説明

デヒドロアビエチン酸由来の重合体およびその用途

【課題】天然由来の新規な素材であって、種々の用途に使用可能な重合体を提供することを課題とする。
【解決手段】デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を主鎖に含む繰り返し単位を有し、ガラス転移点が80℃以下であることを特徴とする重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デヒドロアビエチン酸由来の重合体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保護の観点から、資源の脱石油化が検討され、様々な天然資源が注目されている。プラスチックの分野でも脱石油化が図られ、グルコースの発酵により得られるバイオエタノール、乳酸、コハク酸等をポリマー原料とする動きが活発になっている。それらの中でも乳酸の重合によって得られるポリ乳酸は既に包装材料等に広く用いられている。
【0003】
しかし、近年ますます脱石油化の要求が強くなり、包装材料等の成形品やそれ以外への用途へ応用展開できる天然由来樹脂の重要度がより一層増してきている。そのため、ポリ乳酸以外の天然由来樹脂の開発も求められている。
【0004】
ところで、天然物由来の成分として、松脂から採取できるロジンがある。このロジンは種々のテルペン系カルボン酸の混合物からなるが、それらのカルボン酸のうちアビエチン酸を高分子材料に利用することが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
例えば、特許文献1及び2は、アビエチン酸をフェノール樹脂又はエポキシ樹脂の末端部に修飾することにより、ロジン変性フェノール樹脂及びロジン変性エポキシ酸樹脂として塗料等の結合剤とすることを開示している。しかしながら、これらの樹脂は、フェノール樹脂又はエポキシ樹脂を主骨格としているため、石油依存の原料であり、地球環境保護の観点に至っていない。
【0005】
また、アビエチン酸を多価アルコールと重合させた重合体も知られている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3に記載の重合体は、不規則に重合し、ゲル化してしまうため、高い分子量の線状重合体とはならず、工業的に不利である。
さらに不均化ロジンを側鎖に含むトナー用ポリエステル樹脂が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−274150号公報
【特許文献2】特開平6−87946号公報
【特許文献3】特開平6−33395号公報
【特許文献4】特開2010−20170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献4に記載のトナー用ポリエステル樹脂を、乳化凝集トナー等のいわゆるケミカルトナーに適用することは乳化特性および画像品質等の点で困難であった。 本発明は、前記の状況に鑑みてなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、天然由来の新規な素材であって、種々の用途に使用可能な樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、天然資源である松脂の中でも特定の一成分のデヒドロアビエチン酸に着目し、そのデヒドロアビエチン酸に由来する骨格を主鎖として高分子化すること、即ち、当該デヒドロアビエチン酸由来の骨格を主鎖に含む繰り返し単位とした重合体にすることに成功した。そして、その重合体中でも特定のガラス転移点のものが特に種々の用途に好適に使用できることを発見し、本発明を完成するに至った。
本発明は下記のデヒドロアビエチン酸由来の重合体並びにその用途に関する。
<1> デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を主鎖に含む繰り返し単位を有し、ガラス転移点が80℃以下であるデヒドロアビエチン酸由来の重合体。
<2> ポリエステル重合体である、前記<1>に記載の重合体。
<3> 前記繰り返し単位は、下記一般式(A)で示される、前記<1>又は<2>に記載の重合体。
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式(A)中、Lは炭素数3以上の2価の有機基を示し、Lは2価の有機基を示す。Xはカルボニルオキシ基またはオキシカルボニル基を示し、Xはオキシカルボニル基またはカルボニルオキシメチル基を示す)
【0011】
<4> 前記一般式(A)におけるLは、酸素原子、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、アラルキレン基、及び下記一般式(D)で示される基からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される炭素数3以上の2価の有機基である、前記<3>に記載の重合体。
【0012】
【化2】

【0013】
(一般式(D)中、Lは単結合又は炭素数1〜12の2価の有機基を示し、*は一般式(A)における芳香環との結合位置を示し、**はXとの結合位置を示す)
【0014】
<5> 前記一般式(A)におけるLは、酸素原子、カルボニル基、アルキレン基、アリーレン基、及びアラルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される炭素数3以上の2価の有機基である、前記<3>又は<4>に記載の重合体。
<6> 前記一般式(A)におけるLは、酸素原子、カルボニル基、及びアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される炭素数3以上の2価の有機基である、前記<3>〜<5>のいずれか1項に記載の重合体。
【0015】
<7> 前記一般式(A)で示される繰り返し単位のみからなる、前記<3>〜<6>のいずれか1項に記載の重合体。
【0016】
<8> 重量平均分子量が5000以上500000以下である、前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の重合体。
<9> 酸価が5mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、前記<1>〜<8>のいずれか1項に記載の重合体。
<10> 前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の重合体を含む水性樹脂分散物。
<11> 前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の重合体を含有するトナー用バインダー。
<12> 前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の重合体と、顔料と、離型剤と、を含有するトナー。
<13> 前記重合体は、前記<10>に記載の水性樹脂分散物に由来する、請求項13に記載のトナー。
<14> 前記<12>又は<13>に記載のトナーと、キャリアと、を含有する現像剤。
<15> 前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の重合体を含有するフィルム。
<16> 前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の重合体を含有するホットメルト型接着剤。
<17> 前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の重合体を含有する熱可塑性エラストマー材料。
<18> 前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の重合体を含有するプラスチック改質剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、天然由来の新規な素材であって、種々の用途に使用可能な樹脂を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施例におけるデヒドロアビエチン酸重合体の一例にかかるH−NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の重合体は、デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を主鎖に含む繰り返し単位を有し、ガラス転移点が80℃以下であるデヒドロアビエチン酸由来の重合体である。ここで、本発明において「デヒドロアビエチン酸に由来する骨格」とは、松脂に含まれるデヒドロアビエチン酸、または、デヒドロアビエチン酸のカルボキシル基がヒドロキシル基に還元された化合物(デヒドロアビエチルアルコール)から、水素原子を2つ取り除いて構成される2価の基を意味する。具体的には、下記式(B1)または(B2)で表される骨格を意味する。尚、式(B1)および式(B2)中、*は結合位置を表す。
【0020】
【化3】

【0021】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は上記式(B1)または式(B2)で表される骨格を主鎖に含む繰り返し単位を有するもので、かつガラス転移点が80℃以下のものである。ガラス転移点は好ましくは75℃以下、より好ましくは70℃以下である。下限は限定的でないが、好ましくは−30℃以上、より好ましくは0℃以上である。なお、本発明において、ガラス転移点は、示査走査熱量計(SIIナノテクノロジー社製、DSC6200)によって測定される値をいう。
本発明では、前記重合体はポリエステル重合体であることが好ましく、デヒドロアビエチン酸誘導体とジオール化合物との重縮合物、デヒドロアビエチルアルコール誘導体とジカルボン酸との重縮合物、および、デヒドロアビエチン酸誘導体またはデヒドロアビエチルアルコール誘導体とヒドロキシカルボン酸化合物との重縮合物のいずれかであることがより好ましく、デヒドロアビエチン酸誘導体とジオール化合物を重縮合させることにより得られたポリエステル重合体であることがさらに好ましい。
【0022】
前記デヒドロアビエチン酸誘導体とジオール化合物との重縮合物として、より具体的には、下記一般式(C)で示されるデヒドロアビエチン酸誘導体とHO−L−OH(Lは2価の有機基を示す)で示されるジオール化合物を重縮合させることにより得られるポリエステル骨格を繰り返し単位として有することが好ましい。
【0023】
【化4】



【0024】
一般式(C)中、Lは炭素数3以上の2価の有機基を示す。
【0025】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は下記一般式(A)で表される繰り返し単位を有するものであることが特に好ましい。
【0026】
【化5】



【0027】
一般式(A)中、Lは炭素数3以上の2価の有機基を示し、Lは2価の有機基を示し、Xはカルボニルオキシ基またはオキシカルボニルエステル基を示し、Xはオキシカルボニル基またはカルボニルオキシメチル基を示す。
すなわち一般式(A)で表される繰り返し単位は、下記一般式(A1)〜(A4)のいずれかで表される。
【0028】
【化6】



【0029】
で示される2価の有機基は、炭素数が3以上であって、炭素原子を構造の基本骨格に持つ2価の基であることが好ましい。炭素数の上限は限定的でないが例えば30以下、特に25以下とすればよい。これにより、重合体のガラス転移点を下げて80℃以下とすることができる。
で示される2価の有機基は具体的には、酸素原子、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、アラルキレン基、および下記一般式(D)で示される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される炭素数が3以上の2価の有機基であることが好ましい。
すなわちLで示される2価の有機基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、アラルキレン基、および下記一般式(D)で示される2価の基等や、これらと、エーテル結合およびカルボニル結合の少なくとも1種とを組み合わせて構成される炭素数3以上の2価の有機基であることが好ましい。
尚、Lで示される2価の有機基は、置換又は無置換であってもよい。
【0030】
またLの結合位置は特に制限されないが、芳香環部分であることが好ましく、イソプロピル基を13位とした場合の12位または14位であることがより好ましい。
【0031】
のアルキレン基の例としては、例えば−C2n−(nは3〜18、好ましくは3〜12の整数)、−C2m−(cyclo−C10)−C2n−(m及びnは独立に0〜4の整数、好ましくは1〜2の整数を示す。ただし、mとnが同時に0となることはない。)等を挙げることができる。より具体的には、−C−、−C−、−C16−、−C1020−、−CH−CH(CH)−、−CH(cyclo−C10)CH−、1,4−trans−シクロヘキシレン基等を挙げることができる。これらの基は直鎖状であっても分岐していてもよく、また、環状であってもよい。
【0032】
のアルケニレン基の例としては、例えば−C2n−2−(nは3〜18、好ましくは3〜12の整数)を示す。より具体的には、−C−、−C−、−C14−、−C1018−、−CH−CH=C(CH)−、−CHCH−C(=CH)−等を挙げることができる。これらの基は直鎖状であっても分岐していてもよく、また、環状であってもよい。
【0033】
のアリーレン基の例としては、例えばフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、−C(C2n)C−(nは独立に1〜8の整数、好ましくは1〜4を示す。)等を挙げることができる。より具体的には、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、2,6−ナフチレン基、−CC(CH−等を挙げることができる。これらの基に含まれることのあるアルキル基及びアルキレン基は直鎖状であっても分岐していてもよく、また、環状であってもよい。
【0034】
のアラルキレン基の例としては、例えば−C2m2n−(m及びnは独立に0〜4の整数、好ましくは1〜2の整数を示す。ただし、mとnが同時に0となることはない。)等を挙げることができる。より具体的には、−CHCH−、−CHCHCHCH−等を挙げることができる。これらの基に含まれることのあるアルキル基及びアルキレン基は直鎖状であっても分岐していてもよく、また、環状であってもよい。
【0035】
におけるエーテル結合(−O−)、カルボニル結合(−CO−)、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基及びアラルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される有機基の例としては、
−C2m(OC2n−(kは1〜8の整数、好ましくは1〜3の整数を示し、m及びnは独立に2〜4の整数、好ましくは2〜3の整数を示す。);
−C2mOCOC2n−(m及びnは独立に2〜10の整数、好ましくは2〜4の整数を示す。);
*−C(=O)−C2n−(nは2〜10の整数、好ましくは2〜8の整数を示す。);
*−C(=O)−C2n−2−(nは2〜10の整数、好ましくは2〜8の整数を示す。)
(*が一般式(A)中のデヒドロアビエチン酸の芳香環(例えば、12位)と結合する部分である。以下、同様とする。)等を挙げることができる。
【0036】
より具体的には、−CHCHOCHCH−、−CHCH(OCHCH−、−CHCH(OCHCH−、−CHCHOCOCHCH−、−CHCHOCO−1,4−CCOOCHCH−、−CHCHOCO−1,3−CCOOCHCH−、−COCO−1,4−CCOOC−、−COCO−1,4−CCOOC−、*−C(=O)−C−、*−C(=O)−C−、*−C(=O)−C−、*−C(=O)−C16−、*−C(=O)CH=CH−、*−C(=O)CHC(=CH)−、*−C(=O)CH=C(CH)−等が挙げられる。これらの基は直鎖状であっても分岐していてもよい。また、環状であってもよい。
【0037】
また、Lはデヒドロアビエチン酸骨格を有していることもまた好ましい。例えば、デヒドロアビエチン酸骨格を含むLとして、以下の一般式(D)で示される2価の有機基を例として挙げることができる。
【0038】
【化7】



