層30の外周付近に該当する箇所で部分的に高くなっている。このような態様によれば、培養層30の外周に枠層20を形成した場合に、枠層20と培養層30との間に隙間なく培地液を拡げることができる。
【0023】
[X方向/Y方向/Z方向可動手段]
ディスペンス部120は、図1のXYZ直交空間において、Zステージ上に配置されるとともに、Z方向可動手段130によって、Z方向にスライド可動可能となっており、これが本発明における上下ディスペンス部可動手段に相当する。さらに、この実施形態においては、ディスペンス部120を含むZ方向可動手段130自体が、X方向可動手段140、Y方向可動手段150によってX方向、Y方向にもスライド移動可能となっており、結果としてXYZ空間上の任意の点にディスペンス部120が移動可能となっている。この移動制御を行うのが可動制御手段160である。この実施態様においては、Z方向のみならず、XY方向への制御もこの可動制御手段160で行うことができる。Z方向可動手段130、X方向可動手段140、Y方向可動手段150、可動制御手段160はそれぞれ従来公知のステージ装置などを用いることができ特に限定されない。
【0024】
[枠部形成手段]
後述する図2の工程S1に示すように、基材シート10上には微生物培養シートの培養層30の範囲を画定するために、ホットメルト樹脂からなる円周状の枠層20があらかじめ形成される。このため、このディスペンス装置100においてはディスペンス部120とは別に、ホットメルトガン200が装着されている。このホットメルトガン200はディスペンス部120と同様にX方向/Y方向/Z方向に可動となっており、ホットメルト樹脂(図2におけるHM)が外部から供給可能であるとともに、先端に単独の吐出ノズル210を有し、図示しないガン制御部によって任意の箇所、形状にホットメルト樹脂を塗布可能であり、これによって円周状の枠層20を形成できる。なお、本発明においては、枠層20は培養層30の範囲を画定するための枠部、すなわち段差部であればよく、枠層20はホットメルト樹脂には限定されず、例えば紫外線硬化樹脂であってもよい。また、枠部を所定の厚さのシートによって形成して培養層30の範囲を凹部としてもよい。
【0025】
<ディスペンス液塗布シートの製造方法>
[前準備段階]
微生物培養シートの製造を一例として、このディスペンス装置100を用いたディスペンス液塗布シートの製造方法について説明する。まず、例えば、アルコール系溶媒に、バインダー、ゲル化剤、栄養成分、発色指示薬、選択剤等を溶解又は分散させて、ディスペンス液35を調製して容器本体111内に投入し、攪拌羽根113を回転させて沈降を防ぐ。ここまでが前準備段階である。
【0026】
バインダーとは、ゲル化剤、栄養成分、発色指示薬、選択剤等の他の成分を、基材に固着させる役割を有するものであり、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられ、特に、ポリビニルピロリドンが好ましい。ポリビニルピロリドンによれば、アルコール系溶媒に可溶であるので、培地液の粘度を容易に調整することができる。また、ポリビニルピロリドンによれば、アルコール系溶媒を使用することができるので、ゲル化剤を溶解させずに、分散させた培地液を調製することができる。これにより、ゲル化剤による培地液の著しい粘度上昇の抑制が可能となる。更に、パターン形成後においては、高温加熱することなく溶媒を除去することができる。そして、ポリビニルピロリドンによれば、皮膜性が高いので、ゲル化剤、栄養成分、発色指示薬、選択剤等の他の成分を取り込んで成膜することができ、また、基材との密着性に優れる。
【0027】
ゲル化剤としては、例えば、カラギーナン、グアーガム、キタンサンガム、ローカストビーンガム、アルギン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を混合して使用することができる。これらのゲル化剤によれば、被検液の滴下により培養層が増粘又はゲル化し、微生物の発育に適した環境となる。そして、培養層が増粘又はゲル化すると、カバーシートとの密着性が向上するので、培養時の水分の蒸発を抑制することもできる。
【0028】
