説明

ディーゼルエンジン用潤滑油組成物

【課題】金属清浄剤を含まなくても、優れたエンジン(ピストン)清浄性を保ちながら、DPFの目詰まりを防止し、動弁系の摩耗を低下させるディーゼルエンジン用の潤滑油組成物を得ようとする
【解決手段】基油に金属清浄剤を含まず、コハク酸イミドの窒素量を0.01〜0.2質量%、ジチオリン酸亜鉛の亜鉛量を0.05〜0.12質量%、アミン系酸化防止剤の窒素量を0.02〜0.3質量%及びホウ素量を0.01〜0.08質量%含有させ、また、硫酸灰分の含有量を0.3質量%以下であるようにする。そして、上記の〔(ジチオリン酸亜鉛の亜鉛量)×(コハク酸イミドの窒素量)〕と〔(ジチオリン酸亜鉛の亜鉛量)×(アミン系酸化防止剤の窒素量)〕の合計値が0.015〜0.06であるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン用の潤滑油組成物に関し、特に金属清浄剤を配合せずに、超低灰分でありながら優れたエンジン(ピストン)清浄性を有するディーゼルエンジン用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排出ガス中のパティキュレート(以下、PMという)の浄化に有効とされているディーゼルパティキュレートフィルター(以下、DPFという)は、使用されるエンジンオイル中の金属成分によって、フィルターの目詰まりを起こすようになる。例えば、ディーゼルエンジン油に由来する灰分がDPFに蓄積し、PMの浄化率の低下やDPFの寿命の低下を引き起こすことが知られており、ディーゼルエンジン油の硫酸灰分の低減すなわち低灰分化が必要とされている。
【0003】
すなわち、エンジンオイル、特にディーゼルエンジンオイルでは、要求される性能が燃料の変遷により変化してきた歴史を持っている。例えば、排出ガスによる大気汚染からパティキュレート、一酸化炭素やNOの排出が問題となり、特に軽油中の硫黄分はこの10数年で500ppm(質量ppm、以下同じ)以下から10ppm以下まで急激に低下して来た。この排出ガス対策から、ディーゼルエンジンでは、DPFと呼ばれる後処理装置が装備されるようになったが、このDPFのフィルターの目詰まり防止のため、低灰分のエンジンオイルが要求されるようになった。
また、エンジンオイル中の硫黄分は燃焼によって硫酸を生成し、生成した硫酸がピストンの清浄性、耐摩耗性に良くない影響を与え、またエンジンオイル中のリン分が排ガス浄化触媒を被毒することから、今後更にLOW-SAPSと呼ばれる低灰分・低リン・低硫黄のエンジンオイルを指向する傾向は強まって行くものと思われる。
【0004】
上記ディーゼルエンジン油の要求性能に大きな影響を与えているこの低灰分化には、エンジン清浄性に寄与する金属清浄剤や、耐摩耗性に寄与するジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)などの、金属分を含む添加剤の配合量の低減が必須である。
【0005】
上記したDPFの目詰まりを防止するためには金属含有添加剤を含まないエンジン油組成物とすることが考えられるが、単に従来のエンジン油組成物から金属含有添加剤を低減すると、エンジン清浄性、耐摩耗性、酸化安定性といったエンジン油組成物としての重要性能が低下してしまう。
【0006】
例えば、特開2007−254559号公報(特許文献1)のものでは、低灰ディーゼルエンジンオイル組成物を志向しているが、硫酸灰分は0.6質量%以下と未だ多く、さらには金属清浄剤を含有しているものであって、これは金属清浄剤を少量使用しながら、低灰分のエンジンオイルを志向するという従来技術の延長上に位置しているものである。
また、特開2006‐176672号公報(特許文献2)のものは、低灰分による酸化安定性に優れた内燃機関用潤滑油を目的としているもので、この低灰分油で粘度および酸価の上昇を抑えようとしているが、ピストン清浄性を特に志向しているものではない。さらに、実施例における硫酸灰分も0.99〜1.01質量%と極めて多くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007‐254559号公報
【特許文献2】特開2006‐176672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属清浄剤を含まなくても、優れたエンジン(ピストン)清浄性を保ちながら、DPFの目詰まりを防止し、動弁系の摩耗を低下させるようなディーゼルエンジン用の潤滑油組成物を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基油中に加えるジチオリン酸亜鉛、コハク酸イミド及びアミン系酸化防止剤のバランスをとることによって、金属清浄剤を含まずとも、優れたエンジンのピストン清浄性を保ちながら、DPFの目詰まり及び動弁系摩耗を防止する。
このため、基油にコハク酸イミドの窒素量を0.01〜0.2質量%、ジチオリン酸亜鉛の亜鉛量を0.05〜0.12質量%、アミン系酸化防止剤の窒素量を0.02〜0.3質量%及びホウ素量を0.01〜0.08質量%含有させ、また、硫酸灰分の含有量を0.3質量%以下であるようにする。
そして、上記の〔(ジチオリン酸亜鉛の亜鉛量)×(コハク酸イミドの窒素量)〕と〔(ジチオリン酸亜鉛の亜鉛量)×(アミン系酸化防止剤の窒素量)〕の合計値が0.015〜0.06であるようにする。上記合計量は好ましくは0.015〜0.04、より好ましくは0.015〜0.03である。ここでいう亜鉛量及び窒素量は質量%で表わすものである。
