デトネータ、燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置、および構造体
【課題】 デトネータ、燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置、および構造体を提供する。
【解決手段】 本発明のデトネータ12は、壁により外部から分離され壁の内側面32に乱流形成構造体34が一体に形成された燃焼室20と、燃焼室20に形成され燃焼ガスを放出するための開放端24とを備えている本発明の乱流形成構造体34は、長手軸A方向に沿って延びた螺旋状の突条とされている。本発明は、また、デトネータ12を使用する燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置、および構造体を提供し、航空宇宙用途、船舶用途、およびガスタービンに適用することができる。
【解決手段】 本発明のデトネータ12は、壁により外部から分離され壁の内側面32に乱流形成構造体34が一体に形成された燃焼室20と、燃焼室20に形成され燃焼ガスを放出するための開放端24とを備えている本発明の乱流形成構造体34は、長手軸A方向に沿って延びた螺旋状の突条とされている。本発明は、また、デトネータ12を使用する燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置、および構造体を提供し、航空宇宙用途、船舶用途、およびガスタービンに適用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼から発生する熱エネルギーを機械エネルギーに変換する技術に関し、より詳細には、デトネーション現象を使用した燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置および構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
デトネーション(爆轟)とは、火薬、可燃性の液体、可燃性ガスなどが燃焼する場合の、反応面のその法線方向への伝搬速度が、音速よりも早い条件で伝搬する燃焼現象のことを意味する。デトネーションは、燃焼により発生した衝撃波と、衝撃波により誘起された燃焼波が一体となって、衝撃波面が約1000〜3000m/sの超音速で伝搬して行く現象であり、伝搬速度の速さから定容過程および断熱過程として捉えることができ、極めて熱的に高い効率を有している。
【0003】
図11には、パルスデトネーションを使用して、航空宇宙用のエンジンとした場合の他のエンジンとパルスデトネーション・エンジン(以下、PDEとして参照する。)との特性比較を示す。PDEは、デトネーションを間欠的に発生させ、衝撃波の進行方向に形成された開口から衝撃波を放出させることにより、極めて高い速度および燃焼ガス膨張が発生し、推進力を得ることができる。図11に示されるようにPDEは、効率が、ジェットエンジンやロケットエンジンよりも高く、また推力もMPDスラスタ(Magneto-Plasma Dynamic Thruster)や、イオンエンジンなどの電気的推進装置よりも高いと考えられている。図11に示した航空宇宙用途の他にも、デトネーションを生じさせる装置(以下、デトネータとして参照する。)は、デトネータに相対する装置に対して並進運動、回転運動などの運動を与えるためのエネルギー変換装置として高い期待が寄せられている。
【0004】
上述したデトネーションの発生機構を説明すると、まずイグニッションにより発生した衝撃波が、燃料ガス中を通過し、通過後に衝撃波により高温高圧となった燃料ガスの化学反応により発生した圧縮波が複合して衝撃波のエネルギーが増強されてゆく。そして、衝撃波のエネルギーが衝撃波の通過とほぼ同時に火炎を生じさせることが可能なエネルギーまで補強され、最終的に衝撃波と火炎とが一体となったデトネーションが生成される。このために必要な時間および距離を以下、それぞれDDT(Deflagration to Detonation Time)およびDDL(Deflagration to Detonation
Length)として参照する。したがって、デトネーションを効率的に生成させることは、DDTおよびDDLを短縮させることとなり、デトネータのコンパクト化を可能とすると共に、デトネータ内でデトネーションを確実に発生させることは、エネルギー変換装置としての信頼性を向上させると考えられる。デトネーションを安定して確実に発生させるためには、デトネータ内で平滑な層流火炎として形成された燃焼の火炎面で生じた複数の圧縮波を反射させ、互いに増強することを効率化させるための乱流火炎を効率よく生成させることが必要である。
【0005】
デトネータは、通常、壁により取り囲まれた空間により画成される燃焼室を有している。上述した乱流火炎を形成させるために、従来では、デトネータ内に、スプリング形状の乱流形成構造体、所謂、Schelkin spiralが挿入される。上述した従来の乱流形成構造体を使用してデトネーションを連続パルスとして発生させることにより連続的な推進力を発生させる場合について考えると、従来の乱流形成構造体は、デトネータと構造的に分離されているので、壁との接触面積の低さ、連続的なデトネーションに曝されている間の熱膨張係数の相違などの原因により、外部から熱的に孤立してしまうことが考えられる。乱流形成構造体が、外部からの冷却と切り離された状態でデトネーションに長時間曝されると、材料の劣化や変形などが発生し、最終的には、ジェットエンジンなどにおける吹き消え(blow-out)に相当するデトネーションの消失を生じることになる。
【0006】
デトネーションを使用した推進装置としては、例えば、特開2004−306668号公報(特許文献1)において、デトネーションを使用した垂直離着陸装置が開示されている。特許文献1で開示された装置は、デトネーションを使用することにより、垂直離着陸飛行を可能とすることについては開示するものの、ホバリングなどを行うことを目的とした姿勢制御などに関し、デトネータ内の詳細な構成については何ら開示するものではない。
【0007】
したがって、これまでデトネーションを使用して連続的に熱−機械エネルギーの変換を行うためには、外部との熱交換を確実に行うことができる乱流形成機構を備えたデトネータが必要とされていた。
【特許文献1】特開2004−306668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、本発明は、連続的にパルス駆動されるパルスデトネーションにおいても、外部と確実に熱的接続を可能とする乱流形成構造体を含むデトネータ、燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置、および構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を加えた結果、デトネータの内壁面に突起を設けることにより効率的にデトネーションを生成させることを見出し、本発明に至ったものである。すなわち、本発明では、乱流を効率的に形成させるためにデトネータの内壁に沿って延びた突起を設ける。この突起は、デトネータの内壁と一体として形成されている。このため、デトネータ内で連続的なパルスデトネーションが発生しても、良好な冷却ができ、デトネータと乱流形成構造体との熱膨張の差などによる乱流形成構造体の熱的孤立を排除することが可能となる。また、デトネータに冷却構造が設けられた場合には、デトネータの壁からの直接的な乱流形成構造体の冷却も可能となり、連続的なパルスデトネーションによる機械的エネルギー抽出を安定に行うことを可能とする。
【0010】
すなわち、本発明によれば、酸化剤としての酸素または空気と燃料としての水素ガスとを含む燃料ガスのデトネーションを生成するデトネータであって、前記デトネータは、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、デトネータが提供される。本発明の前記デトネータは、パルス駆動することができる。
【0011】
さらに本発明によれば、燃料ガスのデトネーションを生成するためのパルス燃焼器であって、前記燃焼器は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えたデトネータと、
