説明

デジタルクロックリカバリ回路及び半導体チップ

【課題】小型で、省電力で、かつパルスベースの超高速シリアル転送にも用いることのできるデジタルクロックリカバリ回路(CDR)を実現することを目的とする。
【解決手段】デジタルロックループ(DLL)、エッジ検出器、デジタルコンパレータ等を用いて、データ信号にDLLクロック信号をロックさせ、全ての回路要素をデジタル回路で構成し、クロックデータリカバリ(CDR)を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロック信号が重畳されたデジタルデータ受信信号から、クロックを復元する、クロックリカバリ回路及び半導体チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ボード内、チップ内等における大容量・高速データ伝送の要求を満たすため、高速シリアル転送を行うインターフェースが採用されている。シリアル信号には、同期を行うためのクロックが、重畳されている。受信側では、データ信号のエッジ(信号遷移)を検出し、内部のDLLクロック信号の位相を調整することで、クロック(タイミング情報)を復元する。
【0003】
このクロックの復元処理を行う回路をクロックデータリカバリ(CDR:Clock Data Recovery)回路と呼ぶ(以下「CDR」と言う)。従来のCDR回路では、PLL(Phase Locked Loop)回路が一般に用いられている。PLLに含まれるVCO(Voltage Controlled Oscillator)を用いて、受信した信号のクロック信号の位相に同期するよう、VCOの発信クロックが制御され、受信信号の再生用のクロックとして用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】N. Miura, K. Kasuga, M. Saito, and T. Kuroda, "An 8Tb/s 1pJ/b 0.8mm2/Tb/s QDR Inductive-Coupling Interface Between 65nm CMOS GPU and 0.1 um DRAM, "ISSCC Dig. of Tech. Papers, pp.436-437, Feb. 2010
【非特許文献2】M. Loh, et al., "All-Digital CDR for High-Density, High-Speed I/O," VLSI Circuits, 2010 Symposium on, pp. 147-148, Jun. 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、インダクティブ・カップリング・インターフェース(非特許文献1参照)を用いた三次元チップ内でのシリアル転送や、狭域通信のニーズが高まっている。インダクティブ・カップリングとは,二つの回路が相互誘導によって互いに結合していること(電磁結合)を指す。このような用途では、インターフェースのスピードは数Gb/s程度となり、また、通信範囲は数センチ程度以下となる場合がある。専用のクロックチャネルを省略し、インターフェースの占める領域を減少させるために、データにクロックを重畳させ、シリアル転送を行い、受信側でクロックを復元することが必要となる。上述したように、従来の有線による高速シリアル転送用として、種々のクロック復元回路が提案されている。しかしながら、これらは、信号対雑音比(SNR)が高い環境を前提としている。また、ノンリターントゥゼロ(Non−Return−to−Zero)信号(1と0が高または低電圧の相互に逆の電圧によって表され、符号化されたビット間はゼロ(基準)電圧に戻ることのない2進符号化方式)に利用することを前提として開発されているものがほとんどである。これに対して、例えばインダクティブ・カップリング・リンクによるシリアル転送の場合には、パルスベースの信号が採用され、簡略化したトランシーバが使用される。この場合、パルス幅は、1UI(UI:Unit Intervalとはクロック周波数の逆数である)よりも非常に短くなるため、従来用いられているCDRを使用することが困難な場合がある。
【0006】
このため、近年、受信信号をオーバーサンプリングしてクロック信号を復元する、新たなCDRを開発する動き(非特許文献2参照)が見られる。しかしながら、提案されている技術は、正確にキャリブレーションされた遅延素子を必要とし、回路構成も大きくなり、大きな電力を消費するものである。
【0007】
しかも、インダクティブ・カップリング・リンクによるパルスベースのシリアル転送では、伝送路が数mmを超えると、受信信号の電圧は数十mV以下となり、SNRは急激に悪化する。加えてパルスベースの信号は、超広帯域となり、バンドパスフィルタを用いることは困難である。
