説明

ディーゼルエンジンのDPF再生制御装置

【課題】本発明では、エンジンの使用時間を考慮した正確な再生時期算出手段を提供することを課題とする。
【解決手段】DPF42を通して排気ガスを浄化するディーゼルエンジンEの排気浄化装置40でPMの堆積量を事前の実験データで使用時間と堆積量の関係として記憶し、実験データの集積による模擬データm1,m2に基づいて再生時期t1,t2を演算するディーゼルエンジンEのDPF再生制御装置において、ディーゼルエンジンEの累計使用時間tによって使用する模擬データm1,m2を変更することを特徴とするディーゼルエンジンのDPF再生制御装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気ガス処理装置に関し、ディーゼルパキュムレートフィルタ(以下、「DPF」という)に堆積する排気ガス中の黒煙などの粒子状物質(以下、「PM」という)を焼却除去(再生処理)する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンでは、排気ガスを浄化するために、排気ガス通路に配置した酸化触媒コンバータ(以下、「DOC」という)の酸化触媒の作用により排気ガス中のNOからNOを生成し、このNOを酸化材としてDPFで捕集したPMを焼却して再生処理をしている。
【0003】
この再生処理は、DPFのPM堆積量が所定の限界量に達すると手動操作或いは自動制御で行うが、DPFのPM堆積量推定手段として、例えば、特開2010−255526号公報に記載の技術が有る。
【0004】
それは、DPFを有するコモンレール式ディーゼルエンジンにおいて、吸入空気流量と燃料流量によって算出した排ガス流量値に対するDPFの上流側と下流側の差圧値の相関関係から適宜間隔で作用点を抽出してDPF内のPM堆積の近似線図を作成する近似線図作成手段と、この近似線図の傾きの時間関数によりPM過堆積による強制再生を行うリミットまでの予測時間を算出する強制再生時期算出手段と、この強制再生時期をオペレータに告知する強制再生時期告知手段とを設けた技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−255526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の従来技術では、吸入空気流量と燃料流量によって算出した排ガス流量値に対するDPFの上流側と下流側の差圧値の相関関係から一義的にPM堆積の近似線図を作成しているが、DPFを再生処理しても残る灰分(アッシュ)の堆積を考慮していないために、長時間のエンジン使用によって、実際のPM堆積量とPM堆積近似線図での堆積推定量が異なってきて、再生処理を行うタイミングが遅れてしまうようになる。
【0007】
そこで、本発明では、エンジンの使用時間を考慮した正確な再生時期算出手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、DPF42を通して排気ガスを浄化するディーゼルエンジンEの排気浄化装置40でPMの堆積量を事前の実験データで使用時間と堆積量の関係として記憶し、実験データの集積による模擬データm1,m2に基づいて再生時期t1,t2を演算するディーゼルエンジンEのDPF再生制御装置において、ディーゼルエンジンEの累計使用時間tによって使用する模擬データm1,m2を変更することを特徴とするディーゼルエンジンのDPF再生制御装置とした。
【0009】
この構成で、DPF37を再生処理しても残るアッシュの影響を考慮してより正確な再生時期を知ることが出来る。
請求項2に記載の発明は、模擬データm1,m2に対する余裕幅α,βを持たせて再生時期t1、t2を報知させると共に、ディーゼルエンジンEの累計使用経過時間が長くなると余裕幅α,βを広げることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンのDPF再生制御装置とした。
【0010】
この構成で、累計使用経過時間が長くなると模擬データm1,m2が不安定になるが、それに伴って余裕幅α,βも広くなるので、再生時期の報知が遅れてディーゼルエンジンEが停止してしまう恐れが無い。
【0011】
請求項3に記載の発明は、ディーゼルエンジンの使用経過時間を再生処理回数nに置換して、余裕幅α,βをディーゼルエンジンEの累計再生処理回数によって順次広げることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンのDPF再生制御装置とした。
【0012】
