説明

ディーゼルエンジンの異常燃焼防止システム

【課題】液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンにおけるエンジン始動時の異常燃焼の発生を、低コストで防止することができるディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムを提供する。
【解決手段】シリンダ8のヘッド部に一端部が接続し、他端部がそれぞれ逆止弁25、26を有する排気用支管23及び吸気用支管24に分岐する配管19を逃がし弁21を介して設け、ディーゼルエンジン1の始動時において、気筒6が少なくとも圧縮行程及び膨張行程にあるときに逃がし弁21を開弁する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムに関し、更に詳しくは、液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンにおける燃焼室内への燃料リークによるエンジン始動時の異常燃焼の発生を、低コストで防止することができるディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガスによる大気汚染の対策として、従来からの燃料である軽油の代わりに、ジメチルエーテル(DME)などの液化ガスを使用することが検討されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この液化ガスは、燃焼室内に燃料を噴射する噴射ノズルのシート部からガス状となって外部へリークしやすいという性質がある。更に、液化ガスは軽油よりも粘度が低いので、噴射ノズルのシート部が摩耗しやすくなるため、外部へのリークが助長されることになる。
【0004】
特に、エンジン停止時においては、噴射ノズル内に残留した液化ガスが、圧力の低下により気化することで、シート部から燃焼室内へのリークが発生する。このようにエンジン停止時に液化ガスの燃料リークが発生すると、エンジン始動時に初爆で異常燃焼を起こして、最悪の場合にはシリンダライナやピストンリングが破損するおそれがある。このことは、高圧で燃料を噴射するコモンレール式の噴射装置を用いた場合に一層顕著になる。
【0005】
このような問題を解決するためには、エンジン始動時に吸排気バルブを開閉させて燃焼室内に滞留する液化ガスを掃気することが考えられるが、可変動弁機構の追加やそれを制御する制御ロジックが必要となるため、エンジンの構成が複雑となってコストが大幅に増加することになる。
【0006】
そのため、液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンについて、エンジン始動時の異常燃焼の発生を、低コストで防止することができるシステムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−239651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンにおけるエンジン始動時の異常燃焼の発生を、低コストで防止することができるディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成する本発明のディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムは、液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンの気筒に設置された噴射ノズルから燃焼室内への燃料リークに起因する異常燃焼を防止するディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムであって、一端部が前記燃焼室に接続され、かつ他端部が2本の支管に分岐する配管と、それらの支管に互いに逆向きになるようにそれぞれ取り付けられた逆止弁と、前記配管の一端部を開閉する逃がし弁と、その逃がし弁を操作する開閉手段と、前記開閉手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記ディーセルエンジンの始動要求を受けると、スタータでクランク軸を回転駆動させるとともに、前記気筒が少なくとも圧縮行程及び膨張行程にあるときに前記開閉手段により前記逃がし弁を開弁し、所定の期間後に常時閉弁する制御を行うことを特徴とするものである。
【0010】
上記のディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムは、燃料リーク検知手段を有し、制御手段は、その燃料リーク検知手段が液化ガスの燃料リークを検知した場合にのみ、気筒が少なくとも圧縮行程及び膨張行程にあるときに開閉手段により逃がし弁を開弁し、所定の期間後に常時閉弁する制御を行うことで、ディーゼルエンジンの始動が遅れるのを防ぐことができる。
【0011】
また、制御手段は、その後の排気行程においても逃がし弁を開弁することで、液化ガスの予混合気を外部へより完全に掃気することができる。
【0012】
更に、制御手段は、逃がし弁を気筒の2〜3サイクル後に常時閉弁することで、燃料リークにより燃焼室内に貯留する液化ガスの予混合気を完全に掃気できるとともに、始動後のディーゼルエンジンの運転に影響を与えないようにすることができる。
【0013】
本発明のディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムは、液化ガスを燃料とする一般の内燃機関に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムによれば、エンジン始動時において、少なくとも気筒の圧縮行程及び膨張行程において燃焼室を外部へ連通させるようにしたので、燃料リークによりシリンダ内に貯留している液化ガスの予混合気が、外部へ掃気されて圧縮着火が抑制されるため、異常燃焼の発生を防止することができる。