前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、
前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと
を備え、前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを機械的エネルギーに変換するエネルギー変換装置であって、前記エネルギー変換装置は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える、エネルギー変換装置が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを並進エネルギーに変換する推進装置であって、前記推進装置は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える推進装置が提供される。前記機械的エネルギーは、並進エネルギーまたは回転エネルギーとすることができる。
【0014】
さらに、本発明によれば、燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを機械的エネルギーに変換するエネルギー変換装置を含む構造体であって、前記構造体は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える構造体が提供される。
【0015】
前記構造体は、宇宙航空機、船舶、またはガスタービンとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、本発明によれば、連続的なパルスデトネーションを効率的に生成することができ、かつ乱流形成構造体の冷却を保証することで連続的なパルスデトネーションをより安定化させることを可能とする。したがって、本発明によれば、パルスデトネーションに適したデトネータ、およびこのデトネータを使用した燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置および構造体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明で用いるデトネーションを用いたエネルギー変換装置を示した図。
【図2】本発明の熱機械エネルギー変換装置10の動作サイクルを示した図。
【図3】本発明のデトネータの構造を、デトネータの一部を切り欠いて示した斜視図。
【図4】本発明のデトネータ12の一部を拡大して示した断面図。
【図5】本発明のデトネータの特性を検討するために使用した基本的な実験装置を示した図。
【図6】本発明により生成された燃焼により生じた圧力変化を、点火プラグからの距離に対して測定した結果を示した図。
【図7】観測用デトネータから観測された衝撃波の進行のイメージ・データを示した図。
【図8】実験例4(比較例)について得られた圧力変化データを示した図。
【図9】実験例4(比較例)について観測用デトネータから観測された衝撃波の進行のイメージ・データを示した図。
【図10】実験例1および実験例4(比較例)で得られた衝撃波面の伝搬速度を、点火プラグからの距離に対してプロットした図。
【図11】パルスデトネーションを使用して、航空宇宙用のエンジンとした場合の他のエンジンとパルスデトネーション・エンジンとの特性比較を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明のデトネーションを用いたエネルギー変換装置を示した図である。本発明のエネルギー変換装置10は、ステンレススチール、ジュラルミン、チタン合金、ニッケル超合金などの耐熱性材料から形成されたデトネータ12と、デトネータ12の内部に燃料を供給するための燃料供給機構14と、燃焼のための酸化剤を導入するための酸化剤供給機構16と、燃料−酸化物混合気を点火するためのイグナイタ18とを含んでいる。デトネータ12は、概ね円筒管として構成されており、その内部に燃焼室20を形成している。燃焼室20を形成する壁の内側面には、壁と一体として形成される図示しない乱流形成構造体が形成されている。さらにデトネータ12には、燃料供給機構14および酸化剤供給機構16に近接した端部が閉塞され、閉塞端部の中心付近にイグナイタ18が配設されている。また、閉塞端部に対向する側の端部は、開放されていて、衝撃波をデトネータ12の外部へと放出させ、熱エネルギーを機械的な並進エネルギーへと変換する。
【0020】
本発明で使用することができる燃料としては、可燃性のガスまたは液体または分散液を噴霧させて形成された気体、またはエアロゾルなどのいかなる気体でも用いることができ、例えば、水素ガス(H2)、天然ガス、メタン、エタン、プロパンなどの気体炭化水素化合物、ガソリン、灯油、ナフサ、ケロシンなどの汎用または航空機用の液体炭化水素化合物などを挙げることができる。また、本発明で用いることができる酸化剤としては、酸素ガス(O2)、空気、オゾン、硝酸ナトリウム溶液または分散液、塩素酸、過塩素酸塩溶液または分散液などを用いることができる。上述した燃料および酸化剤としては、特に限定されることなく本発明で使用することができるが、環境的な負荷を考慮すると、燃料としては水素ガスを使用し、酸化剤としては、酸素ガスまたは空気を使用することが好ましい。
【0021】
イグナイタ18は、スパークギャップを使用して着火を行う方式、プラズマを発生させて着火する方式、レーザを照射して着火する方式など、デトネーションを発生させるための初期火炎を生成させることができる限り、いかなる方式のイグナイタ18でも用いることができる。また、本発明の燃料供給機構および酸化剤導入機構としては、例えば、使用温度に応じた材料から製造されるソレノイド式の噴射バルブを使用することができる。
【0022】
図2は、本発明の熱機械エネルギー変換装置10の動作サイクルを示した図である。図2に示すように、まず、デトネータ12内に燃料および酸化剤が噴射され(図2(a))、その後、イグナイタ18により燃料−酸化剤の混合ガス22が着火され初期火炎が生成される(図2(b))。生成した初期火炎は、乱流形成構造体(図示せず)により複数の圧縮波が互いに増強し合い、衝撃波のエネルギーを高めながら開放端24に向かって伝搬してゆく(図2(c))。その後、図2(b)で生成した火炎がデトネーションまで進行した後、図2(d)に示すように、燃焼ガスが開放端24から放出され、並進エネルギーへと熱エネルギーが変換される。その後、図2に示したサイクルは、再度、図2(a)の状態とされ、以後、図2(b)〜図2(d)が連続的に繰り返されることで、連続的なパルスデトネーションが達成される。
【0023】
図3は、本発明のデトネータの構造を、デトネータの一部を切り欠いて示した斜視図である。図3に示したデトネータ12は、図3に示した実施の形態では、円筒管として形成されており、壁と、閉塞端26とにより画成される領域が燃焼室20を形成する。デトネータ12の閉塞端26に隣接した側には、燃料供給機構として使用されるパイプ28と酸化剤供給機構として使用されるパイプ30と、イグナイタ18とが配設されている。デトネータ12の内側面32には、乱流形成構造体34が形成されている。図3に示した乱流形成構造体34は、内側面32から、デトネータ中心に向かって突出した突条とされており、この突条は、内側面32に沿って長手軸Aの方向に螺旋状に延ばされている。イグナイタ18により生成された火炎は、閉塞端26から開放端24へと進行して行き、その間に乱流形成構造体34により生成した圧縮波は、デトネータ中心側へと反射され、デトネーションを生成する。
【0024】
図3に示した乱流形成構造体34は、連続した突条とされているが、本発明では、突条の他、突条をその延長方向に分離した突起として形成することもできる。この場合、突起は、螺旋の進行方向に沿って配置されることになる。本発明では、乱流形成構造体34を突起として形成させる場合には、必ずしも螺旋条に配置することは必要ではなく、例えばデトネータ12の長手軸Aに直交する円周方向に沿って突起を形成させ、突起を長手軸Aの方向に沿って等間隔または不均一間隔で配置することもできるし、千鳥状に配置することもできる。
【0025】
