説明

デキストリンエステル化合物を含有する下層膜形成組成物

【課題】半導体装置製造のリソグラフィープロセスに使用されるリソグラフィー用下層膜形成組成物、及びフォトレジストに比べて大きなドライエッチング速度を有し、そして、フォトレジストとのインターミキシングを起こさないリソグラフィー用下層膜を提供すること。
【解決手段】ヒドロキシル基の少なくとも50%がエステル基となったデキストリンエステル化合物、架橋性化合物、及び有機溶剤を含むリソグラフィー用下層膜形成組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なリソグラフィー用下層膜形成組成物、該組成物より形成される下層膜、及び該下層膜を用いたフォトレジストパターンの形成方法に関する。また、本発明は、半導体装置製造のリソグラフィープロセスにおいて半導体基板上に塗布されたフォトレジスト層への露光照射光の基板からの反射を軽減させる下層反射防止膜、凹凸のある半導体基板を平坦化するための平坦化膜、加熱焼成時などに半導体基板から発生する物質によるフォトレジスト層の汚染を防止する膜等として使用できるリソグラフィー用下層膜、該下層膜を形成するための下層膜形成組成物及び該下層膜の形成方法に関するものである。また、本発明は、半導体基板に形成されたホールを埋め込むために使用されるリソグラフィー用下層膜形成組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体デバイスの製造において、フォトレジストを用いたリソグラフィーによる微細加工が行われている。前記微細加工はシリコンウエハー等の半導体基板上にフォトレジストの薄膜を形成し、その上に半導体デバイスのパターンが描かれたマスクパターンを介して紫外線などの活性光線を照射し、現像し、得られたフォトレジストパターンを保護膜として基板をエッチング処理することにより、基板表面に、前記パターンに対応する微細凹凸を形成する加工法である。ところが、近年、半導体デバイスの高集積度化が進み、使用される活性光線もKrFエキシマレーザー(248nm)からArFエキシマレーザー(193nm)へと短波長化される傾向にある。これに伴い活性光線の基板からの乱反射や定在波の影響が大きな問題となってきた。そこで、この問題を解決すべく、フォトレジストと基板の間に反射防止膜(bottom anti−reflective coating)を設ける方法が広く検討されている。かかる反射防止膜としては、その使用の容易さなどから、吸光性物質と高分子化合物等とからなる有機反射防止膜について数多くの検討が行われており、例えば、架橋反応基であるヒドロキシル基と吸光基を同一分子内に有するアクリル樹脂型反射防止膜や架橋反応基であるヒドロキシル基と吸光基を同一分子内に有するノボラック樹脂型反射防止膜等が挙げられる(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
有機反射防止膜に要求される特性としては、光や放射線に対して大きな吸光度を有すること、フォトレジスト層とのインターミキシングが起こらないこと(フォトレジスト溶剤に不溶であること)、加熱焼成時に反射防止膜から上層のフォトレジストへの低分子物質の拡散が生じないこと、フォトレジストに比べて大きなドライエッチング速度を有すること等がある。
また、近年、半導体装置のパターンルール微細化の進行に伴い明らかになってきた配線遅延の問題を解決するために、配線材料として銅を使用する検討が行われている。そして、それと共に半導体基板への配線形成方法としてデュアルダマシンプロセスの検討が行われている。そして、デュアルダマシンプロセスではビアホールが形成され、大きなアスペクト比を有する基板に対して反射防止膜が形成されることになる。そのため、このプロセスに使用される反射防止膜に対しては、ホールを隙間なく充填することができる埋め込み特性や、基板表面に平坦な膜が形成されるようになる平坦化特性などが要求されている。
しかし、有機系反射防止膜用材料を大きなアスペクト比を有する基板に適用することは難しく、近年、埋め込み特性や平坦化特性に重点をおいた材料が開発されるようになってきた(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照。)。
また、半導体などのデバイス製造において、誘電体層によるフォトレジスト層のポイズニング効果を減少させるために、架橋可能なポリマー等を含む組成物より形成されるバリア層を誘電体層とフォトレジスト層の間に設けるという方法が開示されている(例えば、特許文献7参照。)。
このように、近年の半導体装置の製造においては、反射防止効果を初め、さまざまな効果を達成するために、半導体基板とフォトレジスト層の間、すなわちフォトレジスト層の下層として、有機化合物を含む組成物から形成される有機系の下層膜が配置されるようになってきている。そして、多様性を増してきている下層膜への要求性能を満たすために、新しい下層膜の開発が常に求められている。
ところで、セルロース化合物を含む反射防止膜形成組成物が知られている(例えば、特許文献8、特許文献9参照。)。また、多糖類であるブルランを主成分とする水溶性反射防止用有機膜を用いたパターン形成方法が開示されている(例えば、特許文献10参照。)。また、シリル置換基を有する多糖類を含有する反射防止膜材料について記載されている(例えば、特許文献11参照。)。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5919599号明細書
【特許文献2】米国特許第5693691号明細書
【特許文献3】特開2000−294504号公報
【特許文献4】特開2002−47430号公報
【特許文献5】特開2002−190519号公報
【特許文献6】国際公開第02/05035号パンフレット
【特許文献7】特開2002−128847号公報
【特許文献8】国際公開第99/56178号パンフレット
【特許文献9】国際公開第02/071155号パンフレット
【特許文献10】特開昭60−223121号公報
【特許文献11】特開2002−107938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、半導体装置の製造に用いることのできる新規の下層膜形成組成物を提供することにある。そして、上層に塗布、形成されるフォトレジスト層とのインターミキシングを起こさず、フォトレジスト層に比較して大きなドライエッチング速度を有するリソグラフィー用下層膜及び該下層膜を形成するための下層膜形成組成物を提供することである。
さらに、本発明の目的は、半導体装置製造のリソグラフィープロセスにおいて、半導体基板上に形成されたフォトレジスト層への露光照射光の基板からの反射を軽減させる下層反射防止膜、凹凸のある半導体基板を平坦化するための平坦化膜、加熱焼成時などに半導体基板から発生する物質によるフォトレジスト層の汚染を防止する膜、等として使用できるリソグラフィー用下層膜及び下層膜を形成するための下層膜形成組成物を提供することである。そして、下層膜形成組成物を用いたリソグラフィー用下層膜の形成方法、及びフォトレジストパターンの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
