説明

デヒドロアミノ酸含有グリセロール誘導体

【課題】α-グルコシダーゼ阻害作用を有する糖尿病の予防又は治療剤を提供すること。
【解決手段】一般式(I):


[式中、Aは、アミノ酸のアシル残基であり、Bは


(式中、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立して脂肪酸のアシル残基である)]
で表される化合物又はその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病等の予防及び治療に有用なα-グルコシダーゼ阻害作用を有するグリセロール誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
α-グルコシダーゼ(α-glucosidase)は、糖のα-1,4-グルコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素であり、ヒトでは小腸上皮細胞に膜酵素として発現している消化酵素である。α-グルコシダーゼの作用を競合的に阻害する作用を有する化合物は、二糖類から単糖への分解を抑制することにより小腸からのグルコースの吸収を遅らせ、食後の急激な血糖値の上昇を抑えるので糖尿病の予防又は治療に有用であると考えられている。
【0003】
ヒトの健康の維持や疾病の治療などに天然資源が有効に利用され、植物だけでなく、微生物や海洋生物などから、生理活性物質は多岐にわたり存在することが分かっている。なかでも昆虫は生薬昆虫として用いられていたという歴史から、新たな医薬素材の探索も行われている報告もあるが(非特許文献1)、昆虫からの新規α-グルコシダーゼ阻害作用を有する生理活性物質は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tetrahedron Lett, 2010, 51, 2099-2101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、糖尿病等の予防及び治療に有用であり、α-グルコシダーゼ阻害作用を有する化合物及び、それらを含有する医薬及び食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、
一般式(I):
【0007】
【化1】

【0008】
[式中、Aは、アミノ酸のアシル残基であり、Bは
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立して脂肪酸のアシル残基である)]
で表される化合物又はその塩が、優れたα-グルコシダーゼ阻害作用を有し、糖尿病等の予防又は治療に有用であり、かつ優れた薬効を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は下記の通りである。
[1]一般式(I):
【0012】
【化3】

【0013】
[式中、Aは、アミノ酸のアシル残基であり、Bは
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立して脂肪酸のアシル残基である)]
で表される化合物又はその塩。
[2]Aが、アミノ酸の2,3−デヒドロ体のアシル残基である[1]に記載の化合物又はその塩。
[3]アミノ酸がα-アミノ酸である[1]又は[2]に記載の化合物又はその塩。
[4]Aが
【0016】
【化5】

【0017】
[式中、R3は、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基又はハロゲン原子である]である[1]〜[3]のいずれか1項に記載の化合物。
[5]R3が水素原子である[4]に記載の化合物又はその塩。
[6]R1及びR2が、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立して炭素数2〜30の脂肪酸のアシル残基である[1]〜[5]のいずれか1項に記載の化合物。
[7]R及びRが、炭素数2〜20の脂肪酸のアシル残基である[1]〜[5]のいずれか1項に記載の化合物。
[8]前記式(I)で表される化合物又はその塩が、サイカチマメゾウムシ由来である[1]〜[7]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
[9]α-グルコシダーゼ阻害剤である[1]〜[8]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
[10][9]に記載のα-グルコシダーゼ阻害剤を含む医薬。
[11]糖尿病、糖尿病性合併症及び/又は肥満の予防又は治療剤である[10]に記載の医薬。
[12][9]に記載のα-グルコシダーゼ阻害剤を含む食品。
[13]食品が保健機能食品又はダイエタリーサプリメントである、[12]に記載の食品。
[14]保健機能食品が特定保健用食品又は栄養機能食品である、[13]に記載の食品。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、式(I)の化合物は、優れたα-グルコシダーゼ阻害作用を有するので、肥満や糖尿病等の予防又は治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、(A)サイカチ種子及び(B)サイカチマメゾウムシの写真を示す。
【図2】図2は、活性脂質1のCIMSスペクトルを示す。
【図3】図3は、活性脂質1のα-グルコシダーゼ阻害活性を示す。
【図4】図4は、合成した1,2-ジアシル誘導体のα-Glucosidase阻害率の濃度依存性を示す。
【図5】図5は、合成した1,3-ジアシル誘導体のα-Glucosidase阻害率の濃度依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本願発明は、一般式(I):
【0021】
【化6】