図4は、本発明のデトネータ12の一部を拡大して示した断面図である。図4に示す実施の形態では、デトネータ12は、円筒管から形成され、一端には、イグナイタが接続されたフランジを取り付けるためのフランジを配設することができる。図4に示したデトネータ12の長手軸A方向に向いた開放端には、接続フランジを配設することができるし、本発明を航空機推進用のエンジンとして適用する場合には、デトネータ12の開放端に隣接して、これまで知られたいかなるノズルでも形成させることができる。
【0026】
図4に示すデトネータ12の内側面32から突出する乱流形成構造体34は、内面に沿って螺旋状に形成された突条36を形成する。特定の実施の形態では、突条36または他の実施の形態では突起として形成される乱流形成構造体34は、デトネータ12の内壁と一体として形成することが、熱的安定性を与える点で好ましい。この突条36の寸法は、本発明の特定の実施の形態では、内側面32から見た高さhが、デトネータ内径の約10%とされている。さらに、突条36の厚さtは、デトネータの各端部の間の長さの約0.5%〜1%とされている。本発明では、突条36の寸法には、適切なデトネーションを形成させることができる限り、特に限定されるものではないが、内側面32から測った高さhは、デトネータの内径の5%〜50%とすることができ、より好ましくは、7.5%〜50%とすることができる。また、突条36の厚さtは、0.5%以上であれば、適切な強度を与える限り特に限定されるものではない。
【0027】
さらに、本発明の乱流形成構造体は、螺旋状に配置される場合でも、また、長手軸Aに直交する円周に沿って配置される場合でも、突条または突起の配置されるピッチは、デトネーションを生成するまでのDDTおよびDDLを適切な値に保持することができる限り、特に限定されない。また、本発明においては、乱流形成構造体を設けたデトネータと、従来のSchelkin spiralを初期乱流形成構造体として使用するデトネータとを組み合わせて使用することもできる。本発明の図3および図4で示した本発明のデトネータに形成される乱流形成構造体34は、円筒管の内側面を切削加工することより製造することができる。また、本発明の他の実施の形態では、デトネータ12の壁に対して熱的に安定して一体化できるのであれば、乱流形成構造体を、デトネータと別に形成しておき、内側面に対してロウ付け、溶接、熔着などいかなる方法で、乱流形成構造体を壁に対して一体化させることもできる。
【0028】
本発明の乱流形成構造体には、デトネータの壁を通して外部と連通した冷却通路を設けることもできる。乱流形成構造体に冷却機構を設ける場合には、例えば、デトネータの外側面に開口部を設け、この開口部に連通する冷却通路を壁を通して乱流形成構造体にまで延ばす構成とすることができる。乱流形成構造体に達した冷却通路は、乱流形成構造体内で再度、外側面側へと屈曲され、壁内を通して次の乱流形成構造体へと延びて、空気や、その他の冷却媒体を長手軸A方向に隣接する別の突条または突起へと導くことができる。この場合、冷却通路のさらに下流側の適切な位置に、冷却媒体を吐出するための外側面に向かって開いた開口を、冷却通路に隣接して設けておくことができる。
【0029】
本発明のデトネータを含むエネルギー変換装置は、航空宇宙用のエンジン、船舶用エンジン、およびタービンなどに適用することができる。本発明のエネルギー変換装置を、推進装置として航空機に適用する場合には、燃料として水素ガスやケロシンといった燃料を使用することができ、酸化剤としては、酸素、空気などを使用することができる。デトネータの内側面には、本発明に従い、乱流形成構造体が形成されていて、安定したデトネーション形成を可能とする。また、推進装置として使用する場合には、PDEを複数並列的に使用して、例えば、1つのデトネータが故障した場合にでも、最低の推力または推進力を得ることができる構成として、安定した推進力を継続的に得ることができる配置として使用することが好ましい。
【0030】
また、本発明のエネルギー変換装置を船舶の推進装置として使用する場合には、本発明のデトネータを含む推進装置を船舶の喫水線以上の高さに配置して、船底に設けたノズルから、水中へと燃焼ガスを噴出させることにより、船舶の推進力を生成させる。さらに、発明のデトネータは、燃焼器としての適用でき、本発明のデトネータを用いた燃焼器は、航空機用のガスタービンエンジンまたは発電用タービンのための燃焼チャンバとして使用することができる。
【0031】
本発明を発電用タービンに適用する場合には、本発明の燃焼器は、中心軸から径方向外側に向かって突出したロータベーンを含むロータ段に向かって燃焼ガスを噴射し、燃焼ガスの並進エネルギーを回転エネルギーへと変換させる。中心軸は、発電機に連結されており、発電機へと回転エネルギーを伝達させ、発電のために使用される。上述した本発明のデトネータを使用した構造体は、いずれの場合でも上述した燃料を使用して運転することができるが、環境負荷の点を考慮すれば、燃料としては、水素ガスを使用し、酸化剤としては空気を使用することが好ましい。
【0032】
以下、本発明のデトネータについて、実施例を使用してさらに詳細に説明を行うが、本発明は後述する実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
(実験装置)
図5には、本発明のデトネータの特性を検討するために使用した基本的な実験装置を示す。実験装置40は、概ね、本発明のデトネータ42と、矩形デトネータ44と、観測用チャンバ46と、ダンパ容器48とを含んで構成されており、それぞれが、接続フランジ50で連結されて、真空ポンプなどにより排気可能とされている。デトネータ42には、本発明に従い、乱流形成構造体が内壁面に一体として形成されている。また、矩形デトネータ44は、本発明のデトネータ42から後のデトネーション特性を観測するために設けられており、観測窓52と、複数の圧力トランスデューサ54とが設けられている。矩形デトネータ44の下流側には、観測用チャンバ46が配設されていて、矩形デトネータ44の下流側でのデトネーション特性が観測される。観測用チャンバ46にも観測窓56と複数の圧力トランスデューサ58とが配設されている。また、本発明では、本発明のデトネータを1本ではなく、例えば2本以上の数を直列的にまたは並列的に連結して使用することもできる。
【0034】
また、観測用チャンバ46のさらに下流側には、反射衝撃波を排除するためのダンパ容器48が配設されている。ダンパ容器48の入口部分には、約101.325kPaの圧力差に耐えることができる、厚さ約250μmのマイラ膜(図示せず)が取り付けられている。マイラ膜は、デトネーションにより発生した衝撃波により破られて、真空に排気されたダンパ容器に進行し、そのエネルギーを解放させることにより反射衝撃波による測定系の攪乱を排除するために設けられている。なお、本発明では、衝撃波を受けて破壊される強度を有している限り、マイラ膜以外にも、例えば、セロファン、金属フィルムや金属プレートなどを使用することができる。
【0035】
デトネーション発生実験の手順を簡単に説明すると、まず、燃料供給機構60および酸化剤供給機構62から燃料と酸化剤とをデトネータ42内に導入し、イグナイタ64をトリガ装置66によりトリガ信号を送って着火させる。デトネータ42内で生成した初期火炎は、デトネータ42内を伝搬し、圧縮波を重畳しながらそのエネルギーを増加させて行き、実験装置40の適切な位置で、デトネーション条件が達成される。生成した圧力変化は、圧力トランスデューサ54、58により観測され、コンピュータを含んで構成された圧力検出システム72により処理される。また、各圧力トランスデューサからの圧力信号は、オシロスコープ70によりモニタされる。オシロスコープ70は、デトネーションをイメージ観測するために観測窓52、56に隣接して配置されたディジタル・カメラDCをトリガして、燃焼状態の目視観測を可能とする。ディジタル・カメラDCにより取得されたイメージは、イメージング・システム68へと送られて、燃焼状態を、圧力変化データと共に解析することを可能としている。
【0036】
(実験例1)
