説明

デュアルクラッチ式自動変速機

【課題】クラッチ温度が所定温度以上になった場合には、変速時にクラッチを切断して発熱を抑制するようにしたデュアルクラッチ式自動変速機を提供する。
【解決手段】クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が、所定温度以下の場合には、切り側の第1クラッチあるいは第2クラッチを半クラッチ状態に制御し、所定温度以上の場合には、切り側の第1クラッチあるいは第2クラッチを切断状態に制御し、原動機の回転数が入り側の第1クラッチあるいは第2クラッチに対応する入力軸の回転数に同期すると、入り側の第1クラッチあるいは第2クラッチを係合状態に制御する変速制御装置を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュアルクラッチの温度が所定温度以上となった場合には、変速時にクラッチトルクを切断して発熱を抑制するようにしたデュアルクラッチ式自動変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用変速機の一種に、2つのクラッチをもつデュアルクラッチと、これらクラッチに接続された2つの入力軸と、一方の入力軸に伝達された回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構、および他方の入力軸に伝達された回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構とを備えたデュアルクラッチ式自動変速機がある。かかる自動変速機は、2つのクラッチで係合切替を操作することによりトルクが途切れないようにして変速操作を行えるという利点がある。この種のデュアルクラッチ式自動変速機として、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−196745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、デュアルクラッチ式自動変速機においては、変速時にクラッチが半クラッチ状態に制御されて滑りを生ずるため、クラッチ温度が上昇する。そして、クラッチ温度が所定温度以上の状態が長く続くと、クラッチディスク等が熱によって損傷する恐れがある。
【0005】
本発明は上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、クラッチ温度が所定温度以上になった場合には、変速時にクラッチを切断して発熱を抑制するようにしたデュアルクラッチ式自動変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、同心に配置された第1入力軸および第2入力軸と、原動機の回転駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1クラッチと前記回転駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、前記デュアルクラッチの温度を導出するクラッチ温度導出部と、前記第1入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構、および前記第2入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構と、前記クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が、所定温度以下の場合には、切り側の前記第1クラッチあるいは前記第2クラッチを半クラッチ状態に制御し、所定温度以上の場合には、切り側の前記第1クラッチあるいは前記第2クラッチを切断状態に制御し、前記原動機の回転数が入り側の前記第1クラッチあるいは前記第2クラッチに対応する前記入力軸の回転数に同期すると、前記入り側の前記第1クラッチあるいは前記第2クラッチを係合状態に制御する変速制御装置とを備えることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が所定温度以上の場合には、前記原動機のトルクを増大させて、前記原動機の回転数をオーバシュートさせ、前記原動機のトルクの低下によって、前記原動機の回転数が低下する途中で、前記入り側の前記第1クラッチあるいは前記第2クラッチを係合状態に制御することである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が、所定温度以下の場合には、切り側の第1クラッチあるいは第2クラッチを半クラッチ状態に制御し、所定温度以上の場合には、切り側の第1クラッチあるいは第2クラッチを切断状態に制御し、原動機の回転数が入り側の第1クラッチあるいは第2クラッチに対応する入力軸の回転数に同期すると、入り側の第1クラッチあるいは第2クラッチを係合状態に制御する変速制御装置とを備える。
