説明

デヒドロアビエチン酸重合体、成形体、デヒドロアビエチン酸重合体の製造方法、及びデヒドロアビエチン酸化合物

【課題】良好な耐衝撃強度及び耐湿耐水性を有するデヒドロアビエチン酸重合体を提供することを課題とする。
【解決手段】下記一般式(A)で表される骨格を繰り返し単位として有するデヒドロアビエチン酸重合体。


(一般式(A)中、Lは2価の有機基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なデヒドロアビエチン酸重合体、成形体、デヒドロアビエチン酸重合体の製造方法、及びデヒドロアビエチン酸化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から、資源の脱石油化が検討され、様々な天然資源が注目されている。プラスチックの分野でも脱石油化が図られ、グルコースの発酵により得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が包装材料等に広く用いられている。
【0003】
非特許文献1によると、ポリ乳酸は透明性に優れるが、耐衝撃強度、耐熱性、耐加水分解性等が低いため、射出成型等による成型品への適用は限定的用途に留まっている。
【0004】
また、ポリ乳酸に限らず、非特許文献2及び3に示されるように、石油系の汎用ポリマーであるPET(ポリエチレンレテフタレート)又はPC(ポリカーボネート)は、高温高湿あるいは酸性もしくはアルカリ性の環境下では加水分解し易いため耐久性が十分でなく、その改良が望まれている。
【0005】
ところで、天然物由来の成分として、松脂等から採取できるロジンがある。このロジンは種々のテルペン系カルボン酸の混合物から成るが、それらのカルボン酸のうちアビエチン酸を高分子材料に利用することが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。例えば、特許文献1及び2は、アビエチン酸をフェノール樹脂又はエポキシ樹脂の末端部に修飾することにより、ロジン変性フェノール樹脂及びロジン変性エポキシ酸樹脂として塗料等の結合剤とすることを開示している。しかしながら、これらの樹脂は、フェノール樹脂又はエポキシ樹脂を主骨格としているため、石油依存の原料であり、地球環境保護の観点に至っていない。
【0006】
また、アビエチン酸を多価アルコールと重合させた重合体も知られている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3に記載の重合体は、不規則に重合しゲル化してしまうため、高い分子量の線状重合体とはならない。従って、このような重合体は、成形体等の工業的な用途に利用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−274150号公報
【特許文献2】特開平6−87946号公報
【特許文献3】特開平6−33395号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】辻 秀人「ポリ乳酸−植物由来プラスチックの基礎と応用」、米田出版、2008年
【非特許文献2】滝山 栄一郎「ポリエステル樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、1988年
【非特許文献3】本間 精一「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、1992年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の状況に鑑みてなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、天然物であるロジン由来の原料を用いることができ、高い耐湿耐水性及び耐衝撃強度を有する新規なデヒドロアビエチン酸重合体、成形体、デヒドロアビエチン酸重合体の製造方法、及びデヒドロアビエチン酸化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
【0011】
項1.下記一般式(A)で表される骨格を繰り返し単位として有するデヒドロアビエチン酸重合体。
【0012】
【化1】

【0013】
一般式(A)中、Lは2価の有機基を示す。
【0014】
項2.前記有機基が、エーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよいアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基又はこれらの組合せである前記項1に記載のデヒドロアビエチン酸重合体。
【0015】
項3.重量平均分子量が5000以上500000以下である前記項1又は2に記載のデヒドロアビエチン酸重合体。
【0016】
項4.前記重合体が一般式(A)で表される骨格からなる単独重合体である前記項1〜3のいずれか1項に記載のデヒドロアビエチン酸重合体。
【0017】
項5.前記重合体がさらに他の繰返し単位を有する共重合体である前記項1〜3のいずれか1項に記載のデヒドロアビエチン酸重合体。
【0018】
項6.前記項1〜5のいずれか1項に記載のデヒドロアビエチン酸重合体を含有する複合材料。
【0019】
項7.前記項6に記載の複合材料から得られる成形体。
【0020】
項8.12−カルボキシデヒドロアビエチン酸又はその誘導体とジオール化合物とを重縮合させる工程を備えることを特徴とする、デヒドロアビエチン酸重合体の製造方法。
【0021】
項9.下記一般式(D)で表されるデヒドロアビエチン酸化合物。
【化2】


