デニム用ムラ糸
【課題】本発明は、独特の味わいがあり、見た目の変化、中古感があるデニム生地を得るための糸、生地を提供し、またそれを製織編して得られるデニム製品を提供しようとするものである。
【解決手段】セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維で、芯部をムラ糸とし、さらに鞘糸を付与して芯鞘糸を形成する。さらにこれをインディゴ染料等で染色し、デニム生地を製織すると、加工時に色落ちが従来にない味わい、見た目の変化を起こす。
【解決手段】セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維で、芯部をムラ糸とし、さらに鞘糸を付与して芯鞘糸を形成する。さらにこれをインディゴ染料等で染色し、デニム生地を製織すると、加工時に色落ちが従来にない味わい、見た目の変化を起こす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独特の味わい、見た目の変化、中古感が感じられるデニム生地に用いるムラ糸とその製造方法、及びそのムラ糸を製織編したデニム生地に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にデニム生地は、見た目に奥行きを感じさせたり、着古したような外観を与えたり、カジュアルなイメージを演出するために、様々な加工が施されている。例えば軽石や人工石と一緒に生地を洗濯してアタリ感を出す「ストーンウォッシュ加工」や、生地をヤスリやグラインダーで削って色落ちや着古し感を出す「ダメージ加工」がある。例えば非特許文献1(染色工業第35巻第3号第12〜17頁(昭和62年3月発行))には製品洗い加工によるデニム製品の差別化について概説されている。
【0003】
ストーンウォッシュ加工をはじめとする洗い加工やダメージ加工のいずれの加工においても、用いられている経糸が「中白」と言われるように外周部から中心部に向かって一定の範囲は染料が染み込んで染まっているが、中心部は染まっていないことを利用して、外周部を除去することによって未染色部分を表面に現出させるものである。加工によって表れた白色部分と、染色されたままの部分の対比がファッション上の魅力を現出させるものである。
【0004】
現在では最早何らかの加工を施さないデニム製品はほとんど見られず、加工を施すことが標準と言えるほどに普及している。その中で、従来の製品からさらに差別化した味わいや見た目を感じられる生地が求められている。
【0005】
生地の加工によって見た目に変化を与える方法に加え、生地を構成する糸を工夫したり、製織方法を工夫する試みも行われている。例えば太さが一定でないムラ糸を用いる方法があるが、染料は糸の外周部から中心に向かって一定の度合いで染み込んでいるため、中白部分を除いた部分の染料の密度はほぼ均一と言える。そのためこの糸で製織したデニム生地にストーンウォッシュ加工等を施しても、色落ちの変化はそれほど顕著ではなく、見た目上の変化は主に太さのムラによる程度に留まっていた。
【0006】
【非特許文献1】染色工業第35巻第3号第12〜17頁(昭和62年3月発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のデニム生地に従来の加工を施して得られる色落ち具合、それによる味わい、中古感に、上述したような改良の余地があることに鑑み、デニム生地に使用する糸の構造を改良して染色すること、及びその糸を製織編して、独特の味わいがあり、見た目の変化、中古感があるデニム生地を得ることを、その課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために本願発明者は鋭意工夫し、本願発明を完成するに至った。すなわち(1)セルロース系繊維又は合成繊維との混紡繊維でムラ糸を作成し、(2)そのムラ糸を芯糸とした上で鞘糸を付与して芯鞘構造糸を形成し、(3)インディゴ染料等をロープ染色又はシート染色し、(4)この糸でデニム生地を製織編することを特徴としている。
【0009】