【0009】
この構成により、デュアルクラッチのクラッチ温度が所定温度以上の場合には、切り側のクラッチを完全に切断することにより、デュアルクラッチの発熱が抑制され、熱によるデュアルクラッチの損傷が防止される。また、デュアルクラッチのクラッチ温度が所定温度以下の場合には、切り側のクラッチを半クラッチ状態に制御することにより、駆動輪へのエンジントルクを確保することができる。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が所定温度以上の場合には、原動機のトルクを増大させて、原動機の回転数をオーバシュートさせ、原動機のトルクの低下によって、原動機の回転数が低下する途中で、入り側の第1クラッチあるいは第2クラッチを係合状態に制御するので、原動機の回転数のオーバシュートによって、クラッチの係合時に加速感が得られるようになり、変速時のフィーリングを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係るデュアルクラッチ式自動変速機を搭載した車両を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態を示すデュアルクラッチ式自動変速機の全体構造を示すスケルトン図である。
【図3】変速制御時のタイムチャートを示す図である。
【図4】変速制御のフローチャートを示す図である。
【図5】本発明の変形例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係るデュアルクラッチ式自動変速機を、図面に基づいて説明する。図1は、デュアルクラッチ式自動変速機10を適用可能な車両の一部の構成を示したブロック図である。図1に示す車両はFF(フロントエンジンフロントドライブ)タイプの車両であり、原動機の一例であるガソリンの燃焼によって駆動されるエンジン11と、デュアルクラッチ式自動変速機10と、差動装置(ディファレンシャル)13と、エンジン11の作動を制御するECU(Engine Control Unit)14と、駆動軸15a、15bと、駆動輪16a、16b(前輪)および図示しない従動輪(後輪)を備えている。
【0013】
デュアルクラッチ式自動変速機10は、エンジン11と差動装置13の間の動力伝達経路上に配設されている。デュアルクラッチ20は、図2に示すように、エンジン11から出力される回転駆動トルクを、第1入力軸31に伝達する第1クラッチ21と、第2入力軸32に伝達する第2クラッチ22を有している。
【0014】
エンジン11の回転数Neを検出するために、エンジン11の出力軸(クランクシャフト)に近接してエンジン回転数センサ90が設けられている。また、第1入力軸31の回転数N1を検出する第1入力軸回転数センサ91、および第2入力軸32の回転数N2を検出する第2入力軸回転数センサ92が設けられている。さらに、駆動輪16a、16bの回転速度を検出する車輪速センサ93、94と、アクセルペダルの操作量としてのアクセル開度を検出するアクセル開度センサ95が設けられている。車輪速センサ93、94で検出された駆動輪16a、16bの回転速度に基づいて、車速(車両速度)Vが検出される。
【0015】
図1中97は、デュアルクラッチ20の温度を導出するクラッチ温度導出部を示す。クラッチ温度導出部97は、デュアルクラッチ20の仕事量に基づき、TCU23に記憶された所定の計算式を用いてデュアルクラッチ20の温度を推定するものである。例えば、クラッチ温度導出部97は、デュアルクラッチ20が行った仕事量に応じて発熱温度を積算した値TAより、デュアルクラッチ20外の雰囲気温度とデュアルクラッチ20内の温度との温度差に応じて放熱温度を積算した値TBを減算(TA−TB)することによって、現在のデュアルクラッチ20の温度を推定するようになっている。あるいはまた、クラッチ温度導出部97は、温度センサ等を用いてデュアルクラッチ20の温度を直接検出するものであってもよい。
【0016】