【0039】
一般式(D)中、Lは単結合又は炭素数1〜12の2価の有機基を示す。*は一般式(A)における芳香環との結合位置を示し、**はXとの結合位置を示す。
で示される2価の有機基の好ましい例としては、エーテル結合、カルボニル結合又はエステル結合(−COO−若しくは−OCO−)を有していてもよいアルキレン基などが挙げられる。例えば、
−(CH−(nは1〜12、好ましくは1〜3の整数、さらに好ましくは1)、
−O−C2n−O−(nは2〜12、好ましくは2〜8の整数、さらに好ましくは2〜4)、
−O−(C2nO)−(mは1〜6、好ましくは1〜4の整数、さらに好ましくは1〜2、nは2〜6好ましくは2〜4の整数、さらに好ましくは2)、
−C(=O)O−C2n−OC(=O)−(nは2〜10、好ましくは3〜8の整数、さらに好ましくは5〜8)、
−C(=O)−C2n−C(=O)−(nは2〜10、好ましくは3〜8の整数、さらに好ましくは5〜8)等が挙げられる。
【0040】
で示される2価の有機基として、より具体的には、−(CH)−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH10−、−CHCHOCHCH−、−OCHCHOCHCHO−、−OCHCHCHO−、−OCHCHCHCHO−、−C(=O)OCOC(=O)−、 −C(=O)OCOC(=O)−、−C(=O)OC16OC(=O)−、−C(=O)OC1020OC(=O)−、−C(=O)CC(=O)−、 −C(=O)CC(=O)−、−C(=O)C16C(=O)−、−C(=O)C1020C(=O)−が挙げられる。
【0041】
またLの結合位置は特に制限されないが、芳香環部分であることが好ましく、イソプロピル基を13位とした場合の12位または14位であることがより好ましい。
【0042】
で示される2価の有機基の好ましい例としては、−C−、−C−、−C16−、−C1020−、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、−CHCH−、−CHCHCHCH−−CHCHOCHCH−、−CHCH(OCHCH)−、−CHCH(OCHCH)3−、−CHCHOCOCHCH−、−CHCHOCO−1,4−CCOOCHCH−、−CHCHOCO−1,3−CCOOCHCH−、−COCO−1,4−CCOOC−、−COCO−1,4−CCOOC−、−C(=O)−C−、−C(=O)−C−、−C(=O)−C−、−C(=O)−C16−、−C(=O)CH=CH−、−C(=O)CHC(=CH)−、−C(=O)CH=C(CH)−や、以下の構造式で表される2価の有機基等が挙げられる。
【0043】
【化8】

【0044】
これらの中でもLは、酸素原子、カルボニル基、アルキレン基及び一般式(D)で示される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される有機基であることが好ましく、特に、−C−、−C−、−C16−、−C1020−等の−C2n−(nは3〜18、好ましくは3〜12の整数);−C(=O)−C−、−C(=O)−C−、−C(=O)−C16−等の*−C(=O)−C2n−(nは2〜10の整数、好ましくは2〜8の整数を示す。)、および一般式(D)で示される2価の基等が好ましく、*−C(=O)−C2n−および一般式(D)で示される2価の基がさらに好ましい。
【0045】
で示される2価の有機基は炭素原子を構造の基本骨格に持つ2価の基であれば限定的ではないが、ガラス転移点を80℃以下にする観点からは、炭素数3以上のアルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基を含むことが好ましい。これらの有機基はさらにエーテル結合又はエステル結合(−COO−若しくは−OCO−)を1つ又は複数含んでいてもよい。
【0046】
のアルキレン基の例としては、Lで例示列挙したアルキレンと同様のもの(好ましい例示も含めて)が挙げられる。
【0047】
のアリーレン基の例としては、Lで例示列挙したアリーレン基と同様のもの(好ましい例示も含めて)が挙げられる。
【0048】
のアラルキレン基の例としては、Lで例示列挙したアラルキレン基と同様のもの(好ましい例示も含めて)が挙げられる。
【0049】
における、エーテル結合(−O−)又はエステル結合と、アルキレン基、アリーレン基及びアラルキレン基とを含む有機基の例としては、−C2m(OC2n−(kは1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数を示し、m及びnは独立に2〜4の整数、好ましくは2〜3の整数を示す。);−C2mOCOC2n−(m及びnは独立に2〜10の整数、好ましくは2〜4の整数を示す。)、−C2mOCOCCOOC2n−(m及びnは独立に2〜10の整数、好ましくは2〜4の整数を示す。)等を挙げることができる。より具体的には、−CHCHOCHCH−、−CHCH(OCHCH)−、−CHCH(OCHCH)3−、−CHCHOCOCHCH−、−CHCHOCO−1,4−CCOOCHCH−、−CHCHOCO−1,3−CCOOCHCH−、−COCO−1,4−CCOOC−、−COCO−1,4−CCOOC−等が挙げられる。これらの基は直鎖状であっても分岐していてもよい。
【0050】
で示される2価の有機基の好ましい例としては、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH10−、−CHCHOCHCH−、−CHCH(CH)−、−CHCH(OCHCH)−、−CHCH(OCHCH)−、−CC(CH−、−CHCHOCOCHCH−、−CHCHOCO−1,4−CCOOCHCH−、−CHCHOCO−1,3−CCOOCHCH−、−COCO−1,4−CCOOC−、−COCO−1,4−CCOOC−およびこれらの組み合わせ等が挙げられる。
これらの中でも、アルキレン基、および、エーテル結合又はエステル結合とアルキレン基から構成される有機基が好ましい。具体的には−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH10−等の−C2n−(nは3〜18、好ましくは3〜12の整数)で表される基、−CHCHOCHCH−、−CHCH(OCHCH−、−CHCH(OCHCH−等の−CHCH(OCHCH−(kは1〜8、好ましくは1〜3の整数)で表される基等が好ましい。
【0051】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体の好ましい組み合わせ(一般式(A))としては、
が−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH10−、−CHCHOCHCH−、−CHCH(OCHCH−、−OCHCHCH−、−OCHCHCHCH−、−C(=O)C、−C(=O)C16−、又は一般式(D)でLが−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH10−、−CHCHOCHCH−、−C(=O)CHCHC(=O)、−C(=O)C16C(=O)−、一般式(D)で示される2価の基等であって、
が−(CH−、−(CH−、−(CH10−、−CHCHOCHCH−、−CHCH(OCHCH−、−CC(CH−、−CHCHOCOCHCH−、−CHCHOCO−1,4−CCOOCHCH−、−CHCHOCO−1,3−CCOOCHCH−、−COCO−1,4−CCOOC−、−COCO−1,4−CCOOC−等である。
【0052】
特に本発明では、Lが、アルキレン基、エーテル結合もしくはカルボニル結合とアルキレン基から構成される有機基、または一般式(D)で示される2価の有機基であって、Lが、アルキレン基、またはエーテル結合もしくはエステル結合とアルキレン基から構成される有機基である組み合わせが好ましい。さらには、Lが−C2n−、*−C(=O)−C2n−、または一般式(D)で示される2価の有機基であって、Lが−C2n−または−CHCH(OCHCH−である組み合わせが好ましい。特には、Lが一般式(D)で示される2価の有機基であって、Lが−CHCH(OCHCH−である組み合わせが好ましい。
【0053】
本発明の重合体は、上記一般式(A)で表される繰り返し単位として含有していればよく、上記一般式(A)で表される繰り返し単位の単独重合体であってもよく、そのほかのモノマーとの共重合体であってもよい。そのほかのモノマーとしては上記一般式(A)で表される繰り返し単位と重合可能であれば限定的でなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、そのほかのモノマーから得られる繰り返し単位としては、下記のものが好適に挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用してもよいし、さらに他の繰り返し単位(例えば−C2m−(mは例えば2〜12好ましくは2〜10の整数)等の繰返し単位)を含んでいてもよい。
【0054】
【化9】



【0055】
nは2〜12までの整数、好ましくは2〜10までの整数を示す。
【0056】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体が他のモノマーを含む共重合体である場合、一般式(A)で示される繰り返し単位と当該他のモノマーとのモル比は限定的でなく、目的とする機能及び用途に応じて適宜決定すればよい。例えば、共重合体中における一般式(A)で示される繰り返し単位の含有比率を、30〜99(mol%)程度とすることができ、好ましくは40〜90(mol%)程度とすることができる。
【0057】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体の重量平均分子量は限定的でないが、好ましくは5000〜500000程度、より好ましくは8000〜300000程度である。この範囲とすることにより、本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は機械的強度、加工適性がより一層優れ、工業的利用の点で有利となる。
また本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体の分子量分布は限定的でないが、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6である。この範囲とすることにより、乳化物の分散性、分散安定性の点で有利となる。
本発明における重量平均分子量および分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量測定(ポリスチレン換算)で得られる値である。
【0058】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体の酸価は特に制限されない。好ましくは5mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であり、より好ましくは7mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である。尚、酸価は、JIS規格(JIS K 0070:1992)記載の方法により測定される。
酸価が前記範囲内であることで、例えば、水性樹脂分散物を構成した場合に自己分散性、分散安定性が向上する。
本発明において酸価を所望の値とする方法は特に限定されない。例えば、前記重合体を構成するモノマーの構成比率を調整する方法等を挙げることができる。
【0059】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体には、デヒドロアビエチン酸骨格を含む繰返し単位を有するものに対して、更に置換基を導入して化学変換を施したデヒドロアビエチン酸誘導体の重合体も含む。置換基としては、例えば、ハロゲン原子(F,Cl,Br等)、アルキル基(メチル基、イソプロピル基等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)等が挙げられる。
【0060】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は、例えば、剛直(ハード)な分子であるデヒドロアビエチン酸由来の骨格と、柔軟(ソフト)な分子である連結基(例えば、L及びL、共重合させるジオール化合物等)を有するため、重合体として機械的強度と、柔軟性や低温加工適性とがバランス良く両立できる。したがって、例えば、接着剤・バインダー用途をはじめ、種々の用途に使用でき得る。また、柔軟性の大きな分子の導入率を高めるとゴム弾性を発現させることもできるため、例えば従来知られていなかった天然資源由来の熱可塑性エラストマー等にも使用できる。
【0061】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体の用途は限定的でなく種々の用途に使用することができる。例えば、(ホットメルト型等の)接着剤、粘着剤、シーリング材、コーティング材、プラスチック相溶化剤、プラスチック改質材、各種フィルム・シート等が挙げられる。その他、柔軟で低温特性に優れることを利用して、各種のホース・チューブ、電線被覆材、光ファイバー被覆材、各種フィルム・シート等に利用できる。また、複写機(例えば、ゼログラフィー等)用トナーバインダーにも利用できる。熱可塑性エラストマーとして、防振材料、防音材料、各種パッキング、自動車部品等、様々な形態で種々の用途に利用できる。
【0062】
[デヒドロアビエチン酸由来の重合体の製造方法]
次に本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体の製造方法について説明する。
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は、例えば、下記一般式(E)で示されるデヒドロアビエチン酸誘導体と、HO−L−OH(Lは前記と同じ)で示されるジオール化合物とを重縮合させる工程を経ることにより得られる。また、必要に応じて、さらに、その他のモノマー(例えば、ジカルボン酸等)を共重合させることにより、デヒドロアビエチン酸共重合体が得られる。
【0063】
【化10】



【0064】
一般式(E)中、X及びYは同一でも異なっていてもよく、それぞれ、−OH、−OR、−OCOR、−OCOOR、−OSOR、ハロゲン原子(F,Cl,Br等)、イミダゾリル基、トリアゾリル基を表し、Rは、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜3)、アラルキル基(好ましくは炭素数7〜10、より好ましくは炭素数7〜9)、アリール基(好ましくは6〜12、より好ましくは炭素数6〜9)、ヒドロキシアルキル基(好ましくは炭素数2〜6、より好ましくは炭素数2〜4)等を示す。
これらの中でも、−OH又は−ORであることが好ましく、特に好ましくは−OH、−OCOH又は−OCOHである。
は一般式(A)で前記したものと同じである。
【0065】
ジオール化合物は、ヒドロキシル基を2つ有する化合物であれば限定的でなく、例えば、脂肪族ジオール及び芳香族ジオール等が挙げられる。脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられる。芳香族ジオールとしては、例えばハイドロキノン、4,4´−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等が挙げられる。低いガラス転移点及び高い植物度の観点から、アルキレンオキシ基を有するジオールまたは脂肪族ジオール(特に炭素数2〜12、好ましくは炭素数2〜10)が好ましく、具体的にはジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール及び1,10−デカンジオール等がより好ましい。また、2つの水酸基以外にさらに水酸基及び/又はカルボキシル基を持つ化合物も、生成する重合体の高次構造を改変したり、自己乳化性を付与したりする目的で有用である。例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリセリン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらジオール化合物は1種単独又は2種以上を混合して使用される。
本発明では、特に、分子の運動性を高めるように柔軟な構造のL、L等を選択することにより、ガラス転移点が80℃以下のデヒドロアビエチン酸由来の重合体を得ることができる。
【0066】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体の製造に供する前記一般式(E)で示されるデヒドロアビエチン酸誘導体はロジンから得ることができる。
【0067】
ロジンは松脂から採取される樹脂成分であり、採取の方法により、代表的なものとして「ガムロジン」、「トールロジン」及び「ウッドロジン」の3種がある。ロジンに含まれる構成成分は、これら採取の方法、松の産地等により異なるが、一般的には、以下にその構造を示す、アビエチン酸(1)、ネオアビエチン酸(2)、パラストリン酸(3)、レボピマール酸(4)、デヒドロアビエチン酸(5)、ピマール酸(6)、イソピマール酸(7)等のジテルペン系樹脂酸の混合物である。
【0068】
【化11】



