説明

ディーゼル機関における排気ガス浄化装置

【課題】水冷式のディーゼル機関1における排気系に,排気ガス浄化用のフィルタ手段13が設けられ,このフィルタ手段の再生を,簡単な構成で,且つ燃費の悪化を招来することなく実行する。
【解決手段】前記ディーゼル機関1には,当該ディーゼル機関とラジエータ2との間を循環する冷却水の温度を上昇する状態に切換え作動するように構成した冷却水温切換手段が設けられ,この冷却水温切換手段は,前記フィルタ手段13に詰まりが発生したとき,冷却水温の上昇に切換え作動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えばトラクタやコンバインを含む走行型の農作業車両のような走行車両にその動力源として搭載される等のディーゼル機関において,その排気ガスを浄化処理するための排気ガス浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に,走行車両に動力源として搭載される等のディーゼル機関においては,その排気ガスを浄化するために,パティキュレートフィルタ(以下,単にフィルタと称する)を用いて排気ガス中の粒子状物質(以下,単にPMと称する)等を捕集することが行われていることは周知のとおりであり,この場合,前記フィルタにて捕集されたPMが所定量を超えると,フィルタ内の流通抵抗が増大し,排気抵抗が増大することによって,エンジン出力の低下をもたらすため,フィルタに堆積したPMを除去して,フィルタのPM捕集能力を回復させる(フィルタを再生させる)ことが必要である。
【0003】
このフィルタの再生は,排気ガスの温度が高いときに行なわれる。先行技術としての特許文献1においては,ディーゼル機関からの排気経路のうち前記フィルタよりも上流側(ディーゼル機関側)の部位に電熱式のヒータを設けることにより,このヒータにて排気ガスの温度を上昇させることが開示されている。
【0004】
また,別の先行技術においては,少量の燃料をコモンレールによって排気系にポスト噴射することによって排気ガスの温度を高くしたり,ディーゼル機関における出力を吸気絞り又は排気絞りにてアップすることによって排気ガスの温度を高くすることが行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−280121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,特許文献1の構成では,排気ガスの温度を上昇することのために専用のヒータを必要とするから,部品点数が嵩み,コスト上昇の一因になるという問題があり,しかも,ヒータによる排気ガスの加熱が局部的とならざるを得ず,排気ガスを一様に加熱できないから,排気ガスを均一に浄化できないばかりか,ヒータに近接する酸化触媒付きフィルタの温度も不均一になって,酸化触媒付きフィルタに割れ等の損傷が発生するおそれが高く,その上,前記ヒータに必要とする電力をディーゼル機関にて余分に発電しなければならないから,ディーゼル機関における燃費が低下するという問題があった。
【0007】
また,コモンレールによるポスト噴射,吸気絞り又は排気絞りによる方法においては,高価な部品を必要とするばかりか,燃料噴射量が多くなるから,燃費の大幅な低下を招来するという問題がある。
【0008】
本発明は,ディーゼル機関における排気ガスの温度は,このディーゼル機関に対する冷却水の温度に比例して高くなることに着目し,このことを利用して,前記した問題を解消した排気ガス浄化装置を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この技術的課題を達成するため請求項1は,
「ディーゼル機関には,当該ディーゼル機関と空冷式のラジエータとの間における冷却水循環経路を備えた冷却装置が設けられていることに加えて,当該ディーゼル機関からの排気ガス経路に配置された排気ガス浄化用のフィルタ手段が設けられており,前記冷却装置には,前記ディーゼル機関と前記ラジエータとの間を循環する冷却水の温度を上昇する状態に切換え作動するように構成した冷却水温切換手段が設けられ,この冷却水温切換手段は,前記フィルタ手段に詰まりが発生したとき,冷却水温の上昇に切換え作動する構成である。」
