説明

デジタル無線通信装置およびデジタル無線通信方法

【課題】マルチパスフェージング環境下での通信品質およびスループットの低下を軽減できるデジタル無線通信装置を提供する。
【解決手段】変調方式とコーディングレートとの組からなる複数の変調クラスから所要の変調クラスを適応的に選択して通信するデジタル無線通信装置であって、対向通信装置からの受信信号に含まれる自装置からの送信信号に対する自己受信品質に関連する自己品質情報に基づいて、次の送信データの変調クラスを選択する変調クラス決定部533と、受信信号に基づいて対向通信装置に対する相手受信品質に関連する相手品質情報を作成する相手品質情報作成部(512,514,516,531,532)と、相手品質情報を対向通信装置に送信するために、変調クラス決定部533で選択された変調クラスの変調方式により相手品質情報を変調する変調処理部534と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応変調方式を採用するデジタル無線通信装置およびデジタル無線通信方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタル無線通信方式の一例として、TDMA-TDD通信方式の無線通信規格に準拠しているPHS(Personal Handyphone System)やiBurstシステム等が知られている。このような無線通信方式では、通信装置の一方または双方が移動可能である場合がある。その場合、ユーザは、モビリティによるメリットを享受できる半面、無線伝播可能距離を離れて移動すると、その期間通信が途絶えることになる。また、通信装置の移動が無い場合でも、電波伝播経路の変化により通信が途絶える期間が発生する場合もある。そのため、無線通信方式では、通信途中での中断を避けることが非常に困難となる。
【0003】
一方、無線通信方式として、互いの送信による伝達状況を、受信側からのフィードバックにより取得し、その取得情報に基づいて、例えば送信出力や、複数の変調方式をサポートする場合は選択する変調方式等を適応的に変更して、最適な無線通信を維持する、適応変調技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
変調方式は、一般に、シンボル当りの情報量が多いほど、所要SNR(signal noise ratio)が高く、ノイズに弱い。反対に、所要SNRの低い変調方式は、シンボル当たりの可搬情報量が少なくなる傾向にある。つまり、スループットと対ノイズ耐性とは、トレードオフの関係にあり、一つの変調方式のみのサポートでは、環境変化に対して柔軟に対応することが一般に困難である。
【0005】
そこで、変調方式とコーディングレートとの複数の組(以後、変調クラスとする)によって、所要SNRが低いが可搬情報量も少ない変調クラスから、可搬情報量が多い代わりに所要SNRも高い変調クラスを、段階的に複数用意する。そして、現在のSNRが低い場合は、スループットを犠牲にする代わりに、所要SNRが低い変調方式を選択することにより場所率を向上させ、反対に、現在のSNRが高い場合は、所要SNRが高い変調方式を選択することによりスループットを向上させる、適応変調方式が有効になる。
【0006】
適応変調方式の採用にあたっては、例えば、対向通信装置から、受信SNRをフィードバックしてもらう方法がある。つまり、自装置の発射した電波の品質が対向通信装置においてどのように評価されるかは、電波を発射した自装置側では直接知ることが一般に困難である。そのため、当該電波を受信した対向通信装置からの送信信号に乗せて、直近の受信電波の品質をフィードバック情報として知らせてもらうことにより、次回以降の変調クラスを決定する適応変調を実現することができる。
【0007】
ここで、受信SNRは、デジタル通信ではSINR(signal interference noise ratio)を推定する信号品質として用いられることが多い。SINRは、送受信側から、送信信号の先頭付近に既知であるトレーニングシンボル信号列s(k)を付与して送信することにより、受信側において、受信信号列r(k)とs(k)とから求めることができる。ここで、kは、シンボル長を示す。
【0008】
このようなトレーニングシンボル信号列は、信号の位置検出にも用いられることが多く、多くの場合、送信信号列全体の比較的先頭に近い部分に配置される。そして、受信側では、既知信号列sとの相関が最大となるような受信信号列rのサンプリング列r(t) を求めて、受信信号位置を確定する。ここで、tは、任意の時刻のサンプリングから始まるサンプリング列のインデックスを示す。
【0009】
