説明

デジタル微分型電気移動度分離方法及び装置

デジタル駆動に基づく高電圧高速切り替え装置を用いてイオンの微分型電気移動度分離を行う方法。分光計に供給されるデジタル波形は、振幅及び極性の異なる、少なくとも2つのほぼ矩形のパルスによって特徴付けられる。制御電気回路によって波形周波数、デューティーサイクル、及びパルス振幅を独立に変化させることができる。イオンの最適な微分型電気移動度分離のため、安定した、又は不安定で非対称の波形を設計することができる。平行板と、平面対称性、及び円筒対称性を有する分割された多重極板を、随意、直列に配置可能に備える微分型電気移動度分光計のためにデジタル駆動部が設計されている。デジタル駆動部の使用により交流電場を発生させている間にイオン振動の結果として生じる変位は電気移動度係数によって決まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る装置及び方法は、イオン分離を実行する方法及び装置に関し、より具体的には、微分型電気移動度分光計のための電子駆動回路の使用、及びそのためのシステムと方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気相イオン分離技術は、独立のシステムとして、又は分子構造分析のための質量分析と連動した形で、クロマトグラフ分離、又は質量分離を通じてますます重要になっている。気相イオン混合物を分析する方法の一つに、その混合物を電場によってガス中で移動させるという方法がある。これらのイオンの移動速度は電場に比例する。この比例係数が「イオン電気移動度」であり、これ自身は電場強度に依存する。キャリアガスによってイオンの移動する方向に電場が作用するなら、イオンは電場内で所定の距離だけ少し速く移動するであろう。それにより全体的な飛行時間は、イオンのサイズと、サポートガス雰囲気との相互作用によって特徴付けられる。
【0003】
キャリアガスと共にイオンが移動する方向に対して垂直に電場が作用する場合、イオンは偏向させられる。偏向距離はイオンのサイズ及びサポートガス雰囲気との相互作用によって特徴付けられる。これにより、特定の電気移動度を有するイオンが混合物中に最初に存在する他の全ての電気移動度を有するイオンから分離される。
【0004】
ある種類のイオンが特定の電気移動度を有する場合、分子混合物の電気移動度分析を利用する方法が2つある。A、電気移動度のスペクトルの中から検討対象分子に特徴的なピークを見付けることで、この分子が最初の分子混合物の中に含まれているという証拠をつかむことができる。B、前記特徴的な電気移動度を有するイオンを選択し、これらのイオンを追加的分析装置、例えば質量分析器に導くことができる。
【0005】
電気移動度の異なる分子イオンは、所定の長さをした加速場中におけるイオンの飛行時間を記録することで(特許文献1〜4)、又は、流れているガス中を漂うイオンの動きに垂直に作用する電場におけるイオンの偏向を測定することで(特許文献5)、互いに分離可能である。
【0006】
イオン分離はこれらのイオンの電気移動度K(E/N)の違いに基づいており、電気移動度は電場Eの強度、及びイオンがその中を移動しているガスの密度Nによって変化する。このような変化は分子の種類が異なればそれによって異なり、この事実が特許文献6、7に記載の「電気移動度分光計」に利用されている。これらの分光計では、周期的で非対称な波形を有する高周波電圧により、短時間の強い場(high-field)と、それより長時間の弱い場(low-field)を発生させ、キャリアガスの流れる方向に対して法線方向にイオンを振動させる。
【0007】
強い場と弱い場における電気移動度の相違によりイオンは結果的に変位し、変位したイオンは軸から離れて次第にドリフトし、ガスの流れを制限するためにも利用可能な1対の電極上で最終的に放電する。このような変位は直流場を印加することによって、あるいは、スペクトルを得る必要がある場合に鋸歯状の補償電圧をスキャンすることによって補償され、特定の範囲内の電気移動度のイオンのみが運ばれ、ファラデー板上に順に記録される。
【0008】
「微分型電気移動度分光計」における高周波場は、このような装置の電極に高電圧パルスを印加することによって形成される。従来技術では、このようなパルスは変圧器に基づく電子回路によって作り出されており、そのような場合、正のパルスの時間積分は負のパルスの時間積分に等しいものの、正と負のパルスの継続時間の間は電圧が一定ではない。