A.図5に示した実験装置に対して、本発明のデトネータ(長さ250mm)を2本連結してデトネーション領域を形成した。燃料としては、水素ガスを使用し、酸化剤としては酸素ガスを使用し、空気をシミュレーションするために希釈ガスとして窒素ガスを用いた。実験例1で使用した燃料ガスの組成は、容量比でH2:O2:N2=2:1:3.76であった。希釈比は、55.6%とした(酸素の割合で空気のシミュレーションとした。)。また、燃料−酸素混合ガスは、デトネータ42から観測用チャンバ46までの間に定義される試験セクションを真空に排気した後に、101.325kPaの圧力となるように試験セクションに導入した。その後、6000Vの電圧を生成することができるギャップ型点火プラグで燃料ガスに点火した。点火後、生成した衝撃波の通過による圧力の変化を、PCB社製の圧力トランスデューサ(113A24)を使用してモニタし、ディジタル・カメラとしては、LAVISION社製(Nano Star)のICCDカメラを使用して、イメージ・データを測定した。ディジタル・カメラの条件は、露光:0.02μs、ゲイン40、輝度分解能4ビット〜8ビットであった。
【0037】
デトネータは、長さ(L)250mm、内径(φ)40mmの円筒管を2本直接接続して用いた。デトネータには、内壁面に、t=3mm(t/L=1.2%)、h=3mm(h/φ=7.5%)の内壁面に沿ってピッチp=15mmで形成された突条を、乱流形成構造体として形成した。
【0038】
B.結果
B−1:圧力変化
図6には、本発明により生成された燃焼により生じた圧力変化を、点火プラグからの距離に対して測定した結果を示す。点火プラグからの距離は、図6中、順に上から、625mm、685mm、745mm、995mm、1045mm、1095mmである。図6に示されるように、点火プラグの下流側625mmの地点で衝撃波の通過を示すデルタ関数的な圧力の立ち上がりが観測されているのが示唆され、本発明のデトネータにより、良好なデトネーションが生成されているのが示されている。また、図6中、最も下側のデータで示されるように、衝撃波の伝搬速度は、約1900m/sであり、充分に超音速にまで達していることが示された。
【0039】
B−2:イメージ・データ
図7には、観測用デトネータから観測された衝撃波の進行のイメージ・データを示す。図7では、圧力変化によりトリガされた後の10μsの遅延時間ごとに50μs後までの衝撃波面の進行の状況を示す。図7に示されるように、トリガ直後(0μs後)でも衝撃波面近傍に輝度の高い領域、すなわち、高温領域が存在していることが示されている。したがって、B−1で観測された急激な圧力変化と、火炎の最前面とは、一致しており、デトネーションが生成されたことが確認された。
【0040】
(実験例2)
燃料ガスとして、水素ガス、酸素ガス、および規約ガスとしてアルゴン(Ar)を使用して、混合比をH2:O2:Ar=2:1:3.76とし、希釈率を55.6%とし、101.325kPaの圧力で充填したことを除き実験例1と同様の実験を行ったところ、良好なデトネーションが生成できた。
【0041】
(実験例3)
実験例2と同一の組成の燃料ガスを用い、デトネータを1本(250mm)だけ使用して実験例1と同様の実験を行ったところ、良好なデトネーションが生成できた。
【0042】
(実験例4:比較例)
比較実験として、乱流形成構造体としてSchelkin spiral(線径3mm、ピッチ15mm、長さ500mmのスプリング形状)を使用して、実験例1と同様の実験を行った。図8には、得られた圧力変化データを示す。図8に示されるように、Schelkin
spiralを使用してもデトネーションの生成と考えられる急激な圧力変化は確認されたものの、実験例1に比較して圧力ピークの高さが低い結果が得られた。また、図9には、観測用デトネータから観測された衝撃波の進行のイメージ・データを示す。図9においても、圧力変化によりトリガされた後の10μsの遅延時間ごとに50μs後までの衝撃波面の進行の状況を示す。図9の、特に圧力変化直後(0μs)での衝撃波面の温度に着目すると、実験例1よりも明らかに温度が低くなっているのがわかる。また、それ以後のイメージを参照しても実験例1に比較して輝度の高い領域が少ない、すなわち低温であることが示されている。すなわち、本発明のデトネータの方が従来の乱流生成構造体よりも良好な燃焼効率を与えることが示された。
【0043】
C.衝撃波面の伝搬速度
図10には、実験例1および実験例4(比較例)で得られた衝撃波面の伝搬速度を、点火プラグからの距離に対するプロットを示す。図10中、■で示されたプロットが、本発明のデトネータを使用した場合の結果であり、◆で示されたデータがSchelkin spiralを使用した場合の比較例で得られた結果である。また、図10には、C−Jデトネーション理論による理論速度を示したラインを同時に示す。図10に示されるように、本発明のデトネータは、早い段階での衝撃波面の伝搬速度が比較例の伝搬速度よりも速く、より効率的なデトネーション生成が可能であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、効率的にデトネーションを生成することができる乱流形成構造体を有するデトネータ、デトネータ、燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置、および構造体が提供される。本発明のエネルギー変換装置は、例えば、航空宇宙用エンジン、船舶用推進器、ガスタービンエンジン用燃焼器、火力発電用タービン用燃焼器など、熱エネルギーを並進エネルギーまたは回転エネルギーに変換して使用するいかなる構造体などに対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
10…エネルギー変換装置、12…デトネータ、14…燃料供給機構、16…酸化剤供給機構、18…イグナイタ、20…燃焼室、22…混合ガス、24…開放端、26…閉塞端、28…パイプ、30…パイプ、32…内側面、34…乱流形成構造体、36…突条、40…実験装置、42…デトネータ、44…矩形(観測用)デトネータ、46…観測用チャンバ、48…ダンパ容器、50…接続フランジ、52…観測窓、54…圧力トランスデューサ、56…観測窓、58…圧力トランスデューサ、60…燃料供給機構、62…酸化剤供給機構、64…イグナイタ、66…トリガ装置、68…イメージング・システム、70…オシロスコープ、72…圧力検出システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼から発生する熱エネルギーを機械エネルギーに変換する技術に関し、より詳細には、デトネーション現象を使用した燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置および構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
デトネーション(爆轟)とは、火薬、可燃性の液体、可燃性ガスなどが燃焼する場合の、反応面のその法線方向への伝搬速度が、音速よりも早い条件で伝搬する燃焼現象のことを意味する。デトネーションは、燃焼により発生した衝撃波と、衝撃波により誘起された燃焼波が一体となって、衝撃波面が約1000〜3000m/sの超音速で伝搬して行く現象であり、伝搬速度の速さから定容過程および断熱過程として捉えることができ、極めて熱的に高い効率を有している。
【0003】
図11には、パルスデトネーションを使用して、航空宇宙用のエンジンとした場合の他のエンジンとパルスデトネーション・エンジン(以下、PDEとして参照する。)との特性比較を示す。PDEは、デトネーションを間欠的に発生させ、衝撃波の進行方向に形成された開口から衝撃波を放出させることにより、極めて高い速度および燃焼ガス膨張が発生し、推進力を得ることができる。図11に示されるようにPDEは、効率が、ジェットエンジンやロケットエンジンよりも高く、また推力もMPDスラスタ(Magneto-Plasma Dynamic Thruster)や、イオンエンジンなどの電気的推進装置よりも高いと考えられている。図11に示した航空宇宙用途の他にも、デトネーションを生じさせる装置(以下、デトネータとして参照する。)は、デトネータに相対する装置に対して並進運動、回転運動などの運動を与えるためのエネルギー変換装置として高い期待が寄せられている。
【0004】