栄養成分は、微生物の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、一般生菌検査用としては、酵母エキス・ペプトン・ブドウ糖混合物、肉エキス・ペプトン混合物、ペプトン・大豆ペプトン・ブドウ糖混合物等や、これらにリン酸二カリウム及び/又は塩化ナトリウムを加えた混合物が挙げられる。大腸菌・大腸菌群検査用としては、デソキシコール酸ナトリウム・ペプトン・クエン酸鉄アンモニウム・塩化ナトリウム・リン酸二カリウム・乳糖混合物、ペプトン・乳糖・リン酸二カリウム混合物等が挙げられる。ブドウ球菌用としては、肉エキス・ペプトン・塩化ナトリウム・マンニット・卵黄混合物、ペプトン・肉エキス・酵母エキス・ピルビン酸ナトリウム・グリシン・塩化リチウム・亜テルル酸卵黄液混合物等が挙げられる。ビブリオ用としては、酵母エキス・ペプトン・蔗糖・チオ硫酸ナトリウム・クエン酸ナトリウム・コール酸ナトリウム・クエン酸第2鉄・塩化ナトリウム・牛胆汁混合物等が挙げられる。腸球菌用としては、牛脳エキス・ハートエキス・ペプトン・ブドウ糖・リン酸二カリウム・窒化ナトリウム混合物等が挙げられる。真菌用としては、ペプトン・ブドウ糖混合物、酵母エキス・ブドウ糖混合物、ポテトエキス・ブドウ糖混合物等が挙げられる。これらの中から、発育させようとする微生物の種類に応じて、1種類又はそれ以上を選択し、混合して使用することができる。
【0029】
発色指示薬は、培養過程で発育する微生物の代謝により産出される特異物質との反応、pH変化の認識、酵素との反応等によって発色してコロニーを着色するため、コロニー数の計数を極めて容易にする効果がある。発色指示薬としては、例えば、トリフェニルテトラゾリウムクロライド(以下、TTCとする)、p−トリルテトラゾリウムレッド、テトラゾリウムバイオレット、ペテトリルテトラゾリウムブルー等のテトラゾリム塩や、ニュートラルレッド混合物、フェノールレッド、ブロムチモールブルー、チモールブルー混合物等のpH指示薬が挙げられる。
【0030】
その他、検出目的以外の微生物の発育を抑える選択剤を含有させてもよい。このような選択剤としては、メチシリン、セフタメタゾール、セフィキシム、セフタジジム、セフスロジン、バシトラシン、ポリミキシンB、リファンピシン、ノボビオシン、コリスチン、リンコマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ストレプトマイシン等の抗生物質、サルファ剤、ナリジクス酸、オラキンドックス等の合成抗菌剤、クリスタルバイオレット、ブリリアントグリーン、マラカイトグリーン、メチレンブルー等の静菌又は殺菌作用を有する色素、Tergitol7、ドデシル硫酸塩、ラウリル硫酸塩等の界面活性剤、亜セレン酸塩、亜テルル酸塩、亜硫酸塩、窒化ナトリウム、塩化リチウム、シュウ酸塩、高濃度の塩化ナトリウム等の無機塩等が挙げられる。
【0031】
溶媒としては、選択した構成成分を溶解又は分散し得るものであれば、特に限定されるものではないが、アルコール系溶媒を使用することが好ましい。アルコール系溶媒は、水やトルエン等の高沸点溶媒のように、パターン形成後の溶媒除去の際に高温加熱する必要がないので、培養層に含まれる成分が熱分解するおそれが生じず、また、溶媒除去に長時間を要しないので、生産効率に優れる点において好ましい。アルコール系溶媒としては、炭素数1〜5のアルコールが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。これらの中でも、沸点が低く、乾燥による溶媒除去が容易であって、且つ、微生物の発育を阻害しないメタノールが最も好ましい。なお、上記溶媒は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
本発明においては、ディスペンス液35の固形分が20%〜50%である。これにより、吐出後に滴下体を形成して基材面への転写が可能となり、また、その後にレベリングして平滑な塗布面を形成することができる。固形分が20%未満であると、表面張力が不充分で滴下体を形成しにくく、ノズルあたりの塗布量がばらつくので好ましくなく、50%を超えると粘度も高くなってノズルからの吐出性、転写性、レベリング性のいずれも低下するので好ましくない。
【0033】
ディスペンス液35の粘度としては、100〜2000cp(mPa・s)の範囲が好ましく、より好ましくは100〜1200cp、特に好ましくは150〜300cpである。100cp未満であると、表面張力が不充分で滴下体を形成しにくく、ノズルあたりの塗布量がばらつくので好ましくなく、1200cpを超えると粘度も高くなってノズルからの吐出性、転写性、レベリング性のいずれも低下するので好ましくない。なお、粘度装置及び測定条件の一例を挙げれば、E型粘度計である英弘精機株式会社製のViscotester550を用い、20℃/500rpm時の測定値である。
【0034】
このような高粘度のディスペンス液35であっても本発明の製造方法を用いることで、厚さムラのない平滑な培養層30を形成できる点に本発明の特徴の一つがある。
【0035】
[枠層形成]
