説明

デュアルアクティブフィルムエレクトロクロミック表示装置

本発明のデュアル活性エレクトロクロミック装置は、エレクトロクロミック材料を含む少なくとも2つの作用電極と少なくとも1つの対極との組み合わせであり、それぞれの作用電極と対極との間の電位が独立して供給される。1つ以下の電極が反射性である。この装置の色は、エレクトロクロミック材料の加法混色によって生じ、独立して印加される電位によって変化する。エレクトロクロミック材料は、フィルムとして基材上に堆積して作用電極を形成するエレクトロクロミックポリマーである。本発明のエレクトロクロミック装置はディスプレイやウィンドウの用途に使用されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エレクトロクロミズムは、電気化学的酸化反応または還元反応によって引き起こされる材料の色の変化である。エレクトロクロミック材料には着色状態と非着色状態とが繰り返し切り替えられるものもあれば、複数の着色状態を示すものもある。共役電気活性ポリマーは、利用可能な色が電磁スペクトルの全可視領域にわたるエレクトロクロミック材料の一種である。更に、共役電気活性ポリマーは、スペクトルの可視領域の外側の紫外線領域、近赤外線領域、中遠赤外線領域およびマイクロ波領域にもエレクトロクロミック活性を有する。共役電気活性ポリマーにおけるエレクトロクロミズムは、ニュートラルポリマーにおける電子遷移および酸化または還元中に生じる電子遷移に起因する。ポリマーのニュートラル状態の色は、価電子帯を構築する最高被占分子軌道(HOMO)と伝導帯をつくる最低空分子軌道(LUMO)とのエネルギー差によって決定され、HOMOレベルとLUMOレベルとの間の遷移のエネルギー差はバンドギャップである。多くの共役電気活性ポリマーについて、バンドギャップは可視領域にあり、ニュートラル状態で高度に着色したポリマーを生じている。酸化すると(p−ドーピング)、HOMOからの電子の除去によって低エネルギー電子遷移が生じる。p−ドーピングにおける電子遷移は、しばしば赤外線およびそれよりも低エネルギーに広がる長波長において起こる。ニュートラル着色状態および透過性(可視光に対する)の高い酸化状態を有するポリマーは、カソード着色ポリマー(cathodically coloring polymer)である。他方、紫外線(UV)スペクトルに現れるバンドギャップエネルギーを有するエレクトロクロミックポリマーの一種が存在する。これらのポリマーは、基本的にニュートラル状態で無色であり、酸化すると着色し、低エネルギーミッドギャップ状態(midgap state)がスペクトルの可視領域に電子遷移が起こることを可能にする。これらのポリマーをアノード着色ポリマー(anodically coloring polymer)という。
【0002】
共役電気活性ポリマーを使用する2種類の一般的なエレクトロクロミック表示装置(エレクトロクロミック装置)を吸収/透過型表示装置および吸収/反射型表示装置という。吸収/透過型表示装置は、関心のある波長、典型的には可視光に対して透過性の2つの電極、作用電極と対極と、を含む。切り替え中の電荷バランスおよびこの装置によって示されるカラーコントラストの有効な制御を維持するために、電気活性ポリマーをそれぞれの電極において被覆する。エレクトロクロミックウィンドウに必要とされるような着色状態と非着色状態との間を切り替わる装置に関しては、一方の電極にカソード着色ポリマーを被覆し、他方の電極にアノード着色ポリマーを被覆し、電極の間に電解質層を配置する。この装置のバイアスの切り替え中に、ポリマーはそれぞれの着色状態と非着色状態との間の両方の切り替えで相補的な性質を示し、生じる色は個々のポリマーによって示される色の足し合わせである。アノード着色ポリマーとカソード着色ポリマーとが使用されるので、光学コントラストが高くなりうるが、足し合わされると視覚的に好ましい色や市販のディスプレイまたはウィンドウの用途に必要とされるだけの有用性がある色を生じることが知られているポリマー対がごくわずかしか存在しないので、利用可能な色の種類は幾分限られている。一般的に、あまり飽和していない、よりパステルのようなまたは「アーストーン」の色が入手可能である。
【0003】
吸収/反射型装置もまた電極(作用電極と対極)を被覆する2種類の電気活性ポリマーを含む。しかしながら、電極材料は、一般的に、相対配置が一方の活性層のみが外側を向く電極として見られることを可能にする構成で配置される。一般的な装置の構成では、活性作用電極は、関心のあるエレクトロクロミックポリマーがキャストされている金被覆多孔性膜である。金属電極は、切り替え中に電解質によって提供される対イオンの拡散がポリマーフィルム同士の間で均等に起こることを可能にするために必然的に多孔性である。多孔性作用電極の後ろに別の電気活性ポリマー相が被覆されている対極が存在する。この第2ポリマー層は装置に光学特性を全く加えないが、電荷を釣り合わせる層(charge balancing layer)の役割を果たす。カソード着色ポリマーを作用反射電極の一部として使用すると、この装置は負電圧を用いてバイアスされる時に着色し、この色はニュートラルエレクトロクロミックポリマーの色である。この装置を通る電圧が十分に正であってポリマーを酸化する場合、このポリマーは透明になり、下にある反射電極を露出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
共役導電性ポリマーは、透過状態に加えて、大きなカラーパレット(large color palette)を提供するが、このポリマーを組み込むエレクトロクロミック装置において示される色は、概して、2つの状態に限られ、幅広い色の系統的制御は今のところ可能でない。吸収/透過型エレクトロクロミック装置におけるカソード着色ポリマーとアノード着色ポリマーとの同時の切り替えが加法混色の組み合わせで起こることを考慮すると、目下示されている色の多くは表示装置に特に好ましくない。更に、現在の装置は、一般的に、複数の着色状態と透過状態との切り替えを可能にしない。そのような色の制御は、1種類の電気活性ポリマーのみの色が利用可能な反射型装置にも有用性が低い。従って、様々な色を示すことができる透過型装置や反射型装置、特に所望の用途のためにデザインすることができる色の組み合わせが利用可能な透過型装置や反射型装置へのニーズが依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様は、ディスプレイ中の多数のピクセルの単一ピクセルの役割を果たすことができても、単一装置、例えばエレクトロクロミックウィンドウ、であってもよいエレクトロクロミック装置を対象とする。この装置は、第1透明材料と第1エレクトロクロミック材料とを有する第1作用電極、上記第1透明材料と同一であっても異なっていてもよい第2材料と少なくとも1種類の第2エレクトロクロミック材料とである第2作用電極、関心のある波長領域に光学遷移をほとんど示さないか全く示さない電気活性材料を有する対極、並びに対極と作用電極との間に分散され、対極および作用電極と接触している少なくとも1種類の電解質を含む。電位は、第1作用電極とある対極との間および第2作用電極とある作用電極との間に独立して印加される。この装置は、2つの作用電極を通じて見られる色の組み合わせに依存してある色を示し、2つの作用電極の色は独立して印加される電位に依存する。このようにして、本発明の装置はディスプレイ中で単に作用電極の電位を互いに独立して制御することによって様々な色を提供することができる。
【0006】
本発明のある態様では、1以上の追加の作用電極および1以上の対極がエレクトロクロミック装置に含まれうる。3つの作用電極を有していても、3つの作用電極とそれが対をなしている対極との間に特定の電位を印加すると、色の組み合わせによって可視光エレクトロクロミック装置においてフィルカラーパレット(fill color palette)を得ることが可能である。
【0007】
ある態様では、対極は透明であり、片側が導電性であっても両側が導電性であってもよく、作用電極の間にサンドイッチされている。この対極は、材料を含む単一の電解質を使用して必要とされる電気接続が得られるように材料を含む単一の電解質が対極の中の空間およびこの電極の両側に存在することを可能にするように多孔性であっても分割されていてもよい。対極は、関心のある波長において光学変化をほとんど示さないか全く示さない電気活性材料で被覆されている導電性材料であってもよく、対極の両側の少なくとも一部にある、色を切り替えない導電性ポリマーであってもよい。
【0008】
本発明の別の態様では、この装置は、反射性であるか、または透明であり、隣接するかまたは付着した反射性材料に接触する、対極に対向する表面を有する第2作用電極を有する。この態様では、第2作用電極のエレクトロクロミック材料は、対極を向く面に堆積されており、対極は透明であり、作用電極の間にサンドイッチされている。上記反射は鏡面性であっても拡散性であってもよい。
【0009】
別の態様では、第2作用電極は第1作用電極と対極との間にサンドイッチされており、この第2作用電極は、単一電解質含有材料を使用して必要とされる電気接続が得られるように、電解質含有材料が第2作用電極の中の空間およびこの電極の両側に存在するように多孔性であるかまたは分割されている。第2作用電極は、表面に配置されるエレクトロクロミック材料を有し、透明であっても反射面を有していてもよく、エレクトロクロミック材料は第1作用電極の方向を向く。この場合も、反射面は、鏡面反射性であっても拡散反射性であってもよい。
【0010】
装置の構成に使用される材料に依存して、例えば電解質含有材料が流体であるかまたは構造のいずれかの材料が作業環境から保護されなければならない場合、本発明の装置は、封じ込め手段を要求しうる。本発明の装置は、独立して、それぞれの作用電極と対極との間に可変電位を提供する手段に接続される。本発明の装置を2つの作用電極に関して記載したが、本発明の装置は、第3またはそれよりも多くの作用電極を含んでいてもよく、電位は、独立して、提供される作用電極と対極との間に印加されうる。複数の対極が1つの装置に含まれていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一態様による吸収/透過型ウィンドウ様表示装置の略図である。
【図2】図2は、本発明の一態様による吸収/反射型装置の略図である。
【図3】図3は、本発明の一態様による吸収/反射型装置の略図である。
【図4】図4は、本発明の一態様による吸収/反射型装置の略図である。
【図5】図5は、PEDOTを生じるためのPt−円盤電極(Pt−button eletctrode)における20mV/秒の走査速度における0.1M LiClO/PC溶液中の10mMモノマーからのEDOTの電解重合中の繰り返し電位走査を示す。
【図6】図6は、PProDOPを生じるためのPt−円盤電極における20mV/秒の走査速度における0.1M LiClO/PC溶液中の10mMモノマーからのProDOPの電解重合中の繰り返し電位走査を示す。