こうしたディーゼルエンジン用の潤滑油組成物は、サリシレート、フェネート若しくはスルホネートの金属清浄剤を含んでいないものである。ここで、金属清浄剤を含んでいないとは、金属清浄剤に由来する金属分が金属含有量換算で0.01質量%以下の潤滑油組成物であることを示す。
【0010】
上記基油は、グループ2、グループ3、グループ4およびグループ5から選ばれる基油または混合基油であって、これら単独使用または混合使用する基油の硫黄分が50ppm以下であるものが好ましい。
更に、このディーゼルエンジン用潤滑油組成物は、JASO M336:1998 清浄性試験におけるTGFが30%以下、及びJASO M354:1999 動弁摩耗試験におけるカム山高さ変化が95μm以下であるようにされている。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、金属清浄剤を含まず、低灰分量でありながらエンジンの優れたピストン清浄性能を保ち、DPFの目詰まりを防止し、動弁系の摩耗を有効に防止することができるディーゼルエンジン用の潤滑油組成物を得ることができ、環境に対する負荷を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のディーゼルエンジン用の潤滑油組成物に用いられる基油には、通常の潤滑油に使用される鉱油、合成油、これらの混合油を適宜使用することができ、特に、API(American Petroleum Institute;米国石油協会)基油カテゴリーでグループ2、グループ3、グループ4およびグループ5の基油を単独または混合物として使用することができる。
【0013】
上記グループ2基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたパラフィン系鉱油がある。ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全イオウ分が10ppm未満、アロマ分が5%以下であり、本発明において好適に用いることができる。
これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は80〜120、好ましくは100〜120がよい。40℃における動粘度は、好ましくは2〜680mm/s、より好ましくは8〜220mm/sである。また全硫黄分は300ppm未満、好ましくは100ppm未満、更に好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは100〜135℃のものを使用するのがよい。
これらグループ2基油の中でも、好ましいものとして粘度指数が115以上であるグループ2プラスと呼ばれる基油が挙げられる。
【0014】
グループ3基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製により製造されるパラフィン系鉱油や、脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油があり、これらも本発明において好適に用いることができる。
これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は120〜160、好ましくは120〜150がよい。40℃における動粘度は、好ましくは2〜680mm/s、より好ましくは8〜220mm/sである。また全硫黄分は、300ppm未満、好ましくは100ppm未満、更に好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは110〜135℃のものを使用するのがよい。
これらグループ3基油の中でも、好ましいものとして粘度指数が130以上であるグループ3プラスと呼ばれる基油が挙げられる。
【0015】
合成油としては、例えば、ポリオレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーンなどが挙げられる。
【0016】
上記ポリオレフィンには、各種オレフィンの重合物又はこれらの水素化物が含まれる。オレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5以上のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリオレフィンの製造に当っては、上記オレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。特にポリα−オレフィン(PAO)と呼ばれているポリオレフィンが好適であり、これはグループ4基油である。
これら合成基油の粘度は特に制限されないが、40℃における動粘度は、好ましくは2〜680mm/s、より好ましくは8〜220mm/sである。
【0017】
天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)基油は、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本発明の基油として好適に用いることができる。
GTL基油の粘度性状は特に制限されないが、通例、粘度指数は120〜180、好ましくは130〜175、より好ましくは140〜175である。また40℃における動粘度は2〜680mm/s、好ましくは5〜120mm/sである。また通例全硫黄分は10ppm未満、全窒素分1ppm未満である。そのようなGTL基油商品の一例として、SHELL XHVI(登録商標)がある。
【0018】
上記の如く、基油として各種の油種を単独使用したり、適宜に混合使用したりすることができるが、こうした基油の硫黄分は、50ppm以下、好ましくは10ppm以下にするとよく、1ppm以下にすると配合設計の自由度を増すことができて一層好ましいことが多い。