上述したデトネーションの発生機構を説明すると、まずイグニッションにより発生した衝撃波が、燃料ガス中を通過し、通過後に衝撃波により高温高圧となった燃料ガスの化学反応により発生した圧縮波が複合して衝撃波のエネルギーが増強されてゆく。そして、衝撃波のエネルギーが衝撃波の通過とほぼ同時に火炎を生じさせることが可能なエネルギーまで補強され、最終的に衝撃波と火炎とが一体となったデトネーションが生成される。このために必要な時間および距離を以下、それぞれDDT(Deflagration to Detonation Time)およびDDL(Deflagration to Detonation
Length)として参照する。したがって、デトネーションを効率的に生成させることは、DDTおよびDDLを短縮させることとなり、デトネータのコンパクト化を可能とすると共に、デトネータ内でデトネーションを確実に発生させることは、エネルギー変換装置としての信頼性を向上させると考えられる。デトネーションを安定して確実に発生させるためには、デトネータ内で平滑な層流火炎として形成された燃焼の火炎面で生じた複数の圧縮波を反射させ、互いに増強することを効率化させるための乱流火炎を効率よく生成させることが必要である。
【0005】
デトネータは、通常、壁により取り囲まれた空間により画成される燃焼室を有している。上述した乱流火炎を形成させるために、従来では、デトネータ内に、スプリング形状の乱流形成構造体、所謂、Schelkin spiralが挿入される。上述した従来の乱流形成構造体を使用してデトネーションを連続パルスとして発生させることにより連続的な推進力を発生させる場合について考えると、従来の乱流形成構造体は、デトネータと構造的に分離されているので、壁との接触面積の低さ、連続的なデトネーションに曝されている間の熱膨張係数の相違などの原因により、外部から熱的に孤立してしまうことが考えられる。乱流形成構造体が、外部からの冷却と切り離された状態でデトネーションに長時間曝されると、材料の劣化や変形などが発生し、最終的には、ジェットエンジンなどにおける吹き消え(blow-out)に相当するデトネーションの消失を生じることになる。
【0006】
デトネーションを使用した推進装置としては、例えば、特開2004−306668号公報(特許文献1)において、デトネーションを使用した垂直離着陸装置が開示されている。特許文献1で開示された装置は、デトネーションを使用することにより、垂直離着陸飛行を可能とすることについては開示するものの、ホバリングなどを行うことを目的とした姿勢制御などに関し、デトネータ内の詳細な構成については何ら開示するものではない。
【0007】
したがって、これまでデトネーションを使用して連続的に熱−機械エネルギーの変換を行うためには、外部との熱交換を確実に行うことができる乱流形成機構を備えたデトネータが必要とされていた。
【特許文献1】特開2004−306668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、本発明は、連続的にパルス駆動されるパルスデトネーションにおいても、外部と確実に熱的接続を可能とする乱流形成構造体を含むデトネータ、燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置、および構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を加えた結果、デトネータの内壁面に突起を設けることにより効率的にデトネーションを生成させることを見出し、本発明に至ったものである。すなわち、本発明では、乱流を効率的に形成させるためにデトネータの内壁に沿って延びた突起を設ける。この突起は、デトネータの内壁と一体として形成されている。このため、デトネータ内で連続的なパルスデトネーションが発生しても、良好な冷却ができ、デトネータと乱流形成構造体との熱膨張の差などによる乱流形成構造体の熱的孤立を排除することが可能となる。また、デトネータに冷却構造が設けられた場合には、デトネータの壁からの直接的な乱流形成構造体の冷却も可能となり、連続的なパルスデトネーションによる機械的エネルギー抽出を安定に行うことを可能とする。
【0010】
すなわち、本発明によれば、酸化剤としての酸素または空気と燃料としての水素ガスとを含む燃料ガスのデトネーションを生成するデトネータであって、前記デトネータは、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、デトネータが提供される。本発明の前記デトネータは、パルス駆動することができる。
【0011】
さらに本発明によれば、燃料ガスのデトネーションを生成するためのパルス燃焼器であって、前記燃焼器は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えたデトネータと、
前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、
前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと
を備え、前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを機械的エネルギーに変換するエネルギー変換装置であって、前記エネルギー変換装置は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える、エネルギー変換装置が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを並進エネルギーに変換する推進装置であって、前記推進装置は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える推進装置が提供される。前記機械的エネルギーは、並進エネルギーまたは回転エネルギーとすることができる。
【0014】
さらに、本発明によれば、燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを機械的エネルギーに変換するエネルギー変換装置を含む構造体であって、前記構造体は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える構造体が提供される。
【0015】
前記構造体は、宇宙航空機、船舶、またはガスタービンとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、本発明によれば、連続的なパルスデトネーションを効率的に生成することができ、かつ乱流形成構造体の冷却を保証することで連続的なパルスデトネーションをより安定化させることを可能とする。したがって、本発明によれば、パルスデトネーションに適したデトネータ、およびこのデトネータを使用した燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置および構造体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明で用いるデトネーションを用いたエネルギー変換装置を示した図。
【図2】本発明の熱機械エネルギー変換装置10の動作サイクルを示した図。
【図3】本発明のデトネータの構造を、デトネータの一部を切り欠いて示した斜視図。
【図4】本発明のデトネータ12の一部を拡大して示した断面図。
【図5】本発明のデトネータの特性を検討するために使用した基本的な実験装置を示した図。
【図6】本発明により生成された燃焼により生じた圧力変化を、点火プラグからの距離に対して測定した結果を示した図。
【図7】観測用デトネータから観測された衝撃波の進行のイメージ・データを示した図。
【図8】実験例4(比較例)について得られた圧力変化データを示した図。
【図9】実験例4(比較例)について観測用デトネータから観測された衝撃波の進行のイメージ・データを示した図。
【図10】実験例1および実験例4(比較例)で得られた衝撃波面の伝搬速度を、点火プラグからの距離に対してプロットした図。