また、デュアルクラッチ式自動変速機10は、複数の変速ギヤ段の切替え(変速シフト)と、第1クラッチ21および第2クラッチ22の切替えを制御する変速制御装置23を有している。以下においては、変速制御装置23をTCU(Transmission Control Unit)と称することにする。
【0017】
ECU14は、TCU23からの各種情報、およびエンジン回転数センサ90からのエンジン回転数Neデータと、アクセル開度センサ95からのアクセル開度データとを取得する。そしてECU14は、これらの情報に基づきアクセル開度を制御したり、インジェクタ(図示しない)の燃料噴射量を制御してエンジン回転数Neを制御する。TCU23はECU14と接続され、CAN通信によってECU14と相互に情報を交換しながら、後述するクラッチアクチュエータ25、26および変速アクチュエータ27を制御し、デュアルクラッチ式自動変速機10の変速制御を行う。
【0018】
デュアルクラッチ20の第1および第2クラッチ21,22は、乾式摩擦クラッチからなっている。第1クラッチ21は、モータを駆動源とする第1のクラッチアクチュエータ25によって係合制御され、第2クラッチ22は、モータを駆動源とする第2のクラッチアクチュエータ26によって係合制御される。第1および第2のクラッチアクチュエータ25、26は、クラッチアクチュエータ25、26の作動量(ストローク量)を検出するストロークセンサ25a、26aを有している。第1および第2クラッチ21,22のクラッチトルクは、第1および第2クラッチアクチュエータ25,26の作動量に応じて制御される。第1および第2クラッチ21、22は、クラッチアクチュエータ25、26の作動量が0で切断状態となるクラッチであり、作動量が増加するにしたがって半接続状態となってクラッチトルクが増加し、作動量の最大値でクラッチトルクが最大となる特性を有している。なお、第1および第2クラッチ21,22は、常時はともに切断状態に保持される。
【0019】
デュアルクラッチ式自動変速機10は、図2に示すように、前進7速、後進1速のギヤトレーンを備えている。デュアルクラッチ式自動変速機10は、デュアルクラッチ20と、第1入力軸31および第2入力軸32と、第1副軸35および第2副軸36を備えている。第1入力軸31は棒状とされ、第2入力軸32は筒状とされて、同軸的に回転可能に配置されている。第1入力軸31の図中左側はデュアルクラッチ20の第1クラッチ21に連結され、第2入力軸32の図中左側はデュアルクラッチ20の第2クラッチ22に連結されている。第1入力軸31と第2入力軸32は、独立してトルクが伝達され、異なる回転数で回転可能となっている。第1副軸35は、第1入力軸31および第2入力軸32と並行して、図中下側に配置され、第2副軸36は、第1入力軸31および第2入力軸32と並行して、図中上側に配置されている。
【0020】
第1入力軸31には、複数の奇数変速段駆動ギヤである1速駆動ギヤ51、3速駆動ギヤ53、5速駆動ギヤ55および7速駆動ギヤ57が直接形成または別体で固定して設けられている。第2入力軸32には、複数の偶数変速段駆動ギヤである2速駆動ギヤ52、4−6速駆動ギヤ54が直接形成または別体で固定して設けられている。
【0021】
第1副軸35には、1速、3速、4速従動ギヤ61、63、64がそれぞれ遊転可能に設けられ、1速従動ギヤ61は1速駆動ギヤ51に、3速従動ギヤ63は3速駆動ギヤ53に、4速従動ギヤ64は4−6速駆動ギヤ54に、それぞれ噛合されている。
【0022】
第2副軸36には、2速、5速、6速、7速従動ギヤ62、65、66、67がそれぞれ遊転可能に設けられ、2速従動ギヤ62は2速駆動ギヤ52に、5速従動ギヤ65は5速駆動ギヤ55に、6速従動ギヤ66は4−6速駆動ギヤ54に、7速従動ギヤ67は7速駆動ギヤ57に、それぞれ噛合されている。
【0023】
また、第1副軸35には、後進ギヤ70が遊転可能に設けられ、後進ギヤ70は、2速従動ギヤ62の小径ギヤ62bに常時噛合されている。
【0024】
第1副軸35および第2副軸36上には、シンクロメッシュ機能を有する第1、第2、第3、第4ギヤシフトクラッチ71〜74が設けられ、これらギヤシフトクラッチ71〜74は、TCU23によって制御される変速アクチュエータ27によって選択的に作動される。
【0025】
