説明

ディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法

【課題】排ガス中の水分の影響を受けることなく、ディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分を同時にサンプリングできるディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法を提供する。
【解決手段】ディーゼル排ガスをサンプリングライン11に導入すると共に希釈空気で希釈した希釈ディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分を捕集するに際して、前記サンプリングライン11にフィルタホルダ17と捕集剤を充填した分析用の加熱脱着チューブ21を接続し、そのフィルタホルダ17と加熱脱着チューブ21を恒温槽15内に収容すると共に加熱脱着チューブ21を冷却槽22で覆い、恒温槽15でフィルタホルダ17を、希釈ディーゼル排ガス中の水蒸気の凝縮温度以上に保持して粒子画分を捕集し、冷却槽22で加熱脱着チューブ21を冷却して除粒子画分を捕集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル排ガス中に含まれる粒子画分としての粒子状物質と除粒子画分としてのガス状物質を、同時にサンプリングするためのディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル排ガスは、粒子状物質(以下,粒子画分という)とガス状物質(以下,除粒子画分という)の混合体であることが知られている。
【0003】
非特許文献1で示されている各画分の主要成分は以下の通りである。
除粒子画分(DE);
CO2、CO、NOx、SO2
炭化水素類{パラフィン類(≦C18),オレフィン類(≦C4)(例:1,3−ブタジエン)}
アルデヒド類{ホルムアルデヒド,高級アルデヒド類(例:アクロレイン)}
単環式芳香族化合物(例:ベンゼン,トルエン)
PAH(≦4環)*(例:フェナントレン、フルオランテン)
ニトロ−PAH(2,3環)(例:ニトロナフタレン類)
粒子画分(DEP);
元素炭素,無機硫酸塩,炭化水素類(C14−C35
PAH(≧4環)*(例:ニトロピレン類)
* 4個の環をもつPAHは、通常、除粒子画分と粒子画分の両方に存在。
【0004】
上記した粒子画分(DEP)は、燃料や潤滑油の燃焼成分および未燃成分であり、炭化水素類(C14〜C25)、元素状炭素、硫酸塩及び硝酸塩、多環芳香族炭化水素類(≧4環)、ニトロ多環芳香族炭化水素類(≧3環)等が複雑に混合している集合体である。
【0005】
除粒子画分(DE)は、CO2,CO,NOx,SO2,炭化水素類(≦C18)、アルデヒド類、単環状芳香族化合物(ベンゼン、トルエン)、多環芳香族炭化水素類(≦4環)、ニトロ多環芳香族炭化水素類(2,3環)が含まれる。
【0006】
多環芳香族炭化水素類およびニトロ多環芳香族炭化水素類は、コアとなっている元素状炭素の周囲に吸着する性質があり、多環芳香族炭化水素類の4環は粒子画分と除粒子画分の両方に存在することが非特許文献1で報告されている。
【0007】
現在では、自動車排ガス規制値として定められているCO,NOx,NMHC(メタンを除いた炭化水素類),PMについては規定されている測定方法に準拠している専用の測定装置にて測定されている。それらの装置は試験用自動車またはエンジンの近くに設置され、リアルタイム測定が可能となっている。
【0008】
上記の成分の中で人の健康に悪影響を及ぼす(特に発癌)報告がある単環芳香族化合物(ベンゼン、トルエン)、多環芳香族炭化水素類、ニトロ多環芳香族炭化水素類の個別成分について、粒子画分はテフロンコーティングガラス繊維フィルタ捕集、除粒子画分はテドラーバック捕集(単環芳香族化合物)またはアンバーライト(登録商標)XAD−2またはXAD−4捕集またはポリウレタンフォーム捕集(多環芳香族炭化水素類およびニトロ多環芳香族炭化水素類)が従来用いられている。
【0009】
自動車から排出される除粒子画分に存在する多環芳香族炭化水素類、ニトロ多環芳香族炭化水素類の量や詳細な成分については報告例がほとんどない。また、単環芳香族化合物は前処理不要でそのままGC/FID(ガスクロマトグラフ/水素炎イオン化検出器)で分析可能であるが、多環芳香族炭化水素類、ニトロ多環芳香族炭化水素類の個別成分については、分析装置へ注入する前の前処理操作が必要である。
