説明

デファレンシャル懸架構造

【課題】車体側の騒音及び振動を十分に低減することができるデファレンシャル懸架構造を提供すること。
【解決手段】本発明によるデファレンシャル懸架構造は、サスペンション装置1を車体側に連結するサスペンションメンバ9にデファレンシャル10の車両前方側端部を連結する前方連結手段12、13と、サスペンションメンバ9にデファレンシャル10の車両後方側端部を連結する後方連結手段14を備え、デファレンシャル10とサスペンションメンバ9とにより構成される振動モードの上下系共振が非連成な剛体モードとなるように前方連結手段12、13のバネ定数と後方連結手段14のバネ定数の比を決定することを特徴とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車、トラック、バス等の車両の車体構造に適用されて好適なデファレンシャル懸架構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のエンジン等の駆動源の動力を左右の車輪に振り分けて伝達する装置として、デファレンシャルが用いられている。このデファレンシャルは通常サスペンション装置を車体側に連結するサスペンションメンバに懸架されている。このようなデファレンシャルをダイナミックダンパのように用いて、路面から車輪への入力がサスペンション装置及びサスペンションメンバを介して車体側へ伝達されて発生する、騒音及び振動を低減するものとして、例えば特許文献1に記載されているような車体とサスペンションメンバとデファレンシャルとの連結構造が提案されている。
【特許文献1】特開2003−267018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、このような従来技術に記載の連結構造においては、サスペンションメンバ及びデファレンシャルの振動モードのバウンス共振のみを低減することに着目してなされたものであるため、上下系共振を構成するバウンス共振、ピッチング共振、ロール共振が重ね合わされる実際の振動モードの上下系共振に対応させて、車体側の騒音及び振動を低減できるものでかった。このため、車体側の騒音及び振動を十分に低減できているとは言えないという問題が生じた。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑み、車体側の騒音及び振動を十分に低減することができるデファレンシャル懸架構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を解決するため、
本発明によるデファレンシャル懸架構造は、
サスペンション装置を車体側に連結するサスペンションメンバにデファレンシャルの車両前方側端部を連結する前方連結手段と、
前記サスペンションメンバに前記デファレンシャルの車両後方側端部を連結する後方連結手段を備え、
前記デファレンシャルと前記サスペンションメンバとにより構成される振動モードの上下系共振が非連成な剛体モードとなるように前記前方連結手段のバネ定数と前記後方連結手段のバネ定数の比を決定することを特徴とする。
【0006】
あるいは、上記の問題を解決するため、
本発明によるデファレンシャル懸架構造は、
サスペンション装置を車体側に連結するサスペンションメンバにデファレンシャルの車両前方側端部を連結する複数の前方連結手段と、
前記サスペンションメンバに前記デファレンシャルの車両後方側端部を連結する後方連結手段を備え、
前記デファレンシャルと前記サスペンションメンバとにより構成される振動モードの上下系共振が非連成な剛体モードとなるように前記複数の前方連結手段のバネ定数相互間の比を決定することを特徴としてもよい。
【0007】
なお、前記前方連結手段とは、典型的には、ゴム等の弾性部材により構成されるブッシュであり、前記後方連結手段とは、これも典型的には、ゴム等の弾性部材により構成されるブッシュである。また、上記いずれのデファレンシャル懸架構造も、前記サスペンションメンバが車体側に対してゴム等の弾性部材により構成されるブッシュを介して連結されていることが前提となる。
【0008】
また、振動モードの連成な剛体モードとは、上下系共振を構成するバウンス共振、ピッチング共振、ロール共振の少なくとも一の組み合わせが混在していることを言い、非連成な剛体モードになるとは、これらの組み合わせの内、少なくとも一の構成要素つまりは、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振のいずれかが除去された状態を示す。
【0009】
例えば、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振が混在している場合に、ロール共振又はピッチング共振を除去する場合である。いずれの場合においても、前記前方連結手段と前記後方連結手段のバネ定数の比の変更により、又は、前記複数の前方連結手段相互間のバネ定数の比の変更により、この除去を行うことができる。
【0010】