ことを特徴としている。
【0010】
請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記冷却水温切換手段における冷却水温の上昇への切換え作動が,前記ラジエータに対する送風ファンの逆回転であるか,前記送風ファンの回転停止又は前記送風ファンの減速回転であるか,或いは,前記冷却水循環経路中に設けた流量制御弁による循環水量の減少である。」
ことを特徴としている。
【0011】
請求項3は,
「前記請求項1又は2の記載において,前記冷却水温切換手段は,前記フィルタ手段への排気ガスの温度が,前記フィルタ手段における上限温度以上になっているとき,冷却水温の上昇に切換え作動しないように構成されている。」
ことを特徴としている。
【0012】
請求項4は,
「前記請求項1〜3のいずれかの記載において,前記冷却水温切換手段は,前記冷却水温が,当該冷却水における上限温度以上になっているとき,冷却水温の上昇に切換え作動しないように構成されている。」
ことを特徴としている。
【0013】
請求項5は,
「前記請求項1〜4のいずれかの記載において,前記冷却水温切換手段は,前記ディーゼル機関における潤滑油の温度が,当該潤滑油における上限温度以上になっているとき,冷却水温の上昇に切換え作動しないように構成されている。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1によると,ディーゼル機関からの排気ガスに対するフィルタ手段に詰まりが発生すると,前記ディーゼル機関と空冷式のラジエータとの間を循環する冷却水の温度,つまり冷却水温が,冷却水温切換手段における冷却水温の上昇への切換え作動にて上昇されることにより,前記ディーゼル機関の温度が上昇し,これに伴い排気ガスの温度が高くなるから,前記フィルタ手段の再生を実行することができるか,或いは前記フィルタ手段の再生を促進することができる。
【0015】
この場合,排気ガスの温度上昇を,冷却水温の上昇にて行なうことにより,前記した各種の先行技術の方法よりも簡単で安価な構成にすることができるとともに,フィルタ手段の再生のためにディーゼル機関の出力アップを低減できるから,その燃費を前記各種の先行技術の場合よりも大幅に向上できる。
【0016】
そして,前記ディーゼル機関と空冷式のラジエータとの間を循環する冷却水温を上昇することは,請求項2に記載したように,前記ラジエータに対する送風ファンを逆回転するように構成するか,又は前記送風ファンを回転停止するように構成するか,或いは前記送風ファンを減速回転するように構成することによって,簡単な構成にして確実に実現できるほか,前記ディーゼル機関と前記ラジエータとの間における冷却水の循環水量を,流量制御弁にて減少するように構成することによっても,簡単な構成にして確実に実現できる。
【0017】
次に,請求項3によると,前記ディーゼル機関における冷却水温を,前記フィルタ手段における上限温度を越えないように規制することができることにより,前記フィルタ手段に,溶損,劣化及び亀裂が発生することを防止できるから,前記フィルタ手段における性能及び耐久性を確実に確保できる。
【0018】
また,請求項4によると,前記ディーゼル機関における冷却水温を,当該冷却水温における上限温度を越えないように規制することができることにより,前記フィルタ手段の再生の際に,冷却水温が高くなり過ぎることに起因して,ディーゼル機関における各種の作動部分に焼き付きが発生したり,冷却水の循環経路に熱で破裂するとか水漏れが発生したりするというように,冷却水温の過上昇で各種の不具合が発生することを確実に回避できる。
【0019】
更にまた,請求項5によると,前記ディーゼル機関における冷却水温を,ディーゼル機関における潤滑油の上限温度を越えないように規制することができることにより,前記フィルタ手段の再生の際に,潤滑油温が高くなり過ぎることに起因して,ディーゼル機関における各種の作動部分に焼き付きが発生したり,潤滑油における劣化が促進されたり,潤滑油の漏れが発生したりするというように,潤滑油温の過上昇で各種の不具合が発生することを確実に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施の形態を示す図である。