【0022】
[式中、Aは、アミノ酸のアシル残基であり、Bは
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立して脂肪酸のアシル残基である)]
で表される化合物又はその塩である(以下本発明の化合物又は化合物(I)ともいう)。
【0025】
本明細書中のAは、アミノ酸のアシル残基を示す。
アミノ酸としては、アミノ酸の2,3−デヒドロ体が好ましく挙げられる。
またアミノ酸は、α-アミノ酸、β-アミノ酸及びγ-アミノ酸が挙げられ、なかでもα-アミノ酸が好ましい。
【0026】
α-アミノ酸としては、フェニルアラニン、チロシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、トリプトファン、メチオニン、セリン、トレオニン、システイン、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられ、フェニルアラニン、チロシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等が好ましく、フェニルアラニン、チロシンがより好ましい。
【0027】
本明細書中のR及びRは、脂肪酸のアシル残基を示す。
脂肪酸のアシル残基としては、炭素数2〜30の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のアシル残基が挙げられ、好ましくは、炭素数2〜20の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のアシル残基、より好ましくは8〜18の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のアシル残基が挙げられる。
【0028】
このような具体的なアシル残基の例としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、2−エチルヘキサン酸等の飽和脂肪酸のアシル残基;パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、2,4−オクタデカジエン酸等の不飽和脂肪酸のアシル残基が挙げられるが、イソステアリン酸等の分岐脂肪酸のアシル残基;リシノール酸、1,2−ヒドロキシステアリン酸等のアルキル基中に水酸基を有するヒドロキシ脂肪酸のアシル残基などの環状構造を有する環状脂肪酸などであってもよい。
【0029】
なかでも酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸等の飽和脂肪酸のアシル残基;パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸のアシル残基が好ましく、特にオクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸のアシル残基が好ましい。
【0030】
本明細書中のR3は、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基又はハロゲン原子である。好ましいのは水素原子、ヒドロキシル基であり、より好ましいのは水素である。
本明細書中の「ハロゲン原子」としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0031】
式(I)で表される化合物の中でも、
【0032】
【化8】

【0033】
又は
【0034】
【化9】

【0035】
[式中、R、R及びRの定義は、上記と同様である]で表される化合物又はその塩が好ましい。
【0036】
式(I)で表される化合物の特に好適な具体例としては、1,2−ジアセチルグリセロ−3−デヒドロフェニルアラニンエステル、1,2−ジオクトイルグリセロ−3−デヒドロフェニルアラニンエステル、1,2−ジステアロイルグリセロ−3−デヒドロフェニルアラニンエステル、1,2−ジオレオイルグリセロ−3−デヒドロフェニルアラニンエステル、1,2−ジリノロイルグリセロ−3−デヒドロフェニルアラニンエステル、1,3−ジオクトイルグリセロ−3−デヒドロフェニルアラニンエステル、1,3−ジリノロイルグリセロ−3−デヒドロフェニルアラニンエステル又はそれらの塩が挙げられる。
【0037】
式(I)で表される化合物又はその塩は、化学合成法、動物や植物に由来する天然のもの、発酵法又は遺伝子組換法によって得られるもののいずれを使用してもよい。
【0038】
式(I)で表される化合物の塩としては、薬理学的に許容しうる塩等が挙げられ、例えば、トリフルオロ酢酸、酢酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ケイ皮酸、フマル酸、ホスホン酸、塩酸、硝酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、スルファミン酸、硫酸等の酸との酸付加塩;例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属塩;例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン等の有機塩基との塩等が挙げられる。
【0039】
式(I)で表される化合物が、光学異性体、立体異性体、位置異性体、回転異性体等の異性体を有する場合には、これらも式(I)で表される化合物として含有されるとともに、自体公知の合成手法、分離手法によりそれぞれを単品として得ることができる。例えば、式(I)で表される化合物に光学異性体が存在する場合には、該化合物から分割された光学異性体も式(I)で表される化合物に包含される。ここで、光学異性体は自体公知の方法により製造することができる。
【0040】
式(I)で表される化合物は、結晶であってもよい。
式(I)で表される化合物の結晶は、式(I)で表される化合物に自体公知の結晶化法を適用して結晶化することによって製造することができる。式(I)で表される化合物が結晶である場合、結晶形が単一であっても結晶形混合物であっても式(I)で表される化合物に包含される。
【0041】
式(I)で表される化合物は、同位元素(例、3H, 14C, 35S,125I等)等で標識されていてもよい。
さらに式(I)で表される化合物は、水和物であっても、非水和物であっても、無溶媒和物であっても、溶媒和物であってもよい。
さらに、1Hを2H(D)に変換した重水素変換体も、式(I)で表される化合物に包含される。
【0042】
式(I)で表される化合物又はその塩の製造のための出発物質は、J. Med. Chem. 1997, 40, 1186-1194やChem. Biol. Interaction, 84(1992) 277-290等に記載される方法や公知の工程によって調製できる。すなわち式(I)で表される化合物の基本骨格あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成方法を適用して製造することができる。例えばアルキル化、アシル化、アミノ化、イミノ化、ハロゲン化、還元、酸化、縮合等が挙げられ、通常当分野で用いられる反応又は方法が利用できる。
【0043】
式(I)で表される化合物のプロドラッグも本発明に包含される。当該プロドラッグは、生体内における生理条件下で酵素や胃酸等による反応により式(I)で表される化合物に変換する化合物、すなわち酵素的に酸化、還元、加水分解等を起こして式(I)で表される化合物に変化する化合物、胃酸等により加水分解等を起こして式(I)で表される化合物に変化する化合物である。
【0044】
また、式(I)で表される化合物のプロドラッグは、広川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻分子設計163頁から198頁に記載されているような、生理的条件において式(I)で表される化合物に変化するものであってもよい。
本発明の式(I)で表される化合物又はその塩、あるいはそのプロドラッグには、シス、トランス異性体などの立体異性体、ラセミ体の他、R体及びS体などの光学活性体も含まれる。
【0045】
以下、本発明の化合物の製造法について説明する。
本発明の化合物は、自体公知の方法、例えば、以下に詳述する方法、あるいはこれに準ずる方法に従って製造することができる。
なお、以下の各製造法において、原料化合物は塩として用いてもよく、このような塩としては、例えば、化合物(I)の塩と同様のものが挙げられる。
以下の式中の各工程で得られた化合物は、反応液のままか粗生成物として、次の反応に用いてもよいし、公知の分離精製手段、例えば、濃縮、減圧濃縮、溶媒抽出、晶出、再結晶、転溶、クロマトグラフィーなどにより、反応液から単離精製して次の反応に用いてもよい。
また、以下の式中の化合物が市販されている場合には、市販品をそのまま用いることもできる。
【0046】
化合物(II)は、以下のスキームに示す方法で製造することができる。
まず、フェニルピルビン酸のベンゼン溶液をp−トルエンスルホン酸(TsOH)存在下でカルバミン酸ベンジル(NH−Cbz)と還流させて、N−Cbz−デヒドロフェニルアラニン(N−Cbz−Δ−Phe)を調製する。また、1,2−イソプロピリデングリセロールの3位をt−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)化後、これを加水分解してジオール体にする。得られたジオール体にR又はRに対応するアシルクロリド又は酸無水物を反応させてアシル化を行い、1,2−ジアシルグリセロールの3−O−TBDPS誘導体を得る。この誘導体の無水THF溶液を、0℃で酢酸および1M BuNFのTHF溶液で処理してTBDPS基を脱保護し、1,2−ジアシルグリセロールとする。これを1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)およびTsOH存在下、N−Cbz−Δ−Pheと反応させて、1,2−ジアシルグリセロ−3−デヒドロフェニルアラニンエステルを得る。
【0047】
【化10】