加えて、上述したような、前記前方連結手段と前記後方連結手段のバネ定数の比の変更により、又は、前記複数の前方連結手段相互間のバネ定数の比の変更により、デファレンシャルの上下系共振の節の位置を前記前方連結手段の位置に移動させて、前記前方連結手段を介して前記デファレンシャルから前記サスペンションメンバに伝達される伝達力を低減することができる。
【0011】
ここで、前記デファレンシャル懸架構造において、
前記サスペンションメンバの上下系共振を構成する、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振と、前記デファレンシャルの上下系共振を構成する、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振とを少なくとも一の組み合わせにおいて同一周波数で対応させるように、前記前方連結手段のバネ定数と、前記後方連結手段のバネ定数とを決定することを特徴とすることが好ましい。前記サスペンションメンバの上下系共振とは、前記サスペンション装置が連結されかつ、前記デファレンシャルが懸架されていない状態における上下系共振である。なお、上記組み合わせとは、バウンス共振同士、ピッチング共振同士、ロール共振同士の三つの組み合わせを言うものである。
【0012】
これによれば、上下系共振を構成する、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振を前記サスペンションメンバと前記デファレンシャルと前記サスペンション装置の振動の連成関係に基づく前記デファレンシャルのダイナミックダンパとしての作用により低減することができる。これにより、路面から車輪への入力が前記サスペンションメンバを介して車体側に伝達されることを抑制して、車体内部の騒音及び振動を低減することができる。
【0013】
加えて、前記デファレンシャル懸架構造において、
前記上下系共振を構成する、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振の全てを、前記サスペンションメンバと前記デファレンシャルとの間で対応させることができない場合に、実測又はシミュレーションにより求められる車体側の振動又は音圧感度に基づき、前記バウンス共振、前記ピッチング共振、前記ロール共振のいずれかの組み合わせを前記サスペンションメンバと前記デファレンシャルとの間で優先的に対応させることを特徴とすることが好ましい。
【0014】
これによれば、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振の全てを、前記サスペンションメンバと前記デファレンシャルとの間で対応させることができない場合においても、より優先順位の高い上下系共振の構成要素であるバウンス共振、ピッチング共振、ロール共振のいずれかを低減することができる。これにより、路面から車輪への入力が前記サスペンションメンバを介して車体側に伝達されることを抑制して、車体内部の騒音及び振動を低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車体側の騒音及び振動を十分に低減することができるデファレンシャル懸架構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明に係るデファレンシャル懸架構造の一実施形態が適用されるサスペンション装置及びサスペンションメンバを上方から視て示す模式図である。図2は、本発明に係るデファレンシャル懸架構造の一実施形態が適用されるサスペンション装置及びサスペンションメンバを左前方から視て示す模式図である。なお、図1中において、FRは車両前方を、Rは車幅方向右側を示し、図2中、UPは上方を、FRは車両前方を、Lは車幅方向左側を示す。
【0018】
図1及び図2に示すように、サスペンション装置1は、ナックル2と、ショックアブソーバ3と、図示しないスプリングと、車両前方に位置するトレーリングアーム4と、車両前方に位置するロアアーム5と、車両後方に位置するロアアーム6と、アッパーアーム7と、スタビライザ8とを備えて構成される。
【0019】
ナックル2はタイヤTを回転自在に支持するものであり、その下端部が、トレーリングアーム4の車両後方端部及びロアアーム5とロアアーム6の車幅方向外側端部に連結されると共に、その上端部が、アッパーアーム7の車幅方向外側端部に連結され、さらにその下端部をショックアブソーバ3のシリンダに連結されるものである。
【0020】
ショックアブソーバ3は、そのロッドの上端部がブッシュを介して車体側に直接連結され、そのシリンダの下端部がナックル2の下端部に連結されて、タイヤTからナックル2を介して伝達される路面からの振動によって、ナックル2が振動し続けることをその減衰力により防止するとともにナックル2を車体側に連結するものである。
【0021】
スプリングは、ロアアーム6の車幅方向中間部分に設けられたロアスプリングシートと、車体側に設けられた図示しないブラケットとの間に挟持されて、タイヤTからナックル2を介して車体側に伝達される振動を低減する。