(一般式(D)中、X及びYはそれぞれ独立に、−OH、−OC2n+1、−OC2nOHまたは−OC表し、nは1〜10までの整数を示す。ただし、XおよびYの少なくとも一つは、−OC2nOHまたは−OCを表す。)
【0022】
項10.一般式(D)中、XおよびYが、それぞれ独立に、−OC2nOH(nは1〜10までの整数を示す)である、前記項9に記載のデヒドロアビエチン酸化合物。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、天然物であるロジン由来の原料を用いることができ、良好な耐湿耐水性および耐衝撃強度を有する新規なポリマーとして、デヒドロアビエチン酸重合体、成形体、デヒドロアビエチン酸重合体の製造方法、及びデヒドロアビエチン酸化合物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[デヒドロアビエチン酸重合体]
以下、本発明のデヒドロアビエチン酸重合体について説明する。
【0025】
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体は、下記一般式(A)で表される骨格を繰り返し単位として有する重合体である。
【0026】
【化3】

【0027】
一般式(A)中、Lは2価の有機基を示す。なお、Lは異なる複数のLを含んでいてもよい。
【0028】
Lで示される2価の有機基としては、炭素原子を構造の基本骨格に持つ2価の基であれば限定的ではないが、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基及びこれらの組合せ等を好適に挙げることができる。これらの有機基はエーテル結合又はエステル結合を1つ又は複数含んでいてもよい。また、置換又は無置換であってもよい。
【0029】
アルキレン基の例としては、−C2n−(nは1〜18、好ましくは2〜12の整数)、−C2m−C10−C2n−(m及びnは独立に0〜4の整数、好ましくは1〜2の整数を示す。ただし、mとnが同時に0となることはない。)等を挙げることができる。より具体的には、−C−、−C−、−C−、−C10H20−、−CHCH(CH)−、−CH10−CH−、1,4−trans−シクロヘキシレン基等を挙げることができる。これらの基は直鎖状であっても分岐していてもよい。
【0030】
アリーレン基の例としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、−CC(CH−(nは1〜4の整数、好ましくは1〜2の整数を示す。)等を挙げることができる。より具体的には、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、2,6−ナフチレン基、−CC(CH−等を挙げることができる。これらの基は直鎖状であっても分岐していてもよい。
【0031】
アラルキレン基の例としては、−C2m2n−(m及びnは独立に0〜4の整数、好ましくは1〜2の整数を示す。ただし、mとnが同時に0となることはない。)等を挙げることができる。より具体的には、−CHCH−、−CHCHCHCH−等を挙げることができる。これらの基は直鎖状であっても分岐していてもよい。
【0032】
エーテル結合(−O−)又はエステル結合(−COO−若しくは−OCO−)を含むアルキレン基、アリーレン基及びアラルキレン基の例としては、−C2m(OC2n−(kは1〜8の整数、好ましくは1〜4の整数を示し、m及びnは独立に1〜4の整数、好ましくは1〜3の整数を示す。)、−C2mOCOC2n−(m及びnは独立に1〜10の整数、好ましくは2〜4の整数を示す。)、−C2mOCOCCOOC2n−(m及びnは独立に1〜10の整数、好ましくは2〜4の整数を示す。)等を挙げることができる。より具体的には、−CHCHOCHCH−、−CHCH(OCHCH)−、−CHCH(OCHCH)3−、−CHCHOCOCHCH−、−CHCHOCO−1,4−CCOOCHCH−、−CHCHOCO−1,3−CCOOCHCH−、−COCO−1,4−CCOOC−、−COCO−1,4−CCOOC−等が挙げられる。これらの基は直鎖状であっても分岐していてもよい。
【0033】
Lで示される2価の有機基の好ましい例としては、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH10−、−CHCHOCHCH−、−CHCH(CH)−、−CHCH(OCHCH)−、−CHCH(OCHCH)−、−CC(CH−、−CHCHOCOCHCH−、−CHCHOCO−1,4−CCOOCHCH−、−CHCHOCO−1,3−CCOOCHCH−、−COCO−1,4−CCOOC−、−COCO−1,4−CCOOC−、−CH10(1,4−シクロヘキシレン)CH−、−C−、−C64−、−CC(CH−又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0034】
特に好ましくは、Lが−(CH−、−(CH−、−(CH10−、−CHCHOCHCH−、−CHCH(OCHCH)−、−CC(CH−、−CHCHOCOCHCH−、−CHCHOCO−1,4−CCOOCHCH−、−CHCHOCO−1,3−CCOOCHCH−、−COCO−1,4−CCOOC−、−COCO−1,4−CCOOC−又はこれらの組み合わせ等である。
【0035】
本発明の重合体は、上記一般式(A)を繰り返し単位として含有していればよく、上記一般式(A)の単独重合体であってもよく、そのほかのモノマーとの共重合体であってもよい。
【0036】
そのほかのモノマーとしては限定的でなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、下記のものが好適に挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用してもよい。
【0037】
【化4】