こうした現状に鑑み本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、デキストリンエステル化合物を含有する下層膜形成組成物により優れた下層膜を形成できることを見出し、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、第1観点として、デキストリンのヒドロキシル基の少なくとも50%が式(1):
【化1】

(式中Rはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子または炭素原子数1〜6のアルコキシカルボニル基で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基、または、炭素原子数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子または炭素原子数1〜6のアルコキシカルボニル基で置換されていてもよいフェニル基、ナフチル基またはアントリル基を表す)で表されるエステル基となったデキストリンエステル化合物、架橋性化合物、及び有機溶剤を含む下層膜形成組成物、
第2観点として、デキストリンのヒドロキシル基の少なくとも50%が式(1)(式中、Rは第1観点で定義されたとおりの意味を表す。)で表されるエステル基となったものであり、重量平均分子量が4000〜20000であるデキストリンエステル化合物、架橋性化合物、及び有機溶剤を含む下層膜形成組成物、
第3観点として、さらに酸化合物又は酸発生剤を含む第1観点または第2観点に記載の下層膜形成組成物、
第4観点として、第1観点乃至第3観点のいずれか一つに記載の下層膜形成組成物を半導体基板上に塗布し、焼成して下層膜を形成する工程、その下層膜上にフォトレジスト層を形成する工程、下層膜とフォトレジスト層で被覆された半導体基板を露光する工程、前記露光後にフォトレジスト層を現像する工程、を含む半導体装置の製造に用いられるフォトレジストパターンの形成方法、
第5観点として、高さ/直径で示されるアスペクト比が1以上のホールを有する半導体基板に塗布し、焼成することによって下層膜を形成するために使用される、第1観点または第2観点に記載の下層膜形成組成物、である。
【発明の効果】
【0006】
本発明は半導体装置製造のリソグラフィープロセスにおいて使用される下層膜を形成するための下層膜形成組成物に関する。
本発明の下層膜形成組成物により、ボイド(隙間)を発生することなくホール内部の高い充填性を達成できる。また、ホールを有する基板の凹凸を埋めて平坦化することができるため、その上に塗布、形成されるフォトレジスト等の膜厚の均一性を上げることができる。そのため、ホールを有する基板を用いたプロセスにおいても、良好なフォトレジストのパターン形状を形成することができる。
本発明の下層膜形成組成物により、フォトレジストと比較して大きなドライエッチング速度を有し、フォトレジストとのインターミキシングを起こさない、優れた下層膜を形成することができる。
そして、本発明の下層膜は、反射防止膜、平坦化膜及びフォトレジスト層の汚染防止膜等として用いることができる。これにより、半導体装置製造のリソグラフィープロセスにおけるフォトレジストパターンの形成を、容易に、精度良く行なうことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1はホールを有する半導体基板に形成された下層膜の断面図であり、図中の符号aはホール中心での下層膜の凹み深さであり、bは使用した基板におけるホールの深さであり、cは下層膜であり、dは半導体基板である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、新規なリソグラフィー用下層膜形成組成物、該組成物より形成される下層膜及び該下層膜を用いたフォトレジストパターンの形成方法に関する。また、本発明は、半導体装置製造のリソグラフィープロセスにおいて半導体基板上に塗布されたフォトレジスト層への露光照射光の基板からの反射を軽減させる下層反射防止膜、凹凸のある半導体基板を平坦化するための平坦化膜、加熱焼成時などに半導体基板から発生する物質によるフォトレジスト層の汚染を防止する膜等として使用できるリソグラフィー用下層膜、該下層膜を形成するための下層膜形成組成物及び該下層膜の形成方法に関する。また、本発明は、半導体基板に形成されたホールを埋め込むために使用することができるリソグラフィー用下層膜形成組成物に関する。
【0009】
本発明の下層膜形成組成物はデキストリンエステル化合物、架橋性化合物及び有機溶剤を含む。そして、その他の成分として、酸化合物、酸発生剤及び界面活性剤等を含むことができる。本発明の下層膜形成組成物に占める固形分の割合としては、例えば0.1〜50質量%であり、例えば0.5〜30質量%であり、また、例えば5〜30質量%である。ここで固形分とは下層膜形成組成物の全成分から有機溶剤を除いたもののことである。
本発明の下層膜形成組成物の固形分において、デキストリンエステル化合物と架橋性化合物は必須の成分である。その配合割合としては、固形分中、デキストリンエステル化合物としては50〜99質量%であり、または55〜95質量%であり、または60〜90質量%である。架橋性化合物としては、固形分中、1〜50質量%、または5〜45質量%、または10〜40質量%である。
本発明の下層膜形成組成物に使用されるデキストリンエステル化合物の分子量は、重量平均分子量として、1000〜500000である。好ましくは、重量平均分子量として、例えば2000〜50000であり、例えば3000〜20000であり、または4000〜10000であり、または5000〜9000である。
【0010】
本発明の下層膜形成組成物より下層膜の層を形成するために焼成工程が行われる。組成物中に低分子量の成分が多く含まれていると、焼成工程時にそれら低分子量成分の昇華等により装置を汚染するという問題がある。そのため、本発明の下層膜形成組成物のデキストリンエステル化合物に含まれている低分子量の成分は少ないことが好ましい。本発明の下層膜形成組成物に使用されるデキストリンエステル化合物としては分子量3000以下の成分の割合が20%以下、又は10%以下であるデキストリンエステル化合物を使用することが好ましい。
また、デキストリンエステル化合物の重量平均分子量が前記の値より大きい場合には、有機溶剤に対する溶解性が下がり、かつ溶液の粘度が上昇するため、下層膜形成組成物のホール内部への充填性や基板の平坦化性を十分に得ることができなくなる。
【0011】
本発明の下層膜形成組成物に使用されるデキストリンエステル化合物は、デキストリンに含まれるヒドロキシル基の総数の少なくとも50%が式(1):
【化2】