【0019】
上記ジチオリン酸亜鉛としては、一般に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛、アリールアルキルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。炭化水素基として、例えばアルキル基は、炭素数3〜12の第1級又は第2級のアルキル基が挙げられ、アリール基としてはフェニル基或いはフェニル基を炭素数1〜18のアルキル基で置換したアルキルアリール基が挙げられる。
これらのジチオリン酸亜鉛の中でも第2級のアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましく、炭素数としては3〜12、好ましくは3〜8、より好ましくは3〜6である。
【0020】
ジチオリン酸亜鉛の具体例としては、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジイソペンチルジチオリン酸亜鉛、ジエチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジオクチルジチオリン酸亜鉛、ジノニルジチオリン酸亜鉛、ジデシルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルメチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジノニルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0021】
このジチオリン酸亜鉛は、亜鉛量として潤滑油組成物の0.05〜0.12質量%含有され、好ましくは0.06〜0.12質量%含有される。ジチオリン酸亜鉛は、上記の通り有効な耐摩耗剤であるが、リン(P)を含有する。リン化合物は、排ガス触媒を被毒すると言われており、組成物中のリン分が増加すると排ガス浄化触媒への悪影響の可能性が高まる。そのため、ジチオリン酸亜鉛を亜鉛量で0.12質量%を超えて含有すると、それに伴い組成物中のリン量が増加するため好ましくない。また、上記の上限量を超えると耐摩耗剤として効果が飽和するため、費用に見合う効果が得られず効率的ではない。一方、0.05質量%未満であると耐摩耗剤としての効果が有効ではないことがある。
【0022】
本発明の潤滑油組成物には、上記したコハク酸イミドとして、アルケニルコハク酸イミド若しくはアルキルコハク酸イミド及び/又はそのホウ素変性した誘導体が用いられ、無灰分散剤として機能する。
アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミドとしては、例えば、一般式(1)で表されるアルケニル若しくはアルキルコハク酸モノイミド及び一般式(2)で表されるアルケニル若しくはアルキルコハク酸ビスイミドが好適なものとして挙げられる。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
上記の一般式(1)、一般式(2)中、R1、R3及びR4は、それぞれ重量平均分子量500〜3,000のアルケニル基若しくはアルキル基で、R3及びR4は同一でも異なっていてもよく、R2、R5及びR6は、それぞれ炭素数2〜5のアルキレン基で、R5及びR6は同一でも異なっていてもよく、mは1〜10の整数を示し、nは0又は1〜10の整数を示す。
【0026】
一般式(1)、(2)において、R1、R3及びR4の重量平均分子量は、それぞれ、上記の如く500〜3,000であり、好ましくは1,000〜3,000である。重量平均分子量が500未満であると基油への溶解性が低下し、3000を超えると清浄性が低下し、目的の性能が得られないおそれがある。
また、上記mは1〜10の整数であるが、好ましくは2〜5、より好ましくは3〜4である。mが2を超えると良好な清浄性を有し、mが5未満であると基油に対する溶解性が良好となる。
一般式(2)において、nは0又は1〜10の整数であるが、好ましくは1〜4、より好ましくは2〜3である。nが1を超えると良好な清浄性を有し、nが4未満であると基油に対する溶解性が良好となる。
【0027】
一般式(1)、(2)におけるアルケニル基としては、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン−プロピレン共重合体などを挙げることができ、アルキル基としてはこれらを水素添加したものである。好適なアルケニル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が挙げられ、1−ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものとして得られる。
また、好適なアルキル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基を水素添加したものである。
【0028】
上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミドは、通常、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物、又はそれを水添して得られるアルキルコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることによって製造することができる。
上記のコハク酸モノイミド及びコハク酸ビスイミドは、アルケニルコハク酸無水物若しくはアルキルコハク酸無水物とポリアミンとの反応比率を変えることによって製造することができる。
