説明

ディップ成形用ラテックスの製造方法、ディップ成形用ラテックス及びディップ成形用組成物並びにディップ成形物

【課題】単量体濃度を高くしても、凝集物や反応器缶壁へのスケールの付着といった生産上の問題を引き起こすことがなく、満足すべき特性を有するディップ成形用ラテックスを得ることができるディップ成形用ラテックスの製造方法を提供する。
【解決手段】共役ジエン単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、エチレン性不飽和酸単量体及びこれらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体からなる特定組成の単量体を共重合するディップ成形用ラテックスの製造方法であって、(1)使用する全単量体の特定割合からなる単量体であって重合に使用するエチレン性不飽和酸単量体全量の特定割合を含有する初期重合単量体を用いて第一段階の重合を開始し、(2)前記初期重合単量体の重合転化率が特定範囲にあるときに、特定量の追加乳化剤を重合系に添加し、(3)前記乳化剤添加終了後、残余の単量体を重合系に逐次添加して第二段階の重合を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディップ成形用ラテックスの製造方法、これによって得られるディップ成形用ラテックス及びこのディップ成形用ラテックスを含有してなるディップ成形用組成物並びにディップ成形物に関し、更に詳しくは、重合時の凝集物発生及び重合缶壁へのスケール付着を抑えて、十分な強度を有するディップ成形物を与えることができるpH上昇時の粘度変化が小さいディップ成形用ラテックスの製造方法、この製造方法によって得られるディップ成形用ラテックス及びこのディップ成形用ラテックスを含有してなるディップ成形用組成物並びにこれから得られるディップ成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム手袋等のディップ成形物の原料として乳化重合によって得られる合成ゴムラテックスであるアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスが使用されている。アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスを使用して得られるゴム手袋は、天然ゴムラテックスを使用して得られるゴム手袋とは違って、アレルギー反応を引き起こしたり発疹やかゆみを引き起こしたりする問題がなく、好適に使用することができる。このため、ディップ成形用のアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスの生産量は、大きく増加してきた。
このようなアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスの生産に当たっては、特にコスト的観点から、如何に重合生産性を向上させるかが課題である。このためには、乳化重合による製造に際し、重合系における単量体濃度を高く(水の量を少なく)することが肝要である。
しかしながら、単量体濃度を高くすると、凝集物が多量に生成したり反応器缶壁にスケールが付着したりするという生産上の問題や、得られるラテックスの特性がディップ成形用として満足すべきものではないといった品質上の問題が生じる。
例えば、特許文献1には、風合い及び引張強度に優れたディップ成形物を与えるアクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスが開示されているが、そこに開示されている重合方法において水の量を減らしていくと、反応器缶壁にスケールが付着し、得られるラテックスは、多量の微小凝集物が発生してしまうということが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−165814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、単量体濃度を高くしても、凝集物が多量に生成したり反応器缶壁にスケールが付着したりするという生産上の問題を引き起こすことがなく、しかも、ディップ成形用として満足すべき特性を有するディップ成形用ラテックスを得ることができるディップ成形用ラテックスの製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、このディップ成形用ラテックスの製造方法によって得られる、ディップ成形用として満足すべき特性を有するディップ成形用ラテックスを提供することにある。
更に、本発明の他の目的は、このディップ成形用ラテックスを含有してなるディップ成形用組成物を提供することにある。
更に、本発明の他の目的は、このディップ成形用組成物を用いて優れた特性を有するディップ成形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、重合における単量体や重合副資材の添加について特定の方法を採用することによって、上記課題を達成できることを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして本発明によれば、共役ジエン単量体50〜89.5重量部、エチレン性不飽和ニトリル単量体10〜40重量部、エチレン性不飽和酸単量体0.5〜10重量部及びこれらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜19.5重量部からなる単量体100重量部を共重合するディップ成形用ラテックスの製造方法であって、(1)使用する全単量体の40〜60重量%からなる単量体であって重合に使用するエチレン性不飽和酸単量体全量の40〜60重量%を含有する初期重合単量体を用いて第一段階の重合を開始し、(2)前記初期重合単量体の重合転化率が40〜70重量%の範囲にあるときに、重合に使用する全単量体重量に対して0.1〜5重量%の追加乳化剤を重合系に添加し、(3)前記乳化剤添加終了後、残余の単量体を重合系に逐次添加して第二段階の重合を行なうことを特徴とするディップ成形用ラテックスの製造方法が提供される。
また、本発明によれば、上記本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法によって得られるディップ成形用ラテックスが提供される。