で表されるエステル基となったデキストリンエステル化合物である。
デキストリンは多数のヒドロキシル基を有する高分子量の化合物であり有機溶剤に対する溶解性が低い。そのため、有機溶剤を用いた下層膜形成組成物に使用することは困難である。本発明の下層膜形成組成物に使用されるデキストリンエステル化合物は、デキストリンのヒドロキシル基をエステル化することによって有機溶剤に対する溶解性が向上されたものである。有機溶剤に対する十分な溶解性を有するという点から、本発明の下層膜形成組成物に使用されるデキストリンエステル化合物は、デキストリンに含まれるヒドロキシル基の総数の少なくとも50%が式(1)で表されるエステル基となったデキストリンエステル化合物である。または、本発明の下層膜形成組成物に使用されるデキストリンエステル化合物は、デキストリンに含まれるヒドロキシル基の総数の少なくとも60%が、または、少なくとも70%が式(1)で表されるエステル基となったデキストリンエステル化合物である。ヒドロキシル基の総数の50%〜90%、または60%〜90%、または70%〜80%が式(1)で表されるエステル基であり、他の10%〜50%、または10〜40%、または20%〜30%がヒドロキシル基であるデキストリンエステル化合物が使用できる。架橋性化合物との架橋可能性という点から、ヒドロキシル基を有するデキストリンエステル化合物が使用されることが好ましい。
式(1)中、Rはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子または炭素原子数1〜6のアルコキシカルボニル基で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基である。または、Rは、炭素原子数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子または炭素原子数1〜6のアルコキシカルボニル基で置換されていてもよいフェニル基、ナフチル基またはアントリル基を表す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルペンチル基、シクロヘキシル基及びノルマルオクチル基等である。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等である。アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基及びシクロヘキシルオキシカルボニル基等である。Rとしてはメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、フェニル基及びアントリル基等が好ましい。
【0012】
本発明の下層膜形成組成物に使用されるデキストリンエステル化合物は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、デンプンが、酸、アルカリ、酵素、加熱などの既存の方法によりデキストリンに加水分解される。デンプンの加水分解により、直鎖構造または分岐構造を有するデキストリンが得られる。例えば、特開昭48−67447号公報や特開昭61−205494号公報に記載の方法などが挙げられる。また、特開平10−215893号公報に記載の、アルカリ加水分解と酵素液化を経る方法などを挙げることができる。デキストリンの分子量は、反応温度、反応溶液のpH、及び酵素添加量等により調整できる。イオン交換樹脂による処理、分種カラム、再沈殿法などによる精製により、目的のデキストリンを得ることができる。
そして、デキストリンのデキストリンエステル化合物への変換は、デキストリンと酸クロリド、酸ブロミド、カルボニルイミダゾール化合物、カルボン酸活性エステル化合物及び酸無水物等の、カルボン酸化合物から誘導される化合物との反応によって、ヒドロキシル基をエステル基に変換することにより行なうことができる。例えば、デキストリンのヒドロキシル基のアセトキシ基への変換は、ピリジンなどの塩基を用いた条件下、デキストリンをアセチルクロリドや無水酢酸と反応させることによって行なうことができる。
ヒドロキシル基のエステル基への変換には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シクロヘキサンカルボン酸、クロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、シアノ酢酸、エトキシ酢酸、イソ酪酸、安息香酸、ブロモ安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、ヨード安息香酸、ニトロ安息香酸、メチル安息香酸、エトキシ安息香酸、tert−ブトキシ安息香酸、ナフタレンカルボン酸、クロロナフタレンカルボン酸、ヒドロキシナフタレンカルボン酸及びアントラセンカルボン酸などのカルボン酸化合物から誘導される酸クロリド、酸ブロミド、カルボニルイミダゾール化合物及びカルボン酸活性エステル化合物等を使用することができる。また、これらのカルボン酸化合物の無水物を用いることもできる。さらに、デキストリンのヒドロキシル基のエステル基への変換は、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの縮合剤存在下、デキストリンに前記のカルボン酸化合物を反応させることによっても行なうことができる。
ヒドロキシル基のエステル基への変換には、酸クロリド、酸ブロミド、カルボニルイミダゾール化合物、カルボン酸活性エステル化合物及び酸無水物等のカルボン酸誘導体の一種を用いることができ、また、二種以上を組み合わせて用いることができる。
デキストリンのヒドロキシル基のエステル基への変換の割合は、使用する酸クロリド、酸ブロミド、カルボニルイミダゾール化合物、カルボン酸活性エステル化合物及び酸無水物等のカルボン酸化合物から誘導される化合物の当量を変えることによって調整することができる。
デキストリンのヒドロキシル基残量の測定は、例えば、1規定水酸化ナトリウム水溶液を用い、pHメーターによりpH8〜11の変曲点で終点判断する滴定により行なうことができる。
本発明の下層膜形成組成物に使用されるデキストリンエステル化合物は、直鎖構造である場合と、分岐構造を有する場合とがあり、そのどちらであってもよい。分岐構造は、デンプンの枝分かれ構造(アミロペクチン)に由来する。
【0013】
本発明の下層膜形成組成物は架橋性化合物を含む。そのため、下層膜形成組成物が基板上に塗布された後の下層膜を形成するための焼成時に架橋反応が起こる。そして、この架橋反応のために、形成された下層膜は強固になり、フォトレジスト組成物または反射防止膜形成組成物に一般的に使用されている有機溶剤、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ピルビン酸メチル、乳酸エチル及び乳酸ブチル等に対する溶解性が低いものとなる。そのため、本発明の下層膜形成組成物より形成される下層膜は、その上層に塗布、形成されるフォトレジストまたは反射防止膜とインターミキシングを起こさないものとなる。