【0022】
トレーリングアーム4は車両前後方向に延在して、その車両前後方向後端部がナックル2の下端部に対してブッシュを介してもしくは直接連結され、その車両前後方向前端部が、ブッシュを介して車体側に直接連結される。
【0023】
ロアアーム5は、車幅方向に延在して、その車幅方向外側端部をナックル2の下端部に対してブッシュを介して連結され、その車幅方向内側を、ブッシュを介して車体側のサスペンションメンバ9に揺動自在に連結されて、ナックル2と車体側とを連結するものである。
【0024】
同様に、ロアアーム6は、車幅方向に延在して、その車幅方向外側端部をナックル2の下端部に対してブッシュもしくはボールジョイントを介して連結され、その車幅方向内側を、ブッシュを介して車体側のサスペンションメンバ9に揺動自在に連結されて、ナックル2と車体側とを連結するものである。
【0025】
アッパーアーム7は、車幅方向に延在して、その車幅方向外側端部をナックル2の上端部に対してブッシュもしくはボールジョイントを介して連結され、その車幅方向内側を、ブッシュを介して車体側のサスペンションメンバ9に揺動自在に連結されて、ナックル2と車体側とを連結するものである。
【0026】
スタビライザ8は、車幅方向に延びるトーションバーにより形成され、その車幅方向中央部分は図示しないブッシュを介して車体側のサスペンションメンバ9に連結されて固定され、その車幅方向外側部分はロアアーム6の車幅方向中間部分に連結される。
【0027】
これにより、スタビライザ8は左右一対のサスペンション装置1を構成するナックル2を連結して、車両の旋回走行時に車体に遠心力が作用した場合に車体がロールすることにより、スタビライザ8は左右逆相の変位、つまりは旋回外側がバウンドし、旋回内側がリバウンドするナックル2の変位に基づいて捩られ、その捻り反力により旋回外側の車体を持ち上げて、車体のロールを抑制する機能を果たす。
【0028】
サスペンションメンバ9は図1及び図2に示すように車両前後方向に延びてその車両前後方向中間部分が車幅方向内側に湾曲する左右一対のサイドビーム9aと、車両前方側に位置して左右一対のサイドビーム9aを連結するフロントビーム9bと、車両後方側に位置して左右一対のサイドビーム9aを連結するリヤビーム9cとから構成され、いわゆる井桁形状のものである。
【0029】
このサスペンションメンバ9のサイドビーム9aの車両前方端部と車両後方端部はブッシュを介して車体側に連結されており、サイドビーム9aの車両前後方向中間部分には、ロアアーム6の車幅方向内側端部が連結され、サイドビーム9aの車両前後方向中間部分にはロアアーム5の車幅方向内側端部が連結される。
【0030】
加えて、サイドビーム9aの車両前後方向中間部分にはアッパーアーム7の車幅方向内側部が連結される。すなわち、タイヤTに路面から入力された力が、サスペンション装置1のナックル2及びロアアーム5、ロアアーム6、アッパーアーム7を介してサスペンションメンバ9に伝達され、さらにサスペンションメンバ9の、サイドビーム9aの車両前方端部及び車両後方端部のブッシュにおいて、サスペンションメンバ9から車体側へ伝達力が作用する。
【0031】
なおここでは図示しないが、デファレンシャルはフロントビーム9bの車幅方向中間部分の二箇所にフロントマウントブッシュを介して連結され、リヤビーム9cの車幅方向中間部分の一箇所にリヤマウントブッシュを介して連結される。このフロントマウントブッシュが前方連結手段を構成し、リヤマウントブッシュが後方連結手段を構成する。これらのことにより、デファレンシャルはサスペンションメンバ9に懸架される。
【0032】
このデファレンシャルのサスペンションメンバ9に対する連結すなわち懸架態様を以下に詳細に説明する。図3は、本発明に係わるデファレンシャル懸架構造を車両前方から視て示す模式図であり、図4は、本発明に係わるデファレンシャル懸架構造を車両前方かつ車両左側から視て示す模式図であり、図5は、本発明に係わるデファレンシャル懸架構造を上方から示す模式図である。
【0033】
なお、図3中、UPは上方を、Rは車両右側を示し、図4中、UPは上方を、Rは車両右側を、FRは車両前方を示し、図5中、Rは車両右側を、FRは車両前方を示す。
【0034】
図3〜図5に示すように、デファレンシャル10の車両前方側端部は、車幅方向に延びてその中間部分が下方に湾曲する形態のサポートメンバ11により支持されて、そのサポートメンバ11の車幅方向外側両端部は車両右側のフロントマウントブッシュ12及び車両左側のフロントマウントブッシュ13により、サスペンションメンバ9のフロントビーム9bに連結される。フロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13は上下方向に軸線を有する中空円筒状のゴムと内筒及び外筒により構成され、内筒がサポートメンバ11に一体に形成され、外筒がフロントビーム9bに一体に形成されるかあるいは溶接等により接合される。
【0035】