【0048】
また化合物(III)は、以下のスキームに示す方法で製造することができる。
化合物(II)の製造における合成中間体である1,2−ジアシルグリセロールの3−O−TBDPS誘導体の無水THF溶液を、0℃ではなく室温で酢酸および1M BuNFのTHF溶液で処理して、TBDPS基を脱保護するとともにアシル基を転位させ、1,3−ジアシルグリセロールとする。これをWSCおよびTsOH存在下、N−Cbz−Δ−Pheと反応させて、1,3−ジアシルグリセロ−2−デヒドロフェニルアラニンエステルを得る。
【0049】
【化11】

【0050】
式(I)で表される化合物又はその塩は、サイカチマメゾウムシ由来である態様も本発明に含まれる。
サイカチマメゾウムシは、滋賀県長浜市の琵琶湖岸「さいかち浜」に植栽されているマメ科の高木サイカチ(Gleditsia japonica)の種子を食べて成長する昆虫である。サイカチマメゾウムシ由来の上記式(I)で表される化合物はサイカチマメゾウムシからは以下のようにして得られる。
【0051】
サイカチマメゾウムシの幼虫をメタノールに浸漬し、メタノール抽出物を得る。さらにクロロホルムに転溶してクロロホルム可溶性画分を得る。得られたクロロホルム可溶性画分をカラムで分画し、上記式(I)で表される化合物を得る。
【0052】
本発明の化合物はα-グルコシダーゼ阻害作用を有することから、本発明の化合物を含有するα-グルコシダーゼ阻害剤は、哺乳動物(例、ヒト、サル、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ウサギ等)に対し、α-グルコシダーゼが関与する疾患の予防、改善又は治療に有用である。
【0053】
α-グルコシダーゼが関与する疾患又は症状としては、糖尿病(例、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病等);耐糖能不全(IGT);高脂血症(例、高トリグリセライド血症、高コレステロール血症、低HDL低血症など);高インスリン血症;糖尿病性合併症(例、網膜症、腎症、神経障害、大血管障害など);冠動脈および脳血管障害;高アンモニウム血症;肥満;シンドロームXをもたらす高血圧、内臓肥満およびインスリン抵抗性;骨減少症や骨粗しょう症などの骨代謝障害;脂肪肝、肝炎、便秘、下痢、腸炎などの消化器系疾患;ダンピング症候群;糖原病等が挙げられる。
なかでも、α-グルコシダーゼ阻害剤は、糖尿病、糖尿病性合併症、肥満等の予防又は治療に好適である。
本発明のα-グルコシダーゼ阻害剤を含む医薬も本発明に包含される(以下本発明の医薬ともいう)。
【0054】
本発明の医薬は、本発明のα-グルコシダーゼ阻害剤をそのままあるいは薬理学的に許容される担体を配合し、経口的又は非経口的に投与することができる。
【0055】
本発明の医薬は、経口投与する場合の剤形としては、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、マイクロカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられ、また、非経口投与する場合の剤形としては、例えば注射剤、注入剤、点滴剤、坐剤等が挙げられる。また、適当な基剤と組み合わせ、徐放性製剤とすることも有効である。
【0056】
本発明の医薬を上記の剤形に製造する方法としては、当該分野で一般的に用いられている公知の製造方法を適用することができる。また、上記の剤形に製造する場合には、必要に応じて、その剤形に製する際に製剤分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤等を適宜、適量含有させて製造することができる。
【0057】
例えば、本発明の医薬を錠剤に製する場合には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を含有させて製造することができ、丸剤及び顆粒剤に製する場合には、賦形剤、結合剤、崩壊剤等を含有させて製造することができる。また、散剤及びカプセル剤に製する場合には賦形剤等を、シロップ剤に製する場合には甘味剤等を、乳剤又は懸濁剤に製する場合には懸濁化剤、界面活性剤、乳化剤等を含有させて製造することができる。
【0058】
賦形剤の例としては、乳糖、白糖、ブドウ糖、でんぷん、蔗糖、微結晶セルロース、カンゾウ末、マンニトール、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。
【0059】
結合剤の例としては、5ないし10重量%デンプンのり液、10ないし20重量%アラビアゴム液又はゼラチン液、1ないし5重量%トラガント液、カルボキシメチルセルロース液、アルギン酸ナトリウム液、グリセリン等が挙げられる。
【0060】
崩壊剤の例としては、でんぷん、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0061】
滑沢剤の例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、精製タルク等が挙げられる。
【0062】
甘味剤の例としては、ブドウ糖、果糖、転化糖、ソルビトール、キシリトール、グリセリン、単シロップ等が挙げられる。
【0063】
界面活性剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル40等が挙げられる。
【0064】