そのような架橋性化合物としては、特に制限はないが、少なくとも2個の架橋形成置換基を有する架橋性化合物が好ましく用いられる。イソシアネート基、エポキシ基、ヒドロキシメチルアミノ基、及びアルコキシメチルアミノ基等の架橋形成置換基を二つ以上、例えば二乃至六個、有する化合物が架橋性化合物として使用することができる
架橋性化合物としては、ヒドロキシメチル基またはアルコキシメチル基で置換された窒素原子を二つ以上、例えば二乃至六個、有する含窒素化合物が挙げられる。ヒドロキシメチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、ブトキシメチル基及びヘキシルオキシメチル基等の基で置換された窒素原子を有する含窒素化合物である。具体的には、ヘキサメトキシメチルメラミン、テトラメトキシメチルベンゾグアナミン、1,3,4,6−テトラキス(ブトキシメチル)グリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)グリコールウリル、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)尿素、1,1,3,3−テトラキス(ブトキシメチル)尿素、1,1,3,3−テトラキス(メトキシメチル)尿素、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリノン、及び1,3−ビス(メトキシメチル)−4,5−ジメトキシ−2−イミダゾリノン等の含窒素化合物が挙げられる。
架橋性化合物としては、また、三井サイテック(株)製メトキシメチルタイプメラミン化合物(商品名サイメル300、サイメル301、サイメル303、サイメル350)、ブトキシメチルタイプメラミン化合物(商品名マイコート506、マイコート508)、グリコールウリル化合物(商品名サイメル1170、パウダーリンク1174)、メチル化尿素樹脂(商品名UFR65)、ブチル化尿素樹脂(商品名UFR300、U−VAN10S60、U−VAN10R、U−VAN11HV)、大日本インキ化学工業(株)製尿素/ホルムアルデヒド系樹脂(商品名ベッカミンJ−300S、ベッカミンP−955、ベッカミンN)等の市販されている化合物を使用することができる。また、架橋性化合物としては、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、及びN−ブトキシメチルメタクリルアミド等のヒドロキシメチル基またはアルコキシメチル基で置換されたアクリルアミド化合物またはメタクリルアミド化合物を使用して製造されるポリマーを用いることができる。
架橋性化合物は、一種の化合物のみを使用することができ、また、二種以上の化合物を組み合わせて用いることもできる。
これら架橋性化合物は自己縮合による架橋反応を起こすことができる。また、デキストリンエステル化合物に含まれるヒドロキシル基と架橋反応を起こすこともできる。
【0014】
本発明の下層膜形成組成物には前記架橋反応を促進するための触媒として、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸、サリチル酸、スルホサリチル酸、クエン酸、安息香酸、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、及びヒドロキシ安息香酸等の酸化合物を添加することができる。酸化合物としては、また、p−トルエンスルホン酸、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸、及びピリジニウム−1−ナフタレンスルホン酸等の芳香族スルホン酸化合物を挙げることができる。また、2,4,4,6−テトラブロモシクロヘキサジエノン、ベンゾイントシラート、2−ニトロベンジルトシラート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、フェニル−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、ベンゾイントシレート、及びN−ヒドロキシスクシンイミドトリフルオロメタンスルホネート等の酸発生剤を添加することができる。
これら酸化合物または酸発生剤化合物の添加量は、デキストリンエステル化合物及び架橋性化合物の種類やその量等により変動するが、固形分中で10質量%以下であり、例えば0.02〜10質量%であり、または0.04〜8質量%、または0.1〜5質量%、または0.5〜3質量%である。
【0015】
本発明の下層膜形成組成物には、上記以外に必要に応じて、吸光性化合物、界面活性剤、レオロジー調整剤及び接着補助剤などを添加することができる。
吸光性化合物としては、下層膜の上に設けられるフォトレジスト層中の感光成分の感光特性波長領域における光に対して高い吸収能を有するものであれば特に制限なく使用することができる。
波長248nmの光に対して大きな吸収をもつ吸光性化合物としては、例えば、1−ナフタレンカルボン酸、2−ナフトール、3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、6−ブロモ−2−ヒドロキシナフタレン、1,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1−ブロモ−2−ヒドロキシ−3−ナフタレンカルボン酸、1,6−ジブロモ−2−ヒドロキシ−3−ナフタレンカルボン酸、3−ヒドロキシ−7−メトキシ−2−ナフタレンカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、2−エトキシ−1−ナフタレンカルボン酸、2,6−ジクロロ−1−ナフトール、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸メチルエステル、3−ヒドロキシ−7−メトキシ−2−ナフタレンカルボン酸メチルエステル、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸メチルエステル、2,4−ジブロモ−1−ナフトール、2−ナフタレンチオール、4−メトキシ−1−ナフトール、6−アセトキシ−2−ナフタレンカルボン酸、1,6−ジブロモ−1−ナフトール、2,6−ジブロモ−1,5−ジヒドロキシナフタレン、1−アセチル−2−ナフトール、9−アントラセンカルボン酸、1,4,9,10−テトラヒドロキシアントラセン、1,8,9−トリヒドロキシアントラセン等を挙げることができる。