【0009】
従来技術では、短いパルスの間に強い正弦曲線の半波長を有し、長いパルスの間に正弦波状二重波又は三重波を有する電圧パルスが用いられている。結果として、これらのパルスのいずれにおいてもイオンは一定ではない場の中を移動する。このように、イオンの電気移動度は各パルスの継続時間中もずっと変化する。これにより、異なる分子のイオン分離の最終的な達成が危うくなり、そうなると今度は、必要な分解能、即ち、電気移動度スペクトル中のピークの幅の比率や、検討対象のピークの他のピークからの分離度が低下する。
【0010】
従って、前述した分解能を高くすることが望ましく、それ故、この分解能を改良する手段が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第3,639,757号明細書
【特許文献2】米国特許第3,697,748号明細書
【特許文献3】米国特許第3,812,355号明細書
【特許文献4】米国特許第3,621,239号明細書
【特許文献5】米国特許第5,047,723号明細書
【特許文献6】米国特許第6,774,360号明細書
【特許文献7】米国特許第6,621,077号明細書
【特許文献8】米国特許第6,774,360号明細書
【特許文献9】米国特許第6,495,823 (B1)号明細書
【特許文献10】旧ソビエト連邦特許第966583号明細書
【特許文献11】国際出願PCT/US2006/019747号(2006年5月22日出願、H. Wollnik)
【発明の概要】
【0012】
本発明の典型的実施例の態様は、少なくとも2つの電極を有し、これらの電極には電気的に制御された高速変動電圧が印加され、最大成分が双極子場である高周波の多重極場を作り出し、低周波で鋸歯状の形状をした本質的双極子場(本質的に双極子場である場)を定値DCオフセットの本質的双極子場として付加することができるような微分型電気移動度分光計を備える。高周波の波形は電子的に制御された複数の高電圧を切り換えることによって形成され、各高周波サイクルの中に、少なくとも一つの正の、及び/又は少なくとも一つの負の、ほぼ矩形のパルスが形成されるようになる。これらのパルスの高さ及び幅は独立に制御され、その立ち上がり時間や下降時間はパルス幅と比べて短い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
上記の、及び/又は他の本発明の態様は、以下の図面を参考にした、典型的実施例に関する以下の記述から明らかになり、さらに容易に理解されるであろう。
【0014】
【図1】微分型電気移動度分光計のデジタル駆動電子回路の典型的実施例の回路図である。
【図2】図1に係る典型的実施例の変形例であり、電源が一つのみ使用されている。
【図3】典型的実施例に係る矩形波オシログラムを示しており、高電圧の正のパルスと、より低電圧の負のパルスを示している。
【図4】パルス発生器のほか、鋸歯状波とDCオフセットをコンピュータにより制御する方法に関する、典型的実施例に係るダイアグラムを示している。
【図5】典型的実施例に係る微分型電気移動度分光計の電極の配置を3通り示している。
【図6】同一平面上に2つの微分型電気移動度分光計が直列に配置され、その後段に同一平面上にある一組の検出用電極が配置され、さらに質量分析器へも接続可能である構成を示している。
【図7】水和プロトン、及び検討中の分子のモノマーとダイマーについて、典型的実施例によって評価した2つの微分型電気移動度スペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の典型的実施例の詳細について述べる。本実施例は以下の図に示されており、同じ符号は同じ要素を示している。典型的実施例を以下に説明し、図面を参照することによって本発明を説明する。
【0016】
典型的実施例ではパルス電圧は変圧器に基づくシステムから供給されるのではなく、切り替え式の電圧から供給される。従って、電圧、及びそれに伴う場は、電気移動度と同様、作り出される各高周波パルスの持続時間の間、ほぼ一定である。
【0017】
典型的実施例に係る回路では、各パルスの振幅と持続時間を独立に制御することが可能である。これらの電圧パルス、及び場のパルスにおける所定の振幅と持続時間では、イオン検出器に直接到達可能なイオンは、強い場のパルス期間及び弱い場の期間に特定の値の電気移動度を有するイオンのみである。これらのパルスの期間における電気移動度が異なるイオンは偏向される。微分型電気移動度分光計の電極にゆっくりと変動する鋸歯状電圧を印加する場合、及び/又は追加的にDCオフセット電圧と、それに従ってDCオフセット場とが加えられる場合には、これらの偏向されたイオンも順に記録することができる。