懸濁化剤の例としては、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ベントナイト等が挙げられる。
【0065】
乳化剤の例としては、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ポリソルベート80等が挙げられる。
【0066】
更に、本発明の医薬を上記の剤形に製造する場合には、所望により、製剤分野において通常用いられる着色剤、保存剤、芳香剤、矯味剤、安定剤、粘稠剤等を適量、添加することができる。
【0067】
本発明の医薬を経口投与する場合の投与量は、投与する患者の性別、症状、年齢、投与方法によって異なるが、通常、成人(体重60kg)1日あたりの本発明の化合物の投与量が、1mg〜500mgであり、好ましくは1mg〜70mgである。上記1日あたりの量を一度にもしくは数回に分けて投与することができる。食前、食後、食間を問わないが食前が好ましい。また投与期間は特に限定されない。
【0068】
本発明の医薬を非経口的に投与する場合は、通常、液剤(例えば注射剤)の形で投与する。その1回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法等によっても異なるが、例えば注射剤の形にして、通常体重1kgあたり約1μg〜約1mg、好ましくは約1μg〜約200μg、より好ましくは約1μg〜約100μgを静脈注射により投与するのが好都合である。
注射剤としては、静脈注射剤のほか、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等が含まれ、また持続性製剤としては、イオントフォレシス経皮剤等が含まれる。かかる注射剤は自体公知の方法、すなわち、本発明の化合物を無菌の水性液もしくは油性液に溶解、懸濁又は乳化することによって調製される。
注射用の水性液としては生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウム等)等が挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(例えばエタノール)、ポリアルコール(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80、HCO−50)等と併用してもよい。
油性液としては、ゴマ油、大豆油等が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等と併用してもよい。
また、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール等)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール等)等と配合してもよい。
【0069】
本発明の医薬を経皮吸収型外用剤として投与(適用)する場合には、必要に応じて公知の添加剤等を混合して常法により、クリーム剤、液剤、ローション剤、乳剤、チンキ剤、軟膏剤、水性ゲル剤、油性ゲル剤、エアゾール剤、パウダー剤、シャンプー、石鹸等の外用製剤等とすることができる。
本発明の化合物は、そのままであるいは適当な添加剤を加えて医薬部外品等とすることができる。
【0070】
上記外用剤には、上記成分の他に水溶性成分、油性成分、粉末成分、界面活性剤、高分子成分、増粘剤、粘着性改良剤、被膜形成剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、賦形剤、保湿剤、皮膚保護剤、清涼化剤、香料、着色剤、キレート剤、潤沢剤、鎮痒剤、血行促進剤、収斂剤、組織修復促進剤、制汗剤、植物抽出成分、動物抽出成分、化粧品や医薬部外品等に必要な添加剤等を必要に応じて配合することができる。
【0071】
本発明の化合物は、該化合物の作用の増強又は該化合物の投与量の低減等を目的として、糖尿病治療剤、糖尿病性合併症治療剤、高脂血症治療剤、降圧剤、抗肥満剤、利尿剤、抗血栓剤等の薬剤と組み合わせて用いることができる。この際、本発明の化合物と併用薬剤の投与時期は限定されず、これらを投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。さらに、本発明の化合物と併用薬剤とは、それぞれの活性成分を含む2種類の製剤として投与されてもよいし、両方の活性成分を含む単一の製剤として投与されてもよい。
【0072】
本発明のα-グルコシダーゼ阻害剤を含む食品も本発明に包含される(以下本発明の食品ともいう)。本発明の食品においては、サイカチマメゾウムシ由来成分のみからなる食品であってよい。
【0073】
本発明の食品は、本発明の化合物を含む一般的な食品形態であれば如何なるものでも良い。例えば、それ自体、又はそれに適当な風味を加えてドリンク剤、例えば清涼飲料、粉末飲料とすることもできる。具体的には、ジュース、牛乳、菓子、ゼリー等に混ぜて飲食することができる。また、このような食品を保健機能食品として提供することも可能である。この保健機能食品には、糖尿病や肥満等に起因する症状の改善等の本発明の用途に用いるものであるという表示を付した飲食品、特に、特定保健用食品、栄養機能食品等も含まれる。
【0074】
さらに、本発明の食品を食品補助剤として利用することも可能である。食品補助剤として使用する場合、例えば錠剤、カプセル、散剤、顆粒、懸濁剤、チュアブル剤、シロップ剤等の形態に調製することができる。本発明における食品補助剤とは、食品として摂取されるもの以外に栄養を補助する目的で摂取されるものをいい、栄養補助剤、ダイエタリーサプリメント等もこれに含まれる。
