説明

デバイスシミュレーション装置、デバイスシミュレーション方法及びプログラム

【課題】キャリアの速度オーバーシュート効果を考慮した短チャネルトランジスタの電気特性を、高精度かつ数値的に安定に計算できるようにすること。
【解決手段】デバイスシミュレーション装置は、ドリフト拡散モデルとポアソン方程式に基づいてキャリアの電流密度及び静電ポテンシャルを算出するデバイス特性算出部と、キャリアのエネルギー保存式において熱伝導による拡散項を無視するとともに電流密度を一定としたものをチャネルに垂直な方向について積分した式に、電流密度及び静電ポテンシャルを代入して、局所的なキャリア温度を算出する温度算出部と、所定の移動度モデルにキャリア温度を代入して、局所的なキャリア移動度を算出する移動度算出部と、アインシュタインの関係式にキャリア移動度を代入して、局所的なキャリア拡散定数を算出する拡散定数算出部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイスシミュレーション装置、デバイスシミュレーション方法及びプログラムに関し、特に、半導体素子解析及び半導体回路設計に用いられるコンパクトトランジスタモデル及びチャネル方向に離散化された流体近似モデルを用いてトランジスタの電気特性を評価するデバイスシミュレーション装置、デバイスシミュレーション方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンパクトトランジスタモデルは、数多くのフィッティングパラメータを用いてトランジスタの電気特性を表現している。しかしながら、チャネル方向に離散化したトランジスタモデルを使用することにより、フィッティングパラメータの個数を少なくすることができ、プロセス条件が変化した場合における電気特性の変動を予測することが容易となる。
【0003】
しかし、従来のチャネル方向に離散化したトランジスタモデルでは、電流連続式の定式化にドリフト拡散モデルを使用しているため、キャリアの速度オーバーシュート効果を考慮した電気特性を計算することができないという欠点があり、特に、ディープサブミクロン領域におけるトランジスタの電気特性を精度よく再現することができない。電流連続式の定式化に流体近似モデルを適用することができれば、高精度な計算が可能になり、チャネル方向に離散化したトランジスタモデルの有用性も向上することが期待される。
【0004】
図5は、非特許文献1に記載されたチャネル方向に離散化したトランジスタモデルについて説明するための図である。図5を参照すると、非特許文献1においては、トランジスタのチャネル方向にチャネル領域を離散化し、各離散化点で深さ方向にポアソン方程式を解き、得られた各領域の表面ポテンシャルを初期値として擬2次元ポアソン方程式と電流連続式から成る連立方程式を解いて各離散化点での表面ポテンシャルを求め、トランジスタの電気特性を計算している。このとき、電流連続式には、ドリフト拡散モデルを採用している。
【0005】
図5上段の図において、Lgateはトランジスタのゲート長、Toxはトランジスタのゲート酸化膜厚、Xldはトランジスタのソース・ドレイン−ゲート間オーバーラップ長、Xjはトランジスタのソース・ドレインの接合深さ、ΔEはチャネルからソース・ドレインに向かって横方向に逃げる電界、N(x,z)はチャネル不純物濃度分布、σpはトランジスタのポケット注入部の横方向拡がりの標準偏差、Npはトランジスタのポケット注入部のピーク不純物濃度、Ncはトランジスタのチャネル不純物濃度を表す。また、図5中段の式において、Coxは単位面積当たりのゲート酸化膜容量、Nsub0は表面近傍の不純物濃度、Vは基板電圧、Φは基板のフェルミポテンシャルと静電ポテンシャルの差、Wdepは基板の空乏層幅、εSiはシリコンの誘電率を表す。さらに、図5下段の式において、Qはゲート電荷、Qb0は基板電荷、Vはゲート電圧、VFBはフラットバンド電圧を表す。
【0006】
図6は、ドリフト拡散モデルで使用される方程式群について説明するための図である。図6を参照すると、式(1)は、電流連続式を示している。式(1)におけるjは、チャネル電流密度を表す。一方、式(2)は、電流密度式を示しており、中辺の第1項はドリフト電流を表し、第2項は拡散電流を表す。ここで、qは単位電荷、μはキャリア移動度、nはキャリア密度、Eは電界強度、Dはキャリア拡散定数を表す。アインシュタインの関係式を用いると、式(2)の中辺を右辺のように変形することができる。キャリア密度nは、擬フェルミポテンシャルφを用いて式(3)によって与えられる。式(3)において、β(=q/k)はボルツマン因子を表す。ここで、kはボルツマン定数であり、Tは格子温度である。さらに、電界Eは静電ポテンシャルφによって、式(4)のように表される。すると、式(2)を、式(5)のように変形することができる。式(5)を式(1)、(2)に代入して、深さ方向(z)及びチャネル幅方向(y)について積分すると、式(6)が得られる。ここで、Idnはドレイン電流、Wgateはトランジスタのゲート幅、Qは反転層電荷を表し、式(7)によって表される。