次に、図2の工程S1に示すように、本発明における基材に相当する基材シート10をXY面上に配置する。ここでいう基材シート10の塗布面が本発明における基材面に相当する。このとき図6を併せて参照すると、微生物培養シートは図6(A)の状態である。なお、図2における各工程の上段はX方向から見た正面図であり、下段は基材シート10をZ方向から見た平面図である。そして、ホットメルトガン200のX方向稼動手段/Y方向稼動手段/Z方向稼動手段(図示せず)の、いずれか又は複数を可動させることで、所望の位置にホットメルトガン200を配置し、例えばガン制御部からの制御によりホットメルトを吐出しながらノズル210を回転移動させることで円周状の枠層20を形成する。微生物培養シートは図6(B)の状態である。
【0036】
なお、図2の工程S1の下段に示すように、一の枠層20の形成後に、ホットメルトガン200のX方向稼動手段及び/又はY方向稼動手段を可動させ、基材シート10上におけるXY座標位置を変更することで、複数の枠層20をあらかじめ形成してもよい。
【0037】
[ディスペンス工程]
次に、ディスペンス装置100のX方向可動手段140、Y方向可動手段150のいずれか又は双方を可動させることで、所望の枠層20のXY座標位置と、多孔ノズル125のXY座標位置が重なるように調整する。このときZ方向のディスペンス部120の位置は充分に基材シート10から離間している(図3(a)の状態)。
【0038】
このとき、基材シート10上の枠層20と、多孔ノズル125の吐出面とは互いに対向するように配置されており、図6(C)に示すように基材シート10上の枠層20に囲まれた凹部領域を複数の分割領域Pに仮想分画し、それぞれの分割領域Pに対応して割り当てられている吐出孔Kを有する多孔ノズル125、言い換えれば分割領域の数と同数の吐出孔Kを有する多孔ノズル125が配置される。
【0039】
本発明においては多孔ノズルの各吐出孔Kの孔径は、0.1〜3.0mm/個であることが好ましく、0.3〜2.0mm/個であることがより好ましく、0.5〜2.0mm/個であることが特に好ましく、0.9mm〜1.6mm/個であることが最も好ましい。上記範囲であれば、培地液の液ダレや詰まりが生じ難い。特に、分散系の培地液の場合には、孔が3.0mmを超えると液ダレや塗布後のムラが生じやすく、基材面への転写性やレベリング性が低下する。0.1mm未満では分散する栄養成分等の粒径によっては詰まりが生じやすくなり、また、滴下体が大きくなるので離間距離が長くなり、やはり転写性が低下する。
【0040】
なお、個々の孔径は、上記範囲内であれば全て同じ大きさでなくてもよい。また、多孔ノズルの吐出孔Kの配置密度は、5〜20個/cmであることが好ましく、5〜16個/cmであることがより好ましく、8〜16個/cmであることが最も好ましい。配置密度が5個/cm未満であると、培地液が十分に拡がらず、均一な厚みの培養層や厚みのある培養層の形成が困難となる場合がある。配置密度が20個/cmを超えると、孔同士の隙間が狭くなるため、分注の際に培地液同士が接触し、良好に分注することができない場合がある。なお、多孔ノズルとしては、例えば、武蔵エンジニアリング社製のマルチノズルMNシリーズ等の一般に市販されているものも使用することができる。
【0041】
この状態で、図3(b)に示すようにZ方向可動手段130を制御してディスペンス部120を下方に移動して、図5(a)に示すようにノズル先端部と基材シート10面との距離がhとなる点で停止させる。この離間距離hは、ディスペンス液35の粘度やノズル径などによってあらかじめ設定される。本発明においてはこの離間距離hは0.3mm〜1.0mm、好ましくは0.8mm〜1.0mmである。0.3mm未満では充分な滴下体を形成できないので安定した塗布量が得られず、基材面への転写性やレベリング性が低下する。また、ノズル自体がディスペンス液で汚れるので長時間の稼動が困難になる。1.0mmを超えると滴下体が基材面に届かずに転写が困難となる。
【0042】
次いで、吐出制御手段115を動作させ、多孔ノズル125から図5(b)に示すように吐出を開始する。ここで、後述の実施例に示すように、吐出圧力はノズルからの吐出量(塗布量)に依存しており、例えば0.053MPaから0.058MPa、好ましくは0.054MPaから0.057MPaが例示でき、この圧に比例して140g/m(図8の塗布量0.29g・dryに相当)から205g/m(図8の塗布量0.40g・dryに相当)、好ましくは155g/m(図8の塗布量0.31g・dryに相当)から190g/m(図8の塗布量0.37g・dryに相当)の塗布量(乾燥時)となる。
【0043】
この図5(b)の段階では、吐出孔Kからの吐出量は最終吐出量より少ない量であり、その表面張力によってノズル先端から自重で垂れ下がった涙形の滴下体35bの状態となる。その後、吐出を続けることで、図5(c)の状態まで滴下体35cが成長する。この辺りで吐出孔Kからの吐出量が最終吐出量に近くなる。更に吐出を続けると、図5(d)のように基材シート10上に滴下体35dが接触して、滴下体は基材シート10との濡れ性の関係で基材シート10側へ移行し転写されていく。