【図11】パルスデトネーションを使用して、航空宇宙用のエンジンとした場合の他のエンジンとパルスデトネーション・エンジンとの特性比較を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明のデトネーションを用いたエネルギー変換装置を示した図である。本発明のエネルギー変換装置10は、ステンレススチール、ジュラルミン、チタン合金、ニッケル超合金などの耐熱性材料から形成されたデトネータ12と、デトネータ12の内部に燃料を供給するための燃料供給機構14と、燃焼のための酸化剤を導入するための酸化剤供給機構16と、燃料−酸化物混合気を点火するためのイグナイタ18とを含んでいる。デトネータ12は、概ね円筒管として構成されており、その内部に燃焼室20を形成している。燃焼室20を形成する壁の内側面には、壁と一体として形成される図示しない乱流形成構造体が形成されている。さらにデトネータ12には、燃料供給機構14および酸化剤供給機構16に近接した端部が閉塞され、閉塞端部の中心付近にイグナイタ18が配設されている。また、閉塞端部に対向する側の端部は、開放されていて、衝撃波をデトネータ12の外部へと放出させ、熱エネルギーを機械的な並進エネルギーへと変換する。
【0020】
本発明で使用することができる燃料としては、可燃性のガスまたは液体または分散液を噴霧させて形成された気体、またはエアロゾルなどのいかなる気体でも用いることができ、例えば、水素ガス(H2)、天然ガス、メタン、エタン、プロパンなどの気体炭化水素化合物、ガソリン、灯油、ナフサ、ケロシンなどの汎用または航空機用の液体炭化水素化合物などを挙げることができる。また、本発明で用いることができる酸化剤としては、酸素ガス(O2)、空気、オゾン、硝酸ナトリウム溶液または分散液、塩素酸、過塩素酸塩溶液または分散液などを用いることができる。上述した燃料および酸化剤としては、特に限定されることなく本発明で使用することができるが、環境的な負荷を考慮すると、燃料としては水素ガスを使用し、酸化剤としては、酸素ガスまたは空気を使用することが好ましい。
【0021】
イグナイタ18は、スパークギャップを使用して着火を行う方式、プラズマを発生させて着火する方式、レーザを照射して着火する方式など、デトネーションを発生させるための初期火炎を生成させることができる限り、いかなる方式のイグナイタ18でも用いることができる。また、本発明の燃料供給機構および酸化剤導入機構としては、例えば、使用温度に応じた材料から製造されるソレノイド式の噴射バルブを使用することができる。
【0022】
図2は、本発明の熱機械エネルギー変換装置10の動作サイクルを示した図である。図2に示すように、まず、デトネータ12内に燃料および酸化剤が噴射され(図2(a))、その後、イグナイタ18により燃料−酸化剤の混合ガス22が着火され初期火炎が生成される(図2(b))。生成した初期火炎は、乱流形成構造体(図示せず)により複数の圧縮波が互いに増強し合い、衝撃波のエネルギーを高めながら開放端24に向かって伝搬してゆく(図2(c))。その後、図2(b)で生成した火炎がデトネーションまで進行した後、図2(d)に示すように、燃焼ガスが開放端24から放出され、並進エネルギーへと熱エネルギーが変換される。その後、図2に示したサイクルは、再度、図2(a)の状態とされ、以後、図2(b)〜図2(d)が連続的に繰り返されることで、連続的なパルスデトネーションが達成される。
【0023】
図3は、本発明のデトネータの構造を、デトネータの一部を切り欠いて示した斜視図である。図3に示したデトネータ12は、図3に示した実施の形態では、円筒管として形成されており、壁と、閉塞端26とにより画成される領域が燃焼室20を形成する。デトネータ12の閉塞端26に隣接した側には、燃料供給機構として使用されるパイプ28と酸化剤供給機構として使用されるパイプ30と、イグナイタ18とが配設されている。デトネータ12の内側面32には、乱流形成構造体34が形成されている。図3に示した乱流形成構造体34は、内側面32から、デトネータ中心に向かって突出した突条とされており、この突条は、内側面32に沿って長手軸Aの方向に螺旋状に延ばされている。イグナイタ18により生成された火炎は、閉塞端26から開放端24へと進行して行き、その間に乱流形成構造体34により生成した圧縮波は、デトネータ中心側へと反射され、デトネーションを生成する。
【0024】
図3に示した乱流形成構造体34は、連続した突条とされているが、本発明では、突条の他、突条をその延長方向に分離した突起として形成することもできる。この場合、突起は、螺旋の進行方向に沿って配置されることになる。本発明では、乱流形成構造体34を突起として形成させる場合には、必ずしも螺旋条に配置することは必要ではなく、例えばデトネータ12の長手軸Aに直交する円周方向に沿って突起を形成させ、突起を長手軸Aの方向に沿って等間隔または不均一間隔で配置することもできるし、千鳥状に配置することもできる。
【0025】
図4は、本発明のデトネータ12の一部を拡大して示した断面図である。図4に示す実施の形態では、デトネータ12は、円筒管から形成され、一端には、イグナイタが接続されたフランジを取り付けるためのフランジを配設することができる。図4に示したデトネータ12の長手軸A方向に向いた開放端には、接続フランジを配設することができるし、本発明を航空機推進用のエンジンとして適用する場合には、デトネータ12の開放端に隣接して、これまで知られたいかなるノズルでも形成させることができる。
【0026】
図4に示すデトネータ12の内側面32から突出する乱流形成構造体34は、内面に沿って螺旋状に形成された突条36を形成する。特定の実施の形態では、突条36または他の実施の形態では突起として形成される乱流形成構造体34は、デトネータ12の内壁と一体として形成することが、熱的安定性を与える点で好ましい。この突条36の寸法は、本発明の特定の実施の形態では、内側面32から見た高さhが、デトネータ内径の約10%とされている。さらに、突条36の厚さtは、デトネータの各端部の間の長さの約0.5%〜1%とされている。本発明では、突条36の寸法には、適切なデトネーションを形成させることができる限り、特に限定されるものではないが、内側面32から測った高さhは、デトネータの内径の5%〜50%とすることができ、より好ましくは、7.5%〜50%とすることができる。また、突条36の厚さtは、0.5%以上であれば、適切な強度を与える限り特に限定されるものではない。
【0027】
さらに、本発明の乱流形成構造体は、螺旋状に配置される場合でも、また、長手軸Aに直交する円周に沿って配置される場合でも、突条または突起の配置されるピッチは、デトネーションを生成するまでのDDTおよびDDLを適切な値に保持することができる限り、特に限定されない。また、本発明においては、乱流形成構造体を設けたデトネータと、従来のSchelkin spiralを初期乱流形成構造体として使用するデトネータとを組み合わせて使用することもできる。本発明の図3および図4で示した本発明のデトネータに形成される乱流形成構造体34は、円筒管の内側面を切削加工することより製造することができる。また、本発明の他の実施の形態では、デトネータ12の壁に対して熱的に安定して一体化できるのであれば、乱流形成構造体を、デトネータと別に形成しておき、内側面に対してロウ付け、溶接、熔着などいかなる方法で、乱流形成構造体を壁に対して一体化させることもできる。
【0028】
本発明の乱流形成構造体には、デトネータの壁を通して外部と連通した冷却通路を設けることもできる。乱流形成構造体に冷却機構を設ける場合には、例えば、デトネータの外側面に開口部を設け、この開口部に連通する冷却通路を壁を通して乱流形成構造体にまで延ばす構成とすることができる。乱流形成構造体に達した冷却通路は、乱流形成構造体内で再度、外側面側へと屈曲され、壁内を通して次の乱流形成構造体へと延びて、空気や、その他の冷却媒体を長手軸A方向に隣接する別の突条または突起へと導くことができる。この場合、冷却通路のさらに下流側の適切な位置に、冷却媒体を吐出するための外側面に向かって開いた開口を、冷却通路に隣接して設けておくことができる。
【0029】
本発明のデトネータを含むエネルギー変換装置は、航空宇宙用のエンジン、船舶用エンジン、およびタービンなどに適用することができる。本発明のエネルギー変換装置を、推進装置として航空機に適用する場合には、燃料として水素ガスやケロシンといった燃料を使用することができ、酸化剤としては、酸素、空気などを使用することができる。デトネータの内側面には、本発明に従い、乱流形成構造体が形成されていて、安定したデトネーション形成を可能とする。また、推進装置として使用する場合には、PDEを複数並列的に使用して、例えば、1つのデトネータが故障した場合にでも、最低の推力または推進力を得ることができる構成として、安定した推進力を継続的に得ることができる配置として使用することが好ましい。
