説明

デポジット検出方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置

【課題】簡易な構成で、既存の装置にも適用できるデポジット検出方法を提供する。
【解決手段】コモンレール圧が低圧域の一定値に設定されて用いられるコモンレール式燃料噴制御装置に用いられる電子制御ユニット4は、一定値のコモンレール圧での使用経過時間が所定時間を超え、かつ、装置使用開始時における指示噴射量を基準とした指示噴射量の変化量が所定の変化量を超えたか否かを判定し(S102,S104)、かかる条件が満たされたと判定された場合にデポジットの発生と判定し(S106)、指示噴射量の変化量が低下するまで、又は、所定時間の間、目標レール圧を上げでデポジットの除去を行う(S110,S114)よう構成されたものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁の噴孔近傍に付着するいわゆるデポジットの検出方法に係り、特に、低レール圧での使用に起因して発生するデポジットの検出の簡素化等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射弁の噴孔近傍に付着する不完全燃焼物等の堆積物、いわゆるデポジットの発生原因には、様々な要因が考えられるが、例えば、コモンレール式燃料噴射制御装置を用いたものにあっては、特に、低レール圧で長時間使用されると、燃料噴射弁の噴孔にカーボンが付着することが経験的に知られている。
従来から、そのようなデポジットに対して、その発生検出方法や、除去方法等が種々提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
例えば、特許文献1においては、燃料噴射弁の先端部の抵抗値を計測して、デポジットの発生の有無を検出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−183469号公報(第6−21頁、図1−図22)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法にあっては、計測のための新たな回路や、計測値をデジタル信号に変換する等の新たな回路の追加や、回路追加に伴う配線の敷設等が必要となり、装置の高価格化を招くだけでなく、既存の装置への簡易にが適しないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、簡易な構成で、既存の装置にも適用できるデポジット検出方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るデポジット検出方法は、
コモンレール圧が低圧域の一定値に設定されて用いられるコモンレール式燃料噴射制御装置における燃料噴射弁へのデポジットの付着を検出するデポジット検出方法であって、
前記一定値のコモンレール圧での使用経過時間が所定時間を超え、かつ、指示噴射量が所定の変化量を超えた場合に、デポジットの発生と判定するよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るコモンレール式燃料噴射制御装置は、
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、電子制御ユニットにより前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて、低圧域の一定値となるよう制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記一定値のコモンレール圧での使用経過時間が所定時間を超え、かつ、指示噴射量が所定の変化量を超えたか否かを判定し、前記2つの条件が満たされたと判定された場合にデポジットの発生と判定するよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来と異なり、新たな回路等の追加を要することなく、既存の装置においても、ソフトウェアの追加により、簡易にデポジットの検出が可能となり、コモンレール式燃料噴射制御装置の動作の信頼性、安定性の向上を図ることができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態におけるデポジット検出方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例を示す構成図である。
【図2】図1に示されたコモンレール式燃料噴射制御装置において実行されるデポジット検出の処理手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図3】コモンレール式燃料噴射制御装置の使用経過時間と指示噴射量の変化例を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図3を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、図1に示されたコモンレール式燃料噴射制御装置について説明する。
本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置は、例えば、冷凍機や発電機の駆動用のエンジンに用いられるものが前提である。
