説明

デフレクター式ボールねじ

【課題】ボールがデフレクターによってスムーズに掬い上げられて騒音が低減され、かつ安価なデフレクター式ボールねじを提供することを課題とする。
【解決手段】デフレクター9の掬い上げ面19はボール8の掬い上げ方向と直角の断面がボール8の半径より多少大きい曲率半径を有する凹曲面とされている。そしてこの凹曲面はボール転動路3から排出されるボール8をねじ線の接線方向に掬い上げる形状とされている。デフレクター9は樹脂形成されたものであり、かつデフレクター9はデフレクター9に一体成形されたボルト13によってナット2に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デフレクター式ボールねじのデフレクターの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボールねじとしてチューブ循環式ボールねじが一般的に知られている。チューブ循環式ボールねじのチューブのボールの救い上げ部分は薄板板金で形成されたチューブの先端を舌片状に加工して形成されている。しかしながら、このチューブの掬い上げ部はボールが連続的に衝突するため、高負荷容量でかつ高速型のボールねじではボールも大きくかつ高速でタング部に衝突するため、掬い上げ部が強度的に不十分となるという問題があった。
【0003】
この部分の改善の先行技術としては、特開平4−228963号公報に示すデフレクター式ボールねじがあり、これは、循環チューブのタング部の代わりに図4及び図5に示すデフレクター(ボール転向装置50)を用いたボールねじである。このデフレクターは略円形の断面形状を有する棒(通常は鉄材)を鞍形状に曲げた本体52とねじ付き柄部分54とからなる。この本体52の両端部によってボールを掬い上げるため、チューブ循環式のチューブの掬い上げ部のように、高負荷容量でかつ高速型のボールねじの場合にあっても強度的に不十分になるという問題はない、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−228963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この先行技術には、デフレクターのボール掬い上げ面が平面であり、ボールねじのねじ線に沿った掬い上げになっていない。このため、ボールを掬い上げる時にボールの軌跡が不連続の軌跡となり、騒音の発生やボールの掬い上げ部への衝突によるボール表面の傷の発生、タング部の削りとられた微小破片のボール溝への噛み込み等の問題が有る。また、特許文献1に示されたデフレクターはデフレクターの中心に1ヶ所設けられた柄部分54に雄ねじをねじ切り加工によって設けており、コスト高になるという問題がある。本発明はこの様な問題を解消するためになされたものであり、ボールがデフレクターによってスムーズに掬い上げられて騒音が低減され、かつ安価なデフレクター式ボールねじを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するために、次のような構成からなる。すなわち、本発明に係るデフレクター式ボールねじは、外周面に螺旋状のボールねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸のボールねじ溝に対向する螺旋状のボールねじ溝を内周面に有するナットと該ナットのボールねじ溝とねじ軸のボールねじ溝で形成した螺旋状のボール転動路を転動するボールと、前記ナットに設けられ、前記多数のボールが前記ボール転動路を循環するように案内する循環部品とを備えたボールねじにおいて、前記循環部品は前記ボールを掬い上げるデフレクターと前記掬い上げられたボールを再び前記ボール転動路に戻すボール戻し部材とから形成され、前記ボール転動路のボールは前記デフレクターによって、前記ボール戻し部材に向ってねじ線に沿って掬い上げられ、前記デフレクターは樹脂成形されたものであり、かつ前記デフレクターは前記デフレクターにインサート成形されたボルトによって前記ナットに固定されていることを特徴とするデフレクター式ボールねじ。
【0007】
また本発明に係るデフレクター式ボールねじにおいては前記デフレクターのボール掬い上げ面と対向する前記ナットの透孔は前記ボール転動路のボールを前記ボール戻し部材に向ってねじ線に沿って掬い上げる凹曲面形状とされていることを特徴としている。
【0008】