前記セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維は、綿又は綿混にすることができる。また芯部の糸は撚係数3.5〜5.3の撚糸にすることができる。この芯糸は、鞘糸部分を付与される工程で撚りがさらに与えられる(追撚)ため、上記(2)の芯鞘糸の芯強撚の糸になっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鞘部の糸は染料に良く染まっているが、芯部は強撚であるため染まりが悪く、またその外周部から中心部に向かう方向の染色度は均一でない。すなわち中心に近づくほど染色度は悪く、外周部から中心にかけていわば染色度の勾配が出来る。また芯部がムラ糸でもあるため、この糸で製織編したデニム生地は、ストーンウォッシュ等の加工を施したときに、色落ち具合が従来にはない独特の味わい、見た目の変化、中古感を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の全体の工程の流れは、(1)芯糸用のムラ糸を作成する工程、(2)その芯糸に鞘糸を付与して芯鞘糸を形成する工程、(3)その芯鞘糸をインディゴ等の染料で染色する工程、(4)染色した芯鞘糸を用いてデニム生地を製織する工程、(5)得られたデニム生地を加工する工程、になる。以下詳細に説明する。
【0012】
(1)芯糸の作成
セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維によるムラ糸を作成する。セルロース系繊維としては綿、麻、レーヨンなどを用いることが出来るが、風合いの点から綿を用いることが好ましい。撚係数は3.5〜5.3が好ましく用いられる。糸の太さは特に制限されないが、デニム生地の製織に用いる場合には、7〜10(英式番手)が用いられることが多い。ムラ糸の作成は、電子制御装置を用いたコンピュータースラブ糸の作成のような、当業者に公知のものであれば特に限定されず採用することが出来る。
【0013】
(2)芯鞘糸の作成
上記ムラ糸を芯糸として芯鞘糸を形成する。鞘糸に用いる繊維は、セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維とする。芯糸を構成する繊維と鞘糸を構成する繊維とは同じ原料、同じ組成としても良いし、異なる原料、組成でも良い。例えば芯糸を麻系、鞘糸を綿系というような組み合わせも任意に選択することができる。芯鞘糸の製造方法は公知のものであれば特に限定されずに採用することが出来る。芯鞘糸に占める芯糸部分と鞘糸部分の構成比率は、以下に述べる染色時の染料の染み込み具合や、製織したときの風合い、加工したときの色落ち具合などに応じて、適宜調節することが出来るが、芯糸の割合は30%〜50%、特に30%〜40%がカバー率の点で好ましい。
【0014】
(3)染色
上記芯鞘糸を染色するために、常法にしたがってインディゴ等の染色液の入った染色液槽に浸漬し、染色液槽から引き出し、空気酸化させることを数回繰り返して染色して乾燥させる。
染料濃度、浸漬時間、空気酸化の時間についても特に制限はされないが、インディゴ染料を例にすると、染料濃度は0.8g/L以上が好ましく、特に1.0g/L以上が好ましい。浸漬時間は20〜60秒間、特に30〜50秒間が好ましく、空気酸化は60〜300秒間、特に90〜150秒間行うことが好ましい。更に、浸漬と空気酸化の繰り返し回数も同様であり、3〜8回が好ましい。上記条件を下回ると、薄い色にしか染まらず、デニム生地特有の深みのある濃色が得られなかったり、染着不良等の問題がある。
図1は上記芯鞘糸を染色した模式図であり、芯糸部は外周部から中心部に向かって染料の染み込み方が一定でないことを示している。図2は従来のムラ糸を染色したときの模式図であり、外周部から中心部に向かって染料が均一に染み込んでいる様子を示す。
【0015】
(4)デニム生地の製織
上記染色した芯鞘糸を用いて常法にしたがってデニム生地を製織する。製織にはシャトル織機、レピア織機、エアージェット織機、グリッパー織機など公知の織機を用いることが出来る。通常デニム生地においては染色された糸を経糸とし、未染色の糸を緯糸とするので、上記染色した芯鞘糸は経糸として用いることが好ましい。また上記染色した芯鞘糸を経糸として用いた場合、緯糸としては(2)で記載した未染色の芯鞘糸を用いても良いし、従来から用いられている紡績糸やムラ糸を用いても良い。経糸密度、緯糸密度は特に制限されないが、通常デニム生地では50〜80である。
【0016】
(5)加工
上記製織したデニム生地に液体アンモニア加工、毛焼き加工、防縮加工などの整理加工を常法にしたがって、適宜施す。次にストーンウォッシュ加工、バイオウォッシュ加工、ヤスリやグラインダーで削るダメージ加工、中古加工等で、色落ちや風合い変化を施す。ストーンウォッシュ加工はワッシャーと呼ばれる大型洗濯槽に、加工したい繊維製品を軽石や人口石と共に入れて洗いまわす加工である。バイオウォッシュ加工はセルロース分解酵素で繊維製品の一部(主に表面付近)を分解する加工である。ダメージ加工はヤスリやグラインダーを直接繊維製品にあてて、表面から削り取る加工である。研磨用の砂を高速で衝突させて削るブラスト加工もこれに含まれる。これら加工方法は常法にしたがって行うことが出来る。製品の風合い、加工度(色落ち、見た目の変化等)を考慮して、これらの加工の進行度を適宜調節したり、組み合わせることも出来る。