【0075】
本発明の化合物を食品として摂取する場合、成人(体重60kg)1日当たりの本発明の化合物の摂取量は、通常1mg〜300mg程度、好ましくは1mg〜30mg程度である。
上記の量を1日1回から数回に分けて食前に摂取することが好ましい。この場合、1日あたり摂取量、又は1回あたりの摂取量を1単位包装とすることができる。
【実施例】
【0076】
以下、参考例、実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、実施例等は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を限定するものではない。
【0077】
(試薬・機器)
メタノール(和光純薬工業 MeOHと略記)、エタノール(和光純薬工業 EtOHと略記)、クロロホルム(和光純薬工業 CHCl3と略記)、ヘキサン(和光純薬工業 Hexaneと記載)、酢酸エチル(和光純薬工業 EtOAcと略記)、トリメチルシリルジアゾメタン(東京化成工業)、α-グルコシダーゼ(オリエンタル酵母工業)、p-nitrophenyl-α-D-glucopyranoside(和光純薬工業)、フェニルピルビン酸(東京化成工業)、p-トルエンスルホン酸(和光純薬工業 TsOHと略記)、カルバミン酸ベンジル(和光純薬工業 NH2-Cbzと略記)、1,2-イソプロピリデングリセロール(和光純薬工業)、t-ブチルクロロジフェニルシラン(和光純薬工業)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(和光純薬工業 WSCと略記)、無水酢酸(和光純薬工業)、オクタン酸無水物(和光純薬工業)、ステアリン酸無水物(東京化成工業)、オレイン酸無水物(東京化成工業)、リノール酸(和光純薬工業)、安息香酸無水物(東京化成工業)、ソルビン酸(和光純薬工業)、ピリジン(和光純薬工業)、ベンゼン(和光純薬工業)、イミダゾール(和光純薬工業)、トリフルオロ酢酸(和光純薬工業 TFAと略記)、テトラヒロドフラン(和光純薬工業 THFと略記)、酢酸(和光純薬工業 AcOHと略記)、N,N-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業 DMAPと略記)、トリエチルアミン(和光純薬工業 Et3Nと略記)、ジクロロメタン(和光純薬工業 CH2Cl2と略記)、テトラブチルアンモニウムフルオリド(東京化成工業 Bu4NFと略記)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(和光純薬工業 DCCと略記)を使用した。シリカゲル薄層クロマトグラフィー(Thin layer chromatography,TLCと略記)プレートはメルク社製No. 1.05715を使用した。13C- 及び1H-核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance, NMRと略記)はJEOL AL400核磁気共鳴装置で測定した。紫外(UVと略記)スペクトルは日本分光V-630紫外可視分光光度計で測定した。赤外(IRと略記)スペクトルは堀場FT-720赤外分光光度計で測定した。電子衝撃質量スペクトル(EIMSと略記)および化学イオン化質量スペクトル(CIMSと略記)は島津GCMS-QP2010 Plus質量分析計で測定した。大気圧化学イオン化飛行時間型質量スペクトル(APCITOFMSと略記)は島津LCMS-IT-TOF質量分析計で測定した。
【0078】
(参考例1)
<サイカチマメゾウムシ抽出物中の活性成分の調製>
1.材料
サイカチマメゾウムシ(Bruchidius dorsalis)の幼虫を用いた (図1)。
【0079】
2.活性脂質1の抽出と単離
2009年春にサイカチ浜で採集したサイカチ種子中から、サイカチマメゾウムシ(Bruchidius dorsalis) の幼虫3.4 g (126匹)を採取した。幼虫をMeOHに浸漬し、MeOH抽出物228.6 mgを得た。MeOH抽出物をCHCl3に転溶してクロロホルム可溶性画分128 mgを得た。クロロホルム可溶性画分 (127 mg)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hexane-EtOAc、EtOAc:0→100%)で分画し、活性脂質1(13 mg)を単離した。
【0080】
活性脂質1: UV (Hexane) 309 (ε 8630), 222 nm (ε3660)、IR (film) 3483, 3373 (N-H), 1743, 1720 (C=O), 1635 (C=C), 1597, 1494 (aromatic ring).