更に、本発明によれば、上記本発明のディップ成形用ラテックスを含有してなるディップ成形用組成物が提供される。
更に、本発明によれば、上記本発明のディップ成形用組成物をディップ成形してなるディップ成形物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、単量体濃度を高くしても、凝集物が多量に生成したり反応器缶壁にスケールが付着したりするという生産上の問題を引き起こすことなく、ディップ成形用ラテックスを得ることができ、このディップ成形用ラテックスを用いて、ディップ成形用組成物を調製し、これから、優れた特性を有するディップ成形物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法は、共役ジエン単量体50〜89.5重量部、エチレン性不飽和ニトリル単量体10〜40重量部、エチレン性不飽和酸単量体0.5〜10重量部及びこれらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜19.5重量部からなる単量体100重量部を共重合するディップ成形用ラテックスの製造方法であって、(1)使用する全単量体の40〜60重量%からなる単量体であって重合に使用するエチレン性不飽和酸単量体全量の40〜60重量%を含有する初期重合単量体を用いて第一段階の重合を開始し、(2)前記初期重合単量体の重合転化率が40〜70重量%の範囲にあるときに、重合に使用する全単量体重量に対して0.1〜5重量%の追加乳化剤を重合系に添加し、(3)前記乳化剤添加終了後、残余の単量体を重合系に逐次添加して第二段階の重合を行なうことを特徴とする。
【0009】
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法は、共役ジエン単量体50〜89.5重量部、エチレン性不飽和ニトリル単量体10〜40重量部、エチレン性不飽和酸単量体0.5〜10重量部及びこれらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜19.5重量部からなる単量体100重量部を共重合することからなる。
【0010】
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法において、重合法は、特に限定されないが、単量体を水及び乳化剤の存在下に重合させる乳化重合法が好ましい。
【0011】
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法に用いる共役ジエン単量体は、特に限定されず、その具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン及びクロロプレン等が挙げられる。
これらの共役ジエン単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
共役ジエン単量体としては、上記のうち、1,3−ブタジエン及びイソプレンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましく、用いられる。
【0012】
共役ジエン単量体の使用量は、重合に用いる全単量体100重量部に対して、50〜89.5重量部である。共役ジエン単量体の使用量は、好ましくは55〜84重量部、より好ましくは65〜81重量部、特に好ましくは70〜80重量部である。この量が少なすぎると得られるディップ成形物の風合いに劣り、逆に多すぎると引張強度に劣る。
【0013】
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法に用いるエチレン性不飽和ニトリル単量体は、特に限定されず、その具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−シアノエチルアクリロニトリル等が挙げられる。
これらのエチレン性不飽和ニトリル単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
エチレン性不飽和ニトリル単量体は、上記のうち、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましく、用いられる。
【0014】
エチレン性不飽和ニトリル単量体の使用量は、重合に用いる全単量体100重量部に対して、10〜40重量部である。エチレン性不飽和ニトリル単量体の使用量は、好ましくは15〜36重量部、より好ましくは18〜27重量部、特に好ましくは18〜24重量部である。この量が少なすぎると、得られるディップ成形物の引張強度に劣り、逆に多すぎると風合いに劣る。
【0015】
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法に用いるエチレン性不飽和酸単量体は、特に限定されず、その例としては、カルボキシル基、スルホン酸基、酸無水物基等の酸性基を含有するエチレン性不飽和単量体等が挙げられる。
カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ−2−ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステル単量体を挙げることができる。
スルホン酸基を含有するエチレン性不飽和単量体の具体例としては、スチレンスルホン酸等を挙げることができる。
酸無水物基を含有するエチレン性不飽和単量体の具体例としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸無水物を挙げることができる。
これらのエチレン性不飽和酸単量体はアルカリ金属塩又はアンモニウム塩として用いることもできる。
これらのエチレン性不飽和酸単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのエチレン性不飽和酸単量体の中でも、エチレン性不飽和カルボン酸単量体が好ましく、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体がより好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0016】