上記ポリオレフィンを形成するオレフィン単量体としては、炭素数2〜8のα−オレフィンの一種又は二種以上を混合して用いることができるが、イソブテンと1−ブテンの混合物を好適に用いることができる。
【0029】
一方、上記ポリアミンとしては、エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ブチレンジアミン,ペンチレンジアミン等の単一ジアミン、ジエチレントリアミン,トリエチレンテトラミン,テトラエチレンペンタミン,ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミンを挙げることができる。
【0030】
また、アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物のホウ素変性した誘導体は、常法により製造したものを使用することができる。例えば、上記のポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させてアルケニルコハク酸無水物とした後、更に上記のポリアミンと酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ素酸のアンモニウム塩等のホウ素化合物を反応させて得られる中間体と反応させてイミド化させることによって得られる。
【0031】
本発明の潤滑油組成物は、組成物基準で、無灰分散剤として、アルケニル若しくはアルキルコハク酸モノイミドあるいはビスイミド及び/又はそのホウ素変性した誘導体を、窒素含有量換算で0.01〜0.2質量%含有し、好ましくは0.05〜0.15質量%含有する。
アルケニル若しくはアルキルコハク酸モノイミドあるいはビスイミド及び/又はそのホウ素変性した誘導体の含有量が、窒素含有量換算で0.01質量%未満であると、無灰分散剤としての効果が充分に発揮されず、また、0.2質量%を超えると、エンジンに使用されているシール材などのゴム製部品への悪影響が顕著となるので好ましくない。
【0032】
また、該無灰分散剤であるアルケニル若しくはアルキルコハク酸モノイミド又はビスイミドの潤滑油組成物中のホウ素誘導体の含有量は、潤滑油組成物を基準としてホウ素換算で0.01〜0.08質量%好ましくは0.04〜0.07質量%である。
上記アルケニル若しくはアルキルコハク酸モノイミド又はビスイミド及び/又はそのホウ素変性した誘導体のホウ素換算した潤滑油組成物中の含有量が0.01質量%未満では耐摩耗性および高温清浄性の向上効果が不十分であり、0.08質量%を超えても、これらの効果は飽和しており経済性が低下する。
また、ホウ素はコハク酸イミドのホウ素変性物に由来するものであるが、ホウ素分だけを過剰に添加することは、組成物の硫酸灰分を増加させることになり、DPFの目詰まりの原因となり好ましくない。
【0033】
本発明において使用するアミン系酸化防止剤としては、潤滑油に使用されるものが実用的には好ましく、窒素量として潤滑油組成物中に0.02〜0.3質量%の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
アミン系酸化防止剤は、構造的にも、表面吸着しやすく、耐摩耗剤のジチオリン酸亜鉛が分解して、酸性中間体が表面に吸着するのを阻害するため、過剰添加は好ましくないことから、その上限量を規制した方がよい。
アミン系酸化防止剤としては、p,p’−ジオクチル−ジフェニルアミン(精工化学社製:ノンフレックスOD−3)、p,p’−ジ−α−メチルベンジル−ジフェニルアミン、N−p−ブチルフェニル−N−p’−オクチルフェニルアミンなどのジアルキル−ジフェニルアミン類、モノ−t−ブチルジフェニルアミン、モノオクチルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン類、ジ(2,4−ジエチルフェニル)アミン、ジ(2−エチル−4−ノニルフェニル)アミンなどのビス(ジアルキルフェニル)アミン類、オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、N−t−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミンなどのアルキルフェニル−1−ナフチルアミン類、1−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、N−ヘキシルフェニル−2−ナフチルアミン、N−オクチルフェニル−2−ナフチルアミンなどのアリール−ナフチルアミン類、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン類、フェノチアジン(保土谷化学社製:Phenothiazine)、3,7−ジオクチルフェノチアジンなどのフェノチアジン類などが挙げられる。
【0034】
本発明において使用するアミン系以外の酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤を挙げることができるが、これらの酸化防止剤は、潤滑油組成物中に約0.01〜5質量%の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。下記に示す実施例ではフェノール系とアミン系の酸化防止剤を組み合わせて使用した。
硫黄系酸化防止剤としては、ジドデシルサルファイド、ジオクタデシルサルファイドなどのジアルキルサルファイド類、ジドデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ドデシルオクタデシルチオジプロピオネートなどのチオジプロピオン酸エステル類、2−メルカプトベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0035】
