説明

ディーゼルエンジンの排ガス浄化装置及び浄化方法

【課題】ディーゼルエンジンの排ガス中に含まれる窒素酸化物を、装置を大型化することなく広い温度範囲で効果的に浄化できるディーゼルエンジンの排ガス浄化装置及び浄化方法を提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジン2の排気管3に挿入された尿素水の噴射ノズル5の直後の下流側に設置されたSCRコンバータ4内のSCR触媒6の前段に、鉄シリケート触媒7を直列に密着するように挿入して、コンバータ4を一体的に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排ガス浄化装置及び浄化方法に関し、更に詳しくは、ディーゼルエンジンの排ガス中に含まれる窒素酸化物を、装置を大型化することなく広い温度範囲で効果的に浄化できるディーゼルエンジンの排ガス浄化装置及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両や船舶に搭載されたディーゼルエンジンの排ガス中には、粒子状物質(PM:Particulate Matter)や窒素酸化物(NOx:Nitrogen Oxide)などの環境汚染や健康被害の原因となる物質が含まれている。そのため、これらの物質の大気中への放出を低減することを目的として、各種の排ガス浄化装置が用いられている。
【0003】
前者のPMについては、セラミックス製のハニカム状多孔体のフィルタによりPMを捕集するDPF(Diesel Particulate Filter)などが実用化されている。また、後者のNOxについては、尿素水と選択還元型触媒(SCR:Selective Catalytic Reduction)とを用いた尿素SCRシステムが、近年注目されている。
【0004】
この尿素SCRは、尿素水が加水分解して生じたアンモニアを、SCR触媒の存在下で還元剤として作用させるSCR反応により、排ガス中のNOxを浄化するものである。SCR触媒としては、鉄イオン交換アルミノシリケートなどのゼオライト触媒が広く用いられており、このゼオライト触媒を含むスラリーをセラミックハニカムなどの担体に塗布したもの、あるいはその成型体をSCRコンバータとして排気管に装着して使用する。
【0005】
しかし、上記のSCR触媒は、低温(例えば、約150℃)でのNOxの浄化能力が十分ではないため、ディーゼルエンジンの始動直後においては、排気ガス中のNOxの大部分が浄化されずに大気中に放出されてしまう。
【0006】
このような問題を解決するため、排ガス中のNOxを、低温域では吸着剤に吸着させ、高温になったときに吸着剤から脱離させてSCR触媒で還元する浄化装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0007】
しかし、上記の特許文献1などの浄化装置では、従来のSCR触媒の上流側に吸着剤を追加しただけであるため、浄化装置が大型化してしまうという問題がある。このような問題を解決するためにSCR触媒等を小型化すると、高温で吸着剤から脱離したNOxを十分に浄化できなくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−236343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ディーゼルエンジンの排ガス中に含まれる窒素酸化物を、装置を大型化することなく広い温度範囲で効果的に浄化できるディーゼルエンジンの排ガス浄化装置及び浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成する本発明のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置は、ディーゼルエンジンの排気管に挿入された尿素水の噴射ノズルと、前記噴射ノズルの下流側の排気管に設置されたSCR触媒を有するコンバータとを備えたディーゼルエンジンの排ガス浄化装置において、前記コンバータ内の前記SCR触媒の上流側に鉄シリケート触媒を直列に挿入して、該コンバータを一体的に構成したことを特徴とするものである。
【0011】
上記のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置における鉄シリケート触媒には、ベータ型鉄シリケート触媒を用いることが好ましい。また、実用的な観点からは、SCR触媒に対する鉄シリケート触媒の容量比は0.5〜1.5の範囲とするのがよい。