【0008】
したがって、ノイズ除去の能力を有する、パルスベースの信号用のCDRを提供することが望まれている。特に、インダクティブ・カップリング・リンクに用いるトランシーバは、非常に小さく、低電力で動作しなければならない。また、大きなオーバヘッドを防止することも重要である。このため、インダクティブ・カップリング・リンク等の用途にも適合しうる小型で省電力のCDRを実現することが要求される。
【0009】
本発明は、上述の課題を解決することを目的としている。すなわち、小型で、省電力で、かつパルスベースの超高速シリアル転送にも用いることのできるCDRを実現することを目的とする。なお、本発明は、インダクティブ・カップリング・リンクの信号伝送の用途に限られるものではなく、当然に他の用途にも用いることができるものである。また、本発明の目的は、上述の目的に限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、入力されるデータ信号に含まれるクロック信号を、復元クロック信号として復元する、クロックデータリカバリ回路であって、
基準信号を遅延させ前記復元クロック信号を出力する、遅延回路と、
前記データ信号を予め定められた第1の時間間隔でサンプリングし、前記データ信号の予め定められた電圧方向への変化エッジ位置情報を含むデータサンプリング列を生成する、第1の変換器と、
前記復元クロック信号を前記第1の時間間隔でサンプリングし、前記予め定められた電圧方向への変化エッジ位置情報を含む復元クロックサンプリング列を生成する、第2の変換器と、
前記データサンプリング列と、前記復元クロックサンプリング列とを、それぞれ予め定められたビット数毎に、複数の比較を行い、比較結果として出力する、比較器と、
前記比較結果に基づき、遅延量を変化させるか、固定させるかを前記遅延回路に指示する、遅延制御部と、
を有する、クロックデータリカバリ回路を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、高速のパルスベースの信号にも適用できる、小型で省電力のCDRを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るCDRを有するインダクティブ・カップリングを用いた信号伝達を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るCDRの実施例を示すブロック図である。
【図3】本発明に用いられるTDCの実施例を示すブロック図である。
【図4】本発明に用いられるエッジ検出器のブロック図である。
【図5】エッジ検出器のエッジ検出処理の具体例を示す図である。
【図6】ラッチ回路の一例を示すブロック図である。
【図7】デジタルコンパレータの一例を示すブロック図である。
【図8】ロック有効判定回路のブロック図とロック有効判定ロジックの真理値表を示す図である。
【図9】ロック有効判定ロジックの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、本発明に係るCDR150を有するインダクティブ・カップリング120を用いた信号伝達回路100を示す。信号伝達回路100は、例えばチップ上に実装され、前段の回路(図示せず)からの入力データ101を受信し、後段の回路(図示せず)にデータ出力171として供給する機能を有する。
【0014】
図1において、入力データ101は、送信器Tx(110)に入力され、インダクティブ・カップリング120に駆動電力が供給される。インダクティブ・カップリング120を介して、信号は更にRx1(130)に伝達され増幅される。増幅された信号131の波形が図1に示されている。信号131には、実線で示した伝送すべきデータと、破線で示したノイズが重畳されている。受信器Rx1(130)からの信号131及び132は、更に受信器Rx2(140)に入力され、波形整形され、パルス列となったデータ信号141となる。図1には、データ信号141の信号波形が示されている。データ信号141には、実線で示されたデータのパルスに、破線で示されたノイズによるパルスが重畳されている。
【0015】
データ信号141と、受信側の内部で生成された基準信号142とが、CDR150に入力される。CDR150において、データのパルス列を基に、基準信号142の遅延量が調整され、DLLクロック信号151が出力される。
【0016】
さらに、信号131及び信号132は、非同期ヒステリシスコンパレータ160を経由して、波形整形され、信号161となる。更に、信号161は、ラッチ回路170に入力され、DLLクロック信号151のタイミングで、その値がラッチされ、データ出力171として、データが取り出されることになる。
【実施例】
【0017】