【0069】
これらのジテルペン系樹脂酸のうち、(1)から(4)で表される各化合物は、例えばアパタイト系等の触媒存在下、加熱処理することにより不均化を起こし、デヒドロアビエチン酸(5)と下記構造のアビエチン酸(8)に変性することができる。変性は例えば、特開2002−284732号公報等を参考に行うことができる。
【0070】
【化12】



【0071】
すなわち、本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体の合成を実施する上で必要なデヒドロアビエチン酸誘導体は、種々の樹脂酸の混合物であるロジンに適切な化学処理を施すことにより容易に、工業的規模で安価に製造することができる。
【0072】
さらに、デヒドロアビエチン酸の12位は電子密度が高く、種々の芳香族親電子置換反応を容易に受ける。すなわち、アシル化、ハロゲン化等が容易に起こるので、公知の反応により官能基変換を行うことにより、12位にカルボキシル基を有する官能基を導入することができる。以下に本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体の具体的製法の一例を示す。
【0073】
(合成経路)
【化13】



【0074】
以下に、前記合成経路で示されるデヒドロアビエチン酸誘導体とジオール化合物との重縮合により得られるポリエステル重合体の合成工程について詳細に説明する。
【0075】
前記合成経路において、一般式(A)で表される繰り返し単位を有する重合体(ポリエステル重合体)を合成する工程は、一般式(C)で表される化合物とジオール化合物を公知の方法で重縮合させることにより合成することができる。
【0076】
具体的な合成方法としては、例えば、新高分子実験学3 高分子の合成・反応(2)、78〜95頁、共立出版(1996年)に記載の方法(例えば、エステル交換法、直接エステル化法、酸クロリドを用いる重縮合法、低温溶液重合法、高温溶液重縮合法、界面重縮合法など)などが挙げられ、本発明では特に、エステル交換法および直接エステル化法が好ましく用いられる。
【0077】
エステル交換法は、ジオール化合物とジカルボン酸エステルを溶融状態または溶液状態で、必要により酸触媒の存在下に加熱することにより脱アルコール重縮合させポリエステルを合成する方法である。
【0078】
直接エステル化法は、ジオール化合物とジカルボン酸化合物を、溶融状態または溶液状態で酸触媒の存在下、加熱脱水させて重縮合することによりポリエステルを合成する方法である。
【0079】
酸クロリド法は、ジオール化合物とジカルボン酸クロリド化合物とを溶融状態または溶液状態で、必要により塩基触媒の存在下に加熱して脱塩化水素させ、重縮合することによりポリエステルを合成する方法である。
【0080】
界面重合法は、前記ジオール化合物を水、ジカルボン酸クロリド化合物を有機溶媒に溶解させ、アルカリ存在下、層間移動触媒を用いて水/有機溶媒界面で重縮合させることによりポリエステルを合成する方法である。
【0081】
なお、一般式(A)で示される繰り返し単位からなる重合体の合成例は、後述する実施例において更に具体的に説明する。
【0082】
本発明では、前記合成経路によるポリエステル重合体の合成において、12位にカルボキシル基を有するデヒドロアビエチン酸誘導体以外に、その他の多価カルボン酸成分を併用することにより、ポリエステル共重合体を合成することができる。共重合体の合成例については公知の方法を参考に行えば可能であるが、一般的にはデヒドロアビエチン酸誘導体を適量の他のジカルボン酸およびジオール化合物と共に減圧下、高温(好ましくは200℃〜280℃程度)で加熱し、反応の結果生成する水、アルコール等の低沸点化合物を留去して重縮合させることにより共重合体が得られる。
【0083】
上記共重合体の合成において有用な、その他の多価カルボン酸成分としては、種々の脂肪族および芳香族の多価カルボン酸、並びにそれらの酸無水物を挙げることができる。例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ブラシル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、オクテニルコハク酸、デセニルコハク酸、ドデセニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、ヘキサデセニルコハク酸、オクタデセニルコハク酸およびそれぞれに対応する酸無水物等が好ましく用いられる。
【0084】
また本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は、例えば、下記一般式(F1)で表されるデヒドロアビエチルアルコール誘導体と、下記一般式(F2)で表されるジカルボン酸誘導体とを重縮合させる工程を経ることによっても得られる。また必要に応じて、さらに他のモノマーを共重合させることにより、デヒドロアビエチン酸由来の共重合体が得られる。
【0085】
【化14】

【0086】
一般式(F1)、一般式(F2)中、Lは一般式(A)におけるLと同義であり、Lは一般式(A)におけるLと同義である。
X及びYは同一でも異なっていてもよく、それぞれ、−OH、−OR、−OCOR、−OCOOR、−OSOR、ハロゲン原子(F,Cl,Br等)、イミダゾリル基、トリアゾリル基を表し、Rは、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜3)、アラルキル基(好ましくは炭素数7〜10、より好ましくは炭素数7〜9)、アリール基(好ましくは6〜12、より好ましくは炭素数6〜9)、ヒドロキシアルキル基(好ましくは炭素数2〜6、より好ましくは炭素数2〜4)等を示す。
これらの中でも、−OH又は−ORであることが好ましく、特に好ましくは−OH又は−OCHである。
【0087】
一般式(F1)で表されるデヒドロアビエチルアルコール誘導体は、前記デヒドロアビエチン酸誘導体のカルボキシル基を常法によって還元することにより、製造することができる。
また一般式(F1)で表されるデヒドロアビエチルアルコール誘導体と、一般式(F2)で表されるジカルボン酸誘導体とを重縮合させる方法については、既述の通りである。
【0088】
また本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は、例えば、下記一般式(G1)で表されるデヒドロアビエチルアルコール誘導体と、下記一般式(G2)で表されるヒドロキシカルボン酸誘導体とを重縮合させる工程を経ることによっても得られる。また必要に応じて、さらに他のモノマーを共重合させることにより、デヒドロアビエチン酸由来の共重合体が得られる。
【0089】
【化15】