さらに、デファレンシャル10の車両後方側端部はリヤマウントブッシュ14を介してサスペンションメンバ9のリヤビーム9cに連結される。すなわち、デファレンシャル10はサスペンションメンバ9に対して、フロントマウントブッシュ12、フロントマウントブッシュ13、リヤマウントブッシュ14の三点で懸架される。このフロントマウントブッシュ12、13が前方連結手段を構成し、リヤマウントブッシュ14が後方連結手段を構成する。
【0036】
なお、リヤマウントブッシュ14は前後方向に軸線を有する中空円筒状のゴムと内筒及び外筒により構成され、この内筒はデファレンシャル10の筐体の一部をなし、外筒はリヤビーム9cに一体に形成されるかあるいは溶接等により接合される。後述するようにリヤマウントブッシュ14のバネ定数は小さめに設定されるので、リヤマウントブッシュ14のゴムにはスグリを適宜設ける構成とする。
【0037】
なお、図3〜図5中、15はプロペラシャフトを示し、プロペラシャフト15は車両前後方向に延在されて、図示しないエンジンからトランスミッションを介して伝達される駆動力をデファレンシャル10に伝達し、デファレンシャル10内部においてプロペラシャフト15の後端部に連結されたドライブピニオンとリングギヤにより車両前後方向を中心とした回転が車幅方向を中心とした回転に変換されるとともに減速されて、さらにサイドギヤとピニオンギヤの作用により、上述した駆動力は左右一対のドライブシャフト16に伝達される。
【0038】
なお、デファレンシャル10の作用により、車両が旋回走行あるいは凹凸路面を走行している場合に、左右のタイヤTのいずれかがスリップすることを防止するために、回転速度差が必要となる場合に、左右一対のドライブシャフト16に回転速度差を与えることができる。
【0039】
このように構成される本実施例に係わるデファレンシャル懸架構造において、デファレンシャル10とサスペンションメンバ9とにより構成される振動モードの上下系共振が非連成な剛体モードとなるようにフロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13のバネ定数とリヤマウントブッシュ14のバネ定数の比を決定する。
【0040】
ここで、振動モードの連成な剛体モードとは、上下系共振を構成するバウンス共振、ピッチング共振、ロール共振の少なくとも一の組み合わせが混在していることを言い、非連成な剛体モードになるとは、これらの組み合わせの内、少なくとも一の構成要素つまりは、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振のいずれかが除去された状態を示す。
【0041】
ここでは、フロントマウントブッシュ12、フロントマウントブッシュ13とリヤマウントブッシュ14のバネ定数の比を、4:1とする。これによりまず、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振が混在している上下系共振状態において、ロール共振を除去する。
【0042】
加えて、上述したように、フロントマウントブッシュ12、フロントマウントブッシュ13とリヤマウントブッシュ14のバネ定数の比を4:1とすることにより、デファレンシャル10の上下系共振の節の位置をフロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13の位置に移動させて、フロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13を介してデファレンシャル10からサスペンションメンバ9に伝達される伝達力を低減することができる。
【0043】
以下にこれらの作用効果について図を用いて説明する。図6は本発明に係わるデファレンシャル懸架構造の振動モードを有限要素法によりモデル化して車両の左前方から視て示す模式図である。また、図7は本発明に係わるデファレンシャル懸架構造の振動モードを有限要素法によりモデル化して車幅方向左側から視て示す模式図である。なお、図6及び図7中、UPは上方を、FRは車両前方を、Lは車両左側を示す。
【0044】
図6中Aはプロペラシャフト15のデファレンシャル10の筐体から突出する点とフロントマウントブッシュ12とを結ぶ辺であり、Bはフロントマウントブッシュ12と右側のドライブシャフト16がデファレンシャル10から右方に突出する点とを結ぶ辺であり、Cは右側のドライブシャフト16がデファレンシャル10から右方に突出する点とデファレンシャル10の右後端部を結ぶ辺である。
【0045】
さらに、Dはデファレンシャル10の右後端部とリヤマウントブッシュ14とを結ぶ線であり、Eはリヤマウントブッシュ14と左側のドライブシャフト16がデファレンシャル10から左方に突出する点とを結ぶ辺であり、Fは左側のドライブシャフト16がデファレンシャル10から左方に突出する点とフロントマウントブッシュ13とを結ぶ辺であり、Gはフロントマウントブッシュ13とプロペラシャフト15のデファレンシャル10の筐体から突出する点とを結ぶ辺である。すなわち、デファレンシャル10に対して外力が作用する点を質点とし、各質点を結ぶ線を振動モードとして表現している。