【0017】
本発明は上記工程の(3)で得られる「セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維で、芯部がムラ糸である芯鞘構造糸を形成し、ロープ染色又はシート染色することを特徴とする糸」も発明の特徴としているし、(4)で得られる「デニム生地」も特徴としているし、それを用いた「デニム製品」も特徴としている。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0019】
<実施例1>
(1)芯糸の作成
原綿100%のスライバーを粗紡機でドラフトし、0.9 回/インチの撚りをかけた粗糸を作成した。次にこの粗糸を、リング精紡機でドラフトしながら、19.50回/インチのZ方向の撚りをかけた14/1番手のムラ糸を作成した。ムラ糸のムラは電子制御装置により、30〜150mmの長さで平均番手のマイナス50%〜プラス100%の太さの部分が、ランダムに並ぶようにした。
(2)上記ムラ糸を芯糸とし、原綿100%のスライバーを鞘糸として巻きつけた。装置はリング精紡機(石川製作所社製)を用いた。撚り数は10.78回/インチとし、撚り方向はZ撚りとした。番手は7/1番手とした。
(3)染色
合成インディゴ(ダイスター社製)を 1.0 G/Lで溶解した染色液に、上記芯鞘糸を30秒間浸漬してから引き出し、空気酸化を行った。この浸漬、引き出し、空気酸化を8回繰返した。
(4)製織
上記染色した芯鞘糸を経糸とし、緯糸には未染色のムラ糸9/1番手を用いて、グリッパー織機(スルザー社製)を用いて、3/1右綾織のデニム生地を作成した。経糸密度は67本/インチ、緯糸密度は50本/インチとした。
(5)加工
上記製織したデニム生地に毛焼きを施し、液体アンモニア加工を施した(−37〜34℃の液体アンモニアに1〜3秒間浸漬し、引き出し、30秒間乾燥した)。次に防縮加工(防縮機を用いて、通常の条件で防縮加工した)を施した。次にストーンウォッシュ加工(神崎鉄工製ワッシャーにデニム生地と軽石を入れて、60分間洗いまわした)を施し、引き出し、乾燥した。
【0020】
図3のデニム生地の拡大写真は、実施例1のデニム生地である。経糸に用いた芯鞘糸の色落ちに細かな変化が見られる。すなわちほとんど色落ちしていない部分も見られるし、中白がはっきり見られる部分もあり、様々な色の幅が経糸に分散している様子がわかる。その結果、生地全体に変化が出て、見た目に深みを感じることができる。
【0021】
<実施例2>
芯糸の撚り数を15.95回/インチ、芯糸の番手を20/1、芯鞘糸の撚り数を14.27回/インチとした以外は、実施例1と同様にして加工デニム生地を得た。
【0022】
図4は実施例2によるデニム生地の拡大写真である。実施例1と同様に、経糸に様々な色落ちの幅があるため、生地全体に変化が出て、見た目に深みを感じることが出来る。
【0023】
<比較例>
芯鞘糸ではない通常のムラ糸7/1番手を経糸用の糸とした以外は、実施例1と同様にしてデニム生地を製織、加工した。
【0024】
図5は比較例によるデニム生地の拡大写真である。経糸はほぼ均一に色落ちしており、平板な見た目となっており、深みは感じられない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のムラ糸の染色後の模式図(長軸方向の断面図)
【図2】従来のムラ糸の染色後の模式図(長軸方向の断面図)
【図3】実施例1によるデニム生地の拡大写真
【図4】実施例2によるデニム生地の拡大写真
【図5】比較例によるデニム生地の拡大写真
【符号の説明】
【0026】
1:高い染色度でインディゴ染料に染まった鞘糸部。
2:外周部から中心部に向かうにしたがって染色度が低くなっている芯糸部。
3:未染色の中白部分。
4:均一な染色度でインディゴ染料に染まったムラ糸。
5:未染色の中白部分。
【技術分野】
【0001】
本発明は、独特の味わい、見た目の変化、中古感が感じられるデニム生地に用いるムラ糸とその製造方法、及びそのムラ糸を製織編したデニム生地に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にデニム生地は、見た目に奥行きを感じさせたり、着古したような外観を与えたり、カジュアルなイメージを演出するために、様々な加工が施されている。例えば軽石や人工石と一緒に生地を洗濯してアタリ感を出す「ストーンウォッシュ加工」や、生地をヤスリやグラインダーで削って色落ちや着古し感を出す「ダメージ加工」がある。例えば非特許文献1(染色工業第35巻第3号第12〜17頁(昭和62年3月発行))には製品洗い加工によるデニム製品の差別化について概説されている。
【0003】