エチレン性不飽和酸単量体の使用量は、重合に用いる全単量体100重量部に対して、0.5〜10重量部である。エチレン性不飽和酸単量体の使用量は、好ましくは1〜9重量部、より好ましくは1〜8重量部、特に好ましくは2〜6重量部である。この量が少なくすぎると、得られるディップ成形物の引張強度に劣り、逆に多すぎると風合い及び密着状態の持続性に劣る。
【0017】
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法において用いる、共役ジエン単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体及びエチレン性不飽和酸単量体と共重合可能なエチレン性不飽和単量体の具体例は、(以下、単に「その他のエチレン性不飽和単量体」ということがある。)は、特に限定されず、その具体例としては、ビニル芳香族単量体、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、エチレン性不飽和アミド単量体、アルキルビニルエーテル単量体、等を挙げることができる。
【0018】
ビニル芳香族単量体の具体例としては、スチレン、アルキルスチレン、ビニルナフタレン等を挙げることができる。
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体は、エチレン性不飽和モノカルボン酸エステルであってもエチレン性不飽和多価カルボン酸エステルであってもよい。
エチレン性不飽和モノカルボン酸エステルの具体例としては、アクリル酸エステル単量体及びメタクリル酸エステル単量体(以下、アクリル酸及びメタクリル酸を総称して、「(メタ)アクリル酸」ということがある。)等を挙げることができる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体の代表的なものとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル等を挙げることができる。
これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルや(メタ)アクリル酸アリールエステルは、アルキル基やアリール基の水素原子が、ハロゲン原子、水酸基、エポキシ基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ基等で置換されたものであってもよい。
【0019】
これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル;(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル;ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル;(メタ)アクリル酸グリシジル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル;(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸2−シアノエチル、(メタ)アクリル酸1−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2−エチル−6−シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸3−シアノプロピル;(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエトキシエチル;等を挙げることができる。
【0020】
エチレン性不飽和多価カルボン酸エステルの具体例としては、エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル、エチレン性不飽和トリカルボン酸トリエステル等を挙げることができる。
エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステルの具体例としては、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸ジエステル;フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル等のフマル酸ジエステル;イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル等のイタコン酸ジエステル;等を挙げることができる。
【0021】
アルキルビニルエーテル単量体の具体例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、フルオロエチルビニルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルビニルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルビニルエーテル等を挙げることができる。
【0022】
エチレン性不飽和アミド単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸のアミド誘導体を挙げることができ、その代表例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
【0023】
また、その他のエチレン性不飽和単量体は、その分子中に架橋性部位を有するものであってもよい。
そのような単量体の具体例としては、ジビニルベンゼン等のポリビニル芳香族単量体;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等のポリアクリレート単量体;等を挙げることができる。
【0024】
これらの「その他のエチレン性不飽和単量体」は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
その他のエチレン性不飽和単量体の使用量は、重合に用いる全単量体100重量部に対して、19.5重量部以下である。その他のエチレン性不飽和単量体の使用量は、好ましくは14重量部以下、より好ましくは9重量部以下である。この量が多すぎると、得られるディップ成形物の風合いと引張強度とのバランスに劣る。
【0025】
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法において、上記単量体を共重合するに当たり、まず、使用する全単量体の40〜60重量%からなる単量体であって重合に使用するエチレン性不飽和酸単量体全量の40〜60重量%を含有する初期重合単量体を重合反応器に仕込み、好ましくは水及び乳化剤の存在下に、第一段階の重合を開始する。