【図2】第1の実施の形態におけるフローチャートである。
【図3】第2の実施の形態を示す図である。
【図4】第2の実施の形態におけるフローチャートである。
【図5】第3の実施の形態を示す図である。
【図6】第3の実施の形態におけるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に,本発明における実施の形態を,図1〜図6の図面について説明する。
【0022】
これらの図のうち,図1及び図2は,第1の実施の形態を示す。
【0023】
この図において,符号1は,複数の気筒を備えたディーゼル機関を示し,このディーゼル機関1は,例えばトラクタやコンバインを含む走行型の農作業車両のような走行車両等にその動力源として搭載されている。
【0024】
このディーゼル機関1は,図示していないが,従来から良く知られているように,シリンダブロックと,その上面におけるシリンダヘッドと,前記シリンダブロックの下面におけるオイルパンを備えており,前記オイルパン内に溜まる潤滑油は,ディーゼル機関1にて回転駆動されるオイルポンプにてピストン及びカム軸等の各種の作動部分に供給されてこれらを潤滑したのち,再び前記オイルパン内に戻るように構成されている。
【0025】
しかも,前記ディーゼル機関1は,空冷式のラジエータ2を使用した水冷式である。
【0026】
すなわち,このディーゼル機関1におけるシリンダブロック及びシリンダヘッドの各々には,互いに連通する構成の冷却水ジャケットが設けられており,前記シリンダブロックにおける冷却水ジャケットの入口には,前記ラジエータ2におけるロアタンク2aが,ディーゼル機関1にて回転駆動される冷却水ポンプ3を備えた冷却水戻り管路4を介して接続されている一方,前記シリンダヘッドにおける冷却水ジャケットの出口には,前記ラジエータ2におけるアッパータンク2bが,冷却水供給管路5を介して接続されており,これにより,前記ディーゼル機関1と前記ラジエータ2との間を冷却水が循環することにより,前記ディーゼル機関1を冷却するように構成している。
【0027】
前記ラジエータ2には,正逆回転式の電動モータ6等にて回転駆動される送風ファン7と,この送風ファン7の外側を囲うファンシュラウド8が設けられており,前記送風ファン7は,通常においては,電動モータ6における実線矢印で示す方向への正回転により,大気空気を,実線の矢印Aで示すように,先ず前記ラジエータ2に吹き当て,このラジエータ2を通過させたのちディーゼル機関1に向かうように送風しているが,前記電動モータ6における点線矢印で示す方向への逆回転により,前記ディーゼル機関1の周囲において暖められた空気を,点線の矢印Bで示すように,前記ラジエータ2に吹き当て,これを通過したのち大気に向かうように送風するという構成になっている。
【0028】
なお,前記送風ファン7は,前記ディーゼル機関1からの動力伝達にて回転駆動するように構成しても良いが,この場合には,前記ディーゼル機関1から前記送風ファン7への動力伝達機構に,逆回転への切換え機構を設けて,この切換え機構にて,前記送風ファン7を逆回転するという構成にする。
【0029】
前記ディーゼル機関1における一方の側面には,吸気マニホールド9が接続され,この吸気マニホールド9には,大気空気の取り入れ用のエアクリーナ(図示せず)からの吸気管路10が接続されている。
【0030】
また,前記ディーゼル機関1における他方の側面には,排気マニホールド11が接続され,この排気マニホールド11には,大気への排気管12が接続され,この排気管12は,フィルタ手段の一例であるパティキュレートフィルタ13(以下,単にフィルタ手段と称する)が接続されている。
【0031】
前記ディーゼル機関1における膨張行程後の排気行程において各気筒から排気マニホールド11に排出された排気ガスは,排気管12及び前記フィルタ手段13を経由して浄化処理をされてから外部に放出される。
【0032】
前記フィルタ手段13は,排気ガス中の粒子状物質(以下,PMという)等を捕集するためのものであり,耐熱金属材料製のケーシング14内にある略筒型のフィルタケース15に,例えば白金等の酸化触媒16とフィルタ本体17とを直列に並べて収容してなるものである。
【0033】
