説明

デバイス表面から突出する配向カーボンナノチューブを有するナノ強化デバイスにより促進された、薬物送達及び物質移送

本発明は、デバイスと組織との間で物質を移送するための、ナノ強化デバイスに関する。このデバイスは、基質中に固定された、実質的に配向されたカーボンナノチューブを有し、このカーボンナノチューブの少なくとも一端を基質から突出させた基質を備える。突出するナノチューブの端部は、生体組織への薬物送達のための薬物で被覆することができる。本発明は、血管形成術用のカテーテルバルーン、又は皮膚上に着用するパッチに用いることができる。カーボンナノチューブは、皮下組織に又は皮下組織から流体を移送することができるナノニードルを効率的に形成させるために、クラスターとして集合体化することができる。ナノニードルは、センサーと併用することで、例えば、pH、グルコース値等の体液情報を調査することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年1月27日に出願され、「CARBON NANOTUBE−BASED DEVICE FOR SUB−DERMAL BLOOD AND FLUID PROPERTY MONITORING」と題した、米国仮出願第61/206,071号、及び2009年5月19日に出願され、「METHOD, DEVICE AND DESIGN FOR DELIVERY OF DRUGS BE A NANO−ENHANCED ANGIOPLASTY BALLOON」と題した、米国仮出願第61/179,639号の利益を主張する、特許本出願である。
【0002】
本発明は、ナノ強化構造の薬物送達及び血液モニタリングデバイスに関し、特に、薬物又は流体のデバイス及び生体組織間での移送を促進させた、デバイス表面から突出する配向カーボンナノチューブを備えるデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
皮下層の毛細血管は、アクセスされた場合、測定される個人の健康についての生体情報を提供する。例えば、血糖値、酸素量、ホルモン濃度等は、血液特性から直接測定することができる。しばしばこの情報を得る目的で、血液をサンプリング装置に採取するために、ニードルを皮膚に差し込まなければならない。このようなニードルの使用は、一般的には、痛み、周囲への血液の露出、又は皮膚の裂傷による感染のリスクを伴う。この手段に対する、低侵襲性の代替手段は、皮下層中に埋設されたセンサーを備えさせることである。しかしながら、インプラントを行うこの手段は、(規模によるものの)インプラントを埋入する工程、及び患者身体による拒絶反応の可能性の両方により、問題がある。
【0004】
本発明の主題に関連する別の分野は、血管形成術である。経皮経管的血管形成(PTA)及び経皮経管冠動脈形成(PTCA)が確立され、これらは、狭窄又は閉塞した動脈の血行再建を最小侵襲的手法で行う、実証済みの方法である。バルーンを、カテーテルを用いて動脈の狭窄部位に配置し、その後、管腔が所望の直径に達するまで膨張させる。膨張したバルーンを使用して、動脈の狭くなった部分を強制的に開くには、非常に高い圧力(15bar)を必要とし、また血管壁に損傷を生じやすい。このような損傷に対する身体の自然な反応は、過剰増殖、すなわち、異常な速度での細胞分裂であり、これにより管腔が狭くなり、そのために血管機能が低下する。これは、狭窄又は閉塞動脈の血行再建という初期目標に対して逆効果となる。
【0005】
血管の過剰増殖反応を抑えるため、パクリタキセルなどの抗増殖性のタキサン薬を用いることができる。組織が低用量のパクリタキセルと、一回、短時間接触することにより、局所的な細胞増殖が阻害されることが示されている。癌性細胞は過剰増殖を示すため、パクリタキセルは、しばしば癌化学療法で用いられる分裂抑制剤である。パクリタキセルは、元来、タイヘイヨウイチイの樹皮に由来するが、現在では他の生物工学的手法により生産されている。パクリタキセルの作用機序は、チューブリンに対する結合により微小管を安定化すること、これにより、細胞分裂中のその通常の分解を妨害することである。これにより、細胞分裂速度の低減の正味の効果が得られ、そして過剰増殖が相殺される。
【0006】
抗増殖性のタキサンは、損傷した血管壁の過剰増殖反応を最小化するための重要な特性を有する。これらは、高い親油性(疎水性)を有し、また様々な細胞成分と強固に結合するため、送達部位における局所的な保持が良好となる。親水性化合物は、組織中に容易に侵入するが、迅速に排出されもする。パクリタキセルは、疎水性化合物であり、送達される管腔から動脈壁に拡散する(非特許文献1参照)。
【0007】