この構成で、DPF37を再生処理しても残るアッシュの影響を考慮してより正確な再生時期を知ることが出来る。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明で、DPF37を再生処理しても残るアッシュの影響を考慮してより正確な再生時期を知ることが出来る。
請求項2に記載の発明で、累計使用経過時間が長くなると模擬データm1,m2が不安定になるが、それに伴って余裕幅α,βも広くなるので、再生時期の報知が遅れてディーゼルエンジンEが停止してしまう恐れが無い。
【0014】
請求項3に記載の発明で、DPF37を再生処理しても残るアッシュの影響を考慮してより正確な再生時期を知ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】蓄圧式燃料噴射装置の全体構成図である。
【図2】制御モードによるエンジン回転数と出力トルクの関係を示す線図である。
【図3】トラクターの左側面図である。
【図4】トラクターの平面図である。
【図5】排気処理装置のシステムブロック図である。
【図6】(a)エンジン使用時間1000hまでのPM堆積予測グラフ、(b)エンジン使用時間1000h以上のPM堆積予測グラフである。
【図7】排気音消音装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に示す実施例を参照しながら説明する。
本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は、蓄圧式燃料噴射装置の全体構成図である。蓄圧式燃料噴射装置は、例えば、多気筒ディーゼル機関に適用されるものであるが、ガソリン機関でもよい。そして、蓄圧式燃料噴射装置は、噴射圧力に相当する高圧燃料を蓄圧するコモンレール1と、このコモンレール1に取り付けられる圧力センサ2と、燃料タンク3より汲み上げた燃料を加圧してコモンレール1に圧送する高圧ポンプ4と、コモンレール1に蓄圧された高圧燃料をエンジンEのシリンダー5内に噴射する燃料噴射ノズル6と、前記高圧ポンプ4と燃料噴射ノズル6等の動作を制御する制御装置(ECU)等から構成される。ECUとは、エンジンコントロールユニットの略称である。
【0017】
このように、コモンレール1はエンジンEの各シリンダー5へ燃料を噴射するものであり、燃料供給を要求された圧力とするものである。
前記燃料タンク3内の燃料は吸入通路により燃料フィルタ7を介してエンジンEで駆動される高圧ポンプ4に吸入され、この高圧ポンプ4によって加圧された高圧燃料は吐出通路8によりコモンレール1に導かれて蓄えられる。
【0018】
コモンレール1内の高圧燃料は各高圧燃料供給通路9により気筒数分の燃料噴射ノズル6に供給され、ECU100からの指令に基づき、各シリンダーに燃料噴射ノズル6が作動して、高圧燃料がエンジンEの各シルンダー5室内に噴射供給され、各燃料噴射ノズル6での余剰燃料(リターン燃料)は各リターン通路10により共通のリターン通路10へ導かれ、このリターン通路10によって燃料タンク3へ戻される。
【0019】
また、コモンレール1内の燃料圧力(コモンレール圧)を制御するため高圧ポンプ4に圧力制御弁11が設けられており、この圧力制御弁11はECU100からのデューティ信号によって、高圧ポンプ4から燃料タンク3への余剰燃料のリターン通路10の流路面積を調整するものであり、これによりコモンレール1側への燃料吐出量を調整してコモンレール圧を制御することができる。
【0020】
具体的には、エンジン運転条件に応じて目標コモンレール圧を設定し、レール圧力センサ2により検出されるコモンレール圧が目標コモンレール圧と一致するよう、圧力制御弁11を介してコモンレール圧をフィードバック制御する構成としている。
【0021】
作業車(農作業機)におけるコモンレール1を有するディーゼルエンジンEのECU100は、図2に示すように、回転数と出力トルクの関係において走行モードAと通常作業モードB及び重作業モードCの三種類の制御モードを有する構成としている。
【0022】
走行モードAは、エンジン回転数の変動で出力も変動するドループ制御である。農作業を行わず移動走行する場合に使用するものである。例えば、ブレーキを掛けて走行速度を減速したり停止したりすると、この走行負荷の増大に伴ってエンジン回転数が低下するため走行速度の減速や停止を安全に行うことが出来るものである。
【0023】
通常作業モードBは、負荷が変動してもエンジン回転数が一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御である。通常の農作業を行う場合に使用するものである。例えば、トラクターであれば耕耘作業時に耕地が固く耕耘刃に抵抗が掛かるときであり、コンバインであれば収穫作業時に収穫物が多く負荷が増大したときでも、出力が変動して回転数を維持するときである。