【0046】
図6に示す振動モードでは、デファレンシャル懸架構造を表現する各辺A、B、C、D、E、F、Gは上下系共振のない状態では、破線で示すような平面を構成しているが、上下系共振がある状態では各辺A、B、C、D、E、F、Gは実線で示すように、ピッチング共振とロール共振が混合された形態をなしている。なお、図7中二点鎖線は、上下系共振の状態にないデファレンシャル10の構造図を示す。
【0047】
そこで、本実施例のようにフロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13とリヤマウントブッシュ14のバネ定数の比を4:1とすることにより、車両前方に位置する二個のフロントマウントブッシュ12及び13の剛性を高くして、図6右側に示すように、まずロール共振を除去することができる。
【0048】
加えて、図7中実線で示すように、ロール共振除去前は各辺A、B、C、D、E、F、Gはロール共振により車両前後方向を中心として捻れが加わっていたところを、そのロール共振を除去してそれに起因する捻れを除去するとともに、ピッチング共振の節H1を、それよりも前方のH2に移動させて、フロントマウントブッシュ12とフロントマウントブッシュ13の位置に一致させることができる。
【0049】
これらのことにより、デファレンシャル10の上下系共振の節の位置H1をフロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13の位置H2に移動させて、フロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13を介してデファレンシャル10からサスペンションメンバ9に伝達される伝達力を低減することができる。
【0050】
図8は、本発明に係わるデファレンシャル懸架構造の振動モードを有限要素法によりモデル化して車幅方向左側から視て示す模式図である。なお、図8中、UPは上方を、FRは車両前方を示す。デファレンシャル10の上下系共振を構成するバウンス共振、ロール共振、ピッチング共振のそれぞれの振動モードは図8に示すとおりとなる。
【0051】
ここで、上述したようなデファレンシャル懸架構造において、サスペンションメンバ9の上下系共振を構成する、バウンス共振周波数fb、ピッチング共振周波数fp、ロール共振frと、デファレンシャル10の上下系共振を構成する、バウンス共振周波数Fb、ピッチング共振周波数Fp、ロール共振周波数Frとを少なくとも一の組み合わせにおいて同一周波数で対応させるように、フロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13のバネ定数と、リヤマウントブッシュ14のバネ定数とを決定する。
【0052】
ここで、サスペンションメンバ9の上下系共振とは、サスペンション装置1が連結されかつ、デファレンシャル10が懸架されていない状態における上下系共振である。また、デファレンシャル10の上下系共振とは、デファレンシャル10単体における上下系共振である。
【0053】
すなわち、サスペンションメンバ9の上下系共振を構成する、バウンス共振周波数fb、ピッチング共振周波数fp、ロール共振周波数frに対して、デファレンシャル10の上下系共振を構成するバウンス共振周波数Fb、ピッチング共振周波数Fp、ロール共振周波数Frが大きい場合には、フロントマウントブッシュ12、フロントマウントブッシュ13、リヤマウントブッシュ14のバネ定数をともに小さくする。
【0054】
これとは逆に、サスペンションメンバ9の上下系共振を構成する、バウンス共振周波数fb、ピッチング共振周波数fp、ロール共振周波数frに対して、デファレンシャル10の上下系共振を構成するバウンス共振周波数Fb、ピッチング共振周波数Fp、ロール共振周波数Frが小さい場合には、フロントマウントブッシュ12、フロントマウントブッシュ13、リヤマウントブッシュ14のバネ定数をともに大きくする。
【0055】
ここではフロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13のバネ定数を1180N/mmとし、リヤマウントブッシュ14のバネ定数を296N/mmとする。
【0056】
ここで上記ケースにおいては、上下系共振を構成する、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振の全てを、サスペンションメンバ9とデファレンシャル10との間で対応させることができないため、実測又はシミュレーションにより求められる車体側の振動又は音圧感度に基づき、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振のいずれかの組み合わせをサスペンションメンバ9とデファレンシャル10との間で優先的に対応させる。
【0057】
ここでは、バウンス共振とロール共振の組み合わせを優先的に対応させ、サスペンションメンバ9のバウンス共振周波数fb、ロール共振周波数frと、デファレンシャル10のバウンス共振周波数Fb、ロール共振周波数Frとをそれぞれ同一周波数にて対応させる。