第1ギヤシフトクラッチ71は、第1副軸35上に設けられ、1速従動ギヤ61のシンクロギヤ部と3速従動ギヤ63のシンクロギヤ部との間に設けられている。第1ギヤシフトクラッチ71のスリーブが軸方向にスライドすることにより、1速従動ギヤ61および3速従動ギヤ63の一方と第1副軸35とが相対回転不能に連結され、中間位置ではどちらの従動ギヤ61、63とも連結されないニュートラル状態となるように構成されている。
【0026】
第2ギヤシフトクラッチ72は、第1副軸35上に設けられ、4速従動ギヤ64のシンクロギヤ部と後進ギヤ70のシンクロギヤ部との間に設けられている。第2ギヤシフトクラッチ72のスリーブが軸方向にスライドすることにより、4速従動ギヤ64および後進ギヤ70の一方と第1副軸35とが相対回転不能に連結され、中間位置ではどちらのギヤ64、70とも連結されないニュートラル状態となるように構成されている。
【0027】
第3ギヤシフトクラッチ73は、第2副軸36上に設けられ、7速従動ギヤ67のシンクロギヤ部と5速従動ギヤ65のシンクロギヤ部との間に設けられている。第3ギヤシフトクラッチ73のスリーブが軸方向にスライドすることにより、7速従動ギヤ67および5速従動ギヤ65の一方と第2副軸36とが相対回転不能に連結され、中間位置ではどちらの従動ギヤ65、67とも連結されないニュートラル状態となるように構成されている。
【0028】
第4ギヤシフトクラッチ74は、第2副軸36上に設けられ、6速従動ギヤ66のシンクロギヤ部と2速従動ギヤ62のシンクロギヤ部との間に設けられている。第4ギヤシフトクラッチ74のスリーブが軸方向にスライドすることにより、6速従動ギヤ66および2速従動ギヤ62の一方と第2副軸36とが相対回転不能に連結され、中間位置ではどちらの従動ギヤ62、66とも連結されないニュートラル状態となるように構成されている。
【0029】
上記した第1および第3ギヤシフトクラッチ71、73により、第1入力軸31に伝達された回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構を構成し、第2および第4ギヤシフトクラッチ72、74により、第2入力軸32に伝達された回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構を構成している。
【0030】
第1副軸35および第2副軸36には、それぞれ最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ59が固定され、これら最終減速駆動ギヤ58、59は、差動装置13(図1参照)に連結された軸33上の減速従動ギヤ80に常時噛合されている。これにより、最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ59を介して駆動輪16a、16bが駆動される。
【0031】
クラッチ温度導出部97によって導出されたクラッチ温度は、TCU23によって常時モニタリングされ、モリタリングしたクラッチ温度が、予め設定したしきい値よりも高くなると、TCU23より異常信号が発せられるようになっている。
【0032】
図3は、変速時におけるデュアルクラッチ式自動変速機10の動作を模式的に示すタイムチャートである。図3のタイムチャートは、例えば、第1クラッチ21を介して、車両が3速の変速段で走行している状態において、3速から2速にダウン変速する例で示しており、横軸は時間を表わしている。
【0033】
すなわち、3速から2速へのダウン変速時には、TCU23より変速アクチュエータ27に出力される変速制御指令に基づいて、第4ギヤシフトクラッチ74のスリーブが図2の左方に移動され、2速従動ギヤ62が第2副軸36に連結されるシフト操作が実施される。この状態においては、駆動輪16a、16bからの動力によって、2速変速段側の第2クラッチ22が、駆動輪16a、16bの回転数に応じた回転数で回転駆動される。
【0034】
その状態で、3速から2速への変速開始指令が発せられると、3速の変速段側に対応する切り側の第1クラッチ21が、クラッチアクチュエータ25によって制御されるが、この際、クラッチ温度導出部97によって導出されたクラッチ温度が所定の温度以下か、所定の温度以上かによって、第1クラッチ21の制御は異なったものとなる。
【0035】