【0030】
また、本発明のエネルギー変換装置を船舶の推進装置として使用する場合には、本発明のデトネータを含む推進装置を船舶の喫水線以上の高さに配置して、船底に設けたノズルから、水中へと燃焼ガスを噴出させることにより、船舶の推進力を生成させる。さらに、発明のデトネータは、燃焼器としての適用でき、本発明のデトネータを用いた燃焼器は、航空機用のガスタービンエンジンまたは発電用タービンのための燃焼チャンバとして使用することができる。
【0031】
本発明を発電用タービンに適用する場合には、本発明の燃焼器は、中心軸から径方向外側に向かって突出したロータベーンを含むロータ段に向かって燃焼ガスを噴射し、燃焼ガスの並進エネルギーを回転エネルギーへと変換させる。中心軸は、発電機に連結されており、発電機へと回転エネルギーを伝達させ、発電のために使用される。上述した本発明のデトネータを使用した構造体は、いずれの場合でも上述した燃料を使用して運転することができるが、環境負荷の点を考慮すれば、燃料としては、水素ガスを使用し、酸化剤としては空気を使用することが好ましい。
【0032】
以下、本発明のデトネータについて、実施例を使用してさらに詳細に説明を行うが、本発明は後述する実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
(実験装置)
図5には、本発明のデトネータの特性を検討するために使用した基本的な実験装置を示す。実験装置40は、概ね、本発明のデトネータ42と、矩形デトネータ44と、観測用チャンバ46と、ダンパ容器48とを含んで構成されており、それぞれが、接続フランジ50で連結されて、真空ポンプなどにより排気可能とされている。デトネータ42には、本発明に従い、乱流形成構造体が内壁面に一体として形成されている。また、矩形デトネータ44は、本発明のデトネータ42から後のデトネーション特性を観測するために設けられており、観測窓52と、複数の圧力トランスデューサ54とが設けられている。矩形デトネータ44の下流側には、観測用チャンバ46が配設されていて、矩形デトネータ44の下流側でのデトネーション特性が観測される。観測用チャンバ46にも観測窓56と複数の圧力トランスデューサ58とが配設されている。また、本発明では、本発明のデトネータを1本ではなく、例えば2本以上の数を直列的にまたは並列的に連結して使用することもできる。
【0034】
また、観測用チャンバ46のさらに下流側には、反射衝撃波を排除するためのダンパ容器48が配設されている。ダンパ容器48の入口部分には、約101.325kPaの圧力差に耐えることができる、厚さ約250μmのマイラ膜(図示せず)が取り付けられている。マイラ膜は、デトネーションにより発生した衝撃波により破られて、真空に排気されたダンパ容器に進行し、そのエネルギーを解放させることにより反射衝撃波による測定系の攪乱を排除するために設けられている。なお、本発明では、衝撃波を受けて破壊される強度を有している限り、マイラ膜以外にも、例えば、セロファン、金属フィルムや金属プレートなどを使用することができる。
【0035】
デトネーション発生実験の手順を簡単に説明すると、まず、燃料供給機構60および酸化剤供給機構62から燃料と酸化剤とをデトネータ42内に導入し、イグナイタ64をトリガ装置66によりトリガ信号を送って着火させる。デトネータ42内で生成した初期火炎は、デトネータ42内を伝搬し、圧縮波を重畳しながらそのエネルギーを増加させて行き、実験装置40の適切な位置で、デトネーション条件が達成される。生成した圧力変化は、圧力トランスデューサ54、58により観測され、コンピュータを含んで構成された圧力検出システム72により処理される。また、各圧力トランスデューサからの圧力信号は、オシロスコープ70によりモニタされる。オシロスコープ70は、デトネーションをイメージ観測するために観測窓52、56に隣接して配置されたディジタル・カメラDCをトリガして、燃焼状態の目視観測を可能とする。ディジタル・カメラDCにより取得されたイメージは、イメージング・システム68へと送られて、燃焼状態を、圧力変化データと共に解析することを可能としている。
【0036】
(実験例1)
A.図5に示した実験装置に対して、本発明のデトネータ(長さ250mm)を2本連結してデトネーション領域を形成した。燃料としては、水素ガスを使用し、酸化剤としては酸素ガスを使用し、空気をシミュレーションするために希釈ガスとして窒素ガスを用いた。実験例1で使用した燃料ガスの組成は、容量比でH2:O2:N2=2:1:3.76であった。希釈比は、55.6%とした(酸素の割合で空気のシミュレーションとした。)。また、燃料−酸素混合ガスは、デトネータ42から観測用チャンバ46までの間に定義される試験セクションを真空に排気した後に、101.325kPaの圧力となるように試験セクションに導入した。その後、6000Vの電圧を生成することができるギャップ型点火プラグで燃料ガスに点火した。点火後、生成した衝撃波の通過による圧力の変化を、PCB社製の圧力トランスデューサ(113A24)を使用してモニタし、ディジタル・カメラとしては、LAVISION社製(Nano Star)のICCDカメラを使用して、イメージ・データを測定した。ディジタル・カメラの条件は、露光:0.02μs、ゲイン40、輝度分解能4ビット〜8ビットであった。
【0037】
デトネータは、長さ(L)250mm、内径(φ)40mmの円筒管を2本直接接続して用いた。デトネータには、内壁面に、t=3mm(t/L=1.2%)、h=3mm(h/φ=7.5%)の内壁面に沿ってピッチp=15mmで形成された突条を、乱流形成構造体として形成した。
【0038】
B.結果
B−1:圧力変化
図6には、本発明により生成された燃焼により生じた圧力変化を、点火プラグからの距離に対して測定した結果を示す。点火プラグからの距離は、図6中、順に上から、625mm、685mm、745mm、995mm、1045mm、1095mmである。図6に示されるように、点火プラグの下流側625mmの地点で衝撃波の通過を示すデルタ関数的な圧力の立ち上がりが観測されているのが示唆され、本発明のデトネータにより、良好なデトネーションが生成されているのが示されている。また、図6中、最も下側のデータで示されるように、衝撃波の伝搬速度は、約1900m/sであり、充分に超音速にまで達していることが示された。
【0039】
B−2:イメージ・データ
図7には、観測用デトネータから観測された衝撃波の進行のイメージ・データを示す。図7では、圧力変化によりトリガされた後の10μsの遅延時間ごとに50μs後までの衝撃波面の進行の状況を示す。図7に示されるように、トリガ直後(0μs後)でも衝撃波面近傍に輝度の高い領域、すなわち、高温領域が存在していることが示されている。したがって、B−1で観測された急激な圧力変化と、火炎の最前面とは、一致しており、デトネーションが生成されたことが確認された。
【0040】
(実験例2)
燃料ガスとして、水素ガス、酸素ガス、および規約ガスとしてアルゴン(Ar)を使用して、混合比をH2:O2:Ar=2:1:3.76とし、希釈率を55.6%とし、101.325kPaの圧力で充填したことを除き実験例1と同様の実験を行ったところ、良好なデトネーションが生成できた。
【0041】
(実験例3)
実験例2と同一の組成の燃料ガスを用い、デトネータを1本(250mm)だけ使用して実験例1と同様の実験を行ったところ、良好なデトネーションが生成できた。
【0042】
(実験例4:比較例)
比較実験として、乱流形成構造体としてSchelkin spiral(線径3mm、ピッチ15mm、長さ500mmのスプリング形状)を使用して、実験例1と同様の実験を行った。図8には、得られた圧力変化データを示す。図8に示されるように、Schelkin
spiralを使用してもデトネーションの生成と考えられる急激な圧力変化は確認されたものの、実験例1に比較して圧力ピークの高さが低い結果が得られた。また、図9には、観測用デトネータから観測された衝撃波の進行のイメージ・データを示す。図9においても、圧力変化によりトリガされた後の10μsの遅延時間ごとに50μs後までの衝撃波面の進行の状況を示す。図9の、特に圧力変化直後(0μs)での衝撃波面の温度に着目すると、実験例1よりも明らかに温度が低くなっているのがわかる。また、それ以後のイメージを参照しても実験例1に比較して輝度の高い領域が少ない、すなわち低温であることが示されている。すなわち、本発明のデトネータの方が従来の乱流生成構造体よりも良好な燃焼効率を与えることが示された。
