説明

ディーゼルエンジンの排ガス浄化用フィルタおよび排ガス浄化装置

【課題】 PMの燃焼開始温度を従来よりも低下させられ,かつ担体にSiを含有する材料を用いることができるディーゼルエンジンの排ガス浄化フィルタを提供する。
【解決手段】 フィルタ機能を有する担体に、式(1)で表わされるペロブスカイト型複合酸化物を担持させる。
La1-xBaxMnyFe1-y3 (1)
(上記式(1)において、0<x<0.7、0≦y≦1である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を浄化するための排ガス浄化フィルタおよび排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンでは、その排気ガス(排ガス)中には主として炭素粒子からなる粒子状物質(パティキュレートマター;以下、適宜「PM」という)が存在している。従来、このPMを除去するため、ディーゼルエンジンにはその排気機構にフィルタ(ディーゼルパティキュレートフィルタ;以下、適宜「DPF」という)を設け、PMをDPFによって捕集するようにしていた。また、DPFの機能の低下に対応するため、DPFに堆積したPMの堆積量を排気の圧損や運転履歴から推定し、定期的に燃焼浄化(DPFの再生)をしたり、定期的なフィルタ交換を行うようにしていた。
【0003】
ところで、DPFに堆積したPMを燃焼させてDPFを再生する場合には、PMの燃焼を促進するため、通常はDPFに触媒を備える。この触媒は、より低温でPMを燃焼させるもので、これにより、DPFの再生性の向上を図っている。上記のような触媒はこれまで様々に開発されており、例えば特許文献1には、ペロブスカイト型複合酸化物を触媒として用いることが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特公平6−29542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ディーゼルエンジンの排ガスの温度は一般に低く、通常の運転時には再生のためにDPFに堆積したPMを燃焼させる温度まで排ガス温度を昇温させることは困難である。このため、通常は、エンジンの膨張行程あるいは排気行程に燃料を噴射するポスト噴射を行ったり、排気管に設けられたインジェクタから燃料を噴射したりして、強制的に排ガス温度を昇温させ、再生を行っている。
【0006】
ところが、燃料噴射により強制的に排ガス温度を昇温させると、燃費の悪化や、DPFへの熱負荷の増加によるDPFの劣化(主に、触媒を担持させた担体(フィルタ本体)の劣化)が生じる虞がある。そこで、DPFの担体としては、SiC等の耐熱性に優れた材料を用いていた。しかし、SiC等の材料は一般に高価であり、高コスト化の一因となっていた。
【0007】
また、燃料噴射により強制的に排ガス温度を昇温させる場合には、排ガスの昇温を効果的に行うためにDPFの前段部(上流部)に前段酸化触媒を設けたり、DPFを通り抜けた排ガス中の未燃燃料であるスリップHCを酸化させるためにDPFの後段部(下流部)に後段酸化触媒を設けたりすることが行なわれていた。しかし、これらの前段及び後段の酸化触媒も高コスト化の一因となっていた。
【0008】
そこで、通常運転時のような低い雰囲気温度下であっても確実にPMを燃焼させてDPFを再生できるようにすること(連続再生)が望まれる。しかし、特許文献1記載のもののような従来の触媒ではその性能が十分ではなく、DPFの連続再生は実現されていない。
なお、アルカリ(アルカリ金属)は有効な触媒ではある。しかし、アルカリはDPFのフィルタ本体の材料にしばしば含まれるSiとの反応性が高く、DPFの触媒に用いた場合にはDPF本体を劣化させる虞がある。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、PMの燃焼開始温度を従来よりも低下させたディーゼルエンジンの排ガス浄化用フィルタおよび排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のディーゼルエンジンの排ガス浄化用フィルタは、フィルタ機能を有する担体と、該担体に担持された、下記式(1)で表わされるペロブスカイト型複合酸化物とを有することを特徴とする(請求項1)。
La1-xBaxMnyFe1-y3 (1)
(上記式(1)において、0<x<0.7、0≦y≦1である。)
【0011】
このとき、上記式(1)において、0.1≦x≦0.6であることが好ましい(請求項2)。