狭窄又は閉塞した動脈の治療のための一般的な手段は、パクリタキセルで被覆された血管形成術用バルーンを用いることであり、ここで、パクリタキセルは、バルーンによる血行再建工程に続いて、過剰増殖を阻害する目的を果たす。この工程は、下記の点で主に制約を受ける。
【0008】
1.パクリタキセルの動脈壁への拡散が十分となることを確保するために長い膨張時間が必要となるため、動脈壁に過度の損傷が生じる。以前の研究では、パクリタキセルの初期用量の約90%を動脈壁に移送するために、40〜60分が必要であることを示す(非特許文献1参照)。
【0009】
2.過剰増殖阻害について最適な利益を得るために、パクリタキセルの被覆は、動脈の狭窄部位に近づける間、血流により失われない、又は洗い流されないことが重要である。先の研究では、パクリタキセルが萎んだバルーンから血流により洗い流される速度は、最大で1分当たり初期用量の1.2%であることが示された(非特許文献2参照)。
【0010】
3.動脈の狭窄部位に近づける間に、健常な動脈壁との接触により、パクリタキセルの被覆が失われる可能性がある。
【0011】
4.一つのバルーンに塗布することができるパクリタキセルの最大用量は、約11mg(10μg/mm)であり、タキソールに関してFDAにより承認されたパクリタキセル用量よりもかなり少ない(非特許文献1参照)。
【0012】
バルーンカテーテルの材料特性を強化する目的での、カーボンナノチューブの使用は、米国特許第7,037,562号明細書中に提案されていることに留意されたい。しかしながら、この特許では、薬物送達の目的ではなく材料の強化の目的で、カーボンナノチューブをベース材料と組み合わせている。加えて、カーボンナノチューブを、それらが表面から突出して、薬物送達を促進することができるように、配向させていない、又はベース材料中に部分的に固定されていないため、そういった目的に関する機能がない装置となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第7,037,562号明細書
【非特許文献】
【0014】
下記の非特許文献を、本出願を通じて引用する。明白性及び利便性のために、中心的な資料として、本明細書中に非特許文献を挙げる。下記の非特許文献は、参照をもって本明細書へ取り込むものとする。非特許文献は、対応する文献番号に言及することによって、本願に引用する。
【非特許文献1】Creel, C. J., M.A. Lovich, and E.R. Edelman, Arterial paclitaxel distribution and deposition. Circulation Research, 2000. 86(8):p.879−884.
【非特許文献2】Scheller, B., U. Speck, C. Abramjuk, U. Bernhardt, M. Bohm, and G. Nickenig, Paclitaxel balloon coating, a novel method for prevention and therapy of restenosis. Circulation, 2004. 110(7):p.810−814.
【非特許文献3】Bronikowski, M. J., Longer nanotubes at lower temperatures: The influence of effective activation energies on carbon nanotube growth by thermal chemical vapor deposition. Journal of Physical Chemistry C, 2007. 111(48):p.17705−17712.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、抽出した流体を大気から保護する、最小侵襲性の血液モニタリングデバイス、及び比較的短い時間内に、体液中の通過に対して最小限の薬物喪失で、多量の所望の薬物を患部に対して効率的に送達することができる薬物送達システムに関して、継続的な必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、デバイスと組織との間で物質を移送するための、ナノ強化デバイスに関する。一態様では、デバイスは、基質及び二つの端部を有する実質的に配向されたカーボンナノチューブ配列を含み、このカーボンナノチューブは、少なくともその一端が基質から突出した状態で基質内に固定され、ここで、突出するカーボンナノチューブが、デバイスの物質移送能力を強化する。
【0017】
デバイスの別の態様では、カーボンナノチューブ配列は、薬物及び遺伝子からなる群から選択される物質で被覆される。
【0018】