【0018】
図1及び図2に典型的実施例の電子回路を示す。
【0019】
図1は正の電源一つと負の電源一つとを使用する典型的な回路を示しており、正及び負の高周波パルスが持続する間、対応する電圧を微分型電気移動度分光計の電極の一つに供給する。より具体的には、図1は微分型電気移動度分光計の典型的なデジタル駆動電子回路の回路図を示している。
【0020】
図1の典型的実施例は2つの電源1、2を備えている。電源1又は2のいずれか一つの電圧は、微分型電気移動度分光計の電極7、8の一つにコンデンサ5を介して供給され、デジタル信号4によって制御される高速スイッチ3を通して電圧が供給される。コンデンサ5は抵抗器に連結されてRC回路を形成している。これにより、接地電位が波形の基準となり、DCオフセット成分が除去される。
【0021】
微分型電気移動度分光計の第2電極8には、低周波の鋸歯状電圧9が印加される。移送された陽イオンと陰イオンは、それぞれ検出板10、11上に収集される。増幅された信号12、13がデータ取得システムに送られる。
【0022】
図2は本発明に係る典型的回路を示している。図1と同一の参照文字は同一の構成であり、それらの説明は簡略のために繰り返さない。
【0023】
図1とは異なり、図2の典型的実施例は電源1を一つだけ使用するが、図2の2つの電源の絶対電圧の合計と同じくらいの強度の電圧を供給する。スイッチ3は電源1、又はグラウンド2aとコンデンサ5とを連結し、微分型電気移動度分光計の電極7、8の一つとを連結する。
【0024】
図1及び図2の典型的実施例では、低周波数の鋸歯状電圧発生器と任意に選択できるDCオフセット電圧が微分型電気移動度分光計のもう一つの電極に供給されている。
【0025】
全ての高周波信号を微分型電気移動度分光計の電極の一つに供給し、全ての低周波信号を他の一つの電極に供給する、というのが、高周波と低周波の信号を合わせる典型的な方法だが、この方法は発明の範囲から外れることなく修正することができる。
【0026】
例えば、これに制限するものではないが、電気回路内の種々の信号の全てを合わせることも可能である。このような電圧の合計を、微分型電気移動度分光計の電極の一つに印加しつつ、他の電極は接地電位に維持することができる。
【0027】
図3は、実験的に得られた高周波の波形を例示したものである。パルス立ち上がり時間は100ns未満であり、正のパルスと負のパルスの振幅を任意に変化させている。より具体的には、図3は矩形波のオシログラムであり、高い正電圧パルスと低い負電圧パルスを示している。立ち上がり時間と下降時間はパルス継続時間と比較してかなり小さい。例えば、周波数が約1MHzで、正のパルスのデューティーサイクルは波形周期の約30%である。
【0028】
図4はシステム全体を示している。即ち、パルスの幅と高さの制御とデータ分析は、コンピュータ制御されている。より具体的には、パルス発生器42、及び鋸歯状波形とDCオフセット43はコンピュータ41によって制御されている。増幅器44によって発生した、増幅された信号はコンピュータ41にフィードバックされる。このように、微分型電気移動度分光計(DMS)45はコンピュータ制御されている。
【0029】
図5A−Cは微分型電気移動度分光計の電極の構成を示しており、異なる典型的な配列に基づいて形成されているが、配列を制限するものではない。図5Aの構成1は、2つの平行板51、52と、同一平面上にある2つの分離した検出器61、62を含む。図5Bの構成2は平板電極53、54、及び同一平面上にある2つの分離した検出器63、64を含む。図5Cの構成3は、円筒面上に配置された複数の電極から成る多重極55a−55hを含んでいる。さらに構成3には一組の検出用電極65、66もあるが、これは可能な例であり、形状を制限するものではない。
【0030】
図5Aの典型的実施例で示すように、同一平面上にある電極51、52は本質的双極子場を特徴とする微分型電気移動度分光計の電極を構成している。
【0031】
図5Bに示された他の典型的実施例では、同一平面上にある2つの電極が分割された53a−53e、及び54a−54eが使用されており、これにより、微分型電気移動度分光計の場を、2つのほぼ同心円筒状の電極に挟まれた場のように形成することができる。