また、上記式(1)において、y=0であることが好ましく(請求項3)、y=1であっても好ましい(請求項4)。
さらに、該ペロブスカイト型複合酸化物が粒子状で存在し、該担体に細孔が形成され、且つ、該担体の細孔径よりも該ペロブスカイト型複合酸化物の粒径が小さいことが好ましい(請求項5)。
また、該担体に酸化触媒としてPt、Rh、Pdの中から選ばれる少なくとも一種を含む材料が担持されることが好ましい(請求項6)。
【0012】
本発明のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置は、ディーゼルエンジンの排ガス通路に設けられる排ガス浄化装置であって、前記の本発明の排ガス浄化用フィルタと、該排ガス浄化用フィルタとは別に設けられた、酸化触媒を担持した担体とを備えることを特徴とする(請求項7)。
【発明の効果】
【0013】
本発明のディーゼルエンジンの排ガス浄化用フィルタおよび排ガス浄化装置によれば、PMの燃焼開始温度を従来よりも低下させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[I.概要]
本発明のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置(以下、適宜「本発明のDPF装置」という)は、フィルタ機能を有するDPF担体と、貴金属であるPt、Rh及びPdの中から選ばれる少なくとも一種類の貴金属を含む酸化触媒(以下適宜「本発明にかかる酸化触媒」という)と、下記式(1)で表わされるペロブスカイト型複合酸化物(以下、適宜「本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物」という)とを有する。
La1-xBaxMnyFe1-y3 (1)
(上記式(1)において、0.1<x<0.7、0≦y≦1である。)
また、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物は該DPF担体に担持される。そして、本発明のDPFは、DPF担体と本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物とを備えて構成される。一方、本発明にかかる酸化触媒は、該DPF担体に担持されていてもよく、該DPF担体とは別の担体に担持されて存在していても良い。
【0015】
[I−1.担体]
本発明のDPF装置に用いるDPF担体は、DPF装置のフィルタ本体として機能するものであり、また、触媒であるペロブスカイト型複合酸化物を担持する担体として機能するものでもある。また、本発明にかかる酸化触媒を担持させる担体として用いることもできる。
このDPF担体は、フィルタ機能を有するものであれば制限は無い。したがって、排ガス中のPMを捕集することができるものであれば、慣用のDPFに用いられているものを任意に採用することができる。例えば、SiC、コージライト、アルミナ、ムライト、チタン酸アルミニウム等の多孔質材料のほか、単に粒子を詰めたフィルタおよび金属製の網や箔を利用したDPF(メタルDPF)なども用いることができる。中でも、SiC、コージライトなどの多孔質材料は、PMの捕集に好適な径の細孔を形成され、効果的にPMを捕集できる観点から、特に好ましい。
【0016】
なお、後述するように、本発明のDPF装置は、捕集したPMを従来よりも低温で燃焼させることが可能である。このため、本発明のDPF担体の使用環境温度を従来よりも低温にすることができ、フィルタ本体に要求される耐熱性のレベルを低くすることができる。したがって、フィルタ本体として使用できる材料の選択の幅を広げることが可能となり、コスト抑制や設計の自由度向上などの利点を得ることも可能である。
ただし、DPF担体には、少なくともPMの燃焼開始温度以上の温度に対する耐熱性は要求されるため、その要求を満たす材料を選択することが好ましい。
【0017】
[I−2.触媒]
本発明のDPF装置は、触媒として、下記式(1)で表わされる本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物を有する。また、必要に応じて、貴金属であるPt、Rh及びPdの中から選ばれる少なくとも一種類の貴金属を含む酸化触媒(即ち、本発明にかかる酸化触媒)を有する。
La1-xBaxMnyFe1-y3 (1)
(上記式(1)において、0<x<0.7、0≦y≦1である。)
【0018】
(i)ペロブスカイト型複合酸化物