かかるコモンレール式燃料噴射制御装置は、高圧燃料の圧送を行う高圧ポンプ装置50と、この高圧ポンプ装置50により圧送された高圧燃料を蓄えるコモンレール1と、このコモンレール1から供給された高圧燃料をエンジン3の気筒へ噴射供給する複数の燃料噴射弁2−1〜2−nと、燃料噴射制御処理や後述するレール圧制御処理などを実行する電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)4を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
このような構成自体は、従来から良く知られているこの種の燃料噴射制御装置の基本的な構成と同一のものである。
【0010】
高圧ポンプ装置50は、供給ポンプ5と、調量弁6と、高圧ポンプ7とを主たる構成要素として構成されてなる公知・周知の構成を有してなるものである。
かかる構成において、燃料タンク9の燃料は、供給ポンプ5により汲み上げられ、調量弁6を介して高圧ポンプ7へ供給されるようになっている。調量弁6には、電磁式比例制御弁が用いられ、その通電量が電子制御ユニット4に制御されることで、高圧ポンプ7への供給燃料の流量、換言すれば、高圧ポンプ7の吐出量が調整されるものとなっている。
【0011】
なお、供給ポンプ5の出力側と燃料タンク9との間には、戻し弁8が設けられており、供給ポンプ5の出力側の余剰燃料を燃料タンク9へ戻すことができるようになっている。
また、供給ポンプ5は、高圧ポンプ装置50の上流側に高圧ポンプ装置50と別体に設けるようにしても、また、燃料タンク9内に設けるようにしても良いものである。
燃料噴射弁2−1〜2−nは、エンジン3の気筒毎に設けられており、それぞれコモンレール1から高圧燃料の供給を受け、電子制御ユニット4による噴射制御によって燃料噴射を行うようになっている。
【0012】
本発明のコモンレール1には、余剰高圧燃料をタンク9へ戻すリターン通路(図示せず)に、圧力制御弁12が設けられており、調量弁6と共にレール圧の制御に用いられるようになっている。
【0013】
電子制御ユニット4は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、燃料噴射弁2−1〜2−nを駆動するための駆動回路(図示せず)や、調量弁6や圧力制御弁12への通電を行うための通電回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる電子制御ユニット4には、コモンレール1の圧力を検出する圧力センサ11の検出信号が入力される他、エンジン回転数や燃料温度などの各種の検出信号が、エンジン3の動作制御や燃料噴射制御に供するために入力されるようになっている。
なお、コモンレール式燃料噴射制御装置の構成は、上述の例に限定される必要はなく、例えば、調量弁6のみで、圧力制御弁12を備えない構成であっても良い。
【0014】
図2には、かかる電子制御ユニット4によって実行されるデポジット検出処理の手順を示すサブルーチンフローチャートが示されており、以下、同図を参照しつつ本発明の実施の形態におけるデポジット検出処理について説明する。
電子制御ユニット4による処理が開始されると、最初に、圧力センサ11により検出された実際のレール圧が基準圧力Prefを下回り、且つ、装置の使用経過時間が基準時間Trefを越えているか否かが判定される(図2のステップS102参照)。
【0015】
ここで、本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置は、先に述べたように、レール圧が比較的低圧域の一定圧で、一定エンジン回転数で運転される発電機や冷凍機などに適用されるもの、換言すれば、いわゆるアイソクロナス制御で運転される装置を前提としており、本発明の実施の形態におけるデポジット検出方法は、そのような比較的低いレール圧で長期間使用される場合に生ずるデポジットを検出することを目的としていることから、基準圧力Prefは、装置の運転時に一定に設定されるレール圧、又は、そのレール圧より若干高いレール圧に設定するのが好適である。なお、具体的なレール圧は、個々の装置の具体的な諸条件を考慮して定められるべきものであり、特定の値に限定されるものではない。
なお、車両等のコモンレール式燃料噴射制御装置において、レール圧は数百MPaまでに及ぶものもあるが、本発明の実施の形態において前提としている発電機や冷凍機などは、コモンレール圧が比較的低圧域、すなわち、具体的には、大凡100MPaを下回る領域で用いられるものが対象である。
【0016】
コモンレール式燃焼噴射制御装置を備えた発電機や冷凍機においては、使用開始からの経過時間がある値を超えると、それまで徐々に堆積したデポジット(不完全燃焼物等の堆積物)のために、例えば、エンジン回転数と所望のレール圧等から演算算出される指示噴射量Qが、図3に示されるように徐々に増加してゆくことが知られている。
基準時間Trefは、このような使用経過時間と指示噴射量Qとの相関関係において、指示噴射量Qが漸増を開始する付近の時間に設定されるのが好適である。具体的には、個々の装置の具体的な諸条件を考慮して定められるべきものである。
なお、図示されないメインルーチンにおいては、良く知られているソフトウェアによる計時処理によって、装置の使用開始時点からの使用経過時間が計数され、適宜な記憶領域に随時記憶、更新されるようになっているものとする。
【0017】
しかして、ステップS102において、上述の2つの条件が成立したと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS104の処理へ進む一方、上述の2つの条件は成立していないと判定された場合(NOの場合)は、以後の一連の処理を実行する状態ではないとして処理が終了され、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