また、波長193nmの光に対して大きな吸収をもつ吸光性化合物としては、例えば、安息香酸、o−フタル酸、2−メトキシ安息香酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2−ヒドロキシ安息香酸、2−アセトキシ安息香酸、3−アミノ安息香酸、4−アミノ安息香酸、トリメシン酸、1,4−ベンゼンジカルボン酸、2,3−ジメトキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、4−アセチル安息香酸、ピロメリット酸、トリメシン酸無水物、2−[ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メチル]安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、2−ベンゾフェノンカルボン酸、m−フェニル安息香酸、3−(4’−ヒドロキシフェノキシ)安息香酸、3−フェノキシ安息香酸、4−メチフェノール、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、2,2−ビス−4−ヒドロキシフェニルプロパン、2−ヒドロキシビフェニル、2−アミノフェノール、及び4−ベンジルオキシフェノール等が挙げられる。
これらの吸光性化合物は下層膜形成のための焼成時の昇華を抑えるために、ポリマーや1つ以上の反応性基をもつ化合物と反応させて用いることができる。例えば、カルボキシル基やフェノール性ヒドロキシル基を有する吸光性化合物の場合、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、2,6−ジグリシジルフェニルグリシジルエーテル、1,1,3−トリス(p−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、ビスフェノール−A−ジグリシジルエーテル、及びペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等のエポキシ化合物や、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基を有する構造を含むポリマーと反応させて得た化合物を使用することができる。例えば、下記(2)、(3)及び(4)で表される単位構造を有するポリマーや、(5)で表される化合物などが挙げられる。式(5)中、Arは、炭素原子数1〜5のアルキル基、炭素原子数1〜5のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、チオール基、炭素原子数1〜5のチオアルキル基、カルボキシル基、フェノキシ基、アセチル基、炭素原子数1〜5のアルコキシカルボニル基またはビニル基で置換されていてもよいベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環を表す。
【化3】

上記の吸光性化合物は単独または2種以上の組合せで使用することができる。吸光性化合物が使用される場合、その含有量としては、デキストリンエステル化合物100質量部に対して、例えば1〜300質量部であり、または2〜200質量部であり、また、例えば5〜100質量部であり、または、5〜50質量部である。吸光性化合物を使用する場合、その種類や含有量を変えることによって、下層膜の減衰係数(k値)を調整することができる。
【0016】
本発明の下層膜形成組成物は界面活性剤を含むことができる。界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤、エフトツプEF301、EF303、EF352((株)トーケムプロダクツ製)、メガファックF171、F173(大日本インキ化学工業(株)製)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム(株)製)、アサヒガードAG710、サーフロンS−382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(旭硝子(株)製)等のフッ素系界面活性剤、オルガノシロキサンポリマーKP341(信越化学工業(株)製)等を挙げることができる。これらの界面活性剤の配合量は、本発明の下層膜膜形成組成物の全成分中、通常0.2質量%以下、好ましくは0.1質量%以下である。これらの界面活性剤は単独で添加してもよいし、また2種以上の組合せで添加することもできる。
【0017】
本発明の反射防止膜形成組成物は、その他必要に応じてレオロジー調整剤、接着補助剤等を含んでいてもよい。
レオロジー調整剤としては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ブチルイソデシルフタレート、ジノルマルブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジイソオクチルアジペート、オクチルデシルアジペート、ジノルマルブチルマレート、ジエチルマレート、ジノニルマレート、メチルオレート、ブチルオレート、テトラヒドロフルフリルオレート、及びノルマルブチルステアレート、及びグリセリルステアレート等を挙げることができる。
接着補助剤としては、例えば、トリメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ジフエニルジメトキシシラン、フエニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ウレア、ジメチルトリメチルシリルアミン、トリメチルシリルイミダゾール、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、インダゾール、イミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、ウラゾール、チオウラシル、メルカプトイミダゾール、メルカプトピリミジン、1,1−ジメチルウレア、1,3−ジメチルウレア、及びチオ尿素化合物等を挙げることができる。
【0018】
本発明の下層膜形成組成物の有機溶剤としては、前記のデキストリンエステル化合物等の固形分を溶解し、均一溶液とできるものであれば、使用することができる。そのような有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、及び乳酸ブチル等を用いることができる。これらの有機溶剤は単独または二種以上の組合せで使用することができる。さらに、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等の高沸点溶剤を混合して使用することができる。
【0019】
また、基板に本発明の下層膜形成組成物を塗布、焼成を行なう上で、焼成温度を考えてこれら有機溶剤の沸点は145〜220℃の範囲にあることが好ましい。このような、比較的高い沸点の溶剤を使用することにより、焼成時における下層膜形成組成物の流動性を、一定時間、保つことができ、そのため、ホール内部充填性や平坦化性を向上させることができる。前記有機溶剤の中で乳酸ブチル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはこれらの混合物が好ましい。
【0020】
以下、本発明の下層膜形成組成物の使用について説明する。
