説明

ディフューザ

【課題】流量スプリットの安定化を保ちつつ、圧損を低減する。
【解決手段】ディフューザ室8とインナー通路5及びアウター通路6との間に配置されるスロート部10と、該スロート部から広がる拡大流路11,12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給される流体を減速させて昇圧するディフューザ室を備え、該ディフューザ室で昇圧した上記流体を、燃焼室を挟んで配置されると共に燃焼室に導くインナー通路及びアウター通路とに分岐して供給するディフューザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ターボジェットエンジンの燃焼器に組み込まれるディフューザは、導入される空気の流速を低減させることで空気を昇圧して燃焼室に供給するものである。このようなディフューザは、導入された空気をカウルによってインナー通路と、アウター通路とに分岐させるように構成されている。
【0003】
そして、上記従来から用いられているディフューザとしては、滑らかに流路幅が拡大するインナー通路とアウター通路とによって空気の昇圧を図る従来型のディフューザと、インナー流路とアウター流路との上流に設置される拡大流路にて急激に空気を昇圧させてから空気をインナー通路とアウター通路とに導くダンプ型ディフューザが存在している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4979361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来型のディフューザは、導入された空気を円弧断面のカウルでインナー通路とアウター通路とに分岐し、当該インナー通路及びアウター通路で空気を徐々に昇圧する。このため、空気の剥離を抑制しながら昇圧が図れるため圧力損失(圧損)を低減させることができ、これが大きな利点となる。
しかしながら、この従来型のディフューザは、供給される空気の入口流速分布にばらつきがある場合には、このばらつきを助長して悪化させる。このため、片側剥離を誘発し、インナー通路とアウター通路とに供給される空気のバランスが崩れ易いという欠点がある。
【0006】
ダンプ型ディフューザは、導入された空気がカウルに激しく衝突するため、空気の入り口を挟んで一対の剥離渦が形成される。この剥離渦は、供給される空気の入口流速分布にばらつきがある場合には、このばらつきに応じてサイズが変形する。この結果、圧損係数が、インナー通路側に流れ込む空気の流量とアウター通路側に流れ込む空気の流量とのバランスが自動調節される。つまり、ダンプ型ディフューザは、流量スプリットを自動的に均等化させる機能があり、流量スプリットが安定化するという利点を有している。
しかしながら、ダンプ型ディフューザは、上述の剥離渦が発生するため、圧損が大きくなるという欠点を有している。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、流量スプリットの安定化を保ちつつ、圧損を低減できるようにしたディフューザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の発明は、供給される流体を減速させて昇圧するディフューザ室を備え、該ディフューザ室で昇圧した上記流体を、燃焼室を挟んで配置されると共に燃焼室に導くインナー通路及びアウター通路とに分岐して供給するディフューザであって、上記ディフューザ室と上記インナー通路及びアウター通路との間に配置されるスロート部と、該スロート部から広がる拡大流路とを備えるという構成を採用する。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記ディフューザ室に供給される上記流体が衝突する正面と、上記インナー通路あるいは上記アウター通路に連通する側面と、当該正面と当該側面とを繋ぐコーナ部とを有するカウルを備え、上記スロート部が、上記カウルのコーナ部と、上記ディフューザ室の外形形状を形成するケーシングとによって形成されているという構成を採用する。
【0011】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記ディフューザ室に上記流体を供給するプレディフューザを備え、該プレディフューザの入口開口の開口幅を「1」とした場合に、上記スロート部の流路幅が1.28、上記拡大流路の出口開口の開口幅が1.88、上記拡大流路の中央長さ距離が1.98であるという構成を採用する。
【0012】