【0043】
C.衝撃波面の伝搬速度
図10には、実験例1および実験例4(比較例)で得られた衝撃波面の伝搬速度を、点火プラグからの距離に対するプロットを示す。図10中、■で示されたプロットが、本発明のデトネータを使用した場合の結果であり、◆で示されたデータがSchelkin spiralを使用した場合の比較例で得られた結果である。また、図10には、C−Jデトネーション理論による理論速度を示したラインを同時に示す。図10に示されるように、本発明のデトネータは、早い段階での衝撃波面の伝搬速度が比較例の伝搬速度よりも速く、より効率的なデトネーション生成が可能であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、効率的にデトネーションを生成することができる乱流形成構造体を有するデトネータ、デトネータ、燃焼器、該燃焼器を用いたエネルギー変換装置、推進装置、および構造体が提供される。本発明のエネルギー変換装置は、例えば、航空宇宙用エンジン、船舶用推進器、ガスタービンエンジン用燃焼器、火力発電用タービン用燃焼器など、熱エネルギーを並進エネルギーまたは回転エネルギーに変換して使用するいかなる構造体などに対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
10…エネルギー変換装置、12…デトネータ、14…燃料供給機構、16…酸化剤供給機構、18…イグナイタ、20…燃焼室、22…混合ガス、24…開放端、26…閉塞端、28…パイプ、30…パイプ、32…内側面、34…乱流形成構造体、36…突条、40…実験装置、42…デトネータ、44…矩形(観測用)デトネータ、46…観測用チャンバ、48…ダンパ容器、50…接続フランジ、52…観測窓、54…圧力トランスデューサ、56…観測窓、58…圧力トランスデューサ、60…燃料供給機構、62…酸化剤供給機構、64…イグナイタ、66…トリガ装置、68…イメージング・システム、70…オシロスコープ、72…圧力検出システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤としての酸素または空気と燃料としての水素ガスとを含む燃料ガスのデトネーションを生成するデトネータであって、前記デトネータは、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、デトネータ。
【請求項2】
前記デトネータは、パルス駆動される、請求項1に記載のデトネータ。
【請求項3】
燃料ガスのデトネーションを生成するためのパルス燃焼器であって、前記燃焼器は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えたデトネータと、
前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、
前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと
を備え、前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器。
【請求項4】
燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを機械的エネルギーに変換するエネルギー変換装置であって、前記エネルギー変換装置は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える、エネルギー変換装置。
【請求項5】
前記機械的エネルギーは、並進エネルギーまたは回転エネルギーである、請求項4に記載のエネルギー変換装置。
【請求項6】
燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを並進エネルギーに変換する推進装置であって、前記推進装置は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える推進装置。
【請求項7】
燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを機械的エネルギーに変換するエネルギー変換装置を含む構造体であって、前記構造体は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える構造体。
【請求項8】
前記構造体は、宇宙航空機、船舶、またはガスタービンである、請求項7に記載の構造体。
【請求項1】
酸化剤としての酸素または空気と燃料としての水素ガスとを含む燃料ガスのデトネーションを生成するデトネータであって、前記デトネータは、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、デトネータ。
【請求項2】
前記デトネータは、パルス駆動される、請求項1に記載のデトネータ。
【請求項3】
燃料ガスのデトネーションを生成するためのパルス燃焼器であって、前記燃焼器は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えたデトネータと、
前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、
前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと
を備え、前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器。
【請求項4】
燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを機械的エネルギーに変換するエネルギー変換装置であって、前記エネルギー変換装置は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える、エネルギー変換装置。
【請求項5】
前記機械的エネルギーは、並進エネルギーまたは回転エネルギーである、請求項4に記載のエネルギー変換装置。
【請求項6】
燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを並進エネルギーに変換する推進装置であって、前記推進装置は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える推進装置。
【請求項7】
燃料ガスのデトネーションによる熱エネルギーを機械的エネルギーに変換するエネルギー変換装置を含む構造体であって、前記構造体は、
壁により外部から分離され前記壁の内側面に乱流形成構造体が一体に形成された燃焼室と、前記燃焼室に形成され燃焼ガスを放出するための開口と、を備えるデトネータと、前記デトネータに燃料を送るための燃料供給機構および前記燃焼室に酸化剤を供給する酸化剤供給機構と、前記燃料ガスをパルス的に点火させるためのイグナイタと、を備え、
前記乱流形成構造体は、前記燃料ガスの燃焼生成物の前記内側面付近でのデトネーション流を乱すことができる厚さとされ、かつ前記デトネータの長手方向に螺旋形に延びる矩形の突条または突起として形成された、パルス燃焼器を備える構造体。
【請求項8】
前記構造体は、宇宙航空機、船舶、またはガスタービンである、請求項7に記載の構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−69614(P2011−69614A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3513(P2011−3513)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【分割の表示】特願2005−64251(P2005−64251)の分割
【原出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【分割の表示】特願2005−64251(P2005−64251)の分割
【原出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
[ Back to top ]