フェノール系酸化防止剤としては、2−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−t−ブチル−5−メチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、3−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン(川口化学社製:アンテージDBH)、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノールなどの2,6−ジ−t−ブチル−4−アルキルフェノール類、2,6−ジ−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エトキシフェノールなどの2,6−ジ−t−ブチル−4−アルコキシフェノール類がある。
【0036】
また、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルメルカプト−オクチルアセテート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(吉富製薬社製:ヨシノックスSS)、n−ドデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2’−エチルヘキシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチル−エチル)−4−ヒドロキシ−C7〜C9側鎖アルキルエステル(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:IrganoxL135)などのアルキル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート類、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)(川口化学社製:アンテージW−400)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)(川口化学社製:アンテージW−500)などの2,2’−メチレンビス(4−アルキル−6−t−ブチルフェノール)類がある。
【0037】
さらに、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(川口化学社製:アンテージW−300)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)(シェル・ジャパン社製:Ionox220AH)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2−(ジ−p−ヒドロキシフェニル)プロパン(シェル・ジャパン社製:ビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−シクロヘキシリデンビス(2,6−t−ブチルフェノール)、ヘキサメチレングリコールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:IrganoxL109)、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート](吉富製薬社製:トミノックス917)、2,2’−チオ−[ジエチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:IrganoxL115)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(住友化学:スミライザーGA80)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(川口化学社製:アンテージRC)、2,2’−チオビス(4,6−ジ−t−ブチル−レゾルシン)などのビスフェノール類がある。
【0038】
そして、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:IrganoxL101)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン(吉富製薬社製:ヨシノックス930)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(シェル・ジャパン社製:Ionox330)、ビス−[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、2−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル−4−(2”,4”−ジ−t−ブチル−3”−ヒドロキシフェニル)メチル−6−t−ブチルフェノール、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチル−ベンジル)−4−メチルフェノールなどのポリフェノール類、p−t−ブチルフェノールとホルムアルデヒドの縮合体、p−t−ブチルフェノールとアセトアルデヒドの縮合体などのフェノールアルデヒド縮合体などが挙げられる。
【0039】
本発明のディーゼルエンジン用潤滑油組成物には、上記成分に加えて、その用途・性能に応じて金属不活性剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤その他の添加剤を適宜に併用することができる。