上記式(1)において、ペロブスカイト型複合酸化物のx値は、通常0より大きく、好ましくは0.1以上、また、通常0.7未満、好ましくは0.6以下の数を表わすことが好ましい。発明者らは、上記範囲において、PM燃焼開始温度が安定して低くなることを知見した。すなわち、DPFに適し、優れた触媒活性が実現できる。xが0.7を超えると急激にPM燃焼開始温度が上昇してしまう。これは、アルカリ土類金属(Ba等)の量がある一定値を超えるとペロブスカイト型複合酸化物粒子の比表面積を急激に低下させることが大きな要因ではないかと考えられる。
【0019】
また、上記式(1)において、yは、通常0以上1以下の数を表わす。
通常、yの値が小さいほど、DPFの使用温度への耐久性を向上させることができる。これは、yの値が小さいほど、DPF担体の温度がより低い状態でPMを燃焼させることが可能となり、本発明のDPFをより低い温度で使用できるようになるためである。即ち、yの値が小さければ、本発明のDPFの使用温度自体をより低く抑えることが可能となる。したがって、使用温度への耐久性の観点からは、y=0であることが特に好ましい。なお、y=0の場合、式(1)は「La1-xBaxFeO3」(xは式(1)と同様)で表わされるものと同様になる。
【0020】
一方、yの値が大きいほど、PMの燃焼性を高めることができる。即ち、yの値が大きいほど、PMが燃焼し始めるときのPMの温度を低く抑えることが可能となる。したがって、PMの燃焼性の観点からは、y=1であることが特に好ましい。なお、y=1の場合、式(1)は「La1-xBaxMnO3」(xは式(1)と同様)で表わされるものと同様になる。なお、この場合、PMの燃焼によって熱が生じて雰囲気及び担体の温度が高まるため、触媒材料の耐熱性も必要となり、PMの燃焼性を高めることがそのままDPFの使用温度を抑制できることに繋がるわけではない。
【0021】
さらに、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物は、図1に示すような結晶構造を有している。具体的には、図1において、符号1で示すサイトにはLa又はBaが存在し、符号2で示すサイトにはOが存在し、符号3で示すサイトにはMn又はFeが存在する。なお、図1は、ペロブスカイト構造を説明するための模式的な図である。
【0022】
また、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物は、通常は、粒子状で存在する。粒子の大きさに特に制限は無いが、細孔が形成された多孔質物質をDPF担体として用いる場合には、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の粒径はDPF担体の細孔径よりも小さくすることが好ましい。これにより、細孔内においても本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物を担持させることが可能となり、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物とPMとが接触できる場をより大きくすることができるようになるため、PMを効率よく燃焼させることが可能となる。また、ペロブスカイト型複合酸化物が細孔を塞ぐことがなくなるため、圧力損失も抑制することができるようになる。
【0023】
また、DPF担体の細孔径は、図2に示すように平均細孔径が25μmよりも大きくなるとPMの捕集率が悪くなり、これより小さいと捕集率は高く保てるが、先の圧力損失が高くなるため出力低下を招く。よってDPF担体の細孔径は15μm〜25μmが好ましい。なお、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の粒径とは平均粒径のことを指し、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA製LA−300)により測定することができる。一方、担体の細孔径とは最頻細孔径のことを指し、水銀圧入法(島津製作所製オートポア9500)により測定することができる。
【0024】
さらに、本発明のDPFにおけるペロブスカイト型複合酸化物の担持量に制限は無く任意であるが、本発明のDPF1リットルあたり、通常10グラム以上100グラム以下である。この範囲の下限を下回るとPMを適切に燃焼させることができなくなる虞があり、上限を上回るとDPFのフィルタが目詰まりして圧力損失による出力低下の原因となる虞がある。なお、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物は、組成が異なるものを2種以上任意の組み合わせ及び比率で用いるようにしてもよい。その場合には、使用する本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の合計担持量が上記の範囲に収まるようにすることが好ましい。