本発明の下層膜形成組成物を適用する半導体基板としては、主に、図1に示すような高さ/直径で示されるアスペクト比が1以上のホールを有する半導体装置製造に慣用されている基板(例えば、シリコンウエハー基板、シリコン/二酸化シリコン被覆基板、シリコンナイトライド基板、ガラス基板及びITO基板等)である。このようなホールを有する半導体基板は、特にデュアルダマシンプロセスにおいて使用されるものである。また、1より小さいアスペクト比のホールを有する半導体基板や、段差を有する半導体基板に対しても使用することができる。また、段差などを有さない半導体基板に対しても使用することができる。
半導体基板の上に、スピナー、コーター等の適当な塗布方法により本発明の下層膜形成組成物が塗布され、その後、焼成することにより下層膜が形成される。焼成する条件としては、焼成温度60℃〜220℃、焼成時間0.3〜60分間の中から適宜、選択される。好ましくは、焼成温度130℃〜250℃、焼成時間0.5〜5分間である。ここで、下層膜の膜厚としては、例えば0.01〜3.0μmであり、また、例えば0.03〜1.0μmである。
次いで、下層膜の上に、フォトレジストの層が形成される。フォトレジストの層の形成は、周知の方法、すなわち、フォトレジスト組成物溶液の下層膜上への塗布及び焼成によって行なうことができる。
本発明の下層膜の上に塗布、形成されるフォトレジストとしては露光に使用される光に感光するものであれば特に限定はない。また、ネガ型フォトレジスト及びポジ型フォトレジストのいずれも使用できる。ノボラック樹脂と1,2−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステルとからなるポジ型フォトレジスト、酸により分解してアルカリ溶解速度を上昇させる基を有するバインダーと光酸発生剤からなる化学増幅型フォトレジスト、酸により分解してフォトレジストのアルカリ溶解速度を上昇させる低分子化合物とアルカリ可溶性バインダーと光酸発生剤とからなる化学増幅型フォトレジスト、酸により分解してアルカリ溶解速度を上昇させる基を有するバインダーと酸により分解してフォトレジストのアルカリ溶解速度を上昇させる低分子化合物と光酸発生剤からなる化学増幅型フォトレジストなどがある。例えば、シプレー社製、商品名APEX−E、住友化学工業(株)製、商品名PAR710、及び信越化学工業(株)製、商品名SEPR430等が挙げられる。
次に、所定のマスクを通して露光が行なわれる。露光には、KrFエキシマレーザー(波長248nm)、ArFエキシマレーザー(波長193nm)及びF2エキシマレーザー(波長157nm)等を使用することができる。露光後、必要に応じて露光後加熱(post exposure bake)を行なうこともできる。露光後加熱は、加熱温度70℃〜150℃、加熱時間0.3〜10分間から適宜、選択される。
次いで、現像液によって現像が行なわれる。これにより、例えばポジ型フォトレジストが使用された場合は、露光された部分のフォトレジストが除去され、フォトレジストのパターンが形成される。
現像液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、コリンなどの水酸化四級アンモニウムの水溶液、エタノールアミン、プロピルアミン、エチレンジアミンなどのアミン水溶液等のアルカリ性水溶液を例として挙げることができる。さらに、これらの現像液に界面活性剤などを加えることもできる。現像の条件としては、温度5〜50℃、時間10〜300秒から適宜選択される。
そして、このようにして形成されたフォトレジストのパターンを保護膜として、下層膜の除去及び半導体基板の加工が行なわれる。下層膜の除去は、テトラフルオロメタン、パーフルオロシクロブタン(C)、パーフルオロプロパン(C)、トリフルオロメタン、一酸化炭素、アルゴン、酸素、窒素、六フッ化硫黄、ジフルオロメタン、三フッ化窒素及び三フッ化塩素等のガスを用いたドライエッチングによって行われる。
【0021】
半導体基板上に本発明の下層膜が形成される前又は後に有機系反射防止膜層が形成されることもできる。そこで使用される反射防止膜組成物としては特に制限はなく、これまでリソグラフィープロセスにおいて慣用されているものの中から任意に選択して使用することができ、また、慣用されている方法、例えば、スピナー、コーターによる塗布及び焼成によって反射防止膜を形成することができる。反射防止膜組成物としては、例えば、吸光性化合物、ポリマー及び溶剤を主成分とするもの、化学結合により連結した吸光性基を有するポリマー、架橋剤及び溶剤を主成分とするもの、吸光性化合物、架橋剤及び溶剤を主成分とするもの、及び吸光性を有する高分子架橋剤及び溶剤を主成分とするもの等が挙げられる。これらの反射防止膜組成物はまた、必要に応じて、酸成分、酸発生剤成分、レオロジー調整剤等を含むことができる。吸光性化合物としては、反射防止膜の上に設けられるフォトレジスト中の感光成分の感光特性波長領域における光に対して高い吸収能を有するものであれば用いることができ、例えば、ベンゾフェノン化合物、ベンゾトリアゾール化合物、アゾ化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、アントラキノン化合物、トリアジン化合物等が挙げられる。ポリマーとしては、ポリエステル、ポリイミド、ポリスチレン、ノボラック樹脂、ポリアセタール、アクリルポリマー等を挙げることができる。化学結合により連結した吸光性基を有するポリマーとしては、アントラセン環、ナフタレン環、ベンゼン環、キノリン環、キノキサリン環、チアゾール環といった吸光性芳香環構造を有するポリマーを挙げることができる。
また、本発明の下層膜形成組成物が塗布される半導体基板は、その表面にCVD法などで形成された無機系の反射防止膜を有するものであってもよく、その上に本発明の下層膜を形成することもできる。
【0022】
本発明の下層膜形成組成物より形成される下層膜は、リソグラフィープロセスにおいて使用される光の波長によっては、その光に対する吸収を有することがあり、そのような場合には、基板からの反射光を防止する効果を有する層、すなわち、反射防止膜として使用することができる。
下層膜をKrFエキシマレーザー(波長248nm)を使用したリソグラフィープロセスで反射防止膜として使用する場合、下層膜形成組成物固形分中には、アントラセン環又はナフタレン環を有する成分が含まれていることが好ましい。そして、下層膜をArFエキシマレーザー(波長193nm)を使用したリソグラフィープロセスで反射防止膜として使用する場合、下層膜形成組成物固形分中には、ベンゼン環を有する化合物が含まれていることが好ましい。また、下層膜をF2エキシマレーザー(波長157nm)を使用したリソグラフィープロセスで反射防止膜として使用する場合、下層膜形成組成物固形分中には、臭素原子又はヨウ素原子を有する化合物が含まれていることが好ましい。