ステップS104においては、エンジン1の回転数変化量が基準変化量Nrefを下回っており、且つ、指示噴射量について以下に説明する条件が成立しているか否かが判定されることとなる。
【0018】
すなわち、指示噴射量については、Qreq(act)−Qreq(typ)>Qrefが成立しているか否かが判定される。
ここで、Qreq(act)は現時点における指示噴射量、Qreq(typ)は装置の使用開始時点における指示噴射量、Qrefは基準指示噴射量である。
Qreq(typ)は、装置の使用開始時点において指示噴射量が電子制御ユニット4によるレール圧制御処理の中で演算算出された際に、適宜な記憶領域に記憶されるようになっているものとする。
基準指示噴射量Qrefは、デポジットが発生していると判定できるQreq(act)−Qreq(typ)の差であり、具体的な値は、個々の装置の具体的な諸条件を考慮して定められるべきものであり、特定の値に限定されるものではない。
【0019】
一方、回転数変化量が基準変化量Nrefを下回っているか否かの判定は、エンジン1が安定した回転状態にあるか否かを判定するためのものである。本発明の実施の形態における装置は、先に述べたように冷凍機や発電機を想定しているが、これらは、一定の回転数で運転されるのが通常であり、安定した運転状態にある場合、回転数変化量は、装置に応じて設定される基準変化量Nrefを下回るのが本来であり、ステップS104における判定は、かかる観点から行われるものである。
【0020】
そして、ステップS104おいて、上述の2つの条件が成立していると判定された場合(YESの場合)には、デポジット発生と判定され(図2のS106参照)、次述するステップS108の処理へ進む一方、上述の2つの条件は成立していないと判定された場合(NOの場合)には、デポジットは発生していないとして、処理が終了され、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
ステップS108においては、デポジットの除去を行うべく目標レール圧の引き上げが行われることとなる。なお、目標レール圧の引き上げの大きさは、個々の装置の具体的な諸条件により最適値が異なるものであるので、装置の規模等に応じて設定するのが好適である。
【0021】
次いで、先のステップS104で説明したと同一の2つの条件が成立するか否かが再び判定されることとなる(図2のステップS110参照)。
そして、2つの条件が成立したと判定された場合(YESの場合)には、デポジットが除去されたとして、目標レール圧が本来のレール圧に戻され(図2のステップS112参照)、一連の処理が終了されて、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0022】
一方、ステップS110において、2つの条件が成立していないと判定された場合(NOの場合)には、未だデポジットが除去されていないとして、最初の目標レール圧の引き上げ(図2のステップS106参照)からの経過時間が所定時間を経過したか否かが判定され(図2のステップS114参照)、未だ所定時間を経過していないと判定された場合(YESの場合)には、先のステップS106の処理へ進み、目標レール圧が引き上げられた状態が維持され、以後、ステップS110以降の処理が繰り返される。
また、ステップS114において、所定時間が経過したと判定された場合(YESの場合)には、デポジットの除去が達成されていないとしてエンジン停止とされ(図2のステップS116参照)、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
簡易な構成で、既存の装置にも適用できるデポジット検出が所望されるコモンレール式燃料噴射制御装置に適する。
【符号の説明】
【0024】
1…コモンレール
2…燃料噴射弁
3…エンジン
4…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コモンレール圧が低圧域の一定値に設定されて用いられるコモンレール式燃料噴射制御装置における燃料噴射弁へのデポジットの付着を検出する方法であって、
前記一定値のコモンレール圧での使用経過時間が所定時間を超え、かつ、指示噴射量が所定の変化量を超えた場合に、デポジットの発生と判定することを特徴とするデポジット検出方法。
【請求項2】
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、電子制御ユニットにより前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて、低圧域の一定値となるよう制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記一定値のコモンレール圧での使用経過時間が所定時間を超え、かつ、指示噴射量が所定の変化量を超えたか否かを判定し、前記2つの条件が満たされたと判定された場合にデポジットの発生と判定するよう構成されてなることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−96335(P2013−96335A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241151(P2011−241151)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)