【0025】
本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法に制限は無く、任意の方法を用いることができる。例えば、La、Ba、Mn及びFeをそれぞれ含む材料(例えば単体、酸化物、窒化物等)を得ようとするペロブスカイト型複合酸化物の組成に応じた割合で用意し、混合して、それを適切な溶媒で再結晶させた後、所定の温度(例えば、1000℃)で所定の時間(例えば、8時間)だけ焼成することにより得られる。また、通常は、得られた生成物を粉砕し、粒子状にする。
【0026】
また、得られたペロブスカイト型複合酸化物をDPF担体に担持させる方法にも制限は無く、任意の方法を用いることができる。例えば、アルミナゾル等のバインダと本発明のペロブスカイト型複合酸化物とを混合し、それを用いてDPF担体をコーティングして、ペロブスカイト型複合酸化物をDPF担体に担持させるようにすることができる。
【0027】
ところで、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物を用いることによってPMの燃焼開始温度を従来よりも低下させることが可能となる理由は定かではないが、以下の通りであると推察される。即ち、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物では、Baを含有させたことにより、ペロブスカイトの格子欠陥による酸素移動がより容易となる。そこで、排ガス中に含まれる酸素がペロブスカイトに吸着されるとラジカルな酸素として放出しやすくなることによって、DPFに堆積したPMをより低温において燃焼させることができるようになったものと推察される。また、図3に示すように、ペロブスカイト型複合酸化物が担持される担体に酸化触媒を担持させることで、酸化触媒の存在によって、排ガス中のNOと、ペロブスカイトによって生じたラジカルな酸素との反応が促進される。その結果、より低温でNOが酸化され、NO2が生成されることにより、PMとの燃焼反応が促進されるものと推察される。なお、図3は、酸化触媒の添加によるPMの酸化温度の低温化を示す図である。
【0028】
(ii)酸化触媒
本発明にかかる酸化触媒は、Pt、Rh及びPdの中から選ばれる少なくとも一種類の貴金属を含む材料である。
【0029】
また、本発明にかかる酸化触媒は、排ガス通路に設けられるようになっていればよく、排ガス通路のどこに設けるかは任意である。
例えば、本発明にかかる酸化触媒は、ペロブスカイト型複合酸化物が担持された担体に存在していてもよい。即ち、上述したDPF担体が、本発明にかかる酸化触媒と、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物とを有するように構成してもよい。この場合、当該担体に担持されていればその存在状態は任意である。通常は、酸化触媒は担体に固着させて用いるようにするが、この際、担体の細孔内にも担持されることが望ましい。これにより、酸化触媒の担持量を多くすることが可能である。
【0030】
また、例えば、本発明にかかる酸化触媒は、ペロブスカイト型複合酸化物が担持されたDPF担体とは別に触媒(触媒部)として、上記のDPF担体の前段又は後段に存在していても良い。即ち、排ガス通路に、酸化触媒を担持した触媒(触媒部)と、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物を担持するDPF担体(フィルタ部)とを設けるようにしてもよい。この場合にも、酸化触媒の存在状態は任意である。通常は、酸化触媒用担体に酸化触媒を塗布して触媒部(触媒)を構成し、この触媒部を排ガス通路内の所定の位置に配設することにより触媒を設ける。なお、この際に用いる酸化触媒用担体としては、排ガス用の触媒に用いられる任意の担体を用いることができる。
【0031】
本発明にかかる酸化触媒の使用量に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、ペロブスカイト型複合酸化物と組み合わせて用いる利点を有効に発揮するためには、ペロブスカイト型複合酸化物に対して、通常1質量%以上、50質量%以下使用することが望ましい。