【0026】
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法において、重合温度は、特に限定されないが、通常、0〜95℃、好ましくは5〜70℃である。
【0027】
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法において、必要に応じて、分子量調整剤、粒径調整剤、キレート化剤、酸素捕捉剤等の、乳化重合において通常使用される重合副資材を使用することができる。
【0028】
重合に使用する水の使用量は、全単量体100重量部に対して、80〜500重量部、好ましくは100〜300重量部である。これらのうち、初期重合単量体の重合(第一段階の重合)に際し、使用する水の量は、通常、60〜400重量部、好ましくは、70〜200重量部である。
【0029】
初期重合単量体は、重合に使用する全単量体の40〜60重量%からなることが必要である。この初期重合単量体の量は、好ましくは、43〜57重量%、より好ましくは、45〜55重量%である。この量が多すぎると、重合時の安定性が悪く凝集物が発生し、逆に少なすぎると、ディップ成形した際に所望の引張強度が得られない。
【0030】
また、初期重合単量体は、重合に使用するエチレン性不飽和酸単量体全量の40〜60重量%を含有することが必要である。このエチレン性不飽和酸単量体の量は、好ましくは、43〜57重量%、より好ましくは、45〜55重量%である。この量が多すぎると、ディップ成形用にラテックスのpHを調整した後に、ラテックス粘度が上昇してディップ成形性が悪くなり、逆に少なすぎると、ディップ成形した際に所望の引張強度が得られない。
【0031】
重合開始剤は、特に限定されないが、具体例としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−α−クミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。
これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
上記重合開始剤のうち、無機過酸化物開始剤は、ラテックスを安定して製造することができ、しかも、機械的強度が高く、風合いが柔らかなディップ成形物が得られるので好ましく用いられる。
重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、重合に使用する全単量体100重量部に対して、0.01〜1.0重量部であることが好ましい。
【0033】
また、過酸化物開始剤は、還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することができる。この還元剤としては、特に限定されないが、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;等が挙げられる。
これらの還元剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
還元剤の使用量は、特に限定されないが、過酸化物開始剤1重量部に対して0.03〜10重量部であることが好ましい。
【0034】
重合に用いる乳化剤は、特に限定されず、アニオン性乳化剤、非イオン性乳化剤、カチオン性乳化剤及び両性乳化剤を用いることができる。また、これらの乳化剤は、重合性基を有するいわゆる共重合性乳化剤であってもよい。
【0035】
アニオン性乳化剤の具体例としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノレン酸の如き脂肪酸の塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;高級アルコール硫酸エステル塩;アルキルスルホコハク酸塩;等を挙げることができる。これらのアニオン性乳化剤における塩としては、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩を挙げることができる。
非イオン性乳化剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等を挙げることができる。
【0036】
カチオン性乳化剤の具体例としては、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。
共重合性乳化剤の具体例としては、α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等を挙げることができる。
【0037】
これらの乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
乳化剤としては、上記のうち、アニオン性乳化剤が特に好適に用いられる。
初期単量体重合時における乳化剤の使用量は、初期重合単量体100重量部に対して、
通常、0.2〜8重量部、好ましくは0.3〜6重量部、より好ましくは0.5〜4重量部である。
【0038】
次に、前記初期重合単量体の重合転化率が40〜70重量%の範囲にあるときに、重合に使用する全単量体重量に対して0.1〜5重量%の追加乳化剤を重合系に添加する。
この追加乳化剤の添加の時期は、初期重合単量体の重合転化率が40〜70重量%の範囲にあるときであることが必須であり、好ましくは45〜65重量%、より好ましくは50〜60重量%の範囲にあるときである。添加の時期が早すぎると、ラテックス粘度が上昇してディップ成形性が悪くなり、逆に添加の時期が遅すぎると、重合時の安定性が悪く、凝集物が発生する。
【0039】
この追加乳化剤の添加量は、重合に使用する全単量体重量に対して0.1〜5重量%の範囲にあることが必須であり、好ましくは0.2〜3重量%、より好ましくは0.5〜2重量%の範囲である。添加量が多すぎると、ラテックスの発泡によりディップ成形時に不具合を生じ、逆に添加量が少なすぎると、重合時の安定性が悪く、凝集物が発生する。
【0040】
ここで、添加すべき追加乳化剤の種類は、特に限定されないが、初期重合単量体の重合に用いたものを用いることが好ましい。
追加乳化剤の添加方法は、特に限定されないが、水溶液として添加することが、操作上、簡便である。