【0044】
吐出孔Kからの吐出量、すなわち基材シート10上への一のノズルからの塗布量は、乾燥前で0.5g〜2.0g(250〜1050g/mに相当)である。0.5g未満では充分な滴下体を形成できないので安定した塗布量が得られず、基材面への転写性やレベリング性が低下する。特に滴下体が基材面に届かずに転写が困難となる。2.0gを超えると、逆に充分な滴下体を形成する前に転写してしまうので安定した転写が困難となる。なお、ディスペンス液35の固形分20%〜50%に応じて乾燥後の塗布量を計算でき、好ましくは0.1〜0.8g(50〜410g/mに相当)の範囲である。
【0045】
[レベリング工程]
その後、多孔ノズル125を上方に離間させてhより大きくすることで、図5(e)や図6(D)のような半球状の滴下体35eを瞬間的に経て、拡散し、図5(f)や図6(E)のようにレベリングして平滑化する。
【0046】
吐出制御手段115の動作開始タンミングとしては、図5(a)の離間距離hの状態が好ましいが、その若干前の下降段階であってもよい。吐出制御手段115の動作終了タンミングとしては、図5(d)の状態が好ましい。なお、離間距離hでの保持時間も吐出圧など条件やディスペンス液35の粘度などに応じて適宜設定可能であるが、その一例を挙げれば0.2〜3.0秒である。
【0047】
このように吐出制御手段115を制御することで、ディスペンス液35の適度の粘度に主に由来する滴下体の表面張力によって滴下体の体積を所定範囲内に維持できる。これに加えて、合成紙を含む紙基材などの親水性の基材シート10への、同じく水やアルコール溶媒系などの親水性のディスペンス液35の濡れ性を利用することで、基材シート10への優れた転写性とその後のレベリング性を発揮できる優れた方式が本発明の製造方法である。
【0048】
[連続形成]
なお、図2の工程S2の下段に示すように、一の枠層20へのディスペンス完了後に、X方向可動手段140及び/又はY方向可動手段150を可動させ、基材シート10上におけるXY座標位置を変更することで、複数の枠層20へのディスペンスを連続的に行なうことももちろん可能である。そして工程S1と工程S2を組み合わせることで(工程S3)、基材シート10上の複数の箇所に培養層30を形成できる。
【0049】
[後工程]
その後、図示しない熱風等の乾燥装置によって所定の乾燥工程を経てディスペンス液35を培養層30とする。乾燥後の塗布厚さは100μm〜500μmであることが好ましい。100μm未満であると塗布の絶対量が少なく本発明の効果が得られず、500μmを超えると使用しない培養層の割合が増えて不経済である。
【0050】
その後、二軸延伸ポリプロピレンフィルム等のカバーフィルム40を、上記培養層30を形成した基材シート10上に積層し、一辺の端部を接着し、必要に応じて図示しない裁断装置で個別に裁断することで微生物培養シートを製造することができる。
【0051】
このようにして製造された微生物培養シートは、図7に示すように、方形の基材シート10上に培養層30を備えている。培養層30の外周には疎水性樹脂からなる円形の枠層20が形成されており、培養層30は、枠層20に囲まれた凹部領域に形成されている。また、枠層20と培養層30との間には隙間がなく、両層は接触している。そして、枠層20と培養層30とを被覆するように、方形の透明カバーシート40が設けられている。
【0052】
この微生物培養シートによれば、培養層30の外周に円形の枠層20が形成されているので、被検液を遺漏させることなく、所定の範囲に確実に拡げることができる。また、枠層20は疎水性樹脂で形成されているので、培養層30上に被検液を接種した場合でも、枠層20が被検液によって崩れることがない。更に、枠層20と培養層30とは接触しているので、隙間に被検液が貯留することがなく、培養層30上に被検液を均一に拡げることができる。そして、本発明のディスペンス装置を用いることで、微生物の発育に必要十分で、且つ、均一な厚みの培養層を形成できるので、コロニーが滲み難く、また、コロニーの形成速度に差が生じ難くなり、コロニー数の計測等の微生物検査を正確に行うことが可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0054】
<ディスペンス液の製造>