【図7】図7は、0.1M LiClO/PC中での走査速度(a)20mV/秒、(b)50mV/秒、(c)100mV/秒、(d)150mV/秒、(e)200mV/秒、および(f)300mV/秒におけるPEDOTのサイクリックボルタモグラムを示す。
【図8】図8は、0.1M LiClO/PC中での走査速度(a)20mV/秒、(b)50mV/秒、(c)100mV/秒、(d)150mV/秒、および(e)200mV/秒におけるPProDOTのサイクリックボルタモグラムを示す。
【図9】図9は、0.1M LiClO/PC中での走査速度(a)20mV/秒、(b)50mV/秒、(c)100mV/秒、(d)150mV/秒、(e)200mV/秒、および(f)300mV/秒におけるPProDOT−Hxのサイクリックボルタモグラムを示す。5mg/mLのポリマー/トルエン溶液からPt円盤電極上へのドロップキャスティングによってフィルムを製造した。
【図10】図10は、0.1M LiClO/PC溶液中でのITO/ガラス電極におけるFc/Fcに対する印加電位(a)−1.45V〜(s)+0.35Vにおける0.1V刻みの定電圧堆積レドックス切り替えPEDOTフィルムの分光電気化学に関する複合スペクトルを示す。
【図11】図11は、0.1M LiClO/PC溶液中でのITO/ガラス電極におけるFc/Fcに対する印加電位(a)−1.7V〜(s)+0.1Vにおける0.1V刻みの定電流堆積レドックス切り替えPProDOPフィルムの分光電気化学に関する複合スペクトルを示す。
【図12】図12は、0.1M LiClO/PC溶液中でのITO/ガラス電極におけるFc/Fcに対する印加電位(a)−0.67V〜(m)+0.53Vにおける0.1V刻みのスプレイキャストレドックス切り替えPProDOT−Hxフィルムの分光電気化学に関する複合スペクトルを示す。
【図13】図13は、ITO/ガラス電極における0.1M LiClO/PC溶液中でのPEDOTのタンデムクロノアブソープトメトリ(tandem chronoabsorptometry)スペクトルおよびクロノクーロメトリ(chronocoulometry)スペクトル(Fc/Fcに対して−1.45〜+0.55V、それぞれの電位において10秒間保持、632nm)を示す。
【図14】図14は、ITO/ガラス電極における0.1M LiClO/PC溶液中のPProDOPのタンデムクロノアブソープトメトリスペクトルおよびクロノクーロメトリスペクトル(Fc/Fcに対して−1.7〜+0.1V、それぞれの電位において10秒間保持、522nm)を示す。
【図15】図15は、ITO/ガラス電極における0.1M LiClO/PC溶液中のPProDOT−Hxのタンデムクロノアブソープトメトリスペクトルおよびクロノクーロメトリスペクトル(Fc/Fcに対して−0.67〜+0.53V、それぞれの電位において10秒間保持、571nm)を示す。
【図16】図16は、0.1M LiClO溶液中のPEDOTの相対輝度のプロットをITO/ガラス電極における印加電位との相関で示す。
【図17】図17は、0.1M LiClO溶液中のPProDOPの相対輝度のプロットをITO/ガラス電極における印加電位との相関で示す。
【図18】図18は、0.1M LiClO溶液中のPProDOT−Hxの相対輝度のプロットをITO/ガラス電極における印加電位との相関で示す。
【図19】図19は、ITO/ガラス電極における0.1M LiClO/PC溶液中の還元状態における個々のポリマーに関するPProDOP/PEDOTの複合紫外可視近赤外スペクトル並びにデュアルポリマーエレクトロクロミックセットアップ(setup)に関する計算スペクトルおよび記録スペクトルを示す。
【図20】図20は、ITO/ガラス電極における0.1M LiClO/PC溶液中の酸化状態における個々のポリマーに関するPProDOP/PEDOTの複合紫外可視近赤外スペクトル並びにデュアルポリマーエレクトロクロミックセットアップに関する計算スペクトルおよび記録スペクトルを示す。
【図21】図21は、SprayDOTTM−Purple 101に関する線形適合(linear fit)を用いるフィルム厚に対するITO/ガラスにおける吸光度(λmax=574nmにおける。)のプロットである。
【図22】図22は、SprayDOTTM−Green 145に関する線形適合を用いるフィルム厚に対するITO/ガラスにおける吸光度(λmax=707nmにおける。)のプロットである。
【図23】図23は、ITO/ガラス電極における0.1M TBAP/PC溶液中の還元状態におけるデュアルポリマーエレクトロクロミックセットアップからのSprayDOTTM−Purple 101/SprayDOTTM−Green 145の紫外可視近赤外スペクトルである。
【図24】図24は、ITO/ガラス電極における0.1M TBAP/PC溶液中の酸化状態におけるデュアルポリマーエレクトロクロミックセットアップからのSprayDOTTM−Purple 101/SprayDOTTM−Green 145の紫外可視近赤外スペクトルである。
【図25】図25は、(a)SprayDOTTM−Purple 101で被覆された第1作用電極のみが還元状態であり;(b)SprayDOTTM−Green 145で被覆された第2作用電極のみが還元状態であり;(c)組み合わされた作用電極が還元状態であり;(d)組み合わされた作用電極が酸化状態である、本発明の一態様によるエレクトロクロミック装置の紫外可視近赤外スペクトルを示す。
【図26】図26は、高透過性多孔性電極(PETE/Au/PEDOT:PSS)の配線図である。
【図27】図27は、(a)SprayDOTTM−Purple 101で被覆された第1作用電極のみが還元されており;(b)SprayDOTTM−Green 145で被覆された第2作用電極のみが還元されており;(c)両方の作用電極が還元されており;(d)両方の作用電極が酸化されおり可視領域全体にほとんど吸光度がない、本発明の一態様によるエレクトロクロミック装置の紫外可視スペクトルである。
【図28】図28は、SprayDOTTM−Red 252/PTMAウィンドウエレクトロクロミック装置の紫外可視近赤外スペクトルを示す。
【図29】図29は、SprayDOTTM−Green 179/PTMAウィンドウエレクトロクロミック装置の紫外可視近赤外スペクトルを示す。
【図30】図30は、SprayDOTTM−Blue 153/PTMAウィンドウエレクトロクロミック装置の紫外可視近赤外スペクトルを示す。
【図31】図31は、本発明の一態様による5つの電極を備えるマルチ電極エレクトロクロミック装置を示す。
【図32】図32は、本発明の一態様による5電極エレクトロクロミック装置の紫外可視近赤外スペクトルを示す。
【図33】図33は、RGB5エレクトロクロミック装置の色度座標(小さな三角形)およびCRT燐光体の色度座標(大きな三角形)と共にCIE色度図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の態様は、異なる電気活性材料で被覆された複数の作用電極と電気活性材料(例えばレドックス活性材料)で被覆された1以上の対極との間に独立して印加される電位によって制御することができる、透過状態に加えて複数の着色状態を示すことができるエレクトロクロミック表示装置に関する。この装置の光学コントラストは、カソード着色ポリマーとこのカソード着色ポリマーに対して対を形成するアノード着色ポリマーの両方を含むことを要求しない。更に、この新規の表示装置は、視覚的に好ましい加法混色の組み合わせも提供する。本発明の装置は、一般的な対極を使用し、エレクトロクロミック材料、概して電気活性共役ポリマー、で被覆された複数の活性作用電極を用いる。作用電極を、独立して制御し、切り替えてこの装置の複数の色の状態を可能にする。この装置は、吸収/透過型表示装置であっても、吸収/反射型表示装置であってもよい。この装置が吸収/反射型ディスプレイである場合、反射は鏡のような鏡面であっても紙のような拡散であってもよい。本発明の目的に関して、用語「色」は、ディテクターとして可視スペクトルおよび人間の目に見える色に限られず、むしろ、色は意図されるディテクターが観測できるいずれの波長であってもよい。多くの用途に関して、色の状態は可視光範囲の色の状態ではなく、むしろ、スペクトルの紫外の領域であっても、近赤外の領域であっても、中遠赤外の領域であってもマイクロ波の領域であってもよく、透過状態は単純に、ディテクターによって色が観測される領域に吸収がないかまたは実質的に少ない状態である。透過状態が完全に透明であることが望ましいが、透過状態は完全に透明である必要はなく、むしろ、吸収が、着色状態とのコントラストが大きく、色が識別できないほど薄くなるように大きく低下させられるべきである。
【0013】
本発明の一態様では、装置10は、図1に示されるように、透過型ウィンドウタイプである。第1作用電極1は、ガラスもしくはプラスチック上の透明導体、例えばガラスもしくはプラスチック上の酸化インジウムスズ(ITO)またはガラスもしくはプラスチック上のポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン)(PEDOT:PSS)を備え、エレクトロクロミック活性層2が電極1の内側の面を被覆している。エレクトロクロミックポリマー2は、この電極に導電性を提供しうるが、この態様の説明に関して、この電極は別の導電材料を含む。第1電極は、透明導体4、例えば透明膜上に被覆されたPEDOT:PSS、を多孔質膜上に備える第2電極3と電気的に接触している。透明多孔性電極3は、電気化学的レドックス反応を受けても色を変化させず、切り替え中に電荷を釣り合わせる役割を果たすレドックス活性層4で被覆されている。共役ポリマーに加えて、別の電気活性レドックス材料を使用して切り替え中に電荷を釣り合わせてもよい。電気活性レドックス材料層4として使用されうるポリマーとしては、レドックスポリマーが挙げられる。レドックスポリマーは、電気活性が高度に局在化される特定の空間的にも静電的にも隔離された電気化学的に活性な部位を有する。典型的なレドックスポリマーは、レドックス活性遷移金属ベースのペンダント基がある種のポリマー主鎖に共有結合しているシステムからなり、このポリマー主鎖は共役していても非共役であってもよい。本発明の態様において用いられるレドックス活性ポリマーの非限定的な例としては、ポリ(ビニルフェロセン)およびそのコポリマー;ポリ(ビニルトリピリジルコバルトジクロリド)(poly(vinyltripyridyl cobalt dicloride))およびそのコポリマー;ポリ(4−ビニルピリジルオスミウムビス−ピリジルジクロリド)およびそのコポリマー;ポリ(ピロール−co−N−ベンジルルテニウムビス−ビピリジルクロリド);ポリ(N−2−シアノエチル−3,4−プロピレンジオキシピロール)並びにレドックス活性2,26,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル基を有するポリマー、例えばポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ−4イルメタクリレート)およびポリ[2,3−ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシカルボニル)−ノルボルネン]が挙げられる。