【0007】
図7は、非特許文献2に記載された流体力学モデルで使用される方程式群について説明するための図である。図7を参照すると、非特許文献2では、電流連続式に流体力学モデルを採用し、短チャネルトランジスタにおけるキャリアの速度オーバーシュート効果を考慮した電気特性の計算を可能としている。図7を参照すると、流体力学モデルは、電流連続式、電流密度式、エネルギー保存式及びエネルギー流速式から成る。式(2)の電流密度式の右辺第3項は、キャリア温度勾配による後方散乱電流を表す。ここで、λは流体力学モデルにおいて運動量散乱の不均一さを表現するパラメータである。式(3)のエネルギー保存式において、左辺第1項はエネルギーの流入、第2項は電流によるジュール発熱を表し、右辺は光学フォノン放出によるキャリアのエネルギー損失を表す。ここで、jεはエネルギー流束、τεはキャリアのエネルギー緩和時間を表す。式(4)のエネルギー流速式において、右辺第1項は電流が運ぶエネルギー、第2項は熱伝導によって拡散するエネルギーを表す。ここで、λεpは流体力学モデルにおいてエネルギー流散乱の不均一さを表現するパラメータである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H. Sakamoto et al., “A Discrete Surface Potential Model which Accurately Reflects Channel Doping Profile and its Application to Ultra−Fast Analysis of Random Dopant Fluctuation,” Proc. of SISPAD 2009.
【非特許文献2】M. Ieong et al., “Influence of Hydrodynamic Models on the Prediction of Submicrometer Device Characteristics,” IEEE Trans. Electron Devices, vol.44, No.12, pp.2242−2251, 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以下の分析は、本発明者によってなされたものである。
【0010】
非特許文献1に記載されたチャネル方向に離散化したトランジスタモデル式(図5)では、電流連続式にドリフト拡散モデル(図6)を適用しているため、短チャネルトランジスタにおけるキャリアの速度オーバーシュート効果を考慮して電気特性を計算することができない。
【0011】
一方、非特許文献2に記載された流体力学モデル式(図7)は、4本の方程式それぞれの非線形性が強く、かつ、4本の方程式が互いに影響を与えつつ結合しているため、このモデル式をそのまま非特許文献1の電流連続式に適用しても、収束解を求めることができない。
【0012】
そこで、キャリアの速度オーバーシュート効果を考慮した短チャネルトランジスタの電気特性を、高精度かつ数値的に安定に計算できるようにすることが課題となる。本発明の目的は、かかる課題を解決するデバイスシミュレーション装置、デバイスシミュレーション方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の視点に係るデバイスシミュレーション装置は、
ドリフト拡散モデルとポアソン方程式に基づいてキャリアの電流密度及び静電ポテンシャルを算出するデバイス特性算出部と、
キャリアのエネルギー保存式において熱伝導による拡散項を無視するとともに電流密度を一定としたものをチャネルに垂直な方向について積分した式に、前記電流密度及び前記静電ポテンシャルを代入して、局所的なキャリア温度を算出する温度算出部と、
所定の移動度モデルに前記キャリア温度を代入して、局所的なキャリア移動度を算出する移動度算出部と、
アインシュタインの関係式に前記キャリア移動度を代入して、局所的なキャリア拡散定数を算出する拡散定数算出部と、を備えている。