図2に、本発明に係るCDR150の実施例を示す。Rx2(140)からのデータ信号141が時間デジタル変換器TDC1(210)(TDC:Time to Digital Converter)によって、サンプリング間隔δでオーバーサンプリングされる。TDC1(210)からは、サンプリングされた32個のデータが、エッジ検出器1(220)に伝達される。エッジ検出器1(220)は、ノイズをフィルタリングし、オーバーサンプリングされた32個のサンプリングデータからエッジタイミングを抽出する。なお、このオーバーサンプリングの数は32個に限られない。したがって、本実施例は、本発明を限定することを意図するものではない。
【0018】
さらに、基準信号142は、遅延素子を直列に接続したデジタルロックループDLL(250)に入力される。DLL(250)は、遅延制御部240からの信号に基づいて、遅延量を変化させる機能を有する。このDLL(250)によって遅延されたDLLクロック信号151は、時間デジタル変換器TDC2(260)に入力される。このTDC2(260)は、TDC1(210)と同じ構成であってもよい。TDC2(260)によって、オーパーサンプリングされた32個のサンプリングデータが、エッジ検出器2(270)に入力される。基準信号142には、ノイズが混入することは皆無であると推測される。このため、エッジ検出器2は、エッジ検出器1と異なり、ノイズに対するフィルタリング機能を持たなくてもよい。エッジ検出器2は、DLLクロック信号151の32個のサンプリングデータから、エッジタイミングを抽出する。
【0019】
そして、エッジ検出器1のエッジタイミング出力と、エッジ検出器2のエッジタイミング出力とが、デジタルコンパレータ230に入力される。このデジタルコンパレータによって、二つのエッジ検出器1及びエッジ検出器2からのエッジの位置が一致しているかがチェックされる。エッジの位置が一致していれば、データ信号141と、DLLクロック信号151とは、同期していることになる。この場合、DLLクロック信号151は、同期信号として利用することができる。また、デジタルコンパレータ230は、同期したことを示すロック信号を遅延制御部240に送る。遅延制御部240は、このロック信号を受信することにより、DLL250の遅延量を固定する(ロック状態)。
【0020】
これに対して、デジタルコンパレータ230において、エッジの位置が一致していないと判断された場合には、データ信号141とDLLクロック信号151とは、同期していないことが分かる。このため、デジタルコンパレータは、アップデート信号を遅延制御部240に送る。遅延制御部240は、アップデート信号を受信すると、DLL250の遅延量を増加させることを指示する制御信号をDLL250に送る。DLL250は、この制御信号を受信すると、基準信号142の遅延量を一定量増加させる。デジタルコンパレータ230は、これによって、遅延量が変化したDLLクロック信号151のサンプリングデータを受信し、再度エッジの位置が一致しているかをチェックする。エッジの位置が一致するまで、この動作が繰り返される。エッジの位置が一致すれば、上述のようにロック状態となり、DLLクロック信号151が、同期信号として利用できる。
【0021】
なお、DLL250は、上述のように、信号の遅延量を変化させる機能を有するが、遅延制御部からの制御信号が連続して到来し、DLL250が最大の遅延量に到達してしまう場合が想定される。この場合には、DLLの遅延量をリセットすることによって、DLLの遅延量を最小値に戻してもよい。なお、遅延制御部は、制御信号(H「高」レベル)を順にシフトするシフトレジスタで構成してもよい。シフトレジスタに記憶された(H「高」レベル)レベルの個数分だけ、DLLの複数の遅延素子を利用するよう制御し、DLLの全体の遅延量を調節できるようにしてもよい。
【0022】
以上の動作を行うことにより、CDR150は、DLL250の出力側から、ロックしたDLLクロック信号151を出力し、これを同期信号として提供することができる。
【0023】
図3に、TDC1(210)の実施例を示す。この実施例におけるTDC1(210)は、32段のD型フリップフロップ310(FないしF32)および、遅延量δの32個の遅延素子320(DないしD32)を有する。なお、段数は、32段に限られず、他の段数であってもよい。したがって、図3は、本発明を限定するものではない。
【0024】