また、適応変調方式では、一般に、発射する電波が、どの変調クラスであるかを簡単に判断できる識別子を与えるようにしている。つまり、送信側で適応的に変調クラスを変更した場合、受信側ではどの変調クラスが選択されたかを知ることができないと、可能性のある全ての変調クラスに対応する復調を実施してデコードを試みる必要がある。このような構成は、回路規模が大きくなるとともに、処理時間が多くかかるため、一般に実装することが困難である。
【0010】
これを回避するため、送信信号の一部に、固定の変調方式で変調され、冗長性を十分に確保したSNR耐性の高い情報シンボルを付与する方法がある。この方法では、受信側において、受信信号の主たるインフォメーションシンボルの復調に先立って、受信信号の一部の固定変調方式で構成される情報シンボルを復調およびデコードして、運搬された信号パターンを調査する。そして、当該信号パターンに対応付けられた変調クラスを、インフォメーションシンボルに用いられた変調クラスであるものとする。この方法によれば、回路規模の削減および処理時間の短縮を実現することが可能となる。
【0011】
このような変調クラスを通知するために、固定変調方式により変調されて付与された情報シンボルは、デコード後、送受信ともに実質的に既知のシンボル信号として再利用することが可能であり、その信号列からSINRを求めることが可能である。このような付加的な信号列は、特に送信信号列の先頭付近にある必要は無く、送信信号列全体の最後尾付近に配置することも可能である。
【0012】
また、デジタル無線通信では、一般に、伝送信号を時間に区切って送信している。この一区切りの伝送信号期間を、仮にバーストと呼ぶこととする。バーストの構成として、上述した理由により、先頭部分または最後尾部分、あるいはその両方に、受信側が既知とするトレーニングシンボル信号列を配置することが多い。
【0013】
図3は、デジタル無線通信における送信バーストの一例を示す図である。この送信バーストには、前方から後方に向かって、プリアンブルタイム、前方トレーニングシンボル、インフォメーションシンボル、後方トレーニングシンボル、ガードタイムが順次配置されている。プリアンブルタイムは、当該送信バーストより前に送受信されるバーストとの干渉回避およびランプアップのための時間である。前方トレーニングシンボルおよび後方トレーニングシンボルは、受信側が既知のシンボルである。特に、後方トレーニングシンボルは、極少ない情報運搬のために数種類のパターンが用意されることもある。
【0014】
インフォメーションシンボルは、ユーザデータを運搬するもので、任意の変調方式で変調されたシンボル信号である。このインフォメーションシンボルの変調方式は、トレーニングシンボルの変調方式と異なっていてもよく、一般にQAM方式等の伝送効率の良い変調方式が選択される。後方のガードタイムは、ランプダウンおよび当該送信バーストより後に送受信されるバーストとの干渉回避のための時間である。
【0015】
図3に示した構成の送信バーストを用いるデジタル無線通信において、受信信号からバーストを検出するには、先ず、受信したバースト分を含む信号列を前方から確認して、既知トレーニングシンボル信号列と相関が最大となるタイミングを検出する。そして、検出されたタイミングをトレーニングシンボル信号の先頭と仮定して、インフォメーションシンボル信号部分を取り出す。その後、インフォメーションシンボル信号に施されている変調方式に従って、インフォメーションシンボル信号を復調する。
【0016】
ここで、時刻xにおける送信信号に用いられる変調方式は、過去の送信から対向通信装置がフィードバックを行う受信信号品質から導くことになる。これは、極短時間内であれば、伝搬路の状況は変わらないであろうということを前提としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】High Capacity-Spatial Division Multiple Access (HC-SDMA) WTSC- 2005-032(ATIS/ANSI)”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、マルチパスフェージング環境下では、通信装置の移動速度が速くなってくると、単位時間当たりのフェージング変動量が大きくなるため、時間的コヒーレンスが保たれず、上述した前提が必ずしも成立しなくなる。そのため、自己の送信信号に対する対向通信装置からの受信品質のフィードバックに基づく変調クラスの設定が必ずしも適切ではない確率が高くなる。
【0019】