【0014】
電気活性ポリマー4は、膜の片側が被覆されていても両側が被覆されていてもよく、有効な電荷バランスおよび切り替えを提供する。加えて、透明多孔性電極3の電気活性ポリマー4は、非色切り替えポリマーではなく、エレクトロクロミックポリマー、例えば作用電極、例えば透明電極1上のカソード着色ポリマーに対して相補的に切り替わるアノード着色ポリマーであってもよい。一般的に、カソード着色ポリマーは、着色ニュートラル状態と透明の基本的に無色の酸化状態とを有すると考えられ、一般的に、アノード着色ポリマーは、ニュートラル状態では基本的に無色であり、酸化すると着色すると考えられる。本発明の態様において使用されるいくつかのエレクトロクロミックポリマーは、ニュートラル状態で着色しており、酸化状態で着色していてもよく、無色の状態を示すカソード着色ポリマーまたはアノード着色ポリマーの一方または両方の代わりに使用されてもよい。この装置は、図1に示すように、第3透明電極5を有する。第3透明電極5は、図1に示されるように、内側を向くエレクトロクロミックポリマーコーティング6を有する第2エレクトロクロミックポリマー被覆透明作用電極である。電解質がこれらの層の間に分散されており、この電解質はゲル電解質であっても、固体電解質であっても、イオン液体であってもよい。電気活性層6は概してエレクトロクロミックポリマーであるが、別の電気活性材料、例えば遷移金属錯体、ビオロゲンシステム、または遷移金属酸化物、を使用してもよい。電気接点7、8、および9は、電極1、3および5をそれぞれ電気的にアドレス(address)するために使用されうる。
【0015】
本発明の態様によると、透明電極1および5としては、十分に透明なあらゆる導電性材料が挙げられ、その表面の少なくとも一方の上に重合されているか、堆積されているか、またはキャストされているエレクトロクロミック材料2および6を有していてもよい。本発明のいくつかの態様では、エレクトロクロミック材料は導電性材料であってもよく、非導体であってもよい透明材料上に支持されていてもよい。例えば、エレクトロクロミック材料は、導電性ガラス、例えばITO、導電性ポリマー、例えばPEDOT:PSS、薄い金属、例えば金、または透明カーボン、例えばシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)フィルム上に堆積されうる。支持透明材料は、例えば、ガラス、または透明プラスチック、例えばポリカーボネートもしくはポリ(メチルメタクリレート)であってもよい。透明多孔性電極3において使用される多孔性膜は、導電性材料、例えば導電性ポリマー、例えばPEDOT:PSS;非常に薄い金属、例えば金;または透明カーボン、例えばシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)フィルム、で被覆されている透明ポリマーであっても膜の形態のガラスであっても別の多孔性構造であってもよい。導電性材料が十分機械的一体性を有し、多孔性である場合、支持多孔性構造は必要ではない。ゲル電解質は、有機媒体可溶塩溶液、例えばポリ(メチルメタクリレート)/プロピレンカーボネート溶液中の過塩素酸テトラブチルアンモニウム、イオン液体、例えばテトラアルキルアンモニウム、ジアルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、ジアルキルピリジニウム、および非求核性アニオンの塩、例えばヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、トリフレート、およびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン;水ベースもしくはハイドロゲルベースの電解質、または別の粘稠もしくは固体電解質であってもよい。
【0016】
上で紹介し、図1に示した吸収/透過型の本発明の態様では、活性作用電極である電極1および電極5は、一般的な対極、多孔性電極3をアドレスし、同時に独立して(例えばバイポテンショスタットを使用して)制御される。装置の作用電極を構成する2つの独立して制御されたエレクトロクロミック材料を組み合わせることによって、2つのエレクトロクロミック材料からの色の加法混色によって様々な色が利用可能になる。更に、両方の作用電極が透過状態を示すことができる場合、この装置は複数の色と透過状態とを示すことができる。
【0017】
本発明の態様による吸収/反射型装置20を図2に示す。この吸収/反射型装置は、透明電極5が外側に堆積された反射性コーティング11を有すること以外、図1に示される吸収/透過型装置と共通の特徴を有する。反射性コーティング11は、金属の鏡のような鏡面材料、例えばアルミニウムであっても、拡散反射性材料、例えばチタン白であってもよい。更に、この装置は電極1が長波長に対して透明(例えば近赤外におけるガラスまたはプラスチック上のSWNT)である長波長(近赤外、中赤外、マイクロ波)切り替え型であってもよい。この例では、近赤外(特に1310〜1550nmの通信波長)におけるポリマーのエレクトロクロミック切り替えが、応用、例えば可変光減衰器、のために関心がある。
【0018】
本発明の別の態様を図3に示す。これは、反射電極25が中央に配置された多孔性作用電極25である吸収/反射型表示装置30である。電極1は、図1および2に示した上記本発明の態様と共通の内側を向くエレクトロクロミック層2で被覆された透明作用電極である。しかしながら、この態様では、電極25は、多孔性反射電極、例えば金被覆多孔性ポリカーボネート膜である。この多孔性膜は、イオン拡散させるいずれの膜であってもよく、電気活性ポリマーと対向する面が反射性材料で被覆されていてもよく、電極1の方向を向く面が電気活性材料6で被覆されている。反射性材料は、電極として安定ないずれの反射性金属であってもよく、例えば金またはパラジウムである。反射性金属は、熱蒸発または無電解めっき技術によって堆積されうる。図3に示されるように、電極23は、反射性多孔性電極25の後ろに隠され、一般的な対極の役割を果たす。この電極23は、いずれの導電性基材であってもよく、電気活性材料24で被覆されうる。電極23上の電気活性材料24によって示されるいずれの色も装置30によって示される色に影響を与えず、装置に電荷平衡特性をもたらすだけである。図3の装置によって示される色は、透明電極1を被覆するエレクトロクロミック材料2と反射性電極25を被覆するエレクトロクロミック材料6との組み合わせである。
【0019】
図4に示される本発明の別の態様は、別の吸収/反射型装置40であり、このデザインは、反射性電極35が鏡のような反射性多孔性電極ではなく導電性不透明膜であるので図3に示される態様のデザインと異なる。この態様では、作用電極35は、透明電気活性材料、例えばポリマーで被覆されたいずれの種類の不透明多孔性膜であってもよい。例えば、導電性不透明膜は、PEDOT:PSSで浸漬されたセルロース膜であってもスパッター蒸着によってITOの層で被覆されたセルロース膜であってもよい。この電極35の反射は拡散である。一態様では、不透明膜は、「白色」を可能にする紙のようなディスプレイを提供し、別の態様では、色を示す。
【0020】
代わりに、本発明の別の態様では、上記装置に、対極が導電性ポリマーを必要とせず、いずれの導体であってもよい。図1および2に示されるような装置中の対極3は、透明材料であっても、分割されているために、例えば導電性グリッド、例えば細い金属ワイヤーのグリッドであるために実質的に透明であってもよく、上記導体は透明、半透明または不透明であり、上記グリッドの構造は十分多量の光がグリッドおよび装置を通ることを可能にする。特に色の切り替え速度が速い必要がない用途には、光学的に不連続であるグリッドまたは別の対極構造を使用してもよい。本発明の別の態様では、図1および2における対極3と同等の中央電極は両面が導電性であってもよく、多孔性である必要がなく、それぞれの作用電極と対極との間の電気的接続が確立されるように電極の両側において2種類の電解質を使用してもよい。電極が多孔性でない場合、電解質は同一であっても異なっていてもよい。エレクトロクロミックポリマーは、好都合には作用電極上の連続コーティングであり、透明であっても反射性であってもよいが、エレクトロクロミック材料は不連続であってもよい。エレクトロクロミック材料が不連続である場合、本発明の装置は、1色の加法混色と1色の非加法混色とがディスプレイ上にランダムなパターンで観測されるか特定のパターンで観測されるようにする。両方のエレクトロクロミック材料がパターン化されている場合、パターンの配列は、両方のエレクトロクロミック材料から別個の色が示される配列であっても、2種類の材料の加法混色のみが示される配列であっても、別個の色と加法混色とのいくつかの組み合わせが示される配列であってもよい。
【0021】
本発明の装置は、非流動ゲルおよび固体材料を使用する場合、固体材料によって有効に構成される。本発明の装置が流体である電解質、エレクトロクロミック材料、または別の成分を含む場合、封じ込め手段が含まれる。封じ込め手段は、作用電極と対極との電気接触を可能にする、装置全体を囲む透明ケーシングであっても、流体が非孔性電極同士の間に含まれるように非孔性電極同士をブリッジするシーラントであってもよい。更に、電極は互いに所定の距離間隔が開いていてもよい。溝付フレームによる固定;透明膜による分離;装置の縁の周りのガスケットの使用;または均一な所望の間隔を固定するための電極同士の間の透明ビーズの配置を含むいずれの手段を用いて電極を所望の間隔で固定してもよい。
【0022】
本発明の表示装置は、複数の活性フィルムに独立して電位を印加することによって幅広い色の取り合わせを利用可能にする能力に加えて、機械的柔軟性、低い作動電圧、高い光学コントラストという利点を有し、様々なディスプレイに有用である。単一の装置が様々な色を提供するので、ディスプレイに必要とされる装置の数や装置におけるピクセルの数を減らすことができる。必要とされる装置の数やピクセルの数の減少、および関連する本発明のエレクトロクロミックポリマーを使用する装置の製造を容易にすることは、ディスプレイを製造するコストを著しく低くする潜在性を有する。ディスプレイに加えて、本発明の装置は、ウィンドウの通過が許される色および光の強度を自動的にまたは手動で変えられるエレクトロクロミックウィンドウへも使用されうる。
【0023】
本発明を、概して、本明細書中に2つの作用電極と1つの対極とを含む態様に関して記述するが、別の態様は、異なるエレクトロクロミック材料を有する多数の作用電極を含んでもよく、複数の対極を使用していてもよい。電極の配置は、作用電極と対極との間に電位を独立して印加することができ、例えば必要な電極全てが実質的に透明である配置でなければならず、反射型装置に関して1つの電極が反射性であってもよく、別の電極全てが透明であり、所定の電位を印加するために少なくとも1種類の電解質含有材料が作用電極と対極との間に配置されていてもよい。多数の電極の適当な配置および構造は、上記態様を参照して当業者に容易に理解できる。