【0014】
本発明の第2の視点に係るデバイスシミュレーション方法は、
コンピュータが、ドリフト拡散モデルとポアソン方程式に基づいてキャリアの電流密度及び静電ポテンシャルを算出する工程と、
キャリアのエネルギー保存式において熱伝導による拡散項を無視するとともに電流密度を一定としたものをチャネルに垂直な方向について積分した式に、前記電流密度及び前記静電ポテンシャルを代入して、局所的なキャリア温度を算出する工程と、
所定の移動度モデルに前記キャリア温度を代入して、局所的なキャリア移動度を算出する工程と、
アインシュタインの関係式に前記キャリア移動度を代入して、局所的なキャリア拡散定数を算出する工程と、
ドリフト拡散モデルに前記キャリア移動度及び前記キャリア拡散定数を代入したものとポアソン方程式に基づいて、キャリアの電流密度及び静電ポテンシャルを算出する工程と、を含む。
【0015】
本発明の第3の視点に係るプログラムは、
ドリフト拡散モデルとポアソン方程式に基づいてキャリアの電流密度及び静電ポテンシャルを算出する処理と、
キャリアのエネルギー保存式において熱伝導による拡散項を無視するとともに電流密度を一定としたものをチャネルに垂直な方向について積分した式に、前記電流密度及び前記静電ポテンシャルを代入して、局所的なキャリア温度を算出する処理と、
所定の移動度モデルに前記キャリア温度を代入して、局所的なキャリア移動度を算出する処理と、
アインシュタインの関係式に前記キャリア移動度を代入して、局所的なキャリア拡散定数を算出する処理と、
ドリフト拡散モデルに前記キャリア移動度及び前記キャリア拡散定数を代入したものとポアソン方程式に基づいて、キャリアの電流密度及び静電ポテンシャルを算出する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るデバイスシミュレーション装置、デバイスシミュレーション方法及びプログラムによると、キャリアの速度オーバーシュート効果を考慮した短チャネルトランジスタの電気特性を、高精度かつ数値的に安定に計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るデバイスシミュレーション方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施形態に係るデバイスシミュレーション方法における各離散化点での各種物理量の定義内容を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態に係るデバイスシミュレーション方法における流体力学モデルの近似・簡略化方法と、それによって得られたエネルギー保存式を解いて各離散化点でのキャリア温度を求める手法について説明するための図である。
【図4】キャリア温度依存型移動度モデルの例と、格子温度に対するアインシュタインの関係式からキャリア拡散定数を計算する方法を説明するための図である。
【図5】非特許文献1に記載されたチャネル方向に離散化したトランジスタモデルについて説明するための図である。
【図6】ドリフト拡散モデルで使用される方程式群について説明するための図である。
【図7】非特許文献2に記載された流体力学モデルで使用される方程式群について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の展開形態によると、上記第1の視点に係るデバイスシミュレーション装置が提供される。
【0019】
本発明の第2の展開形態によると、前記温度算出部は、キャリアのエネルギー保存式をチャネル方向に沿って離散化し、離散化点の各点における局所的なキャリア温度を算出する、デバイスシミュレーション装置が提供される。
【0020】
本発明の第3の展開形態によると、自己無撞着な解が得られるまで前記各部における計算を繰り返す制御部をさらに備えている、デバイスシミュレーション装置が提供される。
【0021】
本発明の第4の展開形態によると、前記キャリアは、電子若しくは正孔又はこれらの両者である、デバイスシミュレーション装置が提供される。
【0022】
本発明の第5の展開形態によると、前記所定の移動度モデルは、一様電界に対する流体力学モデルの定常近似解を局所電界依存型の移動度モデルに代入して得られたモデルである、デバイスシミュレーション装置が提供される。
【0023】
本発明の第6の展開形態によると、前記局所電界依存型の移動度モデルは、Caughey−Thomasモデルである、デバイスシミュレーション装置が提供される。