【0032】
本発明にかかる酸化触媒を担体(酸化触媒用担体を含む)に担持させる方法に制限はない。通常は、ペロブスカイト材料に目的量の貴金属を塩および錯体により含浸させ、その後、乾燥および焼成によりDPF担体に担持させることができる。また、ペロブスカイトを担持したDPF担体に目的量の貴金属を塩または、錯体により吸着し、乾燥、焼成させるようにしてもよい。
【0033】
本発明にかかる酸化触媒によれば、排ガス中の燃料、及び、NO、CO等の未燃焼成分の酸化を促進することができる。したがって、この酸化触媒と上述したペロブスカイト型複合酸化物とをDPF担体に担持することにより、DPF担体に堆積したPMの酸化を促進して、PMの燃焼開始温度を従来よりも低下させることが可能となる。
なお、条件によっては、酸化触媒を設けなくても本発明の効果を得ることができる場合もありえる。
【0034】
[I−3.その他の構成]
本発明のDPF装置には、本発明の効果を著しく損なわない限り、担体及び本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物以外の構成要素を備えさせるようにしてもよい。
例えば、担体に、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物及び酸化触媒に加えて、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物及び酸化触媒以外の触媒を担持させるようにしてもよい。
【0035】
[II.実施形態]
以下、図面を用いて本発明の一実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0036】
図4は本発明の第1実施形態としてDPF装置を備えたディーゼルエンジンの排気機構の模式的な概要図である。
図4に示すように、本実施形態の排気機構では、DPF装置として、ディーゼルエンジン11の排気管12に、本発明のDPFであるDPF13が設けられている。なお、ここではDPF13は、コージライトにより形成された多孔質の担体に、触媒として酸化触媒(例えば、Pt、Rh及びPdの中から選ばれる少なくとも一種類)及び上記式(1)で表わされるペロブスカイト型複合酸化物を担持させてなるものを用いているとする。
【0037】
そして、本実施形態の排気機構においては、ディーゼルエンジン11から排出された排ガスは排気管12を通って排気されるようになっている。この際、排気機構外部に排気されるまでに排ガスはDPF13を通過することになる。したがって、その通過時にDPF13においてPMは捕集され、DPF13に堆積し、排ガスからPMが除去されるようになっている。
【0038】
本実施形態の排気機構は上記のように構成され、また、上記のように使用されるようになっている。この際、DPF13は酸化触媒と上記式(1)で表わされる本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物とを有するものであるので、DPF13におけるPMの燃焼開始温度を従来よりも低下させることが可能となっている。したがって、通常運転時のような低い雰囲気温度下であっても、排ガスの熱によってPMを燃焼させて、DPF13を再生できる。このため、本実施形態においては、DPF13を連続再生することが可能である。
また、上記のペロブスカイト型複合酸化物はアルカリ金属を含有しないため、Si等を用いた担体を劣化させることは無い。したがって、担体にSiを含有するものを使用できるようになる点も、本実施形態の利点の一つである。
【0039】
さらに、PMの燃焼開始温度が下がることによって、SiCなどの耐熱性が高い高価な担体を用いなくともDPFを構成することができ、DPF装置のコストの抑制が可能となる点も、本実施形態の利点の一つである。
また、PMの燃焼開始温度が下がることによって、排ガスの昇温のための燃料噴射が不要となり、燃費の抑制が可能となる点も、本実施形態の利点の一つである。
【0040】
[III.その他]
以上、本発明について一実施形態を示して説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