【0012】
更に、コンバータのSCR触媒に対応する表面に加熱ヒータを取り付けることで、NOxの浄化性能をより向上することができる。
【0013】
本発明のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置は、噴射ノズルとディーゼルエンジンとの間に、DOC及びDPFの少なくとも一方を配置したディーゼルエンジンの排ガス浄化システムの一部として好適に用いられる。
【0014】
上記の目的を達成する本発明のディーゼルエンジンの排ガス浄化方法は、ディーゼルエンジンの排ガスに尿素水を噴射し、前記噴射された尿素水を高温で加水分解してアンモニアを生成し、前記排ガス中の窒素酸化物をコンバータ内のSCR触媒の存在下で前記アンモニアと反応させて還元するディーゼルエンジンの排ガス浄化方法において、前記排ガスの温度が低温領域であるときには、前記尿素水を噴射された排ガス中の窒素酸化物の少なくとも一部を、前記コンバータ内の前記SCR触媒の上流側に直列に密着するように挿入されて該コンバータを一体的に構成する鉄シリケート触媒で吸着するとともに、残余の前記窒素酸化物を前記アンモニア及びSCR触媒を用いて還元し、前記排ガスの温度が高温領域になったときには、前記鉄シリケート触媒から脱離した窒素酸化物と、前記排ガス中の窒素酸化物とを、前記アンモニア並びにSCR触媒及び鉄シリケート触媒を用いて還元することを特徴とするものである。
【0015】
上記のディーゼルエンジンの排ガス浄化方法においては、低温領域を50〜150℃の温度範囲とし、高温領域を150℃超の温度範囲とすることが実用面から望ましい。
【0016】
また、SCR触媒をあらかじめ加熱することで、NOxの浄化性能を向上することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置及び浄化方法によれば、SCR触媒の上流側に鉄シリケート触媒を直列に挿入して、コンバータを一体的に構成するようにしたので、排ガスの温度が低温領域であるときは鉄シリケート触媒により窒素酸化物を吸着し、高温領域になったときには、SCR触媒に加えて鉄シリケート触媒におけるSCR反応の触媒としての機能も用いてSCR反応により窒素酸化物を除去するため、装置を大型化することなく広い温度範囲で、排ガス中の窒素酸化物を効果的に浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態からなるディーゼルエンジンの排ガス浄化装置の構成図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態からなるディーゼルエンジンの排ガス浄化装置の構成図である。
【図3】図1のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置における排ガスの温度と浄化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施の形態からなるディーゼルエンジンの排ガス浄化装置を示す。
【0021】
このディーゼルエンジンの排ガス浄化装置1Aは、車両や船舶のディーゼルエンジン2に接続する排気管3の途中に装着された太径の紡錘形又は円筒形のSCRコンバータ4と、そのSCRコンバータ4の上流側の排気管3に設置された尿素水の噴射ノズル5とを備えている。
【0022】
SCRコンバータ4は、従来と同じサイズであり、その内部における下流側となる後段にはSCR触媒6が配置されている。SCR触媒6としては、従来から用いられている鉄イオン交換アルミノシリケートや銅イオン交換アルミノシリケートなどのゼオライト触媒が挙げられるが、特に後者の銅イオン交換アルミノシリケートは、低温活性が高いため好ましく用いられる。
【0023】
そして、SCRコンバータ4の内部の前段には、鉄シリケート触媒7が後段のSCR触媒6と直列に密着するように挿入されて、SCR触媒6と共にSCRコンバータ4を一体的に構成している。この鉄シリケート触媒7は、通常の鉄ゼオライトとは異なり、ゼオライト骨格内に鉄原子が含まれる構造を有している。そして、特に150℃以下となる低温領域におけるNOxの吸着能力が高く、かつSCR反応の触媒としての機能も有している。このような鉄シリケート触媒7としては、ベータ型鉄シリケート触媒が好ましく例示される。
【0024】
上記のSCR触媒6及び鉄シリケート触媒7は、それぞれの触媒6、7を含むスラリーをセラミックハニカムなどの担体に塗布した状態で、又はその成型体となった状態で使用される。