【0040】
本ディーゼルエンジン用潤滑油組成物に併用できる金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール、4−メチル−ベンゾトリアゾール、4−エチル−ベンゾトリアゾールなどの4−アルキル−ベンゾトリアゾール類、5−メチル−ベンゾトリアゾール、5−エチル−ベンゾトリアゾールなどの5−アルキル−ベンゾトリアゾール、1−ジオクチルアミノメチル−2,3−ベンゾトリアゾールなどの1−アルキル−ベンゾトリアゾール類、1−ジオクチルアミノメチル−2,3−トルトリアゾールなどの1−アルキル−トルトリアゾール類等のベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール、2−(オクチルジチオ)−ベンゾイミダゾール、2−(デシルジチオ)−ベンゾイミダゾール、2−(ドデシルジチオ)−ベンゾイミダゾールなどの2−(アルキルジチオ)−ベンゾイミダゾール類、2−(オクチルジチオ)−トルイミダゾール、2−(デシルジチオ)−トルイミダゾール、2−(ドデシルジチオ)−トルイミダゾールなどの2−(アルキルジチオ)−トルイミダゾール類等のベンゾイミダゾール誘導体がある。
【0041】
また、インダゾール、4−アルキル−インダゾール、5−アルキル−インダゾールなどのトルインダゾール類等のインダゾール誘導体、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール誘導体(千代田化学社製:チオライトB−3100)、2−(ヘキシルジチオ)ベンゾチアゾール、2−(オクチルジチオ)ベンゾチアゾールなどの2−(アルキルジチオ)ベンゾチアゾール類、2−(ヘキシルジチオ)トルチアゾール、2−(オクチルジチオ)トルチアゾールなどの2−(アルキルジチオ)トルチアゾール類、2−(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジブチルジチオカルバミル)−ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジヘキシルジチオカルバミル)−ベンゾチアゾールなど2−(N,N−ジアルキルジチオカルバミル)ベンゾチアゾール類、2−(N,N−ジエチルジチオカルバミル)トルチアゾール、2−(N,N−ジブチルジチオカルバミル)トルチアゾール、2−(N,N−ジヘキシルジチオカルバミル)トルチアゾールなどの2−(N,N−ジアルキルジチオカルバミル)−トルゾチアゾール類等のベンゾチアゾール誘導体がある。
【0042】
さらに、2−(オクチルジチオ)ベンゾオキサゾール、2−(デシルジチオ)ベンゾオキサゾール、2−(ドデシルジチオ)ベンゾオキサゾールなどの2−(アルキルジチオ)−ベンゾオキサゾール類、2−(オクチルジチオ)トルオキサゾール、2−(デシルジチオ)トルオキサゾール、2−(ドデシルジチオ)トルオキサゾールなどの2−(アルキルジチオ)トルオキサゾール類等のベンゾオキサゾール誘導体、2,5−ビス(ヘプチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(ドデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(オクタデシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールなどの2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール類、2,5−ビス(N,N−ジエチルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(N,N−ジブチルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(N,N−ジオクチルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾールなどの2,5−ビス(N,N−ジアルキルジチオカルバミル)−1,3,4−チアジアゾール類、2−N,N−ジブチルジチオカルバミル−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−N,N−ジオクチルジチオカルバミル−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどの2−N,N−ジアルキルジチオカルバミル−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール類等のチアジアゾール誘導体、1−ジ−オクチルアミノメチル−2,4−トリアゾールなどの1−アルキル−2,4−トリアゾール類等のトリアゾール誘導体などが挙げられる。
これらの金属不活性剤は、潤滑油組成物中に約0.01〜0.5質量%の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0043】
上記防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、アルカリ土類金属(カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)等)のスルフォネート、およびナフテネート、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられ、通常その配合量は、組成物全量基準で0.01〜5質量%の範囲である。
【0044】