【0032】
従来の技術では、2つの明らかに同心円筒状の電極が半径方向に不均一な場を形成する。そこでは中間等電位面の半径が円筒表面を構成するが、その半径は固定的である。一方、連続した、ほぼ平行な電極53a−53e及び54a−54eを、異なる高周波数のパルス電圧を印加できるようにして使用すると、最終的な場は、2つの同心円筒電極の間に形成される、曲率半径が変化するほぼ円筒状の中間等電位面を有するものと等しくなる。
【0033】
図5Cに示した第3の典型的波形によると、明らかにそれと分かる電極55a−55hが円周に沿って配列されているが、楕円、正方形、又は長方形の形状にほぼ沿った配列もまた可能である。この典型的実施例では、異なる高周波パルス電圧を異なる電極に供給して、双極子場、又は2つの同心円筒電極65、66の間に得られる場であって、曲率半径が変化するほぼ円筒状の中間等電位面を有する場を形成するようにしなければならない。
【0034】
図6は典型的実施例を示しており、2つ又はそれ以上の微分型電気移動度分光計が直列に連結されている。これらの微分型電気移動度分光計はそれぞれ異なるガス圧や温度の下で、異なるパルス振幅やパルス幅を以て操作することが可能である。この典型的実施例では、微分型電気移動度分光計を一台だけ使用する場合に比べて更なる精製が可能である。
【0035】
より詳しく図6を見ると、同一平面上にある2つの微分型電気移動度分光計101、102の後段に1対の同一平面上にある検出用電極103が配置され、更に質量分析器への接続104も可能である。微分型電気移動度分光計のこのような配列は、ガス圧及び/又は温度の異なる領域を任意に画定する4つのセクション111−114に分割されている。
【0036】
それに加え、各微分型電気移動度分光計101、102は異なる周波数、振幅及び/又はデューティーサイクルの下で操作可能である。第1のセクション111ではイオンがイオン源の中で形成され、ガス流131に運ばれて各セクションを次々に通過する。セクションの間には追加電極121、122、123が配置され、高周波のフリンジ場を制御し、イオン移送を大幅に増進している。
【0037】
イオンが微分型電気移動度分光計の中をガス流によって通るとき、イオンはシステムの軸周りを何千回も振動する。従って、パルス列の周波数はガスの流速にほぼ比例し、微分型電気移動度分光計の電極の長さLDMSにほぼ反比例する。例えば、制限するものではないが、LDMSが約20mmから約40mmである場合、パルス周波数は約数100kHzのオーダーである。
【0038】
前述の典型的実施例によれば、変圧器に基づく電子回路を備える従来技術のシステムよりも電気移動度の分解能を改善し得る。スイッチ制御された電圧によって、高電圧の継続時間と低電圧の継続時間中ずっと、もっとも強い場が供給される。従って、高電圧のピーク中における最大電圧は、方形波を近似するに過ぎない変圧器に基づくシステムのものより小さくても構わない。これは図7に示した通りである。代わりに、高電圧周期と低電圧周期の強度の最大電圧を変圧器に基づくシステムの場合と同じようにすれば、分解能がかなり向上する。
【0039】
図7は水和したプロトン(H+(H2O)n)、プロトン化ペンタノンモノマー(H+(C5H10O)(H2O)n)、及びプロトン結合ペンタノンダイマーイオン(H+(C5H10O)2(H2O)n)の微分型電気移動度の2つのスペクトルを示しており、いずれも大気圧の空気中で得られたものである。より具体的には、図7においてはペンタノンのデジタル微分型電気移動度スペクトルが1MHz、dp=0.3、SV=600Vのデジタル波形を用いて得られたものとして、及び1MHz、dp=0.3、SV=1200Vの変圧器に基づくシステムの波形を用いて得られたものとして、示されている。
【0040】
図7の上部に示された第1のスペクトル71は、高電圧で切り換えられる装置によって作り出されたデジタル波形で微分型電気移動度分光計を駆動したときに得られたものである。図7の下部に示された第2のスペクトル72は、従来技術の、変圧器に基づく電子回路によって微分型電気移動度分光計を駆動したときに得られたものである。
【0041】
前述のスペクトル71、72のいずれにおいても、周波数は1MHzに設定されており、正のデューティーサイクルはdp=30%であった。デジタル駆動に基づく高電圧パルスの振幅は600Vであり、分離電圧(separation voltage、SV)として示されている。変圧器に基づく電子機器のピークは1200Vである。このスペクトルを見ると、デジタル波形71を使えば、従来技術の変圧器に基づく波形72を用いる際に必要な電圧の約半分でイオンを分離できることがよく分かる。