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δH0.86 (t, J = 7.0 Hz, Me x 2), 1.25, 1.61, 1.98, 2.32 (m, CH2), 4.20 (dd, J = 12.1 and 5.9 Hz, H-1), 4.34 (dd, J = 12.1 and 6.2 Hz, H-3), 4.35 (dd, J = 12.1 and 4.4 Hz, H-1), 4.43 (dd, J = 12.1 and 4.0 Hz, H-3), 5.37 (m, H-2), 6.43 (s, H-3’’’), 7.21 (t, J = 7.7 Hz, H-7’’’), 7.36 (t, J = 7.7 Hz, H-6’’’ and H-8’’’), 7.42 (t, J = 7.7 Hz, H-5’’’ and H-9’’’); 13C NMR (100 MHz, CDCl3) δC 173.0 (C), 172.6 (C), 165.1 (C), 135.8 (C), 131.5 (C), 130.1 (CH), 129.9 (CH), 129.6 (CH), 128.7 (CH), 128.2 (CH), 127.9 (CH), 127.7 (CH), 126.9 (CH), 109.6 (CH), 68.8 (CH), 63.5 (CH2), 62.1 (CH2), 34.3-22.8 (CH2), 14.3 (CH3). EIMS m/z 765, 739 (M+); CIMS m/z 766, 740 [M+H]+; HR-APCITOFMS m/z 766.5970 [M+H]+ (calcd for C48H80NO6: 766.5980), m/z 740.5818 [M+H]+ (calcd for C46H78NO6: 740.5824).
【0081】
3.脂肪酸組成分析
活性脂質1に1 Mの水酸化ナトリウムを加え、室温で一晩反応させケン化を行った。溶媒を除いて、1 Mの塩酸を加えて酸性にし、EtOAc-H2Oで溶媒分画を行った。EtOAc層は飽和食塩水を加え、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後ろ過し、濃縮乾固した。得られた残渣をMeOH (0.1 mL)に溶解し、0.6 Mトリメチルシリルジアゾメタンのヘキサン溶液を0.1 mL加えて室温で30分間反応させメチル化を行った。標品の脂肪酸メチルとのco-GLC分析およびGC-MS分析により、活性脂質1の脂肪酸組成を決定した。
【0082】
4.α-グルコシダーゼ阻害活性試験
175 μLのリン酸バッファー(K2HPO4とKH2PO4をそれぞれ純水に溶かした後混合し、0.1 M, pH6.8に調製)、サンプル溶液25 μL、α-グルコシダーゼ 25 μL (リン酸バッファーで250 mU/mLに調製)、を混合し室温で10分置き、p-nitrophenyl-α-D-glucopyranoside 25 μL (リン酸バッファーで10 mMに調製)を加えた。Total volume は250 μLであるため、サンプルの終濃度は原液濃度の10分の1となる。反応液を37 ℃で15分反応させた後、Na2CO3 50 μL (純水で1 Mに調製)を加え反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで415 nmの吸光度を測定した。ポジティブコントロールとして抗糖尿病薬であるアカルボース、ネガティブコントロールとしてエタノールを使用した。
【0083】
<サイカチマメゾウムシ抽出物中の活性成分の同定>
1.抽出
サイカチマメゾウムシの幼虫3.4 g (126匹)をMeOHに浸漬し、MeOH抽出物を得た。MeOH抽出物をクロロホルムに転溶してクロロホルム可溶性画分を得た。クロロホルム可溶性画分は、0.25 mg/mL でα-グルコシダーゼに対して30% の阻害活性を示した。
【0084】
2.クロロホルム可溶性画分のTLC分析
クロロホルム可溶性画分は、シリカゲルTLC(Hexane:EtOAc = 9:1)上で、UV吸収(254 nm)を示すスポットを与えた。UV吸収を有するこのTLCスポットは、ABTSラジカルのMeOH溶液を噴霧すると青緑色の背景中に白いスポットを呈したことから、ABTSラジカル消去活性を示すことがわかった。このABTSラジカル消去活性成分を活性脂質1とした。
活性脂質1のスポットは、ドラーゲンドルフ試薬を噴霧すると陰性であったが、ニンヒドリン試薬を噴霧すると青紫色の発色が見られた。これらのことから、活性脂質1は、共役系構造を有していることならびに、1級アミン構造を有していることが示唆された。
【0085】
3.活性脂質1の単離および構造決定
クロロホルム可溶性画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hexane-EtOAc、EtOAc: 0-100%)で分画し、活性脂質1を得た。活性脂質1は、UVスペクトルにおいて309 nm に吸収極大を示したことから、共役系を有することが確認された。IRスペクトルからは、N-H(3483, 3373 cm-1)、C=O(1743, 1720 cm-1)、C=C(1635 cm-1)ならびに芳香環(1597, 1494 cm-1)の存在が示唆された。
活性脂質1は、EIMSでm/z 765および739 に分子イオンピークを与えた。CIMSでは、図2に示すように、m/z 766および740に [M+H]+ イオンピークが観測された。これらの結果から、活性脂質1は、分子量765および739を主成分としていることがわかった。窒素則に基づいて、活性脂質1には窒素が奇数個含まれていることが示された。さらに高分解能APCITOFMSで観測された擬分子イオンm/z 766.5970 [M+H]+(calcd for C48H80NO6: 766.5980)およびm/z 740.5818 [M+H]+ (calcd for C46H78NO6: 740.5824)から、分子量765および739の成分は、それぞれC48H79NO6およびC46H77NO6の分子式を有することが示された。
【0086】
【表1】