また、追加乳化剤は、全量を一度に添加してもよく、一定時間に亘って、添加してもよい。
【0041】
上記追加乳化剤の添加が終了した後、残余の単量体(重合に使用する全単量体から、初期重合単量体を除いたものをいう。)を逐次添加して第二段階の重合を行なう。
ここで、逐次添加とは、絶え間なく単量体を添加する連続添加及び単量体を間欠的に添加する間欠添加の双方を含む概念である。
残余の単量体を逐次添加するに際して、単量体の組成は、逐次添加全時間帯に亘って同一でも、時間によって変化させてもよい。
【0042】
残余の単量体の逐次添加に際しては、単量体のみを添加してもよいが、単量体を乳化剤でエマルジョンとして添加するのが操作上及び重合安定性を好適に保つ上で好ましい。
このとき、エマルジョンは、通常、単量体100重量部に対して、水10〜200重量部及び乳化剤0.3〜3重量部を用いて調製すればよい。
このエマルジョンの調製に用いる乳化剤は、特に限定されないが、初期重合単量体の重合に用いたものを用いることが好ましい。
【0043】
残余の単量体の添加終了後、所定の重合転化率が得られるまで重合を継続した後、重合を終了する。
重合反応を停止する際の重合転化率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは93重量%以上である。
重合終了の方法は、重合停止剤の添加によってもよく、高温重合の場合は、重合系の温度を低下させることによってもよい。
【0044】
重合停止剤は、通常、乳化重合において使用されているものであれば、特に限定されない。
その具体例としては、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸及びそのアルカリ金属塩等のヒドロキシアミン化合物;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム;ハイドロキノン誘導体;カテコール誘導体;ヒドロキシジメチルベンゼンチオカルボン酸、ヒドロキシジエチルベンゼンジチオカルボン酸、ヒドロキシジブチルベンゼンジチオカルボン酸等の芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸及びこれらのアルカリ金属塩等の芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸化合物;等が挙げられる。
重合停止剤の使用量は、特に限定されないが、通常、全単量体100重量部に対して、0.1〜2重量部である。
【0045】
重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整して本発明のディップ成形用ラテックスを得る。
【0046】
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法によれば、重合時の反応器缶壁にスケールが付着しないか、付着したとしても極めて少ない量である。
また、本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法によって得られる本発明のディップ成形用ラテックスは、凝集物の含有量、特に200メッシュ以上の凝集物の含有量、が少なく、好適には、ディップ成形用ラテックスの全固形分に対して、0.01重量%以下、より好適には0.005重量%以下である。
【0047】
また、本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法によって得られる本発明のディップ成形用ラテックスは、pH上昇時の粘度上昇が小さく、例えば、ラテックスの固形分濃度45%、pH8.3における粘度が50mPa/s以下、好ましくは30mPa/s以下、更に好ましくは20mPa/s以下である。
【0048】
本発明のディップ成形用ラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、分散剤等を適宜添加できる。
【0049】
本発明のディップ成形用ラテックスの数平均粒子径は、好ましくは60〜300nm、より好ましくは80〜150nmである。なお、この粒子径は、乳化剤及び重合開始剤の使用量を調節する等の方法により、所望の値に調整することができる。
【0050】
本発明のディップ成形用組成物は、上記本発明のディップ成形用ラテックスを含有してなる。
【0051】
本発明のディップ成形用組成物には、加硫剤及び加硫促進剤を配合することが好ましく、更に所望により、酸化亜鉛を配合してもよい。
加硫剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用できる。その具体例としては、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等の硫黄;ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアミン類;等が挙げられる。なかでも、硫黄が好ましい。
加硫剤の使用量は、ラテックス固形分100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましく0.3〜3重量部、特に好ましくは0.5〜2重量部である。
【0052】
加硫促進剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用できる。
その具体例としては、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸等のジチオカルバミン酸類及びそれらの亜鉛塩;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2−(4′−モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4−モルホニリル−2−ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3−ビス(2−ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリア等が挙げられる。なかでも、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。