【0010】
前処理操作とは、抽出、クリーンアップ、濃縮、乾固、分析に適した溶媒への転溶を指す。捕集フィルタは折りたためるため、それほど大きな抽出容器は必要ないが、ウレタンフォームはかさばるため、かなり大きな抽出器を用意しなければならない。また、使用する抽出用有機溶媒としてよく用いられているジクロロメタンの使用量も多くなり、加熱による大気環境への蒸発放出も大きい。
【0011】
最終的にはフィルタもウレタンフォームも別々の容器で有機溶媒を用いて抽出(ソックスレ抽出法や超音波抽出法がある)し、抽出液をさらに濃縮してガスクロマトグラフ(GC)または高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析する。超音波抽出法は、ソックスレ抽出法の簡便法として用いられている。利点としては抽出時間が短い(10分×3回等の1時間以内)、抽出容器がビーカーなどの汎用な実験器具で良いという点があげられる。欠点としては、ソックスレ抽出と比較すると抽出効率が低い、ばらつきが大きいなどがあげられる。それに対し、ソックスレ抽出法の利点は反対に抽出効率が高い、ばらつきが少ない点があげられ、欠点としては拙出時間が1日〜2日程度かかることと専用の抽出容器・加温システムが必要であることがあげられる。
【0012】
これらの抽出操作が終了後、抽出液の中の固体を取り除くため0.45μm程度のフィルタを通し、多環芳香族炭化水素の分析のための感度を向上させるための濃縮操作に入る。
【0013】
濃縮法としては、窒素ガス吹き付け法、エバポレーター法、減圧遠心分離法がある。濃縮操作は通常1時間半程度必要である。この操作によって乾固後、最終的に分析装置へ注入するため、分析装置に合わせた溶媒への転溶工程が必要である。転溶をもって前処理操作が完了する。
【0014】
最終的には0.5mL程度になったSOFを蛍光検出器付き高速液体クロマトグラフ等の分析装置に注入し、出現するスペクトルが標準物質と同じ時間に出現することで定性、標準物質の濃度との比較を行うことで定量が可能である。多環芳香族炭化水素を定量するのに最も感度が高い分析装置は化学発光検出器付き高速液体クロマトグラフィー法だという報告がある。
【0015】
図3に従来の多環芳香族炭化水素定量までの前処理を含めた工程をフローチャートで示した。
【0016】
図3において、排ガス中の粒子画分と除粒子画分を捕集する前に、S30で、フィルタを秤量し、S31で、ディーゼル粒子をフィルタ捕集し、S32で、捕集後のフィルタを秤量し、S33で、フィルタ折り込み、S34で、有機溶剤による抽出操作を行い、S35で、クリーンアップ(ろ過)を行い、S36で、濃縮操作・乾固を行い、S37で別の溶剤への転溶を行い、S38で、高速液体クロマトグラフ・蛍光検出器導入で分析を行い、S39で、定量を行い、S40で、フィルタを乾燥し、S41で、フィルタ秤量(SOF)して多環芳香族炭化水素を定量する。
【0017】
この図3の従来法を用いた場合のDEP中多環芳香族炭化水素の定量には、S33〜S37の前処理に3日、S38〜S41の分析・解析(定量)・フィルタ秤量で2日、計5日を要する工程が必要であった。
【0018】
このよう、従来法では、粒子画分および除粒子画分に存在する多環芳香族炭化水素類およびニトロ多環芳香族炭化水素類を確実に定量するためには煩雑な前処理をしなければならない。また、除粒子画分に存在する個別炭化水素は従来テドラーバックに充填し、それからGC/FID(ガスクロマトグラフ/水素炎イオン化検出器)に導入するため、テドラーバック内でNO2などのガスと反応してしまい、成分が変化する問題点もある。
【0019】
そこで、特許文献1,2に示されるように、テールパイプに分流希釈トンネル(マイクロトンネル)を接続し、排ガスをマイクロトンネルに導入すると共に排ガスを空気等で希釈し、この希釈した排ガスを捕集フィルタを通して粒子画分(或いは除粒子画分毎)を捕集し、粒子画分が除去された希釈排ガスを捕集剤を通して除粒子画分を吸着させてサンプリングすることが提案されている。
【0020】
このように、排ガスを空気等で希釈し、粒子画分を捕集フィルタで捕集し、除粒子画分を捕集剤に吸着等により捕集させることで、粒子画分と除粒子画分を短時間で分析することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2008−249384号公報