更にまた本発明に係るデフレクター式ボールねじにおいては前記デフレクターのボール掬い上げ面がボール転動路のボールをボール戻し部材に向ってねじ線に沿って掬い上げる凹曲面形状とされていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボールがデフレクターによってスムーズに掬い上げられて騒音が低減され、かつ安価なデフレクター式ボールねじが得られる、という効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ボールねじのボール循環部の断面図を示す図である。
【図2】ボルトをインサート成形したデフレクターの図で(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図を示す図である。
【図3】特許文献1に記載されたボールねじを示す図である。
【図4】図3の2−2線に沿う断面図を示す図である。
【図5】特許文献1に記載されたデフレクターを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示されるように、ねじ軸1の外周にナット2が装着されている。ねじ軸1の外周面には螺旋状のボールねじ溝1aが形成されており、ナット2の内周面には、ねじ軸1のボールねじ溝1aに対向する螺旋状のボールねじ溝2aが形成されている。そして互いに対向するねじ軸1のボールねじ溝1aとナット2のボールねじ溝2aとで、螺旋状のボール転動路3が構成されている。
【0012】
ナット2の周壁には透孔4a,4bが形成され、これら透孔4a,4bがボール戻し部材5で接続されている。このボール戻し部材5は金属製のチューブを略U字形に折り曲げたものでナット2の外周部に配置され、その両端部が透孔4a,4b内に挿入されている。
【0013】
また、ナット2の内周面にはボール戻し部材5の両端部の位置にその両端部を合わせてデフレクター9が配置され、固定部材であるねじナット11によってナット2に固定されている。
【0014】
デフレクター9は長手方向と直角の断面が円形で全体が部分円弧状とされ、樹脂材料(例えばポリアセタール樹脂、強化材入りポリアミド樹脂等のエンジニアリングプラスチック)で成型されている。ボール転動路3内にあるボール8はデフレクター9の両端部によって救い上げられ、ボール戻し部材5へ導かれる。このボール戻し部材5によってボール8は再びボール転動路3に戻される。このデフレクター9とボール戻し部材5によって循環部品17が構成されている。
【0015】
そして透孔4a,4bと循環部品17とでボール転動路3の互いに離れた一部と他の一部とを接続して連通させる接続路6が構成されている。
【0016】
これによりボール転動路3が接続路6を介して無端状に連通し、この無端状に連通する通路がボール循環路7である。このボール循環路7内に、無端状に連続して配列するように鋼、セラミック等の材料で形成された多数のボール8が収容され、これらボール8がねじ軸1の回転時にボール循環路7内を転動して無限循環するようになっている。
【0017】
このボール8がボール循環路7内を無限循環することによって、ナット2がねじ軸1に対してねじ軸1に沿って相対移動することができる。
【0018】
図2(a)、(b)、(c)に示すように、樹脂成形されたデフレクター9には2本のボルト13がインサート成形されていて、このボルト13に対応するナット2の位置にはボルト13を挿通するための取り付け穴15が貫通している。ボルト13は規格品を用いるため品質が安定していて、安価である。ナット2に形成された取り付け穴15に2本のボルト13を挿通し、2個のねじナット11を締め付けることでデフレクター9はナット2に固定される。また、本実施例ではインサート成形されたボルト13は2本であるが、これに限らずボルト13が2本以上であっても構わない。また、軽負荷用途のボールねじであればボルト13は1本であっても良い。
【0019】
特許文献1に示されたデフレクター式ボールねじのデフレクター(ボール転向装置50)はデフレクターの中心に1箇所設けられた柄部分54の雄ねじをねじ切り加工によって設けている。それに対して本発明のデフレクター式ボールねじにおいては、デフレクター9にボルト13が一体で樹脂成形されている。したがって特許文献1に示されたデフレクターのようにねじ切り加工することが不要であり、安価となる。
【0020】
デフレクターの掬い上げ面19は図2の(a)に示す様にボール8の掬い上げ方向と直角の断面がボール8の半径より多少大きい曲率半径を有する凹曲面とされている。そしてこの凹曲面はボール転動路3から排出されるボール8をねじ線の接線方向に掬い上げる形状とされている。