【0038】
(nは1〜20までの整数、好ましくは2〜10までの整数を示す。)
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体が他のモノマーを含む共重合体である場合、一般式(A)の繰り返し単位と当該他のモノマーとのモル比は限定的でなく、目的とする機能及び用途に応じて適宜決定すればよいが、例えば、1:0.2〜1:3程度、好ましくは1:0.5〜1:2程度とすればよい。
【0039】
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体の重量平均分子量は限定的でないが、好ましくは5000〜500000程度、より好ましくは10000〜300000程度である。この範囲とすることにより、デヒドロアビエチン酸重合体は、機械的強度、成膜・成形性等がより一層優れ、工業的利用の点で有利となる。本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量測定(ポリスチレン換算)で得られる値である。
【0040】
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体には、デヒドロアビエチン酸骨格を含む繰返し単位を有するものに対して、更に置換基を導入して化学変換を施したデヒドロアビエチン酸誘導体の重合体も含む。置換基としては、例えば、ハロゲン原子(F,Cl,Br等)、アルキル基(メチル基、イソプロピル基等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)等が挙げられる。また、本発明の一般式(A)において、10位及び18位の不斉炭素の立体配置はそれぞれR配置及びS配置のいずれであってもよいが、通常は10位がS配置、18位がR配置である。
【0041】
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体は、上記の骨格、すなわち12−カルボキシデヒドロアビエチン酸誘導体とジオール化合物とを重合させることにより得られるポリエステル骨格を主骨格として有する。このため、耐湿耐水性及び耐衝撃強度に優れており、成膜性等の成形性も良好である。これは、化学的に安定で且つ疎水的なデヒドロアビエチン酸骨格が12位と18位でエステル結合により連結していることにより、線状の比較的高分子量のポリマーが生成し易いためであると推察される。
【0042】
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体は、バイオマス資源として入手可能な松脂由来のロジンから得ることができ、高い耐衝撃強度かつ耐湿耐水性を示する。また、良好な成膜性等の成形性を有する。従って、本発明のデヒドロアビエチン酸重合体は、ポリ乳酸等の従来のバイオマスポリマーよりも耐衝撃強度及び耐湿耐水性の点で優れた新規なバイオマスポリマーとなり得る。本発明の重合体は、高い耐衝撃強度、高い耐湿耐水性等を要求される用途に利用でき、例えば、シート、フィルム、繊維、成型材料、複写機(例えば、ゼログラフィー等)用トナーバインダー、印刷インク用樹脂、粘接着剤等、様々な形態で種々の用途に利用できる。
【0043】
[デヒドロアビエチン酸重合体の製造方法]
次に本発明のデヒドロアビエチン酸重合体の製造方法について説明する。
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体は、例えば、12−カルボキシデヒドロアビエチン酸又はその誘導体と、ジオール化合物とを重合させる工程を経ることにより得られる。また、必要に応じて、さらに、その他のモノマー(例えば、ジカルボン酸等)を重合させることにより、デヒドロアビエチン酸共重合体が得られる。
【0044】
12−カルボキシデヒドロアビエチン酸は、下記式(B)で表される。
【0045】
【化5】

【0046】
12−カルボキシデヒドロアビエチン酸又はその誘導体としては、例えば、下記一般式(C)等で表される。
【0047】
【化6】

【0048】
一般式(C)中、X及びYはそれぞれ独立に−OH、−OR、−OCOR、−OCOOR、−OSOR、NR2、ハロゲン原子(F,Cl,Br等)、イミダゾリル基、トリアゾリル基を表し、Rは、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜2)、アラルキル基(好ましくは炭素数7〜10、より好ましくは炭素数7〜9)またはアリール基(好ましくは6〜12、より好ましくは炭素数6〜9)等を示す。これらの中でも、Xは−OH、−OR等であることが好ましく、より好ましくは−OHである。Yは−OH、−ORが好ましい。
【0049】
ジオール化合物としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等といった脂肪族ジオール;ハイドロキノン、4,4‘−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等といった芳香族ジオール等が挙げられる。植物度の観点では、1,3−プロパンジオール、又は1,10−デカンジオール等がより好ましい。また、2つの水酸基以外にさらに水酸基及び/又はカルボキシル基を持つ化合物も、生成する重合体の高次構造を改変する目的で有用である。例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリセリン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらジオール化合物は1種単独又は2種以上を混合して使用される。
【0050】
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体の製造に供する12−カルボキシデヒドロアビエチン酸は、例えばロジンから得ることができる。
【0051】
ロジンとは松脂から採取される樹脂成分であり、採取の方法により、代表的な例として「ガムロジン」、「トールロジン」及び「ウッドロジン」の3種がある。ロジンに含まれる構成成分は、これら採取の方法、松の産地等により異なるが、一般的には、以下にその構造を示す、アビエチン酸(1)、ネオアビエチン酸(2)、パラストリン酸(3)、レボピマール酸(4)、デヒドロアビエチン酸(5)、ピマール酸(6)、イソピマール酸(7)等のジテルペン系樹脂酸の混合物である。
【0052】
【化7】