【0087】
活性脂質1の1H NMR (CDCl3) および13C NMR (CDCl3) スペクトルからは、不飽和結合を含むアシル基、グリセリン構造およびベンゼン環の存在が示された。さらにHH COSY, HMQCおよびHMBCスペクトルの解析により、活性脂質1は、下記に示した部分構造を有していることがわかった(矢印はHMBC相関を示す)。
【0088】
【化12】

【0089】
さらに、2次元NMRデータの詳細な解析、上記の質量分析の結果および文献記載のデヒドロフェニルアラニンエチルエステルのNMRデータ(Tetrahedron, 2010, 66, 329-333)との比較等により、活性脂質1の全体構造を下記のように決定した。
【0090】
【化13】

【0091】
4.活性脂質1の構成脂肪酸分析
活性脂質1をケン化後、イオン交換樹脂(H+型)処理を行って遊離脂肪酸を得た。得られた遊離脂肪酸をトリメチルシリルジアゾメタンでメチル化した後、GLCおよびGC-MSにより脂肪酸組成分析を行った。その結果、活性脂質1の構成脂肪酸組成は、Table 2 に示すように、パルミチン酸(16:0)が22.5%、ステアリン酸(18:0)が1.6%、オレイン酸(18:1)が74.0%、リノール酸(18:2)が1.9%であることが分かった。
【0092】
【表2】

【0093】
以上のことから、活性脂質1の構造は、下記に示すように、オレイン酸(18:1;74.0%)、パルミチン酸(16:0;22.5%)、ステアリン酸(18:0;1.6%)およびリノール酸(18:2;1.9%)を構成成分にもつ1,2-ジアシルグリセロ-3-デヒドロフェニルアラニンエステルであることが明らかとなった。
【0094】
【化14】