本発明の潤滑油組成物に対して、低温流動性や粘度特性を向上させるために、流動点降下剤や粘度指数向上剤を添加してもよい。
粘度指数向上剤としては、例えばポリメタクリレート類やエチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン系などのスチレン−ジエン共重合体、ポリイソブチレン、ポリスチレンなどのオレフィンポリマー類等の非分散型粘度指数向上剤や、これらに含窒素モノマーを共重合させた分散型粘度指数向上剤等が挙げられる。その添加量は、潤滑油組成物中に約0.05〜20質量%の範囲で使用できる。
流動点降下剤としては、例えばポリメタクリレート系のポリマーが挙げられる。その添加量は、潤滑油組成物中に約0.01〜5質量%の範囲で使用できる。本発明の実施例では、ポリメタクリレート系の流動点降下剤を配合している。
【0045】
本発明の潤滑油組成物に対して、消泡性を付与するために、消泡剤を添加することもできる。好ましい消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ジエチルシリケート、フルオロシリコーン等のオルガノシリケート類、ポリアルキルアクリレート等の非シリコーン系消泡剤が挙げられる。その添加量は、潤滑油組成物中に約0.0001〜0.1質量%の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を挙げて更に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
実施例及び比較例の調製にあたり、下記の組成材料を用意した。
1.基油
(1-1)基油A:フィッシャー・トロプシュ由来基油(XHVI5.2)〔性状:100℃の動粘度が5.2mm/s、粘度指数が140、硫黄分量が10質量ppm以下〕
(1-2)基油B:フィッシャー・トロプシュ由来基油(XHVI8.2)〔性状:100℃の動粘度が8.2mm/s、粘度指数が144、硫黄分量が10質量ppm以下〕
(1-3)基油C:エチレンとα−オレフィンとのコオリゴマー(ルーカントHC40)〔性状:100℃の動粘度が40mm/s、粘度指数が155、硫黄分量が10質量ppm以下〕
【0047】
2.ジチオリン酸亜鉛
(2-1)ZnDTP−1:炭素数3〜6の2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛〔成分(元素分析値):Znが11.1質量%、Pが10.0質量%、Sが21
質量%〕
(2-2)ZnDTP−2:炭素数4〜6の2級アルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛〔成分(元素分析値):Znが7.7質量%、Pが7.2質量%、Sが15質量%〕
3.無灰分散剤
(3-1)コハク酸イミド−1:ホウ素変性ポリブテニルコハク酸イミド(モノ)〔成分(元素分析値):Nが2.2質量%、Bが1.96質量%〕
(3-2)コハク酸イミド−2:ポリブテニルコハク酸イミド(ビス)〔成分(元素分析値):Nが1.2質量%〕
(3-3)コハク酸イミド−3:ホウ素変性ポリブテニルコハク酸イミド(ビス)〔成分(元素分析値):Nが1.5質量%、Bが0.47質量%〕
【0048】
4.酸化防止剤
(4-1)酸化防止剤−1:アミン系酸化防止剤(イルガノックスL57)〔成分:窒素分が4.5質量%)
(4-2)酸化防止剤−2:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(イルガノックスL135)
5.金属不活性剤: ベンゾトリアゾール誘導体(イルガメット39)
6.粘度指数向上剤: スチレン・ブタジエン系粘度指数向上剤
7.流動点降下剤: ポリメタクリレート系流動点降下剤
8.消泡剤: ポリジメチルシロキサン系消泡剤
【0049】
(実施例・比較例の調製)
表1及び表2に示す配合割合で組成材料を混合し、ディーゼルエンジンオイル用潤滑油組成物を得た。
【0050】
(試験)
実施例1〜4及び比較例1〜6について、その特性を比較するために下記の試験を行った。
(1)パラメーターの算出
〔(ジアルキルジチオリン酸亜鉛の亜鉛量)×(ポリブテニルコハク酸イミドの窒素量)〕と〔(ジアルキルジチオリン酸亜鉛の亜鉛量)×(アミン系酸化防止剤の窒素量)〕の合計値であって、ここでいう亜鉛量及び窒素量は質量%で表わすものである。
評価基準:0.015〜0.06・・・・可
0.015未満・・・・不可
この評価基準において0.015〜0.06の場合は下記するTGF値もカム山高さ変化も少なく、好ましい結果を得ることができることになるが、0.015未満では、TGFが30%を超えるか、あるいはカム山高さ変化が95μmを超えるため好ましくない。0.06を超える場合は経済性の点で好ましくない。
【0051】
(2)TGF値(TD25エンジン試験後のTGF値)による清浄性評価
日本独自のディーゼルエンジンオイルの規格および試験方法として制定されたJASO M355規格に採用されている、ディーゼルエンジンのピストン清浄性試験であるJASO M336:1998(TD25エンジンを使用)によりピストン清浄性の評価を行った。TGF〔Top Groove Fill(第1リング溝カーボン詰まり)〕値は容積%で表示される。
評価基準: TGF 30%以下・・・・可
TGF 30%超・・・・・不可
(3)動弁系の摩耗試験
JASO M354:1999(4D34T4エンジンを使用)による動弁系の摩耗性試験を行った。
評価基準:カム山の高さ変化 95μm以下・・・・可
95μm超・・・・・不可
カム山の高さ変化(減少量)の限界値は、JASOのDH−2の合格基準に準拠したが、ここで使用したカム山の高さ変化は、実測値を使用し、JASO M355で定めているカム山高さ変化の補正は行っていない。