【0090】
一般式中、Lは一般式(A)におけるLと同義であり、Lは一般式(A)におけるLと同義である。
X及びYは同一でも異なっていてもよく、それぞれ、−OH、−OR、−OCOR、−OCOOR、−OSOR、ハロゲン原子(F,Cl,Br等)、イミダゾリル基、トリアゾリル基を表し、Rは、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜3)、アラルキル基(好ましくは炭素数7〜10、より好ましくは炭素数7〜9)、アリール基(好ましくは6〜12、より好ましくは炭素数6〜9)、ヒドロキシアルキル基(好ましくは炭素数2〜6、より好ましくは炭素数2〜4)等を示す。
これらの中でも、−OH又は−ORであることが好ましく、特に好ましくは−OH又は−OCHである。
【0091】
一般式(G1)で表されるデヒドロアビエチルアルコール誘導体は、前記デヒドロアビエチン酸誘導体のカルボキシル基を常法によって還元することにより、製造することができる。
また、一般式(G1)で表されるデヒドロアビエチルアルコール誘導体と、一般式(G2)で表されるヒドロキシカルボン酸誘導体とを重縮合させる方法については、既述の通りである。
【0092】
また、本発明におけるデヒドロアビエチン酸由来の重合体として、エステル結合以外の繰り返し単位を有する重合体を得ることが可能である。例えば、溶融状態または溶液状態において、ルイス酸触媒存在下、親電子置換反応による重縮合を行うことにより、デヒドロアビエチン酸誘導体とジカルボン酸クロリド化合物からはポリケトン重合体を、デヒドロアビエチン酸誘導体とスルホン酸ジクロリド化合物からはポリスルホン重合体を、デヒドロアビエチン酸誘導体とパラホルムアルデヒドからはポリメチレン重合体を得ることができる。
【0093】
以上のように、本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は様々な結合様式をとることが可能であるが、モノマー合成の簡便さ、および重合後の後処理における精製の簡便さの観点で、溶融状態において合成されるポリエステルが最も好ましい。
【0094】
以上説明した本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は、単独でポリマー材料として用いることができる。また、本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体と種々の材料を混合することにより、複合材料とすることもできる。以下、本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体を含有する複合材料について説明する。
【0095】
[デヒドロアビエチン酸由来の重合体を含有する複合材料]
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は、その物性を改良するために種々の材料を混合して、複合材料とすることができる。
【0096】
デヒドロアビエチン酸由来の重合体を複合材料とする場合に、ポリマーアロイ化(異種ポリマーの混合)及び/又はフィラーの混合を行うことが好適であり、これにより、耐衝撃性、耐熱性、耐久性、成形性等を改良することができる。
【0097】
ポリマーアロイ化に使用されるポリマーとしては、異なるポリマー特性を有する本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体を併用してもよいし、本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体とそれ以外のポリマーを併用してもよい。
【0098】
ポリマーアロイ化に使用される本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体以外のポリマーとしては限定的でなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、
1)オレフィン系樹脂(エチレン又はプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン、又はシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等のシクロオレフィンの単独重合体、上記α−オレフィン同士の共重合体、及びα−オレフィンと共重合可能な他の単量体、酢酸ビニル、マレイン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等との共重合体等)、
【0099】
2)ポリエステル系樹脂(テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等のジカルボン酸単量体とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等のジオール又は多価アルコール単量体との共重合体、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸、等のヒドロキシカルボン酸等の重縮合体等)、
【0100】
3)ポリアミド系樹脂(3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸、二塩基酸とジアミンなどの重縮合によって得られる鎖中に酸アミド結合を有する重合体で、具体的には、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドンなどの重合体、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどのジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸などのジカルボン酸と重縮合せしめて得られる重合体またはこれらの共重合体であり、たとえば、ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−7、ナイロン−8、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン−6、6、ナイロン−6、10、ナイロン−6、11、ナイロン−6、12、ナイロン−6T、ナイロン−6/ナイロン−6、6共重合体、ナイロン−6/ナイロン−12共重合体、ナイロン−6/ナイロン−6T共重合体、ナイロン−6I/ナイロン−6T共重合体等)、
【0101】
4)ゴムやエラストマー(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等)、
【0102】
5)その他、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂が挙げられる。
【0103】
上記したポリマーアロイ化に使用されるポリマーのうち、植物度の観点からは、ポリ乳酸、ポリβ−ヒドロキシ酪酸、ポリブチレンサクシナート等が好ましい。
【0104】
ポリマーアロイ化は公知の方法に基づいて行えばよい。通常、溶融混練等により行われるが、単純な混練では相分離してしまう場合は、相溶化剤を用いたり、二次的にブロック重合やグラフト重合させたり、一方のポリマーをクラスター状に分散させたりして均一相を形成させればよい。
【0105】
また、本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体が示す特性を損なうことなく、ポリマーアロイ化をする観点からは、ポリマーアロイ中における本発明のデヒドロアビエチン酸重合体の含有比率(質量基準)は、一般的には1〜100%であり、20〜100%が好ましく、50〜100%がより好ましい。
【0106】
また、本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は、種々のフィラーを混合して所望のポリマー物性に改良することができる。特に、耐熱性、耐久性及び耐衝撃性改良には、フィラーの混合は有効である。
フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラーのいずれを用いてもよい。
【0107】
無機フィラーとしては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維等の繊維状の無機フィラー;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状又は粒状の無機フィラーが好適である。
【0108】
有機フィラーとしては、例えば、セルロース(ナノ)ファイバー、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維、アラミド繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラー;有機顔料等の粒状の有機フィラー;等が好適である。
【0109】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は、実際の製品として適用される多くの場合、例えば、難燃剤等が混合された複合材料として使用される。
難燃剤はポリマー材料を燃え難くするか炎が広がらないようにする素材であれば限定的でなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、ハロゲン系(臭素および塩素)化合物、リン系化合物(芳香族のリン酸エステル、ポリリン酸塩等)、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が利用できる。特に、環境安全性の観点から、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が、好ましく用いることができる。含有量は、本発明の重合体100質量部に対して通常30質量部以下、好ましくは10質量部以下とすればよい。
【0110】
難燃剤と併用して難燃性を高めたり、樹脂表面に炭化皮膜を形成して火災の広がりを抑える素材(難燃助剤)も、本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体を含む複合材料として有用である。具体的には、無機系ではアンチモン化合物、有機系芳香族化合物(フェノール誘導体等)等が好ましく用いられる。
【0111】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体には、可塑剤を含有してもよい。これにより、難燃性及び成形性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤およびエポキシ系可塑剤等が挙げられる。含有量は、本発明の重合体100質量部に対して通常30質量部以下、好ましくは10質量部以下とすればよい。
【0112】
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体には、上記の他に、通常使用される添加剤、例えば、安定剤、耐衝撃性向上剤、結晶核剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、染料、充填剤、酸化防止剤、加工助剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防菌剤、防黴剤等を単独又は二種以上添加してもよい。
【0113】
上記素材を混合して得られる本発明の複合材料は、種々の方法で賦形(成形)することができる。成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形等が用いられる。得られる成形体の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、自動車、家電、電気・電子機器(OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の構成部品、機械部品、住宅・建築用材料、コンテナ、化粧品・飲料ボトルなどの各種容器等が挙げられる。以下、具体的な用途について、より詳しく述べる。
【0114】
[水性樹脂分散物]
本発明の水性樹脂分散物(以下、単に「樹脂分散物」ともいう)は、前記デヒドロアビエチン酸由来の重合体の少なくとも1種を含み、これが水性媒体中に分散されて構成される。前記デヒドロアビエチン酸由来の重合体は、自己分散性と分散安定性に優れることから、容易に水性分散物を構成することができる。
特に前記重合体の酸価が5mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が5mgKOH/g以上であると。前記デヒドロアビエチン酸由来の重合体自体の親水性が良好であるため、得られる水性樹脂分散物の分散安定性が良好で、凝集が抑制でき、所望の粒子径の樹脂粒子を得ることができるので好ましい。また、酸価が40mgKOH/g以下であると、親水性が適切であり、粗大粒子の発生が抑制でき、良好な粒度分布を得ることができる。またさらに酸価が7mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であると上記の分散安定性の点でより好ましい。
【0115】
ここで自己分散性とは、例えば、界面活性剤の不存在下、分散状態(特に転相乳化法による分散状態)としたとき、重合体自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得ることを意味し、遊離の乳化剤を含有しない樹脂分散物を構成し得ることを意味する。
【0116】
また分散状態とは、水性媒体中に重合体が液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に重合体が固体状態で分散された分散状態(サスペンション)の両方の状態を含むものである。
本発明において前記重合体は水不溶性ポリマーであることが好ましい。水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0117】
重合体の乳化又は分散状態、すなわち重合体の水性分散物の調製方法としては、転相乳化法が挙げられる。転相乳化法としては、例えば、重合体を溶媒(例えば、親水性有機溶剤等)中に溶解又は分散させた後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、重合体が有する塩生成基(例えば、酸性基)を中和した状態で、攪拌、混合し、前記溶媒を除去した後、乳化又は分散状態となった水性分散物を得る方法が挙げられる。
【0118】
前記重合体粒子の分散状態とは、重合体30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該重合体の塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0119】
[トナー用バインダー]
本発明のトナー用バインダーは、前記デヒドロアビエチン酸由来の重合体の少なくとも1種を含有し、必要に応じてその他の成分(例えば、樹脂)を含んで構成される。
前記トナー用バインダーは、乾式法である溶融混練粉砕法や液中でトナー粒子を造粒する湿式法のいずれにも適用可能である。
特に本発明の重合体は、自己分散性と分散安定性に優れることから、重合体を分散状態としてトナーを造粒する湿式法に好適に用いることができる。
【0120】
また本発明のトナー用バインダーは、その他の成分として樹脂の少なくとも1種を含むことができる。その他の樹脂としては例えば、前記デヒドロアビエチン酸由来の重合体以外のポリエステル樹脂(以下、「その他のポリエステル樹脂」ともいう)を挙げることができる。
その他のポリエステル樹脂は、例えば、主として多価カルボン酸類と多価アルコール類との縮重合により得られるものである。
【0121】
前記多価カルボン酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、などの芳香族カルボン酸類;無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、アルケニル無水コハク酸、アジピン酸などの脂肪族カルボン酸類;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式カルボン酸類が挙げられ、これらの多価カルボン酸を1種又は2種以上用いることができる。
これら多価カルボン酸の中でも、芳香族カルボン酸を用いることが好ましい。また、良好な定着性を確保するためには、ポリエステル樹脂が架橋構造あるいは分岐構造をとることが好ましく、そのためには多価カルボン酸として、ジカルボン酸とともに3価以上のカルボン酸(トリメリット酸やその酸無水物等)を併用することが好ましい。
【0122】
前記多価アルコールの例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、などの脂肪族ジオール類;シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAなどの脂環式ジオール類;ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの芳香族ジオール類が挙げられる。これら多価アルコールの1種又は2種以上用いることができる。
これら多価アルコールの中でも、芳香族ジオール類、脂環式ジオール類が好ましく、このうち芳香族ジオールがより好ましい。また、より良好なる定着性を確保するためには、ポリエステル樹脂が架橋構造あるいは分岐構造をとることが好ましく、そのために多価アルコールとして、ジオールとともに3価以上の多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール)を併用してもよい。
【0123】
その他のポリエステル樹脂のガラス転移温度(以下「Tg」と略記することがある)は40℃以上80℃以下であることが好ましく、50℃以上70℃以下がより好ましい。ポリエステル樹脂のTgが80℃以下であることにより低温定着性が得られ、Tgが40℃以上であることにより、十分な熱保管性及び定着画像の保存性が得られる。
また、その他のポリエステル樹脂の分子量(重量平均分子量;重量平均分子量)は、樹脂の製造性、トナー製造時の微分散化や、溶融時の相溶性トナーの観点から、5,000以上40,000以下が好ましい。
【0124】
(結晶性ポリエステル樹脂)
その他のポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂の少なくとも1種を含有することが好ましい。ポリエステル樹脂が結晶性ポリエステル樹脂を含有することにより、トナーの低温定着性がより良好となる。また定着工程における加熱温度が低いため、定着器の劣化が抑制される。
ポリエステル樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂及び非結晶性ポリエステル樹脂を含有することにより、溶融時に結晶性ポリエステル樹脂が非結晶性ポリエステル樹脂と相溶してトナー粘度を著しく低下させ、低温定着性や画像光沢性にすぐれたトナーが得られる。
また、結晶性ポリエステル樹脂のなかでも、脂肪族結晶性ポリエステル樹脂は、芳香族結晶性樹脂に比べ、好ましい融点を有するものが多いため、特に好ましい。
【0125】
ポリエステル樹脂中における結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、2質量%以上20質量%以下が好ましく、2質量%以上14質量%以下がより好ましい。上記結晶性ポリエステル樹脂の含有量が2質量%以上あれば、溶融時に非結晶性ポリエステル樹脂を十分に低粘度化することができ、低温定着性の向上が得られ易い。また上記結晶性ポリエステル樹脂の含有量が20質量%以下であれば、結晶性ポリエステル樹脂の存在に起因するトナーの帯電性の悪化を抑制することができるので、記録媒体への定着後の画像強度が得られ易い。
【0126】
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、50℃以上100℃以下の範囲であることが好ましく、55℃以上95℃以下の範囲であることが好ましく、60℃以上90℃以下の範囲であることがより好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の融点が50℃以上あれば、トナーの保存性や、定着後のトナー画像の保存性が良く、また100℃以下であれば、低温定着性の向上が得られ易い。
【0127】
なお、「結晶性ポリエステル樹脂」とは、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry;以下、「DSC」と略記することがある)において、階段状の吸熱量変化ではなく、明確な吸熱ピークを有するものを指す。また、結晶性ポリエステル樹脂は、その主鎖に対して他成分を共重合したポリマーの場合、他成分が50質量%以下の場合は、この共重合体も結晶性ポリエステル樹脂と呼ぶ。
【0128】
結晶性ポリエステル樹脂は、酸(ジカルボン酸)成分とアルコール(ジオール)成分とから合成されるものであり、下記において、「酸由来構成成分」とは、ポリエステル樹脂において、ポリエステル樹脂の合成前には酸成分であった構成部位を指し、「アルコール由来構成成分」とは、ポリエステル樹脂の合成前にはアルコール成分であった構成部位を指す。
【0129】
〔酸由来構成成分〕
前記酸由来構成成分となるための酸としては、種々のジカルボン酸が挙げられるが実施の形態に係る結晶性ポリエステル樹脂における酸由来構成成分としては、直鎖型の脂肪族ジカルボン酸が望ましい。
例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸など、あるいはその低級アルキルエステルや酸無水物が挙げられるが、この限りではない。これらの中では、入手容易性を考慮するとアジピン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸が好ましい。
【0130】
酸由来構成成分としては、その他として2重結合を持つジカルボン酸由来構成成分、スルホン酸基を持つジカルボン酸由来構成成分等の構成成分を含有していてもよい。
【0131】
なお、本明細書において「構成モル%」とは、ポリエステル樹脂における酸由来構成成分全体中の当該酸由来構成成分、または、アルコール由来構成成分全体中の当該アルコール構成成分を、各1単位(モル)としたときの百分率を指す。
【0132】
〔アルコール由来構成成分〕
アルコール構成成分となるためのアルコールとしては、脂肪族ジオールが望ましく、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9―ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ドデカンジオール、1,12−ウンデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、などが挙げられるが、この限りではない。これらの中では、入手容易性やコストを考慮すると1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールが好ましい。
【0133】
結晶性ポリエステル樹脂の分子量(重量平均分子量)は、樹脂の製造性、トナー製造時の微分散化や、溶融時の相溶性トナーの観点から、8,000以上40,000以下が好ましく、10,000以上30,000以下がさらに好ましい。8,000以上あれば、結晶性ポリエステル樹脂の抵抗低下を抑制することができるので、帯電性の低下を防止することができる。40,000以下であれば、樹脂合成のコストを抑え、また、シャープメルト性の低下を防止するために低温定着性に悪影響を与えない。
【0134】
本発明のトナー用バインダーは、その他のポリエステル樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のエチレン系樹脂;ポリスチレン、α−ポリメチルスチレン等のスチレン系樹脂;ポリメチルメタアクリレート、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂及びこれらの共重合樹脂等が挙げられる。
【0135】
本発明のトナー用バインダー中におけるデヒドロアビエチン酸由来の重合体の含有率としては、例えば10〜95質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。
【0136】
[トナー]
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は、上記複合材料の中でも特にトナー用バインダーとして好適に使用することができる。本発明のトナーは、顔料、離型剤及び本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体を含有していればよい。必要に応じて、荷電制御剤、キャリア、外添剤等を含有することができる。
【0137】
トナーに対して流動性向上や帯電制御等を付与する目的で、無機微粉末、有機微粒子を外部添加してもよい。例えば、表面をアルキル基含有のカップリング剤等で処理したシリカ微粒子、チタニア微粒子が好ましく用いられる。なお、これらは数平均一次粒子サイズが10〜500nmのものが好ましく、さらにはトナー中に0.1〜20質量%添加するのが好ましい。
【0138】
顔料としては限定的でなく、有機顔料及び無機顔料のいずれを使用することもできる。有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。また、無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、黒色顔料としてはカーボンブラックが特に好ましい。これらはトナー中に例えば1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%、黒色顔料として磁性体を用いた場合は30〜85質量%添加するのが好ましい。
【0139】
バインダーとしては、本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体を含んでいればよく、トナー中に例えば10〜95質量%、さらには20〜80質量%添加するのがより好ましい。また、一般に使用される他のバインダーを併用することもできる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のエチレン系樹脂;ポリスチレン、α−ポリメチルスチレン等のスチレン系樹脂;ポリメチルメタアクリレート、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂及びこれらの共重合樹脂等が挙げられる。
さらに前記トナー用バインダーを用いて構成してもよい。
【0140】
離型剤としては、トナー用に従来使用されている離型剤は全て使用することができる。具体的には、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン類、マイクロクリスタリンワックス、カルナウバワックス、サゾールワックス、パラフィンワックス等が挙げられる。これらの添加量はトナー中に例えば3〜20質量%、さらには5〜18質量%添加することがより好ましい。
【0141】
荷電制御剤としては、必要に応じて添加してもよいが、発色性の点から無色のものが好ましい。例えば4級アンモニウム塩構造のもの、カリックスアレン構造を有するもの、アゾ錯体染料などが挙げられる。荷電制御剤の添加量は、トナー中に例えば0.5〜10質量%、さらには1〜5質量%添加することがより好ましい。
【0142】
キャリアとしては、鉄・フェライト等の磁性材料粒子のみで構成される非被覆キャリア、磁性材料粒子表面を樹脂等によって被覆した樹脂被覆キャリアのいずれを使用してもよい。このキャリアの平均粒子サイズは体積平均粒子サイズで30〜150μmが好ましい。
【0143】
外添剤としては、表面を疎水化処理したシリカ粒子、酸化チタン粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、カーボンブラック等の無機粒子やポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シリコーン樹脂等のポリマー粒子等、公知の粒子が使用できる。これらのうち2種以上の外添剤を使用し、該外添剤の少なくとも1種は、30nm以上200nm以下の範囲、さらには30nm以上180nm以下の範囲の平均1次粒子径を有することが好ましい。
【0144】
トナーが小粒径化することによって、感光体との非静電的付着力が増大するため、転写不良や細線の画像抜けが引き起こされ、重ね合わせ画像等の転写ムラを生じさせる原因となるため、平均1次粒子径が30nm以上200nm以下の大径の外添剤を添加することにより、転写性を改善させることができる。
【0145】
外添剤の平均1次粒子径が30nmより小さいと、初期的なトナーの流動性は良好であるが、トナーと感光体との非静電的付着力を十分に低減できず、転写効率が低下し画像のぬけが発生したり、画像の均一性を悪化させてしまったりする場合がある。また、経時による現像機内でのストレスによって外添剤粒子がトナー表面に埋め込まれ、帯電性が変化し、コピー濃度の低下や背景部へのカブリ等の問題を引き起こす場合がある。外添剤の平均1次粒子径が200nmより大きいと、トナー表面から脱離しやすく、また流動性悪化の原因ともなる場合がある。
【0146】
−トナーの特性−
さらに、本発明のトナーは、平均円形度が0.960以上0.980以下の範囲であることが好ましく、0.960以上0.970以下の範囲であることがより好ましい。トナーの形状は、球形トナーが現像性、転写性の点では有利であるが、クリーニング性の面では不定形に比べ劣ることがある。トナーが上記範囲の形状であることにより、転写効率、画像の緻密性が向上し、高画質な画像形成を行うことができ、また、感光体表面のクリーニング性を高めることができる。
【0147】
また、本発明のトナーの体積平均粒径は3μm以上9μm以下であることが望ましく、より望ましくは3.5μm以上8.5μm以下であり、さらに望ましくは4μm以上8μm以下である。体積平均粒径が3μm以上あれば、トナーの流動性低下を抑えられるので、各粒子の帯電性を維持しやすい。また、帯電分布が広がらず、背景へのかぶりを防止し現像器からトナーがこぼれにくくなる。さらに、トナーの体積平均粒径が3μm以上あれば、クリーニング性が良くなる。体積平均粒径が9μm以下であれば、解像度の低下を抑えられるため、十分な画質を得ることができ、近年の高画質要求を満たすことが可能となる。
【0148】
トナーの粒子径分布指標としては、体積平均粒度分布指標GSDvが1.30以下であることが好ましく、1.15以上1.28以下であることがより好ましく、1.17以上1.26以下であることがさらに好ましい。GSDvが上記範囲より大きいと、画像の鮮明度、解像度が低下する場合がある。
また個数平均粒度分布指標GSDpが1.30以下であることが好ましい。GSDpが上記範囲より大きいと、小粒径トナーの比率が高くなるため、静電気的制御が困難となる場合がある。
【0149】
なお、上記体積平均粒径D50は、例えば、コールターカウンターTAII、マルチサイザーII(ベックマン−コールター社製)等の測定器で測定される粒度分布を基にして分割された粒度範囲(チャネル)に対して体積、数をそれぞれ小径側から累積分布を描いて、累積16%となる粒径を体積D16v、数D16P、累積50%となる粒径を体積D50v、数D50P、累積84%となる粒径を体積D84v、数D84Pと定義する。これらを用いて、体積平均粒度分布指標(GSDv)は(D84v/D16V)1/2として算出される。
【0150】
前記SF1は、主に顕微鏡画像または走査型電子顕微鏡(SEM)画像を画像解析装置を用いて解析することによって数値化され、例えば、以下のようにして算出することができる。すなわち、スライドガラス表面に散布した高級アルコール粒子の光学顕微鏡像をビデオカメラを通じてルーゼックス画像解析装置に取り込み、100個の粒子の最大長と投影面積を求め、上記式(1)によって計算し、その平均値を求めることにより得られる。
【0151】
(静電荷現像用トナーの製造方法)
本発明にかかるトナーの製造方法は特に制限されず通常用いられる方法を適用することができる。なかでも、湿式製法(例えば、凝集合一法、懸濁重合法、溶解懸濁造粒法、溶解懸濁法、溶解乳化凝集合一法等)によりトナー粒子を形成する工程と、トナー粒子を洗浄する工程と、を含むことが好ましい。
トナー粒子を形成する方法としては、上記の通り、水系媒体中でトナー粒子を生成する湿式製法が好適であるが、特に乳化凝集法が望ましく、転相乳化法を用いた乳化凝集法がさらに望ましい。
【0152】
乳化凝集法とは、トナーに含まれる成分(結着樹脂、着色剤等)を含む分散液(乳化液、顔料分散液等)をそれぞれ調製し、これらの分散液を混合してトナー成分同士を凝集させて凝集粒子を作り、その後凝集粒子を結着樹脂の融点又はガラス転移温度以上に加熱して凝集粒子を熱融合させる方法である。
【0153】
乳化凝集法は、乾式法である混錬粉砕法や、他の湿式法である溶融懸濁法、溶解懸濁法等に比べ、小粒径のトナーを作製しやすく、また粒度分布の狭い均一なトナーを得やすい。また、溶融懸濁法、溶解懸濁法等に比べ形状制御が容易であり、均一な不定形トナーを作製することができる。さらに、被膜形成などトナーの構造が制御され、離型剤や結晶性ポリエステル樹脂を含有する場合はこれらの表面露出が抑制されるため、帯電性や保存性の悪化が防止される。
さらに本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体を含むトナー用バインダーを用い、乳化凝集法によりトナーを作製すると、水性樹脂分散物における樹脂粒子安定性が良く、小粒径で粒度分布の優れたトナーが作製される。
尚、トナーの湿式製法の詳細については、例えば、特開2009−229919号公報、特開2009−46559号公報、特開2009−151241号公報、特許3344169号公報、および特許3141783号公報等に記載の方法を本発明においても好適に適用することができる。
【0154】
本発明のトナーが適用される画像形成方法としては、特に限定されるものではないが、例えば感光体上に画像を形成した後に転写を行い、画像を形成する方法や、感光体に形成された画像を逐次中間転写体等へ転写し、画像を中間転写体等に形成した後に紙等の画像形成部材へ転写し画像を形成する方法等が挙げられる。
【0155】
[プラスチック改質剤]
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体はプラスチック改質剤としても使用できる。すなわち、従来の樹脂に含有させることにより、当該樹脂を改質させることができる。改質させる樹脂としては限定的でなく、例えば、複合材料の欄で上述したものが挙げられる。具体的には、例えば、ポリカーボネート及びポリ乳酸等の少なくとも1種を含む樹脂に、本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体を混合することにより、耐水性、引張り強度等を向上させることができる。
【0156】
[フィルム]
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体はフィルムとしても使用できる。本発明のフィルムは添加剤を含有していてもよい。例えば、上述の複合材料で添加する添加剤を用途に応じて適宜配合すればよい。フィルムの厚さは用途に応じて適宜決定すれば良いが、例えば30〜1000μm、好ましくは50〜500μm程度とすればよい。本発明のフィルムは、例えばポリ乳酸等の天然由来樹脂に比して、耐水性等の点で良好である。
【0157】
[ホットメルト型接着剤]
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体はホットメルト型接着剤としても使用できる。本発明のホットメルト型接着剤は添加剤を含有していてもよい。例えば、上述の複合材料で添加する添加剤を用途に応じて適宜配合すればよい。本発明の接着剤は、公知の石油系由来の接着剤(例えば、エチレン・酢酸ビニル重合体)と比して、接着強度等の点で同等程度の効果を有することができ、有用である。
【0158】
[熱可塑性エラストマー]
本発明のデヒドロアビエチン酸由来の重合体は熱可塑性エラストマーとしても使用できる。本発明のエラストマーには、例えば、上述の複合材料で配合する添加剤等を用途に応じて適宜配合されていてもよい。本発明の熱可塑性エラストマーは単体でも良好なゴム弾性を有し、比較的低い温度(例えば100℃程度)においても成形加工である点で、有用である。
【実施例】
【0159】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0160】
デヒドロアビエチン酸由来のモノマー(DHA−1〜12)の合成例
以下のデヒドロアビエチン酸由来のモノマーの合成例においては、合成されたモノマーの構造をいずれの場合もH−NMR、液体クロマトグラフィーを用いて確認した。
(合成例1)
【0161】
【化16】