デバイスの更に別の態様では、固定されたカーボンナノチューブの突出する端部は、薬物で被覆されず、薬物被覆領域はカーボンナノチューブの側壁、及びカーボンナノチューブ間の隙間からなる群から選択される。
【0019】
別の態様では、デバイスの種類は、組織上に付着させるパッチ、及び血管形成術用バルーンからなる群から選択される。
【0020】
デバイスの更なる態様では、被覆薬物はパクリタキセルである。
【0021】
デバイスの別の態様では、デバイスから組織への薬物送達は、カーボンナノチューブ配列の少なくとも一部の直接又は非直接の加熱、カーボンナノチューブ配列の少なくとも一部を通じた電流、カーボンナノチューブ配列の少なくとも一部のレーザー又は他の光学系による刺激、カーボンナノチューブ配列の少なくとも一部に対する超音波照射、カーボンナノチューブ配列の少なくとも一部の機械的振動、及び製造中のナノチューブ配列の疎水性の調整、からなる群から選択される方法により強化される。
【0022】
更に別の態様では、薬物送達の強化は、即時の時期、及び時系列に従う時期からなる群から選択される時期に行われる。
【0023】
本発明のデバイスの別の態様では、カーボンナノチューブは、各々のクラスターがニードルとして効果的に機能することができるように、一つ又は複数のクラスターに並べられる。
【0024】
デバイスの別の態様では、基質は多孔質材料を含み、ここで、カーボンナノチューブの固有の毛細管作用により、デバイス及び組織に対して又はデバイス及び組織から、物質を移送することができる。
【0025】
別の態様では、基質の多孔質材料に、カーボンナノチューブを通じて組織に移送される物質が充填される。
【0026】
デバイスの更に別の態様では、カーボンナノチューブクラスターは、それらが互いに電気的に絶縁されるようにパターン化され、ここで、デバイスは、ナノチューブクラスターの電位を読み取るセンサーを含む。
【0027】
別の態様では、カーボンナノチューブの固有の電気伝導性は、カーボンナノチューブを前もって化学物質で被覆する処理により調整される。
【0028】
本発明の更なる態様では、カーボンナノチューブクラスターのサブセットがグルコースオキシダーゼで処理され、カーボンナノチューブの別のサブセットがフェリシアン化物で処理され、これにより、血液に導電性が生じ、血糖値の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明の目的、特徴及び利点は、下記の図面を参照して、下記の本発明の様々な態様の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図1】図1は、突出しているカーボンナノチューブを備えるポリマー固定層の側面図である。
【図2A】図2Aは、本発明のナノ強化デバイスの側面図であり、一端のみが基質から突出しているカーボンナノチューブを表す。
【図2B】図2Bは、本発明のナノ強化デバイスの側面図であり、組織表面に突き刺さっているデバイスを表す。
【図3A】図3Aは、本発明のナノ強化デバイスの側面図であり、薬物又は薬剤で被覆されたカーボンナノチューブを表す。
【図3B】図3Bは、本発明のナノ強化デバイスの側面図であり、カーボンナノチューブ配列の中央部分は薬物で被覆されているが、ナノチューブ端は薬物で被覆されていないことを表す。
【図4A】図4Aは、本発明による、基質の多孔質材料中に固定されたナノニードルの側面図である。
【図4B】図4Bは、突出している複数のナノニードルを有するデバイスの側面図である。
【図5A】図5Aは、ナノプローブを形成するためのセンサーと連結させたナノ強化デバイスの側面図である。
【図5B】図5Bは、ナノニードルのクラスターを、電気的に絶縁されたサブセットとしてパターン配置した、本発明のナノプローブデバイスの上面図である。
【図6A】図6Aは、本発明による、ナノ強化されたカテーテルバルーンを示す図であり、バルーンは萎んでいる状態にある。
【図6B】図6Bは、本発明による、ナノ強化されたカテーテルバルーンを示す図であり、バルーンは膨らんでいる状態にある。
【図7A】図7Aは、本発明に従う、ナノ強化された表皮パッチの斜視図である。
【図7B】図7Bは、ユーザーの腕の上に付着させたナノ強化された表皮パッチを示す透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、デバイスと生体組織との間で薬物又は流体の移送を促進するための、ナノ構造強化型の、薬物送達及び血液モニタリングデバイスと、具体的には、デバイス表面から突出する配向カーボンナノチューブを備えるデバイスに関する。以下の説明は、当業者が、本発明をなし、かつ用い、また具体的な適用にそれを取り入れることができるように記載する。多様な適用における、様々な変更及び様々な使用は、当業者に容易に理解され、本明細書中に定義される一般的な原理は、広範な実施形態に応用することができる。このように、本発明は、記載される実施形態に限定されず、本明細書中に開示する原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲を含むことを意図している。