【0053】
これらのジテルペン系樹脂酸のうち、(1)から(4)で表される各化合物は、例えばアパタイト系等の触媒存在下、加熱処理することにより不均化を起こし、デヒドロアビエチン酸(5)と下記構造のジヒドロアビエチン酸(8)に変性することができる。例えば、特開2002-284732号公報等を参考に行うことができる。
【0054】
【化8】

【0055】
すなわち、本発明のデヒドロアビエチン酸重合体の合成を実施する上で必要な12−カルボキシデヒドロアビエチン酸は、種々の樹脂酸の混合物であるロジンに適切な化学処理を施すことにより容易に得ることができるデヒドロアビエチン酸(5)から工業的に安価に製造することができる。
【0056】
さらに、デヒドロアビエチン酸の12位は電子密度が高く、種々の芳香族親電子置換反応を容易に受ける。すなわち、アシル化、ハロゲン化等が容易に起こるので、公知の反応により官能基変換を行うことにより12位にカルボキシル基を導入することができる。本発明のデヒドロアビエチン酸重合体の製法をより具体的に説明すると、例えば、以下の合成経路で合成することができる。
(合成経路)
【0057】
【化9】



【0058】
以下に、前記合成経路で示される、12−カルボキシデヒドロアビエチン酸(又は誘導体)とジオール化合物との重縮合により得られるポリエステル重合体の合成工程について詳細に説明する。
【0059】
前記合成経路において、一般式(A)で表される繰り返し単位を有する重合体(ポリエステル重合体)を合成する工程は、一般式(C)で表される化合物とジオール化合物を公知の方法で重縮合させることにより合成することができる。
【0060】
具体的な合成方法としては、例えば、新高分子実験学3 高分子の合成・反応(2)、78〜95頁、共立出版(1996年)に記載の方法(例えば、エステル交換法、直接エステル化法、酸クロリドを用いる重縮合法、低温溶液重合法、高温溶液重縮合法、界面重縮合法など)などが挙げられ、本発明では特に、エステル交換法および直接エステル化法が好ましく用いられる。
【0061】
エステル交換法は、ジオール化合物とジカルボン酸エステルを溶融状態または溶液状態で、必要により酸触媒の存在下に加熱することにより脱アルコール重縮合させポリエステルを合成する方法である。
【0062】
直接エステル化法は、ジオール化合物とジカルボン酸化合物を、溶融状態または溶液状態で酸触媒の存在下、加熱脱水させて重縮合することによりポリエステルを合成する方法である。
【0063】
酸クロリド法は、ジオール化合物とジカルボン酸クロリド化合物とを溶融状態または溶液状態で、必要により塩基触媒の存在下に加熱して脱塩化水素させ、重縮合することによりポリエステルを合成する方法である。
【0064】
界面重合法は、前記ジオール化合物を水、ジカルボン酸クロリド化合物を有機溶媒に溶解させ、アルカリ存在下、層間移動触媒を用いて水/有機溶媒界面で重縮合させることによりポリエステルを合成する方法である。
【0065】
なお、一般式(A)で示される繰り返し単位からなる重合体の合成例は、後述する実施例において更に具体的に説明する。
【0066】
本発明では、前記合成経路によるポリエステル重合体の合成において、12−カルボキシデヒドロアビエチン酸(又は誘導体)以外に、その他のジカルボン酸を併用することにより、ポリエステル共重合体を合成することができる。共重合体の合成例については公知の方法を参考に行えば可能であるが、一般的には12−カルボキシデヒドロアビエチン酸を適量の他のジカルボン酸およびジオール化合物と共に減圧下、高温(好ましくは200℃〜280℃程度)で加熱し、反応の結果生成する水、アルコール等の低沸点化合物を留去して重縮合させることにより共重合体が得られる。
【0067】
上記共重合体の合成において有用な、その他のジカルボン酸としては、種々の脂肪族および芳香族ジカルボン酸を挙げることができる。例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸等が好ましく用いられる。
【0068】
[デヒドロアビエチン酸化合物]
本発明のデヒドロアビエチン酸化合物(中間体)は、下記一般式(D)で表される。下記の化合物は、本発明のデヒドロアビエチン酸重合体を製造する際に、好適に使用できる。
【0069】
【化10】