その結果、対向通信装置からの受信品質のフィードバックは良好であるにも関わらず、BER(bit error rate)が劣化して、通信品質およびスループットが低下することが懸念される。また、通信装置の移動速度がさらに速くなると、符号化率の高い変調クラスが選択された場合、ほとんど復調できなくなって、結果的にスループットが劣悪となる。
【0020】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、マルチパスフェージング環境下での通信品質およびスループットの低下を軽減できるデジタル無線通信装置およびデジタル無線通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成する第1の観点に係るデジタル無線通信装置の発明は、変調方式とコーディングレートとの組からなる複数の変調クラスから所要の変調クラスを適応的に選択して通信するデジタル無線通信装置であって、
対向通信装置からの受信信号に含まれる自装置からの送信信号に対する自己受信品質に関連する自己品質情報に基づいて、次の送信データの変調クラスを選択する変調クラス決定部と、
前記受信信号に基づいて前記対向通信装置に対する相手受信品質に関連する相手品質情報を作成する相手品質情報作成部と、
前記相手品質情報を前記対向通信装置に送信するために、前記変調クラス決定部で選択された変調クラスの変調方式により前記相手品質情報を変調する変調処理部と、
を備え、
前記相手品質情報作成部は、前記受信信号に含まれる非連続の既知の第1トレーニング信号および第2トレーニング信号に基づいて、それぞれ第1相手品質情報および第2相手品質情報を作成し、これら第1相手品質情報および第2相手品質情報に基づいて第3相手品質情報を作成し、
前記変調処理部は、前記第3相手品質情報を変調する、
ことを特徴とするものである。
【0022】
さらに、上記目的を達成する第2の観点に係るデジタル無線通信装置の発明は、変調方式とコーディングレートとの組からなる複数の変調クラスから所要の変調クラスを適応的に選択して通信するデジタル無線通信装置であって、
対向通信装置からの受信信号に含まれる自装置からの送信信号に対する自己受信品質に関連する自己品質情報に基づいて、次の送信データの変調クラスを選択する変調クラス決定部と、
前記受信信号に基づいて前記対向通信装置に対する相手受信品質に関連する相手品質情報を作成する相手品質情報作成部と、
前記相手品質情報を前記対向通信装置に送信するために、前記変調クラス決定部で選択された変調クラスの変調方式により前記相手品質情報を変調する変調処理部と、
を備え、
前記相手品質情報作成部は、前記受信信号に含まれる非連続の既知の第1トレーニング信号および第2トレーニング信号に基づいて、それぞれ第1相手品質情報および第2相手品質情報を作成し、
前記変調処理部は、前記第1相手品質情報および前記第2相手品質情報を変調し、
前記変調クラス決定部は、対向通信装置からの受信信号に含まれる第1自己品質情報および第2自己品質情報に基づいて前記変調クラスを選択する、
ことを特徴とするものである。
【0023】
第3の観点に係る発明は、第1の観点に係るデジタル無線通信装置において、
前記相手品質情報作成部は、前記第1相手品質情報と前記第2相手品質情報との比較に基づいて前記第3相手品質情報を作成する、
ことを特徴とするものである。
【0024】
第4の観点に係る発明は、第2の観点に係るデジタル無線通信装置において、
前記変調クラス決定部は、前記第1自己品質情報と前記第2自己品質情報との比較に基づいて前記変調クラスを選択する、
ことを特徴とするものである。
【0025】
さらに、上記目的を達成する第5の観点に係るデジタル無線通信方法の発明は、変調方式とコーディングレートとの組からなる複数の変調クラスから所要の変調クラスを適応的に選択して通信するデジタル無線通信方法であって、
変調クラス決定部により、対向通信装置からの受信信号に含まれる自装置からの送信信号に対する自己受信品質に関連する自己品質情報に基づいて、次の送信データの変調クラスを選択する第1ステップと、
相手品質情報作成部により、前記受信信号に基づいて前記対向通信装置に対する相手受信品質に関連する相手品質情報を作成する第2ステップと、
変調処理部により、前記相手品質情報を前記対向通信装置に送信するために、前記変調クラス決定部で選択された変調クラスの変調方式により前記相手品質情報を変調する第3ステップと、を含み、
前記第2ステップでは、前記受信信号に含まれる非連続の既知の第1トレーニング信号および第2トレーニング信号に基づいて、それぞれ第1相手品質情報および第2相手品質情報を作成し、これら第1相手品質情報および第2相手品質情報に基づいて第3相手品質情報を作成し、