【0031】
以下の詳細な説明で、本発明がより十分に理解されるように、多くの具体的詳細を記載する。しかしながら、本発明が、これらの具体的詳細に必ずしも限定されることなく、実施し得ることは、当業者に明白であろう。他の例では、本発明が曖昧になることを避けるために、周知の構造及びデバイスについては詳細を記載せず、ブロック図の形式で示す。
【0032】
この明細書と同時に提出され、またこの明細書により公開された、あらゆる文献及び文書について、このような全ての文献及び文書の内容は、本明細書に参考として援用される。特に断りがない場合、本明細書中に開示されるあらゆる特徴は、(あらゆる添付の請求項、要約、及び図面も含めて)同一の、相当する、又は同様の目的を果たす代わりの特徴により、置き換えることができる。このように、特に断りがない場合、開示する各々の特徴は、相当する又は同様の特徴を包括する一連の特徴のほんの一例である。
【0033】
また、具体的な機能を発揮する「手段(means for)」、又は特定の機能を発揮する「工程(step for)」を明白に記載しない請求項中のいかなる要素も、米国特許法112条第6項に記載される「手段」又は「工程」節として解釈されるべきではない。特に、本明細書の請求項中での「工程(step of)」又は「作用(act of)」の使用は、米国特許法112条第6項の適用を意図していない。
【0034】
(1)導入
本発明は、ナノ構造強化型の、薬剤送達及び血液モニタリングデバイスに関し、具体的には、デバイスと生体組織との間で薬物又は物質の移送を促進するための、デバイス表面から突出する配向カーボンナノチューブを備えるデバイスに関する。
【0035】
カーボンナノチューブ技術における近年の進展により、ナノメートル(nm)単位の直径、及びミリメートル(mm)単位の長さのニードル又はロッドを作り出すことが可能になった。皮層内の神経分布はまばらであるため、カーボンナノチューブと同様のサイズのナノスケールニードルと比較して、カーボンナノチューブは本出願において有益である。例えば、密接に接触した、10nmの直径を有するカーボンナノチューブ200本の集合体は、集合体全体の直径の合計でも、2マイクロメートル未満を占めるだけであろう。米国特許出願公開2008/0145616(A1)号明細書は、多数のナノスケール構造を選択的に固定する方法を記載する。この固定方法により、他の材料中にナノスケール構造を固定する深さを制御することができる。
【0036】
(2)本発明の詳細な説明
カーボンナノチューブは、いくつかの方法により形成することができ、最も単純な方法は、触媒で被覆した基質を用いる化学蒸着法である。一般的に、前もって準備され、エチレンなどの炭素含有の供給ガス流を有する条件のチューブ炉内に設置され、そして、適正温度、例えば725℃まで昇温されることで、シリコン上を被覆した数ナノメートルの鉄が挙げられる。熱化学気相蒸着によるカーボンナノチューブの成長(非特許文献3参照)は、一般的にはシリコンの成長基質上に、垂直に配向したカーボンナノチューブを生じさせる。
【0037】
上述の米国特許出願公開2008/0145616(A1)号明細書に記載されるように、基質上へのカーボンナノチューブ配列の固定は、カーボンナノチューブ配列を、未硬化ポリマー材料の層と接触させて、その後硬化処理を施すことによって行うことができる。カーボンナノチューブを、バルーン材料などの管状の基質に固定するために、犠牲剥離層を中心軸ロッドの周囲に用いて円筒状の形状を保持してもよい。まず、犠牲剥離層を、ロッドの周囲に堆積させて形成し、可能な限り硬化させる。その後、バルーン材料を剥離層の周囲に堆積させる。ナノチューブをその後バルーン材料に付着させ、又は固定する。最後に、犠牲剥離層を除去して、ナノチューブが、付着され、又は内部で固定されたバルーンを取り出す。
【0038】
カーボンナノチューブを基質に付着させる前又は後に、別の工程で、薬物、遺伝子、又は他の物質をカーボンナノチューブ上に被覆することができる。これは、特に、薬物のパクリタキセルを用いることで可能となるが、それは、パクリタキセルが疎水性であり、且つカーボンナノチューブも成長状態では疎水性であるためである。このように、パクリタキセル分子は、通常、脂肪性及び疎水性である血管内の閉塞物質と密接に接触して配置されるまで、カーボンナノチューブの方に付着する。加えて、カーボンナノチューブ表面は、本来疎水性であるため、ナノチューブの層内に存在するいかなる物質も、ナノチューブ表面に接触することになる水、並びに血液などの水性の溶液及び混合物を受けつけない。このように、本発明の望ましい態様では、カーボンナノチューブの先端は、薬物で被覆されず、この薬物被覆は、ナノチューブの側壁及び/又はナノチューブ間の隙間に限定される。この態様により、安全な表面接触がもたらされ、標的ではない組織又は体液への早まった薬物放出が避けられる。