【特許文献2】特開2009−175048号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】鈴木忠男、ディーゼル排気粒子の生体影響、エアロゾル研究、16,3,180−184(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、特許文献1,2では、以下の問題を残している。
【0024】
(1)テールパイプを流れる排ガス中には水分(水蒸気)が含まれているが、分流希釈トンネルに導入される希釈空気は低湿度のため、排ガス中の水蒸気分は、ある程度は軽減されるものの、マイクロトンネル出口からフィルタまでのサンプリングラインの温度が低い(室温〜15℃程度)場合には、水蒸気が凝縮して水となり、フィルタに捕集される粒子画分へ影響があることが問題となっている。
【0025】
(2)粒子画分までの捕集ラインの温度が低いと高沸点成分がラインに吸着してしまい、フィルタまで到達できない問題点があった。
【0026】
(3)除粒子画分を捕集する場合、粒子画分と同じような保温されたラインでは、低沸点成分が脱離し、捕集剤に吸着せずに通過してしまう問題点があった。
【0027】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、排ガス中の水分の影響を受けることなく、ディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分を同時にサンプリングできるディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、ディーゼル排ガスをサンプリングラインに導入すると共に希釈空気で希釈した希釈ディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分を同時に捕集する方法において、前記サンプリングラインにフィルタホルダと捕集剤を充填した分析用の加熱脱着チューブを接続し、そのフィルタホルダと加熱脱着チューブを恒温槽内に収容すると共に加熱脱着チューブを、さらなる冷却槽で覆い、恒温槽でフィルタホルダを、希釈ディーゼル排ガス中の水蒸気の凝縮温度以上に保持して粒子画分を捕集し、冷却槽で加熱脱着チューブを冷却して除粒子画分を捕集することを特徴とするディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法である。
【0029】
請求項2の発明は、フィルタホルダに導入される前に希釈ディーゼル排ガスを100℃に加温されたリボンヒータが巻かれているサンプリングプローブに通し、次に50〜52℃に調温してある恒温槽内のフィルタホルダに導入して希釈ディーゼル排ガス中の水蒸気の凝縮を防止しつつ粒子画分を捕集する請求項1記載のディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法である。
【0030】
請求項3の発明は、フィルタホルダの下流側のサンプリングラインは複数の分岐バイパスラインが接続され、その各分岐バイパスラインに、疎水性の捕集剤が種々充填された加熱脱着チューブが接続され、各加熱脱着チューブが冷却槽内で、0〜5℃に冷却される請求項1記載のディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法である。
【0031】
請求項4の発明は、前記フィルタホルダの出入口のサンプリングラインには、希釈ディーゼル排ガスのバイパスラインが接続され、そのバイパスラインにバイパス用フィルタホルダが接続される請求項1記載のディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、希釈したディーゼル排ガスを排ガス中の水蒸気の凝縮温度以上に加熱し、その希釈ディーゼル排ガス中の蒸気が凝縮しないように、恒温槽内に収容したフィルタホルダを通して粒子画分を捕集し、その後、粒子画分を除去した希釈ディーゼル排ガスを冷却して、捕集剤を充填した加熱脱着チューブを通して除粒子画分を捕集することで、粒子画分と除粒子画分を同時にサンプリングすることができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法を実施する装置の構成を示す図である。
【図2】本発明において多管芳香族炭化水素類及びニトロ多管芳香族炭化水素の分析工程を示す図である。
【図3】従来における多管芳香族炭化水素類の前処理工程及び分析工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0035】