【0070】
但し、一般式(D)中、X及びYはそれぞれ独立に、−OH、−OC2n+1、−OC2nOH、−OCまたはハロゲン原子(F,Cl,Br等)を表す。nは1〜10、好ましくは1〜4までの整数を示す。本発明では、特に、XおよびYの少なくとも一つが、−OC2nOHまたは−OCである場合が好ましい。さらに好ましくは、XおよびYがともに、−OC2nOHである。nは2〜10、好ましくは2〜4までの整数を示す。−OC2n+1及び−OC2nOHは直鎖であっても分岐していてもよい。なお、本発明の一般式(D)において、10位及び18位の不斉炭素の立体配置はそれぞれR配置及びS配置のいずれであってもよいが、通常は10位がS配置、18位がR配置である。
【0071】
[デヒドロアビエチン酸重合体を含有する複合材料]
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体は、単独でポリマー材料として用いることができる。また、本発明のデヒドロアビエチン酸重合体と種々の材料を混合することにより、複合材料とすることもできる。以下、本発明のデヒドロアビエチン酸重合体を含有する複合材料について説明する。
【0072】
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体は、その物性を改良するために種々の材料を混合して、複合材料とすることができる。デヒドロアビエチン酸重合体を複合材料とする場合に、ポリマーアロイ化(異種ポリマーの混合)及び/又はフィラーの混合を行うことが好適であり、これにより、耐衝撃性、耐熱性、耐久性、成形性等を改良することができる。
【0073】
ポリマーアロイ化に使用されるポリマーとしては、異なるポリマー特性を有する本発明のデヒドロアビエチン酸重合体を併用してもよいし、本発明のデヒドロアビエチン酸重合体とそれ以外のポリマーを併用してもよい。
【0074】
ポリマーアロイ化に使用される本発明のデヒドロアビエチン酸重合体以外のポリマーとしては限定的でなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、
1)オレフィン系樹脂(エチレン又はプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン、又はシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等のシクロオレフィンの単独重合体、上記α−オレフィン同士の共重合体、及びα−オレフィンと共重合可能な他の単量体、酢酸ビニル、マレイン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等との共重合体等);
【0075】
2)ポリエステル系樹脂(テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等のジカルボン酸単量体とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等のジオール又は多価アルコール単量体との共重合体、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸、等のヒドロキシカルボン酸等の重縮合体等);
【0076】
3)ポリアミド系樹脂(3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸、二塩基酸とジアミンなどの重縮合によって得られる鎖中に酸アミド結合を有する重合体で、具体的には、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドンなどの重合体、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどのジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸などのジカルボン酸と重縮合せしめて得られる重合体またはこれらの共重合体であり、たとえば、ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−7、ナイロン−8、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン−6、6、ナイロン−6、10、ナイロン−6、11、ナイロン−6、12、ナイロン−6T、ナイロン−6/ナイロン−6、6共重合体、ナイロン−6/ナイロン−12共重合体、ナイロン−6/ナイロン−6T共重合体、ナイロン−6I/ナイロン−6T共重合体等);
【0077】
4)ゴムやエラストマー(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等);
【0078】
5)その他、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂が挙げられる。
【0079】
上記したポリマーアロイ化に使用されるポリマーのうち、植物度の観点からは、ポリ乳酸、ポリβ−ヒドロキシ酪酸、ポリブチレンサクシナート等が好ましい。
【0080】
ポリマーアロイ化は公知の方法に基づいて行えばよい。通常、溶融混練等により行われるが、単純な混練では相分離してしまう場合は、相溶化剤を用いたり、二次的にブロック重合やグラフト重合させたり、一方のポリマーをクラスター状に分散させたりして均一相を形成させればよい。
【0081】
また、本発明のデヒドロアビエチン酸重合体が示す特性を損なうことなく、ポリマーアロイ化をする観点からは、ポリマーアロイ中における本発明のデヒドロアビエチン酸重合体の含有比率(質量基準)は、一般的には1〜100%であり、20〜100%が好ましく、50〜100%がより好ましい。
【0082】
また、本発明のデヒドロアビエチン酸重合体は、種々のフィラーを混合して所望のポリマー物性に改良することができる。特に、耐熱性、耐久性及び耐衝撃性改良には、フィラーの混合は有効である。
【0083】
フィラーとしては、無機フィラー、有機フィラーのいずれを用いてもよい。
【0084】
無機フィラーとしては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維等の繊維状の無機フィラー;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状又は粒状の無機フィラーが好適である。
【0085】
有機フィラーとしては、例えば、セルロース(ナノ)ファイバー、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維、アラミド繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラー;有機顔料等の粒状の有機フィラー;等が好適である。
【0086】
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体含有複合材料には、難燃剤等が混合されていてもよい。難燃剤はポリマー材料を燃え難くするか炎が広がらないようにする素材であれば限定的でなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、ハロゲン系(臭素および塩素)化合物、リン系化合物(芳香族のリン酸エステル、ポリリン酸塩等)、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が利用できる。特に、環境安全性の観点から、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が、好ましく用いることができる。含有量は、本発明の重合体100質量部に対して通常30質量部以下、好ましくは10質量部以下とすればよい。
【0087】
難燃剤と併用して難燃性を高めたり、樹脂表面に炭化皮膜を形成して火災の広がりを抑える素材(難燃助剤)も、本発明のデヒドロアビエチン酸重合体含有複合材料として有用である。具体的には、無機系ではアンチモン化合物、有機系芳香族化合物(フェノール誘導体等)等が好ましく用いられる。
【0088】
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体には、可塑剤を含有してもよい。これにより、難燃性及び成形性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤およびエポキシ系可塑剤等が挙げられる。含有量は、本発明の重合体100質量部に対して通常30質量部以下、好ましくは10質量部以下とすればよい。
【0089】
本発明のデヒドロアビエチン酸重合体には、上記の他に、通常使用される添加剤、例えば、安定剤、耐衝撃性向上剤、結晶核剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、染料、充填剤、酸化防止剤、加工助剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防菌剤、防黴剤等を単独又は二種以上添加してもよい。
【0090】
上記記載の素材を混合して得られる本発明の複合材料は、種々の方法で賦形(成型)することができる。成形方法しては、例えば、押出成形、射出成形等が用いられる。そのようにして得られた成形体の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、自動車、家電、電気・電子機器(OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の構成部品、機械部品、住宅・建築用材料、コンテナ、化粧品、飲料ボトルなどの各種容器等が挙げられる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
まず、本発明のデヒドロアビエチン酸重合体の合成に用いる12−カルボキシデヒドロアビエチン酸誘導体を、下記合成経路に従って合成した。
【0093】
(合成経路)
【化11】