すなわち、クラッチ温度が所定温度以下の場合には、通常の変速制御によって第1クラッチ21が制御される。この場合には、図3のタイムチャートの破線で示すように、クラッチアクチュエータ25によって、第1クラッチ21のクラッチトルクが低減されて半クラッチ状態に制御され、変速中における駆動輪16a、16bへのエンジントルクが確保される。そして、第1クラッチ21のクラッチトルクの低減により、エンジン11の回転数が上昇される。すなわち、エンジントルクTeとクラッチトルクTcとの関係は、式「Te−Tc=Ie・ΔNe」(ただし、Ieは、エンジン11のイナーシャトルク、ΔNeは、エンジン回転数を微分したエンジン回転数変化速度)で表わされるので、クラッチトルクの低減によってエンジン回転数Neが変化される。
【0036】
このような結果、エンジン回転数センサ90によって検出されるエンジン11の回転数Neが、第2入力軸回転数センサ92によって検出される第2入力軸32の回転数N2に等しくなると、2速変速段側の第2のクラッチ22が係合制御されるとともに、半クラッチ状態にある3速変速段側の第1クラッチ21が完全に切断される。
【0037】
一方、クラッチ温度が所定温度以上の場合には、図3のタイムチャートの実線で示すように、クラッチアクチュエータ25によって、第1クラッチ21のクラッチトルクを完全に切断し、デュアルクラッチ20の発熱を抑制する。そして、エンジン11の回転数Neが、第2入力軸32の回転数N2に等しくなると、第2のクラッチ22が係合状態に制御される。
【0038】
このように、デュアルクラッチ20のクラッチ温度が所定温度以上の場合には、切り側のクラッチを完全に切断させることにより、デュアルクラッチ20の発熱を抑制し、デュアルクラッチ20の損傷を未然に防止する。
【0039】
この場合、切り側のクラッチを完全に切断させることにより、エンジン11からの駆動輪16a、16b側への駆動力が中断されるが、緊急避難的にデュアルクラッチ20の発熱を抑制することように優先制御される。
【0040】
次に、デュアルクラッチ20のクラッチ温度に応じた変速制御装置23の制御プログラムを、図4のフローチャートに基づいて説明する。図4のフローチャートにおいては、例えば、車両が3速の変速段で走行している状態において、3速から2速にダウン変速する例で説明する。
【0041】
まず、ステップS100において、クラッチ温度導出部97によって導出されたクラッチ温度が設定された所定の温度以上か否かが判断される。クラッチ温度が所定の温度以下の場合には、判断結果がNとなり、ステップS102に移行されて通常の変速制御が実行される。すなわち、変速時には、切り側の第1クラッチ21がクラッチアクチュエータ25によって半クラッチ状態に制御され、入り側の第2クラッチ22に対応する第2入力軸32の回転数に、エンジン11の回転数が同期すると、第1クラッチ21が切断されるとともに、第2クラッチ22が係合制御される。
【0042】
クラッチ温度が所定の温度以上となり、ステップS100の判断結果がYになると、ステップS104に移行され、変速時には、切り側の第1クラッチ21が完全に切断されるように、クラッチアクチュエータ25によって制御される。そして、入り側の第2クラッチ22に対応する第2入力軸32の回転数に、エンジン11の回転数が同期すると、第2クラッチ22がクラッチアクチュエータ26によって係合制御される。
【0043】
このように、デュアルクラッチ20の温度が所定以上の場合には、通常の変速制御に代えて、変速時に切り側のクラッチを切断するようにしたので、デュアルクラッチ20の仕事量を軽減することができ、デュアルクラッチ20の発熱が抑制される。しかしながら、デュアルクラッチ20の温度が所定以下の場合には、通常の変速制御(半クラッチ制御)により、エンジン11からの駆動輪16a、16bへの駆動トルクが持続される。
【0044】
図5は、本発明の変形例を示すもので、上記した実施の形態と異なる点は、変速時にエンジントルクを増大させることにより、エンジン11の回転数をオーバシュートさせ、その後、エンジン11の回転数と入力軸31、32の回転数を同期させるようにしたことである。
【0045】
図5において、クラッチ温度が所定温度以上の場合には、上記した実施の形態で述べたと同様に、第1クラッチ21を完全に切断し、デュアルクラッチ20の発熱を抑制する。同時に、エンジントルクを一定時間t1だけ増大させることにより、エンジン11の回転数加速度を増大させ、エンジン11の回転数Neを第2入力軸32の回転数を上回るようにオーバシュートさせる。この際、オーバシュート量ができるだけ小さくなるように制御するのが好ましい。そして、一定時間t1後、エンジントルクの減少に伴って、エンジン11の回転数Neが低下され、エンジン回転数Neが、第2入力軸32の回転数N2に等しくなると、第2クラッチ22が係合状態に制御される。