図1は、本発明のディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法を実施する装置の構成を示したものである。
【0036】
ディーゼルエンジンや車両からのディーゼル排ガスを排出するテールパイプ10には、サンプリングライン11が接続され、そのサンプリングライン11に吸引ポンプ12が接続される。
【0037】
このサンプリングライン11は、テールパイプ10に接続され、清浄な空気(希釈空気)が導入される分流希釈トンネル(マイクロトンネル)13とサンプリングプローブ14とを有し、サンプリングプローブ14と吸引ポンプ12間の捕集側サンプリングライン11aが、50〜52℃に調温してある恒温槽15内に収容される。またサンプリングプローブ14と恒温槽15に至るサンプリングライン11にはリボンヒータ16が巻き付けられる。
【0038】
捕集側サンプリングライン11aには、粒子画分を捕集するフィルタホルダ17が接続され、そのフィルタホルダ17の出入口を結んでバイパスライン18が接続され、そのバイパスライン18にバイパス用フィルタホルダ19が接続される。フィルタホルダ17の下流側の捕集側サンプリングライン11aは複数の分岐バイパスライン20−1〜20−nが接続され、その下流側が合流されて吸引ポンプ12に接続される。
【0039】
各分岐バイパスライン20−1〜20−nには、加熱脱着−GC/MS(加熱脱着−ガスクロマトグラフィー質量分析器)にセットして直接分析できる加熱脱着チューブ21−1〜21−nが着脱自在に接続され、これら加熱脱着チューブ21−1〜21−nが、ペルチェ素子などで構成された冷却槽22内に収容される。
【0040】
また、分岐バイパスライン20−1〜20−nの上流側と下流側を結ぶと共に冷却槽22の外側に設けられたバイパスライン23が接続され、バイパス用フィルタホルダ19からの希釈ディーゼル排ガスをバイパスライン23にて排気できるようにされる。
【0041】
次に、図1を基に、本発明のディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法を説明する。
【0042】
テールパイプ10を流れるディーゼル排ガスは、サンプリングライン11のマイクロトンネル13内に導入され、マイクロトンネル13内で、希釈空気で希釈され、その後段に設置されたサンプリングプローブ14を通る間に100℃に加温されたリボンヒータ16で、希釈ディーゼル排ガス中の水蒸気の凝縮温度以上に加温された後、50〜52℃に調温してある恒温槽15内の捕集側サンプリングライン11aに流入する。これにより、希釈ディーゼル排ガス中に含まれる水分の影響を排除し、かつ高沸点成分の吸着損失を防止し、排ガスを、恒温槽15内の捕集側サンプリングライン11aへと導入される。
【0043】
サンプリング時には、バイパスライン18側は、図示しないバルブ等で閉じられており、希釈ディーゼル排ガスは、フィルタホルダ17を通り、そこで粒子画分が捕集される。フィルタホルダ17には粒子画分を捕集するための熱処理済み石英フィルタ(70φmm)等が置かれており、その石英フィルタで粒子画分が捕集される。
【0044】
その後、希釈ディーゼル排ガスは、冷却槽22内の捕集側サンプリングライン11aを通り、各分岐バイパスライン20−1〜20−nに流れ、希釈ディーゼル排ガス中の除粒子画分が加熱脱着チューブ21−1〜21−n内の捕集剤に吸着されて捕集された後、吸引ポンプ12より排気される。
【0045】
これにより、粒子画分と除粒子画分を同時にサンプリングして加熱脱着−GGMS装置で分析することが可能となる。
【0046】
除粒子画分を捕集する際に、冷却槽22はペルチェ素子により、各分岐バイパスライン20−1〜20−nと加熱脱着チューブ21−1〜21−nの冷却を行い、その冷却温度を0〜5℃とすることで、捕集したい除粒子画分中の成分が吸着されずに通過したり、加熱脱着チューブ21−1〜21−n内の捕集剤から脱離するのを防ぐことができる。
【0047】
この加熱脱着チューブ21−1〜21−nは、除粒子画分を捕集し、前処理なしに加熱脱着−GG/MS装置で分析するため、あらかじめ捕集剤(吸着剤)が充填された内径4mm、外径6mm、長さ89mmの加熱脱着チューブ(Pyrex製)を用いる。
【0048】