【0052】
(試験結果)
実施例1〜4及び比較例1〜6についての試験結果を、表1及び表2に示す。
【0053】
(考察)
実施例1のものは、金属清浄剤を含有せず、コハク酸イミド−3の分散剤を窒素量で0.15質量%、アミン系酸化防止剤を窒素量で0.08質量%、コハク酸イミド系分散剤のホウ素量を0.047質量%に対して、ZnDTPをZn量で0.10質量%含み、(ZnDTPの亜鉛量)×(コハク酸イミドの窒素量+アミン系酸化防止剤の窒素量)のパラメータ値が0.023、TGFは12%、またカム山高さの変化は7μm、さらに硫酸灰分も0.23質量%と基準に収まり、良好な性能が得られている。
実施例2のものは、金属清浄剤を使用せず、主としてコハク酸イミド−1、コハク酸イミド−2とコハク酸イミド−3を混合して合計窒素量を0.12質量%にしたもので、パラメータ値は0.020、TGFは25%、またカム山高さの変化は18μmとなり、良好な性能が得られている。
実施例3は、コハク酸イミド−1とコハク酸イミド−2の混合としてコハク酸イミドの窒素量は0.15質量%とし、ZnDTPをZn量で0.1質量%、アミン系酸化防止剤を窒素量で0.0396質量%で、パラメータ値は0.019となり、TGFは9%、カム山高さの変化は24.7μmであった。
実施例4は、アミン系酸化防止剤を窒素量で0.022質量%にし、パラメータ値は0.015、TGFは7%、カム山高さの変化は84.9μmと、良好な範囲内であった。
【0054】
一方、比較例1は、コハク酸イミド系分散剤を窒素量で0.075質量%にし、またZnDTPをZn量で0.077質量%にし、アミン系酸化防止剤は添加していないもので、パラメータ値は0.006と大きく減少し、TGFも47%、さらにカム山高さの変化量が478.6μmと大幅に増えている。比較例2は、コハク酸イミド分散剤を窒素量で0.12質量%にし、アミン系酸化防止剤を窒素分で0.08質量%にし、ZnDTPをZn量で0.05質量%としたところ、パラメータ値は0.010と基準値以下となり、TGFは39%であったが、カム山高さの変化は217μmと合格基準の95μmを超えるものとなった。
比較例3は、ZnDTPをZn量で0.05質量%、コハク酸イミドを窒素量で0.10質量%、アミン系酸化防止剤を窒素量で0.0792質量%としたところ、パラメータ値は0.009と基準値以下となり、TGFは55%、カム山高さの変化は300μmとさらに悪化した。比較例4では、ZnDTPをZn量で0.06質量%、コハク酸イミドを窒素量で0.15質量%、アミン系酸化防止剤を窒素量で0.0396質量%にしたところ、パラメータ値が0.011になり、TGFは14%と良好であったが、カム山高さの変化は130.7μmと95μmを超えてしまった。
比較例5は、ZnDTPをZn量で0.07%とし、コハク酸イミドを窒素量で0.12質量%としたところ、パラメータ値は0.011となり、TGFは24%で基準を満たしたが、カム山高さの変化が235.6μmと大幅に増加した。比較例6は、実施例1と同じコハク酸イミド−3を同量にして、ZnDTPをZn量で0.07質量%にし、さらにアミン系酸化防止剤を窒素量で0.0396質量%にしたもので、パラメータ値は0.013となり、TGFの11%は適合しているものの、カム山高さの変化は99μmとなって基準値である95μmをわずかに超えるものとなった。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油中に、硫酸灰分を0.3質量%以下、コハク酸イミドの窒素量を0.01〜0.2質量%、ジチオリン酸亜鉛の亜鉛量を0.05〜0.12質量%、アミン系酸化防止剤の窒素量を0.02〜0.3質量%及びホウ素量を0.01〜0.08質量%含有し、かつ、上記の〔(ジチオリン酸亜鉛の亜鉛量)×(コハク酸イミドの窒素量)〕と〔(ジチオリン酸亜鉛の亜鉛量)×(アミン系酸化防止剤の窒素量)〕の合計値が0.015〜0.06である、サリシレート、フェネート若しくはスルホネートの金属清浄剤を含まないディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
【請求項2】
上記基油が、API基油カテゴリーのグループ2、グループ3、グループ4およびグループ5から選ばれる単独または混合基油であり、この基油の硫黄分が50ppm以下である請求項1に記載のディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
【請求項3】
JASO M336:1998 清浄性試験におけるTGFが30%以下、及びJASO
M354:1999 動弁摩耗試験におけるカム山高さの変化が95μm以下である請求項1または2に記載のディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
【請求項4】
上記ジチオリン酸亜鉛が2級のアルキル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛であって、炭素数が3〜12であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のディーゼルエンジン用潤滑油組成物。


【公開番号】特開2011−256374(P2011−256374A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104510(P2011−104510)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】