遅延素子320の初段Dには、クロック信号iCLK340が入力される。iCLK340の周期は、遅延素子320の遅延量の合計値32δと等しくしてもよい。フリップフロップFのクロック端子Cには、iCLK340をδだけ遅延させた信号341が入力される。そして、フリップフロップFのクロック端子Cには、iCLK340を2δだけ遅延させた信号342が入力される。これらの信号のタイミング図を図3(b)に示す。フリップフロップFは、信号341の立ち上がりのタイミングe1でデータ信号141の値をラッチし、tdc<1>として出力する。フリップフロップFは、信号342の立ち上がりのタイミングe2でデータ信号141の値をラッチし、tdc<2>として出力する。したがって、tdc<1>ないしtdc<32>からは、データ信号141をδの間隔でオーバーサンプリングした信号が順次出力されることになる。遅延量δについては、データ信号141のデータのパルス幅よりも、少なくとも短い値を設定することにより、データ信号141をオーバーサンプリングすることができる。なお、遅延量δの値は、例えば遅延素子320のバイアス電圧を制御することにより、予め定められた値に調整することができるようにしてもよい。例えば、δは、データ信号141のデータのパルス幅に応じて、オーバーサンプリングができる適切な値に調整してもよい。なお、iCLKの周期(この実施例の場合は32δ)は、必ずしも基準信号142の周期と同じである必要はない。
【0025】
図4に、エッジ検出器1(220)のブロック図を示す。
【0026】
図5に、エッジ検出器1(220)のエッジ検出処理の具体例を示す。
【0027】
図4に示されるように、エッジ検出器1(220)のラッチ回路410に、TDC1(210)からのサンプリング出力tdc<1>ないしtdc<32>が入力される。そして、これらのサンプリング出力の値がラッチされ、32個のパラレル信号411として、"011"検出器420および"111"検出器430に入力される。この"011"検出器420は、図5に示すように、パラレル信号411のビットパターンが"011"である場合、出力421に"1"を出力する。また、"111"検出器420は、図5に示すように、パラレル信号411のビットパターンが"111"である場合、出力431に"1"を出力する。以上の処理を第1ステージと呼ぶ。
【0028】
そして、出力421及び出力431は、図4のOR回路440に入力される。
【0029】
このOR回路440の出力は、さらに"011"検出器450に入力され、"011"検出器450の出力は、エッジ検出信号451として、デジタルコンパレータ230へ伝達される。以上の処理を第2ステージと呼ぶ。
【0030】
図5は、第1ステージ、加算処理、及び第2ステージのビット処理の具体例を示している。これらの処理を実行することにより、tdc<1>ないしtdc<32>の値に存在する、ノイズパルスの値が除去され、"111"が連続する部分の先頭がエッジ検出信号451においてエッジ位置"1"として出力される。なお、ノイズの除去に係る上述のビット処理は、一例を示したものである。したがって、これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
【0031】
なお、DLLクロック信号151に対するエッジ処理を行うエッジ検出器2(270)は、上述のエッジ検出器1と同じ構成を有しても良い。なお、DLLクロック信号151はノイズが重畳されていない場合がほとんどであるから、エッジ検出器2(270)は、エッジ検出器1(220)の構成要素のうち、ラッチ回路のみで構成してもよい。
【0032】
図6に、ラッチ回路410の一実施例を示す。ラッチ回路410は、別々のタイミングでラッチ動作を行う第1ラッチ615及び第2ラッチ617の二つのラッチを備えてもよい。この実施例においては、第1ラッチ615は、tdc<1>ないしtdc<16>を、iCLK+16δ(616)のタイミングでラッチする。そして、第2ラッチ617は、第1ラッチの出力とtdc<17>ないしtdc<32>をiCLK+32δ(618)のタイミングでラッチし、パラレル信号411として出力する。このように、二つのラッチを設ける。この構成によれば、iCLKの立ち上がりタイミングから第1ラッチが信号をラッチするまでの16δの時間間隔の間に、第2ラッチに既に保存された1サイクル前のラッチデータに対して第1ステージ及び第2ステージの処理を行うことができる。したがって、図6の実施例に示すラッチ回路410を用いることにより、iCLKの各サイクルで、エッジ検出器1(220)をパイプライン的に動作させることができる。なお、本発明は、この処理に限定されるものではない。
【0033】
図7に、デジタルコンパレータ230の実施例を示す。本実施例の場合は、エッジ検出回路1及びエッジ検出回路2からの、それぞれ32ビットのデータを、時系列的に8ビットずつに分割し、それぞれの分割された8ビット同士を比較器711ないし714の4つの8ビット比較器に入力する。比較器711ないし714は、それぞれ、入力された2系統の8ビットが同じパターンを有する場合には、比較結果として論理値"1"を多数決回路720に伝達する。一致していない場合は、論理値"0"を伝達する。