さらに、本発明の下層膜は、基板とフォトレジストとの相互作用を防止するための層、フォトレジストに用いられる材料又はフォトレジストへの露光時に生成する物質の基板への悪作用を防ぐ機能を有する層、加熱焼成時に基板から生成する物質の上層フォトレジストへの拡散を防ぐ機能を有する層、及び半導体基板誘電体層によるフォトレジスト層のポイズニング効果を減少させるためのバリア層等として使用することもできる。
また、下層膜形成組成物より形成される下層膜は、デュアルダマシンプロセスで用いられるビアホールが形成された基板に適用され、ホールを隙間なく充填することができる埋め込み材として使用でき、また、基板表面を平坦化するための平坦化材として使用することもできる。
【0023】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
実施例1
デキストリンエステル化合物AC−3(デキストリンの末端基割合:ヒドロキシル基24%、アセトキシ基76%、重量平均分子量8100、群栄化学工業(株)製)を濃度30質量%で溶解させた乳酸エチルの溶液85.0gに、テトラメトキシメチルグリコールウリル9.23g、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸0.01g、界面活性剤R−30(大日本インキ化学(株)製)0.129g、プロピレングリコールモノメチルエーテル14.79g、及び乳酸エチル73.91gを加え18.0質量%溶液とした。その後、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過し、下層膜形成組成物の溶液を調製した。
なお、デキストリンの末端基割合:ヒドロキシル基24%、アセトキシ基76%、とは、デキストリンに含まれるヒドロキシル基の総数の76%がアセトキシ基となっており、残りの24%がヒドロキシル基であることを意味する。
なお、デキストリンエステル化合物の重量平均分子量は、東ソー(株)製GPC(RI8020,SD8022,CO8020,AS8020,DP8020)装置により、標準ポリスチレン換算によるGPC分析により測定を行った。
測定は、デキストリンエステル化合物の0.05質量%DMF溶液10μlを上記装置に、流量0.6ml/minで30分流した後、IRで検出される試料の溶出時間を測定することにより行なった。使用したカラムとしては、ガードカラムとして、Shodex Asahipak GF1G7Bを使用し、カラムとしてはShodex Asahipak GF710HQ、GF510HQ及びGF310HQを用いた。また、カラム温度は40℃に設定した。
【0025】
実施例2
デキストリンエステル化合物AC−4(デキストリンの末端基割合:ヒドロキシル基32%、アセトキシ基68%、重量平均分子量8900、群栄化学工業(株)製)を濃度30質量%で溶解させた乳酸エチルの溶液85.0gにテトラメトキシメチルグリコールウリル9.23g、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸0.01g、界面活性剤R−30(大日本インキ化学(株)製)0.129g、プロピレングリコールモノメチルエーテル14.79g、及び乳酸エチル73.91gを加え18.0質量%溶液とした。その後、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過し、下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0026】
実施例3
デキストリンエステル化合物AC−3(デキストリンの末端基割合:ヒドロキシル基24%、アセトキシ基76%、重量平均分子量8100、群栄化学工業(株)製)を濃度30質量%で溶解させた乳酸エチルの溶液85.0gに、テトラメトキシメチルグリコールウリル9.23g、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム0.0271g、界面活性剤R−30(大日本インキ化学(株)製)0.129g、プロピレングリコールモノメチルエーテル14.79g、及び乳酸エチル73.91gを加え18.0質量%溶液とした。その後、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過し、下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0027】
実施例4
デキストリンエステル化合物BZ−1(デキストリンの末端基割合:ヒドロキシル基13%、ベンゾエート基87%、重量平均分子量7300、群栄化学工業(株)製)を濃度31質量%で溶解させた乳酸エチルの溶液10.0gに、テトラメトキシメチルグリコールウリル1.09g、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸0.00546g、界面活性剤R−30(大日本インキ化学(株)製)0.0153g、プロピレングリコールモノメチルエーテル5.26g、及び乳酸エチル5.32gを加え18.0質量%溶液とした。その後、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過し、下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0028】
実施例5
デキストリンエステル化合物BZ−4(デキストリンの末端基割合:ヒドロキシル基27%、ベンゾエート基63%、重量平均分子量6000、群栄化学工業(株)製)を濃度31質量%で溶解させた乳酸エチルの溶液10.0gに、テトラメトキシメチルグリコールウリル1.11g、ピリジニウム−p−トルエンスルホン酸0.0055g、界面活性剤R−30(大日本インキ化学(株)製)0.0155g、プロピレングリコールモノメチルエーテル5.32g、及び乳酸エチル5.52gを加え2.0質量%溶液とした。その後、孔径0.05μmのポリエチレン製ミクロフィルターを用いて濾過し、下層膜形成組成物の溶液を調製した。
【0029】
フォトレジスト溶剤への溶出試験
実施例1〜5で得た下層膜形成組成物の溶液をスピナーにより、それぞれ、シリコンウエハー基板上に塗布した。ホットプレート上で205℃1分間焼成し、下層膜(膜厚0.50μm)を形成した。これらの下層膜をフォトレジストに使用する溶剤である乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルに浸漬し、その溶剤に不溶であることを確認した。
【0030】
フォトレジストとのインターミキシングの試験
実施例1〜5で得た下層膜形成組成物の溶液をスピナーにより、それぞれ、シリコンウエハー基板上に塗布した。ホットプレート上で205℃1分間焼成し、下層膜を形成した(膜厚0.50μm)。これらの下層膜の上層に、市販のフォトレジスト溶液(富士写真フィルム(株)製、商品名GARS8105G1及び信越化学工業(株)製、商品名SEPR430を使用)をスピナーにより塗布した。ホットプレート上で90℃又は110℃で1.5分間加熱した。フォトレジストを露光後、露光後加熱を90℃で1.5分間行なった。フォトレジストを現像後、下層膜の膜厚を測定し、下層膜とフォトレジスト層とのインターミキシングが起こっていないことを確認した。