【0058】
本実施例によれば、上下系共振を構成する、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振をサスペンションメンバ9とデファレンシャル10とサスペンション装置1の振動の連成関係に基づくデファレンシャル10のダイナミックダンパとしての作用により低減することができる。これにより、路面から車輪への入力がサスペンションメンバ9を介して車体側に伝達されることを抑制して、車体内部の騒音及び振動を低減することができる。
【0059】
加えて、本実施例によれば、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振の全てを、サスペンションメンバ9とデファレンシャル10との間で対応させることができない場合においても、より優先順位の高い上下系共振の構成要素であるバウンス共振、ロール共振のいずれかを低減することができる。これにより、路面から車輪への入力がサスペンションメンバ9を介して車体側に伝達されることを抑制して、車体内部の騒音及び振動を低減することができる。
【0060】
以下に本実施例による車体内部の騒音及び振動の低減効果を、図を用いて説明する。図9は本実施例のデファレンシャル懸架構造のフロントマウントブッシュ12、13における伝達力のCAE(Computer Aided Engineering)による計算結果を示す模式図であり、図10は本実施例のデファレンシャル懸架構造のリヤマウントブッシュ14における伝達力のCAEによる計算結果を示す模式図である。
【0061】
図9及び図10において、破線はデファレンシャル10をサスペンションメンバ9に懸架していない状態における伝達力を示し、実線は本実施例による伝達力を示すものとする。
図9及び図10に示すように、本実施例によれば、フロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13、リヤマウントブッシュ14のいずれにおいても伝達力を低減することができ、特に、フロントマウントブッシュ12、13における伝達力が低減する効果が高いことが分かる。これにより、車体内部の騒音及び振動を低減することができる。
【0062】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0063】
例えば、デファレンシャル10とサスペンションメンバ9とにより構成される振動モードの上下系共振が非連成な剛体モードとなるようにフロントマウントブッシュ12のバネ定数と、フロントマウントブッシュ13のバネ定数相互間の比を決定してもよい。
【0064】
これによっても、まず、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振が混在している上下系共振状態において、ロール共振を除去することができる。加えて、このようなフロントマウントブッシュ12とフロントマウントブッシュ13のバネ定数の比とすることにより、デファレンシャル10の上下系共振の節の位置をフロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13の位置に移動させて、フロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13を介してデファレンシャル10からサスペンションメンバ9に伝達される伝達力を低減することができる。
【0065】
なお、ここでも、サスペンションメンバ9の上下系共振を構成する、バウンス共振周波数fb、ピッチング共振周波数fp、ロール共振frと、デファレンシャル10の上下系共振を構成する、バウンス共振周波数Fb、ピッチング共振周波数Fp、ロール共振Frとを少なくとも一の組み合わせにおいて同一周波数で対応させるように、フロントマウントブッシュ12及びフロントマウントブッシュ13のバネ定数と、リヤマウントブッシュ14のバネ定数とを決定することが好ましい。
【0066】
又上述した実施例においては、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振が混在している上下系共振状態において、まずロール共振を除去したが、ピッチング共振をまず除去しても良い。
【0067】
さらに、上述した実施例においては、サスペンションメンバ9の上下系共振を構成する、バウンス共振周波数fb、ロール共振frと、デファレンシャル10の上下系共振を構成する、バウンス共振周波数Fb、ロール共振Frとを対応させたが、サスペンションメンバ9及びサスペンション装置1、デファレンシャル10の諸元によっては、他の組み合わせを対応させることも可能であり、可能であれば全てを対応させることが好ましい。
【0068】