例えば、排ガス温度がPMを確実に燃焼させるのに十分高温になっていない場合(例えば、運転開始時等)などに対応して、図5,図6に模式的に示すように、排気管12内にインジェクタ14を設けるようにしてもよい。即ち、図5,図6に示すように排気管12内にインジェクタ14を設ければ、排ガスが十分に高温となっていない場合に、インジェクタ14から燃料を噴射して排ガスを高温にし、確実にPMを燃焼させてDPFを確実に再生することができる。なお、図5,図6はそれぞれ上記実施形態の変形例を示すものであり、図4と同様の部位は、図4と同様の符号で示してある。
【0041】
また、この際、図5に示すようにDPF13の前段部(上流部)に前段酸化触媒15を設けるとともに、DPF13の後段部(下流部)に後段酸化触媒16を設けるようにしてもよい。これらの前段酸化触媒15や後段酸化触媒16には、本発明にかかる酸化触媒を担持させるようにする。この際、本発明のDPF装置は、DPF13、前段酸化触媒15及び後段酸化触媒16により構成される。
図5のような構成によれば、前段酸化触媒15により燃料の燃焼が促進されるため、燃料噴射時に排ガスの温度をより確実にPMの燃焼開始温度にまで昇温できる。また、後段酸化触媒16により、万一燃料の一部が不完全な燃焼を生じて排ガス中にスリップHCが残留したとしても、スリップHCを後段酸化触媒16において確実に燃焼させ、排気機構から排出される排ガス中にスリップHCが残留することを防止できる。この際、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物によりPMの燃焼開始温度が低下し、また、前段酸化触媒15により排ガス中の未燃燃料分を反応させることができるので排ガス温度が上昇するため、従来よりも燃料噴射量を減らして燃費を抑制することが可能である。また、前段酸化触媒15及び後段酸化触媒16の容量を減らすことが可能であるため、コンパクトな触媒システムの構築が可能である。なお、この場合、酸化触媒を使用することにより、排ガス温度を上昇させることができる。したがって、インジェクタ14を設けなくとも上記実施形態と同様の利点を得ることは可能である。
【0042】
さらに、図6に示すように、DPF13の前段部(上流部)に前段酸化触媒15を設け、DPF13の後段部(下流部)には酸化触媒(図5の後段酸化触媒16参照)を設けないようにしてもよい。この際、本発明のDPF装置は、DPF13及び前段酸化触媒15により構成される。DPF13の後段に酸化触媒を設けなくとも、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物によりPMの燃焼開始温度を低下させることが可能であり、前段酸化触媒15により排ガス温度を上昇させることで、インジェクタ14から噴射する燃料の量を低減させてスリップHCの量を減らすことができるので、排気機構から排気される排ガス中にスリップHCが残留する可能性は低いためである。この場合、DPFの後段に酸化触媒を設けないようにしたため、図5記載の構成よりもさらにコンパクトな触媒システムの構築ができるようになる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0044】
[実施例1〜7、比較例1〜4]
ペロブスカイト型複合酸化物は以下のようにして作製した。
特開2005−187311号公報に掲載の作製方法に基づいて、粒子の作製を行った。原料としては硝酸ランタンLa(NO33・6H2O、硝酸バリウムBa(NO32、硝酸鉄Fe(NO33・9H2Oを、LaとBaとFeのモル比が(1−x):x:1となるように混合した。xは0〜1の範囲で変化させた。この原料塩水溶液と中和剤を混合して、共沈物を得た。これを濾過した後、水洗し、110℃で乾燥した。得られた粉末を前駆体粉と言う。
次に、この前駆体粉を大気雰囲気下で800℃×2時間熱処理して焼成したものを作製した。
【0045】
焼成後のペロブスカイト型複合酸化物の各粉体と、模擬PMを混合した。模擬PMとして、三菱化学製カーボンブラック(平均粒径2.09μm)を使用し、ペロブスカイト型複合酸化物と模擬PMの質量比が6:1となるように秤量し、自動乳鉢にて20分混合した。得られた混合粉試料から20mgを分取し、これをTG/DTA装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6300型)にセットした。大気中にて、昇温速度は10℃/minに調整して、50℃から700℃までの温度範囲でTG測定を行った。得られたデータについてEXSTER300型データ解析装置を用いて分析した。燃焼開始温度は、TG曲線において、重量減少が始まる前の接線と重量減少率(角度)が最大となる点での接線との交点を燃焼開始温度として求めた。図7に、その求め方を模式的に示す。