【0024】
例えば、本発明の一態様では、ドーピングすると透明状態に切り替わる三原色ニュートラルエレクトロクロミックポリマー、赤色、緑色および青色、を使用してエレクトロクロミックフルカラーディスプレイを製造することができる。赤色、緑色および青色のエレクトロクロミックポリマーをカラーフィルターとして透明電極上にスプレーする。全てのポリマーをニュートラル着色状態にすると、二次減法混色赤色、緑色および青色(または一次減法混色シアン、マゼンタおよびイエロー)が全ての可視領域にわたって吸収して光をブロックし、重なり合う作用電極で構成されるエレクトロクロミック装置を実質的に黒色にする。エレクトロクロミックポリマーのドーピングレベルを正確に制御することによって所望の強度の透過光を得る。作用電極上の全ての電気活性ポリマーを完全にドープすると、本発明の装置は、クリアになり、光のスペクトルのほとんどまたは全てを透過させ、観測者またはディテクターが容易にニュートラル状態との違いを識別できる。例示実験の5電極エレクトロクロミック装置を下に示す。
【0025】
最近、本発明者の何人かが、二定電位制御で一対の相補的なカソード着色ポリマーを使用することによって、全ての色の取り合わせが可能であることを分析によって決定した(Unurら,“Dual−Polymer Electrochromic Film Characterization Using Bipotentiostatic Control”Chemistry of Materials,2008年,20(6)、2328およびUnurら,“Dual−Polymer Electrochromic Film Characterization Using Bipotentiostatic Control”Polymer Preprints,2007年,48(1),42)。これらの文献を参照することによって本明細書中に組み込む。エレクトロクロミック共役導電性ポリマー対からの色の状態の系統的バリエーションが証明され、生じる色の足し合わせの同時の分光電気化学的および測色キャラクタリゼーションが行われた。本発明の装置によって表示される色および色の組み合わせとしては、これらに限定されるわけではないが、これらの参考文献に開示されている色および色の組み合わせが挙げられる。
【0026】
エレクトロクロミックポリマーは、エレクトロクロミック材料として使用されてもよく、例えばエレクトロクロミックポリマーは共役導電性ポリマーであってもよい。本発明の態様の多くで、1種類のエレクトロクロミックポリマーを1つの作用電極の一部として被覆し、別のエレクトロクロミックポリマーを別の作用電極上に被覆する。2種類のエレクトロクロミックポリマーに独立して電位を適用することによって、2種類のエレクトロクロミックポリマーが異なる色の状態間または着色状態と実質的に無色の状態との間を独立して遷移するように選択される。このようにして、2種類のエレクトロクロミックポリマーを通過する光は、その印加電位における2種類のポリマーの加法混色の結果である。例えば、エレクトロクロミックポリマーコーティングとして、一方の電極がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を有し、他方の電極がポリ(3,4−プロピレンジオキシピロール)(PProDOP)を有する場合、ニュートラル状態で独立して見ると、これらはそれぞれ青色(L=64、a=−5、b=−38)とオレンジ色(L=76、a=31、b=75)を示すが、組み合わせで見ると、加法混色赤/茶色(L=59、a=25、b=50)を生じ、式中、L、a、およびbはCIELAB色表示値であり、色の明度(L=0は黒色を示し、L=100は白色を示す。)、赤色/マゼンタと緑色との間の色の位置(負のaの値は緑色を示し、正のaの値はマゼンタを示す。)および黄色と青色との間の色の位置(負のbの値は青色を示し、正のbの値は黄色を示す。)を示す。
【0027】
表示装置の製造に使用されうるエレクトロクロミックポリマー対は、特に、以下に示すようにPEDOT、PProDOPおよびジヘキシル置換ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)(PProDOT−Hxである。これらのポリマーは全て、高度着色ニュートラル状態および高度透明完全酸化ドープト状態を示す。下記表1および2は、これらのポリマーの2種類の異なる対のフィルムから可能な幅広い色を、CIELAB色表示値を使用して示す。いずれの場合も、ITOガラス電極上のフィルムを、PEDOTとPProDOPとを用いる電極における直接電解重合によって製造したか、またはPProDOT−Hxを用いてトルエン溶液から電極上にスプレーコートした。2種類のエレクトロクロミックポリマーの組み合わせを使用してそれぞれのフィルムに対する電位が独立して制御されるフィルムからの加法混色による色の制御を説明しているが、異なるエレクトロクロミックポリマーを備える3以上の作用電極の使用を使用してもよい。多数のポリマーを使用する場合、必ずしもそうとは限らないが、大抵、少なくとも1種類のポリマーが、ニュートラル状態かまたはドープト状態のいずれかで達成される透明状態を有する。
【0028】
【化1】

【0029】
【表1】

【0030】
本発明の装置に使用されうる別のエレクトロクロミックポリマーとしては、アルキレンジオキシチオフェン、アルキレンジオキシピロール、ジアルキル誘導化ポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン);ジアルコキシ誘導化ポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)、N−アルキルポリ(3,4−アルキレンジオキシピロール)、ポリ(ビス−アルキレンジオキシチオフェンアリーレンビニレン)、ポリ(ビス−アルキレンジオキシチオフェン−ベンゾチアジアゾール)、およびポリ(ビス−(3,4−アルキレンチオフェン)−N−アルキルカルバゾール)が挙げられ、アルキレンはエチレン、プロピレンまたはブチレンであり、アルキルは任意のC〜C20アルキルであり、アルコキシは任意のC〜C20アルコキシまたはオリゴ(アルキレンオキシド)であり、アリーレンはフェニレン、ナフチレン、置換フェニレンまたは置換ナフチレンである。本発明の新規のエレクトロクロミック装置において使用されうる別のエレクトロクロミックポリマーは当業者に既知である。更に、別のエレクトロクロミック材料を、1以上のエレクトロクロミックポリマーと共役して使用しても1以上のエレクトロクロミックポリマーの代わりに使用してもよい。本発明のエレクトロクロミック装置に使用されうるかまたは本発明のエレクトロクロミック装置における使用に適合されうる材料の中には、遷移金属酸化物、例えば酸化バナジウムまたは三酸化タングステン、ビオロゲン、例えば4,4’−ジメチルビオロゲンもしくは4,4’−ジフェニルビオロゲン、遷移金属錯体、例えばプルシアンブルーもしくはトリス(2,2’−ビピリジン)ルテニウム塩が含まれる。ここでもまた、本発明の新規のエレクトロクロミック装置において使用されうる別のエレクトロクロミック材料は当業者に既知である。
【0031】
【表2】

【0032】
本発明の別の態様では、作用電極のエレクトロクロミック材料は、SprayDOTTM−Purple 101(PProDOT−(CHCOOC1225)およびSprayDOTTM−Purple 101およびSprayDOTTM−Green 145(P(EDOT(ProDOT−(CHO(2−EtHx))BTD))(この構造は下記に示す。)であり、これらを使用して一次色を提供する。P(EDOT(ProDOT−(CHO(2−EtHx))BTD)の製造は、Beaujugeら,Nat.Mater.2008年,7,795に開示されている(これは参照することによって本明細書中に組み込まれる。)。SprayDOTTM−Purple 101およびSprayDOTTM−Green 145はカソード着色ポリマーであり、SprayDOTTM−Purple 101は濃マゼンタ(L=41、a=22、b=−48)から高透過性グレー/ブルー(L=87、a=−2、b=−7)に切り替わり、SprayDOTTM−Green 145は濃緑色(L=60、a=−23、b=12)から透過性スカイブルー(L=84、a=−4 77、b=−6)に切り替わる。下記表3は、CIELAB色表示値を使用して上記対のポリマーからの様々な色を示す。
【0033】
【表3】

【0034】
【化2】

【0035】
材料および方法
ポリマーのサイクリックボルタンメトリおよび走査速度依存
エレクトロクロミックポリマーの薄いフィルムを得るために、EDOTとProDOPの両方をそれぞれ図5および図6に示すように繰り返し走査によってモノマー10mMを含む0.1M LiClO/PC溶液からPt円盤電極上に電気化学的に重合した。1回目のアノード走査中、ラジカルカチオンの生成を示すモノマーの不可逆酸化に対応する単一ピークが観測された(図5の挿入図)。モノマー酸化のピークは、Fc/Fcに対して、EDOTに関しては+1.02Vにおいて観測され、ProDOPに関しては+0.56Vにおいて観測される。次の走査は、ポリマーの酸化および電荷のニュートラル化に起因する低い電位におけるレドックス応答の発生を示す。PProDOT−Hxを、0.45μmPTFEフィルターを通す濾過の後に5mg/mLポリマー/トルエン溶液からPt円盤電極上にドロップキャストした。
【0036】
堆積後、モノマーを含まない電解質溶液で全てのフィルムを流し、図7、8および9に示すように20〜300mV/秒の走査速度においてサイクリックボルタモグラム(CV)を記録した。走査速度に対する電流の線形増加がそれぞれのフィルムに関して観測され、このことは表面が電気活性ポリマーフィルムに付着したことを暗示する。上記試験において観測される重要な側面は、PEDOTフィルムを通る電流がPProDOPフィルム(同数の堆積走査で製造されたもの)およびPProDOT−Hxフィルムを通る電流よりも一桁大きいことである。このことは、釣り合った光学応答を得るために、デュアルフィルム装置の製造中、通常操作パラメータとしてフィルム厚を使用してそれぞれの電極上の電気活性ポリマーの全量を釣り合わせることが重要であることを示す。
【0037】
分光電気化学