ストーンウォッシュ加工をはじめとする洗い加工やダメージ加工のいずれの加工においても、用いられている経糸が「中白」と言われるように外周部から中心部に向かって一定の範囲は染料が染み込んで染まっているが、中心部は染まっていないことを利用して、外周部を除去することによって未染色部分を表面に現出させるものである。加工によって表れた白色部分と、染色されたままの部分の対比がファッション上の魅力を現出させるものである。
【0004】
現在では最早何らかの加工を施さないデニム製品はほとんど見られず、加工を施すことが標準と言えるほどに普及している。その中で、従来の製品からさらに差別化した味わいや見た目を感じられる生地が求められている。
【0005】
生地の加工によって見た目に変化を与える方法に加え、生地を構成する糸を工夫したり、製織方法を工夫する試みも行われている。例えば太さが一定でないムラ糸を用いる方法があるが、染料は糸の外周部から中心に向かって一定の度合いで染み込んでいるため、中白部分を除いた部分の染料の密度はほぼ均一と言える。そのためこの糸で製織したデニム生地にストーンウォッシュ加工等を施しても、色落ちの変化はそれほど顕著ではなく、見た目上の変化は主に太さのムラによる程度に留まっていた。
【0006】
【非特許文献1】染色工業第35巻第3号第12〜17頁(昭和62年3月発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のデニム生地に従来の加工を施して得られる色落ち具合、それによる味わい、中古感に、上述したような改良の余地があることに鑑み、デニム生地に使用する糸の構造を改良して染色すること、及びその糸を製織編して、独特の味わいがあり、見た目の変化、中古感があるデニム生地を得ることを、その課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために本願発明者は鋭意工夫し、本願発明を完成するに至った。すなわち(1)セルロース系繊維又は合成繊維との混紡繊維でムラ糸を作成し、(2)そのムラ糸を芯糸とした上で鞘糸を付与して芯鞘構造糸を形成し、(3)インディゴ染料等をロープ染色又はシート染色し、(4)この糸でデニム生地を製織編することを特徴としている。
【0009】
前記セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維は、綿又は綿混にすることができる。また芯部の糸は撚係数3.5〜5.3の撚糸にすることができる。この芯糸は、鞘糸部分を付与される工程で撚りがさらに与えられる(追撚)ため、上記(2)の芯鞘糸の芯強撚の糸になっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鞘部の糸は染料に良く染まっているが、芯部は強撚であるため染まりが悪く、またその外周部から中心部に向かう方向の染色度は均一でない。すなわち中心に近づくほど染色度は悪く、外周部から中心にかけていわば染色度の勾配が出来る。また芯部がムラ糸でもあるため、この糸で製織編したデニム生地は、ストーンウォッシュ等の加工を施したときに、色落ち具合が従来にはない独特の味わい、見た目の変化、中古感を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の全体の工程の流れは、(1)芯糸用のムラ糸を作成する工程、(2)その芯糸に鞘糸を付与して芯鞘糸を形成する工程、(3)その芯鞘糸をインディゴ等の染料で染色する工程、(4)染色した芯鞘糸を用いてデニム生地を製織する工程、(5)得られたデニム生地を加工する工程、になる。以下詳細に説明する。
【0012】
(1)芯糸の作成
セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維によるムラ糸を作成する。セルロース系繊維としては綿、麻、レーヨンなどを用いることが出来るが、風合いの点から綿を用いることが好ましい。撚係数は3.5〜5.3が好ましく用いられる。糸の太さは特に制限されないが、デニム生地の製織に用いる場合には、7〜10(英式番手)が用いられることが多い。ムラ糸の作成は、電子制御装置を用いたコンピュータースラブ糸の作成のような、当業者に公知のものであれば特に限定されず採用することが出来る。
【0013】
(2)芯鞘糸の作成
上記ムラ糸を芯糸として芯鞘糸を形成する。鞘糸に用いる繊維は、セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維とする。芯糸を構成する繊維と鞘糸を構成する繊維とは同じ原料、同じ組成としても良いし、異なる原料、組成でも良い。例えば芯糸を麻系、鞘糸を綿系というような組み合わせも任意に選択することができる。芯鞘糸の製造方法は公知のものであれば特に限定されずに採用することが出来る。芯鞘糸に占める芯糸部分と鞘糸部分の構成比率は、以下に述べる染色時の染料の染み込み具合や、製織したときの風合い、加工したときの色落ち具合などに応じて、適宜調節することが出来るが、芯糸の割合は30%〜50%、特に30%〜40%がカバー率の点で好ましい。