【0095】
5.活性脂質1のα-グルコシダーゼ阻害活性試験
活性脂質1は、α-グルコシダーゼ阻害活性を示した(図3)。そのIC50値は、0.0085 mg/mLであった。抗糖尿病薬として使用されるアカルボースのIC50値が0.37 mg/mLであることから、活性脂質1の阻害活性は極めて強いものであることが明らかとなった。
【0096】
6.活性脂質1のABTSラジカル消去活性試験
活性脂質1は、ABTSラジカル消去活性を示した。そのSC50値は、8.5 μg/mLであった。
【0097】
(実施例1)
フェニルピルビン酸(1.7 g)のベンゼン溶液(100 mL)に、p-トルエンスルホン酸(TsOH)(20 mg)および1当量のカルバミン酸ベンジル(NH2-Cbz)を加えて脱水しながら4時間還流した。室温で一晩結晶化し、結晶を吸引ろ過により集めN-Cbz-デヒドロフェニルアラニン(N-Cbz-Δ-Phe)の白色結晶(1.5 g)を得た。また、1,2-イソプロピリデングリセロール(5 g)のCH2Cl2溶液(50 mL)を1当量のイミダゾール存在下、1当量のt-ブチルクロロジフェニルシランと反応させてTBDPS誘導体とした。反応混合物をCHCl3と水で分配し、CHCl3層を無水Na2SO4で乾燥後、MeOH(20 mL)およびTFA(5 mL)を加えて加水分解した。溶媒を減圧留去後、CHCl3と水で分配し、CHCl3層を無水Na2SO4で乾燥し、濃縮した。ヘキサンを加えて結晶化し、吸引ろ過により1-O-TBDPS-グリセロール(6.5 g)を白色粉末として得た。このうち0.6 gをCH2Cl2(5 mL)に溶解し、DMAP存在下、無水酢酸(2 mL)と反応させ、反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3)で精製して、1,2-ジアセチルグリセロールの3-O-TBDPS誘導体(400 mg)とした。これを無水THF(20 mL)に溶解後、0 ℃で酢酸(0.1 mL)および1M Bu4NFのTHF溶液(20 mL)を加えて2 h撹拌しTBDPS基を脱離させた。反応混合物を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc-hexane; 1:4)で精製して、1,2-ジアセチルグリセロール(120 mg)を得た。1,2-ジアセチルグリセロールのピリジン溶液(1 mL)を、DMAP(90 mg)、TsOH(80 mg)およびWSC(100 mg)存在下でN-Cbz-Δ-Phe(180 mg)と反応させて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc-hexane; 1:4)で精製し、1,2-ジアセチルグリセロ-3-デヒドロフェニルアラニンエステル(10 mg)を得た。
【0098】
(実施例2)
実施例1において、無水酢酸の代わりにオクタン酸無水物を用いたこと以外は同様の方法を用いて1,2-ジオクトイルグリセロ-3-デヒドロフェニルアラニンエステル(15 mg)を得た。
【0099】
(実施例3)
実施例1において、無水酢酸の代わりにステアリン酸無水物を用いたこと以外は同様の方法を用いて1,2-ジステアロイルグリセロ-3-デヒドロフェニルアラニンエステル(12 mg)を得た。
【0100】
(実施例4)
実施例1において、無水酢酸の代わりにオレイン酸無水物を用いたこと以外は同様の方法を用いて1,2-ジオレオイルグリセロ-3-デヒドロフェニルアラニンエステル(10 mg)を得た。
【0101】
(実施例5)
実施例1において、無水酢酸の代わりにDCCおよびリノール酸を用いたこと以外は同様の方法を用いて1,2-ジリノロイルグリセロ-3-デヒドロフェニルアラニンエステル(8 mg)を得た。
【0102】
(実施例6)
実施例4における合成中間体である1,2-ジオクトイルグリセロールの3-O-TBDPS誘導体(400 mg)の無水THF(20 mL)溶液に、0 ℃ではなく室温で酢酸(0.1 mL)および1M Bu4NFのTHF溶液(20 mL)を加えて2 h撹拌し、TBDPS基を脱離させるとともにアシル基を転位させた。反応混合物を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc-hexane; 1:4)で精製して、1,3-ジオクトイルグリセロール(100 mg)を得た。1,3-ジオクトイルグリセロールのピリジン溶液(1 mL)を、DMAP(90 mg)、TsOH(80 mg)およびWSC(100 mg)存在下でN-Cbz-Δ-Phe(180 mg)と反応させて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc-hexane; 1:4)で精製し、1,3-ジオクトイルグリセロ-3-デヒドロフェニルアラニンエステル(7 mg)を得た。
【0103】
(実施例7)
実施例6において、1,2-ジオクトイルグリセロールの3-O-TBDPS誘導体の代わりに、実施例5で調製した1,2-ジリノロイルグリセロールの3-O-TBDPS誘導体を用いたこと以外は同様の方法を用いて1,3-ジリノロイルグリセロ-3-デヒドロフェニルアラニンエステル(4 mg)を得た。
【0104】
(比較例1)
実施例1において、無水酢酸の代わりに安息香酸無水物を用いたこと以外は同様の方法を用いて1,2-ジベンゾイルグリセロ-3-デヒドロフェニルアラニンエステル(10 mg)を得た。
【0105】
(比較例2)
実施例5において、リノール酸の代わりにソルビン酸を用いたこと以外は同様の方法を用いて1,2-ジソルボイルグリセロ-3-デヒドロフェニルアラニンエステル(8 mg)を得た。
【0106】
(試験例1)
実施例及び比較例で得られた1,2-及び1,3-ジアシルグリセロ-3-デヒドロフェニルアラニンエステル類について、α-Glucosidase阻害活性試験を行った。
175 μLのリン酸バッファー(K2HPO4とKH2PO4をそれぞれ純水に溶かした後混合し、0.1 M, pH6.8に調製)、サンプル溶液25 μL、α-グルコシダーゼ 25 μL (リン酸バッファーで250 mU/mlに調製)を混合し室温で10分置き、p-nitrophenyl-α-D-glucopyranoside 25 μL (リン酸バッファーで10 mMに調製)を加えた(サンプルの終濃度は原液濃度の10分の1)。
反応液を37 ℃で15分反応させた後、Na2CO3 50 μL (純水で1 Mに調製)を加え反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで415 nmの吸光度を測定した。ネガティブコントロールとしてエタノールを使用した。
阻害活性がみられた化合物について、α-Glucosidase阻害率の濃度依存性を図4及び図5に示した。また、合成化合物の構造とそれぞれの化合物のα-Glucosidase阻害に対する50%阻害濃度(IC50)を表3に示した。
【0107】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

[式中、Aは、アミノ酸のアシル残基であり、Bは
【化2】

(式中、R及びRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立して脂肪酸のアシル残基である)]
で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
Aが、アミノ酸の2,3−デヒドロ体のアシル残基である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
アミノ酸がα-アミノ酸である請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
Aが
【化3】

[式中、Rは、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基又はハロゲン原子である]である請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
が水素原子である請求項4に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
及びRが、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ独立して炭素数2〜30の脂肪酸のアシル残基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
及びRが、炭素数2〜20の脂肪酸のアシル残基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
前記式(I)で表される化合物又はその塩が、サイカチマメゾウムシ由来である請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項9】
α-グルコシダーゼ阻害剤である請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項10】
請求項9に記載のα-グルコシダーゼ阻害剤を含む医薬。
【請求項11】
糖尿病、糖尿病性合併症及び/又は肥満の予防又は治療剤である請求項10に記載の医薬。
【請求項12】
請求項9に記載のα-グルコシダーゼ阻害剤を含む食品。
【請求項13】
食品が保健機能食品又はダイエタリーサプリメントである、請求項12に記載の食品。
【請求項14】
保健機能食品が特定保健用食品又は栄養機能食品である、請求項13に記載の食品。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−43885(P2013−43885A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185327(P2011−185327)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(503303466)学校法人関西文理総合学園 (26)
【Fターム(参考)】