【0015】
また、異常燃焼防止システムの構成及び機能が簡易であるため、コストの増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態からなるディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムの構成図である。
【図2】図1に示すX部の拡大図である。
【図3】第1の実施形態における制御手段の機能を示すフロー図である。
【図4】圧縮行程におけるX部の状態を示す拡大図である。
【図5】膨張行程におけるX部の状態を示す拡大図である。
【図6】排気行程におけるX部の状態を示す拡大図である。
【図7】本発明の第2の実施形態からなるディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムの構成図である。
【図8】第2の実施形態における制御手段の機能を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1、2は、本発明の第1の実施形態からなるディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムを示す。
【0019】
このディーゼルエンジンの異常燃焼防止システム(以下、「異常燃焼防止システム」という。)が装備されるディーゼルエンジン1では、ジメチルエーテル(DME)などの液化ガス2が、高圧ポンプ(図示せず)によりコモンレール3内で蓄圧され、ECU(エンジンコントロールユニット)4により制御された噴射ノズル5を通じて気筒6の燃焼室7内の圧縮空気中に噴射されて燃焼・膨張することで、シリンダ8内のエンジンピストン9を往復動させるようになっている。燃焼後のガスは、排気弁10の開放時に燃焼室7から排気管11へ送られて大気中へ放出される。その一方で、吸気弁12の開放時に吸気管13から燃焼室7内へ空気が導入されてエンジンピストン9により圧縮される。
【0020】
エンジン始動時においては、スタータ14のセルモータ15により回転駆動されたピニオン16が、リングギア17に向けて伸長して嵌合することで、クランク軸18を回転させてクランキングを行うようになっている。
【0021】
異常燃焼防止システムは、シリンダ8のヘッド部に一端部が接続する配管19と、その配管19の接続部に取り付けられて開閉手段20により操作される逃がし弁21と、制御手段22とから構成される。
【0022】
配管19の他端部は、排気用支管23と吸気用支管24とに分岐しており、ともに外部へ開口している。排気用支管23には、一端部側から開口側へ向けて気体が流れる向きに逆止弁25が取り付けられている。一方、吸気用支管24には、開口側から一端部側へ向けて気体が流れる向きに逆止弁26が取り付けられている。なお、図2では、逆止弁25、26の形式としてボールキャッチ式を例示しているが、これに限るものではない。
【0023】
逃がし弁21の開閉手段20としては、油圧又は空圧を利用したアクチュエーターやモータなどが例示される。
【0024】
制御手段22は、記憶部を備えたCPU(中央演算処理装置)から構成され、開閉手段20、スタータ14、気筒6の行程状態を検知する回転位置センサー27及びECU4のそれぞれに信号線28a〜28dを通じて接続している。
【0025】
なお、図1の構成では、制御手段22とECU4とを別体としているが、ECU4に制御手段22の機能を持たせて一体化するようにしてもよい。
【0026】
このような構成を有する異常燃焼防止システムの機能を、図3に示すフロー図を基に以下に説明する。
【0027】
制御手段22は、停止状態にあるディーゼルエンジン1に対して始動要求が発せられたことをECU4から入力されると(S10)、スタータ14のセルモータ15でピニオン16を回転駆動するとともに、そのピニオン16をリングギア17へ向けて伸長して嵌合させることでクランク軸18を回転させる(S20)。なお、このとき逃がし弁21は閉弁している。
【0028】
次に、各気筒6の行程を回転位置センサー27から検知し(S30)、気筒6が圧縮行程にあるときに、図4に示すように、開閉手段20により逃がし弁21を開弁する(S40)。これにより、エンジン停止時に噴射ノズル5から燃焼室7内に液化ガス2の燃料リークがあった場合には、燃焼室7内に滞留する液化ガス2の予混合気の少なくとも一部が、配管19及び排気用支管23を通じて外部へ掃気される。このとき、吸気用支管24は逆止弁26により閉止されている。
【0029】
次に、気筒6の膨張行程においても、図5に示すように、引き続き逃がし弁21を開弁状態にする(S50)。これにより、ピストン9が下がることによるシリンダ8内の圧力低下によって、外部の空気が吸気用支管24及び配管19を通じてシリンダ8内へ吸引される。このとき、排気用支管23は逆止弁25により閉止されている。最後に、所定の期間後に逃がし弁21を常時閉弁した状態にする(S60)。
【0030】
このように、エンジン始動時の少なくとも圧縮行程及び膨張行程において、逃がし弁21を開弁して燃焼室7を外部に連通させるようにしたので、燃料リークにより貯留している液化ガス2の予混合気が外部へ掃気されて圧縮着火が抑制されるため、異常燃焼の発生を防止することができる。また、異常燃焼防止システムの構成及び機能が簡易であるため、コストの増加を抑えることができる。
【0031】
逃がし弁21を常時閉弁するまでの所定の期間は、エンジン始動開始から気筒6の2〜3サイクルとすることが望ましい。そのようにすることで、燃料リークにより燃焼室7内に貯留する液化ガス2の予混合気を完全にエンジン外部へ掃気できるとともに、ディーゼルエンジン1の運転に影響を与えないようにすることができる。
【0032】
また、逃がし弁21は、気筒6の圧縮行程及び膨張行程以外の行程においても開弁するようにしてもよい。例えば、図6に示すように、圧縮行程及び膨張行程に続く排気行程でも逃がし弁21を開弁することで、燃焼室内7に残存する液化ガス2の予混合気が、排気用支管23からも外部へ掃気されるので、液化ガス2の予混合気をより完全に掃気することができる。