前記第3ステップでは、前記第3相手品質情報を変調する、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、マルチパスフェージング環境下での通信品質およびスループットの低下を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるデジタル無線通信装置を用いる通信システムの一例を示す図である。
【図2】図1に示したデジタル無線通信装置の要部の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図3】デジタル無線通信における送信バーストの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施の形態にかかるデジタル無線通信装置を用いる通信システムの一例を示す図である。図1では、説明を簡便にするため、デジタル無線通信装置である一台の基地局10と、デジタル無線通信装置である一台の無線端末20とを示している。基地局10と無線端末20とは、無線リンクを介して接続されて無線通信する。ここでは、図3に示したバーストフォーマットに従って無線通信するものとする。したがって、図3の前方トレーニングシンボルは第1トレーニング信号に相当し、後方トレーニングシンボルは第2トレーニング信号に相当する。また、説明を簡便にするため、インフォメーションシンボルで運搬されるユーザデータは、後述するSINRフィードバックデータ(品質情報)のみであるものとする。
【0030】
図2は、図1に示したデジタル無線通信装置の要部の概略構成を示す機能ブロック図である。基地局10および無線端末20ともに同一の構成を有している。図2に示すデジタル無線通信装置は、アンテナ100、無線部200、アナログ/デジタル変換部(ADC)300、メモリ400、シンボル処理部500、およびデジタル/アナログ変換部(DAC)600を備える。
【0031】
シンボル処理部500は、受信シンボル処理部510、送信シンボル処理部530、既知前方トレーニングシンボル記憶部550、および既知後方トレーニングシンボル記憶部560を備える。受信シンボル処理部510は、最大相関タイミング検出部511、受信前方トレーニングシンボルSINR推定部512、インフォメーションシンボル復調処理部513、後方トレーニングシンボルパターン推定部514、SINRフィードバックデータデコード部515、および受信後方トレーニングシンボルSINR推定部516を備える。
【0032】
また、送信シンボル処理部530は、前後SINR比較部531、SINRフィードバックデータ作成部532、変調クラス決定部533、インフォメーションシンボル変調処理部534、後方トレーニングシンボルパターン決定部535、後方トレーニングシンボル付与部536、および、前方トレーニングシンボル付与部537を備える。なお、シンボル処理部500は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、各処理に特化した専用のプロセッサ、例えばDSP(デジタルシグナルプロセッサ) によって構成したりすることができる。
【0033】
図2において、アンテナ100から入射した受信信号は、無線部200で処理された後、ADC300により適時サンプリングされてデジタル信号に変換され、メモリ400に格納される。
【0034】
受信シンボル処理部510において、最大相関タイミング検出部511は、メモリ400に格納された最新の受信信号列と、既知前方トレーニングシンボル記憶部550に記憶されている既知の前方トレーニングシンボルとの相関を比較する。そして、最大相関タイミング検出部511は、相関値が任意の閾値以上になった場合、これ以降の信号を受信バーストであるものとして、アンテナ100からの受信信号のサンプリング列を受信バーストサンプリング信号列としてメモリ400に格納する。
【0035】
さらに、最大相関タイミング検出部511は、メモリ400に格納された受信バーストサンプリング信号列の前方トレーニングシンボル長部分と既知信号列とをタイミング毎にずらしながら比較して最大相関タイミングを検出する。実際には、インデックスをずらしてそれぞれの入力信号の開始位置とすることで、同じメモリの受信バーストサンプリング信号列を用いる。
【0036】
各受信バーストサンプリング信号列は、必要に応じてオーバーサンプリング処理された後、前方トレーニングシンボル、インフォメーションシンボル、後方トレーニングシンボルの3系統に分けられる。前方トレーニングシンボルは、受信前方トレーニングシンボルSINR推定部512に供給される。そして、受信前方トレーニングシンボルSINR推定部512において、既知前方トレーニングシンボル記憶部550に記憶されている既知前方トレーニングシンボルに基づいて、受信前方トレーニングシンボルSINRが推定される。この受信前方トレーニングシンボルSINRは、対向通信装置に対する相手受信品質に関連する第1相手品質情報に相当する。