【0024】
本発明の第7の展開形態によると、上記第2の視点に係るデバイスシミュレーション方法が提供される。
【0025】
本発明の第8の展開形態によると、前記各工程を自己無撞着な解が得られるまで繰り返す工程をさらに含む、デバイスシミュレーション方法が提供される。
【0026】
本発明の第9の展開形態によると、上記第3の視点に係るプログラムが提供される。
【0027】
本発明の第10の展開形態によると、前記各処理を自己無撞着な解が得られるまで繰り返す処理をさらにコンピュータに実行させる、プログラムが提供される。
【0028】
本発明の第11の展開形態によると、上記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【0029】
(実施形態)
本発明の実施形態に係るデバイスシミュレーション方法について、図面を参照して説明する。
【0030】
図1は、本実施形態に係るデバイスシミュレーション方法を示すフローチャートである。図1を参照すると、本実施形態では、5つのステップを通じて、流体力学モデルを近似し、チャネル方向に離散化したトランジスタモデルの電流連続式に適用する。
【0031】
まず、チャネル方向に離散化したトランジスタモデルの電流連続式に図6に示すようなドリフト拡散モデルを使用して収束解を求める(ステップS1)。
【0032】
次に、ステップS1で得られた電流値と各離散化点での表面ポテンシャルに基づいて、キャリアの熱伝導によるエネルギー拡散項を無視したエネルギー保存式をソース端から加算的に解き、キャリア温度Tを求める(ステップS2)。
【0033】
図2は、本発明の実施形態に係るデバイスシミュレーション方法における各離散化点での各種物理量の定義内容を説明するための図である。図2を参照すると、ステップS2の処理を実現するために、各離散化点iにおけるキャリア濃度n(i)、隣接離散化点i−1〜i間の電界E(i−1)と距離h(i−1)、離散化点間を流れる電流密度jをステップS1の計算結果から求める。
【0034】
図3は、本実施形態に係るデバイスシミュレーション方法における流体力学モデルの近似・簡略化方法と、それによって得られたエネルギー保存式を解いて各離散化点iでのキャリア温度T(i)を求める手法について説明するための図である。
【0035】
図2において定義されたキャリア濃度n(i)、電解E(i−1)、距離h(i−1)電流密度jを用いて、図3に示す手順に基づき、熱伝導による拡散項を無視して流体力学モデルを近似・簡略化する。
【0036】
なお、図3においては、以下の仮定を用いる。すなわち、(1)電流値jはチャネル内で一定(ドリフト拡散モデルで求めた値)とし、(2)エネルギー流束式の中の熱伝導による拡散項を無視し、(3)エネルギーはチャネル表面を1次元的に輸送されるものとする。
【0037】
この近似と簡略化によって得られたエネルギー保存式をソース端からの逐次代入によって解き、各離散化点でのキャリア温度T(i)を求める。
【0038】
次に、ステップS2で得られたキャリア温度Tに基づいて、局所電界に依存する移動度モデルと一様電界に対する流体力学モデルの定常近似解とを組み合わせて、各離散化点でのキャリア移動度を計算する(ステップS3)。
【0039】
図4(A)は、キャリア温度依存型移動度モデルを一例として示す図である。図4(A)を参照すると、局所電界に依存する移動度モデルとしてCaughey−Thomasモデルを使用している。なお、使用可能な移動度モデルはこれに限定されるものではない。
【0040】
図4(A)において、μは低電界移動度、αはキャリア移動度の電界依存特性の曲率を決めるパラメータ、Aはキャリア飽和速度の温度依存性を決めるパラメータ、Vはキャリア飽和速度、T00はキャリア飽和速度を評価する基準温度を表す。
【0041】
次に、ステップS3で得られたキャリア移動度と格子温度から、図4(B)に示すように、アインシュタインの関係式に基づいて各離散化点でのキャリア拡散定数を計算する(ステップS4)。図4(B)は、格子温度に対するアインシュタインの関係式からキャリア拡散定数を計算する方法を示している。
【0042】
最後に、ステップS5では、ステップS3で得られたキャリア移動度μとステップS4で得られたキャリア拡散定数Dを用いて、図6に示すようなドリフト拡散モデルを用いて最終的な解を求める。
【0043】
以上のステップS1〜S5は、キャリア移動度μ、キャリア拡散定数D、電流密度、静電ポテンシャルについて、セルフコンシステント(自己無撞着)な解が得られるまで繰り返すことが好ましい。