【0046】
また、各組成のペロブスカイト型複合酸化物について、メノウ乳鉢で解粒した後、BET法により比表面積を求めた。TG/DTAにより算出した燃焼開始温度とBET法による比表面積値について実験結果を表1及び図8に示す。なお、表1において、組成の欄の数値は、各欄に対応した元素(La、Ba及びFe)の組成比を表わす。
また、粉末粒子全体の組成分析については、Ba、Laの定量は高周波誘導プラズマ発光分析装置ICP(日本ジャーレルアッシュ製IRIS/AP)を用い、Feの定量は自動滴定装置(平沼産業製COMTIME−980)を用いて行った。また比表面積はBET法を用いて算出している。また、組成の数値については、Feを1としたときの、LaおよびBaの値を記載している。
【0047】
【表1】

【0048】
図8から判るように、0.0<x<0.7の範囲で模擬PMの燃焼開始温度が370℃以下に低下し、またその範囲でBET比表面積が高くなった。Xが0.1〜0.6の範囲では模擬PMの燃焼開始温度が低くなり、比表面積も安定して高い値を呈した。これらのことから、希土類元素(La)とアルカリ土類金属元素(Ba)のモル比には適正範囲があり、高い比表面積が得られる範囲でPM燃焼開始温度の優れた低減効果が得られることが確認された。特に、x=0.7という上限値は良好な結果が得られる臨界性を有している。また、上記に該当する組成のうち、x=0.2の場合におけるy=0、1のそれぞれについて、PM燃焼特性について評価した。調査に際しては、下記実施例中に示す条件で調査を行っている。結果についても併せて示す。
【0049】
[実施例8]
ペロブスカイト型複合酸化物であるLa0.8Ba0.2FeO3と模擬PMの質量比が6:1となるように秤量し混合粉体8.5mgを熱天秤を用いて空気雰囲気中で20℃/minで昇温させて、燃焼開始温度を得た。その結果を図9に示す。
【0050】
[実施例9]
ペロブスカイト型複合酸化物としてLa0.8Ba0.2MnO3を用いたほかは、実施例1と同様にして熱天秤を用いて燃焼開始温度を求めた。結果を図9に示す。
【0051】
[比較例5]
ペロブスカイト型複合酸化物の代わりに、アルミナにK2CO3(1.3wt%)を用いた他は、実施例8と同様にして熱天秤を用いて燃焼開始温度を求めた。結果を図9に示す。
【0052】
[比較例6]
ペロブスカイト型複合酸化物を用いず、熱天秤を用いてカーボン(PMの模擬材料)のみの燃焼開始温度を求めた。結果を図9に示す。
【0053】
[実施例10]
ペロブスカイト型複合酸化物ペロブスカイト型複合酸化物であるLa0.8Ba0.2FeO3を、湿式ボールミルを用いて1時間粉砕して、平均粒径2μmの粉体(以下、適宜「ペロブスカイト」という)を得た。得られたペロブスカイトを乾燥させ、アルミナゾル(日産化学製)を、アルミナ(Al23換算)濃度で上記ペロブスカイトの重量の15重量%となるように混合した。さらに、純水を加え、固形分10重量%の水溶液として、さらにボールミルにて1時間混合した。
【0054】
この水溶液をDPF担体2.5Lの片側から均一に流し込み、ペロブスカイト重量として50g/L(合計125g)を担持させた。担持後、150℃にて3時間乾燥させ、500℃にて焼成し、DPF(ペロブスカイト担持DPF)を得た。
得られたDPFに、ディーゼルエンジンを用いて排気ガス中のPMを5g/L(合計12.5g)を堆積させた。触媒の配置構成はディーゼルエンジン排気出口に酸化触媒、その下流にDPFとなっている。ディーゼルエンジン負荷は一定とし、回転数を上昇させることにより、DPF入口の温度をステップ上に操作した。その際、一定温度におけるDPF入口と出口の圧力変遷からPM燃焼の温度を求めた結果を図10に示す。つまり、DPF入口と出口の圧力変遷の値がマイナスになった段階でPM燃焼が開始したことになる。
【0055】
[比較例7]
ペロブスカイト型複合酸化物の代替としてPt溶液(Ptとして3g含有)を用いたほかは、実施例10と同様にしてDPFを作製し、そのDPFに堆積したカーボン(PMの模擬材料)の燃焼開始温度を求めた。結果を図10に示す。
【0056】
[考察]