【0042】
前述の実施例では、DMSユニットは直列に連結されており、同一の、又は異なる圧力、及び/又は気温の下で操作される。微分型電気移動度によって分離されたイオンを更に分析するために質量分析器の中に入れることもできる。イオンは大気圧のイオン源の中で形成され、イオン源としては、エレクトロスプレイイオン源、レーザー脱離支援エレクトロスプレイイオン源、DESI(desorption electro-spray ionization、脱離エレクトロスプレイイオン化)イオン源、MALDI(matrics assisted laser desorption ionization)イオン源、又は結合プラズマイオン源が挙げられる。あるいは、減圧下のイオン源で形成することができイオンを生成することも可能であり、この場合のイオン源としては、光イオン化源、電子衝撃イオン源、化学イオン化源、表面イオン化源、又はMALDIイオン源が挙げられる。
【0043】
典型的実施例によると、異なるサブサイクルでパルス列を駆動することも可能であり、パルス高さ、及び/又は一つのサイクルから次のサイクルまでのパルス継続時間を変化させることもできる。さらに、二つ以上の正のパルス、及び/又は二つ以上の負のパルスを各サブサイクルに供給することができる。
【0044】
典型的実施例によると、「切り換えパルス供給」によって電源を供給される微分型電気移動度分光計では、「変圧器に基づく供給」によって電源を供給される微分型電気移動度分光計より、分解能をかなり向上させることができる。この向上の少なくとも一部は、記録された電気移動度のピーク幅がやや小さいことによる。
【0045】
さらに、正と負のパルスの時間積分の比を変化させることにより異なる分子の電気移動度のピークをシフトして、その分離距離を増加させたり、ピークが互いに近接している場合にそれらの重なりを小さくすることができる。電圧パルスの最大振幅は変圧器に基づく回路におけるものよりかなり小さいので、キルパトリック・リミット(Kilpatrick limit)が低下し、高電圧の漏出(breakthrough event)が起きる危険性が減少するかもしれない。
【0046】
上記典型的実施例では制御コンピュータに言及しながら説明を行った。当然のことながら、コンピュータ制御はコンピュータプログラム命令によって実装できる。これらのコンピュータプログラム命令を、汎用コンピュータ、特殊用途のコンピュータ、又はプログラム可能な他のデータ処理装置の演算処理装置に入力し、該コンピュータやプログラム可能な他のデータ処理装置の演算処理装置を介してその命令を実行することにより、微分型電気移動度分光計の上記の機能を実行する手段を作り出すマシンができる。
【0047】
これらのコンピュータプログラム命令を、コンピュータで使用可能な、又はコンピュータで読み出し可能なメモリであり、コンピュータ、又はプログラム可能な他のデータ処理装置に命令を与えて特定の方法で機能させることが可能なメモリに保存することもでき、コンピュータで使用可能な、又はコンピュータで読み出し可能なメモリに保存された命令によって、機能実行のための命令手段を備える製品が作り出される。
【0048】
コンピュータ、又はプログラム可能な他のデータ処理装置にコンピュータプログラム命令をロードし、該コンピュータ又はプログラム可能な他のデータ処理装置に操作ステップを実行させ、該コンピュータ又はプログラム可能な他の装置で実行される命令によって機能実行のためのステップが付与されるようにすることも可能である。
【0049】
以上、典型的実施例を開示してきたが、当業者であれば、これらの典型的実施例において本発明の原理や精神から離れることなく変更が可能であり、その範囲は添付の請求項、又はそれと同等と看做されるものによって規定されるということを理解できるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のものを備える微分型電気移動度分光計(Differential Mobility Spectrometer、DMS)。
少なくとも2つの電極。これらの電極には電子的に制御され、高速で変化する電圧が印加され、これにより、最大成分が双極子場である高周波多重極場が作り出される。