【0025】
尿素水の噴射ノズル5は、先端部が排気管3内に位置するように外部から挿入され、タンク8に貯蔵された尿素水を排気管3内を通過する排ガスGに向けて噴射する。
【0026】
この排ガス浄化装置1Aは、ディーゼルエンジン2と噴射ノズル5との間に、上流側から下流側へ向けて直列に配置された酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)9及びDPF10と組み合わせることで、ディーゼルエンジン2の排ガス浄化システムを構成する。なお、排ガス浄化システムの構成は、これに限るものではなく、DOC9及びDPF10のいずれか一方のみを配置するようにしてもよい。また、排ガス浄化システムにおける噴射ノズル5の位置も、図1のようにSCRコンバータ4の上流側の直前に限るものではなく、例えばDPF10の上流側に配置するようにしてもよい。
【0027】
このような排ガス浄化装置1Aを用いた排ガス浄化方法は次のようになる。
【0028】
ディーゼルエンジン2から排気された排ガスGは、DOC9において排ガスG中の酸素を用いて一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及びPMに含まれる未燃焼物質(SOF)が酸化除去される。次に、DPF10において排ガスG中からPMが除去される。
【0029】
そして、噴射ノズル5から噴射された尿素水が加水分解して生成したアンモニアとともに、SCRコンバータ4内へ流入する。
【0030】
ここでディーゼルエンジン2が始動直後で排ガスGの温度が低温領域(例えば、約50〜150℃)にある場合には、排ガスG中のNOxの大部分はSCRコンバータ4の前段の鉄シリケート触媒7に吸着され保持される。このように排ガスGの温度が低温領域であると、後段のSCR触媒6でのアンモニアによるNOxの還元反応が低下するが、鉄シリケート触媒7に吸着されたNOxの残余分を処理するだけでよく、かつ鉄シリケート触媒7もSCR反応の触媒としての機能を有するため、SCRコンバータ4におけるNOxの浄化性能が低下することはない。
【0031】
そして、ディーゼルエンジン2が運転状態になり排ガスGの温度が高温領域(例えば、約150℃超)になったときには、鉄シリケート触媒7に吸蔵されていたNOxが脱離して、他の排ガスG中のNOxとともにSCR触媒6においてアンモニアにより還元されて浄化される。このとき、SCR触媒6は、鉄シリケート触媒7と共に一体的にSCRコンバータ4を構成しているため従来よりも容量が小さくなっている上に、鉄シリケート触媒7から脱離した分のNOxも処理することになるが、鉄シリケート触媒7がSCR反応の触媒としての機能も有しているため、SCRコンバータ4におけるNOxの浄化性能が低下することはない。
【0032】
このようにして、従来と同じサイズのSCRコンバータ4を用いて、低温領域から高温領域にかけて排ガスG中のNOxの浄化を高い効率でおこなうことができるのである。
【0033】
従って、ディーゼルエンジンの排ガス浄化装置1Aが大型化することなく、広い温度範囲で排ガスG中のNOxの浄化を効果的におこなうことができる。
【0034】
図2は、本発明の第2の実施の形態からなるディーゼルエンジンの排ガス浄化装置を示す。
【0035】
このディーゼルエンジンの排ガス浄化装置1Bは、図1のSCRコンバータ4のSCR触媒6に対応する表面に加熱ヒータ11を取り付けたものである。加熱ヒータ11としては、図示しないバッテリー等を電源とする帯状の電気ヒータなどが好ましく例示される。
【0036】
このような加熱ヒータ11を用いて、あらかじめSCR触媒6を一定温度(例えば、約200〜300℃)で加熱しておくことで、SCR触媒6におけるNOxの還元反応を促進することができる。
【0037】
上記のいずれの実施形態においても、SCR触媒6と鉄シリケート触媒7とは同一の容量とするが、実用的な観点からはSCR触媒6に対する鉄シリケート触媒7の容量比は、0.5〜1.5の範囲とすることが望ましい。
【実施例】
【0038】
図1に示すディーゼルエンジンの浄化装置1Aにおいて、ベータ型鉄シリケート触媒と鉄イオン交換アルミノシリケート触媒とが同一容量であるSCRコンバータ4を用いて、排ガスGの温度を変化させた場合におけるNOxの浄化率を測定し、その結果を図3に示した。
【0039】