また、上述した実施例に記載のサスペンション装置1は、フロントエンジンリヤドライブ車のリヤサスペンション装置を主に示しているが、4WD車のリヤサスペンションに適用することも可能であり、リヤエンジンフロントドライブ車のフロントサスペンション装置に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、車両に適用して好適なデファレンシャル懸架構造に関するものであり、車体側の騒音及び振動を十分に低減することができるデファレンシャル懸架構造を提供することができるので、乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用しても有益なものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係るデファレンシャル懸架構造の適用対象となるサスペンション装置とサスペンションメンバを上方から視て示す模式図である。
【図2】本発明に係るデファレンシャル懸架構造の適用対象となるサスペンション装置とサスペンションメンバを左前方から視て示す模式図である。
【図3】本発明に係わるデファレンシャル懸架構造の一実施形態を車両前方から視て示す模式図である。
【図4】本発明に係わるデファレンシャル懸架構造の一実施形態を車両前方かつ車両左側から視て示す模式図である。
【図5】本発明に係わるデファレンシャル懸架構造の一実施形態を上方から示す模式図である。
【図6】本発明に係わるデファレンシャル懸架構造の振動モードを有限要素法によりモデル化して車両の左前方から視て示す模式図である。
【図7】本発明に係わるデファレンシャル懸架構造の振動モードを有限要素法によりモデル化して車幅方向左側から視て示す模式図である。
【図8】本発明に係わるデファレンシャル懸架構造の振動モードを有限要素法によりモデル化して車幅方向左側から視て示す模式図である。
【図9】本発明に係わるデファレンシャル懸架構造の伝達力の低減効果を示す模式図である。
【図10】本発明に係わるデファレンシャル懸架構造の伝達力の低減効果を示す模式図である。
【符号の説明】
【0071】
1 サスペンション装置
2 ナックル
3 ショックアブソーバ
4 トレーリングアーム
5 ロアアーム
6 ロアアーム
7 アッパーアーム
8 スタビライザ
9 サスペンションメンバ
9a サイドビーム
9b フロントビーム
9c リヤビーム
10 デファレンシャル
11 サポートメンバ
12 フロントマウントブッシュ
13 フロントマウントブッシュ
14 リヤマウントブッシュ
15 プロペラシャフト
16 ドライブシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンション装置を車体側に連結するサスペンションメンバにデファレンシャルの車両前方側端部を連結する前方連結手段と、
前記サスペンションメンバに前記デファレンシャルの車両後方側端部を連結する後方連結手段を備え、
前記デファレンシャルと前記サスペンションメンバとにより構成される振動モードの上下系共振が非連成な剛体モードとなるように前記前方連結手段のバネ定数と前記後方連結手段のバネ定数の比を決定することを特徴とするデファレンシャル懸架構造。
【請求項2】
サスペンション装置を車体側に連結するサスペンションメンバにデファレンシャルの車両前方側端部を連結する複数の前方連結手段と、
前記サスペンションメンバに前記デファレンシャルの車両後方側端部を連結する後方連結手段を備え、
前記デファレンシャルと前記サスペンションメンバとにより構成される振動モードの上下系共振が非連成な剛体モードとなるように前記複数の前方連結手段のバネ定数相互間の比を決定することを特徴とするデファレンシャル懸架構造。
【請求項3】
前記サスペンションメンバの上下系共振を構成する、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振と、前記デファレンシャルの上下系共振を構成する、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振とを少なくとも一の組み合わせにおいて同一周波数で対応させるように、前記前方連結手段のバネ定数と、前記後方連結手段のバネ定数とを決定することを特徴とする請求項1又は2に記載のデファレンシャル懸架構造。
【請求項4】
前記上下系共振を構成する、バウンス共振、ピッチング共振、ロール共振の全てを、前記サスペンションメンバと前記デファレンシャルとの間で対応させることができない場合に、実測又はシミュレーションにより求められる車体側の振動又は音圧感度に基づき、前記バウンス共振、前記ピッチング共振、前記ロール共振のいずれかの組み合わせを前記サスペンションメンバと前記デファレンシャルとの間で優先的に対応させることを特徴とする請求項3に記載のデファレンシャル懸架構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−189264(P2008−189264A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28404(P2007−28404)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】