【0094】
92%デヒドロアビエチン酸(1a,荒川化学工業製)30.0gと塩化メチレン60mlの混合物に、塩化オキサリル13.4gを室温で滴下した。3時間撹拌した後、溶媒を減圧留去し、そこにメタノール16.0gを滴下した。室温で3時間撹拌後、過剰のメタノールを減圧留去し、化合物(1b)の白色結晶31.4gを得た。
【0095】
化合物(1b)31.4g、塩化アセチル9.4gおよび塩化メチレン80mlの混合物に無水塩化アルミニウム29.3gを少量ずつ3〜5℃で加えた。5〜8℃で2時間撹拌した後、反応液を500gの氷水に注いだ。酢酸エチル200mlを加えて有機層を抽出した。食塩水で洗浄、無水塩化マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去し、残渣に冷メタノール50mlを加えて析出した化合物(1c)の白色結晶をろ取した。(収量32.8g)
【0096】
水酸化ナトリウム32.0gを水100mlに溶かし、そこに臭素25.6gを8〜10℃で滴下した。さらに、化合物(1c)17.8gをジメトキシエタン100mlに溶かした液を10〜12℃で滴下した。室温で2時間攪拌した後、反応液を6N冷希塩酸に注いで酸性とし、析出した白色結晶を濾取した。結晶をメタノールから再結晶して化合物(1d)の結晶14.9gを得た。
化合物(1d)のH−NMRデータを以下に示す。
【0097】
1H NMR(300 MHz, CDCl3)δ1.20〜1.88(m, 19H), 2.17〜2.40(dd,2H), 2.91(t, 2H),3.66(s,3H),3.87(m,1H), 7.07(s, 1H), 7.86(s, 1H)
【0098】
窒素導入管を備えた100ml三口フラスコに、化合物(1d)17.9g、1,3−プロパンジオール38.0gおよびオルトチタン酸テトラエチル228mgを入れ、ゆるやかに窒素を吹き込み、生成するメタノールを留去しながら180℃で3時間加熱し、次いで、230℃で7時間反応させた。減圧下、120℃で過剰の1,3−プロパンジオールを留去し、化合物(1e)の透明油状物23.0gを得た。
化合物(1e)のH−NMRデータを以下に示す。
【0099】
1H NMR(300 MHz, CDCl3)δ1.18〜2.05(m, 23H), 2.17〜2.35(dd 2H), 2.88(t, 2H), 3.66(m, 1H), 3.67(t, 2H), 3.76(t, 2H), 4.24(m, 2H), 4.44(t, 2H), 7.04(s, 1H), 7.63(s, 1H)
【0100】
窒素導入管を備えた100ml三口フラスコに、1d、17.9g、1,4−ブタンジオール45.0gおよびオルトチタン酸テトラエチル228mgを入れ、ゆるやかに窒素を吹き込み、生成するメタノールを留去しながら180℃で3時間加熱し、次いで、230℃で8時間反応させた。減圧下、130℃で過剰の1,4−ブタンジオールを留去し、化合物(2e)の透明油状物24.3gを得た。
化合物(2e)のH−NMRデータを以下に示す。
【0101】
1H NMR(300 MHz, CDCl3)δ1.18〜1.90(m, 27H), 2.16〜2.35(dd 2H), 2.87(t, 2H), 3.65(m, 1H), 3.67(t, 2H), 3.69(t, 2H), 4.08(m, 2H), 4.30(t, 2H), 7.01(s, 1H), 7.62(s, 1H)
【0102】
その他の12−カルボキシデヒドロアビエチン酸誘導体(下記一般式)も上記の方法に準じて合成した。それらのNMRスペクトルデータ(1HNMR(300 MHz,δ)を下記表1に例示した。
【0103】
【化12】