第4の発明は、上記第2の発明において、上記供給口の中心を流体の流れ方向に沿って通る軸に対して上記カウルの正面の傾斜角度が82.9°であるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スロート部によってディフューザ室にて発生する剥離渦の下流側への進入が防止されるため、圧損を低減させることができる。
また、本発明によれば、拡大流路によってインナー側に供給される空気の流量とアウター側に供給される空気の流量とが自動調節することができ、流量スプリットを安定化することができる。
したがって、本発明によれば、流量スプリットの安定化を保ちつつ、圧損を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るディフューザを備える燃焼器の断面図である。
【図2】従来のダンプ型ディフューザに対して流体解析を行った結果を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るディフューザに供給される空気がアウター側に偏った場合の流線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係るディフューザの一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0016】
図1は、本実施形態のディフューザを備える燃焼器Cの概略構成を示す断面図である。なお、図1において燃焼器Cを水平に横切る線X−Xは、燃焼器Cの軸心線を示す。
【0017】
また、本実施形態において燃焼器Cはジェットエンジンに搭載されているものとし、図1において燃焼器Cの下方で軸心線X−Xと平行して伸びている線X0−X0は、ジェットエンジンの軸心線を示している。
そして、このジェットエンジンは、燃焼器Cと、この燃焼器Cの一端側(図示の例では左端側)に軸流圧縮機(図示せず)を有していて、環状かつ軸対称形の構成を呈している。
【0018】
なお、本実施形態では、便宜上、ジェットエンジンの軸心線X0−X0と燃焼器Cの軸心線X−Xは平行に示されているが、交差している場合もある。また、以下の説明において、「上流側」または「下流側」というときは、燃焼器Cの軸心線X−X方向の空気の流れに対応したもので、図示の例では、軸心線X−X方向の左側が上流側に相当し、その右側が下流側に相当している。したがって、上記図示しない軸流圧縮機は、燃焼器Cの上流側に位置していることになる。
【0019】
本実施形態のディフューザDについて説明する前に、まず燃焼器Cの全体構成について説明する。図1に示すように、燃焼器Cは、ディフューザDと、燃焼室1と、インジェクタ2とを備えている。そして、燃焼器Cは、ディフューザDの下流側に設けられた燃焼室1で、ディフューザDを介して供給される空気(流体)とインジェクタ2から供給される燃料とを混合させると共に燃焼させ、燃焼の結果生成された燃焼ガスを排出するものである。
【0020】
また、燃焼器Cは、ディフューザDによって昇圧された空気を燃焼室1に導くためのインナー通路5と、アウター通路6とを備えている。
これらのインナー通路5及びアウター通路6は、燃焼室1の外形形状を形成する壁面3と、燃焼器Cを形成するケーシング4の一部であり壁面3と対向する壁面4aとの間に形成される流路であり、燃焼室1を挟んで配置されている。そして、当該流路のうち、ジェットエンジンの軸心線X0−X0側の流路がインナー通路5とされ、ジェットエンジンの軸心線X0−X0から離間した側の流路がアウター通路6とされている。
なお、図1においては、インナー通路5及びアウター通路6の流路幅は、下流側に向かうに連れて縮小する。しかしながら、インナー通路5及びアウター通路6の流路幅を、下流側に向かうに連れて変化しない構成、あるいは下流側に向かうに連れて拡大する構成を採用することもできる。
【0021】
さて、本実施形態のディフューザDは、カウル7と、ディフューザ室8と、プレディフューザ9と、スロート部10(スロート部)と、インナー拡大流路11(拡大流路)と、アウター拡大流路12(拡大流路)とを備えている。
【0022】
カウル7は、プレディフューザ9から噴出された空気をインナー通路5側とアウター通路6側とに分岐するものであり、プレディフューザ9から噴出される空気が衝突されるようにプレディフューザ9の正面に配置されている。
実際にはカウル7には、単数あるいは複数の貫通孔又はスリットが形成されており、プレディフューザ9から噴射された空気の一部がインナー流路5及びアウター流路6を介することなく直接燃焼室1に供給される。ただし、図1では、当該貫通孔を省略して図示している。