【0044】
次に、本実施形態のデバイスシミュレーション方法によってもたらされる効果について説明する。
【0045】
ステップS2で、キャリアの熱伝導によるエネルギー拡散項を無視したエネルギー保存式を解くようにしたため、方程式の非線形性がなくなり、ニュートン法による反復計算の収束性を気にすることなく、ソース端からの逐次的な単純加算でキャリア温度を求めることができる。また、キャリアの熱伝導によるエネルギー拡散項を無視することによる最終結果に生じる計算誤差は小さいため、他のモデルパラメータの微調整によって吸収することができる。
【0046】
また、ステップS3で、電子温度依存型の移動度モデルを使用しているため、短チャネルトランジスタにおけるキャリアの速度オーバーシュート効果を考慮することができる。
【0047】
さらに、ステップS4で、キャリアの拡散定数をキャリア温度ではなく格子温度を用いてアインシュタインの関係式から求めている。したがって、図6に示すように、従来のチャネル方向に離散化したトランジスタモデルと同様に、擬フェルミポテンシャルを使用して電流連続式を構成することができ、計算の収束安定性と高速性が保障される。
【0048】
また、ステップS5で、再度ドリフト拡散モデルを用いて最終的な解を求めることにより、与えられたキャリア移動度とキャリア拡散定数に対して矛盾の無い解を求めることができる。ドリフト拡散モデルではキャリア温度の勾配によって生じるキャリアの後方散乱成分が無視されており、これはドレイン電流値を過大評価する方向に作用する。一方、キャリアの拡散定数を求める際、アインシュタインの関係式においてキャリア温度ではなく格子温度を用いているため、これはドレイン電流を過少評価する方向に作用する。これらの二つの相反する作用が相殺し合うことによって、最終的なドレイン電流の計算値に生じる誤差は小さくなるものと期待される。
【0049】
さらに、流体力学モデルを容易に収束解が得られるように近似して、チャネル方向に離散化したトランジスタモデルの電流連続式に適用したため、短チャネルトランジスタにおいて、キャリアの速度オーバーシュートを考慮したトランジスタの電気特性計算が可能になり、電気特性の再現精度が向上する。
【0050】
また、本実施形態のデバイスシミュレーション方法によると、一例として、非特許文献2の流体力学モデル(図7)を容易に収束解が得られるように近似して、非特許文献1のチャネル方向に離散化したトランジスタモデル(図5)の電流連続式に適用し、トランジスタの電気特性を計算することができる。
【0051】
なお、上記の非特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0052】
A キャリア飽和速度の温度依存性を決めるパラメータ
α キャリア移動度の電界依存特性の曲率を決めるパラメータ
β(=q/k) ボルツマン因子
ox 単位面積当たりのゲート酸化膜容量
キャリア拡散定数
E 電界強度
E(i−1) 離散化点(i−1)〜i間の電界強度
ΔE チャネルからソース・ドレインに向かって横方向に逃げる電界
εSi シリコンの誘電率
Φ 基板のフェルミポテンシャルと静電ポテンシャルの差
φ 擬フェルミポテンシャル
h(i−1) 離散化点(i−1)〜i間の距離
dn ドレイン電流
チャネル電流密度
ε エネルギー流束
ボルツマン定数
gate トランジスタのゲート長
λ 流体力学モデルにおいて運動量散乱の不均一さを表現するパラメータ
λεp 流体力学モデルにおいてエネルギー流散乱の不均一さを表現するパラメータ
μ キャリア移動度
μ 低電界移動度
N(x,z) チャネル不純物濃度分布
Nc トランジスタのチャネル不純物濃度
Np トランジスタのポケット注入部のピーク不純物濃度
sub0 表面近傍の不純物濃度
n キャリア密度
n(i) 離散化点iにおけるキャリア密度
b0 基板電荷
反転層電荷
ゲート電荷
q 単位電荷
σp トランジスタのポケット注入部の横方向拡がりの標準偏差
格子温度
00 キャリア飽和速度を評価する基準温度
キャリア温度
(i) 離散化点iにおけるキャリア温度
ox トランジスタのゲート酸化膜厚
τε キャリアのエネルギー緩和時間
dep 基板の空乏層幅
gate トランジスタのゲート幅
基板電圧
FB フラットバンド電圧
ゲート電圧
キャリア飽和速度
Xld トランジスタのソース・ドレイン−ゲート間オーバーラップ長