メタノールにポリビニルピロリドン(商品名「ポリビニルピロリドン K−90」,日本触媒社製)20gを溶解し、これにグアーガム粉末(商品名「NEOVISCO G」,400メッシュタイプ,三晶社製)60gを分散した。これに、栄養成分として、トリプトン(商品名「BACT TRYPTONE」,Becton,Dickinson and Company社製)3.26g、肉エキス(商品名「Lab−Lemco」,Oxoid社製)0.82g、酵母エキス(商品名「YEAST EXTRACT」,Becton,Dickinson and Company社製)0.03g、ブドウ糖(商品名「D−(+)−GLUCOSE」,和光純薬工業社製)0.16g、塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)0.41g、及びリン酸水素二ナトリウム(和光純薬工業社製)0.37gを添加し、メタノール量を調整して固形分比率35%のディスペンス液を調製した。ディスペンス液の粘度は150〜300cpであった。
【0055】
次に図1から図5に示すようなディスペンス装置を用い、図4に示すような多孔ノズルを用いてディスペンス液を下記の条件で吐出し、転写とレベリングの状況を目視で非常に良好(○)、良好(△)、不良(×)の3段階で評価した。その結果を表1に示す。また、固形分40%のディスペンス液を用いた場合以外は上記と同様にして評価した結果を表2に示す。更に、塗布圧力(吐出圧)を変えて塗布量を変化させ、両者の関係を測定した結果を図8に示す。
ノズル孔径:表1,2の通り(単位mm)
ノズル孔配置密度:10から11個/cm
塗布量(wet):510g/m
塗布量(dry):180g/m
平均塗膜厚さ:250〜300μm
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1、表2より、本発明の孔径が0.9mm〜1.6mmのノズルで構成される多孔ノズルを用い、基材面との離間距離を0.3mm〜1.0mmとして、固形分が20%〜50%、好ましくは20%〜30%のディスペンス液を、塗布量が250g/m〜1050g/mとなるように吐出させた場合に良好に転写してレベリングすることが理解できる。
【0059】
なお、離間距離が0.3mm未満の場合には、充分な滴下体を形成できないので安定した塗布量が得られず、基材面への転写性やレベリング性が低下した。また、ノズル孔径が0.8mm以下の場合には詰まりが生じて適切に吐出できず、1.7mmの場合には液ダレや塗布後のムラが生じた。なお、固形分が60%の場合には、増粘して吐出が困難であり、固形分が10%の場合には充分な滴下体を形成できないので安定した塗布量が得られず、基材面への転写性やレベリング性が低下した。
【0060】
また、図8より、吐出圧力を0.054MPaから0.057MPaに変えることによって、この圧に比例して、155g/m(図8の塗布量0.31g・dryに相当)〜190g/m(図8の塗布量0.37g・dryに相当)の塗布量(乾燥時)が安定的に得られることが理解できる。
【符号の説明】
【0061】
10 基材シート
20 枠層
30 培養層
35 ディスペンス液
35b、35c、35d、35e 滴下体
40 カバーシート
100 ディスペンス装置
110 ディスペンス液供給手段110
114、115 中空チューブ
116 吐出圧制御装置
117 バルブ
118 吐出圧制御システム
120 ディスペンス部
130 Z方向可動手段
140 X方向可動手段
150 Y方向可動手段
160 可動制御手段
K 吐出孔
P 分割領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔径が0.9mm〜1.6mmのノズルで構成される多孔ノズルの吐出面と、基材面との離間距離を0.3mm〜1.0mmとして、
固形分が20%〜50%のディスペンス液を、前記多孔ノズルを構成するノズルからの塗布量が250g/m〜1050g/mとなるように吐出させ、前記基材面に転写塗布するディスペンス液塗布シートの製造方法。
【請求項2】
前記ディスペンス液の粘度が100〜2000cpである請求項1記載のディスペンス液塗布シートの製造方法。
【請求項3】
前記多孔ノズルを構成するノズルからの塗布量が、乾燥後で50g/m〜410g/mである請求項1又は2に記載のディスペンス液塗布シートの製造方法。
【請求項4】
前記乾燥後の厚さが100μm〜500μmである請求項3記載のディスペンス液塗布シートの製造方法。
【請求項5】
前記ディスペンス液塗布シートが微生物培養シートであり、前記ディスペンス液が前記微生物培養シートの培養層を形成するための培地液である請求項1から4いずれか記載のディスペンス液塗布シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−55899(P2013−55899A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195388(P2011−195388)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】