【0037】
インフォメーションシンボルは、インフォメーションシンボル復調処理部513において、後述する後方トレーニングシンボルパターン推定部514で推定された既知後方トレーニングシンボルに対応する変調クラスで復調される。これにより、インフォメーションシンボルが正しく復調されると、その復調出力は、SINRフィードバックデータデコード部515に供給されて、SINRフィードバックデータがデコードされる。このデコードされたSINRフィードバックデータは、対向通信装置からの当該通信装置への前回の送信データの受信SINRのレポート(フィードバックデータ)として位置づけられる。つまり、自己受信品質に関連する自己品質情報に相当する。
【0038】
後方トレーニングシンボルは、先ず、後方トレーニングシンボルパターン推定部514に供給されて、既知後方トレーニングシンボル記憶部560に記憶されている変調クラス毎の既知後方トレーニングシンボルとの相関が逐次調べられる。そして、相関最大となる既知後方トレーニングシンボルパターンが、受信後方トレーニングシンボルであると推定されて、その変調クラスがインフォメーションシンボル復調処理部513に供給される。なお、インフォメーションシンボルの後方に情報を運搬する部位を持ち、この部位は、変調クラスを表すものとして機能するようにしてもよく、復調後は既知後方トレーニングシンボルの代用としてもよい。
【0039】
その後、後方トレーニングシンボルは、受信後方トレーニングシンボルSINR推定部516に供給される。そして、受信後方トレーニングシンボルSINR推定部516において、既知後方トレーニングシンボル記憶部560に記憶されている既知後方トレーニングシンボルに基づいて、受信後方トレーニングシンボルSINRが推定される。この受信後方トレーニングシンボルSINRは、対向通信装置に対する相手受信品質に関連する第2相手品質情報に相当する。
【0040】
一方、対向通信装置に対してSINRフィードバックデータを送信する場合は、送信シンボル処理部530において、以下の制御が行われる。先ず、前後SINR比較部531において、受信シンボル処理部510の受信前方トレーニングシンボルSINR推定部512で推定された受信前方トレーニングシンボルSINRと、受信後方トレーニングシンボルSINR推定部516で推定された受信後方トレーニングシンボルSINRとが比較される。その比較結果は、SINRフィードバックデータ作成部532に供給される。
【0041】
SINRフィードバックデータ作成部532は、前後SINR比較部531からの比較結果に基づいて、下記の表からSINRフィードバックデータとして送信すべきSINR値(第3相手品質情報に相当)を作成する。したがって、受信前方トレーニングシンボルSINR推定部512、後方トレーニングシンボルパターン推定部514、受信後方トレーニングシンボルSINR推定部516、前後SINR比較部531、および、SINRフィードバックデータ作成部532は、相手品質情報作成部を構成している。
【0042】
【表1】

【0043】
上記表で求められるSINRは、受信前方トレーニングシンボルSINRと、受信後方トレーニングシンボルSINRとの差が少ない場合は、SINRの小さい方が採用される。また、受信前方トレーニングシンボルSINRと、受信後方トレーニングシンボルSINRの差が大きい場合は、SINRの小さい方が採用されるとともに、更に低い変調クラスが選択されるようにオフセットが差し引かれるように配置されている。
【0044】
また、SINRフィードバックデータデコード部515でデコードされた対向通信装置からのSINRフィードバックデータは、変調クラス決定部533に供給される。そして、変調クラス決定部533において、SINRフィードバックデータに基づいて、次の送信バーストにおけるインフォメーションシンボルに変調クラスが選択される。次の表は、本実施の形態に係るデジタル無線通信装置においてサポートする変調クラスと、変調クラス毎の諸元の一例である。本実施の形態では、若い番号の変調クラス程、所望SINRが少なく、かつデータレートが少なくなるように配置されている。
【0045】
【表2】

【0046】