【0104】
【表1】

【0105】
[実施例1]
(デヒドロアビエチン酸重合体(1)の合成)
【化13】

【0106】
窒素導入管を備えた50ml三口フラスコに、化合物(1e)10.0gおよびオルトチタン酸テトラエチル、50mgを入れ、ゆるやかに窒素を吹き込みながら攪拌し、230℃まで昇温して3時間加熱した。次いで、減圧下(133Pa)に270℃で3時間反応させた。放冷後、反応物をテトラヒドロフラン50mlに溶解し、不溶物を除去した後、メタノール1000mlに投入して析出した沈殿物を濾取した。メタノールで洗浄、乾燥して白色粉末8.2gを得、これをデヒドロアビエチン酸重合体(1)とした。
デヒドロアビエチン酸重合体(1)のGPC測定による重量平均分子量は98,000であった。また、デヒドロアビエチン酸重合体(1)の熱物性として、DSCにより昇温速度10℃/分で測定したガラス転移温度Tgは96℃であった。
【0107】
[実施例2]
(デヒドロアビエチン酸重合体(2)の合成)
【化14】

【0108】
窒素導入管を備えた50ml三口フラスコに、化合物(2e)10.5gおよびオルトチタン酸テトラエチル、50mgを入れ、ゆるやかに窒素を吹き込みながら攪拌し230℃まで昇温し、3時間加熱した。次いで、減圧下(Hb)に270℃で3時間反応させた。放冷後、反応物をテトラヒドロフラン50mlに溶解し、不溶物を除去した後、メタノール1000mlに投入して析出した沈殿物を濾取した。メタノールで洗浄、乾燥して白色粉末8.4gを得、これをデヒドロアビエチン酸重合体(2)とした。
デヒドロアビエチン酸重合体(1)のGPC測定による重量平均分子量は79,000であった。また、デヒドロアビエチン酸重合体(1)の熱物性として、DSCにより昇温速度10℃/分で測定したガラス転移温度Tgは92℃であった。
【0109】
[実施例3]
(デヒドロアビエチン酸重合体(3)の合成)
【化15】

【0110】
窒素導入管を備えた50ml三口フラスコに、化合物(1e)9.2g、化合物(3f)5.65gおよび酸化アンチモン30mgを入れ、ゆるやかに窒素を吹き込みながら180℃で3時間、加熱攪拌した。その後、減圧下、230℃で2時間、さらに270℃で2時間加熱した。放冷後、反応物にテトラヒドロフラン100mlを加えて加熱溶解し、不溶物を濾別した後、メタノール1000mlに投入して析出した沈殿物を濾取した。メタノールで洗浄、乾燥して白色粉末11.6gを得、これをデヒドロアビエチン酸重合体(3)とした。
デヒドロアビエチン酸重合体(3)のGPC測定による重量平均分子量は128,000であった。また、デヒドロアビエチン酸重合体(1)の熱物性として、DSCにより昇温速度10℃/分で測定したガラス転移温度Tgは89℃であった。
【0111】
[実施例4]
(デヒドロアビエチン酸重合体(4)の合成)
【化16】



【0112】
窒素導入管を備えた50ml三口フラスコに、化合物(2e)9.8g、化合物(4f)6.21gおよび酸化アンチモン30mgを入れ、ゆるやかに窒素を吹き込みながら180℃で3時間、加熱攪拌した。その後、減圧下、230℃で2時間、さらに270℃で3時間加熱した。放冷後、反応物にテトラヒドロフラン100mlを加えて加熱溶解し、不溶物を濾別した後、メタノール1000mlに投入して析出した沈殿物を濾取した。メタノールで洗浄、乾燥して白色粉末12.0gを得、これをデヒドロアビエチン酸重合体(4)とした。
デヒドロアビエチン酸重合体(4)のGPC測定による重量平均分子量は76,000であった。また、デヒドロアビエチン酸重合体(1)の熱物性として、DSCにより昇温速度10℃/分で測定したガラス転移温度Tgは89℃であった。
【0113】
[実施例5]
(デヒドロアビエチン酸重合体(5)の合成)
【化17】