【0162】
酢酸(100ml)に氷冷下、硫酸(30ml)を滴下した。次いで、デヒドロアビエチン酸(荒川化学工業製、30.0g)とパラホルムアルデヒド(2.1g)を室温で加え、40℃で3時間撹拌した。反応液を1lの冷水に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。抽出液を洗液がほぼ中性になるまで水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。残渣にメタノール80mlを加え、白色結晶を濾取、乾燥してDHA−1(19.8g)を得た。
(合成例2)
【0163】
【化17】

【0164】
デヒドロアビエチン酸(30.0g)と塩化メチレン(60ml)の混合物に、塩化オキサリル(13g)を室温で滴下した。3時間撹拌した後、溶媒を減圧留去し、そこにメタノール16gを滴下した。室温で3時間撹拌後、過剰のメタノールを減圧留去し、中間化合物A(31g)を得た。
中間化合物A(31g)およびパラホルムアルデヒド(2.1g)を塩化メチレン(150ml)に加え、そこに硫酸(50ml)を10〜15℃で滴下した。滴下後、室温で5時間撹拌した後、氷水500mlを加え、有機層を分離した。有機層を洗液が中性になるまで水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、塩化メチレンを留去した。残渣にメタノール50mlを加え、室温で3時間撹拌した後、白色結晶を濾取、乾燥してDHA−2(20.2g)を得た。
(合成例3)
【0165】
【化18】

【0166】
デヒドロアビエチン酸(75g)および無水コハク酸(38g)を塩化メチレン(1L)に溶かし、氷冷下、無水塩化アルミニウム(130g)を少量ずつ加えた。10〜15℃で2時間撹拌した後、反応液を氷水に注いだ。生成した白色結晶を濾取、水洗後、さらにメタノールで洗浄してDHA−3(72g)を得た。
(合成例4)
【0167】
【化19】

【0168】
合成例3の無水コハク酸を無水マレイン酸(37g)に変えた以外は同様にして、DHA−4(70g)を得た。
(合成例5)
【0169】
【化20】

【0170】
デヒドロアビエチン酸(29g)および無水フタル酸(15g)を10℃以下に冷却した1,2−ジクロロエタン(100ml)に加え、攪拌しながら塩化アルミニウム(33g)を分割添加した。その後、室温で2時間撹拌し、得られた溶液を濃塩酸100g、氷100gの混合物中に攪拌しながら、注ぎ入れた。さらに、飽和食塩水を加え、抽出操作を行い、有機層を分離した。有機層を濃縮した後、酢酸エチル、ヘキサン混合溶媒によるシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、白色結晶を濾取、乾燥してDHA−5(41g)を得た。
(合成例6)
【0171】
【化21】