捕集剤は、排ガス中の水蒸気が凝縮しても水との親和性が少ない疎水性のものを使用し、例えば、TenaxTA、TenaxGR、Carbotrap(Supelco)、CarbopackB(Supelco)、Carboxen1000(Supelco)、CarbsieveS−III(Supelco)などが使用できる。
【0049】
これらの捕集剤を説明する。
【0050】
Tenax TA
2,6−diphenyl−p−phenylene oxide構造の耐熱性樹脂からり、揮発性物質や半揮発性物質の捕集に適しており、水やアルコールに対して親和性が小さいため、空気中での影響をうけにくい捕集剤である。極めて揮発性の高い物質は捕集できないので、カーボン系の捕集剤と組み合わせて使用するのが好ましい。
【0051】
Tenax GR
TenaxGRは、TenaxTAに23%グラファイトカーボンを含浸させた混合充填剤で、TAの特性を保持したまま高揮発性物質に対する破過容量の小ささを補ったものである。
【0052】
Carbotrap(Supelco)
Carbotrapは、表面積100m2/gのグラファイトカーボンブラックで大気中のC5〜C8化合物の捕集に適している。高温下で製造されているので、熱安定性が高く、加熱脱着によるブリーディングの心配がない。粒子径も大きいため(20/40メッシュ)サンプリング時の抵抗も小さく脱離時の背圧も高くならない。
【0053】
Carbopack B(Supelco)
Carbotrapと同様なグラファイトカーボンブラック基材であり、メッシュサイズが60/80と小さくなっており、細めの捕集管に充填して用いる。
【0054】
Carboxen 1000(Suplco)
カーボンモレキュラシーブ型の捕集剤で、疎水性が非常に高く高温条件下でも正確なサンプリングが行える。この捕集剤は表面積が大きく、細孔径が塩化ビニルのような非常に揮発性の高い物質に最適化されており、分子サイズの小さな化合物を効率よく捕集することができる。
【0055】
Carbsieve S−III(Supelco)
球状カーボンモレキュラシーブ型の捕集剤で、表面積が約820m2/gと大きく、細孔径は15〜40Åで、低分子量の物質の捕集に最適である。
【0056】
これらの捕集剤は、適宜組み合わせて、例えば低沸点成分の捕集に適しているCarboxen−1000、あるいは、低沸点から中沸点まで自動車排ガス中の幅広い主要成分(Benzene,Toluene,Stylene,o−,p−,m−Xylene,1,3−Butadiene,Acrylonitrile)の捕集に適しているCarbopack X(Graphitized Carbon Blackがベース)、あるいは多環芳香族炭化水素類およびニトロ多環芳香族炭化水素類の捕集に適しているアンバーライトXAD―4を詰めたものが良い。
【0057】
なお図1では4本しか示していないが、6本や8本用などにして、n=2ずつ同じ捕集剤の加熱脱着チューブを設置すれば、分析によって試験の再現性が確認できるという利点もある。
【0058】
また、粒子画分と除粒子画分を同時にサンプリングする他に、粒子画分のみをサンプリングする場合には、サンプリングプローブ14から100℃に加温したラインを通り希釈ディーゼル排ガスを捕集側サンプリングライン11aからバイパスライン18に流し、バイパス用フィルタホルダ19に流して粒子画分を捕集した後、その粒子画分が除去された希釈ディーゼル排ガスをバイパスライン23を通し吸引ポンプ12より排気する。
【0059】
これにより、粒子画分だけを捕集し、除粒子画分を捕集しない試験を行うことも可能である。
【0060】
次に、フィルタホルダ17の石英フィルタに捕集された粒子画分と、加熱脱着チューブ21−1〜21−nに捕集された除粒子画分の分析方法を説明する。
【0061】
粒子画分捕集済み石英フィルタは、事前にアセトン等で洗浄済みのSUSポンチで打ち抜いて、空の加熱脱着チューブにピンセットなどで詰める。
【0062】
除粒子画分捕集済み加熱脱着チューブはそのまま加熱脱着−GC/MSに導入できるので、非常に簡便である。
【0063】
加熱脱着装置は、GLサイエンス製のオートサンプラー付T−DexII等を用いる。GCはVarian製のGC−3800とMS(300−TQMS)の組み合わせを用いる。加熱脱着チューブは。300℃に加熱したのち、クライオフォーカス部で冷却濃縮され、内部標準物質法にて定性、定量することが可能である。
【0064】
これらの多環芳香族炭化水素の分析工程を図2に示した。
【0065】