【0039】
カーボンナノチューブによる標的組織への薬物放出は、様々な補強方法を実行する補強装置を組み合わせることで促進され、この補強方法は、一つ又は複数の下記のもの:例えば、高周波(RF)などの電磁波照射;電流;レーザー又は他の光学的な刺激;超音波;機械的振動による直接又は非直接の加熱をカーボンナノチューブに対して適用することが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、製造中にナノチューブ配列の疎水性を調整すること(例えば、酸素プラズマによる処理により行うことができる)によっても補強することができる。これらの補強方法は、カーボンナノチューブの、空間的にパターン化された部分又は全体のいずれかに対して適用することができる。これらの方法は、即時に又は時系列に従って、適用することができる。
【0040】
図1は、本発明の一般的な実施形態を示す図である。このデバイスは、基質層100、及び実質的に配向した複数のカーボンナノチューブ102を備える。各々のカーボンナノチューブは、二つの端104を有し、カーボンナノチューブ102は、少なくとも一端104を基質から突出させて、基質100に固定される。図示する例では、カーボンナノチューブ102は、両端において基質100から突出する。
【0041】
図2Aは、配向カーボンナノチューブ102が一端104のみにおいて基質100から突出する、このデバイスの別の実施形態を図示する。図2Bは、皮膚、動脈壁、結腸などの生体組織200の表面に突き刺さっている、カーボンナノチューブ配列102の端部104を示す。本発明は、医薬分野以外での使用の可能性もあることに留意されたい。このデバイスは、生体組織以外の広範囲の標的に対して、物質を容易に移送することができるため、生体組織への適用に限定されない。
【0042】
カーボンナノチューブは、組織に移送するための薬物、遺伝子、又は他の物質により被覆することができる。図3Aは、カーボンナノチューブ102が生体組織に移送される物質300で被覆されたデバイスの実施形態を図示する。図3Bに示す他の実施形態では、カーボンナノチューブの端104が物質300で被覆されていない。被覆物質300は、この場合、カーボンナノチューブの側壁、及び/又はカーボンナノチューブ間の隙間に限られる。
【0043】
(3.0)具体的な適用
(3.1)ニードル
本発明の一態様は、容易に皮層に差し込むことができ、毛細血管又は組織液に到達するマイクロニードルとして機能するカーボンナノチューブを、パターン化して分散させて使用するデバイスである。このようなデバイスは、ニードル又はリバースニードル(reverse needle)として用いることができ、それぞれ体に対する又は体からの物質の移送を促進する。図4Aは、カーボンナノチューブ102がナノニードルを形成するように、基質100中に固定した一群のカーボンナノチューブ102を示す。図示する実施形態では、基質は多孔質基質400である。両矢印402は、カーボンナノチューブ102を通じて、基質に対する又は基質からの物質の移動が生じ得る方向を示す。ニードルとして機能する際には、カーボンナノチューブベースのニードルは、図2Bに示す突き刺す作用と同様に、皮下で流体と接触することにより、血液又は組織液を多孔質基質400中に取り出す作用も有する。流体の分析は、光学的分析などの何らかの別の手段によりなされる。リバースニードル(reverse needle)として機能する際には、多孔質基質400に、何らかの薬剤、例えば、医薬を前もって充填し、これを、カーボンナノチューブベースのニードルを通じて、皮下領域中に送達させることができる。図4Bは、複数のニードル様のナノチューブ102のクラスターを備えるデバイスを示す。
【0044】
(3.2)プローブ