なお、ベータ型鉄シリケート触媒及び鉄イオン交換アルミノシリケート触媒には、H2O:10%、O2:20%、N2 balanceのガス条件下で、700℃で10時間の水熱耐久処理を施した試料を用いた。それらの試料のNOx吸着量及びNOx全除去量を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
図3から、排ガスの温度が約150℃以下では、鉄イオン交換アルミノシリケート触媒に比べてベータ型鉄シリケート触媒によるNOxの吸着量が非常に大きくなるが、約150〜200℃の温度領域では、ベータ型鉄シリケート触媒によってNOxを吸着できなくなることが分かる。しかし、排ガスの温度が約150℃超となると、鉄イオン交換アルミノシリケート触媒での還元反応が開始されるため、ベータ型鉄シリケート触媒がNOxを吸着できなくなる150〜200℃の温度領域でもNOxの浄化がおこなわれることが分かった。
【0042】
このことから、ベータ型鉄シリケート触媒と鉄イオン交換アルミノシリケート触媒とを組み合わせることで、低温領域でのベータ型鉄シリケート触媒のNOx吸着性能と、高温領域での鉄イオン交換アルミノシリケート触媒のNOx浄化性能とが相補的に作用して、広い温度範囲で高効率にNOx浄化が可能になることが分かる。
【符号の説明】
【0043】
1A、1B ディーゼルエンジンの排ガス浄化装置
2 ディーゼルエンジン
3 排気管
4 SCRコンバータ
5 噴射ノズル
6 SCR触媒
7 鉄シリケート触媒
8 タンク
9 酸化触媒
10 DPF
11 加熱ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンの排気管に挿入された尿素水の噴射ノズルと、前記噴射ノズルの下流側の排気管に設置されたSCR触媒を有するコンバータとを備えたディーゼルエンジンの排ガス浄化装置において、
前記コンバータ内の前記SCR触媒の上流側に鉄シリケート触媒を直列に挿入して、該コンバータを一体的に構成したことを特徴とするディーゼルエンジンの排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記鉄シリケート触媒が、ベータ型鉄シリケート触媒である請求項1に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記SCR触媒に対する前記鉄シリケート触媒の容量比が0.5〜1.5である請求項1又は2に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記コンバータの前記SCR触媒に対応する表面に加熱ヒータを取り付けた請求項1〜3のいずれかに記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置における前記噴射ノズルとディーゼルエンジンとの間に、DOC及びDPFの少なくとも一方を配置したディーゼルエンジンの排ガス浄化システム。
【請求項6】
ディーゼルエンジンの排ガスに尿素水を噴射し、前記噴射された尿素水を高温で加水分解してアンモニアを生成し、前記排ガス中の窒素酸化物をコンバータ内のSCR触媒の存在下で前記アンモニアと反応させて還元するディーゼルエンジンの排ガス浄化方法において、
前記排ガスの温度が低温領域であるときには、前記尿素水を噴射された排ガス中の窒素酸化物の少なくとも一部を、前記コンバータ内の前記SCR触媒の上流側に直列に挿入されて該コンバータを一体的に構成する鉄シリケート触媒で吸着するとともに、残余の前記窒素酸化物を前記アンモニア及びSCR触媒を用いて還元し、
前記排ガスの温度が高温領域になったときには、前記鉄シリケート触媒から脱離した窒素酸化物と、前記排ガス中の窒素酸化物とを、前記アンモニア並びにSCR触媒及び鉄シリケート触媒を用いて還元することを特徴とするディーゼルエンジンの排ガス浄化方法。
【請求項7】
前記低温領域が50〜150℃の温度範囲であって、かつ前記高温領域が150℃超の温度範囲である請求項6に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化方法。
【請求項8】
前記SCR触媒をあらかじめ加熱する請求項6又は7のいずれかに記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−15027(P2013−15027A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146363(P2011−146363)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】