変調クラス決定部533は、上記表中の変調クラスと所望SINRとの対を記憶しており、デコードされたSINRフィードバックデータの値を変調クラスの若い順に対応する所望SINRと比較して、所望SINRを満たす最も大きい番号の変調クラスを選択する。この選択された変調クラスは、インフォメーションシンボル変調処理部534および後方トレーニングシンボルパターン決定部535に供給される。後方トレーニングシンボルパターン決定部535は、既知後方トレーニングシンボル記憶部560に記憶されている変調クラス毎の既知後方トレーニングシンボルから対応する変調クラスの後方トレーニングシンボルパターンを決定して、その決定した後方トレーニングシンボルパターンを後方トレーニングシンボル付与部536に供給する。
【0047】
そして、SINRフィードバックデータ作成部532で作成された対向通信装置に対する送信インフォメーションシンボルは、インフォメーションシンボル変調処理部534において、変調クラス決定部533で決定された変調クラスに対応する変調方式で変調される。その後、後方トレーニングシンボル付与部536において、送信インフォメーションシンボルに、後方トレーニングシンボルパターン決定部535で決定された変調クラスに対応する後方トレーニングシンボルが付与され、さらに、前方トレーニングシンボル付与部537において、既知前方トレーニングシンボル記憶部550に記憶されている前方トレーニングシンボルが付与される。
【0048】
その後、前方トレーニングシンボルおよび後方トレーニングシンボルが付与された送信インフォメーションシンボルは、DAC600でアナログ信号に変換され、さらに無線部200で無線信号に変換されてアンテナ100から輻射される。
【0049】
以上のように、本実施の形態に係るデジタル無線装置は、受信信号から当該受信信号に含まれるインフォメーションシンボルの変調方式を推定し、かつインフォメーションシンボルにデコードされているSINRフィードバックデータを取得する。これにより、前回当該通信装置が送信した送信信号の対向通信装置におけるSINRを知ることができる。
【0050】
また、前方トレーニングシンボルから推定したSINRと後方トレーニングシンボルから推定したSINRとの差が大きい場合は、より所要SINRが低い変調クラスが選択される。これにより、マルチパスフェージング環境下での高速移動通信によるBERの低下を抑えることができるので、結果として、通信品質およびスループットの低下を軽減することができる。また、マルチパス環境下であっても、停止もしくは歩行レベルでの移動速度であって、時間あたりのフェージング変動の少ない状況下では、よりデータレートの優れた変調クラスが選択されるので、スループットをより向上することができる。
【0051】
本発明の他の実施の形態に係るデジタル無線通信装置では、図2に示したデジタル無線通信装置において、受信前方トレーニングシンボルSINR推定部512で推定した受信前方トレーニングシンボルSINRと、受信後方トレーニングシンボルSINR推定部516で推定した受信後方トレーニングシンボルSINRとを、前後SINR比較部531およびSINRフィードバックデータ作成部532を介することなく、インフォメーションシンボル変調処理部534に供給して、対向無線装置にフィードバックする。
【0052】
また、対向通信装置から送信されてSINRフィードバックデータデコード部515でデコードされた自己の受信前方トレーニングシンボルSINR(第1自己品質情報に相当)と受信後方トレーニングシンボルSINR(第2自己品質情報に相当)とを比較し、その比較結果に基づいて変調クラス決定部533において送信における変調クラスを選択する。その際、上記実施の形態の場合と同様にして、比較結果にオフセットを与えて変調クラスを選択する。これにより、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変形または変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 基地局
20 無線端末
100 アンテナ
200 無線部
300 アナログ/デジタル変換部(ADC)
400 メモリ
500 シンボル処理部
510 受信シンボル処理部
511 最大相関タイミング検出部
512 受信前方トレーニングシンボルSINR推定部
513 インフォメーションシンボル復調処理部
514 後方トレーニングシンボルパターン推定部
515 SINRフィードバックデータデコード部
516 受信後方トレーニングシンボルSINR推定部
530 送信シンボル処理部
531 前後SINR比較部
532 SINRフィードバックデータ作成部
533 変調クラス決定部
534 インフォメーションシンボル変調処理部
535 後方トレーニングシンボルパターン決定部