【0024】
重作業モードCは、通常作業モードBと同様に負荷が変動してもエンジン回転数一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御に加え、負荷限界近くになると回転数を上昇させて出力を上げる重負荷制御を加えた制御である。特に、負荷限界近くで農作業を行う場合に使用するものである。例えば、トラクターで耕耘作業を行っている際に、特に、固い耕地に遭遇してもエンジン出力が通常の限界を越えて増大するので作業を中断することがなく、効率の良い作業が可能となる。
【0025】
これらの作業モードA,B,Cは、各作業モードA,B,Cを切り替え可能な作業モード切換スイッチの操作、又は農作業車(トラクター、コンバイン、田植機等)の走行変速レバーの変速操作、又は作業クラッチ(トラクターであればロータリであり、コンバインであれば刈取部、脱穀部である)の入り切り操作等によって切り替わるように構成する。
【0026】
ディーゼルエンジンEでは、メイン噴射に先立って少量の燃料をパルス的に噴射するパイロット噴射を行うことにより、着火遅れを短縮してディーゼルエンジンE特有のノック音を低減し、騒音を低減することが可能な構成としている。
【0027】
このパイロット噴射は、メイン噴射の前に1回又は2回に限定して行われるものであったが、前記コモンレール1の蓄圧式燃料噴射装置を用いることで、エンジンEの状況に応じてパイロット噴射の状態を変化させ、騒音の低減や不完全燃焼による白煙又は黒煙の発生を抑制できるようになる。また、メイン噴射に先立って少量の燃料をパルス的に噴射するパイロット噴射を行うことにより、排ガス中の窒素酸化物の量が減少するようになる。
【0028】
図3は、前述のようなコモンレール1を有するディーゼルエンジンを搭載したトラクターの側面図を示し、図4はその平面図を示している。平面図においては、図3に示すキャビン14を省いた状態を示している。
【0029】
トラクターは、機体の前後部に前輪12、12と後輪13、13を備え、機体の前部に搭載したエンジンEの回転動力をトランスミッションケース35内の変速装置によって適宜減速して、これら前輪12、12と後輪13、13に伝えるように構成している。
【0030】
機体中央であってキャビン14内のハンドルポスト15にはステアリングハンドル16が支持され、その後方にはシート17が設けられている。ステアリングハンドル16の下方には、機体の進行方向を前後方向に切り換える前後進レバー18が設けられている。この前後進レバー18を前側に移動させると機体は前進し、後方へ移動させると後進する構成である。
【0031】
また、ハンドルポスト15を挟んで前後進レバー18の反対側にはエンジン回転数を調節するアクセルレバー25が設けられ、またステップフロア19の右コーナー部には、同様にエンジン回転数を調節するアクセルペダル23と、左右の後輪13、13にブレーキを作動させる左右のブレーキペダル24L、24Rが設けられている。ステップフロア19の左コーナー部にはクラッチペダル20が設けられている構成である。
【0032】
また、主変速レバー26はシート17の左前方部にあり、低速、中速、高速及び中立のいずれかの位置を選択できる副変速レバー27はその後方にあり、さらにその右側にPTO変速レバー28を設けている。さらに、シート17の右側には作業機21(ロータリ等)の高さを設定するポジションレバー29と圃場の耕耘深さを自動的に設定する自動耕深レバー30、これらのレバーの後に作業機21の右上げスイッチ31と右下げスイッチ32が配置され、さらにその後に作業機21の自動水平スイッチ33とバックアップスイッチ34が配置されている。バックアップスイッチ34は、機体が後進時において、作業機21を自動的に上昇させるものである。作業機21は、機体の後方にリンク22で連結されている構成である。トラクターは作業機21を駆動させて機体を走行させることで、圃場内の耕耘等の作業を行なうものである。21aは作業機21を昇降する油圧シリンダーである。
【0033】
排気浄化装置40は、図5に示す如く、ディーゼルエンジンEの排気経路にDOC41とDPF42を繋いで後部排気管43から外部へ放出する。
図6はDPF42のPM堆積量の予測グラフで、(a)はエンジンの累計使用時間1000hまでの予測グラフで、(b)はエンジンの累計使用時間1000h以上の予測グラフである。
【0034】