前記フィルタ本体17は,多孔質な(ろ過可能な)隔壁にて区画された多数のセルを有するハニカム構造になっている。
【0034】
前記ケーシング14の一端部の側面には,排気管12に連通する排気導入口18が設けられている。前記ケーシング14の一端部は第1底板19にて塞がれており,フィルタケース15のうち第1底板19に臨む一端部は第2底板20にて塞がれている。ケーシング14とフィルタケース15との間の環状隙間,並びに両底板19,20間の隙間には,ガラスウールのような断熱材21が酸化触媒16及びフィルタ本体17の周囲を囲うように充填されている。
【0035】
前記ケーシング14の他側部は2枚の蓋板22,23にて塞がれていて,これら両蓋板22,23を略筒型の排気排出口24が貫通している。また,両蓋板22,23の間は,フィルタケース15内に複数の連通管25を介して連通する共鳴室26になっている。
【0036】
前記ケーシング14の一端部における側面に形成された排気導入口18には排気ガス導入管27が挿入されている。この排気ガス導入管27の先端は,ケーシング14を横断して排気導入口18と反対側の側面に突出している。排気ガス導入管27の外周面には,フィルタケース15に向けて開口する複数の連通穴28が形成されている。排気ガス導入管27のうち排気導入口18と反対側の側面に突出する部分は,これに着脱可能に螺着された蓋体29にて塞がれている。
【0037】
前記蓋体29には,フィルタ本体17の詰まり状態を検出する詰まり検出手段の一例として,圧力センサ30が設けられている。この圧力センサ30は,例えばピエゾ抵抗効果を利用した周知構造のものでよい。この場合は,フィルタ本体17にPMが堆積していないとき(フィルタ本体17が新品のとき)におけるフィルタ本体17上流側の圧力(Ps)(基準圧力値)を,後述するコントローラ31のROM等に予め記憶させておき,同じ測定箇所における現在の圧力(P)を圧力センサ30にて検出し,基準圧力値(Ps)と圧力センサ30の検出値(P)との圧力差(ΔP)を求め,当該圧力差(ΔP)に基づいてフィルタ本体17のPM堆積量が換算(推定)される。
【0038】
なお,ディーゼル機関1の排気経路のうちフィルタ手段13を挟んで上下流側に,それぞれ圧力センサを配置し,両者の検出値の差からフィルタ本体17のPM堆積量を換算(推定)するようにしてもよい。
【0039】
一方,前記フィルタ手段13への排気導入口18には,排気ガスの温度を検出するための排気ガス温センサ32が設けられ,この排気ガス温センサ32にて検出した排気ガス温度(T)は,前記コントローラ31に入力される。
【0040】
この構成において,ディーゼル機関1からの排気ガスは,排気導入口18を介して排気ガス導入管27に入って,排気ガス導入管27に形成された各連通穴28からフィルタケース15内に噴出し,フィルタケース15内の広い領域に分散したのち,酸化触媒16からフィルタ本体17の順に通過して浄化処理される。排気ガス中のPMは,この段階でフィルタ本体17における各セル間の多孔質な仕切り壁を通り抜けできずに捕集される。その後,酸化触媒16及びフィルタ本体17を通過した排気ガスが排気排出口24から放出される。
【0041】
前記排気ガスが酸化触媒16及びフィルタ本体17を通過するに際して,排気ガス温度が再生可能温度(例えば約300℃)を超えていれば,酸化触媒16の作用にて,排気ガス中のNO(一酸化窒素)が不安定なNO2 (二酸化窒素)に酸化する。そして,NO2 がNOに戻る際に放出するO(酸素)にて,フィルタ本体17に堆積したPMが酸化除去されることにより,フィルタ本体17のPM捕集能力が回復する(フィルタ本体17が再生する)ことになる。
【0042】
また,前記ディーゼル機関1には,冷却水の温度,つまり冷却水温(R)を検出する水温センサ33と,潤滑油の温度,つまり,潤滑油温(S)を検出する油温センサ34とが設けられており,これら水温センサ33にて検出した冷却水温(R),及び油温センサ34にて検出した潤滑油温(S)の各々は,前記コントローラ31に入力される。
【0043】