【0014】
(3)染色
上記芯鞘糸を染色するために、常法にしたがってインディゴ等の染色液の入った染色液槽に浸漬し、染色液槽から引き出し、空気酸化させることを数回繰り返して染色して乾燥させる。
染料濃度、浸漬時間、空気酸化の時間についても特に制限はされないが、インディゴ染料を例にすると、染料濃度は0.8g/L以上が好ましく、特に1.0g/L以上が好ましい。浸漬時間は20〜60秒間、特に30〜50秒間が好ましく、空気酸化は60〜300秒間、特に90〜150秒間行うことが好ましい。更に、浸漬と空気酸化の繰り返し回数も同様であり、3〜8回が好ましい。上記条件を下回ると、薄い色にしか染まらず、デニム生地特有の深みのある濃色が得られなかったり、染着不良等の問題がある。
図1は上記芯鞘糸を染色した模式図であり、芯糸部は外周部から中心部に向かって染料の染み込み方が一定でないことを示している。図2は従来のムラ糸を染色したときの模式図であり、外周部から中心部に向かって染料が均一に染み込んでいる様子を示す。
【0015】
(4)デニム生地の製織
上記染色した芯鞘糸を用いて常法にしたがってデニム生地を製織する。製織にはシャトル織機、レピア織機、エアージェット織機、グリッパー織機など公知の織機を用いることが出来る。通常デニム生地においては染色された糸を経糸とし、未染色の糸を緯糸とするので、上記染色した芯鞘糸は経糸として用いることが好ましい。また上記染色した芯鞘糸を経糸として用いた場合、緯糸としては(2)で記載した未染色の芯鞘糸を用いても良いし、従来から用いられている紡績糸やムラ糸を用いても良い。経糸密度、緯糸密度は特に制限されないが、通常デニム生地では50〜80である。
【0016】
(5)加工
上記製織したデニム生地に液体アンモニア加工、毛焼き加工、防縮加工などの整理加工を常法にしたがって、適宜施す。次にストーンウォッシュ加工、バイオウォッシュ加工、ヤスリやグラインダーで削るダメージ加工、中古加工等で、色落ちや風合い変化を施す。ストーンウォッシュ加工はワッシャーと呼ばれる大型洗濯槽に、加工したい繊維製品を軽石や人口石と共に入れて洗いまわす加工である。バイオウォッシュ加工はセルロース分解酵素で繊維製品の一部(主に表面付近)を分解する加工である。ダメージ加工はヤスリやグラインダーを直接繊維製品にあてて、表面から削り取る加工である。研磨用の砂を高速で衝突させて削るブラスト加工もこれに含まれる。これら加工方法は常法にしたがって行うことが出来る。製品の風合い、加工度(色落ち、見た目の変化等)を考慮して、これらの加工の進行度を適宜調節したり、組み合わせることも出来る。
【0017】
本発明は上記工程の(3)で得られる「セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維で、芯部がムラ糸である芯鞘構造糸を形成し、ロープ染色又はシート染色することを特徴とする糸」も発明の特徴としているし、(4)で得られる「デニム生地」も特徴としているし、それを用いた「デニム製品」も特徴としている。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0019】
<実施例1>
(1)芯糸の作成
原綿100%のスライバーを粗紡機でドラフトし、0.9 回/インチの撚りをかけた粗糸を作成した。次にこの粗糸を、リング精紡機でドラフトしながら、19.50回/インチのZ方向の撚りをかけた14/1番手のムラ糸を作成した。ムラ糸のムラは電子制御装置により、30〜150mmの長さで平均番手のマイナス50%〜プラス100%の太さの部分が、ランダムに並ぶようにした。
(2)上記ムラ糸を芯糸とし、原綿100%のスライバーを鞘糸として巻きつけた。装置はリング精紡機(石川製作所社製)を用いた。撚り数は10.78回/インチとし、撚り方向はZ撚りとした。番手は7/1番手とした。
(3)染色
合成インディゴ(ダイスター社製)を 1.0 G/Lで溶解した染色液に、上記芯鞘糸を30秒間浸漬してから引き出し、空気酸化を行った。この浸漬、引き出し、空気酸化を8回繰返した。
(4)製織
上記染色した芯鞘糸を経糸とし、緯糸には未染色のムラ糸9/1番手を用いて、グリッパー織機(スルザー社製)を用いて、3/1右綾織のデニム生地を作成した。経糸密度は67本/インチ、緯糸密度は50本/インチとした。
(5)加工