【0046】
かかる第2の実施の形態によれば、変速時に、エンジン回転数Neを一旦オーバシュートさせ、エンジン回転数Neが低下する過程で第2クラッチ22(第1クラッチ21)を係合状態に制御するようにしたので、エンジン回転数Neと入力軸回転数N2(入力軸回転数N1)との同期制御を行いやすくすることができる。しかも、オーバシュートにより、第2クラッチ22の係合時に加速感が得られるようになって、変速時のフィーリングを向上することができる。
【0047】
上記した実施の形態においては、FFタイプの車両に好適なデュアルクラッチ式自動変速機を例にして説明したが、FR(フロントエンジンリヤドライブ)タイプの車両に適用する場合には、例えば、特開2011−144872号公報に記載されているように、変速段ギヤ(5速ギヤ)を第1入力軸に直結したり、あるいはギヤシフト機構の一部を第1または第2入力軸上に配置してもよい。
【0048】
また、上記した実施の形態においては、第1および第2副軸35、36側に従動ギヤを遊転可能に設けた例について述べたが、第1および第2入力軸31、32側に設けたギヤを遊転可能としてもよい。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るデュアルクラッチ式自動変速機は、第1および第2入力軸に連結された第1および第2クラッチからなるデュアルクラッチを備え、プレシフトを可能にしたものに用いるのに適している。
【符号の説明】
【0051】
10…デュアルクラッチ式自動変速機、11…原動機(エンジン)、20…デュアルクラッチ、21…第1クラッチ、22…第2クラッチ、25、26…クラッチアクチュエータ、31…第1入力軸、32…第2出力軸、51、53、55、57…奇数変速段駆動ギヤ、52、54…偶数変速段駆動ギヤ、61、63、65、67…奇数変速段従動ギヤ、62、64、66…偶数変速段従動ギヤ、71、73…第1シフト機構、72、74…第2シフト機構、90…エンジン回転数センサ、91…第1入力軸回転数センサ、92…第2入力軸回転数センサ、97…クラッチ温度導出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心に配置された第1入力軸および第2入力軸と、
原動機の回転駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1クラッチと前記回転駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、
前記デュアルクラッチの温度を導出するクラッチ温度導出部と、
前記第1入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構、および前記第2入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構と、
前記クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が、所定温度以下の場合には、切り側の前記第1クラッチあるいは前記第2クラッチを半クラッチ状態に制御し、所定温度以上の場合には、切り側の前記第1クラッチあるいは前記第2クラッチを切断状態に制御し、前記原動機の回転数が入り側の前記第1クラッチあるいは前記第2クラッチに対応する前記入力軸の回転数に同期すると、前記入り側の前記第1クラッチあるいは前記第2クラッチを係合状態に制御する変速制御装置と、
を備えるデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項2】
請求項1において、前記クラッチ温度導出部によって導出されたクラッチ温度が所定温度以上の場合には、前記原動機のトルクを増大させて、前記原動機の回転数をオーバシュートさせ、前記原動機のトルクの低下によって、前記原動機の回転数が低下する途中で、前記入り側の前記第1クラッチあるいは前記第2クラッチを係合状態に制御するデュアルクラッチ式自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−47532(P2013−47532A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185573(P2011−185573)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】