ナノニードルデバイスは、センサーと組み合わせて、血糖値、又は他の血液若しくは体液の物性、例えばpH、糖値、酸素含有量等をモニターするためのプローブとして機能させることができる。このデバイスは、カーボンナノチューブの固有の電気伝導性に基づいて機能する。図5Aは、本発明に従うナノプローブを図示する。プローブは、センサー500と連結した基質100中に固定した、一つ又は複数のカーボンナノチューブ102のクラスターを備える。このセンサーは、所望の作動形態に依存して、カーボンナノチューブ102又は基質100又は両方と、動作可能なように連結させることができる。図5Aでは、センサー500は、カーボンナノチューブ102のクラスターと動作可能なように連結される。図5Bの上面図に示す、望ましい実施形態では、ナノチューブクラスターが、互いに電気的に絶縁されるようにパターン化される。図示のパターンは、ナノチューブクラスターの内輪502及び外輪504を備える。図5Bに示す態様についての具体的な用途としては、血糖値の測定が挙げられる。本出願では、カーボンナノチューブクラスターのサブセット(例えば、内輪502)を、グルコースオキシダーゼで処理し、一方で、カーボンナノチューブクラスターの別のサブセット(例えば、外輪504)を、フェリシアン化物で処理することにより、血液中に導電性を生じさせ、血糖値の測定を可能にする。本発明は、図5Bに示す具体的な実施形態に加えて、さまざまなパターンのナノチューブクラスターを用いることができることに留意されたい。また、このデバイスは、被覆プローブとして用いることもでき、ここで、薬物などの薬剤で、図3A及び3Bに示すカーボンナノチューブの表面上又は内部を、前もって被覆することができ、そして、カーボンナノチューブを生体組織中に差し込むことにより、薬剤を送達し、または放出することができる。
【0045】
(3.3)絵筆
図4Bに示すカーボンナノチューブの集合体は、カーボンナノチューブの固有の毛細管作用により、湿式の絵筆として作用することもできる。同様の方法は、米国特許出願第11/124,523号明細書に記載されており、この参照により本明細書に取り込まれたものとする。
【0046】
(3.4)血管形成術用バルーン
本発明の別の望ましい実施形態は、血管の一部を開くためにバルーンを膨張させることに続いて、組織細胞の過剰増殖を防止するためにパクリタキセル薬を送達するための血管形成術におけるものである。しかしながら、本発明は、血管形成術での使用又はパクリタキセルの送達に限定されるとみなすべきではない。本発明は、これらに限定されないが、皮膚、子宮、気管支、及び直腸を含む消化管の様々な部位を含めて、身体の様々な部位に、多様な物質を送達するために、適切に用いることができる。
【0047】
図6A及び6Bは、本発明のナノ強化された血管形成術用バルーン600を図示する。図6Aは、血管又は他の生体内腔(body enclosure)に挿入できるように、萎んだ形状の血管形成術用バルーンを示す。膨張時、図6Bに示すように、表面のカーボンナノチューブ102は、図2Bに示す形で血管表面に差し込まれ、そこに被覆されたあらゆる薬物を標的組織に放出する。
【0048】
本発明は、血管形成術用バルーンとしての使用に関して、長い膨張時間、挿入工程中の喪失による有効な薬物量の低減、健常な組織に対する早まった及び/又は望ましくない送達、並びに送達される薬物の総量の低下を含む、上記背景に記載した関連技術の課題を解決する。送達可能な薬物量は表面積に依存するため、ナノ強化されたバルーンカテーテルは、挿入工程を通じてより多くの量の薬物を保持し、また、送達可能な最大薬物量を約1000倍程度増加させる。これは、ナノ構造によりもたらされる表面積の増加量と同程度である。
【0049】
下記の式は、ナノ強化されたバルーンの表面積を、ナノ強化を施さない標準的なバルーンと比較する。
【0050】
【数1】

式中:
d(図1では、106)は、個々のカーボンナノチューブの直径であり;
h(図1では、108)は、個々のカーボンナノチューブの長さであり;
s(図1では、110)は、個々のカーボンナノチューブ間の距離であり;
R(図6Bでは、604)は、バルーンの半径であり;そして、
L(図6Aでは、602)は、バルーンの長さであり、また、
以下の、一般的な前提値:
d=10nm;
s=100nm;及び
h=500nm
を用いて、
下記の結果が得られた:
【数2】

【0051】
この結果は、記載されるバルーンカテーテルの表面拡散の向上により、表面積を10倍容易に増大させることができることを示す。
【0052】
(3.5)表皮パッチ
本発明のナノ強化された表面は、皮膚上に付着させる表皮パッチに用いることができる。図7Aは、ナノ強化された表皮パッチの一例700を示す。このパッチは、皮膚に付着する表面から突出する配向カーボンナノチューブ102を有する。パッチ700の一部、例えば周縁部702を、皮膚に対する付着を容易にするために、接着剤で被覆してもよい。図7Bに示すように、パッチ700を皮膚に適用するとき、カーボンナノチューブ102は、図2Bに示す形で皮膚に差し込まれ、そこに被覆されたあらゆる薬物又は薬剤を皮膚に放出する。このパッチは、先述のいかなる本発明の実施形態とも併用して用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスと組織との間で物質を移送するためのナノ強化デバイスであって、