図2において、S1で、捕集前フィルタを焼きだし、25℃50%RHでコントロールされているチャンバーに1晩置いてから秤量を行い、S2で、そのフィルタをフィルタホルダにセットし、ディーゼル粒子(粒子画分)をフィルタで捕集する。その後S3で、フィルタホルダからフィルタを取り出して捕集後のフィルタ秤量を行って捕集したDEPを秤量する。次にS4で、フィルタをポンチで打ち抜き又はカットし、S5で、その打ち抜いた或いはカットしたフィルタを空の加熱脱着チューブに入れて加熱脱着式GC/MSに導入し、分析が終了したら、次に除粒子画分捕集済み加熱脱着チューブを加熱脱着式GC/MSに導入して分析を行い、S6で、分析結果から排ガス中の粒子画分と除粒子画分を定量する。
【0066】
以上により、抽出、濃縮などの前処理操作不要で、ディーゼル排ガス中の多環芳香族炭化水素のサンプリングシステムを提供出来る。
【0067】
このように、本発明は、ディーゼル排ガス中の全粒子画分、除粒子(全ガス)画分それぞれに含有される個別炭化水素類・多環芳香族炭化水素類・ニトロ多環芳香族炭化水素類の量を簡便に各1時間程度の短時間で把握できる。
【0068】
全粒子画分は、加熱脱着−GC/MS法を用いれば前処理せずに1回の分析で必要な打ち抜き面積が10φmmと小さくて済むため、分析条件や分析カラムを変えればさまざまな成分を対象にして20回程度の試料が確保できる。また、除粒子(全ガス)画分を捕集するための捕集剤を対象成分によって変えることで、個別炭化水素類以外の成分にも適用可能である。また冷却槽22内にアルデヒド捕集用カートリッジを取り付けることでHPLC/UVでのアルデヒド分析も可能になる。
【符号の説明】
【0069】
10 テールパイプ
11 サンプリングライン
13 分流希釈トンネル(マイクロトンネル)
14 サンプリングプローブ
15 恒温槽
16 リボンヒータ
17 フィルタホルダ
21 加熱脱着チューブ
22 冷却槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル排ガスをサンプリングラインに導入すると共に希釈空気で希釈した希釈ディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分を同時に捕集する方法において、前記サンプリングラインにフィルタホルダと捕集剤を充填した分析用の加熱脱着チューブを接続し、そのフィルタホルダと加熱脱着チューブを恒温槽内に収容すると共に加熱脱着チューブを、さらなる冷却槽で覆い、恒温槽でフィルタホルダを、希釈ディーゼル排ガス中の水蒸気の凝縮温度以上に保持して粒子画分を捕集し、冷却槽で加熱脱着チューブを冷却して除粒子画分を捕集することを特徴とするディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法。
【請求項2】
フィルタホルダに導入される前に希釈ディーゼル排ガスを100℃に加温されたリボンヒータが巻かれているサンプリングプローブに通し、次に50〜52℃に調温してある恒温槽内のフィルタホルダに導入して希釈ディーゼル排ガス中の水蒸気の凝縮を防止しつつ粒子画分を捕集する請求項1記載のディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法。
【請求項3】
フィルタホルダの下流側のサンプリングラインは複数の分岐バイパスラインが接続され、その各分岐バイパスラインに、疎水性の捕集剤が種々充填された加熱脱着チューブが接続され、各加熱脱着チューブが冷却槽内で、0〜5℃に冷却される請求項1記載のディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法。
【請求項4】
前記フィルタホルダの出入口のサンプリングラインには、希釈ディーゼル排ガスのバイパスラインが接続され、そのバイパスラインにバイパス用フィルタホルダが接続される請求項1記載のディーゼル排ガス中の粒子画分と除粒子画分の同時サンプリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−88247(P2012−88247A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236828(P2010−236828)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.PYREX
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】