536 後方トレーニングシンボル付与部
537 前方トレーニングシンボル付与部
550 既知前方トレーニングシンボル記憶部
560 既知後方トレーニングシンボル記憶部
600 デジタル/アナログ変換部(DAC)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調方式とコーディングレートとの組からなる複数の変調クラスから所要の変調クラスを適応的に選択して通信するデジタル無線通信装置であって、
対向通信装置からの受信信号に含まれる自装置からの送信信号に対する自己受信品質に関連する自己品質情報に基づいて、次の送信データの変調クラスを選択する変調クラス決定部と、
前記受信信号に基づいて前記対向通信装置に対する相手受信品質に関連する相手品質情報を作成する相手品質情報作成部と、
前記相手品質情報を前記対向通信装置に送信するために、前記変調クラス決定部で選択された変調クラスの変調方式により前記相手品質情報を変調する変調処理部と、
を備え、
前記相手品質情報作成部は、前記受信信号に含まれる非連続の既知の第1トレーニング信号および第2トレーニング信号に基づいて、それぞれ第1相手品質情報および第2相手品質情報を作成し、これら第1相手品質情報および第2相手品質情報に基づいて第3相手品質情報を作成し、
前記変調処理部は、前記第3相手品質情報を変調する、
ことを特徴とするデジタル無線通信装置。
【請求項2】
変調方式とコーディングレートとの組からなる複数の変調クラスから所要の変調クラスを適応的に選択して通信するデジタル無線通信装置であって、
対向通信装置からの受信信号に含まれる自装置からの送信信号に対する自己受信品質に関連する自己品質情報に基づいて、次の送信データの変調クラスを選択する変調クラス決定部と、
前記受信信号に基づいて前記対向通信装置に対する相手受信品質に関連する相手品質情報を作成する相手品質情報作成部と、
前記相手品質情報を前記対向通信装置に送信するために、前記変調クラス決定部で選択された変調クラスの変調方式により前記相手品質情報を変調する変調処理部と、
を備え、
前記相手品質情報作成部は、前記受信信号に含まれる非連続の既知の第1トレーニング信号および第2トレーニング信号に基づいて、それぞれ第1相手品質情報および第2相手品質情報を作成し、
前記変調処理部は、前記第1相手品質情報および前記第2相手品質情報を変調し、
前記変調クラス決定部は、対向通信装置からの受信信号に含まれる第1自己品質情報および第2自己品質情報に基づいて前記変調クラスを選択する、
ことを特徴とするデジタル無線通信装置。
【請求項3】
前記相手品質情報作成部は、前記第1相手品質情報と前記第2相手品質情報との比較に基づいて前記第3相手品質情報を作成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のデジタル無線通信装置。
【請求項4】
前記変調クラス決定部は、前記第1自己品質情報と前記第2自己品質情報との比較に基づいて前記変調クラスを選択する、
ことを特徴とする請求項2に記載のデジタル無線通信装置。
【請求項5】
変調方式とコーディングレートとの組からなる複数の変調クラスから所要の変調クラスを適応的に選択して通信するデジタル無線通信方法であって、
変調クラス決定部により、対向通信装置からの受信信号に含まれる自装置からの送信信号に対する自己受信品質に関連する自己品質情報に基づいて、次の送信データの変調クラスを選択する第1ステップと、
相手品質情報作成部により、前記受信信号に基づいて前記対向通信装置に対する相手受信品質に関連する相手品質情報を作成する第2ステップと、
変調処理部により、前記相手品質情報を前記対向通信装置に送信するために、前記変調クラス決定部で選択された変調クラスの変調方式により前記相手品質情報を変調する第3ステップと、を含み、
前記第2ステップでは、前記受信信号に含まれる非連続の既知の第1トレーニング信号および第2トレーニング信号に基づいて、それぞれ第1相手品質情報および第2相手品質情報を作成し、これら第1相手品質情報および第2相手品質情報に基づいて第3相手品質情報を作成し、
前記第3ステップでは、前記第3相手品質情報を変調する、
ことを特徴とするデジタル無線通信方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−106067(P2013−106067A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246461(P2011−246461)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】