ポリマーフィルムの電気活性を切り替え、その安定性を評価するために電流電位範囲を測定する方法として上記サイクリックボルタンメトリ試験を使用して分光電気化学試験および測色試験を行ってポリマーフィルム単独の個別の光学特性を明らかにする。PEDOTに関しては定電位で(20秒間1.6V)、PProDOPに関しては定電流で(1000秒間0.11mA)、PProDOT−Hxに関してはスプレーキャストすることによって(トルエンから5mg/mL)フィルムをITO被覆スライドガラス上に堆積させた。ニュートラル状態におけるポリマーフィルムのλmaxの吸光度がほぼ同じになるようにフィルム厚を100〜300nmに調節した。それぞれのポリマーフィルムに関する分光電気化学シリーズを図10、11および12に示す。ニュートラル状態では、PEDOTは濃青色に見え(1.6eV〜2.75eVを吸収。)、PProDOPはオレンジ色に見え(2.2eV〜3.0eVを吸収。)、PProDOT−Hxは紫色に見える(1.8〜3.0eVを吸収。)。これらのポリマーフィルムがドープされると、電荷キャリア状態がそれぞれのポリマーの多くの光吸収がNIRにあるように現れ、高透過性フィルムをもたらす。PProDOPの分光電気化学シリーズでは、CVにおいて使用される電位窓よりも実質的に高い+0.5Vにステップする(step)ことに注目すべきである。この高い印加電位はフィルムの完全酸化およびほとんど透過の形態の達成を可能にした。これらのカソード着色ポリマーそれぞれのこの透過状態の形成能力は、エレクトロクロミックディスプレイおよび吸収/透過型ウィンドウにおける使用に関して考慮する場合に重要である。透過率の転化、λmax(632nm、522nmおよび571nm)におけるΔT%値は、PEDOT、PProDOPおよびPProDOT−Hxに関してそれぞれ55%、73%および65%である。
【0038】
タンデムクロノクーロメトリおよびクロノアブソープトメトリ
タンデムクロノアブソープトメトリおよびクロノクーロメトリ試験は、複合着色効率(CE)の計算を可能にする。光学密度変化95%を選択することによって、還元フィルムの透過度を酸化フィルムの透過度と比較する。全光学密度の95%に到達するための時間は、ほぼ全ての光学変化が起こるように選択され、様々な速度で切り替わるポリマーの直接比較が行われる。同等の切り替え時間およびコントラスト比を有するポリマーフィルムを、デュアルフィルム技術への応用のために選択した。PEDOTの着色効率は280cm/Cであり、95%切り替え時間は電荷密度3.4mC/cmで1.7秒であり、PProDOPに関しては、着色効率は224cm/Cであり、95%切り替え時間は電荷密度1.6mC/cmで0.9秒であり、PProDOT−Hxに関しては、着色効率は519cm/Cであり、95%切り替え時間は電荷密度1.4mC/cmで0.6秒である(図13、14および15)。3種類のポリマーフィルムの全てが1秒未満の時間枠で相当なエレクトロクロミック切り替えを有し、2秒以内に完全に切り替わる。
【0039】
測色
色が応答を受けるので、色の正確な定量測定で感度、およびヒトの目の認知、エレクトロクロミック特性の詳細が最良に達成される。インシチュ色座標(色相および飽和度)および相対輝度(ポリマーフィルムを通る透過光の量)値を別々にそれぞれのポリマーフィルムに関して記録した(図16、17および18)。3種類のポリマーフィルムの完全に還元した形態を考慮すると、PEDOTはa値およびb値がそれぞれ−5および−37であり、相対輝度32%で濃青色を生じ、PProDOPはa値およびb値がそれぞれ31および75であり、相対輝度50%でオレンジ色を生じ、PProDOT−Hxはa値およびb値が14および−45であり、相対輝度24%で紫色を生じる。フィルム厚および印加電位の微妙な変化との相関で測定される測定L値、a値、およびb値にばらつきがあることに注目すべきである。フィルムが完全に酸化されると、これらのフィルムは全て高透過性のスカイブルー色のフィルムであると認められる。PEDOTはa値およびb値がそれぞれ−2および−4であり、相対輝度82%であり、PProDOPはa値およびb値がそれぞれ−3および−6であり、相対輝度57%であり、PProDOT−Hxはa値およびb値がそれぞれ−2および−4であり、相対輝度86%である。上記はこれらのポリマーそれぞれのカソード着色特性を示す。図18中に輝度変化によって示されているように、PProDOT−Hxは、3種類のポリマーの可視領域で最も高いコントラスト比を有し、ΔT%が62%であり、PEDOTおよびPProDOPのΔT%はそれぞれ50%および10〜20%である(完全ニュートラル形態から酸化形態まで)。PProDOT−Hxに対して低いPEDOTのコントラストは、PEDOTの酸化形態において見られるスペクトルの赤色領域に可視光吸収テールを提供する強いNIR吸収に起因し、これは置換PProDOTでは強度が低い。チオフェン誘導体の酸化時の可視領域における吸収の単純な減損は、PProDOPではより複雑に見える。このポリマーが高いバンドギャップを有するので、このニュートラル形態は可視光に対していずれのチオフェン誘導体より透過性である。酸化中のポーラロンの最初の生成は、可視領域に吸収を生じ、これが輝度の最初の損失をもたらす(図17)。このポーラロン吸収は、次に、完全に酸化すると退色し、最終的に高透過性(Y%〜60%)のライトグレーの状態に到達する。印加電位を用いる輝度変化は、デュアルフィルムシステムのエレクトロクロミック応答に大きな役割を果たす。
【0040】
PProDOP/PEDOTデュアルシステムおよびPProDOP/PProDOT−Hxデュアルシステム
異なるエレクトロクロミックポリマーフィルムを有する2つのITO作用電極を、分光電気化学キャラクタリゼーションおよび測色キャラクタリゼーションに使用されるフィルムと同様に製造した。2種類の異なるポリマーフィルムを有する両方のITO電極を別々の定電位制御のもとで1cm石英セル中に参照電極としてのAgワイヤーおよび対極としてのPtワイヤーを用いて連続して配置した。ITO被覆スライドガラスを作用電極として使用した。インシチュの色座標および可視領域の電磁スペクトルを、0.1M LiClO/PC溶液中で異なる作用電極に対する様々な電位の印加時にデュアルポリマーシステムから記録した。PEDOTフィルムおよびPProDOPフィルムの吸収スペクトルを還元状態(いずれもFc/Fcに対して−1.35V)と酸化状態(Fc/Fcに対してPEDOTは+0.45V、PProDOPは−0.05V)とにおいて別々にとった。デュアルフィルムエレクトロクロミック法に期待される光学応答の組み合わせの見込みを組み合わされたフィルムに関する直接スペクトル応答と比較するためにこれらのスペクトルを足し合わせた。これらのスペクトルを図19および20に示す。組み合わされたフィルムの、足し合わされたスペクトルおよび実験で記録されたスペクトルは、酸化フィルムに関しては互いにほぼ完全に重なり合い、還元フィルムに関してはかなり似ている。従ってスタックフィルムを通過する色は、構成フィルムと完全に異なって見える。この実験和スペクトルは、デュアルシステムがそれぞれのポリマーの混合物である2つの異なるポリマーシステムの光学特性の物理的付加(pysical addition)を可能にし、新しい色の認識をもたらすことを証明している。2つのデュアルフィルムシステムを、用いられる3種類のポリマーフィルムから測色によって調査した。上記表1および表2のカラーパレットは、L色座標をそれぞれのフィルムに印加される別々の電位との相関で示す。これらのカラーパレットは、デュアルフィルムエレクトロクロミック装置から利用できる色を調整するために使用できる。例えば、上記表1に示されるように、PProDOPを還元し、オレンジ色状態に保持すると、PEDOTの連続酸化は、PEDOTが濃青色から透明フィルムに転化するので、デュアルフィルムシステムの輝度を59から68に増加させる。フィルムがオレンジ/ブラウンの色相を保持するので、このシーケンスに従ってオレンジ色が優位を占める。PEDOTを濃青色ニュートラル状態に保持し、PProDOPを連続的に酸化することによって、ブラウン/オレンジのフィルムが緑色を帯びたグレーに変化してより明確な視覚的応答が観測される。両方のフィルムの完全酸化は、非常に淡いグレーの色味を有する透明フィルムを生じる。上記表2に見られるPProDOP/PProDOT−Hx対では色の変化は更に明確である。PProDOPフィルムを還元状態に保持し、PProDOT−Hxフィルムを酸化すると、濃紫色から透過性の青色に転化するPProDOT−Hxに起因して輝度の値が56から72に増加し、帯赤色/紫色からオレンジ色へのデュアルフィルムシステムの明確な色の変化をもたらす。PProDOPを酸化し、PProDOT−Hxを還元状態に保持すると、PProDOPが高い透過性になるため、青色の状態への転化が観測された。最後に、両方のフィルムを酸化すると最も高い輝度が観測される。対ポリマーフィルムに設定されるデュアルポリマーから観測される色および従って読み取られる色座標は、別々に調査されたポリマーから収集されるデータとは異なっていた。例えば、PEDOTフィルムとPProDOPフィルムとのニュートラル状態でのカップリングは、これらのポリマーがニュートラル状態で示す元の色、それぞれ暗青色(L=64、a=−5、b=−38)およびオレンジ色(L=76、a=31、b=75)、と完全に異なる新規の色、赤/茶色(L=59、a=25、b=50)をもたらした。
【0041】
SprayDOTTM−Purple 101、SprayDOTTM−Green 145、PProDOP−N−EtCN
【0042】
フィルム堆積
電気化学的調査および光学調査用のエレクトロクロミックポリマーの薄膜を得るために、SprayDOTTM−Purple 101およびSprayDOTTM−Green 145を、2mg/mLポリマー/トルエン溶液から0.45μmPTFEフィルターを通る濾過の後にPt円盤電極上にドロップキャストしたかまたはITO被覆ガラス電極上にスプレーキャストした。ITO/ガラス上にスプレーされたSprayDOTTM−Purple 101フィルムおよびSprayDOTTM−Green 145フィルムを真空下で一晩乾燥した。
【0043】
ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン−N−プロピオニトリル)(PProDOP−N−EtCN)を電位走査によってPt円盤電極またはITO被覆ガラス電極上に電着させた。PProDOP−N−EtCNフィルムはITO/ガラスに強く付着しなかった。PProDOP−N−EtCNを透明電極上で安定化するために、フィルムを真空下で30分間55℃において加熱した。
【0044】
タンデムクロノクーロメトリおよびクロノアブソープトメトリ
同様の切り替え時間を有し、最も高いコントラスト比を示すポリマーフィルムをデュアルフィルム技術の適用のために選択した。タンデムクロノアブソープトメトリ/クロノクーロメトリ試験を使用してλmaxにおける全光学変化の95%(T%)における複合着色効率および切り替え時間を計算した。着色効率および切り替え時間に対するフィルムの厚さの効果を表4に示す。SprayDOTTM−Green 145の高度エレクトロクロミズムが単一の波長に限られないので、着色効率を両方のλmaxにおいて計算した。SprayDOTTM−Purple 101のCE値はSprayDOTTM−Green 145のCE値よりも高い。SprayDOTTM−Green 145の嵩高い構造は、SprayDOTTM−Purple 101よりも多くの電荷を保持し、伝導状態におけるNIR吸収の赤色吸収領域における高度テーリング(tailing)のために光学コントラストが低い。
【0045】