これらの加硫促進剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
加硫促進剤の使用量は、ラテックス固形分100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.3〜3重量部、特に好ましくは0.5〜2重量部である。
【0053】
酸化亜鉛の使用量は、ラテックス固形分100重量部に対して、好ましくは5重量部以下、より好ましくは4重量部以下、特に好ましくは3重量部以下である。
【0054】
本発明のディップ成形用組成物には、更に所望により、通常配合される、pH調整剤、増粘剤、老化防止剤、分散剤、顔料、充填剤、軟化剤等を配合してもよい。また、本発明の目的を損なわない限り、天然ゴムラテックス、イソプレンゴムラテックス等のその他のラテックスを併用することもできる。
【0055】
本発明のディップ成形用組成物の固形分濃度は、好ましくは20〜40重量%、より好ましくは25〜35重量%である。
本発明のディップ成形用組成物のpHは、通常、8.5〜12、好ましくは9〜11の範囲である。
【0056】
本発明のディップ成形物は、上記本発明のディップ成形用組成物をディップ成形してなる。
ディップ成形法としては、通常の方法を採用すればよく、例えば、直接浸漬法、アノード凝着浸漬法、ティーグ凝着浸漬法等が挙げられる。なかでも、均一な厚みを有するディップ成形物が得られやすい点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。
【0057】
アノード凝着浸漬法の場合、例えば、ディップ成形用型を凝固剤溶液に浸漬して、該型表面に凝固剤を付着させた後、それをディップ成形用組成物に浸漬して、該型表面にディップ成形層を形成する。
【0058】
凝固剤としては、例えば、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等のハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛等の硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛等の酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩;等が挙げられる。なかでも、塩化カルシウム及び硝酸カルシウムが好ましい。
凝固剤は、通常、水、アルコール、又はそれらの混合物の溶液として使用する。凝固剤濃度は、通常、5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%である。
【0059】
得られたディップ成形層は、通常、加熱処理を施し加硫する。加熱処理を施す前に、水、好ましくは30〜70℃の温水、に、1〜60分程度浸漬し、水溶性不純物(例えば、余剰の乳化剤や凝固剤等)を除去してもよい。この操作は、ディップ成形層を加熱処理した後に行なってもよいが、より効率的に水溶性不純物を除去できる点から、熱処理前に行なうのが好ましい。
【0060】
このようにして得られたディップ成形層は、100〜150℃の温度で、10〜120分の加熱処理を行い、加硫する。加熱の方法としては、赤外線や熱空気による外部加熱又は高周波による内部加熱による方法が採用できる。なかでも、熱空気による加熱が好ましい。
【0061】
加硫したディップ成形層をディップ成形用型から脱着することによって、ディップ成形物が得られる。脱着方法としては、手で成形用型から剥したり、水圧や圧縮空気の圧力により剥したりする方法を採用することができる。
【0062】
脱着後、更に60〜120℃の温度で、10〜120分の加熱処理を行なってもよい。
【0063】
ディップ成形物は、更に、その内側及び/又は外側の表面に、表面処理層が形成されていてもよい。
【0064】
本発明のディップ成形物として、引張強度が25MPa以上、好ましくは30MPa以上、のものが容易に得られる。
【0065】
本発明のディップ成形物は、厚みを約0.03〜約3ミリとすることができ、特に厚みが0.05〜0.3ミリの薄手のものに好適に使用できる。具体的には、哺乳瓶用乳首、スポイト、導管、水枕等の医療用品;風船、人形、ボール等の玩具や運動具;加圧成形用バッグ、ガス貯蔵用バッグ等の工業用品;手術用、家庭用、農業用、漁業用及び工業用の手袋;指サック等が挙げられる。特に、薄手の手術用手袋に好適である。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は、それぞれ、重量基準である。
【0067】
ラテックス重合時の缶壁付着スケールの量並びにラテックス及びディップ成形物の各種特性は、以下の方法により、測定した。
【0068】
〔缶壁付着スケールの量〕
重合終了後、缶壁及び撹拌翼に付着しているスケールを目視で観察する。
〔ラテックスの粘度〕
ラテックスの固形分濃度を45%に、pHを8.3に調整して、B型粘度計を用いて計測する。
【0069】
〔ラテックスの凝集物含有率〕
固形分濃度約45%の試料ラテックスの正確な固形分濃度を測定し、その試料ラテックス約100gを精秤した後、重量既知の200メッシュのSUS製金網でろ過し、金網上の凝集物を数回水洗して、ラテックスを除去する。これを、105℃で60分間、乾燥した後、その乾燥重量を測定する。
凝集物含有率は、下記(1)式から求められる。
凝集物含有率(%)={(A−B)/(C×D)}×10,000 (1)
ここで、
A: 乾燥後の、金網及び乾燥凝集物の重量
B: 金網の重量
C: 試料ラテックスの重量
D: 試料ラテックスの全固形分(%)
である。
【0070】
〔ディップ成形物の引張強度〕
(ディップ成形品の物性評価用試験片の作製)
ASTM D412に準じて、ゴム手袋状のディップ成形品をダンベル(Die−C)で打ち抜いて、試験片とした。
(引張強度)
試験片を、テンシロン万能試験機を用いて、引張速度500mm/分で引っ張り、破断直前の引張強度を測定した。
【0071】
(実施例1A)
窒素置換した耐圧重合反応器に、初期重合単量体としてアクリロニトリル13.5部、1,3−ブタジエン33.75部及びメタクリル酸2.75部の合計50部、分子量調整剤としてt−ドデシルメルカプタン(tDM)0.5部、脱イオン水95部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)1.0部、重合開始剤として過硫酸カリウム0.2部、及び還元剤としてエチレンジアミン四酢酸ナトリウム(EDTA)0.1部を仕込んだ。重合系内の温度を35℃に上昇させて重合反応を開始した。