前記コントローラ31におけるROM等には,前記フィルタ本体17における温度上昇に起因して,当該フィルタ本体17に溶損,劣化及び亀裂が発生するような状態になるときの温度を,前記フィルタ本体17における「上限温度(Tx)」として予め記憶しているほか,前記冷却水温(R)の上昇に起因して,前記ディーゼル機関1における各種の作動部分に焼き付きが発生したり,冷却水の循環経路に熱で破裂するとか水漏れが発生したりする状態になるときの温度を,前記冷却水温における「上限温度(Rx)」として予め記憶している。
【0044】
これに加えて,前記コントローラ31におけるROM等には,前記潤滑油温の上昇に起因して,ディーゼル機関1における各種の作動部分に焼き付きが発生したり,潤滑油における劣化が促進されたり,潤滑油の漏れが発生したりする状態になるときの温度を,前記潤滑油温における「上限温度(Sx)」として予め記憶している。
【0045】
そして,前記コントローラ31は,前記圧力センサ30,前記排気ガス温センサ32,前記水温センサ33及び前記油温センサ34による検出値に基づいて,前記送風ファン7を,図2のフローチャートに示すように制御する。
【0046】
先ず,スタートに続くステップS1において,前記基準圧力値(Ps)と圧力センサ30の検出値(P)とを読み込み,ステップS2で,フィルタ本体17にPMが堆積しているか否かを判別し,堆積していないと判別されたとき(NO)には,そのままリターンするが,PMが堆積していると判別されたとき(YES)には,ステップS3に移行する。
【0047】
このステップS3において,前記フィルタ本体17の入口における排気ガス温度(T),冷却水温(R)及び潤滑油温(S)の各々を読み込む。
【0048】
次いで,ステップS4において,前記排気ガス温度(T)がその上限温度(Tx)に比較され,(YES)とき,つまり,排気ガス温度(T)がその上限温度(Tx)を超えていないときには,次のステップS5に移行する。
【0049】
このステップS5において,前記冷却水温(R)がその上限温度(Rx)に比較され,(YES)と判別されたとき,つまり,冷却水温(R)がその上限温度(Rx)を超えていないときには,次のステップS6に移行する。
【0050】
このステップS6において,前記潤滑油温(S)がその上限温度(Sx)に比較され,(YES)と判別されたとき,つまり,潤滑油温(S)がその上限温度(Sx)を超えていないときには,次のステップS7に移行する。
【0051】
そして,このステップS7において,前記ラジエータ2に対する送風ファン7が,正回転の状態から逆回転の状態に切り換えられる。
【0052】
この送風ファン7の逆回転により,前記ラジエータ2には,図1に点線矢印Bで示すように,前記ディーゼル機関1の周囲で暖められた空気が送風されることになって,その冷却性能が,前記送風ファン7が正回転している場合より低下する。
【0053】
これにより,前記ラジエータ2と前記ディーゼル機関1との間を循環する冷却水の温度,つまり,冷却水温が上昇し,ひいては,ディーゼル機関1の温度が上昇し,排気ガスの温度が高くなるから,前記フィルタ本体17の再生が開始されるか,或いは,前記フィルタ本体17の再生が促進される。
【0054】
次いで,ステップS8において,前記した再生の状態を,適宜時間を経過するまで保持し,この適宜時間を経過すると,ステップS9に移行して,ここで,前記ステップS1と同様に,前記基準圧力値Psと圧力センサ68の検出値Pとを読み込んだのち,ステップS10に移行し,このステップS10において,フィルタ本体17にPMが堆積しているか否かを判別する。
【0055】
前記ステップS10において,フィルタ本体17にPMが堆積していると判別されたとき(YES)には,前記ステップS3の前に戻して,前記したことを繰り返すが,フィルタ本体17にPMが堆積していないと判別されとき,つまり,前記フィルタ本体17の再生を完了したときには,ステップS11に移行して,前記ラジエータ2に対する送風ファン7を,逆回転の状態から通常の正回転に戻す。
【0056】
一方,前記ステップS4,ステップS5及びステップS6において(NO)のとき,つまり,前記排気ガス温度(T)がその上限温度(Tx)を超えているとき,前記冷却水温(R)がその上限温度(Rx)を超えているとき,及び,前記潤滑油温(S)がその上限温度(Sx)を超えているときには,前記ステップS11に移行して,前記ラジエータ2に対する送風ファン7を,逆回転の状態から元の(通常の)正回転に戻すか,或いはリターンする。