【0114】
窒素導入管を備えた50ml三口フラスコに、化合物(1e)14.8g、セバシン酸ジメチル(化合物5f)7.4gおよび酸化アンチモン200mgを入れ、ゆるやかに窒素を吹き込みながら160℃で3時間、加熱攪拌した。その後、減圧下(133Pa)、180℃で2時間、さらに260℃で2時間加熱した。放冷後、反応物にテトラヒドロフラン50mlを加えて加熱溶解し、不溶物を濾別した後、メタノール1000mlに投入して析出した沈殿物を濾取した。メタノールで洗浄、乾燥して灰白色樹脂状物16.3gを得、これをデヒドロアビエチン酸重合体(5)とした。
デヒドロアビエチン酸重合体(5)のGPC測定による重量平均分子量は61,000であった。また、デヒドロアビエチン酸重合体(1)の熱物性として、DSCにより昇温速度10℃/分で測定したガラス転移温度Tgは37℃であった。
【0115】
[評価]
実施例1〜5で得られたデヒドロアビエチン酸重合体(1)〜(5)と、比較例1〜3における比較用ポリマーとして、市販のPLA(ポリ乳酸)をそれぞれ用いて、耐衝撃強度の指標としてのシャルピー強度(ノッチ付)、耐湿耐水性の指標としての吸水率(%)及びフィルム膜靭性の各物性を比較評価した。結果を下記表2に示す。
【0116】
比較例において用いたポリマーは、以下の通りである。
[比較例1]
PLA:三井化学(株)製のポリ乳酸、製品名:LACEA H-140、Tg:58℃
【0117】
<シャルピー試験>
シャルピー衝撃強度(ノッチ付き)の測定を、ISO179に準じて行い、KJ/mで示した。
【0118】
<吸水率(%)>
吸水率は、以下のようにして測定した。
実施例1〜5で用いたデヒドロアビエチン酸重合体(1)〜(5)および比較例1のPLAを用いて作製したフィルム成膜性評価用のキャストフィルムを23℃の水に24時間浸し、その後、表面の水滴をよく拭き取り、素早く重量を測定した。吸水率を下記式から算出した。
吸水率=(浸水後のフィルムの重量−浸水前のフィルムの重量)/浸水前のフィルムの重量
【0119】
<フィルム膜靭性>
各ポリマーの10%塩化メチレン溶液を用い、キャスト法により厚み100μのフィルムを作製した。乾燥したフィルムの靭性〜脆性をフィルムの繰り返し屈曲性試験(UL746E,n=5)で評価を行い、平均500回以上を○、平均50〜500回を△、平均50回以下を×とした。
【0120】
【表2】

【0121】
上記表2に示されるように、実施例1〜5で得られた本発明のデヒドロアビエチン酸重合体(1)〜(5)は、PLAとの比較において、耐衝撃強度および耐湿耐水性がいずれも向上していることが分かる。また、フィルムにした際の靭性においても良好であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表される骨格を繰り返し単位として有するデヒドロアビエチン酸重合体。
【化1】


(一般式(A)中、Lは2価の有機基を示す。)
【請求項2】
前記有機基が、エーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよいアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基又はこれらの組合せである請求項1に記載のデヒドロアビエチン酸重合体。
【請求項3】
重量平均分子量が5000以上500000以下である請求項1又は2に記載のデヒドロアビエチン酸重合体。
【請求項4】
前記重合体が一般式(A)で表される骨格からなる単独重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載のデヒドロアビエチン酸重合体。
【請求項5】
前記重合体がさらに他の繰返し単位を有する共重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載のデヒドロアビエチン酸重合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のデヒドロアビエチン酸重合体を含有する複合材料。
【請求項7】
請求項6に記載の複合材料から得られる成形体。
【請求項8】
12−カルボキシデヒドロアビエチン酸又はその誘導体とジオール化合物とを重縮合させる工程を備えることを特徴とする、デヒドロアビエチン酸重合体の製造方法。
【請求項9】
下記一般式(D)で表されるデヒドロアビエチン酸化合物。
【化2】


(一般式(D)中、X及びYはそれぞれ独立に、−OH、−OC2n+1、−OC2nOHまたは−OCを表し、nは1〜10までの整数を示す。ただし、XおよびYの少なくとも一つは、−OC2nOHまたは−OCを表す。)
【請求項10】
一般式(D)中、XおよびYが、それぞれ独立に、−OC2nOH(nは1〜10までの整数を示す)である、請求項9に記載のデヒドロアビエチン酸化合物。

【公開番号】特開2011−162635(P2011−162635A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25989(P2010−25989)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】