【0034】
そして、多数決回路720は、4つの比較器からの一致信号(論理値"1")が3つ以上入力された場合、多数決信号出力721に論理値"1"を出力する。不一致の数が2つ以下の場合には、論理値"0"を出力する。多数決信号出力721は、AND回路740及びNAND回路750に入力される。
【0035】
なお、図7の実施例では、32ビットの信号を8ビット毎に分けて、比較を行っている。しかしながら、本発明は、32ビット同士をビット毎に比較してもよく、あるいは、4ビットことに分けて比較してもよい。本実施例で、8ビット毎に分けて比較を行った理由は、多数決回路をシンプルにするためである。したがって、この実施例は、本発明を限定するためのものではない。
【0036】
多数決信号出力721が、論理値"1"を出力した場合には、データ信号141と、DLLクロック信号151のエッジ位置が一致している可能性が非常に高いことを意味する。ただし、例えば、データ信号141が全て"0"である場合や、データ信号141のノイズパルスのタイミングに、DLLクロック信号151のエッジが位置するような場合が想定される。このような場合には、たとえ多数決出力信号が、論理値"1"を出力していても、ミスロックの状態となっていることがあり得る。
【0037】
上記のミスロック状態を検知するために、ロック有効判定回路730を設けてもよい。ロック有効判定回路730には、データ信号141とDLLクロック信号151とが入力される。ロック有効判定回路730は、ロック状態が有効であるかを判定し、ロックが有効であれば、ロック有効信号731に論理値"1"を出力する。ロックが有効でない場合には、論理値"0"を出力する。
【0038】
図8(a)は、ロック有効判定回路730の実施例を示している。データ信号141は、Dフリップフロップ820と830のデータ端子に接続される。加えて、データ信号141は、遅延量γを持つ遅延素子840を介してDフリップフロップ810のデータ端子に接続される。DLLクロック信号151は、Dフリップフロップ810と820のクロック端子に接続される。加えて、DLLクロック信号151は、遅延量γを持つ遅延素子850を介してDフリップフロップ830のクロック端子に接続される。
【0039】
フリップフロップ820は、DLLクロック信号151の立ち上がりのタイミングで、データ信号141の値をラッチし、出力MIDをロック有効判定ロジック860に伝達する。フリップフロップ810は、DLLクロック信号151の立ち上がりのタイミングよりも、γだけ時間的に前のデータ信号141の値をラッチし、出力PREをロック有効判定ロジック860に伝達する。フリップフロップ830は、DLLクロック信号151の立ち上がりのタイミングよりも、γだけ時間的に後のデータ信号141の値をラッチし、出力POSTをロック有効判定ロジック860に伝達する。
【0040】
図8(b)に、ロック有効判定ロジック860の真理値表を示す。ここで、"PRE,MID,POST"が、"111"、"110"又は"011"のときに、ロック有効信号OUTは、"1"を出力する。それ以外の場合には、"0"を出力する。
【0041】
図9は、ロック有効判定ロジック860の動作を理解するための図である。図9には、データ信号141とDLLクロック信号151が示されている。データ信号141には、tdのパルス幅を有するデータパルス1とノイズパルス1が混在した信号となっている。DLLクロック信号151がデータ信号141に対して、有効にロックしている状態とは、DLLクロック信号151の立ち上がりタイミングが、データ信号141のデータパルス1のパルス幅tdの間に存在する場合である。すなわち、これは、DLLクロック信号151の立ち上がりタイミングがt1、t2、t3に位置する場合である。これに対して、ミスロックの場合には、DLLクロック信号151の立ち上がりタイミングが、データパルス1のパルス間のtdに存在せず、その他の時刻、例えば、t4又はt5の位置に存在する場合である。すなわち、"PRE,MID,POST"が、"111"、"110"又は"011"のときには、DLLクロック信号151の立ち上がりタイミングが、テータパルス1の範囲内に存在することとなる。これに対して、"PRE,MID,POST"がそれ以外のパターンの場合には、DLLクロック信号151の立ち上がりのタイミングは、データパルス1の範囲内に存在しないこととなる。t4では、DLLクロック信号151の立ち上がりタイミングが、データ信号141の"0"レベルの時刻に存在しており、t5では、ノイズパルス1のパルス内の時刻に存在している。これらは、いずれも、ミスロック状態であると判断される。
【0042】
以上のようにして、ロック有効判定回路730は、ロックの有効状態をチェックすることができる。