【0172】
冷却管を備えた1l三口フラスコに、デヒドロアビエチン酸(140g)を入れ、酢酸(450ml)に溶解させた。反応系に、オルト過ヨウ素酸二水和物(20g)、ヨウ素(93g)を添加した。その後、濃硫酸(15mL)/水(90mL)を滴下し、60℃にて5時間撹拌した。放冷後、反応溶液を水に投与し、1時間撹拌した後、ろ過した。得られた残留物をメタノールでかけ洗いし、中間化合物B(130g)を得た。
次に、冷却管を備えた200ml三口フラスコに、中間化合物B(27g)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミド(60ml)に溶解させた。反応系に炭酸カリウム(11g)を添加した後、ベンジルクロリド(8.4g)を滴下し、50℃にて3時間撹拌した。放冷後、反応液を水に添加し、酢酸エチルで抽出、分液後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、濃縮残留物をメタノールでかけ洗いし、中間化合物C(29g)を得た。
続いて、冷却管を備えた500ml三口フラスコに中間化合物C(22g)を入れ、ヘキサメチルリン酸トリアミド(200ml)に溶解させた。反応系にジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)(28g)、トリシクロヘキシルホスフィン(1.18g)、ヨードカリウム(7.0g)、亜鉛(6.3g)を添加した後、60℃にて5時間撹拌した。放冷後、反応溶液を希塩酸に添加し、酢酸エチルで抽出、セライトろ過後、分液し、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、濃縮残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、中間化合物D(6.5g)を得た。
200mlオートクレーブに、得られた中間化合物D(2.8g)を入れ、テトラヒドロフラン(60ml)に溶解させた。反応系に10%Pd−C(0.3g)を添加し、水素圧5MPa、60℃で12時間撹拌した。放冷後、反応液をろ過し、溶媒を除去した後にメタノールでかけ洗いし、ジカルボン酸化合物であるDHA−6(2.1g)を得た。
(合成例7)
【0173】
【化22】

【0174】
DHA−3(20g)、抱水ヒドラジン(9.6g)、水酸化ナトリウム(12g)およびジエチレングリコール(100mL)の混合物を、生成する水を留去しながら徐々に220℃まで加熱した。さらに、230℃で4時間加熱撹拌した後、放冷し、希塩酸で酸性にし、生成した白色沈殿を濾取、水洗、乾燥してDHA−7(18g)を得た。
(モノマー合成例8)
【0175】
【化23】

【0176】
窒素雰囲気下にて200ml三口フラスコに、DHA−7(13g)を入れ、脱水テトラヒドロフラン(30ml)に溶解させた。反応系に水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム・トルエン溶液(約70%、24g)を15〜20℃で滴下した後、室温で3時間撹拌した。反応溶液を希塩酸に添加し、酢酸エチルで抽出、分液、有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、濃縮残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、DHA−8(10.5g)を得た。
(合成例9)
【0177】
【化24】

【0178】
窒素雰囲気下にて200ml三口フラスコに、デヒドロアビエチン酸(12g)を入れ、脱水テトラヒドロフランに(30ml)溶解させた。反応系に水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム・トルエンに溶液(約70%)(4.1g)を15〜20℃で滴下した後、室温で3時間撹拌した。反応溶液を希塩酸に添加し、酢酸エチルで抽出、分液、有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、濃縮残留物(12g)を200ml三口フラスコに入れ、酢酸エチル(30ml)に溶解させた。ピリジン(3.8g)を加え、塩化アセチル(3.8g)を15〜20℃で滴下した後、室温で1時間撹拌した。反応溶液をろ過し、ろ液を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、濃縮残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、中間化合物E(11g)を得た。
続いて、500ml三口ナスフラスコに、中間化合物E(10g)、無水コハク酸(4.5g)を入れ、塩化メチレン(50ml)に溶解させた。反応系に無水塩化アルミニウム(14g)を10〜15℃で少量ずつ加えた。室温で3時間攪拌した後、反応液を氷水に添加し、塩化メチレンで抽出、分液、有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、濃縮残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、中間化合物F(11g)を得た。
次に、ディーンスタークトラップを備えた500mlナスフラスコに、中間化合物F(10g)を入れ、ジエチレングリコール(30ml)に溶解させた。反応系にヒドラジン・一水和物(4.0ml)、水酸化カリウム(4.3g)を添加した後、60℃〜220℃に段階的に昇温し、水を留去しながら5時間撹拌した。放冷後、反応溶液を希塩酸に添加し、酢酸エチルで抽出、分液、有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、濃縮残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、DHA−9(7.0g)を得た。
(合成例10)
【0179】
【化25】

【0180】
デヒドロアビエチン酸60gを塩化メチレン160mlに溶かし、室温で塩化オキサリル27.0gを滴下した。室温で3時間撹拌した後、塩化メチレンと過剰の塩化オキサリルを留去した。残渣に塩化メチレン100mlおよびトリエチレングリコール15gを加え、氷冷下、ピリジン30mlを滴下した。さらに室温で3時間撹拌した後、反応液を冷希塩酸に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。抽出液を水洗、乾燥の後、酢酸エチルを減圧留去し、無色粘稠液体であるDHA−10(71g)を得た。
(合成例11)
【0181】
【化26】

【0182】
デヒドロアビエチン酸(75g)および無水グルタル酸(43g)を塩化メチレン(1L)に溶かし、氷冷下、無水塩化アルミニウム(130g)を少量ずつ加えた。12〜15℃で3時間撹拌した後、反応液を氷水に注いだ。生成した白色結晶を濾取、水洗後、さらにメタノールで洗浄してDHA−11(71g)を得た。
(合成例12)
【0183】
【化27】