重合転化率が50%になった時点で、追加乳化剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部を10%水溶液で一括添加した。
追加乳化剤ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加終了後、アクリロニトリル13.5部、1,3−ブタジエン33.75部及びメタクリル酸2.75部の合計50部(残余の単量体)並びにt−ドデシルメルカプタン0.4部を脱イオン水15.0部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部で乳化して得たエマルジョンを270分間に亘って、重合系に連続添加した。この連続添加終了時の重合転化率は60%であった。
その後、全単量体の重合転化率が97%になるまで重合を継続し、その後、ジエチルヒドロキシルアミン0.1部を添加して重合反応を停止した。
得られたラテックスから、未反応単量体を留去した後、固形分濃度及びpHを調整して、固形分濃度45%、pH8.3のディップ成形用ラテックス1Aを得た。
重合反応後の反応器缶壁及び撹拌翼へのスケールの付着状況並びに得られたディップ成形用ラテックス1Aの200メッシュオン凝集物量及びB型粘度を表1に示す。
【0072】
(実施例1B)
上記ディップ成形用ラテックス1Aを固形分濃度40%に調整し、その250部(固形分100部に相当)に、硫黄1部、酸化亜鉛1.5部、ジエチルカルバミン酸亜鉛0.5部、水酸化カリウム0.03部及び水5.63部を混合して調製した加硫剤分散液8.66部を混合した後、適量の5%水酸化カリウム水溶液、脱イオン水を加えて、固形分濃度30%、pH9.8のディップ成形用組成物1Bを得た。
【0073】
(実施例1C)
一方、硝酸カルシウム20部、非イオン性乳化剤のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル0.05部及び水80部を混合して調製した凝固剤水溶液に手袋型を1分間浸漬し、引き上げた後、50℃で3分間乾燥して、凝固剤を手袋型に付着させた。次に、凝固剤の付着した手袋型を上記のディップ成形用組成物1Bに6分間浸漬し、引き上げた後、そのディップ成形層が形成された手袋型を25℃で3分間乾燥し、次いで40℃の温水に3分間浸漬して、水溶性不純物を溶出させた。次いで、その手袋型を80℃で20分間乾燥し、引続き、120℃で25分間熱処理してディップ成形層を加硫した。最後に、加硫したディップ成形層を手袋型から剥して、手袋形状のディップ成形物1Cを得た。このディップ成形物1Cの引張強度の評価結果を表1に示す。
【0074】
(実施例2A)
初期重合単量体の組成及び残余の単量体の組成を表1に示すように変えたほかは、実施例1Aと同様にして、ディップ成形用ラテックス2Aを得た。
重合反応後の反応器缶壁及び撹拌翼へのスケールの付着状況並びに得られたディップ成形用ラテックス2Aの200メッシュオン凝集物量及びB型粘度を表1に示す。
【0075】
(実施例2B)
上記ディップ成形用ラテックス2Aを用いて、実施例1Bと同様にして、ディップ成形用組成物2Bを得た。
【0076】
(実施例2C)
上記ディップ成形用組成物2Bを用いて、実施例1Cと同様にして、ディップ成形物2Cを得た。このディップ成形物2Cの引張強度の評価結果を表1に示す。
【0077】
(実施例3A)
初期重合単量体の組成及び残余の単量体の組成を表1に示すように変えたほかは、実施例1Aと同様にして、ディップ成形用ラテックス3Aを得た。
重合反応後の反応器缶壁及び撹拌翼へのスケールの付着状況並びに得られたディップ成形用ラテックス3Aの200メッシュオン凝集物量及びB型粘度を表1に示す。
【0078】
(実施例3B)
上記ディップ成形用ラテックス3Aを用いて、実施例1Bと同様にして、ディップ成形用組成物3Bを得た。
【0079】
(実施例3C)
上記ディップ成形用組成物3Bを用いて、実施例1Cと同様にして、ディップ成形物3Cを得た。このディップ成形物3Cの引張強度の評価結果を表1に示す。
【0080】
(比較例1A)
窒素置換した耐圧重合反応器に、アクリロニトリル27.0部、1,3−ブタジエン67.5部及びメタクリル酸5.5部の重合に使用する全単量体合計100部、t−ドデシルメルカプタン0.5部、脱イオン水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、過硫酸カリウム0.2部及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部を仕込んだ。重合系内の温度を35℃に上昇させて重合反応を開始した。
重合転化率が50%になった時点で、追加乳化剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部を10%水溶液で一括添加した。
その後、全単量体の重合転化率が97%になるまで重合を継続し、その後、ジエチルヒドロキシルアミン0.1部を添加して重合反応を停止した。
得られたラテックスから、未反応単量体を留去した後、固形分濃度及びpHを調整して、固形分濃度45%、pH8.3のディップ成形用ラテックスC1Aを得た。
重合反応後の反応器缶壁及び撹拌翼へのスケールの付着状況並びに得られたディップ成形用ラテックスC1Aの200メッシュオン凝集物量及びB型粘度を表1に示す。
【0081】
(比較例1B)
上記ディップ成形用ラテックスC1Aを用いて、実施例1Bと同様にして、ディップ成形用組成物C1Bを得た。
【0082】
(比較例1C)
上記ディップ成形用組成物C1Bを用いて、実施例1Cと同様にして、ディップ成形物C1Cを得た。このディップ成形物C1Cの引張強度の評価結果を表1に示す。
【0083】
(比較例2A)
重合時の脱イオン水の量を150部から110部に減少させたほかは、比較例1と同様にして、固形分濃度45%、pH8.3のディップ成形用ラテックスC2Aを得た。
重合反応後の反応器缶壁及び撹拌翼へのスケールの付着状況並びに得られたディップ成形用ラテックスC2Aの200メッシュオン凝集物量及びB型粘度を表1に示す。
【0084】
(比較例2B)
上記ディップ成形用ラテックスC2Aを用いて、実施例1Bと同様にして、ディップ成形用組成物C2Bを得た。