【0043】
図7に戻る。多数決回路720の出力が論理"1"であり、かつ、ロック有効信号が論理"1"である場合には、AND回路740の出力は論理"1"となり、DLLロック信号741として遅延制御部240に出力し、DLLの遅延量を固定する。これをロック状態と呼ぶ。ロック状態となった場合には、本発明の諸回路の電力消費を抑えて、省電力状態を保ってもよい。同様の信号が、NAND回路750にも入力されている。したがって、NAND回路の出力が論理"1"となる場合には、ロック状態ではないため、DLLアップデート信号751が遅延制御部240に伝達される。遅延制御部は、この信号を受けて、DLLの遅延量を一定量増加させる。
【0044】
以上の処理を繰り返し行うことにより、データ信号141にDLLクロック信号151が同期した状態が得られれば、ロック状態となって維持される。なお、何らかの外乱によりロック状態から外れた場合には、再度上記の処理が繰り返され、ロック状態に復帰する処理が行われる。
【0045】
以上、本発明の実施例を説明したが、各実施例は、矛盾のない限り取捨選択して組み合わせることができる。また、以上の説明及び図面の記載は、本発明の一例を示したものであり、請求項に係る本発明を限定するためのものではない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0046】
120 インダクティブ・カップリング
150 クロックリカバリ回路(CDR)
210 TDC1
220 エッジ検出回路1
230 デジタルコンパレータ
240 遅延制御部
250 DLL
260 TDC2
270 エッジ検出回路2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されるデータ信号に含まれるクロック信号を、復元クロック信号として復元する、クロックデータリカバリ回路であって、
基準信号を遅延量だけ遅延させ前記復元クロック信号を出力する、遅延回路と、
前記データ信号を予め定められた第1の時間間隔でサンプリングし、前記データ信号の予め定められた電圧方向への変化エッジ位置情報を含むデータサンプリング列を生成する、第1の変換器と、
前記復元クロック信号を前記第1の時間間隔でサンプリングし、前記予め定められた電圧方向への変化エッジ位置情報を含む復元クロックサンプリング列を生成する、第2の変換器と、
前記データサンプリング列と、前記復元クロックサンプリング列とを、それぞれ予め定められたビット数毎に、複数の比較を行い、比較結果として出力する、比較器と、
前記比較結果に基づき、前記遅延量を変化させるか、固定させるかを前記遅延回路に指示する、遅延制御部と、
を有する、クロックデータリカバリ回路。
【請求項2】
前記第1の変換器、及び前記第2の変換器のうち、少なくとも前記第1の変換器は、予め定められた第1のビット列の数よりも少ないパルスを持つ変化エッジ位置情報を削除する、請求項1記載のクロックデータリカバリ回路。
【請求項3】
前記比較器は、前記複数の比較に基づいて多数決を行い、多数決の結果を比較結果として出力する、請求項1又は2記載の、クロックデータリカバリ回路。
【請求項4】
前記比較器は、前記復元クロックサンプリング列における変化エッジのビット位置に対応する時刻の前記データサンプリング列のビット位置から、予め定められた第2の時間間隔γだけ前後に開始位置と終了位置を有する2γの時間間隔における前記データサンプリング列のパルス幅のビット数が、予め定められた第2のビット列の数よりも大きいか否かの、判定結果を更に出力し、
前記遅延制御部は、前記比較結果と前記判定結果とに基づき、遅延量を変化させるか、固定させるかを前記遅延回路に指示する、
請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のクロックデータリカバリ回路。
【請求項5】
前記第1の時間間隔を得るために遅延素子を用いる、請求項1ないし4のうちいずれか1項記載のクロックデータリカバリ回路。
【請求項6】
前記請求項1ないし5のうち何れか1項記載のクロックデータリカバリ回路を有する半導体チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−138847(P2012−138847A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291149(P2010−291149)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「極低電力回路・システム技術開発(グリーンITプロジェクト)」委託開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】