そして、本実施形態においては、カウル7のプレディフューザ9側の面(すなわち空気が衝突される衝突面が)は、従来のものが軸X−Xに対する傾斜が小さいのに対して、軸X−Xに対する傾斜が大きく設定されており、プレディフューザ9から噴射される空気の噴射方向に対して略垂直となるように配置されている。
なお、カウル7は、ディフューザ室8に供給される空気が衝突する正面7bと、インナー通路5あるいはアウター通路6に連通する側面7cと、当該正面7bと側面7cとを繋ぐコーナ部7aとを有している。
【0023】
ディフューザ室8は、カウル7とケーシング4との間に形成される大容量空間であり、プレディフューザ9の下流に配置されると共にインナー拡大流路11及びアウター拡大流路12と接続されている。
そして、ディフューザ室8は、プレディフューザ9から噴出された空気を減速させて当該空気を急激に昇圧させる。
より詳細には、このディフューザ室8は、カウル7と、ケーシング4の上流側で、かつ、軸心線X−Xに直交する方向に設けられている上流側ケーシング4bと、この上流側ケーシング4bの周辺位置と燃焼器側ケーシング4aの上流側位置とを接続する接続ケーシング4cとで囲まれる空間によって形成されている。なお、接続ケーシング4cは、上流側ケーシング4bの先端位置と燃焼器側ケーシング4aの上流側位置とを直線で結ぶ板材で形成することもできるが、図示の例では、機械的強度及び空気の流線状態を考慮して、途中の一箇所で僅かに屈曲した面に形成されている。
【0024】
プレディフューザ9は、ディフューザ室8の上流において空気を予備的に昇圧させるものであり、下流に行くにしたがって開口面積が大きく形成されている。このプレディフューザ9の下流側の出口開口9a(供給口)は、ディフューザ室8に少し突出するように設けられている。そして、当該出口開口9aからディフューザ室8に空気が供給される。
なお、図1に示すように、カウル7の正面7bは、プレディフューザ9に対向配置されている。
【0025】
スロート部10は、ディフューザ室8とインナー拡大通路11及びアウター拡大通路12との接合箇所であり、ディフューザ室8と、インナー拡大通路11及びアウター拡大通路12とが連通されて形成される流路の中において最も流路面積が小さくなるように形成されている。
つまり、接続ケーシング4cからカウル7のコーナ部7aの「R」に下ろした直角の線の距離が最も短くなるように形成されており、当該直線で示される領域がスロート部10とされている。
このように、スロート部10は、カウル7のコーナ部7aの部分で通路が絞り込まれている形状を呈するように構成されている。この絞り込みの程度は、空気の流線状態を考慮して決められる。
【0026】
インナー拡大通路11は、スロート部10とインナー通路5とを接続する流路であり、下流側に向けて流路面積が拡大される流路である。
また、アウター拡大通路12は、スロート部10とアウター通路6とを接続する流路であり、下流側に向けて流路面積が拡大される流路である。
これらのインナー拡大通路11と、アウター拡大通路12では、流路面積が下流側に向かうに連れて拡大していることから、流れる空気の流速が速まると流体が壁面から隔離して剥離渦が形成される。そして、この剥離渦は、空気の流速に比例して大きくなる。
つまり、インナー拡大通路11と、アウター拡大通路12では、空気の流速が速くなるに連れて圧損係数が大きくなる。
【0027】
このような構成を有する本実施形態のディフューザDによれば、図1に示すような流線で空気が流れる。なお、図1に示す流線は、プレディフューザ9の入口開口の開口幅L1を「1」としたとき、プレディフューザ9の出口開口の開口幅L2が1.67、プレディフューザ9の軸方向の長さ距離L3が2.75、プレディフューザ9の出口開口からカウル7の正面7bまでの離間距離L4(ダンプギャップ)が1.26、スロート部10の開口幅L5(スロート部の流路幅)が1.28、アウター拡大通路12及びインナー拡大通路11の出口開口の開口幅L6が1.88、アウター拡大通路12及びインナー拡大通路11の中央長さ距離L7が1.98(拡大流路の中央長さ距離)、アウター拡大流路12及びインナー拡大流路11の最短長さ距離L8が1.74、アウター通路6及びインナー通路5の長さ距離L9が7.10、アウター通路6又はインナー通路5の後端幅L10が1.10、燃焼室1の幅L11が5.08、カウル7の上流側の先端位置からそのカウル7のコーナ部7aの下流側の先端位置までの距離L12が0.80、カウル7の正面7bの軸心線X−X(供給口の中心を流体の流れ方向に沿って通る軸)に対する傾斜角θが82.9°として行った流体解析の結果である。
【0028】