厚さ500nmのSprayDOTTM−Purple 101フィルムの電荷密度は1.1mC/cmであり、λmax574nmにおけるT%の変化は52%であり、707cm/CのCEをもたらす。これに対して、より薄いSprayDOTTM−Green 145フィルム(厚さ380nm)は電荷密度が1.8mC/cmであり、λmax465nmにおけるT%の変化は48%であり、299cm/CのCEをもたらし、λmax707nmにおけるT%の変化は39%であり、430cm/CのCEをもたらす。PProDOP誘導体(PProDOP−N−EtCN)およびポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ−4イルメタクリレート)(PTMA)が不飽和パステルカラーを有するかまたは無色であるので、デュアルまたはマルチ−エレクトロクロミックシステムの光学特性は、カソード着色ポリマー、例えばPProDOT誘導体の飽和色によって支配される。
【0046】
切り替え時間は、レドックス切り替え中にフィルムを通るカウンターイオンの拡散によって制御される。ポリマーの間隙の開いたモルホロジー(嵩高い構造)がカウンターイオンを補う電荷の移動性を促進するので、これらのシステムにおいて光学応答時間(秒)の改良が観測された。切り替え時間は、フィルムの厚さに強く依存し、従って下記表4に示すように、薄いフィルムは1秒未満で退色し、厚いフィルムはより長い時間で退色する。切り替え時間とは異なり、着色効率はこれらのシステムのフィルム厚に無関係である。この挙動は、電荷密度の増加による光学密度の変化、ΔOD、の増加の埋め合わせに起因する。
【0047】
【表4】

【0048】
厚さ
SprayDOTTM−Purple 101とSprayDOTTM−Green 145との8種類のフィルムをITO/ガラス上にスプレーして吸光度対厚さ較正プロットを得た。それぞれのフィルムが0〜2の様々な吸光度の値を有していた(λmaxにおける吸光度)。それぞれのフィルムを還元状態と酸化状態との間で電位ステップ(potential stepping)によって状態調節した後にフィルム厚をプロフィルメータ(profilometer)によって測定した。それぞれのフィルムに対して測定を5回行い、これらのデータの平均を使用した。いずれの場合も、それぞれSprayDOTTM−Purple 101およびSprayDOTTM−Green 145に関して図21および22に示されるように、厚さは吸光度と直線的に上昇した。
【0049】
デュアルフィルムエレクトロクロミックシステム
デュアルエレクトロクロミックフィルムキャラクタリゼーション法を使用して作動原理が色の混合ベースであるマルチ電極装置によって生じられる色を予測した。ITO電極上のSprayDOTTM−Green 145およびSprayDOTTM−Purple 101を、別々の定電位制御のもとで作用電極の役割を果たすように参照電極としてのAgワイヤーおよび対極としてのPtワイヤーと共に1cm石英セル中に連続して配置した。インシチュ色座標および可視領域の電磁スペクトルを、0.1M TBAP/PC電解質中で異なる作用電極に対して様々な電位を印加した時のデュアルポリマーシステムから記録した。
【0050】
上記デュアルフィルムエレクトロクロミック装置による光学特性の付加の見識を得るために、SprayDOTTM−Purple 101フィルムおよびSprayDOTTM−Green 145フィルムの吸収スペクトルを、Fc/Fcに対して−0.66Vにおいて還元されたフィルム(図23)およびFc/Fcに対して+0.74Vにおいて酸化されたフィルム(図24)に関して別々に記録した。図23および24におけるスペクトルもまた、互いに重なる、それぞれの吸収の和と組み合わされたデュアルエレクトロクロミックフィルムに関して記録されたスペクトルとを提供する。
【0051】
デュアルフィルムシステムを測色によって調査した。それぞれのフィルムに印加される別々の電位との相関でLb色座標を上記表3に示す。SprayDOTTM−Purple 101から得られる最大コントラストは0.8であり、この値はSprayDOTTM−Green 145に関してはわずか0.5である。従って、厚さ605nm(A=1.30)の、C=0.71およびΔE=66でドープすると濃紫色(L=41、a=22、b=−48、Q=67)から透過性の高いスカイブルー(L=87、a=−2、b=−7、Q=87)に切り替わるSprayDOTTM−Purple 101と、厚さ360nm(A=1.10)の、C=0.40およびΔE=36でドープすると濃緑色(L=60、a=−23、b=12、Q=65)から透過性の高いスカイブルー(L=84、a=−4、b=−6、Q=84)に切り替わるSprayDOTTM−Green 145と、を上記表3のデータに使用した。
【0052】
我々が確立した新規のカラーパレットは、濃い藍色(L=21、a=3、b=−28、Q=35)から透明(L=75、a=−6、b=−12、Q=76)まで幅があり、緑色と紫色との混合色のあらゆるトーンを包含している。この色域の輝度コントラストは0.90であり、カラーコントラストは69である。2色の色を混合させ、吸収を全可視領域に拡げること(黒色の生成)によって、彩度に起因するコントラストの妨げは顕著に減らされる。
【0053】
SprayDOTTM−Purple 101/SprayDOTTM−Green 145/PProDOP−N−EtCN
ITO電極上のSprayDOTTM−Green 145フィルム、SprayDOTTM−Purple 101フィルムおよびPProDOP−N−EtCNフィルムを上記のように製造した。非変色対極ポリマーであるPProDOP−N−EtCNをITO被覆スライドガラス上に電解重合させ、加熱した。対極上の非変色PProDOP−N−EtCNフィルムの厚さを、対面するポリマーとの電荷平衡を確実にし、高い透過性を維持するようにセットした。10回の電位走査後に、透明性の高いポリマーフィルムであって、電荷を釣り合わせる能力を有するポリマーフィルムを得た。追加の走査は透過性の低いより厚いフィルムを生じる。PProDOP−N−EtCNフィルムを55℃において真空下で30分間乾燥した。電位を掃引することによって全てのポリマーフィルムを電気化学的に状態調節した。装置の組立前にカソード着色SprayDOTTM−Green 145およびSprayDOTTM−Purple 101をその透明状態に完全に酸化し、PProDOP−N−EtCNの非変色フィルムを完全にニュートラル化して電荷平衡を改良した。この組立は、SprayDOTTM−Green 145フィルムおよびSprayDOTTM−Purple 101フィルムをゲル電解質で被覆し、PProDOP−N−EtCN対極をゲル電解質の上に配置することによって継続した。それぞれの装置の対極が連続して銅テープで接続されて装置全体の複合対極の役割を果たすように、2つの装置を直列に接続した。図1に示されるように、SprayDOTTM−Purple 101は作用電極1の役割を果たし、SprayDOTTM−Green 145は作用電極2の役割を果たす。この複合装置をパラフィンワックスおよびエポキシによって包み込んで長期間の試験を可能にした。異なる作用電極に対して様々な電位を印加してこのエレクトロクロミック装置のインシチュ色座標を記録した。
【0054】
第1複合対極エレクトロクロミック装置の吸収スペクトルおよび測色データをそれぞれ図25および表5に示す。SprayDOTTM−Purple 101作用電極とSprayDOTTM−Green 145作用電極との両方に電位+1.4Vを印加すると、装置は透過性が高くなる(L=75、a=−7、b=−7)。両方の作用電極に電位−0.2Vを印加すると、両方のフィルムが吸収性になり、装置はλmax582nmで全可視領域にわたって藍色吸収性に見える(L=26、a=−3、b=−17)。−0.2Vの電位をSprayDOTTM−Purple 101作用電極に印加し、電位+1.4VをSprayDOTTM−Green 145作用電極に印加すると、この装置は濃紫色に見える(L=56、a=7、b=−15)。電位+1.4VをSprayDOTTM−Purple 101作用電極に印加し、電位−0.2VをSprayDOTTM−Green 145作用電極に印加すると、この装置は濃緑色に見える(L=57、a=−17、b=4)。このエレクトロクロミック装置は、輝度コントラスト0.82およびカラーコントラスト50を示す。
【0055】
【表5】

【0056】
このエレクトロクロミック装置は、最も暗い状態と最も明るい状態との間に理に適ったコントラスト値を有し、フルカラーパレットを提供することによって情報表示技術において使用される別の装置を改良する。更に、この装置は、理に適った光学安定性を示す。このエレクトロクロミック装置を最も暗い状態と最も明るい状態との間で電位ステップさせた。バイポテンショスタット同等物として2つのコンピュータ制御したポテンショスタットを使用して長期間の調査にわたって582nmにおけるT%の値を記録した。このエレクトロクロミック装置は1000回の深い電位サイクルの後に50%の光学コントラストを保持していた。対極材料PProDOP−N−EtCNを用いるFc/Fcに対する−0.15Vの酸化開始は大気中で安定であるが、この成分は最も酸化傾向があった。対極材料の酸化は、装置の機能に重要な電荷補償を減少させる。Oの浸透からのこの装置のシーリングは、長い切り替え時間を可能にする。
【0057】
SprayDOT−Purple 101/SprayDOT−Green 145/PTMA
図26に概略的に示される、3種類の部品、ポリエステル膜41、PEDOT:PSS42、および金43、を有する対極50を構築した。トラックエッチポリエステル膜41(孔径10ミクロン)、PETE、は、多孔性基材の役割を果たす。導電性の高いPEDOT:PSS配合物をこの膜の両側に3000rpmで30秒間スピンコートし、フィルム42を真空下で120℃において2時間乾燥した。両面にPEDOT:PSSの単層42を有するPETE41における1.5nmのAu43の蒸発が表面抵抗を1000Ω/□から500Ω/□に減少させた。透過率55%でこのフィルムを通る抵抗もまた1100Ω/□から500Ω/□に減少した。
【0058】
透明多孔性電極、PETE/PEDOT:PSS/Au 50を、電気化学的レドックス反応を受けても変色せず、切り替え中に電荷を釣り合わせる役割を果たす電気活性ポリマー層で被覆した。窒素酸化物ラジカルポリマー、PTMA、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシを有するポリメタクリレート誘導体、TEMPO、繰り返しユニット中の安定フリーラジカルを電気活性ポリマーとして使用した。PTMAは、対極上の電荷貯蔵材料である。PTMAを高分子量ポリメチルメタクリレートPMMAと1:4の重量比でブレンドし(PTMA 15mg/PMMA 60mg/トルエン60mL)、対極に塗布してコントラストを制限せずに装置に電荷および安定性を供給した。
【0059】