【0085】
(比較例2C)
上記ディップ成形用組成物C2Bを用いて、実施例1Cと同様にして、ディップ成形物C2Cを得た。このディップ成形物C2Cの引張強度の評価結果を表1に示す。
【0086】
(比較例3A)
窒素置換した耐圧重合反応器に、脱イオン水95部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部及びエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部を仕込み、重合系内の温度を35℃に上昇させた。
次いで、アクリロニトリル27.0部、1,3−ブタジエン67.5部及びメタクリル酸5.5部の重合に使用する全単量体合計100部並びにt−ドデシルメルカプタン0.5部を、脱イオン水15.0部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部を用いて調製したエマルジョンの連続添加(添加速度:10部/時)を開始した。
エマルジョンの連続添加開始15分後に、過硫酸カリウム0.2部を添加して重合を開始した。
エマルジョンの連続添加が終了した時点で、追加乳化剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部を10%水溶液で一括添加した。
その後、全単量体の重合転化率が97%になるまで重合を継続し、その後、ジエチルヒドロキシルアミン0.1部を添加して重合反応を停止した。
得られたラテックスから、未反応単量体を留去した後、固形分濃度及びpHを調整して、固形分濃度45%、pH8.3のディップ成形用ラテックスC3Aを得た。
重合反応後の反応器缶壁及び撹拌翼へのスケールの付着状況並びに得られたディップ成形用ラテックスC3Aの200メッシュオン凝集物量及びB型粘度を表1に示す。
【0087】
(比較例3B)
上記ディップ成形用ラテックスC3Aを用いて、実施例1Bと同様にして、ディップ成形用組成物C3Bを得た。
【0088】
(比較例3C)
上記ディップ成形用組成物C3Bを用いて、実施例1Cと同様にして、ディップ成形物C3Cを得た。このディップ成形物C3Cの引張強度の評価結果を表1に示す。
【0089】
(比較例4A)
初期重合単量体の重合時のメタクリル酸の量を2.75部から5.5部に変え、残余の単量体中のメタクリル酸の量をゼロとしたほかは、実施例1と同様にして、固形分濃度45%、pH8.3のディップ成形用ラテックスC4Aを得た。
重合反応後の反応器缶壁及び撹拌翼へのスケールの付着状況並びに得られたディップ成形用ラテックスC4Aの200メッシュオン凝集物量及びB型粘度を表1に示す。
【0090】
(比較例4B)
上記ディップ成形用ラテックスC4Aを用いて、実施例1Bと同様にして、ディップ成形用組成物C4Bを得た。
【0091】
(比較例4C)
上記ディップ成形用組成物C4Bを用いて、実施例1Cと同様にして、ディップ成形物C4Cを得た。このディップ成形物C4Cの引張強度の評価結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表に示す結果から、以下のことが分かる。
本発明のディップ成形用ラテックスの製造方法によれば、重合時のスケールやラテックス中の凝集物の発生もなく、pH調整後のラテックスの粘度も上昇せず、また、得られたディップ成形用ラテックスから得たディップ成形物の引張強度も良好である(実施例1〜3)。
これに対して、全単量体を一括添加して重合した場合、固形分濃度が40%のときは、重合時のスケールやラテックス中の凝集物の発生もなく、ラテックスの粘度やディップ成形物の引張強度も本発明のそれらと同等である(比較例1)。しかし、ラテックスの重合生産性を向上させるべく固形分濃度を上げると、多量の重合時スケールやラテックス中の凝集物の発生が見られる。
全単量体を連続添加した場合は、重合時のスケールやラテックス中の凝集物の発生はなく、得られるラテックスの粘度も本発明のそれと同等であるが、得られるディップ成形物の引張強度は、本発明のそれと比べると大幅に低下する(比較例3)。
本発明の重合方法と同様に、初期重合単量体を用いて重合を開始し、その後、乳化剤を添加し、次いで、残余の単量体を重合する方法を採用した場合でも、単量体の組成が本発明で規定する範囲を外れるときは、重合時のスケールやラテックス中の凝集物の発生はなく、得られるディップ成形物の引張強度は本発明のそれと同等であるものの、得られるラテックスの粘度が大幅に上昇してしまう(比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン単量体50〜89.5重量部、エチレン性不飽和ニトリル単量体10〜40重量部、エチレン性不飽和酸単量体0.5〜10重量部及びこれらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜19.5重量部からなる単量体100重量部を共重合するディップ成形用ラテックスの製造方法であって、(1)使用する全単量体の40〜60重量%からなる単量体であって重合に使用するエチレン性不飽和酸単量体全量の40〜60重量%を含有する初期重合単量体を用いて第一段階の重合を開始し、(2)前記初期重合単量体の重合転化率が40〜70重量%の範囲にあるときに、重合に使用する全単量体重量に対して0.1〜5重量%の追加乳化剤を重合系に添加し、(3)前記乳化剤添加終了後、残余の単量体を重合系に逐次添加して第二段階の重合を行なうことを特徴とするディップ成形用ラテックスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のディップ成形用ラテックスの製造方法によって得られるディップ成形用ラテックス。
【請求項3】
請求項2に記載のディップ成形用ラテックスを含有してなるディップ成形用組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のディップ成形用組成物をディップ成形してなるディップ成形物。

【公開番号】特開2012−201856(P2012−201856A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69834(P2011−69834)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】