予測データm1、m2は実験によって求めた計測データの平均値で、累計使用時間1000hまでの予測データm1は、変動幅が小さくかなり正確なために余裕幅αを10%にし、累計使用時間1000h以上の予測データm1は、変動幅が大きく不正確なために余裕幅βを30%にしている。
【0035】
そして、余裕幅α,βを含めた予測堆積量d1に達した累計使用時間t1,t2になると、再生処理警告表示を行ったり、自動で再生処理を開始したりするのである。
なお、前記の説明では累計使用時間を1000hで区切っているが、もっと細かい時間区分で区切って制御しても良い。
【0036】
図7は、DOC41とDPF42で構成する排気浄化装置40の後部排気管43に吸入口39aと空間部39bで構成するヘルムホルツ共鳴器39を取り付けてDPF42の再生時の騒音を低下させる構成である。ヘルムホルツ共鳴器39は、DPF42の再生時のエンジンディーゼルエンジンEの回転数と後部排気管43の排気温度で最も効果のある形状寸法にする。
【0037】
ディーゼルエンジンEの制御は、次の如く、行う。
DPF42の自動再生中に作業中或いは走行中に、エンジン負荷が小さくなってディーゼルエンジンEへのメイン燃料噴射が少なくなるとポスト噴射を多くしてエンジン温度が低下するのを防ぎ、DPFの自動再生を持続させる。
【0038】
また、作業中或いは走行中にアクセルペダルを戻してメイン噴射を無くした場合には、排気温度が再生処理温度以上であれば、メイン噴射後のレイトポスト噴射を行ってエンジン温度が低下しないようにする。
【0039】
排気ガスの温度が低くてもDPF42の再生処理を進行する添加材は、DPF42の温度が再生処理温度より低い場合のみにDPF42に供給するようにする。
DOC41で捕集した窒素酸化物に尿素を触媒として加水分解されたアンモニアを窒素酸化物に反応させて無害な窒素に変えるSCR(Selective Catalytic Reduction)を設けた排気ガス処理装置を備えたトラクタや田植機では、尿素タンク内の尿素水溶液が少なくなると前輪倍速旋回機能や片側ブレーキ旋回機能を停止して通常の作業走行を行えなくして警告し、尿素水溶液の補充を促すことで、DPF42のPM堆積によるエンジン停止を防ぐ。
【0040】
作業負荷の増大でエンジン回転が低下すると自動的にアクセルを作動してエンジンが停止するのを防ぐエンジンストールガード制御を搭載したエンジン制御装置において、エンジン停止が頻繁に起こる場合には、回転復帰制御を開始するエンジン回転数を高くし、エンジン停止があまり起こらない場合には回転復帰制御を開始するエンジン回転数を低くするように制御することで、作業者の運転技能に順応させる。
【符号の説明】
【0041】
E ディーゼルエンジン
m1,m2 模擬データ
t 累計使用時間
t1,t2 再生時期
40 排気浄化装置
42 DPF

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DPF(42)を通して排気ガスを浄化するディーゼルエンジン(E)の排気浄化装置(40)でPMの堆積量を事前の実験データで使用時間と堆積量の関係として記憶し、実験データの集積による模擬データ(m1),(m2)に基づいて再生時期(t1),(t2)を演算するディーゼルエンジン(E)のDPF再生制御装置において、ディーゼルエンジン(E)の累計使用時間(t)によって使用する模擬データ(m1),(m2)を変更することを特徴とするディーゼルエンジンのDPF再生制御装置。
【請求項2】
模擬データ(m1),(m2)に対する余裕幅(α), (β)を持たせて再生時期(t1)、(t2)を報知させると共に、ディーゼルエンジン(E)の累計使用経過時間が長くなると余裕幅(α), (β)を広げることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンのDPF再生制御装置。
【請求項3】
ディーゼルエンジン(E)の使用経過時間を再生処理回数(n)に置換して、余裕幅(α), (β)をディーゼルエンジン(E)の累計再生処理回数によって順次広げることを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンのDPF再生制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113188(P2013−113188A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259198(P2011−259198)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】