ただし、前記高周波多重極場には低周波の鋸歯状の本質的双極子場が付加され、前記高周波多重極場には定値DCオフセットの本質的双極子場が付加され、
また、前記高周波の波形及び重ね合わされた低周波の波形は、高周波の各サイクルの中に少なくとも一つの正の、及び少なくとも一つの負の、ほぼ矩形のパルスの繰り返しパターンが形成されるように、電子的に制御された切り換え電圧によって形成され、
前記高周波のサイクルは、独立に制御されたパルス高さとパルス幅を有し、前記パルスの幅と比較して本質的に短い立ち上がり時間と下降時間を有する。
【請求項2】
請求項1に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記切り換えを行うために、高電圧スイッチが前記少なくとも二つの電極に、(a)直ちに、及び(b)高電圧増幅器での追加的増幅の後、のいずれかに高電圧パルスを印加するもの。
【請求項3】
請求項2に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記高電圧パルスの周波数が数十KHzから数十MHzであるもの。
【請求項4】
請求項3に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記正の高電圧パルスの時間積分が前記負の高電圧パルスの時間積分と大幅に異なるもの。
【請求項5】
請求項4に記載の微分型電気移動度分光計であって、少なくとも一つの前記正のパルスと少なくとも一つの前記負のパルスとの間の、時間積分の差によってもたらされる前記DCオフセットが、前記鋸歯状波形に加えられる定値DCオフセットによって補償されるもの。
【請求項6】
請求項4に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記時間積分における差が、(a)前記切り替え装置を電極の少なくとも一つに、コンデンサと変圧器の少なくとも一つを介して接続する、又は(b)前記切り替え装置が直接、ほぼ等しい時間積分で波形を送るように該切り替え装置を操作する、のいずれかによって取り除かれるもの。
【請求項7】
請求項4に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記少なくとも一つの正パルスの振幅と、前記少なくとも一つの負のパルスの振幅との、少なくとも一つが変化するもの。
【請求項8】
請求項4に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記少なくとも一つの正のパルスの少なくとも一つの継続時間と、前記少なくとも一つの負のパルスの少なくとも一つの継続時間とが変化するもの。
【請求項9】
請求項4に記載の微分型電気移動度分光計であって、少なくとも一つの正のパルスの振幅、少なくとも一つの負のパルスの振幅、並びに、前記正の、及び/又は負のパルスの少なくとも一つの幅、という3つのパラメータのうち少なくとも2つがほぼ同時に変化するもの。
【請求項10】
請求項4に記載の微分型電気移動度分光計であって、パルス列は少なくとも2つのサブサイクルを含み、該サブサイクルのそれぞれが少なくとも一つの正のパルスと少なくとも一つの負のパルスを含むもの。
【請求項11】
請求項10に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記サブサイクルの少なくとも一つで、DCオフセットが他のサブサイクルのDCオフセットと異なるもの。
【請求項12】
請求項1に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記dms電極が2つの平行平面上にある2つのほぼ長方形の導電性電極として形成されているもの。
【請求項13】
請求項1に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記dms電極が2つのほぼ長方形の導電性電極として形成され、そのうち少なくとも一つがイオンビーム軸にほぼ平行な数個の電極に分割されているもの。
【請求項14】
請求項13に記載の微分型電気移動度分光計であって、フリンジ場の制御に適切であるDC電位又は重ね合わされたパルス列電位に配置された終端電極によって前記dms電極がイオンの入口又は出口において制限されているもの。
【請求項15】
請求項14に記載の微分型電気移動度分光計であって、イオンビーム軸にほぼ垂直方向に分割された終端電極によって前記dms電極がイオンの入口又は出口において制限されており、適切なDC電圧、又はフリンジ場制御に適切な重ね合わせパルス列電圧を印加することによってフリンジ場が制御されるもの。