上記製織したデニム生地に毛焼きを施し、液体アンモニア加工を施した(−37〜34℃の液体アンモニアに1〜3秒間浸漬し、引き出し、30秒間乾燥した)。次に防縮加工(防縮機を用いて、通常の条件で防縮加工した)を施した。次にストーンウォッシュ加工(神崎鉄工製ワッシャーにデニム生地と軽石を入れて、60分間洗いまわした)を施し、引き出し、乾燥した。
【0020】
図3のデニム生地の拡大写真は、実施例1のデニム生地である。経糸に用いた芯鞘糸の色落ちに細かな変化が見られる。すなわちほとんど色落ちしていない部分も見られるし、中白がはっきり見られる部分もあり、様々な色の幅が経糸に分散している様子がわかる。その結果、生地全体に変化が出て、見た目に深みを感じることができる。
【0021】
<実施例2>
芯糸の撚り数を15.95回/インチ、芯糸の番手を20/1、芯鞘糸の撚り数を14.27回/インチとした以外は、実施例1と同様にして加工デニム生地を得た。
【0022】
図4は実施例2によるデニム生地の拡大写真である。実施例1と同様に、経糸に様々な色落ちの幅があるため、生地全体に変化が出て、見た目に深みを感じることが出来る。
【0023】
<比較例>
芯鞘糸ではない通常のムラ糸7/1番手を経糸用の糸とした以外は、実施例1と同様にしてデニム生地を製織、加工した。
【0024】
図5は比較例によるデニム生地の拡大写真である。経糸はほぼ均一に色落ちしており、平板な見た目となっており、深みは感じられない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のムラ糸の染色後の模式図(長軸方向の断面図)
【図2】従来のムラ糸の染色後の模式図(長軸方向の断面図)
【図3】実施例1によるデニム生地の拡大写真
【図4】実施例2によるデニム生地の拡大写真
【図5】比較例によるデニム生地の拡大写真
【符号の説明】
【0026】
1:高い染色度でインディゴ染料に染まった鞘糸部。
2:外周部から中心部に向かうにしたがって染色度が低くなっている芯糸部。
3:未染色の中白部分。
4:均一な染色度でインディゴ染料に染まったムラ糸。
5:未染色の中白部分。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維で、芯部がムラ糸である芯鞘構造糸を形成し、ロープ染色又はシート染色することを特徴とする糸の製造方法
【請求項2】
セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維が、綿又は混綿である請求項1記載の製造方法
【請求項3】
芯部の糸が撚係数3.5〜5.3の撚糸である請求項1又は2記載の製造方法
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の製造方法により得られた糸
【請求項5】
請求項4記載の糸を製織編してなる生地
【請求項6】
請求項5記載の生地を用いた製品
【請求項7】
請求項4記載の糸を経糸に用いて製織編してなるデニム生地
【請求項8】
請求項7記載のデニム生地を用いたデニム製品
【請求項1】
セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維で、芯部がムラ糸である芯鞘構造糸を形成し、ロープ染色又はシート染色することを特徴とする糸の製造方法
【請求項2】
セルロース系繊維又はこれと合成繊維との混紡繊維が、綿又は混綿である請求項1記載の製造方法
【請求項3】
芯部の糸が撚係数3.5〜5.3の撚糸である請求項1又は2記載の製造方法
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の製造方法により得られた糸
【請求項5】
請求項4記載の糸を製織編してなる生地
【請求項6】
請求項5記載の生地を用いた製品
【請求項7】
請求項4記載の糸を経糸に用いて製織編してなるデニム生地
【請求項8】
請求項7記載のデニム生地を用いたデニム製品
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2009−185414(P2009−185414A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27103(P2008−27103)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【出願人】(593014130)日清デニム株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【出願人】(593014130)日清デニム株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
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