【0184】
合成例2で得られた中間化合物A(63g)とセバシン酸ジクロリド(25g)を塩化メチレン、500mLに溶かし、無水塩化アルミニウム(53g)を氷冷下に少量ずつ加えた。10〜15℃で2時間撹拌した後、反応液を氷水に注ぎ、酢酸エチル、500mlで抽出した。抽出液を水洗、乾燥後、酢酸エチルを減圧留去して無色液体を得た。カラムクロマトグラフィーにより精製してDHA−12(4、6g)を得た。
【0185】
デヒドロアビエチン酸由来の重合体(P−1〜26)の合成例(重合例)
以下のデヒドロアビエチン酸由来の重合体の合成例においては、合成された重合体の構造をいずれの場合も、H−NMRを用いて確認した。また、重合体の重量平均分子量および分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)はGPCを用いて常法により測定した。またガラス転移点は、示差走査熱量計(SIIテクノロジー社製、DSC6200)を用いて常法により測定した。さらに酸価は、JIS規格(JIS K 0070:1992)記載の方法により測定した。
得られた重合体の物性値を表1に示した。
【0186】
(重合例1)
DHA−1(15g)、トリエチレングリコール(3.8g)およびオルトチタン酸エチル(0.06g)の混合物を窒素気流下、240℃で1時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、そのまま3時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−1(重量平均分子量10100、分子量分布2.0、ガラス転位点56℃、酸価10mgKOH/g)を得た。
【0187】
(重合例2)
DHA−1(15g)、トリエチレングリコール(3.8g)およびオルトチタン酸エチル(0.06g)の混合物を窒素気流下、240℃で1時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、そのまま6時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−2(重量平均分子量=34000、分子量分布4.7、ガラス転位点78℃、酸価9mgKOH/g)を得た。
【0188】
(重合例3)
DHA−1(15g)、トリエチレングリコール(3.8g)およびオルトチタン酸エチル(0.06g)の混合物を窒素気流下、240℃で1時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、そのまま1時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−3(重量平均分子量=4700、分子量分布1.4、ガラス転位点45℃、酸価18mgKOH/g)を得た。
【0189】
(重合例4)
DHA−1(15g)、トリエチレングリコール(3.5g)およびオルトチタン酸エチル(0.06g)の混合物を窒素気流下、240℃で1時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、そのまま4時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−4(重量平均分子量=8400、分子量分布2.1、ガラス転位点51℃、酸価38mgKOH/g)を得た。
【0190】
(重合例5)
DHA−2(20g)、トリエチレングリコール(14g)およびオルトチタン酸エチル(0.07g)の混合物を窒素気流下、240℃で1時間加熱撹拌し、生成したメタノールを留去した。次いで、温度を徐々に180℃まで下げ、減圧下に過剰のトリエチレングリコールを留去した。さらに、重合の進行に伴い生成するトリエチレングリコールを留去しながら、そのまま2時間加熱攪拌した。その後、フマル酸(2.2g)を加え、減圧下、200℃で1時間加熱攪拌し、得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−5(重量平均分子量=15500、分子量分布4.8、ガラス転位点57℃、酸価14mgKOH/g)を得た。
【0191】
(重合例6)
DHA−3(20g)、1,6−ヘキサンジオール(5.9g)およびオルトチタン酸エチル(0.11g)の混合物を窒素気流下、240℃で1時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、そのまま3時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−6(重量平均分子量=11300、分子量分布3.9、ガラス転位点52℃、酸価10mgKOH/g)を得た。
【0192】
(重合例7)
DHA−3(120g)、1,6−ジブロモヘキサン(73g)、炭酸カリウム(45g)、ジメチルアセトアミド(450ml)を量りとり、60℃で5時間攪拌した。反応系の温度を室温まで冷却した後、反応溶液を水5Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。得られた白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で5回洗浄を行った後、80℃で6時間真空乾燥することにより重合体P−7(重量平均分子量=12500、分子量分布4.8、ガラス転位点54℃、酸価12mgKOH/g)を得た。
【0193】
(重合例8)
重合例7のDHA−3をDHA−4に変えた以外は同様にして、重合体P−8(重量平均分子量=13400、分子量分布3.3、ガラス転位点54℃、酸価13mgKOH/g)を得た。
【0194】
(重合例9)
DHA−5(20g)、1,10−デカンジオール(8.7g)およびオルトチタン酸エチル(0.11g)の混合物を窒素気流下、240℃で1時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、そのまま3時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−9(重量平均分子量=17000、分子量分布3.2、ガラス転位点61℃、酸価9mgKOH/g)を得た。
【0195】
(重合例10)
重合例9において、DHA−5の代わりにDHA−6(30g)を用いたこと以外は同様にして、重合体P−10(重量平均分子量=14700、分子量分布3.4、ガラス転位点58℃、酸価15mgKOH/g)を得た。
【0196】
(重合例11)
DHA−8(20g)、アジピン酸(8.2g)およびオルトチタン酸エチル(0.13g)の混合物を窒素気流下、240℃で1時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、そのまま3時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−11(重量平均分子量=17100、分子量分布3.9、ガラス転位点59℃、酸価8mgKOH/g)を得た。
【0197】
(重合例12)
DHA−9(20g)、4−ヒドロキシノルマルブタン酸(8.4g)およびオルトチタン酸エチル(0.08g)の混合物を窒素気流下、240℃で1時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、そのまま3時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−12(重量平均分子量=19000、分子量分布3.4、ガラス転位点58℃、酸価20mgKOH/g)を得た。
【0198】
(重合例13)
トリフルオロ酢酸(80ml)にDHA−10(46g)およびパラホルムアルデヒド(2.3g)を加え、室温で5時間撹拌した。次いで、グリオキシル酸一水和物(4.6g)を添加し、さらに2時間、室温で撹拌した。反応後、大部分のトリフルオロ酢酸を留去し、反応液を氷水に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。抽出液を十分に水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。さらに、加温下、真空ポンプで減圧にし、残存する酢酸エチルを完全に除去して、重合体P−13(重量平均分子量=8900、分子量分布2.0、ガラス転位点49℃、酸価6mgKOH/g)を得た。
【0199】
(重合例14)
DHA−2(20g)、アジピン酸(2.0g)、テトラエチレングリコール(9.1g)およびオルトチタン酸エチル(0.14g)の混合物を窒素気流下、240℃で1.5時間加熱撹拌し、生成した水、メタノールを留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水、メタノールを留去しながら、220℃で1時間加熱攪拌した。再度、系内を窒素重点し、窒素気流下とした後、反応温度を160℃に下げ、トリメリット酸無水物(0.69g)を加えてそのまま1時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−14(重量平均分子量14800、分子量分布3.2、ガラス転位点53℃、酸価18mgKOH/g)を得た。
【0200】
(重合例15)
DHA−2(20g)、セバシン酸(1.6g)、テトラエチレングリコール(8.0g)およびオルトチタン酸エチル(0.14g)の混合物を窒素気流下、240℃で1.5時間加熱撹拌し、生成した水、メタノールを留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水、メタノールを留去しながら、220℃で1時間加熱攪拌した。再度、系内を窒素重点し、窒素気流下とした後、反応温度を160℃に下げ、トリメリット酸無水物(0.60g)を加えてそのまま1時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−15(重量平均分子量15000、分子量分布3.3、ガラス転位点50℃、酸価13mgKOH/g)を得た。
【0201】
(重合例16)
DHA−1(20g)、コハク酸(1.1g)、トリエチレングリコール(7.0g)、ドデセニルコハク酸無水物(1.2g)およびオルトチタン酸エチル(0.14g)の混合物を窒素気流下、240℃で1.5時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、220℃で1時間加熱攪拌した。再度、系内を窒素重点し、窒素気流下とした後、反応温度を160℃に下げ、トリメリット酸無水物(0.72g)を加えてそのまま1時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−16(重量平均分子量16200、分子量分布3.1、ガラス転位点53℃、酸価13mgKOH/g)を得た。
【0202】
(重合例17)
DHA−3(40g)、無水コハク酸(20g)、クエン酸(2.5g)、オルトチタン酸エチル(0.46g)および1,3−プロパンジオール(38g)の混合物を窒素気流下、180℃で5時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。その後、減圧下に過剰のプロパンジオールを留去し、さらに温度を徐々に250℃まで上昇させ、生成したプロパンジオールを留去した。250℃で5時間加熱し、プロパンジオールの留去が終わった後、反応液を70℃まで冷却し、テトラヒドロフラン200mlを加えて加熱溶解した。該溶液を1Lのメタノールに注いで再沈殿させ、重合体P−17(重量平均分子量=15000、分子量分布3.1、ガラス転位点59℃、酸価14mgKOH/g)を得た。
【0203】
(重合例18)
DHA−3(40g)、コハク酸ジメチル(15g)、オルトチタン酸エチル(0.46g)および1,3−プロパンジオール(38g)の混合物を窒素気流下、180℃で5時間加熱撹拌し、生成した水とメタノールを留去した。その後、減圧下に過剰のプロパンジオールを留去し、さらに温度を徐々に260℃まで上昇させ、生成したプロパンジオールを留去した。265℃で5時間加熱し、プロパンジオールの留去が終わった後、反応液を70℃まで冷却し、テトラヒドロフラン200mlを加えて加熱溶解した。該溶液を1lのメタノールに注いで再沈殿させ、共重合体P−18(重量平均分子量=42000、分子量分布3.5、ガラス転位点52℃、酸価3mgKOH/g)を得た。
【0204】
(重合例19)
DHA−3(40g)、1,4−ブタンジオール(27g)およびオルトチタン酸エチル(0.46g)の混合物を窒素気流下、180℃で5時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。その後、減圧下に過剰のブタンジオールを留去し、さらに温度を徐々に260℃まで上昇させ、生成したブタンジオールを留去した。260℃で3時間加熱し、ブタンジオールの留去が終わった後、反応液を70℃まで冷却し、テトラヒドロフラン200mLを加えて加熱溶解した。該溶液を1Lのメタノールに注いで再沈殿させ、重合体P−19(重量平均分子量=64000、分子量分布5.1、ガラス転位点68℃)を得た。
【0205】
(重合例20)
DHA−11(42g)、1,3−プロパンジオール(20g)およびオルトチタン酸エチル(0.46g)の混合物を窒素気流下、180℃で5時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。その後、減圧下に過剰のプロパンジオールを留去し、さらに温度を徐々に260℃まで上昇させ、生成したプロパンジオールを留去した。260〜265℃で4時間加熱し、プロパンジオールの留去が終わった後、反応液を70℃まで冷却し、テトラヒドロフラン200mlを加えて加熱溶解した。該溶液を1Lのメタノールに注いで再沈殿させ、重合体P−20(重量平均分子量=58000、分子量分布5.4、ガラス転位点64℃)を得た。
【0206】
(重合例21)
DHA−7(19g)、1,4−ブタンジオール(27g)およびオルトチタン酸エチル(0.46g)の混合物を窒素気流下、180℃で5時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。その後、減圧下に過剰のブタンジオールを留去し、さらに温度を徐々に260℃まで上昇させ、生成したブタンジオールを留去した。265℃で4時間加熱し、ブタンジオールの留去が終わった後、反応液を70℃まで冷却し、テトラヒドロフラン200mlを加えて加熱溶解した。該溶液を1Lのメタノールに注いで再沈殿させ、重合体P−21(重量平均分子量=72000、分子量分布4.9、ガラス転位点52℃)を得た。
【0207】
(重合例22)
DHA−12(24g)、1,3−プロパンジオール(23g)およびオルトチタン酸エチル(0.46g)の混合物を窒素気流下、180℃で5時間加熱撹拌し、生成したメタノールを留去した。その後、減圧下に過剰のプロパンジオールを留去し、さらに温度を徐々に260℃まで上昇させ、生成したプロパンジオールを留去した。265℃で5時間加熱し、プロパンジオールの留去が終わった後、反応液を70℃まで冷却し、テトラヒドロフラン200mLを加えて加熱溶解した。該溶液を1Lのメタノールに注いで再沈殿させ、重合体P−22(重量平均分子量=51000、分子量分布3.9、ガラス転位点59℃)を得た
【0208】
(重合例23)
DHA−7(39g)、セバシン酸ジメチル(23g)、オルトチタン酸エチル(0.46g)および1,3−プロパンジオール(38g)の混合物を窒素気流下、180℃で5時間加熱撹拌し、生成した水とメタノールを留去した。その後、減圧下に過剰のプロパンジオールを留去し、さらに温度を徐々に260℃まで上昇させ、生成したプロパンジオールを留去した。265℃で5時間加熱し、プロパンジオールの留去が終わった後、反応液を70℃まで冷却し、酢酸エチル300mlを加えて加熱溶解した。該溶液を1Lのメタノールに注いで再沈殿させ、共重合体P−23(重量平均分子量=46000、分子量分布3.2、ガラス転位点−5℃)を得た。
【0209】
(重合例24)
DHA−2(20g)、ドデセニルコハク酸無水物(2.08g)、テトラエチレングリコール(7.80g)およびオルトチタン酸エチル(0.07g)の混合物を窒素気流下、240℃で2時間加熱撹拌し、生成した水およびメタノールを留去した。その後、1時間かけて反応温度を170℃まで低下し、トリメリット酸無水物(0.56g)を添加し、さらに1時間反応を継続した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−24(重量平均分子量=13000、分子量分布3.4、ガラス転位点53℃、酸価13mgKOH/g)を得た。
【0210】
(重合例25)
DHA−2(20g)、セバシン酸(2.7g)、デカンジオール(8.0g)およびオルトチタン酸エチル(0.10g)の混合物を窒素気流下、240℃で50分間加熱撹拌し、生成した水およびメタノールを留去した。その後、1時間かけて反応温度を170℃まで低下し、トリメリット酸無水物(0.51g)を添加し、さらに1時間反応を継続した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−25(重量平均分子量=17700、分子量分布3.3、ガラス転位点51℃、酸価12mgKOH/g)を得た。
【0211】
(重合例26)
DHA−2(20g)、ドデセニルコハク酸無水物(3.56g)、トリエチレングリコール(5.55g)、テトラエチレングリコール(1.73g)およびオルトチタン酸エチル(0.06g)の混合物を窒素気流下、240℃で2時間加熱撹拌し、生成した水およびメタノールを留去した。その後、1時間かけて反応温度を170℃まで低下し、トリメリット酸無水物(0.56g)を添加し、さらに1時間反応を継続した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体P−26(重量平均分子量=15000、分子量分布3.3、ガラス転位点56℃、酸価13mgKOH/g)を得た。
【0212】
(比較重合例1)
グリセリン(29g)、イソフタル酸(33g)、不均化ロジン(150g)およびテトラn−ブチルチタネート(0.17g)の混合物を窒素気流下、240℃で1時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、そのまま8時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体H−1(重量平均分子量=26100、分子量分布9.3、ガラス転位点52℃、酸価14mgKOH/g)を得た。
得られた重合体H−1はデヒドロアビエチン酸由来の骨格を主鎖に含んでいなかった。
【0213】
(比較重合例2)
トール油ロジン(30g)、無水マレイン酸(12g)、プロピレングリコール(11g)の混合物を窒素気流下、160℃で1時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、250℃に昇温し、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、そのまま8時間加熱攪拌した。さらに、無水トリメリット酸(2.2g)を加え、1時間加熱攪拌した後、得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体H−2(重量平均分子量=29000、分子量分布12、ガラス転位点45℃、酸価17mgKOH/g)を得た。
得られた重合体H−2はデヒドロアビエチン酸由来の骨格を主鎖に含んでいなかった。
【0214】
(比較重合例3)
DHA−1(15g)、トリエチレングリコール(3.8g)およびオルトチタン酸エチル(0.06g)の混合物を窒素気流下、240℃で1時間加熱撹拌し、生成した水を留去した。次いで、減圧下、重合の進行に伴い生成する水を留去しながら、そのまま10時間加熱攪拌した。得られた反応物をテフロン(登録商標)加工の耐熱容器に取り出し、重合体H−3(重量平均分子量=68000、分子量分布5.5、ガラス転位点90℃、酸価4mgKOH/g)を得た。
【0215】
【表1】



【0216】
<実施例1>
上記で得られたデヒドロアビエチン酸由来の重合体P−1を用いて、以下のようにして樹脂分散物を調製した。
(樹脂分散物の作製)
重合体(10g)、メチルエチルケトン(7.5g)の混合物を60℃で攪拌し、加熱溶解させた。次いで、イソプロパノール(2.5g)を加え、室温まで放冷した後、10質量%アンモニア水(0.55ml)を室温で加え、さらにこの溶液中にイオン交換水(40g)流量1.57(g/ml)で徐々に加え、転相乳化させた。その後、減圧下、エバポレーターで溶媒を留去して、樹脂分散物D−1を得た。
【0217】
(評価)
実施例1で得られた樹脂分散物D−1について、以下のようにして平均粒径、分散安定性、および凝集性をそれぞれ評価した。
−平均粒径−
樹脂分散物の平均粒径(体積平均粒径、メジアン径)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA−920)を用いて測定し、下記評価基準に従って評価した。評価結果を表2に示す。
〜評価基準〜
A:平均粒径が80nm以上200nm未満であった。
B:平均粒径が50nm以上80nm未満、または200nm以上400nm未満であった。
C:平均粒径が400nm以上800nm未満であった。
D:平均粒径が800nm以上、または測定不能であった。
【0218】
−分散安定性−
樹脂分散物を調製してから24時間以内に、上記と同様にして平均粒径を測定した。次いで樹脂分散物を密閉状態で25℃、相対湿度50%の環境下で7日間放置した後、同様にして平均粒径を測定した。放置前後における平均粒径の差を算出し、下記評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
〜評価基準〜
A:粒径変化が100nm未満であった。
B:粒径変化が100nm以上1μm未満であった。
C:粒径変化が1μmを超えていた。
【0219】
<実施例2〜20>
実施例1において、重合体P−1の代わりに、重合体P−2〜P−17及びP−24〜P−26をそれぞれ用いたこと以外は上記と同様にして、樹脂分散物D−2〜D−17及びD−24〜D−26をそれぞれ調製し、同様にして評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0220】
<比較例1〜3>
実施例1において、重合体P−1の代わりに、重合体H−1〜H−3をそれぞれ用いたこと以外は上記と同様にして、樹脂分散物DH−1〜DH−3をそれぞれ調製し、同様にして評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0221】
【表2】