SprayDOTTM−Green 145およびSprayDOTTM−Purple 101をITO電極上にスプレーキャストし、真空下で乾燥した。PTMA溶液の層をPETE/PEDOT:PSS/Au電極50上にスプレーし、次にPTMA/PMMAブレンド溶液のいくつかの層をフィルムが不透明になるまで電極上にスプレーし、これは次に電極を溶液に挿入したときに透明になった。この電極を真空オーブン中で1時間90℃においてアニールした。装置の組立前にカソード着色SprayDOTTM−Green 145およびSprayDOTTM−Purple 101を完全に酸化し、非変色PTMA/PMMAブレンドフィルムを完全にニュートラル化して電荷平衡を改良した。次に、SprayDOTTM−Green 145フィルムおよびSprayDOTTM−Purple 101フィルムをゲル電解質で被覆し、対極をそれらの間にサンドイッチした。SprayDOTTM−Purple 101は第1作用電極の役割を果たし、SprayDOTTM−Green 145は第2作用電極の役割を果たし、この装置をパラフィンワックスによって封入した。異なる作用電極に対する様々な電位の印加時のインシチュ色座標をこのエレクトロクロミック装置から記録した。
【0060】
このエレクトロクロミック装置から得られる吸収スペクトルおよび測色データを図27および下記表6に示す。SprayDOTTM−Purple 101/SprayDOTTM−Green 145エレクトロクロミック装置からの紫外可視近赤外スペクトルは、両方の作用電極のエレクトロクロミックポリマーを還元すると608nmのλmaxを有する全可視領域にわたるブロードな吸収を示す。この装置はエレクトロクロミック層をドープするとクリアおよび透過性になる。両方の作用電極(SprayDOTTM−Purple 101およびSprayDOTTM−Green 145)に1.5Vの電位を印加すると、フィルムは透過性になり(L=62、a=0、b=−1)、−0.5Vの電位を両方の作用電極に印加すると、両方のフィルムが吸収性になり、この装置は可視領域全体を吸収して藍色に見える(L=25、a=7、b=−1)。−0.5Vの電位をSprayDOTTM−Purple 101に印加し、+1.5Vの電位をSprayDOTTM−Green 145に印加すると、紫色のフィルムをニュートラル状態にしたまま緑色のフィルムが透過性になり、この装置は濃紫色に見える(L=35、a=21、b=−38)。第1作用電極であるSprayDOTTM−Purple 101に+1.5Vの電位を印加し、第2作用電極であるSprayDOTTM−Green 145に−0.5Vの電位を印加すると、緑色のフィルムが吸収性になり、紫色のフィルムが透過性になり、この装置が濃緑色に見えるようにする(L=61、a=−22、b=16)。このエレクトロクロミック装置は、0.74の輝度コントラストと43のカラーコントラストとを示す。
【0061】
【表6】

【0062】
RGB色空間5電極エレクトロクロミック装置(SprayDOTTM−Red 252、SprayDOTTM−Green 179、SprayDOTTM−Blue 153、PTMA)
【0063】
フィルム堆積
ポリマー:SprayDOTTM−Red 252;SprayDOTTM−Green 179;およびSprayDOTTM−Blue 153の構造を以下に示す。電気化学的調査および光学調査のためにエレクトロクロミックポリマーの薄膜を、Pt円盤電極上にドロップキャスティングによってまたはITO被覆ガラス電極上にスプレーキャストによって、2mg/mLポリマー/トルエン溶液から0.45μmPTFEフィルターを通す濾過の後に製造した。ITO/ガラス上のスプレーキャストフィルムを真空下で一晩乾燥した。非変色性の電気化学的に活性なPTMA/PMMAを、吸収/透過型ウィンドウタイプのエレクトロクロミック装置における使用のためにITO/ガラス上にスプレーし、処理した。また、非変色性の電気化学的に活性なPTMA/PMMAを、RBG5電極エレクトロクロミック装置における使用のためにPETE/PEDOT:PSS/Au対極上にスプレーし、処理した。
【化3】

【0064】
ポリマーサイクリックボルタンメトリ、走査速度依存性
それぞれのフィルムに対して25〜300mV/秒の走査速度でCVを記録した。走査速度に対する電流の線形増加がそれぞれのフィルムに対して見られた。このことは、電気活性ポリマーフィルムが表面に付着したことを示す。これらのポリマーは狭い電位窓でレドックスサイクルを完了した。SprayDOTTM−Blue 153は、わずか0.5Vの非常に小さな電位差で最大酸化状態と最大還元状態との間を切り替わった。このことは低電位電子装置への応用に有利である。
【0065】
分光電気化学
分光電気化学調査および測色調査を行ってサイクリックボルタンメトリ実験によって測定するのに適切な電位範囲でポリマーフィルムの光学特性を得た。ニュートラル状態で、SprayDOTTM−Red 252は赤色に見え(λmax 528nm)、SprayDOTTM−Green 179は緑色に見え(λmax 443nmおよび634nm)、SprayDOTTM−Blue 153は青色に見える(λmax 398nmおよび652nm)。これらのエレクトロクロミックポリマーフィルムのドーピングは、それぞれのポリマーの多くの光吸収がNIRに生じる電荷キャリア状態が現れる、透過性の高いフィルムをもたらした。酸化すると近赤外テーリング(tailing)に起因する可視領域のわずかな吸収が、緑色のポリマーフィルムと青色のポリマーフィルムとに対して透過状態の薄い青い色合いをもたらす。
【0066】
タンデムクロノクーロメトリおよびクロノアブソープトメトリ
タンデムクロノアブソープトメトリ/クロノクーロメトリ試験を行い、上記試験から複合着色効率(CE)の値を計算し、λmaxにおける全光学変化の95%(T%)に対して切り替え時間(t0.95)を決定した。SprayDOTTM−Red 252フィルムは、λmax(528nm)の吸光度0.9で電荷密度1.3mC/cmであり、ΔT%52%でCE545cm/Cをもたらす。SprayDOTTM−Green 179フィルムは、634nmの吸光度1で電荷密度2.1mC/cmであり、ΔT%50%でCE287cm/Cをもたらし、634nmのΔT%41%でCE310cm/Cをもたらす。SprayDOTTM−Blue 153フィルムは、λmax(652nm)の吸光度1.1で電荷密度1.7mC/cmであり、ΔT%43%でCE442cm/Cをもたらす。レドックス切り替え中にフィルムを通るカウンターイオンの移動に依存する切り替え時間は、SprayDOTTM−Red 252の値がSprayDOTTM−Green 179およびSprayDOT−Blue 153の値の2倍であった。これら3種類のポリマーは全てチェーンに沿う可溶化アルコキシ基を有する。SprayDOT−Green 179ポリマー(t0.95=2〜2.5秒)およびSprayDOT−Blue 153ポリマー(t0.95=2.2秒)のBTDユニットは、ポリマーマトリクス内外のイオンのより速い移動を可能にするように見え、SprayDOTTM−Red 252の切り替え時間(t0.95=4.8秒)よりも速い切り替え時間をもたらしている。
【0067】
測色
完全に還元された状態で原色を有する3種類のエレクトロクロミックポリマーフィルムそれぞれについてインシチュ色座標および相対輝度値を記録した。SprayDOTTM−Red 252はa値およびb値がそれぞれ49および5であり、相対輝度28%で赤色を呈している。SprayDOTTM−Green 179はa値およびb値がそれぞれ−15および−5であり、相対輝度25%で緑色を呈している。SprayDOTTM−Blue 153はa値およびb値が−21および−36であり、相対輝度25%で青色を呈している。フィルムを完全に酸化すると、これらは全て透過性の高い状態に転化される。酸化状態では、SprayDOTTM−Red 252はa値およびb値がそれぞれ−1および2であり、相対輝度が69%であり;SprayDOTTM−Green 179はa値およびb値がそれぞれ−3および−8であり、相対輝度が64%であり;SprayDOTTM−Blue 153はa値およびb値がそれぞれ−4および−2であり、相対輝度が65%である。
【0068】
3種類のカソード着色ポリマーの全てが輝度コントラスト比C〜0.4を有し、完全ニュートラル状態から酸化状態までのΔY%は〜40%である。この光学調査に基づいて、λmaxの吸光度の値が1のフィルムを典型的なフルカラー装置に使用した。厚いフィルムはコントラスト比が低くなり、薄いフィルムは色飽和度が低かった。輝度に関してヒステリシスが印加電位との相関で観測された。酸化時の光学変化に必要とされる電位よりも還元時の光学変化に必要とされる電位の方が低かった。
【0069】
デュアル吸収/透過型ウィンドウエレクトロクロミック装置
デュアル吸収/透過型ウィンドウタイプエレクトロクロミック装置を構築した。エレクトロクロミックポリマーを上記のようにITO/ガラス電極にスプレーし、真空下で乾燥した。ITO/ガラス上のPTMAスプレーの層にPTMA/PMMA溶液のスプレーが、フィルムが不透明になるまで続き、これは電解質に入れると透過性になった。フィルム厚を調節してカソード着色作用電極上のレドックス部位の数と非変色フィルム対極上のレドックス部位の数とを釣り合わせた。全ての電気活性フィルムをポテンシャルサイクリングによって状態調節した。装置の組立前に、電極対の初期電荷バランスを有するように、カソード着色赤色ポリマーフィルム、緑色ポリマーフィルムおよび青色ポリマーフィルムをドープ(退色)させ、PTMA/PMMAフィルムを還元した。作用電極のカソード着色フィルムをTBAP/PCゲル電解質で被覆し、ITO/PTMA/PMMA対極でサンドイッチした。装置をパラフィンワックスによって封入した。分光電気化学特性および測色特性をこの例示的なウィンドウ装置に対して決定した。
【0070】
上記赤色ウィンドウ、緑色ウィンドウおよび青色ウィンドウの分光電気化学データを図28、29および30に示す。この装置が着色状態に逆方向バイアスをかけられると、SprayDOTTM−Red 252/PTMA装置は赤色(主に532nmを吸収)に見え、L座標、a座標、b座標がそれぞれ58、38、6であり、SprayDOTTM−Green 179/PTMA装置は緑色(443nmおよび643nmを吸収)に見え、L座標、a座標、b座標がそれぞれ45、−13、−1であり、SprayDOTTM−Blue 153/PTMA装置は青色(398nmおよび652nmを吸収)に見え、L座標、a座標、b座標がそれぞれ55、−18、−35である。バイアスを反転させると、装置は透過状態に切り替わる。SprayDOTTM−Red 252/PTMA装置は、黄色の色相を維持し、L座標、a座標、b座標がそれぞれ81、−2、3である。SprayDOTTM−Green 179/PTMA装置は、青色の色相を維持し、L座標、a座標、b座標がそれぞれ69、−4、−10である。SprayDOTTM−Blue 153/PTMA装置は、青色の色相を維持し、L座標、a座標、b座標がそれぞれ80、−3、−5である。
【0071】
RGB色空間5電極エレクトロクロミック装置