【0057】
このような制御により,ディーゼル機関1からの排気ガスに対するフィルタ本体17に詰まりが発生すると,前記ラジエータ2に対する送風ファン7が逆回転して,前記ラジエータ2における冷却性能が低下し,前記ディーゼル機関1とラジエータ2との間を循環する冷却水の温度が上昇し,ひいては,前記ディーゼル機関1の温度が上昇し,これに伴い排気ガスの温度が高くなることにより,前記フィルタ本体17の再生を実行できるか,前記フィルタ手段の再生を促進できる。
【0058】
この場合,前記フィルタ本体17の入口における排気ガスの温度がフィルタ本体17における上限温度を越えたとき,又は,ディーゼル機関1とラジエータ2との間を循環する冷却水温がその上限温度を越えたとき,或いは,ディーゼル機関1における潤滑油温がその上限温度を越えたときには,前記送風ファン7の逆回転による冷却水温の上昇は行なわれないように制御することができる。
【0059】
次に,図3及び図4は,第2の実施の形態を示す。
【0060】
この第2の実施の形態は,前記ラジエータ2に対する送風ファン7を,前記第1の実施の形態のように正逆回転することに代えて,前記コントローラ31にて,回転停止にするか,或いは,減速回転するように構成したものであり,その他は,前記第1の実施の形態と同様である。
【0061】
すなわち,図4に示すフローチャートのうち,ステップS6に続くステップS7′において,前記送風ファン7を,回転停止に切換え作動するか,或いは,減速回転に切換え作動する一方,ステップS11′において,前記送風ファン7の回転停止又は減速回転を元の(通常の)回転に戻すか,或いはリターンするようにしている。
【0062】
これにより,ディーゼル機関1からの排気ガスに対するフィルタ本体17に詰まりが発生すると,前記ラジエータ2に対する送風ファン7が回転停止するか,減速回転して,前記ラジエータ2における冷却性能が低下し,前記ディーゼル機関1とラジエータ2との間を循環する冷却水の温度が上昇し,ひいては,前記ディーゼル機関1の温度が上昇し,これに伴い排気ガスの温度が高くなることにより,前記フィルタ本体17の再生を実行できるか,前記フィルタ手段の再生を促進できる。
【0063】
また,前記フィルタ本体17の入口における排気ガスの温度がフィルタ本体17における上限温度を越えたとき,又は,ディーゼル機関1とラジエータ2との間を循環する冷却水温がその上限温度を越えたとき,或いは,ディーゼル機関1における潤滑油温がその上限温度を越えたときには,前記送風ファン7の回転停止又は減速回転による冷却水温の上昇は行なうことがないように制御できる。
【0064】
なお,この第2の実施の形態においても,前記送風ファン7を,前記ディーゼル機関1からの動力伝達にて回転駆動するように構成しても良いが,この場合には,前記ディーゼル機関1から前記送風ファン7への動力伝達機構に,動力伝達を断続するクラッチ機構を設けるか,減速回転機構を設けることによって,前記送風ファン7を回転停止にするか,或いは減速回転にするという構成にする。
【0065】
そして,図5及び図6は,第3の実施の形態を示す。
【0066】
この第3の実施の形態は,前記ラジエータ2に対する送風ファン7を逆回転,回転停止又は減速回転することに代えて,前記ディーゼル機関1と前記ラジエータ2との間を接続する冷却水戻り管路4又は冷却水供給管路5の途中に,流量制御弁35を設け,この流量制御弁35を,前記コントローラ31にて開閉作動するように構成したものであり,その他は,前記第1の実施の形態と同様である。
【0067】
すなわち,図6に示すフローチャートのうち,ステップS6に続くステップS7″において,前記流量制御弁35を,一定の開度まで閉じるように切換え作動する一方,ステップS11″において,前記流量制御弁35の開度を,元の(通常の)開度に開くようにするか,或いはリターンするようにしている。
【0068】
これにより,ディーゼル機関1からの排気ガスに対するフィルタ本体17に詰まりが発生すると,前記流量制御弁35が一定の開度まで閉じ,前記ディーゼル機関1とラジエータ2との間を循環する冷却水の循環量が減少して,当該冷却水の温度,つまり,冷却水温が上昇し,ひいては,前記ディーゼル機関1の温度が上昇し,これに伴い排気ガスの温度が高くなることにより,前記フィルタ本体17の再生を実行できるか,前記フィルタ手段の再生を促進できる。