Xj トランジスタのソース・ドレインの接合深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリフト拡散モデルとポアソン方程式に基づいてキャリアの電流密度及び静電ポテンシャルを算出するデバイス特性算出部と、
キャリアのエネルギー保存式において熱伝導による拡散項を無視するとともに電流密度を一定としたものをチャネルに垂直な方向について積分した式に、前記電流密度及び前記静電ポテンシャルを代入して、局所的なキャリア温度を算出する温度算出部と、
所定の移動度モデルに前記キャリア温度を代入して、局所的なキャリア移動度を算出する移動度算出部と、
アインシュタインの関係式に前記キャリア移動度を代入して、局所的なキャリア拡散定数を算出する拡散定数算出部と、を備えていることを特徴とするデバイスシミュレーション装置。
【請求項2】
前記温度算出部は、キャリアのエネルギー保存式をチャネル方向に沿って離散化し、離散化点の各点における局所的なキャリア温度を算出することを特徴とする、請求項1に記載のデバイスシミュレーション装置。
【請求項3】
自己無撞着な解が得られるまで前記各部における計算を繰り返す制御部をさらに備えていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のデバイスシミュレーション装置。
【請求項4】
前記キャリアは、電子若しくは正孔又はこれらの両者であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のデバイスシミュレーション装置。
【請求項5】
前記所定の移動度モデルは、一様電界に対する流体力学モデルの定常近似解を局所電界依存型の移動度モデルに代入して得られたモデルであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のデバイスシミュレーション装置。
【請求項6】
前記局所電界依存型の移動度モデルは、Caughey−Thomasモデルであることを特徴とする、請求項5に記載のデバイスシミュレーション装置。
【請求項7】
コンピュータが、ドリフト拡散モデルとポアソン方程式に基づいてキャリアの電流密度及び静電ポテンシャルを算出する工程と、
キャリアのエネルギー保存式において熱伝導による拡散項を無視するとともに電流密度を一定としたものをチャネルに垂直な方向について積分した式に、前記電流密度及び前記静電ポテンシャルを代入して、局所的なキャリア温度を算出する工程と、
所定の移動度モデルに前記キャリア温度を代入して、局所的なキャリア移動度を算出する工程と、
アインシュタインの関係式に前記キャリア移動度を代入して、局所的なキャリア拡散定数を算出する工程と、
ドリフト拡散モデルに前記キャリア移動度及び前記キャリア拡散定数を代入したものとポアソン方程式に基づいて、キャリアの電流密度及び静電ポテンシャルを算出する工程と、を含むことを特徴とするデバイスシミュレーション方法。
【請求項8】
前記各工程を自己無撞着な解が得られるまで繰り返す工程をさらに含むことを特徴とする、請求項7に記載のデバイスシミュレーション方法。
【請求項9】
ドリフト拡散モデルとポアソン方程式に基づいてキャリアの電流密度及び静電ポテンシャルを算出する処理と、
キャリアのエネルギー保存式において熱伝導による拡散項を無視するとともに電流密度を一定としたものをチャネルに垂直な方向について積分した式に、前記電流密度及び前記静電ポテンシャルを代入して、局所的なキャリア温度を算出する処理と、
所定の移動度モデルに前記キャリア温度を代入して、局所的なキャリア移動度を算出する処理と、
アインシュタインの関係式に前記キャリア移動度を代入して、局所的なキャリア拡散定数を算出する処理と、
ドリフト拡散モデルに前記キャリア移動度及び前記キャリア拡散定数を代入したものとポアソン方程式に基づいて、キャリアの電流密度及び静電ポテンシャルを算出する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
前記各処理を自己無撞着な解が得られるまで繰り返す処理をさらにコンピュータに実行させることを特徴とする、請求項9に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−171375(P2011−171375A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31521(P2010−31521)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】