【0222】
<実施例21>(ケミカルトナーへの応用)
実施例1で得られた樹脂分散物D−1および以下のように調製した着色剤分散物と離型剤分散液を用いて、トナーおよび現像剤を調製し、評価した。結果を表3に示す。
(着色剤分散物の調製)
シアン顔料(大日精化社製、Pigment Blue 15:3、銅フタロシアニン)(100質量部)、アニオン界面活性剤(第一工業製薬社製、ネオゲンR)(10質量部)およびイオン交換水(350質量部)を混合し、高圧衝撃式分散機(HJP30006,スギノマシン社製)にて1時間分散して黒着色剤分散物を得た。
【0223】
(離型剤分散物の調製)
パラフィンワックス(HNP−9:日本精蝋社製)(60質量部)、アニオン界面活性剤ネオゲンR(6質量部)およびイオン交換水(200質量部)を混合し、100℃に加熱して融解させ、高圧ホモジナイザー(ゴーリン社製)にて分散し、離型剤分散物を得た。
【0224】
(トナーの作製)
イオン交換水(280質量部)、アニオン界面活性剤(第一工業製薬(株)社製、ネオゲンRK(20%))(2.8質量部)および上記樹脂分散物D−1(360質量部)を温度計、PH計、攪拌機を備えた3lの三口フラスコに入れ、温度30℃、回転数150rpmにて30分間攪拌した。
次いで、上記着色剤分散物(60質量部)、および上記離型剤分散物(80質量部)を加え、5分間攪拌した。さらに、1%硝酸を少しずつ添加してPHを3.0に調整した。その後、ポリ塩化アルミニウム(0.4質量部)を添加、50℃まで昇温したところで樹脂分散物180部を加えた。
30分間攪拌した後、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてPHを9.0に調整した。引き続き90℃まで昇温し、90℃で3時間攪拌した後、冷却してトナー分散物を得た。
【0225】
(トナー粒子の調製)
上記で得られたトナー粒子分散液をろ過し、イオン交換水で洗浄した。トナー粒子を再度、イオン交換水に分散し、ろ過、洗浄した。この操作をさらに2度繰り返した後、トナー粒子分散液に1%硝酸にてPHを4.0に調整した。トナー粒子をろ過し、ろ液の電気伝導度が15μS/cm以下になるまでイオン交換水にて洗浄した後、40℃のオーブン中で5時間減圧乾燥してトナーを得た。
【0226】
(キャリアの調製)
シリコン樹脂(東レ・ダウコーニング社製SR2411)(300質量部)、トルエン(1200質量部)および平均粒径50μmのフェライト芯材(5kg)を回転円盤型流動層コーティング装置に入れ、フェライトの表面をシリコン樹脂で被覆した。次いで被覆物を取り出し、250℃で2時間加熱し、被覆膜を熟成してキャリアとした。
【0227】
(現像剤の調製)
トナー濃度が5質量%、全量が1kgとなるよう上記トナーとキャリアを混合して現像剤とした。
【0228】
(評価)
−トナー粒径−
上記で得られたトナー粒子の平均粒径(体積平均粒径、メジアン径)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA−920)を用いて測定し、下記評価基準に従って評価した。評価結果を表3に示す。
〜評価基準〜
A:平均粒径が5μm以上7μm未満だった。
B:平均粒径が1μm以上5μm未満、または7μm以上10μm未満だった。
C:平均粒径が1μm未満、または10μm以上だった。
【0229】
得られた現像剤を用いて以下のようにして、定着下限温度、画像品質および色調を評価した。評価結果を表3に示す。
−定着下限温度−
画像の定着性の評価は、転写紙(富士ゼロックス製P紙)にベタ画像で1.0±0.05mg/cmのトナーが現像されるように調整を行い、定着下限温度を測定した。なお、定着下限温度は、得られた定着画像をパットで擦った後の画像濃度の残存率が70%以上となる定着ベルト温度をもって定着下限温度とした。
〜評価基準〜
A:130℃未満だった。
B:130℃以上150℃未満だった。
C:150℃以上だった。
【0230】
−画像品質−
上記現像剤を用い、DocuCentreColor400CP(富士ゼロックス社製)にてプリントテスト(低温低湿度条件(10℃,20%RH)および高温高湿度条件(30℃,85%RH))を行い、以下の評価基準に従い、評価した。
〜評価基準〜
A:画像異常が全く観察されなかった。
B:ごくわずかな色合い、画像濃度等の違いが観察されるが通常使用環境下では問題ないレベルだった。
C:色調変化、濃度変化、地肌部の汚れなどが明らかであった。
【0231】
−色調−
上記現像剤を用い、DocuCentreColor400CP(富士ゼロックス社製)にてプリントテスト(低温低湿度条件(10℃,20%RH)および高温高湿度条件(30℃,85%RH))を行い、以下の評価基準に従い、評価した。
〜評価基準〜
A:着色剤の色調を鮮やかに再現できた。
B:着色剤の色調が黄色みをおびて見え、色味を損なっていた。
【0232】
<実施例22〜40>
実施例21において、樹脂分散物D−1の代わりに、実施例2〜20で得られた樹脂分散物D−2〜D−17及びD−24〜D−26を用いたこと以外は、上記と同様にして、トナーおよび現像剤を得た。
得られたトナーおよび現像剤について、上記と同様にして評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0233】
<実施例41>
特開2009−229919号公報の段落番号0191の記載に準拠して、結晶性ポリエステル樹脂(K−1)を合成し、さらに同公報の段落番号0206の記載に準拠して結晶性ポリエステル樹脂分散物DK−1を調製した。
得られた結晶性ポリエステル樹脂分散物K−1を用い、実施例21のトナーの作製において、樹脂分散物DK−1中の36質量部を結晶性ポリエステル樹脂分散物DK−1に置換したこと以外は、実施例21と同様にして、トナーおよび現像剤を調製した。
得られた現像剤について、上記と同様にして評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0234】
<実施例42(粉砕トナーへの応用)>
(トナーの調製)
バインダー樹脂として本発明の共重合体P−1(100質量部)、離型剤としてカルナウバワックス(5質量部)、荷電制御剤(アゾ錯体染料)(2質量部)および着色剤(カーボンブラック)(13質量部)の混合物を110℃に加熱した2本ロール混練機にて50分間混練後、機械式粉砕機にて粉砕し、分級機でトナー一次粒子Aを得た。なお、平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA−920)にて体積平均粒径(メジアン径)を測定した。
バインダー樹脂として本発明の共重合体、P−1(100質量部)、離型剤としてカルナウバワックス(5質量部)、荷電制御剤(アゾ錯体染料)(2質量部)およびシアン顔料(大日精化社製、Pigment Blue 15:3、銅フタロシアニン)(13質量部)の混合物を120℃に加熱した2本ロール混練機にて80分間混練後、機械式粉砕機にて粉砕し、トナー一次粒子Bを得た。
上記トナー一次粒子A(100質量部)に対して、平均粒径120nmのシリカ微粒子(0.8質量部)をヘンシェルミキサーにより周速20m/secで混合し、二次粒子Aを得た。同様に、トナー一次粒子B(100質量部)に対して、平均粒径15nmのシリカ微粒子(1.2質量部)をヘンシェルミキサーにより周速20m/secで混合し、二次粒子Bを得た。
上記二次粒子A(30質量部)と二次粒子B(70質量部)をヘンシェルミキサーにて周速20m/secで混合し、60μmの篩にかけて粗大粒子を分級し、トナーを作製した。
【0235】
<キャリアの調製>
シリコン樹脂(東レ・ダウコーニング社製SR2411)300部、トルエン1200部および平均粒径50μmのフェライト芯材5kgを回転円盤型流動層コーティング装置に入れ、フェライトの表面をシリコン樹脂で被覆した。次いで被覆物を取り出し、250℃で2時間加熱し、被覆膜を熟成してキャリアとした。
【0236】
<現像剤の調製>
トナー濃度が5%、全量が1kgとなるよう上記トナーとキャリアを混合して現像剤とした。
【0237】
<実施例43>
実施例42において、樹脂分散物D−1の代わりに、樹脂分散物D−18を用いたこと以外は同様にして、トナーおよび現像剤を得た。
得られたトナーおよび現像剤について、同様にして評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0238】
<比較例4〜6>
実施例42において、樹脂分散物D−1の代わりに、樹脂分散物DH−1〜DH−3を用いたこと以外は同様にして、トナーおよび現像剤を得た。
得られたトナーおよび現像剤について、同様にして評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0239】
【表3】



【0240】
<実施例44:透明フィルムへの応用>
本発明の重合体P−19(10g)をトルエン/塩化メチレン(1/1)100mlに加熱溶解し、冷却後、キャスト法により厚み100μmの透明フィルムを作製した。得られたフィルムは靭性で、全光透過率88%であった。このフィルムを5質量%水酸化ナトリウム水溶液に25℃で24時間浸漬した後、テトラヒドロフランに溶解し、GPCにて平均分子量を測定したところ69,000であり、実質的に加水分解を受けなかった。
比較用として、三井化学製ポリ乳酸(LACEA H−140)を用いて100μmのフィルムを作製し、同様な試験を行なった結果、フィルムが完全に溶解、消失した。中和後、GPCにて分子量測定した結果、分子量1000以上のポリマーは存在しなかった。
【0241】
<実施例45:透明フィルムへの応用>
実施例44において、重合体P−19の代わりに重合体P−20を用いたこと以外は、同様にして、フイルムの作製、評価を行った。得られたフィルムは靭性で、全光透過率90%であった。また加水分解試験前後の平均分子量変化が見られず、実質的に加水分解を受けていなかった。
【0242】
<実施例46:プラスチック改質材への応用>
本発明の重合体、P−21(10g)を帝人化成製ポリカーボネート(パンライトL−1225Y)(10g)および実施例37で用いたポリ乳酸(10g)と加熱混練し、熱プレス(240℃)により200μm厚みのフィルムを作製した。このフィルムを50℃/95%RHの高温高湿条件に500時間晒し、試験前後のフィルムの引張り強度を測定した。
同様に、上記から本発明の重合体を除いたポリカーボネートとポリ乳酸のポリマーブレンドを用いてフィルムを作製し、同様の条件で強制劣化させ、試験前後の引張り強度を測定した。なお、強制試験前の両者の引張り強度に差はなかった。
その結果、本発明の重合体を添加した場合、引張り強度の低下が5%未満であったが、本発明の重合体が無添加の場合、引張り強度は約30%低下した。
【0243】
<実施例47:プラスチック改質材への応用>
実施例46において、重合体P−21の代わりに、重合体P−22を用いたこと以外は同様にして、フィルムの作製、評価を行ったところ、引っ張り強度の低下は5%未満であった。
【0244】
<実施例48:ホットメルト型接着剤への応用>
本発明の重合体P−23を溶融製膜法により、500μm厚みのシートを作製した。このシートを各1mm厚みのPET(ポリエチレンテレフタレート)板とPVC(ポリ塩化ビニル)板で挟み、150℃で10秒間、押圧した。
冷却後、引張りせん断強度をJIS K6850に準じて測定した。
同様に、市販のエチレン・酢酸ビニル重合体から成るシート状のホットメルト接着剤を用いてPET板とPVC板を接着させ、引張りせん断強度を測定した。
その結果、引張りせん断強度は両者ともほぼ同一であった。また、PET板とPVC板の代わりに、PC(ポリカーボネート)板同士、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体)板同士、PC板とABS板を用いても本発明とエチレン・酢酸ビニル重合体の間に接着力の差はなく、共に実用レベルと判断された。
【0245】
<実施例49:熱可塑性エラストマーへの応用>
本発明の重合体P−23を溶融製膜法により、200μm厚みのシートを作製した。このシートは常温でゴム弾性を示し、伸び率、500%、圧縮永久歪み、25%であった。公知の熱可塑性エラストマーは多くの場合、物性改良のために添加剤を添加するが、本発明の熱可塑性エラストマーは添加剤無添加で高いポテンシャルのゴム弾性を発現する。
本発明の重合体はいずれの原料もバイオマス由来で、生体に安全で、かつガラス転移点が低く100〜150℃で成型加工できる弾性材料として種々の応用が期待できる。
【0246】
<考察>
以上の結果から、ロジンから抽出して得られる天然由来樹脂である本発明の重合体は、プラスチック改質剤、透明フィルム、トナー用バインダー等の種々の用途に使用することができ、従来の石油由来樹脂と同等又はそれ以上の効果を発揮することが分かった。したがって、従来の石油由来樹脂に代わって多種多様の用途に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を主鎖に含む繰り返し単位を有し、ガラス転移点が80℃以下であるデヒドロアビエチン酸由来の重合体。
【請求項2】
ポリエステル重合体である、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
前記繰り返し単位は、下記一般式(A)で示される、請求項1又は請求項2に記載の重合体。
【化1】



(一般式(A)中、Lは炭素数3以上の2価の有機基を示し、Lは2価の有機基を示す。Xはカルボニルオキシ基またはオキシカルボニル基を示し、Xはオキシカルボニル基またはカルボニルオキシメチル基を示す)
【請求項4】
前記一般式(A)におけるLは、酸素原子、カルボニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、アラルキレン基、及び下記一般式(D)で示される基からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される炭素数3以上の2価の有機基である、請求項3に記載の重合体。
【化2】


(一般式(D)中、Lは単結合又は炭素数1〜12の2価の有機基を示し、*は一般式(A)における芳香環との結合位置を示し、**はXとの結合位置を示す)
【請求項5】
前記一般式(A)におけるLは、酸素原子、カルボニル基、アルキレン基、アリーレン基、及びアラルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される炭素数3以上の2価の有機基である、請求項3又は請求項4に記載の重合体。
【請求項6】
前記一般式(A)におけるLは、酸素原子、カルボニル基、及びアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される炭素数3以上の2価の有機基である、請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項7】
前記一般式(A)で示される繰り返し単位のみからなる、請求項3〜請求項6のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項8】
重量平均分子量が5000以上500000以下である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項9】
酸価が5mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の重合体。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の重合体を含む水性樹脂分散物。
【請求項11】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の重合体を含有するトナー用バインダー。
【請求項12】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の重合体と、顔料と、離型剤と、を含有するトナー。
【請求項13】
前記重合体は、請求項10に記載の水性樹脂分散物に由来する、請求項13に記載のトナー。
【請求項14】
請求項12又は請求項13に記載のトナーと、キャリアと、を含有する現像剤。
【請求項15】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の重合体を含有するフィルム。
【請求項16】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の重合体を含有するホットメルト型接着剤。
【請求項17】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の重合体を含有する熱可塑性エラストマー材料。
【請求項18】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の重合体を含有するプラスチック改質剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−107175(P2012−107175A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50701(P2011−50701)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】