【0033】
特に、エンジン始動時の全ての行程において逃がし弁22を開弁する場合には、開閉手段21の制御を簡単な機構で容易に行うことが可能になる。
【0034】
図7は、本発明の第2の実施形態からなるディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムを示す。
【0035】
この異常燃焼防止システムは、図1に示す実施形態について、各気筒6に連通する吸気管13及び排気管11のそれぞれに燃料リーク検知手段である酸素センサー29を取り付けて、制御手段22と信号線28eで接続したものである。
【0036】
このような構成を有する異常燃焼防止システムの機能を、図8に示すフロー図を基に以下に説明する。
【0037】
制御手段22は、停止状態にあるディーゼルエンジンに対して始動要求が発せられたことをECU4から入力されると(S10)、スタータ14のセルモータ15でピニオン16を回転駆動するとともに、リングギア17へ向けてピニオン16を伸長して嵌合させることでクランク軸18を回転させる(S20)。なお、このとき逃がし弁21は閉弁している。
【0038】
そして、吸気管13及び排気管11に取り付けられた酸素センサー29の測定値を比較し(S22)、その差が所定の値以上である場合には(S24)、エンジン停止中に燃焼室7内への液化ガス2の燃料リークがあったものと判断し、気筒6が圧縮行程及び膨張行程にあるときに逃がし弁21を開弁し(S30〜S50)、所定の期間後に常時閉弁する(S60)。
【0039】
一方、酸素センサー29の測定値の差が所定の値未満である場合には(S24)、燃料リークがなかったものと判断し、逃がし弁21を常時閉弁したままにする(S60)。
【0040】
このようにすることで、噴射ノズル5からの液化ガス2の燃料リークがなかった場合には、エンジン始動時の初爆が通常の圧縮比で正常に行われるため、ディーゼルエンジン1の始動が遅れる(もたつく)のを防ぐことができる。
【0041】
酸素センサー29の吸気管13及び排気管11における取付位置は特に限定するものではなく、例えば、各気筒6から延びる吸気管13及び排気管11がそれぞれ1本に収束する太径部であってもよい。
【0042】
本発明の異常燃焼防止システムの用途は、上述したような自動車用のディーゼルエンジン1に限るものではなく、液化ガス2を燃料とするその他の内燃機関にも適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 ディーゼルエンジン
2 液化ガス
3 コモンレール
4 ECU
5 噴射ノズル
6 気筒
7 燃焼室
8 シリンダ
9 エンジンピストン
10 排気弁
11 排気管
12 吸気弁
13 吸気管
14 スタータ
15 セルモータ
16 ピニオン
17 リングギア
18 クランク軸
19 配管
20 開閉手段
21 逃がし弁
22 制御手段
23 排気用支管
24 吸気用支管
25 逆止弁(排気用)
26 逆止弁(吸気用)
27 回転位置センサー
28a〜28e 信号線
29 酸素センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを燃料とするディーゼルエンジンの気筒に設置された噴射ノズルから燃焼室内への燃料リークに起因する異常燃焼を防止するディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムであって、
一端部が前記燃焼室に接続され、かつ他端部が2本の支管に分岐する配管と、それらの支管に互いに逆向きになるようにそれぞれ取り付けられた逆止弁と、前記配管の一端部を開閉する逃がし弁と、その逃がし弁を操作する開閉手段と、前記開閉手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記ディーセルエンジンの始動要求を受けると、スタータでクランク軸を回転駆動させるとともに、前記気筒が少なくとも圧縮行程及び膨張行程にあるときに前記開閉手段により前記逃がし弁を開弁し、所定の期間後に常時閉弁する制御を行うことを特徴とするディーゼルエンジンの異常燃焼防止システム。
【請求項2】
前記ディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムが燃料リーク検知手段を有し、
前記制御手段は、前記燃料リーク検知手段が前記液化ガスの燃料リークを検知した場合にのみ、前記気筒が少なくとも圧縮行程及び膨張行程にあるときに前記開閉手段により前記逃がし弁を開弁し、所定の期間後に常時閉弁する制御を行う請求項1に記載のディーゼルエンジンの異常燃焼防止システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記圧縮行程及び膨張行程に続く排気行程においても前記逃がし弁を開弁する請求項1又は2に記載のディーゼルエンジンの異常燃焼防止システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記逃がし弁を前記気筒の2〜3サイクル後に常時閉弁する請求項1〜3のいずれかに記載のディーゼルエンジンの異常燃焼防止システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のディーゼルエンジンの異常燃焼防止システムを搭載したことを特徴とする内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−96250(P2013−96250A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237281(P2011−237281)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】