【0021】
またデフレクターの掬い上げ面19と対向するナット2の透孔4a、4b部分はデフレクターの掬い上げ面19と同様にボール8の掬い上げ方向と直角の断面がボール8の半径より多少大きい曲率半径を有する凹曲面とされている。そしてこの凹曲面はボール転動路3から排出されるボール8をねじ線の接線方向に掬い上げる形状とされている。
【0022】
ここでねじ線とはボール転動路内を移動する螺旋状のボールの中心軌跡をいう。
ねじ線の接線方向とは具体的には、図1において転動路内にあるボール8のピッチ円直径25の接線方向でかつ図2の(b)に示す様にねじ軸1のボールねじ溝1aのリード角θ分傾いた方向である。
【0023】
本実施の形態ではデフレクターの掬い上げ面19とこの掬い上げ面19と対向するナット2の透孔4a、4bの面をボール8の掬い上げ方向と直角の断面がボール8の半径より多少大きい曲率半径を有する凹曲面とし、かつこの凹曲面をボール転動路3から排出されるボール8をねじ線の接線方向に掬い上げる形状とした。しかしながら、ボール8をねじ線の接線方向に掬い上げる凹曲面は少なくともナット2の透孔4a、4bに設けられていれば良く、デフレクターの掬い上げ面19はボール8をねじ線の接線方向に掬い上げる平面であっても良い。
【0024】
この様にデフレクターによってボール転動路3から排出されるボールがねじ線の接線方向に掬い上げられるのでボールがスムーズに掬い上げられて騒音が低減される。また、デフレクター9は樹脂成形品であり振動吸収性が高いため、ねじ線の接線方向に救い上げられるのと相まって更に騒音が低減される。
【0025】
さらに、デフレクター9には複数のボルト13がインサート成形されており、複数のボルト13によってナット2に固定される場合には、ボールがねじ線にそってスムーズに掬い上げられるのと相まって、デフレクターに振動が発生せずより一層固定ボルトが緩むことが防止される。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、循環方式としてデフレクターを備えたボールねじとして、各種機械装置に広く適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 ねじ軸
1a ボールねじ溝(ねじ軸側)
2 ナット
2a ボールねじ溝(ナット側)
3 ボール転動路
5 ボール戻し部材
8 ボール
9 デフレクター
10 ボールねじ
11 ねじナット
13 ボルト
17 循環部品
19 掬い上げ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のボールねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸のボールねじ溝に対向する螺旋状のボールねじ溝を内周面に有するナットと該ナットのボールねじ溝とねじ軸のボールねじ溝で形成した螺旋状のボール転動路を転動するボールと、前記ナットに設けられ、前記多数のボールが前記ボール転動路を循環するように案内する循環部品とを備えたボールねじにおいて、前記循環部品は前記ボールを掬い上げるデフレクターと前記掬い上げられたボールを再び前記ボール転動路に戻すボール戻し部材とから形成され、前記ボール転動路のボールは前記デフレクターによって前記ボール戻し部材に向ってねじ線に沿って掬い上げられ、前記デフレクターは樹脂成形されたものであり、かつ前記デフレクターは前記デフレクターと一体に成形されたボルトによって前記ナットに固定されていることを特徴とするデフレクター式ボールねじ。
【請求項2】
前記デフレクターのボール掬い上げ面と対向する前記ナットの透孔は前記ボール転動路のボールを前記ボール戻し部材に向ってねじ線に沿って掬い上げる凹曲面形状とされていることを特徴とする請求項1に記載のデフレクター式ボールねじ。
【請求項3】
前記デフレクターのボール掬い上げ面はボール転動路のボールをボール戻し部材に向ってねじ線に沿って掬い上げる凹曲面形状とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載のデフレクター式ボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−132538(P2012−132538A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287150(P2010−287150)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】