図9から分かるように、実施例8,9及び比較例5,6によれば、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物を用いたDPFを用いれば、アルカリ金属を含有しないため、Siを含む担体を劣化させることもなく、PMの燃焼開始温度を低下させることが可能であることが確認された。また、図10からわかるようにDPF前後の圧力差がマイナスを示す温度が、実施例10は比較例7より低温側となっている。このことから、実機DPFを作製した場合においても比較例7のようにPtを担持したDPFより、本実施形態のペロブスカイト型複合酸化物を担持したDPFの方がPMの燃焼開始温度と低下させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、例えば、車両、建設機械、農業用機械、船舶、内燃力発電などに使用されるディーゼルエンジンに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】ペロブスカイト構造を説明するための模式的な図である。
【図2】DPF担体の平均細孔径とPMの捕集率を示すグラフである。
【図3】貴金属添加によるPMの酸化温度の低温化を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態としてDPF装置を備えたディーゼルエンジンの排気機構の模式的な概要図である。
【図5】本発明の変形例としてDPF装置を備えたディーゼルエンジンの排気機構の模式的な概要図である。
【図6】本発明の変形例としてDPF装置を備えたディーゼルエンジンの排気機構の模式的な概要図である。
【図7】TG曲線から燃焼開始温度を求める方法を模式的に示した図。
【図8】実施例1〜7、比較例1〜4の結果を示すグラフであって、La1-xBaxFeO3においてBa置換割合を変えたときの模擬PM燃焼開始温度、比表面積の変化を示したグラフである。
【図9】本発明の実施例8,9及び比較例5,6の結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例10及び比較例7の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
1〜3 サイト
11 ディーゼルエンジン
12 排気管
13 DPF
14 インジェクタ
15 前段酸化触媒
16 後段酸化触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ機能を有する担体と、
該担体に担持された、下記式(1)で表わされるペロブスカイト型複合酸化物とを有する
ことを特徴とする、ディーゼルエンジンの排ガス浄化用フィルタ。
La1-xBaxMnyFe1-y3 (1)
(上記式(1)において、0<x<0.7、0≦y≦1である。)
【請求項2】
上記式(1)において、0.1≦x≦0.6である
ことを特徴とする、請求項1記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化用フィルタ。
【請求項3】
上記式(1)において、y=0である
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化用フィルタ。
【請求項4】
上記式(1)において、y=1である
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化用フィルタ。
【請求項5】
該ペロブスカイト型複合酸化物が粒子状で存在し、
該担体に細孔が形成され、且つ、
該担体の細孔径よりも該ペロブスカイト型複合酸化物の粒径が小さい
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化用フィルタ。
【請求項6】
該担体にPt、Rh、Pdの中から選ばれる少なくとも一種を含む酸化触媒が担持される
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化用フィルタ。
【請求項7】
ディーゼルエンジンの排ガス通路に設けられる排ガス浄化装置であって、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の排ガス浄化用フィルタと、
該排ガス浄化用フィルタとは別に設けられた、酸化触媒を担持した担体とを備える
ことを特徴とする、ディーゼルエンジンの排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−224747(P2007−224747A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43971(P2006−43971)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】