前記デバイスは、基質及び二つの端を有する実質的に配向されたカーボンナノチューブ配列を含み、
前記カーボンナノチューブは、少なくとも一端が前記基質から突出した状態で前記基質内に固定され、突出する前記カーボンナノチューブが、前記デバイスの物質移送能力を強化する、ナノ強化されたデバイス。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ配列は、薬物及び遺伝子からなる群から選択される物質で被覆される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは側壁を有し、前記ナノチューブ配列はカーボンナノチューブ間に隙間を有し、
固定された前記カーボンナノチューブの突出する端部は、薬物で被覆されず、
薬物被覆領域は、前記カーボンナノチューブの前記側壁、及び前記カーボンナノチューブ間の前記隙間からなる群から選択される領域からなる、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記デバイスは、組織上に付着するパッチ、及び血管形成術用バルーンからなる群から選択される、請求項2に記載のデバイス。
【請求項5】
前記薬物は、パクリタキセルである、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ配列の少なくとも一部の直接又は非直接の加熱、前記カーボンナノチューブ配列の少なくとも一部への通電、前記カーボンナノチューブ配列の少なくとも一部に対するレーザー又は他の光学的な刺激、前記カーボンナノチューブ配列の少なくとも一部に対する超音波照射、前記カーボンナノチューブ配列の少なくとも一部の機械的振動、及び製造中の前記ナノチューブ配列の疎水性の調整、からなる群から選択される補強作用を発揮することができる、薬物送達補強装置との併用により、前記デバイスから組織への薬物送達が強化された、請求項2に記載のデバイス。
【請求項7】
前記薬物送達補強装置は、即時の時期、及び時系列に従う時期からなる群から選択される時期に前記補強作用を行う、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブは、一つ又は複数のカーボンナノチューブクラスターとして配置され、各々のクラスターがニードルとして効果的に機能することができるよう構成された、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記基質は多孔質材料を含み、
前記物質を、前記カーボンナノチューブの固有の毛細管作用により、前記デバイス及び前記組織に対して又は前記デバイス及び前記組織から移送することができる、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記基質の前記多孔質材料に、前記カーボンナノチューブを通じて前記組織に移送するための前記物質が充填される、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブクラスターは、それらが互いに電気的に絶縁されるようにパターン化され、
前記デバイスは、前記ナノチューブクラスターの電位を読み取るセンサーを含む、請求項8に記載のデバイス。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブは、固有の電気伝導性を有し、
前記カーボンナノチューブの前記固有の電気伝導性は、前記カーボンナノチューブを前もって化学物質で被覆する処理により調整される、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブクラスターのサブセットが、グルコースオキシダーゼで処理され、
前記カーボンナノチューブの別のサブセットが、フェリシアン化物で処理されていることで、
血液中に導電性を生じさせ、血糖値の測定を可能にする、請求項12に記載のデバイス。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2012−516202(P2012−516202A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547977(P2011−547977)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/000243
【国際公開番号】WO2010/087971
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(301059570)カリフォルニア インスティチュート オブ テクノロジー (14)
【Fターム(参考)】