また、図2に、供給される空気に対する条件を同一としてダンプ型ディフューザ(従来のディフューザ)について同様の流体解析を行った結果を示す。
そして、図1と図2とを比較して分かるように、本実施形態のディフューザDにおいては、スロート部10によってディフューザ室8にて発生する剥離渦の下流側への進入が防止され、この結果、空気の本流とディフューザ室8において発生する剥離渦との接触領域が減少する。よって、本実施形態のディフューザDにおいては、従来のダンプ型ディフューザよりも圧損を低減させることが可能となっている。
【0029】
また、図3は、本実施形態のディフューザDにおいて、供給される空気がアウター側に偏った場合(入口流速分布にばらつきがある場合)の流線を示している。
この図に示すように、供給される空気がアウター側に偏った場合には、流速が速いアウター拡大通路11の剥離渦が大きくなり、流速が遅いインナー拡大通路12の剥離渦が小さくなる。つまり、相対的に流量の多くなるアウター側の圧損係数が大きくなり、相対的に流量の少なくなるインナー側の圧損係数が小さくなる。この結果、供給される空気がアウター側に偏っている場合であっても、インナー側に供給される空気の流量とアウター側に供給される空気の流量とが自動調節され、流量スプリットが安定化する。
【0030】
以上のような本実施形態のディフューザDによれば、スロート部10によってディフューザ室8にて発生する剥離渦の下流側への進入が防止されるため、圧損を低減させることができる。
また、本実施形態のディフューザDによれば、インナー拡大流路11とアウター拡大流路12とによってインナー側に供給される空気の流量とアウター側に供給される空気の流量とが自動調節することができ、流量スプリットを安定化することができる。
したがって、本実施形態のディフューザDによれば、流量スプリットの安定化を保ちつつ、圧損を低減させることができる。
【0031】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態における流体解析に用いた数値は一例であり、この数値は変更させることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
C…燃焼器、D…ディフューザ、1…燃焼室、2…インジェクタ、3…壁面、4…ケーシング、4a…燃焼器側ケーシング、4b…上流側ケーシング、4c…接続ケーシング、5…インナー通路、6…アウター通路、7…カウル、7a…コーナ部、7b……正面、7c……側面、8…ディフューザ室、9…プレディフューザ、9a……出口開口(供給口)、10…スロート部(スロート部)、11……インナー拡大流路(拡大流路)、12……アウター拡大流路(拡大流路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される流体を減速させて昇圧するディフューザ室を備え、該ディフューザ室で昇圧した前記流体を、燃焼室を挟んで配置されると共に燃焼室に導くインナー通路及びアウター通路とに分岐して供給するディフューザであって、
前記ディフューザ室と前記インナー通路及びアウター通路との間に配置されるスロート部と、該スロート部から広がる拡大流路とを備えることを特徴とするディフューザ。
【請求項2】
前記ディフューザ室に供給される前記流体が衝突する正面と、前記インナー通路あるいは前記アウター通路に連通する側面と、当該正面と当該側面とを繋ぐコーナ部とを有するカウルを備え、前記スロート部は、前記カウルのコーナ部と、前記ディフューザ室の外形形状を形成するケーシングとによって形成されていることを特徴とする請求項1記載のディフューザ。
【請求項3】
前記ディフューザ室に前記流体を供給するプレディフューザを備え、該プレディフューザの入口開口の開口幅を「1」とした場合に、前記スロート部の流路幅が1.28、前記拡大流路の出口開口の開口幅が1.88、前記拡大流路の中央長さ距離が1.98であることを特徴とする請求項1または2記載のディフューザ。
【請求項4】
前記供給口の中心を流体の流れ方向に沿って通る軸に対して前記カウルの正面の傾斜角度が82.9°であることを特徴とする請求項2記載のディフューザ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−286145(P2010−286145A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139079(P2009−139079)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)