【請求項16】
請求項1に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記電極がイオンビーム軸にほぼ平行に整列され、イオンビーム軸周りの円周にほぼ沿って配列されているもの。
【請求項17】
請求項1に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記電極がイオンビーム軸にほぼ平行に整列され、イオンビーム軸にほぼ一致する中心を有する楕円、正方形、又は長方形の外周に沿って配列されているもの。
【請求項18】
請求項1に記載の微分型電気移動度分光計であって、少なくとも2つの微分型電気移動度分光計が直列に連結されたタンデムシステムとして構成され、電極が前記微分型電気移動度分光計の間に配置されているもの。
【請求項19】
請求項18に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記直列の微分型電気移動度分光計のユニットが同一の、又は異なった圧力下で操作されるもの。
【請求項20】
請求項19に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記微分型電気移動度分光計の一つがイオン電気移動度分光計に置換されているもの。
【請求項21】
請求項1に記載の微分型電気移動度分光計であって、パルス、DCオフセット及び低周波の鋸歯状の本質的双極子場を制御するように構成されたコンピュータをさらに備え、増幅器によって発生する増幅された信号が該コンピュータにフィードバックされるもの。
【請求項22】
請求項1に記載の微分型電気移動度分光計であって、内部のガス圧が1気圧の約0.001%と200%の間にあるもの。
【請求項23】
請求項18に記載の微分型電気移動度分光計であって、前記直列の微分型電気移動度分光計のユニットが同一の、又は異なった温度下で操作されるもの。
【請求項24】
請求項1に記載の微分型電気移動度分光計であって、少なくとも一つの微分型電気移動度分光計によって分離されたイオンが質量分析器に入るもの。
【請求項25】
請求項1に記載の微分型電気移動度分光計であって、イオンが大気圧イオン源で形成され、該イオン源はエレクトロスプレイイオン源、レーザー脱離支援エレクトロスプレイイオン源、DESI(脱離エレクトロスプレイイオン化)イオン源、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)イオン源、又は結合プラズマイオン源であるもの。
【請求項26】
請求項1に記載の微分型電気移動度分光計であって、イオンが減圧下において、光イオン化源、電子衝撃イオン化源、化学イオン化源、表面イオン化源、又はMALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)イオン化源のいずれかで生成されるもの。
【請求項27】
以下のものを備える、微分型電気移動度分光計(DMS)のためのデジタル駆動電子回路。
DMSの第一電極と第二電極に電源を供給する、少なくとも一つの電源。
前記少なくとも一つの電源とDMSの第一及び第二の電源とを接続するRC(抵抗−コンデンサ)回路を形成するようにコンデンサに連結された抵抗。
前記少なくとも一つの電源と前記コンデンサとを連結するための高速スイッチであって、デジタル信号で制御される高速スイッチ。
DMSから移送される陽イオンと陰イオンを収集し、対応する信号を第一及び第二増幅器のそれぞれに供給して、データ取得システムに入力するための増幅された第一及び第二の信号を作り出す第一及び第二の検出板。
ただし、低周波の鋸歯状の電圧、及び/又はDCオフセット電圧が第二電極に印加される。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−530607(P2010−530607A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513292(P2010−513292)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/063623
【国際公開番号】WO2009/002626
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】