【0069】
また,前記フィルタ本体17の入口における排気ガスの温度がフィルタ本体17における上限温度を越えたとき,又は,ディーゼル機関1とラジエータ2との間を循環する冷却水温がその上限温度を越えたとき,或いは,ディーゼル機関1における潤滑油温がその上限温度を越えたときには,前記流量制御弁35の閉作動による冷却水温の上昇は行なうことがないように制御できる。
【0070】
なお,特許請求の範囲のうち「ディーゼル機関とラジエータとの間を循環する冷却水の温度を上昇する状態に切換え作動する冷却水温切換手段」としては,前記した各実施の形態のように,ラジエータに対する送風ファン7の逆回転,回転停止又は減速回転に構成するか,或いは,前記冷却水循環経路中に設けた流量制御弁による循環水量の減少に構成することに限らず,これ以外の構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 ディーゼル機関
2 ラジエータ
3 冷却水ポンプ
4 冷却水戻り管路
5 冷却水供給管路
6 電動モータ
7 送風ファン
9 吸気マニホールド
11 排気マニホールド
12 排気管
13 パティキュレートフィルタ(フィルタ手段)
17 フィルタ本体
30 圧力センサ(詰まり検出手段)
31 コントローラ
32 排気ガス温度センサ
33 水温センサ
34 油温センサ
35 流量制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル機関には,当該ディーゼル機関と空冷式のラジエータとの間における冷却水循環経路を備えた冷却装置が設けられていることに加えて,当該ディーゼル機関からの排気ガス経路に配置された排気ガス浄化用のフィルタ手段が設けられており,前記冷却装置には,前記ディーゼル機関と前記ラジエータとの間を循環する冷却水の温度を上昇する状態に切換え作動するように構成した冷却水温切換手段が設けられ,この冷却水温切換手段は,前記フィルタ手段に詰まりが発生したとき,冷却水温の上昇に切換え作動する構成であることを特徴とするディーゼル機関における排気ガス浄化装置。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記冷却水温切換手段における冷却水温の上昇への切換え作動が,前記ラジエータに対する送風ファンの逆回転であるか,前記送風ファンの回転停止又は前記送風ファンの減速回転であるか,或いは,前記冷却水循環経路中に設けた流量制御弁による循環水量の減少であることを特徴とするディーゼル機関における排気ガス浄化装置。
【請求項3】
前記請求項1又は2の記載において,前記冷却水温切換手段は,前記フィルタ手段への排気ガスの温度が,前記フィルタ手段における上限温度以上になっているとき,冷却水温の上昇に切換え作動しないように構成されていることを特徴とするディーゼル機関における排気ガス浄化装置。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれかの記載において,前記冷却水温切換手段は,前記冷却水温が,当該冷却水における上限温度以上になっているとき,冷却水温の上昇に切換え作動しないように構成されていることを特徴とするディーゼル機関における排気ガス浄化装置。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれかの記載において,前記冷却水温切換手段は,前記ディーゼル機関における潤滑油の温度が,当該潤滑油における上限温度以上になっているとき,冷却水温の上昇に切換え作動しないように構成されていることを特徴とするディーゼル機関における排気ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−32921(P2011−32921A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179197(P2009−179197)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】