RGB5電極エレクトロクロミック装置を、図31に示すように3つの作用電極と2つの対極とで構成し、これらの電位を別々に制御する。エレクトロクロミックポリマー(56)SprayDOTTM−Red 252および(52)SprayDOTTM−Green 179をITO/ガラス材料にスプレーして作用電極55および51をそれぞれ生じた。エレクトロクロミックポリマー(62)SprayDOTTM−Blue 153をPETE/PEDOT:PSS/Au電極上にスプレーして作用電極61を生じた。非エレクトロクロミックの電気活性透明ポリマーブレンドであるPTMA/PMMAを上記のように多孔性PETE/PEDOT:PSS/Au上にスプレーして対極53および63を生じ、これらをそれぞれ作用電極51と61との間および55と61との間にサンドイッチした。作用電極および対極をTBAP/PCゲル電解質によって隔てて電荷輸送を可能にした。この装置をパラフィンワックスで封入した。
【0072】
ポテンショスタットおよびバイポテンショスタットを使用して5電極装置に対する印加電位を制御した。ここで、例えば電気接点57、58および67はバイポテンショスタットに接続され、電気接点59および68はポテンショスタットに接続されうる。この装置に関して分光電気化学データおよび測色データが、それぞれ図32および33に記載されるように測定された。作用電極55および61を透過状態にドープし(いずれも+2.5V)、作用電極51を着色状態にニュートラル化する(−2.5V)と、この装置は主に532nmを吸収して赤色に見える(図32の曲線a)。電極51および61を透過状態にドープし、電極55を着色状態にニュートラル化すると、この装置は主に434nmおよび647nmの極大吸収の帯域を吸収して緑色に見える(図32の曲線b)。作用電極51および55を透過状態にドープし、作用電極61を着色状態にニュートラル化すると、この装置は398nmおよび634nmの極大吸収の帯域を吸収して青色に見える(図32の曲線c)。3色の状態の関連色座標および色度図を図33に示す。小さい三角形はRGB5電極エレクトロクロミック装置の色域を示し、黒色の三角形は隣接ピクセルの赤色燐光体、緑色燐光体および青色燐光体から色を発生させるブラウン管(CRT)装置の色域を示す。PEDOT:PSSおよびAuの反射に起因する装置全体に対する青色の色相のために、上記実験装置を用いて比較的純度の低い色が得られたが、対極の最適化によってより純粋な飽和色が得られる。加えて、エレクトロクロミックポリマーを、より飽和した色のために作られた構造のエレクトロクロミックポリマーにすることが可能である。色純度(飽和度)は、単一エレクトロクロミックフィルムからデュアルエレクトロクロミック装置を経由してRGB 5電極エレクトロクロミック装置に至るまで低下する。このことを下記表7に見られるa値およびb値の変化によって示す。単一層フィルムからマルチ電極装置へと発展する変化は劇的ではない。このことは、RGB 5電極エレクトロクロミック装置を備えるディスプレイや減法混色の原色を用いるような装置における使用のために全範囲の色を生じることが可能であることを意味する。
【0073】
【表7】

【0074】
本明細書中で上方または下方に参照したかまたは列挙した全ての特許、特許出願、仮出願、および刊行物をその全体(全ての図面および表を含む。)を、この明細書の明示する教示と相反しない範囲で参照することによって組み込む。
【0075】
本明細書中に記載の実施例および態様は単に説明のためであり、これらを踏まえる様々な改良または変更が当業者に示唆されており、それらが本願の精神および範囲内に含まれていると理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1透明材料および第1エレクトロクロミック材料を含有する第1作用電極;
該第1透明材料と同一であっても異なっていてもよい第2材料および第2エレクトロクロミック材料を含有する第2作用電極;
少なくとも1つの対極;並びに
該対極と該作用電極との間に分散されており、該対極および該作用電極と接触している電解質含有材料
を備えるエレクトロクロミック装置であって、該第1作用電極と該対極との間と、該第2作用電極と該対極との間と、で電位を独立して印加し、該装置から観測される色を該作用電極の色の組み合わせによってもたらす、エレクトロクロミック装置。
【請求項2】
該対極が透明であり、該作用電極の間にサンドイッチされている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
該対極が多孔性であるかまたは分割されている、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
該対極が多孔性材料を含有する、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
該対極が該対極の少なくとも片側の少なくとも一部に色を変えない電気活性材料で被覆された基材を含有する、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
該電気活性材料がレドックス活性ポリマーを含有する、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
該レドックス活性ポリマーが共役ポリマーを含有する、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
該第2作用電極が、反射性導電性材料であるかまたは該対極に対向する面が反射性材料と接触する透明導電性材料を備え、該エレクトロクロミック材料が該対極を向く面に配置されている、請求項2に記載の装置。
【請求項9】
該第2作用電極が該第1作用電極と該対極との間にサンドイッチされており、該第2作用電極が多孔性であるかまたは分割されている、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
該第2作用電極が反射性である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
該第2作用電極が拡散反射性である、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
該第2作用電極が鏡面反射性である、請求項10に記載の装置。
【請求項13】
該第1エレクトロクロミック材料および第2エレクトロクロミック材料が独立して、カソード着色材料、アノード着色材料、またはニュートラル状態で所定の色であり、酸化状態で別の色である材料を含有する、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
該着色材料が、カソード着色ポリマーまたはアノード着色ポリマーを含有する、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
該カソード着色ポリマーが、ポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)、アルキレンブリッジ置換ポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−アルキレンジオキシピロール)、アルキレンブリッジ置換ポリ(3,4−アルキレンジオキシピロール)、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジアルコキシピロール)またはそれらのコポリマーを含有する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
該アノード着色ポリマーが、N−置換ポリ(3,4−アルキレンジオキシピロール)、N−置換アルキレンブリッジ置換ポリ(3,4−アルキレンジオキシピロール)、N−置換ポリ(3,4−ジアルコキシピロール)またはそれらのコポリマーを含有する、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
該電解質含有材料が、ゲル電解質、固体電解質、ハイドロゲル、またはイオン液体である、請求項1に記載の装置。
【請求項18】
更に封じ込め手段を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項19】
更に独立してそれぞれの該作用電極と該対極との間に可変電位を提供する手段を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項20】
該第1電気活性材料と第2電気活性材料との量がほぼ同じである、請求項1に記載の装置。
【請求項21】
該第1電気活性材料の厚さと第2電気活性材料の厚さとが、ニュートラル状態でλmaxにおいて該第1作用電極と第2作用電極とに同じ吸光度を提供する、請求項1に記載の装置。
【請求項22】
該第1電気活性材料と第2電気活性材料とがほぼ同じ切り替え時間およびコントラスト比を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項23】
該第1エレクトロクロミック材料がPProDOTを含有し、該第2エレクトロクロミック材料がPEDOTを含有する、請求項1に記載の装置。
【請求項24】
該第1エレクトロクロミック材料がPProDOPを含有し、該第2エレクトロクロミック材料がPProDOT−Hxを含有する、請求項1に記載の装置。
【請求項25】
該第1エレクトロクロミック材料がP(EDOT(ProDOT−(CHO(2−EtHx))BTDを含有し、該第2エレクトロクロミック材料がPProDOT−(CHCOOC1225を含有する、請求項1に記載の装置。
【請求項26】
更に透明材料を含有する少なくとも1つの別の作用電極および別のエレクトロクロミック材料を備え、該別の作用電極と該対極との間に電位を独立して印加する、請求項1に記載の装置。
【請求項27】
少なくとも2つの対極が使用され、少なくとも1つの対極が透明である、請求項26に記載の装置。
【請求項28】
該第1エレクトロクロミック材料がSprayDOTTM−Red 252を含有し、該第2エレクトロクロミック材料がSprayDOTTM−Green 179を含有し、該別のエレクトロクロミック材料がSprayDOTTM−Blue 153を含有する、請求項26に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公表番号】特表2011−515718(P2011−515718A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501966(P2011−501966)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/038028
【国際公開番号】WO2009/120658
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(507371168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド (38)
【Fターム(参考)】