【0031】
平坦化率、充填性の試験
実施例1〜5で得た下層膜形成組成物の溶液をスピナーにより、それぞれ、ホール(直径0.18μm、深さ1.0μm)を有する二酸化シリコン(SiO)ウエハー基板上に塗布した。使用した基板は図1に示すようなホールのIso(粗)とDense(密)パターンを有するSiOウエハー基板である。Isoパターンは、ホール中心から隣のホール中心までの間隔が、当該ホールの直径の5倍であるパターンである。また、Denseパターンは、ホール中心から隣のホール中心までの間隔が、当該ホールの直径の1倍であるパターンである。ホールの深さは1.0μmであり、ホールの直径は0.18μmである。
塗布後、ホットプレート上で205℃1分間焼成し、下層膜を形成した。膜厚は、ホールパターンが近傍に無いオープンエリアで0.50μmであった。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、実施例1〜5で得た下層膜形成組成物を塗布したホールを有するSiOウエハー基板の断面形状を観察することにより、下層膜による平坦化率を評価した。平坦化率は、下式に従い求めた。結果を表1に示す。基板上のホールを、完全に平坦化できたときの平坦化率は100%である。
平坦化率={1−(ホール中心部での下層膜の凹み深さa)/(ホールの深さb)}×100
また、ホール内部にボイド(隙間)の発生は観察されず、ホール内部が下層膜で充填されていることが観察された。
【表1】

実施例1〜5の下層膜のIso(粗)とDense(密)パターン上の膜厚差(Bias)は小さい。実施例1〜5の下層膜は、特に膜厚一定が困難である微細Denseホールパターン上での流動性に優れる。これは、ホール基板上の単位面積当たりのホール数(ホール密度)が、Iso部に比べ大きいDense部においても、それら多数の下層膜形成組成物の溶液がスムーズに流れ込み、一定の膜厚が得られるためであり、その結果、Iso部とDense部の膜厚差が小さく、かつ平坦化率が大きくなったものと考えられる。また、実施例1〜5の下層膜は、Iso部とDense部に関わらず、平坦化できる。
【0032】
光学パラメータの測定
実施例4で調製した下層膜形成組成物溶液をスピナーにより、シリコンウエハー基板上に塗布した。ホットプレート上で205℃1分間焼成し、下層膜(膜厚0.20μm)を形成した。そして、この下層膜を分光エリプソメーターにより、波長193nmでの屈折率(n値)及び減衰係数(k値)を測定したところ、屈折率は1.57であり、減衰係数は0.68であった。
実施例5で調製した下層膜形成組成物溶液をスピナーにより、シリコンウエハー基板上に塗布した。ホットプレート上で205℃1分間焼成し、下層膜(膜厚0.20μm)を形成した。そして、この下層膜を分光エリプソメーターにより、波長193nmでの屈折率(n値)及び減衰係数(k値)を測定したところ、屈折率は1.60であり、減衰係数は0.58であった。
【0033】
ドライエッチング速度の試験
実施例1〜5で得た下層膜形成組成物の溶液をスピナーにより、それぞれ、シリコンウエハー基板上に塗布した。ホットプレート上で205℃1分間焼成し、下層膜(膜厚0.22μm)を形成した。そしてこれらを、日本サイエンティフィック製RIEシステムES401を用い、ドライエッチングガスとしてCFを使用した条件下でドライエッチング速度を測定した。
結果を表2に示す。ドライエッチング選択性は、ArFエキシマレーザーリソグラフィー用のフォトレジスト(富士写真フィルム(株)製、商品名GARS8105G1)の前記と同条件下でのドライエッチング速度を1.00とした時の、下層膜のドライエッチング速度を示したものである。
【表2】

実施例1〜5の下層膜形成組成物から得られた下層膜のエッチング速度は、フォトレジストに比較して大きいことが確認された。下層膜のドライエッチング速度がフォトレジストのドライエッチング速度よりも高いことの必要性は、下層膜上に形成されたフォトレジストを現像し、その後でドライエッチングにより基板の下地を露出させる工程で、下層膜のドライエッチング速度の方がフォトレジストのドライエッチング速度よりも高くなる事により、フォトレジストが削り取られる前に下層膜が除去されるので、現像されたフォトレジストのパターンを正確に基板に転写する事ができるためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デキストリンのヒドロキシル基の少なくとも50%が式(1):
【化1】

(式中Rはヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子または炭素原子数1〜6のアルコキシカルボニル基で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基、または、炭素原子数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子または炭素原子数1〜6のアルコキシカルボニル基で置換されていてもよいフェニル基、ナフチル基またはアントリル基を表す)で表されるエステル基となったデキストリンエステル化合物、架橋性化合物、及び有機溶剤を含む下層膜形成組成物。
【請求項2】
デキストリンのヒドロキシル基の少なくとも50%が式(1)(式中、Rは請求項1で定義されたとおりの意味を表す。)で表されるエステル基となったものであり、重量平均分子量が4000〜20000であるデキストリンエステル化合物、架橋性化合物、及び有機溶剤を含む下層膜形成組成物。
【請求項3】
さらに酸化合物又は酸発生剤を含む請求項1または請求項2に記載の下層膜形成組成物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の下層膜形成組成物を半導体基板上に塗布し、焼成して下層膜を形成する工程、前記下層膜上にフォトレジスト層を形成する工程、前記下層膜とフォトレジスト層で被覆された半導体基板を露光する工程、前記露光後にフォトレジスト層を現像する工程、を含む半導体装置の製造に用いられるフォトレジストパターンの形成方法。
【請求項5】
高さ/直径で示されるアスペクト比が1以上のホールを有する半導体基板に塗布し、焼成することによって下層膜を形成するために使用される、請求項1または請求項2に記載の下層膜形成組成物。

【図1】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/043248
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515179(P2005−515179)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016129
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】